説明

植物用ケイ酸補給材及びその製造方法

【課題】 広い面積に均一に散布し易く、しかも、効果的で安価な植物用ケイ酸補給材を提供する。
【解決手段】 珪石粉末と、可給態ケイ酸含有粉末と、水溶性及び/又は生分解性バインダとが含有された粒体からなり、散布時に飛散し難く、散布後に土壌の性状を悪化させ難い構成を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌に散布して植物にケイ酸を供給するための植物用ケイ酸補給材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物、特にイネ科の植物にケイ酸を補給すると、植物組織の強化に効果のあることが知られており、従来よりケイ酸カルシウムやケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩が含有されたケイカル肥料がケイ酸補給材として用いられていた。
【0003】
このようなケイカル肥料は、水田以外では優れた効果を発揮する事例が必ずしも多くはなかった。
【0004】
近年、シリカゲルや籾殻灰等を用いて植物にケイ酸を供給することが行われつつある。特にシリカゲルは、その高いケイ酸補給効果が認められ、1999年にケイ酸質肥料として農水省登録されている。これらの粉末は他のケイ酸質肥料に比べて可給態ケイ酸含量の多いことが知られている。
【0005】
しかし、シリカゲルはケイカル肥料に比べて遥かに高価であるため、例えば、ゴルフ場、緑地公園等のような広い面積に散布することは困難である。
【0006】
このようなシリカゲルは粒径を細かくすることで水との接触面積を増加させることができ、ケイ酸の溶出速度や量を増加させることが可能である。そのため、シリカゲルをより細かな粉末にして用いることで、結果的にシリカゲルの使用量を抑えることも考えられる。
ところが、このようなシリカゲル粉末や近年知られつつあるケイ酸質の籾殻灰等のような粉末をケイ酸補給材として用いる場合、粉末であるために散布する際に極めて飛散し易く、広い面積に均一に散布することが極めて困難になる。
【0007】
ところで、下記特許文献1では、水稲の育苗時のように極限られた領域に用いる培土として、シリカゲル粉末と、保水材と、水溶性結合材とを含み、粒状に成形された植物育成用培土が提案されている。
この培土では、微細なシリカゲル粉末を用いることによりケイ酸の溶出速度が確保されており、また、ゼオライト等の保水材を用いることにより、培土としての保水力が確保されている。
【0008】
しかし、この水稲の育苗時の培土は限られた狭い範囲で短期間使用されるものであるが、これを定期的に長時間繰り返し散布して使用するとすれば、シリカゲル粉末は経時的に消費されるものの、保水材は消費されることがないため、散布された範囲に残留して堆積することになる。その結果、土壌の保肥力が増加したり、保水性が不必要に増加して根腐れ等が起こり易くなるなど、少なくとも施肥コントロールを重視するゴルフ場などにとっては問題となる。
【特許文献1】特開2000−262144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、広い面積に均一に散布し易く、しかも、安価で効果的な植物用ケイ酸補給材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、植物に対する可給態ケイ酸を含有する粉末が、水溶性及び/又は生分解性バインダにより珪石粉末と粒状に結合されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記可給態ケイ酸含有粉末がシリカゲル粉末からなることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記珪石粉末の含有量が前記可給態ケイ酸含有粉末の含有量より多いことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、芝にケイ酸を補給するものであることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明はシリカゲル粉末と、珪石粉末と、水溶性及び/又は生分解性バインダとを混合して造粒することにより植物用ケイ酸補給材を製造する方法であって、前記珪石粉末と少なくとも前記シリカゲル固体とを混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、可給態ケイ酸含有粉末が水溶性及び/又は生分解性バインダにより固定されているので、土壌中もしくは土壌表面で水と接触させれば、可給態ケイ酸含有粉末を露出或いは分離させることができ、可給態ケイ酸含有粉末の粒径に応じて水との接触面積を確保してケイ酸を効率よく溶出させることができる。そのため可給態ケイ酸含有粉末を合理的に使用することができる。ここでは、可給態ケイ酸含有粉末が微細であっても、粒状に結合されているので、散布する際に飛散し難く、広い面積であっても均一に散布し易い。
また、珪石粉末は保肥力がなく保水性も低く、膨潤も生じないため、長期間繰り返し散布したとしても、ゴルフ場等の土壌の性状を悪化させ難く、施肥管理にも支障をきたしにくい。
従って、広い面積に均一に散布し易く、しかも、施肥管理に支障をきたしにくい安価で効果的な植物用ケイ酸補給材を提供することが可能である。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、可給態ケイ酸含有粉末がシリカゲル粉末からなるので、粒径に応じて効率よく可給態ケイ酸を溶出させることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、珪石粉末の含有量が可給態ケイ酸含有粉末の含有量より多いので、シリカゲル粉末の使用量を少なく抑えることができ、安価且つ効果的に製造できる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、上記請求項1乃至は3に記載の植物用ケイ酸補給材は、対象面積全体により均一に散布できるものであると共に、散布後に土壌の保水性や保肥力を変化させ難いものであり、ゴルフ場の芝及びその土壌のように施肥が高度に管理されていて、定期的に繰り返し肥料等が散布される場所には、特に好適に使用することができる。
【0019】
請求項5に記載の植物用ケイ酸補給材の製造方法によれば、珪石粉末とシリカゲル固体とを混合する。その際、珪石粉末は硬度が高いと共に劈開がなく且つそれほど脆くはない鉱物もしくは岩石粉末であるのに対し、シリカゲル固体は珪石に比して粉砕され易い物質であるため、混合時に両者が接触して硬い珪石粉末によりシリカゲル固体を磨砕することができ、シリカゲル粉末を容易に細粉化することが可能である。
そのため、混合時にシリカゲル固体が珪石粉末により細粉化されることで、シリカゲル粉末をより効果的に微細化する手間を簡略化できると共に、単位重量あたりでは原料のシリカゲル固体よりも多くの可給態ケイ酸を補給できる植物用ケイ酸補給材を製造できる。しかも、混合中に粉砕することで珪石粉末と可給態ケイ酸含有粉末即ちシリカゲル粉末とをより均質に混合し易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
この実施の形態における植物用ケイ酸補給材は、珪石粉末と、可給態ケイ酸含有粉末と、水溶性及び/又は生分解性バインダとを含有する粒体からなるもので、可給態ケイ酸含有粉末が水溶性及び/又は生分解性バインダにより珪石粉末と粒状に結合された多数の粒体からなる。
この植物用ケイ酸補給材は、ゴルフ場、緑地公園等のような広い面積に散布して使用されるのに適したものである。特に、施肥が高度に管理されて、定期的に繰り返し肥料等が散布されることにより、植物への各種の成分の供給量が調整されるゴルフ場の芝やその土壌等に使用されるものとして好適である。
【0021】
植物用ケイ酸補給材の可給態ケイ酸含有粉末は、水に接してもしくは微生物や植物根の作用により可給態ケイ酸が直接溶出可能な粉末である。例えば、シリカゲル粉末、ケイ酸質の籾殻灰等が挙げられる。なお、通常は考えられないが、後述の珪石粉末が水と接触することにより十分な可給態ケイ酸を溶出できるものである場合には、この可給態ケイ酸含有粉末を珪石粉末とすることも可能である。このうち、シリカゲル粉末やケイ酸質の籾殻灰は可給態ケイ酸の含有量が多く、特に好適に利用することができる。
【0022】
このシリカゲル粉末としては、各種の方法により得られるシリカゲルの粉末を使用することが可能である。
【0023】
また、ケイ酸質の籾殻灰としては、シリカゲル同等の可給態ケイ酸を有するものを用いるのが好適である。
【0024】
これらの可給態ケイ酸含有粉末の粒径は、より細かいものが好ましく、例えば10メッシュ以下、好ましくは80メッシュ以下とすることができる。
この粒径が大きいと、比表面積が少なくなると共に得られる植物用ケイ酸補給材が大きくなるため、均一な散布を行い難くなる。一方、より微細な粉末として用いれば、散布後に水との接触面積を広く確保することができて、可給態ケイ酸を効率良く溶出させることが可能となり、可給態ケイ酸含有粉末の無駄を防止して有効利用を図り易く好ましい。
【0025】
植物用ケイ酸補給材の珪石粉末は、天然に容易に得られる珪石の粉末であり、鉱物或いは岩石が粉砕されて形成された粉末である。また、珪石を破砕する際の、回収粉塵等の副産物をそのまま利用してもよい。
【0026】
このような珪石粉末は、主成分が二酸化珪素からなる硬度が高いものである。石英の集合体であるため、ゼオライト等に比べて保水性が小さく鉱物分解による膨潤等を生じにくいと共に、保肥力は有しない粉末である。
このような珪石粉末では、植物用ケイ酸補給材を繰り返し散布して用いた場合、土壌に蓄積されても、土壌の保水性を増加させたり、膨潤して水はけを悪化させたり、保肥力を増加させることがなく、植物の根腐れや施肥管理の大幅な変更などを防止することができる。
同時に、可給態ケイ酸含有粉末から可給態ケイ酸が溶出されることを阻害する物質も含まず、効率よく可給態ケイ酸を溶出させることができる。
【0027】
この珪石粉末の粒径は、適宜、選択可能であり、入手可能な粉末をそのまま利用してもよいが、造粒の好適性を考慮し、例えば10メッシュ以下、好ましくは80メッシュ以下とすることも好ましい。
【0028】
植物用ケイ酸補給材の水溶性及び/又は生分解性バインダは、このような可給態ケイ酸含有粉末と珪石粉末とを粒状に一体化して、散布時には粒状を維持できると共に、散布後には水と接触することにより、或いは、土壌中や水中等に普遍的に存在する微生物によって分解されることにより、流下、溶解或いは分解されて可給態ケイ酸含有粉末を露出させ、或いは、粉末を植物用ケイ酸補給材の粒子から脱離させることが可能なものである。このような水溶性及び/又は生分解性バインダとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、糖蜜等を例示することができる。
なお、これらの可給態ケイ酸含有粉末、珪石粉末、及び水溶性及び/又は生分解性バインダの他に、可給態ケイ酸含有粉末からの可給態ケイ酸の溶出が阻害されない範囲で、他の成分を含有させることも可能である。
【0029】
この実施の形態の植物用ケイ酸補給材では、これらの各成分の含有割合を適宜設定することが可能であるが、可給態ケイ酸含有粉末と珪石粉末との混合割合を、可給態ケイ酸含有粉末から十分なケイ酸の溶出量が確保できる範囲で、可給態ケイ酸含有粉末の割合を少なくするのが好ましい。
【0030】
可給態ケイ酸含有粉末の量に対する珪石粉末の量を多くすると、微量の可給態ケイ酸含有粉末であっても、可給態ケイ酸含有粉末と珪石粉末とが均質に混合されていれば、少量の可給態ケイ酸含有粉末を広い面積に均一に散布し易くできる。そのため、散布する可給態ケイ酸含有粉末の量を容易に少なく抑えることが可能であり、可給態ケイ酸含有粉末の散布量を調整し易い。
【0031】
可給態ケイ酸含有粉末としてシリカゲル粉末を用いる場合、シリカゲル粉末の可給態ケイ酸の溶出速度が速く、また、シリカゲル粉末が珪石粉末に比較して遥かに高価であるため、珪石粉末の含有量をシリカゲルの含有量より多く混合するのがよい。好ましくは、シリカゲル粉末の植物用ケイ酸補給材に対する割合を10wt%以上40wt%以下とするのが好適であり、特に、シリカゲル粉末の植物用ケイ酸補給材に対する割合を12.5wt%以上30wt%以下とするのが最も好ましい。
【0032】
このシリカゲル粉末の割合が多いと、得られた植物用ケイ酸補給材が高価となり広範囲への散布が困難となる。
一方、シリカゲル粉末の割合が少ないと、十分なケイ酸補給効果を得られない。
【0033】
また、これらの可給態ケイ酸含有粉末及び珪石粉末に対する水溶性及び/又は生分解性バインダの割合は、粒状に成形して散布時に粒状に維持できる範囲であればよい。この水溶性及び/又は生分解性バインダの割合が多いと、散布後に水に接触しても、可給態ケイ酸含有粉末や珪石粉末を露出させ難く、或いは、これらの粉末を植物用ケイ酸補給材から分離させ難くなる。一方、少なすぎる場合には、可給態ケイ酸含有粉末及び珪石粉末が粒状を維持することができず、均一な散布が行えない。
【0034】
このような水溶性及び/又は生分解性バインダの割合は、用いる水溶性及び/又は生分解性バインダの種類や濃度に応じて異なるが、例えば、カルボキシメチルセルロースを用いる場合には、0.25wt%〜5wt%溶液として使用するのが好適である。
【0035】
そして、このような植物用ケイ酸補給材としては、例えば平均径0.25〜1.5mmの粒状形状を有する多数の粒子からなるものであれば、散布する際に粒状を保持し易いと共に、ゴルフ場のグリーンなど芝目の細かな場合でも芝の根元まで広い面積に植物用ケイ酸補給材を容易に均一に散布することができて好適である。
また、例えば、植物用ケイ酸補給材:水が1:5となるように混合して1分間振とう後のpHが5.5〜7に収まるように調整されていれば、可給態ケイ酸をより溶出させ易くできて好適である。
【0036】
次に、このような植物用ケイ酸補給材をシリカゲル粉末を用いて製造するためのより好適な方法について説明する。ここでは、前述のようなシリカゲル粉末及び珪石粉末を水溶性及び/又は生分解性バインダを用いて粒状に造粒すればよい。
【0037】
珪石粉末としては、例えばチャートや結晶質珪岩から珪砂を製造する際の回収粉塵や微粉末を使用できる。
【0038】
上記珪石粉末に、シリカゲル固体を混合する。
このシリカゲル固体は、十分な可給態ケイ酸の溶出量を確保できる程度に粉砕された前記のようなシリカゲル粉末が好ましく、このようなシリカゲル粉末を珪石粉末と機械的な混合手段により混合すると、シリカゲル粉末は珪石粉末に比べて粉砕され易いため、混合時に珪石粉末と接触することによりさらに細かく粉砕され、シリカゲルの粒径を合理的に小さくすることができる。また、混合と微粉砕の同時進行により、均質に混合することができる。
【0039】
このようにして植物用ケイ酸補給材を製造すれば、単独で微粉砕すればコストもエネルギーも掛かってしまうシリカゲル固体を十分に微粉砕して単位重量当りの可給態ケイ酸を増加させることができ、少ないシリカゲルで十分なケイ酸補給効果を発現させることができる。
なお、この混合時には、製造工程をより簡略化できるなどの理由で、シリカゲル固体及び珪石粉末と共に水溶性及び/又は生分解性バインダを存在させて混合してもよい。
【0040】
このようにして混合した後、各種の造粒手段を用いて、混合物を粒状形状に造粒し、乾燥することにより、球状の植物用ケイ酸補給材の製造を完了することができる。
【実施例】
【0041】
以下、この発明の実施例について説明する。
実施例1
90メッシュ以下の日瓢礦業株式会社製珪石粉末を用い、シリカゲル粉末として、80メッシュ以下の肥料用トヨダシリカゲル(豊田化工株式会社製、商標、可溶性ケイ酸80wt%)を用いた。
珪石粉末は、JIS M8852のセラミック用高シリカ質原料の化学分析方法に準じて分析試験を行ったところ、その組成は、SiO78.2wt%、Fe3.8wt%、Al10.8wt%、CaO 0.2wt%、MgO 1.1wt%、Igloss 2.4wt%、であった。
また、水溶性バインダとしてFINNIFX10000P(三晶株式会社製、商標、カルボキシメチルセルロース)を用いた。
【0042】
珪石粉末に対してシリカゲル粉末を12.5wt%の割合となるように添加し、ヘンシェルミキサーにより一旦混合した後、カルボキシメチルセルロース1%溶液を適宜添加しさらにヘンシェルミキサーにて均質混合した。その後、造粒し、次いで100℃の熱風により乾燥することにより、0.25〜1.5mmの粒径を有する球状の植物用ケイ酸補給材を作製した。
【0043】
得られた植物用ケイ酸補給材の10g(シリカゲル粉末として1.25g相当量)を200mlのポリプロピレン容器に収容し、蒸留水100mlを加えた測定サンプルを5個作製し、暗所で25℃にて保温静置して、所定時間経過後の可給態ケイ酸の溶出量を順次測定した。結果を図1のグラフに示す。
ここで、可給態ケイ酸の溶出量の測定は、所定時間経過後に測定サンプルを取り出してろ過することにより溶出液を得、この溶出液にバナドモリブデン黄法により発色させて、410nmの波長光により吸光度を測定した。
【0044】
比較例1
実施例1と同一の珪石粉末を造粒することなく単独で植物用ケイ酸補給材として用い、実施例1と同一にして可給態ケイ酸の溶出量の測定を行った。この測定では、ポリプロピレン容器にケイ酸粉末を10g収容して行った。
得られた結果を図1のグラフに示す。
【0045】
比較例2
実施例1と同一のシリカゲル粉末を造粒することなく単独で植物用ケイ酸補給材として用い、実施例1と同一にして可給態ケイ酸の溶出量の測定を行った。この測定では、ポリプロピレン容器にシリカゲル粉末を1.25g収容して行った。
得られた結果を図1のグラフに示す。
【0046】
比較例3、4
シリカゲル粉末の粒径を40メッシュ以下(比較例3)、又は5メッシュ以下で10メッシュより大きくした(比較例4)他は実施例1のシリカゲル粉末と同一のシリカゲル粉末を、造粒することなく単独で植物用ケイ酸補給材として用い、実施例1と同一にして可給態ケイ酸の溶出量の測定を行った。この測定では、それぞれポリプロピレン容器にシリカゲル粉末を1.25g収容して行った。
得られた結果を図1のグラフに示す。
【0047】
以上の実施例1及び比較例1、2の結果は、当初の予想では実施例1の植物用ケイ酸補給材の可給態ケイ酸溶出濃度が比較例1及び比較例2の溶出濃度の和に近似すると考えられた。
しかしながら、図1から明らかなように、実施例1の植物用ケイ酸補給材の可給態ケイ酸溶出濃度が比較例1及び比較例2の溶出濃度の和より明らかに多かった。シリカゲル粉末と珪石粉末とをカルボキシメチルセルロースと共に混合して粒体状に造粒した植物用ケイ酸補給材からの可給態ケイ酸の溶出濃度が、シリカゲル粉末と珪石粉末とを造粒せずにそれぞれ単独で用いた植物用ケイ酸補給材の溶出濃度の和よりも高くなっていた。
この理由は明確ではないが、例えば、シリカゲル粉末と珪石粉末とを組合わせる効果、硬度の高い珪石粉末とシリカゲル粉末とを混合する際に強度的に弱いシリカゲルが更に磨砕されるなどの各種の相互作用により生じるものと推定できる。
【0048】
更に、実施例1の溶出濃度を比較例1の溶出濃度と百分率で比較したところ図2の曲線Aに示すような結果が得られ、また、比較例3の溶出速度と倍率で比較したところ図2の曲線Bに示すような結果が得られた。
この図2の曲線A、Bから明らかなように、前記のような相互作用による効果は、溶出時間の初期において特に顕著に表れている。そのため、このような本願発明の植物用ケイ酸補給材では、散布後の初期の溶出濃度を高くすることができ、植物用ケイ酸補給材の速効性を向上させ易いことが分かる。
【0049】
なお、上記実施例1では珪石粉末とシリカゲル粉末とを造粒したのに対し、比較例1、2では粉末状態のままで用いていたため、カルボキシメチルセルロースを用いて造粒することによる影響を確認した。
ここでは、比較例1の珪石粉末を粉末形状のまま用いた場合の4時間後の溶出濃度を図3の帯グラフCで示し、同一のケイ酸粉末をカルボキシメチルセルロースを用いて実施例1と同一の大きさに造粒した場合の4時間後の溶出速度を帯グラフDで示した。
【0050】
図3から明らかな通り、珪石粉末の場合、造粒した場合と造粒しない場合とでは溶出濃度の差は小さく、むしろ造粒しない場合の方がケイ酸の溶出濃度が高いという結果が得られた。そのため、前記のように本願発明では、珪石粉末とシリカゲル粉末との相互作用により可給態ケイ酸の溶出濃度を向上していることが確認できた。
【0051】
実施例2
ゴルフ場用植栽土を敷設した実施例区を設け、コウライ芝を等間隔で複数株移植し、栽培を行った。
移植後14日経過時に、実施例1の植物用ケイ酸補給材を1m当たり30g/mとなるように人手により均一に散布した。
ここでは、窒素、リン酸、カリウムなどの施肥や農薬散布は慣行に準じて適宜実施し、必要に応じて適度な灌水を行った。
【0052】
この栽培の結果を、図4乃至図6の写真に示す。
図4aは栽培開始後3ヶ月経過した状態、図5aは栽培12ヶ月経過した状態(写真中、白く見える部位がコウライ芝の地上部を示す)、図6aは栽培12ヶ月経過したコウライ芝の平均的な代表例1本の地上部及び地下部である。
【0053】
比較例5
実施例2と同一のゴルフ場用植栽土を敷設した対象区を設け、実施例2と同等のコウライ芝を等間隔で複数株移植し、栽培を行った。
この比較例5において、窒素、リン酸、カリウムの施肥及び農薬散布や灌水に関しては実施例2と同一に行ったが、この比較例5ではケイ酸資材の散布は行わなかった。
【0054】
この栽培の結果を図4乃至図6の写真に示す。
図4bは栽培開始後3ヶ月経過した状態、図5bは栽培12ヶ月経過した状態(写真中、白く見える部位がコウライ芝の地上部を示す)、図6bは栽培12ヶ月経過したコウライ芝の平均的な代表例1本の地上部及び地下部である。
【0055】
実施例2及び比較例5から明らかな通り、栽培開始後3ヶ月及び12ヶ月経過した状態の実施例区と比較例区とを比較すると、明らかに実施例区のコウライ芝の生長は比較例区に比べて優れている。
【0056】
各コウライ芝を観察すると、比較例5に比べて実施例2では、コウライ芝の地下部が充実していると共に匍匐茎が充実していることが分かる。そのため、実施例2では、コウライ芝が健全な状態にあると言える。
これは、実施例区全体に均一に植物用ケイ酸補給材を散布することができ、これによりコウライ芝に適切な量の可給態ケイ酸を供給することができ、その結果、コウライ芝の活性を高めることができたためと推測できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1及び比較例1〜4の結果を示すグラフである。
【図2】実施例1と比較例1との対比、実施例1と比較例3との対比を示すグラフである。
【図3】カルボキシメチルセルロースを用いて造粒することによる影響を確認する帯グラフである。
【図4a】実施例2の栽培開始後3ヶ月経過した状態の写真である。
【図4b】比較例5の栽培開始後3ヶ月経過した状態の写真である。
【図5a】実施例2の栽培開始後12ヶ月経過した状態の写真である。
【図5b】比較例5の栽培開始後12ヶ月経過した状態の写真である。
【図6a】実施例2の栽培により得られた各々平均的な代表例であるコウライ芝1本の地上部及び地下部の写真である。
【図6b】比較例5の栽培により得られた各々平均的な代表例であるコウライ芝1本の地上部及び地下部の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物に対する可給態ケイ酸を含有する粉末が、水溶性及び/又は生分解性バインダにより珪石粉末と粒状に結合されていることを特徴とする植物用ケイ酸補給材。
【請求項2】
前記可給態ケイ酸含有粉末がシリカゲル粉末からなることを特徴とする請求項1に記載の植物用ケイ酸補給材。
【請求項3】
前記珪石粉末の含有量が前記可給態ケイ酸含有粉末の含有量より多いことを特徴とする請求項2に記載の植物用ケイ酸補給材。
【請求項4】
芝にケイ酸を補給するものであることを特徴とする請求項1乃至は3の何れか一つに記載の植物用ケイ酸補給材。
【請求項5】
シリカゲル粉末と、珪石粉末と、水溶性及び/又は生分解性バインダとを混合して造粒することにより植物用ケイ酸補給材を製造する方法であって、
前記珪石粉末と少なくとも前記シリカゲル固体とを混合することを特徴とする植物用ケイ酸補給材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【公開番号】特開2007−8792(P2007−8792A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195492(P2005−195492)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(391054268)株式会社ニッチツ (8)
【Fターム(参考)】