説明

椅子の座、椅子の背並びに椅子

【課題】着座者の様々な特性及び好みや使用場面に応じて撓み量を調整することができるようにする。
【解決手段】樹脂製のインナーシェル13と、インナーシェル13の下方に配置された撓み調整部材16とを有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子の座、椅子の背並びに椅子に関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば事務用椅子などに適用され得る椅子の座や椅子の背の構造、並びにこの構造を備える座や背を有する椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、椅子の座面は着座者の座り心地を良好にするように様々な工夫がなされている。従来の椅子の座の構造としては、例えば、図10に示すように、アウター部材103を金属板製のベース体104と合成樹脂製の補助支持体105とで構成して補助支持体105をベース体104の張出部104aに嵌め入れて固定し、さらに、合成樹脂製のインナーシェル101にスリットを形成すると共に左右両側部の係止爪101aを介して補助支持体105に取り付けてインナーシェル101を凹み変形させるものがある(特許文献1)。なお、図10において符号107は椅子の脚部上端に取り付けられる座受け体である。
【0003】
上記特許文献1の椅子の座の構造にもみられるように、座を構成するには、芯材となる板(インナーシェル101)を合成樹脂によって成形してクッション材102を載せた上で張地で覆う構造とすることが多い。そして、上記特許文献1の椅子の座の構造では、芯材たる合成樹脂部材であるインナーシェル101にスリットを設けて撓ませるようにしている。
【0004】
また、従来、椅子の座のクッションとしてエアクッションが用いられる場合があり、具体的には例えば、椅子の脚部上端に支持される座体の座部基板上にエアクッションを載置するようにするものがある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−93250号
【特許文献2】特開2009−297319号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の椅子の座の構造のように合成樹脂製のインナーシェル101にスリットを設けることで撓み変形をさせる構造の場合にはインナーシェル101が着座者の体重に応じて撓み変形することで座面が撓むだけであり、着座者の特性及び好みや使用場面に応じて撓み量を変化させることはできないという問題がある。このため、特許文献1の椅子の座の構造は、着座者の様々な特性及び好みや使用場面に応じて良好な座り心地を確保することができるとは言い難く、適応性・汎用性が高いとは言い難い。
【0007】
また、特許文献2の椅子の座では、座部基板上に載置されたエアクッションに直接着座するために着座者の臀部との当たりの程度を調整することができないし、また、エアクッション内の空気量を調整してクッションとしての弾力性を調整することもできないので、座としての撓み量を調整することができず、適応性・汎用性が高いとは言い難い。
【0008】
そこで、本発明は、着座者の様々な特性及び好みや使用場面に応じて撓み量を調整することができる椅子の座、椅子の背並びに椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の椅子の座は、樹脂製のインナーシェルと、当該インナーシェルが取り付けられる座のベース部材とを有し、前記インナーシェルと前記座のベース部材との間に前記インナーシェルが撓むための撓み空間が形成され、当該撓み空間に撓み調整部材を備わるようにしている。
【0010】
また、請求項2記載の椅子の背は、樹脂製のインナーシェルと、当該インナーシェルが取り付けられる座のベース部材とを有し、前記インナーシェルと前記背のベース部材との間に前記インナーシェルが撓むための撓み空間が形成され、当該撓み空間に撓み調整部材を備えるようにしている。
【0011】
したがって、これらの椅子の座や椅子の背によると、撓み調整部材によってインナーシェルの撓み部の撓み量を調整することにより、例えば体重の軽重といった着座者の特性や、座部・背部は硬めが良いや柔らかめが良いといった着座者の好みや、執務中は硬めが良いが休憩中は柔らかめが良いといった使用場面に応じて座や背の撓み量が調整される。
【0012】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の椅子の座において、前記インナーシェルが前後端部分の少なくとも一方又は左右端部分の両方に立体支持部を備えた立体構造であるようにしている。また、請求項4記載の発明は、請求項2記載の椅子の背において、前記インナーシェルが上下端部分の少なくとも一方又は左右端部分の両方に立体支持部を備えた立体構造であるようにしている。これらの場合には、インナーシェルの下方或いは後方に撓み調整部材を有するという本発明の椅子の座或いは背が簡単な構成によって実現される。
【0013】
また、請求項5記載の発明は、請求項1または2記載の椅子の座または椅子の背において、前記撓み調整部材が、袋状に形成され、気体若しくは液体を出し入れすることによって体積が変化したり弾性力が変化したりするようにしている。この場合には、撓み調整部材の体積や弾性力が変化することによってインナーシェルの撓み量がきめ細かく調整される。
【0014】
また、請求項6記載の発明は、請求項1または2記載の椅子の座または椅子の背において、前記インナーシェルに複数のスリットが形成されているようにしている。この場合には、スリットの形成の程度によってインナーシェル全体としての弾性力(硬さ)を調整して撓み量が調整される。また、インナーシェルの場所によってスリットの形成の程度を変えることによって弾性力(硬さ)がインナーシェルの場所によって変化する。
【0015】
また、請求項7記載の発明は、請求項1または2記載の椅子の座または椅子の背において、前記インナーシェルが、複数の帯部材が横並びに配置されて構成されているようにしている。この場合には、横並びに配置された複数の帯部材が各々独立に撓み変形して着座者の臀部や背部を支持するようになるので、着座者の臀部・背部の形状や動きに合わせて座面や背面がきめ細かく変形する。
【0016】
また、請求項8記載の椅子は、請求項1から7のいずれか一つに記載の椅子の座と椅子の背とのうちの少なくとも一方を備えるようにしている。この場合には、上述の請求項1から7に記載の発明の作用のうち対応する作用が奏される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の椅子の座、椅子の背によれば、着座者の特性及び好みや使用場面に応じて撓み量を変化させて良好な座り心地・凭れ心地を確保することができるので、適応性,汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0018】
本発明の椅子の座、椅子の背によれば、さらに、インナーシェルの下方或いは後方に撓み調整部材を有するという本発明の椅子の座或いは背を簡単な構成によって実現することができるので、椅子の座や背の構成としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0019】
本発明の椅子の座、椅子の背によれば、さらに、インナーシェル全体としての弾性力(硬さ)を調整して撓み量を調整することができるので、弾性力の微妙な調整をしてより一層良好な座り心地・凭れ心地を実現することが可能になる。また、インナーシェルの場所によって弾性力(硬さ)を変化させることができるので、着座者の通常姿勢や傾斜姿勢を考慮した上での弾性力のきめ細かな調整をしてより一層良好な座り心地・凭れ心地を実現することが可能になる。
【0020】
本発明の椅子の座、椅子の背によれば、さらに、着座者の臀部・背部の形状や動きに合わせて座面や背面をきめ細かく変形させることができるので、臀部や背部のフィット感を格段に向上させて今までにない座り心地・凭れ心地で格別の座り心地・凭れ心地を実現することが可能になる。また、インナーシェルを構成する帯部材同士の間隔を空けて配置することによってインナーシェルを一部材で構成する場合と比べて通気性を高めることができるので、座部や背部の蒸れなどを防いで快適性の向上を図ることが可能になる。
【0021】
また、本発明の椅子によれば、上述の椅子の座、椅子の背による作用効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態の椅子の斜視図である。
【図2】実施形態の椅子の側面図である。
【図3】実施形態の椅子の平面図である。
【図4】実施形態の椅子の正面図である。
【図5】実施形態の椅子の座の斜視図である。
【図6】実施形態の椅子の座の平面図である。
【図7】実施形態の椅子の座の分解斜視図である。
【図8】椅子の座の実施形態を示す側面図である。(A)は図5及び図6の実施形態の側面図である。(B)は他の実施形態の側面図である。(C)は更に他の実施形態の側面図である。
【図9】椅子の座の他の例を示す側面図である。(A)はインナーシェルの後端部分に立体支持部を形成しない場合の例を示す側面図である。(B)はインナーシェルの後端部分に立体支持部を形成しない場合の更に他の例を示す側面図である。
【図10】従来の椅子の座の構造を示す分離正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1から図6に、本発明の椅子の座の実施形態の一例を示す。なお、本実施形態では、本発明の椅子の座を図1から図4に全体構造を示す椅子20に適用した場合を例に挙げて説明する。また、本明細書においては、椅子20の座部10に座った着座者を基準にして上下、前後、左右を定義する。
【0025】
本実施形態の椅子20は、キャスターを有する脚21と、脚21の脚支柱21aの頂部に取り付けられ支持される支基8と、支基8の後寄り部分に前端部分が揺動可能に取り付けられる背板支持部材22と、背板支持部材22に取り付けられる背のベース部材23と、支基8に取り付けられ支持される座のベース部材11と、座のベース部材11に取り付けられる座のインナーシェル13とを有する。なお、図5及び図6においては、座のベース部材11の図示を省略し、インナーシェル13のみを図示している。
【0026】
そして、本発明の椅子の座は、樹脂製のインナーシェル13と、インナーシェル13の下方に配置された撓み調整部材16とを有するものである。
【0027】
本実施形態では、インナーシェル13が前後端部分の両方に立体支持部13a,13bを備えた立体構造であり、インナーシェル13の撓み部13eが撓んで進入する空間15に撓み調整部材16が配置されているようにしている。また、本実施形態では、インナーシェル13が、複数の帯部材13Aが横並びに配置されて構成されているようにしている。
【0028】
本実施形態では、インナーシェル13を構成する各帯部材13Aの前端部及び後端部は、立体支持部として、前端部分及び後端部分が各々下方に折り返されて形成された前側湾曲部13a及び後側湾曲部13bを有し、側面視横U字形状に形成されている。
【0029】
インナーシェル13(帯部材13A)の材質は、人の着座の荷重によって撓むものであれば特定のものに限定されるものではなく、具体的には例えば合成樹脂が用いられる。本実施形態では、帯部材13Aはポリプロピレンを用いた樹脂成型品である。
【0030】
ここで、帯部材13Aの前側湾曲部13aと後側湾曲部13bとの間の部分のことを撓み部13eと呼ぶ。なお、帯部材13Aの撓み部13eは、勿論、インナーシェル13にとっても撓み部である。
【0031】
本実施形態では8本の帯部材13Aを横並びに、具体的には帯部材13Aの長手方向と水平直角方向に横に並べて配置してインナーシェル13を構成するようにしているが、インナーシェル13を帯部材13Aによって構成する場合の帯部材13Aの本数は2本以上であれば8本に限定されるものではないし、各帯部材13Aの幅も特定の幅に限定されるものではない。なお、本実施形態では各帯部材13Aの幅は全て同じであるようにしているが、帯部材13Aによって幅を変えるようにしても良い。
【0032】
下方に折り返されることによって撓み部13eの下方に位置することになる前端13c及び後端13dが接着やねじ止めなどによって座のベース部材11に取り付けられる。
【0033】
そして、上記のように前端部分及び後端部分が折り返されて立体支持部としての前側湾曲部13a及び後側湾曲部13bが形成されることによって帯部材13Aの撓み部13eは座のベース部材11と離れて当該座のベース部材11の上方に位置する。このように、本発明における立体支持部は、インナーシェル13の前端13c,後端13dの平面位置と撓み部13eの平面位置とが異なるようにしインナーシェル13が立体的な形状(言い換えると、高さを有する形状)であるようにして撓み部13eを支持するものである。そして、インナーシェル13の撓み部13eの下方であって前端13c,後端13dが固定して取り付けられる部材(本実施形態では座のベース部材11)との間に空間(以下、撓み空間15と呼ぶ)が形成される。
【0034】
また、立体支持部(13a,13b)は、撓み部13eを座のベース部材11と離して上方に位置させると共に、撓み部13eの前端及び後端即ち前側湾曲部13aとの境界及び後側湾曲部13bとの境界を回転可能であるように支持すると共にこれら境界同士の間の距離が変化可能であるように支持する(本実施形態では具体的には、荷重の付与・解除によって湾曲部13a,13bの径が変化することによって境界同士の間の距離が変化する)。言い換えると、本発明における立体支持部(13a,13b)は、インナーシェル13の撓みを助長させる形状・仕組みとして、撓み部13eの前端及び後端を、撓み回転(言い換えると、左右方向軸を回転軸とする回転)を許容する回転支点且つ前後方向の移動を許容する可動支点として機能して支持するものである。これにより、着座者が座部10に着座したときに、撓み部13eを十分に撓ませることができ、着座者の臀部と座部10とのフィット感が良好になる。
【0035】
本実施形態では、各帯部材13Aに、前側湾曲部13aから撓み部13eの中ほどまでに亘るスリット13fが形成されている(図1から図4においてはスリット13fの図示を省略している)。なお、スリット13fについては、インナーシェル13としての撓み変形を助長するものであればその形状や位置や全ての帯部材13Aに設けるか否か(言い換えると、設置の程度)は本実施形態における態様に限定されるものではないし、そもそもスリット13fを設けること自体が本発明の必須の要件ではなくスリット13fを一切設けないようにしても良い。
【0036】
具体的には、本実施形態ではスリット13fを平面視幅一定の直線状に設けるようにしているが、スリット13fの形状は幅一定の直線状に限定されるものではなく、波線状でも良いし、太さが変わっても良いし、平面視楔形や円形などであっても良い。そして、スリット13fの幅や形状を調整することにより、インナーシェル13としての適切な弾性力を発揮させることができるようになり、且つ、インナーシェル13の場所によって発揮させる弾性力を変化させることができる。
【0037】
また、本実施形態ではスリット13fを帯部材13Aの前側に設けるようにしているが、スリット13fを設ける位置は前側に限定されるものではなく、後側に設けるようにしても良いし、中間部のみに設けるようにしても良いし、前側と中間部と後側とを組み合わせて設けるようにしても良い。さらに、帯部材13Aによってスリット13fを設ける位置を変えるようにしても良い。そして、スリット13fを設ける位置を調整することにより、インナーシェル13としての適切な弾性力を発揮させることができるようになり、且つ、インナーシェル13の場所によって発揮させる弾性力を変化させることができる。
【0038】
また、本実施形態ではスリット13fを全ての帯部材13Aに設けるようにしているが、複数の帯部材13Aのうちの一部のみにスリット13fを設けるようにしても良い。さらに、スリット13fをいずれの帯部材13Aにも設けない、即ち一切設けないようにしても良い。そして、スリット13fの設置数(設置の程度)を調整することにより、インナーシェル13としての適切な弾性力を発揮させることができるようになり、且つ、インナーシェル13の場所によって発揮させる弾性力を変化させることができる。
【0039】
また、本実施形態のようにインナーシェル13を複数の帯部材13Aで構成する場合に、帯部材13Aによって材質を変えて弾性力(硬さ)を変えたりスリット13fの設け方を変えたりすることにより、インナーシェル13の場所によって撓み方を変えるようにしても良い。具体的には例えば、インナーシェル13の中央部では柔らかめにする一方で、左右側部では硬めにするようにしても良い。このようにすることにより、通常姿勢で着座しているときは十分に撓んで良好な座り心地を確保すると共に、姿勢を左右に傾けたときは着座者の臀部をしっかり支持して姿勢が崩れてしまうことを防ぐことができる。
【0040】
本実施形態では、各帯部材13Aは、隣り合う帯部材13A同士の間に間隙14が設けられて横並びに配置される。なお、帯部材13A同士の間の間隙14の幅は特定の幅に限定されるものではないし、間隙14をゼロにして隣り合う帯部材13A同士を接触させるようにしても良い。
【0041】
本実施形態のようにインナーシェル13を複数の帯部材13Aによって構成するようにすることにより、着座者が座部10に着座したときに、複数の帯部材13Aが各々独立に撓み変形するので多様で制約が少なく自由度が高い変形を実現することができ、着座者の臀部と座部10とのフィット感がより一層良好になる。
【0042】
本実施形態では、撓み空間15に撓み調整部材16としての空気袋が配置されている。すなわち、立体支持部である前側湾曲部13a及び後側湾曲部13bを備えることによって立体構造になっているインナーシェル13の撓み部13eが撓んで進入する空間である撓み空間15に撓み調整部材16が配置されている。撓み調整部材16は、インナーシェル13(帯部材13A)の撓み部13eの下方において座のベース部材11に取り付けられ、撓み部13eの撓み量を調整するためのものである。
【0043】
撓み調整部材16は、弾力性を有してインナーシェル13の撓み部13eの下方であって座のベース部材11との間に介在してインナーシェル13の撓み部13eの撓み量を調整できるものであれば本実施形態のように空気袋に限定されるものではなく、他の気体や液体が注入された袋でも良いし、ばねでも良いし、クッションでも良い。
【0044】
また、撓み調整部材16については、袋状に形成されて着座者の意図的な操作によって内部の気体や液体を出し入れすることによって体積や弾性力(硬さ)を調整可能にして撓み部13eの撓み量を調整できるようにしても良い。また、撓み調整部材16の下に上下移動機構を介在させて撓み調整部材16を上下方向に移動させることによってインナーシェル13との上下位置関係(上下方向距離)を変化可能にして撓み部13eの撓み量を調整できるようにしても良い。もちろん、撓み調整部材16の体積や弾性力(硬さ)を調整可能にすると共に上下位置を変化可能にするようにしても良い。
【0045】
なお、図1から図4では図示していないが、インナーシェル13の表面を表皮材(張地)で覆うようにしたり、インナーシェル13と表皮材との間にクッション材を備えるようにしたりしても良い。
【0046】
また、本実施形態のように間隙14を有して横並びに配置した複数の帯部材13Aによってインナーシェル13を構成する場合には間隙14部分を膜状部材で塞ぐようにしても良い。
【0047】
以上のように構成された本発明の椅子の座によれば、撓み調整部材16によってインナーシェル13の撓み部13eの撓み量を調整するようにしているので、例えば体重の軽重といった着座者の特性や、座部10は硬めが良いや柔らかめが良いといった着座者の好みや、執務中は硬めが良いが休憩中は柔らかめが良いといった使用場面に応じて座の撓み量を調整することができる。
【0048】
さらに、上述の実施形態のようにインナーシェル13が前後端部分の両方に立体支持部13a,13bを備えた立体構造であり、インナーシェル13の撓み部13eが撓んで進入する空間即ち撓み空間15に撓み調整部材16が配置されているようにすれば、インナーシェルの下方に撓み調整部材を有するという本発明の椅子の座を簡単な構成によって実現することができるので、椅子の座の構成としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0049】
さらに、上述の実施形態のようにインナーシェル13が、複数の帯部材13Aが横並びに配置されて構成されているようにすれば、横並びに配置された複数の帯部材13Aが各々独立に撓み変形して着座者の臀部を支持するようになるので、着座者の臀部の形状や動きに合わせて座面をきめ細かく変形させることができ、臀部のフィット感を格段に向上させて今までにない座り心地で格別の座り心地を実現することが可能になる。さらに、インナーシェル13を構成する帯部材13A同士の間隔を空けて配置することによってインナーシェルを一部材で構成する場合と比べて通気性を高めることができるので、座部の蒸れなどを防いで快適性の向上を図ることが可能になる。
【0050】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、本発明の座の構造を図1から図4に全体構造を示す椅子20に適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明の座の構造が適用され得る椅子は椅子20に限定されるものではなく、上述の実施形態の座のベース部材11及びインナーシェル13に対応する構成を採用し得る椅子であればどのような椅子であっても良い。具体的には例えば、背凭れを有しない椅子でも良いし、所謂パイプ椅子でも良いし、所謂丸椅子でも良いし、ベンチでも良い。
【0051】
また、上述の実施形態では複数の帯部材13Aを横並びに配置してインナーシェル13を構成するようにしているが、本発明におけるインナーシェル13はこの態様に限定されるものではなく、一部材でインナーシェル13を構成するようにしても良い。なお、インナーシェル13を一部材で構成する場合には、スリット13fの設け方を変えることにより、インナーシェル13の場所によって撓み方を変えるようにしても良い。
【0052】
また、上述の実施形態では帯部材13Aの前端部分及び後端部分が各々下方に折り返されて前側湾曲部13a及び後側湾曲部13bとして立体支持部が側面視横U字形状に形成されているが(図8(A)参照)、本発明における立体支持部はインナーシェル13の撓みを助長させるように撓み回転(言い換えると、左右方向軸を回転軸とする回転)を許容する回転支点且つ前後方向の移動を許容する可動支点として機能してインナーシェル13の撓み部13eの前端・後端を支持するものであればこの態様に限定されるものではなく、下方への傾斜部13gとするようにしても良いし(同図(B)参照)、下方への屈曲部13hとするようにしても良い(同図(C)参照;図8においては撓み調整部材16を図示していない)。これらの態様でも、撓み部13eの前端・後端を撓み回転可能且つ前後移動可能な支点によって支持することができる。なお、図8(B)及び(C)では帯部材13Aの前端部分を湾曲部13aにすると共に後端部分を傾斜部13gや屈曲部13hとするようにしているが、前端部分を傾斜部や屈曲部とすると共に後端部分を湾曲部13bとするようにしても良いし、前端部分と後端部分との両方を傾斜部や屈曲部とするようにしても良い。
【0053】
さらに言えば、上述の実施形態では帯部材13Aの前端部分と後端部分との両方に立体支持部としての湾曲部13a,13bが形成されるようにしているが、立体支持部が形成されるのは帯部材13Aの前端部分と後端部分とのうちのどちらか一方のみでも良い。すなわち、図9に示すように、帯部材13Aの前端部分には湾曲部13aを形成する一方で、後端部分には湾曲部(或いは、傾斜部や屈曲部)を形成しないようにしても良い。なお、この場合には、同図(A)に示すように座のベース部材11の後端縁部に支持凸部11aを設けるようにして当該支持凸部11aに帯部材13Aの後端13dを取り付けて支持するようにしても良いし、同図(B)に示すように支持凸部を設けることなく帯部材13Aの後端13dを座のベース部材11に取り付けるようにしても良い。なお、図9(B)に示す構造の場合には、脚支柱21aに取り付けた状態で座のベース部材11を前傾させるようにして帯部材13Aの撓み部13eを水平にするようにしても良い。これらの場合には、帯部材13Aの撓み部13eの後端は撓み回転は許容される一方で前後方向の移動は制限されるものの、帯部材13Aの撓み部13eの前端が撓み回転が許容される回転支点且つ前後方向の移動が許容される可動支点であるので、上述の実施形態と同様の作用効果を実現することができる。
【0054】
なお、上記の説明では上述の実施形態のようにインナーシェル13を複数の帯部材13Aで構成することを前提にしているが、一部材でインナーシェル13を構成する場合には、当該一部材の前端部分と後端部分との両方に立体支持部を形成するようにしても良いし、前端部分のみに立体支持部を形成するようにしても良いし、後端部分のみに立体支持部を形成するようにしても良い。
【0055】
また、一部材でインナーシェル13を構成する場合には、前端部分や後端部分の全体に亘って連続的に立体支持部を形成するようにしても良いし、前端部分や後端部分の一部に一つ若しくは複数の立体支持部を形成するようにしても良い。
【0056】
また、上述の実施形態では各帯部材13Aの長手方向を前後方向に合わせると共に複数の帯部材13Aを左右方向に横並びで配置するようにしているが、インナーシェル13を複数の帯部材13Aで構成する場合の当該帯部材13Aの配置の態様はこの態様に限定されるものではなく、各帯部材13Aの長手方向を左右方向に合わせると共に複数の帯部材13Aを前後方向に横並びで配置するようにしても良い。なおこの場合には、インナーシェル13の左端部分と右端部分との両方に立体支持部を形成するようにする。このように、立体支持部を前後ではなくて左右に配置する場合には左端部分と右端部分との両方に形成するようにすることは、インナーシェル13を一部材で構成するようにした場合も同様である。
【0057】
また、上述の実施形態ではインナーシェル13(これを構成する帯部材13A)と座のベース部材11とを別体のものとして成形するようにしているが、インナーシェル13と座のベース部材11とを一体のものとして成形するようにしても良い。
【0058】
また、上述の実施形態では座のベース部材11は板状であるが、座のベース部材11は例えば枠状や前後一対若しくは左右一対のレール状などインナーシェル13を取り付ける部分が少なくともあれば良い。
【0059】
また、上述の実施形態では本発明によるシェル撓み調整機構を椅子の座に適用する場合を前提とした例について主に説明したが、本発明によるシェル撓み調整機構の適用対象は椅子の座に限定されるものではなく、椅子の背に適用することも可能である。椅子の背に適用する場合には、例えば、上述の実施形態における座のベース部材11が背のベース部材23に代わると考え、当該背のベース部材23にインナーシェル13を取り付けて背のインナーシェルとして本発明の構造を用いる。この場合には、背部に組み込まれるインナーシェルの上端部分と下端部分との両方に立体支持部を設けるようにしたり、上端部分と下端部分とのうちのどちらか一方に立体支持部を設けるようにしたり、左端部分と右端部分との両方に立体支持部を設けるようにしたりする。さらに、背のインナーシェルと背のベース部材23との間(即ち、背のインナーシェルの後方)に撓み調整部材16を配置する(背のベース部材23に取り付けられる)。なお、上述の実施形態では背のベース部材23は板状であるが、背のベース部材23は例えば枠状や前後一対若しくは左右一対のレール状などインナーシェルを取り付ける部分が少なくともあれば良い。
【0060】
そして、本発明の椅子としては、上述の椅子の座と椅子の背とのうちのどちらか一方若しくは両方を備えるようにする。そして、上述のように、撓み調整部材16を備えることによってインナーシェルの撓み部の撓み量を調整するようにしているので、例えば体重の軽重といった着座者の特性や、座部・背部は硬めが良いや柔らかめが良いといった着座者の好みや、執務中は硬めが良いが休憩中は柔らかめが良いといった使用場面に応じて座や背の撓み量を調整することができる。
【0061】
また、上述の実施形態ではインナーシェル13(これを構成する帯部材13A)の前後端部に立体支持部(13a,13b)を設けるようにしているが、端部に立体支持部(13a,13b)を設けないようにしても良い。すなわち、インナーシェル13は平板形状であっても構わない。
【符号の説明】
【0062】
10 座部
11 座のベース部材
13 インナーシェル
13A 帯部材
13a 前側湾曲部(立体支持部)
13b 後側湾曲部(立体支持部)
16 撓み調整部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のインナーシェルと、当該インナーシェルが取り付けられる座のベース部材とを有し、前記インナーシェルと前記座のベース部材との間に前記インナーシェルが撓むための撓み空間が形成され、当該撓み空間に撓み調整部材を備えることを特徴とする椅子の座。
【請求項2】
樹脂製のインナーシェルと、当該インナーシェルが取り付けられる背のベース部材とを有し、前記インナーシェルと前記背のベース部材との間に前記インナーシェルが撓むための撓み空間が形成され、当該撓み空間に撓み調整部材を備えることを特徴とする椅子の背。
【請求項3】
前記インナーシェルが前後端部分の少なくとも一方又は左右端部分の両方に立体支持部を備えた立体構造であることを特徴とする請求項1記載の椅子の座。
【請求項4】
前記インナーシェルが上下端部分の少なくとも一方又は左右端部分の両方に立体支持部を備えた立体構造であることを特徴とする請求項2記載の椅子の背。
【請求項5】
前記撓み調整部材が、袋状に形成され、気体若しくは液体を出し入れすることによって体積が変化したり弾性力が変化したりすることを特徴とする請求項1または2記載の椅子の座または椅子の背。
【請求項6】
前記インナーシェルに複数のスリットが形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の椅子の座または椅子の背。
【請求項7】
前記インナーシェルが、複数の帯部材が横並びに配置されて構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の椅子の座または椅子の背。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の椅子の座と椅子の背とのうちの少なくとも一方を備えることを特徴とする椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−81665(P2013−81665A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224273(P2011−224273)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000108627)タカノ株式会社 (250)
【Fターム(参考)】