説明

検体の調製方法

【課題】既存の装置や系を大幅に変更することなく、高度に精製された大量の原液について微生物およびエンドトキシンの検査に用いる検体を容易かつ適切に調製する。
【解決手段】高度に精製された大量の原液について微生物およびエンドトキシンの検査に用いる検体を調製するに際し、原液を、微生物およびエンドトキシンの大きさよりも小さい孔径のフィルタにより濾過し、該フィルタの一次側で、微生物およびエンドトキシンの濃度が高められた少量の濃縮液を調製することを特徴とする検体の調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度に精製された大量の精製液(超純水、純水など)を用いて必要な調製を施し、最終的に人体にその液体を注入することを目的とする高度精製液の、微生物およびエンドトキシン検査に使用する検体の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度に精製された液の微生物およびエンドトキシン検査には、現在は、例えば検体1mLないし2mLを各種培地にて培養する方法が採られている。その他、いわゆるメンブレンフィルタ法や遠心法、直接採取法、さらには、特許文献1に記載されているような、フィルタにより微生物培養液を濾過し、濾過された液体と、微生物を含む残液とに分離し、この残液を検体として回収する方法などが知られている。
【0003】
上記の方法のうち、最も多くの検体量(例えば、100mL)を処理可能であるのは、メンブレンフィルタ法や特許文献1に記載の方法である。ここで例えば、微生物培養の結果、1コロニーが検出された場合、1CFU/100mLとなる(CFU:colony forming unit :微生物のコロニー形成係数)。つまり10-2 CFU/mLが実証可能である。しかし、さらに大量(例えば、1000L)の高度に精製された液の検体について微生物培養を行う場合、メンブレンフィルタ法や特許文献1に記載の方法では実行困難である。
【特許文献1】特開2002−45170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の課題は、既存の装置や系を大幅に変更することなく、高度に精製された大量の原液について微生物およびエンドトキシンの検査に用いる検体を容易かつ適切に調製し、得られた検体を用いて、容易に微生物およびエンドトキシン検査を行えるようにした、微生物およびエンドトキシン検査のための検体の調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る検体の調製方法は、高度に精製された大量の原液について微生物およびエンドトキシンの検査に用いる検体を調製するに際し、前記原液を、微生物およびエンドトキシンの大きさよりも小さい孔径のフィルタにより濾過し、該フィルタの一次側で、微生物およびエンドトキシンの濃度が高められた少量の濃縮液を調製することを特徴とする方法からなる。つまり、この少量の濃縮液を、微生物およびエンドトキシン検査のための検体として利用できるようにする。
【0006】
この本発明に係る検体の調製方法においては、上記フィルタは、例えば中空糸精密濾過膜からなる。また、上記原液としては特に限定されず、例えば、純水、超純水、逆浸透膜精製水および透析液のいずれかからなる。
【0007】
また、上記原液が配管を用いて送液されている場合には、上記フィルタは、原液の送液管に対して任意の位置に設けることが可能である。
【0008】
また、検体の調製中は、上記フィルタの一次側における濃縮液流出口を閉塞し、該フィルタの二次側に透過した濾過液を排泄する、あるいは精密濾過液として使用するようにすることができる。この場合、フィルタの一次側から取り出した濃縮液の一部または全量を微生物培養検査およびエンドトキシン検査に使用するようにすることができる。
【0009】
また、上記原液は、上記フィルタに連続的に流入させることもできるし、間欠的に流入させることもできる。
【0010】
また、本発明においては、フィルタを2段に設けることも可能である。例えば、フィルタを直列2段に設け、1段目のフィルタを精密濾過液を得るために使用し、2段目のフィルタを、1段目のフィルタからの精密濾過液から前記少量の濃縮液を検体として調製するために使用することができる。
【0011】
この場合、検体の調製中は、1段目、2段目のフィルタの一次側における濃縮液流出口を閉塞し、2段目のフィルタの二次側に透過した濾過液を排泄する、あるいは精密濾過液として使用するようにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高度に精製された大量の(例えば、1000mLあるいはそれ以上の)原液について、微生物およびエンドトキシンの検査に効率よく用いることができる少量の検体を容易に調製することができるようになる。したがって、その後の培養も濃縮液をメンブレンフィルタ法などを用いて簡便に行うことが可能となり、目標とする検査をより確実にかつ容易に実施することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施態様に係る検体の調製方法を示している。図1において、1は、本方法の実施に用いる検体の調製装置を示しており、2は、本発明におけるフィルタとしての中空糸精密濾過膜を示している。大量の原液は、例えば、純水や超純水、逆浸透膜精製水、透析液などとして生成され、検体を調製するための高度に精製された大量の原液3が、中空糸精密濾過膜2の原液流入口4から中空糸精密濾過膜2の一次側5へと流入される。中空糸精密濾過膜2は供給されてきた原液3を濾過し、中空糸精密濾過膜2の二次側6に透過された精密濾過液7は濾過液流出口8から流出され、排泄、あるいは精密濾過液7として使用される。検体の調製中には、中空糸精密濾過膜2の一次側5に、微生物およびエンドトキシンの濃度が高められた少量の濃縮液9が濃縮される。例えば、検体の調製中には濃縮液流出口10が閉塞され、濃縮処理後に、濃縮液流出口10が開かれて濃縮液9が取り出される。
【0014】
上記のような検体の調製装置1を用いて、本発明に係る検体の調製方法は、例えば、次のように実施される。例えば、10-6 CFU/mLの検体液1000L を原液流入口4から中空糸精密濾過膜2の一次側5に流入させる。このとき、濃縮液流出口10は閉塞されており、原液流入口4から流入した原液は、精密濾過液流出口8から流出する。中空糸精密濾過膜2は微生物、エンドトキシンの大きさよりも小さい孔径のフィルタとして設定されているので、微生物やエンドトキシンを通過させないため、中空糸精密濾過膜2の一次側5には微生物やエンドトキシンの濃度が高められた濃縮液が残ることになる。
【0015】
原液1000L からの濃縮液9を濃縮液流出口10から、例えば、滅菌された容器に回収する。回収した濃縮液が例えば100mL であったとすると、その濃縮液(100mL )は原液1000L に相当する微生物やエンドトキシンを有することになり、効率のよい検査を行うために好適な検体として採取できるようになる。つまり、10-6 CFU/mLの原液相当の検体液として扱うことができ、平板培地(例えばR2A培地等)などで培養すると、1colonyを形成することとなる。
【0016】
このような本方法を用いることで、高度に精製された液の大量の検体を容易に調製することが可能である。また、その後の培養も濃縮液をメンブレンフィルタ法などを用いて簡便に検査することが可能である。
【0017】
図2は、本発明の第2実施態様に係る検体の調製方法を示しており、直列2段のフィルタを用いた場合を示している。図2において、11は、本方法の実施に用いる検体の調製装置を示しており、12は、1段目のフィルタとしての中空糸精密濾過膜、13は直列に接続された2段目のフィルタとしての中空糸精密濾過膜を、それぞれ示している。大量の原液14は、1段目中空糸精密濾過膜12の原液流入口15から中空糸精密濾過膜12の一次側16へと流入される。中空糸精密濾過膜12は供給されてきた原液14を濾過し、中空糸精密濾過膜12の二次側17に透過された精密濾過液18は濾過液流出口19から流出され、2段目中空糸精密濾過膜13の流入口20から中空糸精密濾過膜13の一次側21へと流入される。1段目中空糸精密濾過膜12の一次側16に、微生物およびエンドトキシンの濃度が高められた少量の濃縮液22が濃縮され、2段目中空糸精密濾過膜13の一次側21に、1段目中空糸精密濾過膜12からの精密濾過液に対して濃縮された濃縮液23が濃縮される。これら濃縮液22、23は、必要に応じて、各濃縮液流出口24、25から取り出される。2段目中空糸精密濾過膜13の二次側26からは、中空糸精密濾過膜13の透過液が、2段目精密濾過液27として、濾過液流出口28から流出され、排泄あるいは精密濾過液として利用される。
【0018】
上記のような検体の調製装置11を用いて、本発明に係る検体の調製方法は、例えば、次のように実施される。前述したと同様に、例えば、10-6 CFU/mLの原液1000L を1段目中空糸精密濾過膜12の一次側16に流入させる。
【0019】
このとき、1段目濃縮液流出口24、2段目濃縮液流出口25は閉塞されており、1段目中空糸精密濾過膜12の原液流入口15から流入した原液は、1段目精密濾過液流出口19から流出し、2段目中空糸精密濾過膜13の一次側21に流入する。1段目中空糸精密濾過膜12および2段目中空糸精密濾過膜13は微生物やエンドトキシンを通過させないため、1段目の中空糸精密濾過膜12の一次側16には微生物やエンドトキシンの濃縮液が残ることになる。よって、2段目には微生物やエンドトキシンが存在しないことになる。
【0020】
高度に精製された原液(例えば、1000L)に対し、その濃縮液22を濃縮液流出口24から滅菌された容器に回収する。回収した濃縮液が例えば100mL であったとすると、その濃縮液(100mL )は原液1000L に相当する微生物やエンドトキシンを有することになる。つまり,10 -6 CFU/mL の検体液であったため、平板培地などで培養すると、1 colonyを形成することとなる。
【0021】
また、同時に2段目濃縮液流出口25から滅菌された容器に2段目濃縮液23を回収する。つまり、原液1000L 相当の精密濾過液の濃縮液となり、基本的に、ここでの濃縮液を例えば平板培地などで培養しても、微生物は検出されない。もし微生物が検出された場合は、1段目の中空糸精密濾過膜12からリークがあると考えられる。よって、2段目の濃縮液を検査することで、1段目の中空糸精密濾過膜12の性能評価を行うことができることになる。
【0022】
この方法を用いることで、原液1000L についての検体の調製と、1段目の中空糸精密濾過膜12の性能評価を同時に行うことが可能になる。
【0023】
このように、本発明に係る方法を用いることで大量の原液に対しても検体を容易に調製することが可能になる。また、その後の培養等も濃縮液をメンブレンフィルタ法などを用いて簡便に検査することが可能である。エンドトキシンについても、前記同様の検体濃縮を行い、濃縮液を回収することで、エンドトキシン検査の検体として用いることが可能である。またエンドトキシンに対する1段目の中空糸精密濾過膜の性能評価を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明に係る方法は、とくに、検査対象となる原液が大量にある場合に好適なものであり、効率よくかつ容易に微生物やエンドトキシン検査に供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施態様に係る検体の調製方法の実施に用いる検体の調製装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第2実施態様に係る検体の調製方法の実施に用いる検体の調製装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0026】
1 検体の調製装置
2 フィルタとしての中空糸精密濾過膜
3 原液
4 原液流入口
5 中空糸精密濾過膜の一次側
6 中空糸精密濾過膜の二次側
7 精密濾過液
8 濾過液流出口
9 濃縮液
10 濃縮液流出口
11 検体の調製装置
12 1段目のフィルタとしての中空糸精密濾過膜
13 2段目のフィルタとしての中空糸精密濾過膜
14 原液
15 原液流入口
16 1段目中空糸精密濾過膜の一次側
17 1段目中空糸精密濾過膜の二次側
18 1段目精密濾過液
19 濾過液流出口
20 2段目中空糸精密濾過膜の流入口
21 2段目中空糸精密濾過膜の一次側
22 1段目中空糸精密濾過膜の濃縮液
23 2段目中空糸精密濾過膜の濃縮液
24 1段目中空糸精密濾過膜の濃縮液流出口
25 2段目中空糸精密濾過膜の濃縮液流出口
26 2段目中空糸精密濾過膜の二次側
27 2段目精密濾過液
28 濾過液流出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度に精製された大量の原液について微生物およびエンドトキシンの検査に用いる検体を調製するに際し、前記原液を、微生物およびエンドトキシンの大きさよりも小さい孔径のフィルタにより濾過し、該フィルタの一次側で、微生物およびエンドトキシンの濃度が高められた少量の濃縮液を調製することを特徴とする、検体の調製方法。
【請求項2】
前記フィルタが中空糸精密濾過膜からなる、請求項1の検体の調製方法。
【請求項3】
前記原液が、純水、超純水、逆浸透膜精製水および透析液のいずれかからなる、請求項1または2の検体の調製方法。
【請求項4】
前記フィルタを、前記原液の送液管に対して任意の位置に設ける、請求項1〜3のいずれかに記載の検体の調製方法。
【請求項5】
検体の調製中は、前記フィルタの一次側における濃縮液流出口を閉塞し、該フィルタの二次側に透過した濾過液を排泄する、あるいは精密濾過液として使用する、請求項1〜4のいずれかに記載の検体の調製方法。
【請求項6】
フィルタの一次側から取り出した濃縮液の一部または全量を微生物培養検査およびエンドトキシン検査に使用する、請求項5の検体の調製方法。
【請求項7】
前記原液を前記フィルタに連続的に流入させる、請求項1〜6のいずれかに記載の検体の調製方法。
【請求項8】
前記原液を前記フィルタに間欠的に流入させる、請求項1〜6のいずれかに記載の検体の調製方法。
【請求項9】
フィルタを直列2段に設け、1段目のフィルタを精密濾過液を得るために使用し、2段目のフィルタを、1段目のフィルタからの精密濾過液から前記少量の濃縮液を検体として調製するために使用する、請求項1〜8のいずれかに記載の検体の調製方法。
【請求項10】
検体の調製中は、1段目、2段目のフィルタの一次側における濃縮液流出口を閉塞し、2段目のフィルタの二次側に透過した濾過液を排泄する、あるいは精密濾過液として使用する、請求項9の検体の調製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−238789(P2006−238789A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58842(P2005−58842)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(591083299)東レ・メディカル株式会社 (28)
【Fターム(参考)】