説明

棚下電動作業車

【課題】スイッチの誤操作の発生を防止できると共に、スイッチの耐久性を向上することができる棚下電動作業車を提供すること。
【解決手段】高さ位置を調整可能に設けられた座席11及び床部12が載置された基台10と、基台10の前側で且つ左右に配設され、正逆の両方向に回転可能な電動モータによってそれぞれが独立して駆動される一対の走行駆動機構20A、20Bと、基台10の後側で且つ左右方向の中央部に配設され、一対の走行駆動機構20A、20Bによる走行に伴って従動して作動する後輪40とを備え、一対の走行駆動機構20A、20Bのそれぞれが、足で踏むことによってスイッチの入り切りがされて操作されるように、床部12の上面に設けられた一対のスイッチ操作部30A、30Bが、正回転用の押しボタン31、逆回転用の押しボタン32、及び両者の中間部に設けられた突起部33を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、棚下において作業者が座席に座った状態で、上方の対象物について作業をするために使用される棚下電動作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
ぶとうやなし等の作物の棚栽培おいては、上方の対象物となる作物について、房切り、摘粒、袋かけ、笠かけ、収穫等、様々な作業を行う必要がある。
これらの作業は、一般的に、作業者が上方を仰ぎ見て、腕を上げて行う立ち作業になっている。従って、作業者にかかる負担は大きく、重労働になっている。また、棚の高さを全ての作業者に合わせることは不可能であり、さらに作物が実を付ける高さは一定でない。このため、作業者は、作物の高さに応じて、自らが姿勢を変えたり、踏み台を利用するなどしている。これも作業効率を低下する要因となっており、作業者に大きな負担を与えている。
【0003】
これに対して、ぶどうの摘粒作業のように、腕を肩よりも上方に上げる棚下作業に使用される棚下作業車であって、該棚下作業車の基台を支承する三個の車輪のうち、基台を挟んで装着された単独駆動可能の二個の駆動輪と、基台に互いに独立して設けられ、駆動輪の各々を単独駆動する電動モータと、基台上に装着された椅子に腰を掛けた作業者の足によって操作可能に設けられ、電動モータの各々を単独駆動する駆動スイッチとを具備する棚下作業車が提案されている(特許文献1参照)。
この棚下作業車では、各駆動スイッチが、正逆回転の切り替えスイッチになっており、二方向に延びている延出部を足で踏み分けることによって操作がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−298750号公報(第1頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
棚下電動作業車に関して解決しようとする問題点は、前記の先行技術では各駆動スイッチとして、切り替えスイッチから二方向に延びている延出部を足で踏み分ける操作になるが、微妙なタッチを要求され、誤操作を生じ易いことにある。また、足で踏み込む装置であるため、正逆回転の切り替えスイッチでは耐久性を向上させることが難しい点にもある。
そこで本発明の目的は、スイッチの誤操作の発生を防止できると共に、スイッチの耐久性を向上することができる棚下電動作業車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために次の構成を備える。
本発明にかかる棚下電動作業車の一形態によれば、棚下において作業者が座席に座った状態で、上方の対象物について作業をするために使用される棚下電動作業車であって、高さ位置を調整可能に設けられた前記座席及び床部が載置された基台と、該基台の前側で且つ左右に配設され、正逆の両方向に回転可能な電動モータによってそれぞれが独立して駆動される一対の走行駆動機構と、前記基台の後側で且つ左右方向の中央部に配設され、前記一対の走行駆動機構による走行に伴って従動して作動する後輪とを備え、前記一対の走行駆動機構のそれぞれが、足で踏むことによってスイッチの入り切りがされて操作されるように、前記床部の上面に設けられた一対のスイッチ操作部が、正回転用の押しボタン、逆回転用の押しボタン、及び前記両方の押しボタンが配置された中間部に設けられた突起部を有する。
【0007】
また、本発明にかかる棚下電動作業車の一形態によれば、前記走行駆動機構が、電動モータの駆動力によって作動する無限軌道を構成要素とすることを特徴とすることができる。
また、本発明にかかる棚下電動作業車の一形態によれば、前記走行駆動機構が、電動モータの駆動力によって回転する車輪を構成要素とすることを特徴とすることができる。
【0008】
また、本発明にかかる棚下電動作業車の一形態によれば、前記座席に形状記憶合金によって支持されると共に高さ調整可能にヘッドレストが設けられていることを特徴とすることができる。
【0009】
また、本発明にかかる棚下電動作業車の一形態によれば、前記座席に形状記憶合金によって支持されると共に高さ調整可能に腕支持具が設けられていることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の棚下電動作業車によれば、スイッチの誤操作の発生を防止できると共に、スイッチの耐久性を向上することができるという特別有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る棚下電動作業車の形態例を示す側面図である。
【図2】図1の形態例の平面図である。
【図3】図1の形態例の正面図である。
【図4】図1の形態例の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の棚下電動作業車に係る形態例を、添付図面(図1〜4)と共に詳細に説明する。
この棚下電動作業車は、棚下において作業者が座席11に座った状態で、上方の対象物について作業をするために使用されるものである。
【0013】
10は基台であり、高さ位置を調整可能に設けられた座席11及び床部12が載置されている。
座席11は、座席ベース部11aに座席本体11bが前後方向の位置調整可能に装着されている。本形態例では、座席ベース部11aと座席本体11bの両側に適宜に貫通孔が設けられ、ボルトとナットで締結することで前後方向の位置調整ができるように装着されている。
【0014】
また、13は伸縮支柱であり、上端が座席ベース部11aの下面に固定され、下端が基台10の上面に固定されており、座席11を支持している。本形態例の伸縮支柱13は、ガススプリングになっており、操作レバー13aの操作によってロッド13bが上下動でき、そのストロークの範囲で、座席11の高さを調整できるようになっている。
なお、14は案内機構であり、座席11の回転を阻止するように、上端が座席ベース部11aの下面に固定され、下端が基台10の上面に固定されている。パイプ状部14aにロッド状部14bが上下方向に出入可能に嵌っており、伸縮支柱13の動作に伴って伸縮できる。
【0015】
床部12は、前方の立設枠部15に固定された前方固定部16と、基台10の中間部に立設された後方固定部17とに、高さ調整可能に支持されて固定されている。
本形態例では、前方固定部16と後方固定部17との両方に上下方向に並んだ複数の係合部(貫通孔)が設けられ、ボルトとナットで、前方固定部16に床部12の前端部を固定し、後方固定部17に床部12の後端部を締結することで、床部12が上下方向の位置調整可能に装着されている。
【0016】
20Aは左側の無限軌道走行装置であり、20Bは左側の無限軌道走行装置であり、基台10の前側で且つ左右に配設され、正逆の両方向に回転可能な電動モータによってそれぞれが独立して駆動される一対の走行駆動機構となっている。本形態例では、それぞれが、電動モータや減速機構を備える駆動装置部21、21によって駆動される。
一対の無限軌道走行装置20A、20Bを、同方向に回転させれば直進ができ、反対方向に回転させればその場で旋回ができる。また、この一対の無限軌道走行装置20A、20Bによれば、前輪駆動方式になっており、起伏の多い場所でも好適に走行できる。
【0017】
本形態例における一対の無限軌道走行装置20A、20Bのそれぞれは、図1に示すように、側面形状が三角形の小型の無限軌道になっている。
22は起動輪であり、駆動装置部21の電動モータの動力が直接的に伝達されて回転される。23は転輪であり、起動輪22の下側に一対が配され、従動的に回転する。また、25はトラックベルトであり、起動輪22及び一対の転輪23に掛け回されている。なお、26はバッテリーであり、一対の駆動装置部21、21(電動モータ)の電源になっている。
これによれば、トラックベルト25によって地面に接する面積が広くなるため、軟弱な地面の上でも沈み込むことなく好適に走行できる。
【0018】
40は後輪であり、基台10の後側で且つ左右方向の中央部に配設され、一対の走行駆動機構(無限軌道走行装置20A、20B)による走行に伴って従動して作動する。
41はキャスター型の車輪取付部であり、無限軌道走行装置20A、20Bによる動作に伴って後輪40の向きを適切に変更できるように構成されている。
【0019】
30Aは左側のスイッチ操作部であり、30Bは右側のスイッチ操作部であり、一対の走行駆動機構(無限軌道走行装置20A、20B)のそれぞれに対応して、足で踏むことによってスイッチの入り切りがされて操作されるように、床部12の上面に設けられている。
これによれば、足踏み式のスイッチ操作部30A、30Bであるため、ハンドフリーになり、棚下の作業効率を向上できる。
【0020】
そして、この一対のスイッチ操作部30A、30Bのそれぞれは、正回転用の押しボタン31、逆回転用の押しボタン32、及び両方の押しボタン31、32が配置された中間部に設けられた突起部33を有する。
図2に示すように、一対のスイッチ操作部30A、30Bの各押しボタン31、32と突起部33は、各押しボタン31、32を左右の各足で操作し易いように、対称位置に配されている。本形態例では、全体としてハの字になるように配置されている。
【0021】
これによれば、先行技術のような切り替えスイッチによる場合の操作と異なり、微妙なタッチによる操作を必要としないため、誤操作が生じにくい。つまり、中間部の突起部を基準として、正回転用の押しボタン31、逆回転用の押しボタン32のどちらか一方を確実に押すことができる。また、二つの押しボタン31、32がはっきりと分かれているため、両方を同時に操作することができず、混乱することがない。
このため、操作性が向上し、棚下電動作業車による作業効率を向上させることができる。また、延出部を有する切り替えスイッチと比較して、想定外の力が作用しにくく、その耐久性を向上させることができる。
【0022】
また、45はハンドル部であり、基台10の後端部に固定された支柱部46の伸縮ロッド46a上端部に固定されている。
このハンドル部45のフレームには、ハンドル部のスイッチ操作部35が前記の一対のスイッチ操作部30A、30Bと並列に設けられている。36は左側の無限軌道走行装置20Aを操作する左側の切換スイッチであり、37は右側の無限軌道走行装置20Bを操作する右側の切換スイッチである(図2参照)。また、38は装置を起動状態とさせるマスタースイッチである。なお、34は前端部に設けられたマスタースイッチである。
これによれば、移動時などの走行を、ハンドル部45で好適に操作できる。
【0023】
以上の形態例では、走行駆動機構が、電動モータの駆動力によって作動する無限軌道を構成要素とする場合について説明したが、本発明はこれに限らない。使用条件が厳しくない場合は、走行駆動機構が、電動モータの駆動力によって回転する車輪を構成要素とするものであってもよい。これによれば、無限軌道を採用する場合と比較して、機動性を高めることができると共に、製造コストを低減できる。
【0024】
次に、本発明の棚下電動作業車において、形状記憶合金によって支持されたヘッドレスト50、背もたれ、及び腕支持具55を設けた場合の形態例を添付図面(図1)に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1に示すように、ヘッドレスト50は、作業者の頭部を受けて支持する部分になっている。51はヘッドレスト支持基部であり、座席11に固定されている。50aは長尺状弾性部材部であり、超弾性の特性を備える形状記憶合金によって長尺状に形成された部分を有し、上端側がヘッドレスト50に固定され、下端側がヘッドレスト支持基部51に固定されている。本形態例では、長尺状弾性部材部50aの下端側が、パイプ状のヘッドレスト支持基部51に高さ調整可能に挿入されて固定されている。なお、長尺状弾性部材50aは、一本だけでなく、二本以上の複数本で設けられていてもよく、頭部の荷重を適切に受けることができるように適宜に形成すればよい。
【0026】
このヘッドレスト50によれば、作業者が上を向く姿勢のときに、その作業者の頭部を、弾性力によって斜め上方へ付勢するように支持できる。また、背もたれは、作業者の背中に当接する部分として、ヘッドレスト50より低い位置に設ければよく、その形態はヘッドレスト50と略同様に設けることができる。この背もたれによれば、作業者の上半身の体重を好適に受けることができる。
【0027】
また、図1に示すように、腕支持具55は、作業者の上腕部を受けて腕を支持する部分になっている。56は腕支持具取付部であり、座席11の肘掛け部に設けられている。55aは長尺状弾性部材であり、超弾性の特性を備える形状記憶合金によって長尺状に形成された部分を有し、下端側が腕支持具取付部56に固定される共に、上側部が作業者の上腕部を受ける部分55bに連結されている。(点線は、腕支持具55がしなった状態を示してある。)本形態例では、長尺状弾性部材部55aの下端側が、パイプ状の腕支持具取付部56に高さ調整可能に挿入されて固定されている。なお、長尺状弾性部材55aは、一本だけでなく、二本以上の複数本で設けられていてもよく、頭部の荷重を適切に受けることができるように適宜に形成すればよい。
【0028】
形状記憶合金は、その超弾性特性によって、一定の変位(歪み率)以上において所定の範囲で応力(発生力)がほとんど増加しない。このため、支持される頭部の位置や上腕部の位置を所定の範囲で上下させた場合でも、その頭部や上腕部に与えられる荷重(付勢力)の変化が少なく、全体の作業を通じて首や腕への負担が著しく軽減される。すなわち、これによれば、作業者の頭部や上腕部をほぼ一定の力で好適に受けることができ、作業者の首や腕の疲労を緩和できる。
【0029】
本形態例の長尺状弾性部材50a、55aは、チタン―ニッケル合金の形状記憶合金であって、その線材の10本程度を円形に束ね、両端がプラスチックをモールドした形態に製作されている。このように線状材を使用することで、その太さや本数を適宜選定することで、求められる使用条件に適切に対応できる。また、汎用性のある線状材を利用することで、製造コストを低減できる。
なお、チタン―ニッケル合金以外の形状記憶合金を用いてもよい。また、形状記憶合金の複数の線状材を単純に束ねることに限定されず、その複数の線状材をよじって長尺状弾性部材50a、55aを設けてもよい。これによれば、長尺状弾性部材50a、55aが、ワイヤー状又は棒状の長尺部材として一体化でき、一つの構造体として好適に挙動する。
また、形状記憶合金からなる長尺状弾性部材50a、55aの形態は、これに限定されるものではなく、棒状等、他の形態であってもよいのは勿論である。
【0030】
以上、本発明につき好適な形態例を挙げて種々説明してきたが、本発明はこの形態例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのは勿論のことである。
【符号の説明】
【0031】
10 基台
11 座席
12 床部
20A 無限軌道走行装置
20B 無限軌道走行装置
21 駆動装置部
22 起動輪
23 転輪
25 トラックベルト
30A スイッチ操作部
30B スイッチ操作部
31 正回転用の押しボタン
32 逆回転用の押しボタン
33 突起部
40 後輪
50 ヘッドレスト
50a 長尺状弾性部材
55 腕支持具
55a 長尺状弾性部材
55b 上腕部を受ける部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棚下において作業者が座席に座った状態で、上方の対象物について作業をするために使用される棚下電動作業車であって、
高さ位置を調整可能に設けられた前記座席及び床部が載置された基台と、
該基台の前側で且つ左右に配設され、正逆の両方向に回転可能な電動モータによってそれぞれが独立して駆動される一対の走行駆動機構と、
前記基台の後側で且つ左右方向の中央部に配設され、前記一対の走行駆動機構による走行に伴って従動して作動する後輪とを備え、
前記一対の走行駆動機構のそれぞれが、足で踏むことによってスイッチの入り切りがされて操作されるように、前記床部の上面に設けられた一対のスイッチ操作部が、正回転用の押しボタン、逆回転用の押しボタン、及び前記両方の押しボタンが配置された中間部に設けられた突起部を有することを特徴とする棚下電動作業車。
【請求項2】
前記走行駆動機構が、電動モータの駆動力によって作動する無限軌道を構成要素とすることを特徴とする請求項1記載の棚下電動作業車。
【請求項3】
前記走行駆動機構が、電動モータの駆動力によって回転する車輪を構成要素とすることを特徴とする請求項1記載の棚下電動作業車。
【請求項4】
前記座席に形状記憶合金によって支持されると共に高さ調整可能にヘッドレストが設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の棚下電動作業車。
【請求項5】
前記座席に形状記憶合金によって支持されると共に高さ調整可能に腕支持具が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の棚下電動作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−62153(P2011−62153A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216582(P2009−216582)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(500501786)
【出願人】(500270572)株式会社麻場 (8)
【Fターム(参考)】