説明

植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進方法

【課題】植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)
【化1】


(式中、R1は炭素数10〜22の炭化水素基を示し、R2は水素原子、水酸基又は炭素数1〜24の炭化水素基を示し、R3は水素原子又は炭素数1〜24の炭化水素基を示す。)で表される化合物(A)を1〜10000ppm(重量濃度)含有する植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な環境下におかれた植物は、環境条件やストレス(乾燥、塩、機械、接触)を感知し植物体全体の相互作用ネットワークにより、植物の生育応答がなされている。植物体の様々な反応の出発点となる植物細胞のシグナル伝達においてカルシウムは重要な役割を担っている。通常カルシウムは細胞壁や液胞中に結合状態で存在しているが、何らかのシグナルを受けた場合、細胞内カルシウムが遊離し、細胞質内の遊離カルシウムイオン濃度が上昇する。その結果、様々な遺伝子が発現し、タンパク合成の起点となると考えられている。また遊離化したカルシウムイオンは孔辺細胞において気孔の開閉を制御することでも知られている(非特許文献1)。このように結合したカルシウムが遊離化することは生体内において重要な反応である。
【非特許文献1】植物の生化学・分子生物学(学会出版センター)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、肥料である窒素、りん酸、カリウムは植物の不可欠の生育元素でありながら、細胞内のカルシウムイオンの遊離化に対してどのように作用するのかは知られていない。植物生長調節剤は、発芽、発根、伸長、花成り、着果等生育、形態形成反応の調節のために用いられているが、細胞内のカルシウムが遊離化に対してどのように作用するのかについての報告はなく、現在の技術では植物細胞のカルシウムイオンを遊離化する技術は存在しない。
従って、本発明の目的は、植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進剤、及び植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明者は、植物細胞のカルシウムイオンの遊離化に影響を及ぼす成分を探索した結果、後記の化合物(A)を1〜10000ppmの濃度で植物に施用すると、植物細胞のカルシウムイオン遊離化が顕著に促進されることを見出した。
【0005】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R1は炭素数10〜22の炭化水素基を示し、R2は水素原子、水酸基又は炭素数1〜24の炭化水素基を示し、R3は水素原子又は炭素数1〜24の炭化水素基を示す。)で表される化合物(A)を1〜10000ppm(重量濃度)含有する植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進剤組成物を提供するものである。
また本発明は、化合物(A)1〜10000ppmを植物に施用する植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、植物細胞のカルシウムイオンの遊離化を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
一般式(1)において、R1、R2、R3の炭化水素基は、それぞれ飽和、不飽和の何れでも良く、好ましくは飽和であり、また直鎖、分岐鎖、環状の何れでも良く、好ましくは直鎖又は分岐鎖、特に好ましくは直鎖である。また、炭化水素基の総炭素数は奇数でも偶数でもよいが、偶数が好ましい。
また、R1、R2、R3の炭素数の合計は、50以下が好ましく、より好ましくは12〜48、更に好ましくは16〜44である。
【0010】
一般式(1)において、R1の炭素数は14〜22が好ましく、より好ましくは14〜20、更に好ましくは14〜18である。また、一般式(1)で表される化合物は、総炭素数が12〜48、更に16〜28、特に16〜24であることが好ましい。更に、総炭素数が12〜24で水酸基を1個有するものが好ましく、特に総炭素数が16〜22で水酸基を1個有するものが好ましい。一般式(1)で表される化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
【0011】
(A1)
CH3(CH2)o-1OH(oは12〜24、好ましくは16〜24、更に好ましくは16〜20の整数)で表される1−アルカノールが挙げられる。すなわち、一般式(1)で表される化合物として、炭素数12〜24の1価アルコールが挙げられる。具体的には、1−ドデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−ヘプタデカノール、1−オクタデカノール、1−ノナデカノール、1−イコサノール、1−ヘンイコサノール、1−ドコサノール、1−トリコサノール、1−テトラコサノールが挙げられる。
【0012】
(A2)
CH3CH(OH)(CH2)p-3CH3(pは12〜24、好ましくは16〜24、更に好ましくは16〜20の整数)で表される2−アルカノールが挙げられる。具体的には、2−ドデカノール、2−トリデカノール、2−テトラデカノール、2−ペンタデカノール、2−ヘキサデカノール、2−ヘプタデカノール、2−オクタデカノール、2−ノナデカノール、2−イコサノール等が挙げられる。
【0013】
(A3)
CH2=CH(CH2)q-2OH(qは12〜24、好ましくは16〜24、更に好ましくは16〜20の整数)で表される末端不飽和アルコールが挙げられる。具体的には、11−ドデセン−1−オール、12−トリデセン−1−オール、15−ヘキサデセン−1−オール等が挙げられる。
【0014】
(A4)
その他の不飽和長鎖アルコールとして、オレイルアルコール、エライジルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール、エレオステアリルアルコール(α又はβ)、リシノイルアルコール等が挙げられる。
【0015】
(A5)
HOCH2CH(OH)(CH2)r-2H(rは12〜24、好ましくは16〜24、更に好ましくは16〜20の整数)で表される1,2−ジオールが挙げられる。具体的には、1,2−ドデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール等が挙げられる。
【0016】
上記(A1)〜(A5)のうち、(A1)、(A2)、(A4)、(A5)が好ましく、(A1)、(A2)、(A4)がより好ましく、(A1)、(A4)が更に好ましく、(A1)が特に好ましい。
【0017】
本発明の植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進剤組成物(以下、単に本発明組成物ともいう)は、上記化合物(A)を1〜10000ppm(重量濃度、以下同様)、好ましくは1〜1000ppm、より好ましくは5〜500ppm含有する。この化合物(A)の濃度は、植物に施用する際の濃度である。
【0018】
また、本発明組成物は、上記化合物(A)と共に、更に、該化合物(A)以外の界面活性剤(B)〔以下、成分(B)という〕を含有することが好ましい。更に肥料(C)〔以下、成分(C)という〕を含有することが好ましい。施用時期に肥料を必要とする場合は、例えば化合物(A)に、成分(B)、及び成分(C)を併用するのが好ましい。また、施用時期に肥料を必要としない場合は、例えば化合物(A)に成分(B)を併用するのが好ましい。
【0019】
成分(B)としては、以下のような非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤を化合物(A)の乳化、分散、可溶化又は浸透促進の目的で用いるのが好ましい。
【0020】
非イオン界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、樹脂酸エステル、ポリオキシアルキレン樹脂酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、アルキル(ポリ)グリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(ポリ)グリコシド、アルキルアルカノールアミド、糖系脂肪酸アミド等が挙げられる。ここで、糖系脂肪酸アミドとしては、糖又は糖アルコールに疎水基がアミド結合した構造を有するもの、例えばグルコースやフルクトースの脂肪酸アミド等の糖系脂肪酸アミドが挙げられる。また、アミノ基を有する糖又は糖アルコールに疎水基がアミド結合した構造を有するもの、例えばN−メチルグルカミンの脂肪酸アミド等の糖系脂肪酸アミドを用いることもできる。ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基又はポリオキシプロピレン基が好ましい。また脂肪酸残基はC6−C30脂肪酸残基が好ましい。非イオン界面活性剤としては、窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤及びエステル基含有非イオン界面活性剤から選ばれる1種以上が好ましい。具体的には、ポリオキシアルキレン(特にエチレン)ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン(特にエチレン)グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが好ましい。
【0021】
陰イオン界面活性剤としては、カルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系及びリン酸エステル系界面活性剤が挙げられるが、カルボン酸系及びリン酸エステル系界面活性剤から選ばれる1種以上が好ましい。
【0022】
カルボン酸系界面活性剤としては、例えば炭素数6〜30の脂肪酸又はその塩、多価カルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルアミドエーテルカルボン酸塩、ロジン酸塩、ダイマー酸塩、ポリマー酸塩、トール油脂肪酸塩、エステル化化工澱粉等が挙げられる。中でもエステル化化工澱粉が好ましい。エステル化化工澱粉の中で、アルケニルコハク酸化デンプン(アルケニルコハク酸エステル化デンプン又はアルケニルコハク酸デンプンともいう)が好ましく、特に、オクテニルコハク酸化デンプンが好ましく、その市販品として例えばエマルスター#30〔松谷化学工業(株)製〕等が挙げられる。
【0023】
スルホン酸系界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸の縮合物塩、ナフタレンスルホン酸の縮合物塩等が挙げられる。
【0024】
硫酸エステル系界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、トリスチレン化フェノール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェノール硫酸エステル塩、アルキルポリグリコシド硫酸塩等が挙げられる。
【0025】
リン酸エステル系界面活性剤として、例えばアルキルリン酸エステル塩、アルキルフェニルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルリン酸エステル塩等が挙げられる。
塩としては、例えば金属塩(Na、K、Ca、Mg、Zn等)、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩、脂肪族アミン塩等が挙げられる。
【0026】
両性界面活性剤としては、アミノ酸系、ベタイン系、イミダゾリン系、アミンオキサイド系が挙げられる。
【0027】
アミノ酸系としては、例えばアシルアミノ酸塩、アシルサルコシン酸塩、アシロイルメチルアミノプロピオン酸塩、アルキルアミノプロピオン酸塩、アシルアミドエチルヒドロキシエチルメチルカルボン酸塩等が挙げられる。
【0028】
ベタイン系としては、アルキルジメチルベタイン、アルキルヒドロキシエチルベタイン、アシルアミドプロピルヒドロキシプロピルアンモニアスルホベタイン、リシノレイン酸アミドプロピルジメチルカルボキシメチルアンモニアベタイン等が挙げられる。
【0029】
イミダゾリン系としては、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルエトキシカルボキシメチルイミダゾリウムベタイン等が挙げられる。
【0030】
アミンオキサイド系としては、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルジエタノールアミンオキサイド、アルキルアミドプロピルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0031】
成分(B)は1種でも、2種以上混合して使用しても良い。また、これらの成分(B)がポリオキシアルキレン基を含む場合は、好ましくはポリオキシエチレン基を有し、その平均付加モル数が1〜300、好ましくは5超100以下であるものが好ましい。
【0032】
また、成分(B)は、前記したグリフィンのHLBが10以上のものが好ましく、更に12以上のものが好ましい。
【0033】
なお、化合物(A)として、炭素数12〜24の1価アルコールを用いる場合は、成分(B)としては、エステル基含有非イオン界面活性剤、窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、カルボン酸系陰イオン界面活性剤及びリン酸系陰イオン界面活性剤から選ばれる1種以上を用いるのが好ましい。特に、エステル基含有非イオン界面活性剤及び窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤から選ばれる1種以上が好ましい。すなわち、本発明組成物としては、炭素数12〜24の1価アルコールと、エステル基含有非イオン界面活性剤、窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、カルボン酸系陰イオン界面活性剤及びリン酸系陰イオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤とを含有するものが挙げられる。
【0034】
また、成分(C)としては、具体的には、N、P、K、Ca、Mg、S、B、Fe、Mn、Cu、Zn、Mo、Cl、Si、Na等、特にN、P、K、Ca、Mgの供給源となる無機物及び有機物が挙げられる。そのような無機物としては、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、尿素、炭酸アンモニウム、リン酸カリウム、過リン酸石灰、熔成リン肥(3MgO・CaO・P25・3CaSiO2)、硫酸カリウム、塩カリ、硝酸石灰、消石灰、炭酸石灰、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。また、有機物としては、鶏フン、牛フン、バーク堆肥、アミノ酸、ペプトン、ミエキ、発酵エキス、有機酸(クエン酸、グルコン酸、コハク酸等)のカルシウム塩、脂肪酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、カプリル酸、カプリン酸、カプロン酸等)のカルシウム塩等が挙げられる。これら肥料成分は界面活性剤と併用することもできる。肥料成分は、稲や野菜の露地栽培のように、土壌中に元肥として肥料成分が十分施用されている場合にはあえて配合する必要はない。また、養液土耕や水耕栽培のように元肥の過剰施用を避け肥料成分をかん水と同じに与えるようなタイプの栽培形態には肥料成分を配合することが好ましい。
【0035】
本発明組成物は、上記成分(B)を1〜10000ppm(重量濃度、以下同様)、更に1〜5000ppm、特に1〜1000ppm含有するのが好ましい。
【0036】
本発明組成物において、成分(B)、成分(C)を併用する場合、各成分の比率は、化合物(A)100重量部に対して、成分(B)0.01〜10000000重量部、更に0.02〜1000000重量部、特に0.1〜100000重量部、成分(C)0〜1,000,000重量部、更に0〜100,000重量部、特に10〜100,000重量部が好ましい。
【0037】
また、本発明組成物は、化合物(A)100重量部に対して、その他の栄養源(糖類、アミノ酸類、ビタミン類等)0〜5000重量部、特に10〜500重量部を含有することもできる。
【0038】
本発明組成物を使用する植物細胞内カルシウム遊離化促進方法としては色々な手段を使うことができる。例えば、本発明組成物を葉面、茎、果実等直接葉面に散布(葉面散布など)したり、土壌中に注入する方法(土壌灌注、土壌灌水など)、水耕栽培やロックウールのように根に接触している水耕液や供給水に希釈混合して供給する方法(養液栽培)が挙げられる。
【0039】
養液栽培としては水耕、噴霧耕、固形培地耕などの方式が挙げられる。更に水耕方式は循環式湛液水耕方式、通気式湛液水耕方式、液面上下式湛液水耕方式、毛管式水耕方式やNFT(Nutrient Film Technique:薄膜水耕法)方式などに分類される。噴霧耕方式は噴霧水耕方式、噴霧耕方式などに分類される。固形培地耕方式は無機培地耕方式と有機培地耕方式に分類される。無機培地耕方式では、れき、砂、もみがらくん炭、バーミキュライト、パーライト、ロックウールなどが用いられる。有機培地耕方式では樹皮、ヤシガラ、ピートモス、おがくず、もみがらなどの天然有機物やポリウレタン、ポリフェノール、ビニロンなどの有機合成物が用いられる。なかでも養液の保持性向上と気相率向上の観点からロックウールを用いる無機培地耕方式が好ましい。
【0040】
養液栽培における化合物(A)の施用量は0.005kg/10a/1作〜100kg/10a/1作、更に0.005kg/10a/1作〜75kg/10a/1作が好ましい。この範疇の施用量となるように処理液中の成分(A)の濃度や施用回数を調整することが好ましい。
【0041】
本発明組成物の供給方法は、植物の種類や施用時期(育苗施用か本圃施用)により適切な方法を選定すればよい。
【0042】
本発明では、育苗施用及び/又は本圃施用での施用における本発明組成物の施用回数は特に限定しないが、2回以上行う場合は、施用間隔が、それぞれ50日以内であることが好ましく、10日以内であることがより好ましい。
【0043】
また、本圃施用を、植物の地下部と地上部に行うことが好ましい。地下部でも特に不定根が発生する部位(地下茎部)が特に好ましい。その場合、地下部への本発明組成物の施用間隔が50日以内であり、地上部への本発明組成物の施用間隔が10日以内であることが好ましい。
本圃における化合物(A)の施用量は、0.005kg/10a/1作〜100kg/10a/1作、更に0.005kg/10a/1作〜75kg/10a/1作が好ましい。この範囲の施用量となるように本発明組成物中の化合物(A)の濃度や施用回数を調整することが好ましい。
【0044】
本発明の対象となる植物として特に限定しないが、果菜類としては、キュウリ、カボチャ、スイカ、メロン、トマト、ナス、ピーマン、イチゴ、オクラ、サヤインゲン、ソラマメ、エンドウ、ダイズ(エダマメ)、トウモロコシ等が挙げられる。なかでも、トマト、キュウリ、イチゴ、ピーマン、ナスが好適であり、葉菜類では、ハクサイ、ツケナ類、チンゲンサイ、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、メキャベツ、タマネギ、ネギ、ニンニク、ラッキョウ、ニラ、アスパラガス、レタス、サラダナ、セルリー、ホウレンソウ、シュンギク、パセリ、ミツバ、セリ、ウド、ミョウガ、フキ、シソ、シロイヌナズナ等が挙げられる。根菜類としては、ダイコン、カブ、ゴボウ、ニンジン、ジャガイモ、サトイモ、サツマイモ、ヤマイモ、ショウガ、レンコン等が挙げられる。その他に、稲、麦類、花卉類等にも使用が可能である。
【実施例】
【0045】
実施例1 トマト水耕栽培の水耕液へ施用した場合の細胞内カルシウム遊離化促進試験
トマト品種:桃太郎[タキイ種苗(株)]
発芽用:50穴セルトレイ
栽培ポット:250mLポリエチレンボトル
栽培環境条件:照度5000Lux、温度23℃、湿度50%、照明時間16時間
試験薬剤:脂肪族アルコール[花王(株)製カルコールシリーズ]、POE(20)ソルビタン脂肪酸エステル[花王(株)製レオドールTW-O120V](脂肪族アルコールを使用する際、界面活性剤を用いない試験液は予め1hr、30℃で超音波により分散させたものを用いた。)
【0046】
50穴セルトレイへトマト種を播種し、二葉期に生育したトマトの地下部を水道水で洗浄し、土を落とした。それぞれ水道水に本発明品を表1の処理濃度に希釈調整した液約250mLをポリエチレンボトルに入れ、更に根部を洗浄したトマトをそれぞれ移植し試験を開始した。試験開始後4日のトマトの地下部に対し、蛍光プローブFluo3-AM[同仁化学研究所:遊離カルシウムイオンと結合し、励起波長480〜500nmで蛍光波長530nm前後を蛍光する(グリーンの蛍光を生じる)]2μM、23℃、湿度50%、暗黒下で1日間処理し、蛍光顕微鏡[KEYENCE BZ-8000、OP-66835フィルター(励起波長480nm 吸収波長510nm、露光時間1秒)]により根の先端部より2cmのところを観察した。カルシウム遊離化程度の判断はFluo3-AMの細胞発色状態を外観(図1に参考例を示すが、外観にて判断し、極めて強く蛍光を発している場合を◎、強く蛍光を発している場合を○、弱く蛍光を発している場合を△、極めて弱く蛍光を発している場合を×とした)及び蛍光顕微鏡で測定されたデータを画像解析して得られるグリーン輝度(外観で平均的と考えられる細胞10点の平均値)の算出により行った。グリーン輝度の数値は高いほどカルシウムイオンの遊離化が促進していることを示している。結果を表1に示す。本発明品を根に施用した場合、比較品と比べ明らかに植物の根細胞のカルシウムイオンの遊離化が促進された。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例2 シロイヌナズナ水耕栽培の水耕液へ施用した場合の細胞内カルシウム遊離化促進試験
シロイヌナズナ品種:コロンビア
発芽用:ロックウール(厚さ2cm)
水耕栽培培地:無機栄養塩溶液[モデル植物の実験プロトコール(イネ・シロイヌナズナ編)秀潤社 p36]
栽培ポット:300mLビーカー
栽培環境条件:照度5000Lux、温度23℃、湿度50%、照明時間16時間
試験薬剤:実施例1と同様
【0049】
水耕栽培培地を含んだロックウールにシロイヌナズナ種を播種し、約2週間生育したシロイヌナズナ(3葉期)を更に300mLビーカー(水耕液200mL)に発泡スチロール等を使用しロックウールを浮かべて栽培し、根がロックウール底面より出現させるようにした。水耕液に本発明品を表2の処理濃度になるよう添加し、試験を開始した。試験開始1日後のシロイヌナズナの地下部に対し、蛍光プローブ(Fluo3-AM 同仁化学研究所)2μM、23℃、湿度50%、暗黒下で1日間処理し、蛍光顕微鏡[KEYENCE BZ-8000、OP-66835フィルター(励起波長480nm 吸収波長510nm)、露光時間1秒]により根の先端部より2cmのところを観察した。カルシウムの遊離化の判断は実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。本発明品を根に施用した場合、比較品と比べ明らかに植物の根細胞のカルシウムイオンの遊離化が促進された。
【0050】
【表2】

【0051】
実施例3 水耕栽培トマトの茎葉へ施用した場合の細胞内カルシウム遊離化促進試験
トマト品種:桃太郎[タキイ種苗(株)]
発芽用:50穴セルトレイ
栽培ポット:250mLポリエチレンボトル
栽培環境条件:照度5000Lux、温度23℃、湿度50%、照明時間16時間
試験薬剤:実施例1と同様
【0052】
50穴セルトレイへトマト種を播種し、二葉期に生育したトマトの地上部に対し、それぞれ水道水に本発明品を表3の処理濃度に希釈調整した液をスプレーによりトマト地上部へ1株あたり10mL量を十分濡れるように散布し、試験を開始した。試験開始後4日のトマトの第二葉の先端部を切除し、蒸留水の入ったプラスチックシャーレに入れ、蛍光プローブ(Fluo3-AM 同仁化学研究所)2μM、23℃、湿度50%、暗黒下で1日間処理し、蛍光顕微鏡[KEYENCE BZ-8000、OP-66835フィルター(励起波長480nm 吸収波長510nm)]により葉の先端部を観察した。カルシウムの遊離化程度の判断は外観にて判断し、極めて強く蛍光を発している場合を◎、強く蛍光を発している場合を○、弱く蛍光を発している場合を△、極めて弱く蛍光を発している場合を×とし、グリーン輝度は実施例1と同様に測定した。結果を表3に示す。本発明品を葉に施用した場合、比較品と比べ明らかに植物の葉細胞のカルシウムイオンの遊離化が促進された。
【0053】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】カルシウムイオン遊離化の外観程度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R1は炭素数10〜22の炭化水素基を示し、R2は水素原子、水酸基又は炭素数1〜24の炭化水素基を示し、R3は水素原子又は炭素数1〜24の炭化水素基を示す。)で表される化合物(A)を1〜10000ppm(重量濃度)含有する植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の化合物(A)1〜10000ppm(重量濃度)と(B)界面活性剤を含有する植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進剤組成物。
【請求項3】
請求項1記載の化合物(A)1〜10000ppm(重量濃度)を植物に施用する植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進方法。
【請求項4】
請求項1記載の化合物(A)1〜10000ppm(重量濃度)と(B)界面活性剤を含有する植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進剤組成物を植物に施用する植物細胞のカルシウムイオン遊離化促進方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−314473(P2007−314473A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146171(P2006−146171)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】