説明

極低温に冷却される機器の閉ループ予冷方法及び装置

【課題】予冷に必要とされる極低温冷却剤(ヘリウム量)を軽減し、また極低温容器への窒素の導入に関連するリスクを取り除き、さらに予冷手続きを簡単化した極低温に冷却される機器の予冷方法及び装置を提供する。
【解決手段】熱伝達用流体の閉ループ冷却回路(30)と、サーキュレータ(32)と、熱伝達用流体から熱を抽出する熱抽出装置(34)とを備え、閉ループ冷却回路が熱伝達用流体を、極低温容器(26)の内部空間に流入・流出するようにし、熱抽出装置は、アクティブ極低温冷凍機とパッシブ極低温冷凍機とを備え、前記極低温に冷却される装置が第1の温度に冷えるまでパッシブ冷却が適用され、さらに、前記アクティブ極低温冷凍機に切り替えることにより、パッシブ極低温冷凍機のみで得られる温度よりも低い所望の温度まで冷却し続けるようにしたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温に冷却される機器を予冷する方法および装置に関する。特に、本発明は、閉ループ冷凍システムを用いた予冷に関する。本発明は、MRI(磁気共鳴イメージング)システム用の超電導マグネットの予冷に特に適用されるが、もちろん、他の極低温に冷却される機器にも適用できる。
【背景技術】
【0002】
代表的な現行構成では、極低温に冷却される装置は、極低温容器内に収容されている。
この極低温容器は、外部真空容器内に収められ、また、外部真空容器と極低温容器との間の空間が真空にされて、効果的な断熱(熱絶縁)をもたらす。この装置の予冷は、液体極低温冷却剤を極低温容器に単に追加することにより行われて、液体極低温冷却剤を蒸発させる。このような方法は効果的ではあるが、いくつかの欠点を持っている。
【0003】
液体ヘリウムなどの作動極低温冷却剤が、このような予冷段階に使用される場合には、蒸発して、外気中に逃されるヘリウムの量の損失が大きく、また、いくつかの領域では、充分な補給を得ることが困難である。さらに、液体ヘリウムは再生不可能な資源であるから、その消耗は、可能であれば、最小限に抑えられるべきである。
【0004】
いくつかの方法では、液体窒素などの予備的な捨て冷却剤としての犠牲極低温冷却剤は、初めに、この装置を、第1の温度(一般に、作動極低温冷却剤の温度よりも高い)まで冷却するのに使用される。この機器が、その犠牲極低温冷却剤により、第1の温度まで冷却されると、装置を所要の温度まで冷却するために、多くの作動極低温冷却剤を追加する。この方法の利点として、この犠牲極低温冷却剤として、液体窒素などの豊富な安価な犠牲極低温冷却剤を使用できるという事実と、作動極低温冷却剤の消耗が、作動極低温冷却剤が単独で使用される代替方法の消耗よりも著しく減らされるという事実がある。しかしながら、この方法の問題点として、作動極低温冷却剤が、残った量の犠牲極低温冷却剤で汚損される可能性がある。液体ヘリウムを追加するときに、極低温冷却剤タンク内に、かなりの量の液体窒素が残っている場合には、窒素自体を冷却して、液体ヘリウムの温度まで下げるために、著しい量の液体ヘリウムが必要とされ、それにより、ヘリウムの消耗が減らされるという利点の一部が相殺される。
【0005】
従来技術により、極低温に冷却される装置を冷却する方法の全流れ図が図1に示されている。
【0006】
以下の説明は、MRIイメージング(撮像)装置用の超電導マグネットを特に参照して行われることになるが、本発明は、極低温容器内の任意の極低温に冷却される装置の予冷に好適に適用できる。
【0007】
第1のステップ10において、この極低温容器を真空にし、次に、大気圧および周囲温度にて、この極低温容器をヘリウムガスで満たす。これにより、この極低温容器に対して、漏れの有無をテストすることができる。断熱のために、一般に極低温容器の周りに設けられた、この極低温容器と外部真空容器との間の真空に、ヘリウムガスの漏れ込みがあれば、それは容易に検出することができる。
【0008】
第2の段階12では、極低温容器からヘリウムガスが追い出され、液体窒素を追加して、予冷を開始させる。液体窒素は、極低温容器内のマグネット構造物を冷却するときに、外気中に蒸発する。液体窒素は、比較的に大きい熱容量を持ち、したがって、効率的な冷媒である。液体窒素はまた、安価であって、したがって、第1の極低温まで急速で、かつ安価な冷却を提供する。
【0009】
段階14に示されるように、極低温容器内に液体窒素が所定量残るまで、液体窒素を追加し続ける。
【0010】
ステップ16において、マグネットを、或る時間の間、液体窒素中に浸漬させ、そのマグネット構造物を、窒素の沸点に等しい安定した温度に到達させる。これが完了すると、この極低温容器から、液体窒素を排出する。これは、周囲温度でのヘリウムガスが極低温容器に導入される際に発生する周知のサイホン効果によってなし得る。この極低温容器内のガス圧力を使用して、液体極低温冷却剤を押し出すことができる。極低温容器から、液体窒素をすべて、またはできるだけ多く除去するように、注意しなければならない。次に、極低温容器をポンプで空にして真空にし、できるだけ多くの窒素を除去する。
【0011】
次のステップ18において、液体ヘリウム、あるいは必要に応じて他の作動極低温冷却剤を、極低温容器に導入する。この作動極低温冷却剤は蒸発して、所要の動作温度までマグネットを冷却する。極低温容器内に所要量の作動極低温冷却剤が残るまで、作動極低温冷却剤を追加する。
【0012】
最後に、ステップ20において、このマグネット構造物が、所要温度となり、かつ、所要量の作動極低温冷却剤を含むこととなる。
【0013】
この方法は、効果的ではあるが、なお多量の犠牲極低温冷却剤と作動極低温冷却剤を消耗する。液体窒素の犠牲極低温冷却剤でマグネットを70Kまで冷却する公知の或るシステムでは、このマグネット構造物を70Kから4Kまで冷却する際に、1200リットルの液体ヘリウムが消耗される。この液体窒素が完全には除去されない場合には、残りの液体窒素を、液体ヘリウム温度まで凍結し、冷却しなければならないから、必要とされるヘリウムの量が著しく増える。この極低温容器内に、いくらか極低温冷却剤が残っている場合には、その極低温冷却剤が、超電導マグネットコイルの周りに氷を形成するように働き、さらに、その氷が、これらの超電導マグネットコイルに、動作中にクエンチを引き起こすかもしれないという点で、その極低温冷却剤は、「有害物質」として働くことがある。
従来技術の予冷構成は、例えば、下記特許文献1〜4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1586833号明細書
【特許文献2】米国特許第5187938号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/016187号明細書
【特許文献4】英国特許第1324402号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明は、従来技術の欠点の少なくとも一部を軽減することを目的としている。例えば、必要とされるヘリウムの量を軽減する、また、極低温容器への窒素の導入に関連するリスクを取り除くことである。本発明はまた、予冷手法を簡単にすることも目的としている。極低温容器内に、一種類の極低温冷却剤だけを使用することにより、繰り返して真空にする必要性が回避される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、前記課題は、特許請求の範囲に記載される方法と装置を提供することによって解決される。即ち、極低温容器内に収容されている極低温に冷却される装置を予冷する装置であって、熱伝達用流体を有する第1の閉ループ冷却回路と、前記熱伝達用流体を前記閉ループ冷却回路中を循環させるサーキュレータと、前記熱伝達用流体から熱を抽出するように構成された熱抽出装置とを備え、前記閉ループ冷却回路は、熱伝達用流体を、前記極低温容器の内部空間に流入させ、かつ内部空間から流出させるようにし、前記熱抽出装置は、アクティブ極低温冷凍機(44)と、パッシブ極低温冷凍機(46)とを備え、前記極低温に冷却される装置(20)が第1の温度に冷えるまでパッシブ冷却が前記熱伝達用流体に適用され、さらに、前記熱伝達用流体の流れを、前記アクティブ極低温冷凍機に切り替えることにより、さらに冷却して、前記パッシブ極低温冷凍機のみで得られる温度よりも低い所望の温度まで冷却し続けるようにしたことを特徴とする(請求項1)。
また、極低温容器内の極低温に冷却される装置を予冷する方法であって、サーキュレータの動作により、第1の閉ループ冷却回路に、熱伝達用流体を通流させて、前記熱伝達用流体を前記第1の閉ループ冷却回路中を循環させるステップと、前記第1の閉ループ冷却回路と熱接触している熱抽出装置の使用によって、前記熱伝達用流体から熱を抽出するステップと、前記熱伝達用流体が、前記極低温容器の内部空間に流入し、かつ前記内部空間から流出するステップとを含み、さらに、当初、前記極低温に冷却される機器が、予備的な捨て冷却剤としての犠牲極低温冷却剤の温度よりも低くない第1の温度に冷えるまで、貯留極低温冷却剤を用いるパッシブ冷却により、熱抽出を行い、次に、アクティブ冷凍機を用いて、さらなる熱抽出を行って、所望の予冷温度まで冷却し続けるステップを含むことを特徴とする(請求項8)。
【0017】
従来技術の予冷構成は、例えば、前記特許文献1〜4に記載されている。特許文献3と特許文献2の双方に開示されている構成では、閉ループの冷却回路が使用され、そこでは、循環熱伝達用材料は、窒素などの液体極低温冷却剤のタンクにより冷却されるが、ただし、サーキュレータ(循環機)を通る前に室温まで温められる。このように暖めると、この熱伝達用材料に残っているどんな冷却力もむだになり、それにより、このシステムが著しく非能率となる。特許文献2では、外部の異物(汚染物質)が漏れ込むのを防ぐために、大気圧をわずかに超える圧力が、この熱伝達用材料に加えられる。
【0018】
本発明は、熱伝達用材料がサーキュレータを通る前に、この熱伝達用材料を室温まで温めることを必要としない冷却装置を提供する。これにより、その提案されたシステムの効率が著しく高まる。好ましい実施形態では、本発明はまた、熱移送の効率を高めるために、大気圧よりも著しく高い圧力が加えられた加圧熱伝達用材料を使用する。本発明の特に好ましい実施形態では、前記サーキュレータは、冷却された熱伝達用材料に対して、その熱抽出装置から、冷却されるべき装置に進む途中で作用する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】装置を液体ヘリウムの温度まで冷却する従来の予冷方法を示す流れ図。
【図2】本発明の第1の実施形態の概略図。
【図3】本発明の第2の実施形態の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の上述および他の目的、特徴、利点は、添付図面とともに、例示としてのみ与えられるいくつかの実施形態の下記説明により、さらに明らかにされる。
【0021】
本発明により、この冷却される装置との接触による液化極低温冷却剤の沸騰に基づく現行の開ループ冷却法が、閉ループ予冷構成に代えられる。適宜冷却されるマグネット、または他の装置と、寒冷源との間で、冷媒を循環させる。この寒冷源は、アクティブ冷凍機であるか、あるいは、液体極低温冷却剤の沸騰タンク、液体極低温冷却剤の冷却タンク、または固体極低温冷却剤の凍結塊体とすることができる。
【0022】
図2は、本発明の第1の実施形態の概略図を示している。図2では、巻型24上に巻き付けられた超電導線のコイル22を含む超電導マグネット構造物20が、極低温容器26内に収容され、さらに極低温容器26自体も、外部真空容器28内に収められているのが示されている。このような構成は、まったく従来のものであって、用途で必要とされるときに、極低温に冷却される他の任意の装置の代わりに使用されることがある。
【0023】
本発明によれば、閉ループ冷却回路30が用いられる。この冷却ループは、熱伝達用流体を含む閉回路、この閉回路中を、熱伝達用流体を循環させる圧縮機またはファンなどのサーキュレータ32、および、前記熱伝達用流体から熱を抽出する熱抽出装置34を含む。図示された実施形態では、回路は、気体ヘリウムを、極低温容器26に、また極低温容器26から運ぶ。気体ヘリウムが極低温容器26内にあるときに、気体ヘリウムは、マグネット構造物から熱を吸収して、暖まる。サーキュレータ32として働く圧縮機は、気体ヘリウムを、或る圧力、一般に絶対圧力で100〜300kPaの範囲内の圧力まで圧縮する。極低温容器26の能力を超える圧力を気体ヘリウムに加えないように、注意しなければならない。この圧縮機により、ヘリウムガスは、この回路中を通流し、ヘリウムガスの密度を大きくし、それにより、その熱伝達の能力を向上させる。この圧縮ガスは、圧縮機から、密閉管36を通って、極低温容器26内に流れこむ。このヘリウムは、マグネットから熱を吸収して、別の管を通って熱抽出装置34に引き寄せられる。熱抽出装置34は、メカニカル冷凍機などのアクティブ極低温冷凍機を含むことができる。メカニカル冷凍機の一例として、スターリング・サイクルにより動作するものがある。また、熱抽出装置34は、液体極低温冷却剤のタンク、あるいは、熱伝達用流体を運ぶ管36と熱接触している凝固した凍結極低温冷却剤の塊のように、パッシブ(受動)冷凍機を含むことができる。
【0024】
特定の実施形態では、液体極低温冷却剤のタンク、または固体極低温冷却剤の塊を使用するパッシブ冷却構成は、前記マグネットが、この液体極低温冷却剤または固体極低温冷却剤の温度よりも低くない第1の温度に冷却されるまで使用されることができる。その場合、熱伝達用流体の流れは、この液体極低温冷却剤または固体極低温冷却剤からアクティブ冷凍機に切り替えられて、パッシブ冷却構成だけから得られるであろう温度よりも低い所望の予冷温度まで冷やし続ける。
【0025】
このマグネット構造物がクールダウンすると、或る圧力でヘリウム熱伝達用流体の密度が大きくなって、その熱伝達効率を高める。熱抽出装置34が充分強力であって、かつ、寄生熱流入が最小限に抑えられる場合には、このマグネットは、最終的に、ほぼその動作温度まで冷却されることになる。一方、前記装置が、たいして強力でなく、また効率的でもない場合には、前記マグネットの温度は、安定することになる。管36および圧縮機32の中のガスは、液化することさえある。この時点で、極低温容器は、作動極低温冷却剤で満たされることがある。この作動極低温冷却剤は、好ましくは、予冷冷却に使用されるから、犠牲極低温冷却剤の残りで極低温容器が汚損される恐れはない。周囲温度からの冷却のためではなくて、或る極低温からその動作温度まで冷却するためにだけ、極低温冷却剤の沸騰が使用されるから、このプロセスにおいて消耗される作動極低温冷却剤は比較的少ない。
【0026】
冷却は、アクティブ冷凍機により消耗される電気エネルギーから、あるいは、液体極低温冷却剤の沸騰により、あるいは、凍結極低温冷却剤の融解、もしくは任意の冷却極低温冷却剤の加熱または相転移により、達成される。
【0027】
電動アクティブ冷却式冷凍機を使用する実施形態は、最もポータブルである。
【0028】
上記においては、ヘリウムに関して述べたが、もちろん、他の極低温冷却剤を、冷却される装置の材料に対して、適宜、使用することができる。
【0029】
図2を参照して述べられる実施形態では、公知のMRIシステムのマグネットを、74時間かけて、周囲温度から4Kの温度まで冷却できるように、1時間当たり約4Kの割合で、マグネットを冷却することが可能でなければならない。このマグネットから熱を取り去るときに、この熱伝達システムの効率は、この熱伝達用流体の質量流量によって制限される。この質量流量を増すために、2つの方法がある。まず、ガス圧力を高めることによって、流体の密度を大きくする方法。あるいは、流体の体積流量を大きくする方法である。上記実施形態では、極低温容器の内部に、この熱伝達用流体の圧力が加えられる。一般に、この極低温容器は、約300kPaの絶対圧力にしか耐えることができない。これは、熱伝達用流体に加えられる圧力を制限する。それゆえ、このクライオスタットを通じて、質量流量を増すことで、冷却効率を大きくする必要がある場合には、体積流量(すなわち、管36を流れる熱伝達用流体の速度)を増す方法で、行わなければならない。この質量流量は、圧縮機32により決定される。所要の体積流量を与えるのに役立つように、ファンも備えることがある。いくつかの実施形態では、圧縮機の代わりに、ファンを備えることもある。この熱伝達用流体は、さらに低い圧力にて循環するが、ただし、その熱容量は、この熱伝達用流体が冷えると大きくなり、それにより、効率的な冷却構成がもたらされる。
【0030】
図3は、本発明の他の実施形態を図式的に示している。この発明では、二段式閉ループ冷却回路が提供される。第1の閉ループ冷却回路50は、図2を参照して述べられるものと同様なやり方で、マグネット20を冷却するように働く。ただし、熱抽出装置は熱交換器42内にある。第1の閉ループ冷却回路50中で、第1の熱伝達用流体の一定の体積流量を保証するために、サーキュレータ52が備えられている。第1の熱伝達用流体は、極低温容器26に流入し、極低温容器26から流出し、したがって、極低温容器26内で使用される作動極低温冷却剤と同じものであるように選択されるべきである。現在、これは、もっとも一般的にはヘリウムである。本発明のこの実施形態により、第2の閉ループ冷却回路40は、熱交換器42と熱抽出装置44との間の管を通じて第2の熱伝達用流体を循環させることで、熱交換器42を冷却する。熱抽出装置44は、電動式極低温冷凍機、例えばスターリング・サイクルにより動作するものなどのアクティブ冷凍機、あるいは、液体極低温冷却剤のタンク、または凍結極低温冷却剤の塊などのパッシブ熱抽出手段を含むことがある。図示される特定の実施形態では、メカニカル冷凍機(44)と並列に極低温冷却剤のタンク46が備えられている。この構成(機構)の動作は、以下でさらに詳しく説明される。第2の熱伝達用流体は、第1の閉ループ冷却回路50の熱伝達用流体と同じものである必要はない。さらに具体的に言えば、第2の熱伝達用流体は、極低温容器26内で使用される作動極低温冷却剤と同じものである必要はない。
【0031】
図3の実施形態の具体的な利点は、第2の閉ループ冷却回路40中に使用される第2の熱伝達用流体の圧力が、極低温容器26の圧力保持能力では制限されないことである。運転の際は、第2の閉ループ冷却回路40を、まず最初に動作させて、マグネット自体を利用する前に、熱交換器42を冷却することができる。いくつかの好ましい構成では、熱交換器42を、約20Kの温度まで冷却した後で、第1の冷却ループ50の動作を開始することが有利であると考えられる。このような第2のループ40の動作は、極低温容器26の圧力限界により拘束されないから、その最適な圧力および効率にて、アクティブ冷凍機(44)を動作させることができる。このような方法では、第1の冷却ループ50が動作を開始して、マグネットを冷却するときには、直ちに、熱交換器42を用いて、第1の熱伝達用流体を冷却する。これは、マグネットに流れる熱伝達用流体の初期密度を大きくし、その熱伝達用流体の質量流量を増し、さらに、マグネット20と熱交換器42との温度差も大きくすることになる。これらの効果はそれぞれ、マグネット20を冷却する初期効率を高め、それにより、マグネット20の効果的な冷却を、さらに短い時間で達成できるようにすることができる。熱交換器42は、有意な熱質量を持つように設計されるべきである。これにより、マグネット20の冷却が始まると、熱交換器42は、ゆっくりと暖まるようにし、マグネット冷却速度は、比較的速く、かつほぼ一定にすることができる。
【0032】
この実施形態では、図2の実施形態と同様に、熱抽出は、アクティブ・メカニカル冷凍機44を用いて行われる。別法として、第2の閉ループ冷却回路は、低温熱質量と熱接触した状態で通るように構成されることができる。例えば、第2の閉ループ冷却回路の管を、液体窒素の浴槽と接触した状態で設置して、約70Kまで冷却することができる。他の実施形態では、第2の閉ループ冷却回路の管を、凍結窒素の塊と接触した状態で設置して、70Kよりも著しく低い温度まで冷却することができる。このような実施形態のさらに進歩したものでは、熱伝達用流体を運ぶステンレス鋼の管を、アルミニウムの塊体に埋め込み、また、その構造物全体を、犠牲極低温冷却剤の浴槽または塊体に浸漬することができる。マグネットを効率的に冷却するために、冷却は、第2の熱伝達用流体を、液体極低温冷却剤のタンク46、または固体極低温冷却剤の塊体などのパッシブ冷凍手段を通じて、第2の閉ループ冷却回路40中を循環させることからスタートすることができる。熱交換器42が、液体極低温冷却剤または固体極低温冷却剤の温度まで冷却されると、この熱伝達用流体の流れを、アクティブ・メカニカル冷凍機44への流れに切り替えて、液体極低温冷却剤のタンク46、または固体極低温冷却剤の塊体の温度よりも低い温度に熱交換器42をさらに冷却させることができる。万一、熱交換器42の温度が、例えばマグネット20から除去された熱の流入により、再び、液体極低温冷却剤のタンク46、または固体極低温冷却剤の塊体の温度よりも高く上昇すれば、ここでもやはり、第2の熱伝達用流体を、液体極低温冷却剤のタンク46、または固体極低温冷却剤の塊体に流して、熱交換器42を再び冷却させることもできる。
【0033】
もちろん、熱交換器42、冷凍機(44)、液体極低温冷却剤のタンク46、および、これらの構成要素を連結する管は、効果的に断熱されて、周囲からの熱流入を防止しなければならない。同様な配慮が、図2に示されるような実施形態にも施されている。
【0034】
本発明は、限られた数の特定の実施形態を参照して説明されてきたが、当業者であれば、特許請求の範囲で定められる本発明の範囲内で、様々な変更や修正を実行できることが理解されよう。
【0035】
例えば、スターリング・サイクルにより動作する電動式冷凍機は、本発明に関連して、非常に効率的で、かつ強力であることがわかっている。(このような冷凍機は、特にコンパクトであり、強力であって、かつ運搬可能であることがわかっている)。しかしながら、他のタイプの極低温冷凍機が知られており、これらも、本発明において使用できる。本発明は、作動極低温冷却剤として、特にヘリウムを参照して述べてきた。これは、従来の低温超電導マグネットに適しているが、極低温に冷却される装置の性質に応じて、本発明の範囲内で、他の作動極低温冷却剤を使用することができる。例えば、いわゆる高温超電導体が知られており、これらの高温超電導体は、液体窒素により、超電導状態に冷却されることがある。
【0036】
図3を参照して説明される熱交換器はまた、熱的電池と見なすことができる。すなわち、「寒冷」は、適切に冷却された極低温冷却剤材料を供給するか、あるいは、第2の閉ループ冷却回路の動作により、熱交換器に蓄積される。この蓄積された「寒冷」は、後に、冷却される機器に「供給される」。この熱交換器は、適切な任意の材料で構成されることができる。この選択された材料は、所要の動作温度にて、高い熱拡散性と熱容量を持つべきである。所期の動作温度に応じて、この熱交換器に適した材料を選択する必要がある。
20Kの温度での動作では、凍結窒素が適していることがわかっている。80Kの温度での動作では、水氷が効果的であることがわかっている。以上の材料は両方とも、豊富で、安価で、しかも公害を起こさないものである。
【0037】
本発明のいくつかの観点で、いくつかの具体的な利点をもたらす。熱交換器、または補助冷却源として極低温冷却剤の凍結塊体を利用することにより、用いられた極低温冷却剤の沸点よりも低い温度まで冷却が達成される。例えば、この冷却用極低温冷却剤として、窒素が経済的に使用される。さらに冷却することなく、液体窒素は、その安定した温度での沸騰により、約70Kまで冷えることになる。当初、この極低温冷却剤を冷却することで、20Kのような温度まで冷却が行われることができ、さらに、そのような冷却が、マグネットまたは他の機器を、その動作温度まで冷却するのに必要な作動極低温冷却剤の量を大幅に減らす。例えば、作動極低温冷却剤の一例としてヘリウムを使用する場合には、沸騰窒素を使用して熱伝達用流体を冷却するのに、液体ヘリウムを消耗させて、約80Kから約4Kまで冷却する必要があるが、マグネットまたは他の機器を20Kまで冷却することができる場合には、液体ヘリウムの量は、20Kから4Kまで冷却するのに必要な量でよく、その量は大幅に低減できる。
【0038】
第2の冷却ループは、極低温容器の内部には露出されないから、第2の熱伝達用流体の圧力は、この極低温容器が耐えることのできる最大圧力には拘束されない。例えば、代表的な極低温容器は、300kPa絶対圧力の最大圧力能力を持つ。第2の閉ループ冷却回路には、第1の閉ループ冷却回路の熱伝達用流体の圧力を著しく超える圧力が加えられた気体極低温冷却剤が閉じ込められることができる。このように圧力が上昇すると、この熱伝達用流体の密度を大きくすることで、この熱伝達用流体の熱伝達能力)が著しく増す。
よって、第2の冷却ループの熱伝達能力は、第1の閉ループ冷却回路の熱伝達能力よりも向上し、それにより、熱交換器42の冷却速度、したがって、マグネットまたは他の機器の冷却速度も速くすることができる。
【符号の説明】
【0039】
20:極低温に冷却される装置、26:極低温容器、28:真空容器、30:閉ループ冷却回路、32,52:サーキョレータ、34,44:熱抽出装置、40:第2の閉ループ冷却回路、42:熱交換器、46:極低温冷却剤のタンク、50:第1の閉ループ冷却回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温容器(26)内に収容されている極低温に冷却される装置(20)を予冷する装置であって、熱伝達用流体を有する第1の閉ループ冷却回路(30)と、前記熱伝達用流体を前記閉ループ冷却回路中を循環させるサーキュレータ(32)と、前記熱伝達用流体から熱を抽出するように構成された熱抽出装置(34)とを備え、前記閉ループ冷却回路は、熱伝達用流体を、前記極低温容器(26)の内部空間に流入させ、かつ内部空間から流出させるようにし、前記熱抽出装置は、アクティブ極低温冷凍機(44)と、パッシブ極低温冷凍機(46)とを備え、前記極低温に冷却される装置(20)が第1の温度に冷えるまでパッシブ冷却が前記熱伝達用流体に適用され、さらに、前記熱伝達用流体の流れを、前記アクティブ極低温冷凍機に切り替えることにより、さらに冷却して、前記パッシブ極低温冷凍機のみで得られる温度よりも低い所望の温度まで冷却し続けるようにしたことを特徴とする装置。
【請求項2】
サーキュレータ(32)が、気体熱伝達用流体を、絶対圧力で100〜300kPaの範囲内の圧力まで圧縮するように働く圧縮機を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記熱抽出装置におけるアクティブ極低温冷凍機は、外部メカニカル・アクティブ極低温冷凍機であることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記熱抽出装置におけるパッシブ極低温冷凍機は、前記閉ループ冷却回路と熱接触している貯留極低温冷却剤を含むパッシブ極低温冷凍機であることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
前記貯留極低温冷却剤が、多くの固体極低温冷却剤を含むことを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記貯留極低温冷却剤が、70Kよりも低い温度まで冷却させ得るものであることを特徴とする請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
前記サーキュレータがファンを含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の装置。
【請求項8】
極低温容器内の極低温に冷却される装置を予冷する方法であって、サーキュレータ(32)の動作により、第1の閉ループ冷却回路(30)に、熱伝達用流体を通流させて、前記熱伝達用流体を前記第1の閉ループ冷却回路中を循環させるステップと、前記第1の閉ループ冷却回路と熱接触している熱抽出装置の使用によって、前記熱伝達用流体から熱を抽出するステップと、前記熱伝達用流体が、前記極低温容器(26)の内部空間に流入し、かつ前記内部空間から流出するステップとを含み、さらに、当初、前記極低温に冷却される機器が、予備的な捨て冷却剤としての犠牲極低温冷却剤の温度よりも低くない第1の温度に冷えるまで、貯留極低温冷却剤を用いるパッシブ冷却により、熱抽出を行い、次に、アクティブ冷凍機を用いて、さらなる熱抽出を行って、所望の予冷温度まで冷却し続けるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記サーキュレータが、気体熱伝達用流体を、絶対圧力で100〜300kPaの範囲内の或る圧力まで圧縮する圧縮機を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
熱抽出装置が、外部メカニカル・アクティブ極低温冷凍機を含むことを特徴とする請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
熱抽出装置が、前記第1の閉ループ冷却回路と熱接触している貯留極低温冷却剤であるパッシブ極低温冷凍機を含むことを特徴とする請求項8または9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−184918(P2012−184918A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−112570(P2012−112570)
【出願日】平成24年5月16日(2012.5.16)
【分割の表示】特願2006−345799(P2006−345799)の分割
【原出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(509272285)シーメンス ピーエルシー (9)
【Fターム(参考)】