説明

椅子式階段昇降機のシート回転機構

【課題】シートの回転に対するロックと解除の操作を単純化することでシートの回転を確実に行うことができ、しかも、シート外部への突出部分の発生をなくし、安全性の向上を図ることができる椅子式階段昇降機のシート回転機構を提供する。
【解決手段】昇降機本体の上面に立設した回転中心軸12にシート6を、このシート6が回転中心軸12を中心に回転可能となるようボス15によって取付け、前記ボス15に固定したソレノイド17にこのソレノイド17で鉛直動するロックピンを設け、前記昇降機本体の天板11に、ロックピンが係合することによりシート6の回転を固定化する係合部を、シート6の向きが昇降姿勢位置にあるときと乗り降り姿勢位置にあるときに係合するように配置して設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、案内レールに沿って昇降する椅子式階段昇降機のシート回転機構、更に詳しくは、昇降機本体にシートを回転可能に取り付け、階段を昇降中はシートを真横向きの姿勢とし、乗り降りする際はフロア側にシートを回転させることができると共に、シートの向きが昇降姿勢位置にあるときと乗り降り姿勢位置にあるときのロックとその解除を行うためのシート回転機構に関する。
【背景技術】
【0002】
図6のように、椅子式階段昇降機1の一般的な設置構造は、階段aの踏段にブラケットを設置し、そこに案内レール2を壁面に沿うよう据え付け、この案内レール2にガイドローラ3と駆動・ガイド機構4を介して取り付け、前記椅子式階段昇降機1をこの案内レール2に沿って昇降動するように取り付けた構造になっている。
【0003】
このような椅子式階段昇降機1は、階段の昇降中はシート5が真横を向いており、このような真横を向いたシートからそのまま乗り降りしようとすると、転落や転倒などの危険性があるため、目的階に到着、特に上階に到着した際、フロア側に椅子5のシート6を回転させることができるようになっている。
【0004】
このように、椅子式階段昇降機1において、乗り降りする際、フロア側にシート6を回転させることで、広いスペースで乗り降りができ、安全性が向上することになる。
【0005】
従来の椅子式階段昇降機1におけるシート回転機構は、シート6の下面に回転軸を下向きに突出するよう設け、この回転軸を昇降機本体7に設けたボスで荷重を受けるように支持し、シート6を回転軸の軸心を中心に回転可能にすると共に、シート6の側面部分にレバーを設け、このレバーに連結されたカムがあり、そのカムが昇降機本体のフレーム上面に設けた係合溝に係脱自在となり、係合溝は、シートの向きが昇降姿勢位置にあるときと乗り降り姿勢位置にあるとき、カムが係脱するように配置されている。
【0006】
シート6の向きが昇降姿勢位置にあるときカムが係合溝に係合してロックが係り、乗り降り位置でレバーを引くと係合が外れ、シートを乗り降り姿勢に回転させることができ、この乗り降り姿勢でロックがかかることになる。
【0007】
上記のような椅子式階段昇降機1で階段を昇降するには、シートに座った使用者が、先ず、シートの肘掛に設けた押しボタンを操作することにより階段を昇降し、階上又は階下に到着した後、押しボタンから手を離し、次に、シート側面部分のレバーを操作し、ロックを解除してシートを回転させることにより乗り降りするものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のような従来のシート回転機構では、一回の昇降操作で二種類の操作系が存在することになる。即ち、肘掛に設けた昇降のための押しボタンの操作と、停止後におけるレバー操作であるが、実際の使用において、高齢者には物忘れがあるため二種類の操作を覚えきれず、シートを回転させずに乗り降りをしているケースがある。
【0009】
また、シート側面部分に設けたレバーは、操作し易いように外側に持ち出した配置になっているため、乗り降り時に衣服などがレバーに引っかかるという危険性もあった。
【0010】
そこで、この発明の課題は、上記のような問題点を解決するため、シートの回転に対するロックと解除の操作を肘掛に設けた押しボタンの操作で電気的に行えるようにし、操作を単純化することでシートの回転を確実に行うことができ、しかも、シート外部への突出部分の発生をなくし、安全性の向上を図ることができる椅子式階段昇降機のシート回転機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような課題を解決するため、この発明は、階段や傾斜路に沿って設置される案内レールに、昇降機本体をこの案内レールに沿って走行するよう取付け、この昇降機本体の上部にシートを設けた椅子式階段昇降機であって、前記昇降機本体の上面に立設した回転中心軸に前記シートを、このシートが回転中心軸を中心に回転可能となるよう、シートの背面側に設けたボスによって取付け、前記ボスに固定したソレノイドにこのソレノイドで鉛直動するロックピンを設け、前記昇降機本体の天板に、ロックピンが係合することによりシートの回転を固定化する係合部を設け、この係合部を、シートの向きが昇降姿勢位置にあるときと乗り降り姿勢位置にあるときにロックピンが係合するように配置した構成を採用したものである。
【0012】
また、上記ソレノイドは、シートに設けた押しボタンの操作で、ロックピンを係合部から離脱させるように作動するようになっている構造とすることができる。
【0013】
更に、上記昇降機本体の天板に設けた係合部の下部に、この係合部に係合するロックピンを電気的に検出するスイッチを配置した構造としてもよい。
【0014】
ここで、上記ボスは、シートの背面に固定したブラケットの底部水平板上に固定され、回転中心軸に外嵌することにより、シートの荷重を支持すると共に、回転中心軸を中心にシートを回転可能とし、このボスの外面に設けたソレノイドは、ボスと一体に回動するようプランジャーを下向きにした状態で固定され、プランジャーの下端に連結したロックピンは、底部水平板上に設けたホルダーでこの底部水平板を貫通するように上下動自在に保持され、その下端部には転動子が設けられ、昇降機本体の上面を円滑に回動するようになっている。
【0015】
また、昇降機本体の天板に設けた係合部は、上記ロックピンが嵌まり込む円形孔によって形成され、この円形孔にロックピンが自重による降下で嵌まり込むことで、シートはロックされて回転不能になり、ロックの解除は、シートの肘掛に設けた押しボタンスイッチを押せばよく、通電となったソレノイドは、プランジャーとロックピンを引き上げることで円形孔からロックピンを抜き取ることになる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によると、昇降機本体の上面に立設した回転中心軸に前記シートを、このシートの背面側に設けたボスによって取付け、前記ボスに固定したソレノイドで鉛直動するロックピンを昇降機本体の天板に設けた係合部に係脱させるようにしたので、回転可能となるシートの乗り降り姿勢と昇降姿勢でのロックと解除が、シートの肘掛に設けた押しボタンスイッチの一種類の操作で行えるようになり、操作を単純化することで高齢者にも分かりやすく、シートの回転を確実に行うことができ、特に、乗り降り位置でのフロア側へ向けての乗り降りを確実に励行できるので、乗り降り時の安全性の向上が図れることになる。
【0017】
また、シートの外部に突出部分の発生をなくすことができ、乗り降り時に衣服が引っかかるような危険の発生がなく、しかも、余分な部品を削減できるのでシートの意匠面も向上する。
【0018】
更に、ソレノイドをボスに固定することにより、回転中心軸の直近に配置することができ、ロックピンに対して偏荷重による撓みの影響を小さく抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図6で示したように、椅子式階段昇降機1は、階段aの傾斜に沿って壁面に接近するよう案内レール2を設置し、この案内レール2をそれぞれ上下から抱持する上部のガイドローラ3と下部の駆動・ガイド機構4で昇降機本体7を、案内レール2に沿って走行するように取付け、この昇降機本体7の上に、背凭れ、座席部、足置き台を備えた椅子5を設けた構造になっている。なお、椅子5において、背凭れと座席部がシート6である。
【0021】
上記案内レール2は、ブラケットで所定高さになるよう階段aの上部に固定することによって配置され、この案内レール2は、下面が開口によって開放した円形断面でその内部にチェーンが長さ方向に沿って固定されている。
【0022】
また、周知のように、昇降機本体7は、箱型ケースの案内レール2と対向する面に、この案内レール2を上下から抱持する上部ガイドローラ3と下部の駆動・ガイド機構4が設けられ、駆動・ガイド機構4は、下部ガイドローラと昇降機本体7に内部の電動モータ(図示省略)によって駆動されるスプロケットを備え、スプロケットが案内レール2の開口から内部のチェーンと噛み合うことによって、椅子式階段昇降機1は昇降動することになる。
【0023】
図1乃至図5のように、昇降機本体7の上面に設けた水平の天板11上に回転中心軸12を立設し、シート6における背凭れの背面にブラケット13を固定し、このブラケット13の底部水平板14に回転中心軸12の貫通孔を設け、前記底部水平板14の上面で貫通孔の部分に、回転中心軸12に対して外嵌する円筒状のボス15を固定し、このボス15によってシート6の荷重を受けると共に、回転中心軸12を中心にシート6が回転自在となるように支持している。
【0024】
上記ボス15の外面に取付け板16を介してソレノイド17が、そのプランジャー18を下向きにした状態で固定され、このプランジャー18の下端にロックピン19が連結され、ロックピン19は、底部水平板14上に設けたホルダー20で上下動自在に保持されている。
【0025】
上記ブラケット13の底部水平板14に、ロックピン19を保持するホルダー20の取付け孔が設けられ、上記した昇降機本体7の天板11には、下降したロックピン19が係合することにより、シート6の回転をロックする係合部21が設けられている。
【0026】
この係合部21は、ロックピン19の下端が嵌まり込む円形孔によって形成され、この円形孔にロックピンが自重による降下で嵌まり込むことで、シート6は昇降機本体7に対してロックされて回転不能になり、ロックの解除は、シート6の肘掛6aに設けた押しボタンスイッチを押してソレノイド17に通電し、ソレノイド17でプランジャー18とロックピン19を引き上げることで係合部21からロックピン19を抜き取ることになる。
【0027】
上記係合部21を設ける位置は、図5(d)のように、シート6の向きが昇降姿勢位置にあるときと乗り降り姿勢位置にあるときにロックピン19が係合するように配置され、シート6は昇降姿勢と乗り降り姿勢の状態で回転しないようにロックできることになる。
【0028】
なお、ロックを解除した状態でシート6を回転させたとき、ソレノイド17への通電切れでロックピン19は自重で下降し、その下端が回転中心軸12を中心に天板11上をこするように係合部21間を移動するが、図5(b)のように、このロックピン19の下端部には転動子22が設けられ、天板11の上面を円滑に回動するようになっている。
【0029】
また、天板11の下面で係合部21の直下位置に、この係合部21に係合するロックピン19を電気的に検出するスイッチ23が配置されている。
【0030】
この発明のシート回転機構は、上記のような構成であり、椅子式階段昇降機1は、案内レール2に、上部ガイドローラ3と下部の駆動・ガイド機構4で取付けられ、この椅子式階段昇降機1が案内レール2に設定される昇降機本体7の停止位置に停止する状態で、障害者や高齢者が昇降機本体7に設けたシート6に座り、肘掛6aに設けた上昇又は下降用の押しボタンスイッチをオンすると、電動モータの起動によりチェーンと噛み合うスプロケットが回動し、椅子式階段昇降機1は案内レール2に沿ってガイドローラ3と下部の駆動・ガイド機構4の誘導で走行し、案内レール2に設定される昇降機本体7の停止位置で椅子式階段昇降機1が停止することにより、座ったままで階上又は階下に移動することができる。
【0031】
上記椅子式階段昇降機1の昇降動時は、ロックピン19がシート6の昇降姿勢位置に対応する係合部21に係合し、シート6は真横向きにロックされた状態で昇降動する。
【0032】
椅子式階段昇降機1が階上や階下の停止位置に停止すると、シート6の肘掛6aに設けた押しボタンスイッチを押すと、ソレノイド17への通電となり、ロックピン19が引き上げられて係合部21から離脱し、ロックの解除となるので、シート6をフロア側に所定角度だけ回転させる。
【0033】
ロックピン19が引き上げられてロック解除となると、スイッチ23が切れてソレノイド17への通電を遮断するので、図1の矢印のように、シート6を人手によって乗り降り姿勢の位置に回転させ、このシート6の回転により、自重で下降したロックピン19は、回転中心軸12を中心に天板11上を回動し、シート6が乗り降り姿勢の状態に回転すると、ロックピン19は、乗り降り姿勢の対応する位置に設けた係合部21に落ち込み、シート6の乗り降り姿勢をロックするので、シート6に対してフロア側から安全に乗り降りすることができる。
【0034】
また、乗り降り姿勢にあるシート6に座って昇降するときは、押しボタンスイッチを押してソレノイド17へ通電し、ロックピン19を引き上げてロックを解除した状態でシート6を昇降姿勢に回転させ、ロックピン19がシート6の昇降姿勢位置に対応する係合部21に係合し、シート6を真横向きにロックした状態で昇降が開始される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】椅子式階段昇降機のシート回転状態を示す斜視図
【図2】(a)はこの発明のシート回転機構を用いた椅子式階段昇降機のシートの背面側を示す斜視図、(b)は同要部を拡大した斜視図
【図3】(a)はこの発明のシート回転機構を用いた椅子式階段昇降機のシートの背面図、(b)は天板とシートの関係を示す底面図
【図4】この発明のシート回転機構を用いた椅子式階段昇降機のシートの拡大した背面図
【図5】(a)はこの発明のシート回転機構を示す平面図、(b)は同じくソレノイド部分での縦断面図、(c)は同側面図、(d)は天板の平面図
【図6】椅子式階段昇降機の全体構造を示す正面から見た説明図
【符号の説明】
【0036】
1 椅子式階段昇降機
2 案内レール
3 ガイドローラ
4 駆動・ガイド機構
5 椅子
6 シート
7 昇降機本体
11 天板
12 回転中心軸
13 ブラケット
14 底部水平板
15 ボス
16 取付け板
17 ソレノイド
18 プランジャー
19 ロックピン
20 ホルダー
21 係合部
22 転動子
23 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
階段や傾斜路に沿って設置される案内レールに、昇降機本体をこの案内レールに沿って走行するよう取付け、この昇降機本体の上部にシートを設けた椅子式階段昇降機であって、前記昇降機本体の上面に立設した回転中心軸に前記シートを、このシートが回転中心軸を中心に回転可能となるよう、シートの背面側に設けたボスによって取付け、前記ボスに固定したソレノイドにこのソレノイドで鉛直動するロックピンを設け、前記昇降機本体の天板に、ロックピンが係合することによりシートの回転を固定化する係合部を設け、この係合部を、シートの向きが昇降姿勢位置にあるときと乗り降り姿勢位置にあるときにロックピンが係合するように配置した椅子式階段昇降機のシート回転機構。
【請求項2】
上記ソレノイドは、シートに設けた押しボタンの操作で、ロックピンを係合部から離脱させるように作動するようになっている請求項1に記載の椅子式階段昇降機のシート回転機構。
【請求項3】
上記昇降機本体の天板に設けた係合部の下部に、この係合部に係合するロックピンを電気的に検出するスイッチを配置した請求項1又は2に記載の椅子式階段昇降機のシート回転機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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