説明

検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法、検査チップ、検出セット、プローブ保持基板および電極基板

【課題】被検物質の大きさによらずに被検物質を良好に検出することができ、さらに作用電極の再利用を再利用することができる、検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法、検査チップ、検出セット、プローブ保持基板および電極基板を提供する。
【解決手段】作用電極51を備えた電極基板20と、対極53と、被検物質またはこの被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質を捕捉するためのプローブを基板本体30a上に有するプローブ保持基板30とを用い、電極基板20とプローブ保持基板30とを、所定の間隙を介して対向配置させる。そして、プローブ保持基板30に被検物質を捕捉させた後、少なくとも標識物質を作用電極51に誘引させ、電気化学的に検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法、検査チップ、検出セット、プローブ保持基板および電極基板に関する。より詳しくは、被検物質の検出または定量などや、これらを利用する疾病の臨床検査、診断などに有用な、検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法、検出セット、プローブ保持基板および電極基板に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病の臨床検査や診断は、生体試料中に含まれる前記疾病に関連する遺伝子やタンパク質などを、遺伝子検出法や免疫学的検出法などの検出方法によって検出することにより行なわれている。前記検出方法としては、例えば、イムノクロマトグラフィー法、ラテックス凝集法、酵素免疫法、化学発光免疫法、PCR法などが挙げられる。
しかしながら、これらの検出方法は、検出感度、定量性、測定レンジ、操作の簡易性および迅速性のいずれかの点からも、改善の余地がある。
【0003】
検出感度、定量性、簡易性などを向上させることを目的として、光化学的に活性な標識物質を光励起させることにより生じる電流や、電気化学的に活性な標識物質の電圧印加により生じる光または電流を、遺伝子やタンパク質などの被検物質の検出に利用する方法(電気化学的検出方法)が提案されている(例えば、特許文献1〜4などを参照)。
【0004】
前記特許文献1には、光化学的に活性な増感色素で標識された標識被検物質に光を照射し、当該標識被検物質中に含まれる増感色素が光励起して生じる電流を測定することにより、被検物質を検出すること(以下、「光電気化学検出」)が記載されている。前記特許文献1に記載の方法では、前記標識被検物質と、この標識被検物質に直接的または間接的に結合可能な捕捉物質を表面に備えた作用電極とを接触させる。これにより、当該標識被検物質を、前記捕捉物質を介して作用電極に固定させる。つぎに、この作用電極および対電極を電解質媒体に接触させ、前記作用電極に固定化された標識被検物質に光を照射して前記増感色素を光励起させる。その後、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を測定することにより、被検物質が特異的に検出される。
【0005】
また、前記特許文献2には、目的遺伝子の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸からなるプローブが表面に固定化された電極と、二本鎖核酸に特異的に結合し、かつ電気化学的に活性な標識物質を含む二本鎖認識物質とを用いる遺伝子検出法が開示されている。前記特許文献2に記載の方法では、一本鎖に変性された核酸を含む試料とプローブと二本鎖認識物質とを接触させる。そして、目的遺伝子に対応する核酸とプローブとのハイブリダイゼーションにより形成された、二本鎖核酸に結合した二本鎖認識物質に含まれる標識物質に基づく酸化還元電流や電気化学発光を測定することにより、目的遺伝子が検出される。
【0006】
前記特許文献3には、導電層および電子受容層を備えている作用電極と、電子受容層上に固定されたプローブと、対極と、還元電極とを備えた検査チップを用いて、被検物質を電気化学的に検出することが記載されている。前記特許文献3に記載の方法では、検査チップの還元電極に電位を印加することによって電解質の還元反応を促進する。これにより、作用電極と対極との間を流れる電流が増大するので、被検物質の検出感度が向上する。
【0007】
前記特許文献4には、作用電極の半導体層上に形成された金属層に固定されたプローブにより標識物質で標識された被検物質を捕捉し、電気化学的に検出する方法が記載されている。前記特許文献4に記載の方法では、まず、作用電極の半導体層上に形成された金属層に固定されたプローブにより標識物質で標識された被検物質を捕捉する。その後、金属層を溶解させる。そして、作用電極と対極との間に流れる光電流を検出する。
【0008】
これらの検出法では、電気化学的または光化学的に活性な標識物質を介して被検物質を検出する。そのために、被検物質の量に応じて作用電極の近傍に標識物質が存在するように、被検物質を捕捉するための捕捉物質が表面に固定化された作用電極が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4086090号公報
【特許文献2】特許第2573443号公報
【特許文献3】特開2010−107345号公報
【特許文献4】特開2010−133933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記特許文献1〜3に記載の方法では、以下のような欠点がある。
第1の欠点は、ノイズが生じるおそれがあることである。これは、被検物質の捕捉領域と検出領域とが同一領域となり、試料中に存在する夾雑物質が作用電極上に非特異的に吸着することがあるからである。
また、第2の欠点は、サイズの大きい被検物質が検出対象である場合に、検出性能が低下するおそれがあることである。これは、立体障害のために作用電極近傍に標識物質を存在させることが困難であり、作用電極と標識物質との距離が大きくなるからである。
さらに、第3の欠点は、捕捉物質が固定化された作用電極の再利用が困難である場合があることである。これは、捕捉物質が固定化された作用電極の再利用を行なうためには、洗浄により、作用電極上の捕捉物質以外の物質を取り除く必要があるからである。このとき、洗浄に際して、作用電極から、捕捉物質も取り除かれてしまう場合がある。また、洗浄に用いられる洗浄剤などによって、作用電極上の捕捉物質が変性してしまう場合がある。そのため、捕捉物質が固定化された作用電極の再利用時には、測定結果に影響するおそれがある。したがって、通常、捕捉物質が固定化された作用電極を含む検出部は、測定ごとに使い捨てされる。結果として、捕捉物質が固定化された作用電極を用いる検出系は、1測定あたりのコストが高くなる。
【0011】
また、特許文献4に記載の方法では、前記第2の欠点が改善されている。しかしながら、前記第1および第3の欠点がある。さらに、前記特許文献4に記載の方法においては、プローブによって被検物質を捕捉する工程において、条件によっては、金属層が剥がれてしまうことがある。
なお、作用電極と金属層との間の中間層としてチタンやパラジウム、クロムなどの密着層を形成することにより、作用電極と金属層との密着性を高めて、前記金属層の剥離を防ぐことが考えられる。しかしながら、この場合には、密着層から生じる光電流がノイズとなるおそれがある。
【0012】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、被検物質の大きさによらずに被検物質を良好に検出することができ、さらに作用電極を再利用することができる、検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法、検査チップ、検出セット、プローブ保持基板および電極基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、検出物質や被検物質を捕捉するプローブが基板本体上に保持されたプローブ保持基板を用い、検出物質や被検物質の捕捉のために用いることにより上記課題が解決し得ることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、
〔1〕 標識物質を含む検出物質を電気化学的に検出する方法であって、
(1−1) 標識物質を含む検出物質を、この標識物質を含む検出物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されたプローブ保持基板に接触させて、前記プローブに前記標識物質を含む検出物質を捕捉させる工程、
(1−2) 前記工程(1−1)で得られたプローブ保持基板の基板本体から、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分を脱離させ、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む前記部分を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引させる工程、および
(1−3) 前記工程(1−2)で作用電極に誘引された前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む前記部分を電気化学的に検出する工程
を含む検出物質の電気化学的検出方法、
〔2〕 前記工程(1−1)におけるプローブ保持基板が、標識物質を含む検出物質を捕捉するためのプローブが保持部を介して基板本体上に保持されたプローブ保持基板である、前記〔1〕に記載の方法、
〔3〕 作用電極を備えた電極基板と、プローブ保持基板とが対向配置された状態で、前記工程(1−1)〜前記工程(1−3)を行なう、前記〔1〕または〔2〕に記載の方法、
〔4〕 前記保持部が、溶解液に溶解する金属またはその合金からなる第1の層を有し、
前記工程(1−2)において、前記溶解液を前記保持部に接触させることにより、プローブ保持基板の基板本体から、標識物質を含む検出物質を捕捉したプローブを脱離させる、前記〔2〕に記載の方法、
〔5〕 前記保持部が、溶解液に溶解する金属または合金からなる第1の層と、この第1の層および基板本体の間に設けられ、前記第1の層および基板本体を密着させる第2の層とを有し、
前記工程(1−2)において、前記溶解液を前記保持部に接触させることにより、プローブ保持基板の基板本体から、標識物質を含む検出物質を捕捉したプローブを脱離させる、前記〔2〕に記載の方法、
〔6〕 前記第2の層が、白金、パラジウム、チタン、クロム、ニッケル、酸化インジウムスズおよび酸化インジウムからなる群より選ばれ、かつ第1の層を構成する物質と異なる物質からなる、前記〔5〕に記載の方法、
〔7〕 前記第1の層が、金、パラジウムからなり、
前記溶解液が、ヨウ素またはヨウ化物を含有する溶液である、前記〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法、
〔8〕 前記工程(1−2)において、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分を、極性の違いによって、捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する、前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法、
〔9〕 前記工程(1−2)において、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分を、電気泳動によって、捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する、前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法、
〔10〕 前記標識物質が、電気化学的または光化学的に活性な物質である、前記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の方法、
〔11〕 被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
(2−1) 被検物質およびこの被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質を、前記被検物質または標識結合物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されたプローブ保持基板に接触させて、当該プローブ保持基板上に標識物質と被検物質とを含む複合体を形成させる工程、
(2−2) 前記工程(2−1)で得られたプローブ保持基板の保持部から少なくとも標識結合物質または標識物質を脱離させ、当該標識結合物質または標識物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程、および
(2−3) 前記工程(2−2)で作用電極に誘引された標識結合物質または標識物質を電気化学的に検出する工程、
を含む被検物質の電気化学的検出方法、
〔12〕 前記工程(2−1)におけるプローブ保持基板が、前記被検物質または標識結合物質を捕捉するためのプローブが保持部を介して基板本体上に保持されたプローブ保持基板である、前記〔11〕に記載の方法、
〔13〕 作用電極を備えた電極基板と、プローブ保持基板とが対向配置された状態で、前記工程(2−1)〜前記工程(2−3)を行なう、前記〔11〕または〔12〕に記載の方法、
〔14〕 電気化学的または光化学的に活性な被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
(3−1) 被検物質を、前記被検物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されたプローブ保持基板に接触させて、前記プローブに被検物質を捕捉させる工程、
(3−2) 前記工程(3−1)でプローブ保持基板の保持部からプローブに捕捉された被検物質または被検物質の一部を脱離させ、当該被検物質または被検物質の一部を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程、および
(3−3) 前記工程(3−2)で作用電極に誘引された被検物質または被検物質の一部を電気化学的に検出する工程、
を含む被検物質の電気化学的検出方法、
〔15〕 前記工程(3−1)におけるプローブ保持基板が、前記被検物質を捕捉するためのプローブが保持部を介して基板本体上に保持されたプローブ保持基板である、前記〔14〕に記載の方法、
〔16〕 作用電極を備えた電極基板と、プローブ保持基板とが対向配置された状態で、前記工程(3−1)〜前記工程(3−3)を行なう、前記〔14〕または〔15〕に記載の方法、
〔17〕 作用電極を備えた電極基板と、対極と、被検物質またはこの被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質を捕捉するためのプローブを基板本体上に有するプローブ保持基板とを備えており、
前記作用電極を備えた電極基板とプローブ保持基板とが、所定の間隙を介して対向配置されていることを特徴とする検査チップ、
〔18〕 前記プローブ保持基板が、前記被検物質またはこの被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質を捕捉するためのプローブが保持部を介して基板本体上に保持されたプローブ保持基板である、前記〔17〕に記載の検査チップ、
〔19〕 被検物質を電気化学的に検出するための検出セットであって、
被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質と、
被検物質または標識結合物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されたプローブ保持基板と、
標識結合物質または標識物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極と対極とを備えている電極基板と、
前記プローブ保持基板と電極基板との間に所定の間隙を形成させる間隔保持部材と、
を含む検出セット、
〔20〕 被検物質を電気化学的に検出するための検出セットであって、
被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質と、
被検物質または標識結合物質を捕捉するためのプローブが、基板本体上に保持され、かつ前記基板本体上に対極が設けられたプローブ保持基板と、
標識結合物質または標識物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極を備えている電極基板と、
前記プローブ保持基板と電極基板との間に所定の間隙を形成させる間隔保持部材と、
を含む検出セット、
〔21〕 前記〔11〕に記載の方法における工程(2−1)または前記〔14〕に記載の方法における工程(3−1)の後に、作用電極と対向させて用いるプローブ保持基板であって、
被検物質またはこの被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されていることを特徴とする、プローブ保持基板、ならびに
〔22〕 前記〔11〕に記載の方法における工程(2−1)または前記〔14〕に記載の方法における工程(3−1)の後に、プローブ保持基板と対向させて用いる電極基板であって、
基板本体上において、プローブ保持基板の保持部と対向する位置に設けられた作用電極を有することを特徴とする、電極基板
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法、検査チップ、検出セット、プローブ保持基板および電極基板によれば、被検物質の大きさによらずに被検物質を良好に検出することができ、さらに作用電極の再利用をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法および被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検出装置を示す斜視説明図である。
【図2】図1に示される検出装置の構成を示すブロック図である。
【図3】(A)は本発明の一実施の形態に係る検査チップを示す平面説明図である。(B)は(A)に示される検査チップのAA線での断面説明図である。(C)は(A)に示される検査チップに含まれるプローブ保持基板の平面説明図である。(D)は(A)に示される検査チップに含まれる電極基板の平面説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る検査チップの電極部分を模式的に表した概略図である。
【図5】(A)は図3に示される検査チップの変形例を示す平面説明図である。(B)は(A)に示される検査チップのBB線での断面説明図である。(C)は(A)に示される検査チップに含まれるプローブ保持基板の平面説明図である。(D)は(A)に示される検査チップに含まれる電極基板の平面説明図である。
【図6】(A)は図3に示される検査チップの変形例を示す平面説明図である。(B)は(A)に示される検査チップのCC線での断面説明図である。(C)は(A)に示される検査チップに含まれるプローブ保持基板の平面説明図である。(D)は(A)に示される検査チップに含まれる電極基板の平面説明図である。
【図7】(A)は図3に示される検査チップの変形例を示す平面説明図である。(B)は(A)に示される検査チップのDD線での断面説明図である。(C)は(A)に示される検査チップに含まれるプローブ保持基板の平面説明図である。(D)は(A)に示される検査チップに含まれる電極基板の平面説明図である。
【図8】(A)は図3に示される検査チップの変形例を示す平面説明図である。(B)は(A)に示される検査チップのEE線での断面説明図である。(C)は(A)に示される検査チップに含まれるプローブ保持基板の平面説明図である。(D)は(A)に示される検査チップに含まれる電極基板の平面説明図である。(E)は間隔保持部材の斜視説明図である。
【図9】(A)は図3に示される検査チップの変形例を示す平面説明図である。(B)は(A)に示される検査チップのFF線での断面説明図である。(C)は(A)に示される検査チップに含まれるプローブ保持基板の平面説明図である。(D)は(A)に示される検査チップに含まれる電極基板の平面説明図である。(E)は間隔保持部材の斜視説明図である。
【図10】(A)は図3に示される検査チップの変形例を示す平面説明図である。(B)は(A)に示される検査チップのGG線での断面説明図である。(C)は(A)に示される検査チップに含まれるプローブ保持基板の平面説明図である。(D)は(A)に示される検査チップに含まれる電極基板の平面説明図である。(E)は間隔保持部材の斜視説明図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る検出セットを示す概略説明図である。
【図12】本発明の一実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の工程のうち、検出物質の捕捉工程から脱離工程までの処理手順を示す工程説明図である。
【図13】本発明の他の実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の工程のうち、検出物質の捕捉工程から脱離工程までの処理手順を示す工程説明図である。
【図14】本発明の他の実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の工程のうち、検出物質の捕捉工程から脱離工程までの処理手順を示す工程説明図である。
【図15】本発明の他の実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の工程のうち、検出物質の捕捉工程から脱離工程までの処理手順を示す工程説明図である。
【図16】本発明の他の実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の工程のうち、検出物質の捕捉工程から脱離工程までの処理手順を示す工程説明図である。
【図17】本発明の他の実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の工程のうち、検出物質の捕捉工程から脱離工程までの処理手順を示す工程説明図である。
【図18】本発明の他の実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の工程のうち、検出物質の捕捉工程から脱離工程までの処理手順を示す工程説明図である。
【図19】本発明の他の実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法において、標識物質を含む検出物質が、標識物質を含む部分を脱離可能に保持しうる材料を含む場合の工程のうち、検出物質の捕捉工程から脱離工程までの処理手順を示す工程説明図である。
【図20】本発明の一実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の工程のうち、検出物質の誘引工程から検出工程までの処理手順を示す工程説明図である。
【図21】本発明の他の実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の工程のうち、検出物質の誘引工程から検出工程までの処理手順を示す工程説明図である。
【図22】本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法の処理手順のフローチャートを示す。
【図23】(A)は実験例1に用いられたDNA保持基板を示す平面説明図である。(B)は実験例1に用いられた作用電極基板を示す平面説明図である。(C)は実験例1に用いられた対極基板である。(D)は実験例1において、脱離工程および誘引工程を行なう際のDNA保持基板と作用電極基板との配置状態を示す断面説明図である。(E)は実験例1において、検出工程を行なう際の作用電極基板と対極基板との配置状態を示す断面説明図である。(F)は実験例1における作用電極基板の作用電極上のレーザー光照射位置を示す平面説明図である。
【図24】実験例1において、用いられたDNA保持基板の種類と光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図25】(A)は実験例2に用いられたDNA保持基板を示す平面説明図である。(B)は実験例2に用いられた他のDNA保持基板を示す平面説明図である。(C)は実験例2に用いられた作用電極基板を示す平面説明図である。(D)は実験例2に用いられた対極基板を示す平面説明図である。(E)は実験例2において、脱離工程および誘引工程を行なう際のDNA保持基板と作用電極基板との配置状態を示す断面説明図である。(F)は実験例2において、脱離工程および誘引工程を行なう際のDNA保持基板と作用電極基板との配置状態を示す断面説明図である。
【図26】(A)は実験例3に用いられたDNA保持基板を示す平面説明図である。(B)は実験例3に用いられた他のDNA保持基板を示す平面説明図である。(C)は実験例3に用いられた電極基板を示す平面説明図である。(D)は実験例3において、脱離工程および誘引工程を行なう際の検査チップの状態を示す断面説明図である。(E)は実験例3において、脱離工程および誘引工程を行なう際の検査チップの状態を示す断面説明図である。(F)は実験例3において、検出工程を行なう際の検査チップの状態を示す断面説明図である。(G)は実験例3における電極基板の作用電極上のレーザー光照射位置を示す平面説明図である。
【図27】実験例3において、用いられたDNA保持基板の種類と光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図28】(A)は実験例4に用いられたDNA保持基板を示す平面説明図である。(B)は実験例4に用いられた作用電極基板を示す平面説明図である。(C)は実験例4に用いられた対極基板を示す平面説明図である。(D)は実験例4において、脱離工程および誘引工程を行なう際のDNA保持基板と作用電極基板との配置状態を示す断面説明図である。(E)は実験例4における作用電極基板の作用電極上のレーザー光照射位置を示す平面説明図である。
【図29】実験例4において、ギャップ長と光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図30】(A)は実験例5に用いられたDNA保持基板を示す平面説明図である。(B)は実験例5におけるDNA保持基板の保持部上のDNA保持位置およびDNA非保持位置を示す平面説明図である。(C)は実験例5に用いられた電極基板を示す平面説明図である。(D)は実験例5において、脱離工程および誘引工程を行なう際の検査チップの状態を示す断面説明図である。(E)は実験例5において、検出工程を行なう際の検査チップの状態を示す断面説明図である。(F)は実験例5における電極基板の作用電極上のレーザー光照射位置を示す平面説明図である。
【図31】実験例5において、ギャップ長および光照射位置と光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図32】(A)は実験例6に用いられたDNA保持基板を示す平面説明図である。(B)は実験例6におけるDNA保持基板の保持部上のDNA保持位置およびDNA非保持位置を示す平面説明図である。(C)は実験例6に用いられた電極基板を示す平面説明図である。(D)は実験例6において、脱離工程および誘引工程を行なう際の検査チップの状態を示す断面説明図である。(E)は実験例6において、検出工程を行なう際の検査チップの状態を示す断面説明図である。(F)は実験例6における電極基板の作用電極上のレーザー光照射位置を示す平面説明図である。
【図33】実験例6において、ギャップ長および光照射位置と光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図34】(A)は実施例1に用いられたDNA保持基板を示す平面説明図である。(B)は実施例1に用いられた電極基板を示す平面説明図である。(C)は実施例1において、脱離工程および誘引工程を行なう際の検査チップの状態を示す断面説明図である。(D)は実施例1において、検出工程を行なう際の検査チップの状態を示す断面説明図である。(E)は実施例1における電極基板の作用電極上のレーザー光照射位置を示す平面説明図である。
【図35】実施例1において、被検物質濃度と光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図36】(A)は実施例2に用いられたDNA保持基板を示す平面説明図である。(B)は実施例2に用いられた作用電極基板を示す平面説明図である。(C)は実施例2に用いられた対極基板を示す平面説明図である。(D)は実施例2において、脱離工程および誘引工程を行なう際のDNA保持基板と作用電極基板との配置状態を示す断面説明図である。(E)は実施例2において、検出工程を行なう際の作用電極基板と対極基板との配置状態を示す断面説明図である。(F)は実施例2における作用電極基板の作用電極上のレーザー光照射位置を示す平面説明図である。
【図37】(A)は実施例2において、被検物質濃度と、光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。(B)は実施例2において、(A)に示されるグラフを補正した結果を示すグラフである。
【図38】(A)は実施例3に用いられたDNA保持基板並びにその保持部上のDNA保持位置およびDNA非保持位置を示す平面説明図である。(B)は実施例3に用いられた作用電極基板およびその作用電極上のレーザー光照射位置を示す平面説明図である。(C)は実施例3において、検出工程を行なう際の作用電極基板と対極基板との配置状態を示す断面説明図である。
【図39】実施例3において、ギャップ長および光照射位置と、光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図40】実施例3において、ギャップ長と光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図41】(A)は実施例4に用いられたプローブ保持基板を示す平面説明図である。(B)は実施例4に用いられた電極基板を示す平面説明図である。(C)は実施例4において、脱離工程および誘引工程を行なう際のプローブ保持基板と電極基板との配置状態を示す断面説明図である。(D)は実施例4において、検出工程を行なう際の作用電極基板と対極基板との配置状態を示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[用語の定義]
本明細書において、「標識物質を含む検出物質」および「検出物質」は、作用電極上で電気化学的に検出される対象となる物質であり、標識物質を含むものである。本明細書においては、検出物質は、被検物質に直接的に標識物質が結合した複合体であってもよい。また、検出物質は、被検物質を固相上で捕捉した後、捕捉された被検物質の量に応じて存在させた物質に標識物質を結合させた複合体であってもよい。ここで、前記固相とは、例えば、ガラス、金属などの無機素材、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド樹脂などのプラスチック類からなる基板またはこれらのうち少なくとも1つを含む基板;チューブ;繊維;メンブレン;ナノ構造体(例えば、メソポーラスシリカなどのシリカ系ナノ構造体、ポーラスアルミナなど);ガラスビーズ、磁性ビーズ、金属粒子、プラスチックビーズなどの粒子またはこれらのうち少なくとも1つを含む粒子などをいう。
また、本明細書において、「誘引用修飾物質」とは、検出物質、標識物質などを作用電極の近傍に誘引させるための物質をいう。
さらに、本明細書において、「捕捉物質が存在しない」とは、「捕捉物質が実質的に存在しないこと」をいう。すなわち、「捕捉物質が存在しない」という概念には、作用電極上において目的物質の実質的な捕捉に寄与しない程度に僅かに捕捉物質が存在することをも含む概念である。
【0018】
[検出装置の構成]
まず、本発明の標識物質を含む検出物質の電気化学的検出方法および被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検出装置の一例を添付図面により説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法および被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検出装置を示す斜視説明図である。この検出装置1は、光化学的に活性な物質を標識物質として用い、光電気化学的に前記標識物質を含む検出物質を検出する電気化学的検出方法に用いる検出装置である。
【0019】
検出装置1は、検査チップ10が挿入されるチップ受入部3と、検出結果を表示するディスプレイ2とを備えている。
【0020】
図2は、図1に示される検出装置の構成を示すブロック図である。検出装置1は、光源5と、電流計(電流測定部)6と、電源(電位印加部)9と、A/D変換部7と、制御部8と、ディスプレイ2とを備えている。
光源5は、検査チップ10の作用電極の近傍に移送させた標識物質を含む検出物質に光を照射し、当該標識物質を励起させる。電流計6は、励起された標識物質から放出される電子に起因して検査チップ10内を流れる電流を測定する。電源9は、検査チップ4に設けられた電極に対して所定の電位を印加する。A/D変換部7は、電流計6によって測定された電流値をデジタル変換する。制御部8は、CPU、ROM、RAMなどから構成され、光源5、電流計6、電源9、およびディスプレイ2の動作を制御する。また、制御部8は、A/D変換部7でデジタル変換された電流値を、予め作成された電流値と検出物質の量との関係を示す検量線に基づき、標識物質を含む検出物質の量を概算する。ディスプレイ2は、制御部8で概算された標識物質を含む検出物質の量を表示する。
【0021】
なお、本発明において、前記標識物質を含む検出物質を後述の酸化還元電流・電気化学発光検出法にしたがって検出する場合、検出装置は、光源5を備えていなくともよい(図示せず)。
前記標識物質を含む検出物質を電気化学発光により検出する場合、検出装置は、標識物質から生じる光などを検出するためのセンサをさらに備えていればよい。
また、検出装置には、検査チップの代わりに、後述の検出セットを用いることもできる。
【0022】
[検査チップの構成]
つぎに、本発明の標識物質を含む検出物質の電気化学的検出方法および被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検査チップの構成を説明する。
【0023】
1. 第1の実施の形態に係る検査チップ
(1) 検査チップの構成
図3(A)は本発明の一実施の形態に係る検査チップ10を示す平面説明図である。図3(B)は(A)に示される検査チップ10のAA線での断面説明図である。
【0024】
検査チップ10は、電極基板20と、電極基板20の下方に設けられたプローブ保持基板30と、電極基板20とプローブ保持基板30とに挟まれた間隔保持部材40とを備えている。この検査チップ10の電極基板20側には、検出物質や被検物質を含む試料などを内部に注入するための試料注入口20bが設けられている。
【0025】
検査チップ10では、電極基板20の電極部分(作用電極51、対極52および参照電極53)とプローブ保持基板30の保持部61とが上下方向に対向するように、一側部において重複して配置されている。そして、電極基板20とプローブ保持基板30とが重複(対向)する部分には、間隔保持部材40が介在している。電極基板20に形成された電極リード(電極リード56など)は、電極基板20とプローブ保持基板30とが重複する部分からはみ出して外部に露出している。
【0026】
(2) プローブ保持基板の構成
つぎに、検査チップ10に含まれるプローブ保持基板30の構成を説明する。
図3(C)は(A)に示される検査チップ10に含まれるプローブ保持基板30の平面説明図である。
【0027】
プローブ保持基板30は、基板本体30aと、検出物質や被検物質を捕捉するプローブ60と、このプローブ60を保持する保持部61とを備えている。
基板本体30aは、矩形状に形成されている。なお、かかる基板本体30aの形状は、特に限定されるものではなく、多角形形状、円盤状などであってもよい。基板の作製および取り扱いの簡便性の観点から、好ましくは矩形状である。
プローブ60は、保持部61に脱離可能に保持されている。
保持部61は、基板本体30aの一方の表面に6箇所形成されている。この保持部61は、プローブを脱離可能に保持する保持層61bと、保持層61bおよび基板本体30aを密着させる密着層61aとからなる。
【0028】
基板本体30aを構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、金属などの無機素材、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド樹脂などのプラスチック類などが挙げられる。これらのなかでは、光の透過性、十分な耐熱性、耐久性、平滑性などを確保し、かつ材料に要するコストを低減させる観点から、好ましくはガラスである。
【0029】
基板本体30aの厚さは、十分な耐久性を確保する観点から、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.1〜0.7mm、さらに好ましくは約0.5mmである。
基板本体30aの大きさは、多種類の検出物質や被検物質の検出(多項目)を前提とした場合には項目数によるが、通常、20mm×20mm程度の大きさである。
【0030】
プローブ60は、検出物質や被検物質を捕捉することができるものであればよい。かかるプローブ60としては、例えば、核酸、タンパク質、ペプチド、糖鎖、特異的な認識能を持つナノ構造体などが挙げられる。
また、プローブ保持基板30に抗体を結合させ、さらにその抗体に特異的に反応する抗原を結合した構築物もプローブ60として採用できる。この場合、プローブ60は、検出物質や被検物質として、この抗原に特異的に反応する抗体を捕捉することができる。
プローブ保持基板30中におけるプローブ60の量は、用途および目的に応じて適宜設定することが好ましい。
【0031】
保持部61の保持層61bを構成する材料は、プローブを脱離可能に保持しうる材料であればよい。かかる材料としては、特に限定されないが、例えば、後述の溶解液に溶解する金属または合金、電気分解可能な(酸化還元反応によりイオン化する)金属または合金、開裂剤により開裂する結合を形成する官能基を有する化合物、開裂剤により開裂する官能基を有する化合物、加熱により溶融する化合物、光開裂性の官能基を有する化合物、光開裂性の結合を形成する官能基を有する化合物などが挙げられる。
前記溶解液に溶解する金属または合金としては、例えば、金、白金、銀、パラジウム、ニッケル、水銀、ロジウム、ルテニウム、銅、モリブデンまたはそれらの合金などが挙げられる。
前記開裂剤により開裂する結合を形成する官能基を有する化合物としては、例えば、メルカプトプロピルトリエトキシシラン(MPTES)などが挙げられる。
前記加熱により溶融する化合物としては、例えば、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン、アクリロニトリル/スチレン樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの熱可塑性樹脂などが挙げられる。前記加熱により溶融する化合物の他の例については、例えば、特開平11−35675号公報、特表2008‐506386号公報などを参照することができる。
前記光開裂性の官能基を有する化合物としては、例えば、窒素置換芳香族エステル;p−メトキシフェナシル基、2−ニトロベンジル基、2−ニトロベンジルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、3,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、α,α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、3−ニトロフェニル基、3−ニトロフェノキシ基、3,5−ジニトロフェノキシ、3−ニトロフェノキシカルボニル、フェナシル、4−メトキシフェナシル、α−メチルフェナシル、3,5−ジメトキシベンゾイニル、2,4−ジニトロベンゼンスルフェニル基などの官能基を有する化合物、具体的には、オルトフェニルベンジルエステルなどが挙げられる。
前記光開裂性の結合を形成する官能基を有する化合物としては、例えば、ピリミジンの5位に置換ビニル基を有するピリミジン塩基、5−シアノビニル−1’−α−2’−デオキシウリジン誘導体などが挙げられる。ピリミジンの5位に置換ビニル基を有するピリミジン塩基としては、例えば、構成塩基として5−カルボキシビニルウラシルを有するヌクレオチドを末端に有する核酸などが挙げられる。ピリミジンの5位に置換ビニル基を有するピリミジン塩基の他の例については、例えば、特許第3753942号公報などを参照することができる。5−シアノビニル−1’−α−2’−デオキシウリジン誘導体の具体例については、例えば、特許第4180020号公報などを参照することができる。また、前記光開裂性の結合を形成する官能基を有する化合物として、例えば、特表2008−542783号公報などに記載のリンカーを用いてもよい。かかるリンカーは、例えば、市販のリンカーであってもよい。
保持層61bを構成する材料のなかでは、検出物質や被検物質を捕捉する工程中における安定性や、プローブを当該材料に結合させる官能基などとの反応性の観点から、金属または合金が好ましい。前記金属または合金のなかでは、検出物質や被検物質を捕捉する工程中における安定性や、プローブを当該材料に結合させる官能基などとの反応性の観点から、金またはパラジウムが好ましい。
【0032】
なお、保持層61bを構成する材料として、ポリスチレンなどのプラスチックを用いる場合、プローブ60を強固に保持させるために、プローブ60との親和性を高める物質、例えば、ヒドロキシメチルマレイミドなどを当該材料に混合して用いてもよい(例えば、特開2007−023120号公報参照)。
【0033】
保持層61bの厚さは、プローブ60を保持することができる範囲で適宜設定することが好ましい。保持層61bの厚さは、0.1〜100nm、好ましくは0.1〜10nm、さらに好ましくは0.1〜2nmである。
【0034】
保持部61の密着層61aを構成する材料は、保持層61bと基板本体30aとの間を密着させうる材料であればよい。保持層61bを構成する材料が金属または合金である場合、密着層61aを構成する材料として、例えば、白金、パラジウム、酸化インジウムスズ、酸化インジウム、チタン、酸化チタン、窒化チタンなどのチタン化合物、クロム、アルミニウム、ニッケル、これらの少なくとも1つを含む合金などを用いることができる。これらのなかでは、白金、パラジウム、チタン、クロム、酸化インジウムスズおよび酸化インジウムが好ましい。なお、かかる密着層61aを構成する材料は、保持層61bを構成する材料と異なる材料が選択される。
また、密着層61aを構成する材料は、有機化合物であってもよい。有機化合物としては、例えば、アミノプロピルトリエトシキシラン(APTES)、メルカプトプロピルトリエトキシシラン(MPTES)などのシランカップリング剤;アミノ酸;ポリ−L−リジンなどが挙げられる。
【0035】
密着層61aの厚さは、保持層61bと基板本体30aとを密着させることができる範囲で適宜設定することが好ましい。密着層61aの厚さは、通常、0.1〜50nmである。
【0036】
なお、本発明においては、保持部61は、プローブ60を保持することができるのであれば、必ずしも2層構造(密着層61aおよび保持層61b)でなくてもよい。すなわち、保持部61は、密着層61aおよび保持層61bに加えてさらに他の層を有する多層構造であってもよく、前記保持層61bのみからなる単層構造であってもよい。
保持部61が保持層61bのみからなる単層構造の場合、保持部61(保持層61b)の厚さは、通常、1〜1000nm、好ましくは1〜200nm、さらに好ましくは、1〜10nmである。
また、保持部61は、金属ナノ粒子などのナノ構造体から構成されていてもよい。金属ナノ粒子が用いられる場合、粒子の直径は、好ましくは0.1nm〜100nm、さらに好ましくは1nm〜60nmである。金属ナノ構造体を用いる場合、保持部61の厚さは、好ましくは0.1nm〜500nm、さらに好ましくは1nm〜100nm、より好ましくは1nm〜10nmである。
【0037】
また、本発明においては、基板本体30a上にプローブ60を保持することができるのであれば、保持部61を有していなくてもよい。かかる例としては、光開裂性の官能基、光開裂性の結合を形成する官能基、開裂剤により開裂する結合、開裂剤により開裂する官能基などを介してプローブ60を基板本体30aに固定することなどが挙げられる。これらの官能基および結合は、前述の開裂剤により開裂する結合を形成する官能基を有する化合物、開裂剤により開裂する官能基を有する化合物、光開裂性の官能基を有する化合物、光開裂性の結合を形成する官能基を有する化合物などにより利用することができる官能基および結合であればよい。
【0038】
保持部61は、保持層61bを構成する材料または密着層61aを構成する材料に応じた膜形成方法により形成させることができる。例えば、材料が金属である場合、膜形成方法としては、蒸着法、スパッタリング法、インプリント法、スクリーン印刷法、めっき処理法、ゾルゲル法などが挙げられる。基板本体30a上における薄膜の形成の簡便性、膜厚の制御の容易性などの観点から、蒸着法またはスパッタリング法が好ましい。一方、材料が熱可塑性樹脂などのプラスチックである場合、膜形成方法としては、スピンコート法、浸漬法、気相蒸着法、インプリント法、スクリーン印刷法、ゾルゲル法などが挙げられる。
【0039】
保持部61へのプローブの固定は、保持部61に化学吸着する結合基などを介して行うことができる。前記結合基としては、例えば、チオール基、ヒドロキシル基、リン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホン酸基、アミノ基などが挙げられる。かかる結合基は、保持部61の保持層61bを構成する材料に応じて適宜選択することができる。例えば、保持層61bが金からなる場合、金との反応性の観点から、チオール基が好ましい。
【0040】
(3) 電極基板の構成
つぎに、検査チップ10に含まれる電極基板20の構成を説明する。
図3(D)は(A)に示される検査チップ10に含まれる電極基板20の平面説明図である。
電極基板20は、基板本体20aと、作用電極51と、対極52と、参照電極53とを備えている。
基板本体20aは、プローブ保持基板30の基板本体30aと略同寸法の矩形状に形成されている。この基板本体20aの表面には、作用電極51と、この作用電極51に接続された電極リード54と、対極52と、この対極52に接続された電極リード55と、参照電極53と、この参照電極53に接続された電極リード56とが形成されている。
【0041】
作用電極51は、ほぼ四角形状に形成されている。作用電極51は、基板本体20aの一側部〔図3(D)の左側〕に配置されている。この作用電極51の配置や大きさは、プローブ保持基板30から検出物質や被検物質が脱離した際に、検出物質や被検物質が拡散することを考慮して設定されている。
電極リード54は、作用電極51から基板本体20aの他側部〔図3(D)の右側〕に向けて延びている。また、対極52は、基板本体20a上において、作用電極51よりも外側〔図3(D)において、作用電極51の左側〕に配置されている。電極リード55は、対極52から、作用電極51を迂回して、基板本体20aの他側部〔図3(D)の右側〕に向けて延びている。さらに、参照電極53は、作用電極51を挟んで、対極52と対向する位置に配置されている。電極リード56は、参照電極53から基板本体20aの他側部〔図3(D)の右側〕に向けて延びている。そして、作用電極の電極リード54と、対極52の電極リード55と参照電極53の電極リード56とは、基板本体20aの他側部において互いに並列するように配置されている。
【0042】
基板本体20aを構成する材料、基板本体20aの厚さおよび大きさは、前記プローブ保持基板30の基板本体30aを構成する材料、基板本体30aの厚さおよび大きさと同様である。
【0043】
作用電極51は、用いられる溶液などに対して安定であり、かつ導電性を有する導電性材料からなる電極である〔図4(A)参照〕。かかる作用電極51は、後述の酸化還元電流・電気化学発光検出法に用いられる。なお、本発明で用いられる作用電極は、標識物質、検出物質または検出物質の一部で、かつ標識物質を含む部分を捕捉する捕捉物質が存在しない電極である。ここで、「捕捉する」とは、前記標識物質、前記検出物質又は前記部分を特異的に捕捉することを意味する。
前記導電性材料としては、例えば、金、銀、銅、カーボン、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケルなどの金属またはこれらの少なくとも1つを含む合金、酸化インジウムスズ、酸化インジウムなどの導電性セラミックス、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)など金属酸化物、チタン、酸化チタン、窒化チタンなどのチタン化合物、グラファイト、グラシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンペースト、カーボンファイバーなどからなる炭素電極などが挙げられる。
さらに、導電性材料は、ガラス、プラスチックなどの非導電性物質からなる非導電性基材の表面に導電性を有する材料からなる導電材層が設けられた複合基材であってもよい。かかる導電材層の形状は、薄膜状およびスポット状のいずれであってもよい。
この場合、作用電極51の厚さは、好ましくは1〜1000nm、さらに好ましくは10〜200nmである。
【0044】
なお、検査チップを後述の光電気化学検出法に用いる場合、作用電極51として、図4(B)に示されるように、基板本体20aの表面に形成された導電層51aと、この導電層51aの表面に形成された電子受容層51bとから構成された電極を用いることができる。
導電層51aは、前記と同様の導電性材料からなる。前記導電層51aの厚さは、好ましくは1〜1000nm、さらに好ましくは10〜200nmである。
電子受容層51bは、電子を受容可能な物質(電子受容物質)を含んでいる。
【0045】
電子受容層を構成する電子受容物質は、光励起された標識物質(後述)からの電子注入が可能なエネルギー準位をとり得る物質であればよい。ここで、「光励起された標識物質からの電子注入が可能なエネルギー準位」とは、例えば、電子受容性物質として半導体を用いる場合には、伝導帯(コンダクションバンド)を意味する。すなわち、電子受容物質は、標識物質(後述)の最低非占有分子軌道(LUMO)のエネルギー準位よりも低いエネルギー準位を有すればよい。
【0046】
電子受容物質としては、例えば、シリコン、ゲルマニウムなどの単体半導体;チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタルなどの酸化物を含む酸化物半導体;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バナジウム、ニオブ酸カリウムなどのペロブスカイト型半導体;カドニウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマスなどの硫化物を含む硫化物半導体;ガリウム、チタンなどの窒化物を含む半導体;カドミウム、鉛のセレン化物からなる半導体(例えば、カドミウムセレナイドなど);カドミウムのテルル化物を含む半導体;亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウムなどのリン化合物からなる半導体;ガリウム砒素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物などの化合物を含む半導体;カーボンなどの化合物半導体または有機物半導体などが挙げられる。なお、前記半導体は、真性半導体および不純物半導体のいずれであってもよい。
【0047】
前記半導体のなかでは、酸化物半導体が好ましい。前記酸化物半導体のうち、真性半導体のなかでは、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化タンタルおよびチタン酸ストロンチウムが好ましい。また、前記酸化物半導体のうち、不純物半導体のなかでは、酸化インジウムスズ(ITO)およびフッ素を含む酸化スズが好ましい。酸化インジウムスズ(ITO)またはフッ素を含む酸化スズは、電子受容物質としてのみならず導電性基材としても機能する性質を有する。そのため、これらの材料を使用することにより導電性基材を用いることなく電子受容層のみで作用電極として機能させることができる。
【0048】
なお、導電層51aが前記複合基材である場合、電子受容層51bは、前記導電材層上に形成される。導電材層を構成する導電性を有する材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウムなどの金属;炭素、炭化物、窒化物などの導電性セラミックス;酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素を含む酸化スズ、アンチモンを含む酸化スズ、ガリウムを含む酸化亜鉛、アルミニウムを含む酸化亜鉛などの導電性の金属酸化物などが挙げられる。これらのなかでは、好ましくは酸化インジウムスズ(ITO)およびフッ素を含む酸化スズである。
【0049】
電子受容層51bの厚さは、通常、0.1〜100nm。好ましくは0.1〜10nmである。
上記した導電層51a自体が電子受容層51bを兼ねる場合には、電子受容層51bを省略することができる。
【0050】
作用電極51には、シランカップリング剤などを用いた表面処理が施されていてもよい。かかる表面処理により、作用電極51の表面を親水性または疎水性を有するように適宜調節することができる。前記シランカップリング剤としては、例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)などのカチオン性シランカップリング剤などが挙げられる。
【0051】
また、後述の光電気化学検出法に用いる検査チップにおいては、作用電極51は、図4(C)に示されるように、基板本体20aの表面に形成された電子受容層(半導体層;半導体電極)51bから構成されていてもよい。
これらの作用電極の構成は、検査チップの用途、電気化学的検出方法の種類などに応じて適宜選択することができる。
【0052】
対極52は、導電性材料からなる金属層からなる。前記導電性材料としては、例えば、金、銀、銅、カーボン、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケルなどの金属またはこれらの少なくとも1つを含む合金、酸化インジウムスズ、酸化インジウムなどの導電性セラミックス、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)など金属酸化物、チタン、酸化チタン、窒化チタンなどのチタン化合物などが挙げられる。
前記金属層の厚さは、好ましくは1〜1000nm、より好ましくは10〜200nmである。
【0053】
参照電極53は、導電性材料からなる金属層からなる。前記導電性材料としては、例えば、金、銀、銅、カーボン、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケルなどの金属またはこれらの少なくとも1つを含む合金、酸化インジウムスズ、酸化インジウムなどの導電性セラミックス、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)など金属酸化物、チタン、酸化チタン、窒化チタンなどのチタン化合物などが挙げられる。
前記金属層の厚さは、好ましくは1〜1000nm、より好ましくは10〜200nmである。
【0054】
なお、本実施の形態では、参照電極53を設けているが、本発明においては、参照電極53を設けなくてもよい。対極52に用いる電極の種類、膜厚にもよるが、電圧降下の影響が僅かな小さな電流(例えば、1μA以下)を測定する場合は、対極52が参照電極53を兼ねていてもよい。大きな電流を測定する場合、電圧降下の影響を抑制し、作用電極に印加する電圧を安定化させる観点から、参照電極を設けることが好ましい。
【0055】
また、本実施の形態では、電極基板20の基板本体20aの表面に作用電極51、対極52および参照電極53が形成されている。しかしながら、作用電極51、対極52および参照電極53は、各電極が他の電極と接触せずに間隔保持部材40の枠内に配置されていればよい。すなわち、作用電極51、対極52および参照電極53は、異なる基板本体上に形成されてもよい。また、対極52および参照電極53は、基板本体上に形成された薄膜状の電極でなくてもよい。例えば、後述のように、間隔保持部材40に棒状の対極や参照電極を設けてもよい。
【0056】
(4) 間隔保持部材の構成
間隔保持部材40は、矩形の環状体形状に形成され、絶縁体であるシリコーンゴムからなっている。この間隔保持部材40は、作用電極51、対極52および参照電極53が互いに対向する領域を取り囲むように配置されている。プローブ保持基板30と電極基板20との間には間隔保持部材40の厚さに相当する間隔が形成されている。これにより、各電極51,52,53の間には試料や電解液を収容するための空間(図示せず)が形成されている。
【0057】
間隔保持部材40の厚さは、プローブ保持基板30の保持部61から脱離し、作用電極51に誘引された検出物質や被検物質が、再びプローブ保持基板30の保持部61近傍に戻らない程度の距離を保つことができる厚さであることが好ましい。
前記厚さは、通常、0.2〜300μmである。
【0058】
なお、本発明においては、間隔保持部材40を構成する材料として、シリコーンゴムの代わりに、例えば、ポリエステルフィルム製両面テープなどを用いることもできる。
【0059】
2. 第2の実施の形態に係る検査チップ
つぎに、検査チップの変形例を説明する。図5は、図3に示される検査チップの変形例(第2の実施の形態に係る検査チップ11)を示す。
第2の実施の形態に係る検査チップ11では、作用電極51と、対極52および参照電極53とが、異なる基板本体上に形成されている〔図5(A)〜(D)参照〕。かかる点が、第1実施形態に係る検査チップ10と大きく相違している。
検査チップ11においては、プローブ保持基板31の基板本体31aの表面に、プローブ60を保持する保持部61と、対極52と、参照電極53とが形成されている〔図5(B)および(C)参照〕。そして、かかる検査チップ11は、検査チップ10の電極基板20の代わりに、作用電極51が基板本体21aの表面に形成された作用電極基板21を有している。この作用電極基板21の基板本体21aには、試料注入口21bが形成されている〔図5(D)参照〕。
なお、本実施の形態においても、参照電極53を設けなくてもよい。
【0060】
3. 第3の実施の形態に係る検査チップ
図6は、図3に示される検査チップの変形例(第3の実施の形態に係る検査チップ12)を示す。
第3の実施の形態に係る検査チップ12では、作用電極51および参照電極53と、対極52とが、異なる基板本体上に形成されている〔図6(A)〜(D)参照〕。かかる点が、第1実施形態に係る検査チップ10と大きく相違している。
検査チップ12においては、プローブ保持基板32の基板本体32aの表面に、プローブ60を保持する保持部61と、対極52とが形成されている〔図6(B)および(C)参照〕。
そして、作用電極51および参照電極53は、電極基板22の基板本体22aの表面に形成されている〔図6(D)参照〕。また、この基板本体22aには、試料注入口22bが形成されている〔図6(D)参照〕。
なお、本実施の形態においても、参照電極53を設けなくてもよい。
【0061】
4. 第4の実施の形態に係る検査チップ
図7は、図3に示される検査チップの変形例(第4の実施の形態に係る検査チップ13)を示す。
第4の実施の形態に係る検査チップ13では、作用電極51および対極52と、参照電極53とが、異なる基板本体上に形成されている〔図7(A)〜(D)参照〕。かかる点が、第1実施形態に係る検査チップ10と大きく相違している。
検査チップ13においては、プローブ保持基板33の基板本体33aの表面に、プローブ60を保持する保持部61と、参照電極53とが形成されている〔図7(B)および(C)参照〕。
そして、作用電極51および対極52は、電極基板23の基板本体23aの表面に形成されている〔図7(D)参照〕。また、この基板本体23aには、試料注入口23bが形成されている〔図7(D)参照〕。
なお、本実施の形態においても、参照電極53を設けなくてもよい。
【0062】
5. 第5の実施の形態に係る検査チップ
図8は、図3に示される検査チップの変形例(第5の実施の形態に係る検査チップ14)を示す。
第5の実施の形態に係る検査チップ14では、棒状の対極52および棒状の参照電極53が、間隔保持部材41の部材本体41aの一側部に設けられている〔図8(A)、(B)および(E)参照〕。かかる点が、第1実施形態に係る検査チップ10と大きく相違している。
棒状の対極52および棒状の参照電極53は、間隔保持部材41の部材本体41aの一側部から内方に突出し、作用電極51と対向するように設けられている。また、電極リード55,56は、間隔保持部材41の部材本体41aの一側部から外方に突出するように設けられている。
検査チップ14は、検査チップ10の電極基板20の代わりに、作用電極51が基板本体24aの表面に形成された作用電極基板24を有している。この作用電極基板24の基板本体24aには、試料注入口24bが形成されている〔図8(D)参照〕。
なお、本実施の形態においても、参照電極53を設けなくてもよい。
【0063】
6. 第6の実施の形態に係る検査チップ
図9は、図3に示される検査チップの変形例(第6の実施の形態に係る検査チップ15)を示す。
第6の実施の形態に係る検査チップ15では、棒状の参照電極53が、間隔保持部材42の部材本体42aの一側部に設けられている〔図9(A)、(B)および(E)参照〕。また、対極52がプローブ保持基板35の基板本体35aの表面に形成されている。これらの点が、第1の実施の形態に係る検査チップ10と大きく相違している。
棒状の参照電極53は、間隔保持部材42の部材本体42aの一側部から内方に突出し、作用電極51と対向するように設けられている。また、電極リード56は、間隔保持部材42の部材本体42aの一側部から外方に突出するように設けられている。
検査チップ15は、検査チップ10の電極基板20の代わりに、作用電極51が基板本体25aの表面に形成された作用電極基板25を有している。この作用電極基板25の基板本体25aには、試料注入口25bが形成されている〔図9(D)参照〕。
なお、本実施の形態においても、参照電極53を設けなくてもよい。
【0064】
7. 第7の実施の形態に係る検査チップ
図10は、図3に示される検査チップの変形例(第7の実施の形態に係る検査チップ16)を示す。
第7の実施の形態に係る検査チップ16では、棒状の対極52が、間隔保持部材43の部材本体43aの一側部に設けられている〔図10(A)、(B)および(E)参照〕。また、参照電極53がプローブ保持基板36の基板本体36aの表面に形成されている。これらの点が、第1の実施の形態に係る検査チップ10と大きく相違している。
棒状の対極52は、間隔保持部材43の部材本体43aの一側部から内方に突出し、作用電極51と通電可能に対向するように設けられている。また、電極リード55は、間隔保持部材43の部材本体43aの一側部から外方に突出するように設けられている。
検査チップ16は、検査チップ10の電極基板20の代わりに、作用電極51が基板本体26aの表面に形成された作用電極基板26を有している。この作用電極基板24の基板本体26aには、試料注入口26bが形成されている〔図10(D)参照〕。
なお、本実施の形態においても、参照電極53を設けなくてもよい。
【0065】
[検出セットの構成]
つぎに、本発明の標識物質を含む検出物質の電気化学的検出方法および被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検出セットの構成を説明する。
図11は、本発明の一実施の形態に係る検出セットを示す概略説明図である。
【0066】
本実施の形態に係る検出セットは、プローブ保持基板37〔図11(D)参照〕と、作用電極基板27〔図11(E)参照〕と、対極基板70〔図11(F)参照〕と、間隔保持部材40とを備えている〔図11(A)〜(F)参照〕。
プローブ保持基板37、作用電極基板27および対極基板70それぞれの基板本体37a,27a,70aは、略同寸法で形成されている。
【0067】
本実施の形態に係る検出セットでは、プローブ保持基板37と作用電極基板27とを、間隔保持部材40を介して一側部において重複して配置したときに、プローブ保持基板37の保持部61と、作用電極基板27の作用電極51とが上下方向に対向するように、保持部61および作用電極51がそれぞれの基板本体上にされている〔図11(B)参照〕。
また、作用電極基板27と対極基板70とを、間隔保持部材40を介して一側部において重複して配置したときに、作用電極51と対極52などとの間に電流が流れるように、作用電極51、対極52などがそれぞれの基板本体上に配置されている。このとき、電極リード55,56は、作用電極基板27と対極基板70とが重複する部分からはみ出して外部に露出している〔図11(C)参照〕。
プローブ保持基板37および作用電極基板27は、前述と同様である。また、対極基板70の基板本体70aを構成する材料、基板本体70aの大きさおよび厚さは、前記電極基板20の基板本体20aを構成する材料、基板本体20aの大きさおよび厚さと同様である。
なお、本実施の形態の検出セットにおいても、参照電極53を設けなくてもよい。
【0068】
[検出物質の電気化学的検出方法]
本発明の検出物質の電気化学的検出方法は、標識物質を含む検出物質を電気化学的に検出する方法であって、
(1−1) 標識物質を含む検出物質を、この標識物質を含む検出物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されたプローブ保持基板に接触させて、前記プローブに前記標識物質を含む検出物質を捕捉させる工程、
(1−2) 前記工程(1−1)で得られたプローブ保持基板の基板本体から、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分を脱離させ、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む前記部分を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引させる工程、および
(1−3) 前記工程(1−2)で作用電極に誘引された前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む前記部分を電気化学的に検出する工程
を含む方法である〔「方法1」という〕。本発明の検出物質の電気化学的検出方法には、上述した検出装置、検査チップおよび検出セットを用いることができるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0069】
方法1は、プローブ保持基板のプローブにより、当該検出物質を捕捉させた後、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分を脱離させ、作用電極に誘引させる点に1つの大きな特徴がある。
これにより、検出物質の捕捉領域と検出領域(作用電極)とが異なる領域となるので、検出物質以外の夾雑物質が作用電極上に非特異的に吸着することを防ぐことができる。したがって、検出物質の検出時におけるノイズを低減させることができる。
また、方法1では、プローブが固定化された作用電極が用いられないため、作用電極を容易に再利用することができる。したがって、プローブが固定化された作用電極を用いる場合と比べて、1測定あたりのコストを低減することができる。
また、方法1では、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分を作用電極の近傍に移送させることができる。そのため、作用電極上に、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分を含む検出物質を捕捉するための捕捉物質が固定化されていなくても、標識物質を含む検出物質を電気化学的に検出することができる。したがって、本方法1は、捕捉物質が固定された作用電極を用いる従来の電気化学検出法により得られる測定感度などにおける原理的な利点を有する。
【0070】
方法1においては、前記工程(1−1)におけるプローブ保持基板は、標識物質を含む検出物質を捕捉するためのプローブが保持部を介して基板本体上に保持されたプローブ保持基板である。
【0071】
また、方法1においては、前記工程(1−1)の後に、作用電極およびプローブ保持基板を、所定の間隙を介して対向させて、前記工程(1−2)を行なってもよい。
さらに、方法1においては、作用電極を備えた電極基板と、プローブ保持基板とが対向配置された状態で、前記工程(1−1)〜前記工程(1−3)を行なってもよい。
【0072】
なお、方法1においては、プローブ保持基板の基板本体から前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分を脱離させた時に、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分に、プローブの全部または一部が付随していることがある。
【0073】
方法1では、プローブおよび検出物質の種類、プローブ保持基板の基板本体へのプローブの保持手段などにより、プローブ保持基板への検出物質の捕捉およびプローブ保持基板からの検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分または標識物質の脱離の手法が異なっている〔図12〜図19参照〕。
また、方法1では、前記標識物質としては、電気化学的または光化学的に活性な物質が用いられる。電気化学的に活性な物質は、当該物質に基づく酸化還元電流および/または電気化学発光を用いて検出される。一方、光化学的に活性な物質は、当該物質が光により励起されることにより放出される電子を用いて検出される。かかる方法1では、標識物質の検出技術の種類によって、光電気化学検出法(図20参照)および酸化還元電流・電気化学発光検出法(図21)に大別することができる。
本発明においては、捕捉から脱離までの手法と、検出方法とは、適宜組み合わせることができる。
したがって、以下においては、まず、工程(1−1)から工程(1−2)の脱離までの処理手順(「処理手順(A)」という)を説明した後、工程(1−2)の誘引から工程(1−3)の検出の処理手順を説明する。
【0074】
[処理手順(A)]
図12に、本発明の一実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の工程のうち、検出物質の捕捉工程から脱離工程までの処理手順の一例を示す。
【0075】
まず、標識物質を含む検出物質を含有する液体試料を、検査チップのプローブ保持基板201に供する〔図12(A)参照〕。
液体試料中には、標識物質を含む検出物質Sと、その他の夾雑物質Fとが含まれている。
プローブ保持基板201は、基板本体201aと、基板本体201aの表面に形成された保持部211と、この保持部211に結合基(チオール基221)を介して固定されたプローブ222とを備えている。
【0076】
標識物質としては、後述の光電気化学検出法により検出を行う場合、金属錯体、有機蛍光体、量子ドットおよび無機蛍光体からなる群より選択された少なくとも1つを用いることができる。
前記標識物質の具体例としては、金属フタロシアニン、ルテニウム錯体、オスミウム錯体、鉄錯体、亜鉛錯体、9−フェニルキサンテン系色素、シアニン系色素、メタロシアニン色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、ポリメチン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ローダミン系色素、キサンテン系色素、クロロフィル系色素、エオシン系色素、マーキュロクロム系色素、インジゴ系色素、BODIPY系色素、CALFluor系色素、オレゴングリーン系色素、ロードル(Rhodol)グリーン、テキサスレッド、カスケードブルー、核酸(DNA、RNAなど)、亜鉛チトクロムC、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、ペプチド、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム、Ln23:Re、Ln22S:Re、ZnO、CaWO4、MO・xAl23:Eu、Zn2SiO4:Mn、LaPO4:Ce、Tb、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cy7.5およびCy9(いずれも、アマシャムバイオサイエンス社製);Alexa Fluor 355、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750およびAlexa Fluor 790(いずれも、モレキュラープローブ社製);DY−610、DY−615、DY−630、DY−631、DY−633、DY−635、DY−636、EVOblue10、EVOblue30、DY−647、DY−650、DY−651、DY―800、DYQ−660およびDYQ−661(いずれも、Dyomics社製);Atto425、Atto465、Atto488、Atto495、Atto520、Atto532、Atto550、Atto565、Atto590、Atto594、Atto610、Atto611X、Atto620、Atto633、Atto635、Atto637、Atto647、Atto655、Atto680、Atto700、Atto725およびAtto740(いずれも、Atto−TEC GmbH社製);VivoTagS680、VivoTag680およびVivoTagS750(いずれも、VisEnMedical社製)などが挙げられる。なお、前記LnはLa、Gd、LuまたはYを示し、Reはランタニド族元素を示し、Mはアルカリ土類金属元素を示し、xは0.5〜1.5の数を示す。標識物質の他の例については、例えば、特許第4086090号公報、特開平7−83927号公報、特開2009−023993号公報、特開2007−220445号公報などを参照することができる。
【0077】
一方、後述の酸化還元電流・電気化学発光検出法により検出を行う場合、標識物質として、電圧を印加することにより酸化還元電流を生じる標識物質または電圧を印加することにより発光する標識物質を用いることができる。
電圧を印加することにより酸化還元電流を生じる標識物質としては、例えば、電気的に可逆的な酸化還元反応を起こす金属を中心金属として含む金属錯体などが挙げられる。このような金属錯体としては、例えば、トリス(フェナントロリン)亜鉛錯体、トリス(フェナントロリン)ルテニュウム錯体、トリス(フェナントロリン)コバルト錯体、ジ(フェナントロリン)亜鉛錯体、ジ(フェナントロリン)ルテニュウム錯体、ジ(フェナントロリン)コバルト錯体、ビピリジンプラチナ錯体、タ−ピリジンプラチナ錯体、フェナントロリンプラチナ錯体、トリス(ビピリジル)亜鉛錯体、トリス(ビピリジル)ルテニュウム錯体、トリス(ビピリジル)コバルト錯体、ジ(ビピリジル)亜鉛錯体、ジ(ビピリジル)ルテニュウム錯体、ジ(ビピリジル)コバルト錯体などが挙げられる。
また、酸化還元電流・電気化学発光検出法においても、誘引用修飾物質としても利用可能な核酸を標識物質として用いてもよい。標識物質として核酸を用いた場合、核酸由来の酸化還元電流として、アデニン、チミン、グアニン、シトシンまたはウラシルに由来する酸化還元電流を利用することができる。
電圧を印加することにより発光する標識物質としては、例えば、ルミノール、ルシゲニン、ピレン、ジフェニルアントラセン、ルブレンなどが挙げられる。
これらの標識物質の発光は、例えば、ホタルルシフェリン、デヒドロルシフェリンのようなルシフェリン誘導体、フェニルフェノール、クロロフェノールのようなフェノ−ル類若しくはナフトール類のようなエンハンサーを用いることにより増強することが可能である。
また、電圧を印加することにより発光する標識物質としてGFP、YFP、RFP、DsReD、mCherry、Dendra2などの蛍光タンパク質、ロドプシンなどのタンパク質などを用いてもよい。
【0078】
標識物質を含む検出物質Sは、用いられる標識物質の種類に応じた方法で作製することができる。
【0079】
プローブ222は、標識物質を含む検出物質Sの種類に応じて適宜選択される。例えば、標識物質を含む検出物質Sが核酸を含む場合、プローブ222は、かかる核酸にハイブリダイズする核酸プローブまたは前記核酸に対する抗体であればよい。また、標識物質を含む検出物質Sがタンパク質またはペプチドを含む場合、プローブ222は、かかるタンパク質またはペプチドに対する抗体、タンパク質に対するリガンド、ペプチドに対するレセプタータンパク質などであればよい。
【0080】
その後、液体試料中の標識物質を含む検出物質Sのみをプローブ保持基板201のプローブ222により捕捉させる〔捕捉工程、図12(B)参照〕。かかる捕捉工程は、前記工程(1−1)に対応している。
ここで、プローブ222による標識物質を含む検出物質Sの捕捉は、プローブ222と標識物質を含む検出物質Sとが結合する条件下で行なうことができる。前記条件は、標識物質を含む検出物質Sの種類などに応じて適宜選択することができる。
例えば、標識物質を含む検出物質Sが核酸を含む場合、プローブ222による標識物質を含む検出物質Sの捕捉は、リン酸緩衝生理的食塩水などの溶液中で行なうことができる。プローブ222による標識物質を含む検出物質Sの捕捉は、例えば、マイクロチューブ(例えば、エッペンドルフチューブなど)中で行なうことができる。
【0081】
つぎに、プローブ保持基板201を洗浄し、夾雑物質Fを除去する〔洗浄工程、図12(C)参照〕。
前記洗浄工程は、プローブ222および標識物質を含む検出物質Sの種類に応じた手法などにより行なうことができる。
例えば、プローブ222と標識物質を含む検出物質Sとが核酸を含む場合、洗浄液として、SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)と界面活性剤とを含む溶液などが挙げられる。この場合、かかる洗浄液は、SSCの濃度がより低く、かつ界面活性剤の濃度がより高いほど、夾雑物質を高い効率で除去することができる。
【0082】
その後、保持部211を除去することにより、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分(本実施の形態では、標識物質を含む検出物質Sとプローブ222と結合基221との複合体230)を、プローブ保持基板201の基板本体201aから脱離させる〔脱離工程、図12(D)参照〕。
【0083】
保持部211の除去は、例えば、保持部211を溶解する溶解液と、保持部211とを接触させることなどにより行なわれる。
前記溶解液は、保持部211を構成する材料に応じて、適宜選択することができる。例えば、保持部211を構成する材料として、金、銀、パラジウム、アルミニウムなどを用いた場合は、溶解液は、ヨウ素またはヨウ化物を含有する溶液であることが好ましい。ヨウ素またはヨウ化物は、後述の誘引に際して用いられる電解質としての性質と、保持部211を溶解させる物質(エッチャント)としての性質とを有している。このため、ヨウ素またはヨウ化物を含有する溶液を用いた場合、エッチャントと電解質とが別々の物質で構成される場合と比較して、電極部との不要な反応が抑制される。
前記溶解液としては、具体的には、電解質としてヨウ素、支持電解質としてテトラプロピルアンモニウムヨージドおよび溶媒として、アセトニトリルとエチレンカーボネートとの混合物〔例えば、アセトニトリル:エチレンカーボネート(体積比)=2:3〕を含有する溶液などが挙げられる。
また、保持部211を構成する材料として、ポリスチレンなどのプラスチックを保持部固定層として用いた場合、前記溶解液として、例えば、アセトニトリルを含有する溶液を用いることができる。
例えば、保持部211が、溶解液に溶解する金属またはその合金からなる層(第1の層)を有する場合、溶解液を保持部211に接触させることにより、基板本体201aから、標識物質を含む検出物質Sを捕捉したプローブ222を脱離させることができる。
【0084】
なお、処理手順(A)においては、図13に示されるように、プローブ保持基板として、結合基221を介してプローブ222を保持する保持層211bと、保持層211bと基板本体202aとを密着させる密着層211aとからなる2層構造を有する保持部を備えたプローブ保持基板202を用いてもよい。この場合も、図12に示される処理手順と同様の操作を行なうことができる。かかる処理手順では、保持層211bを構成する材料と密着層211aを構成する材料との組み合わせの選択により、誘引効率の向上、検出の際のノイズの低減などを図ることもできる。なお、脱離工程において、保持層211bのみを除去してもよい。
例えば、保持部211が、溶解液に溶解する金属または合金からなる第1の層(保持層211b)と、この保持層211bおよび基板本体202aの間に設けられ、保持層211bおよび基板本体202aを密着させる第2の層(密着層211a)とを有する場合、溶解液を保持部211に接触させることにより、基板本体202aから、標識物質を含む検出物質Sを捕捉したプローブ222を脱離させることができる。
【0085】
また、処理手順(A)においては、図14に示されるように、結合基を介さずにプローブ223が保持部211に直接保持されたプローブ保持基板203を用いてもよい。
このような例としては、保持部211が、熱可塑性樹脂からなるものである場合が挙げられる。このとき、標識物質を含む検出物質Sが捕捉されたプローブ保持基板203を加熱することにより、基板本体203aから、標識物質を含む検出物質Sを捕捉したプローブ223を脱離させることができる。
【0086】
図15は、標識物質を含む検出物質S中に、熱、光または開裂剤により開裂する結合Sa−Sbを有する場合の処理手順を示している。開裂可能な結合部分は、直鎖状有機基、分岐鎖状有機基および環状有機基のなかから選択された有機基により構成されていることが好ましい。前記開裂可能な結合部分は、好ましくは1〜100個の原子、より好ましくは1〜約50個の原子を含む。前記原子は、水素原子、炭素原子、ホウ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ハロゲンおよびアルカリ金属原子のなかから選択されることが好ましい。このような例としては、還元開裂を受ける基、例えば、エタンチオール、メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)などのチオール化合物により開裂するジスルフィド結合を含む有機基;チオール化合物、アミン化合物、ホスフィン化合物などにより開裂可能な過酸化結合(−O-O−)を含む有機基;光化学的に開裂可能な窒素置換芳香族エステル基を含む有機基;エステラーゼ、加水分解酵素などにより開裂可能なエステル結合を含む有機基;プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)、ペプチダーゼなどにより開裂可能なアミド結合またはペプチド結合を含む有機基;グリコシダーゼにより開裂可能なグリコシド基などが挙げられる。この場合、脱離工程において、標識物質を含む検出物質Sを捕捉したプローブ保持基板204に対して、熱、光または開裂剤を与えるだけで、結合Sa−Sbを切断し、標識物質を含む検出物質Sの一部(標識物質を含む部分)を、プローブ保持基板204から脱離させることができる〔図15(D)参照〕。したがって、脱離工程を容易に行なうことができる。
図16は、プローブ222中に、熱、光または開裂剤により開裂する結合222a−222bを有する場合の処理手順を示している。この場合、脱離工程において、標識物質を含む検出物質Sを捕捉したプローブ保持基板205に対して、熱、光または開裂剤を与えるだけで、結合222a−222bを切断し、標識物質を含む検出物質Sとプローブ222の一部分222bを含む産物を、プローブ保持基板205から脱離させることができる〔図16(D)参照〕。したがって、脱離工程を容易に行なうことができる。
なお、図15および図16においては、プローブが基板本体に直接固定されたプローブ保持基板を用いた場合を例として示している。しかしながら、図15および図16に示される処理手順においても、プローブが保持部を介して基板本体に固定されたプローブ保持基板を用いてもよい。
【0087】
図17は、標識物質を含む検出物質Sと、プローブ222とが特異的に会合して複合体233を形成するものであり、複合体233の会合が熱に対して不安定である場合の処理手順を示している。このような例としては、核酸間のハイブリダイゼーション、タンパク質間の抗原抗体反応などが挙げられる。この場合、脱離工程において、標識物質を含む検出物質Sを捕捉したプローブ保持基板206に対して、熱を与えることにより、標識物質を含む検出物質Sと、プローブ222とを容易に解離させることができる〔図17(D)参照〕。したがって、脱離工程を容易に行なうことができる。なお、複合体233の会合が競合物質の存在により不安定になる場合も同様である。
【0088】
また、標識物質を含む検出物質およびプローブがDNAを含む場合、図18に示されるように、標識物質を含む検出物質〔図中、「S1」〕とプローブ222とが特異的にハイブリダイズすることにより、制限酵素などの酵素によって切断される認識配列が生じることがある。このような場合、脱離工程において、標識物質を含む検出物質S1を捕捉したプローブ保持基板207に対して、制限酵素(図中、「開裂剤」)を接触させることにより、認識配列を有する二本鎖DNA部分を切断し、標識物質を含む検出物質S1の一部を含む産物S2を、プローブ保持基板207から脱離させることができる〔図18(D)参照〕。したがって、脱離工程を容易に行なうことができる。
【0089】
標識物質を含む検出物質が、標識物質を含む部分を脱離可能に保持しうる材料を含んでいてもよい。かかる材料としては、特に限定されないが、例えば、前述の溶解液に溶解する金属または合金、電気分解可能な(酸化還元反応によりイオン化する)金属または合金、開裂剤により開裂する結合を形成する官能基を有する化合物、開裂剤により開裂する官能基を有する化合物、加熱により溶融する化合物、光開裂性の官能基を有する化合物、光開裂性の結合を形成する官能基を有する化合物などが挙げられる。
前記溶解液に溶解する金属または合金としては、例えば、金、白金、銀、パラジウム、ニッケル、水銀、ロジウム、ルテニウム、銅、モリブデンまたはそれらの合金などが挙げられる。
前記開裂剤により開裂する結合を形成する官能基を有する化合物としては、ジスルフィド結合を持つ化合物、例えばシステインの2量体などが挙げられる。
前記加熱により溶融する化合物としては、例えば、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン、アクリロニトリル/スチレン樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの熱可塑性樹脂などが挙げられる。前記加熱により溶融する化合物の他の例については、例えば、特開平11−35675号公報、特表2008‐506386号公報などを参照することができる。
前記光開裂性の官能基を有する化合物としては、例えば、窒素置換芳香族エステル;p−メトキシフェナシル基、2−ニトロベンジル基、2−ニトロベンジルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、3,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、α,α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、3−ニトロフェニル基、3−ニトロフェノキシ基、3,5−ジニトロフェノキシ、3−ニトロフェノキシカルボニル、フェナシル、4−メトキシフェナシル、α−メチルフェナシル、3,5−ジメトキシベンゾイニル、2,4−ジニトロベンゼンスルフェニル基などの官能基を有する化合物、具体的には、オルトフェニルベンジルエステルなどが挙げられる。
前記光開裂性の結合を形成する官能基を有する化合物としては、例えば、ピリミジンの5位に置換ビニル基を有するピリミジン塩基、5−シアノビニル−1’−α−2’−デオキシウリジン誘導体などが挙げられる。ピリミジンの5位に置換ビニル基を有するピリミジン塩基としては、例えば、構成塩基として5−カルボキシビニルウラシルを有するヌクレオチドを末端に有する核酸などが挙げられる。ピリミジンの5位に置換ビニル基を有するピリミジン塩基の他の例については、例えば、特許第3753942号公報などを参照することができる。5−シアノビニル−1’−α−2’−デオキシウリジン誘導体の具体例については、例えば、特許第4180020号公報などを参照することができる。また、前記光開裂性の結合を形成する官能基を有する化合物として、例えば、特表2008−542783号公報などに記載のリンカーを用いてもよい。かかるリンカーは、例えば、市販のリンカーであってもよい。
【0090】
標識物質を含む部分を脱離可能に保持しうる材料としては、検出物質や被検物質を捕捉する工程中における安定性や、プローブを当該材料に結合させる官能基などとの反応性を十分に確保する観点から、金属または合金が好ましい。前記金属または合金のなかでは、検出物質や被検物質を捕捉する工程中における安定性や、プローブを当該材料に結合させる官能基などとの反応性の観点から、金、銀またはパラジウムが好ましい。特に金ナノ粒子、金ナノワイヤなどの金からなるナノ構造体が挙げられる。
【0091】
図19に、本発明の他の実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法において、標識物質を含む検出物質が、標識物質を含む部分を脱離可能に保持しうる材料を含む場合の工程のうち、検出物質の捕捉工程から脱離工程までの処理手順の一例を示す。なお、図19では、タンパク質を検出する場合を一例として示す。
【0092】
まず、基板本体208a上に設けられた保持部211上に、抗原224bと特異的に結合する一次抗体224aを固定し、この一次抗体224aに抗原224bを結合させる。これにより、プローブ保持基板208が得られる。この状態では、一次抗体224aと抗原224bとの複合体をプローブ〔図19(A)中、「224」〕とみなすことができる〔図19(A)参照〕。なお、この場合、保持部211は、溶解液などに対する溶解性を示さなくてもよく、一次抗体224aを基板本体208a上に安定して固定できればよい。
【0093】
つぎに、複数個の標識二次抗体S3Bが金ナノ粒子S3Aに固定された複合体(標識物質を含む検出物質S3)を、プローブ保持基板208の保持部211上のプローブ224と反応させる〔図19(B)、「捕捉工程」参照〕。前記標識二次抗体S3Bは、抗原224bと特異的に結合する二次抗体S3B1が標識物質S3B2で標識されたものである。
【0094】
つぎに、プローブ保持基板208を洗浄することにより、プローブ224に結合しなかった余剰の標識物質を含む検出物質S3を除去する〔図19(C)、「洗浄工程」参照〕。
本洗浄工程では、洗浄に際して、タンパク質検出系では、通常タンパク質検出系で用いられる洗浄液、例えば、0.1体積% Tween20含有トリス緩衝生理的食塩水、リン酸緩衝生理的食塩水などの洗浄液を用いることができる。また、遺伝子検出系では、遺伝子検出系で用いられる洗浄液、例えば、SSPE(Standard saline phosphate EDTA)、SSC(Standard saline citrate)などの洗浄液を用いることができる。
【0095】
その後、溶解剤を含んでおり、金ナノ粒子に結合していた標識物質を含む検出物質の一部をプローブ保持基板から脱離させ、かつ作用電極上へ誘引する溶液を、プローブ保持基板208上に加え、金ナノ粒子S3Aを溶解させる。これにより、金ナノ粒子に結合していた標識物質を含む検出物質の一部がプローブ保持基板から脱離し、作用電極上へ誘引される(図19(D)参照)。
【0096】
なお、図19に示される実施態様では、標識物質を含む検出物質として、複数個の標識二次抗体S3Bが金ナノ粒子S3Aに固定された複合体を用いているが、二次抗体S3B1に標識物質を直接結合させず、金ナノ粒子S3Aに標識物質を直接結合させた複合体を用いてもよい。また、標識物質を含む検出物質として、被検物質と特異的に結合しない物質に標識物質を結合させ、さらに金ナノ粒子に結合させた複合体を用いてもよい。
【0097】
また、図19に示される実施態様では、ジチオスレイトール(DTT)を用いることによって金ナノ粒子を溶解せずに、標識物質を含む検出物質の一部を分離することも可能である。この場合、例えば、標識物質を含む検出物質の一部をチオール基で金ナノ粒子上に結合させておけばよい。金ナノ粒子上の標識物質を含む検出物質の一部は、DTTとの接触によってチオール基と金ナノ粒子との結合が開裂することにより、金ナノ粒子上から分離される。
【0098】
[処理手順(B)]
1.光電気化学検出法
図20に、本発明の一実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の工程のうち、検出物質の誘引工程から検出工程までの処理手順の一例を示す。かかる図20では、光電気化学検出法により検出する場合を説明する。なお、本実施の形態では、検出物質Sに誘引用修飾物質241が付加されている修飾検出物質240a〔図20(A)参照〕を用いる場合を例として挙げて説明する。
【0099】
この光電気化学検出法では、標識物質として、光を照射することにより励起状態となり電子を放出する標識物質が用いられる。
【0100】
誘引用修飾物質241としては、例えば、DNA、RNAなどの核酸などが挙げられる。
【0101】
なお、標識物質を含む検出物質Sは、作用電極へ誘引可能であれば、誘引用修飾物質241が付加されていなくてもよい。
【0102】
光電気化学検出法では、作用電極51に、修飾検出物質240aを誘引する〔誘引工程、図20(B)参照〕。
かかる誘引工程は、修飾検出物質240aを、その捕捉物質が存在しない作用電極51との間で電子輸送が可能な領域に誘引する工程である。前記誘引工程では、修飾検出物質240aを作用電極51に固定する。
【0103】
ここで、「捕捉物質が存在しない作用電極との間で電子輸送が可能な領域」は、通常、作用電極51から0〜10nmの範囲の領域である。
【0104】
光電気化学検出法に用いられる作用電極51は、標識物質の光励起により放出される電子を受容可能な電極である。したがって、作用電極51の構成および材料は、標識物質との間で電子輸送が生じるものであればよい。
【0105】
作用電極51への修飾検出物質240aの誘引は、修飾検出物質240a、誘引液および作用電極51との間の疎水性相互作用若しくは親水性相互作用、または、作用電極51または対極52に電圧を印加することによる電気泳動効果を利用することなどにより行なうことができる。
【0106】
本誘引工程は、例えば、
1) 誘引液の疎水性・親水性を変更することにより、修飾検出物質240aと作用電極51との間の疎水性相互作用若しくは親水性相互作用を大きくすること〔すなわち、修飾検出物質240aを、極性の違いによって、捕捉物質が存在しない作用電極(作用電極51)に誘引すること〕(誘引方法1)、
2) 修飾検出物質240aの電荷に応じて、正または負の電圧を作用電極51に印加することにより、電気泳動効果を大きくすること〔すなわち、修飾検出物質240aを、電気泳動効果を利用することによって、捕捉物質が存在しない作用電極(作用電極51)に誘引すること〕(誘引方法2)
などによって行なうことができる。前記の誘引方法1および誘引方法2は、それぞれ単独で行なってもよく、両者を組み合わせて行なってもよい。
【0107】
誘引方法1では、誘引用修飾物質241として核酸を用いる場合、誘引液は、検出物質と作用電極51との間の疎水性相互作用または親水性相互作用を大きくして、作用電極51の近傍に検出物質を誘引しやすくする観点から、カオトロピックイオンを含有することが好ましい。
【0108】
前記カオトロピックイオンとしては、例えば、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、グアニジンイオン、チオシアン酸イオン、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、酢酸イオン、バリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオンなどが挙げられる。
【0109】
誘引液がカオトロピックイオンを含有する場合、誘引液中におけるカオトロピックイオンの濃度は、用いられるカオトロピックイオンの種類により異なる。前記濃度は、通常1.0〜8.0mol/Lである。カオトロピックイオンがグアニジンイオンである場合、誘引液中におけるカオトロピックイオンの濃度は、通常、4.0〜7.5mol/Lである。また、チオシアン酸イオンである場合、誘引液中におけるカオトロピックイオンの濃度は、通常、3.0〜5.5mol/Lである。
【0110】
なお、標識物質または誘引用修飾物質241として核酸(DNA、RNAなど)を用いる場合、慣用の核酸抽出・精製方法を利用して、標識物質を含む検出物質を、作用電極51の近傍に誘引させることができる。
【0111】
前記核酸抽出・精製方法としては、液相を用いる方法、核酸結合用担体を用いる方法などが挙げられる。液相を用いる方法としては、例えば、フェノール/クロロホルム抽出法(Biochimica et Biophysica acta、1963年発行、第72巻、pp.619−629)、アルカリSDS法(Nucleic Acid Research、1979年発行、第7巻、pp.1513−1523)、塩酸グアニジンを含有する緩衝液にエタノールを加え核酸を沈降させる方法(Analytical Biochemistry、162、1987、463)などが挙げられる。核酸結合用担体を用いる方法としては、ガラス粒子とヨウ化ナトリウム溶液とを用いて核酸をガラス粒子に吸着させ、単離する方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、76−2:615−619,1979)や、シリカ粒子とカオトロピックイオンを用いる方法〔例えば、J.Clinical.Microbiology、1990年発行、第28巻、pp.495−503、特許第2680462号公報などを参照〕などが挙げられる。シリカ粒子とカオトロピックイオンを用いる方法では、まず、核酸が結合するシリカ粒子と試料中の核酸を遊離する能力を有するカオトロピックイオンを含む溶液とを試料と混合して核酸をシリカ粒子に結合させる。つぎに、夾雑物質を洗浄により除去する。その後、シリカ粒子に結合した核酸を回収する。前記方法によれば、簡便、かつ迅速に核酸を抽出することができる。しかも、かかる方法は、DNAの抽出だけではなく、より不安定であるRNAの抽出にも好適であり、純度の高い核酸が得られるという点で非常に優れている。
そこで、修飾検出物質240aが、標識物質または誘引用修飾物質241として核酸を含む場合、前記核酸抽出・精製方法に用いられる溶媒を誘引液として用いることにより、修飾検出物質240aを作用電極51の近傍に誘引させることができる。この場合、カオトロピックイオンとして、グアニジンイオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、チオシアン酸イオンまたはこれらの任意の組み合わせを用い、作用電極として核酸を結合する電極(例えば、スズを含む酸化インジウムなど)を用いることが好ましい。
【0112】
また、修飾検出物質240aが、標識物質または誘引用修飾物質241として核酸(DNA、RNAなど)を含む場合、誘引液は、必要に応じて、緩衝液を含有していてもよい。前記緩衝液は、核酸を安定に保持するために一般に用いられる緩衝液であればよい。前記緩衝液は、核酸を安定に保持する観点から、中性付近、すなわちpH5.0〜9.0において緩衝能を有することが好ましい。前記緩衝液としては、例えば、トリス−塩酸塩、四ホウ酸ナトリウム−塩酸、リン酸二水素カリウム−四ホウ酸ナトリウム緩衝液などが挙げられる。緩衝液の濃度は、1〜500mmol/Lであることが好ましい。
【0113】
一方、誘引方法2では、修飾検出物質240aの電荷に応じて、正または負の電圧を作用電極に印加する。例えば、修飾検出物質240aが、標識物質または誘引用修飾物質241として核酸(DNA、RNAなど)を含む場合、核酸は負に荷電している。したがって、作用電極51に正の電圧を印加することにより、修飾検出物質240aを作用電極51の近傍に誘引させることができる。
【0114】
なお、ヨウ素またはヨウ化物は、酸化還元反応のメディエーターとなりうるため、修飾検出物質240aからの電気化学シグナルを検出するために用いることができる。ヨウ素およびテトラプロピルアンモニウムヨージドをアセトニトリルとエチレンカーボネートとの混合溶媒に溶かした溶液は、標識物質を含む検出物質を基板本体からの脱離と、さらに脱離した標識物質を含む検出物質を作用電極51上への誘引と、電気化学的検出とをすべて実施できる溶液である。
溶液の組成を変えれば、脱離工程および誘引工程を異なる溶液で実施することも可能である。
例えば、ヨウ化カルシウム水溶液を用いて、標識物質を含む検出物質を基板本体から脱離させることができる。しかしながら、ヨウ化カルシウム水溶液のままでは、標識物質を含む検出物質は、作用電極51上に誘引されにくい。そこで、脱離後、ヨウ化カルシウム水溶液にアセトニトリルのような有機溶媒を加えることで、プローブおよびプローブに捕捉された標識物質を含む検出物質を作用電極上へ効率よく誘引することができる。
【0115】
光電気化学検出法では、つぎに、作用電極51の近傍に存在する修飾検出物質240aに光を照射して標識物質を励起させ、光電流を測定することにより、修飾検出物質240aを検出する〔図20中、(C)、「検出工程」〕。
【0116】
本検出工程では、誘引工程において誘引液を用いた場合、必要に応じて、誘引液を、電気化学的な検出に適した電解液に置換することができる。この場合、電解液の存在下において、修飾検出物質240aを電気化学的に検出する。
なお、誘引液が、酸化された状態の標識物質に電子を供給する性質を有し、検出物質の電気化学的な検出が可能である場合、検出工程において、この誘引液をそのまま用いてもよい。
【0117】
前記電解液として、酸化された状態の標識物質に電子を供給しうる塩からなる電解質と、非プロトン性極性溶媒、プロトン性極性溶媒または非プロトン性極性溶媒とプロトン性極性溶媒との混合物とを含む溶液を用いることができる。この電解液は、所望により、他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0118】
電解質としては、例えば、ヨウ化物、臭化物、金属錯体、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、これらの混合物などが挙げられる。前記電解質の具体例としては、LiI、NaI、KI、CsI、CaI2などの金属ヨウ化物;テトラアルキルアンモニウムヨージド、ピリジニウムヨージド、イミダゾリウムヨージドなどの4級アンモニウム化合物のヨウ素塩;LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2などの金属臭化物;テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイドなどの4級アンモニウム化合物の臭素塩;フェロシアン酸塩、フェリシニウムイオンなどの金属錯体;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸カルシウムなどのチオ硫酸塩;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸鉄、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カルシウムなどの亜硫酸塩;およびこれらの混合物などが挙げられる。これらのなかでは、テトラプロピルアンモニウムヨージドおよびCaI2が好ましい。
【0119】
電解液の電解質濃度は、好ましくは0.001〜15Mである。
【0120】
プロトン性極性溶媒として、水、水を主体に緩衝液成分を混合した極性溶媒などを用いることができる。
非プロトン性極性溶媒としては、アセトニトリル(CHCN)などのニトリル類;プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどのカーボネート類、1,3−ジメチルイミダゾリノン、3−メチルオキサゾリノン、ジアルキルイミダゾリウム塩などの複素環化合物;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホランなどが挙げられる。非プロトン性極性溶媒のなかでは、アセトニトリルが好ましい。プロトン性極性溶媒および非プロトン性極性溶媒は、単独で、または両者を混合して用いることができる。プロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒との混合物は、水とアセトニトリルとの混合物が好ましい。
【0121】
修飾検出物質240aへの光の照射には、標識物質を光励起することができる波長の光を照射できる光源を用いることができる。かかる光源は、標識物質の種類などに応じて、適宜選択することができる。前記光源としては、例えば、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色LED、青色LED、緑色LED、赤色LEDなど)、レーザー(例えば、炭酸ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど)、太陽光などが挙げられる。前記光源のなかでは、蛍光灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LEDまたは太陽光が好ましい。また、検出工程においては、必要に応じて、分光器やバンドパスフィルタを用いて特定波長領域の光のみを修飾検出物質240aに照射してもよい。
【0122】
標識物質に由来する光電流の測定には、例えば、電流計、ポテンショスタット、レコ−ダおよび計算機を備える測定装置などを用いることができる。
本検出工程では、光電流を定量することにより、修飾検出物質240aの量を調べることができる。
【0123】
なお、本光電気化学検出法に用いられる作用電極51上には、修飾検出物質240aを捕捉する捕捉物質が存在しない。したがって、作用電極51を簡便な処理で洗浄することができ、再利用することができる。
作用電極51の洗浄は、紫外線―オゾン洗浄(UV-O3洗浄)などにより行なうことができる。前記UV-O3洗浄では、紫外線による有機化合物の分解とO3の生成および分解の過程における強力な酸化作用により有機化合物が分解され、電極の表面から除去される。
また、標識物質または誘引用修飾物質241として核酸を用いた場合、適切な溶液中で、作用電極上にマイナスの電圧を印加することで、修飾検出物質240aを作用電極51から解離させることもできる。これは、核酸がマイナスに帯電しているからである。前記溶液としては、例えば、リン酸緩衝生理的食塩水(PBS)、TEB〔組成:10mMトリス塩酸緩衝液、1mM EDTA〕水などが挙げられる。
【0124】
なお、本実施の形態では、誘引用修飾物質241が、検出物質Sの代わりに、標識物質または前記検出物質Sの一部であり、かつ標識物質を含む部分を含む場合も、前記と同様に実施することができる。
【0125】
2.酸化還元電流・電気化学発光検出法
図21は、本発明の他の実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の工程のうち、検出物質の誘引工程から検出工程までの処理手順を示す工程説明図である。かかる図21では、酸化還元電流・電気化学発光検出法により検出する場合を説明する。なお、本実施の形態においても、検出物質Sに誘引用修飾物質241が付加されている修飾検出物質240b〔図21(A)参照〕を用いる場合を例として挙げて説明する。
【0126】
酸化還元電流・電気化学発光検出法では、標識物質として、電圧を印加することにより酸化還元電流を生じる標識物質または電圧を印加することにより発光する標識物質が用いられる。
【0127】
酸化還元電流・電気化学発光検出法では、作用電極51に、修飾検出物質240bを誘引する〔誘引工程、図21(B)〕。
【0128】
かかる誘引工程は、捕捉物質が存在しない作用電極によって標識物質を電子励起可能な領域に誘引する工程である。
【0129】
作用電極51への修飾検出物質240bの誘引は、前記光電気検出法における誘引工程と同様の操作により行なうことができる。
【0130】
ここで、「捕捉物質が存在しない作用電極によって標識物質を電子励起可能な領域」は、電圧を印加することにより作用電極から標識物質に電子が移動し、当該標識物質を電子励起状態にすることができる領域である。前記領域は、通常、作用電極から0〜10nmの範囲の領域である。
【0131】
酸化還元電流・電気化学発光検出法では、つぎに、作用電極51の近傍に存在する修飾検出物質240bに電圧を印加する。そして、標識物質に基づく酸化還元電流または光を測定することにより、修飾検出物質240bを検出する〔検出工程、図21(C)参照〕。なお、図21(C)は、電圧印加により生じた光を測定する場合を例として挙げて示している。
【0132】
本検出工程では、誘引工程において誘引液を用いた場合、光電気化学検出法の場合と同様に、必要に応じて、誘引液を、電気化学的な検出に適した電解液に置換することができる。この場合、電解液の存在下において、標識物質を含む検出物質を電気化学的に検出する。
【0133】
本検出工程において、酸化還元電流を測定する場合、酸化還元電流の測定には、例えば、ポテンショスタット、ファンクションジェネレータ、レコ−ダおよび計算機を備える測定装置などを用いることができる。
この場合、酸化還元電流を定量することにより、検出物質の量を調べることができる。
【0134】
本検出工程において、標識物質に基づく光を測定する場合、当該光の測定には、フォトンカウンタなどを用いることができる。また、この場合、電極の代わりに、光ファイバ−の先端に透明電極を形成することにより得られる光ファイバ−電極を用いて間接的に検出することもできる(特許第2573443号公報を参照)。
【0135】
本酸化還元電流・電気化学発光検出法に用いられる作用電極51上にも、修飾検出物質240bを捕捉する捕捉物質が存在しない。したがって、光電気化学検出法に用いられる作用電極51の場合と同様に、簡便な処理で作用電極51を洗浄することができ、再利用することができる。
作用電極の洗浄は、光電気化学検出法における作用電極の洗浄と同様の操作により行なうことができる。
【0136】
なお、本実施の形態では、誘引用修飾物質241が、検出物質Sの代わりに、標識物質または前記検出物質Sの一部であり、かつ標識物質を含む部分を含む場合も、前記と同様に実施することができる。
【0137】
[被検物質の電気化学的検出方法]
つぎに、本発明の被検物質の電気化学的検出方法を説明する。
本発明の被検物質の電気化学的検出方法は、被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
(2−1) 被検物質およびこの被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質を、前記被検物質または標識結合物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されたプローブ保持基板に接触させて、当該プローブ保持基板上に標識物質と被検物質とを含む複合体を形成させる工程、
(2−2) 前記工程(2−1)で得られたプローブ保持基板の保持部から少なくとも標識結合物質または標識物質を脱離させ、当該標識結合物質または標識物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程、および
(2−3) 前記工程(2−2)で作用電極に誘引された標識結合物質または標識物質を電気化学的に検出する工程、
を含む方法である。
【0138】
本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法〔「方法2」という〕の処理手順を図22に示す。かかる被験物質の電気化学的検出方法には、上述した検出装置、検査チップおよび検出セットを用いることができるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
方法2では、作用電極外のプローブ保持基板上において標識物質と被検物質とを含む複合体を形成させる。そして、このプローブ保持基板から少なくとも標識結合物質または標識物質を脱離させ、作用電極上に誘引し、検出する。したがって、方法2によれば、被検物質の大きさによらず被検物質を検出することができる。
【0139】
方法2では、工程(2−1)におけるプローブ保持基板として、被検物質または標識結合物質を捕捉するためのプローブが保持部を介して基板本体上に保持されたプローブ保持基板を用いることができる。
方法2では、前記工程(2−1)の後に、作用電極およびプローブ保持基板を、所定の間隙を介して対向させて、前記工程(2−2)を行なってもよい。また、作用電極を備えた電極基板と、プローブ保持基板とが対向配置された状態で、前記工程(2−1)〜前記工程(2−3)を行なってもよい。
【0140】
方法2では、前記標識物質として、電気化学的または光化学的に活性な物質が用いられる。
方法2は、被検物質に、この被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質を付加する点〔図22中、「標識結合物質付加工程S1−1」〕、プローブ保持基板から、標識物質と被検物質とを含む複合体を脱離させ、標識結合物質または標識物質を分離する点〔図22中、「分離工程S1−5」〕で、方法1と異なっている。
方法2に用いられる標識物質、誘引用修飾物質、誘引液、作用電極、電解液などは、方法1に用いられる標識物質、誘引用修飾物質、誘引液、作用電極、電解液などと同様である。
【0141】
方法2では、まず、被検物質と標識結合物質とを接触させ、被検物質に標識結合物質を付加する〔図22中、「標識結合物質付加工程S1−1」〕。本標識結合物質付加工程S1−1では、被験物質と標識結合物質とを含む複合体が形成される。このとき、被検物質以外の夾雑物質には、標識結合物質は結合しない。
【0142】
被検物質への標識結合物質(標識物質を含む検出物質)の付加は、標識結合物質に含まれる結合物質と被検物質とが結合する条件下で行なうことができる。結合物質と被検物質とが結合する条件は、被検物質の種類などに応じて適宜選択することができる。
例えば、被検物質が核酸である場合、被検物質への標識結合物質の付加は、リン酸緩衝生理的食塩水などの溶液中で行なうことができる。被検物質への標識結合物質の付加は、例えば、マイクロチューブ(例えば、エッペンドルフチューブなど)中で行なうことができる。
なお、被検物質が核酸である場合、標識結合物質として、被検物質の捕捉に関与しない部分に制限酵素で切断可能な認識配列を含み、かつ標識物質が結合された核酸(「切断可能な核酸」ともいう)を用いることができる。この場合、後述の分離工程で制限酵素を用いることにより、少なくとも標識物質を簡単に分離することができる。
また、被検物質が核酸であり、かつ標識結合物質に核酸が含まれる場合には、後述の分離工程において、標識結合物質と被検物質との結合体(標識物質と被験物質とを含む複合体)を加熱してもよい。これにより、少なくとも標識物質を簡単に分離することができる。
【0143】
方法2では、つぎに、標識物質と被験物質とを含む複合体を、プローブ保持基板に接触させて、当該プローブ保持基板上に標識物質と被検物質とを含む複合体を形成させる〔図22中、「捕捉工程S1−2」〕。
そして、プローブ保持基板を洗浄する〔図22中、「洗浄工程S1−3」〕。
その後、プローブ保持基板の保持部から、この保持部に捕捉された少なくとも標識結合物質または標識物質を脱離させる〔図22中、「脱離工程S1−4」〕。
方法2における捕捉工程S1−2、洗浄工程S1−3および脱離工程S1−4は、方法1における捕捉工程、洗浄工程および脱離工程と同様である。
【0144】
その後、標識物質と被検物質とを含む複合体から、少なくとも標識結合物質または標識物質を分離する〔図22中、「分離工程S1−5」〕。
【0145】
本分離工程では、標識物質と被検物質とを含む複合体からの少なくとも標識結合物質または標識物質の分離は、前記標識結合物質付加工程で用いられた標識結合物質の種類に応じた分離方法により、標識物質を含む検出物質を分離する。
【0146】
例えば、被検物質が核酸であり、被検物質と相補的な配列を有する核酸が修飾された標識物質が用いられる場合、前記複合体を含む溶液を加熱することにより、被検物質の量に応じた標識結合物質または標識物質を分離することができる。
また、標識結合物質中に切断可能な核酸が含まれている場合、制限酵素で前記切断可能な核酸中の認識配列を切断することにより、被検物質の量に応じた標識結合物質または標識物質を分離することができる。
【0147】
つぎに、標識結合物質または標識物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に、少なくとも標識結合物質または標識物質を誘引する〔図22中、「誘引工程S1−6」〕。
その後、作用電極に誘引された標識結合物質または標識物質を電気化学的に検出する〔図22中、「検出工程S1−7」〕。
方法2における誘引工程S1−6および検出工程S1−7は、方法1における誘引工程および検出工程と同様である。
上述のように、標識結合物質に核酸が含まれる場合には、誘引工程において、核酸抽出・精製に用いられる溶液(例えば、キアジェン社製、商品名:PB bufferなど)を用いることができる。この場合、まず、前記溶液を、分離工程で回収された液相に添加する。これにより、少なくとも標識結合物質または標識物質を作用電極の近傍に誘引させることができる。
被検物質が核酸以外の物質である場合、標識物質または誘引用修飾物質として核酸を用いてもよい。これにより、前記と同様に簡便に被検物質の検出を行なうことができる。
【0148】
さらに、本発明の被検物質の電気化学的検出方法には、電気化学的または光化学的に活性な被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
(3−1) 被検物質を、前記被検物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されたプローブ保持基板に接触させて、前記プローブに被検物質を捕捉させる工程、
(3−2) 前記工程(3−1)でプローブ保持基板の保持部からプローブに捕捉された被検物質または被検物質の一部を脱離させ、当該被検物質または被検物質の一部を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程、および
(3−3) 前記工程(3−2)で作用電極に誘引された被検物質または被検物質の一部を電気化学的に検出する工程、
を含む被検物質の電気化学的検出方法も含まれる〔方法3という〕。
【0149】
方法3においても、工程(3−1)におけるプローブ保持基板として、検物質を捕捉するためのプローブが保持部を介して基板本体上に保持されたプローブ保持基板を用いることができる。
また、方法3では、工程(3−1)の後に、作用電極およびプローブ保持基板を、所定の間隙を介して対向させて、工程(3−2)を行なってもよい。作用電極を備えた電極基板と、プローブ保持基板とが対向配置された状態で、工程(3−1)〜工程(3−3)を行なってもよい。
【0150】
方法3では、例えば、被検物質が核酸であり、かつプローブが核酸を含む場合、まず、被検物質を含む液体試料をプローブ保持基板に接触させて、プローブ保持基板により、被験物質を捕捉させる。つぎに、得られたプローブ保持基板を加熱するか、または制限酵素を接触させることにより、被検物質または被検物質の一部を分離する。その後、被検物質または被検物質の一部を、誘引液を用いて作用電極の近傍に誘引させ、酸化還元電流を測定して、被検物質または被検物質の一部を検出する。
【実施例】
【0151】
以下、実施例などにより、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0152】
(調製例1)
24ヌクレオチド長のDNAに、チオール基と標識物質であるAlexa Fluor750とを導入して、標識チオール化DNAを得た。得られた標識チオール化DNAをその濃度が1μMとなるように滅菌精製水に分散させ、DNA水溶液(A)を得た。また、24ヌクレオチド長のDNAにチオール基のみを導入したことを除き、前記と同様に操作を行ない、DNA水溶液(B)を得た。
【0153】
(調製例2)
アセトニトリル(AN)と、エチレンカーボネート(EC)とを、2:3〔AN:EC(体積比)〕となるように混合した。得られた混合液に、電解質塩としてテトラプロピルアンモニウムヨージドを、その濃度が0.6Mとなるように溶解させた。その後、得られた混合液に、電解質としてヨウ素を、その濃度が0.06Mとなるように溶解させた。以下、得られた混合液を、溶解液、誘引用液体試料または電解液として用いた。
【0154】
(実験例1)
(1)DNA保持基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体330a,331aの表面に、保持部361を構成する密着層361aとして白金薄膜(厚さ:約170nm)を形成した。さらに、真空蒸着法により、密着層361a上に、保持部361を構成するエッチング可能な保持層361bとして金薄膜(厚さ:約2nm)を形成した。
【0155】
つぎに、前記保持部361を有する基板本体330a,331a(「膜形成基板」という)を、前記DNA水溶液(A)(実験番号1)またはDNA水溶液(B)(実験番号2)中に約14時間浸漬させることにより、標識チオール化DNAまたはチオール化DNAと金薄膜の金とを共有結合させた。その後、得られた膜形成基板を水洗し、乾燥させた。これにより、実験番号:1のDNA保持基板330および実験番号:2のDNA保持基板331を得た〔図23(A)参照〕。なお、図23(A)においては、標識チオール化DNAまたはチオール化DNAは省略されている。
【0156】
(2)作用電極基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO2)からなる基板本体320aの表面に、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)からなる作用電極351を形成させた。これにより、作用電極基板320を得た〔図23(B)参照〕。なお、ドーパントとして酸化スズを含む酸化インジウム(以下、単に、「スズを含む酸化インジウム」と表記する)からなる薄膜は、導電層と電子受容層とを兼ねている。
【0157】
(3)対極および参照電極を有する基板(対極基板)
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体370aの表面に、白金薄膜からなる対極352と、白金薄膜からなる参照電極353を形成させた。これにより、対極基板370を得た〔図23(C)参照〕。
【0158】
(4)標識DNAの脱離および作用電極上への標識DNAの誘引
作用電極基板320の作用電極351上の約1mm四方の領域の周囲を間隔保持部材340であるシリコーンゴム(厚さ100μm)で囲んだ。つぎに、前記間隔保持部材340であるシリコーンゴムによって形成された空間に、溶解液7μLを注入した。
【0159】
つぎに、作用電極基板320の上方から、前記空間をDNA保持基板330またはDNA保持基板331で蓋をして密封し、組立物を得た。その後、組立物の作用電極基板320が下方に位置するようにして、組立物を室温で30分間静置した〔図23(D)参照〕。このとき、溶解液に含まれるヨウ素により、DNA保持基板330の金薄膜がエッチングされる。これにより、標識チオール化DNA(実験番号1)またはチオール化DNA(実験番号2)をDNA保持基板330またはDNA保持基板331から脱離させた。そして、溶解液に含まれるテトラプロピルアンモニウムヨージド(支持電解質塩)とヨウ素(電解質)とにより、標識チオール化DNAまたはDNAを作用電極351の近傍に誘引させた。
【0160】
その後、前記組立物からDNA保持基板を取り外した。そして、作用電極351上に残る溶解液を脱水エタノールで洗浄し、除去した。
【0161】
(5)光電流の測定
前記(4)を行なった後の作用電極基板320の作用電極351の周囲を間隔保持部材340であるシリコーンゴム(厚さ200μm)で囲んだ。つぎに、前記シリコーンゴムによって形成された空間に、電解液11.1μLを注入した。
【0162】
つぎに、作用電極基板320の上方から、前記空間を、対極基板370で蓋をして密封した。これにより、作用電極351、対極352および参照電極353を電解液に接触させた。作用電極351に対し、参照電極353を基準として0Vの電圧を印加した。これと同時に、作用電極351の電解液と接触している面とは反対側〔図23(E)参照〕から、レーザー光(波長約785nm、強度約13mW)を照射した。このとき、レーザー光を所定の周期(1Hz)で点滅(on・off)させながら作用電極351上の所定の位置(光照射位置1〜6)に対して照射した〔図23(F)参照〕。そして、レーザー光を20回点滅させたときのレーザー光点灯時(onの時)に作用電極351と対極352との間を流れる光電流(A)を測定した。実験例1において、用いられたDNA保持基板の種類と光電流との関係を調べた結果を図24に示す。図24では、光電流は、光照射位置1〜6それぞれに対してレーザー光を照射したときの光電流(A)の平均値を示している。
【0163】
図24に示された結果から、標識物質が用いられた実験番号1の場合、標識物質に由来する光電流が流れていることがわかる。したがって、これらの結果から、DNA保持基板からの被検物質であるDNAの脱離と、作用電極基板320の作用電極351へのDNAの誘引と、電気化学的検出とが良好に行われていることがわかる。
また、図24に示された結果から、標識物質が用いられた実験番号1の場合の光電流は、標識物質が用いられていない実験番号2の場合の光電流と比べて、顕著に大きくなっていることがわかる。したがって、これらの結果から、標識物質に基づく光電流を良好に検出することができることがわかる。
【0164】
(実験例2)
保持部の種類によって、保持部の溶解・DNAの脱離・作用電極への誘引および検出の受ける影響を調べた。
【0165】
(1)DNA保持基板の作製
真空蒸着法により、ガラス(SiO)からなる基板本体332aの表面に保持部361としてエッチング可能な保持層361b〔金薄膜(厚さ:約2nm)〕を形成した(実験番号3)。
【0166】
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体332aの表面に保持部361を構成する密着層361aとして白金薄膜(厚さ:約170nm)を形成した。さらに、真空蒸着法により、密着層361aの上に、保持部361を構成するエッチング可能な保持層361bとして金薄膜(厚さ約2nm)を形成した(実験番号4)。
【0167】
つぎに、得られた膜形成基板を、前記DNA水溶液(A)中に約14時間浸漬させることにより、標識チオール化DNAと金薄膜の金とを共有結合させた。その後、得られた膜形成基板を水洗し、乾燥させた。これにより、実験番号3のDNA保持基板332〔図25(A)参照〕および実験番号4のDNA保持基板333〔図25(B)参照〕を得た。なお、図25(A)および図25(B)において、標識チオール化DNAは省略されている。
【0168】
(2)作用電極基板の作製
実験例1(2)と同様に操作を行ない、ガラス(SiO)からなる基板本体320a上に、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)からなる作用電極351を形成させた。これにより、作用電極基板320を得た〔図25(C)参照〕。
【0169】
(3)対極および参照電極を有する基板(対極基板)の作製
実験例1(3)と同様に操作を行ない、基板本体370a上に、白金薄膜からなる対極352と、白金薄膜からなる参照電極353を形成させた。これにより、対極基板370を得た〔図25(D)参照〕。
【0170】
(4)標識DNAの脱離および作用電極上への標識DNAの誘引
溶解液と、前記(1)で得られたDNA保持基板332〔図25(A)参照〕またはDNA保持基板333〔図25(B)参照〕と、前記(2)で得られた作用電極基板320とを用い、実験例1(4)と同様にして、組立物を得た。
【0171】
つぎに、実施例1(4)と同様に操作を行ない、標識チオール化DNAをDNA保持基板332またはDNA保持基板333から脱離させ、作用電極351の近傍に誘引させた〔図25(E)および(F)参照〕。なお、図25(E)はDNA保持基板332を備えた組立物の標識チオール化DNAの脱離・誘引の際の状態、図25(F)はDNA保持基板333を供えた組立物の標識チオール化DNAの脱離・誘引の際の状態を示す。
【0172】
その後、組立物からDNA保持基板332または333を取り外した。そして、作用電極351上に残る溶解液を脱水エタノールで洗浄し、除去した。
【0173】
(5)光電流の測定
実験例1(5)と同様に操作を行ない、光電流を測定した。そして、光電流の検出の成否を評価した。その結果を表1に示す。なお、評価基準は、以下のとおりである。
<評価基準>
「良好」 標識チオール化DNAを用いたときの光電流が、チオール化DNAを用いたときの光電流値に、そのばらつき(標準偏差)の2倍の値を加えることにより算出された数値以上であること。
「不可」 標識チオール化DNAを用いたときの光電流が、チオール化DNAを用いたときの光電流値に、そのばらつき(標準偏差)の2倍を加えることにより算出された数値未満であること。
【0174】
【表1】

【0175】
表1に示された結果から、保持部361が保持層361b(金薄膜)のみからなるDNA保持基板332(実験番号3)および保持部361が密着層361a(白金薄膜)と保持層361b(金薄膜)とからなるDNA保持基板333(実験番号4)のいずれを用いた場合でも、光電流を良好に検出することができることがわかる。
【0176】
(実験例3)
DNA保持基板からの標識DNAの脱離、作用電極上への標識DNAの誘引および光電流の検出の操作を、作用電極上の空間内の溶液を置換することなく、一連の操作(ワンステップ)で実施することができるかどうかを検証した。
【0177】
(1)DNA保持基板の作製
実験例2(1)において、金薄膜の厚さは、5.1nmとなるようにしたことを除き、実験例2(1)と同様の操作を行ない、DNA保持基板332〔図26(A)参照〕およびDNA保持基板333〔図26(B)参照〕を得た。図26(A)に示されるDNA保持基板332は、基板本体332a上に、保持部361としてエッチング可能な保持層361b(金薄膜)が形成されたものである。また、図26(B)に示されるDNA保持基板333は、基板本体333a上に、保持部361として順に密着層361a(白金薄膜)および保持層361b(金薄膜)が形成されたものである。なお、図26(A)および図26(B)においては、標識チオール化DNAは省略されている。
【0178】
(2)作用電極、対極および参照電極を有する電極基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体321aの表面に、図26(C)に示されるパターンとなるように、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)からなる作用電極351を形成させた。さらに、作用電極351を形成させた同一の基板本体321aの表面に、図26(C)に示されるパターンとなるように、スパッタリング法により白金薄膜からなる対極352と、白金薄膜からなる参照電極353を形成させた。これにより、電極基板321を得た〔図26(C)参照〕。
【0179】
(3)標識DNAの脱離、作用電極上への標識DNAの誘引および光電流の測定
電極基板321の作用電極351上の約1mm四方の領域の周囲を間隔保持部材340であるシリコーンゴム(厚さ50μm)で囲んだ。つぎに、前記シリコーンゴムによって形成された空間に、溶解液3.5μLを注入した。
【0180】
つぎに、電極基板321の上方から、前記空間をDNA保持基板332またはDNA保持基板333で蓋をして密封し、検査チップ310または検査チップ311を形成した。その後、検査チップ310,311それぞれの電極基板321が下方に位置するようにして、検査チップ310,311を室温で30分間静置した〔図26(D)および(E)参照〕。これにより、DNA保持基板332またはDNA保持基板333から標識チオール化DNAを脱離させ、この標識DNAを作用電極近傍に誘引させた。なお、図26(D)はDNA保持基板332を備えた検査チップ310の標識チオール化DNAの脱離・誘引の際の状態、図26(E)はDNA保持基板333を備えた検査チップ311の標識チオール化DNAの脱離・誘引の際の状態を示している。
【0181】
その後、各組立物の電極基板321側から、レーザー光(波長約785nm、強度約13mW)を照射した〔図26(F)参照〕。このとき、レーザー光を所定の周期(1Hz)で点滅(on・off)させながら作用電極351上の所定の位置(光照射位置1〜6)に対して照射した〔図26(G)参照〕。そして、レーザー光を20回点滅させたときのレーザー光点灯時(onの時)に作用電極351と対極352との間を流れる光電流(A)を測定した。実験例3において、用いられたDNA保持基板の種類と光電流との関係を調べた結果を図27に示す。図27では、光電流は、光照射位置1〜6それぞれに対してレーザー光を照射したときの光電流(A)の平均値を示している。
【0182】
なお、図中、実験番号5〜7は、保持部361が保持層361b(金薄膜)のみからなるDNA保持基板332〔図26(A)参照〕を用いた場合の、3枚の異なる検査チップで得られたそれぞれの光電流の平均値を示す。ここで、実験番号5は1枚目の検査チップで3点測定した際に得られた光電流の平均値、実験番号6は2枚目の検査チップで3点測定した際に得られた光電流の平均値、実験番号7は3枚目の検査チップで3点測定した際に得られた光電流の平均値を示す〔図26(F)参照〕。また、図中、実験番号8〜11は、保持部361が密着層361a(白金薄膜)と保持層361b(金薄膜)とからなるDNA保持基板333〔図26(B)参照〕を用いた場合の、4枚の異なる検査チップで得られたそれぞれの光電流の平均値を示す。ここで、実験番号8は1枚目の検査チップで3点測定した際に得られた光電流の平均値、実験番号9は2枚目の検査チップで3点測定した際に得られた光電流の平均値、実験番号10は3枚目の検査チップで3点測定した際に得られた光電流の平均値、実験番号11は4枚目の検査チップで3点測定した際に得られた光電流の平均値を示す。
【0183】
図27に示された結果から、前記DNA保持基板332またはDNA保持基板333と、間隔保持部材340であるシリコーンゴムと、作用電極351、対極352および参照電極353を有する電極基板321とからなる検査チップ310,311を用いた場合、光電流を良好に検出することができることがわかる。したがって、これらの結果から、前記検査チップ310,311を用いることにより、作用電極351上の空間内の溶液を置換することなく、一連の操作(ワンステップ)で実施することができることがわかる。
【0184】
(実験例4)
DNA保持基板と作用電極基板との間のギャップ長と光電流との関係を調べた。
【0185】
(1)DNA保持基板の作製
真空蒸着法により、ガラス(SiO)からなる基板本体334a,335aの表面に、保持部361としてエッチング可能な保持層361b〔金薄膜(厚さ:約2nm)〕を形成した。
【0186】
つぎに、得られた膜形成基板を、前記DNA水溶液(A)または前記DNA水溶液(B)中に約14時間浸漬させることにより、標識チオール化DNAまたはチオール化DNAと金薄膜の金とを共有結合させた。その後、得られた膜形成基板を水洗し、乾燥させた。これにより、DNA保持基板334またはDNA保持基板335を得た〔図28(A)参照〕。なお、図28(A)において、標識チオール化DNAおよびチオール化DNAは省略されている。
【0187】
(2)作用電極基板の作製
実験例1(2)と同様の操作を行ない、基板本体320a上に、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)からなる作用電極351を形成させた。これにより、作用電極基板320を得た〔図28(B)参照〕。
【0188】
(3)対極および参照電極を有する基板(対極基板)の作製
実験例1(3)と同様に操作を行ない、基板本体370a上に、白金薄膜からなる対極352と、白金薄膜からなる参照電極353とを形成させた。これにより、対極基板370を得た〔図28(C)参照〕。
【0189】
(4)標識DNAの脱離および作用電極上への標識DNAの誘引
前記(2)で得られた作用電極基板320の作用電極351の周囲を間隔保持部材340であるである両面テープ(ギャップ長L=10μmもしくは30μm)またはシリコーンゴム(ギャップ長L=50μmもしくは100μm)で囲んだ。つぎに、前記両面テープまたはシリコーンゴムと作用電極基板320とによって形成された空間に溶解液0.7μL(10μm用)、2.1μL(30μm用)、3.5μL(50μm用)、7μL(100μm用)を注入した。
【0190】
つぎに、作用電極基板320の作用電極351の上方から、前記(1)で得られたDNA保持基板334またはDNA保持基板335で蓋をして密封し、組立物を得た。その後、組立物の作用電極基板320が下方に位置するようにして、組立物を室温で30分間静置した〔図28(D)参照〕。これにより、標識チオール化DNAまたはチオール化DNAをDNA保持基板334またはDNA保持基板335から脱離させ、かつ作用電極351の近傍に誘引させた。
【0191】
その後、前記組立物からDNA保持基板334またはDNA保持基板335を取り外した。そして、作用電極351上に残る溶解液を脱水エタノールで洗浄し、除去した。
【0192】
また、間隔保持部材340を用いずに(ギャップ長L=0μm)、作用電極基板320の作用電極351上に溶解液0.2μLのみを滴下したことを除き、前記と同様に操作を行なった。
【0193】
(5)光電流の測定
実験例1(6)において、光照射位置を、図28(E)に示される光照射位置1〜3として用いたことを除き、実験例1(6)と同様に操作を行ない、作用電極351にレーザー光を照射した。そして、レーザー光を20回点滅させたときのレーザー光点灯時(onの時)に作用電極351と対極352との間を流れる光電流(A)を測定した。実験例4において、ギャップ長と光電流との関係を調べた結果を図29に示す。図29では、光電流は、光照射位置1〜3それぞれに対してレーザー光を照射したときの光電流(A)の平均値を示している。図中、黒丸は標識チオール化DNAを保持するDNA保持基板334を用いた場合の結果、白丸は標識DNAを保持するDNA保持基板335を用いた場合の結果を示す。
【0194】
図29に示された結果から、作用電極基板320とDNA保持基板334との間のギャップ長が30μm以上である場合、光電流はほぼ一定の値であることがわかる。したがって、前記DNA保持基板334を用いた場合には、当該DNA保持基板334と作用電極基板320との間のギャップ長は、光電流を良好に検出する観点から、30〜100μmが好適であることがわかる。
【0195】
(実験例5)
DNAの保持位置を複数個所設け、かつレーザー光の照射位置を複数個所設定することにより、1つの検査チップで多種類のDNAを検出することができるかどうかを検証した。
【0196】
(1)DNA保持基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体336aの表面に、保持部361を構成する密着層361aとしてスズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)を形成した。さらに、直径1mmの6つの穴を有するメタルマスクを用い、真空蒸着法により、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜上に、保持部361を構成する保持層361bとして6つの金薄膜スポット(それぞれの厚さ:約2nm)を形成した〔図30(A)〕。
【0197】
つぎに、得られた膜形成基板を、前記DNA水溶液(A)中に約14時間浸漬させることにより、標識チオール化DNAと金薄膜の金とを共有結合させた。その後、得られた膜形成基板を水洗し、乾燥させた。これにより、DNA保持基板336を得た〔図30(B)参照〕。なお、図中、位置7および8は、標識チオール化DNAが存在していない部位である。
【0198】
(2)作用電極、対極および参照電極を有する電極基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体321aの表面に、図30(C)に示されるパターンとなるように、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)からなる作用電極351を形成させた。さらに、作用電極351を形成させた同一の基板本体321aの表面に、図30(C)に示されるパターンとなるように、スパッタリング法により、白金薄膜からなる対極352と、白金薄膜からなる参照電極353とを形成させた。これにより、電極基板321を得た〔図30(C)参照〕。
【0199】
(3)標識DNAの脱離、作用電極上への標識DNAの誘引および光電流の測定
電極基板321の作用電極351上の約1mm四方の領域の周囲を間隔保持部材340である両面テープ(ギャップ長L=10μm、実験番号12〜19)またはシリコーンゴム(ギャップ長L=100μm、実験番号20〜27)で囲んだ。つぎに、前記両面テープまたはシリコーンゴムによって形成された空間に、溶解液0.7μL(10μm用)または7μL(100μm用)を注入した。
【0200】
つぎに、電極基板321の上方から、前記空間をDNA保持基板336で蓋をして密封し、検査チップ312(ギャップ長L=10μm)または検査チップ313(ギャップ長L=100μm)を組み立てた〔図30(D)参照〕。その後、検査チップ312または検査チップ313を室温で5分間放置した。これにより、電極基板321の作用電極351およびDNA保持基板336における標識チオール化DNAを保持する保持層361bと溶解液とを接触させた。
【0201】
作用電極351に参照電極353を基準として0Vの電圧を印加した。これと同時に、作用電極351の電解液と接触している面とは反対側から、レーザー光(波長約785nm、強度約13mW)を作用電極351に照射した〔図30(E)参照〕。このとき、レーザー光を所定の周期(1Hz)で点滅(on・off)させながら作用電極351上の所定の位置(光照射位置1〜8)に対して照射した〔図30(F)参照〕。そして、レーザー光を20回点滅させたときのレーザー光点灯時(onの時)に作用電極351と対極352との間を流れる光電流(A)を測定した。実験例5において、光照射位置と光電流との関係を調べた結果を図31に示す。図31では、光電流は、光照射位置1〜8それぞれに対してレーザー光を照射したときの光電流(A)の平均値を示している。図31中の光照射位置は、図30(F)中の位置1〜8に対応する。
【0202】
図31に示された結果から、ギャップ長L=10μmの検査チップ312を用いた場合(実験番号12〜19)において、DNA保持基板336上の金薄膜を形成した部位に対応した位置(図中、光照射位置1〜6)に光を照射したときに生じる光電流は、DNA保持基板336上の金薄膜を形成していない部位に対応した位置(図中、光照射位置7および8)に光を照射したときに生じる光電流よりも大きくなっていることがわかる。また、ギャップ長L=100μmの検査チップ313を用いた場合(実験番号20〜27)においても同様の傾向が見られることがわかる。これらの結果から、DNA保持基板336上に保持された標識チオール化DNAのパターンが、そのまま、作用電極351上にも転写されることが示唆される。したがって、基板上に異なる被検物質を捕捉させることにより、一度に多種類の被検物質を検出することができることがわかる。
【0203】
(実験例6)
DNA保持基板と作用電極との間のギャップ長と誘引効率との関係を調べた。
【0204】
(1)DNA保持基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体336aの表面に、保持部361を構成する密着層361aとしてスズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)を形成した。さらに、直径1mmの6つの穴を有するメタルマスクを用い、真空蒸着法により、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜上に、保持部361を構成する保持層361bとして6つの金薄膜スポット(それぞれの厚さ:約2nm)を形成した〔図32(A)参照〕。
【0205】
つぎに、得られた膜形成基板を、前記DNA水溶液(A)中に約14時間浸漬させることにより、標識チオール化DNAと金薄膜の金とを共有結合させた。その後、得られた膜形成基板を水洗し、乾燥させた。これにより、DNA保持基板336を得た〔図32(B)参照〕。なお、図中、位置7および8は、標識チオール化DNAが存在していない部位である。
【0206】
(2)作用電極、対極および参照電極を有する電極基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体321aの表面に、図32(C)に示されるパターンとなるように、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)からなる作用電極351を形成させた。さらに、作用電極351を形成させた同一の基板本体321aの表面に、図32(C)に示されるパターンとなるように、スパッタリング法により白金薄膜からなる対極352と、白金薄膜からなる参照電極353を形成させた。これにより、電極基板321を得た〔図32(C)参照〕。
【0207】
(3)標識DNAの脱離、作用電極上への標識DNAの誘引および光電流の測定
電極基板321の作用電極351上の約1mm四方の領域の周囲を間隔保持部材340である両面テープ(ギャップ長L=10μm、実験番号28〜35)またはシリコーンゴム(ギャップ長L=100μm、実験番号36〜43)で囲んだ。つぎに、前記両面テープまたはシリコーンゴムによって形成された空間に、溶解液0.7μL(10μm用)または7μL(100μm用)を注入した。
【0208】
つぎに、電極基板321の上方から、前記空間をDNA保持基板336で蓋をして密封し、検査チップ314(ギャップ長L=10μm)または検査チップ315(ギャップ長L=100μm)を組み立てた〔図32(D)参照〕。その後、検査チップを室温で5分間放置した。これにより、電極基板321の作用電極351およびDNA保持基板336における標識チオール化DNAを保持する保持層361bと溶解液とを接触させた。
【0209】
作用電極351に参照電極353を基準として0Vの電圧を印加した。これと同時に、作用電極351の電解液と接触している面とは反対側から、レーザー光(波長約785nm、強度約13mW)を作用電極351に照射した〔図32(E)参照〕。このとき、レーザー光を所定の周期(1Hz)で点滅(on・off)させながら作用電極351上の所定の位置(光照射位置1〜8)に対して照射した〔図32(F)参照〕。そして、レーザー光の点灯(onの時)により、増大する電流値を光電流として計測し、各光照射位置でレーザー光を20回点滅させ、得られる光電流の平均値を測定した。作用電極351と対極352の間に流れる電流を光電流(A)、DNA保持基板336と対極352との間に流れる光電流(B)とした。実験例6において、ギャップ長および光照射位置と光電流との関係を調べた結果を図33に示す。図33中の光照射位置は、図32(F)中の位置1〜8に対応する。白バーは光照射位置1〜8それぞれに対してレーザー光を照射したときの光電流(B)の平均値を示す。斜線バーは光照射位置1〜8それぞれに対してレーザー光を照射したときの光電流(A)の平均値を示す。
【0210】
つぎに、図33に示された結果に基づき、作用電極351への標識チオール化DNAの誘引効率を算出した。前記誘引効率は、下記式(I):
【0211】
【数1】

【0212】
を用いて算出した。その結果を表2に示す。
【0213】
【表2】

【0214】
表2に示された結果から、DNA保持基板336と電極基板321との間のギャップ長Lが10μmであるときの作用電極351への標識DNAの誘引効率(実験番号28〜33)は、ギャップ長Lが100μmであるときの作用電極351への標識DNAの誘引効率(実験番号36〜41)と比べて、高くなる傾向にあることがわかる。
【0215】
(実施例1)
(1)プローブ保持基板の作製
真空蒸着法により、ガラス(SiO)からなる基板本体337aの表面に、保持部361を構成する密着層361aとしてパラジウムからなる薄膜(厚さ約2.4nm)を形成した。さらに、真空蒸着法により、パラジウムからなる薄膜の上に、保持部361を構成する保持層361bとして金薄膜(厚さ約2.3nm)を形成した。
【0216】
つぎに、得られた膜形成基板を、前記DNA水溶液(B)中に約14時間浸漬させることにより、チオール化DNAと金薄膜の金とを共有結合させた。その後、得られた膜形成基板を水洗し、乾燥させた。これにより、プローブ保持基板337を得た〔図34(A)参照〕。なお、図34(A)において、チオール化DNAは省略されている。
【0217】
(2)作用電極、対極および参照電極を有する電極基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体321aの表面に、図34(B)に示されるパターンとなるように、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)からなる作用電極351を形成させた。さらに、作用電極351を形成させた同一の基板本体321aの表面に、図34(B)に示されるパターンとなるように、スパッタリング法により白金薄膜からなる対極352と、白金薄膜からなる参照電極353を形成させた。これにより、電極基板321を得た〔図34(B)参照〕。
【0218】
(3)ハイブリダイゼーション用溶液の調製
被検物質であるDNAをAlexa Fluor750で標識し、検出物質を得た。被検物質であるDNAの濃度が10nMとなるように、前記検出物質をハイブリダイゼーションバッファー(Affymetrix社製)に添加し、混合することにより、ハイブリダイゼーション用溶液を得た。
【0219】
(4)被検物質の検出
プローブ保持基板337の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.2mm)を配置した。プローブ保持基板337と、シリコーンゴムとで形成された空間に、前記ハイブリダイゼーション用溶液10μLを注入した。そして、プローブ保持基板337上のハイブリダイゼーション用溶液が乾燥しないように、シリコーンゴム上にカバーグラスを被せた。つぎに、前記プローブ保持基板337を45℃で1.5時間静置して、プローブ保持基板337上のDNAとハイブリダイゼーション用溶液中のDNAとをハイブリダイゼーションさせた。その後、プローブ保持基板337上のカバーグラスを除去した。つぎに、前記プローブ保持基板337を洗浄用バッファー(Affymetrix社製、商品名:Wash buffer A)および超純水で洗浄し、風乾した。
【0220】
電極基板321の作用電極351上の約1mm四方の領域の周囲を間隔保持部材340であるシリコーンゴム(厚さ100μm)で囲んだ。その後、前記シリコーンゴムと電極基板321とによって形成された空間に、溶解液7μLを注入した。
【0221】
つぎに、電極基板321の上方から、前記空間を前記ハイブリダイゼーション後のプローブ保持基板337で蓋をして密封し、組立物を得た〔図34(C)参照〕。その後、組立物を室温で30分間放置した。これにより、電極基板321の作用電極351と、プローブ保持基板337における被検物質とチオール化DNAとを含む複合体を保持する保持層361bと溶解液とを接触させた。
【0222】
その後、作用電極351に参照電極353を基準として0Vの電圧を印加した。これと同時に、作用電極351の電解液と接触している面とは反対側から、レーザー光(波長約785nm、強度約13mW)を作用電極351に照射した〔図34(D)参照〕。このとき、レーザー光を所定の周期(1Hz)で点滅(on・off)させながら作用電極351上の所定の位置(光照射位置1〜6)に対して照射した〔図34(E)参照〕。そして、レーザー光を20回点滅させたときに、所定の光照射位置にレーザー光を照射した時(onの時)に、作用電極351と対極352との間を流れる光電流(A)を測定した。
【0223】
また、前記ハイブリダイゼーション用溶液の代わりに、対照(被検物質濃度0nM)としてハイブリダイゼーションバッファー〔Affymetrix社製)を用い、前記と同様にして、作用電極351と対極352との間を流れる光電流(A)を測定した。
【0224】
実施例1において、被検物質濃度と光電流との関係を調べた結果を図35に示す。バー1は、対照(被検物質濃度0nM)を用い、光照射位置1〜6それぞれに対してレーザー光を照射したときの光電流(A)の平均値を示す。また、バー2は、ハイブリダイゼーション用溶液(被検物質濃度10nM)を用い、2つの電極基板それぞれの光照射位置1〜6それぞれに対してレーザー光を照射したときの光電流(A)の平均値を示す。
【0225】
図35に示された結果から、プローブ保持基板337に被検物質を捕捉させた後、作用電極351に誘引させることにより、被検物質由来の光電流が検出できることがわかる。
【0226】
(実施例2)
(1)プローブ保持基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体338aの表面に、保持部361を構成する密着層361aとしてスズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)を形成した。さらに、真空蒸着法により、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜上に、保持部361を構成する保持層361bとして金薄膜(厚さ約2.1nm)を形成した。
【0227】
つぎに、得られた膜形成基板を、前記DNA水溶液(B)中に約48時間浸漬させることにより、チオール化DNAと金薄膜の金とを共有結合させた。その後、得られた膜形成基板を水洗し、乾燥させた。これにより、プローブ保持基板338を得た〔図36(A)参照〕。なお、図36(A)において、チオール化DNAは省略されている。
【0228】
(2)作用電極基板の作製
実験例1(2)と同様の操作を行ない、基板本体320a上に、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)からなる作用電極351を形成させた。これにより、作用電極基板320を得た〔図36(B)参照〕。
【0229】
(3)対極および参照電極を有する基板(対極基板)の作製
実験例1(2)と同様に操作を行ない、基板本体370a上に、白金薄膜からなる対極352と、白金薄膜からなる参照電極353とを形成させた。これにより、対極基板370を得た〔図36(C)参照〕。
【0230】
(4)ハイブリダイゼーション用溶液の調製
被検物質であるDNAをAlexa Fluor750で標識し、検出物質を得た。被検物質であるDNAの濃度が1nM(実験番号44)、10nM(実験番号45)または100nM(実験番号46)となるように、前記検出物質をハイブリダイゼーションバッファー(Affymetrix社製)に添加し、混合することにより、実験番号44〜46のハイブリダイゼーション用溶液を得た。
【0231】
(5)被検物質の検出
プローブ保持基板338の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.2mm)を配置した。プローブ保持基板338と、シリコーンゴムとで形成された空間に、実験番号44〜46のハイブリダイゼーション用溶液10μLを注入した。そして、プローブ保持基板338上のハイブリダイゼーション用溶液が乾燥しないように、シリコーンゴム上にカバーグラスを被せた。つぎに、前記プローブ保持基板338を45℃で1.5時間静置して、プローブ保持基板338上のDNAとハイブリダイゼーション用溶液中のDNAとをハイブリダイゼーションさせた。その後、プローブ保持基板338上のカバーグラスを除去した。つぎに、前記プローブ保持基板338を洗浄用バッファー(Affymetrix社製、商品名:Wash buffer A)および超純水で洗浄し、風乾した。
【0232】
作用電極基板320の作用電極351上の約1mm四方の領域の周囲を間隔保持部材340であるシリコーンゴム(厚さ100μm)で囲んだ。つぎに、前記シリコーンゴムによって形成された空間に、溶解液7μLを注入した。
【0233】
つぎに、作用電極基板320の上方から、前記空間を前記ハイブリダイゼーション後のDNA保持基板338で蓋をして密封し、組立物を得た。その後、組立物の作用電極基板320が下方に位置するようにして、組立物を室温で30分間静置した〔図36(D)参照〕。これにより、被検物質とチオール化DNAとを含む複合体をDNA保持基板338から脱離させ、かつ作用電極351の近傍に誘引させた。
【0234】
その後、前記組立物からDNA保持基板338を取り外した。そして、作用電極351上に残る溶解液を脱水エタノールで洗浄し、除去した。
【0235】
つぎに、作用電極基板320の作用電極351の周囲を間隔保持部材340であるシリコーンゴム(厚さ200μm)で囲んだ。つぎに、前記シリコーンゴムによって形成された空間に、電解液11.1μLを注入した。
【0236】
つぎに、作用電極基板320の上方から、前記空間を、対極基板370で蓋をして密封した。これにより、作用電極351、対極352および参照電極353を電解液に接触させた。作用電極351に参照電極353を基準として0Vの電圧を印加した。これと同時に、作用電極351の電解液と接触している面とは反対側から、レーザー光(波長約785nm、強度約13mW)を照射した〔図36(E)参照〕。このとき、レーザー光を所定の周期(1Hz)で点滅(on・off)させながら作用電極351上の所定の位置(光照射位置1〜3)に対して照射した〔図36(F)参照〕。そして、レーザー光を20回点滅させたときのレーザー光点灯時(onの時)に作用電極351と対極352との間を流れる光電流(A)を測定した。
【0237】
また、前記ハイブリダイゼーション用溶液の代わりに、対照(被検物質濃度0nM)としてハイブリダイゼーションバッファー〔Affymetrix社製)を用い、前記と同様にして、作用電極351と対極352との間を流れる光電流(A)を測定した。
【0238】
実施例2において、被検物質濃度と、光電流との関係を調べた結果を図37(A)に示す。また、実施例2において、図37(A)に示されるグラフを補正した結果を図37(B)に示す。図37(A)および(B)では、光電流は、光照射位置1〜3それぞれに対してレーザー光を照射したときの光電流(A)の平均値を示している。
【0239】
図37に示された結果から、プローブ保持基板338に被検物質を捕捉させた後、作用電極320に誘引させることにより、被検物質の濃度に対して依存的に、被検物質由来の光電流を検出することができることがわかる。
【0240】
(実施例3)
(1)プローブ保持基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体339aの表面に、保持部361を構成する密着層361aとしてスズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)を形成した。さらに、直径1mmの6つの穴を有するメタルマスクを用い、真空蒸着法により、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜上に、保持部361を構成する保持層361bとして6つの金薄膜スポット(それぞれの厚さ3.3nm)を形成した。
【0241】
つぎに、得られた膜形成基板を、前記DNA水溶液(B)中に約12時間浸漬させることにより、チオール化DNAと金薄膜の金とを共有結合させた。その後、得られた膜形成基板を水洗し、乾燥させた。さらに、洗浄液としてハイブリダイゼーションバッファー〔東洋紡(株)社製、Perfect Hyb〕100μLを入れた容器に、前記膜形成基板を浸漬した。そして、前記容器を、45℃に設定された恒温槽中に入れ、1時間静置した。その後、容器を恒温槽から取り出し、容器の中の洗浄液を、新しい洗浄液100μLと交換した。これにより、DNA保持基板339を得た〔図38(A)参照〕。なお、図中、位置7および8は、チオール化DNAが存在していない部位である。
【0242】
(2)作用電極、対極および参照電極を有する電極基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体321aの表面に、図38(B)に示されるパターンとなるように、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)からなる作用電極351を形成させた。さらに、作用電極351を形成させた同一の基板本体321aの表面に、図38(B)に示されるパターンとなるように、スパッタリング法により白金薄膜からなる対極352と、白金薄膜からなる参照電極353とを形成させた。これにより、電極基板321を得た〔図38(B)参照〕。
【0243】
(3)ハイブリダイゼーション用溶液の調製
被検物質であるDNAをAlexa Fluor750で標識し、検出物質を得た。被検物質であるDNAの濃度が10nMとなるように、前記検出物質をハイブリダイゼーションバッファー〔東洋紡(株)社製、Perfect Hyb〕に添加し、混合することにより、ハイブリダイゼーション用溶液を得た。
【0244】
(4)被検物質の検出
前記(1)で得られたDNA保持基板339が入った容器から洗浄液を除去した。そして、前記容器にハイブリダイゼーション用溶液100μLを注入した。そして、前記容器を、45℃に設定された恒温槽中に3時間静置した。その後、DNA保持基板339を洗浄用溶液1〔組成:2×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.1質量%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)〕0.1mLおよび洗浄用溶液2〔組成:0.1×SSC、0.1質量%SDS〕0.1mLで順に洗浄した。さらに、DNA保持基板339を超純水で洗浄し、風乾した。
【0245】
電極基板321の作用電極351上の約1mm四方の領域の周囲を間隔保持部材340である両面テープ(ギャップ長=10μmもしくは30μm)またはシリコーンゴム(ギャップ長=100μm)で囲んだ。つぎに、前記両面テープまたはシリコーンゴムによって形成された空間に、溶解液0.7μL(0.01mm用)、2.1μL(0.03mm用)または7μL(0.1mm用)を注入した。
【0246】
つぎに、電極基板321の上方から、前記空間をDNA保持基板339で蓋をして密封し、検査チップを組み立てた。その後、検査チップを室温で5分間放置した。これにより、電極基板321の作用電極およびDNA保持基板339における被検物質とチオール化DNAとを含む複合体の保持部と溶解液とを接触させた。
【0247】
作用電極351の電位と参照電極353の電位とが同電位となるように、作用電極351に電圧を印加した。これと同時に、作用電極351の電解液と接触している面とは反対側から、レーザー光(波長約785nm、強度約13mW)を作用電極351に照射した〔図38(C)参照〕。このとき、レーザー光を所定の周期(1Hz)で点滅(on・off)させながら作用電極351上の所定の位置(光照射位置1〜3、7および8)に対して照射した〔図38(B)参照〕。そして、レーザー光を20回点滅させたときのレーザー光点灯時(onの時)に作用電極351と対極352との間を流れる光電流(A)およびプローブ保持基板339と対極352との間に流れる光電流(B)を測定した。
【0248】
実施例3において、ギャップ長および光照射位置と、光電流との関係を調べた結果を図39に示す。図39において、白色バーは、プローブ保持基板339と対極352との間に流れる光電流(B)の平均値を示す。また、斜線を付したバーは、作用電極351と対極352との間を流れる光電流(A)の平均値を示す。また、図中、光照射位置1〜3、7および8は、それぞれ、図38(B)に示される光照射位置に対応する。
【0249】
図39に示された結果から、被検物質であるDNAが誘引された光照射位置1〜3に光を照射したときの光電流(B)の平均値は、約10〜20nAの範囲内にあることがわかる。また、被検物質であるDNAが誘引された光照射位置1〜3に光を照射したときの光電流(B)の平均値は、ギャップ長との明確な相関関係は見られないことがわかる。
一方、被検物質であるDNAが誘引された光照射位置1〜3に光を照射したときの光電流(A)の平均値は、ギャップ長が10nmのときに、最も高くなっており、ギャップ長が小さくなるほど、高くなる傾向にあることが確認できる。
【0250】
つぎに、ギャップ長と、作用電極351と対極352との間を流れる光電流との関係を調べた。ギャップ長と光電流との関係を調べた結果を図40に示す。図中、白丸は、被検物質であるDNAが誘引された光照射位置1〜3に光を照射したときの光電流の平均値を示す。また、黒丸は、被検物質であるDNAが誘引されない光照射位置7および8に光を照射したときの光電流の平均値を示す。
【0251】
図40に示された結果から、調べたギャップ長の範囲では、ギャップ長が小さくなるほど、光照射位置1〜3に光を照射したときの光電流の平均値と、光照射位置7および8に光を照射したときの光電流の平均値との差が大きくなることがわかる。したがって、この結果から、ギャップ長が短くなるほど、被検物質であるDNAの作用電極351上への誘引効率が向上することが示唆される。
【0252】
(調製例3)
固定化TCEPジスルフィド還元ゲル〔サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製、商品番号:77712、商品名:Immobilized TCEP Disulfide Reducing Gel〕50μLをタンパク質吸着抑制サンプリングチューブに入れ、トリス緩衝生理的食塩水(TBS)1mLを添加して混合した。得られた混合物を遠心分離に供して上澄み液を除去した。得られた産物にトリス緩衝生理的食塩水100μLを添加した。その後、得られた混合物に、2mg/mL 抗マウスイムノグロブリン・ウサギポリクローナル抗体溶液〔〔ダコ(DAKO)社製、商品名:Anti−mouse IgG(Fc specific),F(ab‘)、コード番号:E0413〕5μLを添加し、室温で30分間、ボルテックスミキサーで撹拌した。撹拌後の混合物を遠心分離に供し、上澄み液を回収した。得られた上澄み液をトリス緩衝生理的食塩水で10倍希釈し、溶液A(10μg/mL)を得た。
【0253】
(調製例4)
SH−TEG〔2.8M、シグマ−アルドリッチ(SIGMA−Aldrich)製、製品番号:673110〕を、その濃度が1mMとなるようにトリス緩衝生理的食塩水で希釈し、溶液Bを得た。
【0254】
(調製例5)
ブロッキング剤〔DSファーマバイオメディカル(株)製、商品名:Block ACE、コード番号:UK−B80〕4gをトリス緩衝生理的食塩水100mLに添加して、溶解させた。得られた溶液を、ブロッキング剤の濃度が0.4質量%となるようにトリス緩衝生理的食塩水で希釈し、溶液Cを得た。
【0255】
(調製例6)
1mg/mLマウスIgG〔シグマ−アルドリッチ(SIGMA−Aldrich)製、商品名:mouse IgG technical grade製品番号:I8765−10MG〕を、その濃度が1μg/mLとなるように1質量%ウシ血清アルブミンの0.1体積% Tween20含有トリス緩衝生理的食塩水(TBS−T)溶液で希釈し、溶液Dを得た。
【0256】
(調製例7)
金ナノ粒子S3A(平均粒径40nm)にAlexa Fluor750標識抗マウスIgG抗体S3B〔インビトロジェン(Invitrogen)製、商品名:Alexa Fluor750 goat anti−mouse IgG、製品番号A21037〕を結合させ、標識物質を含む検出物質S3を得た。得られた産物に1質量%ウシ血清アルブミン(BSA)とTBS−Tを添加し、溶液Eを得た。
【0257】
(実施例4および比較例1)
(1)プローブ保持基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体208aの表面に、スズを含む酸化インジウムからなる薄膜(厚さ約200nm)を形成した〔図41(A)参照〕。これにより、基板を得た。
【0258】
(2)作用電極、対極および参照電極を有する基板(電極基板)
スパッタリング法により、ガラス(SiO)からなる基板本体321aの表面に、スズを含む酸化インジウム薄膜(厚さ約200nm)からなる作用電極351と、白金薄膜からなる対極352と、白金薄膜からなる参照電極353とを形成させた。これにより、電極基板321を得た〔図41(B)参照〕。
【0259】
(3)シランカップリング処理
シランカップリング剤である3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン(MPTES)を、その濃度が1体積%となるようにトルエンに添加し、溶液Fを得た。溶液F中で、前記(1)で得られた基板を1時間浸漬させた。その後、基板をトルエンで洗浄し、乾燥させた。これにより、保持部211を構成するMPTESで被覆された基板を得た。
【0260】
(4)抗体の固定
前記(3)で得られた基板上に調製例3で得られた溶液A30μLを滴下した。滴下後の基板を、高湿度下、4℃で一晩静置した。これにより、保持部211に抗マウスイムノグロブリン・ウサギポリクローナル抗体224aを固定した。
【0261】
(5)ブロッキング処理1
前記(4)で得られた基板をトリス緩衝生理的食塩水50μLで洗浄した。洗浄後の基板上に調製例4で得られた溶液B30μLを滴下した。その後、前記基板を、高湿度下、4℃で一晩静置した。
【0262】
(6)ブロッキング処理2
前記(5)で得られた基板をトリス緩衝生理的食塩水50μLで洗浄した。洗浄後の基板上に30μLの溶液Cを滴下した。その後、前記基板を、高湿度下、23℃で30分間静置した。
【0263】
(7)抗原抗体反応
前記(6)で得られた基板上から溶液Cを除去後、溶液D(実施例4)を基板上に滴下した。その後、基板を、高湿度下、23℃で1時間静置した。これにより、基板上の抗マウスイムノグロブリン・ウサギポリクローナル抗体224aにマウスIgG224bを結合させ、プローブ保持基板208(実施例4)を得た〔図19(A)参照〕。
【0264】
また、溶液Dの代わりに1質量%ウシ血清アルブミンのTBS−T溶液(比較例1)を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、プローブ保持基板を得た(比較例1)。
【0265】
(8)標識物質を含む検出物質S3の捕捉
実施例4のプローブ保持基板208から溶液Dを除去した後、プローブ保持基板208をTBS−T50μLで洗浄した。つぎに、プローブ保持基板208上に溶液E30μLを滴下した。その後、プローブ保持基板208を、高湿度下、23℃で1時間静置した。つぎに、プローブ保持基板208をTBS−T50μLで2回洗浄し、さらに超純水50μLで洗浄した後、風乾した〔図19(B)および(C)参照〕。
【0266】
また、実施例4のプローブ保持基板208から溶液Dを除去する代わりに、比較例1のプローブ保持基板から1質量%ウシ血清アルブミンのTBS−T溶液を除去したことを除き、前記と同様の操作を行なった。
【0267】
(9) 光電流の検出
前記(2)で得られた電極基板321の周囲に、厚さ0.01mmの側壁となるように間隔保持部材340としての両面テープを配置した。そして、前記電極基板321と両面テープとに囲まれた空間に、調製例2で得られた電解液0.8μLを充填した。そして、前記電解液が充填された空間を、電極基板321の上方から、前記(8)で得られた実施例4のプローブ保持基板208で密封した〔図41(C)参照〕。これにより、作用電極351と対極352と参照電極353とを電解液に接触させた。このとき、金ナノ粒子S3Aは溶解し、標識物質を含む検出物質S3の一部が遊離する(図19(D)参照)。つぎに、作用電極リード及び対極リードを電流計に接続した。
【0268】
プローブ保持基板208側から電極基板321に向けて、光源(波長781nm、出力13mWのレーザー光源)から光を照射した〔図41(D)参照〕。光照射により、標識物質が励起され、電子を生じる。そして、前記電子が作用電極に輸送されることにより、作用電極と対極との間に電流が流れる。そこで、この電流を測定した。
【0269】
また、実施例4のプローブ保持基板208の代わりに比較例1のプローブ保持基板を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、電流を測定した。
【0270】
その結果、比較例1のプローブ保持基板を用いたときの光電流値(0.029±0.005nA,n=2)に比べ、実施例4のプローブ保持基板208を用いたときの光電流値(0.073±0.017nA,n=2)は、有意に大きいことが確認された。したがって、かかる結果から、標識物質を含む検出物質S3が、標識物質を含む部分を脱離可能に保持しうる材料としての金ナノ粒子を含む場合でも、検出物質の量に応じた光電流値が計測できることがわかる。
【0271】
以上の結果から、本発明のように、被検物質を電気化学的に検出するに際して、プローブ保持基板に被検物質を捕捉させた後、少なくとも標識物質を作用電極に誘引させることにより、被検物質を良好に検出することができることがわかる。
【符号の説明】
【0272】
1 検出装置
2 ディスプレイ
3 チップ受入部
5 光源
6 電流計(電流測定部)
7 A/D変換部
8 制御部
9 電源(電位印加部)
10 検査チップ
20 電極基板
30 プローブ保持基板
40 間隔保持部材
51 作用電極
52 対極
53 参照電極
54 電極リード
55 電極リード
56 電極リード
70 対極基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識物質を含む検出物質を電気化学的に検出する方法であって、
(1−1) 標識物質を含む検出物質を、この標識物質を含む検出物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されたプローブ保持基板に接触させて、前記プローブに前記標識物質を含む検出物質を捕捉させる工程、
(1−2) 前記工程(1−1)で得られたプローブ保持基板の基板本体から、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分を脱離させ、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む前記部分を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引させる工程、および
(1−3) 前記工程(1−2)で作用電極に誘引された前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む前記部分を電気化学的に検出する工程
を含む検出物質の電気化学的検出方法。
【請求項2】
前記工程(1−1)におけるプローブ保持基板が、標識物質を含む検出物質を捕捉するためのプローブが保持部を介して基板本体上に保持されたプローブ保持基板である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
作用電極を備えた電極基板と、プローブ保持基板とが対向配置された状態で、前記工程(1−1)〜前記工程(1−3)を行なう、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記保持部が、溶解液に溶解する金属またはその合金からなる第1の層を有し、
前記工程(1−2)において、前記溶解液を前記保持部に接触させることにより、プローブ保持基板の基板本体から、標識物質を含む検出物質を捕捉したプローブを脱離させる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記保持部が、溶解液に溶解する金属または合金からなる第1の層と、この第1の層および基板本体の間に設けられ、前記第1の層および基板本体を密着させる第2の層とを有し、
前記工程(1−2)において、前記溶解液を前記保持部に接触させることにより、プローブ保持基板の基板本体から、標識物質を含む検出物質を捕捉したプローブを脱離させる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の層が、白金、パラジウム、チタン、クロム、ニッケル、酸化インジウムスズおよび酸化インジウムからなる群より選ばれ、かつ第1の層を構成する物質と異なる物質からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の層が、金、パラジウムからなり、
前記溶解液が、ヨウ素またはヨウ化物を含有する溶液である、請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記工程(1−2)において、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分を、極性の違いによって、捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記工程(1−2)において、前記標識物質、前記検出物質または前記検出物質の一部であり、かつ標識物質を含む部分を、電気泳動によって、捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記標識物質が、電気化学的または光化学的に活性な物質である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
(2−1) 被検物質およびこの被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質を、前記被検物質または標識結合物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されたプローブ保持基板に接触させて、当該プローブ保持基板上に標識物質と被検物質とを含む複合体を形成させる工程、
(2−2) 前記工程(2−1)で得られたプローブ保持基板の保持部から少なくとも標識結合物質または標識物質を脱離させ、当該標識結合物質または標識物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程、および
(2−3) 前記工程(2−2)で作用電極に誘引された標識結合物質または標識物質を電気化学的に検出する工程、
を含む被検物質の電気化学的検出方法。
【請求項12】
前記工程(2−1)におけるプローブ保持基板が、前記被検物質または標識結合物質を捕捉するためのプローブが保持部を介して基板本体上に保持されたプローブ保持基板である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
作用電極を備えた電極基板と、プローブ保持基板とが対向配置された状態で、前記工程(2−1)〜前記工程(2−3)を行なう、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
電気化学的または光化学的に活性な被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
(3−1) 被検物質を、前記被検物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されたプローブ保持基板に接触させて、前記プローブに被検物質を捕捉させる工程、
(3−2) 前記工程(3−1)でプローブ保持基板の保持部からプローブに捕捉された被検物質または被検物質の一部を脱離させ、当該被検物質または被検物質の一部を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程、および
(3−3) 前記工程(3−2)で作用電極に誘引された被検物質または被検物質の一部を電気化学的に検出する工程、
を含む被検物質の電気化学的検出方法。
【請求項15】
前記工程(3−1)におけるプローブ保持基板が、前記被検物質を捕捉するためのプローブが保持部を介して基板本体上に保持されたプローブ保持基板である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
作用電極を備えた電極基板と、プローブ保持基板とが対向配置された状態で、前記工程(3−1)〜前記工程(3−3)を行なう、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
作用電極を備えた電極基板と、対極と、被検物質またはこの被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質を捕捉するためのプローブを基板本体上に有するプローブ保持基板とを備えており、
前記作用電極を備えた電極基板とプローブ保持基板とが、所定の間隙を介して対向配置されていることを特徴とする検査チップ。
【請求項18】
前記プローブ保持基板が、前記被検物質またはこの被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質を捕捉するためのプローブが保持部を介して基板本体上に保持されたプローブ保持基板である、請求項17に記載の検査チップ。
【請求項19】
被検物質を電気化学的に検出するための検出セットであって、
被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質と、
被検物質または標識結合物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されたプローブ保持基板と、
標識結合物質または標識物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極と対極とを備えている電極基板と、
前記プローブ保持基板と電極基板との間に所定の間隙を形成させる間隔保持部材と、
を含む検出セット。
【請求項20】
被検物質を電気化学的に検出するための検出セットであって、
被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質と、
被検物質または標識結合物質を捕捉するためのプローブが、基板本体上に保持され、かつ前記基板本体上に対極が設けられたプローブ保持基板と、
標識結合物質または標識物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極を備えている電極基板と、
前記プローブ保持基板と電極基板との間に所定の間隙を形成させる間隔保持部材と、
を含む検出セット。
【請求項21】
請求項11に記載の方法における工程(2−1)または請求項14に記載の方法における工程(3−1)の後に、作用電極と対向させて用いるプローブ保持基板であって、
被検物質またはこの被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質を捕捉するためのプローブが基板本体上に保持されていることを特徴とする、プローブ保持基板。
【請求項22】
請求項11に記載の方法における工程(2−1)または請求項14に記載の方法における工程(3−1)の後に、プローブ保持基板と対向させて用いる電極基板であって、
基板本体上において、プローブ保持基板の保持部と対向する位置に設けられた作用電極を有することを特徴とする、電極基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【公開番号】特開2012−93349(P2012−93349A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200815(P2011−200815)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】