説明

検出対象物質測定装置および当該検出対象物質測定装置を用いた検出対象物質測定方法

【課題】簡易な構成で、高速かつ高感度な測定を可能とする。
【解決手段】検出対象物質測定装置1は、検出対象物質を検出する複数の酵素センサ10と、複数の酵素センサ10のうち、検出対象物質に接触させていない基準センサによる検出値およびベースライン値と、検出対象物質に接触させた検出センサによる検出値およびベースライン値と、を取得する取得手段20と、取得手段20による取得結果に基づき検出対象物質の濃度を算出する濃度算出手段30と、を備え、取得手段20は、基準センサによる検出値と検出センサによる検出値とを同時に取得可能であり、濃度算出手段30は、取得手段20により取得された基準センサによる検出値とベースライン値との差に対する、取得手段20により取得された検出センサによる検出値とベースライン値との差の比に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象物質測定装置および当該検出対象物質測定装置を用いた検出対象物質測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の検出対象物質を検出するバイオセンサが知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。具体的には、このようなセンサとしては、例えば、有機リン系農薬やカーバメート系農薬等がコリンエステラーゼ等の酵素の活性を阻害することを利用して、食品中の有機リン系農薬やカーバメート系農薬等の検出対象物質を検出する酵素センサが知られている。
【0003】
酵素センサは、感度や選択性には優れているものの、温度やpH等の外部環境の変化の影響を受け易い。また、酵素センサは、酵素活性の低下等の劣化が生じ易い。
そのため、例えば、検出結果に影響を与える雰囲気状態の変動を検知して補正用電気信号を出力する補正用電極(基質濃度検知電極、pH電極、温度センサ、電気伝導度計測用電極)を設けることにより検出結果を補正することのできる被検知物質測定装置が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
また、例えば、表面に固定化酵素膜が設けられた下地電極の活性低下を検出するため下地電極間に所定電圧波形を印加する電圧波形印加手段と、下地電極間に生ずる電気信号に基づいて所定の特徴データを生成する特徴データ生成手段と、下地電極の活性が十分に維持されている状態において前記所定電圧波形を印加したときの特徴データを保持する活性時特徴データ保持手段と、特徴データ生成手段によって生成された特徴データと活性時特徴データ保持手段に保持された活性時の特徴データとに基づいて下地電極の活性低下を判別する判別手段とを具備するバイオセンサの電極活性低下状態検出装置も提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−524021号公報
【特許文献2】特表2000−500380号公報
【特許文献3】特開2006−087303号公報
【特許文献4】特開2005−308720号公報
【特許文献5】特開2005−241537号公報
【特許文献6】特開平6−213856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献5に記載の装置において、検出結果をより正確に補正するためには、検出結果に影響を与える雰囲気状態の変動に関する情報として温度やpH等の複数種類の情報を得る必要がある。そして、そのためには、複数種類の補正用電極を備えなければならず、煩わしいという問題がある。
また、特許文献6に記載の装置では、下地電極の活性が十分に維持されている状態における特徴データを予め取得しておく必要があるため、煩わしいという問題がある。
【0006】
本発明の課題は、簡易な構成で、高速かつ高感度な測定が可能な検出対象物質測定装置および当該検出対象物質測定装置を用いた検出対象物質測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、検出対象物質測定装置において、
検出対象物質を検出する複数の酵素センサと、
前記複数の酵素センサのうち、前記検出対象物質に接触させていない基準センサによる検出値およびベースライン値と、前記検出対象物質に接触させた検出センサによる検出値およびベースライン値と、を取得する取得手段と、
前記取得手段による取得結果に基づき前記検出対象物質の濃度を算出する濃度算出手段と、を備え、
前記取得手段は、前記基準センサによるベースライン値と前記検出センサによるベースライン値とを同時に取得可能であるとともに、前記基準センサによる検出値と前記検出センサによる検出値とを同時に取得可能であり、
前記濃度算出手段は、前記取得手段により取得された前記基準センサによる検出値とベースライン値との差に対する、前記取得手段により取得された前記検出センサによる検出値とベースライン値との差の比に基づいて、前記検出対象物質の濃度を算出することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の検出対象物質測定装置において、
前記濃度算出手段は、前記取得手段により取得された前記基準センサによるベースライン値と前記検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲内である場合、前記取得手段により取得された前記基準センサによる検出値に対する、前記取得手段により取得された前記検出センサによる検出値の比に基づいて、前記検出対象物質の濃度を算出することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、検出対象物質測定装置において、
検出対象物質を検出する複数の酵素センサと、
前記複数の酵素センサのうち、前記検出対象物質に接触させていない基準センサによる検出値と、前記検出対象物質に接触させた検出センサによる検出値と、を取得する取得手段と、
前記取得手段による取得結果に基づき前記検出対象物質の濃度を算出する濃度算出手段と、を備え、
前記取得手段は、前記基準センサによる検出値と前記検出センサによる検出値とを同時に取得可能であり、
前記濃度算出手段は、前記取得手段により取得された前記基準センサによる検出値に対する、前記取得手段により取得された前記検出センサによる検出値の比に基づいて、前記検出対象物質の濃度を算出することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の検出対象物質測定装置において、
前記検出対象物質は、前記酵素センサが備える酵素の活性を阻害する物質であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、酵素の活性を阻害する物質を検出対象物質として、請求項1に記載の検出対象物質測定装置により当該検出対象物質の濃度を測定する検出対象物質測定方法において、
前記検出センサを得るために、前記複数の酵素センサのうち一部の酵素センサを前記検出対象物質に接触させる第1接触ステップと、
次いで、前記第1接触ステップにより得られた前記検出センサと、前記複数の酵素センサのうちの前記基準センサと、を同一環境下に配置する配置ステップと、
次いで、前記基準センサと前記検出センサとを同一環境下に配置した状態のまま、前記取得手段によって、当該基準センサによるベースライン値を取得するとともに、当該検出センサによるベースライン値を取得するベースライン値取得ステップと、
次いで、前記基準センサと前記検出センサとを同一環境下に配置した状態のまま、当該基準センサと当該検出センサとを前記酵素の基質に接触させる第2接触ステップと、
次いで、前記基準センサと前記検出センサとを同一環境下に配置した状態のまま、前記取得手段によって、当該基準センサによる検出値を取得するとともに、当該検出センサによる検出値を取得する検出値取得ステップと、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、劣化等に伴うセンサ間のばらつきの影響を吸収できるので、同一の酵素センサを用いて検出対象物質との接触前後における検出値を取得する必要がなくなる。また、基準センサによる検出値と検出センサによる検出値とを同時に取得するので、測定時間を短縮することが可能となる。
また、温度やpH等の外部環境の変化の影響も吸収できるので、高価で複雑な機構やシステムを用いて外部環境を一定に保つ必要がなく、また、測定のための複雑な調整等も必要ないので、簡易な測定が可能となる。
したがって、簡易な構成で、高速かつ高感度な測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の検出対象物質測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】(a)実施形態の酵素センサの構成の一例を示す模式図、(b)実施形態の酵素センサの要部の構成の一例を示す模式図である。
【図3】実施形態の酵素センサによって、電気化学的計測法により検出対象物質(農薬)の濃度を測定する原理について説明するための図である。
【図4】検出対象物質(アルジカルブ)の濃度が0ppbである場合の応答電流値の測定結果を示す図である。
【図5】検出対象物質(アルジカルブ)の濃度が10ppbである場合の応答電流値の測定結果を示す図である。
【図6】検出対象物質(アルジカルブ)の濃度が100ppbである場合の応答電流値の測定結果を示す図である。
【図7】検出対象物質(アルジカルブ)の濃度が1ppmである場合の応答電流値の測定結果を示す図である。
【図8】(a)図4〜図7の結果をまとめた図、(b)図4〜図7の結果に基づいて作成した検出対象物質(アルジカルブ)の濃度と阻害率との関係を示す図である。
【図9】検出対象物質(ジクロルボス)の濃度が100ppmである場合の応答電流値の測定結果を示す図であって、(a)温度が25℃の場合の図、(b)温度が60℃の場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照して、本発明の実施形態を説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0015】
[検出対象物質測定装置]
まず、本実施形態の検出対象物質測定装置1の構成について説明する。
検出対象物質測定装置1は、有機リン系農薬やカーバメート系農薬等の検出対象物質を、当該検出対象物質がコリンエステラーゼ等の酵素の活性を阻害することを利用して電気化学的計測法により検出し、当該検出結果に基づいて検出対象物質の濃度を測定する装置である。
【0016】
図1は、検出対象物質測定装置1の構成の一例を示すブロック図である。
検出対象物質測定装置1は、図1に示すように、主に、複数の酵素センサ10と、複数の酵素センサ10と接続する取得手段20と、取得手段20と接続する濃度算出手段30と、を備えて構成される。
【0017】
本実施形態の検出対象物質測定装置1が備える酵素センサ10は、有機リン系農薬やカーバメート系農薬等の検出対象物質を検出するためのセンサである。
図2(a)は、酵素センサ10の構成の一例を示す模式図であり、図2(b)は、酵素センサ10の要部(具体的には、液溜形成部14および絶縁膜15を除いた部分)の構成の一例を示す模式図である。
酵素センサ10は、図2(a),(b)に示すように、主に、基板11と、基板11上に形成された電極12(作用電極121、対電極122および参照電極123)と、作用電極121上に形成された酵素含有部13と、酵素含有部13の周囲に液溜を形成するための液溜形成部14と、電極12からの配線を保護するための絶縁膜15と、を備えて構成される。
【0018】
基板11は、例えば、シリコン、セラミックス、ガラス、プラスチック、紙、生分解性材料(例えば、微生物生産ポリエステル等)等からなる絶縁性基板である。
【0019】
電極12は、例えば、スクリーン印刷によって基板11上に作製されたカーボン電極である。
なお、電極12は、カーボン電極に限定されるものではなく、電極12の材質は、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、さらには、白金、金、銀、ニッケル、バラジウム、鉄、銅等の金属、或いは、これらをカーボンや樹脂へ混ぜ込んだもの、多孔質にしたもの等、適宜任意に変更可能である。
また、酵素センサ10の電極方式は、作用電極と対電極と参照電極との三極方式に限定されるものではなく、作用電極と対電極との二極方式であっても良い。
また、電極12は、スクリーン印刷によって作製されたものに限定されるものではなく、電極12の作製方法は適宜任意に変更可能である。具体的には、電極12は、例えば、蒸着法、スパッタリング法等によって作製することも可能である。
【0020】
また、作用電極121、対電極122および参照電極123の大きさ、形状、構成には、特に制限はない。
具体的には、例えば、これらの電極は、市販の電解セル、測定セル等で使用する大きな電極であっても良いし、ディスク電極、回転リングディスク電極、ファイバー電極等であっても良いし、例えば、フォトリソグラフィー等の公知の微細加工技術により作製した微小電極(円盤電極、円筒電極、帯状電極、配列帯状電極、配列円盤電極、リング電極、球状電極、櫛型電極、ペア電極等)であっても良い。また、作用電極121、対電極122および参照電極123はそれぞれ同じ大きさ、形状、構成であっても良いし、異なる大きさ、形状、構成であっても良い。
【0021】
酵素含有部13は、有機リン系農薬やカーバメート系農薬等の検出対象物質によって活性が阻害される酵素として、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)やブチリルコリンエステラーゼ(BChE)等のコリンエステラーゼを含有している。
酵素含有部13は、例えば、ポリビニルアルコール樹脂等の所定の樹脂に酵素を添加し、それを作用電極121上に塗布することによって形成される。
なお、作用電極121上に酵素を固定する手法は、酵素が添加された所定の樹脂を作用電極121上に塗布する手法に限定されるものではなく、適宜任意に変更可能である。具体的には、例えば、作用電極121上に配設された多孔体が有する細孔の内部に酵素を固定化する手法等であっても良い。
また、酵素含有部13は、酵素に加えて、酵素と電極(作用電極121)との間の電子の受け渡しを促進するための電子伝達物質や、酵素の活性の発現を触媒するための補酵素等を含有していても良い。
【0022】
液溜形成部14は、電極12を露出するための開口部14aを有するカバー部材である。基板11の電極12が形成された側の面上に液溜形成部14を配置した状態(すなわち、図2(a)の状態)において、開口部14aは、窪みとなるため、そこに液体(例えば、検出対象物質を含む試料液)を溜めることができる。
【0023】
ここで、本実施形態の酵素センサ10によって、電気化学的計測法により検出対象物質の濃度を測定する原理について、図3を参照して説明する。
酵素センサ10を所定の液体に浸漬させた状態で当該液体に基質(アセチルチオコリン(或いは、ブチリルチオコリン))を添加したり、基質(アセチルチオコリン(或いは、ブチリルチオコリン))を含む液体に酵素センサ10を浸漬させたりして、酵素センサ10を基質に接触させると、図3に示すように、酵素センサ10の酵素(コリンエステラーゼ)は、選択的触媒作用により基質を分解して、チオコリンを生成する。なお、酵素センサ10の酵素含有部13がTCNQ(テトラシアノキノジメタン)等の電子伝達物質を含有していない場合には、例えば、酵素センサ10が浸漬している液体にTCNQ等の電子伝達物質を添加しても良い(酵素センサ10が浸漬する前に添加しても良いし、浸漬した後に添加しても良い)。
【0024】
次いで、作用電極121を正にして、作用電極121と参照電極123との間に電圧を印加することにより酵素センサ10が浸漬している液体に対して電圧を印加すると、チオコリンは、電子伝達物質を介して間接的に電子(e)を作用電極121に渡し、ジチオビスコリンになる。この際、作用電極121と対電極122との間には、還元型の電子伝達物質を再酸化する電流が流れる。当該電流の値(以下「応答電流値」と称する。)は、酵素の活性に比例するため、応答電流値を測定することにより、その測定された応答電流値から酵素の活性を求めることができる。
【0025】
有機リン系農薬は、コリンエステラーゼ等の酵素に不可逆的に、また、カーバメート系農薬は、コリンエステラーゼ等の酵素に可逆的に結合して、触媒作用(活性)を阻害する。
そのため、検出対象物質に接触させていない酵素センサ10における酵素の活性と、検出対象物質に接触させた酵素センサ10における酵素の活性と、を比較して、検出対象物質によって酵素の活性が阻害されることに伴い生じる酵素の活性の低下度合いから、試料液中の検出対象物質の濃度を測定することができる。
【0026】
具体的には、例えば、検出対象物質に接触させていない酵素センサ10の応答電流値と、検出対象物質に接触させた酵素センサ10の応答電流値と、を測定して、検出対象物質によって酵素の活性が阻害されることに伴い生じる応答電流値の低下度合いを求める。そして、検出対象物質の濃度と応答電流値の低下度合いとの関係を示す検量線等を参照して、当該求めた応答電流値の低下度合いから、試料液中の検出対象物質の濃度を算出することができる。
なお、検出対象物質に接触させた酵素センサ10は、酵素センサ10の液溜(すなわち、電極12上に配置された液溜形成部14の開口部14a内)に検出対象物質を含む試料液を滴下したり、検出対象物質を含む試料液に酵素センサ10を浸漬させたりすることによって得ることができる。
【0027】
ここで、酵素センサは、酵素活性の低下等の劣化が生じ易い。
したがって、従来は、劣化等に伴うセンサ間のばらつきの影響を抑えるために、同一の酵素センサを用いて検出対象物質との接触前後における応答電流値を測定することによって、検出対象物質に接触させていない酵素センサの応答電流値と、検出対象物質に接触させた酵素センサの応答電流値と、を測定していた。
しかしながら、センサ間のばらつきの影響を抑えるために同一の酵素センサを用いて検出対象物質との接触前後における応答電流値を測定すると、応答電流値の測定を続けて2回行う必要があるため、測定に時間がかかるという問題がある。
【0028】
また、酵素センサは、感度や選択性には優れているものの、温度やpH等の外部環境の変化の影響を受け易い。
したがって、従来は、温度やpH等の外部環境の変化の影響を抑えるために、ペルチェ素子等を用いて周囲の温度を一定に保ったり緩衝液等でpHを一定に保ったりしながら応答電流値を測定していた。
しかしながら、ペルチェ素子等を用いて周囲の温度を一定に保ったり緩衝液等でpHを一定に保ったりしながら応答電流値を測定するには、高価で複雑な機構やシステムが必要であり、また、測定のための複雑な調整等が必要であるという問題がある。
【0029】
そこで、本実施形態では、基準センサ、すなわち検出対象物質に接触させていない酵素センサ10と、検出センサ、すなわち検出対象物質に接触させた酵素センサ10と、を用意して、基準センサの応答電流値と検出センサの応答電流値とを同一環境下で同時に測定する。そして、基準センサの応答電流値に対する検出センサの応答電流値の比を応答比として算出し、検出対象物質の濃度と応答比との関係を示す検量線を参照して、当該算出した応答比から検出対象物質の濃度を算出することとする。
【0030】
これにより、劣化等に伴うセンサ間のばらつきの影響を吸収できるので、同一の酵素センサを用いて検出対象物質との接触前後における応答電流値を測定する必要がなくなる。また、基準センサの応答電流値と検出センサの応答電流値とを同時に測定するので、従来の場合(すなわち、同一の酵素センサを用いて検出対象物質との接触前後における応答電流値を測定する場合)と比較して、測定時間を約半分に短縮することが可能となる。
また、温度やpH等の外部環境の変化の影響も吸収できるので、高価で複雑な機構やシステムを用いて外部環境を一定に保つ必要がなく、また、測定のための複雑な調整等も必要ないので、簡易な測定が可能となる。
【0031】
本実施形態の検出対象物質測定装置1が備える取得手段20は、図1に示すように、複数の取得部(本実施形態の場合、第1取得部21および第2取得部22)を備えている。
取得部(第1取得部21、第2取得部22)は、酵素センサ10が有する電極12(作用電極121、対電極122、参照電極123)からの配線と接続する接続部(本実施形態の場合、接続部21aおよび接続部22a)を有しており、当該接続部を介して各酵素センサ10と接続している。
【0032】
具体的には、取得部(第1取得部21、第2取得部22)は、例えば、酵素センサ10の応答電流値を取得するためのポテンショスタット等からなり、定電圧計や電流計測器等を有している。そして、例えば、酵素をコリンエステラーゼとし、基質をアセチルチオコリン(或いは、ブチリルチオコリン)とした場合、取得部は、酵素反応により生成されるチオコリンを、電子伝達物質を用いて電極(作用電極121)上で酸化することによる酸化電流を検出する。
【0033】
ここで、本実施形態において、取得手段20は、例えば図4等に示すように、複数の取得部を用いて、基質との接触前から基質との接触後までの間の基準センサの応答電流値と、基質との接触前から基質との接触後までの間の検出センサの応答電流値と、を同時に取得するように構成されている。
以下、基質との接触直前の応答電流値をベースライン値と称し、基質に接触してから所定時間(例えば、200秒または400秒)が経過した後の応答電流値を検出値と称する。
なお、取得手段20が備える取得部の個数は、複数であれば適宜任意に変更可能である。
【0034】
本実施形態の検出対象物質測定装置1が備える濃度算出手段30は、図1に示すように、取得手段20が備える複数の取得部と接続している。
濃度算出手段30は、取得手段20による取得結果に基づき検出対象物質の濃度を算出するように構成されている。
【0035】
具体的には、濃度算出手段30は、取得手段20(具体的には、取得手段20が備える取得部)により取得された基準センサによるベースライン値と、検出センサによるベースライン値と、を比較する。
そして、濃度算出手段30は、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲内である場合には、取得手段20(具体的には、取得手段20が備える取得部)により取得された基準センサによる検出値に対する検出センサによる検出値の比を応答比として算出し、当該応答比に基づいて、濃度算出手段30に予め記憶されている検量線(具体的には、例えば、検出対象物質の濃度と応答比との関係を示す検量線)等を参照して、検出対象物質の濃度を算出する。
【0036】
一方、濃度算出手段30は、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲外である場合には、取得手段20(具体的には、取得手段20が備える取得部)により取得された基準センサによるベースライン値に対する基準センサによる検出値の増加分、すなわち基準センサによるベースライン値と基準センサによる検出値との差を算出するとともに、検出センサによるベースライン値に対する検出センサによる検出値の増加分、すなわち検出センサによるベースライン値と検出センサによる検出値との差を算出する。そして、基準センサにおける差(ベースライン値と検出値との差)に対する検出センサにおける差(ベースライン値と検出値との差)の比を応答比として算出し、当該応答比に基づいて、濃度算出手段30に予め記憶されている検量線(具体的には、例えば、検出対象物質の濃度と応答比との関係を示す検量線)等を参照して、検出対象物質の濃度を算出する。
【0037】
ここで、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲外となる場合とは、例えば、基準センサとなった酵素センサ10と検出センサとなった酵素センサ10との間の応答出力の大きさ、或いは、ばらつきが大きい場合である。センサ間のばらつきは、劣化の度合い、酵素の種類や固定化法、酵素含有部13の厚み等が異なることで生じる。
検出値にはベースライン値が含まれているので、検出センサによるベースライン値が基準センサによるベースライン値と大きく異なる場合、検出値をそのまま使用して応答比を算出しても、正確な応答比を算出することはできない。そこで、本実施形態では、前述したように、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲外である場合には、検出センサにおけるベースライン値からの応答電流増加分と、基準センサにおけるベースライン値からの応答電流増加分と、を算出して、これらの比を応答比として算出することで、正確な応答比の算出を可能としている。
【0038】
したがって、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が、検出値をそのまま使用して応答比を算出しても正確な応答比を算出できない程度の差である場合を、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲外となる場合とする。また、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値とが同一である場合や、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が検出値をそのまま使用して応答比を算出しても正確な応答比を算出できる程度の差である場合を、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲内となる場合とする。
【0039】
[検出対象物質測定方法]
次に、検出対象物質測定装置1を用いた、試料液中の検出対象物質の濃度を測定する測定方法の一例について説明する。
【0040】
まず、検出センサを得るために、複数の酵素センサ10のうち一部の酵素センサ10を検出対象物質に接触させる(第1接触ステップ)。具体的には、例えば、酵素センサ10の液溜に検出対象物質を含む試料液を滴下したり、検出対象物質を含む試料液に酵素センサ10を浸漬させたりすることによって、酵素センサ10を検出対象物質に接触させる。
次いで、検出センサ、すなわち検出対象物質に接触させた酵素センサ10を洗浄する(洗浄ステップ)。なお、この洗浄ステップでは、基準センサ、すなわち検出対象物質に接触させていない酵素センサ10も洗浄しても良い。
【0041】
次いで、第1接触ステップにより得られた検出センサ、すなわち検出対象物質に接触させた酵素センサ10と、複数の酵素センサ10のうちの基準センサ、すなわち検出対象物質に接触させていない酵素センサ10と、を同一環境下に配置する(配置ステップ)。具体的には、例えば、並んで配置された複数の容器それぞれに同一の液体を入れ、複数の容器のうち一部の容器に入っている液体に検出センサを浸漬させるとともに、複数の容器のうち他の一部の容器に入っている液体に基準センサを浸漬させる。
【0042】
次いで、基準センサと検出センサとを同一環境下に配置した状態のまま、取得手段20によって、当該基準センサの応答電流値の測定と当該検出センサの応答電流値の測定とを開始する(測定開始ステップ)。
次いで、基準センサと検出センサとを同一環境下に配置した状態のまま、所定のタイミング(具体的には、例えば、基準センサの応答電流値と検出センサの応答電流値とが安定したタイミング)で、当該基準センサと当該検出センサとを基質に接触させる(第2接触ステップ)。具体的には、例えば、基準センサが浸漬している液体と検出センサが浸漬している液体とに基質を添加したり、基質を含む液体に基準センサと検出センサとを浸漬させたりすることによって、基準センサと検出センサとを基質に接触させる。
なお、基質に接触させる直前における基準センサおよび検出センサの応答電流値が、それぞれ基準センサおよび検出センサによるベースライン値になるので、測定開始ステップと第2接触ステップとの間に、取得手段20によって、基準センサによるベースライン値が取得されるとともに検出センサによるベースライン値が取得される(ベースライン値取得ステップ)。
【0043】
そして、所定のタイミング(具体的には、例えば、基質に接触させてから所定時間(例えば、200秒または400秒)が経過するよりも後のタイミング)で、取得手段20による応答電流値の測定を終了する(測定終了ステップ)。
なお、基質に接触させてから所定時間(例えば、200秒または400秒)が経過した後の基準センサおよび検出センサの応答電流値が、それぞれ基準センサおよび検出センサによる検出値になるので、第2接触ステップと測定終了ステップとの間に、取得手段20によって、基準センサによる検出値が取得されるとともに検出センサによる検出値が取得される(検出値取得ステップ)。
【0044】
次いで、濃度算出手段30によって、ベースライン値取得ステップで取得した基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値とを比較する(比較ステップ)。
そして、濃度算出手段30は、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲内である場合には、検出値取得ステップで取得した基準センサによる検出値に対する検出センサによる検出値の比を応答比として算出する(第1応答比算出ステップ)。
一方、濃度算出手段30は、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲外である場合には、検出値取得ステップで取得した基準センサによる検出値とベースライン値取得ステップで取得した基準センサによるベースライン値との差を算出するとともに、検出値取得ステップで取得した検出センサによる検出値とベースライン値取得ステップで取得した検出センサによるベースライン値との差を算出して、基準センサにおける差に対する検出センサにおける差の比を応答比として算出する(第2応答比算出ステップ)。
【0045】
次いで、濃度算出手段30によって、第1応答比算出ステップまたは第2応答比算出ステップで算出した応答比に基づき濃度検出対象物質の濃度を算出する(濃度算出ステップ)。
これにより、検出対象物質測定装置1を用いて、試料液中の検出対象物質の濃度を測定することができる。
ここで、検出対象物質測定装置1によるセンシング方法としては、電気化学的計測法を用いることができる。すなわち、酸化電流又は還元電流を測定するクロノアンペロメトリー法、クーロメトリー法、サイクリックボルタンメトリー法等の公知の計測法を適用することが可能である。測定方式としては、デスポーザブル方式、バッチ方式、フローインジェクション方式等、何れであっても良い。
なお、“第1接触ステップ”を“測定開始ステップ”と同時に実行してもよい。すなわち、検出対象物質を一部の酵素センサ10へ接触させると同時に測定を開始し、一定時間後に基質の滴下(第2接触ステップ)を実行してもよい。なお、この場合は“洗浄ステップ”を省略することとなる。
【0046】
以下、具体的な実施例によって本発明を説明するが、発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
実施例1では、検出対象物質として、アルジカルブ(カーバメート系農薬)を用いた。
まず、複数の酵素センサ10を用意した。
酵素センサ10は、基板11上に電極12としてスクリーン印刷によりカーボン電極を作製し、その上に液溜形成部14と絶縁膜15とを配設し、液溜形成部14の開口部14aから露出している作用電極121上に酵素(コリンエステラーゼ)を含む架橋型ポリビニルアルコール樹脂を塗布することによって作製した。
【0048】
次いで、用意した複数の酵素センサ10の中から、ロットが異なる2つの酵素センサ10を選び、この2つの酵素センサ10を、アルジカルブを含まない液体に浸漬させて3分間インキュベーションし、その後、リン酸緩衝液に浸漬させた。
次いで、この2つの酵素センサ10にそれぞれ+100mVを印加して、応答電流値の測定を開始した。
次いで、応答電流値が安定した後、この2つの酵素センサ10が浸漬している各リン酸緩衝液に濃度1mMの基質溶液を滴下した。
その結果を、図4に示す。なお、図4では、便宜上、2つの酵素センサ10を基準センサと検出センサとに分けているが、図4の場合、2つの酵素センサ10は両方とも検出対象物質を含む液体に浸漬させたものではないので、実際には2つの酵素センサ10は両方とも基準センサである。
【0049】
図4に示すように、2つの酵素センサ10は、両方とも検出対象物質を含む液体に浸漬させていない基準センサであるにもかかわらず、応答電流値に差が生じていることが分かる。
これは、2つの酵素センサ10はロットが異なるので、センサ間のばらつき(具体的には、劣化の度合いや酵素含有部13の厚み等が異なること)が原因と考えられる。
【0050】
次に、用意した複数の酵素センサ10の中から、ロットが異なる2つの酵素センサ10を選び、この2つの酵素センサ10の一方を、アルジカルブを含まない液体に浸漬させて3分間インキュベーションし、その後、リン酸緩衝液に浸漬させた。また、この2つの酵素センサ10の他方を、アルジカルブの濃度が10ppbの試料液に浸漬させて3分間インキュベーションし、その後、リン酸緩衝液に浸漬させた。
次いで、この2つの酵素センサ10(基準センサおよび検出センサ)にそれぞれ+100mVを印加して、応答電流値の測定を開始した。
次いで、応答電流値が安定した後、この2つの酵素センサ10(基準センサおよび検出センサ)が浸漬している各リン酸緩衝液に濃度1mMの基質溶液を滴下した。その結果を、図5に示す。
【0051】
また、用意した複数の酵素センサ10の中から、ロットが異なる2つの酵素センサ10を選び、この2つの酵素センサ10の一方を、アルジカルブを含まない液体に浸漬させて3分間インキュベーションし、その後、リン酸緩衝液に浸漬させた。また、この2つの酵素センサ10の他方を、アルジカルブの濃度が100ppbの試料液に浸漬させて3分間インキュベーションし、その後、リン酸緩衝液に浸漬させた。
次いで、この2つの酵素センサ10(基準センサおよび検出センサ)にそれぞれ+100mVを印加して、応答電流値の測定を開始した。
次いで、応答電流値が安定した後、この2つの酵素センサ10(基準センサおよび検出センサ)が浸漬している各リン酸緩衝液に濃度1mMの基質溶液を滴下した。その結果を、図6に示す。
【0052】
また、用意した複数の酵素センサ10の中から、ロットが異なる2つの酵素センサ10を選び、この2つの酵素センサ10の一方を、アルジカルブを含まない液体に浸漬させて3分間インキュベーションし、その後、リン酸緩衝液に浸漬させた。また、この2つの酵素センサ10の他方を、アルジカルブの濃度が1ppmの試料液に浸漬させて3分間インキュベーションし、その後、リン酸緩衝液に浸漬させた。
次いで、この2つの酵素センサ10(基準センサおよび検出センサ)にそれぞれ+100mVを印加して、応答電流値の測定を開始した。
次いで、応答電流値が安定した後、この2つの酵素センサ10(基準センサおよび検出センサ)が浸漬している各リン酸緩衝液に濃度1mMの基質溶液を滴下した。その結果を、図7に示す。
【0053】
図5〜図7に示す基準センサの応答電流値を比較すると、3つとも検出対象物質を含む液体に浸漬させていない基準センサであるにもかかわらず、応答電流値に差が生じていることがわかる。
これは、各測定時における外部環境の違いや、ロット間のばらつき等が原因と考えられる。
このように、基準センサの応答電流値が測定毎に異なるので、本実施例のように、センサ間にばらつきがある酵素センサ10を用いた場合や、外部環境を一定に保つことなく測定を行った場合には特に、従来のように、単に、検出対象物質によって酵素の活性が阻害されることに伴い生じる応答電流値の低下度合いを求めるだけでは、正確な濃度測定は困難であることが分かった。
【0054】
次に、図4〜図7の結果に基づいて、基準センサおよび検出センサによる検出値(具体的には、基質に接触させてから200秒後の応答電流値)と、応答比と、検出対象物質である農薬(アルジカルブ)の酵素活性の阻害率と、を求めた。その結果を、図8(a)に示す。また、求めた阻害率と、検出対象物質である農薬(アルジカルブ)の濃度と、の関係を示す図を図8(b)に示す。
なお、図4〜図7において、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差は、所定の許容範囲内であるとする。
応答比は、応答比=(検出センサによる検出値)/(基準センサによる検出値)により算出できる。
また、阻害率は、阻害率(%)=100×((1−応答比)/(検出対象物質濃度0ppbにおける応答比))により算出できる。
【0055】
図8(a),(b)に示す結果から、センサ間にばらつきがある酵素センサ10を用いて、外部環境を一定に保つことなく測定を行ったにもかかわらず、基準センサと検出センサとを同一環境下に配置した状態で当該基準センサの応答電流値と当該検出センサの応答電流値とを測定し、それに基づく応答比を求めるだけで、センサ間のばらつきの影響や外部環境の変化の影響等を吸収でき、信頼性のある再現性の良い測定が可能であることが分かった。また、異なる酵素センサ10を用いて、同様の測定を行い、図8(b)と同様のグラフを作成したところ、再現性も良好であることが分かった。
【0056】
(実施例2)
実施例2では、検出対象物質として、ジクロルボス(有機リン系農薬)を用いた。
まず、複数の酵素センサ10を用意した。酵素センサの作製方法は、実施例1の場合と同様であるため省略する。
【0057】
次いで、用意した複数の酵素センサ10の中から、ロットが異なる2つの酵素センサ10を選び、この2つの酵素センサ10の一方を、ジクロルボスを含まない液体に浸漬させて3分間インキュベーションし、その後、温度を25℃に保ったリン酸緩衝液に浸漬させた。また、この2つの酵素センサ10の他方を、ジクロルボスの濃度が100ppbの試料液に浸漬させて3分間インキュベーションし、その後、温度を25℃に保ったリン酸緩衝液に浸漬させた。
次いで、この2つの酵素センサ10(基準センサおよび検出センサ)にそれぞれ+100mVを印加して、応答電流値の測定を開始した。
次いで、応答電流値が安定した後、この2つの酵素センサ10(基準センサおよび検出センサ)が浸漬しているリン酸緩衝液に濃度1mMの基質溶液を添加した。その結果を、図9(a)に示す。
【0058】
また、用意した複数の酵素センサ10の中から、ロットが異なる2つの酵素センサ10を選び、この2つの酵素センサ10の一方を、ジクロルボスを含まない液体に浸漬させて3分間インキュベーションし、その後、温度を60℃に保ったリン酸緩衝液に浸漬させた。また、この2つの酵素センサ10の他方を、ジクロルボスの濃度が100ppbの試料液に浸漬させて3分間インキュベーションし、その後、温度を60℃に保ったリン酸緩衝液に浸漬させた。
次いで、この2つの酵素センサ10(基準センサおよび検出センサ)にそれぞれ+100mVを印加して、応答電流値の測定を開始した。
次いで、応答電流値が安定した後、この2つの酵素センサ10(基準センサおよび検出センサ)が浸漬しているリン酸緩衝液に濃度1mMの基質溶液を添加した。その結果を、図9(b)に示す。
【0059】
図9(a),(b)に示す応答電流値を比較すると、温度によって、応答電流値やその変化の仕方が異なることが分かる。しかしながら、応答比、すなわち、基準センサによる検出値(基質に接触させてから400秒後の応答電流値)に対する検出センサによる検出値(基質に接触させてから400秒後の応答電流値)の比は、温度が25℃の場合は0.704で、温度が60℃の場合は0.709であった。つまり、温度が変化しても、応答比は変わらなかった。
これにより、基準センサと検出センサとを同一環境下に配置した状態で当該基準センサの応答電流値と当該検出センサの応答電流値とを測定し、それに基づく応答比を求めるだけで、温度等の外部環境の影響や、センサ間のばらつきの影響等を吸収でき、信頼性のある再現性の良い測定が可能であることが分かった。
【0060】
以上説明した本実施形態の検出対象物質測定装置1によれば、検出対象物質を検出する複数の酵素センサ10と、複数の酵素センサ10のうち、検出対象物質に接触させていない基準センサによる検出値およびベースライン値と、検出対象物質に接触させた検出センサによる検出値およびベースライン値と、を取得する取得手段20と、取得手段20による取得結果に基づき検出対象物質の濃度を算出する濃度算出手段30と、を備え、取得手段20は、基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値とを同時に取得可能であるとともに、基準センサによる検出値と検出センサによる検出値とを同時に取得可能であり、濃度算出手段30は、取得手段20により取得された基準センサによる検出値とベースライン値との差に対する、取得手段20により取得された検出センサによる検出値とベースライン値との差の比に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するように構成されている。
【0061】
このように構成することで、劣化等に伴うセンサ間のばらつきの影響を吸収できるので、同一の酵素センサを用いて検出対象物質との接触前後における応答電流値を測定、すなわち同一の酵素センサを用いて検出対象物質との接触前後における検出値を取得する必要がなくなる。また、基準センサの応答電流値と検出センサの応答電流値とを同時に測定、すなわち基準センサによる検出値と検出センサによる検出値とを同時に取得するので、測定時間を短縮することが可能となる。
また、温度やpH等の外部環境の変化の影響も吸収できるので、高価で複雑な機構やシステムを用いて外部環境を一定に保つ必要がなく、また、測定のための複雑な調整等も必要ないので、簡易な測定が可能となる。
したがって、簡易な構成で、高速かつ高感度な測定が可能となる。
【0062】
また、以上説明した本実施形態の検出対象物質測定装置1によれば、濃度算出手段30は、取得手段20により取得された基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲外である場合、取得手段20により取得された基準センサによる検出値とベースライン値との差に対する、取得手段20により取得された検出センサによる検出値とベースライン値との差の比に基づいて、検出対象物質の濃度を算出する一方、取得手段20により取得された基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲内である場合、取得手段20により取得された基準センサによる検出値に対する、取得手段20により取得された検出センサによる検出値の比に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するように構成されている。
【0063】
したがって、取得手段20により取得された基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲内である場合には、検出値とベースライン値との差を算出する必要がないため、より簡易な測定が可能となる。
【0064】
なお、取得手段20により取得された基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲内であるか否かにかかわらず、取得手段20により取得された基準センサによる検出値に対する、取得手段20により取得された検出センサによる検出値の比に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するように構成することも可能である。
また、取得手段20により取得された基準センサによるベースライン値と検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲内であるか否かにかかわらず、取得手段20により取得された基準センサによる検出値とベースライン値との差に対する、取得手段20により取得された検出センサによる検出値とベースライン値との差の比に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するように構成することも可能である。
【0065】
また、以上説明した本実施形態の検出対象物質測定装置1によれば、検出対象物質は、酵素センサ10が備える酵素の活性を阻害する物質である。
したがって、酵素センサ10が備える酵素の活性を阻害する物質の濃度を、簡易な構成で、高速かつ高精度に測定することが可能である。
【0066】
また、以上説明した本実施形態の検出対象物質測定方法によれば、酵素の活性を阻害する物質を検出対象物質として、検出対象物質測定装置1により当該検出対象物質の濃度を測定する検出対象物質測定方法において、検出センサを得るために、複数の酵素センサ10のうち一部の酵素センサ10を検出対象物質に接触させる第1接触ステップと、次いで、第1接触ステップにより得られた検出センサと、複数の酵素センサ10のうちの基準センサと、を同一環境下に配置する配置ステップと、次いで、基準センサと検出センサとを同一環境下に配置した状態のまま、取得手段20によって、当該基準センサによるベースライン値を取得するとともに、当該検出センサによるベースライン値を取得するベースライン値取得ステップと、次いで、基準センサと検出センサとを同一環境下に配置した状態のまま、当該基準センサと当該検出センサとを酵素の基質に接触させる第2接触ステップと、次いで、基準センサと検出センサとを同一環境下に配置した状態のまま、取得手段20によって、当該基準センサによる検出値を取得するとともに、当該検出センサによる検出値を取得する検出値取得ステップと、を有している。
【0067】
このように構成することで、劣化等に伴うセンサ間のばらつきの影響を吸収できるので、同一の酵素センサを用いて検出対象物質との接触前後における応答電流値を測定する必要がなくなる。また、基準センサの応答電流値と検出センサの応答電流値とを同時に測定、すなわち基準センサによる検出値と検出センサによる検出値とを同時に取得するので、測定時間を短縮することが可能となる。
また、温度やpH等の外部環境の変化の影響も吸収できるので、高価で複雑な機構やシステムを用いて外部環境を一定に保つ必要がなく、また、測定のための複雑な調整等も必要ないので、簡易な測定が可能となる。
したがって、簡易な構成で、高速かつ高感度な測定が可能となる。
【0068】
なお、本発明は、上記した実施の形態のものに限るものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0069】
酵素センサ10による電気化学的計測は、一つの基板上に形成した二極構造(作用電極121と対電極122)又は三極構造(作用電極121と対電極122と参照電極123)の電極を用いても良いし、独立した各電極(作用電極121、対電極122、参照電極123)を組み合わせて用いても良い。
【0070】
なお、検出対象物質は、酵素の活性を阻害する物質に限ることはなく、適宜任意に変更可能である。また、酵素も、検出対象物質に合わせて適宜任意に変更可能である。また、検出対象物質や酵素に合わせて、基質等も適宜任意に変更可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 検出対象物質測定装置
10 酵素センサ
20 取得手段
30 濃度算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物質を検出する複数の酵素センサと、
前記複数の酵素センサのうち、前記検出対象物質に接触させていない基準センサによる検出値およびベースライン値と、前記検出対象物質に接触させた検出センサによる検出値およびベースライン値と、を取得する取得手段と、
前記取得手段による取得結果に基づき前記検出対象物質の濃度を算出する濃度算出手段と、を備え、
前記取得手段は、前記基準センサによるベースライン値と前記検出センサによるベースライン値とを同時に取得可能であるとともに、前記基準センサによる検出値と前記検出センサによる検出値とを同時に取得可能であり、
前記濃度算出手段は、前記取得手段により取得された前記基準センサによる検出値とベースライン値との差に対する、前記取得手段により取得された前記検出センサによる検出値とベースライン値との差の比に基づいて、前記検出対象物質の濃度を算出することを特徴とする検出対象物質測定装置。
【請求項2】
前記濃度算出手段は、前記取得手段により取得された前記基準センサによるベースライン値と前記検出センサによるベースライン値との差が所定の許容範囲内である場合、前記取得手段により取得された前記基準センサによる検出値に対する、前記取得手段により取得された前記検出センサによる検出値の比に基づいて、前記検出対象物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1に記載の検出対象物質測定装置。
【請求項3】
検出対象物質を検出する複数の酵素センサと、
前記複数の酵素センサのうち、前記検出対象物質に接触させていない基準センサによる検出値と、前記検出対象物質に接触させた検出センサによる検出値と、を取得する取得手段と、
前記取得手段による取得結果に基づき前記検出対象物質の濃度を算出する濃度算出手段と、を備え、
前記取得手段は、前記基準センサによる検出値と前記検出センサによる検出値とを同時に取得可能であり、
前記濃度算出手段は、前記取得手段により取得された前記基準センサによる検出値に対する、前記取得手段により取得された前記検出センサによる検出値の比に基づいて、前記検出対象物質の濃度を算出することを特徴とする検出対象物質測定装置。
【請求項4】
前記検出対象物質は、前記酵素センサが備える酵素の活性を阻害する物質であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の検出対象物質測定装置。
【請求項5】
酵素の活性を阻害する物質を検出対象物質として、請求項1に記載の検出対象物質測定装置により当該検出対象物質の濃度を測定する検出対象物質測定方法において、
前記検出センサを得るために、前記複数の酵素センサのうち一部の酵素センサを前記検出対象物質に接触させる第1接触ステップと、
次いで、前記第1接触ステップにより得られた前記検出センサと、前記複数の酵素センサのうちの前記基準センサと、を同一環境下に配置する配置ステップと、
次いで、前記基準センサと前記検出センサとを同一環境下に配置した状態のまま、前記取得手段によって、当該基準センサによるベースライン値を取得するとともに、当該検出センサによるベースライン値を取得するベースライン値取得ステップと、
次いで、前記基準センサと前記検出センサとを同一環境下に配置した状態のまま、当該基準センサと当該検出センサとを前記酵素の基質に接触させる第2接触ステップと、
次いで、前記基準センサと前記検出センサとを同一環境下に配置した状態のまま、前記取得手段によって、当該基準センサによる検出値を取得するとともに、当該検出センサによる検出値を取得する検出値取得ステップと、
を有することを特徴とする検出対象物質測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−53926(P2013−53926A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192318(P2011−192318)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム委託研究に基づく特許出願
【出願人】(505303059)株式会社船井電機新応用技術研究所 (108)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)