説明

検出センサ、物質検出方法

【課題】簡易かつ低コストな構成で、物質の識別性能を高めることのできる検出センサ、物質検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】振動子30上に、対となる電極70A、70Bを設け、さらに電極70A、70Bを、感応膜20で覆うようにした。そして、感応膜20で吸着した成分分子による質量変化に伴う振動子30の周波数変化を検出するとともに、一対の電極70A、70B間の感応膜20の抵抗、導電率の変化を検出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)等の物質の検出等を行うことのできる検出センサ、物質検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気中を漂う各種物質や匂いの存在、あるいはその定量的な濃度を検出するためのセンサが存在した。このセンサでは、ガスに含まれる特定種の分子を吸着し、その吸着の有無、あるいは吸着量を検出することで、特定物質等の存在の有無、あるいはその濃度を検出している。
【0003】
空気中を漂う分子をその微小な分子質量によって検出するセンサ素子は、これらの分子を含む気体中で振動子を振動させ、分子が振動子表面に付着または吸着された際の振動子の質量変化を振動子の共振周波数変化として検出する。質量検出を行う振動子として、片持ち梁の振動を利用するカンチレバー型の振動子が存在する(例えば、特許文献1参照)。このようなカンチレバー型の振動子は、シリコン薄膜等を写真技術(フォトリソグラフィ)で精密に加工するMEMS(Micro Electrical Mechanical Systems)と呼ばれる技術を用いることで、μm(マイクロメートル)単位の領域で作製することが可能となってきた。振動子のサイズを小さくすることで振動子質量が大幅に減少し、付着質量に対する検出感度が向上する。
【0004】
このようなシリコン材料からなる振動子は、ピエゾ効果を用い、振動子の表面に設けたピエゾ抵抗層の電圧変化を検出することで、振動子の振動数変化を検出する(例えば、特許文献1、2参照。)。また、振動子の共振周波数の変化を用いて、振動子の表面に付着した物質の質量を検出する手法も存在する(例えば、特許文献3参照。)
【0005】
ところで、カンチレバー型の振動子を用いた質量センサは、振動子への分子の付着質量を検出するだけで、それ自身には付着物質を分析・識別する機能はない。そこで、付着物質を識別する機能は、表面に塗布された検出膜の吸着選択性を用いることになる。
これには、複数のカンチレバー型の振動子を設け、複数種類の検出膜をこれら複数のカンチレバー型の振動子にそれぞれ塗布する。そして、それぞれの振動子に設けられた検出膜の吸着選択性の違いを利用することになる。この手法はQCM(Quarts Crystal Microbalance)では広く利用されており、複数の検出膜の応答の違いから多変量解析などを用いて吸着物質の推定を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−56278号公報
【特許文献2】特開2009−133772号公報
【特許文献3】特開2005−148062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カンチレバー型の振動子はQCMよりも遙かに小型であるために、複数の振動子を設けたとしても、装置の大型化を招くという程ではないが、それぞれの振動子を駆動するための駆動回路、振動子の振動変化を検出する検出回路を振動子の数に応じて設けなければならず、構造が複雑となるという問題がある。
さらに、例えば同じ材質、寸法の振動子であっても、複数の振動子間ではその振動特性等に誤差による違いが生じることがある。この違いの影響により、識別性能が阻害されることもある。
【0008】
また、検出膜の吸着選択性の違いを利用するには、検出膜に分子が吸着することによって質量が変化した振動子の周波数変化量を、予めデータベースに登録された各物質の周波数変化量と照合することで、吸着した物質の推定を行っている。これには、検出対象となるそれぞれの物質について、複数の検出膜それぞれにおける周波数変化量を事前に測定し、データベースに登録しておく必要がある。
このようにすると、例えば濃度1%の物質Aと濃度1%の物質Bとでは、データベースに登録された周波数変化量が異なるので、その違いから物質Aと物質Bとの識別を行うことができる。しかし、同じ物質であっても濃度によって周波数変化量が異なる。このため、例えば、濃度5%の物質Aに対してと濃度1%の物質Bに対してとでは周波数変化量に違いが表れず、物質Aと物質Bとの識別が行えないといったような問題が生じる可能性がある。そこで、それぞれの物質について、濃度を異ならせた時の周波数変化量(すなわち感度:濃度変化に伴う周波数変化の値)をデータベースに予め登録しておく必要がある。この感度の異なる複数のセンサを用いて周波数変化を検出し、連立方程式を解くか、或いは主成分解析を行う方法がある。しかしこれでは、データベースに登録するために集める周波数変化量のデータ数が膨大なものとなり、多大な手間とコストがかかることになる。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、より簡易かつ低コストな構成で、物質の識別性能を高めることのできる検出センサ、物質検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的のもと、本発明の検出センサは、一端または両端が固定された梁状の振動子と、振動子を振動させる駆動部と、振動子の表面に、互いに離間した位置に配置された一対以上の電極と、対となる電極を跨いで形成された感応膜と、感応膜に吸着した物質によって振動子に生じた振動数の変化を検出する振動検出部と、感応膜に吸着した物質によって電極間に生じた抵抗または導電率の変化を測定する電気特性検出部と、を備えることを特徴とする。
このような検出センサにおいては、振動子上の感応膜に物質が吸着したときの、振動子に生じた振動数の変化を検出するとともに、感応膜に吸着した物質によって電極間に生じた抵抗または導電率の変化を測定する。これにより、吸着時における質量変化と電気特性(抵抗率または導電率)の変化を示すパラメータ情報を同時に得ることができ、これらの情報を組み合わせることで物質の識別分解能を高めることができる。
【0010】
ここで、感応膜は、10+3〜10−8S/cmの導電率を有し、物質に対して応答する高分子膜、酸化物半導体からなる多孔質膜の少なくとも一つを含むものを用いるのが好ましい。
【0011】
対となる電極は、振動子の一端と他端とを結ぶ方向に対し直交する方向に対向するのが好ましい。
また、電極は、振動子の一端と他端とを結ぶ方向に延びる帯状部を有するものとすることができる。さらに、この電極は、帯状部から、対向する他方の電極に向けて延びる一以上の延長部をさらに有することができる。延長部を複数備えることで、電極は櫛歯状となる。そして、対となる電極は、帯状部および延長部を、予め定められたクリアランスを隔てて対向させて設けるようにして、延長部どうしを噛み合わせるのが好ましい。
【0012】
電極は、いかなる材料から形成しても良いが、金から形成するのが好ましい。さらに、電極は、20nm以上であり、かつ金の比重が大きいため、振動子の厚さに対し、10%以内の厚さを有しているものとするのが好ましい。
【0013】
また、電極は振動子上に複数対設けることが可能である。その場合、複数対の電極には、それぞれ互いに種類の異なる感応膜を形成することもできる。
さらに、電極は、振動子を規定の振動モードで振動させたときに、振幅の腹となる部分に形成しても良い。
【0014】
駆動部は、外部から電気信号が入力されることで振動を生じるとともに、当該振動を振動子に伝達する駆動素子を備え、振動子は、駆動素子から伝達される振動に共振して発振するものとすることができる。
【0015】
本発明は、上記のような検出センサを用いた物質の検出方法とすることができ、この方法では、振動子上の感応膜に物質が吸着したときの、振動子に生じた振動数の変化を検出するステップと、感応膜に付着した物質によって電極間に生じた抵抗または導電率の変化を測定するステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、振動子上の感応膜に物質が吸着したときの、振動数変化と、電極間の抵抗または導電率の変化を測定する。これにより、吸着量とこれに付随する導電率の変化という2つの情報を同時に得ることができ、これらの情報を組み合わせることで物質の識別分解能を高めることができる。また、一本の振動子上に電極と感応膜とを形成すればよいので、簡易かつ低コストな構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態における検出センサの構成を示す図である。
【図2】カンチレバー型の振動子を示す斜視図である。
【図3】振動子が形成された基板とPZT板とを積層した状態の斜視図である。
【図4】感応膜を示す断面図である。
【図5】振動子の振動数変化および導電率変化を検出するための回路構成を示す図である。
【図6】物質ごとの振動子の振動数変化および導電率変化の例を示す図である。
【図7】第二の実施形態にかかる振動子の平面図である。
【図8】第三の実施形態にかかる振動子の平面図である。
【図9】振動子の振動の腹に電極を設けた例を示す断面図である。
【図10】検出センサにおいて実際に検出を行った例を示す図であり、(a)は振動子の振動数変化、(b)は導電率変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における検出センサ10の構成を説明するための図である。
この図1に示す検出センサ10は、検知対象となる特定種の分子(以下、単に分子と称する)を吸着することで、ガスや匂い等の存在(発生)の有無、あるいはその濃度の検出を行うものである。この検出センサ10は、分子を吸着する感応膜20を備えた振動子30と、振動子30を振動させる駆動部40と、振動子30の振動状態の変化から感応膜20への分子の吸着を検出する検出部(振動検出部、電気特性検出部)60と、から構成されている。
【0019】
図2に示すように、振動子30は、シリコン系材料からなる基板50に形成されている。振動子30は、基板50を、フォトリソグラフィ法等のMEMS技術を用いることによりパターン形成し、エッチング等により不要部分を除去することで形成され、基板本体51に一端30aが固定された固定端とされ、他端30bがオーバーハングした自由端とされた片持ち梁状のカンチレバー型とされている。このような振動子30は、平面視長方形状で、例えば、厚さは2〜10μm、長さは30〜1000μm、幅は10〜400μmとするのが好ましい。ここで、基板50には、シリコン系材料、より詳しくは単結晶シリコンからなる基板本体51の表面に、SiOからなる絶縁層52が形成され、絶縁層52上にさらにシリコン系材料からなるシリコン層(n型半導体からなる層)53が形成されたSOI(Silicon on Insulator)基板を用いるのが好ましい。この場合、振動子30は、シリコン層53に形成されている。
【0020】
図3に示すように、上記の基板50は、PZT板(駆動素子)55上に設けられている。PZT板55は、PZT材料からなる板状体で、その両面に電極層が設けられている。駆動部40から出力される駆動信号(交流電圧)が電極層に印加されると、その電圧変動に応じた所定の周波数で振動を発生する。
【0021】
図1に示したように、振動子30の表面には、SiOからなる絶縁層が形成され、その上に、一対の電極70A、70Bと、検出対象となる成分分子を吸着または付着させる膜状の感応膜20と、が積層されて形成されている。
【0022】
一対の電極70A、70Bは、振動子30の一端30a側から他端30b側に向けて互いに平行に一定間隔を隔てて延びて形成されている。電極70A、70Bは導電性材料で形成されるが、特に、金で形成するのが好ましい。金は大気中でも酸化せず、しかも金表面に感応膜20が均一に付着するため、感応膜20の下地層としても機能するからである。また、金の成膜を行う場合は、密着性を上げるために下地に極めて薄いCrなどの膜をはさむのが一般的である。
【0023】
ここで、電極70A、70Bの膜厚が大きいと、電極70A、70Bにより振動子30の振動が阻害されることになる。そこで電極70A、70Bの膜厚はなるべく小さくするのが好ましい。例えば電極70A、70Bの膜厚は20nm以上で、振動子30の膜厚に対し、10%以下とするのが好ましい。より好ましくは電極70A、70Bは、その厚みは30nmから100nmとするのが好ましい。
【0024】
図2に示したように、振動子30の一端30a側には、電極70A、70Bに連続して、基板本体51の表層部に配線パターン71A、71B、71C、71Dが接続されている。この配線パターン71A、71B、71C、71Dは、基板本体51の表面に形成された電極パッド72A、72B、72C、72Dに接続されている。
【0025】
基板50の表層部に形成された前記の電極パッド72A、72B、72C、72Dには、外部の電流源80、電圧計81が電気的に接続されている。電流源80から電極70A、70Bに一定電流を流し、電極70A、70B間の電位差を電圧計81で計測することで、電極70A、70B間の抵抗、導電率を検出する。
【0026】
感応膜20は、対となる電極70A、70Bを跨ぐように、その全体を覆って形成されている。
ここで、感応膜20としては、導電性を有し(導電率10+3〜10−8S/cm)、VOCガスの成分分子に対して応答するものであれば、例えば、スルホン酸などをドープしたポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンといった導電性高分子膜、酸化チタンなどの酸化物半導体からなる多孔質膜(ただし、酸化物半導体は光等による外部励起が必要)、またはそれらの複合体を用いることができる。
【0027】
これらのうち、感応膜20としては、二酸化チタン粒子の表面が、カルボキシル基を有する有機物により修飾された二酸化チタン複合粒子の凝集体からなるガス分子吸着材料で形成するのが特に好ましい。
【0028】
<二酸化チタン粒子>
本実施形態において、二酸化チタン粒子の粒径は、8〜100nmであることが好ましい。
また、本実施形態においては、有機物として、4−ヒドロキシ安息香酸およびチオフェン誘導体の少なくとも1種を用いることが好ましい。チオフェン誘導体は、電界重合により形成されたポリチオフェンであってもよい。
【0029】
チオフェン誘導体は、一般式[化1]、[化2]、[化3]、[化4]、[化6]、[化7]の少なくとも1種であることが好ましい。一般式[化3]において、R1、R2は、C〜C20から選択される直鎖アルキル基を表す。
【0030】
【化1】

【0031】
【化2】

【0032】
【化3】

【0033】
一般式[化3]において、R1、R2は、C〜C20から選択される直鎖アルキル基を表す。
【0034】
【化4】

【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
一般式[化6]において、R3、R4は、ブタジエン、スチレン、メチルメタクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、アクリロニトリル、トリフルオロメチルメタクリレートから選択される少なくとも1種をモノマー単位として含むポリマーを表す。
【0038】
【化7】

【0039】
一般式[化7]において、R5、R6は、ブタジエン、スチレン、メチルメタクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、アクリロニトリル、トリフルオロメチルメタクリレートから選択される少なくとも1種をモノマー単位として含むポリマーを表す。
【0040】
なお、本実施形態において、二酸化チタン複合粒子とは、二酸化チタン粒子の表面がカルボキシル基を有する有機物により修飾された二酸化チタン粒子であって、二酸化チタン粒子表面の水酸基と、有機物の少なくとも一部を構成するカルボキシル基の水素と、が脱水縮合によって結合した有機・無機複合体である。
【0041】
<ガス分子吸着材料>
図4に、感応膜20を形成する、本実施形態のガス分子吸着材料の組織の模式図を示す。
図4に示すように、本実施形態の感応膜20を形成するガス分子吸着材料21は、二酸化チタン粒子凝集体であって、二酸化チタン粒子22の表面が、カルボキシル基を有する有機物24により修飾された二酸化チタン複合粒子23の凝集体からなり、二酸化チタン複合粒子23が微細な隙間を維持したまま凝集体を形成している。二酸化チタン粒子22は、ナノ粒子間がファンデルワールス力のみでつながっている場合、膜としての強度が弱くなるので、ナノ粒子を焼結することによって隣り合った粒子を結合させてより強固な多孔質膜とすることが好ましい。このように微細な粒子が凝集した、ナノスケールの隙間を有する多孔質膜の表面を単分子層でコーティングして隙間を維持し、表面積を大きくし、吸着効率を向上させる。
【0042】
二酸化チタン粒子は、TiOの組成を有するが、水やアルコールなどの反応溶液中では表面に水酸基(OH基)が生成する。粒径は、表面積を大きくするためには、5nm以上100nm以下とすることが好ましく、50nm以下とすることがより好ましい。
本実施形態のガス分子吸着材料においては、有機物によりガスを吸着するが、二酸化チタン粒子自体もガスの吸着サイトになりうる。
【0043】
有機物は、カルボキシル基もしくはリン酸基を有する有機物を用いる。有機物によって、二酸化チタン粒子の間に形成される微細な隙間が充填された場合、表面積を大きくする効果は得られないので、二酸化チタン複合粒子を微細な隙間を維持したまま凝集体を形成する。このような凝集体は、カルボキシル基を有する有機物を用いることにより得ることができる。これは、二酸化チタン粒子の表面に存在する水酸基とカルボン酸などに含まれるカルボキシル基の水素とが脱水縮合することによって結合し,二酸化チタン粒子表面に有機物一層が結合した有機・無機複合体を得ることができるからである。
二酸化チタン粒子は水やアルコールなどの反応溶液中では表面に水酸基が生成されるので、カルボキシル基を含む有機物を含有する反応溶液中に二酸化チタン粒子を浸漬することにより、二酸化チタン複合粒子を得ることができる。
【0044】
カルボキシル基を有する有機物を用いることで、応答性向上の効果をも得ることができる。応答性とは、ガス吸着開始から一定量が吸着するまでの時間、吸着していたガスが脱離するまでの時間であり、ガス分子が有機物に拡散する拡散速度が速い場合にはこの時間は短く、拡散速度が遅い場合にはこの時間は長い。ガス分子吸着材料としては、この時間が短い方が応答性が良く好ましい。感応膜の材料によって応答性に違いがあるが、一般的には感応膜の厚さは薄い方が応答性が良くなる。本実施形態にかかる微細な二酸化チタン複合粒子は、有機物一層の薄い層を形成しているので、応答性にも優れる。
【0045】
本実施形態においては、二酸化チタン粒子を修飾する有機物の種類を選定することでガスに対する吸着特性が異なる、すなわちガスに対する選択性を有するガス分子吸着材料が得られる。本実施形態のガス分子吸着材料は、有機物ごとにVOC種に対する選択性に差異があり、この選択性の差異を利用して検出対象のガスを認識するガスセンサの感応材料として用いることが好ましい。
【0046】
カルボキシル基を含む有機物としては、カルボキシル基を含んでいればどのような有機物でもよく、検出対象のガスに合わせて選定すればよいが、4−ヒドロキシ安息香酸、安息香酸、3,5−ジベンジルオキシ安息香酸、ラウリン酸、ステアリン酸、カルボキシル基を有するチオフェン誘導体などを用いることができる。
【0047】
カルボキシル基を有するチオフェン誘導体は、所望の選択性が得られるよう有機物を合成することが可能である。チオフェン誘導体として好ましい構成を[化1]、[化2] 、[化3]、[化4]として示すが、これ以外にもカルボキシル基を有するチオフェン誘導体を合成して本実施形態に用いることができる。
【0048】
[化1]は、[2,2’;5,2”]ターチオフェン−3’−カルボン酸([2,2’;5,2”]terthiophene−3’−carboxylic acid)、[化2]は、4−[2,2’;5,2”]ターチオフェン−3’−イル−安息香酸(4−[2,2’;5,2”] terthiophene−3’−yl−benzoic acid)である。
【0049】
[化3]は、C〜C20(炭素数1以上20以下)から選択される直鎖アルキル基を導入したチオフェン誘導体であって、4−(4,4”−ジアルキル−[2,2’;5’,2”]ターチオフェン−3’−イル)−安息香酸(4−(4,4”−dioctyl−[2,2’;5’,2”]terthiophen−3’−yl)−benzoic acid)である。[化3]の一例として、直鎖アルキル基R1およびR2として炭素数8のオクチル基(C)を導入した4−(4,4”−ジオクチル−[2,2’;5’,2”]ターチオフェン−3’−イル)−安息香酸を[化5]として示す。直鎖アルキル基R1、R2の導入により、トルエン、オクタンなどの非極性のVOCに対する選択性が向上するが、C20(炭素数20)を超える直鎖アルキル基ではガスの吸着量が減少するためC20(炭素数20)以下とすることが好ましく、C〜C18(炭素数6以上18以下)の直鎖アルキル基を用いることがより好ましい。なお、R1とR2は、同じ直鎖アルキル基を選択してもよいし、異なる直鎖アルキル基を選択してもよい。
【0050】
[化4]は、構造の一部に環状構造を有するチオフェン誘導体の一例であって、4−(10,15,20−トリ−チオフェン−3−イル−ポルフィリン−5−イル)−安息香酸デシルエステル(4−(10,15,20−Tri−thiophen−3−yl−porphyrin−5−yl)−benzoic acid decyl ester)である。環状構造を取り入れることによっても、ガスに対する選択性が得られる。
【0051】
[化6]、[化7]は、構造の一部にポリマーの重合開始点となるイニシエイターを修飾したチオフェン誘導体である。R3、R4、R5、R6として、ガス吸着に対する選択性を有するポリマーを用いることにより、所望の選択性を有するガス分子吸着材料の設計が可能である。R3、R4、R5、R6としては、様々なポリマーを用いることができるが、ブタジエン、スチレン、メチルメタクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、アクリロニトリル、トリフルオロメチルメタクリレートから選択される少なくとも1種をモノマー単位とするポリマーが好ましい。例えば、R3、R4、R5、R6として、ブタジエンをモノマー単位とするポリマーを選択した場合には、ブタジエンはエタノールに対して吸着能をほとんど示さないため、エタノールを選択的に吸着しないガス分子吸着材料となる。R3、R4、R5、R6として、スチレンをモノマー単位とするポリマーを選択した場合には、同じ芳香族化合物であるトルエンに対する選択性に優れるガス分子吸着材料となる。R3とR4、R5とR6はそれぞれ同じポリマーを選択してもよいし、異なるポリマーを選択してもよい。また2種以上のモノマー単位から構成されるポリマーを用いてもよい。
【0052】
チオフェン誘導体は、電界重合を行うことにより、導電性を有するポリチオフェンを形成することができる。このようなポリチオフェン電界重合膜の形成は、有機物同士の結合によって頑丈な膜になるという利点と、導電性が得られるので電気的な検出を行うセンサのガス分子吸着材料としても用いることができるという利点をもたらす。
また、電界重合を行う場合、導電性を付与するためドーパントを用いる。このドーパントの種類を代えることによってもガスに対する選択性が異なる有機物を得ることができる。
【0053】
本実施形態においては、二酸化チタン粒子の表面を、カルボキシル基を有するチオフェン誘導体で有機物一層となるよう修飾した後、電解質を含む有機溶媒中で電界酸化を行うことにより、二酸化チタン粒子表面を修飾する有機物同士を電界重合することが好ましい。このように、二酸化チタン複合粒子の表面で電界重合を行うことにより、二酸化チタン複合粒子間の微細な隙間を維持したまま導電性を有するポリチオフェン電界重合膜を形成することができる。一般的な電界重合法によって電界重合膜を形成する場合、電解質溶液にチオフェン等のモノマーを溶解させて重合を行うため、ポリマーがナノ空間を覆い尽くす可能性が高い。これでは、本実施形態の表面積増大の効果を確保することは困難である。
本実施形態において、酸化チタン粒子表面で電界重合を行う具体的な手法としては、例えば、二酸化チタン粒子をカルボキシル基を有するチオフェン誘導体のアルコール溶液に浸漬して二酸化チタン複合粒子を得た後、テトラブチルアンモニウム過塩素酸塩などの電解質を含む有機溶媒中での電解酸化処理を行う。
【0054】
感応膜20の製造方法について2通りの方法を説明する。
まず、第1の製造方法について説明する。感応膜20は、基板の上に二酸化チタン粒子からなる層を形成する工程と、二酸化チタン粒子の表面をカルボキシル基を有する有機物で修飾する工程と、により得ることができる。
また、感応膜20として、電界重合によって形成された二酸化チタン複合粒子を用いる場合には、基板の上に二酸化チタン粒子からなる層を形成する工程と、二酸化チタン粒子の表面をカルボキシル基を有する有機物で修飾する工程と、二酸化チタン粒子の表面を修飾する有機物を電界重合する工程と、により得ることができる。
ここで、基板12上へ二酸化チタン粒子層を形成する手法としては、例えば公知のスクイージ法等を用いることができる。
【0055】
スクイージ法によって、基板上に二酸化チタン粒子ペーストの層を形成した後、二酸化チタン粒子ペーストに含まれる水やバインダーなどを乾燥および/または焼成により除去し、二酸化チタン粒子層が形成される。密度を向上させるためには、焼成を行うことが好ましい。焼成は、100℃〜600℃の範囲で適宜設定できるが、急激な温度変化は二酸化チタン粒子膜の均一性を損なう恐れがあるので、昇温速度を20〜150℃/時間とすることが好ましい。また、緻密な膜を形成するためには昇温後一定時間保持する操作を繰り返し、段階的に温度を上げることが好ましい。さらに、焼成工程における降温も急激な温度変化は二酸化チタン粒子膜の均一性を損なう恐れがあるので、降温速度を20〜150℃/時間として100℃以下まで温度を下げることが好ましい。
【0056】
なお、二酸化チタン粒子ペーストは、Ti−Nanoxide HT、Ti−Nanoxide T、Ti−Nanoxide T20、Ti−Nanoxide T37(ソラロニクス製)、SP−210(昭和電工株式会社製)などの市販品を用いることができる。Ti−Nanoxide HTは平均粒径9nm、BET表面積160m/g、Ti−Nanoxide Tは平均粒径13nm、BET表面積120m/g、Ti−Nanoxide T20は平均粒径20nm、BET表面積60m/g、Ti−Nanoxide T37は平均粒径37nm、BET表面積40m/gであり、それぞれ二酸化チタン濃度が11wt%で、溶媒としてエタノール、水、バインダーを含む。SP−210は、平均粒径15nmである。このような市販の二酸化チタン粒子ペーストを用いる場合、二酸化チタン粒子の粒径は8nm以上40nm以下とすることが好ましい。
【0057】
基板上の二酸化チタン粒子を有機物で被覆するためには、二酸化チタン粒子層を形成した基板を50〜100℃に加熱し、被覆させたい有機物を含む溶液に1〜48時間程度浸漬した後、アルコール洗浄を行い、乾燥すればよい。
この後に、電解質を含む有機溶媒中での電解酸化処理を行って、電界重合によって形成された二酸化チタン複合粒子とすることもできる。
【0058】
次に第2の製造方法について説明する。感応膜20は、二酸化チタン粒子の表面をカルボキシル基を有する有機物で修飾して二酸化チタン複合粒子を得た後、基板の上に二酸化チタン複合粒子からなる層を形成することにより得ることができる。
さらに、感応膜20として、電界重合によって形成された二酸化チタン複合粒子を用いる場合には、二酸化チタン粒子の表面をカルボキシル基を有する有機物で修飾して二酸化チタン複合粒子を得る工程と、基板の上に二酸化チタン複合粒子からなる層を形成する工程と、二酸化チタン粒子の表面を修飾する前記有機物を電界重合する工程と、により得ることができる。
【0059】
第2の製造方法を用いると、第1の製造方法で製造した場合に比べ、二酸化チタン粒子同士の接触が減って有機物同士の接触が増えるため、センサ素子の電気特性が向上する。電気特性に優れるセンサ素子は、極性の高いVOCガスがガス分子吸着材料に吸着した場合に電気特性が変化するので、この電気特性の変化を検出対象としてVOCガス認識の精度を高めることができる。
【0060】
ところで、感応膜20に二酸化チタン粒子を用いた場合、伝導キャリアを発生させる必要があることから、振動子30の近傍に、UVランプ等の励起光源25を備えるのが好ましい。
【0061】
さて、上記したような振動子30の一端30aには、振動子30の変位を検出するための検出素子として、例えばピエゾ抵抗素子部90が形成されている。
【0062】
図5に示すように、このようなピエゾ抵抗素子部90には、その表面に、互いに離間した4つのピエゾ抵抗素子91A〜91Dが形成され、ホイーストンブリッジが構成されている。
このピエゾ抵抗素子91A〜91Dは、基板本体51の表面に形成された配線パターン92A〜92Dを介し、基板本体51の表層部に形成された電極パッド93A〜93Dに電気的に接続されている。このピエゾ抵抗素子部90は、振動子30の変位によって変形が生じると、ピエゾ抵抗効果により電位差を生じる。この電位差を、電極部91A〜91Dのホイーストンブリッジで検出することで、振動子30の変位を検出できる。
【0063】
図1に示したように、このような振動子30は、駆動部40により駆動される。駆動部40は、ピエゾ抵抗素子部90から出力される出力信号を増幅するアンプ100と、アンプ100のゲインを自動調整する自動ゲインコントローラ101と、通過する出力信号の位相をシフトさせる位相シフタ102と、振動子30における振動の次数を選択するために、特定の周波数域の信号のみを通過させるバンドパスフィルタ103と、PZT板55に印加する駆動信号を増幅させる出力アンプ104とを備えている。
この駆動回路では、出力アンプ104から出力する駆動信号をPZT板55に印加する。PZT板55が駆動されて変位(振動)を生じ、これに応じて振動子30が振動する。すると、振動子30に設けられたピエゾ抵抗素子部90のピエゾ抵抗効果により、ピエゾ抵抗素子部90から電気信号が出力される。この電気信号は、アンプ100により増幅され、位相シフタ102でその位相量がシフトされ、さらに、バンドパスフィルタ103でその中心周波数がシフトされ、出力アンプ104を経て再びPZT板55に駆動信号として送られる。このようにして、駆動信号が調整され、振動子30が自励発振する。
【0064】
このようにして駆動される振動子30が設けられたチャンバ内等の雰囲気中に、検出対象となるガスを導入し、振動子30上の感応膜20をガスに曝露させる。すると、感応膜20に、ガス中の成分分子が吸着される。感応膜20に質量を有した成分分子が吸着されると、振動子30においては感応膜20で吸着した成分分子の質量により、振動子30全体の振動子30を含む系の質量が変化する。検出部60においては、その質量変化に伴う振動子30の周波数変化をピエゾ抵抗素子90から出力される電気信号の変化により検出する。ガスの種類により、感応膜20に吸着される成分分子の吸着率(吸着されて、脱離せずに残る成分分子の割合)が異なる。これにより、成分分子の種類により、振動子30を含む系の質量変化量、および周波数変化量が異なる。
【0065】
一方、感応膜20で雰囲気中の成分分子を吸着すると、一対の電極70A、70B間の感応膜20の抵抗、導電率が変化する。その抵抗または導電率(本実施形態では導電率)の変化を、一対の電極70A、70B間で電圧計81により検出する。検出部60においては、電圧計81で検出した電圧の変化を受け取る。このとき、導電率の変化量は成分分子の種類によって異なる。
【0066】
このようにすると、図6に示すように、ガスの種類に応じて、質量変化による周波数変化量と、導電性変化量とが検出できる。
【0067】
検出部60には、感応膜20を備えた振動子30のそれぞれにおいて、予め測定された、成分分子の種類に応じた、振動周波数変化量、変化応答タイミング、導電率変化量等のデータが記憶されている。検出部60では、検出された振動子30の振動周波数変化および導電率変化量と、予め記憶されたデータを比較することで、感応膜20に吸着された成分分子の種類を推定する。これら振動周波数変化量と、導電性変化量とを組み合わせて、既知のデータを参照することにより、ガスの推定を行うことができる。
【0068】
上述したように、感応膜20で吸着した成分分子による質量変化に伴う振動子30の周波数変化を検出するとともに、一対の電極70A、70B間の感応膜20の抵抗の変化を検出するようにした。これにより、吸着したガス分子の総量と、導電率の変化とが検出でき、これらの情報を組み合わせることで物質の識別分解能を高めることができる。また、一本の振動子30上に電極70A、70Bと感応膜とを形成すればよいので、簡易かつ低コストな構成とすることができる。また、同じ振動子30上で成分分子の吸着量と分極率や酸化還元性に関する情報と、導電性変化量とを検出できるので、バラツキもなく、安定した測定を行える。
【0069】
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、図7に示すように、一対の電極70C、70Dが、それぞれ、振動子30の延びる方向に延長するベース部(帯状部)75と、このベース部75から直交し、対向する他方の電極70D、70Cに向けて延びる複数本の櫛歯部(延長部)76、76、…とからなる櫛歯状とされている。これら一対の電極70C、70Dは、櫛歯部76、76、…同士を互いに所定のクリアランスを隔てて噛み合わせた状態で対向するよう配置されている。
【0070】
このとき、一方の電極70Cと他方の電極70Dのクリアランス、すなわち電極間距離(これをチャンネル長という)は、なるべく小さくするのが好ましい。一方、電極70Cと電極70Dとが所定のクリアランスを隔てて対向する領域の長さ(これをチャンネル幅という)を、第1の実施形態の場合よりも長く確保することができる。これにより、感応膜20で成分分子を吸着したときの電極70C、70D間の導電率の変化を、より高感度に検出することができる。
【0071】
この櫛歯状の電極70C、70Dを採用することによる高感度化により、上記第1の実施形態では、電流源80と電圧計81とを用いた導電性変化の検出を行ったが、本実施形態においては、図7に示すように、対向する電極70C、70D同士の電位差のみを検出することで、上記第1の実施形態と同等以上の導電率変化の検出性能を確保することができる。
【0072】
[第3の実施形態]
図8に示すように、振動子30上に、対となる電極70E、70Fを複数組設けることができる。図8においては、対となる電極70E、70Fは櫛歯状としたが、これに限るものではなく、第1の実施形態のように、振動子30の延長方向に延びる直線状の電極とすることももちろん可能である。
【0073】
このように、複数組の電極70E、70Fを振動子30上に設けることで、複数箇所(図の例では2ヶ所)において、感応膜20で成分分子を吸着することによる導電率の変化を検出することができる。すなわち2つのセンサを備えることと同等になる。
このとき、図9に示すように、それぞれの組の電極70E、70Fを設ける位置は、規定の振動モードで振動子30を振動させたときの、振動の腹となる部分とするのが好ましい。こうすることで、電極70E、70Fを設けた位置において振動子30の振幅が大きくなり、これによりピエゾ抵抗素子90における、感応膜20で成分分子を吸着することによる質量変化を高感度に検知できるからである。
さらに、複数組の電極70E、70Fを振動子30上に設け場合、振動モードを変えて2回検出を行えば、感度の異なる振動子30を使った場合と同じになる、すなわち、1次モードでは先端の感応膜20の影響が強く出て、2次モードでは中央の感応膜の影響がでる。
【0074】
さらに、複数組の電極70E、70Fにおいて、その上に塗布する感応膜20を形成する材料を互いに異なるものとすることもできる。振動モードを変えて2回検出を行えば、1次モードでは先端の感応膜20の影響が強く出て、2次モードでは別の材料を塗布した中央の感応膜20の影響がでるため、2カ所×2回であり、計4個のセンサと同等の機能を発揮することができる。これにより小さなスペースでより高い物質の識別分解能を備えることが可能となる。
このようにすれば、それぞれの感応膜20によって物質に対する吸着特性、吸着特性が異なるので物質の識別能力がさらに高まる。
【0075】
このように、振動子30上に複数組の電極70E、70Fを設けることで、複数のセンサを備えたことと同等になるが、この場合において同一の振動子30上に複数組の電極70E、70Fが設けられているため、複数の振動子30を備えた場合のように、振動子30間におけるばらつきは影響せず、より高感度な検出を行える。
【0076】
なお、上記の実施形態において、複数組の電極70E、70Fを設けたが、その数は2組に限るものではなく3組以上とすることも可能である。
また、これら複数組の電極70E、70F上には、それぞれに独立した感応膜20を設ける構成としたが、これに限るものではなくこれら複数組の電極70E、70Fを覆う一つの感応膜20を形成することも可能である。
【実施例1】
【0077】
次に、上記のように、対となる電極70A、70Bによる導電率の変化と、感応膜20で成分分子を吸着することによる質量変化に伴う振動子30の周波数変化と、を組み合わせて物質の検知を行ったので、その結果を以下に示す。
振動子30は幅100μm、長さ300μmとし、その表面に幅20μm、長さ210μmの電極70A、70Bを振動子30の延長方向に延びるように形成した。ここで対となる電極70A、70Bの間隔は30μmとした。
【0078】
このような電極70A、70Bを形成した振動子30上に、感応膜20として、ポリチオフェン被覆酸化チタン多孔質膜を形成した。これには、電極70A、70Bが形成された振動子30上にエチレングリコールで5倍に希釈した酸化チタンナノ粒子分散液(SP−210)を塗布し、その後加熱乾燥することで、膜厚200μmの酸化チタン多孔質膜を形成した。
その後、[化2]に示すチオフェン誘導体で二酸化チタン粒子の表面を修飾する処理を行った。この処理は、二酸化チタン粒子層の形成された基板を70℃に加熱し、[化2]のチオフェン誘導体1wt%のメタノール溶液に4時間浸漬した後、エタノール洗浄を行い、60℃で1時間乾燥するという手順で行い、二酸化チタン粒子の表面をチオフェン誘導体により修飾した。その後、電解質としてテトラブチルアンモニウム過塩素酸塩を含むアセトアニリン溶液中で1.2Vでの電解酸化によりチオフェン誘導体を重合し、ポリチオフェンを電界重合によって形成した。
【0079】
このようなカンチレバーをチャンバ内に入れ、チャンバ内にトルエン、オクタン、アセトン、エタノール各1000ppmのVOCガスを導入し、チャンバ内の振動子30に曝露させた。VOCガスは1種類ずつチャンバ内に導入し、測定後は、純窒素を導入することによりチャンバ内を置換した後、次のVOCガスを導入して測定を行った。VOCガスの濃度はそれぞれ1000ppmとした。このときの振動子30の周波数変化と伝導率の変化を測定した。チャンバ内の温度は20℃とした。
【0080】
また、振動子30は2次の振動モードで振動させた。
また、感応膜20にはUVを照射し、電極70A、70Bに5Vの電圧を印加しながら、電流値を測定することで、対となる電極70A、70B間の伝導率を測定した。その結果を図10に示す。
図10(a)に示すように、トルエン、オクタン、アセトン、エタノールのそれぞれのVOCガスに応じ、振動子30の周波数変化量が異なっていた。これはそれぞれのVOCガスの成分分子の感応膜20に対する吸着特性に応じ、感応膜20に吸着された成分分子相当の質量増加に比例したものとなっている。
一方、図10(b)に示すように、導電率変化は、トルエン、オクタン、アセトン、エタノールでそれぞれ異なっていた。これは感応膜20にVOCガスの成分分子が吸着されることにより、対となる電極70A、70B間の導電率が変化することによるものでこれを反映したものとなっている。
【符号の説明】
【0081】
10…検出センサ、12…基板、20…感応膜、30…振動子、30a…一端、30b…他端、40…駆動部、50…基板、55…PZT板(駆動素子)、60…検出部(振動検出部、電気特性検出部)、70A〜70F…電極、75…ベース部(帯状部)、76…櫛歯部(延長部)、80…電流源、81…電圧計、90…ピエゾ抵抗素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端または両端が固定された梁状の振動子と、
前記振動子を振動させる駆動部と、
前記振動子の表面に、互いに離間した位置に配置された一対以上の電極と、
対となる前記電極を跨いで形成された感応膜と、
前記感応膜に吸着した物質によって前記振動子に生じた振動数の変化を検出する振動検出部と、
前記感応膜に吸着した物質によって前記電極間に生じた抵抗または導電率の変化を測定する電気特性検出部と、
を備えることを特徴とする検出センサ。
【請求項2】
前記感応膜は、10+3〜10−8(S/cm)の導電性を有した、前記物質に対して応答する高分子膜、酸化物半導体からなる多孔質膜の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の検出センサ。
【請求項3】
対となる前記電極は、前記振動子の前記一端と他端とを結ぶ方向に対し直交する方向に対向していることを特徴とする請求項1または2に記載の検出センサ。
【請求項4】
前記電極は、前記振動子の前記一端と他端とを結ぶ方向に延びる帯状部を有することを特徴とする請求項3に記載の検出センサ。
【請求項5】
前記電極は、前記帯状部から、対向する他方の前記電極に向けて延びる一以上の延長部をさらに有し、
対となる前記電極は、前記帯状部および前記延長部を、予め定められたクリアランスを隔てて対向させて設けられていることを特徴とする請求項4に記載の検出センサ。
【請求項6】
前記電極は、金からなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の検出センサ。
【請求項7】
前記電極は、前記振動子の厚さに対し、10%以内の厚さを有していることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の検出センサ。
【請求項8】
前記電極が複数対設けられ、それぞれ対となる前記電極上には、互いに種類の異なる前記感応膜が形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の検出センサ。
【請求項9】
前記電極が、前記振動子を規定の振動モードで振動させたときに振幅の腹となる部分に形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の検出センサ。
【請求項10】
前記駆動部は、外部から電気信号が入力されることで振動を生じるとともに、当該振動を前記振動子に伝達する駆動素子を備え、
前記振動子は、前記駆動素子から伝達される前記振動に共振して発振することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の検出センサ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の検出センサを用いた物質の検出方法であって、
前記振動子上の前記感応膜に物質が吸着したときの、前記振動子に生じた振動数の変化を検出するステップと、
前記感応膜に吸着した物質によって前記電極間に生じた抵抗または導電率の変化を測定するステップと、
を備えることを特徴とする物質検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−203008(P2011−203008A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68536(P2010−68536)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】