説明

極めて軽症なA群色素性乾皮症の原因遺伝子

【課題】極めて軽症なA群色素性乾皮症の原因遺伝子の提供。
【解決手段】第4エクソンが特定な塩基配列からなる、極めて軽症なA群色素性乾皮症の原因遺伝子。遺伝子の所定の位置の塩基を認識するための方法としては、、当該塩基を含む塩基配列のダイレクトシークエンス、当該塩基を含むプローブ又は当該塩基を含む領域を増幅するプライマーを用いる方法、特定な配列に示す変異は、制限酵素HphIまたはそれと同じ配列を認識するイソシゾマーを用いたPCR−RFLP法により検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて軽症なA群色素性乾皮症の原因遺伝子及びその同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum:XP)は常染色体劣性の遺伝病であり、紫外線や活性酸素など様々な要因で生じるDNA損傷を修復する生体システムが遺伝的な原因で正確に作動せず、主として紫外線によるDNA損傷が修復できなくなることにより発症し、皮膚症状を中心に様々な臨床症状を呈する。また代謝により生ずる内因性の活性酸素により神経細胞内でのDNA損傷の残存によると考えられる神経障害も30%の患者で見られる。
【0003】
XPは遺伝的に異なるA〜G群、バリアントの8種類に分類され、すべての原因遺伝子が同定され、多数の変異が報告されている(非特許文献1)。日本では皮膚症状、神経症状共に重症のA群が患者の過半数を占め、その数は10万人に一人で、ヘテロで変異を持つ保因者は300人に一人である。典型例では乳幼児期より激しいサンバーンを繰り返したあと、顔面など露光部皮膚が乾燥し、色素沈着が出現する。その後、若年齢にもかかわらず高頻度に露光部皮膚に悪性腫瘍が多発する。進行性の中枢性・末梢性神経障害を伴い、大脳障害(知能低下、精神発達運動障害)、小脳障害(失調、構語障害)などが見られ、腫瘍や神経症状の進行により多くの場合30歳前後で死に至る。
【0004】
A群の原因遺伝子は、XPA遺伝子と名づけられ、第9番染色体に座位し、6つのエクソンにより構成され、273個のアミノ酸からなる31kDaのタンパク質をコードしている。XPA遺伝子(配列番号1に示した。)についても様々な部位の変異が報告されており(非特許文献2)、変異箇所によって症状の程度は異なる。日本人のXPA群患者のほとんどは以下の3種類の変異
(1)XPA遺伝子のイントロン3、3’側のスプライシング受容部位のG→Cの変異(G→C)、
(2)XPA遺伝子の開始コドンより682番目の塩基CのTへの置換(c682C→T)、
(3)XPA遺伝子の開始コドンより348番目の塩基TのAへの置換(c348T→A)
が原因となっている(非特許文献3及び4)。
【0005】
XPの診断には、患者より細胞を分離し、紫外線照射後のDNA修復能の測定、紫外線感受性試験、遺伝的相補性群の決定、PCR−RFLP(制限酵素多型解析)法による遺伝子検査が行われるのが通常である。日本人XPA群に限っては上述の如く、ほぼ3種類の変異の何れかに分類されることから、PCR−RFLP法により迅速な診断が行われている。例えば上記(2)の変異により前後の配列を含めて、制限酵素HphIの認識部位が生じているため、この酵素による切断の有無を利用している。
【非特許文献1】Hum. Mutat., 14, p9, 1999
【非特許文献2】Hum. Mutat., 12, p103, 1998
【非特許文献3】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87, p9908, 1990
【非特許文献4】Mutat. Res., 273, p193, 1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
極めて軽症なA群色素性乾皮症の原因遺伝子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
最近、本発明者等は皮膚症状が60歳頃になって初めて顕在化し、さらに神経症状が見られない極めて軽症のXPA患者から、その原因と考えられる未報告の以下に示すXPA遺伝子変異
(4)XPA遺伝子の開始コドンより529番目(配列番号1の位置594)の塩基GがAに置換(配列番号2)
を新たに見出した。
【0008】
また、上記の変異を含むエクソンであるXPA遺伝子の第4エクソン部分を配列番号3
(上記(4)の変異を含む。)に示した。
【0009】
この患者においては両側のアリルに上述の(4)の変異が存在する。この変異はスプライシング異常を引き起こし、29塩基が欠損したmRNAが合成される。このmRNAではフレームシフトが生じるため、終止コドンが手前に出現し、推定アミノ酸数は、273個から181個に減少する。この個体では60歳以降になるまでXPAとは診断されていないことから、健常人との境界が非常にあいまいである。
【0010】
一方、健常人においては同年代でも老化の程度は人によって大きく異なる。その違いは長年の生活環境・様式に多大な影響を受けるものの、根本的には個々人の遺伝的バックグランドにも大きく依存し、原因は不明であるが病気との境界があいまいな老化症状も存在する。このような老化程度のバリエーションの遺伝的要因を、本発明者等が見出したXPA遺伝子の新規変異が占めている可能性が考えられる。
【0011】
したがって本発明は、下記:
1.配列番号2の塩基配列からなる、極めて軽症なA群色素性乾皮症の原因遺伝子、
2.配列番号2の位置594の塩基を含む連続する15個以上の塩基からなるヌクレオチド、及び
3.配列番号2の位置594の塩基を認識することによる、極めて軽症なA群色素性乾皮症の原因遺伝子を同定するための方法、
に関する。
【0012】
本発明の遺伝子の所定の位置の塩基を認識するための方法としては、従来公知の塩基認識方法であればあらゆる方法を用いることができる。具体的には、当該塩基を含む塩基配列のダイレクトシークエンス、当該塩基を含むプローブ又は当該塩基を含む領域を増幅するプライマーを用いる方法、インベーダー法、当該塩基を含む配列を認識する制限酵素を用いるRFLP法を挙げることができる。
【0013】
より具体的には、配列番号2に示す変異は、制限酵素HphIまたはそれと同じ配列を認識するイソシゾマーを用いたPCR−RFLP法により検出することができる。
【0014】
PCR−RFLP法は、たとえば、下記の方法によることができる。
被検者の血液、毛髪、口腔粘膜など何らかの組織由来のゲノムDNAを抽出し、変異箇所を挟む任意のプライマーでXPA遺伝子の配列をPCR増幅し、一定の長さのDNA断片を得る。このDNA断片を本発明の特定の位置の塩基を認識することができる酵素により消化する。消化物を電気泳動し、DNA断片をエチジウムブロマイドなどで染色し可視化、DNA断片が切断されているかを調べる。野生型の配列はいずれの酵素でも切断される。しかし、本発明の変異遺伝子が存在する場合には、PCR増幅したDNA断片は切断されない。以上を指標として変異の有無を検出することができる。
【0015】
PCR増幅される断片の長さは選択したプライマーによって規定され、その長さは特に定めないが、好ましくは10塩基対から1000塩基対、電気泳動および観察のしやすさから特に100塩基対から400塩基対が好ましい。またプライマーの配列は変異箇所を含んでいれば制限なく設計することができる。
【0016】
酵素の反応時間・温度に制限はないが、一般的には37℃で3時間から一晩反応させる。反応バッファーも制限はないが、市販品の酵素に添付されるものを用いるのが通常である。電気泳動の方法も特に決まったものはなく、スラブゲル型、サブマリン型、キャピラリーなど核酸が電気的に分離できるものであればいずれの方法を用いてもよい。ゲルの材料についてもアガロースやアクリルアミドなどが一般的であるが、特に制限はない。DNA断片の検出は電気的、紫外線吸収、染色など種々の方法を用いることができる。
【0017】
さらに、本発明は、配列番号2の位置594の塩基からなるヌクレオチドに関する。当該ヌクレオチドの長さは、連続する15個から200個の塩基、より好ましくは、連続する20個から100個の塩基である。当該ヌクレオチドは、プローブ又は当該塩基を含む領域を増幅するためのプライマーとして有用である。
【実施例1】
【0018】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明において検討した患者はXP相補性群を決定するテストでA群と確定診断されたものの、その皮膚症状が60歳頃になって初めて顕在化し、さらに神経症状が見られないという極めて軽度な病態を示し、紫外線照射後のDNA修復能の測定テストにおいても健常人と重症患者の中間値を示した。
【0019】
XPA遺伝子の変異箇所を同定するため、分子遺伝子学的解析を行ったところ、患者細胞ゲノムDNAのPCR−RFLP解析では、日本人XPA患者に高頻度に見られる上述の(1)〜(3)の変異が検出されなかった。次にPCRダイレクトシークエンス法によりXPA遺伝子のすべてのエクソン(1〜6)を配列解析したところ、両側のアリルの第4エクソン内に上述(4)の変異を認めた。この変異はスプライシング異常を引き起こし、第4エクソン内C末端側の変異塩基を含む29塩基が欠損したmRNAが合成される。このmRNAではフレームシフトが生じ、終止コドンが上流に移行していた。
【実施例2】
【0020】
・被験者
XPA遺伝子に上述の(4)の変異を持つ極めて軽症のXPA群患者および健常人(全て浜松医科大学の倫理委員会に承認された書面でのインフォームドコンセントを得た)。
・細胞
上記の被検者の皮膚生検査時に得た線維芽細胞のプライマリーカルチャーを用いた。
・DNA抽出
コンフルエントまで培養した線維芽細胞からQIAamp DNA Mini Kit(QIAGEN社)を用いてゲノムDNAを抽出した。
・プライマー
プライマーは以下の配列のものを用いた。
上述の(4)の変異箇所を挟むもの
上流プライマー TTGCTGGGCTATTTGCAAAC(エクソン4上流71番目の塩基から52番目の塩基まで:配列番号4)
下流プライマー GCCAAACCAATTATGACTAG(エクソン4下流56番目の塩基から75番目の塩基まで:配列番号5)
・PCR
各被験者のゲノムDNAおよび上記プライマーを用いXPA遺伝子領域をPCR増幅した(TAKARA社 LA Taq kit)。
・酵素反応
PCR反応液から一部をとりHphI用反応バッファーで希釈し、HphI(NEB社)を加え、37℃で3時間消化した。
・電気泳動
簡易型泳動装置ミューピッド(アドバンス社)にて3%のアガロースゲルを用いて100Vの電圧で1時間電気泳動し、酵素消化したDNAを分離した。
・DNAの検出
電気泳動後のゲルを0.1μg/mLのエチジウムブロマイド溶液で染色し、UVをあてDNAの断片を観察した。
電気泳動結果を図1に示す。上述の(4)の変異を持つ患者由来のDNAでは、健常人由来のDNAに見られる切断が起こらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、極めて軽症なA群色素性乾皮症の診断、治療のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】上述の(4)の変異箇所を含む患者についてのPCR−RFLP結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2の塩基配列からなる、極めて軽症なA群色素性乾皮症の原因遺伝子。
【請求項2】
配列番号2の位置594の塩基を含む連続する15個以上の塩基からなるヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号2の位置594の塩基を認識することによる、極めて軽症なA群色素性乾皮症の原因遺伝子を同定するための方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−220214(P2008−220214A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60470(P2007−60470)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】