説明

植物由来組成物とその硬化物

【課題】高い反応性を有し、高い耐熱性と機械的特性を有する硬化物を形成することができ、さらに植物由来成分の比率を高めることもできる植物由来組成物とその硬化物を提供する。
【解決手段】160〜400℃、0.8〜30MPaの加圧熱水で処理した植物の抽出成分と、ポリアミン化合物とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来組成物とその硬化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題に対する関心が高まるにつれ、プラスチック分野においては、石油由来の材料に代替するものとして、低エミッションかつカーボンニュートラルな植物由来の分解物を重合して得られる樹脂に注目が集まってきている。
【0003】
中でも、植物由来の分解物の一種である乳酸を重合して得られたポリ乳酸は、結晶性を有し、他の植物由来樹脂と比較して物性の高い樹脂の一つであり、大量生産も可能で生産コストも比較的低い。
【0004】
しかし、ポリ乳酸は熱可塑性樹脂であり、汎用の石油由来の熱可塑性樹脂(PE、PP、ABS等)に比較すると、耐熱性と機械的特性が低いために、広く普及するには至っていない。また、ポリ乳酸は耐熱性の高いエンジニアリングプラスチックや熱硬化性樹脂に代替できるような物性を有していない。
【0005】
一方、木材等に多く含まれるポリフェノール類であるリグニンは、植物由来の物質としてはセルロースに次ぐ存在量がある。リグニンはパルプ製造の際に廃棄物となるため、これを有効利用しようという試みが古くからなされてきた。
【0006】
例えば、リグニンは化学構造がフェノール樹脂に類似していることから、フェノール樹脂と同様にリグニンをホルムアルデヒドと反応させ縮合させて接着剤として用いることが検討されてきた。また、樹皮等に含まれるタンニンもリグニンと同様にホルムアルデヒドと反応させ縮合させて接着剤として用いることが検討されてきた。さらに、フェノール樹脂のメチロール基とリグニンのフェノール性水酸基との反応を期待して、フェノール樹脂にリグニンを添加し、リグニンをフェノール樹脂の高分子骨格の中に取り込む検討もなされてきた。
【0007】
しかしながら、リグニン等をホルムアルデヒドを用いて反応させる場合、残留したホルムアルデヒドや加水分解によって発生したホルムアルデヒドが放散されるという問題があった。また、リグニンの反応性が従来のフェノール樹脂よりも低いため、物性と生産性が劣り、上記の技術は広く実用化されていないのが現状である。
【0008】
リグニンを有効利用しようという他の試みとして、リグニンのフェノール性水酸基とポリイソシアナートを反応させてウレタン樹脂とすること(非特許文献1参照)、リグニンのフェノール性水酸基をエポキシ化し、他のエポキシ樹脂と反応させること(非特許文献2参照)、ロジン系成分およびそれと反応する成分をリグニンに加えること(特許文献1参照)等が検討されている。
【特許文献1】特開2003−277615号公報
【非特許文献1】「木質新素材ハンドブック」技報堂出版 p. 685
【非特許文献2】「植物由来リグノフェノールを原料とする新規エポキシ樹脂」 ネットワークポリマー、27 (2)、118 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの従来技術では石油由来成分を多く用いているため、植物由来成分の比率を高くできず、さらに反応性が低いため物性と生産性が劣るという問題があり、広く実用化されていないのが現状である。また特許文献1では、ロジン系成分を加えずにリグニンとエポキシ化合物を混合した配合は物性が低くなっている。これはリグニンの反応性の低さが原因と考えられる。
【0010】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、高い反応性を有し、高い耐熱性と機械的特性を有する硬化物を形成することができ、さらに植物由来成分の比率を高めることもできる植物由来組成物とその硬化物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0012】
第1:160〜400℃、0.8〜30MPaの加圧熱水で処理した植物の抽出成分と、ポリアミン化合物とを含有することを特徴とする植物由来組成物。
【0013】
第2:植物の抽出成分は、アルデヒド基を有するフェノール性化合物を含有することを特徴とする上記第1の植物由来組成物。
【0014】
第3:ポリアミン化合物は、植物由来の重合脂肪酸系ポリアミノアミド化合物であることを特徴とする上記第1または第2の植物由来組成物。
【0015】
第4:植物油脂のエポキシ化合物をさらに含有することを特徴とする上記第1ないし第3のいずれかの植物由来組成物。
【0016】
第5:上記第1ないし第4のいずれかの植物由来組成物を硬化してなることを特徴とする硬化物。
【発明の効果】
【0017】
上記第1の発明によれば、植物を特定条件の加圧熱水で処理し抽出することで、少なくとも1つのフェノール性水酸基を有するフェノール性化合物を含む抽出成分が植物から取り出される。
【0018】
このフェノール性化合物は天然物である植物の分解物であり、加圧熱水処理により得られた植物の抽出成分には、フェノール性水酸基の他、メトキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基等の様々な官能基を有する多数種のフェノール性化合物が含まれている。
【0019】
そして植物の抽出成分は、フェノール性化合物として、パルプ製造時に副生されるクラフトリグニン、リグニンスルホン酸、硫酸を用いて抽出されるリグノフェノール等に比べてポリアミン化合物のアミノ基との反応性の高い官能基を有するものを多く含んでおり、ポリアミン化合物との反応性が高い。特に、アルデヒド基を有するフェノール性化合物がポリアミン化合物のアミノ基との反応性が高いものと考えられる。
【0020】
そのため、フェノール性化合物とポリアミン化合物との反応により、耐熱性を向上させるフェノール性化合物の芳香族環が反応物中に取り込まれ、高い耐熱性と機械的特性を有する硬化物を形成することができる。従って、本発明の植物由来組成物は成形材料や接着剤等に用いることができる。
【0021】
上記第2の発明によれば、植物の抽出成分は、アルデヒド基を有するフェノール性化合物を含有しているので、ポリアミン化合物のアミノ基との反応性が高い。そのため、フェノール性化合物とポリアミン化合物との反応により、耐熱性を向上させるフェノール性化合物の芳香族環が反応物中に取り込まれ、高い耐熱性と機械的特性を有する硬化物を形成することができる。
【0022】
上記第3の発明によれば、ポリアミン化合物として植物由来の重合脂肪酸系ポリアミノアミド化合物を用いることで、上記第1および第2の発明の効果に加え、植物由来組成物における植物由来成分の比率をさらに高めることができる。
【0023】
上記第4の発明によれば、植物油脂のエポキシ化合物は、加圧熱水処理により得られた植物の抽出成分に含まれるフェノール性化合物との反応性が高く、さらにポリアミン化合物との反応性も高いので、硬化物の架橋密度を高めることができる。従って、高い耐熱性と機械的特性を有する硬化物を形成することができる。また、植物由来組成物における植物由来成分の比率も高めることができる。
【0024】
上記第5の発明によれば、上記第1ないし第4の発明の植物由来組成物を反応硬化させることで硬化物としており、当該組成物は、従来の硬化性樹脂と同様に加熱、光照射、硬化促進剤の添加等により反応して3次元網状構造の硬化物となるため、熱可塑性樹脂等と比較してより高い耐熱性と機械的強度が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明において、抽出成分の原料としての植物は、特に制限はないが、その具体例としては木本植物(マツ科、スギ科、ヒノキ科、カバノキ科等の針葉樹、広葉樹)および草本植物の幹、茎、枝、樹皮、葉等の、リグニンやタンニンと呼ばれるポリフェノール類が含まれているものが挙げられる。植物の種類、部位等により、含まれるポリフェノール類の構造は異なり、現在、これらの構造を特定するための研究が行われている。
【0027】
上記の植物は、これを粉砕して植物材料とした後に、加圧熱水で処理され、そして抽出によりフェノール性化合物を含む抽出成分が取り出される。
【0028】
加圧熱水による処理は、160〜400℃、0.8〜30MPaの条件で行われる。当該処理には、いわゆる蒸煮処理、爆砕処理、亜臨界処理、超臨界処理が含まれる。ここで、「亜臨界処理」とは、亜臨界水中における処理のことであり、亜臨界水とは、水の温度および圧力が水の臨界点(臨界温度374.4℃、臨界圧力22.1MPa)以下であって、かつ、温度が140℃以上、その時の圧力が0.36MPa(140℃の飽和蒸気圧)以上の範囲にある状態の水をいう。また「超臨界処理」とは、超臨界水中における処理のことであり、超臨界水とは、温度および圧力が臨界点を超える水のことをいう。
【0029】
粉砕した植物材料を上記の条件下で処理することによって、加圧熱水による有機物の溶解作用と強い加水分解作用により高分子であるリグニンやタンニン等が低分子化され、ポリアミン化合物との反応性が高いフェノール性化合物となる。
【0030】
加圧熱水による処理が160℃未満または0.8MPa未満の条件で行われると、粉砕した植物材料に含まれるリグニンやタンニン等の有機物の水への溶解性が低下し、さらに加水分解する能力が低下する。そのため、低分子化が不十分となり、抽出されたフェノール性化合物のポリアミン化合物との反応性が低下する。
【0031】
加圧熱水による処理が400℃を超えるか、または30MPaを超える条件で行われると、粉砕した植物材料に含まれるリグニンやタンニン等の有機物に対する加水分解作用が強過ぎて、過剰に低分子化され、さらに縮合反応も同時に起こるため、反応性が高いフェノール性化合物が得られなくなる。
【0032】
加圧熱水処理による生成物の抽出条件は、特に制限はなく、生成物の溶解性に応じて水、有機溶媒等の適宜の溶媒が選択され、抽出温度、圧力、時間等も適宜に設定される。抽出操作により、反応性が高いフェノール性化合物を含む抽出成分が得られる。
【0033】
抽出操作により得られた抽出成分には、少なくとも1つのフェノール性水酸基を有する芳香族環を含む多数種のフェノール性化合物が含まれており、そして、フェノール性水酸基の他、メトキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基等の様々な官能基を有するものが含まれている。このうち、特にアルデヒド基を有するフェノール性化合物がポリアミン化合物のアミノ基との反応性が高いものと考えられる。
【0034】
本発明に用いられるポリアミン化合物は、特に制限はないが、加圧熱水で処理した植物の抽出成分に含まれるフェノール性化合物との反応により3次元架橋を形成するために1分子中にアミノ基を2つ以上有することが必要である。
【0035】
ポリアミン化合物の具体例としては、鎖状脂肪族ポリアミン、環状脂肪族ポリアミン、脂肪芳香族ポリアミン、芳香族ポリアミン、重合脂肪酸系ポリアミノアミド化合物等が挙げられる。
【0036】
ポリアミン化合物として植物由来の重合脂肪酸系ポリアミノアミド化合物を用いると、植物由来組成物における植物由来成分の比率をさらに高めることができる。植物由来の重合脂肪酸系ポリアミノアミド化合物としては、特に制限はないが、例えば、大豆、亜麻、桐、ごま、やしの種子等の植物油脂を加水分解して得られる不飽和脂肪酸を重合させた重合脂肪酸にジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミン等のポリアミンを反応させたものを用いることができる。この植物由来の重合脂肪酸系ポリアミノアミド化合物は分子中に反応性の一級アミンと二級アミンを有しており、市販もされている。
【0037】
本発明では、ポリアミン化合物が、加圧熱水で処理した植物の抽出成分に含まれるフェノール性化合物と反応し、特にポリアミン化合物のアミノ基とフェノール性化合物のアルデヒド基とが反応することにより硬化反応が進行して3次元架橋し、高い耐熱性と機械的特性を有する硬化物を得ることができる。
【0038】
加圧熱水で処理した植物の抽出成分とポリアミン化合物との配合比率は、当該抽出成分におけるフェノール性化合物の反応性や化学量論的な当量等を考慮して適宜に設定されるが、植物由来組成物におけるポリアミン化合物の含有量は、加圧熱水で処理した植物の抽出成分と、ポリアミン化合物との合計量に対して好ましくは1〜90質量%である。ポリアミン化合物の含有量を当該範囲内とすることで、ポリアミン化合物におけるアミノ基と、加圧熱水で処理した植物の抽出成分におけるフェノール性化合物のアルデヒド基とが反応し易くなり、その結果として、耐熱性を向上させるフェノール性化合物の芳香族環が反応物中に含有される割合が高くなるので、高い耐熱性と機械的特性を有する硬化物を得ることができる。
【0039】
ポリアミン化合物の含有量が1質量%未満であると、ポリアミン化合物によるアミノ基の数が不足するため、反応性が低下し、硬化物の形成が困難になる場合がある。ポリアミン化合物の含有量が90質量%を超えると、ポリアミン化合物におけるアミノ基が、加圧熱水で処理した植物の抽出成分におけるフェノール性化合物のアルデヒド基に比べて過剰になり、反応性が低下し、硬化物の形成が困難になる場合がある。
【0040】
本発明の植物由来組成物には、さらに植物油脂のエポキシ化合物を配合することができる。植物油脂のエポキシ化合物としては、特に制限はないが、例えば、市販されている大豆、亜麻、桐、ごま、やしの種子等の植物油脂のエポキシ化合物を用いることができる。これらは脂肪酸のグリセリンエステルのエポキシ化物であり、工業的に生産されている植物油脂のエポキシ化合物のエポキシ当量は、通常は100〜400である。
【0041】
植物由来組成物に植物油脂のエポキシ化合物を配合することで、一分子中の複数のエポキシ基が、加圧熱水で処理した植物の抽出成分に含まれるフェノール性化合物の水酸基やポリアミン化合物のアミノ基と反応して3次元架橋し、架橋密度が高まることにより、高い耐熱性と機械的特性を有する硬化物を得ることができる。
【0042】
植物油脂のエポキシ化合物の配合比率は、加圧熱水で処理した植物の抽出成分におけるフェノール性化合物やポリアミン化合物との反応性、および化学量論的な当量等を考慮して適宜に設定されるが、本発明の植物由来組成物における植物油脂のエポキシ化合物の含有量は、加圧熱水で処理した植物の抽出成分と、ポリアミン化合物との合計量に対して好ましくは1〜50質量部である。植物油脂のエポキシ化合物の含有量を当該範囲内とすることで、植物油脂のエポキシ化合物におけるエポキシ基と、加圧熱水で処理した植物の抽出成分におけるフェノール性化合物の水酸基やポリアミン化合物のアミノ基とが反応し易くなり、その結果として、架橋密度が高くなるので、高い耐熱性と機械的特性を有する硬化物を得ることができる。
【0043】
植物油脂のエポキシ化合物の含有量が50質量部を超えると、植物油脂のエポキシ化合物におけるエポキシ基が、加圧熱水で処理した植物の抽出成分におけるフェノール性化合物の水酸基に比べて過剰になり、エポキシ基同士の自重合が起こり易くなる。そうすると植物油脂のエポキシ化合物による3次元架橋のネットワークが形成され、耐熱性を向上させるフェノール性化合物の芳香族環が反応物中に含有される割合が低くなるので、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。植物油脂のエポキシ化合物の含有量が1質量部未満であると、植物油脂のエポキシ化合物が少ないため、硬化物に与える影響がほとんどない場合がある。
【0044】
本発明の植物由来組成物には、加圧熱水で処理した植物の抽出成分、ポリアミン化合物、および植物油脂のエポキシ化合物に加えて、他の添加成分を配合してもよい。このような添加成分の具体例としては、パラトルエンスルホン酸一水和物、トリフェニルホスフィン、イミダゾール、ジアザビシクロウンデセン等の硬化性樹脂に一般に用いられている硬化促進剤、充填材、増量材等が挙げられる。また、本発明の植物由来組成物は、溶媒で希釈したものとしてもよい。
【0045】
本発明の植物由来組成物は、適宜の条件にて反応させることにより硬化物とされる。硬化反応の反応機構は明らかではないが、加圧熱水で処理した植物の抽出成分におけるフェノール性化合物のアルデヒド基と、ポリアミン化合物におけるアミノ基との反応が主反応として進行し3次元網状構造の硬化物となるものと考えられる。また、植物油脂のエポキシ化合物を配合した場合には、加圧熱水で処理した植物の抽出成分におけるフェノール性化合物のアルデヒド基または水酸基と、ポリアミン化合物におけるアミノ基と、植物油脂のエポキシ化合物におけるエポキシ基との反応が主反応として進行し、副反応として植物油脂のエポキシ化合物におけるエポキシ基同士の反応が進行することで、3次元網状構造の硬化物となるものと考えられる。
【0046】
硬化反応の条件は、特に制限はなく、従来の硬化性樹脂と同様の条件が適用できる。具体的には、例えば加熱、光照射、硬化促進剤の添加等により硬化反応を進行させることができる。
【0047】
本発明の植物由来組成物は、高い耐熱性と機械的特性を有する硬化物を形成することができるため、成形材料として好適に用いることができる。また、紙やガラス繊維等に含浸し、あるいは単板に塗布して積層板として好適に用いることができ、接着剤としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
シラカンバの木粉(平均粒径0.7mm)140gおよび水1Lを耐圧釜に入れ、250℃、4MPa、10分間の条件で、加圧熱水で処理を行った。処理残渣を乾燥後、メチルエチルケトン(ナカライテスク(株)製)で常温、常圧下にて2時間抽出し、可溶部を減圧により濃縮して、植物の抽出成分を得た。
【0049】
得られた抽出成分をGC-MS分析したところ、バニリン、ホモバニリン、シナピルアルデヒド等のアルデヒド基を有するフェノール性化合物が検出された。このように抽出成分は多種類の化合物からなる混合物であり、少なくとも1つのフェノール性水酸基を有しアルデヒド基を有する多くのフェノール性化合物を含んでいることが確認された。
【0050】
この抽出成分と、ポリアミン化合物(ジエチレントリアミン、アミン価 20)と、硬化促進剤のベンゾイミダゾール(ナカライテスク(株)製)とを溶媒のメチルエチルケトン中で混合して植物由来組成物とした。混合比は抽出成分:ポリアミン化合物:硬化促進剤:溶媒=90:10:1:200とした。
【0051】
この植物由来組成物を150℃で2時間乾燥機中にて加熱し、硬化物の形成の有無を確認した。その結果を表1に示す。
<実施例2>
アカマツの木粉(平均粒径0.7mm)140gおよび水1Lを耐圧釜に入れ、230℃、3MPa、90分間の条件で、加圧熱水で処理を行った。処理残渣を乾燥後、メチルエチルケトン(ナカライテスク(株)製)で常温、常圧下にて2時間抽出し、可溶部を減圧により濃縮して、植物の抽出成分を得た。
【0052】
得られた抽出成分をGC-MS分析したところ、バニリン、ホモバニリン、シナピルアルデヒド等のアルデヒド基を有するフェノール性化合物が検出された。このように抽出成分は多種類の化合物からなる混合物であり、少なくとも1つのフェノール性水酸基を有しアルデヒド基を有する多くのフェノール性化合物を含んでいることが確認された。
【0053】
この抽出成分と、ポリアミン化合物(重合脂肪酸系ポリアミノアミド、トーマイド235−A、富士化成工業(株)製、アミン価 390)と、硬化促進剤のベンゾイミダゾール(ナカライテスク(株)製)とを溶媒のメチルエチルケトン中で混合して植物由来組成物とした。混合比は抽出成分:ポリアミン化合物:硬化促進剤:溶媒=50:50:1:200とした。
【0054】
この植物由来組成物を150℃で2時間乾燥機中にて加熱し、硬化物の形成の有無を確認した。その結果を表1に示す。
<実施例3>
実施例2と同様にして加圧熱水処理により得たアカマツの木粉の抽出成分と、ポリアミン化合物(重合脂肪酸系ポリアミノアミド、トーマイド235−A、富士化成工業(株)製、アミン価 390)と、植物油脂のエポキシ化合物(エポキシ化亜麻仁油、アデカサイザーO−180A、アデカ(株)製、エポキシ当量 176、エポキシ基の数 6)と、硬化促進剤のパラトルエンスルホン酸一水和物(ナカライテスク(株)製)とを溶媒のメチルエチルケトン中で混合して植物由来組成物とした。混合比は抽出成分:ポリアミン化合物:植物油脂のエポキシ化合物:硬化促進剤:溶媒=50:50:5:1:200とした。
【0055】
この植物由来組成物を150℃で2時間乾燥機中にて加熱し、硬化物の形成の有無を確認した。その結果を表1に示す。
<実施例4>
アカマツの木粉(平均粒径0.7mm)140gおよび水1Lを耐圧釜に入れ、170℃、1MPa、180分間の条件で、加圧熱水で処理を行った。処理残渣を乾燥後、メチルエチルケトン(ナカライテスク(株)製)で常温、常圧下にて2時間抽出し、可溶部を減圧により濃縮して、植物の抽出成分を得た。
【0056】
得られた抽出成分をGC-MS分析したところ、バニリン、ホモバニリン、シナピルアルデヒド等のアルデヒド基を有するフェノール性化合物が検出された。このように抽出成分は多種類の化合物からなる混合物であり、少なくとも1つのフェノール性水酸基を有しアルデヒド基を有する多くのフェノール性化合物を含んでいることが確認された。
【0057】
この抽出成分と、ポリアミン化合物(重合脂肪酸系ポリアミノアミド、トーマイド235−A、富士化成工業(株)製、アミン価 390)と、硬化促進剤のベンゾイミダゾール(ナカライテスク(株)製)とを溶媒のメチルエチルケトン中で混合して植物由来組成物とした。混合比は抽出成分:ポリアミン化合物:硬化促進剤:溶媒=50:50:1:200とした。
【0058】
この植物由来組成物を150℃で2時間乾燥機中にて加熱し、硬化物の形成の有無を確認した。その結果を表1に示す。
<実施例5>
アカマツの木粉(平均粒径0.7mm)140gおよび水1Lを耐圧釜に入れ、360℃、20MPa、10分間の条件で、加圧熱水で処理を行った。処理残渣を乾燥後、メチルエチルケトン(ナカライテスク(株)製)で常温、常圧下にて2時間抽出し、可溶部を減圧により濃縮して、植物の抽出成分を得た。
【0059】
得られた抽出成分をGC-MS分析したところ、バニリン、ホモバニリン、シナピルアルデヒド等のアルデヒド基を有するフェノール性化合物が検出された。このように抽出成分は多種類の化合物からなる混合物であり、少なくとも1つのフェノール性水酸基を有しアルデヒド基を有する多くのフェノール性化合物を含んでいることが確認された。
【0060】
この抽出成分と、ポリアミン化合物(重合脂肪酸系ポリアミノアミド、トーマイド235−A、富士化成工業(株)製、アミン価 390)と、硬化促進剤のベンゾイミダゾール(ナカライテスク(株)製)とを溶媒のメチルエチルケトン中で混合して植物由来組成物とした。混合比は抽出成分:ポリアミン化合物:硬化促進剤:溶媒=50:50:1:200とした。
【0061】
この植物由来組成物を150℃で2時間乾燥機中にて加熱し、硬化物の形成の有無を確認した。その結果を表1に示す。
<比較例1>
植物の抽出成分であるアルカリリグニン(ナカライテスク(株)製)と、ポリアミン化合物(ジエチレントリアミン、アミン価 20)と、硬化促進剤のベンゾイミダゾール(ナカライテスク(株)製)とを溶媒のメチルエチルケトン中で混合して植物由来組成物とした。混合比は抽出成分:ポリアミン化合物:硬化促進剤:溶媒=90:10:1:200とした。
【0062】
この植物由来組成物を150℃で2時間乾燥機中にて加熱し、硬化物の形成の有無を確認した。その結果を表1に示す。
<比較例2>
植物の抽出成分であるリグニンスルホン酸塩(バニレックスN、日本製紙ケミカル(株))と、ポリアミン化合物(重合脂肪酸系ポリアミノアミド、トーマイド235−A、富士化成工業(株)製、アミン価 390)と、硬化促進剤のベンゾイミダゾール(ナカライテスク(株)製)とを溶媒のメチルエチルケトン中で混合して植物由来組成物とした。混合比は抽出成分:ポリアミン化合物:硬化促進剤:溶媒=50:50:1:200とした。
【0063】
この植物由来組成物を150℃で2時間乾燥機中にて加熱し、硬化物の形成の有無を確認した。その結果を表1に示す。
<比較例3>
植物の抽出成分であるアルカリリグニン(ナカライテスク(株)製)と、ポリアミン化合物(重合脂肪酸系ポリアミノアミド、トーマイド235−A、富士化成工業(株)製、アミン価 390)と、植物油脂のエポキシ化合物(エポキシ化亜麻仁油、アデカサイザーO−180A、アデカ(株)製、エポキシ当量 176、エポキシ基の数 6)と、硬化促進剤のパラトルエンスルホン酸一水和物(ナカライテスク(株)製)とを溶媒のメチルエチルケトン中で混合して植物由来組成物とした。混合比は抽出成分:ポリアミン化合物:植物油脂のエポキシ化合物:硬化促進剤:溶媒=50:50:5:1:200とした。
【0064】
この植物由来組成物を150℃で2時間乾燥機中にて加熱し、硬化物の形成の有無を確認した。その結果を表1に示す。
<比較例4>
シラカンバの木粉(平均粒径0.7mm)140gおよび水1Lを耐圧釜に入れ、140℃、0.4MPa、10分間の条件で、加圧熱水で処理を行った。処理残渣を乾燥後、メチルエチルケトン(ナカライテスク(株)製)で常温、常圧下にて2時間抽出し、可溶部を減圧により濃縮して、植物の抽出成分を得た。
【0065】
得られた抽出成分をGC-MS分析したところ、バニリン、ホモバニリン、シナピルアルデヒド等のアルデヒド基を有するフェノール性化合物は検出されなかった。
【0066】
この抽出成分と、ポリアミン化合物(ジエチレントリアミン、アミン価 20)と、硬化促進剤のベンゾイミダゾール(ナカライテスク(株)製)とを溶媒のメチルエチルケトン中で混合して植物由来組成物とした。混合比は抽出成分:ポリアミン化合物:硬化促進剤:溶媒=90:10:1:200とした。
【0067】
この植物由来組成物を150℃で2時間乾燥機中にて加熱し、硬化物の形成の有無を確認した。その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1より、特定条件の加圧熱水で処理した植物の抽出成分とポリアミン化合物(ジエチレントリアミン)とを用いた実施例1の植物由来組成物、特定条件の加圧熱水で処理した植物の抽出成分とポリアミン化合物(重合脂肪酸系ポリアミノアミド)とを用いた実施例2、4、5の植物由来組成物、特定条件の加圧熱水で処理した植物の抽出成分とポリアミン化合物(重合脂肪酸系ポリアミノアミド)と植物油脂のエポキシ化合物とを用いた実施例3の植物由来組成物は、150℃に加熱すると硬化物を形成した。
【0070】
この加圧熱水で処理した植物の抽出成分にはフェノール性化合物が含まれるが、このフェノール性化合物は天然物の分解物であり、フェノール性水酸基の他、メトキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基等の様々な官能基を有している。このうち、主にアルデヒド基を有するフェノール性化合物がポリアミン化合物と反応し、反応物は3次元架橋したものと考えられる。
【0071】
これに対して、アルカリリグニンとポリアミン化合物とを用いた比較例1、3の植物由来組成物、およびリグニンスルホン酸塩とポリアミン化合物とを用いた比較例2の植物由来組成物では150℃で2時間加熱しても硬化物を形成しなかった。これは、これらの植物の抽出成分にはフェノール性化合物が含まれるものの、アミノ基との反応性の高い官能基を有するものが極めて少ないためと考えられる。
【0072】
また、140℃、0.4MPaの加圧熱水で処理した植物の抽出成分とポリアミン化合物とを用いた比較例4の植物由来組成物では150℃で2時間加熱しても硬化物を形成しなかった。これは、加圧熱水処理による低分子化が不十分であるためポリアミン化合物のアミノ基に対する反応性が低いことによるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
160〜400℃、0.8〜30MPaの加圧熱水で処理した植物の抽出成分と、ポリアミン化合物とを含有することを特徴とする植物由来組成物。
【請求項2】
植物の抽出成分は、アルデヒド基を有するフェノール性化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の植物由来組成物。
【請求項3】
ポリアミン化合物は、植物由来の重合脂肪酸系ポリアミノアミド化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の植物由来組成物。
【請求項4】
植物油脂のエポキシ化合物をさらに含有することを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載の植物由来組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか一項に記載の植物由来組成物を硬化してなることを特徴とする硬化物。

【公開番号】特開2010−126451(P2010−126451A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299946(P2008−299946)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】