説明

検知体および検知方法

【課題】六価クロムを簡易かつ効率的に精度良く検知する。
【解決手段】評価対象から六価クロムを溶出するための水や薬液が含有される溶出部2、その溶出部2を加熱するための加熱部3、および溶出部2で溶出された六価クロムと反応して変色するジフェニルカルバジド等の物質を含んだ反応部4を有する検知体1を構成する。検知体1を用いて評価対象の六価クロムの検知を行う際には、水や薬液を含有させた溶出部2を評価対象に密着させ、その水や薬液を加熱部3によって加熱する。そして、そのときの反応部4の変色状態から、評価対象の六価クロムの有無を判別する。これにより、評価対象を分解したり加工したりすることなく、六価クロムの検知を容易かつ迅速に、また、低コストで行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検知体および検知方法に関し、特に、六価クロムを検知するための検知体、および六価クロムの検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ねじ等のメッキや板金等には、その防食性向上を図る等の目的で、クロメート処理が広く利用されてきた。これまでのクロメート処理には、主に六価クロムが使用されていたが、より安全性を高めるため、現在は六価クロメート処理が規制される傾向にあり、替わって三価クロムを使用した三価クロメート処理が注目され始めている。クロメート処理品は、現在広く用いられているが、今後、各種製品の部材・部品中のクロムの有無、特に六価クロムの有無を判別する手法が必要になってくるものと考えられる。
【0003】
従来、部品等の六価クロムの検知方法としては、例えば、六価クロムを含む可能性のある部品等を適当に加工し、それをAES(Auger Electron Spectroscopy)、SAM(Scanning Auger electron Microscopy)、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)等の分析機器を用いて評価する方法が知られている。また、このような方法のほかにも、例えば、そのような部品等から液中に六価クロムを溶出しそれをジフェニルカルバジドと反応させてその変色状態(吸光度)を調べるジフェニルカルバジド法等が提案されている(特許文献1,2,3参照)。
【0004】
なお、従来、様々な分野で各種検知手法が提案されており、例えば、亜硝酸イオン検知紙を用いて亜硝酸イオン濃度を簡易測定する方法(特許文献4参照)、透水性フィルムの片面に水分によって発色する発色層を設けた水分検知ラベルを用いて水分を検知する方法(特許文献5参照)、フィルム状の支持体にガスの成分と接触して発色する検知試薬を担持したガス検知体を用いてガスを検知する方法(特許文献6参照)等が提案されている。
【特許文献1】特開2005−274503号公報
【特許文献2】特開2003−172696号公報
【特許文献3】特許第3607888号公報
【特許文献4】特開2005−76038号公報
【特許文献5】特開平10−90244号公報
【特許文献6】特開平9−210985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の部品等を一括して入手する場合には、付属する品質データの利用や抜き取り検査等の分析・評価によって六価クロムの有無を知ることができ、比較的容易にそれら部品等の品質が保証できる。
【0006】
しかし、既成の組み立て品や他メーカーから供給されるOEM(Original Equipment Manufacture)品は、クロメート処理した部品等とそうでない部品等とが混在している可能性がある。六価クロムが使用されているか否かを知るためには、その組み立て品等を分解し、分解した各部品等についてそれぞれ分析・評価を行わなければならなくなる。特に、分析機器を用いて六価クロムの検出を行う場合には、分解した部品等をさらに各分析機器に適した形に加工しなければならないことが多い。このように、組み立て品等の六価クロムについての品質保証データを取得するためには、多大な労力と時間が必要であり、さらに、それに伴うコストの増加も無視できない。
【0007】
また、六価クロメート処理品の代替品とされる三価クロメート処理品は、六価クロメート処理品と外観上の見分けがつきにくく、これらの部品等が混在している場合にも、各部品等についてそれぞれ分析・評価を行わなければならないため、同様の問題が生じる。さらに、現在は、六価クロメート処理から三価クロメート処理への移行期であって、三価クロメート皮膜に六価クロムが混入するといったことも起こり得る。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、部品等に含まれ得る六価クロムを簡易かつ効率的に精度良く検知することのできる検知体および検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では上記課題を解決するために、六価クロムの検知に用いる検知体において、被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、前記溶出部を加熱する加熱部と、前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、を有することを特徴とする検知体が提供される。
【0010】
このような検知体によれば、被検知体に接触する溶出部が、加熱部によって加熱され、その加熱された溶出部で、その被検知体から六価クロムが溶出され、溶出部で溶出された六価クロムを、反応部に含まれている物質を用いて検出する。溶出部を被検知体に接触させてその被検知体の六価クロムの有無を判別するため、六価クロムの検知が簡易に行えるようになる。また、加熱して六価クロムの溶出を行うため、加熱しない場合に比べて六価クロムの溶出時間の短縮が図られ、六価クロム検知の効率化が図られるようになる。さらに、この加熱によって六価クロムの溶出量を増加させることができるため、六価クロムの検知感度の向上が図られるようになる。
【0011】
また、本発明では、六価クロムの検知方法において、被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、前記溶出部を加熱する加熱部と、前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、を有する検知体を用い、前記検知体の前記溶出部を前記被検知体に接触させ、前記被検知体に接触する前記溶出部を前記加熱部によって加熱し、前記反応部での変色の有無によって前記被検知体の六価クロムの有無を判別することを特徴とする検知方法が提供される。
【0012】
このような検知方法によれば、検知体の溶出部を被検知体に接触させ、溶出部を加熱部によって加熱して六価クロムの溶出を行い、反応部での変色の有無によって六価クロムの有無を判別する。加熱して六価クロムの溶出を行うため、六価クロム検知の効率化および検知感度の向上が図られるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、検知体を、被検知体の六価クロムを溶出するための溶出部、その溶出部を加熱する加熱部、および溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部を有する構成にした。これにより、被検知体を分解したり加工したりすることなく、被検知体の六価クロムの有無を判別することができ、六価クロムの検知を簡易かつ迅速に、精度良く低コストで行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
まず、六価クロムの検知に用いる検知体とその検知の原理について説明する。
図1は検知体の概略断面図である。
【0015】
検知体1は、被検知体である評価対象から六価クロムを溶出するための溶出部2、その溶出部2を加熱するための加熱部3、および溶出部2で溶出された六価クロムを検出するための反応部4を有している。図1には、溶出部2の側部に加熱部3を設け、これらの上に反応部4を設けた構成を例示している。検知体1は、例えば、平面円形状あるいは平面矩形状のシート状に形成されており、溶出部2側を評価対象に貼り付けて、溶出部2の全部または一部をその評価対象の表面に密着させることができるようになっている。
【0016】
溶出部2には、評価対象の表面と密着したときにその評価対象から六価クロムを溶出させるための水または薬液(アセトン、エタノール等)が含有されるようになっている。溶出部2は、六価クロム溶出用の水や薬液を一定時間保持しておくことができ、かつ、そのような水や薬液によって評価対象の表面から溶出された六価クロムを固定しないような材質で構成されている。例えば、溶出部2には、コットン、メッシュやフィルタ等の多孔質性材料、保水性を有する高分子等を用いることができる。
【0017】
なお、保水性高分子は、その分子量等を制御することにより、あらかじめ含有可能な水分量を制御することができる。これを利用すれば、溶出部2内の六価クロム溶出用の水や薬液の量を制御することが可能である。溶出部2内の水や薬液の量を一定に制御しておけば、評価対象が変わっても、六価クロムを溶出する際の液量を一定にすることが可能になる。
【0018】
加熱部3は、それ自体が発熱して溶出部2を加熱するか、または検知体1外部から供給される熱を効率的に溶出部2へ伝熱することができるように構成されている。
ここで、加熱部3自体が発熱する構成の場合には、加熱部3には、例えば、空気や水と接触して発熱する物質が含有される。そのような物質としては、例えば、空気中の酸素と反応して発熱する鉄(Fe)等のほか、水和反応によって発熱する酸化カルシウム(CaO)や三酸化硫黄(SO3)等が挙げられる。なお、このような物質を含有させる媒体としては、例えば、メッシュやフィルタ等の多孔質性材料を用いることができる。
【0019】
また、加熱部3を、電圧印加によって発熱する構成、例えば電熱線やペルチェ素子等を用いて形成し、それに電圧を印加して溶出部2を加熱する構成としてもよい。電熱線は、例えば、セラミックや樹脂の内部に埋め込んだり、適当なシーリングを施して金属中に埋め込んだりすることができる。また、ペルチェ素子は、所定の性質を有する2種類の金属を積層して構成することができる。
【0020】
加熱部3が検知体1外部の熱を溶出部2へ伝熱する構成の場合には、加熱部3は、熱伝導性の良い材料を用いて構成される。そのような材料としては、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、Fe等の金属、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al23)等のセラミック、熱伝導フィルム等の伝熱物質混入材料が挙げられる。
【0021】
また、反応部4には、六価クロムと反応して変色(発色を含む。以下同じ。)する物質(変色剤)、例えばジフェニルカルバジドが含有されている。例えば、反応部4は、樹脂中にジフェニルカルバジド等を含有させて構成することができる。なお、反応部4に用いられる樹脂は、六価クロムと変色剤が反応したときにその変色が識別できること、六価クロムや変色剤と反応しないこと、等の性質を有していることを要する。
【0022】
このような構成を有する検知体1においては、溶出された六価クロムが水や薬液を媒介に溶出部2内を移動して反応部4に到達し、反応部4に含有されている変色剤と反応すると、反応部4が変色するようになる。
【0023】
検知体1の平面サイズは、評価対象に応じて任意に設定可能であり、例えば、ねじに用いる場合であればそのねじ頭に貼り付けられる程度の大きさにしたり、より大きな板材等に用いる場合にはそのサイズに応じた大きさにしたりすればよい。また、検知体1の厚みも任意に設定可能であるが、六価クロムの溶出量等を考慮して、その厚み、特に溶出部2の厚みを適切に設定することが望ましい。
【0024】
なお、図1に例示した構成の検知体1は、その材質にもよるが、例えば、中央部に貫通孔を有する加熱部3を用意し、その貫通孔の一端側に反応部4をシート状に形成し、他端側から孔に溶出部2を形成する、といった方法を用いて形成することが可能である。
【0025】
図2から図4は検知体を用いた六価クロムの検知方法の流れを説明する図であって、図2は検知体貼付時の概略断面図、図3は六価クロム溶出時の概略断面図、図4は反応部変色時の概略断面図である。
【0026】
例えば、評価対象5として、素地層あるいはメッキ層である下地層6の表面に六価クロメート皮膜7が形成されているものを想定する。
検知体1を用いて検知を行う際には、まず、図2に示すように、検知体1を、そのような評価対象5の表面、ここでは六価クロメート皮膜7に、その溶出部2が密着するようにして貼り付ける。溶出部2には、検知体1の貼り付け前にあらかじめ水や薬液を含有させておいたり、あるいは検知体1の貼り付け直前に水や薬液を滴下または含浸させたりして水や薬液を含有させるようにする。
【0027】
六価クロメート皮膜7に検知体1が貼り付けられると、溶出部2内の水や薬液によって、図3に示すように、六価クロメート皮膜7から六価クロムが溶出される。さらに、このように検知体1が六価クロメート皮膜7に貼り付けられている状態で、その溶出部2が加熱部3によって加熱される。加熱方法は、加熱部3の構成によって異なる。例えば、加熱部3を、それにFe,CaO,SO3等を含有させて空気や水との接触によって発熱する構成とした場合には、六価クロメート皮膜7に貼り付けられている検知体1の加熱部3を空気に接触させる、あるいはその加熱部3に水を供給する(外部から供給するか、または溶出部2内の水や薬液から供給する)ことによって、加熱部3自体を発熱させ、溶出部2を加熱する。
【0028】
また、例えば、加熱部3を、電熱線やペルチェ素子等を用い、それへの電圧印加によって発熱する構成とした場合には、検知体1を六価クロメート皮膜7に貼り付けた後に、加熱部3に対して所定の電圧を印加し、加熱部3を発熱させ、溶出部2を加熱する。
【0029】
また、例えば、加熱部3を、金属、セラミック、伝熱物質混入材料等の高熱伝導性材料を用い、検知体1外部の熱を溶出部2へ伝熱する構成とした場合には、検知体1を六価クロメート皮膜7に貼り付けた後に、そのような加熱部3を半田ごてやドライヤ等を用いて加熱し、その熱を溶出部2に伝熱して、溶出部2を加熱する。
【0030】
通常、六価クロメート皮膜7からの六価クロムの溶出は、溶出部2内の水や薬液が高温である場合の方が、低温である場合に比べ、一定時間の溶出量がより多く、また、一定量の溶出がより短時間で行われる。上記のように、加熱部3の形態に応じた方法によって溶出部2の加熱を行うと、溶出部2内の水や薬液の温度が上昇するため、図3に示した六価クロメート皮膜7からの六価クロムの溶出が促進されるようになる。したがって、加熱部3による溶出部2の加熱を行ったときの六価クロメート皮膜7からの六価クロムの溶出は、加熱部3による溶出部2の加熱を行わない場合に比べ、より多く、また、より短時間で行われるようになる。
【0031】
加熱部3による溶出部2の加熱は、溶出部2内の水や薬液が、加熱を行わなかった場合に比べて高ければ一定の効果が得られるが、加熱温度の設定に際しては、溶出部2や反応部4の耐熱性等も考慮する。加熱温度は、常温を上回る温度で80℃程度まで、好ましくは60℃程度ないし80℃程度とする。
【0032】
なお、便宜上、図3では、溶出部2内の六価クロムが溶出した領域を層状に図示している。
六価クロメート皮膜7に検知体1を貼り付けた後、一定時間が経過し、図4に示すように、溶出した六価クロムが溶出部2内を移動して反応部4に到達すると、六価クロムが反応部4の変色剤と反応し、反応部4が変色するようになる。この変色によって六価クロムの存在を検知することができる。
【0033】
ここでは、六価クロメート皮膜7を有する評価対象5を例にしているが、六価クロムを含まないような評価対象について同条件の処理を行った場合には、通常、反応部4は変色しないため、それによってその評価対象に六価クロムが含まれていないことを知ることができる。
【0034】
なお、反応部4の変色は、ここでは目視観察によって判別するが、必要に応じ、分光光度計を用いて判別することも可能である。
以上説明したように、上記のような検知体1を用いることにより、評価対象5を分解したり加工したりすることなく、検知体1を評価対象5に貼り付けてその皮膜中の六価クロムの有無を判別することができ、六価クロムの検知を容易に行うことができるようになる。さらに、評価対象5に貼り付けた検知体1に含有される六価クロム溶出用の水や薬液を加熱することにより、そのような加熱を行わなかった場合に比べ、一定時間の溶出量を増加させ、また、一定量の溶出を短時間で行うため、六価クロムの検知を迅速に高感度で行うことができるようになる。
【0035】
三価クロムは、六価クロムに比べると、水等に溶出しにくい。そのため、検知体1を三価クロメート皮膜とされている膜の表面に貼り付ければ、その膜に六価クロムが混入しているか否かの判別をすることも可能である。また、ジフェニルカルバジド溶液は、六価クロムのほかに亜鉛メッキとも反応して変色する。このことから、クラック、剥離等による構造上の欠陥が存在する三価クロメート皮膜では、検知体1にジフェニルカルバジド溶液と亜鉛メッキとの変色反応が生じるため、この検知体1を三価クロメート皮膜の品質の判定に利用することも可能である。
【0036】
なお、以上の説明では、層状の溶出部2および加熱部3と、層状の反応部4とが積層された検知体1を例示したが、各部は必ずしも明確に分割されていることを要せず、1層で上記の溶出部2と加熱部3の両方の機能を有する構成や、1層で上記の溶出部2、加熱部3および反応部4のすべての機能を有する構成にすることも可能である。
【0037】
以下、検知体の構成例について説明する。
図5は検知体の第1の構成例の断面模式図である。
図5に示す検知体10は、溶出部11と反応部12の積層体の側面およびその反応部12上面が耐熱・透光フィルム13で覆われ、この構造体の側部に加熱部14が設けられた構成を有している。検知の際には、溶出部11の耐熱・透光フィルム13で覆われていない面が評価対象に貼り付けられる。
【0038】
ここで、溶出部11、反応部12および加熱部14はそれぞれ、図1に示した検知体1の溶出部2、反応部4および加熱部3のような構成とすることができる。
すなわち、溶出部11は、六価クロム溶出用の水や薬液が含有される構成になっている。このような溶出部11の材質は、これに六価クロム溶出用の水や薬液が含有されたときに、六価クロム溶出用の水や薬液を一定時間保持しておくことができ、その水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しないものであれば、特に限定されない。例えば、溶出部11には、メッシュやフィルタ等の多孔質性材料を用いることができる。
【0039】
反応部12には、六価クロムと反応して変色する変色剤が含有される。このような反応部12は、例えば、樹脂中に変色剤としてジフェニルカルバジド等を含有させて構成される。
【0040】
耐熱・透光フィルム13は、反応部12を外部から保護すると共に、溶出部11内の六価クロム溶出用の水や薬液の蒸発を防ぐ役割を果たす。この耐熱・透光フィルム13は、六価クロムが検知されたときに、反応部12の変色が容易に確認できるよう、無色透明であることが望ましく、例えば、その材料としてポリエチレンテレフタレート(Poly Ethylene Terephthalate,PET)等が用いられる。
【0041】
また、加熱部14は、上記検知体1について述べたような構成とすることにより、それ自体が発熱し耐熱・透光フィルム13を介して溶出部11内の水や薬液を加熱するか、または検知体10外部から供給される熱を耐熱・透光フィルム13を介して溶出部11内の水や薬液に伝熱することができるようになっている。
【0042】
このような検知体10を用いて六価クロムの検知を行う場合には、まず、検知体10を評価対象に貼り付ける前に、溶出部11に水や薬液を含有させる。
その際、加熱部14を水との接触によって発熱する構成とした場合には、溶出部11と共に、加熱部14にも水や薬液を含有させる。この場合、水や薬液は、例えば、検知体10の貼り付け面側から溶出部11および加熱部14に水や薬液を滴下したり、貼り付け面の溶出部11および加熱部14を水や薬液に含浸したりすればよい。それにより、加熱部14による溶出部11内の水や薬液の加熱が開始されるようになる。
【0043】
また、加熱部14を空気との接触によって発熱する構成とした場合には、例えば、加熱部14の外表面を密封シール(図示せず。)で被覆しておき、検知体10の貼り付け後、検知開始直前に、その密封シールを剥離して加熱部14を空気と接触させるようにすればよい。それにより、加熱部14による溶出部11内の水や薬液の加熱が開始されるようになる。
【0044】
また、加熱部14を電熱線等への電圧印加によって加熱する構成とした場合や、検知体10外部から供給される熱を伝熱する構成とした場合には、検知体10の貼り付け面側から溶出部11に選択的に水や薬液を滴下したり、貼り付け面を水や薬液に含浸したりすればよい。そして、加熱部14への所定の電圧印加あるいは熱供給を行うことにより、加熱部14による溶出部11の水や薬液の加熱が開始されるようになる。
【0045】
なお、あらかじめ溶出部11に水や薬液を含有させてその貼り付け面を密封シール(図示せず。)で被覆しておき、検知を行う段階でその密封シールを剥離し、それから検知体10を評価対象の表面に貼り付けるようにしてもよい。このような構成とした場合には、検知体10の貼り付け前に、その溶出部11に水や薬液を滴下する等の作業が不要になる。
【0046】
溶出部11等に水や薬液が含有された検知体10は、その水や薬液の表面張力によって評価対象の表面に貼り付けられるようになる。また、加熱部14の貼り付け面側に接着層(図示せず。)を設けておき、その接着層によって検知体10を評価対象の表面に貼り付けるようにしてもよい。
【0047】
評価対象の表面に貼り付けられた検知体10では、加熱部14によって溶出部11が加熱され、溶出部11内の水や薬液が昇温する。評価対象の表面に六価クロムを含有する皮膜が形成されている場合には、その昇温した水や薬液によってその皮膜から六価クロムが溶出され、それが反応部12に到達して所定の反応が起きると、反応部12が変色する。一方、評価対象の表面に六価クロムを含有する皮膜が形成されていない場合には、通常、反応部12は変色しない。
【0048】
このように、六価クロム溶出用の水や薬液を昇温することにより、評価対象の表面に六価クロムが存在する場合には、その一定量を効率的に溶出することができ、それにより、迅速かつ高感度で六価クロムを検知することができるようになる。
【0049】
図6は検知体の第2の構成例の断面模式図である。ただし、図6では、図5に示した要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
図6に示す検知体20は、単層の溶出・反応部21を有している点で、上記図5に示した検知体10と相違する。検知の際には、溶出・反応部21の耐熱・透光フィルム13で覆われていない面が評価対象に貼り付けられる。
【0050】
溶出・反応部21は、六価クロム溶出用の水や薬液を含有することができ、かつ六価クロムと反応して変色する変色剤が含有された構成になっている。例えば、溶出・反応部21には、メッシュやフィルタ等の多孔質性材料や保水性を有する高分子等を用いることができ、それに水や薬液および変色剤を含有させるようにすればよい。
【0051】
このような検知体20を用いて六価クロムの検知を行う場合も、上記図5に示した検知体10と同様、これを評価対象に貼り付ける前に、その溶出・反応部21を六価クロム溶出用の水や薬液が含有された状態にする。そして、その水や薬液の表面張力を利用する等して検知体20を評価対象の表面に貼り付け、加熱部14によって溶出・反応部21の水や薬液を昇温し、溶出・反応部21の変色状態から、その評価対象の六価クロムの有無を判別する。
【0052】
図7は検知体の第3の構成例の断面模式図である。ただし、図7では、図6に示した要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
図7に示す検知体30は、溶出・反応部21の側部に加熱部14が設けられ、溶出・反応部21の上面および加熱部14の上面が耐熱・透光フィルム31で覆われている点で、上記図6に示した検知体20と相違する。
【0053】
耐熱・透光フィルム31は、PET等の無色透明材料を用いて構成され、溶出・反応部21および加熱部14を外部から保護し、また、溶出部11内の六価クロム溶出用の水や薬液の蒸発を防ぐ。このような検知体30を用いる場合も、上記図6に示した検知体20と同様にして六価クロムの検知を行うことができる。
【0054】
図8は検知体の第4の構成例の断面模式図である。
図8に示す検知体40は、単層の溶出・加熱部41を有し、その上層にジフェニルカルバジド等の変色剤が含有された反応部42が設けられている。
【0055】
溶出・加熱部41は、例えば、多孔質性のメッシュや保水性を有する高分子等を用いて構成され、それに六価クロム溶出用の水や薬液を加熱するための発熱材が埋め込まれた構造を有している。溶出・加熱部41に用いるメッシュや高分子等には、六価クロム溶出用の水や薬液、および発熱材と反応せず、溶出された六価クロムを固定しない性質を有する材料が選択される。溶出・加熱部41内の水や薬液の加熱用の発熱材としては、CaO,SO3等の水と接触して発熱する材料が用いられる。
【0056】
このような検知体40を用いて六価クロムの検知を行う場合には、例えば、まず、検知体40を評価対象に貼り付ける前に、滴下あるいは含浸等の方法で溶出・加熱部41に水や薬液を含有させる。そして、溶出・加熱部41が密着するように検知体40を評価対象の表面に貼り付ける。溶出・加熱部41内の発熱材は、溶出・加熱部41に滴下等された水や薬液と接触して発熱し、それにより、その水や薬液が昇温する。
【0057】
評価対象に六価クロムが含有されている場合には、溶出・加熱部41内の昇温した水や薬液に六価クロムが溶出し、溶出した六価クロムが反応部42に到達すると、それが反応部42の変色剤と反応し、反応部42が変色する。このように、反応部42の変色状態から、その評価対象の六価クロムの有無を判別する。
【0058】
なお、この図8には、溶出・加熱部41と反応部42の積層構造を例示したが、このような構造上に、外部からの保護および水や薬液の蒸発防止のために、溶出・加熱部41(貼り付け面は除く。)と反応部42を被覆するように、PET等の耐熱・透光フィルムを形成してもよい。
【0059】
図9は検知体の第5の構成例の断面模式図である。
図9に示す検知体50は、単層構造であり、その層内に六価クロム溶出用の水や薬液を含有することができるようになっている。さらに、この検知体50は、その層内にその水や薬液の加熱用の発熱材、およびジフェニルカルバジドのような変色剤が含有された構成を有している。発熱材としては、CaO,SO3等の水と接触して発熱する材料が用いられる。
【0060】
このような検知体50には、例えば、多孔質性のメッシュや保水性高分子等を用いることができ、そのような媒体に発熱材および変色剤が含有される。メッシュや高分子等には、六価クロム溶出用の水や薬液、発熱材、および変色剤と反応せず、溶出された六価クロムを固定しない性質を有する材料が選択される。
【0061】
このような検知体50を用いて六価クロムの検知を行う場合には、例えば、まず、検知体50を評価対象に貼り付ける前に、それに滴下あるいは含浸等の方法で水や薬液を含有させ、その後、評価対象の表面に貼り付ける。評価対象の表面に検知体50が貼り付けられると、例えば、それに含有されている発熱材が、同じくそれに含有されている水や薬液と接触することにより、その水や薬液が昇温する。
【0062】
評価対象に六価クロムが含有されている場合には、その昇温した水や薬液にその六価クロムが溶出し、溶出した六価クロムが変色剤と反応し、検知体50が変色する。このように、検知体50の変色状態から、その評価対象の六価クロムの有無を判別する。
【0063】
なお、この図9には、溶出、加熱、反応(変色)の各機能を備えた単層構造を例示したが、このような構造上(貼り付け面は除く。)を被覆するように、PET等の耐熱・透光フィルムを形成してもよい。
【0064】
図10は検知体の第6の構成例の断面模式図である。
図10に示す検知体60は、溶出部61と反応部62の積層体を有しており、その溶出部61内には、加熱部として、CaO,SO3等の水と接触して発熱する材料を内包するマイクロカプセル63が埋め込まれている。このマイクロカプセル63には、外力でそのカプセル壁が破壊されることによって中の発熱材が放出されるものや、水等と接触してそのカプセル壁が溶解することによって中の発熱材が放出されるもの等、種々の形態が利用可能である。溶出部61および反応部62はそれぞれ、図1に示した検知体1の溶出部2および反応部4のような構成とすることができる。
【0065】
なお、溶出部61のマイクロカプセル63を除く部分には、その材料として、六価クロム溶出用の水や薬液を一定時間保持しておくことができ、六価クロム溶出用の水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しないものであって、内部にマイクロカプセル63を埋め込むことができるものが用いられる。例えば、メッシュや保水性高分子等を用いることができる。
【0066】
このような検知体60を用いて六価クロムの検知を行う場合には、まず、検知体60を評価対象に貼り付ける前に、マイクロカプセル63のカプセル壁を破壊し、滴下あるいは含浸等の方法で溶出部61に水や薬液を含有させる。あるいは、検知体60を評価対象に貼り付ける前に、滴下あるいは含浸等の方法で溶出部61に水や薬液を含有させ、その水や薬液でマイクロカプセル63のカプセル壁を溶解する。その後、溶出部61が密着するように検知体60を評価対象の表面に貼り付ける。
【0067】
溶出部61内の水や薬液は、マイクロカプセル63から放出された発熱材と接触して昇温する。評価対象に六価クロムが含有されている場合には、その昇温した水や薬液に六価クロムが溶出し、溶出した六価クロムが反応部62まで到達すると、六価クロムと変色剤の反応によって反応部62が変色する。このように、反応部62の変色状態から、その評価対象の六価クロムの有無を判別する。
【0068】
なお、この図10には、マイクロカプセル63を含む溶出部61と反応部62の積層構造を例示したが、このような構造上に、溶出部61(貼り付け面は除く。)と反応部62を被覆するように、PET等の耐熱・透光フィルムを形成してもよい。
【0069】
図11は検知体の第7の構成例の断面模式図である。ただし、図11では、図10に示した要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
図11に示す検知体70は、単層構造であり、溶出部61内に六価クロム溶出用の水や薬液が含有されるようになっている。さらに、この検知体70は、その溶出部61内に、加熱部として機能するマイクロカプセル71、および反応部として機能するマイクロカプセル72が埋め込まれた構成を有している。
【0070】
加熱部となるマイクロカプセル71には、CaO,SO3等の水と接触して発熱する材料が内包される。また、反応部となるマイクロカプセル72には、ジフェニルカルバジドのような変色剤が内包される。これらのマイクロカプセル71,72には、外力でそのカプセル壁が破壊されることによって中の発熱材や変色剤が放出されるものや、水等と接触してそのカプセル壁が溶解することによって中の発熱材や変色剤が放出されるもの等、種々の形態が利用可能である。
【0071】
なお、溶出部61のマイクロカプセル71,72を除く部分には、その材料として、六価クロム溶出用の水や薬液を一定時間保持しておくことができ、六価クロム溶出用の水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しないものであって、内部にマイクロカプセル71,72を埋め込むことができるものが用いられる。例えば、メッシュや保水性高分子等を用いることができる。
【0072】
このような検知体70を用いて六価クロムの検知を行う場合には、まず、検知体70を評価対象に貼り付ける前に、マイクロカプセル71,72のカプセル壁を破壊し、滴下あるいは含浸等の方法で溶出部61に水や薬液を含有させる。あるいは、検知体70を評価対象に貼り付ける前に、滴下あるいは含浸等の方法で溶出部61に水や薬液を含有させ、その水や薬液でマイクロカプセル71,72のカプセル壁を溶解する。
【0073】
検知体70に含有されている水や薬液は、マイクロカプセル71から放出された発熱材と接触して昇温される。評価対象に六価クロムが含有されている場合には、その昇温した水や薬液にその六価クロムが溶出し、溶出した六価クロムがマイクロカプセル72から放出された変色剤と反応し、検知体70が変色する。このように、検知体70の変色状態から、その評価対象の六価クロムの有無を判別する。
【0074】
なお、この図11には、マイクロカプセル71,72を含む単層構造の検知体70を例示したが、このような構造上(貼り付け面は除く。)を被覆するように、PET等の耐熱・透光フィルムを形成してもよい。
【0075】
図12は検知体の第8の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のC−C断面模式図である。また、図13は検知体の変形例の断面模式図である。
図12に示す検知体80は、溶出部81と反応部82の積層体の側部に、金属、セラミック、伝熱物質混入材料等の伝熱材を用いた加熱部83が設けられた構成を有し、加熱部83の貼り付け面側には、接着層84が設けられている。接着層84には、例えば、接着剤として広く利用されるPVA(Poly Vinyl Alcohol)等を用いることができる。さらに、この検知体80では、加熱部83に、部分的に側方に延びた突出部83aが設けられており、この突出部83aの先端部分には、窪み83bが形成されている。なお、溶出部81および反応部82はそれぞれ、図1に示した検知体1の溶出部2および反応部4のような構成とすることができる。
【0076】
このような検知体80を用いて六価クロムの検知を行う場合には、溶出部81を六価クロム溶出用の水や薬液が含有された状態とした後、検知体80を接着層84で評価対象の表面に貼り付け、窪み83bに熱した半田ごて等の加熱用具の先端を押し当て、加熱部83を加熱する。加熱部83には窪み83bが形成されているため、加熱用具先端の位置ずれが起こりにくく、加熱用具が評価対象に当たってその表面に損傷を与えるといった事態を回避することができる。なお、加熱用具として、このような半田ごて等のほか、ドライヤ等を用い、加熱部83に温風を吹き付けて加熱するようにしてもよい。
【0077】
このようにして加熱部83を加熱し、溶出部81内の水や薬液を昇温し、反応部82の変色状態から、その評価対象の六価クロムの有無を判別する。このような検知体80によれば、金属やセラミック等の伝熱材に対して外部から容易に熱供給が行え、六価クロムを迅速に高感度で検知することが可能になる。
【0078】
なお、検知体80の加熱部83は、上記のような適当な加熱用具を用いて伝熱によって加熱するほか、例えば、図13に示すように、加熱部83の内部に電熱線85を埋め込み、電圧印加によって加熱部83を発熱することができる構成とすることも可能である。このような構成とすれば、検知を行う段階で、外部からの熱供給によって溶出部81内の水や薬液を加熱するか、あるいは電熱線85への電圧印加によって溶出部81内の水や薬液を加熱するかを選択することが可能になる。
【0079】
図14は検知体の第9の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は側面模式図である。ただし、図14では、図12に示した要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
【0080】
図14に示す検知体90は、溶出部81と反応部82の積層体の側部に、ペルチェ素子からなる加熱部91が設けられた構成を有している点で、上記の検知体80と相違する。加熱部91のペルチェ素子は、所定の性質を有する2種類の金属91a,91bを用いて構成され、それらの接合部に所定の電流を流したときに、一方の金属91aから他方の金属91bへ熱移動が起こるようになっている。ペルチェ素子を構成する金属91a,91bには、それぞれ側方に延びた突出部91c,91dが設けられており、これらの突出部91c,91dの先端部分には、それぞれ窪み91e,91fが形成されている。
【0081】
このような検知体90を用いて六価クロムの検知を行う場合には、溶出部81を六価クロム溶出用の水や薬液が含有された状態とした後、検知体90を接着層84で評価対象の表面に貼り付け、窪み91e,91fの部分を端子として用い、金属91a,91bの接合部に所定の電流を流し、一方の金属91aから他方の金属91b、その金属91bから溶出部81内の水や薬液への伝熱を行う。
【0082】
図15は検知体の第10の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のD−D断面模式図である。ただし、図15では、図12に示した要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
【0083】
図15に示す検知体100は、加熱部83の上部にサーモラベル101が取り付けられている点で、上記の検知体80と相違する。サーモラベル101は、検知体100において、加熱部83や溶出部81の温度を検出するための温度検出部として機能する。
【0084】
このようにサーモラベル101を取り付けることにより、加熱部83や溶出部81の温度あるいは温度履歴を把握することができ、評価対象に貼り付けた検知体100の温度制御や過熱防止が可能になる。例えば、サーモラベル101の色を基に、所定の溶出温度またはその付近に達した時点で評価対象から検知体100を剥離するといった処理が可能になる。また、半田ごて等の加熱用具を使って加熱部83を加熱する場合には、窪み83bに加熱用具を押し当て、所定の溶出温度まで加熱し、サーモラベル101の色を基に、所定の溶出温度またはその付近に達した時点で加熱用具を窪み83bから離す、といった処理も可能になる。このように、サーモラベル101を用いることにより、より精度の良い六価クロムの検知が行えるようになる。
【0085】
なお、この検知体100に用いたサーモラベル101は、図1に示した検知体1のほか、上記の第1〜第7の構成例に示したものについても同様に適用することが可能である。
図16は検知体の第11の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のE−E断面模式図である。ただし、図16では、図12に示した要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
【0086】
図16に示す検知体110は、反応部82の近傍に基準色ラベル111が取り付けられている点で、上記の検知体80と相違する。基準色ラベル111は、検知体110において、反応部82の色を判別するための色判別部として用いられる。
【0087】
基準色ラベル111は、あらかじめ求められた反応部82の変色状態と六価クロム溶出量の関係に基づいて選択される適当な色の1枚ないし複数枚のラベルで構成される。検知体110による六価クロムの検知の際には、反応部82の色を、その近傍に取り付けた基準色ラベル111の色と比較することにより、六価クロムの有無や溶出量の推定が可能になる。
【0088】
なお、この検知体110に用いた基準色ラベル111は、図1に示した検知体1のほか、上記の第1〜第7の構成例に示したものについても同様に適用することが可能である。
図17は検知体の第12の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のF−F断面模式図である。ただし、図17では、図12に示した要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
【0089】
図17に示す検知体120は、溶出部81と反応部82の積層体が耐熱・透光フィルム121で被覆され、この耐熱・透光フィルム121の外側に加熱部83および接着層84が設けられている点で、上記の検知体80と相違する。
【0090】
このように、溶出部81および反応部82を耐熱・透光フィルム121で被覆することにより、外部からの保護と、溶出部81内の水や薬液の蒸発防止が可能になる。また、水や薬液が含有される溶出部81と加熱部83の間、反応部82と加熱部83の間を耐熱・透光フィルム121で隔離することにより、加熱部83を水や薬液で濡らさない等、その取り扱いを容易にすることが可能になる。
【0091】
なお、さらにこの検知体120に、図15および図16に示したサーモラベル101や基準色ラベル111を設けるようにしてもよい。
図18は検知体の第13の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のG−G断面模式図である。また、図19および図20は第13の構成例の検知体の貼り付け方法の説明図である。図19は検知体貼り付け方法の第1工程を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のH−H断面模式図である。図20は検知体貼り付け方法の第2工程を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のI−I断面模式図である。
【0092】
図18に示す検知体130は、溶出部131と反応部132の積層体が、PET等の耐熱・透光フィルム133で被覆され、この耐熱・透光フィルム133の外側に加熱部134が設けられている。さらに、耐熱・透光フィルム133の検知体130の貼り付け面側には、PVA等の接着層135が設けられている。そして、この検知体130は、その使用前には、その貼り付け面側が密封シール136aで被覆されると共に、貼り付け面と反対の面側も密封シール136bで被覆された状態になっている。2枚の密封シール136a,136bは、検知体130の使用前、その外部で貼り合わされている。なお、溶出部131、反応部132および加熱部134はそれぞれ、図1に示した検知体1の溶出部2、反応部4および加熱部3のような構成とすることができる。
【0093】
このような検知体130を用いて六価クロムの検知を行う場合には、まず、その貼り付け面側を被覆する密封シール136aを剥離する。そして、溶出部131に六価クロム溶出用の水や薬液が既に含有されている場合にはそのまま、含有されていない場合には滴下する等して水や薬液を含有させた後に、図19に示すように、下地層6上に六価クロメート皮膜7が形成された評価対象5の表面に貼り付ける。
【0094】
その後、図20に示すように、貼り付け面と反対面側の密封シール136bも剥離する。例えば、加熱部134を、酸素と反応して発熱する構成とした場合には、この密封シール136bを剥離した時点で反応が開始し、溶出部131内の水や薬液が加熱されるようになる。また、加熱部134を、水と反応して発熱する構成とした場合には、密封シール136bの剥離後、加熱部134に水を滴下する等して反応を開始させ、溶出部131内の水や薬液を加熱する。加熱部134を電圧印加によって発熱させる構成あるいは検知体130外部からの熱供給によって加熱する構成とした場合には、密封シール136bの剥離後、加熱部134への所定の電圧印加あるいは熱供給を行うようにすればよい。
【0095】
このような構成とすることにより、検知体130の可搬性および保存性を向上させることができる。また、このような検知体130を用いることで、六価クロムの検知を迅速かつ高感度で実施することができる。
【0096】
なお、さらにこの検知体130に、図15および図16に示したサーモラベル101や基準色ラベル111を設けるようにしてもよい。
また、この検知体130に用いた密封シール136a,136bは、図1に示した検知体1のほか、上記の第1〜第12の構成例に示したものについても同様に適用することが可能であり、この検知体130について述べたのと同様の使用方法により、同様の作用および効果を得ることが可能である。
【0097】
図21は検知体の第14の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のJ−J断面模式図である。
図21に示す検知体140は、溶出部141と反応部142の積層体、加熱部143およびPVA等の接着層144を有している。そして、溶出部141と反応部142の積層体、加熱部143をそれぞれ被覆するように連続して、PET等の耐熱・透光フィルム145が設けられている。さらに、この耐熱・透光フィルム145は、複数の検知体140に連続して形成されている。そして、このように連なった複数の検知体140の、評価対象への貼り付け面側、およびその反対の面側がそれぞれ、上記図18に示した検知体130と同様に密封シール146a,146bで被覆されている。なお、溶出部141、反応部142および加熱部143はそれぞれ、図1に示した検知体1の溶出部2、反応部4および加熱部3のような構成とすることができる。
【0098】
このような構成とする場合には、検知体140間に切り取り部147(図中鎖線で表示。)、例えばミシン目を形成しておき、個々の検知体140を切り取り、それぞれ六価クロムの検知に使用することができるようにする。なお、切り取り部147は、ミシン目のほか、はさみやカッター等を用いて切断できるスペースを検知体140間に確保しておくだけの構成であってもよい。
【0099】
切り取り部147で検知体140を切り取った後は、上記の図18に示した検知体130について図19および図20に示したのと同様に、貼り付け面側の密封シール146aを剥離して評価対象に貼り付け、その後、もう一方の密封シール146bを剥離し、六価クロムの検知を開始すればよい。
【0100】
このような構成とすることにより、六価クロムの検知の際には、必要な数の検知体140を切り取って使用することができ、複数の検知体140の可搬性および保存性を確保することができる。また、このような検知体140を用いることで、六価クロムの検知を迅速かつ高感度で実施することができる。
【0101】
なお、さらにこの検知体140に、図15および図16に示したサーモラベル101や基準色ラベル111を設けるようにしてもよい。
また、この検知体140のように、複数のものを切り取り可能に連続して形成する構成の原理は、図1に示した検知体1のほか、上記の第1〜第13の構成例に示したものについても同様に適用することが可能であり、同様の作用および効果を得ることが可能である。
【0102】
続いて、六価クロムの検知を実施した具体例について説明する。
まず、第1の実施例について述べる。
ここでは、評価対象のサンプルとして、鉄の素地層上の亜鉛メッキ層に形成された三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜を用いた。鉄の素地層の厚みは約2mm、亜鉛メッキ層の厚みは約7μm、三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜の厚みはいずれも約500nmである。
【0103】
これらの各サンプルを約80℃に加熱し、表面にそれぞれ、直径約10mmの平面円形状のコットンを乗せ、そのコットンに、ジフェニルカルバジド溶液(ジフェニルカルバジド:0.4g,アセトン:20ml,水:20ml)を約0.2cm3滴下した。そして、各サンプルにつき、ジフェニルカルバジド溶液を滴下してから3分後、10分後、30分後の各変色状態を調べた。結果を表1に示す。なお、ここでは検知体としてコットンを用いており、各サンプル自体の色は、変色の有無やその度合いの判別には影響していない。
【0104】
【表1】

【0105】
表1より、ジフェニルカルバジド溶液の滴下前は、いずれのサンプルもコットンの白色であった。三価クロメート皮膜のサンプルについては、ジフェニルカルバジド溶液を滴下してから3分後、10分後、30分後のいずれの段階でも変色は認められず、コットンの白色のままであった。一方、六価クロメート皮膜のサンプルでは、ジフェニルカルバジド溶液を滴下してから3分後にはピンク色への変色が明瞭に認められ、10分後、30分後も同様にピンク色の変色が明瞭に認められた。このように、サンプル温度約80℃でコットンにジフェニルカルバジド溶液を滴下しただけの簡易な方法によっても、六価クロムを感度良く短時間で検知することができた。
【0106】
次に、第2の実施例について述べる。
ここでは、評価対象のサンプルとして、上記の第1の実施例と同じく、鉄の素地層上の亜鉛メッキ層に形成された三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜を用いた。鉄の素地層の厚みは約2mm、亜鉛メッキ層の厚みは約7μm、三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜の厚みはいずれも約500nmである。
【0107】
これらの各サンプルを約60℃および約80℃に加熱し、表面にそれぞれ、直径約10mmの平面円形状のコットンを乗せ、そのコットンに、ジフェニルカルバジド溶液(ジフェニルカルバジド:0.4g,アセトン:20ml,水:20ml)を約0.2cm3滴下した。そして、各サンプルにつき、ジフェニルカルバジド溶液を滴下して3分後の変色状態を調べた。結果を表2に示す。
【0108】
【表2】

【0109】
表2より、三価クロメート皮膜のサンプルについては、その温度を約60℃および約80℃とした場合のいずれにおいても変色は認められず、コットンの白色のままであった。一方、六価クロメート皮膜のサンプルでは、その温度を約60℃および約80℃とした場合のいずれにおいてもピンク色への変色が明瞭に認められた。このように、サンプル温度が約60℃であれば、ジフェニルカルバジド溶液を滴下してから3分後には六価クロムを充分に感度良く検知することができた。
【0110】
以上説明したように、ここでは検知体をシール状に構成し、検知時にはそれを被検知体に貼り付け、加熱を行いながら六価クロムの溶出が行えるようにした。これにより、被検知体を分解したり加工したりすることなく、被検知体に検知体を貼り付け、変色の目視観察等によって六価クロムを短時間で検知することが可能になる。したがって、簡易かつ効率的に六価クロムの有無を判別することができ、さらに、分析・評価の低コスト化を図れるようになる。
【0111】
また、検知体を、三価クロメート層の欠陥の有無の判別に用いることも可能であり、それにより、三価クロメート層の品質管理を容易かつ迅速に、低コストで行うことが可能になる。
【0112】
なお、以上の説明では、クロムの検知を例にして述べたが、鉛、水銀、カドミウム等、その他の元素の検知を行う場合にも、上記と同様の構成を有する検知体を用いて検知を行うことも可能である。すなわち、被検知体に貼り付けられたときに、その表面から所定元素を溶出し、溶出された所定元素の存在を変色等によって人為的あるいは機械的に判別できるようにした検知体を用いることにより、種々の元素を簡易に検知することが可能になる。
【0113】
また、以上の説明では、変色の目視観察によって六価クロムを検知する例、つまり、六価クロムと反応して変色する材料で反応部を構成する例で説明したが、六価クロムと反応したことを識別できる材料であればこれに限るものではない。
【0114】
(付記1) 六価クロムの検知に用いる検知体において、
被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、
前記溶出部を加熱する加熱部と、
前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、
を有することを特徴とする検知体。
【0115】
(付記2) 前記物質は、六価クロムと反応して変色することを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記3) 前記加熱部は、発熱性材料で構成されていることを特徴とする付記1記載の検知体。
【0116】
(付記4) 前記加熱部は、酸素若しくは水と反応して発熱する材料、または電圧印加によって発熱する材料を用いて構成されていることを特徴とする付記3記載の検知体。
(付記5) 前記電圧印加によって発熱する材料は、電熱線またはペルチェ素子であることを特徴とする付記4記載の検知体。
【0117】
(付記6) 前記加熱部は、前記発熱性材料を内包するマイクロカプセルで構成され、前記溶出部内に設けられていることを特徴とする付記3記載の検知体。
(付記7) 前記加熱部は、熱伝導性材料で構成されていることを特徴とする付記1記載の検知体。
【0118】
(付記8) 前記溶出部は、前記被検知体からの六価クロムの溶出に用いられる液を保持することができる多孔質材料または保水性高分子を用いて形成されていることを特徴とする付記1記載の検知体。
【0119】
(付記9) 前記反応部は、前記物質が含有された樹脂によって構成されていることを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記10) 前記反応部は、前記物質を内包するマイクロカプセルで構成され、前記溶出部内に設けられていることを特徴とする付記1記載の検知体。
【0120】
(付記11) 前記溶出部の前記被検知体との接触面を除く表面の一部または全部がフィルムで被覆されていることを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記12) 前記溶出部の温度を検出するための温度検出部を有していることを特徴とする付記1記載の検知体。
【0121】
(付記13) 前記反応部の色を判別に用いられる色判別部を有していることを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記14) 前記溶出部は、前記被検知体との接触前、前記被検知体との接触面が、剥離可能なシールで被覆されていることを特徴とする付記1記載の検知体。
【0122】
(付記15) 前記加熱部は、剥離可能なシールで被覆されていることを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記16) 前記溶出部と前記加熱部とは、フィルムによって隔離されていることを特徴とする付記1記載の検知体。
【0123】
(付記17) 前記被検知体との接触面側に、前記被検知体との接着に用いる接着層を有していることを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記18) 六価クロムの検知方法において、
被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、
前記溶出部を加熱する加熱部と、
前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、
を有する検知体を用い、
前記検知体の前記溶出部を前記被検知体に接触させ、前記被検知体に接触する前記溶出部を前記加熱部によって加熱し、前記反応部での変色の有無によって前記被検知体の六価クロムの有無を判別することを特徴とする検知方法。
【0124】
(付記19) 前記物質は、六価クロムと反応して変色することを特徴とする付記18記載の検知方法。
(付記20) 前記被検知体に接触する前記溶出部を前記加熱部によって加熱する際には、
前記加熱部自体を発熱させて前記溶出部を加熱するか、または外部から供給される熱を前記溶出部に伝熱させて前記溶出部を加熱することを特徴とする付記18記載の検知方法。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】検知体の概略断面図である。
【図2】検知体貼付時の概略断面図である。
【図3】六価クロム溶出時の概略断面図である。
【図4】反応部変色時の概略断面図である。
【図5】検知体の第1の構成例の断面模式図である。
【図6】検知体の第2の構成例の断面模式図である。
【図7】検知体の第3の構成例の断面模式図である。
【図8】検知体の第4の構成例の断面模式図である。
【図9】検知体の第5の構成例の断面模式図である。
【図10】検知体の第6の構成例の断面模式図である。
【図11】検知体の第7の構成例の断面模式図である。
【図12】検知体の第8の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のC−C断面模式図である。
【図13】検知体の変形例の断面模式図である。
【図14】検知体の第9の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は側面模式図である。
【図15】検知体の第10の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のD−D断面模式図である。
【図16】検知体の第11の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のE−E断面模式図である。
【図17】検知体の第12の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のF−F断面模式図である。
【図18】検知体の第13の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のG−G断面模式図である。
【図19】検知体貼り付け方法の第1工程を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のH−H断面模式図である。
【図20】検知体貼り付け方法の第2工程を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のI−I断面模式図である。
【図21】検知体の第14の構成例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のJ−J断面模式図である。
【符号の説明】
【0126】
1,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,110,120,130,140 検知体
2,11,61,81,131,141 溶出部
3,14,83,91,134,143 加熱部
4,12,42,62,82,132,142 反応部
5 評価対象
6 下地層
7 六価クロメート皮膜
13,31,121,133,145 耐熱・透光フィルム
21 溶出・反応部
41 溶出・加熱部
63,71,72 マイクロカプセル
83a,91c,91d 突出部
83b,91e,91f 窪み
84,135,144 接着層
85 電熱線
91a,91b 金属
101 サーモラベル
111 基準色ラベル
136a,136b,146a,146b 密封シール
147 切り取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六価クロムの検知に用いる検知体において、
被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、
前記溶出部を加熱する加熱部と、
前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、
を有することを特徴とする検知体。
【請求項2】
前記物質は、六価クロムと反応して変色することを特徴とする請求項1記載の検知体。
【請求項3】
前記加熱部は、発熱性材料で構成されていることを特徴とする請求項1記載の検知体。
【請求項4】
前記加熱部は、酸素若しくは水と反応して発熱する材料、または電圧印加によって発熱する材料を用いて構成されていることを特徴とする請求項3記載の検知体。
【請求項5】
六価クロムの検知方法において、
被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、
前記溶出部を加熱する加熱部と、
前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、
を有する検知体を用い、
前記検知体の前記溶出部を前記被検知体に接触させ、前記被検知体に接触する前記溶出部を前記加熱部によって加熱し、前記反応部での変色の有無によって前記被検知体の六価クロムの有無を判別することを特徴とする検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2007−298320(P2007−298320A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124968(P2006−124968)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】