説明

構造の制御されたポリアセタール樹脂

【目的】有用なポリアセタール樹脂の提供
【構成】トリオキサンとエチレンオキシドとカチオン性触媒をそれぞれ連続的に反応槽に供給し、反応系に存在するエチレンオキシド濃度を制御しながら反応槽からトリオキサン、エチレンオキシドおよびトリオキサンとエチレンオキシドとの反応物からなる反応混合物を液状で抜き出し、この液状反応混合物を2軸の混練機に供給し、2軸の混練機から粒子状に粉砕された、オキシメチレ単位に対してオキシエチレン単位が1モル%以上であり、かつオキシエチレン単位に対してジオキシエチレン単位が5モル%以下であることを特徴とするトリオキサン−エチレンオキシド共重合体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジニアリング樹脂として、重要なポリアセタール樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、トリオキサンとエチレンオキシドを共重合させポリアセタール樹脂(アセタールコポリマー)を得ることはよく知られていた。その場合、オキシメチレン単位を主成分とする中にコモノマー成分であるモノオキシエチレン単位、ジオキシエチレン単位、トリオキシエチレン単位が含まれていることは、良く知られた事項である。たとえば、これらの詳細は非特許文献1に述べられている。)
【0003】
たとえば、工業上作られているトリオキサン−エチレンオキシド共重合体であるアセタールコポリマーには、オキシメチレン単位100に対して約1.7単位のモノオキシエチレン、0.4単位のジオキシエチレン単位、0.1単位のトリオキシエチレン単位が含まれている。
【0004】
上記に述べたモノオキシエチレン単位以外のジオキシエチレン単位及びトリオキシエチレン単位は、トリオキサン−エチレンオキシド共重合体のポリマーデザインを考えた時には、好ましい存在とは言えない。むしろ、反応系に供給されたエチレンオキシドは、全て、モノオキシエチレンに変化するのが望ましく、ジオキシエチレン単位、トリオキシエチレン単位は、少なければ少ない程好ましいと言える。
【0005】
このような観点から、エチレンオキシドをコモノマーとするトリオキサン重合体について、ジオキシエチレン単位、トリオキシエチレン単位の少ない重合体が望まれていたが、ジオキシエチレン単位、トリオキシエチレン単位の生成は、共重合の反応特性上不可避のものであり、従って、トリオキサン−エチレンオキシド共重合体において、モノオキシエチレン単位の他にジオキシエチレン単位、トリオキシエチレン単位が含まれることは、共重合反応の特性上不可避であるとこれまでの所考えられてきた。
【0006】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry, 39, 3239-3245 (2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ジオキシエチレン単位及びトリオキシエチレン単位の含有割合を低減したトリオキサン−エチレンオキシド共重合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明はトリオキサン−エチレンオキシド共重合体よりなるポリアセタール樹脂において、エチレンオキシドシークエンスの制御された重合体、すなわち、ジオキシエチレン単位及びトリオキシエチレン単位の含有割合が低減されモノオキシエチレン単位の多い優れた重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、以下に記載する本発明に到達したものである。
(1)トリオキサンを主モノマーとし、エチレンオキシドをコモノマーとする共重合体において、オキシメチレン単位に対してオキシエチレン単位が1モル%以上であり、かつオキシエチレン単位に対してジオキシエチレン単位が5モル%以下であることを特徴とするトリオキサン−エチレンオキシド共重合体。
(2)トリオキサンとエチレンオキシドとカチオン性触媒をそれぞれ連続的に反応槽に供給し、反応系に存在するエチレンオキシド濃度を制御しながら反応槽からトリオキサン、エチレンオキシドおよびトリオキサンとエチレンオキシドとの反応物からなる反応混合物を液状で抜き出し、この液状反応混合物を2軸の混練機に供給し、2軸の混練機から粒子状に粉砕されたトリオキサン−エチレンオキシド共重合体を得ることを特徴とする上記(1)のトリオキサン−エチレンオキシド共重合体の製造方法。
なお、本件明細書でいうオキシエチレン単位とは、モノオキシエチレン単位、ジオキシエチレン単位及びトリオキシエチレン単位を含んだ総称である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ジオキシエチレン単位及びトリオキシエチレン単位の含有割合が低く、モノオキシエチレン単位の割合が多いトリオキサン−エチレンオキシド共重合体(ポリアセタール樹脂)を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のトリオキサン−エチレンオキシド共重合体を製造するための原料及であるトリオキサン、エチレンオキシド、及び触媒であるカチオン性触媒としては、従来からトリオキサン−エチレンオキシド共重合体の製造において用いられていたものをそのまま用いることができる。
重合反応を行わせる反応槽としては、タンク型のリアクターを用いても良いが、ニーダー型の反応槽を用いることが好ましい。
【0011】
次に製造方法の詳細について説明する。
温度制御された攪拌中の槽状のニーダー(温度はトリオキサンの融点以上の65℃が好ましい。また、反応を穏やかに進めるために75℃以下が好ましい。)に液状のトリオキサン(温度:65−100℃)を連続的に供給する。同時にトリオキサンに対して所定量のエチレンオキシド(通常はトリオキサン1モルに対して3−7モル)を連続的にニーダーに供給する。エチレンオキシドの供給は通常はガス状で行われるが、液状で行われても差し支えない。ガス状のエチレンオキシドは、速やかに液状のトリオキサンに吸収される。同時にシクロヘキサンなどの不活性溶媒で希釈されたカチオン性触媒(たとえば、三フッ化ホウ素ジブチルエーテルなど)を連続的に供給する。
【0012】
ニーダー内でトリオキサンとエチレンオキシドの反応を進める。エチレンオキシドの反応割合は、供給したエチレンオキシドに対して70−95%程度反応した所が好ましい。エチレンオキシドの反応割合の制御は、ニーダー中の反応混合物の平均滞留量(平均滞留時間)、反応温度、カチオン性触媒濃度などの制御因子でコントロールすることができる。また、エチレンオキシドの反応の割合は、反応混合物をガスクロマトグラフィーにかける分析により容易に把握することができる。
このニーダー内の液状の反応混合物を連続的に抜き出し、ついで2軸の混練機に連続的に供給する。2軸の混練機としては、栗本鐵工所製のKRCニーダーが最適な例としてあげられる。この2軸の混練機の出口より、粒子状のポリアセタールが得られる。
【実施例】
【0013】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0014】
[実施例1]
2Lの槽型ニーダーに毎時180g(70℃)のトリオキサン、トリオキサンに対して4モル%のエチレンオキシド(ガス状:3.2g)、トリオキサンに対して2x10−3モルのメチラールおよびトリオキサンに対して2x10−5モルの三フッ化ホウ素ジブチルエーテル(シクロヘキサンで50倍に希釈)を連続的に供給した。槽型ニーダーの温度は、温水ジャケットで70℃に制御した。反応混合物中のエチレンオキシドの反応量が供給したエチレンオキシドに対して90%になるように反応器中の滞留量をコントロールしながらニーダーより、液状の反応混合物を抜き出し、2インチの横型の二軸の混練機(栗本鉄KRCニーダー、L/D=7)に連続的に供給した。反応温度は70℃とした。混練機の終端より、粉末のポリアセタール樹脂が得られた。
【0015】
得られた重合体を特公平6−89090号公報記載の方法で処理し、毎時156gの重合体粉末を得た。すなわち、得られた重合体の収率は、供給したモノマー(主モノマー、コモノマー)に対して、85%であった。また、得られた重合体の還元粘度は1.6であった。また、前記非特許文献1に記載されたH−NMR法によりモノオキシエチレン単位、ジオキシエチレン単位、トリオキシエチレン単位のシークエンスを求めたところ、全てがモノオキシエチレン単位であり、ジオキシエチレン単位、トリオキシエチレン単位は観測されなかった。オキシメチレン単位に対するオキシエチレン単位の割合は3.6モル%であった。
【0016】
[比較例1]
実施例1において、2Lのニーダーを使用しないで、反応物を直接2インチの横型の二軸の混練機(栗本鉄KRCニーダー、L/D=7)に連続的に供給した他は、実施例1と同様の操作を行った。得られた重合体は毎時72gであった。すなわち、重合体の収率は供給モノマーに対して39%であった。また、還元粘度は0.7であった。また、H−NMR法によりモノオキシエチレン単位、ジオキシエチレン単位、トリオキシエチレン単位のシークエンスを求めたところ、モル比でモノオキシエチレン単位1に対して、ジオキシエチレン単位は0.23、トリオキシエチレン単位は0.08であった。オキシメチレン単位に対するオキシエチレン単位の割合は3モル%であった。
【0017】
[実施例2]
実施例1において、反応混合物中のエチレンオキシドが供給したエチレンオキシドに対して反応量が80%になるように2Lの槽型ニーダーでの滞留量を制御した。最終的に得られた重合体は、毎時145gであった。すなわち、重合体の収率は供給モノマーに対して79%であった。重合体の還元粘度は1.5であった。また、モル比でモノオキシエチレン単位1に対して、0.02のジオキシエチレン単位が観測された。トリオキシエチレン単位は、観測されなかった。オキシメチレン単位に対するオキシエチレン単位の割合は3.2モル%であった。
【0018】
[実施例3]
実施例1において、反応混合物中のエチレンオキシドが供給したエチレンオキシドに対して反応量が70%になるように2Lの槽型ニーダーでの滞留量を制御した。最終的に得られた重合体は、毎時135gであった。すなわち、重合体の収率は供給モノマーに対して74%であった。重合体の還元粘度は1.4であった。また、モル比でモノオキシエチレン単位1にたいして、0.04のジオキシエチレン単位が観測された。トリオキシエチレン単位は、観測されなかった。オキシメチレン単位に対するオキシエチレン単位の割合は2.8モル%であった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のトリオキサン−エチレンオキシド共重合体は、ジオキシエチレン単位及びトリオキシエチレン単位の含有割合が低く、モノオキシエチレン単位の割合が多いため、優れた物性を示し、ポリアセタール樹脂の重要な用途であるエンジニアリング樹脂として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリオキサンを主モノマーとし、エチレンオキシドをコモノマーとする共重合体において、オキシメチレン単位に対してオキシエチレン単位が1モル%以上であり、かつオキシエチレン単位に対してジオキシエチレン単位が5モル%以下であることを特徴とするトリオキサン−エチレンオキシド共重合体。
【請求項2】
トリオキサンとエチレンオキシドとカチオン性触媒をそれぞれ連続的に反応槽に供給し、反応系に存在するエチレンオキシド濃度を制御しながら反応槽からトリオキサン、エチレンオキシドおよびトリオキサンとエチレンオキシドとの反応物からなる反応混合物を液状で抜き出し、この液状反応混合物を2軸の混練機に供給し、2軸の混練機から粒子状に粉砕されたトリオキサン−エチレンオキシド共重合体を得ることを特徴とする請求項1に記載のトリオキサン−エチレンオキシド共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2006−193639(P2006−193639A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7356(P2005−7356)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】