説明

極材スラリーの製造方法

【課題】全固体二次電池の出力密度、エネルギー密度及びサイクル特性を向上させる電極の製造に用いる極材スラリーの製造方法を提供する。
【解決手段】無機固体電解質、活物質及び分散媒を混合して混合液を作製し、円筒形の撹拌槽1と、前記撹拌槽内に、前記撹拌槽の内面から0.5〜5mmの間隔Sを開けて設けられた、複数の孔12aが形成された円筒部12を有する回転羽根11とを備える撹拌機の撹拌槽内に、前記混合液を入れ、−20〜100℃の温度下で、前記回転羽根を15〜60m/秒の周速で回転させ、前記撹拌槽内において前記混合液を5〜600秒間滞留させ、前記撹拌槽の内面に押しつけて薄膜円筒状に拡げながら撹拌してスラリーLを得る、極材スラリーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池等の電極の製造に用いることのできる極材スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、携帯電話、ポータブルパソコン等の携帯機器の普及に伴い、二次電池の需要が高まっている。特に、負極活物質として炭素質材料(カーボン系材料)を使用し、正極活物質としてLiMO(M=Ni,Co等)を使用し、電解液として有機溶媒を使用した非水系リチウムイオン二次電池が開発され注目されている。
【0003】
非水系二次電池の電極は、金属芯体の上に、活物質、導電剤、結着剤、溶剤等が混合されたスラリーを塗布し、極材層を形成することにより製造することができる。このとき、極材層中における成分の分散が不十分であると、サイクル特性に優れた二次電池にすることができない等の問題を生じる。
【0004】
特許文献1は、回転バランスの良い回転羽根により、優れた撹拌作用を有する高速撹拌機を開示している。しかし、特許文献1には、二次電池の性能を高めるような正極・負極用スラリーの製造方法は記載されていない。
【0005】
特許文献2は、繊維状炭素からなる導電剤、活物質、結着剤及び溶剤を混合してスラリーを調製し、特許文献1の撹拌機を用いて撹拌処理を施し、スラリーを金属芯体に塗布して合剤層を形成する非水電解液二次電池用電極の製造方法を開示している。
しかし、特許文献2の発明は、非水電解液を対象とした二次電池であり、固体電解質を用いたものではない。導電助剤は繊維状炭素に限定されている。特許文献2の方法で、正極・負極用スラリーを作成し全固体Li二次電池を製造しても全固体Li二次電池の性能は高くならない。
【0006】
【特許文献1】特開平11−347388号公報
【特許文献2】特開2006−236658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、全固体二次電池の出力密度及びエネルギー密度を向上させ、それに伴いサイクル特性を向上させる電極の製造に用いることのできる極材スラリーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の極材スラリーの製造方法が提供される。
1.無機固体電解質、活物質及び分散媒を混合して混合液を作製し、
円筒形の撹拌槽と、前記撹拌槽内に、前記撹拌槽の内面から0.5〜5mmの間隔を開けて設けられた、複数の孔が形成された円筒部を有する回転羽根とを備える撹拌機の撹拌槽内に、前記混合液を入れ、
−20〜100℃の温度下で、前記回転羽根を15〜60m/秒の周速で回転させ、前記撹拌槽内において前記混合液を5〜600秒間滞留させ、前記撹拌槽の内面に押しつけて薄膜円筒状に拡げながら撹拌してスラリーを得る、
極材スラリーの製造方法。
2.前記無機固体電解質が硫化物系固体電解質であり、
前記活物質が負極活物質である1に記載の極材スラリーの製造方法。
3.前記混合液がさらに導電助剤を含む1又は2に記載の極材スラリーの製造方法。
4.前記混合液における、前記導電助剤の量が、前記活物質の0.1〜6重量%である3に記載の極材スラリーの製造方法。
5.前記導電助剤が、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、フラーレンからなる群から選ばれる少なくとも1つであって、平均粒径が0.0001〜10μmである3又は4に記載の極材スラリーの製造方法。
6.前記混合液における、前記導電助剤及び前記活物質と、前記無機固体電解質の含有量が、重量比で、3:7〜9:1である3〜5のいずれか一項に記載の極材スラリーの製造方法。
7.前記スラリーの固形分濃度が25〜80重量%である1〜6のいずれか一項に記載の極材スラリーの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規な極材スラリーの製造方法が提供できる。本発明の方法で得られた極材から製造した電極を用いた全固体二次電池は、出力密度及びエネルギー密度が高く、サイクル特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の極材スラリーの製造方法は、固体電解質、活物質及び分散媒を混合して混合液を作製し、撹拌機の撹拌槽内に、混合液を入れて撹拌する。
本発明に用いる撹拌機は、円筒形の撹拌槽と、撹拌槽内に、撹拌槽の内面から0.5〜5mmの間隔を開けて設けられた、複数の孔が形成された円筒部を有する回転羽根とを備える。
本発明では、このような撹拌機において、−20〜100℃の温度下で、回転羽根を15〜60m/秒の周速で回転させ、撹拌槽内において混合液を5〜600秒間滞留させ、混合液を撹拌槽の内面に押しつけて薄膜円筒状に拡げながら撹拌する。本発明では、短時間のうちに混合液に含まれる物質の凝集を解砕し、分散させることができる。
【0011】
本発明に用いる上記撹拌機としては、例えば、特許文献1に記載された高速撹拌機を用いることができる。この高速撹拌機は、円筒状の撹拌槽内に回転軸を同心に設け、撹拌槽より僅かに小径の回転羽根を回転軸に取付け、回転羽根の高速回転により被処理液を撹拌槽の内面に薄膜円筒状に拡げながら撹拌する。回転羽根は、円筒体に半径方向の小孔を多数貫通して設けた多孔円筒部を外周側に備えている。この高速撹拌機では、回転羽根の高速回転により被処理液を撹拌槽の内面に押しつけて薄膜円筒状とし、この薄膜円筒状の被処理液中を回転羽根の円筒部が移動することにより、被処理液に大きな剪断力を加え、被処理液中の物質の凝集をほぐし分散させることができる。この撹拌機は、被処理液に対して衝突する面がないので、固体成分を含有する液を処理しても磨耗が少なく、回転羽根等の金属部分からの金属成分が混合液中に混入するおそれが少ない。
【0012】
本発明に用いる撹拌機では、撹拌槽と回転羽根の間隔は0.5〜5mmである。0.5mm未満では粘性の高い混合液において撹拌槽と回転羽根の間に混合液が詰まってしまう可能性があり、5mmを超える間隔では十分なずり応力が混合液にかからず、撹拌を十分かけることができない。好ましくは、1.5〜3mmである。
【0013】
回転羽の周速は15〜60m/秒である。15m/秒未満では十分に撹拌されない可能性があり、60m/秒を超えると混合液にかかる応力が大きすぎるため、温度の上昇や固体成分の破壊のおそれがある。好ましくは、20〜50m/秒である。
【0014】
混合液の滞留時間は5〜600秒である。5秒未満では十分に撹拌されない可能性があり、600秒を超えると混合液にかかる応力が大きすぎるため、温度の上昇や固体成分の破壊のおそれがある。好ましくは、10〜180秒である。
【0015】
撹拌温度は−20〜100℃である。−20℃未満ではスラリーの粘度が高く、装置に負担がかかる可能性があり、100℃を超えると分散媒が蒸発してしまう可能性がある。
【0016】
本発明に用いる固体電解質として、例えば硫化物系固体電解質や酸化物系固体電解質が挙げられ、好ましくは硫化物系固体電解質である。
【0017】
硫化物系電解質として、例えば、イオウ元素、リチウム元素、及びホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、リン及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含む硫化物系電解質粉体を使用できる。粉体の平均粒径は0.01〜100μmが好ましい。
このような硫化物系電解質粉体は、硫化リチウムと、Aで表される化合物(Aは、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、リン又はアルミニウムであり、m及びnはそれぞれ1〜10の整数である。)から得られる。
【0018】
また、硫化物系電解質として、例えば、イオウ元素、リチウム元素、酸素元素、及びホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、リン及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含む硫化物系電解質粉体を使用できる。粉体の平均粒径は0.01〜100μmが好ましい。
このような硫化物系電解質粉体は、硫化リチウム、Aで表される化合物(Aは、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、リン又はアルミニウムであり、m及びnはそれぞれ1〜10の整数である。)、及びLiで表される化合物(Mはホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、硫黄、リン又はアルミニウムであり、x、y及びzはそれぞれ1〜10の整数である。)から得られる。
【0019】
本発明に用いることのできる酸化物系電解質は、リチウムイオン伝導性の結晶を含むことにより高いイオン伝導性を有し、電極内のリチウムイオン移動を担うのに充分な伝導性を有することができるものである。
具体的には、LiN、LISICON類、ペロブスカイト構造を有するLa0.55Li0.35TiO、NASICON型構造を有するLiTi12等が例示される。
その中でも特に好ましいリチウムイオン伝導性の結晶は、Li1+x+y(Al,Ga)(Ti,Ge)2−xSi3−y12(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1)である。この結晶はリチウムイオン伝導度が高く、化学的に安定しており扱いが容易であるという利点がある。また、この結晶は特定組成のガラスを熱処理することにより、ガラスセラミックス中の結晶として析出させることが可能である。
【0020】
本発明で用いる活物質には、正極活物質と負極活物質がある。
負極活物質としては市販されているものを特に限定なく使用することができ、炭素材料、Sn金属、In金属等を好適に用いることができる。具体的には、天然黒鉛や各種グラファイト、Sn,Si,Al,Sb,Zn,Bi等の金属粉、SnCu,SnCo,SnFe等の金属合金粉、その他アモルファス合金やメッキ合金が挙げられる。粒径に関しても特に制限はないが、平均粒径が数μm〜80μmのものを好適に用いることができる。
【0021】
正極活物質としては市販されているものを特に限定なく使用することができ、リチウムと遷移金属の複合酸化物等を好適に用いることができる。具体的には、以下に示す各材料及び各元素の組成比が異なる類似の材料が使用でき、LiCoO,LiNiCoO,LiNiO,LiNiMnCoO,LiFeMnO,LiPtO,LiMnNiO,LiMn,LiNiMnO,LiNiVO,LiCrMnO,LiFePO,LiFe(SO,LiCoVO,LiCoPO,S等が挙げられる。粒径に関しても特に制限はないが、平均粒径が数μm〜15μmのものを好適に用いることができる。
【0022】
活物質と固体電解質を混合して極材を作製する。好適な活物質の割合は、活物質と固体電解質の総重量の30重量%〜90重量%である。より好ましくは、40重量%〜80重量%であり、さらに好ましくは50重量%〜80重量%である。
【0023】
本発明に用いる分散媒は、極材との反応性が低いものが好ましいが、極材表面をコートし、極材と分散媒が反応しないような処置をしていれば、極材との反応性が高くても使用することができる。
混合液に水分と反応しやすい物質が含まれる場合は、脱水処理された分散媒を用いれば、空気中の水分による影響を低減できる。
好ましい分散媒は、トルエン・キシレン等の炭化水素系有機溶媒やエーテルやカーボネート化合物等の有機溶剤である。
【0024】
極材混合液の作成方法は、固体電解質と分散媒の混合物に撹拌を維持したまま極材を加える方法、予め固体電解質と極材の乾燥粉体を混合して合材を形成しその後所定量を分散媒に加えて撹拌する方法、極材と固体電解質を別々に分散媒に加えて撹拌する方法等、いずれでもよい。
極材混合液において、極材は分散媒中に分散していて、分散媒に溶解していない。
【0025】
混合液は、さらに導電助剤を含むことが好ましい。
導電助剤の平均粒径は0.0001〜10μmが好ましい。0.0001μm未満では再凝集をしてしまうため導電パスが形成されない可能性があり、10μmを超えると、スラリー中に導電助剤が均一に分散されたときに、スラリー中に粒子がまばらに存在する状態となり、導電パスが途切れ、電子伝導性が悪くなる可能性がある。上記平均粒径は、導電助剤をSEM観察し、1視野で300程度の粒子が確認できる倍率を選択し、その倍率において8視野の観察を行い、任意の500検体をピックアップしてメジアン径D50となる値から得られる数平均粒径である。
【0026】
導電助剤として、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、フラーレンが挙げられる。これらは単独で用いても混合して用いてもよい。細かく、かつ、電子伝導性に優れた導電助剤を利用することによって、電子伝導パスが形成され、リチウム電池の出力密度及びエネルギー密度が向上し、それに伴いサイクル特性が向上する。
【0027】
混合液において、導電助剤は活物質の0.1〜6重量%含まれることが好ましい。0.1重量%未満では電子伝導パスを十分に形成することができず、6重量%を超えるとイオン伝導パスを阻害してしまう可能性が生じる。好ましくは、1〜5重量%である。
【0028】
また、混合液において、導電助剤と活物質の総量と、無機固体電解質が3:7〜9:1の重量比で含まれることが好ましい。この比率を外れると、電子伝導性及びイオン伝導性のバランスが悪く、特性が向上しないおそれがある。好ましくは、5:5〜8:2である。
【0029】
極材の混合液には、バインダー、リチウム塩等も含むことができる。
【0030】
得られる極材スラリーの固形分濃度は好ましくは25〜80重量%である。25重量%未満では十分なズリ応力がスラリーにかかりにくく、80重量%を超えると混合液にかかる応力が大きすぎるため、温度の上昇や固体成分の破壊のおそれがある。好ましくは、30〜50重量%である。
【0031】
さらに、極材スラリーにおいて、リチウムイオン伝導性バインダーを、固形分総量に対して0.01〜10重量%含むことが好ましい。0.01重量%未満では成形性が悪く、10重量%を超えると、固体電解質のリチウムイオン伝導性に対してバインダーのリチウムイオン伝導性が低いため、スラリー中のイオン伝導度が低くなる可能性がある。より好ましくは、1〜7重量%である。バインダーは、混合液を作成する際に添加してもよいし、撹拌した後のスラリーに添加してもよい。
【0032】
上記の方法により得た極材スラリーを、公知の方法により基材の上に塗布して電極(負極・正極)シートを形成できる。例えば、スラリーを十分撹拌し、集電体である基板上に滴下しドクターブレードで膜化する方法、スピンコートする方法、スクリーン印刷する方法等により極材膜を形成して、電極シートを作製する。
【0033】
また、スラリー中の分散媒を蒸発させて粉末にし、蒸着等により電極シートを作成することもできる。乾式による静電塗布法等により電極を作製することもできる。
【0034】
正極集電シートおよび負極集電シートとしては、例えば、ステンレス鋼、金、白金、亜鉛、ニッケル、スズ、アルミニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、チタン等の金属及び、これらの合金にて、シート、箔、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等に形成されたものが用いられる。特に、正極集電シートではアルミニウム箔、負極集電シートではアルミニウム箔やスズ箔が、集電性、加工性、コストの点で好ましい。
【0035】
全固体二次電池は、正極と、負極と、正極及び負極間に挟持された固体電解質層から構成される。本発明の方法で得られる極材スラリーから製造した電極シートは、全固体二次電池の負極及び/又は正極として用いることができる。
本発明の製造方法で得られるスラリーは、活物質、固体電解質、分散媒がよく混合しそれぞれ均一分散しているので、これから製造した電極中に電子伝導及びイオン導電パスが形成され、電池の出力密度及びエネルギー密度が向上し、サイクル特性も向上する。
【実施例】
【0036】
製造例1
[硫化リチウムの製造]
硫化リチウムは、特開平7−330312号公報における第1の態様(2工程法)の方法に従って製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。続いてこの反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した水硫化リチウムを脱硫化水素化し硫化リチウムを得た。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。水硫化リチウムの脱硫化水素反応が終了後(約80分)に反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0037】
[硫化リチウムの精製]
上記で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリ)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100ミリLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥した。得られた硫化リチウム中の不純物含有量を測定した。尚、亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)並びにチオ硫酸リチウム(LiS2O)の各硫黄酸化物、及びN−メチルアミノ酪酸リチウム(NMAB)の含有量は、イオンクロマトグラフ法により定量した。その結果、硫黄酸化物の総含有量は0.13質量%であり、LMABは0.07質量%であった。
【0038】
製造例2
[硫化物系固体電解質の製造]
製造例1にて製造したLiSと、P(アルドリッチ製)を出発原料に用いた。これらを70対30のモル比に調整した250gの混合物を、ジルコニア製ボールを充填したSUS製容器(容量6.7L)に入れ、露点−40℃以下のドライ雰囲気下及び室温下で、200時間振動ミルにより、1kJ/kg・sの機械的エネルギーを加えてメカニカルミリング処理することにより、白黄色粉末の硫化物系固体電解質粉体を得た。
得られた粉末について、粉末X線回折測定を行った(CuKα:λ=1.5418Å)。得られたチャートより、原料結晶のピークは完全に消失し、この硫化物系固体電解質粉体はガラス化していることが確認された。
得られた硫化物系ガラス固体電解質粉体(非晶質ガラス電解質)を、アルゴン雰囲気のSUS管に入れて密閉し、300℃2時間の焼成処理を施し、硫化物系ガラスセラミック固体電解質(結晶化ガラス電解質)を作製した。
【0039】
上記にて作製した結晶化ガラス電解質について、粉末X線回折測定を行った(CuKα:λ=1.5418Å)。得られた結晶化ガラス電解質は、2θ=17.8±0.3deg、18.2±0.3deg、19.8±0.3deg、21.8±0.3deg、23.8±0.3deg、25.9±0.3deg、29.5±0.3deg、30.0±0.3degに回折ピークを有することを確認した。
【0040】
また得られた結晶化ガラス電解質の結晶化度が50%以上であることを確認した。この結晶化度は、JNM−CMXP302NMR装置(日本電子株式会社製)を用いて、以下の条件で固体31P−NMRスペクトルを測定し、得られた固体31PNMRスペクトルについて、70〜120ppmに観測される共鳴線を、非線形最小二乗法を用いてガウス曲線に分離し、各曲線の面積比から算出した。
【0041】
固体31P−NMRスペクトルの測定条件
観測核 :31
観測周波数:121.339MHz
測定温度 :室温
測定法 :MAS法
パルス系列:シングルパルス
90°パルス幅:4μs
マジック角回転の回転数:8600Hz
FID測定後、次のパルス印加までの待ち時間:100〜2000s
(最大のスピン−格子緩和時間の5倍以上になるよう設定)
積算回数 :64回
化学シフトは、外部基準として(NHHPO(化学シフト1.33ppm)を用い決定した。
試料充填時の空気中の水分による変質を防ぐため、乾燥窒素を連続的に流しているドライボックス中で密閉性の試料管に試料を充填した。
【0042】
実施例1
図1は、スラリーの撹拌処理に用いた高速撹拌機を示す断面図である。具体的には、商品名「T.K.フィルミックス」(プライミクス株式会社製)を用いた。
【0043】
図1に示すように、撹拌機には円筒形の内面を有する撹拌槽1が設けられており、撹拌槽1の周囲には外槽2が設けられている。撹拌槽1と外槽2の間には、冷却水室3が形成されている。冷却水室3に冷却水が流入管4から供給され、撹拌で生じる摩擦熱を吸収して図示されない流出管から排出される。撹拌槽1の底部には弁5a及び6aを有する供給管5及び6が接続されている。この供給管5及び6は、原料の供給に使用することができる。バッチ生産の場合には、撹拌槽1の底部に栓を導入し使用することができる。
【0044】
撹拌槽1の上部には、堰板7が載置され、その上に上部容器8が取り付けられている。この上部容器8に流出管9が接続されている。上部容器8は、蓋8a及び冷却水室8bを有しており、製品を連続生産するときに用いられる。この場合、堰板7として、その内径が図示のものより大きいものに交換され、原料を供給管5及び6から連続供給し、撹拌後の液が堰板7を越えて連続的に流出するように扱われる。冷却水室8bは、水路に冷却水室3と並列に接続されている。
【0045】
回転軸10は、蓋8aを気密に貫通して撹拌槽1と同心に設置されており、上部に設けたモーターで高速に回転するように駆動される。回転軸10の下端には、回転羽根11が取付けられている。
【0046】
回転羽根11は円筒部12を有しており、円筒部12はアーム13を介してボス14により回転軸10に取り付けられている。円筒部12には、多数の孔12aが形成されている。アーム13には、適当な数の連通孔13aが形成されている。
【0047】
図1は、混合液Lを入れた状態を示している。混合液Lは、回転羽根11の高速回転により、円周方向に押しつけられ、回転によって生じる遠心力により撹拌槽1の内面に薄膜円筒状に密着しながら回転する。混合液Lは、その表面と撹拌槽1との内面との速度差によるずれによって撹拌作用を受け、混合液L中に含有される物質が分散される。孔12a内に流入した混合液Lは、孔の回転によって強い回転力を受け、孔12a内から間隙S内に流入して、圧力を上昇させるとともに、間隙S内の混合液Lの流れを乱すことにより、撹拌作用を助長する。
【0048】
製造例2にて合成した固体電解質、グラファイト(活物質)、導電助剤、及びトルエン(分散媒)を用いて負極合材混合液を作製した。グラファイトとして日本黒鉛工業株式会社製のCGBを、導電助剤として電気化学工業株式会社製デンカブラックを使用した。
デンカブラックはCGBに対して1重量%加えた。CGBとデンカブラックの総量と固体電解質の重量比が6:4となるように秤量した。トルエンを、負極合材混合液において固形分濃度が45重量%となる量だけ加えた。
【0049】
上記のように調製した混合液を図1に記載した撹拌槽1内に充填し、撹拌槽1と回転羽根11の間隔が2mmになるよう回転羽根11を回転軸10に取付け、回転羽根11を周速30m/秒の条件下で180秒撹拌した。このときの撹拌槽1の温度は25〜35℃であった。
【0050】
得られたスラリーをAl集電体上に塗布し乾燥させることで、負極シートを作製した。
得られた負極シートを負極とした。正極は、リチウム複合酸化物と製造例2で得た固体電解質を重量比7:3で乳鉢混合して作製した。電解質には、それぞれの電極にも用いた製造例2で得た固体電解質を用いた。集電体としてTi箔を使用し、Ti箔/負極/電解質/正極/Ti箔の順で積層して10〜600MPaで複数回圧縮しリチウム電池を作製した。
【0051】
作製した電池の充放電測定は、カットオフ電圧を下限1.0V、上限4.2Vで、電流密度は400μA/cmの条件のもとで行った。
その結果、充電容量に対する放電容量の比から求める充放電効率は90%であった。
【0052】
比較例1
図1に示す撹拌機を用いてスラリーを撹拌する代わりに、フリッチュ社製遊星型ボールミルP−7にて370rpm2時間の条件で混合した他は、実施例1と同様にして負極シート、電池を作製し評価した。充放電効率は75%であった。
【0053】
実施例2
デンカブラックを加えず、CGBと固体電解質の重量比を6:4とした他は、実施例1と同様にして負極シート、電池を作製し評価した。充放電効率は79%であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造方法によって極材スラリーを製造でき、このスラリーから電極を製造できる。この電極はリチウム電池等の全固体二次電池に使用できる。
全固体二次電池は、各種携帯電子機器に用いられ、特にノート型パソコン、ノート型ワープロ、パームトップ(ポケット)パソコン、携帯電話、PHS、携帯ファックス、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオカメラ、携帯テレビ、ポータブルCD、ポータブルMD、電動髭剃り機、電子手張、トランシーバー、電動工具、ラジオ、テープレコーダ、デジタルカメラ、携帯コピー機、携帯ゲーム機等に用いることができる。また、全固体二次電池は、電気自動車、ハイブリッド自動車、自動販売機、電動カート、ロードレベリング用蓄電システム、家庭用蓄電器、分散型電力貯蔵機システム(据置型電化製品に内蔵)、非常時電力供給システム等にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例において使用した高速撹拌機の断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 撹拌槽
3,8b 冷却水室
5,6 供給管
7 堰板
10 回転軸
11 回転羽根
12 円筒部
12a 孔
L スラリー
S 間隙
t 膜厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機固体電解質、活物質及び分散媒を混合して混合液を作製し、
円筒形の撹拌槽と、前記撹拌槽内に、前記撹拌槽の内面から0.5〜5mmの間隔を開けて設けられた、複数の孔が形成された円筒部を有する回転羽根とを備える撹拌機の撹拌槽内に、前記混合液を入れ、
−20〜100℃の温度下で、前記回転羽根を15〜60m/秒の周速で回転させ、前記撹拌槽内において前記混合液を5〜600秒間滞留させ、前記撹拌槽の内面に押しつけて薄膜円筒状に拡げながら撹拌してスラリーを得る、
極材スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記無機固体電解質が硫化物系固体電解質であり、
前記活物質が負極活物質である請求項1に記載の極材スラリーの製造方法。
【請求項3】
前記混合液がさらに導電助剤を含む請求項1又は2に記載の極材スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記混合液における、前記導電助剤の量が、前記活物質の0.1〜6重量%である請求項3に記載の極材スラリーの製造方法。
【請求項5】
前記導電助剤が、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、フラーレンからなる群から選ばれる少なくとも1つであって、平均粒径が0.0001〜10μmである請求項3又は4に記載の極材スラリーの製造方法。
【請求項6】
前記混合液における、前記導電助剤及び前記活物質と、前記無機固体電解質の含有量が、重量比で、3:7〜9:1である請求項3〜5のいずれか一項に記載の極材スラリーの製造方法。
【請求項7】
前記スラリーの固形分濃度が25〜80重量%である請求項1〜6のいずれか一項に記載の極材スラリーの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−40190(P2010−40190A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198215(P2008−198215)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】