説明

検査用容器

【課題】一連の検査工程が一つの容器で検査でき、さらに、容器を密封することで、検査の簡略化と検査者の安全性の確保を図る検査用容器を提供する。
【解決手段】試料を保持した状態で、外部からの入力操作によって移動する移動セル71と、移動セル71を案内する移動路6と、一種又は二種以上の試薬が収容された複数の収容室3,4,5と、を少なくとも備え、各収容室3,4,5が、移動セル71の移動方向に沿って移動路6と順次交わるように配置されている構成とした容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一連の検査が内容物を移し替えることなく連続して行える検査用容器に関し、特に、医療や医薬の分野における検体の検査及び診断等に用いる検査用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療や医薬の分野における人体より採取した検体より病原菌の有無を検出する手段として遺伝子検査がある。
従来の遺伝子検査は、特別な検査機器を必要とするとともに、多くの検査工程を経なければならず、そのために、検査機関が特定されてしまい、検査結果が得られるまで長い時間を要していた。そのため、患者への負担も少なくなく、検査の簡易化や検出までの検査時間の短縮化が望まれていた。
【0003】
遺伝子検査の工程は、主に検体から遺伝子の抽出、遺伝子の増幅及び検出という過程からなり、この工程を簡易な手法で実現する遺伝子検査手法があり、近年注目を浴びている。その手法は、従来の遺伝子検査に比べ、検査工程が単純で、短期間で検査結果が得られることを特徴とするもので、LAMP法という遺伝子の増幅法である(非特許文献1)。
【0004】
この手法では、検体から抽出した病原菌の遺伝子と特定の試薬を混合し、所定の温度で短時間培養するだけで、標的となる遺伝子を従来の遺伝子検査と比較して大幅に増幅することができるというものである。この手法により、従来の遺伝子検査に比べ、検査工程の簡略化及び検査時間の短縮化が図られるとともに、極めて多量の増幅産物が得られることにより、標的遺伝子の有無を目視で簡単に判定することができる。
【0005】
【非特許文献1】ウイルス 第54巻 第1号 pp.107−112,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような手法で遺伝子検査する場合、特に対象となる遺伝子が結核菌のような空気感染のおそれのある病原菌に由来するもの関しては、以下のような問題があった。
【0007】
例えば、検査工程は、検体から遺伝子の抽出、遺伝子の増幅及び検出の予め定められた手順にしたがって、時系列的に進行するものの、それぞれの工程では、種々の試薬を検体と混合等させるため、異なる検査容器に移し替えて検査を進行させる必要があった。
この結果、種々の試薬を検体と混合等させるため、検査者には、ある程度の知識と熟練された技能が要求され、何人も容易にできる検査とはいえなかった。
【0008】
また、検査工程ごとに、その工程に適した試薬や容器を準備しなければならず、検査器材の種類が増えることとなり、検査器材の準備や容器ごとの扱いに余分な手間や労力を費やすとともに、試薬や容器の管理のための費用も増大していた。
さらに、試薬を容器に注入する際に、試薬をこぼしてしまうこともあり、試薬の費用が増大するとともに、検体や試薬を異なる容器に移し替える際に、誤って検体を漏出させることもあり、この場合には、結核菌等が空気中に飛翔し、検査者が結核菌に感染する危険に曝され、検査者の安全性が確保されていなかった。
【0009】
以上のように、LAMP法による遺伝子の増幅手法に限らず、その他の遺伝子検査、更には医療・医薬の分野のみならず化学の分野における実験や検査においても、予め検査手順が定められているにもかかわらず、多数の検査器材を用いることによる熟練した知識や技能、器材の準備等の手間や取り扱いのための労力、管理費用の増大や試料や試薬の漏出による検査者の安全性の確保等の問題は依然として残されたままであり、これらの問題を解決することで、更なる検査工程の簡易化と検査時間の短縮を図る必要がある。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、一連の検査工程が一つの容器で行うことができ、さらに、容器を密封することで、検査の簡略化と検査者の安全性の確保を図る検査用容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明に係る検査用容器は、試料を保持した状態で、外部からの入力操作によって移動する移動セルと、前記移動セルを案内する移動路と、一種又は二種以上の試薬が収容された複数の収容室と、を少なくとも備え、前記各収容室が、前記移動セルの移動方向に沿って前記移動路と順次交わるように配置されている構成としてある。
【0012】
このような構成とした本発明に係る検査用容器によれば、一つの容器に複数の収容室を備えることで、異なる多数の容器等を準備する必要がなくなり、多数の器材を準備する手間や各々の取り扱いに要する労力が軽減され、更には、複数の容器を管理するためのコストが低減できる。
また、試料や試薬を異なる容器に移し替えることなく、移動セルを移動させることによって検査を進行することができるため、特別な知識や熟練した技能がなくとも、予め定められた検査手順にしたがって、何人も検査を行うことができる。
さらに、試料や試薬を異なる容器に移し替える際の内容物の無用な漏出を防止することができるとともに、漏出に伴う病原菌等の飛翔等による検査者の危険を回避することができ、検査者の安全性が確保される。
なお、本明細書において、試料とは、人体から採取した検体も含め、試験・検査・分析などの対象となる物質で、検査等の過程において抽出された物質や変性した物質も広く含むものとする。
【0013】
また、本発明に係る検査用容器は、前記各収容室が前記移動路と交わる位置に、それぞれ交差部が形成されているとともに、前記移動セルが、前記各交差部に移動したときに前記各収容室と連通する流入口を有し、前記移動セルが前記各交差部に順次移動することで、前記流入口が前記各収容室と連通し、前記各収容室に収容されたそれぞれの前記試薬が、前記試料に向かって順次流入するようにされた構成とすることができる。
このような構成とすることにより、移動セルを交差部に順次移動させるだけで、各収容室に収容されたそれぞれの試薬を移動セル内に順次流入させて、検査を進めていくことができる。
【0014】
また、本発明に係る検査用容器は、前記移動セルが、前記流入口と、前記流入口と連通する流出口と、前記流入口と前記流出口の間に位置する濾過部と、を有している構成とすることができる。
このような構成とすることにより、試料を濾過部で濾し取って移動セルに保持させることができるため、特に、試料を試薬で洗浄したり、試料のうち必要な物質のみを抽出したりする検査工程を有する検査の場合に最適である。
【0015】
また、本発明に係る検査用容器は、前記収容室の少なくとも一つが、流入してきた前記試料、前記試薬、又はこれらの反応生成物もしくは混合物を、前記交差部を経て流出させる流動路を備え、前記流動路を介して前記移動路に交わっているとともに、前記移動セルが前記交差部に移動したときに前記流入口と前記流出口が前記流動路と連通し、前記試料、前記試薬、又はこれらの反応生成物もしくは混合物が、前記流動路に沿って、前記流入口から流入し、前記濾過部を経て、前記流出口から流出するようにした構成とすることができる。
このような構成とすることにより、次の検査工程に必要なものだけを濾過部で濾し取って移動セルに保持させ、それ以外の不要なものを移動セル外に流出させることができる。
【0016】
また、本発明に係る検査用容器は、前記試料、前記試薬、これらの反応生成物もしくは混合物の漏出を防止するとともに、反応阻害物質の容器外部からの混入を防止する密封手段を備えた構成とすることができる。
このような構成とすることにより、検査者に危険を及ぼす病原菌の漏出や飛翔等を回避することができ、検査者の安全性が確保される。また、塵、埃、雑菌、遺伝子等その他、検査において反応を阻害するような反応阻害物質が外部から当該検査容器に混入することも防止できる。
【0017】
また、本発明に係る検査用容器は、前記収容室の少なくとも一つが、前記試薬を隔離して収容する隔離室と、外部からの入力操作により前記隔離室に穿孔し、前記試薬を流出させる穿孔手段と、を備える構成とすることができる。
このような構成とすることにより、試薬を隔離する隔離室を設けることで、試薬が大気に触れることによる劣化を抑制でき、試薬を所定期間変質させずに保存することができる。
また、予め規定された量の試薬を注入することができるため、試薬の検量の必要性がなく、検査者の知識や技量に頼ることなく検査を進行することができる。
さらに、外部からの入力操作により隔離室が穿孔されるので、検査用容器に外部から試薬を注入する手間が省けるとともに、検査者が、試薬に触れることによる危険を解消することができる。
【0018】
また、本発明に係る検査用容器は、前記隔離室が、薄膜状の隔離壁を備えるとともに、前記穿孔手段が、前記隔離壁を貫通する針部を備え、かつ、前記針部に前記試薬を導出する溝部が形成された構成とすることができる。
このような構成とすることにより、針部が薄膜状の隔離壁を貫通するため、試薬が隔離室外に暴出されず、徐々に隔離室外に流出されることで、試料と試薬の確実な混合や反応を促進するとともに、薄膜と針の関係より僅かな入力操作により、試薬を流出させることができる。
また、針部に溝部が形成されることで、試薬が溝部に沿って導き出されるため、針部による隔離壁の穿孔が針径と同等な場合でも、少なくとも溝部による通過孔が確保され、試薬を確実に流出させることができる。
【0019】
また、本発明に係る検査用容器は、前記収容室の少なくとも一つが、異なる試薬を収容した前記隔離室を少なくとも二以上備えるとともに、前記隔離室が、前記穿孔手段により連続して穿孔されるように直列に配置された構成とすることができる。
このような構成とすることにより、異なる種類の試薬を検査の直前に混合させることができるため、例えば、混合した状態で保存することができない異なる種類の試薬を検査の進行に伴い、混合させ、さらに試料と混合・反応させることができる。
また、異なる種類の試薬を混合させる順に配置することで、一の試薬と試料を混合させてから、他の試薬と試料を混合させることができ、一の収容室における検査工程内でも、時間差を設けた検査をすることができる。
【0020】
また、本発明に係る検査用容器は、前記移動セルが前記交差部に移動したときに、前記交差部に対応する前記収容室に収容された試薬以外の試薬が、前記移動セルに流入することを防止するシールド手段を備えた構成とすることができる。
このような構成とすることにより、移動セルが交差部に移動したときに、対応する収容室が他の収容室から独立した状態が維持されるため、対応する試薬と試料の確実な混合が図られ、精度の高い検査が担保される。
【0021】
また、本発明に係る検査用容器は、前記試料、前記試薬、又はこれらの反応生成物もしくは混合物が、外部からの入力に基づき前記収容室内を流動するようにした構成とすることができる。
このような構成とすることにより、例えば、検査用容器を遠心装置等に固設し、遠心力を入力することで、試料、試薬、又はこれらの反応生成物もしくは混合物(以下、試料等という)が、収容室内を強制的に流動することになり、これらの攪拌や濾過を助長することで、混合や反応を効率的に促進することができる。
【0022】
また、本発明に係る検査用容器は、前記試料、前記試薬、又はこれらの反応生成物もしくは混合物を外部から視認可能にする目視窓を備えた構成とすることができる。
このような構成とすることにより、試料等の混合や反応状態を外部から視認できるため、例えば、遺伝子検査の進捗状況や、遺伝子の検出の有無を外部から確認できる。
【発明の効果】
【0023】
以上のような本発明によれば、一連の検査工程が一つの容器で検査でき、さらに、容器を密封することで、検査の簡略化と検査者の安全性の確保を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る検査用容器の好ましい実施形態について、図1〜11を参照しつつ説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係る検査用容器の一例を示す概略断面図であり、図2(a)は、図1の平面図、図2(b)は、図1の右側面図である。
これらの図に示す例では、検査用容器1は、多数の管を網目状に継ぎ合わせ、これを箱状のベース2に内設した構成としてある。具体的には、上下に平行に積層され、左右方向に伸長した管状の三つの収容室3,4,5と、これらの収容室3,4,5と上下方向に順次交わる移動路6と、移動路6内を移動可能で、下端側に移動セル71が形成された移動棒7と、これらを一体に覆う箱状のベース2と、ベース2に穿設された投入口21を密封する密封栓8から構成されている。
【0026】
これらの部材は、例えば、ポリプロピレン,ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアセタール,ポリブチレンテレフタレート等のエンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂を用いて、射出成形などにより製造することができる。
なお、各部材は、遮光を目的として着色してもよい。また、収容した内容物を外部から視認可能となるよう透明又は半透明色としてもよい。ただし、後述するように、ベース2に設けられた目視窓22とその周辺部については、視認性を確保するために透明又は半透明とすることが好ましい。
以下、各部材の詳細な構成について説明する。
【0027】
[ベース]
最初に、ベース2は、各図に示す例では、後述する収容室3,4,5、移動路6及び移動棒7が内設されるように二つの部材を固着してなる筐体として形成されている。
ベース2の天面には、試料を投入する投入口21と、後述する移動棒7の移動セル71を外部からの入力操作により移動させるためのセル操作口26が穿設されている。
また、ベース2の左側面には、後述する各収容室3,4,5における穿孔手段を外部からの入力操作により作動させるための穿孔操作口23,24,25が設けられている。
さらに、ベース2の右側面には、混合物等の混合や反応状態が外部より視認可能な透明な窓からなる目視窓22が設けられている。
【0028】
投入口21は、ベース2の天面から僅かに突出し、図中上側に向かって開口された長筒形状からなり、後述する上層収容室3と連通するように形成されている。そして、この投入口21から検査対象となる試料を投入することができるようになっている。
また、この投入口21は、後述するように密封栓8により密封されるようになっている。
【0029】
セル操作口26は、外部からの入力操作により、後述する移動棒7に形成された移動セル71を、移動棒7を介して移動制御するための開口部であり、図中上側に向かって開口され、後述する移動路6の入口として形成されている。
なお、このセル操作口26は、後述する移動棒7により密封することができるようになっている。
【0030】
穿孔操作口23,24,25は、外部からの入力操作により、後述する各収容室3,4,5における穿孔手段を作動させるための開口部であり、図中左側に向かって開口されるとともに、各収容室3,4,5に連通するように穿設されている。
また、この穿孔操作口23,24,25も、後述する収容室3,4,5に備えられた隔離室34や穿孔棒45,55により密封することができるようになっている。
【0031】
目視窓22は、後述する下層収容室5の流動路(下流)53に形成された沈殿部531に沈殿された混合物等が外部より視認可能となるように透明な板材からなる覗き窓を構成している。そして、ベース2の内部には、後述する収容室3,4,5、移動路6及び移動棒7が内設されており、一連の検査工程を本実施形態に係る検査用容器1で行うことができるようになっている。
【0032】
[密封栓]
次に、密封栓8は、有底長筒形状に形成された部材で、前述したベース2の投入口21に嵌入することで、投入口21を密封する蓋材を構成している。そして、密封栓8の上端側には、フランジ部が形成されており、その下面に溝部が設けられている。
前述したように、ベース2の投入口21は、後述する上層収容室3と連通しているため、試料等の漏出及び外部からの反応阻害物質の混入を防止するための密封手段を備えてある。
【0033】
密封手段は、密封栓8とベース2の投入口21からなり、具体的には、以下のように構成されている。
まず、ベース2の投入口21の内径と密封栓8の外径は、同一となるように形成されており、ベース2の投入口21の内周壁と密封栓8の外周壁が密着するようになっている。
また、密封栓8とベース2の投入口21は、長筒状に形成されており、これにより十分な密着面積を確保している。
さらに、密封栓8の上端側に形成されたフランジ部下面の溝部が、ベース2の投入口21の突出した上端と密着して嵌合するようになっている。
このような密封手段を備えることで、後述する上層収容室3と連通するベース2の投入口21を密封することができ、試料等の漏出及び外部からの反応阻害物質の混入を防止することができるようになっている。
【0034】
[移動路]
次に、移動路6について説明する。
移動路6は、後述する上下に平行に積層され、枝状に左右方向に延出した管状の三つの収容室3,4,5の本幹となるように、これらの収容室3,4,5と上下方向に順次交わるよう形成された管状の部材である。そして後述する移動棒7の下端側に形成された移動セル71が、この移動路6内を案内されて移動することで、一連の検査が進行するようになっている。
【0035】
具体的には、移動路6は、前述したセル操作口26から垂下するよう有底筒状に形成されており、そして各収容室3,4,5と以下に示すように順次交わるようになっている。
まず、後述する上層収容室3とは、上層収容室3に設けられた流動路32,33の間で交わり、この交わる部位には、交差部31が形成されている。次に、後述する中層収容室4とは、中層収容室4の終端と交わり、交わる部位には交差部41が形成されている。さらに、後述する下層収容室5とは、下層収容室5に設けられた流動路52,53の間で交わり、この部位には、交差部51が形成されている。そして、この交差部31,41,51に移動棒7の移動セル71が移動することで、試料と試薬が混合・反応し、一連の検査が行われるようになっている。
なお、検査についての詳細な説明は、各収容室3,4,5の説明中において行うものとする。
【0036】
[移動棒]
移動棒7は、外部からの入力操作により移動路6内を移動制御可能な中実円筒状の棒材である。
移動棒7の上端面は、前述したセル操作口26を介して、外部からの入力操作により移動棒7が移動制御可能となるように外部に露出されているとともに、下端側には、後述する移動セル71が形成されている。そして、外部からの入力操作により、この移動棒7が移動することで、移動セル71が移動路6内を移動することができるようになっている。
また、移動棒7の上側には、溝が形成され、この溝には、ゴム材質からなるOリング状の密封リング72が嵌合されている。この密封リング72は、移動路6と移動棒7の間を密封する密封手段として機能する。
【0037】
具体的には、移動棒7に嵌合された密封リング72の外径が、移動路6の内径より大きくなるよう形成されるとともに、密封リング72が弾性をもって撓みつつ、移動路6と移動棒7の間に密着することで、移動路6と移動棒7の間を密封する構成となっている。これにより、移動路6の入口であるセル操作口26から試料等の漏出及び外部からの反応阻害物質の混入を防止することができるようになっている。
【0038】
[移動セル]
移動セル71は、前述した移動棒7の下端側に、軸方向に直交して穿孔された部位で、試料を保持した状態で、前述した交差部31,41,51に順次移動することで、後述する各収容室3,4,5内に収容された試薬と混合・反応することができるようになっている。
図3は、移動セル71を示す概略断面図である。移動セル71には、同図に示すように、流入口711、流出口712、濾過部713、シールドリング714,715が設けられている。
【0039】
流入口711は、移動セル71が、各交差部31,41,51に移動したときに、各収容室3,4,5と連通可能となるように形成されている。具体的には、移動セル71が交差部31に移動したときは、流入口711は、後述する上層収容室3の流動路(上流)32と連通し、また、交差部41に移動したときは、後述する中層収容室4と連通し、さらに、交差部51に移動したときは、後述する下層収容室5の流動路(上流)52と連通するようになっている(図1参照)。
【0040】
一方、流出口712は、流入口711と連通するよう流入口711と対向する位置に設けられ、後述する上層収容室3,下層収容室5における検査工程においてのみ試料等が流出可能となるように形成されている。具体的には、移動セル71が交差部31に移動したときは、流出口712は、後述する上層収容室3の流動路(下流)33と連通し、交差部51に移動したときは、後述する下層収容室5の流動路(下流)53と連通するようになっている(図1参照)。
【0041】
濾過部713は、流入口711と流出口712の間に形成された不織布からなるフィルタであり、試料等より必要な物質の抽出又は不要な物質を除去のために設けられているとともに、抽出した物質や混合後の物質を含む試料を保持した状態で各交差部31,41,51に移動することができるようになっている。具体的には、移動セル71が、交差部31に移動したときは、移動セル71を介して、後述する上層収容室3の流動路(上流)32と流動路(下流)33が連通することとなり、試料等が、濾過部713により濾し取られ、必要な物質の抽出等が可能となる。そして、その後に、後述するように、上層収容室3の隔離室34に収容された試薬を濾過部713に通過させ、洗浄・反応等を行うことも可能となる。
同様に、移動セル71が、交差部51に移動したときは、移動セル71を介して、後述する下層収容室5の流動路(上流)52と流動路(下流)53が連通することとなり、後述するように、下層収容室5の隔離室54に収容された試薬を濾過部713に通過させ、洗浄・反応等を行うことが可能となる。
【0042】
一方、移動セル71が、交差部41に移動したときは、移動セル71の流入口711と、濾過部713又は移動路6の流入口711と対向する壁面により凹みが形成され、試料と後述する中層収容室4に収容された試薬とが混合・反応するようになっている。このように、濾過部713や、移動セル71の流入口711と、濾過部713又は移動路6の流入口711と対向する壁面により形成された凹みで抽出した物質や混合後の物質を含む試料を保持することができる。
また、移動セル71が、試料を保持した状態で、各交差部31,41,51に移動することで一連の検査が進行することができるようになっている。
【0043】
次に、シールドリング714,715は、移動セル71に対して上下対称に設けた溝に嵌合されたゴム材質からなるOリングである。このシールドリング714,715は、移動セル71が交差部31,41,51に移動したとき、各交差部31,41,51に対応する各収容室3,4,5に収容された試薬以外の試薬が、移動セル71内に流入することを防止するとともに、加熱時の密封性も向上させたシールド手段として機能する。
【0044】
具体的には、移動セル71の上下対称に設けた溝に嵌合されたシールドリング714,715の外径が、移動路6の内径より大きくなるよう形成されるとともに、シールドリング714,715が弾性をもって撓みつつ、移動路6と移動セル71の間に密着することで、移動路6と移動セル71の間をシールドする構成となっている。
これにより、移動セル71が交差部31,41,51に移動したとき、各交差部31,41,51に対応する各収容室3,4,5に収容された試薬以外の試薬が、移動セル71に流入することを防止するとともに、加熱時の密封性も向上させることができるようになっている。
【0045】
[収容室]
次に、収容室3,4,5について説明する。
図4は、上層収容室3に設けられた二つの隔離室と穿孔筒を示す概略断面図であり、図5は、中層収容室4に設けられた穿孔棒と二つの隔離室を示す概略断面図である。図6は、同様に、下層収容室5に設けられた穿孔棒と一つの隔離室を示す概略断面図であり、図7は、図5のA−A断面図である。
これらの図において、検査用容器1は、所定の遠心装置に固設されているものとする。この結果、各試料等には、左から右に向かって、外部入力としての遠心力Gが加わっているものとする。
【0046】
収容室3,4,5は、前述した移動路6を本幹として、上下に平行に積層され、枝状に左右方向に延出した管状の三つの収容室3,4,5から構成されており、最上層には、上層収容室3、中間層には、中層収容室4、最下層には下層収容室5が、それぞれ設けられている。これらの収容室3,4,5は、上下方向に順次交わる移動路6を介して連通されている(図1参照)。
以下、各収容室3,4,5について詳述する。
【0047】
まず、上層収容室3は、各収容室3,4,5の最上層に位置し、前述したベース2の投入口21と連通する管状室である。
上層収容室3には、試料等が流動する流動路32,33、流動路32,33の間には前述した移動路6と交わる交差部31、不要物等を回収する回収室36、二つの試薬が個別に隔離して収容された隔離室34、隔離室34に穿孔する穿孔手段として機能する穿孔筒35が設けられている(図1参照)。
【0048】
流動路32,33は、交差部31を境にして左側の流動路(上流)32と右側の流動路(下流)33からなり、前述した移動棒7に形成された移動セル71が、交差部31に移動することで、双方が連通するように構成されている。
交差部31は、前述したように流動路32,33と移動路6が交わる部位であり、この交差部31に移動棒7の移動セル71が移動したときに、試料や試料と試薬の混合物等が、移動セル71の濾過部713により濾し取られ、必要な物質の抽出等が可能となる。そして、その後に、上層収容室3の隔離室34に収容された試薬を濾過部713に通過させ、洗浄・反応等を行うことも可能となる。
回収室36は、移動セル71の濾過部713を通過した不要物等を回収する部分で、この回収室36には、不要物等を吸収するスポンジ材からなる吸収体361が設けられている。
【0049】
隔離室34は、図4に示すように、異なる二種類の試薬Aと試薬Bが、薄膜状の隔離壁343を隔てて各室に個別に密封収容され、各室が直列に配置された円筒状の密封容器である。
隔離室34の左側面は、前述した穿孔操作口23を介して、外部からの入力操作により穿孔手段が制御可能となるように円筒底面が外部に露出されている。そして、隔離室34の右側面は、穿孔筒35による穿孔が容易となるように薄膜状の隔離壁342が設けられており、この隔離壁342により試薬Aが密封されている。
なお、隔離壁342,343は、密封可能かつ穿孔容易となるようアルミシールで形成されている。
【0050】
このように試薬を隔離する隔離室34を設けることで、試薬が大気に触れることによる劣化を抑制でき、試薬を所定期間変質させずに保存することができる。
また、予め規定された量の試薬を注入することができるため、試薬の検量の必要性がなく、検査者の知識や技量に頼ることなく検査を進行することができる。
【0051】
さらに、隔離室34の左側には、溝が形成され、この溝には、ゴム材質からなるOリング状の密封リング341が嵌合されている。この密封リング341は、上層収容室3と隔離室34の間を密封する密封手段として機能する。
【0052】
具体的には、隔離室34に嵌合された状態の密封リング341の外径が、上層収容室3の内径より大きくなるよう形成されるとともに、密封リング341が弾性をもって撓みつつ、上層収容室3と隔離室34の間に密着することで、上層収容室3と隔離室34の間を密封する構成となっている。
これにより、上層収容室3の開口部である穿孔操作口23から試料等の漏出及び外部からの反応阻害物質の混入を防止することができるようになっている。
【0053】
穿孔筒35は、同図に示すように、中空円筒を斜めに切断した竹槍形状を形成しており、その先端は、隔離壁342及び隔離壁343に穿孔可能なように刃状に形成されている。そして、穿孔筒35が、穿孔手段として、外部からの入力操作により、隔離壁342及び隔離壁343に穿孔する詳細な説明については、後述するものとする。
【0054】
次に、中層収容室4は、各収容室3,4,5の中間層に位置する管状室である。中層収容室4には、前述した移動路6と交わる交差部41、二つの試薬が個別に隔離して収容された隔離室44、隔離室44に穿孔する穿孔手段として機能する穿孔棒45が設けられている(図1参照)。
【0055】
交差部41は、前述したように移動路6が交わる部位であり、この交差部41に移動棒7の移動セル71が移動したときに、移動セル71の流入口711と、濾過部713又は移動路6の流入口711と対向する壁面により凹みが形成され、試料と中層収容室4に収容された試薬とが混合・反応するようになっている。
【0056】
隔離室44は、図5に示すように、異なる二種類の試薬Cと試薬Dが、薄膜状の隔離壁442を隔てて各室に個別に密封収容され、各室が直列に配置された円筒状の密封容器である。
隔離室44の左側面は、後述する穿孔棒45に形成された針部451による穿孔が容易となるように薄膜状の隔離壁441により試薬Cを密封し、右側面は、同様な理由より薄膜状の隔離壁443からなり、これにより試薬Dを密封している。
なお、隔離壁441,442,443は、密封可能かつ穿孔容易となるようアルミシールで形成されている。
【0057】
このような試薬を隔離する隔離室44を設けることで、試薬が大気に触れることによる劣化を抑制でき、試薬を所定期間変質させずに保存することができる。
また、予め規定された量の試薬を注入することができるため、試薬の検量の必要性がなく、検査者の知識や技量に頼ることなく検査を進行することができる。
【0058】
穿孔棒45は、図1に示すように、穿孔手段として機能する円筒形状の部材である。穿孔棒45の左側面は、前述した穿孔操作口24を介して、外部からの入力操作により穿孔手段としての穿孔棒45が制御可能となるように円筒底面が外部に露出されている。
また、穿孔棒45の左側には、溝が形成され、この溝には、ゴム材質からなるOリング状の密封リング453が嵌合されている。
この密封リング453は、中層収容室4と穿孔棒45の間を密封する密封手段として機能する。
【0059】
具体的には、穿孔棒45に嵌合された状態の密封リング453の外径が、中層収容室4の内径より大きくなるよう形成されるとともに、密封リング453が弾性をもって撓みつつ、中層収容室4と穿孔棒45の間に密着することで、中層収容室4と穿孔棒45の間を密封する構成となっている。
これにより、中層収容室4の開口部である穿孔操作口24から試料等の漏出及び外部からの反応阻害物質の混入を防止することができるようになっている。
【0060】
穿孔棒45の右側先端には、薄膜状の隔離壁441,隔離壁442及び隔離壁443に穿孔可能なように針状に形成された針部451が設けられている(図5参照)。
これにより、穿孔棒45の針部451が、薄膜状の隔離壁441,隔離壁442及び隔離壁443を貫通するため、各試薬が中層収容室4に暴出されず、徐々に中層収容室4内に流出されることで、試料と試薬の確実な混合や反応を促進することができる。
また、薄膜と針の関係より僅かな入力操作により、各試薬を流出させることができる。
【0061】
さらに、図7に示すように、針部451には、各試薬の導出を容易にする溝部452が設けられている。
これにより、各試薬が溝部452に沿って導き出されるため、針部451による穿孔が針径と同等な場合でも、少なくとも溝部452による通過孔が確保され、各試薬を中層収容室4に確実に流出させることができる。
【0062】
そして、穿孔棒45が、穿孔手段として、外部からの入力操作により、隔離壁441,隔離壁442及び隔離壁443に穿孔する詳細な説明については、後述するものとする。
【0063】
次に、下層収容室5は、各収容室3,4,5の最下層に位置する管状室である。下層収容室5には、試料等が流動する流動路52,53、流動路52,53の間には移動路6と交わる前述した交差部51、混合物等が沈殿する沈殿部531、一つの試薬が密封収容された隔離室54、隔離室54に穿孔する穿孔手段として機能する穿孔棒55が設けられている(図1参照)。
【0064】
流動路52,53は、交差部51を境にして左側の流動路(上流)52と右側の流動路(下流)53からなり、前述した移動棒7に形成された移動セル71が、交差部51に移動することで、双方が連通するように構成されている。
交差部51は、前述したように流動路52,53と移動路6が交わる部位であり、この交差部51に移動棒7の移動セル71が移動したときに、隔離室54に収容された試薬を濾過部713に通過させ、洗浄・反応等を行うことが可能となる。
【0065】
沈殿部531は、移動セル71の濾過部713を通過した反応物等が沈殿する部分であり、その反応物等は、前述した目視窓22により外部から視認可能となっている。
隔離室54は、図6に示すように、試薬Eが収容された円筒状の密封容器であり、その左右側壁は、穿孔棒55による穿孔が容易となるように薄膜状の隔離壁541と隔離壁542が形成されるとともに、これらにより試薬Eが密封されている。このような試薬を隔離する隔離室54を設けることで、前述した隔離室34,44と同様な効果を奏することができる。
なお、隔離壁541,542は、密封可能かつ穿孔容易となるようアルミシールで形成されている。
【0066】
穿孔棒55は、図1に示すように、穿孔手段として機能する円筒形状の部材である。穿孔棒55の左側面は、前述した穿孔操作口25を介して、外部からの入力操作により穿孔手段としての穿孔棒55が制御可能となるように円筒底面が外部に露出されている。
さらに、穿孔棒55の左側には、溝が形成され、この溝には、ゴム材質からなるOリング状の密封リング553が嵌合されている。この密封リング553は、下層収容室5と穿孔棒55の間を密封する密封手段として機能する。
【0067】
具体的には、前述した中層収容室4における穿孔棒45と同様に、穿孔棒55に嵌合された状態の密封リング553の外径が、下層収容室5の内径より大きくなるよう形成されるとともに、密封リング553が弾性をもって撓みつつ、下層収容室5と穿孔棒55の間に密着することで、下層収容室5と穿孔棒55の間を密封する構成となっている。
これにより、下層収容室5の開口部である穿孔操作口25から試料等の漏出及び外部からの反応阻害物質の混入を防止することができるようになっている。
【0068】
穿孔棒55の右側先端には、薄膜状の隔離壁541及び隔離壁542を穿孔可能なように針状に形成された針部551が形成されている(図6参照)。
さらに、図7に示した中層収容室4における穿孔棒45の針部451と同様に、針部551に試薬の導出を容易にする溝部552が設けられている。
これらの構成は、前述した中層収容室4における穿孔手段と同一な構成のため、上述した効果と同様な効果を奏することができる。
なお、穿孔棒55が、穿孔手段として、外部からの入力操作により、隔離壁541及び隔離壁542に穿孔する詳細な説明については、後述するものとする。
【0069】
[穿孔手段]
次に、各収容室3,4,5に設けられた穿孔手段について、詳述する。
最初に、上層収容室3に設けられた隔離室34の穿孔筒35による穿孔について説明する。
図4に示すように、隔離室34は、前述したように異なる二種類の試薬Aと試薬Bが薄膜状の隔離壁343を隔てて各室に個別に密封収容され、各室が直列に配置された円筒状の密封容器である。
隔離室34の左側面は、前述した穿孔操作口23を介して、外部からの入力操作により穿孔手段を制御可能となるように外部に円筒底面が露出されている。そして、隔離室34の右側面は、穿孔筒35による穿孔が容易となるように薄膜状の隔離壁342が設けられており、この隔離壁342により試薬Aが密封されている。
【0070】
次に、穿孔筒35は、前述したように中空円筒を斜めに切断した竹槍形状を形成しており、その先端は、隔離壁342及び隔離壁343に穿孔可能なように刃状に形成されている。そして、隔離室34が、ベース2の穿孔操作口23を介して、外部より入力操作されることにより、穿孔筒35が、穿孔手段として、隔離壁342及び隔離壁343に穿孔するようになっている。
【0071】
具体的には、まず、隔離室34の左側の円筒底面を、外部からの入力操作により右に押圧することで、隔離室34が、上層収容室3内を右に移動される。そして、隔離室34が移動を続けることで、穿孔筒35の先端が隔離壁342を突き抜き、隔離壁342が穿孔されることで、収容された試薬Aが遠心力Gを受けて上層収容室3内に流出され、試料と混合することになる。
さらに、隔離室34が移動されると、隔離壁343が穿孔されることで、収容された試薬Bが遠心力Gを受けて上層収容室3内に流出される。
この結果、試薬Aが試料と混合した後に、試薬Bが試料と混合することになる。
【0072】
このように、異なる種類の試薬Aと試薬Bを各々隔離して収容した各室を、穿孔手段により連続して穿孔されるように直列に配置することで、混合した状態で保存することができない異なる種類の試薬を検査の進行に伴い、混合させることができる。
また、試薬を混合させる順に配置することで、試薬Aと試料を混合させた後、試薬Bと試料を混合させることができ、一の収容室における検査で、時間差を設けた検査をすることができる。
【0073】
次に、中層収容室4に設けられた隔離室44の穿孔棒45による穿孔について説明する。
図5に示すように、隔離室44は、前述したように異なる二種類の試薬Cと試薬Dが薄膜状の隔離壁442を隔てて各室に個別に密封収容され、各室が直列に配置された円筒状の密封容器である。
隔離室44の左側面は、穿孔棒45の針部451による穿孔が容易となるように薄膜状の隔離壁441により試薬Cを密封し、右側面は、同様な理由より薄膜状の隔離壁443からなり、これにより試薬Dを密封している(図5参照)。
【0074】
次に、穿孔棒45は、前述したように穿孔手段として機能する円筒形状の部材であり、この右側先端には、隔離壁441,隔離壁442及び隔離壁443に穿孔可能なように針状に形成された針部451が設けられている(図5参照)。
また、穿孔棒45の左側面は、前述した穿孔操作口24を介して、外部からの入力操作により穿孔手段としての穿孔棒45が制御可能となるように円筒底面が外部に露出されている。そして、この穿孔棒45を、ベース2の穿孔操作口24を介して、外部より入力操作することにより、穿孔棒45が、穿孔手段として、隔離壁441、隔離壁442及び隔離壁443に穿孔するようになっている。
【0075】
具体的には、まず、穿孔棒45の左側の円筒底面を、外部からの入力操作により右に押圧することで、穿孔棒45が、中層収容室4内を右に移動される。そして、穿孔棒45が移動を続けることで、穿孔棒45の針部451が隔離壁441を突き抜き、さらに、隔離壁442が穿孔されることで、収容された試薬Cが遠心力Gを受けて試薬Dが収納された隔離室44の右側室内に流入される。
この結果、試薬Cと試薬Dが混合することになる。
【0076】
このように、混合した状態で保存することができない異なる種類の試薬を検査の進行に伴い、混合させることができる。
さらに、穿孔棒45が移動されると、隔離壁443が穿孔されることで、混合された試薬Cと試薬Dが遠心力Gを受けて中層収容室4内に流出される。
なお、下層収容室5に設けられた隔離室54の穿孔棒55による穿孔についての説明は、前述した中層収容室4における穿孔手段と同様な構成なので、省略するものとする。
【0077】
以上のように、外部からの入力操作により各々の隔離壁が穿孔され、各収容室に各試薬を流出させる穿孔手段を備えることで、外部からの入力操作により各隔離壁が穿孔されるので、検査用容器1に外部から各試薬を注入する手間が省けるとともに、検査者が、試薬等に触れることによる危険が解消される。
【0078】
[検査用容器の使用]
次に、検査用容器1の使用について各検査工程の順に図8〜図11を参照しつつ説明する。
図8(a)は、検査用容器に試料が投入された状態を示す概略断面図であり、図8(b)は、密封栓が嵌入された状態を示す概略断面図である。また、図9(a)は、試薬Aが流出された状態を示す概略断面図であり、図9(b)は、試薬Bが流出された状態を示す概略断面図である。また、図10(a)は、試薬Cと試薬Dが混合された状態を示す概略断面図であり、図10(b)は、試薬Cと試薬Dが流出された状態を示す概略断面図である。また、図11(a)は、移動セルが移動路で密封された状態を示す概略断面図であり、図11(b)は、試薬Eが流出された状態を示す概略断面図である。
【0079】
後述する各検査工程において、特に図示しないが、検査用容器1は、以下のような機能を有する自動制御装置に内設されており、検査用容器1は、この装置による外的入力を受けて自動的に制御されつつ、一連の検査が進行するようになっている。
まず、この自動制御装置は、外部からの入力に基づき試料等を各収容室内で左から右に流動させるために、遠心力を加える所定の遠心制御装置を備えている。
この遠心制御装置は、各検査工程において、主に試薬を検体に向かって流動させるときなどに作動するものとし、それ以外のときには、作動を停止させてもよく、あるいは連続作動させてもよい。
また、この自動制御装置は、外部からの入力操作により移動棒7の移動セル71の移動及び各収容室3,4,5における穿孔手段を作動させるために、移動棒7の上端面、隔離室34の左側の円筒底面及び各穿孔棒45,55の左側の円筒底面に連結することにより、これらを移動制御する所定の移動制御装置を備えている。
さらに、この自動制御装置は、検査用容器1を所定の温度に加熱可能な加熱制御装置を備えているとともに、下層収容室5の沈殿部531に沈殿された反応物から所定の物質の検出の有無を判定するための濁度測定装置や、紫外線照射装置等を備えている。
【0080】
最初に、上層収容室3における検査工程について説明する。
まず、図8(a)に示すように、試料をベース2の投入口21から、上層収容室3内に投入する。この場合における試料は、人体より採取した痰等を処理液で処理した検体とする。
次に、図8(b)に示すように、密封栓8をベース2の投入口21に嵌入することで、投入口21を密封する。このとき、移動棒7の移動セル71は、交差部31に位置しているものとする。
【0081】
続いて、前述した遠心制御装置を作動させて、検査用容器1全体に右方向の遠心力Gを加え、検体が右方向に流動され、流動路(上流)32を経て、移動セル71の流入口711から移動セル71内に流入される。
さらに、移動セル71の濾過部713を検体が通過することで、必要な物質が濾し取られ、余分な水分等は、移動セルの流出口712から流出され、流動路(下流)33を経て、回収室36内の吸収体361に吸収される。
そして、以上の操作を終えた後に、遠心制御装置を停止させる。
次に、上層収容室3における穿孔手段を作動させるとともに、再び遠心制御装置を作動させて、試薬Aと試薬Bを上層収容室3内に流出させる。
【0082】
具体的には、前述した移動制御装置を作動させて、前述したように隔離室34の左側の円筒底面を、外部からの入力操作3Aにより右に押圧することで、穿孔筒35により、隔離室34の隔離壁342が穿孔され、これに伴って、遠心制御装置を作動させることにより、最初に、試薬Aが上層収容室3内に流出される(図9(a)参照)。その後、遠心制御装置は停止させる。
さらに、外部からの入力操作3Bを加えることで、穿孔筒35により、隔離室34の隔離壁343が穿孔され、再び遠心制御装置を作動させることによって、所定の時間をおいて、試薬Bが流出される(図9(b)参照)。その後、遠心制御装置は停止させる。
【0083】
この場合において、試薬Aと試薬Bは、異なる成分からなる洗浄液であり、このように時間差を置いて、検体が洗浄されることで、特定の遺伝子の抽出効果が高まるようになっている。
なお、流出された試薬Aと試薬Bやこれらと検体の混合物のうちの不要な物質は、前述した同様な過程を経て、回収室36内の吸収体361により吸収される。
【0084】
次に、中層収容室4における検査工程について説明する。
まず、図10(a)に示すように、外部からの入力操作7Aにより移動路6内に挿入された移動棒7の上端面に下方向の入力を加え、移動棒7の移動セル71を交差部41に移動させる。
このとき、前検査工程において洗浄された検体は、移動セル71の濾過部713に保持された状態で移動している。そして、遠心制御装置の作動と停止を制御しつつ、中層収容室4における穿孔手段を作動させることで、最初に、試薬Cと試薬Dを混合させ、次に混合した試薬Cと試薬Dを中層収容室4内に流出させる。
【0085】
具体的には、前述したように穿孔棒7の左側の円筒底面を、外部からの入力操作4Aにより右に押圧することで、穿孔棒7の針部451により、隔離室44の隔離壁441が穿孔される。
さらに、隔離室44の隔離壁442が穿孔され、この状態で遠心制御装置を作動させて遠心力Gを加えることで、試薬Cが隔離室44の右側室に流入され、試薬Dと混合される(図10(a)参照)。その後、遠心制御装置は停止させる。
続いて、外部からの入力操作4Bを加えることで、穿孔棒7の針部451により、隔離室44の隔離壁443が穿孔され、再びこの状態で遠心制御装置を作動させることで、試薬Cと試薬Dの混合物が中層収容室4内に流出される(図10(b)参照)。そして、混合物は、移動セル71の流入口711より、移動セル71内に流入され、前検査工程において洗浄された検体と混合される。
なお、混合された後に、遠心制御装置は停止させる。
【0086】
続いて、図11(a)に示すように、外部からの入力操作7Bにより移動路6内に挿入された移動棒7の上端面に下方向の入力を加え、移動棒7の移動セル71を交差部41と交差部51の中間に移動させる。
これにより、前検査工程において混合された混合物は、移動セル71の流入口711が移動路6により閉塞されることで、密封状態で隔離される。
この状態において、前述した加熱制御装置を作動させて、検査用容器1を所定の温度に保ち、所定の時間、反応させる。
これにより、検体に包含されていた所定の遺伝子の増幅が進行するようになっている。
【0087】
次に、下層収容室5における検査工程について説明する。
まず、図11(b)に示すように、外部からの入力操作7Cにより移動路6内に挿入された移動棒7の上端面に下方向の入力を加え、移動棒7の移動セル71を交差部51に移動させる。
このとき、前検査工程において増幅された遺伝子は、移動セル71内に保持された状態で移動している。そして、中層収容室4における穿孔手段を作動させるとともに、この状態で遠心制御装置を作動させて遠心力Gを加えることによって試薬Eを下層収容室5内に流出させる。
【0088】
具体的には、前述したように穿孔棒55の左側の円筒底面を、外部からの入力操作5により右に押圧することで、穿孔棒55の針部551により、隔離室54の隔離壁541が穿孔される。
さらに、隔離室54の隔離壁542が穿孔され、この状態で遠心制御装置を作動させて遠心力Gを加えることで、試薬Eが下層収容室5内に流出される。
【0089】
続いて、試薬Eが右方向に流動され、下層収容室5の流動路(上流)52を経て、移動セル71の流入口711から移動セル71内に流入される。
さらに、移動セル71の濾過部713を試薬Eが通過することで、前検査工程において増幅された遺伝子と反応し、その反応物は、移動セル71の流出口712から流出され、下層収容室5の流動路(下流)53を経て、流動路(下流)53の沈殿部531に沈殿する。その後、遠心制御装置を停止させ、前述した濁度測定装置や紫外線照射装置を作動させて、ベース2の目視窓22より、その反応物を測定・観察することで、検査対象の検体に所定の菌等が含まれるか否かを検出することができるようになっている。
【0090】
このように、一つの容器に複数の収容室3,4,5を有することで、異なる多数の容器等を準備する必要がなくなり、多数の器材を準備する手間や各々の取り扱いに要する労力が軽減され、更には、複数の容器を管理するためのコストが低減できる。
また、試料や試薬を異なる容器に移し替えることなく、移動棒7の移動セル71を交差部31,41,51に順次移動させるだけで、検査を進行することができるため、特別な知識や熟練した技能がなくとも、予め定められた検査手順にしたがって、何人も容易に検査を行うことができる。
【0091】
さらに、試料や試薬を異なる容器に移し替える際の内容物の無用な漏出を防止することができるとともに、漏出に伴う病原菌等の飛翔等による検査者の危険を回避することができ、検査者の安全性が確保される。
また、検査用容器1を遠心装置等に固設し、強制的に遠心力Gを入力することで、試料等が、収容室3,4,5内を流動することになり、これらの攪拌や濾過を助長することで、混合や反応を効率よく促進することができる。
なお、前述したように、遠心制御装置は、必要に応じて作動と停止を繰り返しながら検査を進行させる形態に基づき説明したが、遠心制御装置を作動させた状態のまま検査を進行させるようにすることもできる。
【0092】
以上説明してきたように、本実施形態に係る検査用容器1によれば、複数の収容室を移動路と順次交わるように配置することで、一連の検査工程が一つの容器で検査でき、さらに、容器を密封することで、検査の簡略化と検査者の安全性の確保を図ることができる。
【0093】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0094】
例えば、前述した実施形態では、各収容室3,4,5を上下方向に順次交わるように配置したが、水平方向や縦並方向に配置することもできる。
また、本実施形態では、収容室を三つとしたが、四つ以上配置することもでき、少なくとも二つ以上の収容室を配置することができる。
さらに、外部からの入力操作による移動セルの移動の制御、穿孔手段の制御や試料等を外部からの入力に基づき流動させる制御は、CPU,検査手順が記憶されたROM,RAM,インターフェイス回路等を搭載したコンピュータとこれにより制御されるセンサ等の監視手段やモータ等の駆動手段を備えた自動制御装置により、これらを検査手順にしたがって自動的に制御することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上説明したように、本発明に係る検査用容器は、医療や医薬の分野に限らず、化学の分野なども含め、検査者の安全を確保しつつ、迅速な検査を可能とする容器として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明に係る検査用容器の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】(a)図1の平面図に相当する概略図である。 (b)図2の右側面図に相当する概略図である。
【図3】本発明に係る検査用容器の一実施形態における移動セルを示す概略断面図である。
【図4】本発明に係る検査用容器の一実施形態における上層収容室に設けられた二つの隔離室と穿孔筒を示す概略断面図である。
【図5】本発明に係る検査用容器の一実施形態おける中層収容室に設けられた穿孔棒と二つの隔離室を示す概略断面図である。
【図6】本発明に係る検査用容器の一実施形態における下層収容室に設けられた穿孔棒と一つの隔離室を示す概略断面図である。
【図7】図5のA−A断面に相当する針部の断面図である。
【図8】(a)本発明に係る検査用容器の一実施形態における試料が投入された状態を示す概略断面図である。 (b)本発明に係る検査用容器の一実施形態における密封栓が嵌入された状態を示す概略断面図である。
【図9】(a)本発明に係る検査用容器の一実施形態における試薬Aが流出された状態を示す概略断面図である。 (b)本発明に係る検査用容器の一実施形態における試薬Bが流出された状態を示す概略断面図である。
【図10】(a)本発明に係る検査用容器の一実施形態における試薬Cと試薬Dが混合された状態を示す概略断面図である。 (b)本発明に係る検査用容器の一実施形態における試薬Cと試薬Dが流出された状態を示す概略断面図である。
【図11】(a)本発明に係る検査用容器の一実施形態における移動セルが移動路で密封された状態を示す概略断面図である。 (b)本発明に係る検査用容器の一実施形態おける試薬Eが流出された状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0097】
1 検査用容器
2 ベース
21 投入口
22 目視窓
23,24,25 穿孔操作口
26 セル操作口
3 上層収容室
31 交差部
32 流動路(上流)
33 流動路(下流)
34 隔離室
341 密封リング
342,343 隔離壁
35 穿孔筒
36 回収室
361 吸収体
4 中層収容室
41 交差部
44 隔離室
441,442,443 隔離壁
45 穿孔棒
451 針部
452 溝部
453 密封リング
5 下層収容室
51 交差部
52 流動路(上流)
53 流動路(下流)
531 沈殿部
54 隔離室
541,542 隔離壁
55 穿孔棒
551 針部
552 溝部
553 密封リング
6 移動路
7 移動棒
71 移動セル
711 流入口
712 流出口
713 濾過部
713,714 シールドリング
72 密封リング
8 密封栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を保持した状態で、外部からの入力操作によって移動する移動セルと、
前記移動セルを案内する移動路と、
一種又は二種以上の試薬が収容された複数の収容室と、を少なくとも備え、
前記各収容室が、前記移動セルの移動方向に沿って前記移動路と順次交わるように配置されていることを特徴とする検査用容器。
【請求項2】
前記各収容室が前記移動路と交わる位置に、それぞれ交差部が形成されているとともに、
前記移動セルが、前記各交差部に移動したときに前記各収容室と連通する流入口を有し、
前記移動セルが前記各交差部に順次移動することで、前記流入口が前記各収容室と連通し、前記各収容室に収容されたそれぞれの前記試薬が、前記試料に向かって順次流入するようにされた請求項1に記載の検査用容器。
【請求項3】
前記移動セルが、前記流入口と、前記流入口と連通する流出口と、前記流入口と前記流出口の間に位置する濾過部と、を有している請求項2に記載の検査用容器。
【請求項4】
前記収容室の少なくとも一つが、流入してきた前記試料、前記試薬、又はこれらの反応生成物もしくは混合物を、前記交差部を経て流出させる流動路を備え、前記流動路を介して前記移動路に交わっているとともに、
前記移動セルが前記交差部に移動したときに前記流入口と前記流出口が前記流動路と連通し、前記試料、前記試薬、又はこれらの反応生成物もしくは混合物が、前記流動路に沿って、前記流入口から流入し、前記濾過部を経て、前記流出口から流出するようにした請求項3に記載の検査用容器。
【請求項5】
前記試料、前記試薬、又はこれらの反応生成物もしくは混合物の漏出を防止するとともに、反応阻害物質の容器外部からの混入を防止する密封手段を備えた請求項1〜4のいずれか1項に記載の検査用容器。
【請求項6】
前記収容室の少なくとも一つが、前記試薬を隔離して収容する隔離室と、
外部からの入力操作により前記隔離室に穿孔し、前記試薬を流出させる穿孔手段と、を備える請求項1〜5のいずれか1項に記載の検査用容器。
【請求項7】
前記隔離室が、薄膜状の隔離壁を備えるとともに、
前記穿孔手段が、前記隔離壁を貫通する針部を備え、かつ、前記針部に前記試薬を導出する溝部が形成された請求項6に記載の検査用容器。
【請求項8】
前記収容室の少なくとも一つが、異なる試薬を収容した前記隔離室を少なくとも二以上備えるとともに、
前記隔離室が、前記穿孔手段により連続して穿孔されるように直列に配置された請求項6〜7のいずれか1項に記載の検査用容器。
【請求項9】
前記移動セルが前記交差部に移動したときに、前記交差部に対応する前記収容室に収容された試薬以外の試薬が、前記移動セルに流入することを防止するシールド手段を備えた請求項1〜8のいずれか1項に記載の検査用容器。
【請求項10】
前記試料、前記試薬、又はこれらの反応生成物もしくは混合物が、外部からの入力に基づき前記収容室内を流動するようにした請求項1〜9のいずれか1項に記載の検査用容器。
【請求項11】
前記試料、前記試薬、又はこれらの反応生成物もしくは混合物を外部から視認可能にする目視窓を備えた請求項1〜10のいずれか1項に記載の検査用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−253172(P2008−253172A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97156(P2007−97156)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、革新技術開発研究事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】