説明

植物の形態改変方法

【課題】植物の木部形成制御因子をコードするDNA、そのプロモーターDNAに関し、異所的に他器官で発現させることによる植物の花や葉、体高等の形態改変方法等を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明者らは、ユーカリより得られた木部細胞の形態形成を制御する転写制御因子を異所的に発現させ、それらの植物体各器官の改変効果を解析することを考えた。そこで、異所的な発現効果を解析するため、植物体の全ての器官で恒常的に過剰発現させることができるプロモーターとユーカリ木部形成転写制御因子をタバコおよびユーカリに導入して、その効果を解析した。その結果、花や葉・体高等の形態改変に成功した。このように、本発明者らは、ユーカリ木部形成制御因子を異所的に発現させることで、木部に加えて植物体の形態も改変することが可能であることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花や葉・体高等の形態が改変された植物体の生産方法及びこれを用いて得られる植物体、並びにその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
植物において花や葉・体高等の形態改変は、新規な花卉園芸植物の創出や、穀物やバイオマスの効率的生産に利用できる等、農業・産業上の有用性が高い。従来の植物の形態改変方法としては、同種又は近縁品種を掛け合わせる交配育種、放射線等の変異処理による変異育種があげられる。しかし、これらの従来型育種では、目的とする形態を有する植物を生産するためには、長い年月と、熟練者の経験が必要であるため、簡易かつ確実に植物の形態を改変する方法が求められている。
【0003】
植物の形態を効率的に改変する方法として、近年では遺伝子組換え法(形質転換)による分子育種が盛んに行われている。これまでに、例えば遺伝子工学的に花の形態を改変する方法としては、花びらの形成を制御する遺伝子の一つであるシロイヌナズナのAPETALA3(AP3)遺伝子の発現をAP3遺伝子のプロモーター領域に結合するリプレッサーを用いて抑制し、AP3遺伝子の変異体と同様な表現型を得る方法が知られている(非特許文献1)。また、遺伝子工学的に葉の形態を改変する方法としては、葉の形態形成に関わると推定される制御因子に抑制ドメインを結合させたキメラ遺伝子を導入する方法が知られている(特許文献1〜3)。さらに、遺伝子工学的に体高を改変する方法としては、植物ホルモンであるサイトカイニンの合成に関与する遺伝子の一つであるサイトカイニン水酸化酵素遺伝子を導入する方法が知られている(特許文献4)。しかしながら、先行技術において得られている形質転換植物体の形態は、多くの場合異常もしくは産業上有用でない形態を呈しているため、商業的価値のある効果をもたらしているとは言い難い。
【0004】
近年、木部形成に関与する転写制御因子が、いくつか報告されている。非特許文献2では、木部細胞に形成される二次細胞壁中の一成分であるフェニルプロパノイド合成系(リグニン等)に関わる酵素遺伝子群のMYB転写制御因子について報告されている。また、非特許文献3では、草本の木部導管細胞の分化に関与するNACファミリー制御因子が報告されている。また、非特許文献4では、草本の束間繊維細胞の分化に関与するNACファミリー制御因子が報告されている。これらの遺伝子を過剰発現させた場合、木部の各細胞について何らかの変化が認められてはいる。しかしながら、他の器官におけるそれら制御因子の異所的発現効果については、わずかにわい化する程度の事例(非特許文献2と3)が報告されているのみであり、特段産業上有用と考えられるような事例の報告はない。このように、木部形成の制御因子の異所的発現効果、つまり花や葉・体高等の形態改変効果についての知見は、非常に乏しい。
【0005】
本発明の先行技術文献を以下に示す。
【特許文献1】特開2005-204573
【特許文献2】特開2006-6248
【特許文献3】特開2006-20607
【特許文献4】特開2006-314206
【特許文献5】WO2006/109424
【非特許文献1】Guan, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99: 13296-13301(2002)
【非特許文献2】Goicoechea et al., Plant Journal 43, 553-567(2005)
【非特許文献3】Kubo et al., GENES & DEVELOPMENT 19: 1855-1860(2005)
【非特許文献4】Zhong et al., Plant Cell 18: 3158-3170(2006)
【非特許文献5】Tamagnone et al., The Plant Cell 10: 135-154(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者らは、ユーカリより木部細胞の形態形成を制御する転写制御因子を種々見出している(WO2006/109424)。これらの転写制御因子が木部形成の改変効果を持つことは、当業者であれば容易に想到できるが、異所的に機能させた場合、どのような形態改変効果があるかは全くの不明であり、それらを明らかにする必要性は植物の産業利用を目指す上で非常に高い。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、木部形成制御因子の新しい用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、本課題を解決するためには、ユーカリより得られた木部細胞の形態形成を制御する転写制御因子を異所的に発現させ、それらの植物体各器官の改変効果を解析することが望ましいとの結論に至った。
次に本発明者らは、異所的な発現効果を解析するため、植物体の全ての器官で恒常的に過剰発現させることができるカリフラワーモザイクウィルス由来の35Sプロモーターを用いることを考えた。つまり、ユーカリ木部形成転写制御因子を35Sプロモーターの下流にクローニングし、モデルとなる植物に導入することで、一度に全ての器官における異所的発現効果を解析できることが期待できる。
次に本発明者らは、モデルとなる植物として、シロイヌナズナではなく、タバコ及びユーカリを用いることを考えた。シロイヌナズナの植物体の形態は、例えば葉はロゼッタ葉であり、花も目立った花茎が形成された後に着花する。この形態は、茎と葉があり、その先端に着花するという一般的な植物の形態とは若干異なる。それに対してタバコ及びユーカリは、一般的な植物の形態を呈しており、かつ二次木部の形成等に見られるように、木本植物とも非常に多くの共通点を持つことから、異所的発現効果を各器官で解析するには最も適したモデル植物であると言える。
このように本発明者らは、植物体の全ての器官で恒常的に過剰発現させることができるプロモーターとユーカリ木部形成転写制御因子をタバコ及びユーカリに導入して、その効果を解析した。その結果本発明者らは、木部の改変効果だけではなく花や葉・体高等の形態改変効果を見出すことに成功した。
【0008】
このように本発明は、ユーカリ木部形成制御因子を異所的に発現させることで、植物の形態を改変することが可能であるという知見に基づくものである。即ち、本発明は、植物の転写因子をコードするDNA、そのプロモーターDNA断片、並びにその利用に関し、以下の〔1〕〜〔23〕を提供するものである。
〔1〕下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNAで形質転換された植物体であって、花、葉、及び体高からなる群より選択される1以上の形態が改変された植物体;
(a)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔2〕下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNAで形質転換された植物体であって、体高が減少した植物体;
(a)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:1又は2に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔3〕下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNAで形質転換された植物体であって、木部の繊維形態が改変された、及び/又は成長量が増加した植物体;
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔4〕下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNAで形質転換された植物体であって、木部の繊維形態が改変された、及び/又は花の形態が改変した植物体;
(a)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔5〕下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNAで形質転換された植物体であって、木部の繊維形態が改変された、及び/又は着葉数が増加した植物体;
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔6〕植物がタバコ、ユーカリ、ポプラ、マツ、アカシア、スギ、ヒノキ、モミ、チューリップ、バラ、カーネーション、ラン、モンステラ、クワズイモ、イネ、ムギ、コーン、ダイズ、サトウキビからなる群より選択される、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の植物体。
〔7〕〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の植物体から単離された細胞。
〔8〕〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の植物体の繁殖材料。
〔9〕〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の植物体から単離された器官。
〔10〕下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の花、葉、及び体高からなる群より選択される1以上の形態を改変する方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔11〕下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の体高を減少させる方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:1又は2に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔12〕下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の成長量を増加させる方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔13〕下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の花の形態を改変する方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔14〕下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の着葉数を増加させる方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔15〕下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の木部の繊維形態を改変する方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔16〕植物がタバコ、ユーカリ、ポプラ、マツ、アカシア、スギ、ヒノキ、モミ、チューリップ、バラ、カーネーション、ラン、モンステラ、クワズイモ、イネ、ムギ、コーン、ダイズ、サトウキビからなる群より選択される、〔10〕から〔15〕のいずれかに記載の方法。
〔17〕下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の花、葉、及び体高からなる群より選択される1以上の形態を改変するための薬剤;
(a)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔18〕下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の体高を減少させるための薬剤;
(a)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:1又は2に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔19〕下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の成長量を増加させるための薬剤;
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔20〕下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の花の形態を改変するための薬剤;
(a)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔21〕下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の着葉数を増加させるための薬剤;
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔22〕下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の木部の繊維形態を改変するための薬剤;
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔23〕植物がタバコ、ユーカリ、ポプラ、マツ、アカシア、スギ、ヒノキ、モミ、チューリップ、バラ、カーネーション、ラン、モンステラ、クワズイモ、イネ、ムギ、コーン、ダイズ、サトウキビからなる群より選択される、〔17〕から〔22〕のいずれかに記載の薬剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のDNAを利用することにより、植物の木部性質の改変効果のみならず、花や葉・体高等の形態形成を人為的に制御し、その形態を改変することが可能となった。即ち本発明のDNAは、新規な美的価値を持つ花卉園芸植物の創出や、穀物やバイオマスの増産・効率的生産に利用できる等、農業・産業上の有用性が高い。
【0010】
〔発明の実施の形態〕
本発明は、木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAで形質転換された植物体であって、花、葉、及び体高からなる群より選択される1以上の形態が改変された植物体を提供する。
植物体の形態が改変されたか否かは、対照と比較することによって判断することが出来る。本発明において対照とは、本発明の形質転換植物体と同じ種の植物体であって、本発明のDNAが人工的に導入されていない植物体を意味する。本発明における対照は、形質転換植物体と同じ種の植物体であって本発明のDNAが人工的に導入されたものでない限り何ら限定されない。従って本発明の対照には、本発明のDNA以外のDNAが導入された植物体も含まれる。このような植物体の例としては、例えば、本発明の形質転換植物体と同じ種の植物体であって、本発明のDNA以外のDNAで形質転換された植物体、本発明のDNAの機能欠失変異導入のDNAで形質転換された植物体、本発明のDNAの機能抑制型に変換されたDNAで形質転換された植物体、本発明のDNAの機能発現に不十分な領域のDNA断片で形質転換された植物体などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0011】
本発明の木部形成に関与する転写制御因子としては、例えば、ID#77629 CCAAT結合制御因子が挙げられる。ID#77629 CCAAT結合制御因子をコードするDNAとしては、例えば、
(a)配列番号:5に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:5に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
が挙げられる。
【0012】
また本発明の木部形成に関与する転写制御因子として、例えば、ID#72062 WRKY制御因子が挙げられる。ID#72062 WRKY制御因子をコードするDNAとしては、例えば、
(a)配列番号:6に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:2に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
が挙げられる。
【0013】
また本発明の木部形成に関与する転写制御因子として、例えば、ID#73448 HD-Zip II制御因子が挙げられる。ID#73448 HD-Zip II制御因子をコードするDNAとしては、例えば、
(a)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
が挙げられる。
【0014】
また本発明の木部形成に関与する転写制御因子として、例えば、ID#74387 MYB 制御因子が挙げられる。ID#74387 MYB 制御因子をコードするDNAとしては、例えば、
(a)配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
が挙げられる。
【0015】
なお上記配列番号:1から4に記載の塩基配列のアミノ酸コード領域は下記の通りである。
ID# 77629CCAAT 結合制御因子
配列番号:1によって示される塩基配列では、第87位〜第662位がアミノ酸コード領域(配列番号:5)である。
ID# 72062WRKY 制御因子
配列番号:2によって示される塩基配列では、第48位〜第2300位がアミノ酸コード領域(配列番号:6)である。
ID# 72448HD-Zip II 制御因子
配列番号:3によって示される塩基配列では、第23位〜第778位がアミノ酸コード領域(配列番号:7)である。
ID# 74387MYB 制御因子
配列番号:4によって示される塩基配列では、第128位〜第790位がアミノ酸コード領域(配列番号:8)である。
また本発明において「含む」には、「含む」および「からなる」のいずれの意味も含まれる。
【0016】
また本発明は、ID#77629 CCAAT結合制御因子をコードするDNA又はID#72062 WRKY制御因子をコードするDNAで形質転換された植物体であって、体高が減少した植物体を提供する。
本発明において体高とは、植物体地上高を意味する。体高が減少したか否かは地上高を計測し対照と比較することによって判定することが出来る。本発明においては、体高がわずかでも減少する限り、「体高が減少した」の意に含まれる。本発明のID#77629 CCAAT結合制御因子をコードするDNAは、植物の体高のみを減少させることを特徴とする(図1)。またID#72062 WRKY制御因子をコードするDNAは、体高を減少させ、かつ葉を小さくすることを特徴とする(図2)。ID#77629 CCAAT結合制御因子をコードするDNAおよびID#72062 WRKY制御因子をコードするDNAはいずれも、花の形態には影響を与えない。通常、植物が矮小化する場合、全ての器官が矮小化する。しかし、ID#77629 CCAAT結合制御因子をコードするDNAおよびID#72062 WRKY制御因子をコードするDNAは、体高や葉など一部の器官のみを矮小化するという特徴を有する。
本発明におけるID#77629 CCAAT結合制御因子をコードするDNAおよびID#72062 WRKY制御因子をコードするDNAで形質転換された植物体は、体高が減少している限り何ら制限されず、植物の他の部位が改変されていてもよい。他の部位の改変としては、例えば、花の幅及び/又は長さの減少、着葉数の減少、葉の幅及び/又は長さの減少、葉の面積及び/又は厚みの減少、根の長さ及び/又は太さの減少、茎の幅及び/又は長さの減少、種子の大きさの減少、着果数の減少などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
また本発明は、ID#73448 HD-Zip II制御因子をコードするDNA又はID#74387 MYB制御因子をコードするDNAで形質転換された植物体であって、木部の繊維形態が改変され、かつ成長量が増加した植物体を提供する。
本発明において「木部の繊維形態が改変した」とは、形質転換前と比較して、植物木部の繊維長、繊維幅、壁厚の少なくとも1つが増加することを意味する。また形質転換前と比較してルンケル比が変化することを意味する。本発明においてルンケル比とは、細胞壁厚の2倍の値を細胞腔の直径で割った値を意味する。
繊維長、繊維幅、壁厚が増加したか否かは、繊維長、繊維幅、壁厚を計測することによって判定することが出来る。ルンケル比が変化したか否かは、壁厚及び細胞腔の直径を計測し、計算によってルンケル比を導き出すことによって判定することが出来る。本発明においては、植物木部の繊維長、繊維幅、壁厚の少なくとも1つがわずかでも増加する限り、またルンケル比がわずかでも変化する限り、「木部の形態が改変した」の意に含まれる。
本発明において「成長量の増加」とは、体高の増加、茎直径の肥大、葉数の増加、葉面積の増加、着花の増加、乾燥重量の増加を意味する。成長量が増加したか否かは体高、茎直径、葉数、葉面積、着花の数、乾燥重量を計測し対照と比較することによって判定することが出来る。本発明においては、成長量がわずかでも増加する限り、「成長量が増加した」の意に含まれる。
【0018】
また本発明は、ID#73448 HD-Zip II制御因子をコードするDNAで形質転換された植物体であって、木部の繊維形態が改変された、及び/又は花の形態が改変した植物体を提供する。
本発明における「花の形態の改変」には、花の幅の増加、花の長さの増加、花弁の形態の改変が含まれるがこれらに限定されない。本発明において花の幅とは、花弁によって構成される花器官の最大直径を意味する。花の幅が増加したか否かは花器官の最大直径を計測し対照と比較することによって判定することが出来る。本発明においては、花の幅がわずかでも増加する限り、「花の幅が増加した」の意に含まれる。
また本発明において花の長さとは、萼と花柄の境から最も離れた花弁の先端までを意味する。花の長さが増加したか否かは萼と花柄の境から最も離れた花弁の先端までを計測し対照と比較することによって判定することが出来る。本発明においては、花の長さがわずかでも増加する限り、「花の長さが増加した」の意に含まれる。
また本発明における「花の形態の改変」には、花弁の形態の改変に伴う花の形態の改変も含まれる。例えば、花弁の形態の改変により、花弁と花弁の間のくびれがなくなり、花の形態が改変することが挙げられる。より具体的には、本発明における「花の形態の改変」には、図3Eの矢印で示されているように、花弁と花弁の間にくびれがあるため花全体の形態が星型であったものが、円に近い五角形になることが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0019】
また本発明は、ID#73448 HD-Zip II制御因子又はID#74387 MYB 制御因子をコードするDNAで形質転換された植物体であって、木部の繊維形態が改変された、及び/又は着葉数が増加した植物体を提供する。
本発明において着葉数とは、植物体において一定期間内に形成される葉の数もしくはその生涯(枯死まで)に形成する葉の数を意味する。着葉数が増加したか否かは葉数を計測し対照と比較することによって判定することが出来る。本発明においては、着葉数がわずかでも増加する限り、「着葉数が増加した」の意に含まれる。
【0020】
本発明の「木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNA」は、ユーカリ又はユーカリ以外の植物において木部形成に関与する転写制御因子をコードしうるものであれば、その形態に特に制限はなく、cDNAの他、ゲノムDNA、化学合成DNAなども含まれる。また、木部形成に関与する転写制御因子をコードするものであれば、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAが含まれる。
【0021】
ゲノムDNA及びcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、植物からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNA(例えば、配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAに特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、ユーカリ又はユーカリ以外の植物から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0022】
また本発明のDNAは、木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAである限り、配列番号:5〜8のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードするDNAのみならず、該タンパク質に構造的に類似したタンパク質をコードするDNA(例えば、変異体、誘導体、アレル、バリアント及びホモログ)を用いることもできる。このようなDNAには、例えば、それぞれ配列番号:1〜4のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAが含まれる。
【0023】
このようなDNAを単離するための当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E. M., Journal of Molecular Biology, Vol. 98, 503, 1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K., et al. Science, vol. 230, 1350-1354, 1985, Saiki, R. K. et al. Science, vol.239, 487-491,1988)が挙げられる。即ち、当業者にとっては、ユーカリ又はユーカリ以外の植物において木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAの塩基配列(例えば、配列番号:1〜4のいずれかに記載の配列)もしくはその一部をプローブとして、またユーカリ又はユーカリ以外の植物において木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAに特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、種々の植物から配列番号:1〜4に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAを単離することは通常行いうることである。
【0024】
このようなDNAを単離するためには、通常ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1×SSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5×SSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2×SSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。単離されたDNAの相同性は、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993) に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength =12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0025】
ハイブリダイゼーション技術によって単離されたDNAからコードされるタンパク質は、以下に示す構造的特徴(ドメイン)をそれぞれ有することが好ましい。77629CCAATはCBFドメイン、HAP2ドメイン、72062WRKYはWRKYドメイン、72448HD-Zip IIはホメオドメイン、leucine zipperドメイン、74387MYBはSANTドメイン、Myb DNA bindingドメイン、REB1ドメイン。
【0026】
木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAを利用して形質転換植物体を作製するには、該DNAが挿入されたベクターを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞から植物体を再生させればよい。
本発明におけるベクターとしては、植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものが好ましく、例えばpMH1、pMH2などのベクターが挙げられるが、特に制限はない。本発明のベクターは、例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、ジャガイモ・キチナーゼ遺伝子SK2のプロモーター、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター等)を有していてもよい。特に本発明においては、本発明の遺伝子を異所的に発現させるという観点から、植物体全体で発現誘導するプロモーターや、茎頂特異的プロモーター、葉特異的プロモーター、花特異的プロモーターなどのプロモーターを使用することが好ましい。このようなプロモーターを使用する場合、プロモーターの下流に、本発明の木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAが機能的に結合したDNAを設計する。そして設計されたDNAを含むベクターを植物細胞に導入する。これにより得られた形質転換植物細胞を再生させることによって、本発明の遺伝子が異所的に発現された形質転換植物体を得ることが出来る。本発明はこのように、プロモーターの下流に、本発明の木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAが機能的に結合したDNAも提供する。ここで「機能的に結合」とは、プロモーター配列に転写因子が結合することにより、本発明の木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAの発現が誘導されるように、プロモーター配列と該DNAとが結合していることを言う。
なおこれら以外にも、外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。
【0027】
本発明のDNAの細胞への導入は、当業者においては、例えば、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法等の公知の方法によって実施することができる。
【0028】
また植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et. al., Plant Physiol. 100: 1503-1507, 1995)。例えば、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Datta et. al., In Gene Transfer To Plants (Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74, 1995)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Toki et. al., Plant Physiol. 100: 1503-1507, 1992)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et. al., Bio/technology, 9: 957-962, 1991)及びアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et. al., Plant J. 6: 271-282, 1994)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0029】
上記アグロバクテリウム法を用いる場合、例えばNagelらの方法(Microbiol. Lett. 67: 325, 1990)が用いられる。この方法によれば、組み換えベクターをアグロバクテリウム細菌中に形質転換して、次いで形質転換されたアグロバクテリウムを、リーフディスク法等の公知の方法により細胞に導入する。上記ベクターは、例えば植物体に導入した後、本発明の木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAが植物体中で発現するように、発現プロモーターを含む。一般に、該プロモーターの下流には本発明の木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAが位置し、さらに該DNAの下流にはターミネーターが位置する。この目的に用いられる組み換えベクターは、植物への導入方法、又は植物の種類に応じて、当業者によって適宜選択される。上記プロモーターとして、例えばカリフラワーモザイクウイルス由来のCaMV35S、トウモロコシのユビキチンプロモーター(特開平2-79983号公報)等を挙げることができる。
なお形質転換ユーカリの作出は、実施例に記載されているように、例えば特許3565284及び特開2002-281851に記載の方法に従って行うことが出来るが、これに限定されない。
【0030】
また、上記ターミネーターは、カリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーター、あるいはノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーター等を例示することができるが、植物体中で機能するプロモーターやターミネーターであれば、これらに限定されない。
【0031】
また、本発明の木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAを導入する植物は、外植片であってもよく、これらの植物から培養細胞を調製し、得られた培養細胞に導入してもよい。本発明の「植物細胞」は、例えば葉、根、茎、花及び種子中の胚盤等の植物の細胞、カルス、懸濁培養細胞等が挙げられる。
【0032】
また、本発明の木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAの導入により形質転換した細胞を効率的に選択するために、組み換えベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子、もしくは選抜マーカー遺伝子を含むプラスミドベクターと共に植物細胞へ導入するのが好ましい。この目的に使用する選抜マーカー遺伝子は、例えば、抗生物質ハイグロマイシンに耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシン又はゲンタマイシンに耐性であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、及び除草剤ホスフィノスリシンに耐性であるアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。
【0033】
組み換えベクターを導入した細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類に従って適当な選抜用薬剤を含む公知の選抜用培地に置床し培養する。これにより形質転換された植物培養細胞を得ることができる。
【0034】
形質転換細胞から再生させた植物体は、次いで順化用培地で培養する。その後、順化した再生植物体を、通常の栽培条件で栽培すると、花、葉、及び体高からなる群より選択される1以上の形態が改変された植物体が得られ、成熟して結実して種子を得ることができる。即ち本発明は、下記(a)及び(b)の工程を含む、形質転換植物体の製造方法を提供する。
(a)木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程。
【0035】
なお、このように再生され、かつ栽培した形質転換植物体中の導入された外来DNAの存在は、公知のPCR法やサザンハイブリダイゼーション法によって、又は植物体中のDNAの塩基配列を解析することによって確認することができる。この場合、形質転換植物体からのDNAの抽出は、公知のJ.Sambrookらの方法(Molecular Cloning、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に準じて実施することができる。再生させた植物体中に存在する本発明のDNAよりなる外来遺伝子を、PCR法を用いて解析する場合には、再生植物体から抽出したDNAを鋳型として増幅反応を行う。また、本発明のDNAの塩基配列に従って適当に選択された塩基配列をもつ合成したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、これらを混合させた反応液中において増幅反応を行うこともできる。増幅反応においては、DNAの変性、アニーリング、伸張反応を数十回繰り返すと、本発明のDNA配列を含むDNA断片の増幅生成物を得ることができる。増幅生成物を含む反応液を例えばアガロース電気泳動にかけると、増幅された各種のDNA断片が分画されて、そのDNA断片が本発明のDNAに対応することを確認することが可能である。
【0036】
一旦、染色体内に本発明の木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖又は無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから細胞や器官、繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)と単離し、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の器官(例えば花、葉、根、茎等)、該植物体の子孫及びクローン、並びに該植物体、その子孫及びクローンの繁殖材料が含まれる。これらの植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の器官(例えば花、葉、根、茎等)、該植物体の子孫及びクローン、並びに該植物体、その子孫及びクローンの繁殖材料は、植物の花、葉、及び体高からなる群より選択される1以上の形態を改変する方法に使用することが可能である。
【0037】
なお本発明の植物としては、観賞用植物、食糧用植物、工業用植物などが挙げられる。このような植物には、木本植物及び草本植物が含まれる。木本植物としてはユーカリ、ポプラ、マツ、アカシア、スギ、ヒノキ、モミ、コウゾ、ミツマタが挙げられるがこれらに限定されない。また草本植物としてはケナフ、パピルス、タバコ、チューリップ、バラ、カーネーション、ラン、モンステラ、クワズイモ、イネ、ムギ、コーン、ダイズ、サトウキビが挙げられるがこれらに限定されない。
【0038】
本発明はさらに、下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の形態を改変する方法を提供する。
(a)木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程。
【0039】
本発明の「改変する」には、野生型の植物の形態を改変することのみならず、すでに何らかの変異が導入されている植物の形態を改変することも含まれる。ここで、すでに何らかの変異が導入されている植物において、その変異の種類や程度は限定されない。
本発明において、形態が改変される対象となる植物には特に制限はなく、例えば上述の植物を挙げることが出来る。
【0040】
上記方法において、木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAを含むベクターとしては、上述のものが挙げられる。また木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAを含むベクターの植物細胞への導入、及び、該植物細胞から植物体への再生も、上述の方法によって行うことが出来る。このような植物には、木本植物及び草本植物が含まれる。木本植物としてはユーカリ、ポプラ、マツ、アカシア、スギ、ヒノキ、モミ、コウゾ、ミツマタが挙げられるがこれらに限定されない。また草本植物としてはケナフ、パピルス、タバコ、チューリップ、バラ、カーネーション、ラン、モンステラ、クワズイモ、イネ、ムギ、コーン、ダイズ、サトウキビが挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
また本発明は、下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の花、葉、及び体高から選択される1以上の形態を改変する方法を提供する。
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程。
(i)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0042】
また本発明は、下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の体高を減少させる方法を提供する。
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程。
(i)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:1又は2に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0043】
また本発明は、下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の成長量を増加させる方法を提供する。
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程。
(i)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:3亦は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0044】
また本発明は、下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の花の形態を改変する方法を提供する。
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程。
(i)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0045】
また本発明は、下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の着葉数を増加させる方法を提供する。
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程。
(i)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0046】
また本発明は、下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の木部の繊維形態を改変する方法を提供する。
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0047】
また本発明は、植物の形態を改変するための薬剤を提供する。本発明の薬剤は例えば、形態が改変された植物を製造する際、又は植物の形態を改変する際に使用することが出来る。
より具体的には本発明は、下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の花、葉、及び体高からなる群より選択される1以上の形態を改変するための薬剤を提供する。
(a)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0048】
また本発明は、下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の体高を減少させるための薬剤を提供する。
(a)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:1又は2に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0049】
また本発明は、下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の成長量を増加させるための薬剤を提供する。
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0050】
また本発明は、下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の花の形態を改変するための薬剤を提供する。
(a)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0051】
また本発明は、下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の着葉数を増加させるための薬剤を提供する。
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0052】
また本発明は、下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の木部の繊維形態を改変するための薬剤を提供する。
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0053】
本発明の植物の形態を改変するための薬剤において、木部形成に関与する転写制御因子をコードするDNAを含むベクターとしては、上述のものが挙げられる。このような植物には、木本植物及び草本植物が含まれる。木本植物としてはユーカリ、ポプラ、マツ、アカシア、スギ、ヒノキ、モミ、コウゾ、ミツマタが挙げられるがこれらに限定されない。また草本植物としてはケナフ、パピルス、タバコ、チューリップ、バラ、カーネーション、ラン、モンステラ、クワズイモ、イネ、ムギ、コーン、ダイズ、サトウキビが挙げられるがこれらに限定されない。
【実施例】
【0054】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実験手法に関しては、特に記載のない限り、「クローニングとシークエンス」(渡辺格監修、杉浦昌弘編集、農村文化社(1989年))や、「Molecular Cloning(Sambrookら(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press)」などの実験書に従った。
【0055】
(実施例1)制御因子導入形質転換タバコの作出
本発明者らは、WO2006/109424に開示された11種の制御因子遺伝子のうち4種の遺伝子をタバコに導入することによって、花や葉の形態変化という予期し得ない効果を見出した。本実施例にてその詳細を示す。
ところで、タバコは草本に分類されるが、基本的な組織構造やライフサイクルは、モデル植物と言われているシロイヌナズナよりも一般的な実用植物(園芸植物、作物、工業原材料樹木)と非常によく似ており、実用に向けた遺伝子導入効果の検証などに一般的に用いられている(Gray-Mitsumune et al., Plant Mol. Biol. 1999, 39:657-669、Patzlaff et al., 2003, Plant Journal 36: 743-754)。従って、本実施例では本発明の効果をタバコで示すが、植物種はタバコに限定されるものではなく、広く植物全般に利用できることは、当業者であれば容易に想到しうる事であり、本発明の転写因子遺伝子を導入することにより、他植物種においても本実施例に示す効果を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。
【0056】
(1)形質転換用コンストラクトの構築
形質転換用コンストラクトは、各制御因子のcDNA(配列番号:1〜4)を鋳型pBI121ベクター (Bevan, M., Nucleic Acids Res. 12, 8711-8721, 1984)の、35Sプロモーター下流にサブクローニングして構築した。サブクローニングの方法としては、例えばcDNA全長を増幅可能なプライマーを合成し、PCR増幅された断片の末端をリン酸化・平滑末端化し、予め制限酵素にてGUS遺伝子部分を除き平滑末端化したpBI121ベクターの、35Sプロモーター下流にライゲーションすること等があげられる。35Sプロモーターによってドライブされるため、本来の機能部位である木部に加え、それ以外での異所的発現による効果を検証することもできる。これらのコンストラクトを、アグロバクテリウム(LBA4404株)へエレクトロポレーションにより導入し、LB寒天培地(カナマイシン、ハイグロマイシン 各25μg/ml、1.0%Agar)で形質転換体を選抜した。形質転換したアグロバクテリウムのプレートからシングルコロニーを取り、それぞれ抗生物質(カナマイシン、ハイグロマイシン 各25μg/ml)を含むLB液体培地中で一晩培養した(28.5℃, 240rpm)。培養後、アグロバクテリウム培養液を遠心(5℃ 8000rpm 5min)して集菌し、上清を除きMS液体培地を加え、穏やかに沈殿を懸濁した。懸濁液を50mlチューブに集め、懸濁液のOD550が0.5となるようにMS液体培地で希釈した。この懸濁液を感染操作に用いた。
【0057】
(2)タバコへの遺伝子導入
感染用の試料としては、生育用培地(MS 3%Sucrose NAA10-7M, BA10-5M 1%Agar pH5.6)にて無菌で育てたタバコの若い葉を用いた。滅菌水を入れたシャーレ内に葉を置き、メスで葉の周囲と主葉脈を除き、残りの部分を約7mm角に切った。それらの切片を滅菌キムタオルにはさんで軽く脱水し、葉の裏面を上にして前培養培地(MS, 3%Sucrose, NAA 10-7M, BA = 10-5M, 1%Agar, pH5.6 )に並べ、25℃にて一晩前培養した。
前培養した葉の切片をアグロの懸濁液に浸し、20分間軽く振とう培養した後、切片を滅菌キムタオルではさんで軽く水分を除き、葉の裏面を上にして共存培地に並べ、暗黒下25℃で2〜3日共存培養した。共存培養した切片をピンセットで選択培地に移し、明所25℃で培養した。培養開始以降、2週間ごとに新しい選択培地に移植し、シュートが再分化してきたらホルモンフリーの発根培地(1/2MS 1.5%Sucrose 1%Agar pH5.6 Claforan200μg/ml Hyg30μg/ml)に移植し、形質転換体の選抜を行った。
発根培地上で十分に生育した形質転換体の茎を一節ずつに切り分け、新しい発根培地に継代した。継代3〜4週後、形質転換タバコ植物体が約10cmの苗高に成育したら、植物体をポット培養土に植え替え、温室内で6週間及び採種時まで育成した。同時に比較用として野生株のタバコも同様に育成した。育成期間中6週目までは毎週植物体高、茎径、着葉数を調査した。
【0058】
(実施例2)木部形成制御因子による花や葉形態・体高の改変
(1)ID#77629 CCAAT結合制御因子の効果
配列番号:1に記載のID77629 CCAAT結合制御因子を導入した効果を図1と図5に示す。温室で6週間育成した形質転換タバコは、野生株に対して約20%の体高減少が認められわい化効果が示された(図1、図5)。しかしながら、葉の大きさ等は野生株と同等であったことから、植物体全体におけるわい化効果ではなく、体高のみを減少させる効果であることが明らかとなった。以上の結果から、本発明者らは、#77629 CCAAT結合制御因子を木部以外で異所的に機能させると、体高の改変効果があることを発見した。
【0059】
(2)ID#72062 WRKY制御因子の効果
配列番号:2に記載のID#72062 WRKY制御因子を導入した効果を図2と図5に示す。
温室で6週間育成した形質転換タバコは、野生株に対して約20%の体高減少が認められ、矮小化効果が示された(図2A、図5)。鉢上げ後6週間目の葉では、野生株に比べ#72062 WRKY形質転換体タバコの方が小さくなっていた(図2B)。以上の結果から、本発明者らは、#72062 WRKY制御因子を木部以外で異所的に機能させると、矮小化効果があることを発見した。
【0060】
(3)ID#73448 HD-Zip II制御因子の効果
配列番号:3に記載のID#73448 HD-Zip II制御因子を導入した効果を図3と図5に示す。温室で6週間育成した形質転換タバコは、野生株に対して約50%の体高向上が認められ、顕著な成長量増大効果が示された(図3A、図5)。鉢上げ後6週間目の形質転換タバコ葉では、葉柄部が茎と癒着しており、腋芽が顕著に発達していた(図3B)。また、形質転換体の葉は上向きに張った様に形成されており(図3A)、形態はやや細長く葉柄部分が欠失し代わりに茎に癒着している葉が基部に広がっていた(図3C)。温室で生育させたタバコは、育成後9〜10週で着花が始まり、その形態も野生株と形質転換タバコで差異が認められた。野生株に比べて#73448 HD-Zip II形質転換タバコの花は、幅も長さも顕著に増加していた(図3D、E)。また、めしべに対しておしべも長くなる形態変化が認められた。花弁の比較では、野生株ではくびれがあるため星形の形態であるが、形質転換体では花弁のくびれはほとんど無くなっていたため、正5角形又は朝顔のような円形に近い形態に変化していた(図3E)。このときの野生株と形質転換タバコの繊維形態は、野生株が繊維長0.683mm、繊維幅20.4μm、壁厚3.4μm、ルンケル比49.6%(0.496)であったのに対し、形質転換タバコでは繊維長0.813mm、繊維幅24.5μm、壁厚5.5μm、ルンケル比82.1%(0.821)であったことから、木部改変効果は期待通り得られていた。以上の結果から、本発明者らは、#73448 HD-Zip II制御因子を木部以外で異所的に機能させると、木部改変効果に加え体高向上、成長量増加、葉、花形態等の改変効果があることを発見した。
【0061】
(4)ID#74387 MYB 制御因子の効果
配列番号:4に記載のID#74387 MYB制御因子を導入した効果を図4と図5に示す。温室で6週間育成した形質転換タバコは、野生株に対して約20%の体高向上が認められ、成長量増大効果が示された(図4、図5)。また、葉の大きさ等は野生株と同等であったが、着葉数が増加していた。このときの野生株と形質転換タバコの繊維形態は、野生株が繊維長0.800mm、繊維幅24.1μm、壁厚5.6μm、ルンケル比86.8%(0.868)であったのに対し、形質転換タバコでは繊維長1.010mm、繊維幅29.2μm、壁厚6.5μm、ルンケル比80.2%(0.802)であったことから、木部改変効果は期待通り得られていた。以上の結果から、本発明者らは、#74387 MYB制御因子を木部以外で異所的に機能させると、木部改変効果に加え体高の改変と成長量増加、着葉数増加の効果があることを発見した。
【0062】
(実施例3)制御因子導入形質転換ユーカリの作出
本発明者らは、タバコで効果が見られた4種の制御因子遺伝子のうち、2種の遺伝子(ID#73448 HD-Zip II、ID#74387 MYB)をユーカリに導入することによって、同様の効果が得られることを確認した。本実施例にてその詳細を示す。
ユーカリ形質転換には、実施例1に示したコンストラクトを用い、形質転換方法はアグロバクテリウムを用い特許3565284「形質転換されたユーカリ属植物の作出方法」に、植物体への再分化方法は特開2002-281851「木本性植物のカルスからの再分化方法」に従った。
具体的には、感染用の試料としてB5培地(ショ糖1%、2rpm)で育成させたユーカリ・グランディス(E.grandis)とユーカリユーロフィラ(urophylla)との交雑種の早生分枝を用いた。アグロバクテリウムと共存培地(B5基本培地、NAA 2mg/l、4-PU 0.2mg/l、ショ糖3%、アセトシリンゴン10μM、ガラクトース1mM、DTT 2.5mg/l)にて2日間共存培養後、除菌培地(B5基本培地、NAA 2mg/l、4-PU 0.2mg/ l、ショ糖3%、メロペン6.25μg/ml)で7日間除菌を行う。次に、形質転換カルスの選抜のため選抜培地(B5基本培地、NAA 0.04mg/l、4-PU 0.25mg/l、ショ糖3%、ハイグロマイシン10μg/ml)にて、7日間隔で継代しながら合計20〜30日間選抜培養を行う。得られた形質転換カルスから苗条原基を誘導するため、誘導培地(B5基本培地、NAA 0.04〜0.06mg/l、4-PU 2mg/l、ショ糖3%、25000lux、24時間日長)にて培養する。得られた苗条原基から、シュート(shoot)を再分化させるため、苗化培地(B5基本培地、NAA 0.02mg/l、BA 0.2mg/l、ショ糖1% ジェルライト0.2% 5000lux、16時間日長)で培養し、最終的に発根培地(1/4 B5基本培地、NAA 0.01mg/l、ショ糖1%、寒天0.4%、5000lux、16時間日長)に移植し、形質転換幼植物体を得た。
【0063】
(実施例4)木部形成制御因子によるユーカリ植物体高の改変
(1)ID#73448 HD-Zip II制御因子の効果
配列番号:3に記載のID#73448 HD-Zip II制御因子を導入したユーカリ形質転換体を、図6と図7に示す。温室で8週間育成した形質転換ユーカリは、野生株と比較して着葉数は多く、葉の形態も大きく、体高も約20%の向上が認められた(図6、図7、図10)ことから、実施例2で示したタバコと同様の成長量増大効果が示された。このときの野生株と形質転換ユーカリの繊維形態は、野生株が繊維長0.705mm、繊維幅14.4μm、壁厚4.2μm、ルンケル比140%(1.4)であったのに対し、形質転換ユーカリでは繊維長0.814mm、繊維幅16.2μm、壁厚5.3μm、ルンケル比189.3%(1.893)であったことから、木部改変効果は期待通り得られていた。
以上の結果から、本発明者らは、#73448 HD-Zip II制御因子を木部以外で異所的に機能させると、木本植物であるユーカリにおいても、草本植物のタバコで得られた結果と同様に、体高の改変と成長量増加、着葉数増加の効果があることが示された。
【0064】
(2)ID#74387 MYB 制御因子の効果
配列番号:4に記載のID#74387 MYB制御因子を導入したユーカリ形質転換体を、図8と図9に示す。温室で6週間育成した形質転換ユーカリは、野生株と比較して着葉数は多く、葉の形態も大きく、約40%の体高向上も認められ、実施例2で示したタバコと同様の成長量増大効果が示された(図8、図9、図10)。このときの野生株と形質転換ユーカリの繊維形態は、野生株が繊維長0.694mm、繊維幅14.4μm、壁厚4.2μm、ルンケル比140%(1.4)であったのに対し、形質転換ユーカリでは繊維長0.785mm、繊維幅15.8μm、壁厚4.8μm、ルンケル比154.8%(1.548)であったことから、木部改変効果は期待通り得られていた。
以上の結果から、本発明者らは、#74387 MYB制御因子を木部以外で異所的に機能させると、木本植物であるユーカリにおいても、草本植物のタバコで得られた結果と同様に、体高の改変と成長量増加、着葉数増加の効果があることを発見した。
【0065】
前述の各制御因子の多岐にわたる形態改変効果は、植物体全体で発現誘導するプロモーター(35Sやユビキチンプロモーター等)だけではなく、例えば体高を改変する場合は主として茎頂特異的プロモーター、葉形態を改変する場合は葉特異的プロモーター、花形態を改変する場合は花特異的プロモーターを用いることで、限定的に効果を誘導することが可能である。このことは当業者であれば容易に想到しうる。
【0066】
以上のように、本発明者らにより、木部形成制御因子を異所的に機能させることによる花や葉・体高等の量的および質的改変効果が、草本・木本植物とも得られることが示された。これらの改変効果は、穀物生産量やバイオマス生産量の増加、新規花卉園芸植物の育種等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】ユーカリ制御因子ID#77629 CCAAT形質転換タバコ植物体を示す写真である。鉢上げ後6週間目の植物体を示している。Wt(野生株)に比べGM(制御因子形質転換体)タバコの方が、体高が減少して矮小化している。
【図2】ユーカリ制御因子ID#72062 WRKY形質転換タバコ植物体を示す写真である。Aは、鉢上げ後6週間目の植物体を示している。Wt(野生株)に比べGM(制御因子形質転換体)タバコの方が、体高が減少して矮小化している。Bは、鉢上げ後6週間目の葉を示している。Wt(野生株)に比べGM(制御因子形質転換体)タバコの方が、葉が小さくなっている。
【図3】ユーカリ制御因子ID#73448 HD-Zip II形質転換タバコ植物体を示す写真である。Aは、鉢上げ後6週間目の植物体を示している。Wt(野生株)に比べGM(制御因子形質転換体)タバコの方が、体高が増して成長量が増加している。BとCは、鉢上げ後6週間目の形質転換タバコ葉の形態変化を示している。形質転換タバコの葉柄部が、矢印で示すように茎と癒着しており、矢頭で示すように腋芽が発達している(B)。また、形質転換体の葉では、矢印で示すように葉柄部分が欠失しており、代わりに茎に癒着している葉が基部に広がっている(C)。DとEは、WtとGMの花を示している(スケールバーは1cm)。Wtに比べてGMの花は、幅も長さも大きく(D、E)、矢印で示す花弁のくびれはほとんど無くなっている(E)。
【図4】ユーカリ制御因子ID#74387 MYB形質転換タバコ植物体を示す写真である。鉢上げ後6週間目の植物体を示している。Wt(野生株)に比べGM(制御因子形質転換体)タバコの方が、体高が増して成長量が増加している。
【図5】ユーカリ制御因子形質転換タバコと野生株の体高比較を示すグラフである。同時期に生育させた野生株(100%)と比較した各制御因子形質転換タバコの体高の割合を示している。
【図6】ユーカリ制御因子ID#73448 HD-Zip II形質転換ユーカリ植物体を示す写真である(スケールバーは5cm)。野生株(Wt)、形質転換体(GM)は、鉢上げ後8週間目のユーカリ植物体を示している。野生株に比べ形質転換体ユーカリ(GM)の方が、野生株と比較して着葉数は多く葉の形態も大きい
【図7】ユーカリ制御因子ID#73448 HD-Zip II形質転換ユーカリ植物体を示す写真である(スケールバーは5cm)。野生株(Wt)、形質転換体(GM)は、鉢上げ後8週間目のユーカリ植物体を示している。野生株に比べ形質転換体ユーカリ(GM)の方が、体高が増して成長量が増加している。
【図8】ユーカリ制御因子ID#74387 MYB形質転換ユーカリ植物体を示す写真である(スケールバーは5cm)。鉢上げ後6週間目の植物体を示している。Wt(野生株)に比べGM(制御因子形質転換体)ユーカリの方が、野生株と比較して着葉数は多く葉の形態も大きい。
【図9】ユーカリ制御因子ID#74387 MYB形質転換ユーカリ植物体を示す写真である(スケールバーは5cm)。鉢上げ後6週間目の植物体を示している。Wt(野生株)に比べGM(制御因子形質転換体)ユーカリの方が、体高が増して成長量が増加している。
【図10】ユーカリ制御因子形質転換ユーカリと野生株の体高比較を示すグラフである。同時期に生育させた野生株(100%)と比較した各制御因子形質転換ユーカリの体高の相対割合を示している。73448 HD-Zip IIは、ID#73448 HD-Zip IIの高成長形質転換体系統の平均体高を示している。74387 MYBは、ID#74387 MYBの形質転換体の平均体高を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNAで形質転換された植物体であって、花、葉、及び体高からなる群より選択される1以上の形態が改変された植物体;
(a)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項2】
下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNAで形質転換された植物体であって、体高が減少した植物体;
(a)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:1又は2に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項3】
下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNAで形質転換された植物体であって、木部の繊維形態が改変された、及び/又は成長量が増加した植物体;
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項4】
下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNAで形質転換された植物体であって、木部の繊維形態が改変された、及び/又は花の形態が改変した植物体;
(a)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項5】
下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNAで形質転換された植物体であって、木部の繊維形態が改変された、及び/又は着葉数が増加した植物体;
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項6】
植物がタバコ、ユーカリ、ポプラ、マツ、アカシア、スギ、ヒノキ、モミ、チューリップ、バラ、カーネーション、ラン、モンステラ、クワズイモ、イネ、ムギ、コーン、ダイズ、サトウキビからなる群より選択される、請求項1から5のいずれかに記載の植物体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の植物体から単離された細胞。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の植物体の繁殖材料。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の植物体から単離された器官。
【請求項10】
下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の花、葉、及び体高からなる群より選択される1以上の形態を改変する方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項11】
下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の体高を減少させる方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:1又は2に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項12】
下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の成長量を増加させる方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項13】
下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の花の形態を改変する方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項14】
下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の着葉数を増加させる方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項15】
下記(a)及び(b)の工程を含む、植物の木部の繊維形態を改変する方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項16】
植物がタバコ、ユーカリ、ポプラ、マツ、アカシア、スギ、ヒノキ、モミ、チューリップ、バラ、カーネーション、ラン、モンステラ、クワズイモ、イネ、ムギ、コーン、ダイズ、サトウキビからなる群より選択される、請求項10から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の花、葉、及び体高からなる群より選択される1以上の形態を改変するための薬剤;
(a)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:5から8のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:1から4のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項18】
下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の体高を減少させるための薬剤;
(a)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:5又は6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:1又は2に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項19】
下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の成長量を増加させるための薬剤;
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項20】
下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の花の形態を改変するための薬剤;
(a)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項21】
下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の着葉数を増加させるための薬剤;
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項22】
下記(a)から(d)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを有効成分として含有する、植物の木部の繊維形態を改変するための薬剤;
(a)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:3又は4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:7又は8に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:3又は4に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項23】
植物がタバコ、ユーカリ、ポプラ、マツ、アカシア、スギ、ヒノキ、モミ、チューリップ、バラ、カーネーション、ラン、モンステラ、クワズイモ、イネ、ムギ、コーン、ダイズ、サトウキビからなる群より選択される、請求項17から22のいずれかに記載の薬剤。

【図5】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−5684(P2009−5684A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96591(P2008−96591)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】