説明

椎間インプラント

【課題】椎間に挿入されて柔軟性、弾力性、衝撃緩衝性を発揮し、故障、破損が生じ難く、長年の使用に適し、挿入が容易で、簡単に脱落しない椎間インプラントの提供を課題とする。
【解決手段】基体部10と上部プレート片20と下部プレート片30とを備えた断面略コ字状の一体物からなる椎間インプラント1であって、、上部プレート片20と下部プレート片30は、上部プレート片20の上面20aと下部プレート片30の下面30bとがそれぞれ基端から先端方向に向けて相互に傾斜拡開するように構成すると共に上部プレート片20の上面20a先端と下部プレート片30の下面30b先端との間隙寸法が椎間の間隙寸法よりも大きくなるように構成し、且つ上部プレート片20の上面20aと下部プレート片30の下面30bとの間隙が少なくとも平行になるまでは弾性変形がなされると共に弾性復帰力が働くように構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は頸椎や脊椎の椎間に埋め込まれる椎間インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
頸椎、腰椎を構成する脊椎においては、椎間板によって各椎に所定の間隔がもたらされている。
従って、例えば前記椎間板に何らかの問題が生じることで、各椎間の間隙が正常な状態を保てなくなる場合が生じる。
従来、狭くなった椎間を正常な状態に矯正するために、人工椎間板、椎間スペーサ等とも称される椎間インプラントを用いて、前記狭くなった椎間を矯正することが行われている。
特開平8−10275号公報(特許文献1)には、ネジ式の椎間スペーサーが開示されている。
特開平9−122160号公報(特許文献2)には、平面視がドーナツ形で上下の椎体に接する上下面間を連通する貫通孔(4)を設けたブロック状の人工椎間スペーサーが開示されている。
特開2002−95685号公報(特許文献3)には、立方体状〜直方体状のブロック状であって、平坦な上下面(11)、(12)に突起を設けた人工椎間スペーサーが開示されている。
特開2004−73547号公報(特許文献4)には、上下両面(5、7)をその前後方向の中間部分が頂部(13)をなす曲面とした椎間スペーサが開示されている。
特表2007−530182号公報(特許文献5)には、上部同格板(7)と下部同格板(8)とが、両者間の中心軸上に配置されるバネ(20)によって、弾性等を付与されてなる椎間インプラントが開示されている。
特表2008−509792号公報(特許文献6)には、1対の終板アセンブリ(22)、(24)が、上下の位置から中心体(26)に嵌合されることで、関節運動ができるようにされた脊椎インプラント(20)が開示されている。
特開平7−213533号公報(特許文献7)には、椎間インプラントとして断面が略コ字状の椎骨体腔壁間ケージが開示されている。この椎骨体腔壁間ケージでは、椎間のサイズに応じて調整するために、隔離用ころ(37)をV字形の溝穴(342)に圧入することで、上下の分岐(31)、(32)間を拡げる構成となされている。
特開2004−130077号公報(特許文献8)には、椎間インプラントとして上下のエンドプレート(11)、(31)の外面をドーム状とした人工椎間板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−10275号公報
【特許文献2】特開平9−122160号公報
【特許文献3】特開2002−95685号公報
【特許文献4】特開2004−73547号公報
【特許文献5】特表2007−530182号公報
【特許文献6】特表2008−509792号公報
【特許文献7】特開平7−213533号公報
【特許文献8】特開2004−130077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示するネジ式の椎間スペーサーの場合は、椎間に挿入しやすく、挿入後はズレが生じ難いという利点があるが、断面形状が必然的に円形となるので、椎間に挿入した際に、椎間の幅に対して挿入幅が不十分となる問題がある。
上記特許文献2、3、4に開示する椎間スペーサーの場合は、形状がブロック状であるので、椎間に挿入した際に、挿入面積が不足するといったことは回避できる。しかしながら、椎間スペーサーそのものが剛性のブロックであるので、椎間板の持つ役割としての、柔軟性、弾力性、衝撃緩衝性等を役代わりすることができないという問題がある。
上記特許文献5に開示する椎間インプラントは、椎間板のもつ柔軟性、弾力性、衝撃緩衝性を備えてはいるが、上下の同格板(7)、(8)と、その間を連結するバネ(20)等の複数の部材を必要とし、複雑な構造にて構成されているため、破損耐久性の問題や耐故障性の問題が大きい。
上記特許文献6に開示する脊椎インプラントは、関節機能を発揮することができるものではあるが、やはり複数の部材を用いて複雑に構成されているため、破損耐久性や故障が生じやすい問題がある。また柔軟性、衝撃緩衝性はあるが、弾力性(バネ性)が十分とは言えない。
上記特許文献7に開示の椎骨体腔壁間ケージは、隔離用ころ(37)を用いなければ上下の分岐(31)、(32)の間隙を拡げることができない問題がある。また上下の分岐(31)、(32)の間隙を拡げた状態では、その間隙を狭める方向に復帰力が加わり、隔離用ころ(37)を取り去ることができない問題がある。
上記特許文献8に開示の並進方式の人工椎間板は、関節連結面(17)を必要とするもので、上下のエンドプレート(11)、(31)の連結機構が複雑となると共に、故障や耐久性の面で不安がある。
【0005】
そこで本発明は上記従来技術の問題点、欠点を解消し、椎間に挿入されて柔軟性、弾力性、衝撃緩衝性を発揮すると共に、故障、破損が生じ難く、長年の使用に適し、また挿入が容易で、簡単に脱落することのない椎間インプラントの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の椎間インプラントは、椎間に装着されて上下の椎骨をその間で支える椎間インプラントであって、基体部と、該基体部の上部から突出して上の椎骨を支える上部プレート片と、前記基体部の下部から突出して下の椎骨を支える下部プレート片とを備えた断面略コ字状の一体物からなり、前記上部プレート片と下部プレート片は、該上部プレート片の上面と下部プレート片の下面とがそれぞれ基端から先端方向に向けて相互に傾斜拡開するように構成すると共に上部プレート片の上面先端と下部プレート片の下面先端との間隙寸法が椎間の間隙寸法よりも大きくなるように構成し、且つ上部プレート片と下部プレート片は、上部プレート片の上面と下部プレート片の下面との間隙が少なくとも平行になるまでは弾性変形がなされると共に弾性復帰力が働くように構成してあることを第1の特徴としている。
また本発明の椎間インプラントは、上記第1の特徴に加えて、上部プレート片と下部プレート片は、それぞれ基端から先端方向に向けてその肉厚が徐々に減じる傾斜肉厚に構成することで、椎骨からプレート片に加わる荷重をプレート片全体で分散して受けるようにしてあることを第2の特徴としている。
また本発明の椎間インプラントは、上記第1又は第2の特徴に加えて、基体部の上面と上部プレート片の上面とからなる椎間インプラントの上面、及び基体部の下面と下部プレート片の下面とからなる椎間インプラントの下面を、それぞれ幅方向の中央が膨出し且つ両側にいくにしたがって低くなる傾斜面に構成してあることを第3の特徴としている。
また本発明の椎間インプラントは、上記第1〜第3の何れかの特徴に加えて、上部プレート片の上面先端付近と基体部の上面基端付近、及び下部プレート片の下面先端付近と基体部の下面基端付近に、それぞれ椎骨に対する噛み込み用スパイクを構成してあることを第4の特徴としている。
また本発明の椎間インプラントは、上記第1〜第4の何れかの特徴に加えて、上部プレート片の先端付近と下部プレート片の先端付近に、上部プレート片の上面と下部プレート片の下面とによる傾斜拡開状態を少なくとも平行状態になるまで強制縮小して椎間への装着を行う冶具を受けるための冶具受け部を構成してあることを第5の特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の椎間インプラントによれば、基体部と、該基体部の上部から突出して上の椎骨を支える上部プレート片と、前記基体部の下部から突出して下の椎骨を支える下部プレート片とを備えた断面略コ字状の一体物からなるので、
椎間インプラントを基体部と上下部のプレート片からなる比較的簡素な構造からなる一体物として、扱いやすく、故障や破損が生じ難くて耐久性のある椎間インプラントを提供することができる。
また前記上部プレート片と下部プレート片は、該上部プレート片の上面と下部プレート片の下面とがそれぞれ基端から先端方向に向けて相互に傾斜拡開するように構成すると共に上部プレート片の上面先端と下部プレート片の下面先端との間隙寸法が椎間の間隙寸法よりも大きくなるように構成し、且つ上部プレート片と下部プレート片は、上部プレート片の上面と下部プレート片の下面との間隙が少なくとも平行になるまでは弾性変形がなされると共に弾性復帰力が働くように構成してあるので、
椎間インプラントを、その上下部のプレート片を弾性変形させることで椎間に装着することができると共に、上部プレート片と下部プレート片とによる弾性復帰力を上下の椎骨に及ぼすことができる。よって椎間インプラントを、椎間寸法の多少の変動にも十分対応して、且つ椎間に隙間が生じるようなことなく、きっちりと椎間に装着して維持することができる。加えて、後述する噛み込み用スパイクの椎骨への噛み込みを弾性復帰力によって助け、良好な噛み込みを達成、維持することができる。
加えて、上部プレート片と下部プレート片が有する弾性変形、弾性復帰力によって、身体の動作に伴う椎骨の動きに追従して椎間インプラントが柔軟に弾性変位することが可能となり、椎間板機能としての柔軟性及び衝撃緩衝性を大いに発揮することができる。よってまた、隣接する椎間板への動的負荷の集中も確実に軽減することができる。
【0008】
また請求項2に記載の椎間インプラントによれば、上記請求項1に記載の構成による作用効果に加えて、上部プレート片と下部プレート片は、それぞれ基端から先端方向に向けてその肉厚が徐々に減じる傾斜肉厚を構成することで、椎骨からプレート片に加わる荷重をプレート片全体で分散して受けるようにしてあるので、
椎骨から受ける荷重をプレート片の各部が少しずつ変形することで応力分散して受けることが可能となり、よって荷重が上部及び下部のプレート片の各基端(基体部への付け根)に応力集中するのを防止することができる。即ち、椎間インプラントの柔軟性を高め、且つ耐破損性の向上を図ることが可能となる。
【0009】
また請求項3に記載の椎間インプラントによれば、上記請求項1又は2に記載の構成による効果に加えて、基体部の上面と上部プレート片の上面とからなる椎間インプラントの上面、及び基体部の下面と下部プレート片の下面とからなる椎間インプラントの下面を、それぞれ幅方向の中央が膨出し且つ両側にいくにしたがって低くなる傾斜面に構成してあるので、
椎間の左右方向(椎の配列方向に直角な、人体の左右方向)の形状(中央部の上下間隙が広く、両側にいくにしたがって徐々に狭くなる形状)に合わせた挿入が可能となり、椎間インプラントが椎間からその左右方向(椎の配列方向に直角な、人体の左右方向)へ脱落するのをより確実に防止することができると共に、装着された椎間インプラントの椎間内での左右方向のズレを確実に防止して、安定した位置に保持することが可能となる。
また身体の動作に伴う、頸椎や脊椎の左右方向の動きに対する椎間インプラントによる抵抗を減じることができ、頸椎、脊椎の左右方向への滑らかな動きを保証することができる。
【0010】
また請求項4に記載の椎間インプラントによれば、上記請求項1〜3の何れかに記載の構成による作用効果に加えて、上部プレート片の上面先端付近と基体部の上面基端付近、及び下部プレート片の下面先端付近と基体部の下面基端付近に、それぞれ椎骨に対する噛み込み用スパイクを形成したので、
椎間インプラントを、椎間に装着した状態で、上部プレート片の上面先端付近と基体部の上面基端付近、及び下部プレート片の下面先端付近と基体部の下面基端付近の4箇所において集中して、噛み込み用スパイクを上下の椎骨に噛み込ませることができ、椎間インプラントの装着をより確実に且つ安定して行うことができる。
特に、上部プレート片の上面先端付近と下部プレート片の下面先端付近に形成された噛み込み用スパイクは、基体部から先端方向に向けて拡開する上下部のプレート片によるバネ付勢力によって、強力に椎骨に噛み込ませることが可能となり、椎間インプラントをより安定して且つ確実に椎間に装着、固定させることが可能となる。
【0011】
また請求項5に記載の椎間インプラントによれば、上記請求項1〜4の何れかに記載の構成による作用効果に加えて、上部プレート片の先端付近と下部プレート片の先端付近に、上部プレート片の上面と下部プレート片の下面とによる傾斜拡開状態を少なくとも平行状態になるまで強制縮小して椎間への装着を行う冶具を受けるための冶具受け部を構成してあるので、
椎間インプラントを椎間へ装着させる際、上下部のプレート片を掴んで、その拡開状態を縮小させる作業を容易、確実に行うことができ、椎間への椎間インプラント装着を容易、確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る椎間インプラントの全体を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る椎間インプラントの全体を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る椎間インプラントの正面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る椎間インプラントの左側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る椎間インプラントの平面図である。
【図6】図3のA−A断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る椎間インプラントの装着を説明する図で、(A)は椎間インプラントの上下部のプレート片を冶具によって強制的に狭めた状態を示し、(B)は上下部のプレート片を強制的に狭めた椎間インプラントを椎間に冶具によって挿入した時点の状態を示し、(C)は椎間に挿入された椎間インプラントから冶具が外されて装着が完了した状態を示す。
【図8】他の実施形態に係る椎間インプラントの全体を示す斜視図である。
【図9】他の実施形態に係る椎間インプラントの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態の椎間インプラントを以下に説明する。
先ず図1、図2を参照して、本発明の実施形態に係る椎間インプラント1は、基体部10と、上部プレート片20と下部プレート片30とを備えた断面略コ字状の一体物からなる。
この椎間インプラント1は、チタン、若しくはチタン合金を好ましく用いて作製することができる。この作製は一体物として作製することができる。
チタン、チタン合金が好ましいのは、骨等との生体親和性がよいことによるものである。
またチタン、チタン合金による場合は、金属としての弾性変位域をもっているため、金属が有する機械的強度の他に弾性を利用することができる。
勿論、椎間インプラント1は、必ずしもチタンやチタン合金である必要はない。ステンレス鋼、その他、生体内での耐腐食性が良好な金属、生体親和性がよい金属を用いることが可能である。更には、椎間を維持する強度を備え、且つ適当な弾性を有する材料であれば、金属以外の材料を用いることも可能である。
椎間インプラント1は、勿論であるが、椎間にその全体が装着されて、椎間内に収まり得る寸法とする。ただし、装着する対象が、頸椎の椎間か脊椎の椎間かによって、更には頸椎、脊椎における何番目の椎間であるかによっても、椎間インプラント1の全体としての寸法を変更、調整するものとすることができる。
【0014】
図3〜図6も参照して、前記基体部10は、その上部から上部プレート片20を突出させ、また下部から下部プレート片30を突出させており、それら上部プレート片20と下部プレート片30の基部としての役割を果たすものである。
基体部10の幅は椎の幅(椎の配列方向に直角な、人体の左右方向の幅)内に丁度収まるような幅とすることができる。また基体部10の高さは椎間(上の椎と下の椎との隙間寸法)内に丁度収まる高さとすることができる。勿論、前記丁度収まる幅や高さよりも多少小さい寸法とすることも可能である。
基体部10には、その上面10aの基端付近と下面10bの基端付近にスパイク11を一体に突出して構成している。
その他、基体部10には、冶具を取り付けるための冶具取付孔12を、必要に応じて、中央付近やその他の位置に設けることができる。
【0015】
前記上部プレート片20と下部プレート片30は、上下対称に構成している。上部プレート片20は基体部10と一体物として、基体部10の上部から突出させて構成している。同様に、下部プレート片30も基体部10と一体物として、基体部10の下部から突出して構成している。
上部プレート片20の上面20aの先端付近と下部プレート片30の下面30bの先端付近には、それぞれスパイク21、31を一体に突出して構成している。
【0016】
上部プレート片20と下部プレート片30は、基体部10から同方向に、同長で突出するように構成されており、これにより椎間インプラント1が断面略コ字状を呈した一体物として構成されている。
前記上部プレート片20と下部プレート片30とは、実際には基体部10から先端方向に向けて相互に平行状態よりも少し拡開するように構成している。より詳細に言えば、上部プレート片20の上面20aと下部プレート片30の下面30bとが、それぞれ基端から先端方向に向けて相互に平行状態よりも少し傾斜拡開するように構成されている。
平行状態よりも少し拡開させる理由の1つは、人間の椎間は前方が僅かに拡開しているので、その形に合わせるためであるが、本発明はそれだけではない。
特に本発明では、上部プレート片20の上面20aと下部プレート片30の下面30bとの拡開範囲Pを、前記椎間の間隙寸法よりも更に少し大きくなるように拡開させている。椎間の拡開範囲よりも上下部のプレート片20、30の拡開範囲Pを大きくすることにより、椎間寸法の多少の変動にも追従して、椎間インプラント1をきっちりと椎間に装着して維持することができる。また椎間インプラント1を椎間に強制的に装着させた際に、上下部のプレート片20、30による弾性復帰力を椎骨B(図7参照)に作用させることができ、これによって上下部のプレート片20、30のスパイク21、31をより確実に椎骨Bに食い込ませることができる。
前記上下部のプレート片20、30による拡開範囲Pは、前記スパイク21、31の食い込みを考慮して、椎間の間隙寸法よりも、前記スパイク21、31の各突出寸法分程度乃至もう少し大きくすることができる。
前記上下部のプレート片20、30による弾性復帰力を利用したスパイク21、31の椎骨Bへの食い込み力は、例えばプレート片20、30による椎骨押圧荷重が5〜35kgとなるように設定することができる。
【0017】
また上下部のプレート片20、30は、前記拡開範囲P内での屈曲(変位)が、少なくとも、上下部のプレート片20、30の弾性変位域内にあるように構成する。別の言い方をすれば、上下部のプレート片20、30は、その上部プレート片20の上面20aと下部プレート片30の下面30bとの間隙が少なくとも平行になるまでは弾性変形(弾性圧縮)がなされ且つ弾性復帰力が働くように材料構成する。前記弾性変位域とは、荷重を材料に加えて一旦変位させても、荷重を取り除くと材料の変位もなくなり、元の状態に復帰するような領域を言う。チタン及びチタン合金を含む金属材料には、一般に荷重に対する弾性変位域が存在し、且つその弾性変位域の大きさは材料の種類、熱処理、加工、寸法等により、ある程度調整することが可能である。
【0018】
前記上下部のプレート片20、30の屈曲が弾性変位域内で行われることで、上下の椎骨Bに大きな負荷が加わった際に、プレート片20、30が適当に弾性変位し、その負荷を緩和すると共に、椎骨Bの動きに追従した動きが可能となる。また負荷がなくなったときにはプレート片20、30の有する弾性復帰力により元の状態に復帰することができる。これにより、人体動作に伴う頸椎や脊椎の動きを柔軟でスムーズなものにすることができると共に、椎骨Bに加わる衝撃を緩和して、椎骨損傷等を防ぐことも可能となる。
【0019】
上下部のプレート片20、30は、それぞれ基体部10側の基端から先端方向に向けて、その厚みDが徐々に減じる傾斜肉厚を設けることで、椎骨Bからプレート片20、30に加わる荷重をプレート片20、30の全体で分散して受けるように構成している。即ち、例えばプレート片20、30の先端付近に椎骨Bからの押圧荷重が加わった場合に、その荷重に対する応力がプレート片20、30の基端(付け根)に集中するのではなく、プレート片20、30の全体に分散されるように、傾斜肉厚を設けている。このような傾斜肉厚を設けることによって、椎骨Bからの負荷に対してプレート片20、30全体がしなるように弾性変位するよう構成することで、特定箇所への応力集中を回避して、椎間インプラント1に良好な柔軟性と耐破損性を兼備させることが可能となる。
【0020】
前記上部プレート片20の上面20aは基体部10の上面10aと面一に連続して構成されている。また下部プレート片30の下面30bは基体部10の下面と面一に連続して構成されている。
基体部10の上面10aと上部プレート片20の上面20aとを含む椎間インプラント1の上面(10a、20a)は、その幅W方向の中央が膨出し、両側にいくにしたがって徐々に低くなる傾斜面、例えば弧状の傾斜面に構成している。基体部10の下面10bと下部プレート片30の下面30bとを含む椎間インプラント1の下面(10b、30b)についても、同様に幅方向Wの中央が膨出し、両側にいくにしたがって徐々に低くなる傾斜面に構成している。
前記椎間インプラント1の上下面を、幅W方向の中央が膨出し両側が低くなる傾斜面とした理由は、椎間の上面及び下面がやはり同様な傾斜面を持つことによる。
本発明の椎間インプラント1では、そのような傾斜面を上下面の幅W方向に持つことで、椎間の形状に沿わせた装着を可能としている。これによって椎間インプラント1が椎間から左右方向(椎の配列方向に直角な、人体の左右方向)へ脱落するのを予防すると共に、椎間内での左右方向(幅W方向)へのズレを防止して、安定な配置を確保している。
また椎間インプラント1の上下面を上記のような幅W方向の傾斜面とすることで、身体の動作に伴う頸椎や脊椎の左右方向の動きに対して、椎間インプラント1の存在による抵抗を十分に軽減することが可能となり、頸椎、脊椎の左右方向への滑らかな動きが良好に保証される。
【0021】
上部プレート片20と下部プレート片30との間は、深くなだらかに湾曲した間隙Vにしている。深くなだらかな間隙Vを構成することで、椎間インプラント1の重量を軽減することができる。また上下部のプレート片20、30の傾斜拡開状態を無理なく強制縮小することができる。椎間インプラント1を椎間に取り付けるための冶具等を用いる場合においては、間隙Vを利用することで冶具等の作業を容易にすることが可能になる。
上部プレート片20の下面20bは、その傾斜を前記上面20aの傾斜よりも大きくしている。これにより上部プレート片20の厚み(D)が基端から先端方向に向けて徐々に減じる傾斜肉厚を構成している。同様に、下部プレート片30の上面30aの傾斜を前記下面30bの傾斜よりも大きくしている。これにより傾斜肉厚を構成している。
上部プレート片20の下面20bの基部(基体部10への付け根)は弧状とすることで、上部プレート片20の基体部10への付け根が弧状に拡大して応力集中を防止すると共に、上部プレート片20の強度を向上させている。下部プレート片30の上面30aも上部プレート片20の下面20bと同様の形状にしている。
【0022】
なお椎間インプラント1の全長Lに対する前記基体部10の長さLは、L/L=10〜35%とするのが好ましい。基体部10は上下の椎骨B間にあって、その椎間が圧潰されるのを防止する基本的な支持体となるものである。また上部プレート片20と下部プレート片30とを連結させる役割を果たす。一方、上部プレート片20と下部プレート片30は、椎間インプラント1に弾力性、柔軟性をもたらすと共に、椎間インプラント1の重さを軽減する役割を果たす。
基体部10の長さLと椎間インプラントの長さLとの比をL/L=10〜35%とすることで、上記基体部10と上下部のプレート片20、30の各機能を良好に発揮させることができる。
本実施形態では、椎間インプラント1の長さLを10〜15mm、基端部10の長さLを3〜4mm、基体部10及び上下部のプレート片20、30の幅Wを10〜15mmとしている。
【0023】
前記スパイク11、21、31は、本実施形態では2列に設けられており、1列当たり6個設けられている。しかし、この数に限定されるものではない。ただし、上部プレート片20の上面20a先端付近と、基体部10の上面10a基端付近と、下部プレート片30の下面30bの先端付近と、基体部10の下面10bの基端付近との4箇所に集中してスパイク11、21、31を設けることで、全面に設ける場合に比べて、個々のスパイク11、21、31の食い込みをよくしている。
前記基体部10の上下面10a、10bの基端付近にあるスパイク11は、その突出形状を、基端側において垂直突出壁11a形状にすると共に、その反対側を傾斜突出壁11b形状にしている。また上下部のプレート片20、30の先端付近にあるスパイク21、31は、その突出形状を、先端側において垂直突出壁21a、31a形状にすると共に、その反対側を傾斜突出壁21b、31b形状にしている。
スパイク11、21、31の突出形状を上記のように構成することで、椎間に挿入、装着された椎間インプラント1は、スパイク11の垂直突出壁11aによりそれ以上後に動くのを阻止され、またスパイク21、31の垂直突出壁21a、31aにより、挿入、装着された椎間インプラント1が前方向に動くのを阻止される。これによって椎間に装着された椎間インプラント1の前後方向へのズレを良好に防止することができる。
【0024】
上部プレート片20の先端付近と、下部プレート片30の先端付近に、冶具受け部22、32を一対で構成している。この冶具受け部22、32は、椎間インプラント1を椎間に装着する際に使用する冶具G(図7参照)を受ける部分である。即ち、本発明の椎間インプラント1の場合、それを椎間に装着する際、上部プレート片20と下部プレート片30との間隙を狭めた状態にして、椎間に挿入する必要がある。しかし冶具受け部22、32を設けることにより、冶具Gを用いて上下部のプレート片20、30を挟み付けて、容易にその間隙Vを狭めることが可能となり、その後の挿入、装着が容易に行える。
【0025】
図7の(A)、(B)、(C)を参照して、椎間インプラント1を椎間に装着する手順を説明する。
先ず図7の(A)を参照して、冶具Gを用いて、椎間インプラント1の冶具受け部22、32を掴み、上部プレート片20と下部プレート片30との間隙Vを狭める。この際、上部プレート片20と下部プレート片30は弾性変形して、拡開状態が狭まる。これによって椎間への挿入が可能となる。
次に図7の(B)を参照して、プレート片20、30の間隙Vを狭めた状態の椎間インプラント1を、その基体部10を前にして、上下の椎骨B、Bの間(椎間)に前方(身体の前側)から挿入する。この際、基体部10のスパイク11が上下の椎骨B、Bに食い込む。
次に図7の(C)を参照して、冶具Gを椎間インプラント1から取り外す。これにより上部プレート片20及び下部プレート片30が元の状態に弾性復帰しようとして拡開し、プレート片20、30のスパイク21、31を上下の椎骨B、Bに食い込ませる。これにより椎間インプラント1の椎間への装着が完了する。装着が完了した状態では、椎間インプラント1の上部プレート片20と下部プレート片30は、上下の椎骨B、Bに対して押圧力を付勢した状態にあるか或いは押圧力を殆ど付勢していない状態にある。
【0026】
図8、図9を参照して、本発明の他の実施形態に係る椎間インプラントを説明する。同一の機能を奏する部材、要素については既述の実施形態と同じ符号を付している。
本実施形態では上部プレート片20と下部プレート片30とにそれぞれ開口40を設けている。開口40を設けることで、椎骨Bからの骨伝導能をよくして、開口40の裏側への骨の進出を促し、骨と椎間インプラントとの骨癒合をよくすることができる。また椎間インプランとの重量を軽減することができる。
開口40は、上部プレート片20と下部プレート片30とにおいて、同形、同寸法とする。また最適には楕円形状とし、次善的には長円形とする。楕円形状とすることで、開口40への応力集中を他の形状よりも小さくすることができる。
開口40の配置は、上部プレート片20、下部プレート片30の幅(W)方向の中心軸上に開口40の中心軸がくるようにし、また基体部10のスパイク11と上下部プレート片20、30のスパイク21、31の直ぐ後方までの間に設ける。このように配置することで、上部プレート片20及び下部プレート片30のバネ変形能を左右バランスよく且つ更に向上させることができる。
【0027】
椎間インプラントの全長Lを13.5mm、幅Wを12.0mm、高さ(スパイク11を除いた基体部10の高さ)Hを6.42mmとすると、楕円形状若しくは長円形状の開口40の長さLを8.5mm、幅Lを2mmとするのが最適である。
また椎間インプラントは、その全長Lを10〜15mm、幅Wを10〜15mm、高さHを5〜8mmの許容範囲とし、そのときの開口40の許容長さLを1〜9mm、許容幅Lを1〜8mmとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の椎間インプラントは、狭くなった椎間を正常な状態に矯正する人工椎間板として、産業上の利用可能性が大である。
【符号の説明】
【0029】
1 椎間インプラント
10 基体部
10a 上面
10b 下面
11 スパイク
11a 垂直突出壁
11b 傾斜突出壁
12 冶具取付孔
20 上部プレート片
20a 上面
20b 下面
21 スパイク
21a 垂直突出壁
21b 傾斜突出壁
22 冶具受け部
30 下部プレート片
30a 上面
30b 下面
31 スパイク
31a 垂直突出壁
31b 傾斜突出壁
32 冶具受け部
40 開口
B 椎骨
D 厚み
椎間インプラントの全長
基体部の長さ
開口の長さ
開口の幅
G 冶具
H スパイクを除いた基体部の高さ
P 拡開範囲
V 間隙
W 椎間インプラントの幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎間に装着されて上下の椎骨をその間で支える椎間インプラントであって、基体部と、該基体部の上部から突出して上の椎骨を支える上部プレート片と、前記基体部の下部から突出して下の椎骨を支える下部プレート片とを備えた断面略コ字状の一体物からなり、前記上部プレート片と下部プレート片は、該上部プレート片の上面と下部プレート片の下面とがそれぞれ基端から先端方向に向けて相互に傾斜拡開するように構成すると共に上部プレート片の上面先端と下部プレート片の下面先端との間隙寸法が椎間の間隙寸法よりも大きくなるように構成し、且つ上部プレート片と下部プレート片は、上部プレート片の上面と下部プレート片の下面との間隙が少なくとも平行になるまでは弾性変形がなされると共に弾性復帰力が働くように構成してあることを特徴とする椎間インプラント。
【請求項2】
上部プレート片と下部プレート片は、それぞれ基端から先端方向に向けてその肉厚が徐々に減じる傾斜肉厚に構成することで、椎骨からプレート片に加わる荷重をプレート片全体で分散して受けるようにしてあることを特徴とする請求項1に記載の椎間インプラント。
【請求項3】
基体部の上面と上部プレート片の上面とからなる椎間インプラントの上面、及び基体部の下面と下部プレート片の下面とからなる椎間インプラントの下面を、それぞれ幅方向の中央が膨出し且つ両側にいくにしたがって低くなる傾斜面に構成してあることを特徴とする請求項1又は2に記載の椎間インプラント。
【請求項4】
上部プレート片の上面先端付近と基体部の上面基端付近、及び下部プレート片の下面先端付近と基体部の下面基端付近に、それぞれ椎骨に対する噛み込み用スパイクを構成してあることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の椎間インプラント。
【請求項5】
上部プレート片の先端付近と下部プレート片の先端付近に、上部プレート片の上面と下部プレート片の下面とによる傾斜拡開状態を少なくとも平行状態になるまで強制縮小して椎間への装着を行う冶具を受けるための冶具受け部を構成してあることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の椎間インプラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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