説明

椅子

【課題】形状及び重量を小さくできるバネ受けブロックひいては椅子を提供する。
【解決手段】脚で支持されたベースと、前記ベースの上方に配置されると共にコイルばね30に抗して後傾動又は後退動若しくは両方の動きを行い得る座部と、前記座部の後方に配置した背もたれとを備えた椅子であって、コイルばね30の少なくとも一端とベースに配置された第1軸9との間に介挿するバネ受けブロック36には、第1軸9に形成されて、この軸の直径より短い寸法の装着凹所40に外嵌して第1軸9の軸線方向への位置ずれを防止する位置決め係合部39が備えられている。円パイプで構成した第1軸9の筒壁部に円周方向の一対の切込41を半径方向に相対向させ、且つ第1軸9の軸線方向に所定寸法だけ隔て形成し、この一対の切込の間の筒壁部を一対の平行面42に形成することにより前記装着凹所40が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば事務用の回転椅子は、脚支柱の上端にベースを固定し、ベースで座を支持する共に、ベースに後傾動可能に連結した背フレームを取り付けた基本構造になっており、背フレームの後傾動をばねで支持している。そして、背もたれが後傾動するとこれに連動して座が後退動又は後傾動若しくは両方を行うシンクロタイプのものが多用されている。
【0003】
座と背もたれとを連動させるシンクロ機構には何種類かある。例えば、座が背もたれの後傾動に連動して後退しつつ後傾するタイプの場合の一例として、座を受ける中間部材をベースの前部に第1軸で連結すると共に、中間部材と背フレームとを第3軸とで連結し、更に、ベースにおいて第1軸が嵌まる穴を前後方向に長い長穴としたものがある。
【0004】
背もたれの後傾動に連動して座が後傾動のみするタイプとしては、第1軸はベースに対して回転のみ行うように連結する一方、背フレームをベースに軸で取り付けるにおいて、ベースの取り付け穴を長穴とすることによって背フレームの後傾動と座の後傾動とを連動させたものがある。
【0005】
特許文献1では、ベース内に配置されたコイルバネの前端を受け且つベースの前側前後移動可能に配置された第1軸を支持するバネ受けには、第1軸が前方から嵌まる前方開放の側面視U字状の開口溝が設けられ、また、第1軸を上方から抱き込むように固定した円弧状のストッパを開口溝の内面に形成された嵌合溝に嵌合させることにより、ストッパひいては第1軸が軸線方向(左右方向)にずれ移動することができないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4255868号公報(図4、図5、図12参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の構成では、バネ受けに形成される側面視U字状の開口溝の直径は第1軸が嵌まる寸法に設定するので、ストッパのための嵌合溝は前記直径より大きくしなければならず、そのためバネ受けの形状(特に高さ寸法)を大きくしなければならず、このため、バネ受けが大きくなり、これに応じてベースの高さ寸法も大きくする必要あるので、結果的に椅子の形状及び重量が大きくなるという問題があった。また、バネ受けを保持するために、金具を溶接し、左右のブッシュでバネ受けを挟み込む構造であり、加工工数、 部品点数に関してもコストが掛かるという問題があった。
【0008】
本願発明は、上記課題を解決するためになされたもので、形状及び重量を小さくできるバネ受けブロックひいては椅子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため請求項1の発明は、脚で支持されたベースと、前記ベースの上方に配置されると共にばね手段に抗して後傾動又は後退動若しくは両方の動きを行い得る座部と、前記座部の後方に配置した背もたれとを備えた椅子であって、前記ばね手段の少なくとも一端と前記ベースに配置された軸との間に介挿するバネ受けブロックには、前記軸に形成されて、この軸の直径より短い寸法の装着凹所に外嵌して前記軸の軸線方向への位置ずれを防止する位置決め係合部が備えられているものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1において、前記座部を第1軸で前記ベースの前部寄り部位に連結すると共に、座部のうち第1軸よりも後方の部位を前記ベース又は他の部材に連結し、前記背もたれは、前記ベースに後傾動自在に第2軸で連結された背フレームに取り付けられており、前記背フレームの前後中途部と前記座部とを第3軸で連結しており、更に、前記第1軸はベースに嵌まっている穴を長穴とすることにより、前記背もたれと前記座部とが連動することを許容し、前記バネ受けブロックは前記ばね手段と前記第1軸との間に介挿するものである。
【0011】
請求項3の発明では、請求項1または2において、前記軸または前記第1軸は金属製の円パイプであり、前記円パイプの筒壁部に円周方向の一対の切込を半径方向に相対向させ、且つ前記軸または前記第1軸の軸線方向に所定寸法だけ隔て形成し、この一対の切込の間の筒壁部を一対の平行面に形成することにより前記装着凹所が構成されているものである。
【0012】
請求項4の発明では、請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記バネ受けブロックには前記位置決め係合部を前記軸または前記第1軸の軸線方向に挟む両側に、その軸の直径を有する半円弧状の支持部が設けられているものである。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によると、ばね手段の少なくとも一端と前記ベースに配置された軸との間に介挿するバネ受けブロックには、前記軸に形成されて、この軸の直径より短い寸法の装着凹所に外嵌して前記軸の軸線方向への位置ずれを防止する位置決め係合部が備えられているものであるから、バネ受けブロックにおける装着凹所を軸の直径より小さくできるので、結果的にバネ受けブロックの形状を小さくでき、ひいては椅子の軽量化を図ることができる。また、部品点数が少ない等でコストダウンを図ることができる。
【0014】
本願発明は、請求項2のように背もたれと座とが連動するシンクロタイプの椅子に特に好適である。
【0015】
請求項3のように構成すると、前記軸または前記第1軸は金属製の円パイプとしたことにより、軽量化が一層確実となり、また、切込を施すので装着凹所の形成作業が容易となる。
【0016】
請求項4のように構成すると、バネ受けブロックによる前記軸または前記第1軸の支持が一層安定する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】椅子の全体側面図である。
【図2】椅子の主要部材を表示した分離斜視図である。
【図3】ベースの下面左側から見た椅子の主要部材の斜視図である。
【図4】ベースの下面前方右側から見た椅子の主要部材の斜視図である。
【図5】座部と背フレームとの分離斜視図である。
【図6】座部と背フレームとの平面図である。
【図7】バネ手段及びその前後のバネ受けブロック等の部品を示す分離斜視図である。
【図8】要部の分離斜視図である。
【図9】(A)は第1軸と前バネ受けブロックの取付け状態を示す正面図、(B)は同じく斜視図である。
【図10】第1軸と前バネ受けブロックの分離斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明で方向を示すため「前後」「手前」「後ろ」「左右」といった文言を使用するが、これらの文言はロッキング椅子(以下、単に椅子と称する)に着座した人の向き基準にしている。「正面視」は着座者と対向した方向から見た状態になる。
【0019】
(1).椅子の基本構造
先ず、図1〜図5に基づいて椅子の基本構造を説明する。図1は椅子の側面図であり、この図に示すように、椅子は、キャスター付きの脚1と、座部2と、背もたれ3とを備えている。脚1は伸長自在及び回転自在でガスシリンダよりなる脚支柱4を備えており、脚支柱4は、放射状に延びる複数本の枝足を有する脚本体の中心部に嵌着されている。脚支柱4の上端にはベース6(図3〜図6に示す)が固定され、ベース6の上下外側が上ベースカバー体5aと下ベースカバー体5bとで囲われている。
【0020】
座部2は、座クッション体7と座板(座インナーシェル)8とを備えており、座板8の前端部はベース6の前端部に第1軸9(前部軸)によって後傾動及び後退動自在に取り付けられている。座クッション体7はクロス等の表皮材で覆われている。座板8はPP(ポリプロピレン)等の合成樹脂材を素材とした射出成形品である。
【0021】
背もたれ3における下部材である背フレーム10の後上部はバックカバー体12が取付けられている。バックカバー体12の前面には背板15が取付位置を上下に変更可能に設けられ、背板15の前面に背クッション体16が取付けられている(図1、図2参照)。座板8、バックカバー体12及び背板15はPO等の合成樹脂材を素材とした射出成形品である。座クッション体7及び背クッション体16にはクロス等の表皮材が張られている。
【0022】
ベース6の後部寄り部位には背フレーム10の前端部が第2軸11によって回動可能に連結されており、更に、背フレーム10のうち第2軸11よりも後方の部位と座板8の後部とは第3軸(後部軸)14によって相対回動可能に連結されている。このため、背もたれ3が後傾動するとこれに連動して座部2も一緒に後傾しつつ後退する。
【0023】
背フレーム10はバックカバー体12の取付け部10aの下端から前方にのびる左右両側のアーム部20を有し、両アーム部20の前端に第2軸11を回動可能に外嵌する軸受21が設けられている。左右両側のアーム部20の前後中途部を連結するための左右に延びるように一体的に形成されている補強部22の上端の嵌合溝22a(図6参照)には、金属製の丸パイプまたは丸軸状の第3軸14が固定されている。このため、背フレーム10の剛性は高く、ねじれ及び曲げ外力対する変形を非常に小さくできる。
【0024】
なお、アーム部20の前後中途部の外面には、オプション部品である肘掛け装置の基部の取付け部23を有し(図2〜図5参照)、肘掛け装置を外した取付け部23はキャップ24(図1参照)を外嵌させて覆う。
【0025】
図3〜図6に示すように、ベース6は上向きに開口した略筐状の形態になっていて、ベース6のベース基板6bに穿設された取付け孔6dに脚支柱4の上端が固定されている。ベース6の左右両側板6aにおける前寄り部位にて第1軸9を介して座板8が前後スライド自在に装着されている。また、この第1軸9は、後に詳述するように、ベース6の内部に配置されたロッキング用弾性支持手段に関連づけされる。
【0026】
例えば図3〜図5に示すように、ベース6の左右両側板6aには前後長手の長穴25が形成されており、この長穴25に樹脂製のブッシュ26を装着し、左右両ブッシュ26に左右長手の第1軸9が前後スライド自在に挿通されている。ブッシュ26は長穴25に外側から嵌め込んでおり、ベース6の外面に当たるフランジ26aを有している。
【0027】
座板8の下面の左右両側には、軸受け部27が一体的に形成されて、ここに第1軸9の両端が嵌まる。図3〜図5、図7に示すように、軸受け部27は、前後に長く前端が有底の溝レール28を有する。左右両溝レール28は相対向する面と後部28aが開放されているので、第1軸9の両端部を後部28aから前方に挿入できる。
また、左右両軸受け部27の後部には第3軸14の両端部を回動可能に支持するための後部軸受29が一体的に形成されている。
【0028】
[ロッキング用弾性支持手段]
図5〜図7に明示するように、ベース6の内部には、ロッキング用弾性支持手段の一例として、前後方向に伸縮するロッキングばね用のコイルばね30(請求項でいうばね手段に相当)を配置している。他方、ベース6の後部には、左右両側板に連結された仕切り部32の前面に装着された後部ばね受け支持装置31が設けられている。
【0029】
後部ばね受け支持装置31は仕切り部32の前面にて左右方向に摺動可能で左方向に行くに従って前方向に高い傾斜面を有する第1傾斜ブロック33と、第1傾斜ブロック33の傾斜面に摺接する第2傾斜ブロック34とを備える。軸線周りに回転のみ可能に支持され、右側板6aから横向きに突出する操作レバー35は第1傾斜ブロック34内の雌ねじに螺合され、操作レバー35の右または左への回転に応じて第1傾斜ブロック34が椅子の左または右方向に移動可能となっている。第2傾斜ブロック34の前面にはコイルばね30の後端を位置ずれ不能に受ける後部ばね受け部34aが形成され、後部ばね受け支持片である第2傾斜ブロック34にてコイルばね30の後部が後ろから支持されている。なお、コイルばね30の付勢力により第2傾斜ブロック34の片面は右側板6aの内面に常時押圧された状態である。従って、上記の操作レバー35の右または左への回転に応じて第2傾斜ブロック34は椅子の前方向または後方へ移動し、コイルばね30の伸縮量を調節できる。
【0030】
また、コイルばね30の前端は前部バネ受けブロック36を介してベース6の前壁方向に第1軸9を付勢する。前部バネ受けブロック36の後面には、コイルばね30の前端の位置ずれを防止するための円筒状などの前部ばね受け部37が形成される。
【0031】
前部バネ受けブロック36が第1軸9を左右方向に位置ずれしないように支持する構成として、第1軸9の軸線方向への位置ずれを防止する位置決め係合部39は、前部バネ受けブロック36の前面部に形成されるものであり、この位置決め係合部39は、第1軸9の軸線方向の中途部に当該第1軸9の直径より短い寸法の装着凹所40に外嵌するように構成されているものである。
【0032】
第1実施例では、図8〜図10に示すように、第1軸9は金属製の円パイプであり、円パイプの筒壁部(外周部)に円周方向の一対の切込41を半径方向に相対向させ、且つ第1軸9の軸線方向に所定寸法L1だけ隔て形成する。従って、合計4つの切込41が形成される。各切込41の深さ寸法H1は第1軸9の直径Dの4分の1程度である。この一対の切込41の間の筒壁部を上下からプレス(押圧)して上下一対の平行面42に形成することにより装着凹所40が構成されているものである。従って、上下一対の平行面42間の寸法H2は値(D−2×H1)に等しいように設定される。
【0033】
他方、バネ受けブロック36に設けられる位置決め係合部39は、前方に開放された側面視U字状の溝として形成され、上記一対の平行面42(装着凹所40)を上下に挟むように構成されている。
【0034】
このように構成し、第1軸9の装着凹所40にバネ受けブロック36の位置決め係合部39を外嵌させると、バネ受けブロック36に対して第1軸9は軸線方向に位置ずれすることなく装着される。さらに、ベース6のベース基板6bに上向きに切り起こしされた左右一対の規制片17(図6参照)がバネ受けブロック36の左右側面に当接しているので、当該バネ受けブロック36も左右に移動不能となり、これによって、ベース6に対して第1軸9は軸線方向に位置ずれすることなく装着されることになる。
【0035】
また、図示実施例では、装着凹所40及びその左右両側の第1軸9の外周部位を抱持すべく、バネ受けブロック36には、位置決め係合部39を第1軸9の軸線方向に挟んだ左右両側に、その軸の直径Dを有する半円弧溝状(前方に開放された側面視U字状)の支持部43が設けられている。なお、図示実施例では、バネ受けブロック36を軽量化するため、位置決め係合部39及び左右両支持部43は櫛歯状に形成されている。
【0036】
以上の構成において、ロッキング状態では、背もたれ4が沈み込みながら後傾する。これと同時に座3は全体として後傾しながら後向きに移動する。ロッキング状態から身体を起こすと、背もたれ4及び座3はコイルばね30によって元の状態に戻る。これらの場合、バネ受けブロック36に対して、第1軸9は左右に位置ずれすることがない。
【0037】
他の実施例
(1).バネ受けブロック36の左右寸法を短くして、位置決め係合部39のみを形成しても良い。左右両側の支持部43を省略できるから、バネ受けブロック36の小型化、軽量化に寄与できる。
(2).第1軸9は中実の丸棒でも良い。その場合、装着凹所40は切削により形成する。
(3).第1軸9をパイプで形成すれば、これによっても、軽量化に寄与できる。
(4).第1軸9を金属製のパイプとした場合、平行な一対の平行面42を有する装着凹所40を形成するため、切込41を施すことなく、金型でプレスによって形成しても良い。
【0038】
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば本願発明はロッキングに際して座が後退(及び/又は後傾)するシンクロタイプの椅子にも適用できるし、背もたれのみが後傾する椅子にも適用できる。
【符号の説明】
【0039】
2座部 3背もたれ
4脚支柱
6ベース
8座板
9第1軸
11第2軸
14第3軸
30ロッキング用ばね手段の一例としてのコイルばね
36前部バネ受けブロック
39位置決め係合部
40装着凹所
41切込
42平行面
43支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脚で支持されたベースと、前記ベースの上方に配置されると共にばね手段に抗して後傾動又は後退動若しくは両方の動きを行い得る座部と、前記座部の後方に配置した背もたれとを備えた椅子であって、
前記ばね手段の少なくとも一端と前記ベースに配置された軸との間に介挿するバネ受けブロックには、前記軸に形成されて、この軸の直径より短い寸法の装着凹所に外嵌して前記軸の軸線方向への位置ずれを防止する位置決め係合部が備えられている、椅子。
【請求項2】
前記座部を第1軸で前記ベースの前部寄り部位に連結すると共に、座部のうち第1軸よりも後方の部位を前記ベース又は他の部材に連結し、
前記背もたれは、前記ベースに後傾動自在に第2軸で連結された背フレームに取り付けられており、前記背フレームの前後中途部と前記座部とを第3軸で連結しており、更に、前記第1軸はベースに嵌まっている穴を長穴とすることにより、前記背もたれと前記座部とが連動することを許容し、
前記バネ受けブロックは前記ばね手段と前記第1軸との間に介挿する、請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記軸または前記第1軸は金属製の円パイプであり、前記円パイプの筒壁部に円周方向の一対の切込を半径方向に相対向させ、且つ前記軸または前記第1軸の軸線方向に所定寸法だけ隔て形成し、この一対の切込の間の筒壁部を一対の平行面に形成することにより前記装着凹所が構成されている、請求項1または2に記載した椅子。
【請求項4】
前記バネ受けブロックには前記位置決め係合部を前記軸または前記第1軸の軸線方向に挟む両側に、その軸の直径を有する半円弧状の支持部が設けられている、請求項1または請求項1乃至3のいずれかに記載した椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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