説明

検体の検出方法及びバイオチップ

【課題】液滴を濃縮して液滴内の検体と検出用試薬との接触効率を高め、高精度かつ短時間で検出反応を行う。
【解決手段】検体を含むサンプル液の液滴Dと、検体と特異に反応し、該検体の情報を得るための検出用試薬とを反応させて検体を検出する方法において、メッシュ孔16Aが形成された板状部材において、該メッシュ孔16Aの開口部よりも大径な液滴Dを開口部に載置するステップと、液滴Dに含まれる溶媒を蒸発させて濃縮するステップと、濃縮した液滴Dを、検出用試薬12が固定された基板面14aと接触させるステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体の検出方法及びバイオチップに係り、特に、生体関連物質の反応により生体関連情報を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体から採取した生体関連物質を、生体外にて反応させることによって検出する研究が多くなされている。たとえば、特許文献1のように、人工的に作製したDNAを基板表面に固定化したDNAチップでは、生体から採取したDNAがチップ上のどの塩基配列のDNAに特異的に結合するかを検出することで、遺伝子情報を得ることができる。このように、検体と特異に反応する検出用試薬を基板表面に固定化した状態で、検体を含むサンプル液と接触させることによって、検出を行うことが一般的である。
【0003】
このとき、サンプル液中の検体と、基板上の検出用試薬との結合体を生成することによって検出を行う。このため、検出できる量の結合体を生成するまでの間、サンプル液を基板表面上に保持する必要がある。一方で、検出を行う目的や検出反応の種類によっては、短時間で上記のような反応を行わせたい場合もある。このように、サンプル液中の検体と基板上の検出用試薬との反応に要する時間が律速とならないようにし、反応時間をできるだけ短縮することが要望されている。
【0004】
これに対して、特許文献2には、液滴を細管端部に保持した状態で、その液滴の周りを吸引減圧することにより、液滴に含まれる溶媒を揮発させる方法が提案されている。これによれば、分析できる濃度まで濃縮できるとされている。また、表面化学処理を施したサンプルプレート上に液滴を滴下し、自然乾燥させることで濃縮させる方法も提案されている。これらは、いずれも比表面積、すなわち溶媒が蒸発する面積が広いという液滴の特徴を生かしたものである。
【特許文献1】特開2000−72822号公報
【特許文献2】特開平5−256749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2の方法では、液滴を濃縮することはできるものの濃縮量を正確に調節することは困難であった。具体的には、液滴の濃縮量は、液滴の周りを吸引する吸引量や吸引時間で調節することになるため、吸引量や吸引時間に対する濃縮量のデータを予め用意しておく必要があるだけでなく、濃縮量を微調整するのは困難であった。
【0006】
また、検出反応を行う際には、濃縮後の液滴に検出用試薬を添加しなければならず、手間がかかるという問題があった。さらに、濃縮後の液滴が検出用試薬以外の固体表面と接触することとなり、液滴内の検体が固体表面上に非特異吸着される虞があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、液滴を濃縮して液滴内の検体と検出用試薬との接触効率を高めることができ、高精度かつ短時間で検出反応を行うことができる検体の検出方法及びバイオチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、検体を含むサンプル液の液滴と、前記検体と特異に反応し、該検体の情報を得るための検出用試薬とを反応させて前記検体を検出する方法において、貫通孔が形成された板状部材において、該貫通孔の開口部よりも大径な液滴を前記開口部に載置するステップと、前記液滴に含まれる溶媒を蒸発させて濃縮するステップと、前記濃縮した液滴を、前記検出用試薬が固定された前記基板面と接触させるステップと、を備えたことを特徴とする検体の検出方法を提供する。
【0009】
サンプル液は、検出用試薬と接触させる前に固相表面と多く接触すると、サンプル液のロスとなるだけでなく、サンプル液中の検体が検出用試薬以外の固相表面に非特異吸着が生じ易くなる。
【0010】
請求項1では、貫通孔が形成された板状部材において、該貫通孔の開口部上にサンプル液の液滴を載置するので、固相表面との接触面積を顕著に小さくした状態でサンプル液を濃縮することができる。また、濃縮した液滴を、検出用試薬が固定された基板面と接触させるので、液滴が検出用試薬以外の固体表面に非特異吸着されるのを抑制し、検体と確実に反応させることができる。
【0011】
したがって、液滴を効率的に濃縮して液滴内の検体と検出用試薬との接触効率を高めることができ、高精度かつ短時間で検出反応を行うことができる。なお、本発明において、液滴とは、曲率を有する界面を持ったサンプル液をいう。また、液滴の径とは液滴の直径をいい、開口部の径とは内接円の直径をいう。
【0012】
請求項2は請求項1において、前記載置した液滴を前記開口部よりも小径になるまで濃縮するとともに、前記小径な液滴を前記開口部を通過させて、前記基板上に形成された前記検出用試薬と接触させることを特徴とする。
【0013】
請求項2によれば、板状部材に載置した液滴を、開口部よりも小径な液滴になるまで濃縮して開口部を通過させる。これにより、液滴は、開口部を通過する大きさになるまで定量的に濃縮されることになる。さらに、開口部を通過した液滴は検出用試薬が形成された基板上に落下するので、濃縮した液滴をすぐに検出用試薬と接触させることができる。
【0014】
請求項3は請求項1において、前記濃縮した液滴に対して、前記検出用試薬が固定された基板を近づけることにより前記液滴と前記検出用試薬とを接触させることを特徴とする。
【0015】
請求項3によれば、液滴が開口部よりも小径になるまで濃縮しても、表面張力等により開口部を通過しない場合でも、液滴の上側から検出用試薬が固定された基板面を近づけて接触させることにより、検出用試薬と反応させることができる。
【0016】
請求項4は請求項1〜3の何れか1項において、前記板状部材には、径が異なる複数の開口部が形成されたことを特徴とする。
【0017】
請求項4によれば、開口部の径が異なると、この開口部を通過する液滴量も異なることとなる。このため、同じ量の液滴を載置した際、濃縮量を変えることができ、検出精度を向上させることができる。
【0018】
請求項5は請求項1〜4の何れか1項において、前記液滴に気体を流すことにより、前記液滴に含まれる溶媒を蒸発させることを特徴とする。
【0019】
請求項5によれば、自然乾燥の場合と比較して、液滴に含まれる溶媒の蒸発を促進することができる。また、液滴界面に流れによるせん断力を付与できるので、液滴内部を流動させることができ、検体の拡散速度を大きくすることができ、攪拌効果も得られる。
【0020】
請求項6は請求項1〜2、4〜5の何れか1項において、前記小径な液滴に振動を付与することにより、前記小径な液滴を前記開口部を通過させることを特徴とする。
【0021】
請求項7は請求項1〜2、4〜6の何れか1項において、前記小径な液滴が載置される開口部の上側の圧力を前記開口部の下側の圧力よりも高くすることにより、前記小径な液滴を前記開口部を通過させることを特徴とする。
【0022】
請求項6又は7によれば、溶媒を蒸発させて小径にした液滴でも、表面張力により開口部を通過しないことがある場合でも、開口部を通過させ易くすることができる。
【0023】
請求項8は請求項1〜7の何れか1項において、前記検出用試薬は、生体関連物質であることを特徴とする。
【0024】
請求項9は請求項8において、前記生体関連物質は、アミノ酸、ペプチド、たんぱく質、核酸のうちいずれか1以上を含むことを特徴とする。
【0025】
本発明の請求項10は前記目的を達成するために、サンプル液に含まれる検体を検出するためのバイオチップであって、前記検体と特異に反応し、前記検体の情報を得るための検出用試薬が固定された基板と、前記基板面の上方に離間して配置され、前記基板に向けて貫通する開口部を有する板状部材と、を備えたことを特徴とするバイオチップを提供する。
【0026】
請求項11は請求項10において、前記板状部材には、径が異なる複数の開口部が形成されたことを特徴とする。
【0027】
請求項11によれば、同じ量の液滴を、径が異なる複数の開口部に載せた際、開口部を通過する液滴量がそれぞれ異なるので、濃縮量を調節することができる。
【0028】
請求項12は請求項10又は11において、前記板状部材の表面には、前記液滴の接触角が90度以上となる処理が施されたことを特徴とする。
【0029】
請求項12によれば、液滴の載置する板状部材(の開口部)との接触面積を小さくすることができるので、液滴が検出用試薬以外の固相表面に付着するのを抑制できる。したがって、液滴に含まれる検体の非特異吸着を抑制できる。なお、液滴が親水性である場合、接触角が90度以上となる処理としては、例えば、撥水処理、粗面化処理などが挙げられる。
【0030】
請求項13は請求項10〜12の何れか1項において、前記開口部の形状は、多角形であることを特徴とする。
【0031】
請求項13によれば、液滴を点又は線で支持するので、液滴と固相表面との接触面積を小さくできる。したがって、液滴に含まれる検体が検出用試薬以外の固相表面に非特異吸着されるのを抑制できる。多角形としては、例えば、三角形、正方形や星型等が含まれる。
【0032】
請求項14は請求項10〜13の何れか1項において、前記検出用試薬は、生体関連物質であることを特徴とする。
【0033】
請求項15は請求項14において、前記生体関連物質は、アミノ酸、ペプチド、たんぱく質、核酸のうちいずれか1以上を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、液滴を濃縮して液滴内の検体と検出用試薬との接触効率を高めることができ、高精度かつ短時間で検出反応を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、添付図面に従って、本発明に係る検体の検出方法及びバイオチップの好ましい実施の形態について詳説する。
【0036】
図1は、本発明に係る検体の検出方法が適用されるバイオチップ10の構成の一例について説明する概念図である。図2は、図1のA−A線拡大断面図である。
【0037】
本実施形態は、検体を含む液滴を、基板上に離間して設けられたメッシュの上に静置して濃縮した後、メッシュを通過させて、基板上に予め固定した検出用試薬と反応させる方法である。
【0038】
図1、2に示すように、バイオチップ10は、主に、板状体の表面に、検体と特異に反応する検出用試薬12が固定された基板14と、この基板14上に離間して設けられ、液滴を載置するためのメッシュ16(板状部材)と、を備えている。
【0039】
メッシュ16は、基板14面と離間させるスペーサとしても機能する枠体18によって支持されている。枠体18の厚さは、特に限定されないが、例えば、2mm〜5mm程度とすることができる。
【0040】
図2に示すように、メッシュ孔16A(開口部)の径Rは、液滴Dの濃縮量に応じて設定される。たとえば、液滴量が8μLであり、液滴Dの径rが2.5mmである場合、メッシュ孔16Aの径Rは、例えば、1〜2mm程度とすることができ、メッシュの太さtは、例えば、0.5mm程度とすることができる。
【0041】
メッシュ16の表面には、液滴の接触角が90度以上となるような処理が施されていることが好ましい。このような処理としては、例えば、液滴が親水性である場合の撥水処理や粗面化処理が挙げられる。なお、メッシュ16として、撥水性を有する材質のものを使用してもよい。
【0042】
基板14面とメッシュ16との間には、スペーサ20が介在されている。スペーサ20の高さは、例えば、枠体18の厚さと同等以下に形成される。なお、枠体18によって、メッシュ16を基板14から均一に離間させることができる場合は、特にスペーサ20を設けなくてもよい。
【0043】
メッシュ孔16Aに対向する基板14面には、検出用試薬12が固定されている。検出用試薬12としては、検体と特異的に反応し、検体の情報を得ることができるものであれば限定されず、例えば、各種抗体が使用できる。
【0044】
検出用試薬12の固定方法としては、例えば、インクジェット装置のノズルから検出用試薬12を噴出させて基板14上に吹き付けることで固定する方法を好適に採用できる。ただし、この固定方法に限定されるものではない。
【0045】
基板14及びメッシュ16の平面サイズ(全体)は、特に制限はないが、携帯できるサイズ、たとえば、40×40mmとすることができる。基板14及びメッシュ16の厚さも、特に制限はないが、強度、経済性等より、たとえば、基板14、メッシュ16ともに1mm程度とすることができる。
【0046】
基板14の材質としては、特に制限はないが、液滴の状態を視覚により認識可能とすることより、透明であることが好ましい。このような材料として、各種樹脂板、より具体的には、ポリジメチルスルホキシド(PDMS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、紫外線硬化樹脂、ポリカーボネート(PC)等、各種樹脂膜、より具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、トリアセチルセルロース(TAC)等が採用できる。
【0047】
また、上記のほかにも、耐熱、耐圧及び耐溶剤性、加工容易性等の要求に応じて、金属、ガラス、セラミックス、プラスチック、シリコン、及びテフロン(登録商標)等の樹脂を好適に使用でき、特に、ポリスチレン樹脂、PMMA樹脂、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラスが好ましい。
【0048】
本発明に使用される検体としては、特に限定されないが、生体関連物質、例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、核酸等が含まれる。
【0049】
次に、上記のように構成されたバイオチップ10を用いて、本発明に係る検体の検出手順について、図3を参照して説明する。図3は、本発明の作用を説明する図である。
【0050】
まず、図3(A)に示すように、液滴Dをメッシュ16上に載置する。このとき、液滴Dの径がメッシュ孔16Aよりも大きくなるように載置する。液滴量としては、50μL以下であることが好ましく、10μL以下であることがより好ましい。
【0051】
次いで、液滴Dをメッシュ16上に静置した状態で自然乾燥させることにより、液滴Dを濃縮する。液滴Dの径は、濃縮が進むに伴い次第に小さくなる。なお、メッシュ16の表面は撥水性コーティングが施されているので、液滴は、メッシュ16との接触面積を小さくした状態を維持できる。
【0052】
そして、液滴Dの径がメッシュ孔16Aの径よりも小さくなると、メッシュ孔16Aを通過し、基板14上に落下する。基板14上には、予め検出用試薬12が固定されているので、液滴Dに含まれる高濃度の検体と検出用試薬12とが接触し、反応するようになる。そして、メッシュ16を取り外した基板14を光学的に分析したり目視観察したりすることによって反応生成物(結合体)を検出する。
【0053】
このように、液滴は、メッシュ孔16Aの径よりも小さくなったときにはじめてメッシュ孔16Aを通過するので、液滴の濃縮量を正確に調節することができる。また、液滴を定量的に濃縮させた後、すぐに基板14上の検出用試薬12と接触させるので、液滴に含まれる検体と検出用試薬との反応を高精度かつ短時間で行うことができる。
【0054】
また、検出用試薬12を多数配列したバイオチップを用いるので、再現性を調べたり、異なる種類の分析を一度で実施したりすることができる。
【0055】
なお、液滴の径がメッシュ孔16Aの径よりも小さくなっても、メッシュ16から離れにくいことがある。この場合は、バイオチップ10を振動台にのせる等により液滴に振動を与えたり、メッシュ16の上側を送風して加圧したり(又はメッシュ16の下側を吸引して負圧にしたり)することで、液滴をメッシュ16から離れ易くすることができる。
【0056】
図4は、本発明に係るバイオチップの別の態様を説明する斜視図である。このうち、図4(A)は、バイオチップの全体図であり、図4(B)は、図4(A)の多孔板の拡大斜視図である。図5は、図4の多孔板における開口部の形状のパターンを説明する説明図である。
【0057】
図4に示すように、本実施の形態におけるバイオチップ10’は、メッシュ16の代わりに、複数の貫通孔24A・・・を備えた多孔板24を使用した以外は、図1のバイオチップ10と同様に構成されている。なお、図1と同一の機能を有する部材には、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0058】
多孔板24の表面(各貫通孔24Aの上面、下面、及び内壁面)には、前述したのと同様に、液滴の接触角が90度以上となるような処理が施されていることが好ましい。これにより、液滴が貫通孔24Aを通過するときに、貫通孔24Aの内壁面に液滴が付着するのを抑制できる。
【0059】
また、貫通孔24Aの開口部(基板14とは反対側の面における開口部)の形状は、特に限定されないが、例えば、図5(C)に示すような円形や、図5(A)、(B)に示すような多角形を採ることができる。中でも、液滴が固相表面に付着するのを抑制する上で、液滴界面と開口部との接触面積を小さくする形状であることが好ましく、三角形や矩形等の多角形であることがより好ましい。なお、同図では、液滴Dの界面を二点鎖線で示している。
【0060】
多孔板24の厚さは、基板14上に直接多孔板24を配置する場合は、例えば、1.5mm〜5mm程度とすることができる。
【0061】
このように構成することにより、各貫通孔24Aが独立して形成されるので、基板14上に濃縮した液滴が落下したときに、液滴が基板14上を移動して他の位置(例えば、隣の貫通孔24Aに対応する基板14面)に形成された検出用試薬と接触するおそれがない。このため、液滴に含まれる検体と基板14上の検出用試薬12とを確実に反応させることができる。
【0062】
なお、図4では、貫通孔24Aの径が厚さ方向に同じである例を示したが、これに限定されず、基板14側に向かうにつれ径が大きくなるように形成してもよい。このようにすることで、濃縮されて小径となった液滴が、貫通孔24Aを通過して基板14上に落下する際に、液滴が貫通孔24Aの内壁面に付着し、液滴に含まれる検体が非特異吸着されるのを抑制できる。
【0063】
図6は、多孔板の変形例を示す上面図である。
【0064】
図6に示すように、孔径が異なる複数の貫通孔24A’を備えた多孔板24’を使用することができる。同図では、左端列の孔径は大きく形成し、中央列の孔径は中間に形成し、右端列の孔径は小さく形成している。
【0065】
このようにすることで、それぞれの貫通孔24A’に同じ量の液滴を載置しても、左端列の液滴の濃縮量を小さくし、右端列に向かうにつれ濃縮量を大きくできる。したがって、濃縮量を可変にして、検出感度を高めることができる。
【0066】
図7は、本発明に係るバイオチップの変形例を説明する説明図である。
【0067】
図7に示すように、バイオチップ10’は、多孔板24上に乾燥エアが流れる空間を形成する蓋部材26と、該蓋部材26に乾燥エアを供給する供給口28と、蓋部材26内から乾燥エアを排出する排出口30と、を備えた以外は図4と同様に形成されている。
【0068】
このように構成することで、図示しないエアポンプを供給口28に接続することで、多孔板24上に配置した液滴に乾燥エアを流すことができる。これにより、液滴に含まれる溶媒の揮発を促進し、自然乾燥よりも短時間で液滴を濃縮することができる。なお、図7において、排出口30を塞ぎ、蓋部材26と多孔板24との間の空間を加圧状態にしてもよい。これにより、貫通孔24Aよりも小径となった液滴を、貫通孔24Aを通過させやすくすることができる。
【0069】
また、必ずしも定量的に濃縮する必要がない場合、図8のような構成を採ることができる。図8は、本発明に係るバイオチップのさらに別の態様を説明する斜視図である。このうち、図8(A)は、バイオチップの全体斜視図であり、図8(B)は、図8(A)のA−A線部分断面図である。図9は、図8の作用を説明する断面模式図である。
【0070】
図8に示すように、バイオチップ10’’は、検出用試薬12が固定された基板面14aを多孔板24の上面(液滴が載置された面)と対向するように配置し、更に多孔板24に、該多孔板24の上面から一定の間隔を保って基板14を支持するためのスペーサ34が形成された以外は図4と同様に構成されている。なお、符号36は、バイオチップ10’’を設置する試料台を示している。
【0071】
スペーサ34の高さは、多孔板24の上面と基板面14a(検出用試薬が固定された面)の間において、濃縮後の液滴界面を捕捉できる範囲に設定される。
【0072】
このように構成することで、図9(A)に示すように、多孔板24上に載置された液滴Dは、貫通孔24Aの開口部で保持された状態で濃縮される。
【0073】
次いで、図9(B)に示すように、液滴Dを濃縮させて小径にした後、多孔板24に設けられたスペーサ34(図1参照)上に基板14を、検出用試薬12が固定された基板面14aが液滴Dと対向するように配置する。これにより、濃縮された液滴Dは、検出用試薬12が固定された基板面14aと多孔板24の上面(貫通孔24Aの開口部)との間で保持される。そして、図9(C)に示すように、濃縮された液滴は基板14側に完全に捕捉され、検出用試薬12と反応することとなる。
【0074】
このとき、液滴Dと接触する基板面14aを、液滴の接触角が90度よりも小さくなるようにすると(例えば、親水性の液滴であれば、基板面14aの親水性を高くすることをいう)、液滴を確実に基板面14a側に移動させることができる。したがって、多孔板24への液残りを少なくすることができ、液滴中の検体が検出用試薬12以外の固体表面に非特異吸着されるのを抑制できる。また、濃縮した液滴を貫通孔24Aを通過させなくても基板14を多孔板24上に一定の間隔をあけて載置するだけでよいので、手間を省くことができ、操作をシンプルにすることができる。なお、この方法は、定量的に濃縮する必要がない場合に好適である。
【0075】
以上、本発明に係る検体の検出方法及びバイオチップの好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0076】
たとえば、上記各実施形態では、サンプル液として、抗原又は抗体等の生体関連物質を含むサンプル液を用いたが、これに限らず、その他のサンプル液の分析に適用できる。
【0077】
上記各実施形態では、基板上に予め検出用試薬12を固定させておき、その上から検体を含むサンプル液を滴下することにより検出反応を行う場合について説明したが、これに限定されず、濃縮されて基板上に落下した液滴に、検出用試薬を添加してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る検体の検出方法が適用されるバイオチップの構成の一例について説明する概念図である。
【図2】図1の拡大断面図である。
【図3】本発明の作用を説明する説明図である。
【図4】本発明に係るバイオチップの別の態様を説明する斜視図である。
【図5】図4における貫通孔の開口形状を説明する説明図である。
【図6】図4における多孔板の変形例を示す上面図である。
【図7】本発明に係るバイオチップの変形例を説明する説明図である。
【図8】本発明に係るバイオチップの別の態様を説明する斜視図である。
【図9】図8における本発明の作用を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0079】
10、10’、10’’…バイオチップ、12…検出用試薬、14…基板、14a…基板面、16…メッシュ、16A…メッシュ孔、20、34…スペーサ、24、24’…多孔板、24A、24A’…貫通孔、26…蓋部材、28…供給口、D…液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を含むサンプル液の液滴と、前記検体と特異に反応し、該検体の情報を得るための検出用試薬とを反応させて前記検体を検出する方法において、
貫通孔が形成された板状部材において、該貫通孔の開口部よりも大径な液滴を前記開口部に載置するステップと、
前記液滴に含まれる溶媒を蒸発させて濃縮するステップと、
前記濃縮した液滴を、前記検出用試薬が固定された前記基板面と接触させるステップと、
を備えたことを特徴とする検体の検出方法。
【請求項2】
前記載置した液滴を前記開口部よりも小径になるまで濃縮するとともに、前記小径な液滴を前記開口部を通過させて、前記基板上に形成された前記検出用試薬と接触させることを特徴とする請求項1に記載の検体の検出方法。
【請求項3】
前記濃縮した液滴に対して、前記検出用試薬が固定された基板面を近づけて接触させることを特徴とする請求項1に記載の検体の検出方法。
【請求項4】
前記板状部材には、径が異なる複数の開口部が形成されたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の検体の検出方法。
【請求項5】
前記液滴に気体を流すことにより、前記液滴に含まれる溶媒を蒸発させることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の検体の検出方法。
【請求項6】
前記小径な液滴に振動を付与することにより、前記小径な液滴を前記開口部を通過させることを特徴とする請求項1〜2、4〜5の何れか1項に記載の検体の検出方法。
【請求項7】
前記小径な液滴が載置される開口部の上側の圧力を前記開口部の下側の圧力よりも高くすることにより、前記小径な液滴を前記開口部を通過させることを特徴とする請求項1〜2、4〜6の何れか1項に記載の検体の検出方法。
【請求項8】
前記検出用試薬は、生体関連物質であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の検体の検出方法。
【請求項9】
前記生体関連物質は、アミノ酸、ペプチド、たんぱく質、核酸のうちいずれか1以上を含むことを特徴とする請求項8に記載の検体の検出方法。
【請求項10】
サンプル液に含まれる検体を検出するためのバイオチップであって、
前記検体と特異に反応し、前記検体の情報を得るための検出用試薬が固定された基板と、
前記基板面の上方に離間して配置され、前記基板に向けて貫通する開口部を有する板状部材と、
を備えたことを特徴とするバイオチップ。
【請求項11】
前記板状部材には、径が異なる複数の開口部が形成されたことを特徴とする請求項9に記載のバイオチップ。
【請求項12】
前記板状部材の表面には、前記液滴の接触角が90度以上となる処理が施されたことを特徴とする請求項10又は11に記載のバイオチップ。
【請求項13】
前記開口部の形状は、多角形であることを特徴とする請求項10〜12の何れか1項に記載のバイオチップ。
【請求項14】
前記検出用試薬は、生体関連物質であることを特徴とする請求項10〜13の何れか1項に記載のバイオチップ。
【請求項15】
前記生体関連物質は、アミノ酸、ペプチド、たんぱく質、核酸のうちいずれか1以上を含むことを特徴とする請求項14に記載のバイオチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−256379(P2008−256379A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95564(P2007−95564)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】