説明

梅ジャムの製造方法

【課題】酸味が適当で、苦味のなく、甘味の強すぎない梅ジャムの製造方法を提供する。
【解決手段】原料梅を54〜60℃で10分間以上加熱する熟成工程と、前記熟成した梅に、梅100質量部に対して砂糖を60〜80質量部加えて攪拌しながら80〜100℃で15分以上加熱するジャム化工程と、上記ジャム化工程で得られる種子を含んだジャムから種子を分離する種子分離工程と、を有する梅ジャムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味覚の優れた梅ジャムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種のジャムの製造方法としては、各種の果実を単に砂糖と共に加熱する方法が知られている。特許文献1には、野菜、果実等を1.2質量%以上の食塩水中で55〜60℃で10〜20分間加熱することにより旨味を残した状態で保存する食品の保存、加工の発明が開示されている。しかし、浸透圧を有する食塩水を用いずに、空気雰囲気中で加熱熟成する方法は記載されていない。更に、種々のジャムの製造方法において、果実を所定温度で熟成させる方法は、本発明者らは知らない。特に、梅ジャムの製造においては、梅の酸味、苦味を除いてまろやかな味にすることに関する検討はあまりなされていない。
【特許文献1】特開2001−103907号公報(0029)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、酸味が適当で、苦味がなく、適度の甘味を有する梅ジャムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
〔1〕 原料梅を54〜60℃で10分間以上加熱する熟成工程と、前記熟成した梅に、梅100質量部に対して砂糖を60〜80質量部加えて攪拌しながら80〜100℃で15分以上加熱するジャム化工程と、上記ジャム化工程で得られる種子を含んだジャムから種子を分離する種子分離工程と、を有する梅ジャムの製造方法。
〔2〕 原料梅を54〜60℃で10分間以上加熱する熟成工程と、前記熟成した梅の梅肉を少なくとも梅1個に対して3回以上針で突刺す突刺し工程と、前記突刺した梅を、梅100質量部に対して砂糖を60〜80部加えて攪拌しながら80〜100℃で15分以上加熱するジャム化工程と、上記ジャム化工程で得られる種子を含んだ梅ジャムから種子を分離する種子分離工程と、を有する梅ジャムの製造方法。
〔3〕 ジャム化工程を、攪拌槽内部に回転する攪拌翼を備えると共に、攪拌槽外部にスチーム加熱用ジャケットを備えてなり、攪拌槽内部を減圧にする手段を備えてなる混合装置を用いて行う請求項〔1〕又は〔2〕に記載の梅ジャムの製造方法。
〔4〕 種子分離工程が、孔の直径が1〜1.5cmのステンレススチール製の多孔板に種子を含んだ梅ジャムを置き、加圧しながら横振動を加えて種子から梅ジャムを分離する請求項〔1〕又は〔2〕に記載の梅ジャムの製造方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明の梅ジャムの製造方法によれば、酸味が適当で、苦味がなく、適度の甘味を有する梅ジャムが製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
本発明の梅ジャムの製造原料は、6〜7月頃に採れる通常の完熟梅である。これらは通常市販されているものが利用できる。未熟な青梅は不適当である。梅の種類は特に制限が無いが、著名な梅としては南高梅や小梅が例示される。
【0008】
熟成工程
先ず、原料の完熟梅を54〜60℃で10分以上加熱し、熟成させる。熟成温度が54℃未満であると梅に渋味が残る。60℃を越えると酸味が減少し、砂糖の甘味のみが強く残る。
【0009】
加熱は10以上で10〜30分が好ましく、特に10〜20分が好ましい。
【0010】
また、加熱時間が10分未満の場合、梅の皮が残り得られるジャムは、なめらかにならない。加熱時間が30分以上になると無皮状態を通り越して、ジャムがドロドロになる。
【0011】
ジャム化工程
次に、前記熟成された梅100質量部に対して砂糖を60〜80質量部添加する。砂糖の添加量が60質量部未満の場合は、酸味が強過ぎる。80質量部を越える場合は甘味が強過ぎる。ジャム化は80〜100℃で15分以上加熱する。30分以上梅を加熱すると、ゲル化してしまう。
【0012】
この砂糖を添加した梅を、攪拌しながら80〜100℃で加熱することにより梅はジャム化する。攪拌は常時連続して行うことが好ましい。中断すると砂糖がこげて着色したり、異臭を生じることがある。
【0013】
ジャム化工程に用いて好適な攪拌機を図1(A)、(B)に示す。(A)は攪拌機の一例を示す正面断面図であり、(B)は側面断面図である。図1において、100は攪拌機である。2は円筒形の攪拌槽で、その中心軸を水平にしている。攪拌槽2の下面はジャケット4で覆われて、基台6で固定されている。
【0014】
前記攪拌槽2内には、回転軸8が回転自在に取り付けられ、不図示の駆動モータにより回転される。
【0015】
回転軸8には、放射状に複数の回転腕10が取り付けられている。各回転腕の先端には中央部が突出した皿状のスクレーパ12がそれぞれ取り付けられており、前記回転軸8が回転することにより、攪拌槽2内の梅と砂糖とが混練される。
【0016】
攪拌槽2の上側には、蓋体14が取り付けられており、この蓋体14を外して梅、砂糖が攪拌槽2内に投入される。
【0017】
ジャケット4には、不図示のボイラーから蒸気が供給され、攪拌槽2内を加熱する。加熱温度は、ボイラーから供給される蒸気量、圧力を自動制御することにより行われる。
【0018】
前記攪拌槽2内は、攪拌槽2に接続された不図示の吸引パイプを通して不図示の真空ポンプで減圧にできるようになっている。
【0019】
種子分離工程
次に、図2に示す目皿を用いて前記ジャム化工程で製造されたジャムから種子を分離する種子分離工程が行われる。種子分離工程はパンチ穴の直径が1〜1.5cmのステンレススチール製の多孔板に種子を含んだ梅ジャムを置き、加圧しながら横振動を加えて種子から梅ジャムを分離する。
【0020】
横振動は振幅が1cm〜40cmが好ましい。圧力は、殆ど必要が無く、僅かに梅肉が目皿の目を通るに足る圧力で良い。
【0021】
図2は本発明で使用する目皿の一例を示す。図2において、200は目皿である。目皿は縦66cm×横46cm×高さ15cmの長方形である。53はパンチ穴、54は前記目皿200の下方に設けられたバットである。Aは目皿の横の長さ、Bは目皿の縦の長さ、Cは目皿の高さを示す。前記目皿200上にジャム化工程で製造された種子を含むジャムを投入し、ジャムの上にプレス板を乗せ、このプレス板を左右、縦横に振動させることにより、前記パンチ穴53を種子を取り除いた梅肉が通過し、前記バット54に投下される。尚、目皿の代わりに網を使うことも検討した。しかし、網は剛性がないため撓み、梅に充分力を加えることができず、その結果果肉の分離効率は低かった。
【0022】
突き刺し工程
本発明においては、上記熟成工程とジャム化工程との間に、突き刺し工程を追加することにより、更に円滑にジャム化することができる。
【0023】
突き刺し工程は、熟成工程で熟成させた梅の果肉を針で突き刺す工程である。
【0024】
直径が0.5〜5mm、1〜3mmの針で梅肉を梅1箇につき1〜5箇所突き刺すことが好ましい。
【0025】
上記直径で長さが0.5〜3cmの針を所定間隔で植設した突き刺し具を用いると効率良く突き刺し工程を実施できる。針の間隔としては、3〜20mmが好ましい。
【0026】
このような突き刺し具としては、生花で使用する剣山が利用できる。特に、樹脂板に多数の針を固定した市販の剣山が好ましい。
【実施例】
【0027】
実施例1
原料梅100kgを56℃で、15分間加熱して、熟成させた。次に、この熟成させた梅に砂糖を60kg加えて、宇賀神製作所製撹拌装置(商品名HK−6S)で撹拌しながら、スチ−ムで80℃に加熱しながら60分間ジャム化を行った。攪拌槽内の圧力は常圧であった。
【0028】
ジャム化工程終了後、孔径が1cmのステンレススチール製の多項板(厚さ mm)の上に、種子を含む梅ジャムを置き、ジャムの上から、種子が破壊されない程度の圧力を手を用いて加えながらジャムを横方向に振幅8cmで振動させた。この操作により、種子は、多孔板の上に残り、ジャムは孔を通過して多孔板の下方に置いたトレーに堆積した。
【0029】
得られた梅ジャムの味覚に関する官能試験を行った。5人の健常男子が、ジャムをスプーンで取り、味覚試験を行った。結果を表1に示した。5人のうち官能試験の3項目の何れかに該当する人数を表1の官能試験結果に示した。
【0030】
実施例2〜3
表1に示す条件で、実施例1と同様に操作して梅ジャムを製造した。実施例1と同様にして官能試験を行った。結果を表1に示した。
【0031】
比較例1〜3
表1に示す条件で、実施例1と同様に操作して梅ジャムを製造した。実施例1と同様にして官能試験を行った。結果を表1に示した。
【0032】
実施例4
突き刺し工程を追加した点、及びジャム化時間を15分にした以外は実施例1と同様に操作した。突き刺し工程は、針の直径1.5mm、長さ2cm、針の間隔4mmの市販剣山を用いて梅1箇当たりの突き刺し平均回数が3回になるように突き刺した。
【0033】
得られたジャムの官能試験結果は実施例1とほぼ同じであった。
【0034】
突き刺し工程を加えることで、ジャム化が迅速に進み、ジャム化時間が短縮された。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果より、実施例1〜3では酸味が適当で苦味が少なく、甘過ぎない梅ジャムが製造されたことがわかった。
【0037】
また、比較例1〜2より、熟成温度が60℃以上になると酸味が無くなり甘味が強過ぎるようになることがわかった。
【0038】
比較例3より、熟成温度が40℃と低い場合、苦味が強くなることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(A)攪拌機の一例を示す正面断面図である。
【0040】
(B)攪拌機の一例を示す側面断面図である。
【図2】本発明に使用する目皿の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
100 攪拌装置
2 攪拌槽
4 ジャケット
6 基台
8 回転軸
10 回転腕
12 スクレーパ
14 蓋体
200 目皿
53 パンチ穴
54 バット
A 目皿の横の長さ
B 目皿の縦の長さ
C 目皿の高さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料梅を54〜60℃で10分間以上加熱する熟成工程と、前記熟成した梅に、梅100質量部に対して砂糖を60〜80質量部加えて攪拌しながら80〜100℃で15分以上加熱するジャム化工程と、上記ジャム化工程で得られる種子を含んだジャムから種子を分離する種子分離工程と、を有する梅ジャムの製造方法。
【請求項2】
原料梅を54〜60℃で10分間以上加熱する熟成工程と、前記熟成した梅の梅肉を少なくとも梅1個に対して3回以上針で突刺す突刺し工程と、前記突刺した梅を、梅100質量部に対して砂糖を60〜80部加えて攪拌しながら80〜100℃で15分以上加熱するジャム化工程と、上記ジャム化工程で得られる種子を含んだ梅ジャムから種子を分離する種子分離工程と、を有する梅ジャムの製造方法。
【請求項3】
ジャム化工程を、攪拌槽内部に回転する攪拌翼を備えると共に、攪拌槽外部にスチーム加熱用ジャケットを備えてなり、攪拌槽内部を減圧にする手段を備えてなる混合装置を用いて行う請求項1又は2に記載の梅ジャムの製造方法。
【請求項4】
種子分離工程が、孔の直径が1〜1.5cmのステンレススチール製の多孔板に種子を含んだ梅ジャムを置き、加圧しながら横振動を加えて種子から梅ジャムを分離する請求項1又は2に記載の梅ジャムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−148476(P2010−148476A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332203(P2008−332203)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(509004066)
【出願人】(594059422)
【出願人】(509003276)
【出願人】(509003210)
【Fターム(参考)】