説明

構造体、その製造方法および磁気記録媒体

【課題】 複数の孔を有し、孔の孔壁部材が異なる第一および第二の領域に、同一の材料を充填して一度の加熱処理により得られる、第一および第二の領域毎に異なる特性を有する構造体を提供する。
【解決手段】 基体上に形成され、複数のシリンダー部材とその側面を取り囲むマトリックス部材を有する構造体であって、複数のシリンダー部材およびマトリックス部材を有する第一の領域と第二の領域を有し、該第一の領域に含まれるシリンダー部材およびマトリックス部材と、第二の領域に含まれるシリンダー部材およびマトリックス部材が異なる構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる特性の領域を有する構造体、その製造方法および磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
機能デバイスにおいては、ディスクリート磁気記録媒体や各種広域センサ、バイオセンサ、各種複合センサなど、領域毎に、例えば磁気特性、導電性、発光特性、誘電率などの特性が異なるものが存在する。
【0003】
以下に磁気記録媒体の例を挙げると、近年の情報量の飛躍的な増大に伴ってハードディスク(HDD)等の磁気記録媒体では、面記録密度の向上を図る為に、線記録密度だけでなくトラック記録密度を向上させる必要がある。しかし、トラック記録密度を高めるためにトラック幅を狭くすると、磁気ヘッド先端部から空間的に発散する磁界によるトラック端のにじみと隣接する記録トラック間の磁気干渉(クロストーク)が生じる。これにより、トラック幅がばらつき、その結果、媒体ノイズの増加による再生信号の劣化が問題となる。
【0004】
このような問題に対して、記録領域となる記録トラックが磁気的に分離されたディスクリートトラック媒体が提案されている(非特許文献1)。ディスクリートトラック媒体は、記録トラック間を充分小さくしても互いのトラック間のクロストークを効果的に抑えられることから高密度記録化が期待される。またこのディスクリートトラック媒体においては、目的とする磁気トラックへ磁気ヘッドを正確にアクセスすることができるという利点がある。
【0005】
また、様々なタイプのディスクリートトラック媒体の製造方法が提案されているが、媒体表面の微細加工を伴わない方法として、トラック間領域となるべき領域の磁性層を化学的に変質させて非磁性化する方法が提案されている。例えば、磁性層に窒素イオンを注入し非磁性化させる方法(特許文献1)や、磁性層をハロゲン化して非磁性化させる方法(特許文献2)や、レーザー照射による局所アニール等の技術が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【特許文献1】特開平5−205257号公報
【特許文献2】特開2002−359138号公報
【非特許文献1】“IEEE Transactions on Magnetics”Vol.25、No.5、p.3381−3383、1989年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1および2においては、領域毎に異なる特性を有するディスクリートトラック媒体を作製することができるが、大掛かりな装置や長時間を要するプロセスが必要となる問題点がある。
【0007】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものである。
孔壁部材が異なる第一および第二の領域に、同一の材料を充填し、領域毎に異なる物理特性を実現することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、第一および第二の領域毎に異なる特性を有する構造体からなる磁気記録媒体およびディスクリートトラック媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために、以下の特徴を有する。
本発明の第一の発明は、基体上に形成され、複数の孔を有する構造体であって、複数の孔を有する第一の領域と第二の領域を有し、該第一の領域に含まれる孔の孔壁部材と第二の領域に含まれる孔の孔壁部材が異なることを特徴とする構造体である。
前記孔の孔径が50nm以下で、且つ孔の間隔が100nm以下であることを特徴とする。
【0010】
前記第一或いは第二の領域の一方の領域における孔壁部材が金属或いは半導体であり、他方の領域における孔壁部材が前記金属の酸化物或いは半導体の酸化物であることを特徴とする。
【0011】
前記第一或いは第二の領域の一方の領域における孔壁部材がシリコン酸化物であり、他方の領域における孔壁部材がシリコンであることを特徴とする。
本発明の第二の発明は、基体上に形成され、複数のシリンダー部材とその側面を取り囲むマトリックス部材を有する構造体に関する。
【0012】
複数のシリンダー部材およびマトリックス部材を有する第一の領域と第二の領域を有する。そして、該第一の領域に含まれるシリンダー部材およびマトリックス部材と、第二の領域に含まれるシリンダー部材およびマトリックス部材が異なることが特徴である。
【0013】
前記第一の領域に含まれるシリンダー部材は、例えばMPt(M=Co,Fe,Ni)を含有するL10またはL12を含む規則合金から成る。マトリックス部材が酸化シリコンである。そして、第二の領域に含まれるシリンダー部材がMPtSi(M=Co,Fe,Ni)を含有する材料から成り、マトリックス部材がシリコンであることを特徴とする。
【0014】
前記第一の領域が硬磁性領域であり、第二の領域が軟磁性あるいは非磁性領域であることを特徴とする。
本発明の第三の発明は、基体上に形成され、複数のシリンダー部材とその側面を取り囲むマトリックス部材を有する第一の領域と、連続膜からなる第二の領域を有する構造体に関する。第一の領域に含まれるシリンダー部材がMPt(M=Co,Fe,Ni)を含有するL10またはL12を含む規則合金から成る。そして、マトリックス部材が酸化シリコンであり、第二の領域はMPtSi(M=Co,Fe,Ni)を含有する連続膜からなることを特徴とする構造体である。
【0015】
前記第一の領域が硬磁性領域であり、第二の領域が軟磁性あるいは非磁性領域であることを特徴とする。
本発明の第四の発明は、上記の構造体からなる磁気記録媒体である。
【0016】
本発明の第五の発明は、上記の構造体からなるディスクリートトラック媒体である。
本発明の第六の発明は、以下の工程を有することを特徴とする。
基体上に膜を準備する工程、該膜の第一の領域に複数の孔を形成する工程、第一の領域以外からなる第二の領域に、第一の領域に含まれる孔の孔壁部材とは異なる孔壁部材よりなる孔を形成する工程、第一及び第二の領域の孔に同一の材料を充填する工程、加熱処理して第一及び第二の領域の一方を機能性領域、他方を非機能性領域に改質する工程である。
【0017】
前記第一及び第二の領域の孔壁部材の一方と、第一及び第二の領域の孔に充填され材料が加熱処理により反応して、第一及び第二の領域の充填され材料の一方が機能性材料、他方が非機能性材料に改質されることを特徴とする。
【0018】
基体上にアルミニウムを含有するシリンダー部材とその側面を取り囲むシリコンあるいはシリコンゲルマニウムを成分とするマトリックス部材から構成される膜を形成する工程、該膜の第一の領域をマスクして該第一の領域以外の第二の領域に含まれる前記アルミニウムを含有するシリンダー部材を濃硫酸以外の酸及びアルカリ水溶液により除去して第二の領域に複数の孔を形成する工程、前記マスクを除去し第一の領域に含まれる前記アルミニウムを成分とする柱状の部材を濃硫酸により除去して第一の領域に複数の孔を形成する工程を有することを特徴とする。
【0019】
前記第一の領域の孔壁部材が酸化シリコンからなり、前記第二の領域の孔壁部材がシリコンからなる孔を形成する工程、第一及び第二の領域の孔にMPt(M=Co,Fe,Ni)を充填する工程、加熱処理して第一の領域にはMPt(M=Co,Fe,Ni)を含有するL10またはL12を含む規則合金からなるシリンダー部材を、前記第二の領域には孔壁部材と第二の領域の孔に充填され材料が反応して生成したMPtSi(M=Co,Fe,Ni)を含有する材料からなるシリンダー部材を形成する工程を有することを特徴とする。
【0020】
前記第一の領域の孔壁部材が酸化シリコンからなり、前記第二の領域の孔壁部材がシリコンからなる孔を形成する工程、第一及び第二の領域の孔にMPt(M=Co,Fe,Ni)を充填する工程、加熱処理して第一の領域にはMPt(M=Co,Fe,Ni)を含有するL10またはL12を含む規則合金からなるシリンダー部材を、前記第二の領域には孔壁部材と第二の領域の孔に充填され材料が反応して生成したMPtSi(M=Co,Fe,Ni)を含有する連続膜を形成する工程を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の第七の発明は、第1の材料を含み構成される第1のマトリックス領域と、該第1の材料とは異なる第2の材料を含み構成される第2のマトリックス領域とを有する部材を用意する工程、該部材のそれぞれの領域が有する孔に同一の材料を充填する充填工程、該第1のマトリックス領域に充填された材料と、該第2のマトリックス領域に充填された材料の物理特性を異ならせる工程とを有することを特徴とする構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、複数の孔を有し、孔の孔壁部材が異なる第一および第二の領域に、同一の材料を充填して一度の加熱処理により得られる、第一および第二の領域毎に異なる特性を有する構造体およびその製造方法を提供することができる。
【0023】
また、本発明は、第一および第二の領域毎に異なる特性を有する構造体からなる磁気記録媒体およびディスクリートトラック媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の構造体の製造方法の一実施態様を示す工程図である。本発明の構造体の製造方法は、先ず、図1(a)に示すように、基体4上に金属あるいは半導体からなる膜1を形成し、その基体の第一の領域50に複数の孔20を形成する(図1(b))。次に、基体上の第一の領域50とは異なる領域に、第一の領域50の孔壁部材10とは異なる孔壁部材11からなる複数の孔20を有する第二の領域60を形成する(図1(c))。
【0025】
但し、本発明における孔とはいわゆる凹構造を指すものであり、円柱型や溝型等様々な形状のものが含まれる。必ずしも貫通孔である必要も無い。
また、本発明における“異なる孔壁部材”とは、少なくとも孔の表面が異なる材質からなるものが好ましい。
【0026】
例えば、先に基体全体に同一の孔壁部材を有する孔を形成し、第一或いは第二の領域に酸化膜作製等の表面処理等を行うことでも、異なる孔壁部材を有する構造体(図1(c))を作製することができる。このとき、複数の孔の形成方法としてはウエットエッチングやドライエッチング、あるいは陽極酸化等で行うことができる。また、酸化膜の作製方法としては、酸による表面処理、酸素雰囲気中での熱処理等が挙げられる。
【0027】
前記第一及び第二の領域で異なる孔壁部材を有する構造体の孔20に同一の機能性材料からなる充填物22を充填する(図1(d))。そして、第一あるいは第二の領域の孔壁部材と充填物22の間に反応を誘起させることで、領域によって特性、例えば磁気特性、導電性、発光特性、誘電率などが異なる構造体(図1(e))が得られる。このとき、充填物と孔壁部材の間に誘起される反応、拡散の程度により、第二の領域が一様な膜12となる場合(図1(e))と、シリンダー13を有する場合(図1(f))とが選択可能である。但し、ここでいう一様な膜とはシリンダー構造を有さない膜を表し、粒子構造等を含んでいてもよい。また、孔への機能性材料の充填方法としては、蒸着法、CVD法、スパッタリング法、めっき法、溶液の注入などが挙げられる。また、基体に膜を作製する際は、膜と基体の間に電気伝導層を設けてもよい。
【0028】
上記の第一の領域(或いは全面)に複数の孔を有する構造体としては、第二の領域にマスクをした後、アルミニウムの陽極酸化による方法がある。更に、円柱状アルミニウムの側面を取り囲むように配置されたシリコンまたはシリコンゲルマニウムからなる第二の領域にマスクをして、第一の領域に細孔を形成する方法もある。なお、前者をアルミシリコン(AlSi)と、後者をアルミシリコンゲルマニウム構造体と称する場合がある。以下これらの詳細を図2を用いて説明する。
【0029】
まず、電気伝導層3を設けた基体の上に、基体垂直方向に配置されているアルミニウムを成分とする柱状アルミニウム部分32を用意する。この時点で、該柱状アルミニウム部分の側面を囲むようにシリコンまたはシリコンゲルマニウムを含有するシリコンマトリックス31が配置されているのがよい。このような構成のアルミシリコン膜5を準備する(図2(a))。ここでアルミシリコン膜の模式図を図4に示す。図4(a)は平面図、図4(b)はAA’線断面図を示す。柱状アルミニウム70と柱状アルミニウムの側面を囲むように配置されるシリコンあるいはシリコンゲルマニウムを含有するシリコンマトリックス80からなる膜構造となっている。この膜構造の具体例は、特開2004−237431号公報に記載されている。以下ではシリコンを例に用いるが、シリコンゲルマニウムでも同様である。
【0030】
まず、図2(a)を用いて説明する。電気伝導層3を形成した基体4の上に、膜5として、柱状アルミニウム部分32と、柱状アルミニウム部分の側面を囲むようにマトリックスが配置される。マトリックス材31は、シリコンまたはシリコンゲルマニウムを含有する。ここで、柱状アルミニウム部分が基体垂直方向に真直ぐ立っており、その円柱の側面を囲むようにシリコン部分が構造体のマトリックスとして配置された構造を有することが特徴である。なお、アルミニウム部分にはシリコンが、シリコン部分にはアルミニウムが僅かに混入していても良い。また、この構造体を形成するには、アルミニウムとシリコンの非平衡状態における同時成膜を行なうことが好ましい。
【0031】
次に、第二の領域にレジスト等でマスク2をして柱状アルミニウム部分32が溶解するような酸やアルカリに浸漬することで、第一の領域の柱状アルミニウム部分32のみを溶解、除去する。それには、リン酸、硫酸、アンモニア水など複数の酸またはアルカリが用いられる。また、陽極酸化することでも柱状アルミニウム部分を除去することが可能である。本例では、第一の領域の孔壁部材が酸化シリコンを含む条件を選択する。さらに、酸化シリコンを含む孔壁部材は、シリコン壁領域を酸素雰囲気中でアニールすることでも得られる。
【0032】
これにより、第一の領域のみが複数の孔を有し、その第一の孔壁部材10が酸化シリコンよりなる構造体が得られる(図2(b))。
更に、前記構造体の第二の領域のマスク2を除いて、構造体を98%の濃硫酸に浸漬することによりアルミニウムがエッチングされ、シリコンの第二の孔壁部材11を有する複数の孔が第二の領域60に作製できる。電気伝導層の保護のため、アルミニウムのエッチング後はすぐに流水で充分洗浄する。
【0033】
これにより、第一の領域50に含まれる孔の孔壁部材10が酸化シリコンで、第二の領域に含まれる孔の孔壁部材11がシリコンよりなる構造体が得られる(図2(c))。
このアルミニウムを除去したアルミシリコン構造体は、組成にも依存するが孔の直径の範囲が1nm〜15nmで、孔間の間隔の範囲が3nm〜20nmである。
【0034】
次に、上記の図2(c)の構造体に、孔底部の電気伝導層3を電極とすることにより、電着法を用いることで磁性体の充填を行なう(図2(d))。特に、Fe,Co,Ni等の磁性を有する金属とPt,Pdのような貴金属を同時析出させることにより、FePtやCoPtに代表されるL10、L12規則構図を有する磁性体を充填することが可能である。また、hcp構造を有するCo系合金やNi、Feを主成分とするfcc構造の磁性体の充填も可能である。
【0035】
例えばFePtを図2(c)の構造体に充填する。その後、550℃以上でアニール処理を行う。こうして、第一の領域のシリンダー部はL10FePt規則合金となる。第二の領域では、FeおよびPtが孔壁部材11のシリコンと反応し、シリンダー構造を有しない、FeシリサイドおよびPtシリサイドを含む膜14となる(図2(e))。
【0036】
また、アニール温度450℃の場合は、第一の領域のシリンダー部はL10FePt規則合金となるが、第二の領域は不規則相を有するFePtSiとなり、アニール処理前とは異なる形状を有するシリンダー構造が形成される(図2(f))。
【0037】
更に、図2(c)の構造体にCoを充填し、400℃でアニールした場合は、第一の領域のシリンダー部材がhcp構造を有するCoであり、第二の領域がCoシリサイドを含む一様な膜からなる非磁性領域となる。
【0038】
シリサイド形成の温度は、Fe:450〜500℃、Pt:200〜500℃、Co:350〜550℃、Cr:450℃、Pd:100〜850等であり、元素に応じて異なる。第二の領域において、シリンダー部分の材料とシリコンマトリックスのシリコンとがアニール処理により合金化する。この場合、選択するアニール温度に応じて得られる合金及びシリンダー部分の形状を選択することが可能である。また高温アニールの場合はシリンダー部分が消滅し、第二の領域を均一化させることも可能である。
【0039】
本発明においては、前述するように、全ての孔に同一材料の充填及び一括の熱処理で、孔壁部材の材料に応じて選択的に特性の異なる領域を作成することが可能である。例えば、磁気記録媒体の作成に応用すると、FePtを充填した場合は、孔壁部材が酸化シリコンである領域が熱処理後L10FePt規則合金となり記録部分として寄与する。そして、孔壁部材がシリコンである領域が非磁性または軟磁性化し非記録部分として寄与するディスクリートトラック媒体またはパターンド媒体とすることが可能である。
【0040】
図5にディスクリート媒体の模式図を示す。本発明では、例えば図5に示す様に、硬磁性を有する第一の領域が磁気記録領域90、非磁性或いは軟磁性を有する第二の領域が非記録領域91を有するディスクリートトラック媒体が作製可能である。ここで図5はディスクリート媒体を模式的に示したもので、実際のトラック幅は200nm以下であり、100nm以下であるとより好ましい。
【0041】
次に、アルミニウムの陽極酸化で得られる細孔を有する構造体(アルミナナノホール)について、図1に基づいて説明する。
電気伝導層を形成した基体4の上に、膜1としてアルミニウム膜を形成する。(図1(a))。但し、基体と膜の間の電気伝導層は図には示していない。
【0042】
第二の領域60にマスク2を形成し、第一の領域50を陽極する(図1(b))。このとき、リン酸、蓚酸、硫酸等の水溶液中に浸漬し、それを陽極として電圧を印加することで自己組織的に細孔が形成される。このときに形成される細孔間の間隔は印加した電圧で決まり、2.5×電圧[V](nm)の関係が知られている。孔の径としては100nmから10nm程度のアルミナナノホールが得られる。
【0043】
また、アルミナナノホールの作製において、アルミニウム膜の表面に規則的な窪みをつけることで、そこを基点に規則的な細孔がハニカム状や正方状に形成できる特徴があり、特にパターンドメディアに対して大きな可能性を有している。上記のアルミニウムの陽極酸化で得られる微細な細孔を有する構造体の具体例は、特開平11−200090号公報に記載されている。
【0044】
更に、マスク2を取り除いた後、第二の領域60にドライプロセス等で孔壁部材がアルミニウムの孔を作製する。これにより、第一の領域に含まれる孔の孔壁部材10が酸化アルミニウムで、第二の領域に含まれる孔の孔壁部材11がアルミニウムよりなる構造体が得られる(図1(c))。
【0045】
上記の図1(c)の構造体に、ドライプロセス例えばスパッタ、蒸着、CVDなどを用いて充填物22を充填する(図1(d))。例えば、Coを充填し350℃でアニールした場合は第一の領域のシリンダー部材がhcp構造を有するCoからなり、第二の領域がCoとアルミニウムの合金を含むシリンダー構造を有する非磁性領域となる(図1(e))。
【0046】
更に、ナノ細孔を有する構造体を用意し、種々の機能性材料を充填することにより機能デバイスが作製される。機能材料として磁気記録材料を用いれば記録デバイスが得られる。メタルなどの導電性材料を適用すれば、電極などの導電部材としては勿論、量子ドット、量子細線、量子細線トランジスタ、単電子トランジスタ、あるいは単電子メモリなどの電子デバイスが得られる。発光材料を充填すれば発光デバイスが得られる。勿論、充填する際に複数種類の材料を充填することも可能である。
【0047】
孔への機能性材料の充填方法としては、蒸着法やCVD法、スパッタリング法、めっき法、溶液の注入などがある。特に電解めっき方法は連続的に一定の電位をかける通常の電解めっき以外にも、電位制御、及び必要に応じて電位をかける時間を制御するパスルめっきを用いることも可能である。パルスめっきはめっき時における核発生密度を促進することが可能なため細孔内へのめっきにおいて有効に働く。
【0048】
また、本発明の他の実施形態は、以下の第1から第3工程を有することを特徴とする構造体の製造方法である。
第1の工程は、第1の材料を含み構成される第1のマトリックス領域と、該第1の材料とは異なる第2の材料を含み構成される第2のマトリックス領域とを有する部材を用意する工程である。
【0049】
第2の工程は、該部材のそれぞれの領域が有する孔(あるいは凹部、あるいは溝)に同一の材料を充填する工程である。
第3の工程は、該第1のマトリックス領域に充填された材料と、該第2のマトリックス領域に充填された材料の物理特性を異ならせる工程である。
【0050】
なお、第3の工程で、物理的特性とは、例えば磁気特性(保持力や飽和磁化や磁性非磁性の相違)、電気伝導性や抵抗、電子伝導性、剛性などである。
そのために、熱処理以外にもマトリックス領域と材料とが化学反応を起こしたり、選択的に片方のマトリックス領域に充填された材料を改質できる方法が適用できる。なお、本発明における改質には、酸化やシリサイド化などの化学変化のみならず、相変化も含むものである。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示し本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例では、主としてアルミニウムとシリコンを用いた基体に、めっき法にてFePtを充填する場合について説明するが、本発明はこれらの材料および充填方法に限定されるものではない。
【0052】
実施例1
本実施例は、図2に示す構造体に関するものである。具体的には、シリコンディスク4上に膜厚5nmのチタン、電気伝導層として膜厚100nmのタングステンをスパッタ法にて成膜する。その後、更にスパッタにて膜厚50nmのAl56Si44膜5を用意する(図2(a))。なお、AlySixGe1-x(0<x<1、0.25<y<4)を満たす組成ならこの組成に限定する必要は無い。
【0053】
該アルミシリコン膜に対して一般的な半導体プロセスで耐アルカリ性の強いフォトレジストを用いてマスクパターンを形成し、第二の領域6にマスク2を行う。該構造体を3%のアンモニア水に10分間浸漬することで、第一の領域50に複数の孔を有する膜を作製する(図2(b))。次に、マスクを除去した後、前記基体を98%の濃硫酸に浸漬し、第二の領域60のアルミニウムをエッチングした後、すぐに流水にて充分に洗浄する。以上により、第一の孔壁部材10がシリコン酸化物で、第二の孔壁部材11がシリコンからなる多孔質体(図2(c))が得られる。
【0054】
実施例2
本実施例は、図3に示す構造体に関するものである。具体的には、シリコンディスク4上にスパッタ法にて成膜した、膜厚50nmのAl56Si44膜(但し、AlySixGe1-x(0<x<1、0.25<y<4)を満たす組成ならこの組成に限定する必要は無い)を用意する(図3(a))。これを98%の濃硫酸に浸漬し、アルミニウムのエッチング終了後すぐに流水で充分に洗浄する。これにより、膜全体を孔壁部材がシリコンである多孔質体とする(図3(b))。その後、一般的な半導体プロセスで耐酸性の強いフォトレジストを用いてマスクパターンを形成し、第一の領域50にマスク2を行う。0.3Mリン酸に浸漬して、第二の領域の孔壁部材11を酸化シリコンに改質する。以上により、第一の領域の孔壁部材がシリコン、第二の領域の孔壁部材がシリコン酸化物を含む多孔質体が得られる(図3(c))。
【0055】
実施例3
本実施例は、ディスクリート媒体の作製方法に関する。
図2(a)の膜5として、シリコンディスク上に成膜したAl56Si44膜(但し、AlySixGe1-x(0<x<1、0.25<y<4)を満たす組成ならこの組成に限定する必要は無い)を用意する。該アルミシリコン膜表面上に幅100nmの同心円状に設定した第二の領域60に一般的な半導体プロセスにて耐アルカリ性の強い感光性材料であるフォトレジストを用いてマスクパターンを形成する。前記基体を3%のアンモニア水に漬けることで、第一の領域に孔壁部材がシリコン酸化物からなる多孔質体が作製できる(図2(b))。
【0056】
次に、マスクを除去した後、前記基体を98%の濃硫酸に漬け、第二の領域の孔壁部材がシリコンの多孔質体を得る。第二の領域のアルミニウムのエッチング終了後すぐに流水で洗い流す。これにより、領域によって孔壁部材の異なる多孔質体が得られる(図2(c))。ここに、FeSO4:0.5M、FeCl2:0.02M、H2PtCl6:5mMのめっき液を用いて、パルスめっきを行うことでFePtを孔に充填する。これに研磨を行い(図2(d))、550℃以上の温度でアニールすることで、第一の領域のFePtはL10規則合金化し、第二の領域ではFePtSiの一様な膜が形成される(図2(e))。
【0057】
本実施例により、一度の熱処理で、磁気記録領域90が第一の領域50、非記録領域91が第二の領域60からなるディスクリートトラック媒体が作製できる。
【0058】
実施例4
本実施例はディスクリート媒体の作製方法に関する。
実施例3と同様にして、多孔質体にFePtを充填した構造体を作製する。これに研磨を行い(図2(d))、450℃でアニールすることで、第一の領域のFePtはL10規則合金化し、第二の領域はFePtSiからなるシリンダー構造を有する膜となる(図2(f))。
【0059】
本実施例により、一度の熱処理で、磁気記録領域90が第一の領域50、非記録領域91が第二の領域60からなるディスクリートトラック媒体が作製できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、複数の孔を有し、孔の孔壁部材が異なる第一および第二の領域に、同一の材料を充填して一度の加熱処理により第一および第二の領域毎に異なる特性を有する構造体が得られる。該構造体は磁気記録媒体およびディスクリートトラック媒体に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の構造体の製造方法の一実施態様を示す工程図である。
【図2】本発明の構造体の製造方法の他の実施態様を示す工程図である。
【図3】本発明の構造体の製造方法の他の実施態様を示す工程図である。
【図4】アルミシリコン膜を示す模式図である。
【図5】ディスクリート媒体を示す模式図である。
【符号の説明】
【0062】
1 膜
2 マスク
3 電気伝導層
4 基体
5 アルミシリコン膜
10 第一の孔壁部材
11 第二の孔壁部材
12 充填物と第二の孔壁部材より作成された一様な膜
13 充填物と第二の孔壁部材より作成されたシリンダー
14 膜
20 凹部あるいは孔
22 充填物
30 非凹凸部
31 シリコンマトリックス
32 柱状アルミニウム部分
41 細孔の直径
42 細孔間の間隔
50 第一の領域
60 第二の領域
70 柱状アルミニウム
80 シリコンマトリックス
90 磁気記録領域
91 非記録領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に形成され、複数の孔を有する構造体であって、複数の孔を有する第一の領域と第二の領域を有し、該第一の領域に含まれる孔の孔壁部材と第二の領域に含まれる孔の孔壁部材が異なることを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記孔の孔径が50nm以下で、且つ孔の間隔が100nm以下であることを特徴とする請求項1記載の構造体。
【請求項3】
前記第一或いは第二の領域の一方の領域における孔壁部材が金属或いは半導体であり、他方の領域における孔壁部材が前記金属の酸化物或いは半導体の酸化物より構成されることを特徴とする請求項1または2記載の構造体。
【請求項4】
前記第一或いは第二の領域の一方の領域における孔壁部材がシリコン酸化物であり、他方の領域における孔壁部材がシリコンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の構造体。
【請求項5】
基体上に形成され、複数のシリンダー部材とその側面を取り囲むマトリックス部材を有する構造体であって、複数のシリンダー部材およびマトリックス部材を有する第一の領域と第二の領域を有し、該第一の領域に含まれるシリンダー部材およびマトリックス部材と、第二の領域に含まれるシリンダー部材およびマトリックス部材が異なることを特徴とする構造体。
【請求項6】
前記第一の領域に含まれるシリンダー部材がMPt(M=Co,Fe,Ni)を含有するL10またはL12を含む規則合金から成り、マトリックス部材が酸化シリコンであり、第二の領域に含まれるシリンダー部材がMPtSi(M=Co,Fe,Ni)を含有する材料から成り、マトリックス部材がシリコンであることを特徴とする請求項5記載の構造体。
【請求項7】
前記第一の領域が硬磁性領域であり、第二の領域が軟磁性あるいは非磁性領域であることを特徴とする請求項5または6記載の構造体。
【請求項8】
基体上に形成され、複数のシリンダー部材とその側面を取り囲むマトリックス部材を有する第一の領域と、連続膜からなる第二の領域を有する構造体であって、前記第一の領域に含まれるシリンダー部材がMPt(M=Co,Fe,Ni)を含有するL10またはL12を含む規則合金から成り、マトリックス部材が酸化シリコンであり、第二の領域はMPtSi(M=Co,Fe,Ni)を含有する連続膜からなることを特徴とする構造体。
【請求項9】
前記第一の領域が硬磁性領域であり、第二の領域が軟磁性あるいは非磁性領域であることを特徴とする請求項8記載の構造体。
【請求項10】
請求項5乃至9のいずれかに記載の構造体からなることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項11】
請求項5乃至9のいずれかに記載の構造体からなることを特徴とするディスクリートトラック媒体。
【請求項12】
基体上に膜を準備する工程、該膜の第一の領域に複数の孔を形成する工程、第一の領域以外からなる第二の領域に、第一の領域に含まれる孔の孔壁部材とは異なる孔壁部材よりなる孔を形成する工程、第一及び第二の領域の孔に同一の材料を充填する工程、加熱処理して第一及び第二の領域の少なくとも一方の領域に充填されている材料を改質する工程を有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項13】
前記第一及び第二の領域の孔壁部材の一方と、第一及び第二の領域の孔に充填された材料が加熱処理により反応して、第一及び第二の領域の充填された材料の一方が第1の機能性材料、他方が第1の機能性材料とは異なる第2の機能性材料に改質されることを特徴とする請求項12記載の構造体の製造方法。
【請求項14】
基体上にアルミニウムを含有するシリンダー部材とその側面を取り囲むシリコンあるいはシリコンゲルマニウムを成分とするマトリックス部材から構成される膜を形成する工程、該膜の第一の領域をマスクして該第一の領域以外の第二の領域に含まれる前記アルミニウムを含有するシリンダー部材を濃硫酸以外の酸及びアルカリ水溶液により除去して第二の領域に複数の孔を形成する工程、前記マスクを除去し第一の領域に含まれる前記アルミニウムを成分とする柱状の部材を濃硫酸により除去して第一の領域に複数の孔を形成する工程を有することを特徴とする請求項12または13記載の構造体の製造方法。
【請求項15】
前記第一の領域の孔壁部材が酸化シリコンからなり、前記第二の領域の孔壁部材がシリコンからなる孔を形成する工程、第一及び第二の領域の孔にMPt(M=Co,Fe,Ni)を充填する工程、加熱処理して第一の領域にはMPt(M=Co,Fe,Ni)を含有するL10またはL12を含む規則合金からなるシリンダー部材を、前記第二の領域には孔壁部材と第二の領域の孔に充填され材料が反応して生成したMPtSi(M=Co,Fe,Ni)を含有する材料からなるシリンダー部材を形成する工程を有することを特徴とする請求項12乃至14のいずれかの項に記載の構造体の製造方法。
【請求項16】
前記第一の領域の孔壁部材が酸化シリコンからなり、前記第二の領域の孔壁部材がシリコンからなる孔を形成する工程、第一及び第二の領域の孔にMPt(M=Co,Fe,Ni)を充填する工程、加熱処理して第一の領域にはMPt(M=Co,Fe,Ni)を含有するL10またはL12を含む規則合金からなるシリンダー部材を、前記第二の領域には孔壁部材と第二の領域の孔に充填され材料が反応して生成したMPtSi(M=Co,Fe,Ni)を含有する連続膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項12乃至14のいずれかの項に記載の構造体の製造方法。
【請求項17】
第1の材料を含み構成される第1のマトリックス領域と、該第1の材料とは異なる第2の材料を含み構成される第2のマトリックス領域とを有する部材を用意する工程、
該部材のそれぞれの領域が有する孔に同一の材料を充填する充填工程、
該第1のマトリックス領域に充填された材料と、該第2のマトリックス領域に充填された材料の物理特性を異ならせる工程、とを有することを特徴とする構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−73127(P2007−73127A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258565(P2005−258565)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】