説明

極薄チオール−エン塗膜

本明細書において、光学的透明度、耐引掻性、耐薬品性および種々の基板材料との接着性を示す極薄チオール−エン塗膜が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願データ)
本特許出願は、2004年11月18日に出願された米国仮特許出願第60/629,103号に基づく利益を主張するものであり、その全内容は、ここに参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
硬化(メタ)アクリレート性の材料は、光学的透明度および硬度などを含む種々の望ましい特性を示す。典型的な紫外線照射硬化性(メタ)アクリレート材料には、硬化時に酸素阻害があることが知られている。硬化性材料の厚層については、酸素阻害は材料の表面に限定される。しかし、硬化性材料の極薄層については、表面の問題とは対照的に、酸素阻害が大きな問題となる。酸素阻害の問題により、紫外線照射硬化性(メタ)アクリレート材料を使用して極薄層または塗膜を作製すると、基板との接着性が不十分であるか、または硬度が不十分な硬化生成物となる。
【0003】
硬化の際に、硬化性材料から酸素を取り除くには、全工程を、煩雑で費用のかかる特殊な条件および/または装置にする必要がある。
【0004】
酸素の存在を取り除かずに薄層として硬化させる際に、種々の基板材料との良好な接着性、速硬化、十分な硬度、最小収縮度、十分な基板濡れ性、十分な光学的透明度および耐薬品性を有する硬化材料を提供するエネルギー硬化性材料が、依然として必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(発明の簡潔な説明)
1つの実施形態において、硬化膜は、硬化性チオール−エン組成物を放射線硬化することにより得られた反応生成物を含み、前記チオール−エン組成物が、多官能エチレン性不飽和化合物、多官能チオール化合物、および場合により重合開始剤、接着促進剤、安定剤、界面活性剤、導電性充填剤またはこれらの組合せを含み、前記硬化膜が、約15マイクロメートル未満の厚さを有している。
【0006】
別の実施形態は、硬化膜から作製された製品、硬化膜を作製する方法などを含む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(詳細な記載)
本明細書において、酸素の存在下、極薄塗膜および膜として硬化させる際、種々の基板材料との良好な接着性、良好な耐摩耗性を与える良好な硬度、並びに良好な耐溶剤性、耐アルカリ性および耐酸性を備えた、光学的に透明な耐久材料を提供する、1つまたはそれ以上の多官能エチレン性不飽和化合物類および1つまたはそれ以上の多官能チオール化合物類を含む硬化性チオール−エン組成物が、開示されている。
【0008】
本明細書(特許請求の範囲も含む)中の用語「1つの(a)」および「1つの(an)」は数量の制限を意味するものではなく、むしろ、言及項目の少なくとも1つが存在していることを意味するものである。本明細書中に開示される全ての範囲は、包括的なものであり、組合せ可能なものである。
【0009】
本明細書において、「極薄膜」は、約10マイクロメートル未満の厚さを有する層、膜および塗膜を含む。
【0010】
硬化性チオール−エン組成物は、一般に、モノマーおよび/またはオリゴマーを含めて、1つまたはそれ以上の多官能エチレン性不飽和化合物類および1つまたはそれ以上の多官能チオール化合物類を含む。理想的には、膜の完全な状態を損なうことなくアルカリ溶液における浸漬に耐えるように、エステル基などの塩基の存在下で容易に加水分解に感応する結合をほとんど持たない三次元ポリマーネットワークを作製するために、これらの化合物類を選択するものとする。そのような場合、トリ−、テトラ−およびより高い官能性材料が好ましいが、二官能基材料も、同様に用いられてよい。本明細書において、官能性が、化合物中のメルカプトまたはエチレン性不飽和のどちらかの反応基の数を規定する。これらの、官能性がより高い化合物類のさらなる利点は、硬化速度の増大である。
【0011】
好適な多官能エチレン性不飽和化合物類は、1分子あたり2つまたはそれ以上のエチレン性不飽和基を含む、モノマーまたはオリゴマーである。エチレン性不飽和基には、以下の官能基:アリル、ビニル、アクリルオキシ、メタクリルオキシ、アクリルアミド、メタクリルアミド、アセチレニル、マレイミドなどにみられるような炭素−炭素二重結合が含まれる。本明細書において、接頭辞「(メタ)アクリル−」は、アクリル−およびメタクリル−基の両方を包括するものである。
【0012】
好適な多官能エチレン性不飽和化合物類には、例えば、エチレン性不飽和基に、場合により連結基を介し、連結したコア構造を含む化合物類が含まれる。連結基は、エーテル、エステル、アミド、ウレタン、カルバメートまたは炭酸塩官能基であることができる。いくつかの例において、連結基は、エチレン性不飽和基、例えば、アクリルオキシまたはアクリルアミド基の一部である。コアとなる基は、アルキル(直鎖および分枝鎖アルキル基)、アリール(例えば、フェニル)、ポリエーテル、シロキサン、ウレタンまたは他のコア構造およびこれらのオリゴマー類であることができる。例示的な多官能エチレン性不飽和化合物類には、トリ−アリルイソシアヌレート;トリ−ビニルイソシアヌレート;ジアリルマレエート;ジアリルエーテルビスフェノールA;オルトジアリルビスフェノールA;トリアリルトリメリテート;トリメチルオールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのトリ(メタ)アクリルトリオール類;1−(アリルオキシ)−2,2−ビス((アリルオキシ)メチル)ブタンなどのトリアリルトリオール類;1−(ビニルオキシ)−2,2−ビス((ビニルオキシ)メチル)ブタンなどのポリビニルポリオール類;ポリアリルポリオール類;ポリビニルポリエーテルポリオール類;ポリアリルポリエーテルポリオールなどが挙げられる。
【0013】
好適な多官能エチレン性不飽和オリゴマー化合物類には、例えば、ビニル末端シロキサン;アリル末端シロキサン;ビニルアルキルシロキサンホモポリマー類またはコポリマー類;アリルアルキルシロキサンホモポリマー類またはコポリマー類;アリルポリシルセスキオキサン類;ビニルポリシルセスキオキサン類;これらの組合せなどが挙げられる。
【0014】
1つの実施形態において、多官能エチレン性不飽和オリゴマーは、エステル基および炭酸塩基などの塩基加水分解しやすい基を含まない。
【0015】
1つの実施形態において、多官能エチレン性不飽和化合物は、シロキサンまたはシルセスキオキサンポリマーでない。他の実施形態において、多官能エチレン性不飽和化合物は、二環式基を含まない。
【0016】
1つまたはそれ以上の多官能エチレン性不飽和化合物類は、硬化性チオール−エン組成物中に存在してよい。耐溶剤性および硬度など種々の特性を有する硬化極薄層を提供するために、多官能エチレン性不飽和材料を選択することができる。通常、硬化性チオール−エン組成物中の多官能エチレン性不飽和化合物の量は、不飽和官能性:チオール官能性が約0.40:1.00から約2.50:1.00、具体的には約0.50:1.00から約2.00:1.00、より具体的には約0.75:1.00から約1.25:1.00、さらにより具体的には約0.85:1.00から約1.20:1.00、またさらにより具体的には約0.95:1.00から約1.05:1.00の比で、さらにより具体的には理論量で存在してよい。
【0017】
多官能チオール化合物類は、1分子あたり2つまたはそれ以上のチオール(「メルカプト」;−SH)基を含んでよい。多官能チオール化合物は、モノマーまたはオリゴマーであることができる。例示的な多官能チオールモノマーには、1,2−ジメルカプトエタン、1,6−ジメルカプトヘキサン、ネオペンタンテトラチオールなどのアルキルチオール化合物類、ペンタエリスリトールテトラ(3−メルカプトプロピオネート)、2,2−ビス(メルカプトメチル)−1,3−プロパンジチオールなど、4−エチルベンゼン−1,3−ジチオール、1,3−ジフェニルプロパン−2,2−ジチオール、4,5−ジメチルベンゼン−1,3−ジチオール、1,3,5−ベンゼントリチオール、グリコールジメルカプトアセテート、グリコールジメルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート、トリメチルオールプロパントリチオグリコレートなどのアリールチオール化合物類が挙げられる。
【0018】
好適なオリゴマー多官能チオール類には、例えば、ポリシロキサン類、すなわち、シロキサンに基づく骨格を有し、その骨格から分岐している2つまたはそれ以上のチオアルキル基を更に含むポリマー類が含まれる。これらの多官能チオール類は、一般式RSiO(4−n)/2による繰り返し単位を有してよく、式中、それぞれのRは、独立してi)チオール基またはハロゲン基(例えばCl、Br、IまたはF)で場合により置換されたC−C10アルキル、またはii)フェニルなどのアリール基であり、nは1から2であり、平均値が約1.2から1.8であり、ここで1分子あたりR基の少なくとも2つのRは、チオール基で置換されたC−C10アルキルであり、具体的には1分子あたりR基の少なくとも約25パーセント、より具体的には少なくとも約35パーセント、さらにより具体的には少なくとも約45パーセントがチオール基で置換されたC−C10アルキルである。一般平均単位式は、SiO単位、RSiO3/2単位、RSiO単位、RSiO1/2単位である個々のシロキサン単位の総数であり、および各単位におけるそれぞれのRは、本明細書において定義されている。各シロキサン単位を、それぞれのオリゴマー多官能チオールポリマーに存在させる必要はない。C−C10アルキル基は、直鎖および分枝鎖アルキル基のどちらも含み、具体的には飽和アルキル基を含む。例示的なアルキル基には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、tert−ブチル、n−ヘキシル、シクロへキシル、オクチルなどが含まれる。ポリシロキサン類は、その調製により生じた(シリコン結合残基ヒドロキシル基(Si−OH)およびアルコキシ基(Si−OR)など)を、場合により含んでよい。
【0019】
詳細な実施形態において、多官能チオールは、一般式RnSiO(4−n)/2による繰り返し単位を有し、式中、それぞれのRは、独立してi)チオール基またはハロゲン基(例えばCl、Br、IまたはF)で場合により置換されたC−C10アルキルまたはii)フェニルなどのアリール基であり、nは2であり、ここで1分子あたりR基の少なくとも約25パーセント、具体的には少なくとも約35パーセント、およびより具体的には少なくとも約45パーセントがチオール基で置換されたC−C10アルキルであり、ならびに残りの基は、非置換C−C10アルキルである。これらオリゴマー類は、ヒドロキシル、アルコキシ、アルキル、メルカプトなどを含む多くの官能基により末端にされ得る。
【0020】
ポリエチレングリコールジメルカプトアセテートオリゴマー類も、適している。
【0021】
例示的なオリゴマー多官能チオール類には、(メルカプトプロピル)メチルシロキサンホモポリマー類またはコポリマー類などの(メルカプトアルキル)アルキルシロキサンホモポリマー類またはコポリマー類、メルカプト末端オリゴマー類、ポリシルセスキオキサン類含有メルカプトなどが挙げられる。アルキルチオール基を有するポリオルガノシロキサン類の例は、参照により本明細書に組み込まれた米国特許番号第3,445,419号、4,284,539号および4,289,867号において見受けられる。他のオリゴマー多官能チオール類の例は、米国特許番号第3,661,744号において見受けられる。1つまたはそれ以上の多官能チオール化合物類の組合せは、硬化性組成物において用いられ得る。
【0022】
1つの実施形態において、ポリシロキサン類であるオリゴマー多官能チオール類は、エステル官能性、炭酸塩官能性、アミド官能性、アミン官能性、エチレン性不飽和(例えば、炭素−炭素二重結合)またはこれらの組合せを含まない。別の実施形態において、ポリシロキサン類は、約800と約10,000との間、好ましくは約2000から約8000の質量平均分子量(MW)を有している。
【0023】
チオール−エン組成物は、場合により重合開始剤、特に光開始剤を含有してよい。従来の光開始剤が、使用され得る。好適な光開始剤には、ホスフィンオキシド光開始剤、ヒドロキシ−およびアルコキシアルキルフェニルケトン類ならびにチオアルキルフェニルモルホリノアルキルケトン類などのケトン性の光開始剤、ベンゾインエーテル光開始剤などが含まれる。
【0024】
適切な光開始剤の例には、2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−4’−モルホリノブチロフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、ベンゾフェノン、トリメチルベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、イソプロピルチオキサントン、2,2−ジメチル−2−ヒドロキシ−アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンジル−ジフェニル−ホスフィンオキシド、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、ベンゾフェノン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、1−フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパノン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、カンファーキノン、上述の組合せなどが含まれる。1つまたはそれ以上の重合開始剤が使用され得る。
【0025】
重合開始剤は、チオール−エン組成物の総重量に基づいて、少なくとも約0.25重量パーセント量、好ましくは約0から約8重量パーセント量、具体的には約1から約7重量パーセント量、およびより具体的には約2から約6重量パーセント量で用いられ得る。
【0026】
基板との接着性を改善するため、組成物中に1つまたはそれ以上の接着促進剤が、存在し得る。ガラスとの接着性を良好にするため、加水分解によりシラノール基を形成することができるようなシラン性の接着促進剤が、使用され得る。シラン性の接着促進剤は、シリコン原子に結合した、アルコキシ基、アリールオキシ基、アセトキシ基、アミノ基、ハロゲン原子など、より具体的にはアルコキシ基を含んでもよい。また、シラン性の接着促進剤も、分子内に1つまたはそれ以上の不飽和二重結合、例えば、アリル、ビニル、(メタ)アクリルオキシまたは(メタ)アクリルアミド基を含み得る。シラン性の接着促進剤は、場合によりメルカプト基を含んでもよい。
【0027】
例示的な接着促進剤には、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン;γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラブトキシジルコニウム、テトライソ−プロポキシアルミニウム、Gelest社のSIBl833などのビス−シリルアミン類;本明細書中に全文が取り込まれた米国特許出願第2003/0129397号 A1で規定されたビス−シリルアミン類、ジアクリル化シラン第三級アミン類、アセトキシ官能性シラン類および3官能性イソシアヌレート類、上述の組合せなどが含まれる。
【0028】
さらなる例示的な接着促進剤には、一般式(I)
【0029】
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素またはC−Cアルキルであり、RはC−C30アルキレン、C−C30環状アルキレン、C−C30複素環状アルキレン、フェニレンまたは−R−Z−R−(式中、RはC−C30アルキレン、C−C30環状アルキレン、C−C30複素環状アルキレン、またはフェニレンを含むC−C30アリーレンであり、ZはO、S、S(O)、S(O)、C(O)、−N(R)−(式中、Rは、C−C15アルキル、C−C15環状アルキル、C−C15複素環状アルキルまたはC−C20アリールである)である。)を含むC−C30アリーレンであり、それぞれのRは、独立してC−Cアルキルであり、それぞれのRは、独立してC−C15アルキル、C−C15環状アルキル、C−C15複素環状アルキル、C−C20アリールであり、およびxは1、2または3である)
によるアクリルアミドシラン類が含まれる。
【0030】
特定の実施形態において、Rは水素またはメチルであり、Rは水素またはメチル、エチル、n−プロピルもしくはイソプロピルを含むC−Cアルキルであり、Rは、C−C10アルキレン、C−C15アリーレンであり、それぞれのRは、独立してC−Cアルキルであり、およびxは2または3である。更なる実施形態において、Rは水素またはメチルであり、Rは水素であり、RはC−Cアルキレンであり、それぞれのRは独立してC−Cアルキルであり、およびxは3である。さらに他の実施形態において、アクリルアミドシランは、CH=C(CH)C(O)NHCHCHCHSi(OCHCH3−a(OCHであり、ここでaの平均数は1である。例示的なアクリルアミドシランは、GE Advanced Materials社から入手可能なSilquest A−178またはSilquest Y−5997である。
【0031】
接着促進剤は、チオール−エン組成物中に、チオール−エン組成物の総重量に基づいて0から約30重量パーセント量、具体的には約1から約25重量パーセント量、およびより具体的には約5から約20重量パーセント量で存在し得る。
【0032】
1つの実施形態において、硬化性チオール−エン組成物は、カーボンナノチューブ、金属繊維類、金属被覆繊維類、導電性オリゴマーまたはポリマーなどを含む導電性充填剤を含有してもよい。代表的なカーボンナノチューブは、Smalleyらの米国特許番号第6,183,714号、Smalleyの5,591,312号、Ebbesenらの5,641,466号、Iijimaらの5,830,326号、Tanakaらの5,951,832号、Tanakaらの5,919,429号に記載されている。
【0033】
他の実施形態において、硬化性組成物に、いくつかの添加剤(例えば、コロイドシリカ、アルミナなどを含む)を添加することにより、硬化組成物の耐摩耗性は、改善され得る。
【0034】
光増感剤および/または安定剤(紫外線吸収剤および光安定剤を含む)、腐蝕防止剤、抗酸化剤、界面活性剤(例えば、シリコン類、アクリル類またはフッ素系界面活性剤であり、いずれも不飽和でも飽和でもよい)、屈折率調整添加剤、および/または着色剤(染料、顔料および量子ドット)を含む他の添加剤を、硬化性チオール−エン組成物に、場合により含めることが可能である。使用の際、安定剤は、組成物の総重量に基づいて約0.001から約2重量パーセント量、具体的には約0.01から約0.5、より具体的には約0.1から約0.3重量パーセント量で存在し得る。組成物の表面張力を小さくして濡れ性を改善するために、界面活性剤が、使用され得る。例示的な界面活性剤には、フルオロカーボンに基づく界面活性剤、例えば、FC−4430が含まれる。場合により硬化性チオール−エン組成物に安定剤を混ぜ合わせて、硬化性組成物の保存寿命を延ばしてもよい。
【0035】
種々の方法、例えば、ディップコート法、スピンコート法、ロールコート法などを用いて、硬化性チオール−エン組成物は、極薄硬化性膜に形成され得る。膜の形成過程における補助のため、硬化性チオール−エン組成物の粘度を低下させるのに十分な量の溶剤を、使用してよい。組成物の成分を溶解または分散するような溶剤を、選択してよい。このような溶剤は、例えばエチルアセテートなどの低級アルキルアセテート溶剤、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどの低級アルキルケトン溶剤、および例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなどの低級アルキルアルコール溶剤を含んでもよい。極薄膜を硬化する前に、場合により真空下で、溶剤は、蒸発されて除去され得る。
【0036】
硬化性チオール−エン組成物は、約15マイクロメートル未満、具体的には10マイクロメートル未満、より具体的には1マイクロメートル未満、さらにより具体的には約500ナノメートル(nm)未満、またさらにより具体的には約250nm未満、より具体的には約100nm未満、さらにより具体的には約50nm未満または約40nm未満の厚さを有する硬化性膜に形成され得る。
【0037】
硬化性チオール−エン組成物を硬化性膜に形成すれば、酸素を取り除く必要なしに、それをエネルギー硬化して硬化膜を生成することができる。エネルギー硬化の1つの詳細な方法は、紫外線照射によるものであろう。例示的な紫外線照射源には、Fusion H電球、低圧水銀電球、鉄またはガリウムドープ電球などが含まれる。例示的な実施形態において、硬化性組成物は、約0.75Joule/cm以下の線量で硬化され得る。硬化性チオール−エン組成物を照射エネルギーに曝露することにより調製した反応生成物が本明細書中に含まれることは、上述の考察から明らかであろう。
【0038】
硬化性チオール−エン組成物は、速硬化された後、優れた硬度;耐摩耗性;耐アルカリ性、耐酸性および/または耐有機溶剤性を含む耐薬品性;最小収縮度;光学的透明度および高屈折率を含む特性のいずれか1つまたは組合せを示す、極薄塗膜を生成する。
【0039】
極薄硬化塗膜の光学的透明度は、ASTM D1003(方法A)に従って測定した透過率(百分率)、透明度および曇り度、ならびに摩耗後にASTM D1044で測定した優れた透過値を示す。550nmでの透過率は約88パーセント以上、具体的には約90パーセント以上、より具体的には約93パーセント以上、およびさらに具体的には約95パーセント以上であることができる。摩耗後の透過率の変化は、ASTM D1044により測定して約20パーセント未満、具体的には15パーセント未満、およびより具体的には約10パーセント未満であることができる。
【0040】
極薄硬化塗膜の曇り度は、ASTM D1003(方法A)に従って測定して約10パーセント未満、具体的には約5パーセント未満、より具体的には約3パーセント未満、およびまたさらにより具体的には約1パーセント未満であることができる。
【0041】
極薄硬化塗膜の屈折率は、約1.48以上、具体的には約1.49以上、より具体的には約1.50以上、およびさらに具体的には約1.51以上であることができる。
【0042】
用途に応じ、極薄硬化塗膜の所望の硬度にあわせて、硬化性チオール−エン組成物は、調整され得る。鉛筆硬度に関するASTM D3363−92Aを用いて硬度を測定可能である。例示的な極薄硬化塗膜は、約H以上の鉛筆硬度、具体的には約2H以上の鉛筆硬度、より具体的には約4H以上の鉛筆硬度、およびさらに具体的には約6H以上の鉛筆硬度を示すことができる。
【0043】
1つの実施形態において、硬化性チオール−エン組成物は、エステル官能性または炭酸塩官能性などの加水分解可能な基を含まない多官能チオールおよび多官能エチレン性不飽和化合物を含む。このような硬化性チオール−エン組成物は、硬化される場合、アルカリ溶剤または塩基加水分解に耐性の硬化膜となる。本明細書中に用いる場合、「アルカリ溶剤に耐性」または「塩基加水分解に耐性」とは、5モル%水酸化ナトリウム水溶液に周囲温度で30分間曝露する場合の硬化試料が、外観検査で膜の劣化なしであると認められることを意味する。
【0044】
硬化性チオール−エン組成物は、例えば、ガラス、プラスチック、金属、紙、布、木などを含む種々の基板類の上に適用され得る。特定の実施形態において、その系の導電性または光学特性を干渉することなく、硬化性組成物が、使用され得、導電性材料の薄層を覆うように塗布され得、次いで硬化され得、極薄保護塗膜を提供する。このような導電性材料の薄層には、カーボンナノチューブの薄層、スパッタされたインジウム−スズ−酸化物、導電性ポリマー類またはオリゴマー類、ナノ分散型導電性粒子などが挙げられる。
【0045】
さらに別の実施形態において、硬化性チオール−エン組成物は、導電性材料で充填され得、極薄層に形成され得、硬化され得、導電性のおよび光学的に透明な膜を形成する。
【0046】
他の実施形態において、硬化性チオール−エン組成物から作製された硬化膜は、液晶微小液滴を含まない。
【0047】
例示的な硬化性チオール−エン組成物は、透明な薄膜トランジスタおよび陰極膜、並びにディスプレイ市場用の液晶およびプラズマに使用される透明な帯電防止塗膜など、種々の用途に使用される極薄保護塗膜および極薄導電性膜に用いられる。
【0048】
本発明は、以下の非限定的な実施例においてさらに説明される。
【実施例】
【0049】
表1は、以下の実施例で使用した硬化性チオール−エン組成物の成分を含む。
【0050】
【表1】

【0051】
(実施例1−7)
表2は、多官能チオール化合物としてペンタエリスリトールテトラ(3−メルカプトプロピオネート)を含む実施例1−7の調合物を含む。いずれの量も、重量パーセントである。均質混合物が得られるまで時おり撹拌しながら、多官能チオール化合物および接着促進剤を除く全成分を60℃で結合することにより、硬化性組成物を調製した。混合物を室温に冷却後、残りの成分を混ぜながら添加し、硬化性チオール−エン組成物を形成した。
【0052】
硬化性チオール−エン組成物を、粘度および濡れ性について測定した。粘度をHaake RVlレオメーターを用い、25℃、剪断速度500sec−1で測定した。縁の捲れおよび撥水など、なんらかの表面欠陥に留意して、濡れ性を目視決定した。
【0053】
硬化性チオール−エン組成物を、イソプロパノール(IPA)および酢酸エチル[50/50混合](EA)で、10%固体に希釈した。#3マイヤーロッドを用い、ガラスおよびポリエチレンテレフタレート(PET)上に希釈混合物のドローダウンを用意した。600W Fusion「H」電球を用い、ドローダウンを、分速50フィート(fpm)で硬化した。硬化したドローダウンを、接着性および耐溶剤性について検査した。ASTM D3359に従い、3M社からの610テープを用いて、接着性を測定した。偏光解析法により測定したところ、膜厚は100nmであった。結果を表2に表示する。
【0054】
スライドガラスを塗膜し、塗膜を硬化し、硬化したドローダウンを5%w/w NaOH溶液、5%w/w HSO溶液、エタノール、イソプロパノールまたは洗剤に30分曝露して、耐溶剤性を測定した。10分間の曝露にはN−メチルピロリドン(NMP)を使用した。「合格」とは塗膜が剥がれなかったことであった。塗膜の光学特性の変化も記載した。
【0055】
【表2】

【0056】
結果により例示されるように、硬化組成物は、優れた耐溶剤性およびPETとの良好な接着性を示す材料を提供する。
【0057】
(実施例8−13)
上記実施例1−7の手順に従い、実施例8−13を準備した。表3には重量あたりの部分調合物、ならびに粘度、接着性および鉛筆硬度の試験結果が含まれる。鉛筆硬度を、ASTM 3363に従って決定した。
【0058】
【表3】

【0059】
(実施例14−18)
上記実施例1−7の手順に従い、実施例14−18を準備し、それらを用いてペンタエリスリトールテトラ(3−メルカプトプロピオネート)(PTM)と多官能チオールとして(メルカプトプロピル)メチルシロキサンホモポリマー(SMS−992)との間の差を例示した。表4は、重量あたりの部分調合物、ならびに粘度、接着性、耐溶剤性、鉛筆硬度および光学特性の試験結果を含む。
【0060】
Byk−Gardner社のHaze−Gard Plusを用い、パーセント透過率、曇り度および透明度を測定した。透過率は、入射光に対し、透過される全光線の比である。入射光束から平均2.5°より大きく逸れる透過光の百分率が、曇り度である。透明度は2.5°未満で評価され、距離依存性である。以下の試験手順に、ASTM D 1044(条件付け段階を除く)およびASTM D 1003を用いた。
【0061】
【表4】

【0062】
結果により例示されるように、SMS−992を含む調合物からの硬化材料は、PTM材料よりもより良好な耐アルカリ性を示した。SMS−992におけるエステル官能性の不存在が、アルカリ溶剤に対しより良好な耐性をもたらすことを示唆している。
【0063】
以上、実施例を用いて本発明を説明したが、本発明の範囲を逸脱せずに種々の変更を加えてよく、均等物をその構成要素に置き換えてよいことは当業者には理解されるであろう。さらに、発明の本質的な範囲から逸脱することなく、本発明の教示に具体的な状況または材料を適応させるために多くの変更を加えてもよい。したがって、本発明はこの発明を実施するために考えられる最良の態様として開示される特定の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲に属するあらゆる実施形態を含むものであることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性チオール−エン組成物を放射線硬化することにより得られる反応生成物を含む硬化膜であって、前記チオール−エン組成物が、
多官能エチレン性不飽和化合物、
多官能チオール化合物、および
場合により、重合開始剤、接着促進剤、安定剤、界面活性剤、導電性充填剤またはこれらの組合せを含み、
前記硬化膜が、約15マイクロメートル未満の厚さを有する、硬化膜。
【請求項2】
多官能チオール化合物が、1分子あたり2つまたはそれ以上のチオール基、および1つのポリシロキサン骨格を含む、請求項1の硬化膜。
【請求項3】
多官能チオール化合物が、(メルカプトプロピル)メチルシロキサンホモポリマー、(メルカプトプロピル)メチルシロキサンコポリマーまたはこれらの組合せである、請求項2の硬化膜。
【請求項4】
多官能チオールが、一般式RSiO(4−n)/2
(式中、それぞれのRは、独立してi)チオール基またはハロゲン基で場合により置換されたC−C10アルキルまたはii)アリール基であり、
nは約2であり、
1分子あたりR基の少なくとも約25パーセントは、チオール基で置換されたC−C10アルキルであり、および残りの基は非置換C−C10アルキルである。)
による繰り返し単位を有する、請求項2の硬化膜。
【請求項5】
多官能チオールが、エステル基または炭酸塩基を含まない、請求項2の硬化膜。
【請求項6】
エチレン性不飽和基が、アリル、ビニル、アクリルオキシ、メタクリルオキシ、アクリルアミドまたはメタクリルアミドである、請求項1の硬化膜。
【請求項7】
エチレン性不飽和基が、アリルまたはビニルである、請求項1の硬化膜。
【請求項8】
多官能エチレン性不飽和化合物が、トリ−アリルイソシアヌレート、トリ−ビニルイソシアヌレート、トリアリルトリオール、ポリビニルポリオール、ポリアリルポリオール、ポリビニルポリエーテルポリオール、ポリアリルポリエーテルポリオール、ポリビニルポリエステルポリオール、ビニル末端シロキサン、アリル末端シロキサン、ビニルアルキルシロキサンホモポリマー類またはコポリマー類、アリルアルキルシロキサンホモポリマー類またはコポリマー類、アリルポリシルセスキオキサン類、ビニルポリシルセスキオキサン類またはこれらの組合せである、請求項1の硬化膜。
【請求項9】
多官能エチレン性不飽和化合物が、エステル基または炭酸塩基を含まない、請求項1の硬化膜。
【請求項10】
多官能エチレン性不飽和化合物が、シロキサン基を含まない、請求項1の硬化膜。
【請求項11】
硬化性チオール−エン組成物が、約0.40:1.00から約2.50:1.00の不飽和官能性:チオール官能性の比を含む、請求項1の硬化膜。
【請求項12】
硬化性チオール−エン組成物が、約0.75:1.00から約1.25:1.00の不飽和官能性:チオール官能性の比を含む、請求項1の硬化膜。
【請求項13】
重合開始剤が、光開始剤である、請求項1の硬化膜。
【請求項14】
接着促進剤が、不飽和二重結合またはメルカプト官能性を場合により含むシラン性接着促進剤であり、および接着促進剤が、硬化性組成物中に組成物の総重量に基づく約30重量パーセント量まで存在する、請求項1の硬化膜。
【請求項15】
導電性充填剤が、カーボンナノチューブ、金属繊維、金属被覆繊維、導電性ポリマーもしくはオリゴマーまたはこれらの組合せである、請求項1の硬化膜。
【請求項16】
膜が、約500ナノメートル未満の厚さを有する、請求項1の硬化膜。
【請求項17】
膜が、1つまたはそれ以上の、以下の特性:
外観検査または光透過率により示されるように、5%NaOH溶液に周囲温度で30分間曝露時、無劣化;
5%NaOH溶液に周囲温度で30分間曝露後、約5%未満の光透過率低下;
外観検査により示されるように、5%HSO溶液に周囲温度で30分間曝露時、無劣化;
外観検査により示されるように、エタノール、イソプロパノールまたは中性洗剤に周囲温度で30分間曝露時、無劣化;
550ナノメートルでASTM D1003方法Aにより測定して約90%より高い光の透過率;
ASTM D3359に従って測定したガラスとの接着性;
ASTM D3363−92Aに従って測定した6H以上の鉛筆硬度;
約1.48より大きい屈折率;
ASTM D1003(方法A)で測定して約10%未満の曇り度;および
ASTM D1044で測定して摩耗後の透過率の変化が約10%未満
を示す、請求項1の硬化膜。
【請求項18】
請求項1の硬化膜から作製された、製品。
【請求項19】
製品が、ディスプレイである、請求項18の製品。
【請求項20】
硬化膜が、基板上に配置される保護塗膜である、請求項18の製品。
【請求項21】
硬化性チオール−エン組成物を放射線硬化することにより得られる反応生成物を含む硬化膜であって、前記チオール−エン組成物が、
トリ−アリルイソシアヌレート、トリ−ビニルイソシアヌレート、トリアリルトリオール、ポリビニルポリオール、ポリアリルポリオール、ポリビニルポリエーテルポリオール、ポリアリルポリエーテルポリオールまたはこれらの組合せ、
(メルカプトプロピル)メチルシロキサンホモポリマー、(メルカプトプロピル)メチルシロキサンコポリマーまたはこれらの組合せ、および
場合により、光開始剤、接着促進剤、安定剤、界面活性剤、導電性充填剤またはこれらの組合せを含み、
前記硬化膜が、約15マイクロメートル未満の厚さを有する、硬化膜。
【請求項22】
硬化性チオール−エン組成物を調製し、
硬化性チオール−エン組成物の層を形成し、および
硬化性チオール−エン組成物を硬化して硬化膜を形成し、
前記硬化性チオール−エン組成物が、多官能エチレン性不飽和化合物、多官能チオール化合物、および場合により重合開始剤、接着促進剤、安定剤、界面活性剤、導電性充填剤またはこれらの組合せを含み、前記硬化性チオール−エン組成物の層が、1マイクロメートル未満の厚さを有する
ことを含む、硬化膜を作製する方法。

【公表番号】特表2008−520809(P2008−520809A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543133(P2007−543133)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/040873
【国際公開番号】WO2006/055409
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(507160931)ヘキソン・スペシヤルテイ・ケミカルズ・インコーポレーテツド (1)
【Fターム(参考)】