説明

植物成長剤

【課題】 松樹皮またはその処理物、特に松樹皮を極性溶媒で抽出して得られる残渣を有効利用すること。
【解決手段】 松樹皮またはその処理物を含有する植物成長剤および該植物成長剤を含有する肥料。好ましくは松樹皮を極性溶媒で抽出して得られる残渣を含有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物成長剤および該植物成長剤を含有する肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
松樹皮は、ポリフェノール、特にプロアントシアニジンを含むことが知られており、かつ他の植物に比べて安定的かつ豊富に入手可能であることから、これらを抽出するための原料として用いられている。プロアントシアニジン(縮合型タンニン)とは、フラバン−3−オールまたはフラバン−3,4−ジオールを構成単位として縮重合した化合物群をいう。
【0003】
近年、ポリフェノールの有効性が検討されている。例えば、茶ポリフェノール類およびタンニンには、植物成長作用があることが報告されている(例えば、特許文献1および2)。ポリフェノールの1種であるプロアントシアニジンは、高い活性酸素除去能や血管強化作用、血流改善作用、血中脂質改善作用、抗菌作用などの有用な生理活性作用を有することが知られている。
【0004】
上記松樹皮からポリフェノールを抽出する際に生じる残渣は、製造上大量に発生するにもかかわらず、その利用方法は非常に限られている。これらの残渣は、通常、そのまま廃棄するか、あるいはサイレージ等を用いて微生物分解し、単なる肥料や土壌として利用されるのみである。
【特許文献1】特開平5−339117号公報
【特許文献2】特開平11−43413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、松樹皮からポリフェノールを抽出する際に生じる残渣(松樹皮抽出残渣)の有効利用が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、松樹皮および松樹皮抽出残渣が有する効果について鋭意検討したところ、驚くべきことに、松樹皮自体が優れた植物成長促進効果を有すること、そしてこの効果が、松樹皮抽出残渣をそのまま利用することによっても得られることを見出して本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の植物成長剤は、松樹皮またはその処理物を含有する。
【0008】
好ましい実施態様においては、上記処理物は、松樹皮を極性溶媒で抽出して得られる残渣である。
【0009】
本発明はまた、植物成長剤を含有する肥料を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、松樹皮またはその抽出残渣である松樹皮処理物を用いることによって、優れた植物成長促進効果が得られる。本発明は、松樹皮自体あるいは、従来有効成分として知られるポリフェノールなどが除去された処理物を利用するため、松樹皮全体を有効利用することができる。さらに、本発明の植物成長剤または肥料は、松樹皮自体を使用する場合には、特に抽出処理を必要とせず、処理物を使用する場合には、サイレージなどを用いた分解処理を行う必要がないため、経済性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の植物成長剤および該植物成長剤を含有する肥料について説明する。なお、以下に説明する構成は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができることは当業者に明らかである。
【0012】
(松樹皮)
本発明の植物成長剤は、松樹皮またはその処理物を含有する。本明細書において「処理物」とは、松樹皮の抽出残渣をいい、松樹皮からポリフェノールを抽出する過程で生じる、ポリフェノールの少なくとも一部が抽出・除去された松樹皮をいう。有効利用の点から、松樹皮処理物を用いることが好ましい。
【0013】
本発明に用いられる松樹皮としては、フランス海岸松(Pinus Martima)、カラマツ、クロマツ、アカマツ、ヒメコマツ、ゴヨウマツ、チョウセンマツ、ハイマツ、リュウキュウマツ、ウツクシマツ、ダイオウマツ、シロマツ、カナダのケベック地方のアネダなどの樹皮が用いられ、このような中でも、ポリフェノール抽出物の原料として用いられるフランス海岸松が好適である。
【0014】
本発明の植物成長剤に松樹皮自体を利用する場合には、該松樹皮は、通常、カッター、スライサーなどで破砕またはミキサー、ジューサー、ブレンダー、マスコロイダーなどで粉砕して用いられる。粉砕を行う際には、必要に応じて水などが加えられる。上記破砕および粉砕は、単独で行っても組み合わせて行ってもよい。得られた松樹皮の破砕物または粉砕物の大きさは、好ましくは0.1〜10cm、より好ましくは0.1〜5cmである。上記大きさの細片とすることで、植物成長剤としてそのまま利用し得る。
【0015】
本発明に用いられる松樹皮処理物は、上述のとおり、松樹皮のポリフェノール抽出後の残渣であり、例えば、ポリフェノールの一種であるプロアントシアニジンが抽出・除去された残渣などが利用可能である。
【0016】
本発明の植物成長剤に松樹皮処理物を利用する場合、該処理物をどのようにして得るかについては特に限定されない。例えば、松樹皮処理物からプロアントシアニジンを抽出した残渣が利用される。以下に、松樹皮からプロアントシアニジンを抽出・除去して、残渣である処理物を得る工程を例にあげて説明する。
【0017】
プロアントシアニジンの抽出は、一般に、松樹皮を抽出溶媒に接触させ、所定温度および時間保持した後、抽出液と残渣とを分離することによって得られる。なお、松樹皮は上記と同様に必要に応じて、予め破砕または粉砕しておいてもよい。
【0018】
抽出溶媒は、通常、水、極性を有する有機溶媒などの極性溶媒が用いられるが、これらに限定されない。得られた抽出物をそのまま利用できる利便性の点から極性溶媒で抽出して得られる残渣が好ましい。極性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、および1,1,2−トリクロロエテンが挙げられる。これらの水および有機溶媒は単独で用いてもよいし、組合わせて用いてもよい。水、エタノール、ならびに水およびエタノールの混合溶媒が好適に用いられる。
【0019】
抽出溶媒の量は、目的とするプロアントシアニジンの濃度および抽出効率を考慮して設定し得る。例えば、水を抽出溶媒として使用する場合、松樹皮と水との比が重量比で1:5〜1:100、好ましくは1:10〜1:50である。水などを加えて粉砕した場合は、破砕に使用した量を考慮し、添加する抽出溶媒の量を調整すればよい。
【0020】
抽出温度は、抽出効率を高めるためにより高い温度で抽出される。例えば、水を用いる場合、50〜120℃、好ましくは70〜100℃で熱水抽出される。松樹皮に熱水を加えてもよく、松樹皮に水を加えた後、加熱してもよい。抽出時間は、一般的には10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間であるが、抽出温度により適宜決定され得る。また、上記の加熱を行った場合は、更に1日〜2日間0℃〜30℃に放置しておくことにより、松樹皮から溶出しにくいプロアントシアニジンを更に効率よく抽出される。なお、抽出には、例えば、回分式、半連続式、連続式などのいずれの抽出装置を用いてもよい。
【0021】
その他の抽出方法として、加温抽出法、超臨界流体抽出法による抽出などが挙げられる。加温抽出法としては、松樹皮に加温した溶媒を加える方法、または松樹皮に溶媒を添加して加温する方法が用いられる。例えば、粉砕した松樹皮に対して、水とエタノールとの比が、重量比で1:1〜1:9である水−エタノール混合溶媒を抽出溶媒として松樹皮の1倍〜20倍量使用して、70〜75℃で還流させながら、0.5時間〜24時間、好ましくは0.5時間〜6時間、攪拌する方法が挙げられる。また、還流を行わなくとも一度加温抽出して、上清を濾過等により回収し、残った残渣に再度溶媒を加えて加温することによっても、抽出効率を上げることが可能である。なお、有機溶媒を使用する場合の抽出温度は、その有機溶媒の沸点以下に設定され得る。
【0022】
超臨界流体抽出法は、物質の気液の臨界点(臨界温度、臨界圧力)を超えた状態の流体である超臨界流体を用いて抽出を行う方法である。超臨界流体としては、二酸化炭素、エチレン、プロパン、亜酸化窒素(笑気ガス)などが用いられ、二酸化炭素が好ましく用いられる。
【0023】
超臨界流体抽出法は、目的成分を超臨界流体によって抽出する抽出工程および目的成分と超臨界流体とを分離する分離工程からなる。分離工程では、圧力変化による抽出分離、温度変化による抽出分離、または吸着剤・吸収剤を用いた抽出分離のいずれを行ってもよい。
【0024】
また、エントレーナー添加法による超臨界流体抽出を行ってもよい。この方法は、超臨界流体に、例えば、エタノール、プロパノール、n−ヘキサン、アセトン、トルエン、その他の脂肪族低級アルコール類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、またはケトン類を2〜20W/V%程度添加し、得られた抽出流体で超臨界流体抽出を行うことによって、OPC、カテキン類(後述)などの目的とする被抽出物の抽出流体に対する溶解度を飛躍的に上昇させる、あるいは分離の選択性を増強させる方法であり、プロアントシアニジンを効率的に抽出する方法である。
【0025】
このようにして、松樹皮からプロアントシアニジンを抽出した後、遠心またはろ過などの当業者が通常用いる固液分離方法により抽出液と残渣とを分離することによって、松樹皮処理物(残渣)を得ることができる。また、プロアントシアニジンを抽出する際に、抽出液中に溶解している高分子を除去するために金属または金属塩を添加する場合が有り得る。上記の金属などを添加した後に得られた残渣も松樹皮処理物として利用することができる。松樹皮処理物は、エタノール以外の有機溶媒が残存すると、植物成長促進効果を阻害する場合があるため、必要に応じて、水、エタノールなどで洗浄することが好ましい。
【0026】
上記の松樹皮処理物のポリフェノール含量に特に制限はないが、通常、0.1質量%以下、好ましくは0.000001質量%〜0.1質量%、より好ましくは0.001質量%〜0.1質量%、さらに好ましくは0.01質量%〜0.1質量%の範囲内である。
【0027】
(植物成長剤)
本発明の植物成長剤は、松樹皮またはその処理物を含有し、必要に応じて当業者が通常用いる植物の栄養成分あるいは農薬を含有し得る。松樹皮またはその処理物の含有量に特に制限はない。本発明の植物成長剤は、目的に応じて、例えば、使用方法に応じて種々の形態に調製することができる。例えば、丸剤、粉末、液体、ペーストなどの当業者が通常用いる形態で利用される。
【0028】
本発明の植物成長剤は、栽培する植物(野菜、穀類、果樹、樹木など)の種類に特に制限なく使用でき。さらに、植物の種子、根、茎、葉、花などあらゆる植物の部位に使用することができる。例えば、植物の種子、根などに該成長剤を供給する場合は、プランターの土、田畑などの土壌、水耕栽培の水耕液などに肥料として含有させればよい。植物の茎、葉、花などに使用する場合は、該成長剤を水などの液体に含有させ、直接塗布する。
【0029】
本発明の植物成長剤の使用量は、栽培する植物、栽培方法などによって適宜調整され得る。例えば、水耕栽培の場合は水耕液に、プランターで栽培する場合は土壌中に松樹皮またはその処理物として、好ましくは0.001重量%〜10重量%、より好ましくは0.05重量%〜5重量%、最も好ましくは0.01重量%〜1重量%となるように使用される。
【0030】
(肥料)
本発明の肥料は、上記の植物成長剤を含有し、必要に応じて、当業者が通常用いる肥料成分を含有し得る。上述のように、上記植物成長剤をそのまま肥料として使用してもよい。本発明の肥料は、主に植物の種子、根などに供給する目的で土壌に播く、または水耕栽培の場合は水耕液に含有させて使用される。なお、本発明の肥料の形態、該肥料を用いて栽培する植物の種類、および使用量は上記の植物成長剤の場合と同様である。本発明の肥料は、植物成長促進効果に特に優れている点で特に有用である。
【0031】
このような松樹皮抽出物の残渣が植物成長作用を有する理由は明らかではないが、一般に、植物体を水や極性溶媒で抽出することによって、可溶性成分のほとんど全てが抽出されると思われるのに対し、松樹皮においては、可溶性成分が微量残存し、これが松樹皮抽出物残渣から溶出して、植物の成長を促進しているものと考えられる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明がこの実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0033】
(実施例1)
松樹皮(フランス海岸松)1kgに精製水5.4Lを加え、ブレンダー(Waring Blender)で破砕した後、100℃で24時間還流しながら加熱抽出した。次いで、直ちに濾過し、濾過後の不溶物を精製水1.6Lで洗浄した。得られた残渣を乾燥して、松樹皮の水抽出残渣0.9kgを得た。
【0034】
(実施例2)
松樹皮1kgに80容量%のエタノール水溶液を5.4Lを加え、ブレンダーで破砕した後、70℃で24時間還流しながら加熱抽出した。次いで、直ちに濾過し、濾過後の不溶物を80容量%のエタノール水溶液1.6Lで洗浄した。得られた残渣を乾燥して、松樹皮のエタノール水溶液抽出残渣0.9kgを得た。
【0035】
(実施例3)
松樹皮1kgをブレンダーで破砕し、松樹皮の破砕物を得た。
【0036】
(比較例1)
松樹皮の代わりに、カテキン類を含有する茶葉1kgを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、茶葉のエタノール水溶液抽出残渣0.6kgを得た。
【0037】
(比較例2)
松樹皮の代わりに、松の心材1kgを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、松の心材のエタノール水溶液抽出残渣0.9kgを得た。
【0038】
(実施例4:植物成長促進効果)
上記実施例1〜3で得られた松樹皮の水抽出残渣、松樹皮のエタノール水溶液抽出残渣、および松樹皮破砕物、ならびに比較例1で得られた茶葉のエタノール水溶液抽出残渣および比較例2で得られた松の心材のエタノール水溶液抽出残渣を用いて、以下のようにして成長促進効果を評価した。まず、実施例1の残渣に水を加えて0.01重量%および0.1重量%の2種類の濃度の懸濁液20mLを調製した。各懸濁液をそれぞれ容器に注いだ後、シート状のスポンジを浸漬させた。次いで、このスポンジの上に、20個のかいわれ大根の種子を種子間の距離が均等になるように播き、20℃にて栽培を行った。上記と同様に、実施例2の残渣および実施例3の破砕物については、それぞれ2種類の濃度の懸濁液を調製し、各懸濁液を注いだ容器ごとに各20個のかいわれ大根の種子を播き、20℃にて栽培を行った。比較例1および2については、0.1重量%濃度の顕濁液のみを調製し、この顕濁液を用いて上記と同様にかいわれ大根の栽培を行った。なお、懸濁液の代わりに、水のみを用いた対照を設けた。
【0039】
栽培開始から2日目に各プランターから種子をランダムに10個採取し、発芽した根の長さを測定し、平均値を求めた。さらに、栽培開始から5日目に残りの10個の種子を採取し、茎部の長さを測定し、平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果から、実施例1〜3で得られた松樹皮の水抽出残渣、松樹皮のエタノール水溶液抽出残渣、および松樹皮破砕物を用いて栽培したかいわれ大根は、比較例の茶葉のエタノール水溶液抽出残渣(比較例1)または松の心材のエタノール水溶液抽出残渣(比較例2)を用いて栽培したかいわれ大根あるいは対照の水のみで栽培したかいわれ大根に比べて、根および茎のそれぞれがより長く成長していることがわかる。かいわれ大根の根および茎の長さについて、各実施例1〜3を対照に対してそれぞれ検定(Tukey−Kramer)したところ、いずれも有意差があった(p<0.05)。実施例1〜3の松樹皮の水抽出残渣、松樹皮のエタノール水溶液抽出残渣、および松樹皮破砕物は、いずれも低濃度で根および茎の成長がみられることから、優れた植物成長促進効果を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の松樹皮またはその処理物を含有する植物成長剤および該植物成長剤を含有する肥料は、優れた植物成長促進効果を有する。本発明は、松樹皮自体あるいは、従来有効成分として知られるポリフェノールなどが除去された松樹皮処理物を利用するため、松樹皮全体を有効利用することができる。さらに、本発明の植物成長剤は、松樹皮自体を使用する場合には、特に抽出処理を必要とせず、松樹皮処理物を使用する場合には、サイレージなどを用いた分解処理を行う必要がないため、経済性にも優れている。本発明の植物成長剤および肥料は、土壌に播くまたは水耕栽培の場合は水耕液に含有させる、あるいは植物の茎、葉、花などに直接塗布することができ、植物成長促進効果を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
松樹皮またはその処理物を含有する、植物成長剤
【請求項2】
前記処理物が、松樹皮を極性溶媒で抽出して得られる残渣である、請求項1に記載の植物成長剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の植物成長剤を含有する、肥料。

【公開番号】特開2006−8592(P2006−8592A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187895(P2004−187895)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】