説明

極細繊維布帛とその製造方法

【課題】カバーファクターが高く、目ズレの起きにくく、耐磨耗性に優れた高密度極細繊維布帛とその製造方法を提供する。
【解決手段】島成分の数平均直径が1nm〜500nmである海島型複合繊維を脱海処理し、極細繊維とした後に撚糸して得た極細繊維束を用いて製編織した極細繊維布帛の製造方法。極細繊維束の撚係数kが2000〜25000であることが好ましい。また脱海後の織編物のカバーファクターCFが1500〜3500であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単繊維直径がナノメーターレベルの極細繊維を用いた布帛、特に高密度の織編物からなる極細繊維布帛とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単繊維直径が数μmや数百nm以下の極細繊維は、細く柔軟であるため細かい溝へ入り込んだり、また表面積増大による高い吸着性能を有しており、精密機器などのワイピングクロスとして利用されている。また、これら極細繊維を使った布帛は、繊維がきめ細かいため、布帛表面を平滑にすることができることから、高い平滑性を求められる研磨材としても多く利用されている。また、きめ細やかなタッチが好まれ、人工皮革や新触感テキスタイルとしても展開されている。
【0003】
これら極細繊維の布帛を得る方法としては、例えば海島型複合繊維または分割型複合繊維を布帛化し、この布帛を脱海または分割する方法が挙られ、特に単繊維直径が1μm以下となる超極細繊維を得るためには海島型複合繊維が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、海島型複合繊維を布帛化後に脱海処理を施す方法では、海成分を分解または溶解した分だけ空隙ができ繊度が低減するため、脱海前が高密度の布帛であっても脱海後の密度低下は避けられなかった。特に織物では繊度低減によって目が粗くなる、いわゆるカバーファクターの低下が起こるため、目ズレが起きやすくなったり、ワイピング、研磨性能が低下したり、衣料用途展開が制限されたりする問題があった。これを解決する手段として、極細繊維織物に高圧流体を当て、極細繊維束をばらけさせて見掛け密度を上げることが提案されている(例えば、特許文献2、3および4参照)。しかしながら、この方法では見掛け密度は高くなるものの、単に極細繊維がばらけているだけであってカバーファクターは変わっていないため、目ズレ改善には十分でなかった。また、隣同士の繊維糸条と絡んで拘束しあうため、布帛に柔軟性がなくなりペーパーライクなものになっていた。また、極細繊維をばらけさせるため、繊維が脱落しやすくなったり、極細繊維束の強度が低下し、研磨材として用いた場合に耐久性の低下にもつながってしまうという問題がある。
【0005】
カバーファクター低減を目的とし、熱によって収縮したり、潜在捲縮性のある太繊度繊維と極細繊維とを混繊あるいは混織させた布帛を熱処理させ、カバーファクターを向上させる方法も検討されている(例えば、特許文献5、6および7参照)。しかしながら、太い繊維が研磨性能や吸着性能を低下したり、太い繊維が表面に露出した場合には、ワイピング時に基材を傷つける可能性があるため、精密機器のワイピング材としては適用できなかった。
【0006】
また、極細繊維布帛を有機溶剤によって収縮させる方法も提案されているが(例えば、特許文献8および9参照)、溶剤処理による強度低下を招いたり、生産時の安全性や製品の安全性、昨今の環境問題を考えると改善余地の多いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−244758号公報
【特許文献2】特開昭60−39439号公報
【特許文献3】特開昭61−39439号公報
【特許文献4】特開昭61−58573号公報
【特許文献5】特開平2−89144号公報
【特許文献6】特開平9−19393号公報
【特許文献7】特開平10−212629号公報
【特許文献8】特開昭56−154546号公報
【特許文献9】特開昭61−146840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高密度極細繊維布帛とその製造方法、特にカバーファクターが高くて目ズレが起きにくく、耐磨耗性に優れた高密度極細繊維布帛とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は主として次の構成からなる。すなわち、
1.島成分の数平均島直径が1nm〜500nmである海島型複合繊維を脱海処理し、極細繊維とした後に撚糸して得た極細繊維束を用いて製編織することを特徴とする極細繊維布帛の製造方法。
2.極細繊維束の撚係数kが2000〜25000であることを特徴とする前記1に記載の極細繊維布帛の製造方法。
3.極細繊維束から製編織される脱海後の織編物のカバーファクターCFが1500〜3500となるように製編織することを特徴とする前記1または2に記載の極細繊維布帛の製造方法。
4.海島型複合繊維の海成分面積比率Sが50〜90%であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の極細繊維布帛の製造方法。
5.島成分全体に占める、島直径が500nmより大きい島成分の面積比率が3%以下であることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の極細繊維布帛の製造方法。
6.撚糸形態が諸撚であることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載の極細繊維布帛の製造方法。
7.諸撚における下撚と上撚の撚方向が互いに逆方向であり、下撚数と上撚数との差の絶対値が100以下であることを特徴とする前記1〜6のいずれかに記載の極細繊維布帛の製造方法。
8.海島型複合繊維の総繊度が50〜500dtexであることを特徴とする前記1〜7のいずれかに記載の極細繊維布帛の製造方法。
9.数平均直径が1nm〜500nmの極細繊維からなる極細繊維束を用いた織編物からなる、極細繊維束の撚係数kが2000〜25000、カバーファクターCFが1500〜3500であることを特徴とする極細繊維布帛。
10.極細繊維全体に占める、繊維直径が500nmより大きい極細繊維の面積比率が3%以下であることを特徴とする前記9に記載の極細繊維布帛。
11.撚糸形態が諸撚であることを特徴とする前記9または10に記載の極細繊維布帛。
12.諸撚における下撚と上撚との撚方向が互いに逆方向であり、下撚数と上撚数との差の絶対値が100以下であることを特徴とする前記11に記載の極細繊維布帛。
13.極細繊維束の総繊度が30〜300dtexであることを特徴とする前記8〜10のいずれかに記載の極細繊維布帛。
【発明の効果】
【0010】
本発明の布帛は、コンピューター関連機器や光学機器などの精密機器のワイピング材や研磨材として利用することができる。また、カバーファクターが大きく、目ズレ、型崩れの起きにくい極細繊維からなる高密度の織編物であるため、きめの細かい新触感風合テキスタイルとして衣料用途へ展開することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る極細繊維布帛について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0012】
本発明における極細繊維布帛とは、極細繊維を用いた布帛全般をいい、特に極細繊維を用いた織物および編物(以下、あわせて織編物という)をいう。
【0013】
本発明に用いる極細繊維は、数平均による直径が1〜500nmであることが重要である。これにより、単繊維の絶対強度が得られる。また、ナノメーターレベルの繊維であるため表面積が大きく単糸同士の凝集力が高くなり、極細繊維束としても高い強度を得ることができる。例えば極細繊維束を用いた織編物をワイピング材や研磨材に用いたときに、単糸切れ、毛羽落ち、繊維束切れを抑制でき、織編物強度としても高いものを得ることができる。また、極細繊維で形成される繊維束であるため、ワイピングや研磨時に傷を付けにくく、繊維が細かい溝まで入り込んで高い拭き取り性能を発揮したり、高い平滑性を得られるという利点もある。
【0014】
本発明の極細繊維の数平均による直径は、前記したように、1〜500nmであることが重要であるが、好ましくは1nm〜200nm、より好ましくは30nm〜100nmである。
【0015】
本発明において、極細繊維の数平均による直径は以下のようにして求めることができる。すなわち、極細繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)倍率40000倍で観察し、同一横断面内で無作為に抽出した50個の極細繊維の円換算直径を求め、数平均を計算する。
【0016】
また、本発明で用いる極細繊維は、直径が500nmより大きい直径範囲にある粗大繊維の面積比率が3%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0%である。すなわち、これは500nmを越える粗大な繊維の存在がゼロに近い、もしくはないことを意味するものである。ここで粗大繊維の面積比率とは、極細繊維全体に対する粗大繊維(直径が500nmより大きい繊維)の面積比率のことを意味し、次のようにして計算する。すなわち、極細繊維の直径をdiとし、その2乗の総和(d1+d2+・・+d50)=Σdi(i=1〜50)を算出する。また、直径500nmより大きい粗大繊維の直径をDiとし、その2乗の総和(D1+D22+・・+Dm)=ΣDi(i=1〜m)を算出する。Σdiに対するΣDiの割合を算出することで、全極細繊維に対する粗大繊維の面積比率を求めることができる。
【0017】
また、極細繊維の数平均による直径が200nm以下の場合には、直径200nmより大きい繊維の面積比率は、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0%であることである。
【0018】
また、極細繊維の数平均による直径が100nm以下の場合には、直径100nmより大きい繊維の面積比率は、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0%である。
【0019】
このような粗大繊維の少ない、または粗大繊維の無い極細繊維束を用いることにより、ワイピングや研磨時に傷を付けにくく、高性能ワイピング材や研磨材を得ることができる。
【0020】
本発明で用いる極細繊維束の撚係数kは、2000〜25000であることが重要である。諸撚糸の場合は、下撚、上撚のいずれか、または両方の撚係数kが2000〜25000であることが重要である。撚係数kを2000以上とすることで極細繊維束内の極細繊維間の拘束力が得られ、繊維脱落が起こりにくくなる。極細繊維束の撚係数kが2000〜25000の範囲の中で15000より大きいと、極細繊維束内の極細繊維間の拘束力が十分に得られ、繊維脱落が起こりにくくなるため好適である。また、極細繊維束内の極細繊維間の拘束力が十分に高いため、極細繊維束があたかも1本の糸のようになり、このような撚係数の大きい極細繊維束を用いることにより、耐磨耗性に優れたワイピング材や研磨材を得ることができる。一方、撚係数kを大きくしすぎると、極細繊維束が立体的にねじれた形態になったり、極細繊維束長手方向と極細繊維長手方向に角度が生じすぎたりして、極細繊維束の強度低下が著しくなるため、25000以下であることが好ましい。したがって、本発明で用いる極細繊維束の撚係数kは、より好ましい範囲は15000より大きく25000以下であり、さらに好ましくは17000〜25000である。
【0021】
ここで、撚係数kは、
撚係数k=T×D1/2
ただし、T:糸長1mあたりの撚数、D:トータル繊度(dtex)
で表されるものである。
【0022】
撚糸形態は、片撚や諸撚、芯糸の周りに他の糸を巻き付けたカバリングなどを採用することができる。特に下撚と上撚との撚方向が互いに逆方向で、下撚数と上撚数が近い諸撚は、撚糸の残留トルクが少なく、上撚で繊維を拘束して繊維脱落しにくく、かつフィラメントが撚糸内で解撚されており、極細繊維束同士や極細繊維束内の単繊維がばらけ易くなりワイピング性能が向上するため好適である。
【0023】
また、下撚と上撚との撚方向が互いに逆方向である諸撚の場合、下撚数t1と上撚数t2との差の絶対値は100以下、つまり下式の範囲であることが好ましい。
−100≦t1−t2≦100
この範囲であれば、フィラメントが撚糸内で解撚されており、極細繊維束同士や極細繊維束内の単繊維がばらけ易くなる。t1とt2との差の絶対値としてより好ましくは50以下、さらに好ましくは10以下、さらに好ましくはフィラメントが撚糸内で完全解撚されている0である。
【0024】
本発明の布帛は、カバーファクターCFを1500〜3500とすることが重要であり、より好ましくは1500〜2800、さらに好ましくは1500〜2500、もっとも好ましくは1800〜2200である。
【0025】
ここで、カバーファクターCFとは、織編物を構成する糸条の太さと糸密度によって定められる織編物構造の粗密を表す係数で、カバーファクターCFが大きいほど織編物が密に詰まっている。カバーファクターCFが1500未満であると、目が粗く空隙が多くなり見ズレが起きやすく、また織編物の風合いにおいて張り・腰感が乏しくなる。一方、カバーファクターCFが3500を超えると、製編織が困難になったり、織編物の滑脱抵抗が増加して引裂強力の低下を招いてしまう。
【0026】
カバーファクターCFは、布帛が織物の場合、経糸密度をX(本/2.54cm)、織物の緯糸本数をY(本/2.54cm)、経糸の繊度をD1(dtex)、緯糸の繊度をD2(dtex)とすると、次の式で算出される。
CF=X×D11/2+Y×D21/2
【0027】
また、布帛が編物の場合、本発明ではカバーファクターCFを次のように規程する。すなわち、2.54cmあたりのコース数(ループの緯方向のつらなり個数)の2倍をX、2.54cmあたりのウェール数(ループの経方向のつらなり個数)をY、使用糸の繊度をD(dtex)とすると、次の式で算出される。
CF=(X+Y)×D1/2
【0028】
本発明において、布帛を構成する各極細繊維束の総繊度が30〜300dtexであることが好ましい。30dtex以上とすることで極細繊維束の絶対強度が得られ、引き裂きや引っ張り強度も十分高いものが得られる。また、300dtex以下とすることで布帛の風合がソフトで、布帛の凹凸も小さくなるため、高性能ワイピング材や研磨布を得ることができる。
【0029】
次に本発明の極細繊維布帛の製造方法について、詳細に説明する。
【0030】
本発明の極細繊維布帛の製造方法は、島成分の数平均島直径が1nm〜500nmである海島型複合繊維を脱海処理し、極細繊維とした後に撚糸して得た極細繊維束を用いて製編織することを特徴とするものである。
【0031】
本発明に用いる海島型複合繊維とは、溶剤、酸、アルカリ、水(熱水も含む)などの液体に対する溶解性(分解性も含む)の異なる2種以上のポリマーからなり、易溶解性ポリマーが海成分、難溶解性ポリマーを島成分に持つ構造の繊維のことで、繊維断面形状や島断面形状、島数などには限定がないものである。
【0032】
本発明において、海島型複合繊維の製造方法は特に限定されず、海成分となるポリマーと島成分となるポリマーを別々に溶融して海島複合紡糸によって得られたり、海成分と島成分のポリマーを予め押出混練機や加圧ニーダーなどで混ぜ合わせたり、静止混練機などで細かく分割したりして得られたポリマーアロイを溶融紡糸して得ることができる。溶融紡糸法により得るための製造方法の一例として、例えば、特開2004−169261号公報に記載されている公知の方法を採用することができる。
【0033】
特にポリマーアロイを溶融紡糸して得られる海島型複合繊維を用いる場合、海成分面積比率Sを50〜90%と高く設定すると、数平均島直径の小さな海島型複合繊維とすることができ、また島成分同士の距離を離すことができるため、島成分の合流を抑制することができる。海成分面積比率Sは、より好ましくは55〜85%である。
【0034】
ここで、海成分面積比率Sとは、次のようにして計算する。すなわち、海島型複合繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)倍率40000倍で観察し、4μm(実像64cm)の範囲にある海成分面積sμmを求め、4μmに対するsμmの割合を算出することで海成分面積比率Sを求めることができる。
【0035】
本発明に用いる海島型複合繊維は、数平均による島直径は1〜500nmであることが重要である。これにより、後に行う脱海処理を経て得られる単繊維の絶対強度が得られ、また、最終的に得られる繊維もナノメーターレベルの繊維であるため表面積が大きく単糸同士の凝集力が高くなり、極細繊維束としても高い強度を得ることができる。例えば、極細繊維束を用いた織編物をワイピング材や研磨材に用いたときに、単糸切れ、毛羽落ち、繊維束切れを抑制でき、織編物強度としても高いものを得ることができる。また、極細繊維で形成される繊維束であるため、ワイピングや研磨時に傷を付けにくく、繊維が細かい溝まで入り込んで高い拭き取り性能を発揮したり、高い平滑性を得られるという利点もある。
【0036】
また、一般に極細繊維と呼ばれる単繊維直径1〜10μm程度の繊維を使用して製編織しようとすると、10μm以上の通常繊維に比べ表面積が多いため、静電気が発生しやすかったり、単繊維がばらけて毛羽が発生したりして、工程通過が悪くなり、製編織が難しいが、数平均による島直径が1〜500nmの海島型複合繊維を脱海して得られた極細繊維束は、単繊維の表面積が極端に大きく、単繊維同士の凝集力が高いため、単繊維がばらけにくい束となり、あたかも1本の糸のような形態になる。また、その高い凝集力のため、本発明のように糸の状態で脱海処理が可能となる。そのため、海島型複合繊維の数平均による島直径が1〜500nmであることが重要である。
【0037】
海島型複合繊維の数平均による島直径としては、好ましくは1nm〜200nm、より好ましくは30nm〜100nmである。
【0038】
本発明において、海島型複合繊維の数平均による島直径は以下のようにして求めることができる。すなわち、海島型複合繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)倍率40000倍で観察し、同一横断面内で無作為に抽出した50個の島成分の円換算直径を求め、数平均を計算する。
【0039】
また、本発明で用いる海島型複合繊維は、島直径が500nmより大きい粗大な島成分の面積比率が3%以下であることが好ましい。ここで、粗大島成分の面積比率とは、脱海後に極細繊維となる島成分に対する粗大島成分(直径が500nmより大きい島)の面積比率のことを意味し、次のようにして計算する。すなわち、島成分の直径をdiとし、その2乗の総和(d1+d2+・・+d50)=Σdi(i=1〜50)を算出する。また、直径500nmより大きい島成分の直径をDiとし、その2乗の総和(D1+D2+・・+Dm)=ΣDi(i=1〜m)を算出する。Σdiに対するΣDiの割合を算出することで、全極細繊維に対する粗大繊維の面積比率を求めることができる。
【0040】
本発明で用いる海島型複合繊維は島直径500nmより大きい直径範囲にある粗大島成分の面積比率が3%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0%である。すなわち、これは500nmを越える粗大な島成分の存在がゼロに近い、もしくはないことを意味するものである。
【0041】
また、海島型複合繊維の数平均による島直径が200nm以下の場合には、直径200nmより大きい島成分の面積比率は、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0%であることである。
【0042】
また、海島型複合繊維の数平均による島直径が100nm以下の場合には、直径100nmより大きい島成分の面積比率は、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0%である。
【0043】
このような海島型複合繊維を用いることにより、脱海後に得られる極細繊維束は粗大繊維の混入が極めて低くなる。そのため、脱海中や脱海後に単繊維同士の凝集力が強固となり、ばらけにくく脱海や製編織時の工程通過性が良好となる。
【0044】
本発明で用いる海島型複合繊維は、熱可塑性ポリマーからなることが好ましい。これにより、海島型複合繊維を溶融紡糸法を利用して製造することができるために、生産性を非常に高くすることができる。なお、本発明における極細繊維全般に亘り、熱可塑性ポリマーからなることが好ましい。本発明でいう熱可塑性ポリマーとは、ポリエチレンレタフタレート(以下、PETと呼ぶことがある)、ポリブチレンレフタレート、ポリ乳酸(以下、PLAと呼ぶことがある)などのポリエステルや、ナイロン6(以下、N6と呼ぶことがある)、ナイロン66などのポリアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン(以下、PPと呼ぶことがある)などのポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと呼ぶことがある)等が挙げられるが、ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは融点が高いものが多く、より好ましい。ポリマーの融点が165℃以上であると耐熱性が良好であり好ましい。例えば、該融点はPLAは170℃、N6は220℃である。後に脱海することから、海成分のポリマーと島成分のポリマーとは溶剤や水に対する溶解性の異なる組み合わせとする。また、ポリマーには粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を含有させていてもよい。またポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていてもよい。さらに、溶融紡糸の容易さから、融点が300℃以下のポリマーが好ましい。
【0045】
海島型複合繊維を脱海する手段としては、海成分が溶解(分解も含む)する溶剤、酸、アルカリ、水などの液体に海島型複合繊維糸条を漬け込む方法を採用することができるが、海成分を溶解(分解も含む)する液体としては、操業性や製品の安全性の点で、水系の液体を使用することが好ましい。また、海成分を溶解(分解も含む)する液体に海島型複合繊維糸条を漬け込む脱海工程は、チーズ染色機や綛染色機、パッケージ型染色機(オーバーマイヤー染色機)などの糸染色機を用いて行うことができるが、中でもチーズ染色機を用いると、糸条が動かず、液体だけが循環して脱海を行うことができ、海島型複合繊維束同士でのもつれが起きにくいため好ましい。
【0046】
本発明のように数平均による島直径が1〜500nmである海島型複合繊維であれば、海成分比率が高い場合でも、脱海されて得られる極細繊維同士の凝集力が強く、極細繊維束がばらけないため糸条の状態で脱海することができる。また、通常であれば脱海された分だけ体積が減少し、脱海中にチーズなどのパッケージが崩れてしまうが、数平均による島直径が1〜500nmである海島型複合繊維の場合、極細繊維の表面積が大きいため、海成分を溶解(分解も含む)する液体を吸着し膨潤して、見掛けの体積変化がおきにくくなり、パッケージが崩れず脱海後の解舒を行うことができる。そのため、本発明の方法を採用することで糸条の状態で極細繊維束を得ることができる。
【0047】
本発明において、脱海する前の海島型複合繊維の総繊度は50〜500dtexであることが好ましい。これにより、海島型複合繊維の絶対強度が得られ、脱海の工程通過性が良好になる。また、500dtexを超える海島型複合繊維を脱海しようとすると、極細繊維束同士で絡みやすく、脱海後に解舒不良となってしまったり、解舒できても得られた極細繊維束の総繊度が大きく織編物として時にソフトな風合が得られないし、この太い極細繊維束を分割しようとしても、極細繊維間の凝集力が強く分割することが困難である。
【0048】
本発明において、海島型複合繊維を脱海した後の極細繊維束の総繊度が30〜300dtexとなるように脱海前の海島型複合繊維を設計することが好ましい。これにより、後に行う脱海処理を経て得られる極細繊維束の絶対強度が得られ、製編織時の工程通過性が良好になる。また織編物としても風合がソフトで、引き裂きや引っ張り強度も十分高いものが得られる。
【0049】
本発明において、海島型複合繊維は脱海後に撚糸することが重要である。海島型複合繊維を脱海前に撚糸していてもよいが、本発明のように島直径の小さな単繊維を得るための海島型複合繊維の海成分面積比率は高くする必要があり、50〜90%にすることが好ましいが、このような海成分面積比率が高い海島型複合繊維を用いると脱海前の段階で二重撚になる直前まで撚糸していたとしても、脱海した後の繊度が小さくなり、同時に撚係数も小さくなる。特に、脱海後の撚係数kを15000より大きくするには、脱海して繊度が小さくなった状態での撚糸が必要になる。脱海後の撚係数kを15000より大きくするために、脱海前に強撚しようとすると、立体的にねじれたり、残留トルクが大きくなり、取扱いが困難となる。
【0050】
もちろん、脱海後に撚糸してさえいれば、脱海前に撚糸していてもよく、海島型複合繊維のマルチフィラメントが締まった状態とすることで、脱海時にフィラメント同士やフィラメント内島成分同士で拘束し、海島型複合繊維束同士での絡み合いを抑制させ、脱海時の工程通過性を向上させることができるが、脱海後には繊度が小さくなり、撚係数kも小さくなっているため、脱海工程後に追撚し、撚係数kを調整することが重要である。
【0051】
撚糸形態は、海島型複合繊維束1本や2本以上を引き揃えて単に撚を掛けた片撚糸や、2本以上の片撚糸を引き揃えて片撚糸と反対方向に撚を掛けた(つまり下撚と逆方向の上撚をもつ)諸撚糸、芯糸の周りに他の糸を巻き付けたカバリング糸などを採用することができる。特に下撚と上撚との撚方向が互いに逆方向で、下撚数と上撚数が近い諸撚糸は、撚糸後の残留トルクが少なく、上撚で繊維を拘束して繊維脱落しにくく、かつフィラメントが撚糸内で解撚されており、極細繊維束同士や極細繊維束内の単繊維がばらけ易くなりワイピング性能が向上するいため好適である。また、下撚と上撚との撚方向が互いに逆方向である諸撚の場合、下撚数t1と上撚数t2の差の絶対値は100以下、つまり下式の範囲であることが好ましい。
ー100≦t1−t2≦100
この範囲であれば、フィラメントが撚糸内で解撚されており、極細繊維束同士や極細繊維束内の単繊維がさらにばらけ易くなる。t1とt2との差の絶対値としてより好ましくは50以下、さらに好ましくは10以下、さらに好ましくはフィラメントが撚糸内で完全解撚されている0である。
【0052】
本発明において撚糸方法は特に限定はされず、撚数や撚糸形態、撚糸張力などを考慮し、イタリー式撚糸機やダブルツイスターなどのアップツイスター、リング撚糸機などのダウンツイスター、カバリングマシン、ベルドール撚糸機などを用いて行うことができる。また、これらを組み合わせた複合撚糸機を採用することもできる。
【0053】
本発明において、脱海後の海島型複合繊維、つまり極細繊維束の撚係数kが2000〜25000となるように撚糸することが好ましい。諸撚糸の場合は、下撚、上撚のいずれか、または両方の撚係数kが2000〜25000となるように撚糸することが好ましい。撚係数kを2000以上とすることで極細繊維束内の極細繊維間の拘束力が得られ、繊維脱落が起こりにくくなる。一方、撚係数kが25000を超えると極細繊維束が立体的にねじれた形態になったり、極細繊維束長手方向と極細繊維長手方向に角度が生じすぎたりして、極細繊維束の強度低下が著しくなる。極細繊維束の撚係数kが2000〜25000の範囲の中で、15000以下であると極細繊維束内の極細繊維間の拘束力を得つつ極細繊維束内への吸水性能や補塵性能も得られるため、ワイピング性に優れたものが得られるという利点があるが、撚係数kが15000より大きい場合、極細繊維束内の極細繊維間の拘束力が十分に高いため、極細繊維の脱落がより抑制され、極細繊維束があたかも1本の糸のようになるため、かかる撚係数の大きい極細繊維束を用いることにより、耐磨耗性に優れたワイピング材や研磨材を得ることが可能となる。したがって、本願発明における極細繊維束の撚係数kは、より好ましくは15000より大きく25000以下であり、さらに好ましくは17000〜25000である。
【0054】
なお、撚係数kは、脱海後の撚数をT(回/m)、海島型複合繊維の総繊度をD(dtex)とすると、次の式で算出される。
撚係数k=T×D1/2
このとき、海島型複合繊維を脱海する前に撚糸した場合は、脱海後に撚糸した方向と同じ方向の撚のときは撚数を加算し、反対方向の場合は撚数を減算して撚数Tとする。
【0055】
極細繊維束に撚糸を施した後は、残留トルクを軽減するため、湿熱や乾熱での撚止めセットを行い、解舒時のビリを抑制することが好ましい。
【0056】
本発明において、海島型複合繊維を脱海して得られた極細繊維束を製編織する際はできるだけ高密度にすることが重要であるが、製編織するときはカバーファクターCFを1500〜3500に設計することが好ましく、1500〜2800であることがより好ましく、1500〜2500であることがさらに好ましく、1800〜2200であることがもっとも好ましい。
【0057】
ここで、カバーファクターCFとは、織物を構成する糸条の太さと織物密度によって定められる織物構造の粗密を表す係数で、カバーファクターが大きいほど織物が密に詰まっている。カバーファクターCFが1500未満であると、目が粗く空隙が多くなり、見ズレが起きやすく、また織編物の風合いにおいて張り・腰感が乏しくなる。一方、カバーファクターCFが3500を超えると、製織が困難になったり、織物の滑脱抵抗が増加して引裂強力の低下を招いてしまう。
【0058】
カバーファクターCFは、布帛が織物の場合、織物の経糸密度をX(本/2.54cm)、織物の緯糸本数をY(本/2.54cm)、経糸の繊度をD1(dtex)、緯糸の繊度をD2(dtex)とすると、次の式で算出される。
CF=X×D11/2+Y×D21/2
また、布帛が編物の場合、本発明ではカバーファクターCFを次のように定義する。すなわち、2.54cmあたりのコース数(ループの緯方向のつらなり個数)の2倍をX、2.54cmあたりのウェール数(ループの経方向のつらなり個数)をY、使用糸の繊度をD(dtex)とすると、次の式で算出する。
CF=(X+Y)×D1/2
本発明において製編織方法は特に限定はされず、製織ではフライシャトル織機、レピア織機、ウォータージェット織機、エアジェット織機などを用いて行うことができるが、極細繊維を製織するため、ポリビニルアルコール(PVA)などの糊剤を付けて経糸の毛羽発生を抑制することが好ましい。また、織組織は特に限定されず、ワイピング材などに用いる場合は織繊維がばらけ易いように経糸の浮き数が多い斜文織や朱子織にしたり、目ズレ、型崩れを起きにくいしたい場合は平織にしたり、目的に応じて適宜設定することができる。
【0059】
製編でも、編み機、編み組織は特に限定はされず、目的に応じて適宜設定すればよいが、極細繊維を用いるため、毛羽が発生し糸切れを起こしやすいため、製編時に張力を十分管理することが好ましい。張力の好ましい範囲は0.08〜0.12cN/dtexである。
【0060】
本発明の製造方法で得られた極細繊維高密度織編物は、極細繊維の細さからくるしなやかさや高い拭き取り性と、織編物特有のソフトさを併せ持っており、かつ高密度に製編織されており目ズレが起きにくい。また、織編物に用いている極細繊維束の撚係数が高く、極細繊維束内の極細繊維同士の拘束力が高いため、繊維強度が高く、繊維脱落も起きにくい。そのため、コンピューター関連機器や光学機器などの精密機器のワイピング材や精密研磨として利用することができる。また、表面積が大きく吸着性の高い極細繊維を使った高密度シートであることから、フィルターや吸着材としても好適に利用することができる。また、カバーファクターが大きく、目ズレ、型崩れの起きにくい極細繊維高密度織編物であるため、きめの細かい新触感風合テキスタイルとして衣料用途へ展開することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0062】
A.ポリ乳酸の重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にTHF(テトラヒドロフラン)を混合し、測定溶液とした。これをWaters社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)Waters2690を用いて25℃で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
【0063】
B.ポリマーの溶融粘度
東洋精機製作所製キャピログラフ1Bによりポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
【0064】
C.融点
パーキンエルマー(Perkin Elmae)社製 DSC−7を用いて2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0065】
D.ポリマーアロイ繊維のウースター斑(U%)
ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTER 4を用いて給糸速度200m/分でノーマルモードで測定を行った。
【0066】
E.SEM観察
サンプルに白金を蒸着し、超高分解能電解放射型走査型電子顕微鏡で倍率1000倍および10000倍で観察した。
SEM装置:日立製作所(株)製UHR−FE−SEM
F.TEMによる極細繊維の横断面観察
繊維の横断面方向に超薄切片を切り出してTEMで極細繊維の横断面を倍率40000倍で観察した。また、必要に応じ金属染色を施した。
TEM装置:日立製作所(株)製H−7100FA型
G.海島型複合繊維の海成分面積比率S
上記E項のTEM観察による写真から画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、4μmの範囲の海成分面積sμmを求め、4μmに対するsμmの割合を算出することで海成分面積比率Sとした。
【0067】
H.海島型複合繊維の数平均による島直径
上記E項のTEM観察による写真から画像処理ソフト(WINROOF)を用いて繊維の島直径を円換算で計算し、それの単純な平均値を求めた。この際、同一横断面内で無作為に抽出した50個の島直径を解析し、計算に用いた。
【0068】
I.島成分の粗大島面積比率
上記Fの直径解析を利用し、それぞれの島直径をdiとし、その2乗の総和(d1+d2+・・+d150)=Σdi(i=1〜150)を算出する。また、直径500nmより大きい島直径をDiとし、その2乗の総和(D1+D2+・・+Dm)=ΣDi(i=1〜m)を算出する。Σdiに対するΣDiの割合を算出することで、島成分全体に占める粗大島の面積比率とした。
【0069】
J.繊度
海島型複合繊維または極細繊維束を10m測り取り重量を測定した。これを5つの試料において行い(n=5)、これらの平均値を繊度(dtex)とした。
【0070】
K.力学特性
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013(1999)8.5.1に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に、破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度として強伸度曲線を求めた。
【0071】
[極細繊維束1の製造例]
溶融粘度57Pa・s(240℃、剪断速度2432sec−1)、融点220℃のナイロン6(以下、N6)20重量%と重量平均分子量12万、溶融粘度30Pa・s(240℃、剪断速度2432sec−1)、融点170℃のポリL乳酸(光学純度99.5%以上)80重量%を2軸押出混練機で220℃で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。尚、N6の262℃、剪断速度121.6sec−1での溶融粘度は53Pa・sであった。また、このポリL乳酸の215℃、剪断速度1216sec−1での溶融粘度は86Pa・sであった。また、混練時はN6と共重合ポリL乳酸を別々に計量し、別々に混練機に供給した。
【0072】
このポリマーアロイチップを230℃の溶融部で溶融し、紡糸温度230℃のスピンブロックに導いた。そして、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、口金面温度215℃とした口金から溶融紡糸して巻き取った。そして、これを第1ホットローラーの温度を90℃、第2ホットローラーの温度を130℃として延伸熱処理した。この時、第1ホットローラーと第2ホットローラー間の延伸倍率を1.5倍とした。得られたポリマーアロイ繊維は62dtex、36フィラメント、強度3.4cN/dtex、伸度38%、U%=0.7%の優れた特性を示した。また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEM観察したところ、ポリL乳酸が海、N6が島の海島構造を示し、島N6の数平均による直径は55nmであり、島直径が100nmより大きいものの島比率は0%で、N6が超微分散化したN6極細繊維の前駆体である海島型複合繊維であった。また、海成分面積比率Sは78%であった。
【0073】
得られた海島型複合繊維を6本合糸して、チーズ状に巻きかえした後、チーズ染色機に仕込んで98℃の5重量%水酸化ナトリウム水溶液にて2時間処理した。次いで、60℃で5分間の湯洗を3回した後、脱水乾燥を行った。これにより海島型複合繊維中のポリL乳酸成分の99重量%以上を加水分解除去した後、Z方向に2000T/mの撚を施して、70℃の乾熱で1時間撚止めセットを行い、76dtex(脱海後の撚係数k=17436)のN6極細繊維束1を得た。この極細繊維束をTEM写真から解析した結果、N6極細繊維の数平均による直径は60nmと従来にない細さであり、単繊維直径100nmより大きいものの繊維構成比率は0%であった。
【0074】
[極細繊維束2の製造例]
脱海前の合糸数を8本にした以外は極細繊維束1の製造例と同様にして、102dtex(脱海後の撚係数k=20199)のN6極細繊維束2を得た。
【0075】
[極細繊維束3の製造例]
N6を溶融粘度212Pa・s(262℃、剪断速度121.6sec−1)、融点220℃のN6(45重量%)とした以外は極細繊維束1の製造例と同様に溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。次いで、これを極細繊維束1の製造例と同様に溶融紡糸、延伸熱処理しポリマーアロイ繊維を得た。得られたポリマーアロイ繊維は67dtex、36フィラメント、強度3.6cN/dtex、伸度40%、U%=0.7%の優れた特性を示した。また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEM観察したところ、極細繊維束1の製造例と同様にポリL乳酸が海、N6が島の海島構造を示し、島N6の数平均による直径は110nmであり、島直径が200nmより大きいものの島比率は2%で、N6が超微分散化した海島型複合繊維であった。また、海成分面積比率Sは52%であった。
【0076】
得られた海島型複合繊維を3本合糸して、極細繊維束1の製造例と同様にして海島複合繊維中のポリL乳酸成分の99重量%以上を加水分解除去した後、Z方向に2000T/mの撚を施して、70℃の乾熱で1時間撚止めセットを行い、93dtex(撚係数k=19287)のN6極細繊維束3を得た。脱海中にチーズが崩れることなく、解舒時の工程通過性は良好であった。この極細繊維束をTEM写真から解析した結果、N6極細繊維の数平均による直径は120nmであり、単繊維直径で500nmより大きいものの繊維構成比率は0%、単繊維直径で200nmより大きいものの繊維構成比率は2%であった。
【0077】
[極細繊維束4の製造例]
撚糸前の合糸数を4本にした以外は極細繊維束3の製造例と同様にして、124dtex(撚係数k=22271)のN6極細繊維束4を得た。
【0078】
[極細繊維束5の製造例]
撚糸前の合糸数を5本にした以外は極細繊維束3の製造例と同様にして、155dtex(撚係数k=24900)のN6極細繊維束5を得た。
【0079】
[極細繊維束6の製造例]
撚数を1000T/mにしたこと以外は極細繊維束3の製造例と同様にしてN6極細繊維束6(撚係数k=9644)を得た。脱海中にチーズが崩れることなく、解舒時の工程通過性は良好であった。
【0080】
[極細繊維束7の製造例]
撚数を1000T/mにしたこと以外は極細繊維束4の製造例と同様にしてN6極細繊維束7(撚係数k=11136)を得た。
【0081】
[極細繊維束8の製造例]
極細繊維束3の製造例の海島型複合繊維を2本合糸して、極細繊維束1の製造例と同様にして海島複合繊維中のポリL乳酸成分の99重量%以上を加水分解除去し、S方向に2000T/m(撚係数k=15748)の下撚を施した。これを2本合糸して、Z方向に1800T/m(撚係数K=20044)の上撚を施して、70℃の乾熱で1時間撚止めセットを行い、諸撚のN6極細繊維束8を得た。
【0082】
[極細繊維束9の製造例]
下撚をS方向に1800T/mとしたこと以外は極細繊維束8の製造例と同様にしてN6極細繊維束9(撚係数K=20044)を得た。下撚数と上撚数の差が0であり、フィラメントが撚糸内で完全解撚されていた。
【0083】
[極細繊維束10の製造例]
N6を溶融粘度350Pa・s(220℃、121.6sec−1)、融点162℃のポリプロピレン(以下、PP)(23重量%)とした以外は極細繊維束1の製造例と同様に溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。なお、ポリL乳酸の220℃、121.6sec−1における溶融粘度は107Pa・sであった。このポリマーアロイチップを溶融温度230℃、紡糸温度230℃(口金面温度215℃)、単孔吐出量1.5g/分で極細繊維束1の製造例と同様に溶融紡糸を行った。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率を2.7倍、熱セット温度130℃として極細繊維束1の製造例と同様に延伸熱処理して110dtex、18フィラメントポリマーアロイ繊維を得た。得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、ポリL乳酸が海、PPが島の海島構造を示し、島PPの数平均による直径は240nmであり、島直径が500nmより大きいものの島比率は0%で、PPが超微分散化した海島型複合繊維であった。また、海成分面積比率Sは64%であった。
【0084】
得られた海島型複合繊維を3本合糸して、極細繊維束1の製造例と同様にして海島複合繊維中のポリL乳酸成分の99重量%以上を加水分解除去した後、Z方向に2000T/mの撚を施して、70℃の乾熱で1時間撚止めセットを行い、78dtex(撚係数k=17664)のPP極細繊維束10を得た。この繊維束をTEM写真から解析した結果、PP極細繊維の数平均による直径は240nmであり、単繊維直径で500nmより大きいものの繊維比率は0%であった。
【0085】
[極細繊維束11の製造例]
撚糸前の合糸数を4本にした以外は極細繊維束10の製造例と同様にして、104dtex(脱海後の撚係数k=20396)のPP極細繊維束11を得た。
【0086】
[極細繊維束12の製造例]
溶融粘度280Pa・s(300℃、1216sec−1)のポリエチレンテレフタレート(以下、PET)を80重量%、溶融粘度160Pa・s(300℃、1216sec−1)のポリフェニレンサルファイド(以下、PPS)を20重量%として、2軸押出混練機を用いて溶融混練を行い、ポリマーアロイチップを得た。ここで、PPSは直鎖型で分子鎖末端がカルシウムイオンで置換された物を用いた。
【0087】
ここで得られたポリマーアロイチップを極細繊維束1の製造例と同様に紡糸機に導き、紡糸を行った。この時、紡糸温度は315℃、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、口金面温度292℃とした口金から溶融紡糸した。吐出された糸条は工程油剤が給油された後、非加熱の第1引き取りローラーおよび第2引き取りローラーを介して1000m/分で巻き取られた。この時の紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。そして、これを第1ホットローラーの温度を100℃、第2ホットローラーの温度を130℃として延伸熱処理した。この時、第1ホットローラーと第2ホットローラー間の延伸倍率を3.3倍とした。得られたポリマーアロイ繊維は60dtex、36フィラメント、強度4.4cN/dtex、伸度27%、U%=1.3%の優れた特性を示した。また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEM観察したところ、PETが海、PPSが島の海島構造を示し、島PPSの数平均による直径は65nmであり、島直径が100nmより大きいものの島比率は0%で、PPSが超微分散化した海島型複合繊維であった。また、海成分面積比率Sは83%であった。
【0088】
得られた海島型複合繊維を6本合糸して、極細繊維束1の製造例と同様にして海島複合繊維中のPET成分の99重量%以上を加水分解除去した後、Z方向に2000T/mの撚を施して、70℃の乾熱で1時間撚止めセットを行い、74dtex(撚係数k=17205)のPPS極細繊維束12を得た。脱海中にチーズが崩れることなく、解舒時の工程通過性は良好であった。
【0089】
[極細繊維束13の製造例]
撚糸前の合糸数を8本にした以外は極細繊維束12の製造例と同様にして、98dtex(撚係数k=19799)のPPS極細繊維束13を得た。
【0090】
[極細繊維束14の製造例]
海成分にアルカリ可溶型共重合ポリエステル樹脂60重量%、島成分にN6樹脂40重量%を用い、溶融紡糸で島成分を100島とし、5.3dtexの高分子配列体の海島型複合繊維を作成後、2.5倍延伸して単繊維繊度2.1dtex、総繊度38dtex、18フィラメントの海島型複合繊維を得た。この海島型複合繊維の強度は2.6cN/dtex、伸度は35%であった。
【0091】
得られた海島型複合繊維を5本合糸して、極細繊維束1の製造例と同様にして海島複合繊維中のPET成分の99重量%以上を加水分解除去した後、Z方向に2000T/mの撚を施して、70℃の乾熱で1時間撚止めセットを行い、78dtex(脱海後の撚係数k=17664)の極細繊維束14を得た。脱海中にチーズの端面に崩れた箇所が認められ、解舒時に糸切れが多発した。また、繊維束から単繊維がばらけ、毛羽が認められた。得られた極細繊維の平均単繊維繊度をTEM写真から解析したところ、0.02dtex(平均繊維径2μm)相当であった。
【0092】
[極細繊維束15の製造例]
撚糸前の合糸数を7本にした以外は極細繊維束14の製造例と同様にして、109dtex(脱海後の撚係数k=20881)の極細繊維束15を得た。
【0093】
【表1】

【0094】
<実施例1>
極細繊維束1に60℃の水にポリビニルアルコールを6重量%溶かした糊剤を5〜8重量%付着させ、それを乾燥させたものを経糸に、極細繊維束2を緯糸としてフライシャトル織機に仕掛け、経糸密度115本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmの平織(カバーファクターCF1962)に仕立て、極細繊維高密度織物を得た。これを使ってワセリンを薄く塗ったガラス板をワイピングしたところ、優れたワイピング性能であり、ガラス板に傷は認められなかった。また、ワイピング後の極細繊維高密度織物から繊維脱落が認められなかった。
【0095】
<実施例2>
極細繊維束3を経糸に、極細繊維束4を緯糸に用い、経糸密度105本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmの平織(カバーファクターCF2015)にした以外は実施例1と同様にして極細繊維高密度織物を得た。これを使ってワセリンを薄く塗ったガラス板をワイピングしたところ、優れたワイピング性能であり、ガラス板に傷は認められなかった。また、ワイピング後の極細繊維高密度織物から繊維脱落が認められなかった。
【0096】
<実施例3>
極細繊維束6を経糸に、極細繊維束7を緯糸に用いた以外は実施例2と同様にして、極細繊維高密度織物を得た。これを使ってワセリンを薄く塗ったガラス板をワイピングしたところ、優れたワイピング性能であり、ガラス板に傷は認められなかった。また、ワイピング後の極細繊維高密度織物からの繊維脱落が若干認められた。
【0097】
<実施例4>
極細繊維束8を経糸および緯糸に用い、経糸密度95本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmの平織(カバーファクターCF2060)にした以外は実施例1と同様にして極細繊維高密度織物を得た。これらを使ってワセリンを薄く塗ったガラス板をワイピングしたところ、極細繊維がばらけ易く、非常に優れたワイピング性能を示した。また、ガラス板に傷は認められなかった。また、ワイピング後の極細繊維高密度織物から繊維脱落が認められなかった。
【0098】
<実施例5>
極細繊維束9を経糸および緯糸に用いた以外は実施例4と同様にして、極細繊維高密度織物(カバーファクターCF2060)を得た。これを使ってワセリンを薄く塗ったガラス板をワイピングしたところ、極細繊維がばらけ易く、非常に優れたワイピング性能を示した。また、ガラス板に傷は認められなかった。また、ワイピング後の極細繊維高密度織物から繊維脱落が認められなかった。
【0099】
<実施例6>
極細繊維束10を経糸に、極細繊維束11を緯糸に用いた以外は実施例1と同様にして、極細繊維高密度織物(カバーファクターCF1985)を得た。これを使ってワセリンを薄く塗ったガラス板をワイピングしたところ、優れたワイピング性能であり、ガラス板に傷は認められなかった。また、ワイピング後の極細繊維高密度織物から繊維脱落が認められなかった。
【0100】
<実施例7>
極細繊維束12を経糸に、極細繊維束13を緯糸に用いた以外は実施例2と同様にして、極細繊維高密度織物(カバーファクターCF1929)を得た。これを使ってワセリンを薄く塗ったガラス板をワイピングしたところ、優れたワイピング性能であり、ガラス板に傷は認められなかった。また、ワイピング後の極細繊維高密度織物から繊維脱落が認められなかった。
【0101】
<比較例1>
極細繊維束14を経糸に、極細繊維束15を緯糸に用いた以外は実施例1と同様にして、極細繊維高密度織物(カバーファクターCF1929)を得た。これを使ってワセリンを薄く塗ったガラス板をワイピングしたところ、拭き取りに時間が掛かった。
【0102】
<比較例2>
極細繊維束3の製造例で得られる海島型複合繊維を2本合糸して、Z方向に1800T/mの撚(脱海前の撚係数20837)を施し、脱海せずに、これを経糸および緯糸に用いて、経糸密度90本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmの平織(カバーファクターCF2084)にした以外は実施例1と同様にして海島型複合繊維の高密度織物を得た。これをドラム染色機に仕込んで98℃の5重量%水酸化ナトリウム水溶液にて2時間処理した。次いで、60℃で5分間の湯洗を3回した後、脱水乾燥を行った。これにより海島型複合繊維中のポリL乳酸成分の99重量%以上を加水分解除去し、極細繊維の織物(カバーファクターCF1418)を得た。得られた織物は脱海中に海成分が分解された分だけ糸条が細くなり、カバーファクターCFが小さく、目ズレの起きやすいものであった。
【0103】
<実施例8>
実施例2の製織時の組織を2/2ツイル組織の織物に仕立て、極細繊維高密度織物を得た。これらを使ってワセリンを薄く塗ったガラス板をワイピングしたところ、優れたワイピング性能を示し、ガラス板に傷も認められなかった。また、ワイピング後の極細繊維高密度織物から繊維脱落が認められなかった。
【0104】
<実施例9>
経糸密度を135本/2.54cm、緯糸密度を125本/2.54cmの平織(カバーファクターCF2694)にした以外は、実施例2と同様にして高密度編物を得た。製織の際、工程通過性が良好であった。これらを使ってワセリンを薄く塗ったガラス板をワイピングしたところ、優れたワイピング性能であり、ガラス板に傷は認められなかった。また、ワイピング後の極細繊維高密度織物から繊維脱落が認められなかった。
【0105】
【表2】

【0106】
<実施例10>
極細繊維束5を用いて、28Gの丸編み機に仕掛けて編組織を天竺、ウェール43、コース40(カバーファクターCF1531)の高密度編物を得た。これを使ってワセリンを薄く塗ったガラス板をワイピングしたところ、優れたワイピング性能であり、ガラス板に傷も認められなかった。また、ワイピング後の極細繊維高密度織物から繊維脱落が認められなかった。
【0107】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の製造方法で得られた極細繊維布帛は、極細繊維の細さからくるしなやかさや高い拭き取り性と、織編物特有のソフトさを併せ持っており、かつ高密度に製編織されており目ズレが起きにくく、極細繊維束に強撚が施されて繊維脱落もしにくいため、コンピューター関連機器や光学機器などの精密機器のワイピング材や精密研磨として利用することができる。また、表面積が大きく吸着性の高い極細繊維を使った高密度シートであることから、フィルターや吸着材としても好適に利用することができる。また、カバーファクターが大きく、目ズレ、型崩れの起きにくく、繊維脱落もしにくい極細繊維高密度織物であるため、きめの細かい新触感風合テキスタイルとして衣料用途へ展開することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
島成分の数平均島直径が1nm〜500nmである海島型複合繊維を脱海処理し、極細繊維とした後に撚糸して得た極細繊維束を用いて製編織することを特徴とする極細繊維布帛の製造方法。
【請求項2】
極細繊維束の撚係数kが2000〜25000であることを特徴とする請求項1に記載の極細繊維布帛の製造方法。
【請求項3】
極細繊維束から製編織される脱海後の織編物のカバーファクターCFが1500〜3500となるように製編織することを特徴とする請求項1または2に記載の極細繊維布帛の製造方法。
【請求項4】
海島型複合繊維の海成分面積比率Sが50〜90%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の極細繊維布帛の製造方法。
【請求項5】
島成分全体に占める、島直径が500nmより大きい島成分の面積比率が3%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の極細繊維布帛の製造方法。
【請求項6】
撚糸形態が諸撚であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の極細繊維布帛の製造方法。
【請求項7】
諸撚における下撚と上撚の撚方向が互いに逆方法であり、下撚数と上撚数との差の絶対値が100以下であることを特徴とする請求項6に記載の極細繊維布帛の製造方法。
【請求項8】
海島型複合繊維の総繊度が50〜500dtexであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の極細繊維布帛の製造方法。
【請求項9】
数平均直径が1nm〜500nmの極細繊維からなる極細繊維束を用いた織編物からなる、極細繊維束の撚係数kが2000〜25000、カバーファクターCFが1500〜3500であることを特徴とする極細繊維布帛。
【請求項10】
極細繊維全体に占める、繊維直径が500nmより大きい極細繊維の面積比率が3%以下であることを特徴とする請求項9に記載の極細繊維布帛。
【請求項11】
撚糸形態が諸撚であることを特徴とする請求項9または10に記載の極細繊維布帛。
【請求項12】
諸撚における下撚と上撚との撚方向が互いに逆方向であり、下撚数と上撚数との差の絶対値が100以下であることを特徴とする請求項11に記載の極細繊維布帛。
【請求項13】
極細繊維束の総繊度が30〜300dtexであることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の極細繊維布帛。

【公開番号】特開2009−256865(P2009−256865A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75876(P2009−75876)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】