説明

植物の形態形成を制御するための核酸

【課題】樹木などの植物において形態形成を制御する手段を提供する。
【解決手段】植物の形態形成の制御に使用するための、(a)ユーカリ属植物由来の特定ユーカリ属植物由来の特定な塩基配列からなるDNA;(b)該塩基配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列からなるDNA;(c)上記(a)のDNAに相補的なDNA;(d)上記(b)のDNAに相補的なDNA;(e)上記(a)のDNAをコードするRNA;(f)上記(b)のDNAをコードするRNA;(g)上記(c)のDNAをコードするRNA;及び(h)上記(d)のDNAをコードするRNAのDNA及びRNAからなる群から選択される核酸又はその複数の核酸からなる核酸組合せ物、核酸組合せ物を含むマイクロアレイ、並びに、ユーカリ属植物由来の特定な塩基配列又はその配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列と該塩基配列に対して相補的な塩基配列とを含む二本鎖DNAをコードする、植物の形態形成の制御に使用するためのsiRNAである核酸又はその核酸組合せ物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物、特に樹木植物、の形態形成を制御するための核酸及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の木材消費量は毎年増加傾向にあり、用途別にみると、薪炭用材の消費が過半数を占め、開発途上地域では今でも増加傾向を示している。製材、製紙用の木材チップなどの産業用材も、先進地域の消費量は若干の減少に転じたものの、開発途上国地域における消費量は増加している。先進地域では文明の発達とともに、森林の農地への転用や資材としての利用等により森林を大きく減少させてきたが、最近植林活動によってわずかながら増加している。しかし、開発途上地域では、かつては先進国の商業伐採により、近年は人口増加にともなって生活燃料や農地の需要が拡大し、その結果、世界全体における森林面積が急激に減少しつづけている。一方、塩害、砂漠化などにより引き起こされる土壌劣化が急速に進んでおり、世界的に大きな問題となっている。
【0003】
遺伝子組換えを行った樹木を得ることができれば、成長性の優れた個体、木部成分を改変した個体、ストレス適応能力の改良により乾燥や塩害により植物が生育できなくなってしまった土地に植林できる個体を創出しうる可能性がある。
【0004】
近年、遺伝子の発現制御機構として、遺伝子の転写調節とは異なり、転写後の翻訳抑制による制御機構が明らかにされ、その本質が低分子のRNAであることが示唆された。このことは、遺伝子の転写制御といった本質的かつ根本的な主機能に引き続き、転写物がタンパク質に変換される段階を調節することにより、最終的な遺伝子発現効果を決定する重要な機構であることを示唆する(非特許文献1〜2)。
【0005】
【非特許文献1】実験医学、「RNAiのサイエンス」、22巻4号、2004年、羊土社
【非特許文献2】牛田千里、蛋白質核酸酵素、Vol.46 No.10、1381-1386、共立出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、植物、特に樹木、において種々の形態形成を制御する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ある種の樹木植物の組織において極めて多数のマイクロRNAを補足し、これらが発現していることを見いだし、これらのマイクロRNAが該樹木植物の形態形成制御機構や翻訳制御機構などに関連することを結論づけ、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)植物の形態形成の制御に使用するための、下記(a)〜(h)のDNA及びRNAからなる群から選択される核酸、又はその複数の核酸からなる核酸組合せ物。
(a) 配列番号1〜751のいずれかの塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号1〜751のいずれかの塩基配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列からなるDNA
(c) 上記(a)のDNAに相補的なDNA
(d) 上記(b)のDNAに相補的なDNA
(e) 上記(a)のDNAをコードするRNA
(f) 上記(b)のDNAをコードするRNA
(g) 上記(c)のDNAをコードするRNA
(h) 上記(d)のDNAをコードするRNA
【0009】
(2)配列番号1〜751のいずれかの塩基配列又はその配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列と、該塩基配列に対して相補的な塩基配列とを含む二本鎖DNAをコードする、植物の形態形成の制御に使用するためのsiRNAである核酸、又はその核酸組合せ物。
(3)植物が樹木である、上記(1)又は(2)に記載の核酸又は核酸組合せ物。
(4)樹木がユーカリ属植物である、上記(3)に記載の核酸又は核酸組合せ物。
(5)siRNAが、そのセンス鎖及びアンチセンス鎖の3'末端にオーバーハング配列をさらに含む、上記(2)に記載の核酸又はその核酸組合せ物。
【0010】
(6)siRNAが、そのセンス鎖とアンチセンス鎖の間にループ配列をさらに含む、上記(2)に記載の核酸又はその核酸組合せ物。
(7)配列番号1〜751のいずれかの塩基配列、又はその配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列、を含むDNAを含むベクター。
(8)上記(7)に記載のベクターを含む形質転換微生物又は形質転換植物細胞。
(9)上記(8)に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物。
(10)植物がユーカリ属植物などの樹木である、上記(9)に記載の形質転換植物。
【0011】
(11)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の核酸又はその核酸組合せ物、或いは上記(7)に記載のベクター、或いは上記(8)に記載の形質転換植物細胞又は形質転換微生物を使用することを特徴とする、植物の形態形成の制御方法。
(12)器官の形態形成の制御である、上記(11)に記載の方法。
(13)上記(1)に記載の(a)〜(h)の核酸からなる群から選択される核酸の組合せ物を含むマイクロアレイ。
(14)核酸がRNAである、上記(13)に記載のマイクロアレイ。
(15)核酸がDNAである、上記(13)に記載のマイクロアレイ。
(16)植物の形態形成を制御する物質をスクリーニングするためのものである、上記(13)〜(15)のいずれかに記載のマイクロアレイ。
【0012】
(16)植物の形態形成に関与する遺伝子、その転写産物またはその翻訳産物を同定するためのものである、上記(13)〜(15)のいずれかに記載のマイクロアレイ。
(17)植物の形態形成に関与する遺伝子、その転写産物またはその翻訳産物を同定するためのものである、上記(13)〜(15)いずれかに記載のマイクロアレイ。
(18)上記(9)又は(10)に記載の形質転換植物由来の種子。
(19)上記(9)又は(10)に記載の形質転換植物の後代。
【発明の効果】
【0013】
本発明の核酸は、植物、好ましくは樹木、の形態形成を制御することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、第1の態様において、植物の形態形成の制御に使用するための、下記(a)〜(h)のDNA及びRNA:
(a) 配列番号1〜751のいずれかの塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号1〜751のいずれかの塩基配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列からなるDNA;
(c) 上記(a)のDNAに相補的なDNA;
(d) 上記(b)のDNAに相補的なDNA;
(e) 上記(a)のDNAをコードするRNA;
(f) 上記(b)のDNAをコードするRNA;
(g) 上記(c)のDNAをコードするRNA;並びに、
(h) 上記(d)のDNAをコードするRNA
からなる群から選択される核酸、又はその複数の核酸からなる核酸組合せ物を提供する。
【0015】
本明細書中で使用する「形態形成の制御」とは、植物における器官形成を制御することをいい、また「制御」とは促進又は抑制をいう。そのような制御機能には、例えば、植物の維管束組織における肥大成長、植物の根器官において、根毛を発生させる機能、挿し木等において、茎組織より根を発生させる機能、植物の花器官において、花被部分を生殖器官へ変換する機能等が含まれる。
【0016】
本明細書中で使用する「DNAをコードするRNA」は、該RNAは該DNAの塩基配列中の塩基TがUに置き換えられた塩基配列を有することを意味する。
【0017】
本発明の上記核酸組合せ物は、上記(a)〜(h)のDNA及びRNAから選択される2以上の核酸の任意の組合せを指し、例えば、上記(a)〜(d)のDNAから選択される2以上の核酸の組合せ、上記(e)〜(h)のRNAから選択される2以上の核酸の組合せ、上記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)又は(h)のDNA又はRNAから選択される2以上の組合せ、上記(a)及び(c)のDNAから選択される2以上の組合せ、上記(b)及び(d)のDNAから選択される2以上の組合せ、上記(e)及び(g)のRNAから選択される2以上の組合せ、上記(f)及び(h)のRNAから選択される2以上の組合せなどを挙げることができる。
【0018】
本発明において形態形成を制御する対象となる植物は、双子葉植物及び単子葉植物からなる被子植物、裸子植物などを含み、好ましくは樹木、例えばユーカリ属植物、ポプラ、マツ、アカシヤ、スギ、ヒノキ、タケ、イチイなど、より好ましくはユーカリ(Eucalyptus globulus)属植物である。ユーカリ属植物としては、特に制限されないが、例えば、ユーカリ・グロブラス(Eucalyptus globulus)、ユーカリ ・グランディス (Eucalyptus grandis)、ユーカリ ・ユーロフィラ(Eucalyptus urophylla)、ユーカリ・カマルドレンシス(Eucalyptus camaludulensis)、ユーカリ・ニテンス(Eucalyptus nitens)、ユーカリ・ガンニー(Eucalyptus gunni)、ユーカリ・ラジアータ(Eucalyptus radiata)、ユーカリ・アンプリフォリア(Eucalyptus amplifolia)、ユーカリ・アーチェリ(Eucalyptus archeri)、ユーカリ・バクステリ(Eucalyptus baxteri)、ユーカリ・ビコスタータ(Eucalyptus bicostata)、ユーカリ・ブラッケリー(Eucalyptus blakelyi)、ユーカリ・ボツリオイデス(Eucalyptus botryoides)、ユーカリ・ブリジェシアーナ(Eucalyptus bridgesiana)、等が挙げられる。
【0019】
本発明の配列番号1〜751の塩基配列を有するDNAに対応するマイクロRNAは、ユーカリ属植物の組織から配列決定し、調製することができる。そのための実験手法として、例えば、Sambrookら, Molecular Cloning A Laboratory Mannual (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Pressなどに開示される手法を利用することができる。具体的には、例えば、以下のようにして得ることができる。組織から抽出・精製した全RNAから、アクリルアミドゲル電気泳動法等により低分子RNAの分離し、一旦cDNAに変換した後、ライブラリー化する。MPSS法(Brenner, S.ら, Nature Biotechnol. 18:630-634 (2000))、454塩基配列決定法(Margulies,M.ら、Nature 437:376-380 (2005))等により、ライブラリー化した低分子RNAの配列を決定することができる。尚、低分子RNAの画分には、リボソームRNA、トランスファーRNA等の既知のRNAが含まれるので、既知の配列情報を用いてこれらの配列を除外する。
【0020】
本発明の核酸には、配列番号1〜751のいずれかの塩基配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性を有する塩基配列からなるDNA、その相補的DNA、並びに、該DNA及び相補的DNAをコードするRNAも包含される。
【0021】
本明細書中で使用する「同一性」なる用語は、2つの配列を整列比較(すなわち、アラインメント)したときに、全塩基数に対する同一塩基数のパーセンテージを表す。配列の同一性は、NCBI(米国)などの配列データバンクにアクセスし、BLAST、FASTAなどの公知のアルゴリズムを利用した配列相同性検索システムによって決定することができる。FASTAは、連続して一致する配列の断片を高速に検索し、それらの断片の中で類似度の高いものに着目して局所的なアラインメントを行い、最後にギャップを考慮したうえでこれらを結合しアラインメントを行う方法として知られており、一方、BLASTは、配列を固定長の断片(ワード)に区切り、ワード単位で類似する断片を検索し、これらを類似度が最大になるまで両方向に伸ばして局所的なアラインメントを行い、最後にこれらを結合して最終的なアラインメントを行う方法として公知である。
【0022】
塩基配列の変異は、植物の科、属、種、品種などの違いによる個体差に基づく変異、ミスマッチなどの突然変異、人為的な変異などを含む。このような変異は、配列番号1〜751のいずれかの塩基配列からの変異であり、1又は2個以上、好ましくは1、2、3又は4個、の塩基の置換、欠失又は付加を含む。これらの変異は、植物の形態形成を制御する活性を付与する限り、本発明の範囲内である。変異体を含む本発明の核酸は、自動DNA/RNA合成装置を使用して合成することができる。
【0023】
本発明の上記(a)〜(h)に示された核酸は、例えば、(1) 植物の形態形成に関与する遺伝子、その転写産物又はその翻訳産物を同定するために、或いは(2) 植物の形態形成を制御する物質をスクリーニングするために、或いは(3) 植物の形態形成を直接的に又は間接的に制御するために、使用することができる。(1)及び(2)の同定又はスクリーニングのために、上記核酸(a)〜(h)から選択した複数種の核酸を担体に固定したマイクロアレイを使用することができる。一方、(3)の形態形成の制御は、上記核酸(a)〜(h)から選択した核酸をin vivoで利用するRNA干渉(RNAi)によって行うことができる。ここでRNAiは、二本鎖RNA(dsRNA)の細胞への導入により相同な配列をもつ遺伝子の発現が抑制される現象をいう。
以下に本発明の核酸の使用について説明する。
【0024】
<植物の形態形成の制御>
本発明の第2の態様によれば、配列番号1〜751のいずれかの塩基配列又はその配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列と、該塩基配列に対して相補的な塩基配列とを含む二本鎖DNAをコードするsiRNA、又はその組合せ物は、植物の形態形成の制御のために使用することができる。
【0025】
上記のとおり、本発明のsiRNAのRNA鎖は、配列番号1〜751のいずれかの塩基配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性を有する塩基配列をコードするRNAを含むことができる。このようなRNA鎖の配列の差異は、例えば、植物の科、属、種、品種などの違いによる個体差に基づく変異、ミスマッチなどの突然変異、人為的な変異などの変異に基づく。変異は、各配列において、1又は2個以上、好ましくは1、2、3又は4個、の塩基の置換、欠失又は付加を含み、標的mRNAを切断し、翻訳産物の産生を阻害又は抑制することが可能な配列変異である限りいかなる変異も包含される。
【0026】
本発明のsiRNAは、18〜25塩基、好ましくは19〜24塩基、より好ましくは20〜23塩基からなる、センス鎖配列とアンチセンス鎖配列とを含む二本鎖RNAであり、標的mRNAを切断して遺伝子の発現、したがってタンパク質への翻訳を制御することができる。ここで、センス鎖配列は、標的mRNAの塩基配列と実質的に同一の配列をいい、また、アンチセンス鎖配列は、このセンス鎖配列に相補的な配列をいう。
【0027】
本発明のsiRNAは、好適な実施形態において、センス鎖及びアンチセンス鎖の各3’末端にオーバーハング(すなわち、突出末端)を含む。3’オーバーハングは、1〜5個、好ましくは1〜4個、より好ましくは1〜3個の塩基、好ましくはU又はポリUを含むことができる。
【0028】
本発明のsiRNAはまた、センス鎖配列とアンチセンス鎖配列との間に、非対合性の一本鎖ループ配列を介在させてもよい。ループ配列としてはイントロン配列が用いられるケースが多く、例えば、Wesley S.ら(Plant Journal 27:581-590(2001))の示したsiRNA発現ベクター:pHANNIBALに含まれるループ配列はその代表例であるが、これらに限定されない。或いは、各鎖の3’末端に上記オーバーハングと同様の塩基を連結した2つのRNA鎖を生成し、センス鎖とアンチセンス鎖の間に、同様に一本鎖ループ配列を介在させてもよい。このようにして得られるヘアピン型dsRNAは、in vivoで内在性ダイサー(Dicer)によってプロセシングされて本発明のsiRNAを形成することができる。
【0029】
本発明のsiRNAは、直接、植物体、植物組織又は植物細胞に導入することができる。植物は、被子植物及び裸子植物を含み、好ましくは樹木、例えばユーカリ属植物、ポプラ、
マツ、アカシヤ、スギ、ヒノキ、タケ、イチイなど、より好ましくはユーカリ属植物である。植物組織には、分裂組織、例えば茎や根の成長点、形成層など、器官、例えば根、茎、花、葉、幼芽、胚軸、種子、塊茎、切穂、花粉などが含まれる。
【0030】
導入方法の例は、パーティクルガン法、リポソーム法、エレクトロポレーション法などを含む。パーティクルガン法は、金などの金属粒子に核酸をコートし、ショットガンのように細胞内に核酸を打ち込む方法である。リポソーム法は、細胞膜と同様のリン脂質二重層膜で作られたリポソーム内に核酸を封入し、細胞膜との膜融合とエンドサイトーシスを介して核酸を細胞内に導入する方法であり、膜融合のためにはカチオン性リポソームが好ましい。エレクトロポレーション法は、細胞に電気パルスを与えて一過的に脂質二重層に揺らぎを与えて核酸を細胞内に導入する方法である。
【0031】
本発明のsiRNAの導入法の別の例は、上記siRNA(好ましくは、3'オーバーハングを含むsiRNA)又はヘアピン型dsRNAをコードする二本鎖DNAをベクターに組み込んで植物体、植物組織又は植物細胞に導入する方法である。このようなベクターもまた、本発明に包含される。
【0032】
具体的には、本発明の核酸、すなわち配列番号1〜751のいずれかの塩基配列又はその配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列を含むDNAを含むベクターを植物細胞に導入し、得られた形質転換植物細胞から植物体を再生することにより、器官形態形成が制御された形質転換植物を得ることができる。
【0033】
ベクターは、ベクターの所定の部位に、上記DNAとその相補的DNAからなる二本鎖DNAを結合又は挿入することによって得ることができる。ベクターの種類は特に限定されないが、自律複製可能な、又は染色体中に相同組換え可能な、ベクターを使用することができる。そのようなベクターの例は、プラスミド、ファージ、ウイルス、コスミドなどを含む。ベクターは、選択マーカー、複製開始点、ターミネーター、ポリリンカー、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合部位などを適宜含むことができる。ベクターは市販のベクター、文献等に記載されているベクターを使用することができる。プロモーターの例は、CaMV 35Sプロモーター、組織特異的、または時期特異的、外的要因による誘導性を有する植物由来のプロモーターなどを含む。選択マーカーの例は、カナマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPTII)、ジヒドロ葉酸レダクターゼなどを含む。具体的には、大腸菌で増幅可能なベクター(pUC誘導体等)、大腸菌とアグロバクテリウムの双方で増幅可能なシャトルベクター(pBI101(クロンテック社)等)、植物ウイルス(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)等)を利用することができ、宿主細胞に応じて選択すればよい。
【0034】
例えば、アグロバクテリウムを使用する方法は、アグロバクテリウムが本来もつプラスミドDNAの一部であるT-DNA領域を切り出し、そのRB(右側ボーダー)とLB(左側ボーダー)との間に本発明の外来核酸を組込むステップ、得られたDNA断片をさらに、例えば大腸菌用のベクター(例えばpBR系、pBI系、pUC系、pBluescript系など)に挿入するステップ、得られたベクターで大腸菌を形質転換するステップ、形質転換大腸菌をアグロバクテリウムに接合してアグロバクテリウムへベクターを移入するステップ、外来核酸を保有するアグロバクテリウムを植物細胞に感染させて、外来核酸を細胞ゲノムに組み込むステップ、を含む。
【0035】
上記ベクターが導入された形質転換微生物又は形質転換植物細胞もまた、本発明に包含される。ここで、「形質転換微生物」とは、前記ベクターを宿主細胞としての微生物に導入して得られた微生物である。宿主微生物としては、例えば細菌、例えばアグロバクテリウム属菌(例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、アグロバクテリウム・リゾゲネス等)などが挙げられる。
【0036】
また、本発明において、形質転換植物細胞は、前記ベクターを宿主細胞としての植物由来細胞に導入して得られる形質転換細胞である。また、植物組織には、分裂組織、例えば茎や根の成長点、形成層など、器官、例えば根、茎、花、葉、幼芽、胚軸、種子、塊茎、切穂、花粉などが例示的に包含され、好ましい組織は、種子、塊茎、切穂などの繁殖媒体である。
【0037】
上記ベクターを宿主微生物、植物細胞、植物組織中に導入する方法としては、当技術分野における常法、例えば、プロトプラスト法(エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、ポリエチレングリコール法等)、パーティクルガン法、あるいは、形質転換因子として、上記のようなアグロバクテリウム(Agrobacterium)属菌(例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes))を用いたT-DNAによる植物細胞の形質転換方法等を用いることができる。
【0038】
なお、プロトプラスト法、パーティクルガン法、形質転換因子としてアグロバクテリウム(Agrobacterium)属菌を用いる具体的方法については、例えば、植物代謝工学ハンドブック(NTS(株)社)に基づいて実施することができる。
【0039】
或いは、本発明においては、ベクターとして植物ウイルス(カリフラワーモザイクウイルス等)を用いることによって形質転換植物細胞を得ることもできる。すなわち、まず、植物ウイルスゲノムを大腸菌由来のベクターなどに挿入して組換え体を調製した後、植物ウイルスゲノム中に、導入するDNAを挿入する。このように調製された植物ウイルスゲノムを制限酵素によって該組換え体から切り出し、植物細胞に接種することによって、これらのDNAを導入することができる。なお、この方法の詳細については、Hohnらの方法(Molecular Biology of Plant Tumors(Acadeマイクロc Press、New York)1982、pp549)、米国特許第4,407,956号明細書等を参考にすることができる。
【0040】
本発明者らは、本発明の核酸、すなわち上記siRNAが、植物、好ましくは樹木、例えばユーカリ属植物の翻訳制御を可能にすることを見出した。従って、本発明は、上記の本発明の核酸又はその組合せ物、或いは本発明のベクター、或いは本発明の形質転換植物細胞又は形質転換微生物を使用することを含む、遺伝子発現の制御、それによる植物の形態形成、好ましくは器官形成、の制御方法を提供する。
【0041】
遺伝子の発現の制御には、遺伝子の発現を促進すること及び遺伝子の発現を抑制することが包含され、器官形態形成の制御には、種々の器官形成を促進すること及びこれを抑制することの双方が包含される。すなわち、本発明のRNA断片からなる遺伝子の発現を促進することにより器官形態形成を抑制することができ、本発明のRNA断片からなる遺伝子の発現を抑制することにより器官形態形成を促進することができる。
本発明はさらに、上記形質転換植物細胞を含む形質転換植物を提供する。
【0042】
形質転換植物細胞は、好ましくは樹木細胞、より好ましくは形質転換ユーカリ属植物細胞であり、また、形質転換植物は、好ましくは形質転換樹木、より好ましくは形質転換ユーカリ属植物体である。
【0043】
本発明において、形質転換植物は、上記形質転換植物細胞を有する植物体であれば特に制限されないが、例えば、上記形質転換細胞から再生された形質転換植物体を含む。形質転換植物細胞から植物体を再生する方法は、土肥らの方法(特願平11-127025号公報)、を参照することができる。また、本発明の形質転換植物には、該形質転換植物から得られる種子、及び該種子から得られる植物体である後代をも含む。
【0044】
本発明の形質転換植物から種子を得る方法としては、例えば、形質転換植物を適当な培地において発根させ、その発根体を水分含有の土を入れたポットに移植する。適当な栽培条件下で生育させ、最終的に種子を形成させて、該種子を得る。また、種子から植物体を得る方法としては、例えば、前記のようにして得られた形質転換植物由来の種子を、水分含有の土に播種し、適当な栽培条件下で生育させることにより植物体を得ることができる。
【0045】
<植物の形態形成に関与する遺伝子等の同定及び植物の形態形成を制御する物質のスクリーニング>
本発明はさらに、本発明の上記(a)〜(h)の核酸から選択される核酸の組合せ物を含むマイクロアレイを提供する。
【0046】
この場合、上記(a)〜(h)の核酸は、特定の遺伝子等又は特定の制御物質(例えばアゴニスト、アンタゴニスト、促進因子、抑制因子など)を同定又はスクリーニングするためのプローブとして使用され、プローブとのハイブリダイゼーションを検出して目的の遺伝子等又は制御物質を同定又は確定することが可能である。
【0047】
ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は目的により異なるが、例えば、アプライドバイオシステム社(旧アンビオン社)の提供しているmirVanaTM MiRNABioarrayのマニュアルに記載の条件、村松正明及び那波宏之監修、DNAマイクロアレイと最新PCR法、秀潤社(2000年)に記載の条件などが適用可能である。例えば、ハイブリダイゼーションを、1〜6×SSC、必要に応じて5×Denhard’s溶液及び1mg/ml変性サケ精子DNAを含む溶液中、室温(約25℃)〜65℃で行い、洗浄を、0.1〜2×SSC、0.1〜0.2%SDSを含む溶液中、55〜65℃で行う。
【0048】
本発明のマイクロアレイは、植物の形態形成に関与する遺伝子、その転写産物又はその翻訳産物を同定するために、或いは植物の形態形成を制御する物質をスクリーニングするために、使用することができる。
【0049】
上記(a)〜(h)の核酸のうち、より好ましいプローブとしての核酸は、上記(a)〜(d)のDNA、例えば上記(c)又は(d)のDNA、上記(e)〜(h)のRNA、例えば上記(g)又は(h)のRNAである。アレイの表面上に結合するプローブの数は、2以上であれば特に制限はないが、好ましくは50以上、100以上、150以上、200以上、250以上、300以上、350以上、400以上、450以上、500以上、550以上、600以上、650以上、700以上、又は750以上である。
【0050】
マイクロアレイの基板は、核酸を固相化できるものであれば特に制限はなく、例えばガラス、シリコン、ポリマーなどを挙げることができる。基板表面は、必要に応じて、ポリLリジンコートによる被覆、或いはアミノ基、カルボキシル基などの官能基導入などの表面処理が施されていてもよい。
【0051】
固相化法は、定法であれば特に制限はなく、基板上でポリヌクレオチドを合成する方法、基板上にスポッター等によるポリヌクレオチドのスポッティング、インクジェット等によるポリヌクレオチドの吹き付けなどの方法を含む。そのための基本的な方法には、Affymetrix社の方式、すなわち基板上で19〜25mer程度のポリヌクレオチドを合成する方式、或いはStanfordの方式、すなわち数10μm〜数100μmの大きさでポリヌクレオチドをスポッター等で点着する方式などが知られている。
【0052】
サンプルは、植物の発生から植物体までの種々の成長段階における組織又は細胞から取り出した全RNAからcDNAを合成し、これを使用してもよいし、或いはcDNAからさらにin vitro転写によってcRNAを合成し、これを使用してもよい。標識としては、通常、蛍光色素、例えばCy3(緑)、Cy5(赤)などが使用される。
【0053】
本発明のマイクロアレイを使用することによって、植物の種々の成長段階(例えば花芽形成の段階、発根の段階など)、或いは薬剤の処理、挿し木などの事象(event)後などにおいて、特定のプローブとハイブリダイズした遺伝子を同定することによって、特定の段階又は特定の事象における特定の遺伝子の機能や、植物の形態形成との関わりを推定することが可能となる。
【0054】
マイクロアレイの解析から得られた知見に基づいて、植物の形態形成、例えば器官形成、を分子レベルで制御することが可能となり、発根や花芽の制御、成長の促進、嵩の増大、ストレス耐性の付与、植物の維管束組織における肥大成長、植物の根器官において根毛を発生させること、挿し木等において茎組織より根を発生させること、植物の花器官において花被部分を生殖器官へ変換することなどを可能としうる。ここで、制御とは、促進又は抑制をいう。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0056】
本発明のDNA断片は、以下のようにして製造し、利用した。なお、実験手法に関しては、特に記載のない限り、「Molecular Cloning A Laboratory Mannual(Sambrookら(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press)」等の当技術分野において公知の実験書に基づいて実施した。
【0057】
(実施例1)ユーカリからの低分子RNAの取得
(1)total RNAの抽出
王子製紙(株)森林資源研究所内(三重県、亀山)に生育中の10年生ユーカリ・グランディス(Eucalyptus grandis)を液体窒素中で粉砕し、Concert Plant RNA Regent(インビトロジェン社)を用いてRNAを抽出し、1mgのtotal RNAを得た。
【0058】
(2)低分子RNAの精製
上記total RNA全量を用いてエタノール沈殿・乾燥を行い、DEPC処理水100μLに溶解した。一部を用いてOD測定を行い濃度を算出した後、100μg相当のtotal RNAを15%変性ポリアクリルアミドゲルで泳動し、18〜26塩基に相当するsmall RNA画分の分離・回収を行った。この時、マーカーとしては18merと26merの合成RNAを用いた。また、アクリルアミドゲルからのsmall RNA画分の回収にはsmall RNA Gel Extraction Kit(TaKaRa Bio)を用いた。最終的にDEPC処理水40μLで溶出した後、サンプルの一部を用いてAgilent 2100 Bioanalyzerによる純度チェックおよび定量を行った。
【0059】
(3)低分子RNA由来cDNAライブラリーの作製並びに塩基配列の決定
精製したsmall RNA画分を用いて、Megacloneマイクロビーズの作製を行なった。各操作は基本的に文献記載の方法(Brenner et al. Proc Natl Acad Sci U S A 97(4): 1665-1670 ; Brenner et al. Nat. Biotechnol 18(6): 630-634 ; Ruan et al. Trends. Biotechnol 22(1): 23-30)を基に、タカラバイオ社(京都)へ委託した。
【0060】
1)Tagライブラリーの調製
まず、small RNA 画分20 ng相当をBacterial Alkaline Phosphataseで処理し5'側のリン酸基を外した後、small RNAの3’側にDNA/RNAキメラアダプター(3'アダプター)を結合させた。次に、15%変性ポリアクリルアミドゲルで泳動し、アダプターが結合したsmall RNA画分の分離・回収を行った。この時、マーカーとしては18merと26merの合成RNAに3'アダプターを結合させたものを用いた。また、アクリルアミドゲルからのsmall RNA画分の回収にはsmall RNA Gel Extraction Kit(TaKaRa Bio)を用いた。精製した3'アダプター結合small RNAをT4 DNA Polynucleotide Kinaseで処理し5'末端にリン酸基を付与した後、5'側に異なるDNA/RNAキメラアダプター(5'アダプター)を結合させた。その後、3'アダプターに相補的なプライマーおよび逆転写酵素を用いて逆転写を行い、cDNA合成を行った。このcDNAを鋳型として、5'アダプターおよび3'アダプターに相補的なプライマーを用いてPCRを行った。なお、基質として5メチルdCTPを含むdNTP 混合液を用いた。次に両アダプター配列に組み込まれているSfa NIサイトを利用して、Sfa NI消化によりsmall RNA由来cDNA配列(以下Signature配列と呼ぶ)を含むDNA断片を調製し、20%未変性ポリアクリルアミドゲルで泳動後、分離・回収を行った。得られたDNA断片をTag vector内のTag配列に隣接して一定の方向でライゲーションした。反応液の一部を用いて大腸菌の形質転換効率(タイター)を算出し、タイター = 約1.4 x 106相当のプラスミドDNAを調製してTagライブラリーとした。同時に、得られたコロニーについて、96個のプラスミドDNAのシーケンスを行い、ライブラリー中のインサートの形状を確認した。
【0061】
2)Megacloneマイクロビーズの調製
プラスミドDNAを鋳型としてTag配列とcDNAを含む部分をPCRにて増幅した。この際、cDNA側のプライマーに5’蛍光標識したものと5'Biotin標識したものを同時に用いて、蛍光標識されたDNA断片とBiotin標識されたDNA断片の混合増幅産物を得た。各DNA断片のTag配列側を制限酵素Pac Iで消化後、dGTPを含む反応溶液中でT4 DNAポリメラーゼを作用させることによりTag配列部分を一本鎖化し、loadable DNAを調製した。
【0062】
Anti-Tagビーズとloadable DNAを混合し、Tag配列とAnti-Tag配列をハイブリダイズさせることにより各ビーズに対して各cDNA断片を選択的に結合させた。StreptavidinマグネットビーズによりDNAをloadしたビーズを吸着させた後、蛍光強度をモニターしながら洗浄して非特異的な結合を排除しcDNAが結合したビーズを精製した。
【0063】
精製・回収したビーズは、cDNAとAnti-Tagの間のギャップをT4 DNA polymeraseを用いて埋めると共に、T4 DNA ligaseを用いて共有結合を形成させた後、制限酵素Dpn IIで消化してcDNAから蛍光基を含むベクター由来の配列を除去し、2つに分けてそれぞれにMPSS用の2-stepperあるいは4-stepperアダプターを結合させ、Megacloneマイクロビーズを作製した。
【0064】
3)MPSS装置によるSignature配列の読み取り
2-stepper用、4-stepper用に各1枚のフローセルを使用し、各フローセルあたり約1.3 x 106個のビーズを充填した。フローセルをMPSS用解析装置にセットし、参考文献(Brenner S.ら Nature Biotech., 18:630-634 (2000))に記載の方法に準じて酵素反応を繰り返し各Megacloneマイクロビーズ上のSignature配列の22塩基部分までを読み取った。すなわち、(1)Bbv I消化による読み取り部位の1本鎖化、(2)Encodedアダプターの結合、(3)Decoderプローブによる塩基配列の読み取り、の各ステップを繰り返し、4-stepperアダプターを結合させたフローセルのビーズでは5’末端から4塩基単位で合計22塩基を、2-stepperアダプターを結合させたフローセルのビーズでは4-stepperの読み枠を2塩基ずらして、4塩基単位で合計22塩基を読み取った。それぞれのDecoderプローブとハイブリダイズしたビーズの蛍光画像データから、各ビーズの蛍光強度を数値化し、シグナル強度、S/N比、ビーズのずれの有無などについて基準を満たしたSignature配列を有効と判定し、以降の解析に用いた。
【0065】
4)Signature配列の抜き出し及びフィルタリング
各フローセルから読み取られた22塩基の配列からアダプター由来配列に相当する部分を外すと共に信頼性の低い配列データをフィルタリングして除去し、100万個当たりの転写産物の数(tpm: transcripts per マイクロllion)に変換した。MPSSの結果を表1にそれぞれ示した。表中、「Beads」は各フローセルで有効なデータが得られたビーズ(配列)数、「Signatures」は読み取られたSignature配列の種類をそれぞれ示す。
【0066】
【表1】

【0067】
(実施例2)ユーカリからのマイクロRNAの取得
実施例1により取得したSignature 配列の中からマイクロRNA 候補配列を探索するため、Signature 配列を含むゲノムcontig 上の近傍配列の二次構造予測を行った。かずさDNA研究所より提供されたユーカリゲノムのcontig 配列およびsinglet 配列に対し、signature 配列のマッピングを行った。2 塩基ミスマッチ までを許容し、mapping した位置から(1)上流128base および下流128base、(2)上流228base および下流228base のゲノム配列を取得した。解析に使用したcontig 配列およびsinglet 配列およびsignature 配列は以下の通りである。
・ contig 配列:17,311
・ singlet 配列:21,880
・ signature 配列:29,783(rRNA 等フィルタリング済みの配列)
これらに対し、Signature 配列を含む150base および250base のウィンドウを5 base 毎にずらし、各ウィンドウに含まれる配列に対し、それぞれ二次構造予測を行った。最小の自由エネルギーをもつ構造が以下の基準を満たす配列をマイクロRNA 候補とした。ただし、Internal loop とBulge のチェックは、Signature よりloop 側の配列に対して行った。
・stem-loop 構造を有する。
・Signature 配列を含む22base が16 base 以上の相補鎖を有する。
・Loop が20 base 以下である。
・Internal loop が10 base 以下である。
・Bulge が5 base 以下である。
【0068】
Signature 配列に中に既知マイクロRNA が含まれるかどうかをみるため、既知マイクロRNA に対して相同性検索を行った。既知マイクロRNA の情報は次のデータベースを用いた。
miRBase v8.2 (http://microrna.sanger.ac.uk/)
【0069】
解析における配列数の推移を表2に示した。基準を満たす構造を有する配列は合計751 配列(配列番号1〜751)であった。
【0070】
【表2】

【0071】
(実施例3) ユーカリマイクロRNAの発現解析
実施例2で得られたユーカリマイクロRNAの発現量を調べるため、ユーカリ蕾を材料に用いて、ノーザンハイブリダイゼーション法により解析を実施した。実施例1と同様の方法でユーカリ蕾からtotal RNAを抽出し、さらにmirVana miRNA Isolation Kit(アプライドバイオシステムズ社)を用いてsmall RNAの濃縮を行った。small RNA の濃縮はキットのtotal RNAからsmall RNAを単離する方法に従い行った。次にsmall RNA 10 μgを15% TBE/Urea gel(インビトロジェン社)で電気泳動し、トランスブロットSDセル セミドライブロッティング装置(バイオラッド社)を用いてハイブリダイゼーション用メンブレンにブロッティングした。プローブは、実施例2で得られた全マイクロRNA751個より、既知報告とは相同性を有さないに4つのマイクロRNA配列(配列番号297,320,546及び263)を抽出し、その相補DNAを人工合成し、Dig Oligonucleotide Tailing Kit, 2nd Generation(ロシュ社)で標識して使用した。ハイブリダイゼーションはDig Easy Hyb(ロシュ社)にpoly(A)(終濃度0.1mg/ml), poly(dA) (終濃度2μg/ml)を加えた37℃の溶液中において一晩インキュベーションし、37℃の2xSSC溶液を洗浄溶液として2回洗浄した。その後プローブをアルカリホスファターゼ標識抗ジコキシゲニン抗体、Fabフラグメント(ロシュ社)と反応させ、化学発光基質CDP-Star(ロシュ社)との反応で得られる発光をLAS3000システム(富士フィルム社)により解析した。その結果、ユーカリ蕾において、これら4つの全てのマイクロRNAの発現を検出することに成功した(図1)。これらのマイクロRNAはこれまでに植物で報告されているものと異なり、ユーカリ蕾において新規なマイクロRNAが発現していることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の核酸情報を用いることにより、植物、特に樹木植物において、その成長を促進したり、その嵩を増大したり、又はストレス耐性を高めたりすることを目的として、肥大(生長)、発根、花芽等を適宜制御することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明のマイクロRNAの発現を検出したことを示すハイブリダイゼーション結果を示す。レーン1〜4はそれぞれ配列番号297,320,546及び263のマイクロRNAの発現を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の形態形成の制御に使用するための、下記(a)〜(h)のDNA及びRNAからなる群から選択される核酸、又はその複数の核酸からなる核酸組合せ物。
(a) 配列番号1〜751のいずれかの塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号1〜751のいずれかの塩基配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列からなるDNA
(c) 上記(a)のDNAに相補的なDNA
(d) 上記(b)のDNAに相補的なDNA
(e) 上記(a)のDNAをコードするRNA
(f) 上記(b)のDNAをコードするRNA
(g) 上記(c)のDNAをコードするRNA
(h) 上記(d)のDNAをコードするRNA
【請求項2】
配列番号1〜751のいずれかの塩基配列又はその配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列と、該塩基配列に対して相補的な塩基配列とを含む二本鎖DNAをコードする、植物の形態形成の制御に使用するためのsiRNAである核酸、又はその核酸組合せ物。
【請求項3】
植物が樹木である、請求項1又は2に記載の核酸又は核酸組合せ物。
【請求項4】
樹木がユーカリ属植物である、請求項3に記載の核酸又は核酸組合せ物。
【請求項5】
siRNAが、そのセンス鎖及びアンチセンス鎖の3'末端にオーバーハング配列をさらに含む、請求項2に記載の核酸又はその核酸組合せ物。
【請求項6】
siRNAが、そのセンス鎖とアンチセンス鎖の間にループ配列をさらに含む、請求項2に記載の核酸又はその核酸組合せ物。
【請求項7】
配列番号1〜751のいずれかの塩基配列、又はその配列と少なくとも80%の同一性を有する塩基配列、を含むDNAを含むベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターを含む形質転換微生物又は形質転換植物細胞。
【請求項9】
請求項8に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物。
【請求項10】
植物がユーカリ属植物などの樹木である、請求項9に記載の形質転換植物。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の核酸又はその核酸組合せ物、或いは請求項7に記載のベクター、或いは請求項8に記載の形質転換植物細胞又は形質転換微生物を使用することを特徴とする、植物の形態形成の制御方法。
【請求項12】
器官の形態形成の制御である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載の(a)〜(h)の核酸からなる群から選択される核酸の組合せ物を含むマイクロアレイ。
【請求項14】
核酸がRNAである、請求項13に記載のマイクロアレイ。
【請求項15】
核酸がDNAである、請求項13に記載のマイクロアレイ。
【請求項16】
植物の形態形成を制御する物質をスクリーニングするためのものである、請求項13〜15のいずれか1項に記載のマイクロアレイ。
【請求項17】
植物の形態形成に関与する遺伝子、その転写産物またはその翻訳産物を同定するためのものである、請求項13〜15のいずれか1項に記載のマイクロアレイ。
【請求項18】
請求項9又は10に記載の形質転換植物由来の種子。
【請求項19】
請求項9又は10に記載の形質転換植物の後代。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−228713(P2008−228713A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77431(P2007−77431)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(596175810)財団法人かずさディー・エヌ・エー研究所 (40)
【Fターム(参考)】