説明

植物栽培システム

【課題】低コストで安全かつ高栄養価の野菜を生産するシステムを供給する。
【解決手段】水または養液を収容する水槽を設置することなく、無孔性親水性フィルム1に水または養液を該フイルムの下面側から供給する手段を用いて、該フィルム上で植物を栽培する植物栽培システム。水または養液を該フイルムの下面側から供給する手段として、無孔性親水性フィルム1と水不透過性材料2の間に無孔性親水性フィルムに接する吸水性材料8を配置する。大地土壌上に直接水不透過性材料2、吸水性材料8および潅水チューブ3、無孔性親水性フィルム1を順に配置することにより、低コストで安全かつ高栄養価の野菜を生産するシステムとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物栽培システムに関する。より詳しくは、本発明は、植物の根と実質的に一体化できるフィルムを用いた植物栽培システムに関する。さらに詳しくは、本発明は、植物を栽培するための水や養液を、水槽を使用せずに供給する植物栽培システムに関する。
【0002】
本発明によれば植物体を栽培するときに、水または養液を収容する水槽を必要としないので水槽材料費が不要となる。
【0003】
さらに水槽を設置する場合には、水面が水槽と平行になるように設置する必要があるため設置工事に多大な費用がかかるが、本発明によればその必要がないので、設備費用が安価となる。
【0004】
また、土耕栽培または養液土耕栽培において使用される大地土壌と植物を隔離するため大地土壌の上に水不透過性材料、または水不透過性材料の上に配置した吸水性材料の上に無孔性親水性フィルムを配置し、その上で植物を栽培することによって、従来の土耕栽培または養液土耕栽培の問題点である、連作障害などの原因となる土壌中の線虫などの微生物、細菌類、ウイルス類などによる植物汚染、土壌中の残留農薬などによる植物汚染、土壌表層への塩類の蓄積による植物の生育阻害、肥料の流亡による地下水汚染などが防げる。
【0005】
本発明は、植物の根と大地土壌が直接接することにより生ずる上記の問題を解消することができる。更に、本発明の栽培システムでは、水、肥料の使用量が極めて少ないため栽培コストを大幅に引き下げることができる。
【0006】
また本発明の栽培システムにより、栽培すべき植物を水分抑制状態として、該植物を品質化することが容易になる。
【0007】
更に、本発明の栽培システムによって、近年、問題視されている硝酸態窒素の含有量を減ずることも可能になる。
【背景技術】
【0008】
従来、種々の植物が、太陽、土、雨水などの自然の恵みを利用して、露地(ろじ)あるいは施設内で栽培されて来た。露地栽培あるいは施設内栽培においても、土壌は表層から下は連続的に地中深く繋がっている。このため連作障害の主因である、線虫などの有害な微生物、細菌類が土壌中に繁殖した場合は、土壌の消毒や大量の汚染されていない土壌を他所から運んで交換する、いわゆる客土が必要となる。しかし、土壌消毒の代表的方法である燻蒸法に使用する臭化メチルの全面使用禁止で土壌消毒が困難となってきた。また、大量の客土の使用はコスト的にも物理的にも殆ど不可能である。
【0009】
更に、過去に大量に使用されてきた有機リン系農薬によって土壌は汚染されていて、これによる農産物汚染の問題が深刻化している。有機リン系農薬は分解、無毒化しにくいため、この問題を解決するには、やはり大量の客土が必要になる。
【0010】
一方、従来の施肥の方法で、大量の元肥を大地に施し、栽培期間中には追肥として1〜2週間分の肥料をまとめて施している。こうした従来の施肥管理は、「植物が小さいときは肥料吸収量が少なく、生育するに従って多くなる」という実体とかけはなれていて、施肥に無駄が多く、結果として土壌の塩類蓄積の原因となっている。
【0011】
特に、施設内の土壌では、水分は下方から上方に移行し、潅水により重力で水が一時的に肥料成分を下方に運ぶものの、潅水を中止すると土壌水分は再び土壌の表面に向かって移動し、塩類も一緒に運ばれる。土壌表面では水のみが蒸発により失われるので、この繰り返しにより塩類が土壌表層で集積する。余剰な塩類が多ければ集積の程度は高まり、植物生育の阻害原因となる。降雨量の極端に少ない砂漠土壌の状態と酷似している。この状態を改善するためには大量の水を使用し、表層の集積塩類を洗い流す方法あるいは、大量の客土を使用する方法しかなく、いずれも莫大なコストがかかる。
【0012】
上記した無駄な施肥は、地下水汚染の原因にもなっている。通常の施肥量では、特に窒素肥料は土壌微生物により分解され、有機態→NH4+→NO2-→NO3-の順に酸化される。しかし、施肥量が多すぎる場合あるいは土壌硝化細菌の活性が弱い状況では、酸化が進まないため、NH4+やNO2-が土壌に過剰に蓄積し、負に帯電している土壌コロイド表面にNH4+は吸着されるものの、NO3-は土壌に吸着されず、流亡し、地下水を汚染することになる。
【0013】
また、潅水に関しても、数日毎に大量の潅水をするため、潅水直後には土壌が過湿気味となり、次に潅水する直前には乾燥気味となるなど、植物に対しての水分ストレスを制御することが難しく、高糖度などの高品質化を達成することが困難である。
【0014】
これに対し、養液土耕と言われる栽培方法があり、土壌栽培の利点を活かしながら、植物の生育に合わせて、植物が必要とする肥料成分を、必要なときに必要量だけ施肥する方法である。土壌に点滴チューブを設置し、土壌中の肥料および水分量測定をリアルタイムで実施しながら、給液設備から植物に合った窒素、燐酸、カリの他、カルシウムなどの微量要素成分を含む養液を過不足なく植物に供給する潅水施肥技術である。養液土耕栽培の構成要件は、以下の通りである。
【0015】
1)基肥は施さない(ただし、土壌の物理化学性や微生物を維持・改善するための有機物質材や土壌改良材は施す)2)毎日、潅水および施肥を行う3)養水分測定に基づく適切な潅水施肥を行う4)植物の養分吸収比率に合った成分組成で、不必要な副成分を含まない肥料を用いる5)正確に液肥成分を混合し、かつ容易に混合倍率を変更できる液肥混入機を用いる6)潅水施肥量を把握するための流量計を備えている7)圃場全面に均一潅水が可能な潅水チューブ(点滴チューブなど)を用いる
【0016】
以上に述べたように、養液土耕栽培の場合には土耕栽培に比べて、施肥量と潅水量が減るために、土壌表層への塩類の集積による生育障害は改善される。又、過剰施肥による地下水汚染が軽減されるという利点がある。しかしながら、植物の根が直接大地に接触していることによって発生する連作障害あるいは残留農薬による農産物汚染などの解決策とはならない。
【非特許文献1】「養液土耕栽培の理論と実際」2〜18頁 編者:青木宏史、梅津憲治、小野信一 発行所:誠文堂新光社、2001年6月発行
【0017】
一方、上記した従来の土耕栽培、養液土耕栽培の問題を解決するため、養液栽培、あるいは水耕栽培といわれる栽培システムが開発されてきた。養液栽培では養液を入れる水槽(ベッド)によって大地と植物が隔離されているために土耕栽培あるいは養液土耕栽培に付随するような養液による土壌汚染、あるいは土壌汚染による植物の感染などが実質的に防止される。
【0018】
しかし、養液栽培では高額な養液槽(ベッド)、ベッド支持体、さらに槽内の水面が水槽と平行になるように設置する必要があるための設置工事などに多大な費用がかかる。
【0019】
又、根が養液中に直接、浸かっているので、養液が細菌、ウイルスなどで汚染されると、植物が容易に感染するために、養液の循環、殺菌、ろ過などの高額設備が必須である。更に、養液栽培では根が常に養液中に浸かっているために水分ストレスがかからず、栄養価が低く、味がないなど、生産物を高品質化することが困難であるという致命的な欠点がある。
【0020】
更に、大量の養液を使って植物を短期間に栽培する養液栽培あるいは大量の施肥、潅水による土耕栽培、養液土耕栽培における農産物生産の問題として、特にサラダ菜、ホウレン草などの葉采類中に高濃度で蓄積される硝酸態窒素の健康障害が挙げられる。
【0021】
サラダやホウレン草等の可食部の葉柄部に高い濃度で硝酸塩が含まれていることがある。硝酸塩は唾液と反応して亜硝酸塩となり、更に消化の過程で発ガン性を持つニトロソアミンという物質を生成するとされている。このため、野菜に含まれる硝酸含量が品質の重要な基準の1つになりつつあり、その低含量化が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、上記した養液栽培、土耕栽培、養液土耕栽培の欠点を解消した植物栽培システムを提供することにある。
【0023】
より詳しくは、本発明の目的は、水不透過性材料、無孔性親水性フイルム、吸水性材料、該水不透過性材料と該無孔性親水性フイルム間の吸水性材料に給液する手段、該無孔性親水性フイルム上に給液する手段からなるシステムにより、養
液栽培における養液を収容する水槽を必要とせず、さらに多大な費用がかかる水槽の設置工事の必要がない、安価な栽培システムを提供することにある。
【0024】
本発明の他の目的は、土壌と植物を隔離するため水不透過性材料を大地などの上に配置し、その上に設置した吸水性材料を介して潅水手段により供給された水または養液を無孔性親水性フィルムに供給するというシステムを用いて、従来の土耕栽培、養液土耕栽培の問題点である土壌中の病原菌や線虫による連作障害から根を守る植物栽培システムを提供することにある。
【0025】
本発明の他の目的は、残留農薬などで汚染されている大地の土壌と植物の根を前記水不透過性材料および前記無孔性親水性フィルムで隔離して栽培することによって、植物の汚染を防止するシステムを提供することにある。
【0026】
本発明の他の目的は、前記水不透過性材料により大地の土壌への肥料および水の漏洩を無くし、土壌中への塩類の集積と肥料の系外への流亡を無くす植物栽培システムを提供することにある。
【0027】
本発明の他の目的は、前記無孔性親水性フィルム上の少量の客土に少量の肥料と水分を効率的に供給することによる、経済的であると同時に水ストレス負荷による高品質植物の栽培システムを提供することにある。
【0028】
本発明の他の目的は、栽培された植物体の硝酸態窒素を低減する栽培システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明者らは鋭意研究の結果、無孔性親水性フィルム( 例えば高分子製フィルム) が、植物の根と実質的に一体化するという全く新たな現象を見出した。本発明者らは、このような知見に基づいて更に研究を進めた結果、無孔性親水性フィルムと実質的に一体化した植物の根が、該フィルムを介して、該フィルムに接触した養液中の肥料成分および水を植物の生長に必要な程度、吸収する現象をも見出した。さらに、根が該フイルムと一体化し、該フイルムを介して水および肥料成分を吸収しようとするために、膨大な数の根毛が生起されことによって、根の近傍にある水、肥料成分、空気などを効率良く吸収できることも見出した。
【0030】
さらに本発明者らは、該フイルムに水または養液を供給する手段として、水または養液を収容する水槽を設置しないことが、本発明が目的とする課題の解決に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0031】
本発明の植物栽培システムは上記知見に基づくものであり、より詳しくは、栽培すべき植物体が、水不透過性材料、または水不透過性材料の上に設置された吸水性材料上に配置された、根と実質的に一体化しうる無孔性親水性フィルムの上に少なくともあることを特徴とするものである。
【0032】
本発明によれば、水不透過性材料と無孔性親水性フィルムの間に配置された吸水性材料に、潅水手段により水または養液を供給することを特徴とする植物栽培システムが提供される。
【0033】
本発明によれば、更に、該無孔性親水性フィルム上に植物栽培用支持体および植物体を配置し、前記植物体を栽培する植物栽培システムが提供される。
【0034】
本発明によれば、更に、該無孔性親水性フイルムの上に植物体および水蒸気を通過させないマルチングフイルムあるいはマルチング部材を配置し、前記植物体を栽培する植物栽培システムが提供される。
【0035】
本発明によれば、更に、植物体の根と該無孔性親水性フィルムとが実質的に一体化した後には、該フィルム上方から水および/又は肥料を適宜供給する植物栽システム培が提供される。
【発明の効果】
【0036】
上記構成を有する本発明の植物栽培システムにおいては従来の養液栽培における養液を収容する水槽を必要とせず、さらに多大な費用がかかる水槽の設置工事の必要がない、安価な栽培システムを提供できる。
【0037】
更に、本発明によれば、植物の根と大地土壌とが水不透過性材料によって隔離され、直接には接触していないため、大地の土壌が病原微生物、病原菌で汚染されていても、微生物、細菌は該フィルムを透過できないため、根に触れることがなく、連作障害などの植物汚染を回避できる。
【0038】
更に、本発明によれば、たとえ大地土壌が残留農薬などで汚染されていたとしても、大地土壌と根が水不透過性材料で隔離されているために、植物の汚染が軽減される。
【0039】
更に、本発明によれば、大地土壌の上にある水不透過性材料は、該フイルムと無孔性親水性フィルムの間に設置された吸水性材料に養液などが供給されても、該養液の大地土壌中への移行を阻止し、塩類集積、地下水汚染が防止されると同時に貴重な水資源の有効利用、肥料使用量の低減などといった栽培コストを低下させる。
【0040】
又、たとえ大地土壌の表層に塩類の蓄積があっても、水不透過性材料があるために、直接根に触れることがなく、集積塩類は植物生育に大きな影響を与えない。
【0041】
更に、本発明の植物栽培システムにより、栽培すべき植物に対する無孔性親水性フィルムに起因する水分ストレスの制御が極めて容易となり、該植物を高品質化することができる。
【0042】
更に、本発明によれば、無孔性親水性フィルム下に主として、水のみを供給し、該フィルム上から少量の養液を、量および時間を厳密に制御した状態で供給し、栽培後半に水のみを供給する方法、あるいは無孔性親水性フィルム下に養液を供給し、該フィルム上から水のみを供給する方法で、容易に栽培植物中の硝酸態窒素量を大幅に低減できる。
【0043】
本発明のシステムに於いては、無孔性親水性フイルム下への水あるいは養液の供給、および該フイルム上への水あるいは養液の供給には、制御のし易さなどの点から、点滴チューブが好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0045】
(植物栽培システム)本発明の植物栽培システムは、水または養液を収容する水槽を設置することなく、無孔性親水性フィルムに水または養液を供給する手段を用いて、該フィルム上で植物を栽培する植物栽培システムである。
【0046】
図1は、本発明の植物栽培システムの基本的な一態様を示す模式断面図である。図1を参照して、この態様の植物栽培システムは、水不透過性材料2上に植物体が配置されるべき無孔性親水性フィルム1が配置される。
【0047】
(他の態様1)図2は、本発明の植物栽培システムの他の態様を示す模式断面図である。図2を参照して、この態様においては、水不透過性材料2表層に潅水手段3(例えば、点滴チューブ)を配置し、吸水性材料8(不織布など)を挟んで無孔性親水性フィルム1が配置されている。このような潅水手段3を配置することにより、無孔性親水性フィルム1に効果的に養液を供給できるというメリットを得ることができる。
【0048】
(追加的手段)図2の態様においては、必要に応じて、無孔性親水性フィルム1の上に土壌などの植物栽培用支持体4、および/又は、水蒸気を通さないか、または低透過性の蒸発抑制部材5(例えば、後述するマルチング材)を配置することができる。このような蒸発抑制部材5を配置することにより無孔性親水性フィルム1から大気中に蒸散する水蒸気を蒸発抑制部材5表面あるいは植物栽培用支持体4中に凝結させ、水として植物が利用できる。また、無孔性親水性フィルム1の下に不織布のような吸水性材料8を設置することにより無孔性親水性フィルムに均一に養液を供給することができる。
【0049】
更に、必要に応じて、無孔性親水性フィルム1の上には間歇的に水または養液を供給するための潅水手段6(例えば、点滴チューブ)を配置することが出来る。このような潅水手段6を配置することにより、植物が無孔性親水性フィルムを介して摂取する水または肥料成分が不足した場合にそれを補うことができるというメッリトを得ることができる。
【0050】
更に、必要に応じて、無孔性親水性フィルム1を含む栽培領域の上部に細霧噴霧用手段7(例えば、バルブ)を配置し、間歇的に水、養液または農薬希釈液を噴霧することができる。このような細霧噴霧用手段7を配置することにより、水の間歇的噴霧による特に夏季の冷却、養液の噴霧による環境の冷却と葉面散布による肥料成分の供給、農薬の配合された水または養液の噴霧による農薬の散布などの自動化が可能となるというメリットを得ることができる。図2の構成においては、上記した以外の構成は図1におけると同様である。
【0051】
(他の態様2)図3は、本発明の植物栽培システムの他の態様を示す模式断面図である。図3を参照して、この態様においては、畝のように周囲より高くした水不透過性材料2を例えば大地土壌上に配置し、その上に無孔性親水性フィルム1を設置し、該フィルム1の端を畝の側面に沿うように下げる。該フィルム1の上に配置する植物栽培用支持体4(例えば土壌など)が周囲に落ちないよう保護するためプラスチックや木などで作製した植物栽培用支持体保持枠9を配置し、該枠9と該フィルム1の間に水が通る隙間を設ける。これにより、ビニールハウスなどの雨を防ぐ手段を持たない屋外においても、雨が降ったときに過剰な水を無孔性親水性フィルム1上から逃がすことができ、温室などの施設内と同様に植物を栽培することが可能になる。図3の構成においては、上記した以外の構成は図2と同様である。
【0052】
(マルチング材料)本発明においては、いわゆる「マルチング」も、好適に使用することができる。ここに、「マルチング」とは、植物の生長を助けるため、遮熱・防寒・乾燥防止などを根元や幹などに施すために使用されるフィルムなどの材料を言う。このようなマルチングを用いた場合には、水分の有効利用性が高まるというメリットを得ることができる。
【0053】
すなわち、本発明によるシステムでは、水不透過性材料2またはその上の吸水性材料8から無孔性親水性フィルム1中に移動した水や養分が、フィルム1と一体化した植物の根によって直接吸収される以外に、フィルム1の表面から水蒸気として蒸発する傾向がある。このように蒸発する水蒸気を大気中に出来る限り逃がさないようにするために、土壌表面をマルチング材料5で覆うことができる。マルチング材料5で覆うことにより、該マルチング材料5の表面あるいは植物栽培用支持体表面に水蒸気を凝結させ、水として植物が利用することができる。
【0054】
(潅水手段)潅水手段3、6(例えば、点滴チューブ)は培土あるいは土壌等の植物栽培用支持体に、水あるいは養液を間歇的に少量ずつ供給するために用いることができ、土のもつ緩衝機能を活かしながら栽培するためのものである。例えば、水が貴重なイスラエルで開発された点滴チューブ(例えば、「ドリップチューブ」とも称される)であるが、点滴潅水で作物の生育に必要な水および肥料をできるだけ少量供給する手段として用いることができる。
【0055】
(細霧噴霧手段)施設栽培で夏季における高温対策として行われる遮光や換気だけでは間に合わず、かといって冷房をするにはエネルギーコストが上がってしまう可能性がある。そこで、細霧噴霧用手段7を配置して、細霧噴霧と称される、非常に粒子の細かい霧状の水を植物に噴霧し、空気中の気化熱を奪い冷却するために行うことができる。冷房の目的以外に、水に肥料および/または農薬を加え噴霧することにより、葉面からの肥料の吸収および/または農薬散布の省力化を兼ねて行うこともできる。
【0056】
(栽培システム)本発明においては、上記した構成を有する限り、これと組み合わせて使用すべき栽培システムは特に制限されない。本発明の栽培システムの特徴である、高額な栽培用水槽、架台およびレベル出し工事が不要、連作障害、農薬汚染、地下水汚染、塩類の土壌表層への集積などの軽減、および栽培植物の高品質化、低硝酸態窒素化などを達成するための好適な栽培システムの態様を以下に述べる。
【0057】
(好適な栽培システム−1)図2の模式断面図を参照して、この態様においては、水不透過性材料2上に、またはその上の吸水性材料8に潅水手段3(例えば、
点滴チューブ)により供給された水または養液は、その上に配置された無孔性親水性フィルム1中に移行する。植物体の根はフィルム1に移行した水および養分を吸収し生育する。
【0058】
必要に応じて、フィルム1の上に間歇的に水または養液を供給するための潅水手段6(例えば、点滴チューブ)を配置することができる。このような潅水手段6を配置することにより、制御された量の水あるいは養液を植物栽培用支持体4(例えば土壌など)に供給でき、植物がフィルム1を介して摂取する水または肥料成分が不足した場合にそれを補うことができるというメッリトを得る。
【0059】
また、水蒸気を通さないか、または低透過性の蒸発抑制部材5(例えば、マルチング材)を配置することができる。このような蒸発抑制部材5を配置することによりフィルム1から大気中に蒸散する水蒸気を蒸発抑制材5表面あるいは植物栽培用支持体4(例えば土壌など)中に凝結させ、水として植物が利用できる。
【0060】
更に、必要に応じて、フィルム1の上部に細霧噴霧用手段7(例えば、バルブ)を配置し、間歇的に水、養液または農薬希釈液を噴霧することができる。このような細霧噴霧用手段7を配置することにより、水の間歇的噴霧による特に夏季の冷却と、養液の噴霧による環境の冷却と葉面散布による肥料成分の供給、農薬の配合された水または養液の噴霧による農薬の散布などの自動化が可能となるというメリットを得ることができる。
【0061】
(好適な栽培システム−2) 本発明において、植物体の特定の成分(たとえば、硝酸態窒素)を低減することを意図する際には、基本的には、(養分蓄積を避けるため)無孔性親水性フィルム1の上からは水のみを供給することが好ましい。ただし、該フィルムと根の「一体化」を促進させるために該フィルム1の下からは養液を供給することが好ましい。
【0062】
無孔性親水性フィルム1と根の「一体化」が完成する前に、該フィルム上から水分を加え過ぎると、植物はフイルム上の取り易い水分を吸収して、該フィルム下からの水分を取る必要が減じ、その結果、根が該フィルムと一体化し難くなる傾向がある。したがって、根が該フィルムと一体化するまでは、該フィルム上からは、過剰の水分を加えることは好ましくない。
【0063】
他方、根が無孔性親水性フィルムと一体化した後であれば、適宜、該フィルム上から水分/養分を与えても良い。
【0064】
(本発明の利点)上記構成を有する本発明の栽培システムを用いることにより、養液栽培における高額な水槽、架台などがなくても、又面倒なレベル出しの工事などをしなくても、土壌中の病原菌や線虫などによる連作障害、土壌中の残留農薬による植物汚染などが回避される。
【0065】
更に、土壌表層に塩の集積があっても直接根と接触することがないため植物生育に与える影響は無い。又、本発明のシステムにおいては、大地土壌が水不透過性材料2で覆われていて、該フイルム上に供給された水、養液が土壌中へ漏洩しないため、土壌、地下水などの肥料汚染が防止される。更に、無孔性親水性フィルムによって植物に対しての水分供給が容易に制御できるため、糖度等の栄養成分が高くなるという点で植物の質の向上も可能となる。
【0066】
従来の土耕、養液土耕栽培では、大地土壌に供給された肥料成分は土壌中に広く分散しており、栽培の終盤に水だけに切り替えても、土壌中の肥料濃度を低減することは困難であり、植物体に残存する硝酸態窒素を低減することは難しい。又、養液栽培においても水槽中の養液を栽培途中で水に変えることは実際的には困難である。
【0067】
本発明による栽培システムでは、植物体がの存在する無孔性親水性フィルム1上の客土は非常に少なく、該フイルム上に供給される養液または水も少量ですみ、栽培段階で養液から水のみに切り替えることができ、植物体に残存する硝酸態窒素を極めて簡便に低減できる。
【0068】
(各部の構成)以下、本発明の栽培方法における各部の構成について詳細に説明する。このような構成(ないしは機能)に関しては、必要に応じて、本発明者による文献(WO 2004/064499号)の「発明の詳細な説明」、「実施例」等を参照することができる。
【0069】
(フィルム1)本発明において、構成されるフィルム1は、「植物体の根と実質的に一体化し得る」であることが特徴である。本発明において「植物体の根と実質的に一体化」できるか否かは、例えば、後述する「一体化試験」によって判断できる。本発明者らの知見によれば、「植物体の根と実質的に一体化し得る」フィルムとしては、以下のような水分透過性/イオン透過性のバランスを有するフィルムが好ましいことが見出されている。本発明者らの知見によれば、このような水分/イオン透過性のバランスを有するフィルムにおいては、栽培すべき植物の生長(特に、根の生長)に好適な水分/養分透過性のバランスが容易に実現できるため、根と実質的に一体化が可能となると推定される。
【0070】
本発明において、植物はフィルム1を通して肥料をイオンとして吸収するが、このように使用するフィルムの塩類(イオン)透過性が、植物に与えられる肥料成分の量に影響すると推定される。該フィルムを介して水と塩水を対向して接触させた際に下記に示す測定開始4日後の水/塩水の電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下のイオン透過性を有するフィルムを好適に用いることができる。このようなフィルムを用いた際には、根に対する好適な水あるいは肥料溶液を供給し、該フィルムと根との一体化を促進することが容易となる。
【0071】
このフィルム1は、耐水圧として10cm以上の水不透性を有することが好ましい。このようなフィルム1を用いた際には、根とフイルムの一体化を促進することができる。又、根に対する好適な酸素供給および該フィルム1を介しての病原菌汚染を防止することが容易となる。
【0072】
(耐水圧)耐水圧はJIS L1092(B法)に準じた方法によって測定することができる。本発明のフィルム1の耐水圧としては10cm以上、好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。上記の性質を有するフイルム1は無孔性で親水的性質を兼ね備えている必要がある。
【0073】
(水分/イオン透過性)本発明においては、上記フィルム1は、該フィルムを介して水と塩水(0.5質量%)とを対向して接触させた際に、測定開始4日後の水/塩水の栽培温度において測定した電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下であることが好ましい。この電気伝導度の差は、更には3.5dS/m以下であることが好ましい。特に、2.0dS/m以下であることが好ましい。この電気伝導度の差は、以下のようにして測定することが好ましい。
【0074】
<実験器具等>なお、本明細書の以降の部分(実施例も含む)において用いた実験器具、装置および材料は、(特に指定がない限り)後述する「実施例」の前の部分に示した通りである。
【0075】
<電気伝導度の測定方法>肥料は、通常イオンの形で吸収されるため、液中に溶けている塩類(あるいはイオン)量を把握することが望ましい。このイオン濃度を測定する手段として電気伝導度(EC、イーシー)を用いる。ECは比導電率ともいい、断面積1cm2の電極2枚を1cmの距離に離したときの電気伝導度の値を使用する。単位はシーメンス(S)が使われ、S/cmとなるが肥料養液のECは小さいので、1/1000のmS/cmを使う(国際単位系ではdS/m(dはデシ)と表示する)。実際の測定においては、上記した電気伝導度の測定部位(センサー部)にスポイトを用いて試料(例えば溶液)を少量乗せ、導電率を測定する。
【0076】
<フィルム1の塩/水の透過試験>市販の食塩(例えば、後述する「伯方の塩」)10gを水2000mlに溶解して、0.5%塩水を作製する(EC:約9dS/m)。「ざるボウルセット」を使い、ざる上に試験すべきフィルム1(サイズ:200〜260×200〜260mm)を乗せ、該フィルム上に水150gを加える。他方、ボウル側に上記の塩水150gを加え、得られた系全体を食品用ラップ(ポリ塩化ビニリデンフィルム、商品名:サランラップ、旭化成社製)で包んで、水分の蒸発を防ぐ。この状態で、常温で放置して、24hrs毎に水側、塩水側のECを測定する。
【0077】
本発明においては、フィルム1を介する植物の根の養分(有機物)吸収を容易とする点からは、上記フィルムは、所定のグルコース透過性を示すことが好ましい。このグルコース透過性は、下記の水/グルコース溶液の透過試験により好適に評価できる。本発明においては、上記フィルムは、該フィルムを介して水とグルコース溶液とを対向して接触させた際に、測定開始後3日目(72時間)の水/グルコース溶液の栽培温度において測定した濃度(Brix%)の差が4以下であることが好ましい。この濃度(Brix%)の差は、更には、3以下、より好ましくは2以下(特に1.5以下)であることが好ましい。
【0078】
<フィルム1の水/グルコース溶液透過試験>市販のグルコース(ブドウ糖)を用いて5%グルコース溶液を作製する。上記塩水試験と同様の「ざるボウルセット」を使い、ざる上に試験すべきフィルム1(サイズ:200〜260×200〜260mm)を乗せ、該フィルム上に水150gを加える。他方、ボウル側に上記のグルコース溶液150gを加え、得られた系全体を食品用ラップ(ポリ塩化ビニリデンフィルム、商品名:サランラップ、旭化成社製)で包んで、水分の蒸発を防ぐ。この状態で、常温で放置して、24hrs毎に水側、グルコース溶液側の糖度(Brix%)を糖度計で測定する。
【0079】
(根とフイルム1の一体化)後述する実施例2の条件(バーミキュライト使用)で、試験を行う。すなわち、サニーレタス(本葉1枚強)を2本用いて、35日間、植物の生育試験を行う。得られた植物−フィルム1の系において、植物苗の根元で茎葉を切断する。根の密着したフィルム1の茎がほぼ中心になるように、該フィルムを巾5cm(長さ:約20cm)に切断して試験片とする。
【0080】
ばね式手秤に市販のクリップを付け、上記で得た試験片の一方をクリップで固定して、ばね式手秤の示す重量(試験片の自重に対応=Aグラム)を記録する。次いで試験片の中心にある茎を手で持ち、下方に緩やかに引き下げて、根とフィルム1が離れる(または切断される)際の重量(荷重=Bグラム)をばね式手秤の目盛りから読み取る。この値から初期の重量を差し引き、得られた(B−A)グラムを巾5cmの引き剥がし荷重とする。
【0081】
本発明においては、このようにして測定された剥離強度において、前記植物体の根に対して10g以上の剥離強度を示すフィルム1が好適に使用可能である。この剥離強度は、更には30g以上、特に100g以上であることが好ましい。
【0082】
(フィルム1材料)上述した「根と実質的に一体化し得る」性質を満足する限り、本発明において、使用可能なフィルム1材料は、特に制限されず、公知の材料から適宜選択して使用することが可能である。このような材料は、通常フィルムないし膜の形態で用いることができる。より具体的には、このようなフィルム1材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、セロファン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、エチルセルロース、ポリエステル等の親水性材料が使用可能である。
【0083】
上記フィルム1の厚さも特に制限されないが、通常は、300μm以下程度、更には200〜5μm程度、特に100〜20μm程度であることが好ましい。
【0084】
(植物栽培用支持体)上述したように、通常使用される土壌ないし培地は、本発明において、いずれも使用可能である。このような土壌ないし培地としては、例えば、土耕栽培に用いられる土壌、および水耕栽培に用いられる培地が挙げられる。
【0085】
例えば、無機系では天然の砂、れき、パミスサンドなど、加工品(高温焼成等)では、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、セラミック、籾殻くん炭など。有機系では天然のピートモス、ココヤシ繊維、樹皮培地、籾殻、ニータン、ソータンなど、
合成品の粒状フェノール樹脂などがある。また、これらの混合物でもよい。また、合成繊維の布あるいは不織布も使用可能である。必要最小限の肥料および微量要素を、これらの土壌ないし培地に加えてもよい。本発明者らの知見によれば、植物の根が、フィルム1を介して接触する大地土壌から水または養分を吸収可能な程度に伸びるまで、言い換えると根とフイルム1が一体化するまでの養分は、ここに言う「必要最小限の肥料および微量要素」として、フィルム1上の植物栽培用支持体に加えておくことが望ましい。
【0086】
(養液)本発明において使用可能な養液(ないし肥料溶液)は特に制限されない。例えば、従来の土耕栽培ないし養液土耕栽培において使用されてきた養液は、本発明においていずれも使用可能である。
【0087】
一般には、水または養液として植物の生育にとって必要不可欠な無機成分としては、主要な成分として:窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、硫黄(S)、微量成分として:鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)が挙げられる。さらにこの他に、副成分として、珪素(Si)、塩素(Cl)、アルミニウム(Al)、ナトリウム(Na)等がある。必要に応じて、本発明の効果を実質的に阻害しない限り、その他の生理活性物質も加えることができる。更に、グルコース(ブドウ糖)などの糖質、アミノ酸等を添加することも可能である。
【0088】
(水不透過性材料) 水を通さないフイルムであればいずれでも良く、素材として合成樹脂、木材、金属あるいはセラミックなどで、形状はフィルム状、シート状、板状、または箱状などである。
【0089】
(吸水性材料)フィルム1へ水または養液を供給する役割があり、基本的には水を吸収して保持する材料であればいずれでも良い。合成樹脂から作られたスポンジや不織布、織物からなる布、植物性の繊維状、チップ状、粉末状、または、ピートモスや水苔をはじめ一般的に植物支持体として使用される材料も可能である。
【0090】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0091】
実施例11)試験方法簡易型のハウスの中で、ハウス内土壌の上に厚み50μmのポリエチレンフィルム(大倉工業(株))幅1m、長さ1mを敷き、その上に幅60cm、長さ1mの揚水シート(SR−130、メビオール(株))を設置した、揚水シートの両サイドに20cm間隔で自動潅水器のノズル10本を揚水シート表面上に置き、その上に無孔性親水性フィルム(厚さ65μmのHymecフィルム(メビオール(株)))を設置した。フイルムの上に、培土としてスーパーミックスA((株)サカタの種)を2cmの深さで載せ、自動潅水器のノズル10本を該客土上に設置した。マルチングフイルムとしてシルバーマルチ30μm(東罐興産(株)製)に、苗植え付け用として15cm間隔で6箇所のX印の穴を開け、培土で被覆した。
【0092】
比較対照として、内寸幅45cm、長さ1m、深さ12〜18cmの水槽に、養液を30L加え、無孔性親水性フィルム(厚さ65μmのHymecフィルム(メビオール(株)))を設置した。フイルムの上に、培土としてスーパーミックスA((株)サカタの種)を2cmの深さで載せ、自動潅水器のノズル10本を該客土上に設置した。マルチングフイルムとしてシルバーマルチ30μm(東罐興産(株)製)に、苗植え付け用として15cm間隔で6箇所のX印の穴を開け、培土で被覆した。
【0093】
サニーレタスレッドウエーブ((株)サカタのタネ)の種子をセルトレー内で本葉1〜2枚の幼苗にまで生育し、マルチングフイルム上の6箇所の穴に植え付け、初期潅水を行い、栽培を開始した。
【0094】
自動潅水器:自動水やりタイマーEY4200−H(松下電工(株)) 栽培方法:苗植え付け後に、フイルム下の揚水シートに自動潅水器のノズルから200〜300mL/日の割合で養液を供給した。フイルム上部の潅水(養液)は、比較対照ともに、自動潅水器を用いて実施した。上部の潅水(養液)量は苗1本あたり約20mlとした。栽培期間は苗植え付けから1ヶ月であった。
【0095】
養液:ECは1.2で、大塚ハウス1号0.6g/Lと大塚ハウス2号0.9g/Lの混合養液1Lに、大塚ハスス5号0.03gを混合したものを使用した。
【0096】
2)試験結果 苗植え付け後1ヶ月の小松菜の苗6本の総重量は表1に示すように、無孔性親水性フィルムの下に吸水性材料を使用した場合、143.6g、比較対照の水槽を使用した場合で163.5gであった。
【0097】
【表1】

収穫量は水槽タイプに比べ10%程度低下したが、無孔性親水性フィルムの下の養液使用量は水槽タイプに比べ、約1/4程度となった。
【0098】
以下で用いた実験方法は、上述したものの他は、以下の通りである。 <pHの測定>pHの測定は後述のpHメーターによって行った。標準液(pH7.0)で校正したpHメーターのセンサー部分を測定すべき溶液につけ、本体を軽く揺らし、値が安定するのを待ち、LCD(液晶)表示部に表示される値を読み取った。
【0099】
<Brix%の測定>Brix%測定は後述の糖度計(屈折計)を用いて行った。測定溶液をスポイトでサンプリングし、糖度計のプリズム部分に滴下し測定後、LCDの値を読み取った。
【0100】
<実験器具等>1.使用器具および装置 1)ざるボウルセット:ざるの半径6.4cm(底面の面積約130cm2)2)発泡スチロール製トロ箱:サイズ55×32×15cm等3)上皿電子天秤:Max.1Kg、(株)タニタ4)ばね式天秤:Max.500g、(株)鴨下精衡所5)ポストスケール:ポストマン100、丸善(株)6)電気伝導度計:TwinCond B−173、(株)堀場製作所7)pHメーター:pHパル TRANSInstruments、グンゼ産業(株)、 コンパクトpHメーター(TwinpH)B-212 (株)堀場製作所8)糖度計(屈折計):PR201 、(株)アタゴ
【0101】
2.使用材料(土壌)1)スーパーミックスA:水分約70%微量肥料入り、(株)サカタのタネ2)ロックファイバー:栽培用粒状綿66R(細粒)、日東紡(株)3)バーミキュライト:タイプGS、ニッタイ株式会社(フィルム)4)ポリビニルアルコール(PVA):アイセロ化学(株)、厚さ40μm5)二軸延伸PVA:ボブロン、日本合成化学工業(株)6)親水性ポリエステル:デュポン社(株)、厚さ12μm7)浸透セロファン:(燻製作製用フィルム)((株)東急ハンズ)8)セロファン:二村化学工業(株)、厚さ35μm9)微孔性ポリプロピレンフィルム:PH−35、(株)トクヤマ10)不織布:シャレリア(超極細繊維不織布)、旭化成(株)
【0102】
(苗用種)11)サニーレタス:レッドファイヤー、タキイ種苗(株)(肥料)12)原液ハイポネックス:(株)ハイポネックスジャパン13)大塚ハウス1号、2号、5号: 大塚化学(株)(その他)14)伯方の塩:伯方塩業(株)15) ブドウ糖:ブドウ糖100、(株)イーエスNA
【0103】
実施例2(根とフイルム1の一体化現象)肥料濃度の根のフイルムとの一体化現象に与える効果を調べた。養液として、ハイポネックス100倍希釈液、1000倍希釈液、および水(水道水)を用いて、その効果を比較した。
【0104】
約20cm×20cmの無孔性親水性フィルム(PVA)上に土壌として、バーミキュライト、またはロックファイバーを約300ml配置した。この土壌内に、植物の苗として、サニーレタスの幼苗(本葉1枚強)を2本植え付けた。土壌として2種類、養液として3種類の合計6種類の系を作製した。養液量は各300mlであった。フィルム(PVA)上には約2cmの厚さの土壌を載せた。実験はハウス内で行い、自然光を使用した。栽培期間中のの気温は0〜25℃、湿度は50〜90%RHであった。
【0105】
水分蒸発量および養液のEC値を、栽培開始13日後、および35日後にそれぞれ測定した。35日後には、前述したように、根とフイルムの一体化現象の目安である「引き剥がし試験」を行った。
【0106】
上記実験条件を纏めると、以下の通りである。1.実験1)フィルム:PVA40μm(アイセロ化学)200×200mm2)苗:サニーレタス幼苗(本葉1枚強)3)土壌:バーミキュライト(細粒)、ロックファイバー66R4)溶液:水、ハイポネックス原液100倍希釈水溶液、1000倍希釈水溶液5)器具:ざるとボウルのセット6)置き場所:ハウス(温度湿度制御無し)
【0107】
7)実験方法:ざる上のフィルム(200×200mm)上にバーミキュライト150g(水分73%、乾燥重量40g)あるいはロックファイバー200g(水分79%、乾燥重量40g)を載せ、苗を2本植え付ける。該ざるを、240〜300gの養液または水が張られたボール中に設置し、該フイルムを該養液あるいは水と接触させ、幼苗を栽培する。8)栽培期間:10月29日〜12月4日
【0108】
上記実験により得られた結果を、表2に示す。EC:液肥追加前/追加後
【0109】
【表2】

【0110】
(実験結果に対する記述)上記した表1からわかるように、フイルム下に水を使用した場合に比較して、養液を使用した方が、植物の生育のみならず、根とフイルムの接着強度が著しく向上する。これは、植物がフィルムを介して、水のみならず肥料成分をも吸収していることを示している。更に、フイルムを介して水および肥料成分を効率良く吸収するためには、根がフイルム表面に強く密着することが必須であり、その結果として根とフイルムが一体化することになるものと考えられる。
【0111】
実施例3(塩水透過試験)前述の<フィルムの塩/水透過試験>方法に従って、各種フィルムの塩透過試験を行った。フィルムはPVA、ボブロン(二軸延伸PVA)、親水性ポリエステル、セロファン、PH−35、超極細繊維不織布(シャレリア)の6種類である。上記実験により得られた結果を表3に示す。
【0112】
【表3】

【0113】
(実験結果に対する記述)6種類のフィルムのうち、塩の透過性が大きなものは、超極細繊維不織布(シャレリア)、PVA、親水性ポリエステルおよびセロファンであった。塩の透過性が小さいものがボブロンであった。塩の透過性が全く認められなかったものが微孔性ポリプロピレンフイルム(PH−35)であった。本発明に好適に用いられるフイルムの塩透過性の観点から、微孔性ポリプロピレンフイルム(PH−35)は不適であることがわかった。
【0114】
実施例4(ブドウ糖透過試験)前述の<グルコース(ブドウ糖)透過試験>方法に従って、各種フィルムのブドウ糖透過試験を行った。フィルムはPVA、ボブロン(二軸延伸PVA)、セロファン、浸透セロファン、PH−35の5種類である。上記実験により得られた結果を表4に示す。
【0115】
【表4】

【0116】
(実験結果に対する記述)5種類のフィルムのうち、PVA、セロファンおよび浸透セロファンはブドウ糖の透過性は良好であったが、ボブロンではブドウ糖透過性はほとんど認められなかった。又、PH−35では透過性は全く見られなかった。この結果から、ブドウ糖透過性という観点からは、本発明に好適に使用されるフイルムはPVAとセロファンであることがわかった。
【0117】
実施例5(耐水圧試験)前述したように、JISL1092(B法)に準じた試験により、200cmH2Oの耐水圧試験を行った。(実験結果)
【0118】
【表5】

【0119】
(実験結果に対する記述)良好な耐水性を有するフイルムの、本発明における重要な役割は、該フイルム下の水がフイルムを通過してフイルム上に浸透した結果、植物が該フイルム中の水または養液を吸収する必要がなく、根とフイルムの一体化が損なわれることを防止すると同時に、フイルム下の微生物、細菌類、ウイルス類による植物の汚染を防止することである。本実験結果から、フイルムの耐水圧という観点から、本発明に好適に使用できるフイルムとして、超極細繊維不織布のように孔を有する不織布、織布は不適であることがわかった。
【0120】
前述した実施例2、3、4、5に示すように、塩とブドウ糖の好適な透過性と同時に好適な耐水性を有するフイルムはPVA,セロファン、親水性ポリエステルなどの素材からなる無孔性親水性フイルムに限定され、該無孔性親水性フイルムによって、はじめて根とフイルムの一体化が生じることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明によれば、植物の根と大地土壌とがフイルムによって隔離され、直接には接触していないため、大地の土壌が病原微生物、病原菌で汚染されていても、微生物、細菌は該フィルムを透過できないため、根に触れることがなく、連作障害などの植物汚染を回避できる。また、たとえ大地土壌が残留農薬などで汚染されていたとしても、大地土壌と根がフイルムで隔離されているために、植物の汚染が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】は、本発明の植物栽培方法の基本的な態様の例を示す摸式断面図である。
【図2】は、本発明の植物栽培方法の他の態様の例を示す摸式断面図である。
【図3】は、本発明の植物栽培方法の他の態様の例を示す摸式断面図である。
【符号の説明】
【0123】
1 無孔性親水性フィルム2 水不透過性材料3 潅水手段(水不透過性材料側)4 植物栽培用支持体(土壌)5 蒸発抑制部材6 潅水手段(植物栽培用支持体側)7 細霧噴霧バルブ8 吸水性材料9 植物栽培支持体保持枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水または養液を収容する水槽を設置することなく、無孔性親水性フィルムに水または養液を該フイルムの下面側から供給する手段を用いて、該フィルム上で植物を栽培することを特徴とする植物栽培システム。
【請求項2】
前記無孔性親水性フィルムに水または養液を供給する手段が無孔性親水性フィルムに接する吸水性材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の植物栽培システム。
【請求項3】
前記無孔性親水性フィルムに水または養液を供給する手段が水不透過性材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の植物栽培システム。
【請求項4】
前記無孔性親水性フィルムと水不透過性材料の間に吸水性材料を配置する請求項3に記載の植物栽培システム。
【請求項5】
前記水不透過性材料が大地土壌上に接地して配置されることを特徴とする請求項3に記載の植物栽培システム。
【請求項6】
前記無孔性親水性フィルムが、該フィルムを介して水と塩水とを対向して接触させた際に、測定開始後4日目(96時間)の水/塩水の電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下のフィルムである請求項1〜5に記載の植物栽培システム。
【請求項7】
前記無孔性親水性フィルムが、該フィルムを介して水とグルコース溶液とを対向して接触させた際に、測定開始後3日目(72時間)の水/グルコース溶液の濃度(Brix%)の差が4以下のフィルムである請求項1〜6のいずれかに記載の植物栽培システム。
【請求項8】
前記無孔性親水性フィルムが、該フィルム上に植物体を配置して栽培を開始した35日後に、前記植物体の根に対して10g以上の剥離強度を示すフィルムである請求項1〜7のいずれかに記載の植物栽培システム。
【請求項9】
前記無孔性親水性フィルムが、耐水圧として10cm以上の水不透性を有する請求項1〜8のいずれかに記載の植物栽培システム。
【請求項10】
栽培すべき植物の生長段階に応じて、前記水不透過性材料と前記無孔性親水性フィルムの間に必要最小限の水または養液を供給する請求項1〜9のいずれかに記載の植物栽培システム。
【請求項11】
前記植物体と前記無孔性親水性フィルムとの間に、植物栽培用支持体を配置する請求項1〜10に記載の植物栽培システム。
【請求項12】
前記植物体と前記無孔性親水性フィルムとの間に、マルチング材料を配置する請求項1〜11に記載の植物栽培システム。
【請求項13】
栽培すべき植物の生長段階に応じて、前記無孔性親水性フィルムの上からも水または養液を供給する請求項1〜12のいずれかに記載の植物栽培システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−295350(P2008−295350A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144202(P2007−144202)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【特許番号】特許第4142725号(P4142725)
【特許公報発行日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(596009814)メビオール株式会社 (23)
【Fターム(参考)】