説明

植物の小胞体由来のタンパク粒に蓄積することによるペプチドおよびタンパク質の産生

【課題】植物宿主系で目的のペプチドおよびタンパク質を産生する代替系を提供する。
【解決手段】γ-ゼインタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む第一の核酸配列、またはタンパク質を植物細胞の小胞体(ER)に送り且つ保持することができるその断片、酵素的または化学的手段により特異的に開裂可能なアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む第二の核酸配列、および目的のペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む第三の核酸配列を含む核酸分子。前記核酸分子を用いて宿主植物細胞を形質転換し、目的のペプチドまたはタンパク質を産生する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、小胞体由来のタンパク粒(bodies)に蓄積することによる宿主系植物における目的のペプチドおよびタンパク質の産生、これらの生成物をコードする核酸、および構築体およびベクターの製造における上記核酸を用いる宿主植物系の形質転換に関する。植物におけるカルシトニン(CT)のような目的の異種生成物の発現および単離の方法を、明確に開示する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ゲノムの知識および関連の生物医学研究におけるめざましい進歩により生物薬剤学の要求がかなり増加することが予想されるので、低価格の組換え産生系を詳細に記述することをかなり興味深いことである。
【0003】
細菌、真菌および培養哺乳類細胞などの他のトランスジェニック系が生物学的産生(bioproduction)に大規模に且つ長期間にわたって採用されてきているので、植物の遺伝子工学による生物薬剤の産生は、比較的最近のことである。しかしながら、ヒルジン、血栓症を治療するための抗凝固性タンパク質(Parmenter et al., 1995)、虫歯に対するキメラIgG-IgAワクチン(Ma et al., 1998)、E. coliのエンテロトキシン産生株に対する細菌性痘苗原(Haq et al., 1995)、 and a recombinant dog gastric lipase to treat嚢胞性繊維症の治療のための組換えイヌ胃リパーゼ(Benicourt et al., 1993)のような植物発現系を用いる幾つかの組換え治療タンパク質は、既に市場に出回っているかまたはヒトでの臨床試験の様々な段階に入っている。
【0004】
植物発現系は魅力的なものであり、組換えタンパク質の発現レベルを植物が宿主タンパク質を細胞小器官にターゲットするのに用いる先天性のソーティングおよびターゲッティング機構を利用することによって高めることができるからである。更に、植物由来の生物薬剤は容易にスケールアップして大量生産を行うことができ、病原体または毒素の混入によって生じる健康上のリスクを最小限にする利点を有する。
【0005】
植物は、生物活性材料を低生産コストでしかも少ない健康上の危険性で無制限の量を提供する可能性を有するので、ますます魅力的な発現系となっていると思われる。植物が高レベルの組換えタンパク質を蓄積し、翻訳後修飾のほとんどを行う能力を有するため、植物は組換え治療薬の分子ファーミングのためのバイオリアクターと考えられる(総説については、Fischer and Emans, 2000を参照されたい)。しかしながら、作物の種類の選択、組織選定、発現および回収法、および翻訳後加工に関する重要な決定は、植物に基づく産生の商業科の可能性にとって決定的なものである(Cramer et al., 1999)。
【0006】
組換えタンパク質の亜細胞性ターゲッティングは、植物における上記タンパク質の高レベルでの蓄積、および正確な集合およびフォールディングについての重要な要件である。宿主タンパク質の細胞内貯蔵小器官への区画化は、一般に適当なシグナルペプチドまたは総タンパク質融合物を用いて行われる。様々な組換え治療タンパク質は、植物の下記の区画であるアポプラスティックスペース(apoplastic space)(McCormick et al., 1999)、葉緑体(Staub et al., 2000)、および小胞体(ER)(Stoger et al., 2000)に向けられたものである。トランスジェニック植物のER区画に向けられた免疫グロブリンは、アポプラズム(apoplasm)または細胞質ゾルのような他の区画に向けられたときの10-100倍高い収率を生じることが示されている(Conrad et al., 1998)。
【0007】
ER区画の抗体のような複雑なタンパク質のターゲッティングは特に興味深いものであり、機能的生成物を得るのに要した翻訳後修飾のほとんどはER内部で起こるからである(During et al., 1990; Ma and Hein, 1995; Conrad et al., 1998)。実際に、ER中では、シグナルペプチドが開裂し、結合IgGタンパク質(BiP)のようなストレスタンパク質およびタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)のような酵素はシャペロンとして機能し、未集合タンパク質に結合し、次のフォールディングおよび集合を指示する。これらの特殊な特性に加えて、利用可能な証拠は、植物ERが柔軟性が高く、異種薬剤タンパク質の理想的貯蔵器としていることを示している。ERは分泌経路への出入口であるとは思われるが、これはタンパク質を短期間または長期間貯蔵することもできる。植物は、アミノ酸を特殊な貯蔵タンパク質の形態で長期間貯蔵する。これらの貯蔵タンパク質を制御されない未成熟分解から保護する一つの機構は、それらをタンパク粒(PB)と呼ばれるER由来の貯蔵細胞小器官に入れることである(総説については、Muntz, 1998)。組換えタンパク質のER内腔への単純な蓄積としてのこれらの細胞小器官の集合には、第一段階として宿主タンパク質の保持が必要である。分泌タンパク質が正確にERにフォールドされて集められたときには、ほとんどがゴルジ装置を介する工程による様々な細胞の目的地を有する。しかしながら、可溶性の輸送コンピテントタンパク質のER保持は、カルボキシ末端の残留/回収シグナルKDEL(またはHDEL)によって誘発することができる(Munro et al., 1987; Wandelt et al., 1992; Vitale et al., 1993)。膜貫通受容体を介してゴルジ装置で認識されるこの保存されたC末端モティーフにより、逃げ出したER残留タンパク質をERに再循環させることができる(Vitale et al., 1999; Yamamoto et al., 2001)。多くの組換え抗体断片をKDELシグナルによって伸長して、植物ERに安定に蓄積している(Verch et al., 1998; Torres et al., 1999)。組換えタンパク質をER区画に保持して蓄積する代替法は、 is to create an appropriate融合 with a natural ER resident such 種子貯蔵タンパク質のような天然ERに錠剤するものと適当な融合体を作製することである。
【0008】
WO 01/75312号明細書には、植物宿主系でサイトカインを産生する方法であって、上記植物宿主系が上記サイトカインをコードするキメラ核酸配列で形質転換されており、上記キメラ核酸配列が第二の核酸配列の上記植物宿主系における転写を調節することができる第一の核酸配列を含んでなり、上記の第二の核酸配列がリーディングフレームにおいてサイトカインをコードする第三の核酸配列、およびリーディングフレームにおいて「KDEL」アミノ酸配列をコードする上記第三の核酸配列の3'末端に連結した第四の核酸配列に連結しているシグナル配列をコードする、方法が開示されている。
【0009】
ゼインはトウモロコシの are a group ofタンパク質s that are synthesized during内胚乳発生の際に合成される一群のタンパク質であり、それらの溶解度によってα、β、γおよびδの4群に分離することができる。ゼインは、ERにおいて凝集して直接PBとなることができる。完全長ゼインタンパク質および操作可能に連結したタンパク質材料を含んでなる融合タンパク質として発現されるルミン安定なタンパク粒を含んでなる植物または植物組織が開示されている(WO 00/40738号明細書)。
【0010】
トウモロコシ貯蔵タンパク質であるγ-ゼインは、4種類のトウモロコシプロラミンの一つであり、トウモロコシ内胚乳における総タンパク質の10-15%である。他の穀類プロラミンとしてのαおよびγ-ゼインは未加工のERの細胞質側の膜結合ポリソームで生合成され、管腔内に集められた後、ER由来のPBに隔離される(Herman and Larkins, 1999, Ludevid et al., 1984, Torrent et al., 1986)。γ-ゼインは、i)19アミノ酸のペプチドシグナル、ii)PPPVHLの8個の単位を含む反復ドメイン(53aa)、iii)プロリン残基が他のアミノ酸と交互になっているproXドメイン(29 aa)、およびiv)疎水性システインリッチなC末端ドメイン(111aa)の4個の特徴的なドメインから構成されている。γ-ゼインがER由来のPBに集合する能力は、種子に限定されない。実際に、γ-ゼインがトランスジェニックArabidopsis植物で構成的に発現するときには、貯蔵タンパク質は葉の葉肉細胞のER由来のPB中に蓄積された(Geli et al, 1994)。ER由来のPBへのγ-ゼイン沈着に関与するシグナルを探すときには(プロラミンはKDELシグナルを持たない)、タンデム反復ドメインを含むプロリンリッチなN末端ドメインがER保持に必要であり、C末端ドメインがPB形成に関与することが示された。しかしながら、これらのドメインがPB集合を促進する機構は未だ知られていない。
【0011】
32アミノ酸のホルモン性ペプチドであるカルシトニン(CT)は正確なカルシウム代謝に本質的であり、骨粗鬆症、高カルシウム血症性ショック、およびバジェット病の治療に臨床的に広く用いられてきた(Reginster et al., 1993; Azria et al., 1995; Silverman et al., 1997)。ヒトCTは、25アミノ酸のシグナルペプチドとN-およびC末端の2種類のプロペプチド(それぞれ、57aaおよび21aa)を有するプレプロタンパク質として合成される。生成する活性ペプチドは、1個のジスルフィド橋(Cysl-Cys7)を有する32アミノ酸の長さであり、カルボキシ末端がアミド化されている。イン・ビトロでは、ヒトCTは凝集し、その治療薬としての用途が限定される。従って、余り凝集しやすくないサケCTが、一般に代わりとして用いられる(Cudd et al., 1995)。CTの生産は現在は化学合成によって行われているが、この生産のコストにより幾つかの研究グループが代替法を求めることが促進された。ヒトおよびサケCTはE. coli (Ray et al., 1993; Hong et al., 2000)、マウス下垂体細胞 (Merli et al., 1996)、非内分泌細胞系Cos-7およびCHO (Takahashi et al., 1997)、および更に最近では、トランスジェニックウサギの乳中(McKee et al., 1998)で産生されている。生物工学的方法による生物活性カルシトニンの産生には、少なくとも2つの加工段階i)グリシンで伸長したカルシトニンの生成(Bradbury et al., 1988)、およびii)アミド化酵素ペプチジルグリシンα-アミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)の作用によるカルボキシ末端プロリンアミドの形成(Eipper et al., 1992)が必要である。カルボキシル-アミド化が植物細胞で起こるかどうかは現在は知られていないので、PAM酵素を用いる植物グリシンで伸長したカルシトニンのイン・ビトロアミド化によってC末端アミドを提供する(Ray et al., 1993)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明の概要
本発明によって解決しようとする問題は、植物宿主系で目的のペプチドおよびタンパク質を産生する代替系を提供することである。
【0013】
本明細書で示される解決法は、γ-ゼインのプロリンリッチなドメインが自己集合して宿主植物系のERにおける融合タンパク質に安定性を付与する能力に基づいている。γ-ゼイン融合タンパク質に基づいた系が宿主系植物に目的の生成物を蓄積するための使用は、植物のER由来のPB中に目的の上記生成物を蓄積するための良好な方法を構成する。
【0014】
本発明は、タバコ植物におけるER由来のPBおいて組換えCTを蓄積するための融合タンパク質に基づいた系を記載する例において示される。様々なプロリンリッチなドメインをγ-ゼインから遺伝子工学処理を行って、開裂可能なプロテアーゼ部位を介する融合パートナーとして働いた。成熟カルシトニンコード領域をγ-ゼインドメインのC末端で融合し、トランスジェニックタバコ植物で発現した。融合タンパク質は、タバコ葉のER由来のPBに蓄積した。精製後、融合タンパク質にエンテロキナーゼ開裂を行い、カルシトニンを放出させた。
【0015】
従って、本発明の一態様は、(i)タンパク質γ-ゼインをコードするヌクレオチド配列、またはタンパク質を小胞体に送り且つ保持することができるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むその断片、(ii)酵素的または化学的手段により特異的に開裂可能なアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、および(iii)目的生成物をコードするヌクレオチド配列を含んでなり、上記ヌクレオチド配列がそれらの間で操作可能に連結している、核酸配列に関する。
【0016】
もう一つの態様では、本発明は、上記核酸配列を含んでなる核酸構築物に関する。
【0017】
もう一つの態様では、本発明は、上記配列または構築物を含むベクター、および上記ベクターで形質転換した細胞に関する。
【0018】
もう一つの態様では、本発明は、上記核酸配列、構築物またはベクターを有する形質転換植物宿主系に関する。
【0019】
もう一つの態様では、本発明は、ゲノムに上記核酸配列を組込んで含んでなる、トランスジェニック植物宿主系に関する。
【0020】
もう一つの態様では、本発明は、植物宿主系で目的の生成物を産生する方法に関する。
【0021】
もう一つの態様では、本発明は、植物宿主系でカルシトニンを産生する方法に関する。
【0022】
もう一つの態様では、本発明は、融合タンパク質であって、上記核酸配列に相当するアミノ酸配列を有する上記融合タンパク質に関する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明の第一の態様は、核酸配列(以後、本発明の核酸配列と呼ぶ)であって、
タンパク質γ-ゼインをコードするヌクレオチド配列を含む第一の核酸配列、またはタンパク質を小胞体(ER)に送り且つ保持することができるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むその断片、
酵素的または化学的手段により特異的に開裂可能なアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む第二の核酸配列、および
目的生成物をコードするヌクレオチド配列を含む第三の核酸配列
を含んでなり、
上記第一の核酸配列の3'末端が上記第二の核酸配列の5'末端に連結し、上記第二の核酸配列の3'末端が上記第三の核酸配列の5'末端に連結している
核酸配列を提供する。
【0024】
第一の核酸配列は、タンパク質γ-ゼインをコードするヌクレオチド配列、またはタンパク質をERに送り且つ保持することができるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むその断片を含む。
【0025】
本明細書で用いられる「γ-ゼイン」とは、発明の背景で上記した4種類の特徴的なドメインから構成されているトウモロコシ貯蔵タンパク質を表す。上記用語としては、天然のγ-ゼインタンパク質並びにその変異体、およびタンパク質をERに送り且つ保持することができる組換えγ-ゼインタンパク質が挙げられる。
【0026】
γ-ゼインタンパク質をコードする事実上任意のヌクレオチド配列、またはタンパク質をERに送り且つ保持することができるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むその断片を用いることができる。
【0027】
従って、好ましい態様では、第一の核酸配列は、完全長のγ-ゼインタンパク質コードするヌクレオチド配列を含む。特別な態様では、完全長のγ-ゼインタンパク質をコードするヌクレオチド配列を図1Aに示し、配列番号:1で同定する。
【0028】
もう一つの好ましい態様では、第一の核酸配列は、γ-ゼインタンパク質の断片をコードするヌクレオチド配列を含み、上記断片は、タンパク質をERに送り且つ保持することができるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む。この場合には、第一の核酸配列は、
タンパク質γ-ゼインの反復ドメインの全部または一部をコードする1種類以上のヌクレオチド配列、
タンパク質γ-ゼインのProXドメインの全部または一部をコードする1種類以上のヌクレオチド配列、または
タンパク質γ-ゼインの反復ドメインの全部または一部をコードする1種類以上のヌクレオチド配列と、タンパク質γ-ゼインのProXドメインの全部または一部をコードする1種類以上のヌクレオチド配列
を含むことができる。
【0029】
特別な態様では、上記の第一の核酸配列は、γ-ゼインタンパク質の断片をコードするヌクレオチド配列を含み、上記断片はタンパク質をERに送り且つ保持することができるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含み、
配列番号:2に示されるヌクレオチド[RX3として同定されるヌクレオチド配列(図1B)]、
配列番号:3に示されるヌクレオチド配列[R3として同定されるヌクレオチド配列(図1B)]、
配列番号:4に示されるヌクレオチド配列[P4として同定されるヌクレオチド配列(図1C)]、および
配列番号:5に示されるヌクレオチド配列[X10として同定されるヌクレオチド配列(図1C)]
からなる群から選択される。
【0030】
第二の核酸配列は、酵素的または化学的手段により特異的に開裂可能なアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む。特別な態様では、上記の第二の核酸配列は、プロテアーゼ開裂部位、例えばエンテロキナーゼ、Arg-Cエンドプロテアーゼ、Glu-Cエンドプロテアーゼ、Lys-Cエンドプロテアーゼ、Xa因子などのようなプロテアーゼによるアミノ酸開裂可能な部位をコードするヌクレオチド配列を含んでなる。
【0031】
あるいは、第二の核酸配列は、例えばメチオニン残基を開裂させる臭化シアンのような化学試薬または任意の他の適当な化学試薬によって特異的に開裂可能なアミノ酸をコードするヌクレオチド配列を含んでなる。
【0032】
第二の核酸配列は、上記第一の核酸配列と上記第三の核酸配列の合体の結果として生成することができる。その場合には、それぞれの配列は、上記第一と第三の核酸配列が結合するときには、酵素的または化学的手段により特異的に開裂可能なアミノ酸配列をコードする機能的ヌクレオチド配列、すなわち第二の核酸配列が形成されるような方法で多数のヌクレオチドを含む。代替態様では、第二の核酸配列は、上記第一および第三の核酸の間に適切に挿入される異種配列である。
【0033】
第三の核酸配列は、目的の生成物をコードするヌクレオチド配列を含む。原則的には、任意の目的生成物は、本発明によって提供される系によって発現することができる。好ましい態様では、目的生成物はタンパク質性(すなわち、タンパク質またはペプチド)薬剤、例えば、カルシトニン、エリトロポエチン、トロンボポエチン、成長ホルモンなどのペプチドホルモン、インターフェロン、すなわち、ウイルス感染に応答し且つ免疫応答などの際にサイトカインとして産生されるタンパク質である。好ましくは、上記の目的治療生成物は、ヒトまたは動物体の治療に有効である。
【0034】
特別な態様では、第三の核酸配列は、カルシトニン(CT)、例えばヒトカルシトニン(hCT)またはサケカルシトニン(sCT)をコードするヌクレオチド配列を含んでなる。一般に、この場合には、上記の第三の核酸配列は、好ましくは、カルシトニンをコードする上記核酸配列の3'末端にグリシンのコドンを含み、従って、グリシンによって伸長したカルシトニンを付与する。
【0035】
本発明によれば、上記第一の核酸配列の3'末端が上記第二の核酸配列の5'末端に連結し、上記第二の核酸配列の3'末端が上記第三の核酸配列の5'末端に連結し、すなわち、上記第一、第二および第三の核酸配列はリーディングフレームにある。
【0036】
本発明の核酸配列は、当業者に知られている従来の手法を用いて得ることができる。一般に、上記の手法は、本発明の核酸配列の様々な断片を適当なベクター中で連結することを伴う。上記の従来の手法の総説は、例えば、「分子クローニング、実験室便覧(Molecular cloning, a Laboratory Manual)」、第2版、Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989に見出すことができる。本発明の核酸を含む幾つかのベクターの構築は、例に開示され、図3および4に示されている。そこに示されているように、様々なプロリンリッチドメインをγ-ゼインから遺伝子工学処理を施して、開裂可能なプロテアーゼ部位を介する融合パートナーとして働くようにする。成熟カルシトニンコード領域(32aa)をγ-ゼインドメインのC末端で融合させ、トランスジェニックタバコ植物で発現させた。融合タンパク質は、タバコ葉のER由来のタンパク粒に蓄積した。精製後、融合タンパク質にエンテロキナーゼ開裂を行って、カルシトニンを放出させ、これを逆相クロマトグラフィーによって消化混合物から更に精製することができる。
【0037】
もう一つの態様では、本発明は、(i)タンパク質γ-ゼインのアミノ酸配列、またはタンパク質を植物細胞のERに送り且つ保持することができるその断片、(ii)酵素的または化学的手段により特異的に開裂可能なアミノ酸配列、および(iii)目的生成物
を含んでなる融合タンパク質であって、宿主植物系における本発明の核酸配列の発現生成物である、上記融合タンパク質(以後、本発明の融合タンパク質と呼ぶ)を提供する。
【0038】
本発明の融合タンパク質は、宿主植物系において安定なER由来のPBに蓄積される。γ-ゼインドメインのC末端に存在する酵素的または化学的に開裂可能な部位により、目的生成物を後で回収することができる。目的生成物を次に、従来の手段によって単離して、精製することができる。従って、本発明の融合タンパク質は、目的生成物を蓄積するための新規で良好な方法を構成する。
【0039】
一態様では、本発明の融合タンパク質は完全長のγ-ゼインタンパク質を含んでなる。完全長のγ-ゼインの特異的アミノ酸配列は、図1Aに示されており、配列番号:6で同定されている。
【0040】
もう一つの態様では、本発明の融合タンパク質は、γ-ゼインタンパク質の断片であって、タンパク質をERに送り且つ保持することができるアミノ酸配列を含む上記断片を含んでなる。特別な態様では、本発明の融合タンパク質は、
配列番号:7に示されるアミノ酸配列[RX3に相当するアミノ酸配列(図1 B)]、
配列番号:8に示されるアミノ酸配列[R3に相当するアミノ酸配列(図1B)]、
配列番号:9に示されるアミノ酸配列[P4に相当するアミノ酸配列(図1C)]、および
配列番号:10に示されるアミノ酸配列[X10に相当するアミノ酸配列(図1C)]
からなる群から選択されたγ-ゼインタンパク質の断片を含んでなる。
【0041】
本発明の融合タンパク質は、酵素的または化学的手段によって特異的に開裂可能なアミノ酸配列を含む。特別な態様では、上記の開裂可能な部位は、プロテアーゼ開裂部位、例えばエンテロキナーゼ、Arg-Cエンドプロテアーゼ、Glu-Cエンドプロテアーゼ、Lys-Cエンドプロテアーゼ、Xa因子などのプロテアーゼによるアミノ酸開裂部位、または化学試薬、例えばメチオニン残基を開裂する臭化シアンまたは任意の他の適当な化学試薬によるアミノ酸開裂部位を含んでなる。
【0042】
本発明の融合タンパク質は、目的生成物、例えばペプチドホルモン、インターフェロンなどのタンパク質性(すなわち、タンパク質またはペプチド)薬剤も含む。好ましくは、上記の目的治療生成物は、ヒトまたは動物体の治療に有効である。特別な態様では、本発明の融合タンパク質は、カルシトニン(CT)、例えば場合によってはグリシンによって伸長したヒトカルシトニン(hCT)またはサケカルシトニン(sCT)を含んでなる。
【0043】
もう一つの態様では、本発明は、(i)本発明の核酸配列、および(ii)本発明の核酸(i)の転写を調節する調節ヌクレオチド配列であって、植物で機能する上記調節配列(ii)を含んでなる核酸構築物を提供する。上記核酸配列は、有効に結合している。
【0044】
事実上任意の植物で機能する調節配列を用いることができる。一態様では、上記調節配列(ii)は、好ましくは組織特異的であり、すなわち、これは、種子、葉、小塊茎などの特異的組織で本発明の核酸の転写を調節することができる。
【0045】
調節配列(ii)は、植物で機能するプロモーターを含んでなることができる。実質的には、植物で機能する任意のプロモーターを用いることができる。特別な態様では、上記調節配列(ii)はプロモーター35SCaMVを含んでなる。他の特別な態様では、上記調節配列(ii)は、「パタチナ(patatina)」プロモーター、貯蔵タンパク質プロモーター、ユビキチン遺伝子プロモーター、γ-ゼイン遺伝子のターミネーターなどを含んでなる。
【0046】
調節配列(ii)は、転写終結配列を含むこともできる。実質的には、植物で機能する任意の転写終結配列を用いることができる。特別な態様では、上記転写終結配列は、ターミネーター35SCaMV、オクトピンシンターゼ(ocs)遺伝子のターミネーター、ノパリンシンターゼ(nos)遺伝子のターミネーター、γ-ゼイン遺伝子のターミネーターなどを含んでなる。
【0047】
調節配列(ii)は、植物で機能する翻訳エンハンサーを含むこともある。実質的には、植物で機能する任意の翻訳エンハンサー、例えばトマトエッチウイルスの転写の促進配列などを用いることができる。
【0048】
本発明の核酸配列、または本発明によって提供される構築物を、適当なベクターに挿入することができる。従って、もう一つの態様では、本発明は、本発明の核酸配列または本発明によって提供される核酸構築物を含んでなるベクターを提供する。適当なベクターとしては、プラスミド、コスミド、およびウイルスベクターが挙げられる。一態様では、上記ベクターは植物の形質転換に適する。ベクターの選択は、続いてこれを導入する宿主細胞によって変化することがある。例えば、本発明の核酸配列を導入するベクターは、宿主細胞に導入するときにこの宿主細胞のゲノムに組込まれて、組込まれている染色体(または複数の染色体)と共に複製するプラスミドコスミドまたはウイルスベクターであることができる。上記ベクターを得るため、従来の方法を用いることができる(Sambrook et al., 1989)。
【0049】
もう一つの態様では、本発明は、植物宿主系であって、本発明の核酸、または本発明によって提供される構築物またはベクターで形質転換された上記植物宿主系を提供する。
【0050】
本明細書で用いられる「植物宿主系」という用語は、単子葉植物、双子葉植物、具体的には穀類(例えば、トウモロコシ、米、オート麦など)、豆果(例えば、大豆など)、アブラナ(例えば、Arabidopsis thaliana、ナタネなど)、またはナス(例えば、ジャガイモ、トマト、タバコなど)などの植物が挙げられるが、これらに限定されない。植物宿主系は、植物細胞も包含する。植物細胞としては、懸濁培養物、胚、分裂領域、カルス組織、葉、根、苗条、配偶体、胞子体、花粉、種子および小胞子が挙げられる。植物宿主系は成熟の様々な段階にあることがあり、液体または固体培養で、または土壌またはポット、温室または屋外で適当な培地で生育することができる。植物宿主系の発現は、一過性または恒久的であることがある。植物宿主系は、これらの植物、種子、自家受粉または雑種子孫、有性生殖または無性生殖によって生成した胎芽、および挿木または種子のようなこれらのいずれかの子孫も表す。
【0051】
植物宿主系の形質転換は、従来の方法を用いて行うことができる。植物への遺伝子導入の総説は、「遺伝子工学と遺伝子導入(Ingenieria genetica and transferencia genica)」, Marta Izquierdo, Ed. Pyramide (1999)という標題の教科書、特に第9章「植物への遺伝子導入(Transferencia genica a plantas) ", 283-316頁に見ることができる。
【0052】
もう一つの態様では、本発明は、新規な実験室でデザインしたトランスジーンを含むように遺伝子工学処理したトランスジェニック植物宿主系であって、本発明の核酸をそのゲノムに組込んで含んでなる上記トランスジェニック植物宿主系を提供する。上記トランスジェニック植物宿主系は、従来の手法によって、例えば通常のアンチセンスmRNA手法および/または(センスサイレンシングにおける)過剰発現などを用いることによって、例えば二成分ベクターまたは現在用いられている様々な植物形質転換の手法に利用可能な他のベクターを用いることによって得ることができる。本発明によって提供されるトランスジェニック植物宿主系の例としては、単子葉および双子葉植物、具体的には、穀類、豆果、アブラナ、ナスなどが挙げられる。
【0053】
本発明の核酸配列は、植物宿主系で目的生成物を産生するのに有用である。従って、もう一つの態様では、本発明は、植物宿主系で目的生成物を産生する方法であって、本発明によって提供される形質転換またはトランスジェニック植物宿主系を融合タンパク質の形態で目的生成物を産生し発現する条件下で生育することを含んでなる、方法を提供する。上記のように、上記の融合タンパク質は、上記の宿主植物系の安定なER由来のPBに蓄積される。γ-ゼインドメインのC末端にある酵素的または化学的に開裂可能な部位により、目的生成物を後で回収することができる。目的生成物を、次に従来の手段によって単離して精製することができる。従って、本発明によって提供される方法は、所望ならば、上記融合タンパク質の単離および精製、および場合によっては、上記融合タンパク質からの上記目的生成物の放出をも含んでなる。融合タンパク質は、適宜適当な酵素または化学試薬によって開裂部位で開裂される。
【0054】
もう一つの態様では、本発明は、植物宿主系でカルシトニンを産生する方法であって、
a) タンパク質γ-ゼインをコードするヌクレオチド配列を含む第一の核酸配列、またはタンパク質を小胞体(ER)に送り且つ保持することができるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むその断片、
酵素的または化学的手段により特異的に開裂可能なアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む第二の核酸配列、および
カルシトニンをコードするヌクレオチド配列を含む第三の核酸配列
からなる核酸配列(本発明の核酸配列)の転写のための調節配列を含んでなる発現ベクターまたは核酸構築物で植物宿主系を形質転換し、
上記第一の核酸配列の3'末端が上記第二の核酸配列の5'末端に連結し、上記第二の核酸配列の3'末端が上記第三の核酸配列の5'末端に連結しており、
b) 上記発現ベクターまたは核酸構築物で形質転換した上記植物宿主系から完全な植物を生成させ、
c) 上記形質転換植物を、カルシトニンを融合タンパク質の形態で産生し発現させる条件下で生長させ、所望ならば、
d) 上記融合タンパク質を単離し、精製して、上記融合タンパク質を処理してカルシトニンを放出させる、
ことを含んでなる、方法を提供する。
【0055】
従って、本発明は、植物宿主系におけるER由来のPBに目的の組換え生成物を蓄積するための融合タンパク質に基づく系を提供する。本発明を、更に下記の非制限例によって説明する。
【実施例1】
【0056】
タバコ植物におけるカルシトニンの産生
タバコ植物におけるCT産生の良好な例を、下記に説明する。様々なプロリンリッチドメインをγ-ゼインから遺伝子工学処理を行い、開裂可能なプロテアーゼ部位を介する融合パートナーとして働くようにした。成熟CTコード領域(32aa)をγ-ゼインドメインのC末端で融合させ、トランスジェニックタバコ植物で発現させた。開裂可能なプロテアーゼ部位をγ-ゼインドメインのC末端に導入して、後で純粋なカルシトニンを回収した。この方法によって、多量の融合タンパク質がER中に蓄積され、タバコ植物にER由来のPBが形成される。融合タンパク質は、タバコ葉のER由来のPBに多量に蓄積された。上記融合タンパク質の発現レベルは、幾つかの場合には、総可溶性タンパク質の12.44%にまで達した。たった2回の精製段階の後、融合タンパク質をエンテロキナーゼ開裂に付し、カルシトニンを放出させた。純粋なカルシトニンは、消化混合物から逆相クロマトグラフィーによって得た。タバコ植物に蓄積したカルシトニン生成物は、質量分析法によって確認した。融合タンパク質の精製、プロテアーゼ消化、および放出された植物カルシトニン(pCT)の完全な特性決定も示す。
【0057】
1. 実験手続き
キメラ遺伝子およびベクターの構築
野生型γ-ゼイン遺伝子、および異なるγ-ゼインドメインをコードするRX3、R3、P4およびX10と呼ばれる4種類のγ-ゼイン由来の配列(図1A、1Bおよび1C)をエンテロキナーゼ消化部位(図2)を含む合成CT遺伝子と融合させ、下記および図3の植物形質転換ベクターに導入した。
【0058】
γ-ゼイン、RX3およびR3 cDNA配列は、pKSG2 (Torrent et al., 1994)を鋳型として用いるPCRによって生成した。X10 cDNAは、反復ドメインに相当する配列の欠失後にpKSG2から産生したプラスミドであるpDR20から増幅した。異なるPCRに用いたプライマーは、
γ-ゼインcDNA配列については:
T1: 5'TCATGAGGGTGTTGCTCGTTGCCCTC3'、および
T4: 5'CCATGGCGTGGGGGACACCGCCGGC3'であり、
RX3およびX10 cDNA配列については:
T1および
T2: 5'CCATGGTCTGGCACGGGCTTGGATGCGG 3'であり、
R3 cDNA配列については:
T1および
T3: 5'CCATGGTCCGGGGCGGTTGAGTAGGGTA3'であった。
【0059】
PCR生成物をpUC18ベクター(SureClone Ligation Kit, Pharmacia)にサブクローニングし、生成するプラスミドをpUCゼイン、pUCRX3、pUCR3およびpUCX10と命名した。γ-ゼイン由来の配列P4 (図1C)を含むベクターpUCP4は、pUCRX3由来のクローンのスクリーニングの際に得た。BspHIおよびNcoIの付着末端を有するγ-ゼイン、RX3、R3、P4およびX10c DNA断片を、予めNcoIで消化したベクターpCKGFPS65C (Reichel et al., 1996)に挿入した。このベクターを選択したが、これは植物での発現の調節配列、およびトランスジェニック植物におけるγ-ゼイン由来タンパク質の平行ターゲッティング研究に用いられるGFPコード配列を含むからである。生成したベクターpCZeinGFP、pCRX3GFP、pCR3GFP、pCP4GFPおよびpCXIOGFPは、植物系での発現の下記の調節配列i)カリフラワーモザイクウイルス(CaMVp35S)由来の増進35Sプロモーター、ii)トマトエッチウイルス(TL)由来の翻訳エンハンサー、およびiii)CaMV35S由来の転写終結配列(pA35S)を含んでいた。γ-ゼイン由来の/CTキメラ構築物は、GFPコード配列を下記のようにCT合成遺伝子で置換することによって生成した(図3参照)。
【0060】
活性サケCTの32アミノ酸をコードする合成遺伝子(図2)は、2本の122塩基の相補性オリゴヌクレオチドから生成した。植物で高発現を達成するために、オリゴヌクレオチドを優先的植物コドンを用いるようにデザインした。Applied Biosystems 394 DNAシンセサイザーを用いて合成した5'-リン酸化オリゴヌクレオチドは、下記の配列:
CalI: 5'CATGGACGACGACGACAAGTGCTCCAACCTCTCTACCTGCGTTCTTGGTAAGCT CTCTCAGGAGCTTCACAAGCTCCAGACTTACCCTAGAACCAACACTGGTTCCGGTACCCCTGGTTGAT3'、
CalII: 5'CTAGATCAACCAGGGGTACCGGAACCAGTGTTGGTTCTAGGGTAAGTCTGGAG CTTGTGAAGCTCCTGAGAGAGCTTACCAAGAACGCAGGTAGAGAGGTTGGAGCA CTTGTCGTCGTCGTC3'
を有していた。
【0061】
12%ポリアクリルアミドゲル上で精製した後、それぞれのオリゴヌクレオチド60ピコモルを用いて二本鎖分子を形成した。95℃に5分間加熱したハイブリダイゼーション混合物を70℃で1時間保持した後、室温冷却した。合成cDNA断片は、5'および3'末端にそれぞれNcoIおよびXbaI付着末端含んでいた。合成CTcDNAはエンテロキナーゼ特異的開裂部位に相当する5'リンカー配列を含み((Asp)4-Lys)、3'末端で伸長し、CTペプチドの更なるアミド化のための単一グリシンを産生した。NcoI/XbaI CTcDNAをpUC18ベクターにサブクローニングした後、誘導されたγ-ゼインコード配列を含み且つGFPコード配列から欠失したベクターpCZeinGFP、pCRX3GFP、pCR3GFP、pCP4GFPおよびpCXIOGFPのNcoIおよびBamHI制限部位に挿入した。生成する構築物を、pCZeinCT、pCRX3CT、pCR3CT、pCP4CT、およびpCXIOCTと命名した(図3)。有効な植物形質転換ベクターpBZeinCT、pBRX3CT、pBR3CT、pBP4CTおよびpBXIOCT(図4)を、様々なHindIII/HindIII発現カセットを二成分ベクターpBin19に挿入することによって最終的に得た(Bevan, 1984)。
【0062】
安定なタバコ植物形質転換
二成分ベクターを、Agrobacterium tumefaciensのLBA 4404株に導入した。タバコ(Nicotianatobaccum, W38)葉のディスクを、Draper et al. (1988)の方法に従って形質転換した。再生した植物を、200mg/Lのカナマイシンを含む培地で選別し、温室に移した。最高のトランスジーン生成物レベルを有するトランスジェニックタバコ植物を栽培して、T1世代を得た。発育している葉(長さ約12cm)を採取して、直ちに液体窒素で冷凍し、更に実験を行うために-80℃で保管した。
【0063】
組換えタンパク質の抽出およびウェスタンブロット分析
タバコ葉を液体窒素中で磨りつぶし、4mlの抽出緩衝液(50mM Tris-HCl pH 8, 200mMジチオトレイトール(DTT)、およびプロテアーゼインヒビター(10μMアプロチニン、1μMペプスタチン、100μMロイペプチン、100μMフッ化フェニルメチルスルホニルおよび100μM E64 [(N-(N-(L-3-トランス-カルボキシオキシラン-2-カルボニル)-L-ロイシル)-アグマンチン]/1gの新鮮な葉の材料を用いてホモジナイズした。ホモジェネートを4℃で30分間攪拌した後、2回遠心分離し(15000rpm、30分、4℃)、不溶性材料を除去した。総可溶性タンパク質を、Bradfordタンパク質分析法(Bio-Rad)を用いて定量した。タンパク質を15%SDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、半乾燥装置を用いてニトロセルロース膜(0.22μM)に移した。膜をγ-ゼイン抗血清(希釈倍率1/7000) (Ludevid et al., 1985)またはKLH-カルシトニンに対して生じた抗血清(CT-抗血清)(希釈倍率1/1000)と共にインキュベーションした後、西洋ワサビペルオキシダーゼ接合抗体(希釈倍率1/10000)とインキュベーションした。免疫反応性バンドは、強化化学発光(ECLウェスタンブロッティング装置, Amersham)によって検出した。カルシトニン抗体は、KLHにカップリングした合成サケカルシトニンを接種することによってウサギで生成させた。抗原を4回接種した後(それぞれ200μg)、血清を集めて、等分し、-80℃で保管した。血清滴定は、合成カルシトニンを用いるイムノ-ドットブロットおよびBSA-カルシトニンを抗原として用いるELISA分析法によって行った。
【0064】
ノーザンブロット分析法
総RNAは、Logemann et al., 1987の方法に従って野生型およびトランスジェニックタバコ(T1)葉から単離した。RNAを変性ホルムアミド-アガロースゲル電気泳動(レーン当たり30μg)で分画し、ナイロン膜(Hybond N, Amersham Pharmacia Biotech)に毛細管ブロッティングした。RNAブロットを、CT cDNAから得てランダムプライムドDNA標識キット(Roche)を用いて(α-32P) dCTPで標識した129塩基のDNAプローブとハイブリダイズした。ハイブリダイゼーションは42℃で一晩行い、フィルターは3 X SSCおよび0.5% SDS (W/V)中で65℃で15分間3回洗浄した。ブロットは、phosphorImagerスキャナー(Fluor-S(商品名)MultiImager, BIO-RAD)で検出した。
【0065】
ELISA分析法
ELISA分析は、可溶性の葉タンパク質抽出物および部分精製したγ-ゼイン-CT融合タンパク質について植物カルシトニン(pCT)定量の目的で行った。マイクロタイタープレート(MaxiSorp, Nalgene Nunc International)に、リン酸緩衝食塩水pH7.5 (PBS)で希釈した可溶性タンパク質(100μl)を加え、4℃で一晩インキュベーションした。ウェルを3回洗浄した後、非特異的結合部位を3%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS-T (0.1% Tween 20を含むPBS)で室温にて1時間ブロックした。プレートをCT抗血清(希釈倍率 1/1000)と2時間インキュベーションし、PBS-Tで4回洗浄した後、ペルオキシダーゼ接合二次抗体(希釈倍率1/8000)(Sigma)と2時間インキュベーションした。一次および二次抗体は、1% BSAを含むPBS-Tで希釈した。PBS-Tで十分に洗浄した後、酵素反応を100μlの基質緩衝液(100mM酢酸ナトリウムpH 6、0.01mg/ml TMB (3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)および0.01%過酸化水素)を用いて37℃で行った。反応を10分後に2N硫酸を用いて停止し、光学密度をMultiskan EX分光光度計(Labsystems)を用いて450nmで測定した。植物抽出物の抗原濃度を、カルシトニン-BSAおよびCT抗血清(希釈倍率 1/1000)を用いて得た標準曲線から補外した。
【0066】
電子顕微鏡法
Leaves from野生型およびトランスジェニック植物からの葉を、1%グルタルアルデヒドおよび2.5%パラホルムアルデヒド/20mMリン酸緩衝液, pH7.4を用いる真空浸透(vacuum infiltration)によって1時間室温にて固定した。20mMリン酸緩衝液と200mM塩化アンモニウムで連続的に洗浄した後、試料をエタノールシリーズで脱水し、Lowicryl K4M樹脂に埋設した。免疫化学は、本質的にMoore et al., 1991によって報告された方法で行った。超薄切片を、KLH-カルシトニン(1/500)、αBiP(1/500)およびγ-ゼイン(1/1500)に対する抗血清と共にインキュベーションした。プロテインA-コロイド状金(15nmの金粒子)を、抗体検出に用いた。コントロールとして、平行インキュベーションを、同一希釈倍率の一次抗体を用いて非トランスジェニック植物試料および一次抗体のないトランスジェニック試料で行った。切片を酢酸ウラシルおよびクエン酸鉛で染色し、301型電子顕微鏡(Phillips, Eindhoven, オランダ)で検査した。
【0067】
RX3-CTおよびP4-CT融合タンパク質の精製およびエンテロキナーゼ開裂
RX3-CTおよびP4-CTの可溶性抽出物は、上記のように抽出緩衝液中でトランスジェニックタバコ植物(T1)の葉から得た。固形(NH4)2SO4を0℃でRX3-CTおよびP4-CT可溶性抽出物にそれぞれ45%および60%飽和度になるまで累進的に加えた。試料を0℃で30分間攪拌した後、15000rpmで4℃にて45分間遠心分離した。沈澱したタンパク質を20mM Tris-HCl pH 8.6に再懸濁し、PD 10カラム(Sephadex G-25 M, Amersham Pharmacia)上で脱塩した。脱塩したタンパク質抽出物を、20mM Tris-HCl pH 8.6, 100mM DTTで平衡にしたアニオン交換カラム(HiTrap Qセファロース, Amersham Pharmacia)を用いる高速液体クロマトグラフィー(FPLC)によって分画した。タンパク質は、0-200mM NaCl/20mM Tris-HCl pH 8.6, 100mM DTTの線形塩グラディエントによって溶出した。溶出画分におけるRX3-CTおよびP4-CTの存在を、15% SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動およびCT抗血清を用いるイムノブロット検出によって評価した。ポジティブ画分を脱塩し、5 K NMWL遠心分離フィルター(BIOMAX, Millipore)で濃縮した。RX3-CTおよびP4-CT融合タンパク質の定量は、ELISAによって行った。
【0068】
EK消化のため、部分精製した融合タンパク質15μgを、0.2U EK (EK Max, Invitrogen)と消化緩衝液(50mM Tris-HCl pH8, 1mM NaCl, 0.1% Tween-20) 30μl中で20℃で24時間インキュベーションした。EK消化緩衝液に、100mM DTTを補足した。還元剤の存在により、エンテロキナーゼ開裂を最適にすることができる。消化生成物を18% Tris-Tricineポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析し、放出したpCTをイムノブロットによって検出した。合成サケCTを、ポジティブコントロールとして用いた。
【0069】
放出したpCTの精製および分析
EK消化によって融合タンパク質から放出された植物カルシトニン(pCT)は、RP-HPLCによって精製した。消化混合物を分析用RP-C18カラム(250 x 4 mm, 粒度10μM, 細孔度120Å)に加え、カラムを0.036% TFAを加えた25-60%アセトニトリルの範囲のグラディエントを用いて1ml/分の流速で20分で溶出した。集めた画分を凍結乾燥によって濃縮し、pCT特性決定のために-20℃で保管した。別の実験では、標準のサケCTを同じクロマトグラフィー条件で溶出した。TOF-MALDI質量分析法を用いて、pCTを特性決定した。RP-HPLC画分の分量を等容のマトリックス溶液(10 mg/mlα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸および0.1% TFA)と混合し、混合物1μlをホルダーに沈着させ、Voyager-DE-RP質量分析計(Applied Biosystems)で分析した。標準のサケCTを、常にTOF-MALDI質量分析法実験でコントロールとして用いた。pCTのC末端分析は、精製ペプチド(20ピコモル/μl)をカルボキシペプチダーゼY(0.1U/μl)と37℃で60分間インキュベーションすることによって行い、消化生成物の分析はTOF-MALDI質量分析法によって行った。
【0070】
II. 結果
数種類の誘導されたγ-ゼイン-CTキメラ遺伝子の構築
植物の葉におけるER由来のタンパク粒中へのγ-ゼインのプロリンリッチドメイン発現および良好な集合(Geli et al., 1994)は、植物組織のERに治療タンパク質を蓄積するための重要な手段を提供する。γ-ゼイン遺伝子を欠失し、タバコ植物でCTを産生するための融合パートナーとして用いられる様々なプロリンリッチな切頭タンパク質を作製した。キメラ遺伝子は、γ-ゼインドメインと、プロテアーゼ開裂部位に相当するリンカーが連結したCT合成遺伝子を含んでなっていた。32アミノ酸の活性サケカルシトニンをコードする合成遺伝子を優先的な植物コドンを用いるようにデザインした2種類の相補的オリゴヌクレオチド(122塩基)から生成し、植物における組換えペプチドの高発現を達成した。合成CT cDNA (図2)は、5'末端においてエンテロキナーゼ開裂部位に相当するリンカー配列((Asp)4-Lys)と、3'末端においてグリシンを産生するための追加コドンを含んでいた。このグリシンは、CT生物活性に本質的なC末端プロリンアミドを生成するためのアミド化酵素(PAM)にとって必要な基質である。カルシトニンcDNAを、C末端融合におけるγ-ゼインドメインをコードする配列に融合させた。植物組織における誘導されたγ-ゼイン-CTキメラ遺伝子の発現を最適にするために、植物形質転換ベクターは下記の調節配列i)カリフラワーモザイクウイルス由来の増進35Sプロモーターおよび35Sターミネーター、およびii)トマトエッチウイルス(TL)由来の翻訳エンハンサーを含んでいた。生成した様々な融合タンパク質を図5に示す。γ-ゼイン-CT融合タンパク質は、CTに融合した全γ-ゼインを含んでいる。RX3-CT、R3-CT、P4-CTおよびX10-CT融合タンパク質は、全γ-ゼインと同じ方法でCTに連結した誘導されたγ-ゼインドメインを含む。これらの融合タンパク質は、本質的に反復およびproXドメインの存在または非存在の点が異なる。
【0071】
タバコ植物における融合タンパク質の産生
総ての融合遺伝子を、Agrobacterium tumefaciensによる安定なタバコ植物形質転換に用いた。少なくとも20種類の独立したカナマイシン耐性植物(To)を、それぞれの融合遺伝子について再生した。トランスジェニック植物のスクリーニングは、γ-ゼインポリクローナル抗血清を用いる可溶性タンパク質抽出物のウェスタンブロット分析によって行った。それぞれの融合遺伝子を表すトランスジェニック系のイムノブロットパターンを、図6に示す。観察されたように、微量の融合タンパク質も検出されなかったX10-CT融合遺伝子を除き、組換え融合タンパク質が総てのトランスジェニック系で得られた。この小さな融合タンパク質(80アミノ酸)は、タバコ植物で不安定であると思われる。2つの免疫標識したバンドがR3-CTトランスジェニック系で検出され、1つは異常に高い見かけの分子質量を有していた。この融合タンパク質は、グリコシル化のような翻訳後修飾を施したものと思われた。実際に、γ-ゼインプロリンリッチ反復ドメインは、Arabidopsis植物で発現するときには、グリコシル化することができることが示されている(Alvarez etal., 1998)。タンパク質発現レベルは、総てのトランスジェニック系で高い組換えタンパク質発現レベルを示したRX3-CT融合遺伝子を除き、同じ融合遺伝子の異なる系で極めて変化しやすいものであった。追加のイムノブロットスクリーニングは、sCTペプチドに対して特異的に生じた抗血清を用いて行った(図7 A)。観察されるように、RX3-CTおよびP4-CTタンパク質はsCT抗血清によって強く認識され、これらの融合がタバコ植物においてCTペプチドを良好に蓄積することを示していた。RX3-CTおよびP4-CTイムノブロットパターンは幾つかの標識したバンドを示し、主要バンドは関連した組換えタンパク質の正確な見かけの分子質量に相当することが示された。高分子量標識バンドは、植物組織における融合タンパク質の蓄積中に形成されたγ-ゼインドメイン上でのオリゴマー化工程の結果であると仮定することができた。タンパク質レベルに関する融合遺伝子の発現レベルをチェックするため、比較用のノーザンブロット分析(図7 B)を図7Aでのイムノブロットによって分析したトランスジェニック系を用いて行った。示され
るように、RX3-CTおよびP4-CT転写体は一層豊富であり、これらの転写体の安定な蓄積を示していた。意外なことには、R3-CT転写体は、イムノブロットによって検出された低R3-CT融合タンパク質レベルと比較して比較的豊富であった。恐らくは、翻訳後修飾により融合タンパク質の正確な自己集合とそれに続くERでのその安定性が回避されるものと思われる。
【0072】
T1植物由来の葉のタンパク質抽出物についてELISAによって測定したRX3-CTおよびP4-CTタンパク質の最大発現レベルはそれぞれ総可溶性タンパク質の12.44%および10.65%であったが、γ-ゼイン-CTおよびR3-CT発現レベルは総可溶性タンパク質の0.01%程度と低いままであった。これらの結果に関して、RX3-CTおよびP4-CTトランスジェニック系は、植物カルシトニン(pCT)の産生に寄与する更なる実験のために選択した。
【0073】
融合タンパク質RX3-CTおよびP4-CTの亜細胞性局在化
Arabidopsis植物におけるγ-ゼインおよび2種類のγ-ゼイン欠失突然変異体の発現は、これらのタンパク質がER由来のPBを形成する葉肉細胞のER中に位置することを示していた(Geli etal., 1994)。しかしながら、γ-ゼイン誘導体に融合したカルシトニンは同様な細胞小器官であるER-PBに分類されることは明らかではなかった。カルシトニンを含むγ-ゼイン融合タンパク質のタバコ葉における亜細胞性局在化を検討するため、本発明者らは免疫電子顕微鏡法を用いた(図8)。RX3-CTおよびP4-CTタンパク質を発現するトランスジェニックタバコ葉の超薄切片を、CT抗体およびプロテインA-金とインキュベーションした。強く標識された大きなPB様細胞小器官が、RX3-CTおよびP4-CTを発現するタバコの葉肉細胞に観察された(それぞれ、図8AおよびB)。小胞は細胞当たり少数しか検出されず、それらの大きさは全くバラバラであった。融合タンパク質はカルシトニンタンパク質とγ-ゼイン断片を含んでいたので、超薄切片をγ-ゼイン抗体ともインキュベーションした。予想されたように、PBにはγ-ゼイン抗体が標識され、融合タンパク質はこれらの細胞小器官の内側に蓄積することが確認された(図8C)。PBがERから形成されることを示すために、切片をER常在性タンパク質BiPに対する抗体とインキュベーションした(図8D)。これらの細胞小器官におけるCT-融合タンパク質とBiPの同時発生は、RX3-CTとP4-CTがER内腔中に蓄積して更に独立したER由来の小胞を形成することを示していた。非トランスジェニック植物の超薄切片にはPB様細胞小器官を検出することができなかったので(図8E)、トランスジェニック植物において一次抗体を持たないコントロール実験を行った(図8 F)。予想されたように、コントロール実験では特異標識は検出されなかった。
【0074】
融合タンパク質の精製およびpCTの放出
RX3-CTおよびP4-CT融合タンパク質は、DTT (200mM)のような還元剤を包含する抽出物緩衝液を用いてトランスジェニックタバコ葉(T1)から効果的に抽出された。新鮮な材料1g当たり約85μgのRX3-CTおよび73μgのP4-CTを回収した。RX3-CTおよびP4-CTタンパク質を、それぞれ45%および60%硫酸アンモニウム沈澱によって濃縮した。脱塩したタンパク質抽出物をアニオン交換クロマトグラフィーを用いるFPLCによって分画し、回収された融合タンパク質をELISAによって定量した。RX3-CTタンパク質は全精製タンパク質の約80%であったが、P4-CTは全精製タンパク質の約50%に過ぎなかった。このような相違は,45%硫酸アンモニウムよりも60%でより多くのタンパク質が沈澱し、従って沈澱したP4-CTタンパク質はずっと多くの混入タンパク質を含むという事実によって部分精製した融合タンパク質RX3-CTおよびP4-CTをEKによって消化し、pCT放出をTris-Tricineポリアクリルアミドゲル電気泳動および免疫検出によって制御した。図9に示されるように、カルシトニンに相当する単一標識バンドがRX3-CTおよびP4-CTタンパク質開裂のいずれからも生成した。少量の融合タンパク質RX3-CTおよびP4-CTは、恐らくは酵素が幾つかの開裂部位に接近することができないため消化されないままに残った。
【0075】
pCTの精製および特性決定
植物カルシトニン(pCT)を、分析用C18 RP-HPLCカラム上でのEK消化混合物の分画化(図10)および合成CTを標準品(MW 3433.24, 図11.A)として用いるTOF-MALDI質量分析法による溶出画分の分析によって単離した。pCTカルシトニンは13分に溶出し(合成sCT Tr = 14分)、TOF-MALDI質量分析法により質量が3491.93Daの単一スペクトルを生じ、これは還元C末端グリシン伸長カルシトニンの理論分子質量と一致した(図11B)。カルボキシペプチダーゼY消化を施したpCTの質量分析法により、C末端プロリンアミドの産生に本質的であるC末端グリシンの完全性が確かめられた。
【0076】
III. 討論
タバコ植物にサケカルシトニンを蓄積するための良好な融合タンパク質を基剤とする系が提供される。2種類の融合タンパク質RX3-CalおよびP4-Calは、タバコ葉ER由来のPBに強く蓄積することが分かった。これらの融合タンパク質は、CTペプチドと、i)ヘキサペプチドPPPVHLの8単位(P4-Cal融合タンパク質では1単位のみ)から構成される反復ドメインとii)プロリン残基が他のアミノ酸と交互になっているproXドメインからなるγ-ゼインのプロリンリッチドメインを含む。γ-ゼインプロリンリッチドメインは、Arabidopsis植物のER中のγ-ゼインの正確な保持および集合に必要である(Geli et al., 1994)。ERでのγ-ゼインポリペプチド鎖のフォールディングおよび安定化は、反復およびproXドメインが自己集合し且つオリゴマーの形成を促進する能力によるものであった。これらの高度に疎水性のドメインによって採用される特定のコンホメーションは、両親媒性の二次構造を形成することができるプロリンリッチ配列によるものである。その適正なコンホメーションの結果、プロリンリッチドメインは、ER保持およびER由来のPBの形成に寄与するタンパク質-タンパク質相互作用およびジスルフィド架橋を伴う凝集機構を誘導する。この例は、N末端融合的に発現するときには、γ-ゼインプロリンリッチドメインは自己集合し且つER由来のPBで保持されて蓄積される複雑な事象を促進する全能力を保存することを示している。融合タンパク質に関与するサケCTは、PBに多量に蓄積することも分かった。トランスジェニックタバコ植物におけるCTの高発現レベルは、プロリンリッチドメインが融合タンパク質をフォールドして安定化することができることによると考えられる。融合タンパク質のPBにおける沈着は、加水分解的細胞内環境から除去することによるCTにおける植物組織の強化に確実に寄与する。小さなペプチドは生物系で不安定であるので、融合タンパク質法が非相同系、例えばE. coli (Ray et al., 1993; Yabuta et al., 1995 ; Hong et al., 2000)、Staphylococcus carnosus (Dilsen et al., 2000)、およびトランスジェニックウサギの乳(Mckee et al., 1998)でカルシトニンを産生するのに用いられてきているこの最後の場合には、CTとヒトα-ラクトアルブミンの融合は、カルシトニン活性を遮蔽し、通常の動物の発生に伴う起こり得る干渉を回避する目的も有していた。
【0077】
本発明者らは、
i) RX3-CalおよびP4-Cal融合タンパク質を、還元剤の存在下での溶解度が高いため、タバコ組織から効率的に回収し、
ii) 融合タンパク質からのカルシトニンのエンテロキナーゼ放出を、アニオン交換クロマトグラフィーによる融合タンパク質の1精製段階の後に行い、
iii) 逆相クロマトグラフィーによって、EK消化混合物から除去することにより精製CTを得る
タバコ植物からグリシン伸長sCTの迅速産生に成功した。
【0078】
放出CTの質量分析法により、正確なグリシン伸長CTがタバコ植物によって産生したことが確かめられた。
【0079】
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【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】γ-ゼイン(図1.A)、およびγ-ゼイン誘導体RX3(図1.B,上部)、R3(図1.B, 下部), P4 (図1.C,上部)、およびX10(図1.C, 下部)のヌクレオチド配列および翻訳。
【図2】合成カルシトニン(CT)のヌクレオチド配列(レーン2)および翻訳(レーン1)。合成CT遺伝子は優先的植物の使用法を用いて構築した。コドンの修飾は、野生型サケCT遺伝子(レーン3)と比較して下線を施してある。合成遺伝子は、5'末端にエンテロキナーゼ開裂部位(EK)に相当するリンカー配列を有し、3'で伸長して単一C末端グリシンを生成している。
【図3】pCRX3CTプラスミドの構築のための略図。図示した工程は下記のプラスミドpCZeinCT、pCR3CT pCP4CTおよびpCX10CTの獲得については同一であり、それらの間の差は導入される相当するγ-ゼインまたはγ-ゼイン由来の配列であった。異なるプラスミドは、均衡して正しく表していない。
【図4】プラスミドpBZeinCT、pBRX3CT、pBR3CT、pBP4CT、およびpBXlOCTの略図表現。異なるプラスミドは、均衡して正しく表していない。
【図5】様々な融合タンパク質の略図表現。γ-ゼインおよびγ-ゼイン由来のドメイン(RX3、R3、P4およびX10)を、エンテロキナーゼで開裂可能な部位(EK)を介してカルシトニン(CT)に融合した。SP,シグナルペプチド; REPEAT,反復ドメイン(PPPVHL)8ユニット;R1, 1反復ユニット; Pro-X,プロリン-Xaa; PX, Pro-Xドメインの断片; C-term, システインリッチなC末端ドメイン; 成熟タンパク質のN,N末端配列。それぞれの融合タンパク質についてのアミノ酸数を、右に示す。
【図6】γ-ゼイン抗血清を用いるトランスジェニックタバコ植物における融合タンパク質のイムノブロット分析の結果。可溶性タンパク質を野生型(WT)およびトランスジェニックタバコ(To)の葉から抽出し、15%SDS-ポリアクリルアミドゲル(20μg/レーン)上で分離し、ニトロセルロースに移した。数字は、様々なキメラ遺伝子、γ-ゼイン-CT、RX3-CT、R3-CT、P4-CTについて得た独立したトランスジェニック系を表す。
【図7】A. CT抗血清を用いる様々な組換え融合タンパク質の比較用ウェスタンブロット分析。可溶性タンパク質抽出物は、関連キメラ遺伝子の最大融合タンパク質発現を有する野生型植物(WT)とトランスジェニックタバコ系(T1)から調製した。8μgの可溶性タンパク質を15% SDS-ポリアクリルアミドゲル上に装填し、ニトロセルロースに移した。B. 様々なキメラ遺伝子転写体の比較用ノーザンブロット分析。総RNAをイムノブロット(図7A)によって分析したトランスジェニック系から単離し、変性ホルムアミドゲル電気泳動で分画し(30μg/レーン)、ナイロン膜に毛細管ブロッティングした。ブロットを、カルシトニンcDNAから得たランダムプライムドプローブ(129塩基)とハイブリダイズした。
【図8】トランスジェニックタバコ植物におけるRX3-CTおよびP4-CTタンパク質の亜細胞性局在化。(A) CT抗血清を用いるRX3-CTトランスジェニック系におけるRX3-CTタンパク質の免疫局在化(希釈倍率 1:100)。(B) CT抗血清を用いるP4-CTトランスジェニック系におけるP4-CTタンパク質の免疫局在化(希釈倍率 1:100)。(C) γ-ゼイン抗血清を用いるRX3-CTトランスジェニック系におけるRX3-CTタンパク質の免疫局在化(希釈倍率 1:1,500)。(D) BiP抗血清を用いるRX3-CTトランスジェニック系におけるBiPタンパク質の免疫局在化(希釈倍率 1:250)。(E) γ-ゼイン抗血清を用いる野生型植物での免疫局在化(希釈倍率1:1,500)。(F) 一次抗体なしのRX3-CTトランスジェニック植物での免疫局在化(希釈倍率 1:1,500)。タバコ葉の切片についての免疫細胞化学は、指示された一次抗体とプロテインA-コロイド状金(15 nm)を用いて行った。cw:細胞壁; ch:葉緑体; pb:タンパク粒; v:空胞。
【図9】RX3-CTおよびP4-CT融合タンパク質EK開裂のイムノブロット分析の結果。それぞれの部分精製した融合タンパク質12μgを、0.2U EKと共に20℃で24時間インキュベーションした。消化した融合タンパク質を18%トリス-トリシンポリアクリルアミドゲル電気泳動上で分画し、ニトロセルロースに移した。レーン1, 未消化融合タンパク質(1μg); レーン2, 消化生成物; レーン3, 合成サケCT標準品。
【図10】EKによって消化したRX3-CT融合タンパク質のRP-HPLC分画化。RX3-CT融合タンパク質から放出したpCTは、合成サケCTを標準品として用いるTOF-MALDIによって画分3 (Tr=13分)に検出された。
【図11】RP-HPLC分画化からTr=13分に溶出した(A)合成サケCT (MW = 3433.24)および(B)植物CT (MW = 3491.93)のTOF-MALDI質量分析法による特性決定の結果。
【図1a】

【図1b】

【図1c】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質γ-ゼインをコードするヌクレオチド配列を含む第一の核酸配列、またはタンパク質を植物細胞の小胞体(ER)に送り且つ保持することができるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むその断片、
酵素的または化学的手段により特異的に開裂可能なアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む第二の核酸配列、および
目的生成物をコードするヌクレオチド配列を含む第三の核酸配列
を含んでなり、
上記第一の核酸配列の3'末端が上記第二の核酸配列の5'末端に連結し、上記第二の核酸配列の3'末端が上記第三の核酸配列の5'末端に連結している
核酸配列。
【請求項2】
上記の第一の核酸配列が完全長γ-ゼインタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含んでなる、請求項1に記載の核酸配列。
【請求項3】
上記第一の核酸配列が、
タンパク質γ-ゼインの反復ドメインの全部または一部をコードする1種類以上のヌクレオチド配列、
タンパク質γ-ゼインのProXドメインの全部または一部をコードする1種類以上のヌクレオチド配列、または
タンパク質γ-ゼインの反復ドメインの全部または一部をコードする1種類以上のヌクレオチド配列と、タンパク質γ-ゼインのProXドメインの全部または一部をコードする1種類以上のヌクレオチド配列
を含んでなる、請求項1に記載の核酸配列。
【請求項4】
上記第一の核酸配列が、
配列番号:1に示されるヌクレオチド配列[γ-ゼインをコードするヌクレオチド配列(図1A)]、
配列番号:2に示されるヌクレオチド[RX3として同定されるヌクレオチド配列(図1B)]、
配列番号:3に示されるヌクレオチド配列[R3として同定されるヌクレオチド配列(図1B)]、
配列番号:4に示されるヌクレオチド配列[P4として同定されるヌクレオチド配列(図1C)]、および
配列番号:5に示されるヌクレオチド配列[X10として同定されるヌクレオチド配列(図1C)]
からなる群から選択される、請求項1に記載の核酸配列。
【請求項5】
上記第二の核酸配列がプロテアーゼ開裂部位を画定するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含んでなる、請求項1-4のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項6】
上記プロテアーゼがエンテロキナーゼ、Arg-Cエンドプロテアーゼ、Glu-Cエンドプロテアーゼ、Lys-Cエンドプロテアーゼ、またはXa因子である、請求項5に記載の核酸配列。
【請求項7】
上記第二の核酸配列が化学的試薬によって特異的に開裂可能なアミノ酸をコードするヌクレオチド配列を含んでなる、請求項1-4のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項8】
上記化学的試薬が臭化シアンである、請求項7に記載の核酸配列。
【請求項9】
上記目的生成物がタンパク質性薬剤である、請求項1-8のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項10】
上記タンパク質性薬剤がペプチドホルモンまたはインターフェロンであり、上記薬剤がヒトまたは動物体の治療に有効である、請求項9に記載の核酸配列。
【請求項11】
上記ペプチドホルモンがカルシトニン、エリトロポエチン、トロンボポエチンおよび成長ホルモンである、請求項9に記載の核酸配列。
【請求項12】
上記第三の核酸配列が、カルシトニンをコードするヌクレオチド配列と、カルシトニンをコードする上記核酸配列の3'末端におけるグリシンのこととを含んでなる、請求項1に記載の核酸配列。
【請求項13】
(i) タンパク質γ-ゼインのアミノ酸配列、またはタンパク質を植物細胞のERに送り且つ保持することができるその断片、
(ii) 酵素的または化学的手段により特異的に開裂可能なアミノ酸配列、および
(iii) 目的生成物
を含んでなる融合タンパク質であって、宿主植物系における請求項1-12のいずれか一項に記載の核酸配列の発現生成物である、上記融合タンパク質。
【請求項14】
完全長γ-ゼインタンパク質を含んでなる、請求項13に記載の融合タンパク質。
【請求項15】
図1Aに示され且つ配列番号:6で同定されたアミノ酸配列を含んでなる、請求項14に記載の融合タンパク質。
【請求項16】
γ-ゼインタンパク質の断片を含んでなり、上記断片がタンパク質を植物細胞のERに送り且つ保持することができるアミノ酸配列を含む、請求項13に記載の融合タンパク質。
【請求項17】
配列番号:7に示されるアミノ酸配列[RX3に相当するアミノ酸配列(図1 B)]、
配列番号:8に示されるアミノ酸配列[R3に相当するアミノ酸配列(図1B)]、
配列番号:9に示されるアミノ酸配列[P4に相当するアミノ酸配列(図1C)]、および
配列番号:10に示されるアミノ酸配列[X10に相当するアミノ酸配列(図1C)]
からなる群から選択されたγ-ゼインタンパク質の断片を含んでなる、請求項16に記載の融合タンパク質。
【請求項18】
酵素的手段によって特異的に開裂可能な上記アミノ酸配列がプロテアーゼ開裂部位を含んでなる、請求項13に記載の融合タンパク質。
【請求項19】
化学的手段によって特異的に開裂可能な上記アミノ酸配列が化学的試薬によって開裂可能な開裂部位を含んでなる、請求項13に記載の融合タンパク質。
【請求項20】
上記目的生成物がタンパク質性薬剤である、請求項13に記載の融合タンパク質。
【請求項21】
(i)請求項1-12のいずれか一項に記載の核酸配列と、(ii)本発明の核酸(i)の転写を調節する調節ヌクレオチド配列を含んでなり、上記調節配列(ii)が植物で機能する、核酸構築物。
【請求項22】
上記調節配列(ii)が組織特異的である、請求項21に記載の構築物。
【請求項23】
上記調節配列(ii)が植物で機能するプロモーターを含んでなる、請求項21に記載の構築物。
【請求項24】
上記調節配列(ii)が、プロモーター35SCaMV、「パタチナ(patatina)」プロモーター、貯蔵タンパク質プロモーター、ユビキチン遺伝子プロモーター、またはγ-ゼイン遺伝子の調節配列を含んでなる、請求項22に記載の構築物。
【請求項25】
上記調節配列(ii)が植物で機能する転写終結配列を含んでなる、請求項21に記載の構築物。
【請求項26】
上記調節配列(ii)が、ターミネーター35SCaMV、オクトピンシンターゼ(ocs)遺伝子のターミネーター、ノパリンシンターゼ(nos)遺伝子のターミネーター、またはγ-ゼイン遺伝子のターミネーターを含んでなる、請求項25に記載の構築物。
【請求項27】
上記調節配列(ii)が、植物で機能する翻訳エンハンサーをも含んでなる、請求項21に記載の構築物。
【請求項28】
植物で機能する上記翻訳エンハンサーがトマトエッチウイルスの転写の促進配列などを含んでなる、請求項27に記載の構築物。
【請求項29】
請求項1-12のいずれか一項に記載の核酸配列または請求項21-28のいずれか一項に記載の核酸構築物を含んでなる、ベクター。
【請求項30】
形質転換植物宿主系であって、請求項1-12のいずれか一項に記載の核酸配列または請求項21-28のいずれか一項に記載の核酸構築物、または請求項29に記載のベクターで形質転換した、上記植物宿主系。
【請求項31】
トランスジェニック植物宿主系であって、請求項1-13のいずれか一項に記載の核酸配列をそのゲノムに組込んで含んでなる、上記トランスジェニック植物宿主系。
【請求項32】
植物宿主系が単子葉または双子葉植物である、請求項30または31に記載の植物宿主系。
【請求項33】
植物宿主系が穀類、豆果、アブラナ、またはナスである、請求項32に記載の植物宿主系。
【請求項34】
種子を含んでなる、請求項30または31に記載の植物宿主系。
【請求項35】
融合タンパク質の形態で目的生成物を産生および発現させる条件下で請求項30-34のいずれか一項に記載の形質転換またはトランスジェニック植物宿主系を生長させることを含んでなる、植物宿主系で上記目的生成物を産生する方法。
【請求項36】
上記融合タンパク質の単離および精製をも含んでなる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
上記融合タンパク質から目的生成物の放出をも含んでなる、請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
植物宿主系でカルシトニンを産生する方法であって、
a) タンパク質γ-ゼインをコードするヌクレオチド配列を含む第一の核酸配列、またはタンパク質を植物細胞の小胞体(ER)に送り且つ保持することができるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むその断片、
酵素的または化学的手段により特異的に開裂可能なアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む第二の核酸配列、および
カルシトニンをコードするヌクレオチド配列を含む第三の核酸配列
からなる核酸配列(本発明の核酸配列)の転写のための調節配列を含んでなる発現ベクターまたは核酸構築物で植物宿主系を形質転換し、
上記第一の核酸配列の3'末端が上記第二の核酸配列の5'末端に連結し、上記第二の核酸配列の3'末端が上記第三の核酸配列の5'末端に連結しており、
b) 上記発現ベクターまたは核酸構築物で形質転換した上記植物宿主系から完全な植物を生成させ、
c) 上記形質転換植物を、カルシトニンを融合タンパク質の形態で産生および発現させる条件下で生長させ、所望ならば、
d) 上記融合タンパク質を単離し、精製して、上記融合タンパク質を処理してカルシトニンを放出させる、
ことを含んでなる、方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−213713(P2010−213713A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110481(P2010−110481)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【分割の表示】特願2004−516544(P2004−516544)の分割
【原出願日】平成14年8月5日(2002.8.5)
【出願人】(505003218)エラ、ビオテック、ソシエダッド、アノニマ (4)
【氏名又は名称原語表記】ERA BIOTECH, S.A.
【Fターム(参考)】