説明

植物の開花又は結実制御用被覆材料および植物の開花又は結実制御方法

【課題】
本発明は、大きな設備や人工的なエネルギーを用いることなく、植物の開花や結実を制御し、植物の開花や結実までの期間を短縮させ、且つ、収穫物を一時期に得ることが可能な被覆材料を提供するものである。更には、該被覆材料を使用して長日性植物あるいは短日性植物の開花時期あるいは結実時期を制御する栽培方法又は、開花あるいは結実を一斉に開始し一斉に終了させることができる栽培方法を提供するものである。

【解決手段】
下記式で表される透過光のA値が1.3以上である光選択被覆材料からなるフィルムあるいはネットで植物を被覆する栽培法。
ここで、A=R/FR(式中、Rは標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量であり、FRは標準光源D65を基準とする700〜800nmの遠赤色光の光量子束透過量である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然光の光選択性を有する被覆材料を用いることにより、植物の生理活性を制御する農業用の被覆材料に関し、特に、花卉を付ける植物あるいは果菜類の、開花時期又は結実時期を制御する被覆材料およびそれを用いる花卉あるいは果実の栽培法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用の被覆材料としては、ハウス、雨よけ施設あるいはトンネル掛け、べた掛けといった作物を外界から遮断して保護、育成する外張り被覆資材や、あるいは外張りを行った構造物の内側に展張して、保温性の向上や遮光などを目的とする内張り資材がある。また、地面に直接展張し、地湿・土壌水分の調節、病害虫駆除、雑草発生防止、果実の着色促進などを目的とするマルチ資材がある。これらの被覆材料は、従来、温湿度環境の保持調節を主目的とするものである。
【0003】
従来、可視光の赤色光と青色光との光選択性を変化させる被覆材により、成長を制御する方法が開発されている(例えば、非特許文献1)。また、遠赤色光が多い光環境では植物の伸長成長を促進し、赤色光が多い光環境では伸長成長を抑制することが従来から知られており、近年、人工光環境においてR/Fr(Rは600〜700nmの赤色光の光量子束、Frは700〜800nmの遠赤色光の光量子束)比を制御することにより、植物の伸長成長の制御が実証されている(非特許文献2)。しかし、人工光源を用いるこれらの方法は、多大の設備費及び電力費等の運転費用が必要であり、実用的ではない。この課題を解決する方法として、波長選択性色素を含有した光選択透過性被覆材料を用いて、上記R/Fr比を変えることで、植物の成長を促進する方法が開示されている(例えば、特許文献1)。しかし、開花時期、あるいは果実の収穫期間の短縮などの生理活性制御については知られていない。
【0004】
従来、開花時期あるいは果実の収穫期間など生理活性制御については、種子、球根あるいは根茎などを冷蔵庫等の低温で貯蔵する低温法、日照時間を計りながら植物に遮光シートを被覆するあるいは植物を暗黒場所に移動させるといったや短日処理が通常採用される。
しかしながら低温法は植物の種類によっては効果が必ずしも十分でなく、遮光シートを被覆する方法は光エネルギーを有効利用できず、シートの開閉の反復はきわめて煩雑な作業である。一方、栽培初期期間だけ夜間も人工光線を照射する長日植物の栽培方法(例えば、特許文献2)や、夜間には700nm以上および300〜500nmの波長領域以外の人工光を照射する方法が開示されている(例えば、特許文献3)が、人工照明は特別な設備が必要となる。
また、被覆材料は、通常、無孔のプラスチックフィルムあるいはプラスチック板の形態をとっているので通気性を有していないため、天候、季節、作物種あるいは地域によっては、栽培域内の温度および湿度が必要以上に上昇することがある。そのため、成長制御効果が十分に発揮できなかったり、内張り、ベタガケなどでの利用方法が制限される場合がある。特に、高温多湿を嫌う植物では、該被覆材で被覆した場合、温度または湿度の上昇により植物の健全な成長が阻害される場合がある。また、ベタガケした場合は特に栽培系内の湿度が上がりやすく、水滴も発生しやすいため、徒長したり病害虫の被害も受けやすい。
【0005】
【特許文献1】特開平5−233362号公報
【特許文献2】特開2001−45866号公報
【特許文献3】特開2000−50731号公報
【非特許文献1】禿ら、農耕と園芸2002.9月号76ページ
【非特許文献2】村上ら、生物環境調節,30巻4号,135〜141ページ,1992年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、大きな設備や人工的なエネルギーを用いることなく、植物の開花や結実を促進し、植物の開花や結実までの期間を短縮させ、且つ、収穫物を一時期に得ることが可能な被覆材料を提供するものである。更には、該被覆材料を使用して長日性植物あるいは短日性植物の開花時期あるいは結実時期を制御する栽培方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに到った。すなわち、本発明は、下記式で表される透過光のA値が1.3以上である植物の開花又は結実制御用被覆材料。
A=R/FR
(式中、Rは標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量であり、FRは標準光源D65を基準とする700〜800nmの遠赤色光の光量子束透過量である。)
その被覆材料は、好ましくは、極大吸収波長(λmax)が700〜1000nmの間にある近赤外線吸収色素を含有するフィルム状であり、透過光の光合成有効光量子束(PPF)透過率が20〜90%である。また、好ましくはそのフィルム状物が、フィルム、多孔フィルム、不織布あるいはネットである。
また、上記被覆材料を少なくとも一部に被覆した開花あるいは結実を制御する植物の栽培方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の被覆材料を用いれば、花弁をつける植物や果野物の開花が早く一斉にそろう。また果野菜物では、収穫時期が短縮され、大きさや形状が均一のものが収穫できる。したがって、花や果菜物を所望の時期に収穫できるよう調節が可能となり、所望の時期に多量を収穫できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の被覆材料は、A=R/FRで表される透過光のA値が特定された植物の開花又は結実制御用であり、以下にその詳細を述べる。
【0010】
本発明の被覆材料は、樹脂からなり、用いられる樹脂としては、光透過性、引張り強度及び耐候性が優れたものならば特に限定されないが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。具体的には、エチレン、プロピレン、ブテンなどのオレフィン重合物あるいはそれらの共重合体あるいはエラストマーとの配合品を含むポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニルなどがポリオレフィン樹脂、ポリメタクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル/エチレンの共重合体(EVA)、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド等などの樹脂が挙げられる。特に、耐候性、引張り強度などのバランスからポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニルなどが特に選ばれる。
【0011】
本発明の被覆材料は、植物の開花又は結実を制御するものである。植物の開花又は結実の制御とは、植物の開花の時期や結実の時期を早くさせたり、短期間に一斉に開花や結実をさせることである。植物は通常、茎の先端部分にある成長点で新しい葉を作り出しているが、環境条件によって花成刺激を受けて頂端分裂組織が膨大して花芽を分化し、ガクや花弁等に発達して開花し、更には結実する。例えば、単一個体に複数の花が開く種類の植物においては、それら複数の花の開く時期は一定せず、実や種がなる場合には更にその時期が一定しない。本発明の被覆材料を用いれば、開花や結実の時期を早くさせたり、短期間に一斉に開花や結実をさせることができる。そうすれば、収穫の開始から終了までの期間を短くすることができ、収穫時期を所望の時期にコントロールできる。また、本発明の被覆材料を用いれば、得られる花や実の品質も一定しており好ましい。
本発明の被覆材料は、植物の開花や結実を促進することができ、その原理の詳細は不明であるが、恐らく、本発明の被覆材料を用いることで花芽を分化させる際の環境からの刺激が、通常よりも強くなされる為と考えられる。
【0012】
本発明の被覆材料は、A=R/FRで表される透過光のA値が1.3以上であり、植物の開花又は結実を制御するものである。
ここで式中、Rは標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量であり、FRは標準光源D65を基準とする700〜800nmの遠赤色光の光量子束透過量である。A値は、通常は1.3〜5.0、好ましくは1.4〜3.0であり、この範囲にあれば植物の開花又は結実を制御し、花、実又は種等の収穫期間を狭い範囲にするので好ましい。
【0013】
また、本発明の被覆材料は、近赤外線吸収色素を含み、その赤外線吸収色素は極大吸収波長(λmax )が700〜1000nm、好ましくは700〜900nm、特に700〜800nmである。近赤外線吸収色素の極大吸収波長がこの範囲にあれば開花又は結実の制御に効果が大きいので好ましい。
【0014】
更に、本発明の被覆材料は、透過光の光合成有効光量子束(PPF)透過率が、通常は20〜99%、好ましくは40〜95%、さらに好ましくは50〜95%の範囲にあることが好ましい。光合成有効光量子束(PPF)透過率は、栽培する植物の種類、栽培時期又は栽培場所等に応じて自由に変えることができるが、光要求性の高い植物を栽培する場合又は太陽光の弱い時期あるいは場所におけて栽培する場合には、50〜99%あるいは70〜95%に設定することが植物の生育のために好ましい。
【0015】
本発明に係る近赤外線吸収色素としては、アントラキノン類、フタロシアニン類、ナフタロシアニン類、スクワリウム類、ニッケルジチオール類などの化合物からなる色素が挙げられる。その中でも、フタロシアニン系色素、あるいはナフタロシアニン系色素は、耐候性水素原子と炭素原子で構成されるので、戸外で長期に使用してもA値やPPF透過率の低下が少なく、長期に安定して使用できるので好ましい。フタロシアニン系色素あるいはナフタロシアニン系色素は、通常はそれらの金属化合物からなり、且つ、置換基が全て水素である色素に、置換基の少なくとも1つ以上が臭素原子、アルコキシ基、フェノオキシ基あるいはアルキルフェノキシ基である色素が挙げられる。これらフタロシアニン金属化合物あるいはナフタロシアニン金属化合物は、A値が1.3よりも高く、そのA値を長期に保持するので屋外で使用するのに特に好ましい。
本発明に係る赤外線吸収色素としては、例えば以下のようなものを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0016】
【化1】

【0017】
【化−2】



【0018】
【化−3】


(式中、A〜A24は、おのおの独立に水素原子、アルキル基、アルコキシル基又はハロゲン原子を表し、中心元素Mは2個の水素原子、2価の金属原子、3価又は4価の置換金属原子を表す)
式中、A〜A24はで表されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素又は沃素であり、これらは混在していてもよい。
【0019】
また、中心金属Mのうち、2価の金属原子としては、2価のCu、Zn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt、Mn、Mg、Tl、Be、Ca、Ba、Cd、Hg、Pb、Snなどが挙げられる。また1置換の3価金属原子としては、AlCl、AlBr、AlF、AlI、GaF、GaI、GaBr、InCl、InBr、InI、InF、TlF、TlCl、TlBr、TlI、FeCl、RuCl、Al−C、Al−C(CH)、In−C、In−C(CH)、Mn(OH)、Mn(OC)、Mn(OSi(CH)などを挙げることができる。
【0020】
また2置換の4価金属原子としては、CrCl、SiCl、SiBr、SiF、SiI、ZrCl、GeCl、GeBr、GeF、GeI、SnCl、SnBr、SnF、SnI、TiCl、TiBr、TiF、Si(OH)、Ge(OH)、Zr(OH)、Mn(OH)、Sn(OH)、TiO、VO、MnO、TiR、CrR、SiR、SnR、GeR(Rは炭化水素基)、Si(OR、Sn(OR、Ge(OR、Ti(OR、Cr(OR(Rは炭化水素基、置換シリル基)、Sn(SR、Ge(SR(Rは、炭化水素基)などを挙げることができる。
【0021】
ナフタロシアニン系色素としては、上記式において中心元素Mが、2個の水素原子、AlCl、あるいは遷移金属ベースのもの、例えばCu、Pd、InCl、TiO、VOなどが好ましく、とくにCu、VO及びTiOが最も好ましい。
より具体的には、上記一般式において、A〜A24がすべて水素原子であって、Mが、VO、TiO、Cu、InCl、Pb、AlCl、Pd又は2個の水素原子であるもの、A〜A24のうちA、A、A、A10、A15、A16、A21及びA22がBrであって、その他が水素原子であり、MがVOであるもの、A〜A24がすべてBrであり、MがCuのものなどを例示することができる。
【0022】
本発明に係る赤外線吸収色素は、前記被覆材料に対して公知の種々の方法で適用することができる。例えば、成形する前の前記樹脂に練り込んだり、あるいは前記の樹脂をフィルム状に成形した後その表面に溶媒に混合した赤外線吸収色素をフィルム状物の表面に担持させたり、あるいはオイル状物質、表面活性剤、ワックス、樹脂などを用いてコートすることで光選択性を持たせることができる。光選択性材料の添加量としては、基材の種類、形態、厚み、目的とする吸収強度、吸収あるいは反射材料の種類等によって異なるが、上記の近赤外線吸収色素であれば一般に樹脂100重量部に対し、0.01〜5重量部であり、好ましくは0.1〜2重量部である。普通は均一に混合するために色素と相溶性のある樹脂に練りこんだものを、被覆材用樹脂にコンパウンドすることによって添加する。さらに、これら近赤外吸収剤はできるだけ微粒化してフィルム用樹脂と均一にブレンドすることが好ましい。微粒化する場合には、その平均粒径が50μm以下に、好ましくは10μm以下、特に好ましくは1μm以下であり、微粒化して用いると光波長選択性および光合成有効光量子束透過率が高いため特に好ましい。
【0023】
本発明の被覆材料は、上記の樹脂からなるが、本発明の目的を損なわない範囲で、他の樹脂や添加剤を混合していても良い。添加剤等を使用することにより、フィルムの強度の向上、防曇性の付与あるいは耐候性の改良をすることができる。また、本発明の目的を損なわない範囲で他の機能をもったフィルム等と積層した積層体として使用することも可能である。
【0024】
本発明の被覆材料は、フィルム、多孔フィルム、不織布あるいはネットの形状にすることができるが、これに限定されるものではない。特に、多孔フィルム、織布、寒冷紗、編布、不織布、ネットは通気性が良いので好ましい。本発明の被覆材料は、その使用目的により異なるが、空隙率が通常20%以上、好ましくは30〜90%であることが好ましい。空隙率がこの範囲にあれば、被覆材料を例えばトンネル状にした場合に、トンネル内部と外部とで空気が出入し、そのトンネルの内部の温度や湿度が上昇しすぎるのを抑制するので植物の成長を妨げない。また、外部からの風圧による影響を軽減し、丈夫な被覆材料を提供するため特に好ましい。空隙率が低すぎると、通気性が悪いので、被覆材料を例えばトンネル状に張った場合にはトンネル内部の温度や湿度が上昇しすぎるので、部分的に被覆したりトンネルの裾を開ける等、面倒な作業を要するので好ましくない。また空隙率が高すぎると、一般的にはフィルムの機械的強度が不足するので、例えばトンネル状に張る際に破れたりする虞がある。
【0025】
本発明の被覆材料が不織布である場合には、不織布としては公知の種々のものを用いることができる。また、不織布の製造方法としては、上記近赤外線吸収色素を混合した樹脂を用いて乾式法、湿式法、直接法(スパンボンド法、メルトブロー法、あるいはフラッシュ紡糸法等)等が挙げられる。
【0026】
本発明の被覆材料がネットである場合には、例えば、上記近赤外線吸収色素を混合した樹脂を、独立したノズルで糸状あるいは平らな帯状に溶融押し出す又は、延伸フィルムに成形した後に帯状にカットして、それを縦横に編む又は配置してその交点を熱等で接着させる方法、溶融押し出し時に特殊なノズルを用いてノズルを合致させたり分離させたりして網目を形成する方法により得ることができる。特に、帯状にしたものを編む又は配置してその交点を熱等で接着させたものは風雪に対して強いので好ましい。
【0027】
本発明の被覆材料は、種々の植物の栽培に使用することができ、花卉、あるいは花の後に果実あるいは種子ができる植物に広く使用することができる。例えば、花卉としてはラン、宿根カスミソウ、カーネーション、ペチュニア、キンギョソウあるいはユリなどの長日性植物、キク、キキョウ、パンジー、プリムラ、カトレア、シャコバサボテン、サルビア、ジニア、ダリア、マリーゴールドあるいはコスモスなどの短日性植物が挙げられる。また、スイカ、メロン、カボチャ、ナス、イチゴ、キュウリ、トマト、ウリ、トウガラシなどの野菜あるいは果菜類、豆類及び穀類などが挙げられる。特に、イチゴ、メロン、スイカ、トマト、カボチャなどの果菜類の栽培においては、開花を短期間に一斉に終了させることができるので、結実を短期間に一斉に終了させることができる。
【0028】
本発明の被覆材料で覆う植物としては、上記に限らず以下のようなものが挙げられる。例えば、ウリ科、ナス科、マメ科、バラ科、アブラナ科、キク科、イネ科、野菜、キク科、バラ科、サトイモ科、ナデシコ科、アブラナ科、イソマツ科、リンドウ科、ゴマノハグサ科、マメ科、アヤメ科、ナス科、ヒガンバナ科、ラン科、ミズキ科、アカネ科、ヤナギ科、ツツジ科、モクセイ科、モクレン科、サクラソウ科、シュウカイドウ科、シソ科、フウロソウ科、ベンケイソウ科、キンポウゲ科、イワタバコ科、サボテン科、シダ類、ウコギ科、クワ科、ツユクサ科、パイナップル科、クズウコン科、トウダイクサ科、コショウ科、ユキノシタ科、アカバナ科、アオイ科、フトモモ科、ツバキ科、オシロイバナ科であり、特に切り花類あるいは鉢物類の花卉、背丈が1〜2m程度の背の低い果実を収穫する果菜類の栽培に適している。
【0029】
本発明は、下記式で表される透過光のA値が1.3以上である植物の少なくとも一部に被覆した植物の開花あるいは結実の制御方法である。
A=R/FR
ここで、Rは標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量であり、FRは標準光源D65を基準とする700〜800nmの遠赤色光の光量子束透過量である。
【0030】
本発明の開花あるいは結実の制御方法は、上記A値が1.3以上の被覆材料で被覆するものであって、植物の一部を被覆する場合には、光が入射してくる少なくとも一面を覆うことが好ましい。例えば、果樹を栽培する場合には、果樹全体を被覆しても良いし、枝の一本づつを被覆しても良い。また、植物を常時被覆することもできるし、ある一定期間のみを被覆したり、あるいは一日の中でも一定の時間のみを被覆することもできる。植物にあてる光は自然光であっても人工光源であっても良く、をさす。自然光を用いる点で、本願方法はコスト的に有利であるが、人工光源を用いる場合にも当然応用できる。
【0031】
本発明の開花あるいは結実の制御方法は、ハウスの外張り又は内張り、マルチングフィルム、ベタガケ、内張りのカーテン、寒冷紗等の代替材料を用いることもできる。特に、カーテンとして使用した場合は、必要に応じて簡便に開閉できる利点がある。家庭園芸用には、園芸施設に用いる方法に準ずる方法、該被覆材で小型のボックスを作って植木鉢にかぶせる方法等、適宜用いることが出来る。
【0032】
本発明の開花あるいは結実の制御方法は、植物を被覆する開始時期は、植物が出芽した時期、植物が花や実等をつけさせたい時期の前、あるいは、花や実等をつける前に行われる花芽の分化の開始後であっても良い。被覆の終了時期は、少なくとも花芽の分化の開始後までであって、その後は花や実等の収穫が終了するまでずっと被覆していても良い。例えば、本発明の被覆材料による被覆を、花芽が出る時から花芽の分化が終了するまでの間とし、それ以降は被覆せずに開放することもできる。
【0033】
被覆材料で植物を被覆する季節は、植物によって選択でき、例えばイチゴ、カスミソウ、ナデシコなどの秋に花芽を分化し、翌年の春から夏に開花する宿根草などの植物は主として9月〜11月である。最も有利な利用法としては端境期を狙って収穫する場合で、例えば、短日花であるイチゴについては7〜9月に植付けをすると同時に本発明の被覆材料で植物全体を被覆し、花芽の分化を制御し、12月のクリスマス期を狙って一斉に、短期間に収穫することができる。一方、春に発芽して夏から秋にかけて開花し、更に果実をつけるユリ、ナス、ウリ、トマト、スイカ、カボチャ、メロンなどの植物は主として、3月〜7月の間に本被覆材を用いる。
【0034】
イチゴの栽培を例に取ると、イチゴは春先に新しい芽の間から根茎より花房を出し、節から通常2〜5本の花柄が分枝してその先に花が咲き、そののち果実となる。節の段数が通常3〜5程度であるが、この節の数が多く、この節と節の間隔が短くなり花柄の数が多くなる。また、開花の期間が通常は1ケ月余りかかるが、当該光選択性被覆材を掛けた場合には、通常10日間、短い場合には7日間、特に短い場合には5日間で一斉に開花し、その結果としてイチゴの収穫が、短期間で終了した。また果実の数が多く、果実の形状や大きさが均一なものがえられる。そのため端境期に収穫できるよう計画的に栽培することが可能になる。
【実施例】
【0035】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は重量部を示す。また、実施例中の光合成有効光量子束(PPF)透過率およびA値は、島津製作所製分光光度計(UV−3100)を用いて測定した透過光の分光透過率より計算して得た。
【0036】
(実施例1)
被覆フィルムの作成
ポリエチレン(三井化学(株)製の銘柄ハイゼックス密度:0.950、MFR:1.1g/10min.)のペレット100重量部に対し、遠赤外吸収性色素として、上記(化−3)で表される式においてA〜A24がすべて水素原子であって、MがV=Oであるバナジルテトラナフタロシアニン0.15重量部、ステアリン酸バリウム0.5重量部及び界面活性剤2重量部を、200℃において2軸スクリュー押出機を用いて溶融混練した後、ペレットにし、遠赤外吸収性樹脂組成物を得た。これをインフレーションフイルム成形機にて溶融押出し、厚さ100μmのフィルムを製膜した。得られた緑褐色のフィルムを線幅12mmにカットし、互いに直角に交錯するよう3mmの隙間を空けて配置し、熱融着してメッシュ状フィルムを得た。
得られたメッシュ状フィルムは、厚さ:100μm、空隙率16.0%、A(R/FR)値は1.77、極大吸収波長(λmax)は830nm、光合成有効光量子束(PPF)透過率は75%であった。
【0037】
9月初旬、ライナーから出芽したイチゴ(品種:さちのか)の子苗が約30mmに成長した時期に、1畝30本の子苗を植え、その苗の上に前記メッシュフィルムを被覆材として苗の上にかけていわゆるトンネル張り(巾1200mm、中心高さ300mm)をして翌年の2月まで苗を栽培した。被覆材は、通気性が良いため晴天の昼間もトンネル張りの内部が高温になることはなかった。
イチゴの開花は3月5日から3月12日の10日間であり、果実の収穫は3月20日から3月31日の12日間であった。尚、イチゴの収穫は、イチゴの実が8〜9割程度赤くなった時点で収穫した。
【0038】
(比較例1)
遠赤外吸収色素を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、透明なメッシュ状フィルムを得た。そのA(R/FR)値は0.67であった。
このメッシュ状フィルムを、実施例1のイチゴの苗の隣の畝に植え、実施例1と同様にイチゴの栽培をした。イチゴの開花は3月25日から4月13日の20日間であり、果実の収穫は4月12日から5月6日の約25日間であった。
【0039】
本発明の被覆材を用いた実施例1は、比較例1よりもイチゴよりも開花の開始が早く開花期間が短かった。また、イチゴの収穫日が早く収穫期間も短かった。本発明の被覆材を用いた場合には、花の開花が早く且つ時期が揃っており、また、果実の収穫時期が早く且つ一時期に収穫ができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される透過光のA値が1.3以上である植物の開花又は結実制御用被覆材料。
A=R/FR
(式中、Rは標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量であり、FRは標準光源D65を基準とする700〜800nmの遠赤色光の光量子束透過量である。)
【請求項2】
極大吸収波長(λmax)が700〜1000nmの間にある近赤外線吸収色素を含有することを特徴とする請求項1記載の被覆材料。
【請求項3】
透過光の光合成有効光量子束(PPF)透過率が20〜99%である請求項1または2に記載の被覆材料。
【請求項4】
被覆材料が、微孔フィルム、多孔フィルム、不織布あるいはネットであることを特徴とする請求項1〜3に記載の被覆材料。
【請求項5】
下記式で表される透過光のA値が1.3以上である被覆材料を植物の少なくとも一部に被覆した開花あるいは結実の制御方法。
A=R/FR
(式中、Rは標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量であり、FRは標準光源D65を基準とする700〜800nmの遠赤色光の光量子束透過量である。)


【公開番号】特開2006−191862(P2006−191862A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7089(P2005−7089)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】