説明

植物栽培方法及び植物栽培装置

【課題】 果こうを折れにくくすることができると共に、栽培密度を高めることができる植物栽培方法及び植物栽培装置を提供する。
【解決手段】 本発明では、細長の栽培容器60〜62に株を一条で植えるが、植え付け位置を長手方向に沿った一方の側壁60a,61a,62aに偏在させる。このため、果こうを、対向する他方の側壁60b,61b,62bに向けて生長させ、さらに該他方の側壁60b,61b,62bを乗り越えるように生長させることで、他方の側壁60b,61b,62bは果実に近い部分の果こうを支持できる。従って、果実の重みによって果こうにかかる負荷が小さくなり、果こうを支えるための特別な補助具を使用しなくても、果こうの折れを抑制できる。また、一条植えであるため、二条植えと異なり、隣接する植物によって採光が遮られることもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培方法及び植物栽培装置に関し、特に、イチゴの栽培に適する植物栽培方法及び植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平面から見て長方形の栽培容器を用いたイチゴの栽培では、一般には、ある程度の幅を有する栽培容器を用いて二条植え、あるいは、千鳥状の二条植えが多く行われているが、特許文献1及び2に開示されているように、一条植えでの栽培も行われている。
【特許文献1】特開2001−286225号公報
【特許文献2】特開平3−259020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
二条植えの場合、上記したようにある程度の幅を有する栽培容器を用いる必要があり、充填される培地も含めた栽培容器の重量が重く、取り扱いが不便であると共に、生長するに従って隣接する株の葉の陰になる面積が大きくなり、採光上の問題がある。また、各条の株から伸びる果こうは、それぞれに近接する栽培容器の側壁を乗り越えさせて生長させるため、側壁が近いことから、果こうを支持するための補助具を使用しないと、果実の重みにより果こうが折れやすい。一方、従来行われている一条植えは、栽培容器の中央に沿って株を植えている。一条植えの場合には、二条植えと異なり、隣接する株の葉の陰になることはない。しかしながら、栽培容器の側壁との距離は、二条植えよりも長くなるものの、それほど大きな差ではないため、やはり果こうを支えるための補助具を用いないと果こうが折れやすい。その一方、一条植えであったとしても、隣接して配置される栽培容器との間隔をある程度保たないと、作業者が作物に近づくことができず、栽培管理に不都合を来す。従って、一条植えの場合でも、栽培容器同士の間隔をある程度保つ必要があり、二条植えよりも栽培密度が低くなりがちであるという問題がある。
【0004】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、隣接する株の葉の陰になることがない一条植えを採用すると共に、従来よりも果こうを折れにくくすることができる植物栽培方法及び植物栽培装置を提供することを課題とする。また、本発明は、一条植えでありながら、隣接する栽培容器同士の間隔を最小限にすることができ、栽培密度を高めることができる植物栽培方法及び植物栽培装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題を解決するため、請求項1記載の本発明では、細長の栽培容器の長手方向に沿って、複数の株を一条に植えて栽培する植物栽培方法において、
前記栽培容器の一方の側壁寄りに偏在させて前記株を植え、各株の果こうを他方の側壁を乗り越えさせて生長させることを特徴とする植物栽培方法を提供する。
請求項2記載の本発明では、前記栽培容器の長手方向を東西方向に沿わせて配置することを特徴とする請求項1記載の植物栽培方法を提供する。
請求項3記載の本発明では、前記栽培容器の幅が10〜20cmの範囲であり、一条に植えられる各株を、隣接する株間の間隔が5〜15cmの範囲となるように植えて栽培することを特徴とする請求項1又は2記載の植物栽培方法を提供する。
請求項4記載の本発明では、前記栽培容器を互いに略平行となるように所定の高さで複数支持できると共に、各栽培容器の支持高さを調整可能な植物栽培装置を用いて栽培することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の植物栽培方法を提供する。
請求項5記載の本発明では、前記栽培容器を、前記植物栽培装置に3列支持させて栽培することを特徴とする請求項4記載の植物栽培方法を提供する。
請求項6記載の本発明では、前記植物栽培装置は、互いに略平行に設けられる各栽培容器の長手方向端部を支持する支持部材を備えてなり、該支持部材の一端と他端を上昇又は下降させることにより、各栽培容器の支持高さを調整可能であることを特徴とする請求項4又は5記載の植物栽培方法を提供する。
請求項7記載の本発明では、前記各栽培容器において前記株が偏在している一方の側壁を、いずれも北側に位置させて支持することを特徴とする請求項7記載の植物栽培方法を提供する。
請求項8記載の本発明では、前記各栽培容器に植えられた株元からランナーを発生させ、該ランナーに第1番目の子株に葉が展開した後、次のランナーが伸びて第2番目の子株の葉が展開する前の段階のいずれかの時点で、第1番目の子株の葉が残るようにカットすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載の植物栽培方法を提供する。
請求項9記載の本発明では、栽培対象の植物がイチゴであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載の植物栽培方法を提供する。
請求項10記載の本発明では、所定の高さに回転可能に支持された回転軸と、
前記回転軸の長手方向に対して略直交する方向に沿って配置される栽培容器を吊り下げ支持する棒状の支持部材と
を備えた植物栽培装置であって、
前記支持部材の一端付近、中央付近、及び他端付近に、細長の栽培容器が互いに略平行に3列で支持され、
前記回転軸の回転により、前記支持部材の一端と他端を上昇又は下降させることにより、各栽培容器の支持高さを調整可能であることを特徴とする植物栽培装置を提供する。
請求項11記載の本発明では、前記栽培容器には、該栽培容器の長手方向に沿って、複数の株が一条に植えられていることを特徴とする請求項10記載の植物栽培装置を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、細長の栽培容器に株を一条で植えるが、植え付け位置を長手方向に沿った一方の側壁に偏在させている。このため、果こうを、対向する他方の側壁に向けて生長させ、さらに該他方の側壁を乗り越えるように生長させることで、他方の側壁は果実に近い部分の果こうを支持できる。従って、果実の重みによって果こうにかかる負荷が小さくなり、果こうを支えるための特別な補助具を使用しなくても、果こうの折れを抑制できる。また、補助具を使用しなくてもよいため、栽培容器同士の間隔をより狭い間隔にすることができ、栽培密度の向上に資する。また、一条植えであるため、二条植えと異なり、隣接する植物によって採光が遮られることもない。
【0007】
また、株を一条で植えた栽培容器を複数列支持することができると共に、各栽培容器の支持高さを調整可能な植物栽培装置を用いることにより、一条植えの栽培容器を近接させて配置しても、各栽培容器の支持高さを調整し、段違いにすれば、作業者が入る空間が確保でき、栽培管理も容易に行うことができる。このため、一条植えの栽培方法でありながら、栽培密度を高めることができる。また、栽培容器には、株を一条で植えるため、栽培容器としては従来の二条植えと比較するとはるかに幅の狭いものを採用できる。従って、栽培容器を3列で配置することも可能であり、これにより、栽培密度をより高めることができる。また、栽培容器の長手方向を東西方向に沿わせて配置することにより、各植物への採光条件をより適切に確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に示した実施の形態に基づき本発明をさらに詳細に説明する。図1及び図2は、本実施形態にかかる植物栽培装置1を示すである。これらの図に示したように、本実施形態の植物栽培装置1は、支え梁10により支持された回転軸20と、該回転軸20に支持される支持部材30と、該支持部材30に取り付けられる一対のプーリ40,41と、駆動用紐部材50とを有して構成される。
【0009】
回転軸20を支持する支え梁10は、図1に示したように、温室内に所定の高さで配設されている。支え梁10は回転軸20を所定の高さで支持するものであるが、回転軸20を所定の高さで支持することができる限り、支え梁10に代えて地面に立設したパイプ材(図示せず)等を用いることもできる。
【0010】
回転軸20は、上記のように支え梁10に支持されるが、回転軸20を回転させる手段は任意であり、回転軸20の長手方向の端部にハンドル(図示せず)を接続して手動で回転させる構成とすることができるし、モータ駆動によって回転させる構成とすることもできる。
【0011】
支持部材30は、回転軸20の支持高さよりも下方であって、回転軸20の長手方向に対して略直交する方向に配置される棒状(長板状)の部材から構成され、回転軸20の長手方向に任意の間隔をおいて、複数配設される。支持部材30には、その一端付近、中央付近、及び他端付近に、細長の栽培容器60〜62が互いに略平行に3列で吊り下げ支持される。各栽培容器60〜62としては、幅10〜20cm、長さ50〜500cm程度の細長のものが用いられるため、支持部材30は、かかる栽培容器60〜62の長手方向端部付近を支持可能な間隔をおいて設けられる。
【0012】
支持部材30に栽培容器60〜62を吊り下げ支持する手段は任意であり、例えば、図1に示したように、支持部材30の各端部付近及び中央部付近に支持用突起31を設け、該支持用突起31に紐状部材32を介して各栽培手段60〜62を吊り下げることができる。なお、栽培容器60〜62は、布、プラスチック、金属等から、上記したように、幅10〜20cm、長さ50〜500cm程度の細長に形成されて、内部に培地を充填可能となっている。特に、本発明では、栽培容器60〜62に株を一条で植えるため、その幅は狭くてよく、従来一般に使用されている二条植え用のものと比較して小型で軽量なものを用いることができる。
【0013】
駆動用紐部材50は、各端部51,52が支え梁10に固定され、中途部53が回転軸20に巻き掛けられていると共に、各端部51,52と該中途部53との間の部位54,55が支持部材30に設けた2つのプーリ40,41の下側に巻き掛けられて配設される。これにより、回転軸20を時計回り又は反時計回りに回転させると、駆動用紐部材50のうち、回転軸20を経て支持部材30方向に引き出された部位の長さが変わり、該支持部材30の右側端部又は左側端部が上昇又は下降する。なお、図中、符号70は各栽培容器60〜62に接続される排水ホースであり、符号71は各排水ホース70からの排液を集液して排出する配水管である。
【0014】
ここで、各栽培容器60〜62には、図3に示したように、株が、一方の側壁60a,61a,62aに偏在させて一条に定植される。この際、隣接する株間の間隔は5〜15cmの範囲にすることが好ましい。そして、各株の果こうを、他方の側壁60b,61b,62b方向に伸長させ、該他方の側壁60b,61b,62bを乗り越えさせるように生長させる。これにより、株に近い一方の側壁60a,61a,62aを乗り越えさせるように生長させる場合と比較し、果実の重みによる果こうの負荷が小さくなるため、果こうを支持するための特別な補助具を用いなくても折れにくくなる。
【0015】
また、各栽培容器60〜62は、上記した植物栽培装置1に、その長手方向が東西を向くように支持されることが好ましく、さらには、果こうが伸びる方向である他方の側壁60b,61b,62bが南側に位置するように配置することがより好ましい。各栽培容器60〜62には、その長手方向に沿って各植物が一条に植えられているが、それらへの日照条件が均等化され、長手方向の一端側と他端側に植えられる植物の生育差を小さくできる。また、果こうの伸びる方向が南側であるため、果実の着色も良好となる。
【0016】
また、従来の二条植えの栽培方法の場合、各栽培容器の両側に果こうが生長し、果実が結実するため、隣接する栽培容器間の間隔も所定以上に保つ必要がある。このため、本実施形態のような植物栽培装置を利用して上下動させる場合、二条植えでは、栽培容器を2列で支持することしか行われていない。しかしながら、本実施形態では、各栽培容器60〜62に、各植物を一条で植えているため、上記したように各栽培容器60〜62として幅の狭いものを用いることができる。このため、本実施形態のように、支持部材30に栽培容器60〜62を3列で設けることも可能であり、栽培容器60〜62に植物を一条で植えるものでありながら、高い栽培密度を実現できる。
【0017】
ここで、作業用通路から各栽培容器60〜62に対して何らかの作業を施す際、図1に示したように、各栽培容器60〜62の高さがほぼ同じ位置のままだと、いずれか一方の作業用通路からは、他方の作業用通路に近い栽培容器に対する作業が行いにくくなる。そこで、このような場合には、回転軸20をいずれかの方向に回転させて図2に示したような状態にすると、一方の作業用通路からいずれの栽培容器60〜62に対しても容易に手が届き、作業性が向上する。
【0018】
なお、本発明において栽培対象となる植物は、種々の果菜類等が挙げられるが、果こうの保護性が高いことから、イチゴの栽培に最も適している。イチゴを栽培する場合、各栽培容器60〜62に植えられた株元からはランナー80が発生するが、このランナー80は、図4に示したように、第1番目の子株81に葉が展開した後、次のランナーが伸びて第2番目の子株の葉が展開する前の段階のいずれかの時点で、第1番目の子株81の葉が残るようにカットすることが好ましい。これにより、子株81の葉の光合成作用も機能し、各栽培容器60〜62に植えられている親株の果実の生育がより良好となる。
【0019】
また、植物を栽培容器の一方の側壁側に偏在させて一条に植えて栽培する方法は、上記実施形態で示した栽培容器を上下動させる植物栽培装置に用いるだけでなく、栽培容器を移動させない設備においてももちろん適用可能である。その場合でも、果こうを折れにくくする等の機能を奏する。但し、近接させて配置しても隣接する各栽培容器で生長する植物への手入れ作業を容易化できると共に、栽培密度を高めることができるため、上記実施形態のような植物栽培装置を用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一の実施形態にかかる植物栽培装置を用いた植物栽培方法を説明するための図であり、栽培容器同士を略水平状態で複数並列に配置した状態を示す図である。
【図2】図2は、図1の植物栽培装置の回転軸を所定量回転させ、各栽培容器の上下高さを異ならせた状態を示す図である。
【図3】図3は、上記実施形態にかかる植物栽培方法を説明するための図である。
【図4】図4は、ランナーを伸長させて栽培する場合の栽培方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0021】
1 植物栽培装置(
10 支え梁
20 回転軸
30 支持部材
40,41 プーリ
50 駆動用紐部材
60,61,62 栽培容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長の栽培容器の長手方向に沿って、複数の株を一条に植えて栽培する植物栽培方法において、
前記栽培容器の一方の側壁寄りに偏在させて前記株を植え、各株の果こうを他方の側壁を乗り越えさせて生長させることを特徴とする植物栽培方法。
【請求項2】
前記栽培容器の長手方向を東西方向に沿わせて配置することを特徴とする請求項1記載の植物栽培方法。
【請求項3】
前記栽培容器の幅が10〜20cmの範囲であり、一条に植えられる各株を、隣接する株間の間隔が5〜15cmの範囲となるように植えて栽培することを特徴とする請求項1又は2記載の植物栽培方法。
【請求項4】
前記栽培容器を互いに略平行となるように所定の高さで複数支持できると共に、各栽培容器の支持高さを調整可能な植物栽培装置を用いて栽培することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の植物栽培方法。
【請求項5】
前記栽培容器を、前記植物栽培装置に3列支持させて栽培することを特徴とする請求項4記載の植物栽培方法。
【請求項6】
前記植物栽培装置は、互いに略平行に設けられる各栽培容器の長手方向端部を支持する支持部材を備えてなり、該支持部材の一端と他端を上昇又は下降させることにより、各栽培容器の支持高さを調整可能であることを特徴とする請求項4又は5記載の植物栽培方法。
【請求項7】
前記各栽培容器において前記株が偏在している一方の側壁を、いずれも北側に位置させて支持することを特徴とする請求項7記載の植物栽培方法。
【請求項8】
前記各栽培容器に植えられた株元からランナーを発生させ、該ランナーに第1番目の子株に葉が展開した後、次のランナーが伸びて第2番目の子株の葉が展開する前の段階のいずれかの時点で、第1番目の子株の葉が残るようにカットすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載の植物栽培方法。
【請求項9】
栽培対象の植物がイチゴであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載の植物栽培方法。
【請求項10】
所定の高さに回転可能に支持された回転軸と、
前記回転軸の長手方向に対して略直交する方向に沿って配置される栽培容器を吊り下げ支持する棒状の支持部材と
を備えた植物栽培装置であって、
前記支持部材の一端付近、中央付近、及び他端付近に、細長の栽培容器が互いに略平行に3列で支持され、
前記回転軸の回転により、前記支持部材の一端と他端を上昇又は下降させることにより、各栽培容器の支持高さを調整可能であることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項11】
前記栽培容器には、該栽培容器の長手方向に沿って、複数の株が一条に植えられていることを特徴とする請求項10記載の植物栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−44006(P2007−44006A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234164(P2005−234164)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(503046884)
【Fターム(参考)】