説明

植物用培養液およびその製造方法

【課題】肥料としてリン酸塩を主要成分とする肥料に特定し、当該肥料をリン酸塩の希薄水溶液の状態で所望のpHに調整するとともに殺菌能を付与し、塩害を発生することがない、特定された植物に対する培養液や灌水として好適に使用することができる植物用培養液を提供する。
【解決手段】リン酸塩を主要成分とする植物用培養液であり、当該植物用培養液は、微量の塩化物イオンを含有する水を用いて調製された濃度0.01〜0.5重量%のリン酸塩水溶液を被電解水とし、有隔膜電解槽の陽極側電解室にて生成された電解生成水である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生育に有効な植物用培養液に関し、特に、農作物を栽培するための灌水として使用し、液体肥料として直接使用し、または、液体肥料として灌水に混合して使用するための植物用培養液に関する。
【背景技術】
【0002】
植物用の肥料の一種であるリン酸塩は、植物の生育に重要な役割を果たす必須成分であり、例えばその代表例であるリン酸カリウムやリン酸ナトリウムでは、リン酸分および金属イオン部(カリウム、ナトリウム)が共に、植物の生育に有効な成分としてそれぞれ機能する。また、各植物の生育には、それぞれ最適なpHが存在し、例えば、栽培途中の農作物に散布する水のpHをコントロールすることで、農作物の生育に好結果をもたらすことができる。多くの農作物にとっての最適pHは、表1に示すように、4.5〜6.5の範囲にあるが、潅水や肥料の吸収によりpHが変化するため、灌水や肥料のpH調整を行う必要がある。従って、特定された植物に対して、特定された成分の肥料を施す場合には、当該肥料は最適なpHのものであることが望ましい。
【0003】
【表1】

【0004】
一方、農作物等の栽培時における病虫害の発生を防止するため、塩化ナトリウムや塩化カリウム等の塩化物を含有する希薄水溶液を被電解水として、有隔膜電解にて生成される電解生成酸性水を病虫害の発生を防止するための薬液として、栽培途中の農作物に施す手段が知られている。この場合には、当該薬液中の塩化物濃度が高い場合には塩害が発生するおそれがあることから、塩化物に起因する塩害の発生には十分に注意しなければならない。
【0005】
近年、植物の栽培管理システムにおいて、培養液を有隔膜電解する有隔膜電解槽を備えた管理システムが提案されている(特許文献1を参照)。当該栽培管理システムでは、液体肥料を有隔膜電解してイオン化と高酸素状態にした培養液とし、これを灌水としてまたは培養液の一部として、栽培途中の農作物に付与することにより、農作物の生長の向上を図ることを意図している。しかしながら、当該栽培管理システムには、特定された培養液のpHを、特定された植物に最適なpHに調整するという技術思想は存在せず、かつ、塩化物に起因する塩害を防止するとういう技術思想は存在しない。
【特許文献1】特開2004−41128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、肥料のpHを調整する手段としては、肥料を所定の濃度に希釈して希薄水溶液に調製し、当該希薄水溶液を所定の電解条件で有隔膜電解すれば、有隔膜電解槽の陽極側電解室にて、所望のpHの希薄な培養液が得られること知得した。従って、本発明の目的は、肥料としてリン酸塩を主要成分とする肥料に特定し、当該肥料をリン酸塩の希薄水溶液の状態で所望のpHに調整するとともに殺菌能を付与し、塩害を発生することがない、特定された植物に対する培養液や灌水として好適に使用することができる培養液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、リン酸塩を主要成分とする植物用培養液、および、その製造方法に関する。本発明に係る植物用培養液は、微量の塩化物イオンを含有する水を用いて調製された濃度0.01〜0.5重量%のリン酸塩水溶液を被電解水とし、有隔膜電解槽の陽極側電解室にて生成された電解生成水であることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明に係る植物用培養液の製造方法は、所定濃度のリン酸塩を含有する水溶液を有隔膜電解の被電解水とするものであり、当該被電解水は、微量の塩化物イオンを含有する水を用いて調製された濃度0.01〜0.5重量%のリン酸塩水溶液であって、当該被電解水を有隔膜電解して、有隔膜電解槽の陽極側電解室にて植物用培養液を得ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る植物用培養液は、基本的には、濃度が略0.01〜0.5重量%のリン酸塩水溶液であって、少量ではあるが殺菌能を有する有効塩素を含有するものである。当該培養液は、採用するリン酸塩の種類および電解条件により、所望のpHに調整されるものであり、採用するリン酸塩の種類および電解条件を適宜設定することにより、それ自体または灌水に混合することにより、栽培している特定の植物に対して、好ましいpHに適合したのもとなる。従って、当該培養液は、植物の灌水として使用し、また、植物の灌水に混合して使用して、栽培途中の植物に対する生育に大きく寄与し、かつ、病虫害の発生を防止することができる。
【0010】
本発明に係る植物用培養液においては、有隔膜電解に付す被電解水が含有する塩化物イオンは、被電解水の有隔膜電解によって、殺菌能を有する有効塩素に変換されることから不可欠であるが、電解質として被電解水の電解効率を高めるためにも重要である。従来は、殺菌能を有する電解生成酸性水を生成するには、塩化物イオンを電解質として機能させて被電解水の電解効率を高めるべく、塩化物の濃度が高い被電解水を採用している。このため、当該電解生成酸性水を、病虫害の防除のために植物に付与する場合には、電解質である塩化物に起因する塩害の発生には極力注意しなければならいない。しかしながら、本発明に係る植物用培養液の製造では、被電解水の電解質としてリン酸塩も機能することから、塩化物の使用量を、殺菌能を有する有効塩素が生成される程度に抑えることができ、生成される培養液中の塩化物の濃度を極めて低く抑えることができ、これにより、当該培養液の植物に対する塩害を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、植物用培養液およびその製造方法に関する。本発明に係る植物用培養液は、リン酸塩を主要成分とする植物用培養液であり、当該植物用培養液は、微量の塩化物イオンを含有する水を用いて調製された濃度0.01〜0.5重量%のリン酸塩水溶液を被電解水とし、有隔膜電解槽の陽極側電解室にて生成された電解生成水である。また、本発明に係る植物用培養液の製造方法は、所定濃度のリン酸塩を含有する水溶液を有隔膜電解の被電解水とするものであり、当該被電解水は、微量の塩化物イオンを含有する水を原水として調製された濃度0.01〜0.5重量%のリン酸塩水溶液であって、当該被電解水を有隔膜電解すれば、有隔膜電解槽の陽極側電解室にて、意図する植物用培養液を生成することができる。
【0012】
本発明に係る培養液の製造方法で採用する被電解水は、リン酸塩を主要成分とする水溶液であって、微量の塩化物イオンを含有する水を用いて調製された濃度0.01〜0.5重量%のリン酸塩の希薄水溶液である。本発明で採用し得るリン酸塩は、植物の生育を促進する効果がある肥料であって、具体的な化合物としては、リン酸水素カリウム[KHPO]、リン酸水素ナトリウム[NaHPO]、リン酸水素二ナトリウム[NaHPO]、リン酸水素カルシウム[Ca(HPO]、および、リン酸水素マグネシウム[Mg(HPO]等を挙げることができる。また、被電解水であるリン酸塩の希薄水溶液を調製するための原水は、微量な塩化物イオンを含有している水であって、当該原水としては、例えば、最大許容量またはこれに近似する量の塩素を含有する水道水や天然水を好適に採用することができる。また、これと同程度の塩素を含有するように、水に塩化カリウム等を溶解して調製される塩化物の希薄水溶液を採用することも好ましい。
【0013】
本発明に係る培養液の製造方法では、当該被電解水を、有隔膜電解槽を有する電解水生成装置にて有隔膜電解するものであり、当該有隔膜電解では、有隔膜電解槽を構成する陽極側電解室にて電解生成酸性水が生成され、かつ、陰極側電解室にて電解生成アルカリ性水が生成される。これらの電解生成水のうち、電解生成酸性水は、採用したリン酸塩を主要成分とし、殺菌能を有する有効塩素を相当量含有しているものであり、本発明に係る培養液に該当する。当該培養液は、換言すれば、有効塩素に起因する殺菌能を有するリン酸塩濃度が略0.01〜0.5重量%の弱酸性の希薄水溶液である。
【0014】
当該培養液においては、被電解水の調製に使用するリン酸塩の種類および電解条件によって、異なるpHの培養液とすることができ、これにより、当該培養液を、栽培の対象とする植物にとって好ましいpHのものに調製することができる。従って、当該培養液は、植物の培養液として使用し、また、植物の灌水として使用して、栽培途中の植物に対する生育に大きく寄与し、かつ、病虫害の発生を防止することができる。
【0015】
当該培養液においては、有隔膜電解に供する被電解水が含有する塩化物イオンは、被電解水の有隔膜電解によって、殺菌能を有する有効塩素に変換されることから不可欠であるが、電解質として被電解水の電解効率を高めるためにも重要である。従来は、殺菌能を有する電解生成酸性水を生成するには、塩化物イオンを電解質として機能させて被電解水の電解効率を高めるべく、塩化物の濃度が高い被電解水を採用している。このため、当該電解生成酸性水を、病虫害の防除のために農作物等に付与する場合には、高い濃度の塩化物に起因する塩害の発生に注意しなければならいない。しかしながら、当該培養液の製造では、被電解水の電解質としてリン酸塩も機能することから、塩化物の使用量を、殺菌能を有する有効塩素が生成される程度に抑えることができ、生成される培養液中の塩化物の濃度を極めて低く抑えることができる。このため、当該培養液の農作物等に対する塩害を防止することができる。
【実施例】
【0016】
本実施例では、リン酸塩として、リン酸水素カリウム(KHPO)、および、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)を採用して、有隔膜電解により、異なるpHの培養液を製造する実験を試みた。先ず、有隔膜電解に供する被電解水の調製には、塩化物イオン(Cl)が8.4mg/L含有の水道水を調製用原水として使用して、リン酸塩の濃度が0.1wt%(at20℃)の各リン酸塩の希釈水溶液を調製した。調製された2種類の被電解水を、有隔膜電解槽を有する電解水生成装置にて、電解電流10A、電解速度2L/minの電解条件で有隔膜電解(白金−イリジウム電極使用)し、有隔膜電解槽を構成する陽極側電解室で生成された電解生成酸性水を培養液として採取した。得られた培養液の特性を表2に示す。
【0017】
なお、本製造実験においては、陰極側電解室にて生成された電解生成水のpHは、被電解水の調製に採用したリン酸塩がリン酸水素カリウム(KHPO)である場合にはpHが7.0であり、被電解水の調製に採用したリン酸塩がリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)である場合にはpHが11.3であった。
【0018】
【表2】

【0019】
本製造実験の結果を参照すると、被電解水の調製に採用するリン酸塩がリン酸水素カリウム(KHPO)のごとく金属イオンが1個の場合には、陽極側電解室にて生成される電解生成水(培養液)のpHは酸性に大きく傾く傾向にあり、かつ、陰極側電解室にて生成される電解生成水のpHは中性から弱アルカリ性になる傾向にある。これに対して、被電解水の調製に採用するリン酸塩がリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)のごとく金属イオンが2個の場合には、陽極側電解室にて生成される電解生成水(培養液)のpHは中性から弱酸性になる傾向にあり、かつ、陰極側電解室にて生成される電解生成水のpHはアルカリ性に大きく傾く傾向にある。
【0020】
このため、被電解水の調製に採用するリン酸塩および電解条件を適宜選定することにより、リン酸塩を主要成分とする所望のpHの培養液を製造することができる。例えば、被電解水の調製に採用するリン酸塩がリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)のごとく、pHが6.6の培養液については、そのまま農産物の灌水として使用することができるとともに、農産物の根や葉に直接散布して使用することができる。また、被電解水の調製に採用するリン酸塩がリン酸水素カリウム(KHPO)のごとく、pHが2.8の培養液については、陰極側電解室にて同期的に生成される電解生成アルカリ性水にてpHを適宜調整して、または、適宜の量を灌水に混合して使用することができる。
【0021】
また、培養液中の殺菌能を有する有効塩素については、被電解水の調製に採用する原水中の塩化物の量および電解条件により適宜調整することができる。しかしながら、塩化物については、農作物の塩害に配慮して極力少量に抑える必要がある。例えば、水道水が最大許容量程度の塩素を含んでいる場合には、当該水道水は、被電解水を調製する原水として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩を主要成分とする植物用培養液であり、当該植物用培養液は、微量の塩化物イオンを含有する水を用いて調製された濃度0.01〜0.5重量%のリン酸塩水溶液を被電解水とし、有隔膜電解槽の陽極側電解室にて生成された電解生成水であることを特徴とする植物用培養液。
【請求項2】
リン酸塩を主要成分とする植物用培養液を製造する方法であり、当該製造方法は、所定濃度のリン酸塩を含有する水溶液を有隔膜電解の被電解水とするものであり、当該被電解水は、微量の塩化物イオンを含有する水を用いて調製された濃度0.01〜0.5重量%のリン酸塩水溶液であって、当該被電解水を有隔膜電解して、有隔膜電解槽の陽極側電解室にて植物用培養液を得ることを特徴とする植物用培養液の製造方法。

【公開番号】特開2007−63216(P2007−63216A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253487(P2005−253487)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000194893)ホシザキ電機株式会社 (989)
【Fターム(参考)】