説明

植物苗の生産方法および植物苗生産用発根床

【課題】多くの母本植物を対象として発根本数の多い優良な植物苗を得ることのできる植物苗の生産方法および植物苗生産用発根床を提供する。
【解決手段】本願発明に係る植物苗の生産方法は、植物組織体を直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体の存在下で培養し、前記植物組織体から発根させることを特徴とする。また、本発明に係る植物生産用発根床は、培地支持体と、前記培地支持体を湿潤している液体とを有してなり、前記液体が直径10nm〜10μmの超微細気泡を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優良形質を備えた発根数の多い植物苗を商業的に大量生産することのできる植物苗の生産方法および植物苗生産用発根床に関し、特に、挿し木法や組織培養法を用いて発根数の多い植物苗を商業的に大量生産することのできる植物苗の生産方法および植物苗生産用発根床に関する。
【背景技術】
【0002】
植物を商業的に大量に生産する手段として、親植物(母本植物)から採取した植物組織や該植物組織を培養してなる茎葉(シュートと呼称される場合もある)などの植物組織体を液体培地中で培養することにより発根させて植物苗(クローン苗)を得る植物苗の生産方法が用いられている。かかる植物苗の生産方法の代表的な方法として、「挿し木」あるいは「組織培養」という技術を用いた方法が知られている。
【0003】
「挿し木」という技術は、親植物(母本植物)から植物組織を切断により採取し、得られた植物組織(「挿し穂」と呼称される)の切断部位を発根床に挿し入れて、発根床内で発根させ、独立した一個の植物組織体を作り出す伝統的な栄養繁殖方法である。このような「挿し木」法は、草本植物から木本植物に到るまで、親植物と同一の遺伝的性質を備えた個体、即ち、クローン苗を大量に作出し、増殖させる方法として普及している。
【0004】
「挿し木」法は、上述のように、簡便で、一度に大量の苗を得るのに適しており、優良形質を備えた個体を低コストで大量生産できることから、商業的に有利な方法であるということができる。しかし、「挿し木」法では、発根が難しい植物も多く、全ての植物が「挿し木」法で繁殖できるわけではない。
【0005】
そのため、従来、挿し穂をインドール酪酸等のオーキシン系の植物成長調整物質で前処理することにより発根率を向上させることが行われている。例えば、特許文献1には、クスノキの挿し穂をオーキシンで前処理することにより根の形成を促進する方法が記載されている。さらに、オーキシン系の植物成長調整物質による処理に先立って、硝酸銀、過マンガン酸カリウム、石灰水、エタノール等により前処理を行うことも、広く実施されている。
【0006】
しかしながら、植物成長調整物質による前処理を行っても、オウトウ、ナシ、マンゴー、ユーカリ等のような発根が難しい植物がある。そのような植物においては、挿し穂が全く発根しない場合があり、発根できた場合であっても、ほとんどの場合、その根数は少ない。根数が少ないと、植物組織体自身を十分に支えることが出来ず、または栄養吸収を十分に行うことが出来ない。この場合、その後の挿し穂の生育が悪くなり、ほとんどが苗にまで生育できず、最悪の場合、枯死に至る。例え、苗にまで生育できた場合であっても、定植先への順化が困難である(定着性が低い)。
【0007】
このような事情から、優良形質を持つために、その個体の増殖を望まれる植物であっても、商業的に見合うレベルでの増殖が実現できていない植物が少なからず存在するのが、現状である。
【0008】
一方、「組織培養」法は、母本植物の各器官を培養することにより得られた組織を、繰り返し継代培養させることで、限られた場所で無限に増殖できる大きな利点があることから、近年になってその研究が盛んに行われ、既にランや野菜等でその適用が可能となり、一部の種においては実用化もされている。また、母本植物を樹木とする場合においても近年検討が開始され、クヌギ(Quercus acutissimaCarr)、シラカンバ(Betulaplatyphylla Sukatchev var.japonica)などで植物体の再生が可能であると報告されている。
【0009】
「組織培養」法によるクローン苗の生産工程は、初代培養後、シュート(茎葉)の増殖、伸長、発根順化の4工程に分けられるが、植物種によっては、例えばタバコ、人参、ベゴニア、セントポーリア等の種では、茎葉の増殖・伸長・発根を同一の培地組成で移植を要しないで行えるため、これらを一工程で容易に行うことができる。
【0010】
しかし、他の多くの植物種の苗生産、特に樹木を母本植物とした場合の苗生産では、上記初代培養後の「シュート(茎葉)の増殖」−「伸長」−「発根順化」という一連の4工程を必ず経なければならず、しかも個々の植物種毎に、増殖法等の各工程の条件がそれぞれに異なることが多いことも知られている。中でも大量生産を行う上でネックとなるのは、伸長した茎葉から発根させて幼植物体に育成し、さらに幼植物体を外の環境に馴らす順化工程における諸問題である。
【0011】
前記順化工程では、処理が煩雑で手間がかかる上、しかも特別の設備を要する等の諸問題がある。しかし、従来の順化工程における手間の簡略化、および設備の簡素化を実現することが難しいのが現状である。従って、樹木等で組織培養による植林用苗の大量生産を実用化するには、茎葉からの発根および順化をいかに簡易かつ効率的に行うかが焦点となる。
【0012】
特許文献2には、アカシア属植物から茎葉を再分化し、再分化された茎葉をオーキシン系植物ホルモンを含む培地にて発根させることにより、アカシア属植物を大量増殖させる方法が記載されている。
【0013】
しかしながら、この方法では、発根率が不十分であり、さらに、発根してもその根数が不十分であることが多い。根数が少ないと、植物体自身を十分に支えることが出来ず、または栄養吸収を十分に行うことが出来ない。この場合、その後の幼植物体(クローン苗)の生育が悪くなり、最悪の場合枯死に至る恐れもある。
【0014】
以上のように、従来の組織培養によるクローン苗の生産方法では、茎葉からの発根および順化を行う工程において簡易かつ効率的に十分な数の発根を実現することが難しく、発根率が高く、さらに、発根数の多い高品質な植物苗を簡易かつ効率的に作出することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10−191776号公報
【特許文献2】特開平7−255304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本願発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたもので、その課題は、多くの母本植物を対象として発根本数の多い優良な植物苗を得ることのできる植物苗の生産方法および植物苗生産用発根床を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意、実験、研究を重ねたところ、ナノバブル水、マイクロナノバブル水、マイクロバブル水等と呼称される、直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する水(以下、超微細気泡水と呼称する場合もある)を用いて液体培地を調製し、この液体培地で培地支持体を湿潤させることにより得た発根床に、挿し穂や母本植物から採取した器官を無菌的に培養することにより得た多芽体などの植物組織体を挿し付けて培養すると、植物組織体からの発根が促進され、根数の多い定着性に優れた植物苗が得られることを見出した。
【0018】
本願発明は、上記知見に基づきなされたもので、下記構成を採用した植物苗の生産方法および植物苗生産用発根床を提供する。
【0019】
[1]植物組織体を直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体の存在下で培養し、前記植物組織体から発根させる、植物苗の生産方法。
[2]前記植物組織体が、挿し穂であることを特徴とする、上記[1]に記載の植物苗の生産方法。
[3]前記植物組織体が、母本植物から採取した器官を無菌的に培養することにより得た多芽体、または、前記器官を無菌的に育成して得た茎葉であることを特徴とする、上記[1]に記載の植物苗の生産方法。
[4]直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体により培地支持体を湿潤させることにより発根床を調整すること、次いで、前記発根床に前記植物組織体を挿し付けて培養すること、を含む、上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の植物苗の生産方法。
[5]前記母本植物から多芽体または茎葉を調製すること、直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体により培地支持体を湿潤させることにより発根床を調整すること、前記発根床に前記多芽体または茎葉を移植して培養して幼植物体を得ること、次いで、前記幼植物体の順化を行うこと、を含む、上記[1]〜[4]のいずれか一つに記載の植物苗の生産方法。
[6]前記直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体が、直径1μm以下の気泡個数が全体の気泡個数に対して99%以上である気泡径分布を有することを特徴とする、上記[1]〜[5]のいずれか一つに記載の植物苗の生産方法。
[7]前記超微細な気泡中の気体が、酸素、二酸化炭素、窒素からなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする、上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載の植物苗の生産方法。
[8]直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体が、液体培地用の培養成分を直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する水により溶解もしくは希釈してなる液体培地であることを特徴とする、上記[1]〜[7]のいずれか一つに記載の植物苗の生産方法。
[9]前記直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する水を、前記液体培地の水分の50〜100重量%用いることを特徴とする、上記[8]に記載の植物苗の生産方法。
[10]前記液体培地が、無機塩類を含み、かつ炭素源を含まない液体培地であることを特徴とする、上記[8]または[9]に記載の植物苗の生産方法。
[11]前記発根床を湿度80%以上、二酸化炭素濃度を200〜3500ppm に制御した雰囲気下におくことを特徴とする、上記[4]〜[10]のいずれか一つに記載の植物苗の生産方法。
[12]前記植物組織体が、木本植物由来のものであることを特徴とする、上記[1]〜[11]のいずれか一つに記載の植物苗の生産方法。
[13]培地支持体と、前記培地支持体を湿潤している液体とを有してなり、前記液体が直径10nm〜10μmの超微細気泡を含有することを特徴とする植物苗生産用発根床。
[14]前記培地支持体が、培養容器内に収納されていることを特徴とする、上記[13]に記載の植物苗生産用発根床。
[15]前記直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体が、直径1μm以下の気泡個数が全体の気泡個数に対して99%以上である気泡径分布を有することを特徴とする、上記[13]または[14]に記載の植物苗生産用発根床。
[16]前記超微細な気泡中の気体が、酸素、二酸化炭素、窒素からなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする、上記[13]〜[15]のいずれか一つに記載の植物苗生産用発根床。
[17]前記液体が、直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する水により液体培地用の培養成分を溶解もしくは希釈してなる液体培地であることを特徴とする、上記[13]〜[16]のいずれか一つに記載の植物苗生産用発根床。
[18]前記直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する水が、前記液体培地の水分の50〜100重量%含まれていることを特徴とする、上記[17]に記載の植物苗生産用発根床。
[19]前記液体培地が、無機塩類を含み、かつ炭素源を含まないことを特徴とする、上記[17]または[18]に記載の植物苗生産用発根床。
[20]前記培養容器が、内部の湿度と二酸化炭素濃度を制御することが可能な密閉型の容器であることを特徴とする、上記[14]〜[19]のいずれか一つに記載の植物苗生産用発根床。
[21]前記培地支持体が、砂、赤玉土等の自然土壌、バーミキュライト、パーライト、ピートモス、ガラスビーズ等の人工土壌、又は発泡フェノール樹脂、ロックウール等の多孔性成形品からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、上記[13]〜[20]のいずれか一つに記載の植物苗生産用発根床。
【発明の効果】
【0020】
本願発明にかかる植物苗の生産方法および植物苗生産用発根床によれば、従来技術に比べ、植物苗への生育過程における発根数を増加させことができるため、根数が多く根からの栄養吸収が良好で、優れた定着性(換言すれば、格段に良好な根張り性能)を有する高品質な植物苗を得ることができる。
特に、本願発明においては、従来法による植物苗の生産方法では生産が困難であった植物からも植物苗を生産することが可能となる。
また、従来法により比較的容易に挿し木苗が作出できた植物の挿し木苗の生産に本発明方法を適用すれば、得られる苗の品質をさらに向上させることができる。
本発明の生産方法による操作は、従来の植物苗の生産方法による操作の利点を引継いでおり、簡便である。
【0021】
従って、本願発明にかかる植物苗の生産方法および植物苗生産用発根床によれば、植物苗の周年生産を容易に行うことができる。すなわち、本願発明にかかる植物苗の生産方法および植物苗生産用発根床は、苗の根数を増加させることができ、それにより高い栄養吸収能を有する高品質な植物苗を簡易かつ大量に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明に係る植物苗の生産方法は、植物組織体を直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体の存在下で培養することにより前記植物組織体からの発根を促進することを特徴とする。
【0023】
(対象植物)
本発明は、どのような植物に対しても適用することができる。中でも木本植物に適用されることが好ましく、草本植物よりも発根能が劣っている木本植物に適用されることが、本発明の効果を顕著に発揮できる点でより好ましい。木本植物としては、例えば、ユーカリ属(Eucalyptus)植物、マツ属(Pinus)植物、サクラ属(Prunus)植物(サクラ(Prunus spp.)、ウメ(Prunus mume)、ユスラウメ(Prunus tomentosa)など)、アボカド属(Avocado)植物、マンゴー属(Mangifera)植物(マンゴー(Mangifera indica)など)、アカシア属(Acacia)植物、ヤマモモ属(Myrica)植物、クヌギ属(Quercus)植物(クヌギ(Quercus acutissima)など)、ブドウ(Vitis)属植物、リンゴ(Malus)属植物、バラ属(Rosa)植物、ツバキ属(Camellia)植物、ジャカランダ属(Jacaranda)植物(ジャカランダ(Jacaranda mimosifolia)など)、ワニナシ属(Persea)植物(アボカド(Persea americana)など)が挙げられる。このうち、ユーカリ、マツ、サクラ、マンゴー、アボカド、アカシア、ヤマモモ、クヌギ、ブドウ、リンゴ、バラ、ツバキ、ウメ、ユスラウメ、ジャカランタ等に適用した場合に、より本発明の効果を発揮しうる。中でもユーカリ属植物、マツ属植物、サクラ属植物、マンゴー属植物が好ましく、特に、難発根性として知られるユーカリ、マツ、サクラ、マンゴー、アボカド等に本発明を適用すれば、大きな効果が得られる。ユーカリの中でも、ユーカリ・グロビュラス、ユーカリ・ユーログランディスなどのユーカリ属植物は特に難発根性であるため、本発明を適用すれば、大きな効果が得られうる。
【0024】
(植物組織体)
植物組織体としては、枝、茎、頂芽、腋芽、不定芽、葉、子葉、胚軸、不定胚、苗条原基等が例示される。植物組織体の由来は特に限定されず、温室や屋外に生育している植物個体から得られたものでもよいし、組織培養法により得られた培養組織であってもよいし、天然の植物体の一部の組織であってもよい。植物組織体は、挿し穂の母本植物や、多芽体から効率良く取得することができる。中でも、挿し穂(母本植物から得た挿し穂)、母本植物から採取した器官を無菌的に培養することにより得た多芽体、もしくは前記器官を無菌的に育成して得た茎葉であることが好ましい。
【0025】
(挿し穂)
本発明においては上述したように、植物組織体として挿し穂を用いることが好ましい。挿し穂としては、緑枝(当年枝)や熟枝(前年以前に伸びた枝)の他、芽や葉も用いることができる。木本植物の場合では緑枝や熟枝を挿し穂として用い、草本植物の場合では葉や芽を挿し穂として用いるのが普通である。
【0026】
(多芽体)
多芽体は、本発明を適用してクローン苗を生産しようとする植物から、頂芽や腋芽等を切取って、これを組織培養して誘導することができる。母本植物から採取した器官を無菌的に培養して多芽体を得る方法としては、例えば、前記の木本植物から、多芽体を形成させるには、特開平8−228621号公報に記載の方法および条件に従って行い得る。その方法および条件は概ね次の通りである。まず、材料とする植物から頂芽、腋芽等の組織を採取し、採取した組織について、有効塩素量約0.5%〜約4%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液又は有効塩素量約5%〜約15%の過酸化水素水溶液に約10分〜約20分間浸漬して表面殺菌を行う。次いで、これを滅菌水で洗浄し、固体培地に挿し付けて芽を開かせ、伸長してきた茎葉を同じ組成の培地で継代培養することにより、多芽体を形成させる。ユーカリ属やアカシア属の組織(例えば腋芽)を用いる場合には、固体培地は、ショ糖1〜5重量%、植物ホルモンとしてベンジルアデニン(以下、BAと略す。)約0.02mg/L〜約1mg/L、ゲランガム約0.2重量%〜約0.3重量%若しくは寒天約0.5重量%〜約1重量%を含有するムラシゲスクーグ(以下、MSと略す。)培地又はこのMS培地の硝酸アンモニウム成分と硝酸カリウム成分とを半減させた改変MS培地を用いるのが好ましい。こうして形成された多芽体からは活発に植物組織体が伸長してくる。多芽体自体は、適当に分割して多芽体形成に用いた培地と同一組成の培地で培養することにより維持し、増殖させることができる。
【0027】
(直径10nm〜10μmの超微細気泡を含有する液体(超微細気泡水))
本発明に用いる直径10nm〜10μmの超微細気泡を含有する液体とは、直径10nm〜10μmの超微細気泡を含有する水または液体培地のことをいう。本発明に用いる超微細気泡水に含まれる超微細気泡のサイズは、直径10nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜2μmであることがより好ましく、10nm〜1μmがとりわけ好ましい。
【0028】
直径が10nm未満の気泡は製造することが難しく、逆に直径が10μmを超えると、気泡は水中に留まることが出来ずに消滅してしまう。したがって、直径10nm〜10μmの超微細気泡が水中に発生可能であり、かつ長期に水中に留まることが可能である。長期に水中に留まる超微細気泡は、液体培地に差し込まれた植物組織体の切断面に持続的に作用して発根を促すことができる。
【0029】
(超微細気泡中のガス種)
本発明に用いられる超微細気泡水の超微細気泡を形成するガス種としては、酸素、二酸化炭素、窒素からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、酸素であることがとりわけ好ましいが、特にこれらに限定されない。液体培地中の超微細気泡水が発根を促す機構は、現状では、不明点が多いことが否めないが、上述の気泡直径と、ガス種とが主なファクターに含まれることは確かであると思われる。植物組織体の切断面に触れる液体培地の水分中に超微細気泡水が含まれている状態では、発根床中の気相の割合が高まり、植物組織体にとってより良好な三相分布となる。その結果、植物組織体の代謝が促進され、発根数が増加すると考えられる。気泡直径、ガス種、及び液体培地中の粒度分布(全体の気泡個数に対する所定粒径の気泡個数の割合)の各ファクターを適宜に組み合わせることにより、さらなる発根数の増加効果が期待される。
【0030】
(超微細気泡水の製造方法)
本発明で用いる直径10nm〜10μmの超微細気泡を含有する水は、市販のマイクロナノバブル生成装置にて製造することが出来る。市販品としては、例えば、株式会社協和機設製の「BUVITAS(商品名)」、株式会社オーラテック製の「OM4−MDG−020(商品名)」を挙げることができる。
【0031】
このうち、BUVITASは、気液混合せん断方法を用いて水中に超微細気泡を生成する装置である。この場合、ガスの流量、混合時間を調節することにより、超微細気泡水における気泡直径を変数とした気泡の分布(以下、気泡径分布あるいは粒度分布と記載する場合もある)を調節することができるため、好ましい。超微細気泡水に含まれる超微細気泡の粒度分布としては、直径1μm以下の気泡個数が超微細な気泡を含有する水全体の気泡個数に対して99%以上であることが好ましく、直径100nm以下の気泡個数が99%以上であることがより好ましい。
超微細気泡の粒子径や超微細気泡水中の気泡径分布(粒度分布)は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定することができる。
【0032】
本発明の植物苗の生産方法は、植物組織体を直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体の存在下で培養することを特徴とする。特に、直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体により培地支持体を湿潤させることにより発根床を調整すること、次いで、前記発根床に前記植物組織体を挿し付けて培養することが好ましい。また、植物組織体を発根床に挿し付けて発根を行わせることにより植物苗を生産するに際して、直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する水により液体培地用の培養成分を溶解もしくは希釈して得られた液体培地により培地支持体を湿潤させることにより発根床を調整して、これに植物組織体を挿し付けて培養することがさらに好ましい。また、植物組織体が多芽体の場合、多芽体から調製した茎葉を、直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体により培地支持体を湿潤させることにより調整した発根床に移植し培養して幼植物体を得、この幼植物体を順化することが好ましい。このような本発明方法によれば、発根床を湿潤している液体培地に含まれる超微細気泡により、植物組織体からの発根が促進され、根数の多い植物苗が得られる。
【0033】
(発根床)
また、本発明にかかる植物苗生産用の発根床は、培地支持体と、前記培地支持体を湿潤している液体とを有してなり、前記液体が直径10nm〜10μmの超微細気泡を含有することを特徴とする。また、培地支持体は、培養容器内に収納されていることが好ましい。本発明の発根床の水分中に含まれる超微細気泡は、直径が10nm〜10μmの超微細なサイズであるため、培地支持体を湿潤している液体培地中に安定的に保持され、この発根床に挿し付けられる植物組織体に対して持続的な発根促進要素として作用する。
以下、本発明の実施形態を構成する各要素について詳しく説明する。
【0034】
(培養容器)
培養容器としては、従来慣用の育苗ポット、プラグトレーなどの培養容器を用いることができ、特に限定されないが、容器内の湿度調整が容易で、容器内への二酸化炭素供給が可能な密閉型の培養容器であることが好ましい。
【0035】
従来の植物苗の生産方法においては、植物組織体(挿し穂)として枝を用いる場合には、その枝についた葉の蒸散作用を抑制するために、葉の一部を切除する必要があった。しかし、密閉型の培養容器を用いれば、挿し穂を高湿度下に置くことができるので、葉の一部切除処理を施さなくとも、その蒸散作用を抑制することができる。
【0036】
また、上記密閉型の培養容器内に、液体培地で湿潤させた培地支持体を収納し、これに植物組織体を挿し付けて培養を行なえば、植物組織体及びこれから形成される苗を取り巻く環境の湿度維持が容易となる。
【0037】
また、二酸化炭素の導入の様態としては、例えば、湿度維持のために容器開口部を二酸化炭素透過性の膜で蔽い、容器が置かれた環境雰囲気の二酸化炭素濃度を調整する様態を採用することができる。
【0038】
(培地支持体)
本発明で用いる発根床の培地支持体としては、従来慣用の培地支持体を用いることができ、特に限定されない。液体培地により実質的に均一に湿潤されるものであって、かつ、これに挿し付けられる植物組織体を、その挿し付けた状態で保持できるようなものであれば、培地支持体として用いることができる。例えば、砂、赤玉土等の自然土壌、バーミキュライト、パーライト、ピートモス、ガラスビーズ等の人工土壌、又は発泡フェノール樹脂、ロックウール等の多孔性成形品等を挙げることができる。かかる培地支持体を培養容器内に入れ、下記液体培地にて湿潤させることにより発根床が調製される。
【0039】
(液体培地)
本発明に用いる液体培地は、従来の液体培地と同様に、市販の家庭園芸用複合肥料や公知の植物組織培養用液体培地を水で溶解もしくは希釈したものを用いることができるが、溶解もしくは希釈に用いる水は、通常の水ではなく、直径10nm〜10μmの超微細気泡を含有する水を必須成分として用いる。なお、上記市販の家庭園芸用複合肥料や公知の植物組織培養用液体培地の溶解もしくは希釈の方法としては、始めから直径10nm〜10μmの超微細気泡を含有する液体(超微細気泡水)で溶解もしくは希釈してもよいし、通常の水である程度の濃度に溶解もしくは希釈した液体培地に上記超微細気泡水を添加することにより培養成分が最終濃度になるまで希釈するようにしてもよい。さらには、マイクロナノバブル生成装置を用いて慣用の液体培地の液中に直接超微細気泡を発生させることにより本発明に用いる液体培地を得ることも可能である。
【0040】
(超微細気泡水の含有量)
発根床に挿し込まれた植物組織体の切断面は液体培地中に浸漬した状態になり、水または液体培地中の超微細気泡の作用を受けて発根が促進される。したがって、水または液体培地中に含まれる超微細気泡量が発根促進の要素の一つとなる。
【0041】
上述の気液混合せん断方法を用いて水中に超微細気泡を生成するマイクロナノバブル生成装置を用いて、超微細気泡水を調製する場合、気液混合剪断力の制御および混合時間の制御によって、生成する気泡量が制御される。本発明で用いる標準の超微細気泡水の粒度分布が、直径1μm以下の気泡個数が超微細な気泡を含有する水全体の気泡個数に対して99%以上であるとすると、かかる標準超微細気泡水が、水または液体培地の水分の50〜100重量%含まれることが好ましく、80〜100重量%含まれることがとりわけ好ましい。水または液体培地の水分中の標準超微細気泡水の含有量が50重量%以上であると、植物苗の発根本数を十分に増加させることができる。
【0042】
本願発明において用いる液体培地は、超微細気泡を含む水分の他、窒素、リン、カリウム等の無機塩類を含み、かつ、炭素源を含まないことが好ましい。前記各々の無機塩類の濃度は、植物組織体の母本植物の種類に応じて調整する。
【0043】
また、市販の家庭園芸用複合肥料や公知の植物組織培養用液体培地を超微細気泡水を含む水で適宜に溶解もしくは希釈して用いてもよい。例えば、家庭園芸用複合肥料としては、窒素、リン、カリウムを主要成分とする肥料液「ハイポネックス液5−10−5(登録商標、(株)ハイポネックスジャパン製)」を超微細気泡水を含む水で250〜500倍に希釈した溶液を、本発明において、汎用性の高い液体培地として使用してもよい。また、肥料が粉末などの固形分(培養成分)で提供される場合は、直接、超微細気泡水で溶解して液体培地を調製してもよいし、一旦、通常の水で溶解し、その後、超微細気泡水で希釈して液体培地を調製してもよい。また、植物組織培養用液体培地としては、例えば、ムラシゲ・スクーグ培地(Murashige and Skoog(1962)、以下、MS培地と略記する。)およびガンボーグB5培地を超微細気泡水を含む水で4〜16倍に希釈した溶液を、本発明において、汎用性の高い液体培地として使用してもよい。
【0044】
なお、上記MS培地を始め、公知の植物組織培養用培地は、培養成分として、窒素、リン、カリウムの他;多量元素として水素、炭素、酸素、硫黄、カルシウム、マグネシウム等;微量元素として鉄、マンガン、銅、亜鉛、モリブデン、ホウ素、塩素等;無機塩類;そして、アミン、ピリドキシン、ニコチン酸等のビタミン類;を含んでいる。従って、本願発明の液体培地としては、窒素、リン、カリウムの他、これらの元素を無機塩類又はビタミン類等として含有しているものも、使用してもよい。
【0045】
また、本願発明において使用する液体培地には、培養成分として、更に、植物生長調整物質を添加してもよい。例えば、植物組織からの不定根発生を促進する、インドール酢酸、インドール酪酸(IBA)、ナフタレン酢酸等のオーキシン類を単独で又は2種以上組合せて、本願発明の液体培地に0.1〜10mg/L添加することにより、植物組織体からの発根を、例えば、挿し穂からの発根を促進することができる。
【0046】
一方、本願発明の液体培地には、ショ糖等の炭素源は含まれないことが好ましい。炭素源は、多くの生物に共通するエネルギー源であるが、非無菌条件下で操作を行った場合、炭素源を含有する培地を用いると、植物組織体に付着した雑菌や、培養環境中の雑菌も培地中の炭素源を栄養源として繁殖し、植物組織体や、これから形成される苗の枯死をもたらすからである。
【0047】
もっとも、植物組織体から形成される苗はもちろん、植物組織体自体も、自ら光合成を行なう能力を有しているので、植物の生育に適当な強度の光を与えることにより、二酸化炭素を同化してエネルギー源とすることができる。そのため、本願発明で用いる植物組織体においても、栄養素として炭素源を付与しなくとも、大気中の二酸化炭素を利用して発根等を行なうことは可能である。しかし、本願発明において、窒素、リン、カリウム等の栄養素を液体培地により与えられた植物組織体は、活発に光合成を行なうため、この二酸化炭素の濃度を人工的に制御する必要が生ずる。即ち、植物組織体の活発な光合成により、培養容器内の二酸化炭素濃度は低下するので、これを、人為的に補う必要がある。雰囲気中の二酸化炭素が欠乏すると、たとえ、二酸化炭素以外の栄養素を、生育中の植物組織体に十分供給したとしても、やがてその光合成能は低下し、植物組織体からの発根、つまりは苗の形成が阻害されることとなる。
【0048】
(培養条件)
培養容器内の植物組織体に活発に光合成を行なわせ、その発根率を向上させるため必要とされる二酸化炭素濃度は、植物組織体とする母本植物の種類によって異なる。しかし、一般的には、培養容器内の二酸化炭素濃度を200〜3500ppmに制御するのが好ましい。培養容器内の二酸化炭素濃度が200ppmより低いと、植物組織体の光合成能に対しても発根率に対しても、大幅な向上を期待できない。また、培養容器内の二酸化炭素濃度を3500ppmより高めても、植物組織体の光合成能や発根率は、その二酸化炭素濃度に見合った向上を示さなくなる。二酸化炭素濃度の制御は、密閉型の培養容器を用いることにより培養容器ごとに行なってもよいが、培養容器が置かれる環境自体の二酸化炭素濃度を制御することで、培養容器内を所定の二酸化炭素濃度に制御する方が、簡便で、コスト的にも有利である。このとき、培養容器は、開口部をそのまま開放したものや、前記したように、その開口部を二酸化炭素透過性の膜で覆ったものを使用することができる。
【0049】
本願発明の植物苗の生産方法においては、他の条件、即ち、植物組織体を培養するにあたっての温度や光強度の条件に特に制限はない。その植物組織体の母本植物が、光合成をするのに適した条件を適宜採用すればよい。一般的には、温度20〜30℃、光強度40〜100μmol/m2/sec程度の条件が、この目的のために採用される。また、本願発明においては、光を照射して培養を行なう明期と、暗黒下で培養を行なう暗期とを設定し、この明期・暗期を交互に繰返して培養を行なってもよい。この場合、光合成は明期においてのみ行なわれるので、培養容器内の二酸化炭素制御も、明期においてのみ行えばよい。環境湿度としては、80RH%以上であることが好ましい。
【0050】
なお、前記したように、本願発明は、非無菌条件下でも作業を行なうことができる。しかし、より健全な苗の作出のため万全を期すには、植物組織体の挿し付け前に、培養容器や培地支持体に対して予め乾熱滅菌やオートクレーブ滅菌等の処置を行なっておくことが好ましい。但し、超微細気泡水のオートクレーブ滅菌は水中に存在する微細な気泡の減少が懸念されるため避けた方が良いので、前記培養容器及び培地支持体に対する滅菌処理は、培地支持体を超微細気泡水を含む液体培地により湿潤処理する前に行うことが好ましい。
【0051】
本願発明にかかる発根床および植物苗の生産方法を用いて生産された植物苗は、発根後、直ちに培養容器から取出して育苗容器に移植し、育成することが好ましい。育苗容器に移植する際の用土や、苗を育成する際の温度・光強度等の条件は、その母本植物に対応して適宜設定すればよい。かかる育成過程を経ることによって、植林等の所定の目的に使用可能な定植用の苗とすることができる。なお、上記育成過程においても育成容器中の用土などの培地支持体の湿潤を超微細気泡水を用いて行うことが好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。以下に示す実施例は、本発明を説明するための好適な例示であって、本発明を限定するものではない。
【0053】
[実施例1]
<超微細気泡水の製造>
マイクロナノバブル生成装置(協和機設社製、商品名:BUVITAS)を用い、ガス種として酸素を用いて超微細気泡水を製造した。超微細気泡水中の気泡径分布(粒度分布)をレーザー回折式粒度分布測定装置(Beckman Coulter社製、商品名:LS 13 320)を用いて測定した結果、直径100nm以下の気泡個数が99%以上であった。
【0054】
<挿し木苗の生産>
5年生のオウトウの当年枝より、挿し穂となる枝を採取した。この枝を一節一葉となるよう5cm長さにカッティングし、更に、そこについていた葉の2分の1を切除して、挿し穂(A1)を得た。
【0055】
一方、培養容器としては、10cm四方のポリカーボネート製容器を用い、培地支持体としては、発泡フェノール樹脂成形品(日本曹達(株)製、製品名『オアシス』)を用い、容器の開口部をそのまま開放した。液体培地としては、MS培地をガス種が酸素の超微細気泡水により5倍に希釈し、植物生長調整物質としてIBAを10mg/L添加したものを用いた。この時の液体培地の水分中の超微細気泡水の配合量は、全水分量の100重量%であった。
上記培養容器中に収納した培地支持体300cmに上記液体培地を160mL添加して湿潤させることにより、発根床(B1)を2個準備した。
【0056】
挿し木苗の生産は、上記挿し穂(A1)を、一つの発根床(B1)あたり9本となるように挿し付け、各培養容器内の二酸化炭素濃度が、明期のみ、1000ppmとなるように制御し、温度25℃ 、光強度50μmol/m2/sec 、明期16時間、暗期8時間で培養することにより行った。なお、培養容器内の二酸化炭素濃度の制御は、この培養容器が置かれた環境中の二酸化炭素濃度を制御することにより行った。
【0057】
8週間後、実施例1の試験区(発根床数:2個)あたり18本の挿し穂について、発根の有無および発根数を調査した。その結果を(表1)に示す。
【0058】
[実施例2]
MS培地を希釈する超微細気泡水として、ガス種が大気である超微細気泡水を用いた以外は、実施例1と同様の配合量、生産工程によりオウトウの挿し木苗の生産を試みた。
【0059】
発根床への挿し穂の挿し付けから8週間後、実施例2の試験区(発根床数:2個)18本の挿し穂について、発根の有無および発根数を調査した。その結果を(表1)に示す。
【0060】
[比較例1]
培地支持体を湿潤させる液体培地として、MS培地をイオン交換水で5倍希釈したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、オウトウの挿し木苗の生産を試みた。
【0061】
発根床への挿し穂の挿し付けから8週間後、比較例1の試験区(発根床数:2個)18本の挿し穂について、発根の有無および発根数を調査した。その結果を(表1)に示す。
【0062】
【表1】

(表1)より明らかなように、超微細気泡水を含有する液体培地を用いた試験区(実施例1,2)においては、イオン交換水を用いた従来の挿し木法によるもの(比較例1)と比べ、いずれも高い平均発根数を示した。特に、気泡ガス種が酸素である超微細気泡水を含有する液体培地を用いた試験区(実施例1)においては、極めて高い平均発根数を示した。
【0063】
[実施例3]
挿し穂として、5年生のナシの当年枝より枝を採取し、この枝を一節一葉となるよう3cm長さにカッティングし、更に、そこについていた葉の2分の1を切除して得た組織片(挿し穂(A2))を用いた。培地支持体として、混合土(パーライト/バーミキュライト/ピートモス=2/1/1)を使用した。
上記培地支持体300cmを培養容器中に収納して実施例2で用いた液体培地と同じ組成の液体培地を40mL添加して湿潤させることにより、発根床(B2)を2個準備した。
【0064】
挿し木苗の生産は、上記挿し穂(A2)を、一つの発根床(B2)あたり9本となるように挿し付け、各培養容器内の二酸化炭素濃度が、明期のみ、1000ppmとなるように制御し、温度25℃ 、光強度50μmol/m2/sec 、明期16時間、暗期8時間で培養することにより行った。なお、培養容器内の二酸化炭素濃度の制御は、この培養容器が置かれた環境中の二酸化炭素濃度を制御することにより行った。
【0065】
上記発根床(B2)への挿し穂(A2)の挿し付けから8週間後、実施例3の試験区(発根床数:2個)あたり18本の挿し穂について、発根の有無および発根数を調査した。その結果を(表2)に示す。
【0066】
[比較例2]
液体培地として、イオン交換水で5倍希釈したMS培地を用いた以外は、実施例3と同様にして、ナシの挿し木苗の作出を試みた。
【0067】
発根床への挿し穂の挿し付けから8週間後、比較例2の試験区(発根床数:2個)あたり18本の挿し穂について、発根の有無および発根数を調査した。その結果を(表2)に示す。
【0068】
【表2】

(表2)より明らかなように、超微細気泡水を含有する液体培地を用いた試験区(実施例3)においては、イオン交換水を用いた従来の挿し木法による試験区(比較例2)と比べ、高い平均発根数を示した。
【0069】
[実施例4]
実施例1と同様にして超微細気泡水を製造した。
【0070】
E.グロブラス成木(6年生)の当年生の枝を採取して腋芽を含む組織を調製し、これを有効塩素濃度1%で20分間殺菌処理した後、BAP(Biologically-active phytosaccharides)0.1mg/Lを含むMS固体培地(寒天0.85重量%添加)に置床することにより、約1ヶ月で伸長した腋芽を得た。
【0071】
上記腋芽を、やはりBAP0.1mg/Lを含むMS固体培地(ゲランガム0.25重量%添加)に移植したところ、約1ヶ月経過した時点より、基部から新たな茎葉が発生し、多芽体を形成した。形成した多芽体を、BAP0.02mg/Lを含むMS固体培地(同上)に移植し、さらに1.5ヶ月ごとに植え継ぐことで増殖させつつ個々の茎葉を伸長させた。以上のようにして伸長させた茎葉を切り取り、クローン苗生産用の茎葉(A3)とした。
【0072】
一方、ガス種が酸素である超微細気泡水を用いて、蔗糖を含まないMS培地を1/4濃度に希釈した。このMS培地希釈液にさらにIBA2.0mg/Lを添加して液体培地を得た。この液体培地で培地支持体として用いる300cmのフェノール樹脂発泡成型品(商品名『オアシス』、日本曹達(株)製)を160mLにまで湿潤させることにより、発根順化床(B3)を2個準備した。
【0073】
クローン苗の生産は、上記茎葉(A3)を一つの発根順化床(B3)あたり25本となるように植え付け、茎葉の発根および茎葉の発根により得られた幼植物体の順化を行った。
【0074】
発根順化のための培養環境条件は、非無菌下、温度24℃±1℃、照明16時間日照で5000ルクス、湿度80%以上、二酸化炭素濃度1000±100ppmに制御して行った。
【0075】
発根順化床への茎葉の植え付けから3週間後、実施例4の試験区(発根順化床数:2個)50本の茎葉について、発根の有無および発根数を調査した。その結果を(表3)に示す。
【0076】
[実施例5]
MS培地を希釈する超微細気泡水として、ガス種が大気である超微細気泡水を用いた以外は、実施例4と同様の配合量、生産工程により茎葉の発根および茎葉の発根により得られた幼植物体の順化を行った。
【0077】
発根順化床への茎葉の植え付けから3週間後、実施例5の試験区(発根順化床数:2個)50本の茎葉について、発根の有無および発根数を調査した。その結果を(表3)に示す。
【0078】
[実施例6]
MS培地を希釈する超微細気泡水として、ガス種が二酸化炭素である超微細気泡水を用いた以外は、実施例4と同様の配合量、生産工程により茎葉の発根および茎葉の発根により得られた幼植物体の順化を行った。
【0079】
発根順化床への茎葉の植え付けから3週間後、実施例6の試験区(発根順化床数:2個)50本の茎葉について、発根の有無および発根数を調査した。その結果を(表3)に示す。
【0080】
[比較例3]
MS培地を水道水を用いて1/4濃度に希釈した以外は、実施例4と同様にして実施例4と同様の配合量、生産工程により茎葉の発根および茎葉の発根により得られた幼植物体の順化を行った。
【0081】
発根順化床への茎葉の植え付けから3週間後、比較例3の試験区(発根順化床数:2個)50本の茎葉について、発根の有無および発根数を調査した。その結果を(表3)に示す。
【0082】
【表3】

(表3)より明らかなように、超微細気泡水を用いた試験区(実施例4,5,6)の平均発根数は4.3〜4.9本であり、水道水を用いた試験区(比較例3)の平均発根数の3.4本と比較して、根の本数が多く高品質なクローン苗を得ることが出来た。特に、気泡中のガス種が二酸化炭素や酸素である超微細気泡水を用いた場合(実施例6,4)において、根の本数が多く極めて高品質な苗を得ることが出来ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のように、本発明にかかる植物苗の生産方法および植物苗生産用発根床は、植物苗の根数を増加させることができ、それにより高い栄養吸収能を有する高品質な植物苗を簡易かつ大量に提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物組織体を直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体の存在下で培養し、前記植物組織体から発根させる、植物苗の生産方法。
【請求項2】
前記植物組織体が、挿し穂であることを特徴とする、請求項1に記載の植物苗の生産方法。
【請求項3】
前記植物組織体が、母本植物から採取した器官を無菌的に培養することにより得た多芽体、または、前記器官を無菌的に育成して得た茎葉であることを特徴とする、請求項1に記載の植物苗の生産方法。
【請求項4】
直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体により培地支持体を湿潤させることにより発根床を調整すること、次いで、前記発根床に前記植物組織体を挿し付けて培養すること、を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の植物苗の生産方法。
【請求項5】
前記母本植物から多芽体または茎葉を調製すること、直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体により培地支持体を湿潤させることにより発根床を調整すること、前記発根床に前記多芽体または茎葉を移植して培養して幼植物体を得ること、次いで、前記幼植物体の順化を行うこと、を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の植物苗の生産方法。
【請求項6】
前記直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体が、直径1μm以下の気泡個数が全体の気泡個数に対して99%以上である気泡径分布を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の植物苗の生産方法。
【請求項7】
前記超微細な気泡中の気体が、酸素、二酸化炭素、窒素からなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の植物苗の生産方法。
【請求項8】
直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体が、液体培地用の培養成分を直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する水により溶解もしくは希釈されてなる液体培地であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の植物苗の生産方法。
【請求項9】
前記直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する水を、前記液体培地の水分の50〜100重量%用いることを特徴とする、請求項8に記載の植物苗の生産方法。
【請求項10】
前記液体培地が、無機塩類を含み、かつ炭素源を含まない液体培地であることを特徴とする、請求項8または9に記載の植物苗の生産方法。
【請求項11】
前記発根床を湿度80%以上、二酸化炭素濃度を200〜3500ppm に制御した雰囲気下におくことを特徴とする、請求項4〜10のいずれか1項に記載の植物苗の生産方法。
【請求項12】
前記植物組織体が、木本植物由来のものであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の植物苗の生産方法。
【請求項13】
培地支持体と、前記培地支持体を湿潤している液体とを有してなり、前記液体が直径10nm〜10μmの超微細気泡を含有することを特徴とする植物苗生産用発根床。
【請求項14】
前記培地支持体が、培養容器内に収納されていることを特徴とする、請求項13に記載の植物苗生産用発根床。
【請求項15】
前記直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する液体が、直径1μm以下の気泡個数が全体の気泡個数に対して99%以上である気泡径分布を有することを特徴とする、請求項13または14に記載の植物苗生産用発根床。
【請求項16】
前記超微細な気泡中の気体が、酸素、二酸化炭素、窒素からなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする、請求項13〜15のいずれか1項に記載の植物苗生産用発根床。
【請求項17】
前記液体が、直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する水により液体培地用の培養成分を溶解もしくは希釈してなる液体培地であることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか1項に記載の植物苗生産用発根床。
【請求項18】
前記直径10nm〜10μmの超微細な気泡を含有する水が、前記液体培地の水分の50〜100重量%含まれていることを特徴とする請求項17に記載の植物苗生産用発根床。
【請求項19】
前記液体培地が、無機塩類を含み、かつ炭素源を含まないことを特徴とする、請求項17または18に記載の植物苗生産用発根床。
【請求項20】
前記培養容器が、内部の湿度と二酸化炭素濃度を制御することが可能な密閉型の容器であることを特徴とする、請求項14〜19のいずれか1項に記載の植物苗生産用発根床。
【請求項21】
前記培地支持体が、砂、赤玉土等の自然土壌、バーミキュライト、パーライト、ピートモス、ガラスビーズ等の人工土壌、又は発泡フェノール樹脂、ロックウール等の多孔性成形品からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項13〜20のいずれか1項に記載の植物苗生産用発根床。

【公開番号】特開2012−55216(P2012−55216A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200555(P2010−200555)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】