説明

植物系繊維材料の糖化分離方法

【課題】クラスター酸触媒を用いたセルロースの糖化分離において、セルロースの加水分解触媒であるクラスター酸の回収率を高め、純度の高い糖水溶液を提供する。
【解決手段】擬溶融状態のクラスター酸触媒を用いて、植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを主とする糖を生成させる加水分解工程と、前記加水分解工程において生成した糖の少なくとも一部が溶解した糖水溶液、前記クラスター酸触媒が溶解したクラスター酸有機溶媒溶液及び残渣を含む混合物を、残渣を含む固形分と、糖水溶液及びクラスター酸有機溶媒溶液を含む液分とに分離する第一の分離工程と、前記第一の分離工程において分離された前記糖水溶液及び前記クラスター酸有機溶媒溶液を含む液体から、化学吸着により水を吸着可能な脱水手段により脱水し、前記糖水溶液の糖を析出させ、前記糖を含む固形分と、前記クラスター酸触媒及び有機溶媒を含む液分とを分離する第二の分離工程と、を備えることを特徴とする、植物系繊維材料の糖化分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物系繊維材料の糖化によりグルコースを主とする糖を生成し、得られた糖を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスである植物繊維、例えば、サトウキビの絞りかす(バガス)や木材片等を分解してセルロースやヘミロースからグルコースやキシロースを主とする糖を生成し、得られた糖を食料又は燃料として有効利用することが提案され、実用化されている。特に、植物繊維を分解することにより得られた糖を発酵させ、燃料となるエタノール等のアルコールを生成させる技術が注目されている。
従来、セルロースやヘミセルロースを分解してグルコース等の糖を生成する種々の方法が提案されており(例えば、特許文献1〜4等)、一般的な方法としては、希硫酸や濃硫酸等の硫酸、塩酸を用いてセルロースを加水分解する方法(特許文献1等)が挙げられる。また、セルラーゼ酵素を用いる方法(特許文献2等)、活性炭やゼオライト等の固体触媒を用いる方法(特許文献3等)、加圧熱水を用いる方法(特許文献4等)もある。
【0003】
【特許文献1】特開平8−299000号公報
【特許文献2】特開2006−149343号公報
【特許文献3】特開2006−129735号公報
【特許文献4】特開2002−59118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、硫酸等の酸を用いてセルロースを分解する方法は、酸と糖の分離が困難であるという問題がある。分解生成物の主成分であるグルコースと酸が共に水溶性であるためである。中和やイオン交換などによる酸除去は、手間とコストがかかるだけでなく、完全に酸を除去することが難しく、エタノール発酵工程にも酸が残留してしまうことが多い。その結果、エタノール発酵工程において、酵母の活性に最適なpHに調整しても、塩の濃度が高くなることで酵母の活性が低下し、発酵効率の低下を招いていた。
【0005】
特に濃硫酸を用いる場合には、酵母を失活させない程度まで硫酸を除去するのが非常に困難であり、多大なエネルギーを要する。これに対して、希硫酸を用いる場合には、比較的容易に硫酸を除去することができるが、高温条件下でセルロースを分解させなければならず、エネルギーを要する。
さらに、硫酸や塩酸等の酸は、分離、回収して再利用することが非常に困難である。そのため、これら酸をグルコース生成の触媒として用いることは、バイオエタノールのコストを引き上げる原因の一つとなっている。
【0006】
また、加圧熱水を用いた方法では、条件調整が難しく、安定した収率でグルコースを生成することが困難である。グルコースまでも分解し、グルコース収率が低下するだけでなく、分解成分により酵母の働きが低下し、発酵が抑制されることも懸念されている。しかも、反応装置(超臨界装置)が高価であり、且つ、耐久性も低いため、コスト面での問題もある。
【0007】
本発明者らは、セルロースの糖化について鋭意検討した結果、擬溶融状態のクラスター酸が、セルロースの加水分解に対して優れた触媒活性を有すると共に、生成した糖との分離が容易であることを見出し、既に特許出願を行っている(特願2007−115407)。本方法によれば、従来の濃硫酸法や希硫酸法と異なり、加水分解触媒を回収、再利用することが可能であると共に、セルロースの加水分解から糖水溶液の回収、加水分解触媒の回収までのプロセスのエネルギー効率を向上させることができる。
また、上記特許出願においては、植物系繊維材料の加水分解により生成した糖と、クラスター酸触媒の分離方法についても提案している。具体的には、加水分解後、生成した糖と、クラスター酸触媒と、残渣を含む反応混合物に、有機溶媒を添加することで、クラスター酸を溶解する一方、糖は固形分として、残渣と共に該クラスター酸有機溶媒と分離させる方法が記載されている。
【0008】
本発明者らは、さらに上記クラスター酸触媒を用いたセルロースの糖化について研究を進め、生成する糖とクラスター酸触媒の分離性を高め、高純度の糖水溶液を得ることに成功した。すなわち、本発明は、上記研究の経緯を経て成し遂げられたものであり、上記セルロースの加水分解触媒であるクラスター酸の回収率を高め、純度の高い糖水溶液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、擬溶融状態のクラスター酸触媒を用いて、植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを主とする糖を生成させる加水分解工程と、前記加水分解工程において生成した糖の少なくとも一部が溶解した糖水溶液、前記クラスター酸触媒が溶解したクラスター酸有機溶媒溶液及び残渣を含む混合物を、残渣を含む固形分と、糖水溶液及びクラスター酸有機溶媒溶液を含む液分とに分離する第一の分離工程と、前記第一の分離工程において分離された前記糖水溶液及び前記クラスター酸有機溶媒溶液を含む液体から、化学吸着により水を吸着可能な脱水手段により脱水し、前記糖水溶液の糖を析出させ、前記糖を含む固形分と、前記クラスター酸触媒及び有機溶媒を含む液分とを分離する第二の分離工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明者らは、セルロースの加水分解触媒として用いられるクラスター酸と、該クラスター酸の触媒作用によるセルロースの加水分解により生成した糖とを分離する際、クラスター酸触媒を糖の貧溶媒である有機溶媒に溶解し、生成した糖の少なくとも一部は水に溶解し、これら各溶液(クラスター酸有機溶媒溶液と糖水溶液)が混合された状態とすることによって、分離して得られる糖にクラスター酸が混入することを抑制することができることを見出した。本発明によれば、クラスター酸触媒の回収率を高め、また、純度の高い糖を得ることが可能である。すなわち、本発明によれば、アルコール発酵における不純物混入による酵母の失活が抑制可能であると共に、クラスター酸触媒の再利用率を高めることができる。
【0011】
クラスター酸触媒は、擬溶融状態となることで、セルロースやヘミセルロースの加水分解反応に対する触媒活性を発現する。クラスター酸の擬溶融状態は、温度と、クラスター酸触媒が有する結晶水の量によって変わってくるため、クラスター酸の結晶水量と反応温度をコントロールし、クラスター酸を擬溶融状態とする必要がある。一方で、グルコースがβ−1,4−グリコシド結合した高分子であるセルロースをグルコースやキシロース等の糖に加水分解するためには、水が必要である。
このような観点から、前記加水分解工程における反応系内の水分量は、(1)反応系内の前記クラスター酸触媒の全量が該加水分解工程の温度条件において擬溶融状態になるために必要な結晶水と、(2)反応系内の前記セルロースの全量がグルコースへ加水分解されるのに要する水、の合計量以上とすることが好ましい。
加水分解工程における反応系内の水分量を上記のようにすることで、反応系内の水分がセルロースの加水分解に使用され減少しても、クラスター酸触媒は擬溶融状態を保持することができ、触媒活性を維持することができる。
【0012】
クラスター酸触媒の回収率を高め、より純度の高い糖を得るためには、前記第一の分離工程において、前記糖水溶液には前記セルロースから生成された前記糖の全量が溶解していることが好ましい。
【0013】
前記糖水溶液において糖を溶解している水の添加時期は特に限定されないが、生成する糖の溶解効率が高く、また、加水分解工程における植物系繊維材料、クラスター酸触媒の混合性が高まることから、前記糖水溶液を構成する水の少なくとも一部は、前記加水分解工程の反応系に含まれていることが好ましく、特に、前記糖水溶液を構成する水の全量が、前記加水分解工程の反応系に含まれていることが好ましい。
【0014】
前記糖水溶液の水を化学吸着により吸着し、脱水する前記脱水手段は、特に限定されず、例えば、乾燥剤の添加が挙げられ、具体的な乾燥剤としては、シリカゲルが挙げられる。
【0015】
本発明において、前記加水分解工程は、常圧〜1MPaの条件下、140℃以下という比較的穏やかな反応条件で行うことが可能であり、エネルギー効率に優れるものである。 前記クラスター酸触媒の代表的なものとしては、ヘテロポリ酸が挙げられる。
前記クラスター酸触媒を溶解する有機溶媒としては、糖とクラスター酸触媒との分離性の観点から、該有機溶媒に対する前記糖の溶解度が0.6g/100ml以下であるであることが好ましい。具体的な有機溶媒としては、エーテル類及びアルコール類から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0016】
前記脱水手段として、乾燥剤を用いる場合、前記第二の分離工程において、析出した糖と共に乾燥剤を含む固形分と、前記クラスター酸触媒及び有機溶媒を含む液分とを分離し、さらに、該第二の分離工程において分離された前記固形分に水を添加し、該固形分中の糖を溶解した糖水溶液と、前記乾燥剤とを分離する第三の分離工程を備えることによって、該乾燥剤と糖とを分離することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、植物系繊維材料の加水分解により生成した糖と該加水分解反応の触媒であるクラスター酸との分離において、クラスター酸触媒の回収率を高め、純度の高い糖を得ることが可能である。従って、アルコール発酵におけるクラスター酸の混入による酵母活性の低下を抑制することが可能であり、且つ、クラスター酸触媒の再利用率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、擬溶融状態のクラスター酸触媒を用いて、植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを主とする糖を生成させる加水分解工程と、
前記加水分解工程において生成した糖の少なくとも一部が溶解した糖水溶液、前記クラスター酸触媒が溶解したクラスター酸有機溶媒溶液及び残渣を含む混合物を、残渣を含む固形分と、糖水溶液及びクラスター酸有機溶媒溶液を含む液分とに分離する第一の分離工程と、
前記第一の分離工程において分離された前記糖水溶液及び前記クラスター酸有機溶媒溶液を含む液体から、化学吸着により水を吸着可能な脱水手段により脱水し、前記糖水溶液の糖を析出させ、前記糖を含む固形分と、前記クラスター酸触媒及び有機溶媒を含む液分とを分離する第二の分離工程と、
を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明者らは、上記特許出願(特願2007−115407)において、グルコースを主とする糖とクラスター酸は共に水溶性であるが、糖が難溶乃至不溶である有機溶媒に対してクラスター酸が溶解性を示すことを見出し、この溶解特性の違いを利用することによって、クラスター酸と糖が分離可能であることを報告している。すなわち、植物系繊維材料をクラスター酸触媒を用いて加水分解した後、生成物である糖、クラスター酸触媒、及び未反応セルロース等の残渣を含む加水分解混合物(以下、単に加水分解混合物ということがある)に、上記特定の有機溶媒を添加すると、クラスター酸触媒が該有機溶媒に溶解する。一方、糖は該有機溶媒に溶解しないため、加水分解混合物中に固体状態で存在する糖は該有機溶媒に溶解せず、ろ過等の固液分離方法によりクラスター酸有機溶媒溶液と分離することができる。
本発明者らはさらに鋭意検討したところ、加水分解工程において生成した糖は、析出し、結晶成長する過程において、或いは、他の析出した糖と凝集する際に、クラスター酸触媒が糖に混入してしまうことが見出された。
【0020】
そして、加水分解混合物中の糖を一度水に溶解し、且つ、加水分解混合物中のクラスター酸触媒を有機溶媒に溶解し、これら糖水溶液とクラスター酸有機溶媒溶液が混合された状態で、該混合物から有機溶媒は残したまま脱水を行うことによって、クラスター酸触媒は有機溶媒中に溶解させたまま、糖のみを析出させることに成功した。
すなわち、植物系繊維材料の加水分解よって生成した糖と、該加水分解の触媒として用いたクラスター酸とを分離する際に、糖の少なくとも一部が水に溶解した糖水溶液と、クラスター酸触媒が有機溶媒に溶解したクラスター酸有機溶媒溶液とが共存することによって、糖とクラスター酸触媒との分離性を高め、糖の高純度化と共に、クラスター酸触媒の回収率の向上が可能であることを見出した。
さらには、本発明の糖化分離方法によれば、加水分解工程において過反応の結果生じた有機酸などを含むカラメル成分(又は黒化物ともいう)やリグニンと、糖とを分離することが可能であり、さらなる糖の高純度化とアルコール発酵の高効率化が可能であることがわかった。
【0021】
本発明の糖化分離方法では、前記第一の分離工程において、前記糖水溶液には加水分解工程で生成した糖の一部が溶解していれば、従来の方法と比較してクラスター酸の回収率を高めることが可能ではあるが、クラスター酸触媒と糖の分離性の高さから、前記糖水溶液には前記セルロースの加水分解により生成された前記糖の全量が溶解していることが好ましい。
上記糖水溶液とクラスター酸有機溶媒溶液と残渣とを含む混合物から、糖水溶液及びクラスター酸有機溶媒溶液を含む液分と、残渣を含む固形分とを分離する第一の分離工程において、糖水溶液とクラスター酸有機溶媒溶液とが混合されれば、糖水溶液の水及びクラスター酸有機溶媒溶液の有機溶媒、それぞれの添加時期は特に限定されない。例えば、植物系繊維材料とクラスター酸触媒と共に加水分解工程時から反応系に添加してもよいし、第一の分離工程時に添加してもよいし、或いは、加水分解工程と第一の分離工程において分割して添加してもよい。
そこで、以下では、本発明の糖化分離方法におけるセルロースの加水分解工程から上記第一の分離工程を含む各工程を説明しながら、上記水及び有機溶媒の添加時期について説明する。
【0022】
まず、植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを主とする糖を生成させる加水分解工程について説明する。
尚、ここでは、主としてセルロースからグルコースを生成させる工程を中心に説明しているが、植物系繊維材料にはセルロース以外にヘミセルロースも含まれ、また、生成物もグルコース以外にキシロースもあり、これらの場合も本発明の範囲に含まれる。
植物系繊維材料としては、セルロースやヘミセルロースを含むものであれば特に限定されず、例えば、広葉樹、竹、針葉樹、ケナフ、家具の廃材、稲わら、麦わら、籾殻、バガス、サトウキビの絞りかす等のセルロース系バイオマスが挙げられる。また、上記バイオマスから分離されたセルロースやヘミセルロース或いは人工的に合成されたセルロースやヘミセルロースそのものでもよい。
【0023】
これら繊維材料は、反応系における分散性の観点から、通常、粉末状にしたものを用いる。粉末状にする方法としては、一般的な方法に準じればよい。クラスター酸触媒との混合性、反応機会向上の観点から、数μm〜200μm程度の直径を有する粉末状とすることが好ましい。
【0024】
本発明において、植物系繊維材料の加水分解の触媒として用いられるクラスター酸とは、複数のオキソ酸が縮合したもの、すなわち、いわゆるポリ酸である。ポリ酸の多くは、中心元素が複数の酸素原子が結合しているため最高酸化数まで酸化された状態であることが多く、酸化触媒として優れた特性を示し、また、強酸であることが知られている。例えば、ヘテロポリ酸であるリンタングステン酸の酸強度(pKa=−13.16)は、硫酸の酸強度(pKa=−11.93)より強い。すなわち、例えば、50℃のような温和な条件でも、セルロースやヘミセルロースを、グルコース、キシロースなどの単糖までに分解することができる。
【0025】
本発明において用いるクラスター酸としては、ホモポリ酸でも、ヘテロポリ酸でもよいが、酸化力及び酸強度が強いことからヘテロポリ酸が好ましい。ヘテロポリ酸としては特に限定されず、HwAxByOz(A:ヘテロ原子、B:ポリ酸の骨格となるポリ原子、A:ヘテロ原子、w:水素原子の組成比、x:ヘテロ原子の組成比、y:ポリ原子の組成比、z:酸素原子の組成比)の一般式で表されるものが挙げられる。ポリ原子Bとしては、ポリ酸を形成することができるW、Mo、V、Nb等の原子が挙げられる。ヘテロ原子Aとしては、ヘテロポリ酸を形成することができるP、Si、Ge、As、B等の原子が挙げられる。ヘテロポリ酸一分子内に含有されるポリ原子及びヘテロ原子は1種でもあっても2種以上であってもよい。
【0026】
酸強度の強さと、酸化力のバランスから、タングステン酸塩であるリンタングステン酸 H3[PW1240]、珪タングステン酸 H4[SiW1240]が好ましい。次いで、モリブデン酸塩であるリンモリブデン酸 H3[PMo1240]等を好適に用いることができる。
【0027】
ここで、ケギン型[Xn+1240:X=P、Si、Ge、As等、M=Mo、W等]のヘテロポリ酸(リンタングステン酸)の構造を図1に示す。八面体MO6単位からなる多面体の中心に四面体XO4が存在し、この構造の周囲に結晶水を多くもつ。尚、クラスター酸の構造は特に限定されず、上記ケギン型の他、例えば、ドーソン型等でもよい。
尚、クラスター酸触媒は、本来結晶ではないが、ここではクラスター酸触媒に一定量比で配位する水を一般的に使用される「結晶水」という用語で代用する。また、一般的に結晶水とはクラスター酸触媒が結晶状態になったときに含まれる水であるが、ここではクラスター酸触媒1分子1分子が遊離している擬溶融状態又は有機溶媒中にクラスター酸触媒が融解(この場合も融解しているのではなくコロイド状)した時に、クラスター酸触媒に配位する水分子を結晶水と呼ぶ。
【0028】
上記したようなクラスター酸触媒は、常温では固体状であるが、加熱し、温度が上がると擬溶融状態となり、セルロースやヘミセルロースの加水分解反応に対する触媒活性を発現する。ここで、擬溶融状態とは、見かけ上、溶融しているようであるが、完全に溶融した液体状態ではなく、クラスター酸が液中に分散しているコロイド(ゾル)に近い状態であり、流動性を示している状態である。ただし、粘性が高く、高密度である。クラスター酸が擬溶融状態であるかどうかは、目視により確認したり、或いは、均一系の場合、DTC(示差走査熱量計)等でも確認することができる。
【0029】
クラスター酸は、上記したように、その酸強度の強さから低温でもセルロースの加水分解反応に対する高い触媒活性を示す。また、クラスター酸の大きさは、径が2nm程度であるため、原料である植物系繊維材料との混合性にも優れ、効率よくセルロースの加水分解を促進することができる。従って、温和な条件でのセルロースの加水分解が可能であり、エネルギー効率が高く、環境負荷が小さい。さらに、硫酸等の酸を用いる従来のセルロースの加水分解法と異なり、クラスター酸を触媒として用いる本発明の方法は、糖と触媒の分離効率が高く、容易に分離可能である。
【0030】
しかも、クラスター酸は温度によっては固形状態となるため、生成物である糖類との分離が可能である。従って、分離したクラスター酸を回収し、再利用することも可能である。また、擬溶融状態のクラスター酸触媒は、反応溶媒としても機能するため、従来の方法と比較して、反応溶媒としての溶剤量を大幅に減少させることができる。これは、クラスター酸と生成物である糖との分離、クラスター酸の回収の高効率化が可能であることを意味している。すなわち、クラスター酸をセルロースの加水分解触媒として利用する本発明は、低コストが可能であり、且つ、環境負荷も小さい。
【0031】
クラスター酸触媒と植物系繊維材料は、加熱する前に、予め、混合攪拌しておくことが好ましい。クラスター酸触媒が擬溶融状態となる前にある程度混合しておくことによってクラスター酸と植物系繊維材料との接触性を高めることができる。
上記したように、加水分解工程において、クラスター酸触媒は擬溶融状態となり、反応溶媒としても機能するため、本発明においては、植物系繊維材料の形態(大きさ、繊維の状態等)、クラスター酸触媒と植物系繊維材料の混合比及び体積比等にもよるが、加水分解工程において、反応溶媒としての水や有機溶剤等を用いなくてもよい。
【0032】
クラスター酸の擬溶融状態は、温度と、クラスター酸触媒が含有する結晶水の量によって変わってくる(図2参照)。具体的には、クラスター酸であるリンタングステン酸は、含有する結晶水が多くなると擬溶融状態を発現する温度が低下する。すなわち、結晶水を多く含むクラスター酸触媒は、相対的に結晶水量が少ないクラスター酸触媒よりも低い温度でセルロースの加水分解反応に対する触媒作用を発現する。つまり、加水分解工程の反応系におけるクラスター酸触媒が含有する結晶水の量をコントロールすることで、目的とする加水分解反応温度においてクラスター酸触媒を擬溶融状態とすることができる。例えば、リンタグステン酸をクラスター酸触媒として用いる場合は、クラスター酸の結晶水量によって加水分解反応温度を110℃〜40℃の範囲内で制御可能である(図2参照)。
【0033】
尚、図2は、代表的なクラスター酸触媒であるヘテロポリ酸(リンタングステン酸)の結晶水率と、擬溶融状態を発現し始める温度(見かけ上の溶融温度)との関係を示すものであり、クラスター酸触媒は、曲線より下の領域では凝固状態であり、曲線より上の領域では擬溶融状態である。また、図2において、水分量(結晶水率)(%)とは、クラスター酸(リンタングステン酸)の標準結晶水量n(n=30)を100%とした値である。結晶水の量は、クラスター酸触媒が800℃のような高温であっても熱分解して揮発する成分がないため、熱分解法(TG測定)によって特定することができる。
【0034】
ここで、標準結晶水量とは、室温で固体結晶状態のクラスター酸1分子が含有する結晶水の量(分子数)であり、クラスター酸の種類によって異なる。例えば、リンタングステン酸は約30〔H3[PW1240]・nH2O(n≒30)〕、珪タングステン酸は約24〔H4[SiW1240]・nH2O(n≒24)〕、リンモリブデン酸は約30〔H3[PMo1240]・nH2O(n≒30)〕である。
【0035】
クラスター酸触媒が含有する結晶水量は、加水分解反応系内に存在する水分量をコントロールすることで調節することができる。具体的には、クラスター酸触媒の結晶水量を多くしたい、つまり、反応温度を低くしたい場合には、例えば、植物系繊維材料とクラスター酸触媒を含む混合物に水を添加したり、反応系の雰囲気の相対湿度を高くする等して、加水分解の反応系に水を追加すればよい。その結果、クラスター酸が結晶水として追加された水を取り込み、クラスター酸触媒の見かけ上の溶融温度は低下する。
【0036】
一方、クラスター酸触媒の結晶水量を少なくしたい場合には、つまり、反応温度を高くしたい場合には、加水分解の反応系から水を除去、例えば、反応系を加熱して水を蒸発させたり、植物系繊維材料とクラスター酸触媒を含む混合物に乾燥剤を添加する等することで、クラスター酸触媒の結晶水を減少させることができる。その結果、クラスター酸触媒の見かけ上の溶融温度は高くなる。
以上のように、クラスター酸の結晶水量は容易にコントロールが可能であり、結晶水量の制御によりセルロースの加水分解反応温度も容易に調整可能である。
【0037】
尚、加水分解工程において、加熱により反応系の相対湿度が低下しても、クラスター酸触媒の結晶水が所望量確保できるようにしておくことが好ましい。具体的には、予定の反応温度で反応系の雰囲気が飽和蒸気圧となるように、例えば、予め密閉された反応容器内で、加水分解反応温度で飽和蒸気圧状態を作り、密閉状態を保持したまま温度を下げて蒸気を凝縮させ、該凝縮水を植物系繊維材料及びクラスター酸触媒に添加する方法が挙げられる。
また、植物系繊維材料として、乾燥状態のものを用いる場合には、特に考慮する必要がないが、水分を含む植物系繊維材料を用いる場合には、反応系内に存在する水分量として、該植物系繊維材料が含有する水分量も考慮することが好ましい。
【0038】
加水分解工程における反応温度の低下は、エネルギー効率を向上させることができるという利点がある。
また、加水分解工程の温度によって、植物系繊維材料に含まれるセルロースの加水分解のグルコース生成の選択性が変化する。反応温度が高くなると反応率が高くなることは一般的なことであり、例えば、特願2007−115407にて報告したように、結晶水率160%のリンタングステン酸(見かけ上の溶融温度約40℃:図2参照)を用いたセルロースの加水分解反応においても、50℃〜90℃における反応率Rは温度が高くになるにつれて上昇し、80℃位ではほぼ全てのセルロースが反応する。一方、グルコースの収率ηは、50℃〜60℃にかけてはセルロースの反応率と同様の増加傾向を示すが、70℃をピークに減少する。すなわち、50〜60℃において高選択的にグルコースが生成するのに対して、70〜90℃においてグルコース生成以外の反応、例えば、キシロース等のその他の糖生成や分解物生成等が進行する。
従って、加水分解の反応温度は、セルロースの反応率とグルコース生成の選択性を左右する重要な要素であり、エネルギー効率の観点から加水分解反応の温度は低いことが好ましい旨を述べたが、セルロースの反応率やグルコース生成の選択性等も考慮して加水分解反応の温度を決定することが好ましい。尚、セルロースの反応率R、グルコースの収率ηは実施例1に示す式によって算出することができる。
【0039】
また、加水分解工程においては、セルロースが加水分解される際に、グルコース1分子当り1分子の水が必要である。従って、反応系内に、クラスター酸触媒が反応温度において擬溶融状態となるのに必要な結晶水量分の水分と、仕込まれたセルロース全量がグルコースに加水分解されるのに必要な水分の合計量が存在しない場合、クラスター酸触媒の結晶水がセルロースの加水分解に使用され、クラスター酸触媒の結晶水が減少し、クラスター酸が凝固状態となってしまう。すなわち、クラスター酸触媒のセルロースの加水分解に対する触媒作用が低下するばかりか、植物系繊維材料とクラスター酸触媒の混合物の粘度が増加し、該混合物を充分に混合できなくなってしまう。
【0040】
従って、加水分解工程において、反応温度におけるクラスター酸触媒の触媒活性や反応溶媒としての機能を確保するため、つまり、クラスター酸触媒が擬溶融状態を保持できるようにするためには、反応系内の水分量を下記のようにすることが好ましい。すなわち、(A)反応系内に存在するクラスター酸触媒の全てが加水分解工程における反応温度において擬溶融状態になるために必要な結晶水と、(B)反応系内に存在するセルロースの全量がグルコースに加水分解されるのに必要な水分と、の合計量以上とすることが好ましい。
【0041】
ここで、(A)のクラスター酸触媒の全てが擬溶融状態になるために必要な結晶水とは、全クラスター酸触媒が加水分解工程温度において擬溶融状態になるために必要な結晶水を結晶格子内に含有している状態の他、一部の水分子は結晶格子外に存在しているような状態も含む。
尚、加水分解工程において、反応系内の水分が減少し、クラスター酸触媒の結晶水量も減少することによって、クラスター酸触媒が固形状となりその触媒活性が低下する場合には、クラスター酸触媒が擬溶融状態となるように加水分解温度を上げることによって、クラスター酸触媒の触媒活性の低下等を回避することもできる。
【0042】
加水分解工程において生成する糖を溶解してなる上記糖水溶液の水分は、その一部を加水分解工程時に添加してもよい。加水分解工程時、水を添加することによって、セルロースの加水分解により生成する糖が、析出し、その結晶が成長或いは凝集する前に溶解されるため、糖内にクラスター酸触媒が混入するのを効率良く防止することができる。すなわち、加水分解工程の反応系が、(A)上記クラスター酸触媒が擬溶融状態となるために必要な結晶水と、(B)セルロースがグルコースに加水分解されるために必要な水分の合計量に加えて、(C)生成する糖の少なくとも一部が溶解するための水分、を含有することによって、さらなる高純度の糖の製造とクラスター酸触媒の回収率の向上が可能となる(図3参照)。また、加水分解工程において、生成する糖の少なくとも一部が溶解可能な水(C)を添加することによって、クラスター酸触媒と植物系繊維材料の攪拌性が高くなるという利点もある。このような観点から、糖水溶液の水は、その全量を加水分解工程時から反応系に添加していることが好ましく、特に、植物系繊維材料の加水分解によって生じる糖全量を溶解可能な水分を加水分解工程時から添加することが好ましい。
一方で、添加した水(C)の分、植物系繊維材料とクラスター酸触媒との接触性が低下するため、反応性を高めるためには、反応温度を高くすることが好ましく、その結果、エネルギー効率が低下するおそれがある。
【0043】
従って、糖を溶解するための水は、仕込んだ全植物系繊維材料から生成される糖を飽和溶解量として溶解し、飽和水溶液となる量(以下、グルコース飽和溶解水量ということがある。)とすることが好ましい。過剰の水分を添加することは、加水分解工程におけるエネルギー効率の低下だけでなく、後続する分離工程における分離効率低下や、得られる糖水溶液の濃度低下等のデメリットがある。このような観点から、糖水溶液のための水の量は、その添加時期に関わらず、グルコース飽和溶解水量であることが好ましい。
【0044】
尚、植物系繊維材料から生成する糖の全量を溶解可能な水量は、生成するグルコースやキシロース等の糖類の水に対する溶解度から算出することが可能であるが、上記したように加水分解工程における反応温度や時間によって変化するため、製造バッチ毎にほぼ同じ条件になるように、温度、時間を調整する必要がある。これにより最適な添加水量を常に一定にすることができる。
【0045】
加水分解工程における温度条件は、上記したようにいくつかの要素(例えば、反応選択率、エネルギー効率、セルロースの反応率、等)を考慮して適宜決定すればよいが、エネルギー効率、セルロースの反応率、グルコース収率のバランスから、通常、140℃以下、とすることが好ましく、特に120℃以下とすることが好ましい。植物系繊維材料の形態によっては、100℃以下のような低温でも可能であり、その場合には、特に高エネルギー効率でグルコースを生成させることができる。
【0046】
また、加水分解工程における圧力は、特に限定されないが、クラスター酸触媒のセルロースの加水分解反応に対する触媒活性が高いことから、常圧(大気圧)〜10MPaのような温和な圧力条件下でも効率よくセルロースの加水分解を進行させることができる。
【0047】
また、植物系繊維材料とクラスター酸触媒との比率は、用いる植物系繊維材料の性状(例えば、サイズ等)、加水分解工程における攪拌方法や混合方法等によって異なる。そのため、実施条件に応じて、適宜決定すればよいが、クラスター酸触媒:植物系繊維材料(重量比)=1:1〜4:1の範囲内であることが好ましく、通常は、1:1程度でよい。
加水分解工程におけるクラスター酸触媒と植物系繊維材料を含む混合物は粘度が高いため、その攪拌方法は、例えば、加熱ボールミル等が有利であるが、一般的な攪拌器でもよい。
【0048】
加水分解工程の時間は特に限定されず、用いる植物系繊維材料の形状、植物系繊維材料とクラスター酸触媒の比率、クラスター酸触媒の触媒能、反応温度、反応圧力等によって、適宜設定すればよい。
【0049】
加水分解終了後、反応系の温度を下げると、加水分解工程において生成した糖は、残渣(未反応セルロース)やクラスター酸触媒を含む加水分解混合物中、糖を溶解する水が存在する場合には糖水溶液として、溶解する水がない場合には析出して固体状態で含有される。生成した糖のうち一部は糖水溶液、残りは固体状態で上記混合物中に含有されることもある。尚、クラスター酸触媒もまた、水溶性を有するため、加水分解工程後の混合物の含水量によってはクラスター酸触媒も水に溶解している。
【0050】
次に、加水分解工程で生成した糖(主にグルコース)と、クラスター酸触媒とを分離する分離工程について説明する。分離工程には、(1)残渣を含む固形分と、糖水溶液及びクラスター酸有機溶媒溶液を含む液分とを分離する第一の分離工程、(2)第一の分離工程において分離された液分から、糖を含む固形分と、クラスター酸有機溶媒溶液とを分離する第二の分離工程、の少なくとも2工程がある。以下、各分離工程について順に説明していく。
【0051】
第一の分離工程(1)は、前記加水分解工程において生成した糖の少なくとも一部が溶解した糖水溶液と、前記クラスター酸触媒が溶解したクラスター酸有機溶媒溶液と、残渣とを含む混合物を、残渣を含む固形分と、糖水溶液及びクラスター酸有機溶媒溶液を含む液分とに分離する工程である。
上述したように、固体化した糖にクラスター酸触媒が混入し、該糖がクラスター酸触媒を混入した状態でクラスター酸触媒と分離されると、得られる糖の純度が低下すると共に、クラスター酸触媒の回収率が低下する。
そこで、生成した糖の少なくとも一部、好ましくは生成した糖の全量が水に溶解した糖水溶液と、クラスター酸触媒が有機溶媒に溶解したクラスター酸有機溶媒溶液とを混合した状態とすることで、クラスター酸触媒の糖側(糖水溶液)への混入を抑制し、クラスター酸触媒と糖の分離性を高めることができる。
【0052】
第一の分離工程において、クラスター酸触媒を溶解する上記有機溶媒としては、クラスター酸触媒にとっては良溶媒であるが、糖にとっては貧溶媒であるという溶解特性を有するものであれば特に限定されないが、糖を効率よく析出させるためには、該有機溶媒に対する糖の溶解度が0.6g/100ml以下であることが好ましく、特に、0.06g/100ml以下であることが好ましい。このとき、糖のみを効率よく析出させるためには、該有機溶媒に対するクラスター酸の溶解度が20g/100ml以上、特に、40g/100ml以上であることが好ましい。
上記有機溶媒として、具体的には、例えば、エタノール、メタノール、n−プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。アルコール類及びエーテル類は好適に用いることができ、中でもエタノール及びジエチルエーテルが好適である。ジエチルエーテルは、グルコース等の糖が不溶であり、且つ、クラスター酸の溶解性が高いため、糖とクラスター酸触媒を分離する溶媒として最適なものの一つである。一方、エタノールもグルコース等の糖が難溶であり、且つ、クラスター酸触媒の溶解性が高いため最適な溶媒の一つである。ジエチルエーテルはエタノールと比較して蒸留において有利であり、エタノールは、ジエチルエーテルよりも入手しやすく、また、クラスター酸触媒の溶解性が非常に高いという利点を有している。
【0053】
上記有機溶媒の使用量は、その有機溶媒の糖及びクラスター酸触媒に対する溶解特性や、加水分解混合物に含有される水分の量などによって異なってくるため、クラスター酸を効率よく回収できるように、適宜適当な量を決定すればよい。
【0054】
第一の分離工程において、上述したように、糖水溶液に溶解している糖は、生成した糖のうち少なくとも一部が糖水溶液に溶解していればよく、生成した糖の全量が溶解していることが好ましい。すなわち、糖水溶液には、植物系繊維材料に含有されるセルロースから生成される糖の全量を溶解可能な量の水が含有されることが好ましい。
また、第一の分離工程において糖を溶解している水分は、その添加時期が限定されず、上記したように加水分解工程において一部又は全量が添加されてもよいし、第一の分離工程において不足分又は全量が添加されてもよい。
【0055】
分離工程における温度は、上記有機溶媒の沸点等にもよるが、通常は、室温〜60℃の範囲であることが好ましい。また、分離工程において、糖水溶液とクラスター酸有機溶媒溶液は充分に攪拌混合されることが好ましい。具体的な攪拌方法は特に限定されず、一般的な方法でよい。クラスター酸の回収効率の観点から、攪拌方法としては、ボールミル等固形分の粉砕が可能な攪拌方法が好適である。
【0056】
第一の分離工程においては、上記有機溶媒によってクラスター酸触媒が溶解されたクラスター酸有機溶媒溶液と、水によって糖が溶解された糖水溶液とを含む液分、並びに、植物系繊維材料の残渣等を含む固形分とを分離する。具体的な分離方法は特に限定されず、一般的な固液分離方法、例えば、ろ過、デカンテーション等を採用することができる。尚、クラスター酸触媒は水溶性を有するため、糖水溶液にはクラスター酸触媒の一部が溶解している場合もある。
加水分解工程において生成した糖の一部が溶解されずに固形分として残渣等ともに分離された場合には、糖の水溶性と残渣の水不溶性を利用して、該固形分に水を添加することで、さらに残渣等の固形分と糖水溶液とに分離することができる。
【0057】
第二の分離工程においては、第一の分離工程において分離された糖水溶液及びクラスター酸有機溶媒溶液を含む液分から、化学吸着により水を吸着可能な脱水手段により水を選択的に除去することで、糖を析出させ、クラスター酸触媒が溶解したクラスター酸有機溶媒溶液と分離する。糖はクラスター酸有機溶媒溶液の溶媒に対する溶解性が非常に低いために溶解せず、脱水されると析出する。糖水溶液にクラスター酸触媒が溶解していた場合も、糖水溶液に溶解していたクラスター酸触媒は、有機溶媒に溶解できるため、脱水してもクラスター酸有機溶媒溶液に溶解し、回収することができる。
【0058】
ここで、化学吸着により水を吸着可能な脱水手段としては、水を選択的に化学吸着して除去できるものであれば特に限定されず、例えば、シリカゲルや無水塩化カルシウム等の乾燥剤を添加する他、イオン交換樹脂、特に陰イオン交換樹脂を上記糖水溶液とクラスター酸有機溶媒溶液を含む液分と接触させる方法が利用できる。化学吸着水量の観点から、乾燥剤の添加により脱水することが好ましく、中でも、乾燥剤としてシリカゲルを用いることが好ましい。
【0059】
乾燥剤の添加量は、上記液分に含有される全水分を除去できればよく、該乾燥剤の化学吸着による脱水能によって異なるため、適宜決定すればよい。例えば、シリカゲルを乾燥剤として用いる場合、シリカゲルの化学吸着水量は、以下のようにして算出することができる。
すなわち、予め乾燥状態の重量を測定したシリカゲルを室温の飽和水蒸気中で放置し、その後、温度一定条件下、真空ポンプで約0.1torrへ減圧し、放置する。このとき、シリカゲルは、飽和水蒸気中で放置されて蒸留水が細孔内に満たされた状態から、減圧によって毛管凝縮した物理吸着水が除去され、化学吸着水のみが吸着された状態になると考えられる。つまり、飽和水蒸気中の放置はシリカゲルの細孔内を蒸留水で充分満たせるまで、減圧下の放置はシリカゲルの物理吸着水が除去されるまで、行われる。
【0060】
シリカゲルの細孔内が蒸留水で満たされたかどうか、シリカゲルの物理吸着水が除去されたかどうかは、シリカゲルの重量を測定することで判断することができる。つまり、飽和水蒸気中に放置し、水の吸着による重量増加が停止して重量が安定したらシリカゲルの細孔内が蒸留水で満たされたと判断することができ、減圧条件下に放置し、重量減少が停止して重量が安定したら、シリカゲルの物理吸着水が除去されたと判断することができる。目安としては、重量変化率が1%未満になれば、シリカゲルの湿乾状態は安定したと考えられる。そして、物理吸着水が除去されたシリカゲルの安定重量と上記乾燥重量との差がシリカゲルの化学吸着水量と考えることができる。
【0061】
例えば、飽和水蒸気中で放置したシリカゲルを、減圧条件下に放置すると、重量が減少し、図4に示すようにその吸着水量(H2O−g/SiO2−g)[(含水シリカゲルの重量−シリカゲルの乾燥重量)/シリカゲルの乾燥重量]は減少し、漸近線的に安定する。この吸着水量が安定したところが化学吸着水量と考えることができる。
【0062】
乾燥剤の添加量は、上記したように糖水溶液を脱水し、糖を析出させることができれば、特に限定されないが、シリカゲルの場合、除去したい水分の1.5倍量を化学吸着可能な量以上を用いることが好ましい。
乾燥剤としてシリカゲル、有機溶媒としてエタノールを用いた場合、クラスター酸触媒のエタノールへの溶解性の高さから、シリカゲルを過剰に添加したとしても、クラスター酸触媒がシリカゲルに吸着されない。しかしながら、乾燥剤と有機溶媒の組み合わせによっては、過剰の乾燥剤の添加により、有機溶媒に溶解しているクラスター酸触媒が乾燥剤に吸着されるおそれがあるため、クラスター酸触媒の回収率、糖の純度の観点から、乾燥剤を過量に用いない方がよい場合もある。
【0063】
また、本発明者らは、シリカゲルの細孔容積が、グルコースの回収率(実際に生成したグルコース量に対して、回収できたグルコース量の割合)に影響することを見出した(図5及び参考実験参照)。すなわち、単位重量当りの化学吸着水量は同等であるが、細孔容積が異なるシリカゲルを比較すると、細孔容積の大きなシリカゲルの方が、グルコースの回収率が高くなることが見出された。これは、シリカゲルのような多孔質構造を有する乾燥剤を用いた脱水によるグルコースの析出には、乾燥剤の水の化学吸着量だけでなく、グルコースが該乾燥剤表面に析出するための容積が必要であることを示唆している。
【0064】
脱水手段による水分の除去により析出した糖は、デカンテーション、濾過等の一般的な固液分離方法によってクラスター酸有機溶媒溶液と分離できる。分離した糖を含む固形分は、水で洗浄することで糖水溶液として得ることができる。具体的には、乾燥剤を用いて脱水した場合には、乾燥剤と糖を含む固形分をデカンテーション、ろ過等の一般的な方法によって分離でき、分離した固形分は、水を添加、洗浄し、糖水溶液と乾燥剤を含む固形分とを分離することで糖を回収することができる。(第三の分離工程)。
【0065】
一方、クラスター酸触媒を含有する有機溶媒溶液は、蒸留等の一般的な分離方法によって、クラスター酸触媒と有機溶媒とに分離することができる。このように、クラスター酸触媒は、セルロースの加水分解触媒として使用した後、生成物や残渣等と分離し、回収することができ、さらには、再び、セルロースを含む植物系繊維材料の加加水分解触媒として利用することも可能である
【0066】
本発明によれば、セルロースを加水分解することによって生成、回収した糖にクラスター酸触媒が混入することを抑制し、純度の高い糖を得ることが可能である。具体的には、糖に混入するクラスター酸触媒の量を、加水分解触媒として用いたクラスター酸触媒の1%未満、さらには、0.1%未満とすることができる。しかも、本発明によれば、リグニンの他、有機酸等のカラメル成分のような加水分解工程における副生成物の糖への混入も抑制することが可能である。クラスター酸触媒や上記副生成物が糖に混入すると、該糖のアルコール発酵時に、酵母の発酵作用を阻害することが知られているが、本発明の糖化分離により得られる糖を用いることで、アルコール発酵効率を向上させることができる。
さらに、クラスター酸触媒の糖への混入を抑制することによって、クラスター酸触媒の回収率向上が実現できる。その結果、クラスター酸触媒の再利用率を高め、植物系繊維材料の糖化分離をより効率的に行うことが可能となる。
【実施例】
【0067】
以下、D−(+)−グルコース及びD−(+)−キシロースの定量は、高速液体クロマトグラフ(HPCL)ポストラベル蛍光検出法により行った。また、クラスター酸はICP(Inductively Coupled Plasma)により同定、定量を行った。
【0068】
[実施例1]
密閉容器内に、予め蒸留水を入れ、予定の反応温度(70℃)まで昇温し、容器内を飽和蒸気圧状態とし、容器内面に水蒸気を付着させた。
次に、予め結晶水量を測定したリンタングステン酸1kgとセルロース0.5kg(乾燥重量)とを混合し、上記密閉容器に入れた。さらに、反応温度60℃でリンタングステン酸が擬溶融状態となるのに必要な水分(158g)とセルロースが加水分解してグルコースになるのに必要な水分(55.6g)との合計量からの不足分(上記70℃での飽和蒸気圧分の水分は除く)の蒸留水(55.6g)、並びに、セルロース0.5kg全量がグルコース化した際に生成するグルコースを飽和溶解量として溶解する水(55.6g)を添加した。
【0069】
続いて、上記密閉容器内を加熱すると、50℃付近からリンタングステン酸が擬溶融状態となり、60℃付近で容器内の混合物が攪拌できる状態となった。さらに加熱して70℃とし、1.5時間攪拌を続けた。
その後、加熱をやめ、40℃程度まで冷ました後、エタノール6Lを添加し、60分間攪拌し、リンタングステン酸及び糖類を完全に溶解させた。残渣(繊維質:未反応セルロース)は沈殿した。
【0070】
次に、沈殿物を濾過し、得られた濾液にシリカゲルを添加して30分間攪拌した。シリカゲルの添加量は、上記グルコース溶解用の水(グルコース飽和溶解水量55.6g)の1.5倍量を化学吸着により吸着可能な量とした。尚、シリカゲルの化学吸着による水の吸着量は、以下の方法により求められた値とした。
<シリカゲルの化学吸着による水の吸着量>
予め乾燥重量を測定したシリカゲルを室温、飽和水蒸気中で1時間放置し、その後、真空ポンプで約0.1torrに減圧し、放置した。シリカゲルの重量減少はおおよそ6時間で完了した(図4参照)。シリカゲルを取り出して、重量(安定重量)を測定し、安定重量と乾燥重量の差分(安定重量−乾燥重量)をシリカゲルの乾燥重量で除し、シリカゲルの単位重量当りの水の化学吸着量とした。
【0071】
続いて、シリカゲル及び該シリカゲルの脱水により析出した糖を含む固形分と、リンタングステン酸及びエタノールを含む液体とを、ろ過により分離した。得られた固形分を1000vol%の水で洗浄し、これをさらにろ過し、糖水溶液とシリカゲルを分離した。
一方、エタノール溶液は蒸留し、エタノールとリンタングステン酸に分離した。
【0072】
実施例1について、以下の項目を測定した。結果を表1に示す。
尚、下記各項目は以下に示す式に従って求めた。また、糖水溶液中のリンタングステン酸残留量は、糖水溶液中のリン及びタングステンの量をICP測定(n=4)することにより算出し、その平均値とした。
【0073】
・セルロース反応率R(%) : セルロースの仕込み量に対して、実際に加水分解したセルロースの割合
・グルコース収率η(%) : 仕込んだセルロース全量がグルコース化したときに生成する理論グルコース生成量に対して、実際に回収されたグルコースの割合
・糖水溶液におけるリンタングステン酸の残留率r(%) : リンタングステン酸の仕込み量に対して、糖水溶液に残留したリンタングステン酸の割合
・グルコースの回収率C(%) : 実際に加水分解したセルロース全量がグルコース化したときに生成する理論グルコース生成量に対して、実際に回収されたグルコースの割合
【0074】
【数1】

【0075】
【表1】

【0076】
[実施例2]
実施例1において、シリカゲルの添加量を、物理吸着及び化学吸着により、グルコース溶解用の水(55.6g)の1.5倍量を吸着可能な量とした以外は同様にして、セルロースを加水分解して糖水溶液を得た。尚、シリカゲルの物理吸着及び化学吸着による水の吸着量は、以下の方法により求められた値とした。実施例2における反応率R、グルコース収率η、リンタングステン酸の残存率r、グルコース回収率Cを表1に示す。
<シリカゲルの化学吸着及び物理吸着による水の吸着量>
予め乾燥重量を測定したシリカゲルを室温、飽和水蒸気中で1時間放置し、その後、重量(吸水重量)を測定し、吸水重量と乾燥重量の差分(吸水重量−乾燥重量)をシリカゲルの乾燥重量で除し、シリカゲルの単位重量当りの化学吸着及び物理吸着による水の吸着量とした。
【0077】
[比較例1]
密閉容器内に、予め蒸留水を入れ、予定の反応温度(60℃)まで昇温し、容器内を飽和蒸気圧状態とし、容器内面に水蒸気を付着させた。
次に、予め結晶水量を測定したリンタングステン酸1kgとセルロース0.5kg(乾燥重量)とを混合し、上記密閉容器に入れた。さらに、反応温度60℃でリンタングステン酸が擬溶融状態となるのに必要な水分(158g)とセルロースが加水分解してグルコースになるのに必要な水分(55.6g)との合計量からの不足分(上記70℃での飽和蒸気圧分の水分は除く)の蒸留水(55.6g)を添加した。
【0078】
続いて、上記密閉容器内を加熱すると、40℃付近からリンタングステン酸が擬溶融状態となり、50℃付近で容器内の混合物が攪拌できる状態となった。さらに加熱して60℃とし、60℃で1.5時間攪拌を続けた。
その後、加熱をやめ、40℃程度まで冷ました後、エタノール6Lを添加し、60分間攪拌し、エタノールにリンタングステン酸を溶解させ、糖を繊維質(未反応セルロース)と共に沈殿させた。
【0079】
次に、沈殿物を濾過し、分離した沈殿物に蒸留水1Lを加えて15分間攪拌し、糖を溶解させた。これをさらに濾過して、糖水溶液と繊維質を分離した。
一方、濾液として回収したエタノール溶液は蒸留し、エタノールとリンタングステン酸に分離した。
比較例1における反応率R、グルコース収率η、リンタングステン酸の残存率r、グルコース回収率Cを表1に示す。
【0080】
[比較例2]
比較例1において、セルロースの加水分解工程後、40℃程度まで冷ました反応後固形物(生成した糖、リンタングステン酸、未反応セルロース等の残渣)を粉砕機によりすり潰して粉砕し、該粉砕物にエタノールを6L添加して分離工程を行った以外は、比較例1と同様にして、セルロースを加水分解して糖水溶液を得た。
比較例2における反応率R、グルコース収率η、リンタングステン酸の残存率r、グルコース回収率Cを表1に示す。
【0081】
[結果]
表1に示すように、比較例1及び比較例2では、得られた糖水溶液中にそれぞれ8.3%、4.2%のリンタングステン酸(クラスター酸)が残留した。
これに対して、本発明の糖化分離方法によりセルロースの糖化分離を行った実施例1及び実施例2では、リンタングステン酸の糖水溶液における残留率rがそれぞれ0.05%、0.04%であり、比較例1及び比較例2と比較して大幅に低減することができた。すなわち、本発明の糖化分離方法によれば、クラスター酸触媒の回収率を大幅に向上させ、純度の高い糖水溶液の製造及びクラスター酸触媒の再利用率の向上が可能であることがわかる。
さらに、実施例1及び実施例2で得られた糖水溶液は、比較例1及び比較例2で得られた糖水溶液が若干黒味を帯びていたのに対し、極めて透明性の高いものだった。これは、加水分解工程における副生成物、例えば、過反応の結果生じた有機酸などを含むカラメル成分やリグニンが、実施例1及び実施例2では、リンタングステン酸のエタノール溶液に溶解したためと考えられる。
尚、比較例2は、上記粉砕処理により、加水分解工程において生成、析出した固形の糖に混入したリンタングステン酸と、エタノールとの接触機会を高めることによって、エタノールへのリンタングステン酸の溶解性を高めた。その結果、リンタングステン酸の残留率rを比較例1の約半分に低減することができた。
【0082】
また、実施例1及び実施例2を比較すると、リンタングステン酸の残留率rの値に大差はないものの、グルコースの収率η及び回収率Cにおいては、実施例1が収率η59%、回収率C98.6%であるのに対して、実施例2は収率η45%、回収率C67.5%と収率η及び回収率C共に低くなった。これは、実施例2において、脱水剤であるシリカゲルの添加量を、シリカゲルの物理吸着による水の吸着量も含めて算出したために、添加したシリカゲル量では、化学吸着により吸着できる水分量が少なく、グルコース飽和溶解水量全量を吸着することができなかったと推測される。すなわち、実施例2ではシリカゲルによる脱水作用が、生成したグルコースを析出させるのに不十分であり、リンタングステン酸エタノール溶液に糖水溶液が残留してしまったと考えられる。この結果から、乾燥剤としてシリカゲルを用いる場合、シリカゲルの物理吸着能は脱水作用に有効ではなく、シリカゲルの化学吸着量のみからシリカゲルの使用量を算出することによって、グルコースを効率的に回収できることがわかる。
【0083】
[参考実験]
表2に示すような比表面積及び細孔容積の異なるシリカゲルA(富士シリシア化学(株)製 923AR)、シリカゲルB(AGCエスアイテック(株)製 D−350−120A)それぞれを用い、実施例1同様、セルロースの糖化分離を行った。実施例1と同様にして算出した各シリカゲルA、Bの水の化学吸着量を表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
各シリカゲルの使用量を変えて(図5参照)、セルロースの糖化分離を行い、グルコースの収率ηを算出した。また、仕込んだセルロース全量がグルコース化した際に生成するグルコースの飽和溶解水量(QH2O-G)に対する、使用したシリカゲルの化学吸着による水の吸着量(QH2O-Si)の割合[(QH2O-Si/QH2O-G)×100(%)]を算出した。図5に(QH2O-Si/QH2O-G)×100(%)に対するグルコース収率ηを示す。
【0086】
図5に示すように、(QH2O-Si/QH2O-G)×100の値が同等、すなわち、添加したシリカゲルの化学吸着による水の吸着量が同等であっても、グルコース収率ηはシリカゲルBの方が高くなった。すなわち、シリカゲルAは、シリカゲルBと化学吸着による水の吸着量が同等となる量を用いても、シリカゲルBよりも少ない量のグルコースしか析出させることができず、また、図5に示す(QH2O-Si/QH2O-G)とグルコース収率ηの関係を示す曲線が、下に凸の形状を有しており、グルコース収率100%とするためには、使用量を非常に多くする必要があった。これに対して、シリカゲルAと比較して細孔容積が大きいシリカゲルBは、シリカゲルAよりも少量で多くのグルコースを析出させることが可能であった。
この結果から、シリカゲルのような多孔質構造を有する乾燥剤を用いた脱水によるグルコースの析出には、乾燥剤の化学吸着による脱水作用だけでなく、該脱水作用によりグルコースが析出する乾燥剤の細孔容積が重要であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】ヘテロポリ酸のケギン構造を示す図である。
【図2】クラスター酸触媒の結晶水率と見かけの溶融温度の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の糖化分離方法におけるセルロースの加水分解工程〜糖とヘテロポリ酸の回収の工程の一例を示すチャートである。
【図4】シリカゲルの化学吸着水量を算出する方法を説明するグラフである。
【図5】参考実験におけるシリカゲルA及びBの使用量とグルコース収率ηの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬溶融状態のクラスター酸触媒を用いて、植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを主とする糖を生成させる加水分解工程と、
前記加水分解工程において生成した糖の少なくとも一部が溶解した糖水溶液、前記クラスター酸触媒が溶解したクラスター酸有機溶媒溶液及び残渣を含む混合物を、残渣を含む固形分と、糖水溶液及びクラスター酸有機溶媒溶液を含む液分とに分離する第一の分離工程と、
前記第一の分離工程において分離された前記糖水溶液及び前記クラスター酸有機溶媒溶液を含む液体から、化学吸着により水を吸着可能な脱水手段により脱水し、前記糖水溶液の糖を析出させ、前記糖を含む固形分と、前記クラスター酸触媒及び有機溶媒を含む液分とを分離する第二の分離工程と、
を備えることを特徴とする、植物系繊維材料の糖化分離方法。
【請求項2】
前記加水分解工程において、反応系内の水分量を、(1)反応系内の前記クラスター酸触媒の全量が該加水分解工程の温度条件において擬溶融状態になるために必要な結晶水と、(2)反応系内の前記セルロースの全量がグルコースへ加水分解されるのに要する水と、の合計量以上とする、請求項1に記載の糖化分離方法。
【請求項3】
前記糖水溶液は、前記セルロースから生成された前記糖の全量を溶解している、請求項1又は2に記載の糖化分離方法。
【請求項4】
前記糖水溶液を構成する水の少なくとも一部が、前記加水分解工程の反応系に含まれている、請求項1乃至3のいずれかに記載の糖化分離方法。
【請求項5】
前記糖水溶液を構成する水の全量が、前記加水分解工程の反応系に含まれている、請求項4に記載の糖化分離方法。
【請求項6】
前記脱水手段が乾燥剤の添加である、請求項1乃至5のいずれかに記載の糖化分離方法。
【請求項7】
前記乾燥剤としてシリカゲルを用いる、請求項6に記載の糖化分離方法。
【請求項8】
前記加水分解工程を、常圧〜1MPaの条件下、140℃以下で行う、請求項1乃至7のいずれかに記載の糖化分離方法。
【請求項9】
前記クラスター酸触媒がヘテロポリ酸である、請求項1乃至8のいずれかに記載の糖化分離方法。
【請求項10】
前記有機溶媒は、該有機溶媒に対する前記糖の溶解度が0.6g/100ml以下である、請求項1乃至9のいずれかに記載の糖化分離方法。
【請求項11】
前記有機溶媒としてエーテル類及びアルコール類から選ばれる少なくとも1種を用いる、請求項1乃至10のいずれかに記載の糖化分離方法。
【請求項12】
前記第二の分離工程において、前記糖及び乾燥剤を含む固形分と、前記クラスター酸触媒及び有機溶媒を含む液分とを分離し、
さらに、該第二の分離工程において分離された前記固形分に水を添加し、該固形分中の糖を溶解した糖水溶液と、前記乾燥剤とを分離する第三の分離工程を備える、請求項6乃至11のいずれかに記載の糖化分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−60828(P2009−60828A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230711(P2007−230711)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【特許番号】特許第4240138号(P4240138)
【特許公報発行日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】