説明

植物における金属成分の吸収向上剤

【課題】本発明は植物が生育する際に第3、第4周期元素の第2族から第12族までの元素から選ばれる少なくとも1種以上の金属成分の吸収を向上させる金属成分吸収向上剤の提供。
【解決手段】下記一般式(1)
21NCH2COCH2CH2COR3 (1)
(式中、R1及びR2は各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;R3はヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。)で表される5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を有効成分とし、当該5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を1回あたり0.001〜20ppmの濃度で処理するための、植物における第3、第4周期の第2族から第12族までの元素から選ばれる少なくとも1種以上の金属成分の吸収向上剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物が生育する際に第3、第4周期元素の第2族から第12族までの元素から選ばれる少なくとも1種以上の金属成分の吸収を向上させる金属成分吸収向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の生育にとって必須な元素のうち、炭素、水素、酸素は大気、水から供給される。また、窒素、リン及びカリウムの3元素は、土壌から吸収されるが、植物の吸収量に比較して土壌中での存在量が比較的少ないため欠乏になりやすく、外部から補給したときの効果が現れやすいことから、肥料3要素という。植物には肥料3要素以外にも必須の要素があり、具体的には多量要素に分類されるマグネシウム、硫黄、カルシウム、微量要素に分類されるマンガン、ホウ素、鉄、亜鉛、銅、モリブデン、塩素及びニッケルとされている。また、人間においても鉄、亜鉛、銅、マンガン、バナジウムについては欠乏症が知られるようになってきた。特に鉄は婦人の3分の1が潜在性の鉄欠乏性貧血であるといわれるように、その欠乏の分布はきわめて広い。
【0003】
鉄(Fe)は生体内で二価鉄イオン(Fe2+)として酵素の活性化に関与している。また、ポルフィリン環の中に入ってヘムとなり、このヘムは様々な酵素の活性中心に存在している。ヘム鉄含有タンパクとしてはシトクロム、ペルオキシダーゼ、カタラーゼが、鉄―硫黄タンパクとしてはフェレドキシンがあり、主として酸化還元反応、電子伝達反応に関与している。クロロフィルはポルフィリン環にマグネシウムイオンが入ったもので、このポルフィリン環合成の前駆物質であるプロトポルフィリノーゲン合成酵素とプロトクロロフィライド合成酵素は、遺伝子レベルでの制御に鉄が関与していると考えられている。したがって、鉄欠乏になると、ポルフィリンの合成が抑えられ、クロロフィルが合成されなくなるので、植物は黄白化症を呈し、光合成ができなくなり枯死する。
【0004】
銅は植物体内にあっては組織の構成成分か代謝に関わる酵素の一部となっている。一般的な欠乏の症状としては、クロロシス、ネクロシス、葉のねじれなどである。圃場において銅欠乏が発生する植物としては、オオムギ、コムギ、アルファルファ、レタス、ニンジン、タマネギ、トマト、タバコそれに柑橘類などの栽培植物である。
【0005】
マンガンは生理作用として光合成、呼吸、酸素の活性化等があり、多くの植物において、植物体中のマンガン量の増大に伴って呼吸が増大する。マンガンが欠乏すると葉にクロロシスが観察される。
【0006】
亜鉛は亜鉛酵素など多数が明らかになり、亜鉛の関与する生体内の反応も多く知られるようになった。欠乏の症状としては伸長成長の抑制、タンパク合成の阻害などが様々な植物の様々な部位で認められている。
【0007】
一方、人間においても、ミネラル摂取の重要性が認知されてきた。日本人の食事摂取基準(非特許文献1)によると、例えばカルシウムは増やすべき栄養素として新たな指標「目標量」が設定され、また、他のミネラルも推定平均必要量、推奨量が定められている。また、従来からカルシウム摂取不足による骨粗鬆症が指摘されているが、カルシウムだけを摂取しても十分な対策にならず、マグネシウム等も必要であることが分かってきた。
【0008】
しかし、現在、マグネシウム、カルシウムの摂取量は、日本人の食事摂取基準推奨量よりも約100mg低い値となっている。また、その他のミネラルにおいても、銅は充足しているものの、鉄、亜鉛は推奨量以下の値となる性別、年代がある。
【0009】
ミネラルの摂取方法としてはサプリメントにより摂取する方法、食事により摂取する方法がある。一般にミネラルは適当な摂取量のゾーンの幅が狭く、ミネラル間のバランスが崩れやすい特徴があるが、サプリメントにより摂取する方法は、特定のミネラルを過剰に摂取することによる過剰障害が起こることが問題となっている。食事により摂取する方法によりミネラル過剰となるのは、食塩によるナトリウムの過剰以外ほとんどなく、バランスよく摂取することが容易である。よって、ミネラルの摂取方法としては食事により過不足無く摂取する方法が好ましい。
【0010】
野菜には各種ミネラルおよびビタミンが豊富に入っていることから、野菜は食事におけるミネラルの主要な供給源である。しかし、食料需給表(非特許文献2)によると、食生活の変化により1日当たりの野菜摂取量は減少してきており、1日当たり350gの野菜が必要とされているのに対し、平均250gしか摂取できていないことが報告されている。そこで、ミネラル摂取量を上げる為に、野菜中のミネラル含量を増加させることが望まれていた。
【0011】
植物の金属成分吸収を向上させる技術としては、安息香酸及び/又は安息香酸誘導体がカリウムイオンの吸収を向上させることが報告されている(特許文献1)。また、アミノ酸の水溶液と共に葉の表面に散布することで、カルシウムイオンの吸収を向上させた報告もある(特許文献2)が、他の金属成分に関して吸収向上が認められる物質は知られていない。
【特許文献1】特開2002−284607号公報
【特許文献2】特開2001−192310号公報
【非特許文献1】日本人の栄養所要量−食事摂取基準−策定検討会 日本人の食事摂取基準(2005年版)
【非特許文献2】平成16年度、農林水産省総合食料局、平成18年3月:食料需給表
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、植物に必要とされる第3、第4周期元素の第2族から第12族までの元素から選ばれる少なくとも1種以上の金属成分の吸収向上剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる実状において、本発明者らは、種々研究を重ねた結果、全く意外にも、5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を30ppm以上の濃度では効果がなく0.001〜20ppmという低濃度で処理した場合に、植物における優れた金属成分吸収向上作用を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は下記一般式(1)
21NCH2COCH2CH2COR3 (1)
(式中、R1及びR2は各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;R3はヒドロキシ基、アルコキシ基、アシ
ルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。)で表される5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を有効成分とし、当該5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を1回あたり0.001〜20ppmの濃度で使用するための、植物における第3、第4周期の第2族から第12族までの元素から選ばれる少なくとも1種以上の金属成分の吸収向上剤を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、植物の根、茎葉又は周囲の土壌、水を、下記一般式(1)
21NCH2COCH2CH2COR3 (1)
(式中、R1及びR2は各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;R3はヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。)で表される5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を0.001〜20ppmの濃度で処理することを特徴とする、植物中の第3、第4周期元素の第2族から第12族までの元素から選ばれる少なくとも1種以上の金属成分含量を向上させる方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属成分吸収向上剤は、植物における、第3、第4周期元素の第2族から第12族までの元素から選ばれる少なくとも1種以上の金属成分の吸収向上により、植物の金属欠乏症を防ぐと共に、植物中の第3、第4周期元素の第2族から第12族までの元素から選ばれる少なくとも1種以上の金属成分を増やすことで、人間が食事を通して植物から得られる金属分を増やすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の金属成分吸収向上剤の有効成分は、5−アミノレブリン酸、その誘導体(前記一般式(1))又はそれらの塩である。
一般式(1)中、R1及びR2で示されるアルキル基としては、炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜18のアルキル基、特に炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。アシル基としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルカノイル基、アルケニルカルボニル基又はアロイル基が好ましく、特に炭素数1〜6のアルカノイル基が好ましい。当該アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられる。アルコキシカルボニル基としては、総炭素数2〜13のアルコキシカルボニル基が好ましく、特に炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基が好ましい。当該アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜16のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。アラルキル基としては、炭素数6〜16のアリール基と上記炭素数1〜6のアルキル基とからなる基が好ましく、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
【0018】
3で示されるアルコキシ基としては、炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ
基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜16のアルコキシ基、特に炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。当該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基等が挙げられる。アシルオキシ基としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルカノイルオキシ基が好ましく、特に炭素数1〜6のアルカノイルオキシ基が好ましい。当該アシルオキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基等が挙げられる。アルコキシカルボニルオキシ基としては、総炭素数2〜13のアルコキシカルボニルオキシ基が好ましく、特に総炭素数2〜7のアルコキシカルボニルオキシ基が好ましい。当該アルコキシカルボニルオキシ基としては、メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、イソプロポキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基としては、炭素数6〜16のアリールオキシ基が好ましく、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。アラルキルオキシ基としては、前記アラルキル基を有するものが好ましく、例えば、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0019】
一般式(1)中、R1及びR2としては水素原子が好ましい。R3としてはヒドロキシ基、アルコキシ基又はアラルキルオキシ基が好ましく、より好ましくはヒドロキシ基又は炭素数1〜12のアルコキシ基、特にメトキシ基又はヘキシルオキシ基が好ましい。
【0020】
5−アミノレブリン酸誘導体としては、5−アミノレブリン酸メチルエステル、5−アミノレブリン酸エチルエステル、5−アミノレブリン酸プロピルエステル、5−アミノレブリン酸ブチルエステル、5−アミノレブリン酸ペンチルエステル、5−アミノレブリン酸ヘキシルエステル等が挙げられ、特に5−アミノレブリン酸メチルエステル又は5−アミノレブリン酸ヘキシルエステルが好ましい。
【0021】
5−アミノレブリン酸およびその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩及びナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩が挙げられる。なお、これらの塩は使用時において水溶液として用いられ、その作用は5−アミノレブリン酸の場合と同一である。5−アミノレブリン酸とその塩はそれぞれ単独でも、これらの2種以上を混合して用いることもできる。
【0022】
5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩は、公知の化合物であり、化学合成、微生物による生産、酵素による生産のいずれの方法によっても製造することができる。その生産物は、植物に対して有害な物質を含まない限り分離精製することなく、そのまま用いることができる。また、有害な物質を含む場合は、その有害物質を適宜、有害とされないレベルまで除去した後、用いることができる。
【0023】
本発明の金属成分吸収向上剤の適用対象となる植物としては、特に限定されず、農業分野で広く栽培されている植物が挙げられるが、例えばイネ、オオムギ、コムギ、ヒエ、トウモロコシ、アワ等の穀物類;カボチャ、カブ、キャベツ、ダイコン、ハクサイ、ホウレンソウ、コマツナ、ミツバ、アスパラガス、ブロッコリー、ニラ、セロリ、レタス、シュンギク、キョウナ、チンゲンサイ、ピーマン、トマト、ナス、キュウリ、オクラ等の野菜類;ミカン、リンゴ、カキ、ウメ、ナシ、ブドウ、モモ、イチゴ、スイカ、メロン等の果実類;キク、ガーベラ、パンジー、ラン、シャクヤク、チューリップ等の花卉類;サツキ、クヌギ、スギ、ヒノキ、ナラ、ブナ等の樹木類;アズキ、インゲン、ダイズ、ラッカセイ、ソラマメ、エンドウ等の豆類;コウライシバ、ベントグラス、ノシバ等の芝類;ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、ヤマイモ、タロイモ等のイモ類;ネギ、ワケギ、タマネギ、ラッキョウ等のネギ類;アルファルファ、クローバー、レンゲ等の牧草類;ニンジン、ダイコン、ハツカダイコン、カブ、ゴボウ等の根菜類が挙げられ、穀物類、野菜類、根菜類及びイモ類が好ましく、ホウレンソウ、オオムギ、ハツカダイコン及びジャガイモがより好ましい。
【0024】
本発明において、第3、第4周期元素の第2族から第12族中の元素としては、マグネシウム、カルシウム、バナジウム、マンガン、鉄、銅及び亜鉛ゲルマニウムが挙げられ、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、銅及び亜鉛である。本発明の吸収向上剤は、特に、鉄の吸収向上のために好適に用いられる。
【0025】
本発明において、金属成分吸収向上剤には、5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩単独でもよいが、これ以外に、植物成長調節剤、糖類、アミノ酸、有機酸、アルコール、ビタミン、ミネラル等を配合することができる。ここで用いられる植物成長調節剤としては、例えば、エピブラシノライド等のブラシノライド類、塩化コリン、硝酸コリン等のコリン剤、インドール酪酸、インドール酢酸、エチクロゼート剤、1−ナフチルアセトアミド剤、イソプロチオラン剤、ニコチン酸アミド剤、ヒドロキシイソキサゾール剤、過酸化カルシウム剤、ベンジルアミノプリン剤、メタスルホカンブ剤、オキシエチレンドコサノール剤、エテホン剤、クロキンホナック剤、ジベレリン、ストレプトマイシン剤、ダミノジット剤、ベンジルアミノプリン剤、4−クロロフェノキシ酢酸(4−CPA)剤、アンシミドール剤、イナペンフィド剤、ウニコナゾール剤、クロルメコート剤、ジケブラック剤、メフルイジド剤、炭酸カルシウム剤、ピペロニルブトキシド剤等を挙げることができる。
【0026】
糖類としては、例えばグルコース、シュクロース、キシリトール、ソルビトール、ガラクトース、キシロース、マンノース、アラビノース、マジュロース、スクロース、リボース、ラムノース、フラクトース、マルトース、ラクトース、マルトトリオース等が挙げられる。
【0027】
アミノ酸としては、例えばアスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、チロシン、グリシン、アルギニン、アラニン、トリプトファン、メチオニン、バリン、プロリン、ロイシン、リジン、イソロイシン等を挙げることができる。
【0028】
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、シュウ酸、フタル酸、安息香酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸、グリコール酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、マレイン酸、カプロン酸、カプリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ピルビン酸、α−ケトグルタル酸、レブリン酸等を挙げることができる。
【0029】
アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、グリセロール等が挙げられる。
【0030】
ビタミン類としては、例えばニコチン酸アミド、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミ
ンB5、ビタミンC、ビタミンB13、ビタミンB1、ビタミンB3、ビタミンB2、ビタミンK3、ビタミンA、ビタミンD2、ビタミンD3、ビタミンK1、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、σ−トコフェロール、p−ヒドロキシ安息香酸、ビオチン、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸、α−リポニック酸等を挙げることができる。
【0031】
ミネラルとしては、例えばチッソ、リン、カリウム、カルシウム、ホウ素、マンガン、マグネシウム、亜鉛、銅、鉄、モリブデン、マグネシウム等を挙げることができる。
【0032】
本発明の金属成分吸収向上剤は、5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を有効成分として含有し、1回あたりの濃度は、当該5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩として、0.001〜20ppmである。
処理濃度が0.001ppm未満の場合及び20ppmを超える場合、いずれの場合においても、金属成分吸収効果は十分ではない。特に好ましい処理濃度は、0.01〜10ppmである。
【0033】
本発明の金属成分吸収向上剤は、植物の根、茎葉、周囲の土壌又は水に、0.001〜20ppmの濃度で処理することにより使用される。具体的には、茎葉処理用(茎葉処理剤)として使用してもよいし、土壌処理用(土壌処理剤)として使用してもよい。また、植物を植えつけたり、挿し木等する前に吸収させてもよい。さらに、水耕栽培時に水中に添加しておいてもよい。
【0034】
本剤を茎葉処理剤として用いる場合、5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を、0.001〜20ppm、好ましくは0.01〜10ppm、より好ましくは0.1〜5ppm、特に好ましくは0.2〜1.5ppmの濃度で含有せしめ、これを10アール当たり10〜1000L、特に50〜300L使用するのが好ましい。単子葉植物等葉面に薬剤が付着しにくい植物に対して用いる展着剤の種類及び使用量については、特に制限されない。
【0035】
本剤を土壌処理剤として使用する場合、5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩としては、10アール当たり1〜20000mg用いるのが好ましく、10〜10000mg用いるのがより好ましく、100〜5000mg用いるのがさらに好ましく、特に200〜1500mg用いるのが特に好ましい。濃度としては、0.001〜20ppm、好ましくは0.01〜10ppm、より好ましくは0.1〜5ppm、特に好ましくは0.2〜1.5ppmであり、この範囲の濃度にしたものを10アール当たり10〜1000L使用するのが好ましい。
【0036】
5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を水耕液に添加する場合、5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩の濃度は、0.001〜20ppm、好ましくは0.01〜10ppm、より好ましくは0.05〜5ppm、特に好ましくは0.1〜3ppmであることが望ましい。
【実施例】
【0037】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、これらは単に例示の目的で掲げられるものであって、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔試験例1〕5−アミノレブリン酸のカルシウム吸収向上効果
コンテナ2個を用意し、それぞれに土を入れ、ホウレンソウの種を均等に植えた。種苗した日から毎日1回じょうろで水を与えた。コンテナの一方に、5−アミノレブリン酸塩酸塩1ppmを溶かした水道水を霧吹きで1日1回、50mL程度を散布し、種苗から3週間後に間引きを、38日後に2つのコンテナの収穫を行った。収穫は地上より上の部分を切り取り、植物体の自然乾燥を行った。乾燥後、植物体を1つずつ乳鉢ですり潰し、乾燥重量中のカルシウムをICPを用いて測定し、その含有濃度を算出した。5−アミノレブリン酸を添加したもの、添加しなかったもののカルシウム濃度平均値を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示した通り、5−アミノレブリン酸塩酸塩の散布によりホウレンソウにおいてカルシウムの含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。
【0041】
〔試験例2〕5−アミノレブリン酸のマンガン吸収向上効果
試験例1と同様にしてホウレンソウ中のマンガン含有濃度を算出した。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示した通り、5−アミノレブリン酸塩酸塩の散布によりホウレンソウにおいてマンガンの含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。
【0044】
〔試験例3〕5−アミノレブリン酸の鉄吸収向上効果
試験例1と同様にしてホウレンソウ中の鉄含有濃度を算出した。結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3に示した通り、5−アミノレブリン酸塩酸塩の散布によりホウレンソウにおいて鉄の含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。
【0047】
〔試験例4〕5−アミノレブリン酸の銅吸収向上効果
試験例1と同様にしてホウレンソウ中の銅含有濃度を算出した。結果を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
表4に示した通り、5−アミノレブリン酸塩酸塩の散布によりホウレンソウにおいて銅の含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。
【0050】
〔試験例5〕5−アミノレブリン酸の亜鉛吸収向上効果
試験例1と同様にしてホウレンソウ中の亜鉛含有濃度を算出した。結果を表5に示す。
【0051】
【表5】

【0052】
表5に示した通り、5−アミノレブリン酸塩酸塩の散布によりホウレンソウにおいて亜鉛の含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。
【0053】
〔試験例6〕5−アミノレブリン酸のカルシウム吸収向上効果
オオムギ(品種:ファイバースノー)を川砂に播種、芽出しを行い、9日間生育を行なった。生育後、根を傷つけないように砂を洗い流し、長さ2cmになるように根を切りそろえた。これを水耕液Aに浸漬し、水耕栽培を行なった。水耕液Aの組成を表6に示す。
水耕液には5−アミノレブリン酸塩酸塩を溶解させないもの、0.1、0.3、1、30ppmの濃度になるように溶解させたものをそれぞれ作成した。水耕栽培開始13日後に水耕液を取り替え、更に6日間水耕栽培を行なった。水耕栽培後、植物を2晩50℃で乾燥させた後、ICP金属分析を行なった。結果を図1に示す。
【0054】
【表6】

【0055】
図1に示した通り、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を0.1、0.3、1ppmの濃度で添加することにより、オオムギにおいてカルシウムの含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。一方、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を30ppmの濃度で添加した場合、オオムギにおいてカルシウムの含有率向上効果は認められなかった。
【0056】
〔試験例7〕5−アミノレブリン酸のマンガン吸収向上効果
5−アミノレブリン酸塩酸塩添加濃度を0、0.3、1、30ppmとする以外は試験例6と同様にしてオオムギ中のマンガン含有濃度を分析した。結果を図2に示す。
【0057】
図2に示した通り、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を0.3、1ppmの濃度で添加することにより、オオムギにおいてマンガンの含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。一方、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を30ppmの濃度で添加した場合、オオムギにおいてマンガンの含有率向上効果は認められなかった。
【0058】
〔試験例8〕5−アミノレブリン酸の鉄吸収向上効果
水耕液の組成を水耕液Aの2倍濃度にし、5−アミノレブリン酸塩酸塩添加濃度を0、1、3、30ppmとする以外は試験例6と同様にして、オオムギ中の鉄含有濃度を分析した。結果を図3に示す。
【0059】
図3に示した通り、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を1、3ppmの濃度で添加することにより、オオムギにおいて鉄の含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。一方、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を30ppmの濃度で添加した場合、オオムギにおいて鉄の含有率向上効果は認められなかった。
【0060】
〔試験例9〕5−アミノレブリン酸の銅吸収向上効果
水耕液の組成を水耕液Aの2倍濃度にし、5−アミノレブリン酸添加濃度を0、0.1、0.3、30ppmとした以外は試験例6と同様にして、オオムギ中の銅含有濃度を分析した。結果を図4に示す。
【0061】
図4に示した通り、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を0.1、0.3ppmの濃度で添加することにより、オオムギにおいて銅の含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。一方、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を30ppmの濃度で添加した場合、オオムギにおいて銅の含有率向上効果は認められなかった。
【0062】
〔試験例10〕5−アミノレブリン酸の銅吸収向上効果(2)
水耕液Aに5−アミノレブリン酸塩酸塩添加濃度を0、0.1ppmとする以外は試験例6と同様にしてオオムギ中の銅含有濃度を分析した。
【0063】
その結果、オオムギ中の銅含有濃度は、5−アミノレブリン酸塩酸塩添加濃度が0ppmの場合は、0.0033%であるのに対し、0.1ppmの場合は、0.0067%であった。従って、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を0.1ppmの濃度で添加することにより、オオムギにおいて銅の含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。
【0064】
〔試験例11〕5−アミノレブリン酸の亜鉛吸収向上効果
5−アミノレブリン酸塩酸塩添加濃度を0、0.1、0.3、30ppmとする以外は試験例6と同様にして、オオムギ中の亜鉛含有濃度を分析した。結果を図5に示す。
【0065】
図5に示した通り、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を0.1、0.3ppmの濃度で添加することによりオオムギにおいて亜鉛の含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。一方、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を30ppmの濃度で添加した場合、オオムギにおいて亜鉛の含有率向上効果は認められなかった。
【0066】
〔試験例12〕5−アミノレブリン酸のマグネシウム吸収向上効果
5−アミノレブリン酸塩酸塩添加濃度を0、0.1、0.3、1、3、30ppmとする以外は試験例6と同様にして、オオムギ中のマグネシウム含有濃度を分析した。結果を図6に示す。
【0067】
図6に示した通り、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を0.1、0.3、1、3ppmの濃度で添加することによりオオムギにおいてマグネシウムの含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。一方、水耕液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を30ppmの濃度で添加した場合、オオムギにおいてマグネシウムの含有率向上効果は認められなかった。
【0068】
〔試験例13〕5−アミノレブリン酸のマンガン吸収向上効果
ハツカダイコンを1/57000×10アールのポットにポット当たり6粒播種し、生育を行なった。土は黒ボク土を用い、水やりは適宜行なった。播種後11日(本葉2葉展開期)に、展着剤2000倍希釈液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を0、1、10ppmの濃度に調製したものを茎葉処理した。また、この時、DTPA鉄、硫酸マグネシウムをそれぞれFe、MgO換算で1.8、4.5ppmの濃度にし、5−アミノレブリン酸塩酸塩とともに茎葉処理した。処理量は10アール当たり100Lとなるように行なった。1試験区のポット数は5個とし、播種後15日、20日に間引きを行ない、ポット当たりの植物数を4個体とした。播種後25日に収穫し、2晩50℃で完全に乾燥させた後、ミキサーで粉砕混合後、ICP金属分析を行なった。結果を図7に示す。
【0069】
図7に示した通り、5−アミノレブリン酸塩酸塩を茎葉処理することにより、ハツカダイコンにおいてマンガンの含有率向上効果が認められ、金属成分吸収向上剤として有用であることがわかった。
【0070】
〔試験例14〕5−アミノレブリン酸の亜鉛吸収向上効果
試験例13と同様にして、ハツカダイコン中の亜鉛含有濃度を分析した。結果を図8に示す。
【0071】
図8に示した通り、5−アミノレブリン酸塩酸塩を茎葉処理することによりハツカダイコンにおいて亜鉛の含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。
【0072】
〔試験例15〕5−アミノレブリン酸の鉄吸収向上効果
ジャガイモの種芋を浴光育芽し、芽出しを行なった。1/20000×10アールのポットに芽出しを行なったジャガイモをポット当たり1個植え付けた。植付け後30日(地上部高さ約30cm)に、展着剤2000倍希釈液に5−アミノレブリン酸塩酸塩を0、1ppmの濃度に溶解させ、茎葉処理を行なった。5−アミノレブリン酸の茎葉処理は、その後1週間おきに計8回行なった。1試験区のポット数は3個とし、新芽は丈夫な太い芽を残して随時除げつし、ポットあたりの芽の数を1つとした。植え付け後105日に根塊であるジャガイモを収穫し、各試験区から合計重量が120±10gとなるように選抜した上、皮をむき、2晩50℃で完全に乾燥させた後、ミキサーで粉砕混合後、ICP金属分析を行なった。結果を図9に示す。
【0073】
図9に示した通り、5−アミノレブリン酸塩酸塩を茎葉処理することによりジャガイモにおいて鉄の含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。
【0074】
〔試験例16〕5−アミノレブリン酸のマグネシウム吸収向上効果
試験例15と同様にして、ジャガイモ中のマグネシウム含有濃度を分析した。結果を図10に示す。
【0075】
図10に示した通り、5−アミノレブリン酸塩酸塩を茎葉処理することによりジャガイモにおいてマグネシウムの含有率向上効果が認められ、金属成分吸収剤として有用であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】5−アミノレブリン酸塩酸塩(図中、ALAで示す。以下同じ。)によるオオムギにおけるカルシウムの含有率に対する効果を示す図である。
【図2】5−アミノレブリン酸塩酸塩によるオオムギにおけるマンガンの含有率に対する効果を示す図である。
【図3】5−アミノレブリン酸塩酸塩によるオオムギにおける鉄の含有率に対する効果を示す図である。
【図4】5−アミノレブリン酸塩酸塩によるオオムギにおける銅の含有率に対する効果を示す図である。
【図5】5−アミノレブリン酸塩酸塩によるオオムギにおける亜鉛の含有率に対する効果を示す図である。
【図6】5−アミノレブリン酸塩酸塩によるオオムギにおけるマグネシウムの含有率に対する効果を示す図である。
【図7】5−アミノレブリン酸塩酸塩によるハツカダイコンにおけるマンガンの含有率に対する効果を示す図である。
【図8】5−アミノレブリン酸塩酸塩によるハツカダイコンにおける亜鉛の含有率に対する効果を示す図である。
【図9】5−アミノレブリン酸塩酸塩によるジャガイモにおける鉄の含有率に対する効果を示す図である。
【図10】5−アミノレブリン酸塩酸塩によるジャガイモにおけるマグネシウムの含有率に対する効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
21NCH2COCH2CH2COR3 (1)
(式中、R1及びR2は各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;R3はヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。)で表される5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を有効成分とし、当該5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を1回あたり0.001〜20ppmの濃度で処理するための、植物における第3、第4周期の第2族から第12族までの元素から選ばれる少なくとも1種以上の金属成分の吸収向上剤。
【請求項2】
第3、第4周期元素第2族から第12族までの元素から選ばれる金属が、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、銅及び亜鉛であることを特徴とする請求項1記載の金属成分の吸収向上剤。
【請求項3】
植物の根、茎葉又は周囲の土壌、水を、下記一般式(1)
21NCH2COCH2CH2COR3 (1)
(式中、R1及びR2は各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;R3はヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。)で表される5−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を1回あたり0.001〜20ppmの濃度で処理することを特徴とする、植物中の第3、第4周期元素の第2族から第12族までの元素から選ばれる少なくとも1種以上の金属成分含量を向上させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−46461(P2009−46461A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227358(P2007−227358)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】