説明

極板用芯材の洗浄装置及び洗浄方法、並びにその洗浄方法を用いたアルカリ蓄電池の製造方法

【課題】極板用芯材として用いられる多孔質金属基板に混入した金属不純物の洗浄を、生産性を十分確保しつつも好適に行う。
【解決手段】多孔質金属基板のシート11をフープ10から巻き出すとともに、液槽13に貯留された溶液の内部を通過された後に巻き取るようにすることで、フープ10から巻き出されたシート11に対して、金属不純物の洗浄を順次連続的に行うようにした。こうして多孔質金属基板をシート11の状態で溶液に浸すことで、斑無く、一様に金属不純物を洗浄することが可能となり、また同時に溶液に浸される多孔質金属板の量が限られるため、化学反応による発熱は少なく、溶液の温度管理が容易ともなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池に供される極板用芯材を洗浄するための洗浄装置及び洗浄方法、並びにその洗浄方法を用いたアルカリ蓄電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ニッケル・カドミウム蓄電池やニッケル・水素蓄電池などのアルカリ蓄電池は、携帯情報端末や車両などの電源として広く使用されている。こうしたアルカリ蓄電池の正極は、導電性の芯材として、発泡ニッケル基板や焼結合金からなる多孔質金属基板を使用し、その芯材に活物質を担持させることで製造されている。
【0003】
こうした極板用芯材には、その原料となる多孔質金属基板の製造過程において、ニッケル、鉄以外の金属(例えば銅)が不純物として混入することがある。こうした金属不純物の混入量が多い場合には、そうした金属不純物が芯材から電解液中に溶け出して析出してしまい、正極・負極間の微小な短絡を引き起こす畏れがある。
【0004】
そこで従来、特許文献1に見られるように、極板用芯材の製造過程において、上記金属不純物の洗浄を行う技術が提案されている。同文献では、こうした極板用芯材の洗浄を以下の態様で行うようにしている。
【0005】
極板用芯材となる多孔質金属基板は、コイル状に捲回されたフープとして提供されるものとなっている。上記文献では、図8に示すように、こうした多孔質金属基板のフープ50を、アンモニウムイオンと過酸化水素とを含有する水溶液51に浸し込むことで、金属不純物である銅の洗浄を行うようにしている。
【特許文献1】特開2004−71534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした従来の技術によれば、フープ単位で大量の極板用芯材を一括して洗浄することができる。しかしながら、コイル状に捲回されたフープでは、その中央部分の緊縛率が高く、その近傍には上記洗浄用の溶液が十分に行き渡り難くなっている。そのため、フープ中心部付近の多孔質金属基板にまで溶液を行き渡らせて金属不純物を確実に除去するには、フープを長時間溶液に浸し込む必要がある。
【0007】
また溶液中の過酸化水素は、溶液の温度が35℃程度まで上昇すると、その大部分が分解してしまう。そのため、上記洗浄に際しては、溶液の温度の精密な制御が必要となる。しかしながら、上記従来の技術では、フープ単位で大量の極板用芯材を同時に溶液に浸すため、化学反応による発熱が大きく、温度制御が困難となっていた。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その解決しようとする課題は、極板用芯材として用いられる多孔質金属基板に混入した金属不純物の洗浄を、生産性を十分確保しつつも好適に行うことのできる極板用芯材の洗浄装置及び洗浄方法、並びにその洗浄方法を用いたアルカリ蓄電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、アルカリ蓄電池の極板の芯材として用いられる多孔質金属基板に混入した金属不純物を洗浄するための極板用芯材の洗浄装置であって、前記金属不純物の洗浄に供される溶液が貯留された液槽と、コイル状に捲回されたフープから巻き出された前記多孔質金属基板のシートを前記液槽に貯留された前記溶液の内部を通過するように案内する案内手段と、前記溶液の内部を通過後の前記多孔質金属基板のシートを巻き取る巻取機構と、を備えることをその要旨としている。
【0010】
上記構成では、フープから巻き出された多孔質金属基板のシートが、案内手段によって液槽に貯留された溶液の内部を通過された後、巻取機構により巻き取られるようになる。そしてその結果、液槽に貯留された溶液による金属不純物の洗浄が、フープから巻き出されたシートに対し、順次、連続的に行われるようになる。こうした場合、多孔質金属基板は、シートの状態で溶液に浸されるため、斑無く、一様にその金属不純物の洗浄を行うことができる。また同時に溶液に浸される多孔質金属板の量が限られるため、化学反応による発熱は少なく、溶液の温度管理も容易となる。
【0011】
なお、こうした金属不純物の洗浄に使用する溶液としては、例えばアンモニウムイオンと過酸化水素水とを含有する水溶液を採用することができる。この水溶液は、金属不純物として多孔質金属基板に混入した銅の洗浄に特に効果的である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の極板用芯材の洗浄装置において、前記液槽の通過後の前記シートに、残留した前記溶液を洗浄するための洗浄液を噴射する噴射手段を備えることをその要旨としている。なおここで噴射される洗浄液としては、例えば純水を使用することができる。
【0013】
上記構成では、金属不純物の洗浄に続いて、噴射手段による洗浄液の噴射を通じてその金属不純物の洗浄に使用した溶液の残留成分が洗浄されるようになる。よって、金属不純物の洗浄に加え、その洗浄後に残留した溶液の洗浄も連続的に行うことができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の極板用芯材の洗浄装置において、前記洗浄液の噴射後の前記シートにエアを吹き付けて乾燥させる乾燥手段を備えることをその要旨としている。
【0015】
上記構成では、洗浄液の噴射による残留溶液の洗浄に引き続いて、乾燥手段によって多孔質金属基板のシートの乾燥が行われる。そのため、金属不純物の洗浄、残留溶液の洗浄、及び乾燥が連続的に行われるようになる。なお、このときのシートに吹き付けるエアとして高温に熱せられたエア(熱風)を使うことで、より効果的にシートを乾燥させることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の極板用芯材の洗浄装置において、前記エアの吹き付け後の前記シートについてその洗浄の良否を検出する検出手段と、その検出手段の検出結果に応じて、前記金属不純物の洗浄条件、前記溶液の洗浄条件、及び乾燥条件の少なくとも一つを変更する変更手段とを備えることをその要旨としている。
【0017】
上記構成では、その検出手段によって、乾燥後のシートにおける洗浄の良否が確認されるようになる。そしてその検出結果に応じて、金属不純物や溶液の洗浄、乾燥の条件を変更することで、洗浄や乾燥の過不足を解消することができるようになる。すなわち、そうした検出結果から、金属不純物、溶液の洗浄や乾燥の過不足を確認し、その結果に応じて洗浄や乾燥の度合いをフィードバック調整することが可能となる。こうしたフィードバック調整は、シートの洗浄、乾燥を連続的に行っているからこそ可能となる。
【0018】
ちなみに、金属不純物の洗浄条件は、例えば金属不純物洗浄用の溶液の温度やその攪拌強度、その洗浄成分の濃度、溶液内のシートの移動距離、移動速度などを調整することで変更することができる。また溶液の洗浄条件は、洗浄液の噴射量やその噴射範囲内でのシートの移動距離、移動速度などを調整することで変更することができる。更に乾燥条件は、乾燥に際してのエアの吹付強度やその吹付範囲内のシートの移動距離、シートの移動速度などを調整することで変更することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の極板用芯材の洗浄装置において、前記検出手段は、前記溶液の残留成分の量を検出することで、前記洗浄の良否を検出するものであることをその要旨としている。
【0020】
上記構成のように、乾燥後のシートにおける溶液の残留成分量の検出結果より、溶液洗浄の要否を、すなわち溶液洗浄の過不足の有無を確認することができる。例えば金属不純物洗浄用の溶液としてアンモニウムイオンと過酸化水素水とを含有する水溶液を採用する場合には、乾燥後のシートに残留したアンモニアの量を検出することで、シートに残留した溶液を十分に洗浄することができたか否かを確認することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の極板用芯材の洗浄装置において、前記検出手段は、前記噴射手段により噴射された前記洗浄液の排液を2成分濃度計で濃度測定することで、前記洗浄の良否を検出するものであることをその要旨とする。
【0022】
上記構成のように、洗浄液の排液の濃度測定(例えばペーハー(pH)やアンモニア濃度の測定)を行えば、洗浄の良否を間接的に確認することができる。
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の極板用芯材の洗浄装置において、前記変更手段は、前記検出された前記洗浄の良否に応じて、前記噴射手段による前記洗浄液の噴射範囲内における前記シートの移動距離を変更するものであることをその要旨としている。
【0023】
上記構成では、検出手段により検出された洗浄の良否に応じて、洗浄液噴射範囲内のシートの移動距離が、ひいては溶液の洗浄時間が変更されるようになる。そのため、例えば溶液の洗浄不足が確認されたときには、洗浄液噴射範囲内のシートの移動距離を長くして溶液の洗浄時間を延長したり、溶液洗浄が過剰であることが確認されたときには、洗浄液噴射範囲内のシートの移動距離を短くして、溶液の洗浄時間を短縮したり、といった対応が可能となる。
【0024】
請求項8に記載の発明は、請求項5又は6に記載の極板用芯材の洗浄装置において、前記変更手段は、前記検出された前記洗浄の良否に応じて、前記噴射手段による前記洗浄液の噴射量を変更するものであることをその要旨とする。
【0025】
この場合には、洗浄液の噴射量の変更を通じて、溶液洗浄の度合いが変更されるようになる。そのため、例えば溶液洗浄の不足が確認されたときには、洗浄液の噴射量を多くしたり、或いは溶液洗浄が過剰であることが確認されたときには、洗浄液の噴射量を少なくしたり、といった対応が可能となる。
【0026】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の極板用芯材の洗浄装置において、前記案内手段は、前記液槽の溶液中で前記シートを複数回折り返して移動させるものであることをその要旨としている。
【0027】
空隙率が高い多孔質金属基板のシートを溶液中で移動させると、その周囲に比較的強い液流が形成されるようになる。上記構成では、溶液内において、多孔質金属基板のシートを幾重にも折り返して移動させるようにしているため、プロペラなどを用いて別途に溶液を攪拌せずとも、シートの移動により十分に溶液を攪拌することができるようになる。
【0028】
請求項10に記載の発明は、請求項2に記載の極板用芯材の洗浄装置において、前記噴射手段によって前記洗浄液が噴射される前の前記シートが浸し込まれる水槽を備えることをその要旨としている。
【0029】
上記構成では、金属不純物の洗浄に使用した溶液の残留成分の洗浄が、水槽洗浄と洗浄液噴射との2段階で行われるようになり、洗浄の効果や効率を向上することができる。
請求項11に記載の発明は、請求項2又は10に記載の極板用芯材の洗浄装置において、前記噴射手段による前記洗浄液の噴射範囲内において、前記シートを折り返して移動させる移動手段を備えることをその要旨としている。
【0030】
上記構成では、洗浄液の噴射範囲内でシートが折り返して移動されているため、噴射された洗浄液がシートの表面を伝って流れるようになり、洗浄液とシートとの接触時間を増して、残留溶液の洗浄効率を向上することができるようになる。
【0031】
請求項12に記載の発明は、請求項3に記載の極板用芯材の洗浄装置において、前記乾燥手段による前記エアの吹付範囲内において、前記シートを折り返して移動させる折り返し移動手段を備えることをその要旨としている。
【0032】
上記構成では、エアの吹付範囲内でシートが折り返して移動されるため、残留した洗浄液がシートの表面を伝って流れ落ちるようになり、シートに残留した洗浄液を効率的に排出することができるようになる。
【0033】
また上記課題を解決するため、請求項13に記載の発明では、アルカリ蓄電池の極板の芯材として用いられる多孔質金属基板に混入した金属不純物を洗浄するための洗浄方法であって、コイル状に捲回されたフープから巻き出された前記多孔質金属基板のシートを、前記金属不純物の洗浄に供される溶液の貯留された液槽を通過させた後に巻き取る工程を備えることをその要旨としている。
【0034】
上記洗浄方法では、フープから巻き出された多孔質金属基板のシートが、液槽に貯留された溶液の内部を通過された後に巻き取られるようになる。そしてその結果、液槽に貯留された溶液による金属不純物の洗浄が、フープから巻き出されたシートに対し、順次、連続的に行われるようになる。こうした場合、多孔質金属基板は、シートの状態で溶液に浸されるため、斑無く、一様にその金属不純物の洗浄を行うことができる。また同時に溶液に浸される多孔質金属板の量が限られるため、化学反応による発熱は少なく、溶液の温度管理も容易となる。
【0035】
なお、こうした金属不純物の洗浄に使用する溶液としては、例えばアンモニウムイオンと過酸化水素水とを含有する水溶液を採用することができる。この水溶液は、金属不純物として多孔質金属基板に混入した銅の洗浄に特に効果的である。
【0036】
請求項14に記載の発明は、請求項13に記載の極板用芯材の洗浄方法において、前記液槽の通過後の前記シートに、残留した前記溶液を洗浄するための洗浄液を噴射する工程を備えることをその要旨としている。
【0037】
上記洗浄方法では、金属不純物の洗浄に続いて、洗浄液の噴射を通じてその金属不純物の洗浄に使用した溶液の残留成分が洗浄されるようになる。よって、金属不純物の洗浄に加え、その洗浄後に残留した溶液の洗浄も連続的に行うことができる。
【0038】
請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の極板用芯材の洗浄方法において、前記洗浄液の噴射後の前記シートにエアを吹き付けて乾燥させる工程を備えることをその要旨としている。
【0039】
上記洗浄方法では、洗浄液の噴射による残留溶液の洗浄に引き続いて、乾燥手段によって多孔質金属基板のシートの乾燥が行われる。そのため、金属不純物の洗浄、残留溶液の洗浄、及び乾燥が連続的に行われるようになる。なお、このときのシートに吹き付けるエアとして高温に熱せられたエア(熱風)を使うことで、より効果的にシートを乾燥させることができる。
【0040】
請求項16に記載の発明は、請求項15に記載の極板用芯材の洗浄方法において、前記エアの吹き付け後の前記シートについてその洗浄の良否を検出し、その結果に応じて、前記金属不純物の洗浄条件、前記溶液の洗浄条件、乾燥条件前記溶液の少なくとも一つを変更することをその要旨としている。
【0041】
上記洗浄方法では、乾燥後のシートについてその洗浄の良否が検出されるようになる。そしてその検出結果に応じて、金属不純物や溶液の洗浄、乾燥の条件を変更することで、洗浄や乾燥の過不足を解消することができるようになる。すなわち、そうした検出結果から、金属不純物、溶液の洗浄や乾燥の過不足を確認し、その結果に応じて洗浄や乾燥の度合いをフィードバック調整することが可能となる。こうしたフィードバック調整は、シートの洗浄、乾燥を連続的に行っているからこそ可能となる。
【0042】
ちなみに、金属不純物の洗浄条件は、例えば金属不純物洗浄用の溶液の温度やその攪拌強度、その洗浄成分の濃度、溶液内のシートの移動距離、移動速度などを調整することで変更することができる。また溶液の洗浄条件は、洗浄液の噴射量やその噴射範囲内でのシートの移動距離、移動速度などを調整することで変更することができる。更に乾燥条件は、乾燥に際してのエアの吹付強度やその吹付範囲内のシートの移動距離、シートの移動速度などを調整することで変更することができる。
【0043】
請求項17に記載の発明は、請求項16に記載の極板用芯材の洗浄方法において、前記洗浄の良否は、前記シートの前記溶液の残留成分の量の検出結果に基づいて検出されることをその要旨としている。
【0044】
上記洗浄方法では、乾燥後のシートにおける溶液の残留成分量の検出結果に応じて洗浄の良否が検出されるようになる。例えば金属不純物洗浄用の溶液としてアンモニウムイオンと過酸化水素水とを含有する水溶液を採用する場合には、乾燥後のシートに残留したアンモニアの量を検出することで、溶液洗浄の良否を確認することができる。
【0045】
請求項18に記載の発明は、請求項16又は17に記載の極板用芯材の洗浄方法において、前記洗浄の良否は、前記洗浄液を噴射する工程において噴射された前記洗浄液の排液を2成分濃度計で濃度測定することで検出されることをその要旨としている。
【0046】
上記洗浄方法では、洗浄液の排液の濃度測定を行うことで、洗浄の良否が検出されるようになる。このように洗浄液の排液の濃度測定(例えばペーハー(pH)やアンモニア濃度の測定)を行うこととすれば、洗浄の良否を間接的に確認することができる。
【0047】
請求項19に記載の発明は、請求項17又は18に記載の極板用芯材の洗浄方法において、前記洗浄の良否に応じて、前記洗浄液の噴射範囲内における前記シートの移動距離を変更することをその要旨としている。
【0048】
上記洗浄方法では、そうした洗浄液噴射範囲内のシートの移動距離の変更に応じて、残留溶液の洗浄時間が変更されるようになる。そのため、例えば溶液洗浄の不足が確認されたときには、洗浄液噴射範囲内のシートの移動距離を長くして溶液の洗浄時間を延長したり、溶液洗浄が過剰であることが確認されたときには、洗浄液噴射範囲内のシートの移動距離を短くして、溶液の洗浄時間を短縮したり、といった対応が可能となる。
【0049】
なお洗浄の良否の検出結果に基づく、洗浄条件や乾燥条件の変更としては、上記のもの以外にも、例えば溶液の温度、溶液の攪拌強度、溶液の洗浄成分の濃度、乾燥に際してのエアの吹付強度やその吹付範囲内のシートの移動距離、シートの巻取速度(移動速度)などを変更することも考えられる。いずれにせよ、乾燥後の多孔質金属基板のシートに残留した成分の量を検出し、その検出結果に応じて洗浄や乾燥の条件を変更すれば、洗浄や乾燥の過不足を解消することができるようになる。
【0050】
請求項20に記載の発明は、請求項17又は18に記載の極板用芯材の洗浄方法において、前記洗浄の良否に応じて、前記洗浄液の噴射量を変更することをその要旨としている。
【0051】
上記洗浄方法では、洗浄液の噴射量の変更に応じて、溶液洗浄の度合いが変更されるようになる。そのため、例えば溶液洗浄の不足が確認されたときには、洗浄液の噴射量を多くしたり、或いは溶液洗浄が過剰であることが確認されたときには、洗浄液の噴射量を少なくしたり、といった対応が可能となる。
【0052】
請求項21に記載の発明は、請求項13〜20のいずれか1項に記載の極板用芯材の洗浄方法において、前記液槽の通過に際して、前記液槽の溶液中で前記シートを複数回折り返して移動させるようにしたことをその要旨としている。
【0053】
空隙率が高い多孔質金属基板のシートを溶液中で移動させると、その周囲に比較的強い液流が形成されるようになる。上記洗浄方法では、溶液内において、多孔質金属基板のシートを幾重にも折り返して移動させるようにしているため、プロペラなどを用いて別途に溶液を攪拌せずとも、シートの移動により十分に溶液を攪拌することができるようになる。
【0054】
請求項22に記載の発明は、請求項14に記載の極板用芯材の洗浄装置において、前記洗浄液を噴射する工程の前に、前記シートを水槽に浸し込んで洗浄する工程を備えることをその要旨としている。
【0055】
上記洗浄方法では、金属不純物の洗浄に使用した溶液の残留成分の洗浄が、水槽洗浄と洗浄液噴射との2段階で行われるようになり、洗浄の効果や効率を向上することができる。
【0056】
請求項23に記載の発明は、請求項14又は22に記載の極板用芯材の洗浄方法において、前記シートを折り返して移動させながら前記洗浄液の噴射を行うことをその要旨としている。
【0057】
上記洗浄方法では、洗浄液の噴射範囲内でシートが折り返して移動されているため、噴射された洗浄液がシートの表面を伝って流れるようになり、洗浄液とシートとの接触時間を増して、残留溶液の洗浄効率を向上することができるようになる。
【0058】
請求項24に記載の発明は、請求項15に記載の極板用芯材の洗浄方法において、前記シートを折り返して移動させながら前記エアの吹き付けを行うことをその要旨としている。
【0059】
上記洗浄方法では、エアの吹付範囲内でシートが折り返して移動されるため、残留した洗浄液がシートの表面を伝って流れ落ちるようになり、シートに残留した洗浄液を効率的に排出することができるようになる。
【0060】
更に上記課題を解決するため、請求項25に記載の発明は、多孔質金属基板からなる芯材に活物質を支持させたものを正極として備えるアルカリ蓄電池の製造方法であって、請求項13〜24のいずれかに記載の極板用芯材の洗浄方法を用いて前記芯材を洗浄する工程を備えることをその要旨としている。
【0061】
上記製造方法では、極板用の芯材として用いられる多孔質金属基板に混入した金属不純物の洗浄をより効率的に行うことができるため、金属不純物の混入の少ない正極板を備えた信頼性の高いアルカリ蓄電池をより効率的に製造することができるようになる。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、極板用芯材として用いられる多孔質金属基板に混入した金属不純物の洗浄を、生産性を十分確保しつつも好適に行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
(第1の実施の形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施の形態について、図1〜4を参照して詳細に説明する。
【0064】
本実施の形態の極板用芯材の洗浄装置は、アルカリ蓄電池の正極板の芯材と
して使用される発泡ニッケル基板や焼結合金基板など多孔質金属基板に金属不純物として混入した銅を取り除くための洗浄を行うものとなっている。またこの洗浄装置では、銅の洗浄用の溶液としては、アンモニウムイオンと過酸化水素水とを含有する水溶液を採用するようにしている。こうした水溶液を使用することで、多孔質金属基板に混入した銅を効果的に取り除くことができる。
【0065】
ただし、ニッケル水素電池の場合を例にとって説明すると、そうした銅洗浄用の水溶液に含まれるアンモニウムイオンが多孔質金属基板にアンモニアとして残留すると、そのアンモニアは、電解液中で水酸化アンモニウムとなり、正極のオキシ水酸化ニッケルを還元して水酸化ニッケルを生成する。一方、アンモニア自身は、正極上で酸化されて窒素酸化物イオンに変化して、負極上に拡散する。負極上に拡散された窒素酸化物イオンは、水素吸蔵合金の水素脱蔵反応を引き起す。更に窒素酸化物は還元されてアンモニウムイオンに戻る。そのため、上記反応が繰り替えされることとなり、自己放電量を増大させて、アルカリ蓄電池の蓄電池としての性能を低下させることになる。なお、上記自己放電に際しての正極、負極の化学反応式は、以下に示される通りとなっている。
【0066】
【化1】

そこで、本実施の形態では、こうした不具合を回避するため、上述したような銅の洗浄の後、純水を洗浄液として多孔質基板に噴射して、多孔質金属基板の溶液の残留成分を洗浄するようにしている。そしてその後、多孔質金属基板に残留した洗浄液を乾燥させることで、一連の洗浄工程が完了されるようになっている。
【0067】
図1に、このような金属不純物の洗浄、残留溶液の洗浄、及び乾燥を行う本実施の形態の極板用芯材の洗浄装置の全体構造を示す。この洗浄装置の洗浄対象となる多孔質金属基板は、コイル状に捲回されたフープ10のかたちで提供されるようになっている。
【0068】
同図に示すように、フープ10から巻き出された多孔質金属基板のシート11は、プーリ12aに巻き掛けられた後、まず液槽13に送られる。この液槽13には、アンモニウムイオンと過酸化水素水とを含有する上記水溶液14が貯留されている。また液槽13の底部には、水溶液14を排出するための廃液口15が設けられている。
【0069】
こうした液槽13の内部には、5つのプーリ12b〜12fが設置されている。そしてシート11は、液槽13の下部に設置された3つのプーリ12b,12d,12fとその上部に設置された2つのプーリ12c,12eとに、順次交互に掛け渡されている。そのため、シート11は、これらのプーリ12b〜12fにより案内されて、水溶液14中を上下に3回折り返して移動されるようになっている。なお、本実施の形態の洗浄装置では、こうしたプーリ12b〜12fが、コイル状に捲回されたフープ10から巻き出された多孔質金属基板のシート11をその液槽13に貯留された水溶液の内部を通過するように案内する上記案内手段に相当する構成となっている。
【0070】
こうした液槽13を通過したシート11は、プーリ12g及びプーリ16aに巻き掛けられた後、洗浄槽17に送られる。洗浄槽17の内部には、5つのプーリ16b〜16fが設置されており、シート11は、洗浄槽17の下部に設置された3つのプーリ16b,16d,16fと、その上部に設置された2つのプーリ16c,16eとに、順次交互に掛け渡されている。そのため、シート11は、それらのプーリ16b〜16fにより案内されて、洗浄槽17内を上下に3回折り返して移動されるようになっている。
【0071】
こうした洗浄槽17の上部には、シート11に残留した溶液を洗浄するための洗浄液が供給される配管18が設置されている。この配管18には複数の噴射口が形成されており、それらの噴射口から洗浄槽17の内部へと洗浄液が噴射されるようになっている。なお、この洗浄装置では、こうした洗浄槽17で噴射される洗浄液として、純水が使用されている。また洗浄槽17の底部には、回収口19が設置されており、その回収口19から噴射された洗浄液が回収されるようになっている。なお、本実施の形態の洗浄装置では、こうした洗浄槽17に設置される配管18が、液槽13通過後のシート11に、残留した溶液を洗浄するための洗浄液を噴射する上記噴射手段に相当する構成となっている。
【0072】
洗浄槽17を通過したシート11は、プーリ16gに巻き掛けられた後、乾燥槽20に送られる。そして、シート11は、乾燥槽20内に設置されたプーリ21aに巻き掛けられて、同乾燥槽20内を上下に折り返して移動されている。この乾燥槽20の上部には、エアを吹き出すブロワ22が設置されており、乾燥槽20内を移動するシート11にエアが吹き付けられるようになっている。そして乾燥槽20を通過したシート11は、プーリ21bに巻き掛けられた後、巻取機構23により巻き取られるようになっている。なお、本実施の形態の洗浄装置では、こうした乾燥槽20に設置されるブロワ22が、洗浄液の噴射後のシート11にエアを吹き付けて乾燥させる上記乾燥手段に相当する構成となっている。
【0073】
次に、以上のように構成された本実施の形態の洗浄装置での多孔質金属基板の洗浄態様について説明する。本実施の形態の洗浄装置では、フープ10から巻き出されたシート11は、液槽13、洗浄槽17及び乾燥槽20を順次通過した後、巻取機構23によって巻き取られるようになっている。
【0074】
さてフープ10から巻き出された多孔質金属基板のシート11はまず、上記液槽13内の水溶液14を通過される。これにより、液槽13に貯留された水溶液14による銅の洗浄が、順次連続して行われる。こうした場合、多孔質金属基板は、シートの状態で水溶液14に浸されるため、斑無く、一様に、銅洗浄を行うことができる。
【0075】
なお、水溶液14中の過酸化水素は、その温度が35℃程度まで上昇すると、その大部分が分解してしまうため、水溶液14の精密な温度制御が必要となる。その点、本実施の形態では、同時に水溶液14に浸される多孔質金属板の量は、フープ10の一部のみであるため、化学反応による発熱は少なく、水溶液14の温度管理も容易となっている。
【0076】
また本実施の形態では、水溶液14中において多孔質金属基板のシート11を、複数回(ここでは3回)上下に折り返しながら移動させるようにしている。多孔質であり、空隙率の高いシート11は、図2に示すように、その移動に応じて周囲の水溶液14に比較的強い液流を発生させることから、そうしたシート11を複数回折り返して移動させることで、水溶液14を効果的に攪拌することができるようになる。そのため、この洗浄装置では、液槽13内に別途にプロペラなどを設置して水溶液14を攪拌しなくても、洗浄成分であるアンモニウムイオンや過酸化水素の濃度分布に斑が発生しないように水溶液14を攪拌することができるようになっている。
【0077】
こうして水溶液14に浸されたシート11は、続いて洗浄槽17に送られ、そこで洗浄液(純水)の噴射を受けることになる。そしてこれにより、シート11に残留した水溶液14が洗い流されるようになる。ここで本実施の形態では、そうした洗浄液の噴射範囲内において、プーリ16b〜16fにより案内されて、シート11が上下に折り返しながら移動するようになっている。こうした本実施の形態では、図3に示すように、シート11に噴射された洗浄液は、シート11の表面を伝って流れるようになる。そのため、洗浄液とシート11との接触時間が増すこととなり、水溶液14の残留成分の洗浄効率が向上されるようになっている。なお、本実施形態では、こうして洗浄液の噴射範囲内において、シート11を折り返して移動させるプーリ16b〜16fが上記移動手段に相当する構成となっている。
【0078】
こうして水溶液14の残留成分を洗浄されたシート11は、乾燥槽20に送られ、そこでエアの吹き付けを受けることとなる。そしてこれにより、シート11に残留した洗浄液が吹き飛ばされるようになる。このときのシート11は、エアの吹き付け範囲において、プーリ21a等により案内されて、上下に折り返しながら移動するようになっている。このときのシート11に残留した洗浄液は、図4に示すように、上方からのエアの吹き付けに加え、重力の作用により、シート11の表面を伝って下方に流れ落ちるようになる。そのため、シート11に残留した洗浄液を効率的に排出することができるようになっている。なお本実施形態では、こうしてエアの吹き付け範囲において、シート11を折り返して移動させるプーリ16g,21a,21bが、上記折り返し移動手段に相当する構成となっている。
【0079】
こうして乾燥されたシート11は、巻取機構23によって再びコイル状に捲回される。その後、そうした洗浄後の多孔質金属基板に各種の加工及び処理を行って、正極板を製造する。具体的には、多孔質金属基板へのリードの溶着、活物質ペーストの充填、及び単板切断等を通じて正極板が製造されている。そして、こうして製造された正極板を必要な枚数組み付けることで、アルカリ蓄電池が製造されるようになる。
【0080】
以上説明した本実施形態の極板用芯材の洗浄装置及び洗浄方法、並びにアルカリ蓄電池の製造方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の極板用芯材の洗浄装置では、金属不純物である銅の洗浄に供される水溶液が貯留された液槽13と、フープ10から巻き出された多孔質金属基板のシート11をその液槽13に貯留された水溶液の内部を通過するように案内する複数のプーリ12b〜12fと、水溶液の内部を通過したシート11を巻き取る巻取機構23と、を備えるようにしている。そしてフープ10から巻き出された多孔質金属基板のシート11を、液槽13を通過させた後に巻取機構23により巻き取るようにしている。こうした本実施の形態では、液槽13に貯留された水溶液による銅の洗浄が、フープ10から巻き出されたシート11に対し、順次、連続的に行われるようになる。このときの多孔質金属基板は、シート11の状態で水溶液に浸されるため、斑無く、一様にその金属不純物である銅の洗浄を行うことができる。また同時に水溶液に浸される多孔質金属板の量が限られるため、化学反応による発熱は少なく、溶液の温度管理も容易となる。
【0081】
(2)本実施の形態の極板用芯材の洗浄装置では、液槽13通過後のシート11に、残留した水溶液を洗浄するための洗浄液を噴射する配管18を備えるようにしている。そして液槽13通過後のシート11に洗浄液を噴射して、シート11に残留した水溶液を洗い落とすようにしている。そのため、金属不純物である銅の洗浄に加え、その洗浄後に残留した水溶液の洗浄も連続的に行うことができる。
【0082】
(3)本実施の形態の極板用芯材の洗浄装置では、洗浄液噴射後のシート11にエアを吹き付けて乾燥させるブロワ22を備えるようにしている。そしてブロワ22によるエアの吹き付けによって、洗浄液により湿ったシート11を乾燥させるようにしている。そのため、金属不純物である銅の洗浄、残留溶液の洗浄に続いて、シート11の乾燥が連続的に行われるようになる。
【0083】
(4)本実施の形態の極板用芯材の洗浄装置では、プーリ12b〜12fにより、液槽13の水溶液中でシート11を複数回折り返して移動させるようにしている。そのため、水溶液を攪拌するためのプロペラなどを別途に設けずとも、シート11の移動により水溶液を効果的に攪拌することができるようになり、その分、洗浄装置の低コスト化を図ることができる。
【0084】
(5)本実施の形態では、配管18からの洗浄液の噴射範囲内において、シート11を折り返して移動させるようにしている。そのため、噴射された洗浄液がシート11の表面を伝って流れるようになり、洗浄液とシート11との接触時間を増して、残留溶液の洗浄効率を向上することができるようになる。
【0085】
(6)本実施の形態では、ブロワ22によるエアの吹付範囲内において、シート11を折り返して移動させるようにしている。そのため、残留した洗浄液がシート11の表面を伝って流れ落ちるようになり、シート11に残留した洗浄液を効率的に排出することができるようになる。
【0086】
(7)本実施の形態のアルカリ蓄電池の製造方法では、多孔質金属基板からなる芯材に活物質を支持させたものを正極として備えるアルカリ蓄電池の製造に際して、その極板用芯材となる多孔質金属基板の洗浄を上述の態様で行うようにしている。そのため、極板用の芯材として用いられる多孔質金属基板に混入した金属不純物の洗浄をより効率的に行うことができ、金属不純物の混入の少ない正極板を備えた、信頼性の高いアルカリ蓄電池をより効率的に製造することができるようになる。
【0087】
(第2の実施の形態)
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態について、図5を併せ参照して詳細に説明する。なお、この第2の実施の形態において、上述した第1の実施の形態と同様或いはそれに準じた要素については、同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0088】
図5は、本実施の形態に係る極板用芯材の洗浄装置の全体構造を示している。本実施の形態では、乾燥槽20を通過したシート11を、検出室24を通過させた後、巻取機構23にて巻き取るようにしている。検出室24は、密封された容器であり、その内部には、検出室24内のシート11から揮発したアンモニアの濃度を検出するガスクロマト装置25が設置されている。こうしたガスクロマト装置25の検出結果からは、洗浄液の噴射後にも除去されずにシート11に残留した水溶液のアンモニア成分の量を確認することが、ひいては溶液洗浄の良否を確認することができる。
【0089】
こうしたガスクロマト装置25の検出信号は、制御装置26に入力されている。そして制御装置26はその検出信号に基づいて、配管18への洗浄液の供給量を調整する流量制御弁27を制御する。具体的には、制御装置26は、ガスクロマト装置25により検出されたアンモニア濃度が高く、溶液洗浄が不十分であることが確認されたときには、流量制御弁27の開度を大きくして、洗浄槽17においてシート11に噴射される洗浄液の噴射量を増大させる。一方、アンモニアが殆ど検出されず、溶液洗浄が十分に行われていることが確認されたときには、流量制御弁27の開度を小さくして、洗浄槽17においてシート11に噴射される洗浄液の噴射量を減少させる。これにより、溶液洗浄を過不足なく行えるようにしている。
【0090】
こうした本実施の形態では、ガスクロマト装置25が、溶液の残留成分の量の検出を通じて、エアの吹き付け後のシート11についてその洗浄の良否を検出する上記検出手段に相当する構成となっている。また本実施の形態では、制御装置26が、検出手段の検出結果に応じて、金属不純物の洗浄条件、溶液の洗浄条件、及び乾燥条件の少なくとも一つを変更する変更手段に相当する構成となっている。そしてそうした本実施の形態の制御装置26は、ガスクロマト装置25の検出結果に応じて、洗浄液の噴射量の調整を通じて洗浄槽17における溶液の洗浄条件を変更するものとなっている。
【0091】
以上説明した本実施形態によれば、上記(1)〜(7)に記載の効果に加え、更に以下の効果を奏することができる。
(8)本実施形態では、エアの吹き付け後のシート11についてそのアンモニアの残留成分の量をガスクロマト装置25により検出し、その検出結果に応じて洗浄槽17における配管18からの洗浄液の噴射量を調整するようにしている。そのため、溶液洗浄の過不足が確認されたときには、その後に処理されるシート11の溶液洗浄を過不足なく行えるように溶液洗浄の条件を変更することができる。
【0092】
なお、こうした本実施の形態は、次のように変更して実施することもできる。
上記実施の形態では、ガスクロマト装置25の検出結果に応じて、洗浄液の噴射量を変更するようにしていたが、例えば以下の態様でも、溶液洗浄の過不足を修正することができる。すなわち、洗浄槽17での洗浄液の噴射範囲内におけるシート11の移動距離を変更することによっても、溶液洗浄の過不足を修正することが可能である。こうしたシート11の移動距離の変更は、例えば洗浄槽17に設置されるプーリを移動させることで行うことができる。図6に示される構成例では、洗浄槽17の下部に設置される3つのプーリを、固定された固定プーリ28a〜28cとする一方、その上部に設置される2つのプーリを上下方向に移動可能な可動プーリ29a,29bとするようにしている。この場合、可動プーリ29a,29bを上下方向に移動させることで、洗浄液の噴射範囲内におけるシート11の移動距離を伸縮することができる。例えば2つの可動プーリ29a,29bを上方に移動させれば、洗浄液噴射範囲内のシート11の移動距離を延長することが、2つの可動プーリ29a,29bを下方に移動させれば、洗浄液噴射範囲内のシート11の移動距離を短縮することが、それぞれ可能となる。そのため、例えば溶液洗浄の不足が確認されたときには、洗浄液噴射範囲内のシート11の移動距離を長くして溶液洗浄の時間を延長したり、溶液洗浄が過剰であることが確認されたときには、洗浄液噴射範囲内のシートの移動距離を短くして溶液洗浄の時間を短縮したり、といった対応が可能となる。また、洗浄液噴射範囲内におけるシート11の移動速度を変更することによっても、溶液洗浄の時間を調整することが可能である。
【0093】
また、上記実施の形態では、乾燥後のシート11に残留したアンモニアの量を検出することで、溶液洗浄の良否を確認するようにしていたが、他の方法で洗浄の良否の確認を行うことも可能である。例えば回収口19からの排水のペーハー(pH)やアンモニア濃度を確認すれば、洗浄の良否を間接的に確認することができる。また乾燥後のシート11に残留する水分の量を検出すれば、乾燥の良否を確認することができる。そこでこれらの検出結果に応じて、銅洗浄や乾燥の条件を変更して、銅洗浄や乾燥の過不足を修正することが可能となる。
【0094】
例えば、銅洗浄の過不足の修正は、水溶液内でのシート11の移動距離や移動速度を変更して、シート11を水溶液に浸し込んでいる時間を調整することで行うことができる。また水溶液の温度やその攪拌強度、その洗浄成分の濃度を変更して、水溶液の洗浄力を調整することによっても、銅洗浄の過不足の修正することが可能である。また乾燥の過不足は、エアの吹き付け範囲内のシート11の移動距離や移動速度を変更して、乾燥の時間を調整することなどで行うことができる。
【0095】
更に上述した各実施の形態は、以下のように変更して実施することも可能である。
・上記実施の形態では、液槽13においてシート11を水溶液内で複数回折り返して移動させるようにしていたが、プロペラ等を用いて別途に水溶液の攪拌を行う場合などには、折り返さずにシート11を移動させるようにしても良い。
【0096】
・シート11を折り返して移動させなくても、水溶液の洗浄や乾燥を十分に行えるのであれば、水溶液の噴射範囲内やエアの吹付範囲内でシート11を折り返さずに移動させるようにしても良い。
【0097】
・上記実施の形態では、シート11の銅洗浄を行った後に連続して、シート11に残留した水溶液の洗浄工程とその洗浄後のシート11の乾燥工程とを行うようにしていたが、これらの工程が不要である場合、或いはこれらの工程を後で別に行う場合などには、シート11の銅洗浄のみを行うようにしても良い。例えば、水溶液を通過したシート11をそのまま巻き取ってフープとし、そのフープの状態で、溶液洗浄や乾燥を行うようにすることもできる。
【0098】
・上記実施の形態では、金属不純物の洗浄に使用する溶液として、アンモニウムイオンと過酸化水素とを含有する水溶液を使用するようにしていたが、必要に応じてそれ以外の溶液を使用するようにしても良い。例えば銅以外の金属不純物の混入が問題となる場合には、その洗浄には、上記水溶液以外の別種の溶液が必要となることがある。また、そうした溶液の残留成分の洗浄に使用される洗浄液として、純水以外の洗浄液を使用するようにしても良い。
【0099】
(第3の実施の形態)
次に、本発明を具体化した第3の実施の形態について、図7を併せ参照して詳細に説明する。なお、この第3の実施の形態において、上述した各実施の形態と同様或いはそれに準じた要素については、同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0100】
図7は、本実施の形態の極板用芯材の洗浄装置の全体構成を示している。同図に示すように、本実施の形態の洗浄装置は、密閉されたチャンバ30内に設置されている。なおチャンバ30には、安全弁31が取り付けられており、チャンバ30内が高圧になり過ぎたときに、この安全弁31から圧力が逃されるようになっている。
【0101】
こうしたチャンバ30の図中左端部には、多孔質金属基板をコイル状に捲回したフープ32が設置されるようになっている。そしてそのフープ32からは、多孔質金属基板のシート32aが順次巻き出されるようになっている。
【0102】
こうしたフープ32の設置部分の図中右側には液槽33が設置されている。そしてフープ32から巻き出された多孔質金属基板のシート32aは、複数のプーリ33aにより案内されて、その液槽33の内部に貯留された水溶液34の内部を通過されるようになっている。この水溶液34は、アンモニウムイオンと過酸化水素水とを含有するものとなっている。
【0103】
この液槽33には、温度計35が設置されており、その検出結果に基づいて、過酸化水素が分解しないように水溶液34の温度管理がなされている。なお水溶液34は、こうした液槽33と溶液タンク36との間を常時循環されている。
【0104】
また液槽33内部の水溶液34の一部はポンプ37によって汲み出され、2成分濃度計38に送られるようになっている。この2成分濃度計38では、水溶液34の過酸化水素やアンモニアの濃度が検出されている。そしてその検出結果に応じて、水溶液34が薄まったことが確認されたときには、過酸化水素やアンモニアが液槽33内に追加されるようになっている。
【0105】
なおこうした液槽33の近傍には、水が蓄えられた水槽33bが設置されている。この水槽33bには、水溶液34が突沸したときに、これを強制冷却するために設けられている。
【0106】
こうした液槽33の図中右上方には、エアを噴射するブロワ39が複数設置されている。そしてこれらのブロワ39から噴射されたエアにより、シート32a上に残留した水溶液34の液滴を吹き飛ばすようにしている。
【0107】
また液槽33の図中右側には、水槽40が設置されている。そしてブロワ39からのエアシャワーを通過したシート32aが、水槽40に貯留された水41の内部を通過されるようになっている。
【0108】
こうした水槽40の図中右上方には、水を噴射するノズル42が複数設置されている。そして水槽40の水41の内部を通過後のシート32aに、これらのノズル42から水が噴射されるようになっている。なおこうして噴射された水(排液)は、その後に回収され、2成分濃度計43に送られる。この2成分濃度計43では、過酸化水素ややアンモニアの濃度が測定され、その測定結果から、洗浄の良否が確認されるようになっている。ここで洗浄不足が確認されたときには、水タンク44に貯留された新鮮な水によって、水槽40内の水41が入れ替えられるようになっている。
【0109】
ノズル42の図中右側には、高温に熱せられたエア(熱風)を送風するブロワ45が設置されている。そしてこのブロワ45から出された熱風は、上記ノズル42からの水シャワーを通過したシート32aに吹き付けられて、シート32aに残留した水分を乾燥させている。
【0110】
ブロワ45の図中右側には、巻取機構46が設置されており、熱風乾燥後のシート32aが再びコイル状に巻回されるようになっている。なお巻取機構46の設置部分には、その周囲の空気中のアンモニア濃度を検出するための、例えばガスクロマト装置のようなアンモニア検知器47が設置されており、その検知結果に応じて洗浄の良否が確認されるようになっている。
【0111】
こうして巻取機構46により捲回された洗浄後の多孔質金属基板のシート32aは、正極板を製造するための各種の加工や処理に送られる。そして製造された正極板を必要な枚数組み付けることで、アルカリ蓄電池が製造されるようになっている。
【0112】
なお本実施の形態では、プーリ33aが上記案内手段に相当する構成となっている。またノズル42が上記噴射手段に、ブロワ45が上記乾燥手段に、それぞれ相当する構成となっている。更に本実施の形態では、水タンク44による水槽40内の水の入れ替えによって、上記変更手段による溶液の洗浄条件の変更がなされるようになっている。
【0113】
以上説明した本実施の形態によっても、第1の実施の形態における上記(1)〜(3)及び(7)に記載のものと同様の効果を奏することができる。またこれらに加え、更に以下の効果についても奏することができるようになる。
【0114】
(9)本実施の形態の極板用芯材の洗浄装置では、ノズル42からの水シャワーに晒される前のシート32aを水に浸し込むための水槽40を備えるようにしている。そのため、金属不純物の洗浄に使用した水溶液34の残留成分の洗浄が、水槽洗浄と洗浄液噴射(水シャワー)との2段階で行われるようになり、洗浄の効果や効率を向上することができる。
【0115】
(10)本実施の形態では、ノズル42により噴射された水の排液を2成分濃度計43で濃度測定(ペーハー(pH)やアンモニア濃度の測定)するようにしている。こうした濃度測定の結果によれば、洗浄の良否を間接的に確認することができるようになる。
【0116】
(11)本実施の形態では、水溶液34内を通過後のシート32aにブロワ39からのエアシャワーを行って、シート32a上の水溶液34の液滴を吹き飛ばすようにしている。そのため、シート32aからの水溶液34の残留成分の除去をより効果的に行うことができる。
【0117】
(12)本実施の形態では、シート32aの乾燥をブロワ45から送風される熱風にて行っているため、シート32aに残留した水分をより効率的、効果的に乾燥させることができる。
【0118】
(13)本実施の形態では、2成分濃度計43とアンモニア検知器47との2箇所において、洗浄の良否をそれぞれ別途に検出するようにしている。そのため、洗浄の良否をより正確に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の第1実施形態についてその極板用芯材の洗浄装置の全体構造を模式的に示す略図。
【図2】同実施形態についてその液槽内でのシートの移動態様を模式的に示す略図。
【図3】同実施形態についてその洗浄槽における洗浄液の噴射態様を模式的に示す略図。
【図4】同実施形態についてその乾燥槽におけるエアの吹付態様を模式的に示す略図。
【図5】本発明の第2実施形態についてその極板用芯材の洗浄装置の全体構造を模式的に示す略図。
【図6】同実施形態の別の実施例についてその洗浄槽の構造を模式的に示す略図。
【図7】本発明の第3実施形態についてその極板用芯材の洗浄装置の全体構造を模式的に示す略図。
【図8】従来の極板用芯材の洗浄態様を模式的に示す略図。
【符号の説明】
【0120】
10,32…フープ、11,32a…シート、12a〜12g,33a…プーリ(案内手段)、13,33…液槽、14,34…水溶液、15…廃液口、16a〜16g…プーリ(移動手段、プーリ16gは折り返し移動手段にも該当)、17…洗浄槽、18…配管(噴射手段)、19…回収口、20…乾燥槽、21a,21b…プーリ(折り返し移動手段)、22…ブロワ(乾燥手段)、23,46…巻取機構、24…検出室、25…ガスクロマト装置(検出手段)、26…制御装置、27…流量制御弁、28a〜28c…固定プーリ、29a,29b…可動プーリ、30…チャンバ、31…安全弁、35…温度計、36…溶液タンク、37…ポンプ、38…2成分濃度計、39…ブロワ、40…水槽、41…水(洗浄液)、42…ノズル(噴射手段)、43…2成分濃度計(検出手段)、44…水タンク、45…ブロワ(乾燥手段)、47…アンモニア検出器(検出手段)、50…フープ、51…水溶液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ蓄電池の極板の芯材として用いられる多孔質金属基板に混入した金属不純物を洗浄するための極板用芯材の洗浄装置であって、
前記金属不純物の洗浄に供される溶液が貯留された液槽と、
コイル状に捲回されたフープから巻き出された前記多孔質金属基板のシートを前記液槽に貯留された前記溶液の内部を通過するように案内する案内手段と、
前記溶液の内部を通過後の前記多孔質金属基板のシートを巻き取る巻取機構と、
を備えることを特徴とする極板用芯材の洗浄装置。
【請求項2】
前記液槽の通過後の前記シートに残留した前記溶液を洗浄するための洗浄液を噴射する噴射手段を備える
請求項1に記載の極板用芯材の洗浄装置。
【請求項3】
前記洗浄液の噴射後の前記シートにエアを吹き付けて乾燥させる乾燥手段を備える
請求項2に記載の極板用芯材の洗浄装置。
【請求項4】
前記エアの吹き付け後の前記シートについてその洗浄の良否を検出する検出手段と、
その検出手段の検出結果に応じて、前記金属不純物の洗浄条件、前記溶液の洗浄条件、及び乾燥条件の少なくとも一つを変更する変更手段と
を備える請求項3に記載の極板用芯材の洗浄装置。
【請求項5】
前記検出手段は、前記溶液の残留成分の量を検出することで、前記洗浄の良否を検出するものである
請求項4に記載の極板用芯材の洗浄装置。
【請求項6】
前記検出手段は、前記噴射手段により噴射された前記洗浄液の排液を2成分濃度計で濃度測定することで、前記洗浄の良否を検出するものである
請求項4又は5に記載の極板用芯材の洗浄装置。
【請求項7】
前記変更手段は、前記検出された前記洗浄の良否に応じて、前記噴射手段による前記洗浄液の噴射範囲内における前記シートの移動距離を変更するものである
請求項5又は6に記載の極板用芯材の洗浄装置。
【請求項8】
前記変更手段は、前記検出された前記洗浄の良否に応じて、前記噴射手段による前記洗浄液の噴射量を変更するものである
請求項5又は6に記載の極板用芯材の洗浄装置。
【請求項9】
前記案内手段は、前記液槽の溶液中で前記シートを複数回折り返して移動させるものである
請求項1〜8のいずれか1項に記載の極板用芯材の洗浄装置。
【請求項10】
前記噴射手段によって前記洗浄液が噴射される前の前記シートが浸し込まれる水槽を備える
請求項2に記載の極板用芯材の洗浄装置。
【請求項11】
前記噴射手段による前記洗浄液の噴射範囲内において、前記シートを折り返して移動させる移動手段を備える
請求項2又は10に記載の極板用芯材の洗浄装置。
【請求項12】
前記乾燥手段による前記エアの吹付範囲内において、前記シートを折り返して移動させる折り返し移動手段を備える
請求項3に記載の極板用芯材の洗浄装置。
【請求項13】
アルカリ蓄電池の極板の芯材として用いられる多孔質金属基板に混入した金属不純物を洗浄するための洗浄方法であって、
コイル状に捲回されたフープから巻き出された前記多孔質金属基板のシートを、前記金属不純物の洗浄に供される溶液の貯留された液槽を通過させた後に巻き取る工程を備える
ことを特徴とする極板用芯材の洗浄方法。
【請求項14】
前記液槽の通過後の前記シートに、残留した前記溶液を洗浄するための洗浄液を噴射する工程を備える
請求項13に記載の極板用芯材の洗浄方法。
【請求項15】
前記洗浄液の噴射後の前記シートにエアを吹き付けて乾燥させる工程を備える
請求項14に記載の極板用芯材の洗浄方法。
【請求項16】
前記エアの吹き付け後の前記シートについてその洗浄の良否を検出し、その結果に応じて、前記金属不純物の洗浄条件、前記溶液の洗浄条件、乾燥条件前記溶液の少なくとも一つを変更する
請求項15に記載の極板用芯材の洗浄方法。
【請求項17】
前記洗浄の良否は、前記シートの前記溶液の残留成分の量の検出結果に基づいて検出される
請求項16に記載の極板用芯材の洗浄方法。
【請求項18】
前記洗浄の良否は、前記洗浄液を噴射する工程において噴射された前記洗浄液の排液を2成分濃度計で濃度測定することで検出される
請求項16又は17に記載の極板用芯材の洗浄方法。
【請求項19】
前記洗浄の良否に応じて、前記洗浄液の噴射範囲内における前記シートの移動距離を変更する
請求項17又は18に記載の極板用芯材の洗浄方法。
【請求項20】
前記洗浄の良否に応じて、前記洗浄液の噴射量を変更する
請求項17又は18に記載の極板用芯材の洗浄方法。
【請求項21】
前記液槽の通過に際して、前記液槽の溶液中で前記シートを複数回折り返して移動させるようにした
請求項13〜20のいずれか1項に記載の極板用芯材の洗浄方法。
【請求項22】
前記洗浄液を噴射する工程の前に、前記シートを水槽に浸し込んで洗浄する工程を備える
請求項14に記載の極板用芯材の洗浄装置。
【請求項23】
前記シートを折り返して移動させながら前記洗浄液の噴射を行う
請求項14又は22に記載の極板用芯材の洗浄方法。
【請求項24】
前記シートを折り返して移動させながら前記エアの吹き付けを行う
請求項15に記載の極板用芯材の洗浄方法。
【請求項25】
多孔質金属基板からなる芯材に活物質を支持させたものを正極として備えるアルカリ蓄電池の製造方法であって、
請求項13〜24のいずれかに記載の極板用芯材の洗浄方法を用いて前記芯材を洗浄する工程を備える
ことを特徴とするアルカリ蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−87661(P2009−87661A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254863(P2007−254863)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(399107063)パナソニックEVエナジー株式会社 (193)
【Fターム(参考)】