説明

検査用シミュレーション信号生成装置

【課題】簡単な構成により、ドップラーレーダー装置から送信された信号の上側または下側いずれか一方のサイドバンドのみを持った変調信号を検査用シミレーション信号として送り返す。
【解決手段】受信信号を分配する信号分配手段と、上記信号分配手段により分配された一方の受信信号を変調信号によって変調するとともに該変調信号によってキャリアーに両サイドバンドを発生する第1の反射型変調手段と、上記信号分配手段により分配された他方の受信信号の位相を回転する第1の位相回転手段と、上記変調信号の位相を回転する第2の位相回転手段と、上記第1の位相回転手段により位相を回転された受信信号を上記第2の位相回転手段により位相を回転された変調信号によって変調するとともに該変調信号によってキャリアーに両サイドバンドを発生する第2の反射型変調手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査用シミュレーション信号生成装置に関し、さらに詳細には、移動する物体の速度や位置(距離、方位)を検出するためのドップラーレーダー装置の性能検査に用いる検査用シミュレーション信号を発生する検査用シミュレーション信号生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、移動する物体の速度や位置(距離、方位)を検出するための装置として、当該物体からの反射信号たるドップラー信号を検出するドップラーレーダー装置が知られている。
【0003】
こうしたドップラーレーダー装置の性能検査においては、実際に移動する物体からの反射信号を用いることも勿論可能ではあるが、実際に移動する物体からの反射信号を用いる方法では、物体の移動速度や反射信号のレベルを自由に制御することが困難であることが指摘されていた。
【0004】
一方、実際に移動する物体からの反射信号に代えて、電子回路などで検査用シミレーション信号を発生する装置も知られているが、一般に、こうした装置は複雑かつ高価なものとなっていた。
【0005】
このため、簡便に検査用シミレーション信号を発生する手法として、ホーンアンテナに接続された導波管線路の中にチューニングポストを挿入し、このチューニングポストを導波管線路内に挿入する挿入量を調整することにより、検査用シミレーション信号として変調を掛けた反射信号を生成する手法が提案されている。
【0006】
ところで、このような導波管線路の中へのチューニングポストの挿入量を調整することにより変調をかける手法では、送信周波数を中心として上下両方にサイドバンドのある変調信号を送り返すことになる。
【0007】
しかしながら、実際のドップラー信号は、ドップラーレーダー装置と物体との相対距離が近づくときは周波数が上がり、一方、ドップラーレーダー装置と物体との相対距離が遠ざかるときは周波数が下がるという性質を備えている。即ち、物体は、ドップラーレーダー装置からの受信信号の上側あるいは下側のいずれか一方のサイドバンドのみを反射することになる。
【0008】
従って、上記した導波管線路の中へのチューニングポストの挿入量を調整することにより変調をかけて検査用シミレーション信号を生成する手法では、送信周波数を中心として上下両方にサイドバンドのある変調信号を検査用シミレーション信号として送り返すことになるものであり、ドップラー信号を正確にシミュレートした検査用シミュレーション信号を生成することはできないという問題点があった。
【0009】
また、反射信号に含まれるキャリアー(送信波と同一周波数成分)の影響の度合いを調べるためには、キャリアーの無い、即ち、周波数変位した信号のみが必要となるが、上記した導波管線路の中へのチューニングポストの挿入量を調整することにより変調をかけて検査用シミレーション信号を生成する手法では、周波数変位した信号のみを反射信号として送り返すことはできないという問題点があった。
【0010】

なお、本願出願人が特許出願のときに知っている先行技術は、文献公知発明に係る発明ではないため、記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記したような従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な構成により、ドップラーレーダー装置から送信された信号の上側または下側いずれか一方のサイドバンドのみを持った変調信号を検査用シミレーション信号として送り返すことのできる検査用シミュレーション信号生成装置を提供しようとするものである。
【0012】
また、本発明の目的とするところは、キャリアー信号を抑圧して片側サイドバンド、即ち、上側または下側いずれか一方のサイドバンドのみを送り返すことのできる検査用シミュレーション信号生成装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明による検査用シミュレーション信号生成装置は、ドップラーレーダー装置から送信された信号を受けて反射する信号として、あたかもドップラーレーダー装置から送信された信号を受けて反射する物体が移動しているように僅かに周波数をずらした検査用シミレーション信号を送り返すとともに、従来の検査用シミュレーション信号生成装置がドップラーレーダー装置から送信された信号の両サイドバンドもそのまま送り返していたのに代えて、一方のサイドバンドを除去して片側サイドバンドのみを送るようにしたものである。
【0014】
なお、片側サイドバンドのみ生成するシングルサイドバンドモジュレータ(SSBモジュレータ)は一般に複雑な構成を備えるものであるが、本発明による検査用シミュレーション信号生成装置は簡易な構成によりなり、シングルサイドバンドモジュレータとしても利用することができるものである。
【0015】

即ち、本発明のうち請求項1に記載の発明は、ドップラーレーダー装置の性能検査に用いる検査用シミュレーション信号を発生する検査用シミュレーション信号生成装置において、受信信号を分配する信号分配手段と、上記信号分配手段により分配された一方の受信信号を変調信号によって変調するとともに該変調信号によってキャリアーに両サイドバンドを発生する第1の反射型変調手段と、上記信号分配手段により分配された他方の受信信号の位相を回転する第1の位相回転手段と、上記変調信号の位相を回転する第2の位相回転手段と、上記第1の位相回転手段により位相を回転された受信信号を上記第2の位相回転手段により位相を回転された変調信号によって変調するとともに該変調信号によってキャリアーに両サイドバンドを発生する第2の反射型変調手段とを有し、上記第1の反射型変調手段により変調された信号と上記第2の反射型変調手段により変調された信号とを合成した信号を検査用シミュレーション信号として生成するようにしたものである。
【0016】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段とは、伝送線路にシャントにバリアブルキャパシタを接続し、上記バリアブルキャパシタに変調信号をかけることにより上記伝送線路の反射信号の位相または振幅を変えるものであるようにしたものである。
【0017】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段とは、伝送線路にシャントにPINダイオードを接続し、上記PINダイオードに変調信号をかけることにより上記伝送線路の反射信号の位相または振幅を変えるものであるようにしたものである。
【0018】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段とは、伝送線路にシリーズにバリアブルキャパシタを接続し、上記バリアブルキャパシタに変調信号をかけることにより上記伝送線路の反射信号の位相または振幅を変えるものであるようにしたものである。
【0019】
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段とは、伝送線路にシリーズにPINダイオードを接続し、上記PINダイオードに変調信号をかけることにより上記伝送線路の反射信号の位相または振幅を変えるものであるようにしたものである。
【0020】
また、本発明のうち請求項6に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段とは、導波管線路のE面またはH面に、上記導波管線路内における挿入量を可変自在にチューニングポストを配置してなり、変調信号に従って上記チューニングポストの挿入量を可変して上記導波管線路の反射信号の位相または振幅を変えるものであるようにしたものである。
【0021】
また、本発明のうち請求項7に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段とは、導波管線路のE面またはH面に、上記導波管線路内における挿入量を可変自在にチューニングポストを配置してなり、変調信号に従って上記チューニングポストの挿入量を可変して上記導波管線路の反射信号の位相または振幅を変えるものであり、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段とは、それぞれの上記チューニングポストを単一の駆動機構により制御されるようにしたものである。
【0022】
また、本発明のうち請求項8に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段とは、上記導波管線路のE面の間をバリアブルキャパシタまたはPINダイオードにより短絡し、上記バリアブルキャブシタまたは上記PINダイオードに変調信号をかけることにより、上記導波管線路の反射信号の位相または振幅を変えるようにしたものである。
【0023】
また、本発明のうち請求項9に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれか1項に記載の発明において、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段とへ入力される信号が、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段とを通過して、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段との後段に繋ぐ負荷で反射し、上記負荷は、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段とを逆に通過した信号ベクトルが、上記第1の反射型変調手段と上記第2の反射型変調手段との平均反射率ベクトルと相殺するようにインピーダンスを設定されるようにしたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以上説明したように構成されているので、簡単な構成により、ドップラーレーダー装置から送信された信号の上側または下側いずれか一方のサイドバンドのみを持った変調信号を検査用シミレーション信号として送り返すことのできる検査用シミュレーション信号生成装置を提供することができるという優れた効果を奏する。
【0025】
また、本発明は、以上説明したように構成されているので、キャリアー信号を抑圧して片側サイドバンド、即ち、上側または下側いずれか一方のサイドバンドのみを送り返す検査用シミュレーション信号生成装置を提供することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付の図面に基づいて、本発明による検査用シミュレーション信号生成装置の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0027】
なお、以下の説明においては、それぞれ同一または相当する構成については、それぞれ同一の符号を付して示すことにより、重複する構成ならびに作用の説明は適宜に省略する。
【0028】

図1には、本発明の実施の形態の一例による検査用シミュレーション信号生成装置10の回路ブロック構成説明図が示されている。
【0029】
この検査用シミュレーション信号生成装置10は、ホーンアンテナ12と、ホーンアンテナ12に接続されるとともにホーンアンテナ12が受信した受信信号を2つの信号経路を通る信号にそれぞれ分配する信号分配手段としての電力分配器14と、電力分配器14により分配された一方の信号が通る一方の信号経路に接続された第1の反射型変調手段としての第1反射型変調器16と、電力分配器14により分配された他方の信号が通る他方の信号経路に接続された第1の位相回転手段としての第1移相器18と、第1移相器18に接続された第2の反射型変調手段としての第2反射型変調器20と、第2反射型変調器20に接続された第2の位相回転手段としての第2移相器22と、第1反射型変調器16ならびに第2移相器22に接続されるとともに第1反射型変調器16ならびに第2移相器22へ変調信号を出力する変調信号発振器24とを有して構成されている。
【0030】

以上の構成において、この検査用シミュレーション信号生成装置10においては、上記したように第1反射型変調器16と第2反射型変調器20との2個の反射型変調器が配設されており、ホーンアンテナ12がドップラーレーダー装置(図示せず。)から送信された信号を受信すると、当該受信信号は電力分配器14により2つの信号経路を通る信号にそれぞれ分配されて、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20とにそれぞれ供給されることになる。
【0031】
ここで、電力分配器14と第2反射型変調器20との間には第1移相器18が挿入されていて、電力分配器14から第2反射型変調器20へは第1移相器18により位相が制御された信号が供給されることになる。
【0032】
一方、変調信号発振器24から第1反射型変調器16と第2反射型変調器20とに変調信号がそれぞれ供給されることになるが、変調信号発振器24と第2反射型変調器20との間には第2移相器22が挿入されているため、変調信号発振器24から第2反射型変調器20へは第2移相器22により位相が制御された変調信号が供給されることになる。
【0033】
従って、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20との2つの反射型変調器からの反射信号が電力分配器14で合成されたときに、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20との2つの反射型変調器からの反射信号の位相差に応じて、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20とからの反射信号の上側および下側の両サイドバンドの何れか一方が相殺されるように第1移相器18の移相量と第2移相器18の移相量を調整すると、ドップラーレーダー装置からの受信信号の上側または下側いずれか一方のサイドバンドのみを持った変調信号を検査用シミレーション信号として送り返すことことができる。
【0034】

従って、この検査用シミュレーション信号生成装置10によれば、検査用シミュレーション信号として上側サイドバンドまたは下側サイドバンドのみの変調信号を持った信号を送り返すことが可能になる。また、必要によりキャリアー信号をも除いた信号、即ち、受信信号から変調信号周波数だけ変化した信号のみを返すことも可能になる。
【0035】

また、この検査用シミュレーション信号生成装置10において、キャリアーを抑圧した信号を生成するには、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20との平均反射ベクトルと、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20とから負荷の方へ通過する信号が負荷から反射して第1反射型変調器16と第2反射型変調器20とを逆に通過したベクトルとが、それぞれ相殺されるように設定すればよい。
【0036】
こうした相殺が行われるようにするためには、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20との個々の反射型変調器に合せて負荷を設計しなくてはならないが、これら第1反射型変調器16と第2反射型変調器20との特性が分かれば、上記条件を満たす負荷のインピーダンスを計算すればよい。例えば、変調信号を平均値にした時の反射特性、通過特性を測定し、これを元に計算して必要な負荷を決めるようにすることができる。
【0037】

ここで、上記した第1反射型変調器16や第2反射型変調器20としては、例えば、図2乃至図5に示すように、伝送線路にシャントまたはシリーズ(直列)に可変容量素子やPINダイオードを挿入し、その値を変調信号で変化させるようにした反射型変調器を用いることができる。
【0038】
即ち、図2乃至図5には、上記した第1反射型変調器16あるいは第2反射型変調器20として用いることが可能な各種の反射型変調器が示されている。より詳細には、図2には伝送線路にシャントに可変容量素子としてバリアブルキャパシタを挿入したシャント容量型の反射型変調器が示されており、また、図3には伝送線路にシャントにPINダイオードを挿入したシャントPIN型の反射型変調器が示されており、また、図4には伝送線路にシリーズに可変容量素子としてバリアブルキャパシタを挿入したシリーズ容量型の反射型変調器が示されており、図5には伝送線路にシリーズにPINダイオードを挿入したシリーズPIN型の反射型変調器が示されている。
【0039】
また、上記した第1反射型変調器16あるいは第2反射型変調器20として用いることが可能な各種の反射型変調器は、チューニングポストを導波管線路に挿入し、その挿入長を加える電圧に従って変化させることによっても実現することができる。
【0040】
なお、導波管線路にチューニングポストを挿入するように構成した反射型変調器を2つ設けるようにして、それぞれの反射型変調器でそれぞれ異なった変調位相を実現するには、各反射型変調器におけるチューニングポストを動かす位相がそれぞれ異なる2つのカムシャフトを1つのモーターで駆動する手法などを採用すればよい。
【0041】
さらに、導波管線路のE面の間をバリアブルキャパシタやPINダイオードなどにより短絡して、その値を変調信号で変化させることで反射型変調器を実現するようにしてもよい。
【0042】

次に、第1反射型変調器16ならびに第2反射型変調器20として用いることのできる反射型変調器について詳細に説明する。
【0043】
まず、反射型変調器の一般的な反射波をベクトルで表す。ここで、例として、図4に示すシリーズ容量型の反射型変調器、即ち、伝送線路にシリーズに可変容量素子としてバリアブルキャパシタCを挿入したシリーズ容量型の反射型変調器について検討する。なお、この図4においては、Cは充分大きな容量とする。
【0044】
ここで、図4において、図の左側から信号を入力し、この回路を通した後は負荷として反射無しのダミーが接続されているものとする。なお、説明の簡略化のために、伝送線路のインピーダンスは1、また、変調信号によってバリアブルキャパシタCのインピーダンスは、
−j(0.5±0.1)
と変化するものとする。
【0045】
この回路の先には1オームが繋がっているから、この回路を含めたインピーダンスZは、
Z=1−j(0.5±0.1)
であり、このとき、反射係数ベクトルΓは、
Γ=(Z−1)/(Z+1)
=(−j(0.5±0.1))/(2−j(0.5±0.1))
=0.0826−j0.275or0.0385−j0.192
=(0.0605−j0.234)±(0.0221−j0.041)
となる。
【0046】
この反射信号は、キャリアーが(0.0605−j0.234)、サイドバンドが(0.0221−j0.041)/2の上側および下側サイドバンドの合成と見なすことができる。
【0047】
図6には、0.0826−j0.275および0.0385−j0.192のベクトル図が示されている。なお、図6においては、XY座標のX軸を実軸にとり、XY座標のY軸を虚軸(下向きは負である。)にとってある。また、これらはキャリアと上側のキャリアより早く回転するベクトルと、下側の遅く回転するベクトルの合成と見なすことができる。
【0048】

ところで、図2乃至図5に示す反射型変調器を含むいずれの反射型変調器においても、反射信号は3つの信号の合成と見なすことができる。
【0049】
ここで、変調信号の波形または変調信号の振幅と位相廻りとが三角関数関係に無いと、サイドバンドの高調波が発生することになるが、変調波形のモディファイで両サイドバンドのみにすることも可能である。
【0050】
従って、一般的な反射波のベクトルは図7(a)に示すように描くことができ、図7(a)において、Cはキャリアーのベクトルであり、Uは上側サイドバンドのベクトルであり、Lは下側サイドバンドのベクトルである。そして、上側サイドバンドは周波数が高いので早く回転し、下側サイドバンドは周波数が低いので遅く回転する。
【0051】
このキャリアーを基準にすれば、上側サイドバンドは時間経過とともに左に廻り、下側サイドバンドは時間経過とともに右に廻る。また、変調信号の位相を進ませると、上側サイドバンドは左に廻り、下側サイドバンドは右に廻る。
【0052】
以上のことから、単なる変調器からの変調波と、信号全体の位相を回しさらに変調器信号の位相を回した変調波を合成することにより、不要なサイドバンドを除去することが可能になる。
【0053】

次に、図1に示す検査用シミュレーション信号生成装置10の各部の信号のベクトル図を表す図7(a)(b)(c)(d)を参照しながら、検査用シミュレーション信号生成装置10の各部の信号について説明する。
【0054】
即ち、図7(a)は、反射型変調器の反射信号、詳細に説明すれば、ホーンアンテナ12から電力分配器14を経て、第1反射型変調器16から反射して、電力分配器14を経てホーンアンテナ12に入る信号のベクトル図である。
【0055】
また、図7(b)は、第2反射型変調器20の反射信号のベクトル図である。ただし、変調信号発振器24の後の第2移相器22による位相変化は、ゼロと仮定している。この反射信号を詳細に説明すれば、ホーンアンテナ12から電力分配器14と第1移相器18(移相量は、位相を45度遅らせるように設定されている。)を経て、第2反射型変調器20から反射して、第1移相器18、電力分配器14を経てホーンアンテナ12に入る信号である。信号は、第2反射型変調器20に入る前後で合計90度遅れの波形になる。このとき、キャリアもサイドバンドもすべて90度遅れとなっている。
【0056】
また、図7(c)は、図7(b)の仮定(変調信号発振器24の後の第2移相器22による位相変化がゼロであるとの仮定)を除き、即ち、変調信号(変調波)を第2移相器22により90度遅らせているもののベクトル図である。このとき、上側サイドバンドは90度遅れとなり、下側サイドバンドは90度進むことになる。
【0057】
そして、図7(d)は、図7(a)と図7(c)との合成信号のベクトル図であり、図7(a)も図7(c)もホーンアンテナ12に入る信号であるので、これらの合成信号は図7(d)に示すようになる。即ち、キャリアーは90度違う信号の合成で21/2倍の振幅となり、上側サイドバンドは丁度相殺されてなくなり、下側サイドバンドは足し合わされ2倍となる。この合成された信号が、検査用シミュレーション信号としてホーンアンテナ12からドップラーレーダー装置へ送り返される。
【0058】

なお、上記した説明においては、上側サイドバンドを相殺する例を示したが、第1移相器18、第2移相器22の位相廻り次第で、下側サイドバンドを相殺することも可能である。また、上記した説明においては、第1移相器18では信号全体を45度ずつ2度回し、第2移相器22では変調信号を90度回したが、例えば、第1移相器18では信号全体を40度ずつ2度回し、第2移相器22で変調信号を100度回しても、上側サイドバンドは相殺される。
【0059】
このことは、導波管線路などで伝送線路を構成したときに、第1移相器18による位相廻りが正確に45度でなくても、第2移相器22により変調信号位相を微調整することにより、上側サイドバンドまたは下側サイドバンドを完全に相殺することができることを示している。
【0060】

上記においては、一般的な反射型変調器の反射信号を示したが、このような信号を発生する装置の構成としては、上記において図2乃至図5を参照しながら説明したように種々の構成が挙げられる。
【0061】
即ち、電子回路において伝送線路にシャントまたはシリーズにキャパシタを挿入することにより、インピーダンス整合が崩れて反射信号が発生する。キャパシタの容量値を変えることにより、この反射信号の振幅または位相が変るが、キャパシタの容量を電気信号に従って変えるにはバリアブルキャパシタを用いればよく、図2および図3にはこうした構成を実現する回路図が示されている。これら図2および図3に示す回路の図上右側は、反射無しのダミー抵抗でも、または、完全反射になるショートやオープンでもよく、それらの中間の一定値の反射を示す負荷でもよい。
【0062】
なお、上記したダミー抵抗か、完全反射になるショートやオープンか、それらの中間の一定値の反射を示す負荷かによって、往復してきた信号の振幅や位相が異なるが、これらを勘案して反射型変調器の特性を定義する値を変えればよい。
【0063】
また、反射を起こすにはインピーダンス整合を崩せば良いので、キャパシタの代わりにPINダイオードを使用してもよいことは勿論である。図3および図5には、PINダイオードをシャントまたはシリーズに挿入した線路の例が示されている。この負荷も図2および図4に示すバリアブルキャパシタの場合と同様に、これら図3および図5に示す回路の図上右側は、反射無しのダミー抵抗でも、または、完全反射になるショートやオープンでもよく、それらの中間の一定値の反射を示す負荷でもよいものであり、ほとんどどのような特性でもよい。
【0064】

ここで、図8ならび図9には、第1反射型変調器16あるいは第2反射型変調器20として用いることが可能な反射型変調器を、導波管線路を用いて構成する例が示されている。
【0065】
即ち、図8に示す構成例は、矩形導波管線路のE面からチューニングポストを内部に挿入して、反射を起こすようにしたものである。なお、チューニングポストは、E面からではなくH面から挿入するようにしてもよい。
【0066】
図8に示す構成例においては、矩形導波管線路内部へのチューニングポストの挿入長Aを変えることにより、反射信号の反射量および反射位相を変えることができる。また、矩形導波管線路内部へのチューニングポストの抜き差しの繰り返し速度が変調周波数になり、そのスペクトラムは両サイドバンドのあるものとなる。
【0067】
この場合に、加えた電圧に比例してチューニングポストの挿入長を可変することのできる駆動機構を設けて、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20との2つの反射型変調器に対する変調位相差の制御を電子回路により実現するようにしてもよい。また、モータなどでチューニングポストの挿入長を可変する場合には、各チューニングポストの動きが90度ずれるようにしたカムシャフトなどの機械的な同期機構を使用するようにしてもよい。
【0068】
また、矩形導波管線路のE面の間を容量性素子や抵抗性素子で短絡することにより、矩形導波管線路のE面またはH面からチューニングポストを内部に挿入する場合と同様な作用効果が得られるので、図9に示すように、矩形導波管線路のE面をバリアブルキャパシタで接続し、これに変調信号をかけることで反射型変調器を実現するようにしてもよい。
【0069】

なお、上記においては、反射型変調器の負荷はどのようなものでもよく限定されるものではない旨を説明したが、反射型変調器の反射率と負荷の適当な反射率の組み合せによれば、トータルの反射信号のキャリアー信号を除くこともことも可能である。
【0070】
即ち、反射型変調器への変調信号がその平均値になったときの反射べクトルと、反射型変調器への入射波が当該反射型変調器を通過して、当該反射型変調器に繋がる負荷で反射して、反射型変調器を逆に通過した信号ベクトルが完全に逆向きになれば、反射型変調器と負荷トータルの反射波はゼロになり、変調により反射の振幅や位相が平均からずれたときにサイドバンドが発生するようになる。
【0071】
これはキャリアーを抑圧した反射型変調器であり、このキャリアーを抑圧した反射型変調器を2つ用いて、片側のサイドバンドを相殺するように構成すれば、シングルサイドバンド変調のように単に片側のサイドバンドのみを返すことが可能となる。
【0072】
このような反射となる負荷にするための特性は、反射形変調器の個々の特性に合わせて決めなければならない。なお、反射器個々の特性は、理論的に求めてもよいし、実際の製品の特性を測って決めるようにしてもよい。
【0073】
例えば、図4の場合には、負荷のインピーダンスは、
i+jωL, L=1/(ωC) ここでCはCの平均容量を示す
とすればよい。ここでωは、ドップラーレーダーの角周波数である。
【0074】
一般的には、反射型変調器に無反射ダミーを付けたときの反射率ベクトルをΓ1、反射型変調器の通過率ベクトルをP1、反射型変調器の入力側に無反射ダミーを付けた時の負荷側からの反射率ベクトルをΓ2、反射型変調器の逆向きの通過率ベクトルをP2としたとき、上記条件を満たす負荷の反射率ベクトルΓLは次式で表される。
【0075】
ΓL=Γ1/(Γ1×Γ2−P1×P2)
よって、負荷のインピーダンスZLは、次式のように決められる。
【0076】
ZL=(1+ΓL)/(1−ΓL)
この計算式の結果の実数部が負にならないならば、ZLを実現することができる。
【0077】

なお、上記において説明した実施の形態は、以下の(1)乃至(5)に示すように変形することができるものである。
【0078】
(1)上記した実施の形態においては、移相器により位相を回転するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、移相器に代えて位相を回転する効果のある遅延回路を用いるようにしてもよい。
【0079】
(2)上記した実施の形態においては、ホーンアンテナ12を介してドップラーレーダー装置との間の送受信を行うようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、ホーンアンテナ12などのアンテナを使用することなく、例えば、導波管線路などの伝送線路と減衰器とを介して接続する場合にも、本発明を適用することができる。
【0080】
(3)上記した実施の形態において、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20とを構成するに際しては、図2乃至図5や図8乃至図9に示すような各種の反射型変調器を選択して用いることができるものであるが、その際には、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20とで同一の種類の反射型変調器を用いるようにしてもよいし、あるいは、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20とで異なる種類の反射型変調器を用いるようにしてもよい。
【0081】
(4)上記した実施の形態においては、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20とにより反射信号の位相を変える場合について中心に説明したが、これに限られるものではないことは勿論であり、第1反射型変調器16と第2反射型変調器20とにより反射信号の振幅を変えるようにしても同様な作用効果が得られる。
【0082】
(5)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(4)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、移動する物体の速度や位置(距離、方位)を検出するためのドップラーレーダー装置の性能検査などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の一例による検査用シミュレーション信号生成装置の回路ブロック構成説明図である。
【図2】図2は、伝送線路にシャントに可変容量素子としてバリアブルキャパシタを挿入したシャント容量型の反射型変調器の回路図である。
【図3】図3は、伝送線路にシャントにPINダイオードを挿入したシャントPIN型の反射型変調器の回路図である。
【図4】図4は、伝送線路にシリーズに可変容量素子としてバリアブルキャパシタを挿入したシリーズ容量型の反射型変調器の回路図である。
【図5】図5は、伝送線路にシリーズにPINダイオードを挿入したシリーズPIN型の反射型変調器の回路図である。
【図6】図6は、0.0826−j0.275および0.0385−j0.192のベクトル図であり、XY座標のX軸を実軸にとり、XY座標のY軸を虚軸(下向きは負である。)にとってある。
【図7】図7(a)(b)(c)(d)は、図1に示す検査用シミュレーション信号生成装置の各部の信号のベクトル図である。
【図8】図8は、矩形導波管線路を用いた反射型変調器の構成例を示す回路図である。
【図9】図9は、矩形導波管線路を用いた反射型変調器の構成例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0085】
10 検査用シミュレーション信号生成装置
12 ホーンアンテナ
14 電力分配器
16 第1反射型変調器
18 第1移相器
20 第2反射型変調器
22 第2移相器
24 変調信号発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドップラーレーダー装置の性能検査に用いる検査用シミュレーション信号を発生する検査用シミュレーション信号生成装置において、
受信信号を分配する信号分配手段と、
前記信号分配手段により分配された一方の受信信号を変調信号によって変調するとともに該変調信号によってキャリアーに両サイドバンドを発生する第1の反射型変調手段と、
前記信号分配手段により分配された他方の受信信号の位相を回転する第1の位相回転手段と、
前記変調信号の位相を回転する第2の位相回転手段と、
前記第1の位相回転手段により位相を回転された受信信号を前記第2の位相回転手段により位相を回転された変調信号によって変調するとともに該変調信号によってキャリアーに両サイドバンドを発生する第2の反射型変調手段と
を有し、前記第1の反射型変調手段により変調された信号と前記第2の反射型変調手段により変調された信号とを合成した信号を検査用シミュレーション信号として生成する
ことを特徴とする検査用シミュレーション信号生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検査用シミュレーション信号生成装置において、
前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段とは、
伝送線路にシャントにバリアブルキャパシタを接続し、前記バリアブルキャパシタに変調信号をかけることにより前記伝送線路の反射信号の位相または振幅を変えるものである
ことを特徴とする検査用シミュレーション信号生成装置。
【請求項3】
請求項1に記載の検査用シミュレーション信号生成装置において、
前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段とは、
伝送線路にシャントにPINダイオードを接続し、前記PINダイオードに変調信号をかけることにより前記伝送線路の反射信号の位相または振幅を変えるものである
ことを特徴とする検査用シミュレーション信号生成装置。
【請求項4】
請求項1に記載の検査用シミュレーション信号生成装置において、
前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段とは、
伝送線路にシリーズにバリアブルキャパシタを接続し、前記バリアブルキャパシタに変調信号をかけることにより前記伝送線路の反射信号の位相または振幅を変えるものである
ことを特徴とする検査用シミュレーション信号生成装置。
【請求項5】
請求項1に記載の検査用シミュレーション信号生成装置において、
前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段とは、
伝送線路にシリーズにPINダイオードを接続し、前記PINダイオードに変調信号をかけることにより前記伝送線路の反射信号の位相または振幅を変えるものである
ことを特徴とする検査用シミュレーション信号生成装置。
【請求項6】
請求項1に記載の検査用シミュレーション信号生成装置において、
前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段とは、
導波管線路のE面またはH面に、前記導波管線路内における挿入量を可変自在にチューニングポストを配置してなり、変調信号に従って前記チューニングポストの挿入量を可変して前記導波管線路の反射信号の位相または振幅を変えるものである
ことを特徴とする検査用シミュレーション信号生成装置。
【請求項7】
請求項1に記載の検査用シミュレーション信号生成装置において、
前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段とは、
導波管線路のE面またはH面に、前記導波管線路内における挿入量を可変自在にチューニングポストを配置してなり、変調信号に従って前記チューニングポストの挿入量を可変して前記導波管線路の反射信号の位相または振幅を変えるものであり、
前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段とは、それぞれの前記チューニングポストを単一の駆動機構により制御された
ことを特徴とする検査用シミュレーション信号生成装置。
【請求項8】
請求項1に記載の検査用シミュレーション信号生成装置において、
前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段とは、
前記導波管線路のE面の間をバリアブルキャパシタまたはPINダイオードにより短絡し、前記バリアブルキャブシタまたは前記PINダイオードに変調信号をかけることにより、前記導波管線路の反射信号の位相または振幅を変えるものである
ことを特徴とする検査用シミュレーション信号生成装置。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれか1項に記載の検査用シミュレーション信号生成装置において、
前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段とへ入力される信号が、前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段とを通過して、前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段との後段に繋ぐ負荷で反射し、
前記負荷は、前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段とを逆に通過した信号ベクトルが、前記第1の反射型変調手段と前記第2の反射型変調手段との平均反射率ベクトルと相殺するようにインピーダンスを設定された
ことを特徴とする検査用シミュレーション信号生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−3313(P2007−3313A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182900(P2005−182900)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【Fターム(参考)】