構造体の接合構造
【課題】例えば既存コンクリート造の構造体とこれに接して構築される新設コンクリート造の構造体等、水平力の作用時に互いに独立して挙動し得る二つの構造体(主構造体と付加構造体)を両者間での水平せん断力の伝達を図りながら、その水平方向の回転軸回りに相対的な回転変形を許容する状態に接合する際に、両構造体間の相対的な回転変形に伴う衝突による損傷を回避する。
【解決手段】桁行方向を向く構面からスパン方向外側へ張出部材2が張り出す主構造体1のスパン方向の張出部材2側の構面に、主構造体1との間で桁行方向の水平せん断力を伝達する付加構造体6を配置し、主構造体1に接合する。付加構造体6の、張出部材の下方位置から主構造体1側へ繋ぎ部材7を張り出させ、繋ぎ部材7の主構造体1側の端部を主構造体1に、主構造体1に対して回転変形可能に接合する。張出部材2と付加構造体6との間、及び張出部材2と繋ぎ部材7との間に、張出部材2の付加構造体6に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスを確保する。
【解決手段】桁行方向を向く構面からスパン方向外側へ張出部材2が張り出す主構造体1のスパン方向の張出部材2側の構面に、主構造体1との間で桁行方向の水平せん断力を伝達する付加構造体6を配置し、主構造体1に接合する。付加構造体6の、張出部材の下方位置から主構造体1側へ繋ぎ部材7を張り出させ、繋ぎ部材7の主構造体1側の端部を主構造体1に、主構造体1に対して回転変形可能に接合する。張出部材2と付加構造体6との間、及び張出部材2と繋ぎ部材7との間に、張出部材2の付加構造体6に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスを確保する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば既存コンクリート造の構造体とこれに接して構築される新設コンクリート造の構造体、あるいは構造物の主体となる構造体とそれに接して付加的に構築される構造体等、曲げ剛性の相違等により水平力の作用時に互いに独立して挙動し得る二つの構造体間で水平せん断力を伝達しながら、相対的な回転変形を許容する状態に接合した接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば既存コンクリート造構造体のいずれかの躯体の表面に接して新設のコンクリート造構造体を構築する場合、新設の構造体(付加構造体)は主に既設の構造体(主構造体)の耐震性を補う役目を持つため、両構造体間で地震時等のせん断力の伝達が行われるように既設構造体(主構造体)に接合される(特許文献1、2参照)。
【0003】
特に付加構造体が耐震(制震)補強架構である場合、付加構造体は主構造体の水平二方向の内、主に耐震壁量の少ない桁行方向に平行に、主構造体の構面外に配置され、両構造体が対向する方向に直交する(対向する面に平行な)水平方向(桁行方向)のせん断力が伝達されるように主構造体に接合される。耐震(制震)補強架構の本体は主に柱・梁の架構とその構面内に組み込まれるブレース等の耐震要素から構成される。
【0004】
ここで、例えば主構造体の桁行方向を向く付加構造体側の構面からスパン方向外側(付加構造体側)へバルコニーのようなスラブ等が張り出している場合のように、主構造体の付加構造体側の構面に付加構造体の本体(架構)を接近させて構築することができない場合には、付加構造体の構面と主構造体の構面との間に距離が置かれる。
【0005】
このため、付加構造体を主構造体に一体化させる上で、付加構造体の本体からは、前記桁行方向のせん断力の伝達を図りながら、張り出し長さを確保できるスラブや梁等を張り出させることが必要になり、スラブ等を主構造体のいずれかの部位(躯体)の表面に接合することになる(特許文献2、3参照)。
【0006】
一方、付加構造体のスラブ等を主構造体に前記水平せん断力の伝達が図られるように接合する上では、付加構造体のスラブ等は主構造体の躯体の内、剛性の大きい部位に接合される必要があるため、主構造体の、せん断力作用方向(桁行方向)を向く梁(桁)に接合されることが適切である(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4038472号公報(段落0067、0080、図11、図12)
【特許文献2】特許第4230533号公報(段落0081〜0083、図6、図7)
【特許文献3】特許第4628491号公報(段落0065〜0093、図2〜図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
主構造体に付加構造体が接合されながらも、例えば曲げ剛性(固有振動数)の相違等に起因して水平力の作用時に付加構造体(新構造体)と主構造体(旧構造体)が互いに対向する方向(スパン方向)に独立して挙動する場合には、付加構造体は主構造体の変形に追従する(引き摺られる)形で強制的に変形することになる。
【0009】
主構造体の変形に追従することによる付加構造体の変形は主構造体が全体として両構造体が対向する方向(スパン方向)に曲げ変形するときに発生し、主構造体の曲げ変形に追従する付加構造体の変形は主構造体に対する相対的な回転変形になるから、両構造体間の相対的な回転変形は主構造体と付加構造体が対向する方向(スパン方向)に直交する方向(桁行方向)に平行な水平軸の回りに生ずる。
【0010】
従って主構造体と付加構造体は特許文献3のように両者が対向する方向に直交する方向(桁行方向)に平行な水平軸回りの相対的な回転変形が許容される状態に接合されている必要がある。回転変形が許容されていなければ、両構造体の接合部が損傷を受けることによる。
【0011】
但し、特許文献1における図2、図10、及び特許文献2における図6、図7のように既設構造体(主構造体)のスラブ等と新設構造体(付加構造体)のスラブ等が互いに重なり、接触した状態で接合されていれば、既設構造体のスラブ等に生じようとする曲げ変形が新設構造体のスラブ等によって拘束(阻止)されるため、両構造体間の相対的な回転変形が阻害され、双方のスラブ等が損傷する可能性がある。双方のスラブ等の接触による損傷は特許文献3のように新設構造体のスラブ等が既設構造体の躯体に相対的な回転が可能な状態に接合されている場合に起こり易い。
【0012】
以上のことから、付加構造体側へスラブ等の張出部材が張り出している主構造体の耐震補強の目的で、付加構造体を主構造体の張出部材側に構築し、その付加構造体から主構造体に接合するためのスラブ等の繋ぎ部材を張り出させる場合には、仮に特許文献3のように主構造体と付加構造体が構面内方向(桁行方向)に平行な水平軸回りの回転変形が許容される状態に接合されているとしても、双方のスラブ等同士が衝突する可能性があり、少なくともいずれかが損傷する可能性がある。
【0013】
この発明は上記背景より、付加構造体から主構造体側へ張り出すスラブ等の繋ぎ部材によって主構造体と付加構造体間の水平せん断力を伝達しながら、両者間の相対的な回転変形を許容する状態に両構造体を接合した場合に、両構造体の損傷を回避する状態にする接合構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明の構造体の接合構造は、桁行方向を向く構面からスパン方向外側へ張出部材が張り出す主構造体のスパン方向の前記張出部材側の構面に、前記主構造体が負担する外力の一部を分担し、前記主構造体との間で前記桁行方向の水平せん断力を伝達する付加構造体を配置し、前記主構造体に接合した構造体の接合構造であり、
前記付加構造体の、前記張出部材の下方位置から前記主構造体側へ繋ぎ部材が張り出し、その繋ぎ部材の前記主構造体側の端部は前記主構造体に、前記主構造体の前記スパン方向への曲げ変形時に、その曲げ変形の向きと逆向きに前記主構造体に対して回転変形可能に接合され、
前記張出部材と前記付加構造体との間、及び前記張出部材と前記繋ぎ部材との間に、前記主構造体の前記スパン方向への曲げ変形時における、前記張出部材の前記付加構造体に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスが確保されていることを構成要件とする。
【0015】
「主構造体の桁行方向を向く構面からスパン方向外側へ張出部材が張り出す」とは、主構造体が桁行方向を向き、スパン方向に対向する構面を持ち、その桁行方向の構面の内、少なくともいずれかの構面から屋外側へバルコニーのスラブや庇等のような張出部材が張り出すことを言い、本発明が、既存構造物である場合の主構造体に対応することを述べている。「張出部材側の構面に付加構造体を配置し」であるから、張出部材が張り出す主構造体の屋外側に付加構造体が配置される。「主構造体のスパン方向」は主構造体と付加構造体が対向する方向であり、「主構造体の桁行方向」は主構造体と付加構造体が対向する方向(スパン方向)に直交する水平方向である。桁行方向を向く「構面」は主として柱と梁のフレームから構成される。
【0016】
「付加構造体の、張出部材の下方位置から主構造体側へ繋ぎ部材が張り出し、」は、主構造体と付加構造体をつなぐための躯体としてスラブ(床版)や偏平な梁等の繋ぎ部材が付加構造体から主構造体側へ張り出すことを言う。繋ぎ部材の主構造体側の端部が主構造体に接合されることで、繋ぎ部材は両構造体間において、両構造体が対向する方向に直交する方向の水平せん断力の伝達を図り、いずれか一方の構造体が負担すべき桁行方向の水平力を両構造体に分担させる意味を持つ。
【0017】
繋ぎ部材は主構造体の梁(桁)等、いずれかの躯体に、主構造体の桁行方向に連続的に接合されることで、主構造体との間で桁行方向の水平せん断力を伝達する役目を持つから、繋ぎ部材には桁行方向に連続した長さを持つスラブが使用されることが適切である。但し、繋ぎ部材は主構造体の桁行方向に一定の連続した長さを持てば水平せん断力伝達の機能を果たせるため、必ずしも桁行方向には連続する必要はなく、断続的に配置されることもある。繋ぎ部材が主構造体のいずれかの躯体に連続的に接合される場合、繋ぎ部材は梁(桁)に加え、柱にも接合される。
【0018】
前記のように主構造体の付加構造体側にバルコニーのスラブ等の張出部材が張り出している場合には、付加構造体のスラブ等の繋ぎ部材が接合されるべき主構造体の梁(桁)が逆梁でない限り、主構造体のスラブ(張出部材)の上に付加構造体のスラブ(繋ぎ部材)を配置することができない。主構造体のスラブの先端から腰壁が立ち上がっている場合にも主構造体のスラブの上に付加構造体のスラブを配置することができない。この点で、本発明では繋ぎ部材が張出部材の下方に配置されることで、張出部材との接触(衝突)、あるいは干渉を回避しながら、スラブ等の繋ぎ部材を主構造体の梁等、いずれかの躯体に接合することを可能にしている。
【0019】
「繋ぎ部材の主構造体側の端部が主構造体に対して回転変形可能に主構造体に接合される」とは、繋ぎ部材が、主構造体と付加構造体が対向する方向(スパン方向)に直交する水平方向(桁行方向)の軸(水平軸)回りの回転変形が可能な状態に主構造体に接合されることを言う。繋ぎ部材は主構造体から張り出して主構造体と付加構造体との間に架設されながらも、主構造体には回転変形可能に接合されることで、両構造体が対向する方向に直交する方向の水平軸回りの曲げモーメントの伝達をせず、両構造体間の相対的な回転変形(曲げ変形)を許容する。
【0020】
繋ぎ部材の主構造体への接合状態を述べている「主構造体のスパン方向への曲げ変形時に、その曲げ変形の向きと逆向きに主構造体に対して回転変形可能な状態に主構造体に接合され、」とは、両構造体が対向する方向(スパン方向)に直交する方向(桁行方向)の水平軸回りに相対回転変形が可能な状態に、繋ぎ部材が主構造体に接合されること、すなわち繋ぎ部材と主構造体がスパン方向(桁行方向の水平軸回り)に実質的にピン接合されることを言う。「主構造体のスパン方向への曲げ変形」は主構造体が図4−(a)に示すように全体として付加構造体に対向する方向(スパン方向)に曲げ変形することを言い、曲げ変形には図4−(b)に示すようなせん断変形を伴うこともある。主構造体は全体として曲げ変形することで、曲げ変形時に層間変形(層間変形角θ)を生ずる。
【0021】
付加構造体から張り出す繋ぎ部材は主構造体には水平軸回りに相対回転変形が可能な状態に接合されることで、付加構造体に主構造体に対する相対的な回転変形を生じさせることを可能にするが、「繋ぎ部材が主構造体との間で水平せん断力の伝達を図りながら、主構造体に実質的にピン接合されること」は後述のように例えば繋ぎ部材と主構造体間に跨る「定着装置8」を介して接合されることにより実現される。
【0022】
「繋ぎ部材が主構造体の曲げ変形の向きと逆向きに主構造体に対して回転変形可能」とは、主構造体1のスパン方向の曲げ変形の発生時に、繋ぎ部材7が主構造体1に対して相対的な回転変形を生ずることにより図5−(a)、(b)に示すように主構造体1が付加構造体6に対して接近する向きに相対移動することを言う。主構造体1に接近する向きの相対移動と遠ざかる向きの相対移動は交互に繰り返される。図5−(a)は図4−(a)の一部を拡大した状態を示している。
【0023】
繋ぎ部材7が主構造体1に対し、主構造体1との接合部において桁行方向の水平軸回りに相対的に回転変形することで、主構造体1のスパン方向への曲げ変形時には、付加構造体6は図5−(a)、(b)に示すように主構造体1の曲げ変形の向きと逆向きに主構造体1に対して回転変形(曲げ変形)可能な状態になる。図4−(b)は主構造体1が全体としてせん断変形し、付加構造体6も主構造体1に追従してせん断変形したときの様子を示しているが、主構造体1と付加構造体6はこの変形性状を示すこともある。
【0024】
繋ぎ部材7が主構造体1に対して相対的な回転変形を生ずるときに、付加構造体6が全体として曲げ変形するか、せん断変形するかは問われないが、図4−(a)は主構造体1がせん断変形を伴いながら、全体として曲げ変形したときに、付加構造体6が全体としてせん断変形を生じ、繋ぎ部材7が付加構造体6の変形前の状態から平行移動している様子を示している。主構造体1が付加構造体6に接近する向きに曲げ変形したときには、繋ぎ部材7は主構造体1に対して相対的に回転変形することにより主構造体1の変形に追従し、主構造体1と付加構造体6との間の距離を保とうとする。
【0025】
図5−(a)、(b)に示すような付加構造体6の曲げ変形は付加構造体6を構成する柱6aが後述のように高さ方向に梁6bとの接合部を含む区間単位で区分され、区分された位置に、高さ方向に隣接する柱6a、6aを水平方向に相対移動自在に連結する積層ゴム支承等の免震装置6eが介在させられた場合に発生し易い。特に免震装置6eを挟んで上下に区分される柱6a、6aが球面状の底面を持つ連結部材を介して互いに回転変形し得るように連結されているような場合に顕著な傾向を示す。
【0026】
図4−(a)に示す状態は「繋ぎ部材7が主構造体1に対して回転変形可能な状態に主構造体1に接合されること」の結果として主構造体1の曲げ変形に拘わらず、付加構造体6が全体としてせん断変形、あるいは曲げ変形を伴ってせん断変形することで、繋ぎ部材7が変形前の状態からほぼ平行移動している様子を示している。このとき、図5−(a)に示すように繋ぎ部材7が主構造体1に対して回転変形することにより繋ぎ部材7の縦断面上の中心線と、主構造体1の柱4等、鉛直材の軸線とのなす角度は相対的に小さくなっている。図5では実線が変形後の様子を示し、一点鎖線が変形前の様子を示している。
【0027】
張出部材2は主構造体1の一部であるから、主構造体1には実質的には剛に接合されているか、それに近い状態にあるため、主構造体1の曲げ変形時、元の位置からはそれに追従して主構造体1と同一側へ回転運動を伴いながら、相対移動する。例えば主構造体1が付加構造体6に接近する向きの曲げ変形を生じたときには、図5−(a)に示すように主構造体1に接続している張出部材2は付加構造体6側が降下するように元の位置から回転変形し、主構造体1が付加構造体6から遠ざかる向きの曲げ変形を生じたときには、張出部材1は付加構造体6側が上昇するように回転する。いずれのときにも、主構造体1に追従する繋ぎ部材7は主構造体1に対する相対的な回転により変形前の状態から平行に、あるいはそれに近い状態を維持して移動しようとする。
【0028】
繋ぎ部材7が主構造体1に対して水平軸回りに相対回転変形可能に接合されていることで、主構造体1が付加構造体6側へ接近する向きの曲げ変形を生じたときには、繋ぎ部材7は図5−(a)に示すように主構造体1に対し、主構造体1の柱4とのなす角度が小さくなる向きに相対的に回転変形しながら、曲げ変形する主構造体1に追従する。
【0029】
このとき、主構造体1の付加構造体6寄りの柱4は圧縮側になるため、図4−(a)に示すように曲げ変形していることで、張出部材2の柱4との接合部のレベルは変形前の状態からは相対的に下方に降下する。それに伴い、柱4(梁3)にピン接合されている繋ぎ部材7の柱4(梁3)との接合部のレベルは変形前の状態から降下することで、図5−(a)に示すように見かけ上、繋ぎ部材7の付加構造体6(柱6a(梁6b))との接合部は相対的に上昇しようとする。このため、変形前の状態からは、張出部材2の付加構造体6側の先端部から、付加構造体6(柱6a(梁6b))までの距離、並びに繋ぎ部材7までの距離が小さくなる。
【0030】
ここで、主構造体1が付加構造体6側へ接近する向きの曲げ変形を生じ、張出部材2の先端部が変形前より降下したときには、繋ぎ部材7が張出部材2の下方に配置されていることで、上記したように柱6aとの接合部が変形前の状態から柱4との接合部より上昇するように相対移動する繋ぎ部材7、または付加構造体6の本体(いずれかの部分)に張出部材2の先端部が衝突する可能性がある。張出部材2と繋ぎ部材7等の双方に損傷が生じない程度の単なる接触は衝突に至らないため、許容される。
【0031】
この衝突の可能性に対し、本発明では「張出部材2と付加構造体6との間、及び張出部材2と繋ぎ部材7との間に、主構造体1のスパン方向への曲げ変形時における、張出部材2の付加構造体7に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスが確保されていること」で、付加構造体6側へ曲げ変形を生じた主構造体1の張出部材2と、付加構造体6及び繋ぎ部材7との衝突が回避される。「張出部材2と付加構造体6との間のクリアランスHc」は張出部材2の付加構造体6側の先端部と付加構造体6のいずれか部分との間に水平方向に確保され、「張出部材2と繋ぎ部材7との間のクリアランスVc」は張出部材2の下面(下端)と繋ぎ部材7の上面(上端)との間に鉛直方向に確保される。
【0032】
「主構造体のスパン方向への曲げ変形時における、張出部材の付加構造体に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスが確保されている」とは、主構造体1に接続している張出部材2が主構造体1の曲げ変形に伴い、付加構造体6及び繋ぎ部材7との間に相対的な回転変形が生じたときに、付加構造体6と繋ぎ部材7の双方に衝突しないだけのクリアランスHc、Vcがそれぞれとの間に確保されていることを述べている。「回転変形を許容する」とは、図4−(a)、もしくは(b)に示すような主構造体1のスパン方向への曲げ変形時、あるいはせん断変形時に、張出部材2が付加構造体6のいずれかの部分に衝突しないことを言う。張出部材2と付加構造体6との間のクリアランスは図5−(a)に示す両者間の水平方向の間隔Hcを指し、張出部材2と繋ぎ部材7との間のクリアランスは両者間の鉛直方向の間隔Vcを指す。
【0033】
主構造体1が付加構造体6に接近する向きの曲げ変形を生じたとき、繋ぎ部材7の主構造体1側の端部は主構造体1に対して相対的な回転変形が可能な状態に接合されているから、図5−(a)に示すように繋ぎ部材7は張出部材2とは逆向きに相対変位しようとし、この逆向きの相対変位の結果として、付加構造体6の本体である柱6a、梁6b、ブレース6c等のいずれかの部分が張出部材2の先端部に接近し、繋ぎ部材7の上面が張出部材2の下面に接近する。このときの衝突を回避するために、張出部材2の付加構造体6側先端部と付加構造体6の本体との間、及び張出部材2の先端部側の下面と繋ぎ部材7の上面との間にクリアランスHc、Vcが確保される。
【0034】
張出部材2と付加構造体6との間の水平方向のクリアランスHcと、張出部材2と繋ぎ部材7との間の鉛直方向のクリアランスVcは大きい程、それぞれの衝突の可能性が低くなる。但し、張出部材2と付加構造体6との間の水平方向のクリアランスHcが大きくなれば、主構造体1と付加構造体6との間の距離が拡大し、繋ぎ部材7の張り出し長さが大きくなるため、水平せん断力伝達時に繋ぎ部材7が受ける面内の曲げモーメントが増大する不都合がある。
【0035】
また張出部材2と繋ぎ部材7との間の鉛直方向のクリアランスVcが大きくなれば、繋ぎ部材7の鉛直断面上の中心と繋ぎ部材7が接合される梁(桁)3等の鉛直断面上の中心との間の偏心が大きくなり、偏心距離が繋ぎ部材7と梁3(主構造体1)との間での水平せん断力の伝達時に曲げモーメント、もしくは捩りモーメントの影響として表れる可能性がある。鉛直方向のクリアランスVcを大きく取ろうとすれば、梁成の範囲内で梁3の側面に繋ぎ部材7の全断面を突き合わせて接合することが難しくなることも考えられる。
【0036】
例えば張出部材2と繋ぎ部材7との間の鉛直方向のクリアランスVcを十分に大きく確保しながら、繋ぎ部材7の主構造体1側の端部を主構造体1の梁3に、その梁成の範囲内で接合しようとすれば、繋ぎ部材7の厚さを削減しなければならないことが想定される。また例えば繋ぎ部材7の下面(下端)を主構造体1の梁3の下端に揃えながら、クリアランスVcを確保しようとすれば、繋ぎ部材7の鉛直断面上の中心が梁3の中心より下方に位置し、繋ぎ部材7のスパン方向に作用する軸方向力により梁3に捩りモーメントを作用させ易くなる。
【0037】
以上のことから、水平方向のクリアランスHcと鉛直方向のクリアランスVcは繋ぎ部材7のせん断力伝達時の負担を軽減すると共に、せん断力伝達時に繋ぎ部材7とその両側に位置する主構造体1の梁3と付加構造体6の梁6b等に不必要な応力を生じさせず、繋ぎ部材7を合理的な寸法で構築する上では、可能な範囲で小さく抑えることが望ましい。
【0038】
そこで、繋ぎ部材7の下面が主構造体1の張出部材2側の構面を構成する梁3の下面(下端)以上に位置し、且つ繋ぎ部材7の上面が梁3の断面上の中心以上に位置するように繋ぎ部材7を配置すれば(請求項2)、繋ぎ部材7の断面上の中心と梁3の断面上の中心との間の極端な偏心が回避されるため、少なくとも繋ぎ部材7から梁3に対する捩りモーメントの作用を低減するか、影響を最小に抑えることが可能になる。「梁3の下面(下端)以上」の「以上」は同一レベルとそれより上を指す。図1、図2、図6、図7、図13中、梁3の断面を示す対角線の交点が梁3の断面上の中心(図心)を表している。
【0039】
繋ぎ部材7の下面が主構造体1の張出部材2側の構面を構成する梁3の下面以上に位置し、且つ繋ぎ部材7の上面が梁3の断面上の中心以上に位置すれば、繋ぎ部材7の断面上の中心を通る水平線を梁3の断面上の中心を含む一定の領域内に納めることができるため、繋ぎ部材7の断面上の中心を通る水平線を梁3の断面上の中心に一致させ、偏心を完全になくすことも可能になる。繋ぎ部材7の下面が特に図1、図2、図6、図7−(b)に示すように梁3の断面上の中心より下に位置し、且つ繋ぎ部材7の上面が梁3の断面上の中心より上に位置すれば、繋ぎ部材7の断面上の中心を通る水平線が梁3の断面上の中心を含む一定の領域内に納まり易くなる。
【0040】
図4−(a)、図5−(a)に示すように主構造体1が曲げ変形するときの張出部材2の「変形前(原位置)からの降下量」は上層程、大きく、繋ぎ部材7との間の鉛直方向の相対変位量V1は主構造体1の曲げ変形の程度(性状)と層(階)数に応じて相違するため、「張出部材2と付加構造体6との間のクリアランスHc、及び張出部材2と繋ぎ部材7との間のクリアランスVc」の大きさは張出部材2が張り出す主構造体1の階(層)に応じて決められる。
【0041】
「張出部材が付加構造体と繋ぎ部材に衝突しないだけのクリアランス」は張出部材2の付加構造体6側の端部(先端部)と付加構造体6との間、及び張出部材2の付加構造体6側の端部(先端部)の下端と繋ぎ部材7の上面(天端面)との間に確保される。両クリアランス共、基本的には図5−(a)に示す張出部材2の主構造体1からの張り出し長さL0と主構造体1の曲げ変形時に想定される層間変形角θ、及び主構造体1の層間の距離(階高)Vによって決まる。層間変形角θは主構造体1に生ずる曲げ変形の性状に応じて決まる。
【0042】
図5−(a)では主構造体1を曲げ変形した鉛直材(柱4)として、付加構造体6をせん断変形した鉛直材(柱6a)として示し、張出部材2が主構造体1の鉛直材(柱4)に剛に接合され、繋ぎ部材7が付加構造体6の鉛直材(柱6a)に剛に接合されていることとして示している。繋ぎ部材7は主構造体1(柱4)には回転可能な状態にピン接合されている。
【0043】
図5−(b)は図5−(a)との対比として、付加構造体6の鉛直材(柱6a)が主構造体1側へ曲げ変形したときの、繋ぎ部材7の付加構造体6(柱6a)との接合部のレベルの変動が小さい(変わらない)場合の、付加構造体6の曲げ変形後の様子を示している。
【0044】
図5−(a)は変形後の繋ぎ部材7の柱6a(梁6b)との接合部のレベルが変形前のレベルより相対的に上昇している場合の変形後の様子を示しているが、(b)は変形後の繋ぎ部材7の柱6a(梁6b)との接合部のレベルが変形前のレベルと変動がない場合の変形後の様子を示している。(a)に示すように繋ぎ部材7の柱6aとの接合部のレベルが変形前より上昇するか、(b)に示すように変動がないかは、主構造体1の曲げ変形の性状とその変形に追従して曲げ変形、もしくはせん断変形する付加構造体6の変形性状によって相違する。
【0045】
図5−(a)において、主構造体1が付加構造体6側へ曲げ変形したときの層間変形角をθ、張出部材2の主構造体1からの張り出し長さをL0とすれば、張出部材2の張り出し位置(柱4との接合位置)の主構造体1の曲げ変形のみによる付加構造体6側への相対水平変位量H1はH1=V・tanθである。変形後の張出部材2先端位置の、主構造体1への接合位置からの距離L1はL1=L0・cosθであるから、変形後の張出部材2先端位置の変形前の状態からの回転変形による相対水平変位量H2はH2=H1+L1−L0=V・tanθ+L0・cosθ−L0=V・tanθ−L0・(1−cosθ)である。
【0046】
張出部材2先端位置の回転変形による相対水平変位量H2は主構造体1が曲げ変形する前の状態からの変形後までの相対水平変位量である。一方、変形後の張出部材2先端位置の、相対鉛直変位量V1はV1=L0・sinθである。主構造体1の曲げ変形のみによる、張出部材2の主構造体1(柱4)との接合位置の相対鉛直変位量は微小のため、無視し得る。
【0047】
このように変形後の張出部材2の先端位置の相対水平変位量H2と相対鉛直変位量V1が張出部材2の張り出し長さL0、層間変形角θ、層間の距離(階高)Vで決まるから、これらの条件から、張出部材2の付加構造体6側の端部(先端)と付加構造体6との間に確保されるべき水平方向のクリアランスHc、及び張出部材2の付加構造体6側の端部(先端)の下端と繋ぎ部材7の上面(天端面)との間に確保されるべき鉛直方向のクリアランスVcの大きさが求められる。
【0048】
水平方向のクリアランスHcは張出部材2先端位置の相対水平変位量H2以上(Hc≧H2=V・tanθ−L0・(1−cosθ))に設定され、鉛直方向のクリアランスVcは張出部材2先端位置の相対鉛直変位量V1以上(Vc≧V1=L0・sinθ)に設定される。等号を含む理由は張出部材2と繋ぎ部材7の接触を許容するためである。
【0049】
実際(実施設計)の場合を示す図1、図2の例では水平方向のクリアランスHcと鉛直方向のクリアランスVcは共に、少なくとも20〜30mm程度、確保されればよいことが確認されている。図1、図2では水平方向のクリアランスHcと鉛直方向のクリアランスVcをほぼ等しく設定しているが、両クリアランスHc、Vcを等しく設定できる場合が両クリアランスHc、Vcの大きさを最小に抑える場合に該当する。
【0050】
張出部材2の付加構造体6側の端部(先端部)と付加構造体6との間に確保されるべきクリアランス(水平方向のクリアランスHc)は詳しくは「主構造体1の付加構造体6側への曲げ変形時に、その主構造体1に追従する繋ぎ部材7が主構造体1の曲げ変形と逆向きに主構造体1に対して回転変形したときの、張出部材2の付加構造体6側への相対水平移動量以上の距離」であり、張出部材2の付加構造体6側の端部はこの距離を付加構造体6から隔てる(請求項3)。ここで言う「張出部材2の付加構造体6側への相対水平移動量」は上記した「張出部材2先端位置の相対水平変位量H2」に相当する。
【0051】
張出部材2の付加構造体6側の端部(先端部)の下端と繋ぎ部材7の上面(天端面)との間に確保されるべきクリアランス(鉛直方向のクリアランスVc)は「主構造体1の付加構造体6側への曲げ変形時に、その主構造体1に追従する繋ぎ部材7が主構造体1の曲げ変形と逆向きに主構造体1に対して回転変形したときの、張出部材2の付加構造体6側への相対鉛直移動量以上の距離」であり、張出部材2の付加構造体6側の端部はこの距離を付加構造体6の繋ぎ部材7から隔てる(請求項4)。ここで言う「張出部材2の付加構造体6側への相対鉛直移動量」は上記した「張出部材2先端位置の相対鉛直変位量V1」に相当する。
【0052】
前記した特許文献1、2のように主構造体(既設構造体)の張出部材(スラブ)と付加構造体(新設構造体)の繋ぎ部材(スラブ)が互いに重なるように接触した状態で、繋ぎ部材が主構造体に接合されている場合には、両構造体間の相対的な回転変形時に双方のスラブが損傷する可能性がある。接触状態を維持することによるスラブの損傷は特許文献3のように繋ぎ部材(新設構造体のスラブ)が主構造体(既設構造体)の躯体に相対的な回転が可能な状態に接合されている場合に一層起こり易い。
【0053】
特許文献3の繋ぎ部材は主構造体には両構造体が対向する方向に直交する水平方向の軸回りの相対的な回転変形を許容する状態に接合される。相対的な回転変形は少なくともいずれか一方の構造体である主構造体が付加構造体に対し、対向する方向に曲げ変形することにより生じ、図4−(a)、(b)に示すように主構造体が曲げ変形、あるいはせん断変形を伴って曲げ変形し、付加構造体がせん断変形する場合にも発生する。特許文献3では張出部材と繋ぎ部材との衝突は例えば主構造体が付加構造体との間の距離が接近する向きに曲げ変形したときに起こり易く、主構造体と付加構造体が共に互いに接近する向きに曲げ変形したときに顕著になる。
【0054】
これに対し、本発明では「張出部材2と付加構造体6との間、及び張出部材2と繋ぎ部材7との間に、主構造体1のスパン方向への曲げ変形時における、張出部材2の付加構造体6に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスが確保されている」ことで(請求項1)、張出部材2と繋ぎ部材7が接触状態にある(接触状態を維持する)場合での、両構造体1、6間の相対的な回転変形時の損傷が回避される。
【0055】
特に請求項3では「主構造体1の曲げ変形に伴う、張出部材2の付加構造体6側への相対水平移動量以上のクリアランスが確保されている」ことで、仮に付加構造体6が主構造体1と同じような曲げ変形を生じず、繋ぎ部材7のレベルに変化がなく、張出部材2が付加構造体6側へ接近したときにも、張出部材2の付加構造体6への衝突は回避される。請求項4では「主構造体1の曲げ変形に伴う、張出部材2の付加構造体6側への相対鉛直移動量以上のクリアランスが確保されている」ことで、張出部材2の付加構造体6側の先端部が降下したときにも、張出部材2の繋ぎ部材7への衝突が回避される。
【0056】
主構造体と付加構造体が水平力の作用時に互いに独立して挙動することには、例えば主構造体と付加構造体の曲げ剛性に差があり、曲げ剛性の差による固有振動数の差に起因し、独立して挙動(振動)することにより曲げ変形する場合と、曲げ剛性に差がなく、一様に曲げ変形しながらも、主構造体と付加構造体の接合部に相対的な回転変形が生ずる場合がある。いずれの場合も主構造体と付加構造体との間の相対的な回転変形は少なくともいずれか一方の構造体が曲げ変形を起こすことにより発生する。
【0057】
例えば同一の曲げ剛性を持つ二つの構造体が隣接している場合に、両構造体が一様に曲げ変形するときには、変形前の状態で同一レベルに位置する部位間でも両構造体の曲げ変形によってレベル差(段差)が生ずるから、両構造体に曲げ剛性の差がない場合にも相対的な回転変形は生ずることになる。
【0058】
主構造体1と付加構造体6との間で水平方向のせん断力(水平せん断力)が伝達されながら、その方向の軸回りの回転が可能な状態に両構造体1、6が接合されることは、図1、図2、図6に示すように主構造体1の躯体(梁3等)の表面と付加構造体6の繋ぎ部材7とに跨って前記した定着装置8が配置されることによって確保される。
【0059】
定着装置8は図6に示すように主構造体1の梁(桁)3等、付加構造体6側の構面を構成するいずれかの躯体と、付加構造体6の繋ぎ部材7の境界に跨って配置され、一部に厚さ方向に貫通する挿通孔92aを有する定着部材9と、定着部材9を貫通して両構造体1、6に定着され、曲げ変形可能なアンカー10とを備える。定着装置8は主構造体1と付加構造体6との間での水平せん断力伝達の機能を発揮する上で、その方向(主構造体1と付加構造体6が対向する方向に直交する方向)に多数配列する。
【0060】
定着部材9は主構造体1と繋ぎ部材7に跨って設置され、主構造体1と繋ぎ部材7のいずれか一方に定着される定着部91と、それに連続し、他方に定着される本体部92の2部分からなり、全体として軸方向には定着部91の反対側である本体部92が凸になる立体形状をする。両構造体1、6が対向する方向(定着部材9の軸方向)の一方側の端部である定着部91が主構造体1と繋ぎ部材7のいずれか一方に定着され、他方側の端部である本体部92が主構造体1と繋ぎ部材7のいずれか他方に定着される。
【0061】
定着部91は本体部92の周囲、もしくは周囲寄りの位置に周方向に連続して、もしくは断続的に形成(突設)され、全体的には環状に形成される。定着部91のいずれかの部分がせん断力を負担したときに荷重を定着部91全体に分散させる上では、定着部91は連続的に形成される。「断続的に形成」とは、定着部91が波形状に形成される場合のように定着部91の深さが周方向に変化するようなことを言う。
【0062】
定着部材9は図11に示すように定着部91と本体部92がそれぞれの側の構造体に定着されることにより、地震時に一方の構造体(図示する場合は主構造体1)と他方の構造体(図示する場合は付加構造体6の繋ぎ部材7)の双方の接触面(境界面)が平行な状態のまま、その接触面(両構造体1、6が対向する面)に平行な水平方向の相対変位(ズレ変形)が生じようとするときに、両構造体(付加構造体6と主構造体1)間の水平せん断力を伝達する。
【0063】
定着部材9は定着部91において一方の構造体(主構造体1)中に定着(埋設)され、本体部92において他方の構造体(付加構造体6の繋ぎ部材7)に定着(埋設)されることにより他方の構造体6(繋ぎ部材7)から受ける水平せん断力を一方の構造体1に伝達するか、逆に一方の構造体1から受ける水平せん断力を他方の構造体6(繋ぎ部材7)に伝達する。定着部91は図11−(a)に示すように一方の構造体1の他方の構造体6(繋ぎ部材7)側の面に形成された溝部1bに入り込む(嵌入)することにより一方の構造体1に定着される。
【0064】
一方の構造体1と他方の構造体6(繋ぎ部材7)の境界面には、上記のように地震時に双方の接触面が平行な状態のまま、相対変位(ズレ変形)が生じようとするため、相対変位時に定着部材9が一方の構造体1と他方の構造体6(繋ぎ部材7)から水平せん断力を受けようとする。定着部材9の本体部92が他方の構造体6(繋ぎ部材7)からせん断力を受け、定着部91の少なくとも軸方向の一部である一方の構造体1中に埋設される区間(部分)が他方の構造体6(繋ぎ部材7)からのせん断力を一方の構造体1に伝達し、その反力を負担する。
【0065】
本体部92に連続して形成される定着部91の本体部92に対する形成位置と形状は問われず、一方の構造体1の溝部1bに嵌入する環状の定着部91は本体部92の外周に形成される他、本体部92の外周より内側に寄った位置に形成される。前者の場合、定着部91の外周面は本体部92の外周面に連続し、後者の場合には定着部91の外周面は本体部92外周面より内周側に位置する。
【0066】
定着部91はその形状に対応して環状、もしくは面状等に形成されている一方の構造体1の溝部1bに全周に亘って嵌入する。溝部1bへは、その深さ方向(軸方向)に定着部91の全体が嵌入する場合と一部区間が嵌入する場合がある。定着部91はまた、同心円状に、本体部92の放射方向(半径方向)に複数形成されることもある。
【0067】
定着部91全体(深さ方向(軸方向)の全体)が一方の構造体1の溝部1bに嵌入する場合には、本体部92の外周面が他方の構造体6(繋ぎ部材7)に接触する。定着部91の一部区間が溝部1bに嵌入する場合には、本体部92の外周面と定着部91の一部が他方の構造体6(繋ぎ部材7)に接触する。いずれの場合も、図11に示すように本体部92の外周面が他方の構造体6(繋ぎ部材7)からのせん断力を負担し、定着部91の外周面と内周面から一方の構造体1にせん断力を伝達する。
【0068】
図11−(a)、(b)に示すように定着部材9に他方の構造体6(繋ぎ部材7)から右向きのせん断力が作用したとき、そのせん断力はその作用の向きに対向する定着部材9の本体部92の外周面が受ける。他方の構造体6(繋ぎ部材7)からのせん断力は本体部92外周面の内、せん断力作用方向への投影面積分が受ける。図11−(a)、(b)中、せん断力を受ける面を太線で示している。
【0069】
本体部92の外周面が受けたせん断力はその外周面に対向する側を向き、一方の構造体1の溝部1bに嵌入する定着部91の外周面と内周面から一方の構造体1に伝達される。定着部91も図11−(b)に示すようにせん断力の作用方向を向く投影面積分でせん断力を一方の構造体1に伝達する。
【0070】
本体部92の外周面が受けた他方の構造体6(繋ぎ部材7)からのせん断力は図11−(b)に示すように本体部92外周面に対向する側に位置する定着部91の外周面と、この本体部92外周面と同一側に位置する定着部91の内周面から一方の構造体1に伝達される。一方の構造体1に作用するせん断力は逆の経路で他方の構造体6(繋ぎ部材7)に伝達される。
【0071】
このように定着部材9の本体部92の外周に定着部91が形成され、本体部92の少なくとも一部が他方の構造体6(繋ぎ部材7)中に位置し、定着部91の少なくとも一部が一方の構造体1の溝部1bに嵌入することで、他方の構造体6(繋ぎ部材7)には本体部92の外周面が接触し、一方の構造体1には定着部91の外周面が接触する状態になる。
【0072】
このため、他方の構造体6(繋ぎ部材7)からのせん断力は本体部92の外周面から本体部92に伝達され、定着部91から一方の構造体1に伝達される。定着部材9の定着部91は環状等に形成されている溝部1bに嵌入しているため、一方の構造体1には定着部91の外周面と内周面からせん断力が伝達される。
【0073】
定着部材9を軸方向に直交する方向に見たときに、図9に示すように定着部材9が2方向(水平方向と鉛直方向)に同等の長さ(投影面積)を持った形状(立体形状)をし、軸方向に直交する方向に方向性のない形状をしていれば、鉛直方向のせん断力も伝達可能ではある。但し、定着部材9は一方の構造体(主構造体1)と他方の構造体(付加構造体6(繋ぎ部材7))が独立して挙動するときには両構造体1、6の対向する面間に、水平軸回りの相対的な回転変形が生じさせる機能を発揮するため、両構造体1、6の相対的な回転変形を阻害しない形状に形成される。
【0074】
「両構造体1、6の相対的な回転変形を阻害しない形状」とは、図6に示すように定着部材9の定着部91がその側の構造体に定着された状態のまま、本体部92側の構造体が、凸の形状をしている本体部92の表面に沿い、定着部91側の構造体に対して相対的に回転変形し得る形状をすることを言う。主構造体1と付加構造体6の相対的な回転であるから、各構造体の回転変形前の状態からの絶対的な回転角度の大きさは問われない。
【0075】
「本体部92の表面に沿って回転変形する」とは、例えば図6に示すように一方の構造体(主構造体1)と他方の構造体(繋ぎ部材7)の接触面に平行な水平方向に見たときに、本体部92の他方の構造体(繋ぎ部材7)側の表面が凸となった曲線状(立体的には曲面状)をしている場合に、他方の構造体(繋ぎ部材7)が一方の構造体(主構造体1)に対して本体部92の表面に沿い、滑りを生ずるように回転することを言う。
【0076】
定着部材9が一方の構造体1に定着される定着部91と、他方の構造体6(繋ぎ部材7)側が凸の形状になった本体部92を有することで、主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)間の相対的な回転変形が生じようとしたときには、形態的に定着部91がその側の構造体1に対して回転変形しようとする可能性より、本体部92がその側の構造体6(繋ぎ部材7)に対して回転変形しようとする可能性が高い。この可能性の差に起因し、定着部材9は定着部91において一方の構造体1に定着された状態を維持し、本体部92において他方の構造体6に対して相対移動しようとする。
【0077】
この結果、主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)との間には相対的な回転変形が阻害されることがないため、強制的な回転変形による主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)間における損傷が生ずることなく、回転変形が発生する。定着部材9は主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)間の対向する方向に直交する方向の水平せん断力を伝達しながら、その方向の水平軸回りの両構造体1、6の相対的な回転変形を許容することで、水平軸回りの曲げモーメントに対しては主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)をピン接合化する機能を発揮することになる。
【0078】
繋ぎ部材7が主構造体1に接合された状態から水平軸回りに相対的に回転変形することは、繋ぎ部材7と主構造体1がコンクリート造である場合には、繋ぎ部材7の主構造体1側の端面と主構造体1の対向する面間に肌別れが生ずることによって発生する。
【0079】
定着部材9の本体部92表面の形状により主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)との間の相対的な回転変形が生じ易い状態にあることで、両構造体1、6が地震力や風荷重により独立して振動し、相対的な回転変形を起こそうとするとき、両構造体1、6の対向する面間には図6に矢印で示すように水平軸回りの曲げモーメントが作用することによって肌別れが生じようとし、水平軸回りの相対的な回転が発生する。この回転は正負の向きに交互に生ずる。
【0080】
このとき、定着部材9が主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)との間の相対的な回転変形を阻害せず、回転変形を積極的に生じさせるには、定着部材9が主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)の双方に跨って固定された状態を維持しない方がよく、図6に示すように定着部材9の定着部91が主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)のいずれか一方(主構造体1(梁3))に定着された状態を維持したまま、他方(付加構造体6(繋ぎ部材7))が本体部92の表面に沿い、本体部92に対して回転変形し得る状態にあることが適切である。
【0081】
そこで、他方の構造体(付加構造体6(繋ぎ部材7))に定着される本体部92の表面がその構造体側に凸の曲面状に形成されることで、両構造体1、6が相対的な回転変形を起こそうとするときに本体部92側の構造体(付加構造体6)が本体部92の表面に沿い、本体部92に対して回転変形し得る状態が得られる。「曲面状」は具体的には定着部材9の本体部92が椀状等の楕円放物面その他の曲面状、あるいは多面体形状等をすることであり、「本体部92に対して回転変形し得る状態」は本体部92側の構造体(付加構造体6)と本体部92表面との間の縁が切れる(分離する)ことに相当する。上記した「肌別れ」は本体部92側の構造体(繋ぎ部材7)と本体部92表面との間の縁が切れて回転する結果として生じる。
【0082】
例えば図6に示すように定着部91が主構造体1(梁3)に定着され、本体部92が付加構造体6(繋ぎ部材7)に定着された状態で定着部材9が両構造体1、6に跨って設置されている場合に、両構造体1、6が相対的な回転変形を起こそうとするとき、主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)の端面(接触面)間に肌別れを生ずると仮定すれば、図6の例では相対的に高さ(成、あるいは厚さ)の小さい側の構造体である付加構造体6(繋ぎ部材7)が主構造体1(梁3)側の端面の下端、もしくは上端を回転中心として回転しようとする。付加構造体6(繋ぎ部材7)が主構造体1(梁3)側端面の下端回りに回転することと、上端回りに回転することは交互に発生する。両構造体1、6の相対的な回転変形の回転中心は定着部材9を挿通するアンカー10が曲げ変形を起こすときの曲げの中心でもある。
【0083】
このように主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)が相対的に回転変形するときには、相対的に高さ(成(厚さ))の小さい側の構造体(繋ぎ部材7)がその下端と上端を回転中心とし、他方の構造体に対して回転しようとする。従って本体部92がいずれの側の構造体に定着されているかに関係なく、本体部92の表面は主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)が互いに対向する方向に直交する水平方向(相対的な回転変形の回転中心(回転軸)の方向)に見たとき、高さ(成、あるいは厚さ)の小さい側の構造体(繋ぎ部材7)の下端と上端を中心とする円弧状、もしくはそれに近い形状に形成されていることが合理的である。
【0084】
「回転中心(回転軸)の方向に見たとき」であるから、図9に示すように「円弧状、もしくはそれに近い形状」は定着部材9の軸の回りに曲線が回転してできる回転体形状等の立体的な形状である場合と、図10に示すようにその立体的な形状の一部を含む場合の他、回転中心の方向に見たときに本体部の表面の外形線が「円弧状、もしくはそれに近い形状」を描く場合がある。
【0085】
「高さの小さい側の構造体(繋ぎ部材7)の下端と上端を中心とする円弧状」とは、定着部材9の軸方向の中心線に関して上半分の外形線が高さの小さい側の構造体(繋ぎ部材7)の、対向する構造体(梁3)側の面の内、下端を中心とする円弧、もしくはそれに近い曲線や多角形を描き、下半分の外形線が上端を中心とする円弧、もしくはそれに近い曲線や多角形を描くことを言う。
【0086】
定着部材9の本体部92は両構造体1、6の相対的な回転変形を許容すると共に、両構造体1、6が対向する方向に直交する方向の水平せん断力を伝達する働きをすればよいから、本体部92の表面が高さ(成、あるいは厚さ)の小さい側の構造体(繋ぎ部材7)の下端と上端を中心とする円弧状等に形成されることは、相対的な回転の軸に平行に見たときの形状であればよく、必ずしも立体的に円弧状等の形状(回転体形状)をしている必要はない。図9は本体部92が回転体形状をしている場合の例を示すが、図10は回転の軸方向(水平方向)に見たときの外形線が円弧状の形状をし、平面で見たときには定着部91を除く本体部がT字状の形状をしている場合の例を示している。
【0087】
定着部材9を軸方向に見たときの中心部には本体部92を軸方向に貫通し、両構造体1、6に定着される挿通孔92aが形成され、この挿通孔92aに定着部材9によるせん断力伝達能力を補うと共に、主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)間の相対的な回転変形後の復元機能を発揮するアンカー10が挿通する。アンカー10は定着部材9の挿通孔92aを挿通し、主構造体1と付加構造体6に跨った状態で配置され、主構造体1と付加構造体6に定着されることにより定着部材9と共に、付加構造体6(主構造体1)から受けるせん断力を主構造体1(付加構造体6)に伝達する働きをする。
【0088】
アンカー10には主にボルト(アンカーボルト)や棒鋼等、棒状の鋼材が使用されるが、繊維強化プラスチック等も使用される。アンカー10にボルトを使用した場合、図6に示すようにアンカー10(ボルト)にはナット11が付属することもある。ナット11がアンカー10の軸方向端部に接続された場合、ナット11は構造体1、6中での定着効果(引き抜き抵抗力)を確保する働きをし、定着部材9に接触する位置に接続された場合にはアンカー10の定着部材9に対する位置が変動しないようにアンカー10を定着部材9に接合(規制)する働きをする。
【0089】
アンカー10はまた、定着部材9を挟んだ両側において主構造体1と付加構造体6のそれぞれに定着された状態を維持することで、弾性範囲内で曲げ変形することにより、あるいは曲げ変形と伸び変形を生ずることにより、主構造体1と付加構造体6間の相対的な回転変形時に追従する。アンカー10が弾性範囲内で曲げ変形することで、両構造体1、6の相対的な回転変形に追従し、回転変形が終息した後には、変形を復元させようとするばねの働きをする。アンカー10の軸方向両端部は主構造体1と付加構造体6のそれぞれに定着された状態を維持するから、伸び変形を伴う場合は主構造体1と付加構造体6の分離を抑制(制限)する働きもする。
【発明の効果】
【0090】
桁行方向を向く構面からスパン方向外側へ張出部材が張り出す主構造体と、そのスパン方向の張出部材側の構面に配置され、主構造体との間で桁行方向の水平せん断力を伝達する付加構造体との間において、付加構造体の、張出部材の下方位置から主構造体側へ張り出す繋ぎ部材を主構造体に回転変形可能に接合し、張出部材と付加構造体との間、及び張出部材と繋ぎ部材との間に、張出部材の付加構造体に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスを確保しているため、付加構造体側へ曲げ変形を生じた主構造体の張出部材と繋ぎ部材との衝突を回避することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】主構造体が既存構造物であり、付加構造体が耐震(制震)補強架構である場合に、両構造体を接合した構造物の例を示す図3における主構造体の張出部材と付加構造体の繋ぎ部材との接合状態を示した斜視図である。
【図2】図3における主構造体の張出部材と付加構造体の繋ぎ部材との接合状態を示した他の斜視図である。
【図3】主構造体が既存構造物であり、付加構造体が耐震(制震)補強架構である場合の両構造体を接合した構造物の例を示した斜視図である。
【図4】(a)は図3に示す構造物を構成する主構造体が曲げ変形を起こしたときの主構造体と、主構造体に追従してせん断変形する付加構造体との関係をモデル化して示した桁行方向の立面図、(b)は主構造体と付加構造体が共にせん断変形した場合の両構造体の関係を示した桁行方向の立面図である。
【図5】(a)は図4−(a)に示す立面図の一部を抽出し、拡大した様子を示した立面図、(b)は(a)との対比で、繋ぎ部材の付加構造体との接合部のレベルに変動がない場合の曲げ変形後の様子を示した立面図である。
【図6】表面が球面状をなした定着部材とアンカーからなる定着装置を用いて主構造体の梁と付加構造体の繋ぎ部材を接合した様子を示した縦断面図である。
【図7】(a)は繋ぎ部材としてプレキャストコンクリートの床版を用いた場合の繋ぎ部材の主構造体と付加構造体間への架設状態を示した平面図、(b)は(a)のx−x線断面図、(c)は(b)の平面図である。
【図8】図6に示す定着装置が主構造体と付加構造体の境界面に位置している状態を定着部材の定着部側から見た様子を示した斜視図である。
【図9】図6に示す定着装置が主構造体と付加構造体の境界面に位置している状態を定着部材の本体部側から見た様子を示した斜視図である。
【図10】図9に示す定着部材の本体部がT字形の平面形状をしている場合の定着装置を定着部材の本体部側から見た様子を示した斜視図である。
【図11】(a)は定着部材の基本形状と、付加構造体の繋ぎ部材から主構造体の梁へのせん断力の伝達の様子を示した縦断面図、(b)は(a)の背面図である。
【図12】(a)は既存構造物である主構造体の例を示した縦断面図、(b)は(a)に示す主構造体に付加構造体を接合した様子を示した縦断面図である。
【図13】図12−(b)における主構造体の張出部材と付加構造体の繋ぎ部材との接合部分の拡大図である。
【図14】図12−(b)の平面図である。
【図15】図12−(b)の例において付加構造体を地上にではなく、主構造体(既存構造物)の付加構造体側の構面に接合し、支持させた場合の例を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0092】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0093】
図1は桁行方向を向く構面からスパン方向外側へスラブや庇等の張出部材2が張り出す主構造体1のスパン方向の張出部材2側の構面に、主構造体1が負担する外力の一部を分担し、主構造体1との間で桁行方向の水平せん断力を伝達する付加構造体4を配置し、主構造体1に接合した構造体の接合構造の具体例を示す。
【0094】
張出部材2は主構造体1の付加構造体6側の構面を構成する躯体である梁(桁)3等から片持ち状態で張り出す。張出部材2は梁3等から片持ち状態で張り出すため、梁3等には剛に接合される。梁3等には、梁3の他、梁3が接合され、梁3と共に桁行方向の構面を構成する柱4等が含まれる。主構造体1の梁3等から付加構造体6側へ張り出す張出部材2はスラブ等の他、桁行方向の構面間(スパン方向)に架設される梁3と柱4との接合部から付加構造体6側へ延長して張り出す梁3である場合もある。
【0095】
付加構造体6の、張出部材2の下方位置からは主構造体1側へスラブ(床版)や幅のある、例えば偏平な梁等の繋ぎ部材7が張り出し、その繋ぎ部材7の主構造体1側の端部は主構造体1に接合される。繋ぎ部材7の主構造体1側の端部は主構造体1のスパン方向への曲げ変形時に、その曲げ変形の向きと逆向きに主構造体1に対して回転変形可能な状態に主構造体1に接合される。繋ぎ部材7の主構造体1側の端部は具体的には図6に示すように繋ぎ部材7と主構造体1のいずれかの躯体(梁3)との間に跨る定着装置8を介して主構造体1の梁3に接合される。
【0096】
繋ぎ部材7の付加構造体6側の端部は付加構造体6を構成する梁6b等、後述のいずれかの躯体に接合される。梁6b等からは繋ぎ部材7は主構造体1側へ片持ち状態で張り出すため、梁6b等には剛に接合される。
【0097】
図1、図2等では付加構造体6の梁6bを構成する鉄骨部材(H形鋼)の主構造体1側に複数段に突設されたスタッド(アンカー)6fを繋ぎ部材7中に埋設し、定着させることにより繋ぎ部材7を梁6bに一体的に、剛に接合しているが、梁6bが鉄骨造であるか鉄筋コンクリート造であるか等は任意であるため、繋ぎ部材7を梁6bに剛に接合する方法は一切問われない。このように繋ぎ部材7の付加構造体6側の端部は梁6bには剛に接合されるのに対し、主構造体1側の端部は梁3等には水平軸回りに回転変形可能な状態に、例えば図1に示すように梁成方向に1段に配列した定着装置8を介して接合される。
【0098】
張出部材2と付加構造体6との間、及び張出部材2と繋ぎ部材7との間には、図1、図2に示すように主構造体1のスパン方向への曲げ変形時における、張出部材2の付加構造体6に対する相対的な回転変形を許容するためのクリアランスが確保される。クリアランスは両構造体1、6が対向する方向(スパン方向)には張出部材2の付加構造体6側の先端部と付加構造体6のいずれかの部分との間に確保され、鉛直方向には張出部材2の下面(下端)と繋ぎ部材7の上面(上端)との間に確保される。
【0099】
前記のようの張出部材2の下面と繋ぎ部材7の上面との間に確保される鉛直方向のクリアランスは大きい程、両部材2、7間の衝突が発生しにくく、いずれかの破損の可能性が低下する。しかしながら、クリアランスが大きければ、繋ぎ部材7を主構造体1の梁3に接合する場合に、一定の厚さを有する繋ぎ部材7の梁3側の端面の全面を完全に梁3の側面に当接させることが難しくなることがあり得る。また繋ぎ部材7の全面を当接させれば、繋ぎ部材7の厚さを縮小(犠牲に)せざるを得ないことがあるため、鉛直方向のクリアランスは可能な限り、小さく抑えることが合理的である。
【0100】
張出部材2の先端部と付加構造体6のいずれかの部分との間の水平方向のクリアランスも大きい程、両者間の衝突に生じにくいが、付加構造体6を主構造体1から遠ざけることになり、両構造体1、6間の距離に応じて繋ぎ部材7端部が負担する応力が大きくなるため、水平方向のクリアランスも可能な限り、小さい方がよい。
【0101】
この張出部材2と繋ぎ部材7との間、及び張出部材2と付加構造体6との間のクリアランス確保上の制限の面からは、繋ぎ部材7の下面を主構造体1の梁3の下面(下端)以上に位置させ、且つ繋ぎ部材7の上面を梁3の断面上の中心以上に位置させるように、繋ぎ部材7を梁3に対して配置し、接合することが適切である。この関係が満たされることで、繋ぎ部材7の断面上の中心と梁3の断面上の中心との間の偏心距離が抑制される、あるいは縮小されるため、繋ぎ部材7の厚さとして十分な大きさを確保しながら、すなわち繋ぎ部材7の厚さを減少させることなく、繋ぎ部材7から梁3に作用させる捩りモーメントを低減することが可能である。
【0102】
主構造体1と付加構造体6の組み合わせには、例えば図1〜図3等に示すような主構造体1としての既存構造物と、それに対して付加的に構築され、既存構造物を耐震(制震)補強する付加構造体6としての新設構造物の組み合わせの他、スパン方向に並列して構築される新設の構造物の組み合わせ等がある。
【0103】
付加構造体6の繋ぎ部材7を主構造体1に接合するための、後述の定着装置8を構成する定着部材9とアンカー10は主構造体1の梁3等のいずれかの躯体と付加構造体6の繋ぎ部材7の内部に定着(埋設)されるから、定着装置8が跨る主構造体1の梁3と付加構造体6の繋ぎ部材7は主として鉄筋コンクリート造になる。但し、定着装置8を構築済みの主構造体1に対して後から設置する(後付け)する場合には、少なくとも定着装置8が配置される領域が現場打ちコンクリート造であればよく、図7に示すように繋ぎ部材7の定着装置8以外の部分はプレキャストコンクリートで製作される場合もある。
【0104】
図7−(a)は繋ぎ部材7の主構造体1(梁3)側端部の接合部と付加構造体6(梁6c)側端部の接合部を除く長さ方向の中間部をプレキャストコンクリート製の版で構成した場合の、主構造体1と付加構造体6間への配置状態を示す。図7−(b)は(a)のx−x線の断面を、図(c)は(b)の平面を示す。図7−(b)では繋ぎ部材7のスパン方向両側の梁3との接合部、及び梁6cとの接合部において双方に跨る定着筋(アンカー)等の定着材を配置した上で、両者間に充填されるコンクリートやモルタルを充填することにより接合しているが、プレキャストコンクリート製の繋ぎ部材7とスパン方向両側の梁3、6cとの接合方法は任意である。
【0105】
図7−(b)では繋ぎ部材7の主構造体1(梁3)側の端部に、定着装置8を収納し得る空洞を形成し、この空洞部分に後からコンクリート等を充填している。繋ぎ部材7の付加構造体6(梁6c)側の端部からはプレキャストコンクリート中に埋設した定着筋等が梁6c側へ突出させられ、この定着筋等は例えば梁6cに突設されたスタッド6f、ジベル等のアンカーに重ねられる、あるいは係合させられる等により繋ぎ部材7の長さ方向に引張力の伝達が可能な状態に連係させられる。
【0106】
図7−(b)ではこの状態で対向する端面間にコンクリートを充填することにより繋ぎ部材7が梁6cに剛に接合している。主構造体1(梁3)側においては、定着装置8は繋ぎ部材7の設置前に主構造体1の梁3にあと施工アンカーの要領で接合され(定着させられ)、その後に繋ぎ部材7が、定着装置8を包囲する状態で設置される。
【0107】
図7の例では繋ぎ部材7の少なくとも定着装置8部分が現場打ちコンクリート造で構築されるが、繋ぎ部材7の全体が現場打ちコンクリート造で構築されることもある。その場合、張出部材2の下面と構築すべき繋ぎ部材7の上面との間に、完成する繋ぎ部材7との間のクリアランスを形成するための型枠(堰板)が介在させられる。
【0108】
クリアランスの大きさから、繋ぎ部材7のコンクリート打設後に型枠を回収可能である場合には、型枠は原則として回収されるが、型枠は使用後も残される(放置される)こともある。役目を終えた後の型枠の回収が困難である場合には、型枠には例えば空気の注入により膨張した状態を維持し、使用後の排気により収縮するような形態の型枠を使用することも考えられる。
【0109】
図1〜図3は前記のように主構造体1としての既存構造物の片側の構面に平行に、付加構造体6としての耐震(制震)補強架構を構築し、既存構造物の梁3に耐震補強架構の繋ぎ部材7としてのスラブを、定着装置8を用いて接合した場合の例を示している。以下、この例に基づいて詳細を説明する。図3、図12−(a)中、符号5は既存構造物(主構造体1)の基礎を示す。
【0110】
図6は図1に示す梁3と繋ぎ部材7との接合部の縦断面を示している。図1〜図3の例では、付加構造体6は主構造体1の構面に対向する柱6aと梁6bからなるフレーム、及びフレーム内に架設される耐震要素としてのブレース6cを含む架構と、梁6bのレベルから主構造体1側へ張り出し、主構造体1の梁3に接合される繋ぎ部材7(スラブ)を基本的な構成要素としている。
【0111】
付加構造体6の柱6aは高さ方向には梁6bとの接合部を含む区間単位で区分され、区分された位置に、高さ方向に隣接する柱6a、6aを水平方向に相対移動自在に連結する積層ゴム支承、滑り支承、弾性滑り支承等の免震装置6eが配置され、柱・梁の接合部間に、軸方向の伸縮時に減衰力を発生するダンパ6dを内蔵したブレース6cが架設されている。
【0112】
図1、図2では繋ぎ部材7の、付加構造体6の梁6b側の端部を、その梁6bとの一体性を確保する目的で、梁6bを構成するH形鋼に高さ方向に複数段、配列して溶接されたスタッド(アンカー)6fを繋ぎ部材5中に埋設する形で梁6bに接合している。これに対し、主構造体1側では繋ぎ部材7の端部を主構造体1に対して構面内の水平方向の軸回りに回転変形可能に接合する目的で、主構造体1との一体性の効果が強まらないよう、1段に配列した定着装置8を介して接合している。定着装置8は構面内方向に多数配列し、高さ方向には1段、もしくは複数段、配列する。高さ方向に複数段、配列する場合は千鳥状に配列することもある。
【0113】
免震装置6eは付加構造体6が単なる耐震補強架構ではなく、地震時の水平力の、主構造体1への入力を軽減しながら、水平力を減衰させる制震補強架構であることの機能を発揮する面から、高さ方向に区分された柱6a、6aを互いに水平方向に相対移動自在に接続する働きをするために介在させられているが、付加構造体6が耐震補強架構であるような場合には必ずしも必要ではない。
【0114】
定着装置8は主構造体1(梁3)と付加構造体6の繋ぎ部材7の境界(境界面)に跨って配置され、挿通孔92aを有する定着部材9と、この定着部材9を軸方向に貫通して両構造体1、6に定着され、曲げ変形可能なアンカー10から構成される。
【0115】
定着部材9は主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)のいずれか一方の構造体1に定着される定着部91と、他方の構造体6に定着され、その側の表面が凸の形状に形成された本体部92を持ち、この本体部92の表面に沿ってその側の構造体6が定着部材9に対して相対的に回転変形可能な状態にある。本体部92にはアンカー10が挿通する1箇所、もしくは複数箇所の挿通孔92aが形成される。
【0116】
定着部材9は図11に示すように主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)の内のいずれか一方の、他方側の面に形成される溝部1bに嵌入する定着部91と、定着部91に連続し、他方の構造体に埋設される本体部92の2部分からなる。溝部1bに定着部91が嵌入した状態で、溝部1b内にモルタル、接着剤等の充填材が充填されることにより、溝部1b内での定着部91の移動が拘束され、定着部91が安定させられる。
【0117】
図1、図2、図6では定着部材9が、定着部91を主構造体1(梁3)側に向け、本体部92を付加構造体6(繋ぎ部材7)側に向けた状態で配置されている様子を示しているが、定着部材9の軸方向の向きはいずれでもよく、定着部91を付加構造体6側に向け、本体部92を主構造体1側に向けて配置されることもある。
【0118】
定着部材9は一方の構造体(主構造体1)と他方の構造体(付加構造体6)の境界面に跨った状態で両構造体1、6間に配置され、図11−(a)に示すように定着部91の少なくとも軸方向の一部がその側の構造体(主構造体1)中に位置する。溝部1bは定着部91の形状に対応して環状に、もしくは定着部91を包囲する環状を含む円板状等、板状に形成される。
【0119】
定着部91はその側の構造体(主構造体1)の溝部1bに嵌入した状態で定着されることで、両構造体1、6が対向する方向(構面外方向)に直交する方向(構面内方向)の水平せん断力に抵抗し、両構造体1、6が構面内方向の水平軸回りに相対的に回転変形しようとするときにも、図6に示すようにその側の構造体(主構造体1)に定着された状態を維持する。定着部91は水平せん断力に対してはその方向への投影面積分の抵抗力を発揮し、回転変形時には構面内方向の水平軸回りの曲げモーメントに抵抗するから、これら2通りの外力に対する抵抗力を確保する上で、図11−(b)に示すように環状に閉じた形に形成される。
【0120】
本体部92はそれが位置する他方の構造体(付加構造体6)側の表面の少なくとも一部が凸の曲面形状、またはそれに近い多面体形状に形成されている部分を有すればよい。定着部材9は主に鋼材等の金属材料から形成されるが、定着部材9の材料は問われず、繊維強化プラスチック等からも成形される。
【0121】
定着部材9の本体部92の平面上の中心部、もしくはその付近には前記のように1箇所、もしくは複数箇所のアンカー10が挿通するための挿通孔92aが形成される。アンカー10は挿通孔92aを挿通した状態で一方の構造体(主構造体1)と他方の構造体(付加構造体6)のそれぞれに、両構造体1、6間の相対的な回転変形に伴い、アンカー10自体が伸び変形したときにも抜け出しを生じない程度の十分な定着長さを確保して定着される。
【0122】
アンカー10は前記のように挿通孔92aの内周面に形成された雌ねじに螺合等することにより本体部92に接続される場合と、挿通孔92a内周面との間にクリアランスを確保した状態で、挿通孔92a内を単純に挿通する場合の他、挿通孔92a内を挿通した状態で、挿通孔92a内に接着剤やモルタル等が充填されて本体部92に接続される場合がある。
【0123】
本体部92の挿通孔92aは本体部92の中央部等に形成されるが、必ずしも本体部92の中央部に1箇所である必要はなく、複数個形成されることもある。挿通孔92aの数に応じ、アンカー10は本体部92に1本、もしくは複数本挿通するが、本数は主構造体1と付加構造体6との間の相対的な回転変形を阻害しない程度に設定される。但し、両構造体1、6の回転変形後のアンカー10の復元力を期待する場合には複数本のアンカー10が挿通する方が有利である。
【0124】
アンカー10はその軸に直交する方向のせん断力に対する抵抗要素として機能するときには、アンカー10のせん断力作用方向への投影面積分の抵抗力が定着部91のせん断抵抗力に加算される。アンカー10にせん断力に対する抵抗要素としての機能を期待する場合には、その期待すべきせん断抵抗力に応じた径(太さ)と長さが与えられる。
【0125】
アンカー10は定着部材9に形成された挿通孔92aに螺合することにより、もしくは挿通孔92aに単純に挿通し、挿通孔92a内に接着剤やモルタル等が充填されることにより定着部材9の本体部92に一体化することもあるが、アンカー10が定着部材9(本体部92)の挿通孔92a内を挿通した状態で、本体部92に対して曲げ変形可能な状態を維持する面からは、挿通孔92aの内周面とアンカー10表面との間にはある程度のクリアランスが確保される方がよい。
【0126】
本体部92も定着部91と同様にその側の構造体(付加構造体6)中に埋設される状態で定着されることで、両構造体1、6が対向する方向(構面外方向)に直交する方向(構面内方向)の水平せん断力に抵抗する。両構造体1、6が構面内方向の水平軸回りに相対的に回転変形しようとするときには、その側の構造体(付加構造体6)が本体部92の表面に沿って滑りを生じ、定着部91側の構造体(主構造体1)に対する相対的な回転変形の発生を助けるよう、曲面状に形成される。
【0127】
本体部92の表面は例えば球面、またはそれに近い立体形状の曲面形状、または多面体形状に形成される。但し、他方の構造体(付加構造体6)が一方の構造体(主構造体1)に対して相対的な回転変形を起こそうとするときには、他方の構造体(付加構造体6)の内、一方の構造体(主構造体1)に接合される躯体である繋ぎ部材7の、一方の構造体(主構造体1)側の下端と上端を回転中心として回転しようとするから、本体部92の表面は構面内水平方向に見たときに、この回転中心を中心とする円弧をなしていることが最も望ましいことになる。
【0128】
図6、図9は本体部92の表面が球面の場合の例を示し、図10は表面が球面の一部をなし、挿通孔92aの形成部分以外の部分が除去された形状をしている場合の例を示している。いずれの形状の場合も水平せん断力に対してはその方向への投影面積分が抵抗するが、図10の場合には水平せん断力の作用方向に直交する面をなしているため、図9の場合と同等の抵抗力を確保しながらも、材料費を節減することが可能であることの利点がある。
【0129】
アンカー10は本体部92の挿通孔92aを挿通し、軸方向両端部が主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)に定着される。アンカー10は構面内水平方向のせん断力を負担すると共に、その方向に平行な水平軸回りの回転変形時に曲げモーメントを負担し、回転変形後に復元させる機能を発揮し得るように径と長さが決められる。アンカー10の、両構造体1、6への定着部分には前記のようにナット11が接続される他、雌ねじが切られる等によりリブが形成されることもある。
【0130】
定着部材9の定着部91が一方の構造体(主構造体1)の溝部1bに嵌入することで、前記の通り、他方の構造体(付加構造体6)からのせん断力が定着部91から一方の構造体(主構造体1)に伝達されるが、他方の構造体(付加構造体6)からのせん断力を受ける本体部92は定着部91から一方の構造体(主構造体1)に伝達する際に、定着部91が一方の構造体(主構造体1)からの反力によって変形しないように定着部91の剛性を確保する機能を有する。
【0131】
定着部材9の本体部92の挿通孔92aの周囲にはその表面側と背面側の少なくともいずれかへ突出する筒状の突出部が形成されることもある。突出部は挿通孔92aに連続する中空断面で形成され、アンカー10は挿通孔92aに連続して突出部に形成される挿通孔を挿通する。本体部92への突出部の形成は本体部92の断面形状を変化させるため、突出部は本体部92の断面性能(断面2次モーメント)を向上させる働きをする。
【0132】
突出部は本体部92からその表面側(付加構造体6側)と背面側(主構造体1側)の少なくともいずれかへ突出した形で形成されることで、付加構造体6からのせん断力を本体部92と共に負担する、または付加構造体6からのせん断力を定着部91と共に主構造体1に伝達する働きをする。突出部は本体部92の表面側に形成された場合に付加構造体6からのせん断力を負担し、背面側に形成された場合に主構造体1にせん断力を伝達する。突出部は本体部92の表面側と背面側に連続的に形成されることもある。
【0133】
図8は図6に示す定着部材9を定着部91側(主構造体1側)から見た様子を、図9は定着部材9を本体部92側(付加構造体6側)から見た様子を示す。主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)との境界面である梁3の側面(付加構造体6の繋ぎ部材7の端面)は定着部材9の定着部91から本体部92に移行する区間に位置し、定着部91が主構造体1の梁3内に、本体部92が付加構造体2の繋ぎ部材7内に位置する。
【0134】
図10は図9における本体部92の、アンカー10が挿通する挿通孔92a部分を除く部分が除去された形状に本体部92が形成されている場合の定着部材9を本体部92側(付加構造体6側)から見た様子を示す。図10では図9における本体部92の挿通孔92aを含む領域を帯状に残し、その他の領域を除去し、平面上、T字形に本体部92を形成している。
【0135】
図10に示す形状に本体部92が形成された場合、帯状に残された部分の側面が主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)がズレ変形を生ずる水平方向を向いた状態で定着部材9が配置されることで、その方向の水平せん断力を受け易くなる利点がある。水平せん断力がそのせん断力を受ける面に対して垂直でない場合には、その面が水平せん断力を完全に負担しきれないのに対し、帯状に残された部分の側面が水平せん断力に対して垂直であれば、その側面が水平せん断力を完全に負担できることに基づく。
【0136】
図12−(a)は主構造体1が既存構造物である場合の具体例を、(b)は(a)に示す主構造体1のスパン方向片側に図3に示す制震補強架構の例である付加構造体6を地上に構築し、主構造体1に接合した様子を示す。図12−(b)では主構造体1(既存構造物)の基礎5に重ねるように新設の基礎13を構築し、この基礎13の上に付加構造体6を構築している。図13は図12−(b)における主構造体1の張出部材2と付加構造体6の繋ぎ部材7との接合部分を拡大して示す。図14は図12−(b)における付加構造体6と、その梁6bから主構造体1側へ張り出す繋ぎ部材7との関係を示す。
【0137】
図12−(b)は地中に新たに構築した基礎13上に付加構造体6の柱6aを立設し、付加構造体6の鉛直荷重を基礎13に伝達させる場合の例を示している。これに対し、図15は主構造体1(既存構造物)の付加構造体6側構面の外側に付加構造体6を支持する支持部材12を接合し、この支持部材12上に柱6aを立設することにより支持部材12を通じて付加構造体6を主構造体1に支持させた場合の例を示す。
【0138】
図15の例は主構造体1の下層寄り地上階の屋外側に主構造体1の構面から付加構造体6側へ店舗、車寄せ、玄関屋根等の屋外施設14が張り出す場合に、屋外施設14の存在に影響されることなく、付加構造体6を構築する場合に有効な方法である。支持部材12は主構造体1の構面を構成する柱4から片持ち状態で張り出すように構築され、この支持部材12上に付加構造体6の柱6aと繋ぎ部材7が構築される。
【符号の説明】
【0139】
1……主構造体、2……張出部材、3……梁、4……柱、5……基礎、
6……付加構造体、6a……柱、6b……梁、
6c……ブレース、6d……ダンパ、6e……免震装置、6f……スタッド、
7……繋ぎ部材、
8……定着装置、
9……定着部材、91……定着部、92……本体部、92a……挿通孔、
10……アンカー、11……ナット、
12……支持部材、13……基礎、14……屋外施設。
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば既存コンクリート造の構造体とこれに接して構築される新設コンクリート造の構造体、あるいは構造物の主体となる構造体とそれに接して付加的に構築される構造体等、曲げ剛性の相違等により水平力の作用時に互いに独立して挙動し得る二つの構造体間で水平せん断力を伝達しながら、相対的な回転変形を許容する状態に接合した接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば既存コンクリート造構造体のいずれかの躯体の表面に接して新設のコンクリート造構造体を構築する場合、新設の構造体(付加構造体)は主に既設の構造体(主構造体)の耐震性を補う役目を持つため、両構造体間で地震時等のせん断力の伝達が行われるように既設構造体(主構造体)に接合される(特許文献1、2参照)。
【0003】
特に付加構造体が耐震(制震)補強架構である場合、付加構造体は主構造体の水平二方向の内、主に耐震壁量の少ない桁行方向に平行に、主構造体の構面外に配置され、両構造体が対向する方向に直交する(対向する面に平行な)水平方向(桁行方向)のせん断力が伝達されるように主構造体に接合される。耐震(制震)補強架構の本体は主に柱・梁の架構とその構面内に組み込まれるブレース等の耐震要素から構成される。
【0004】
ここで、例えば主構造体の桁行方向を向く付加構造体側の構面からスパン方向外側(付加構造体側)へバルコニーのようなスラブ等が張り出している場合のように、主構造体の付加構造体側の構面に付加構造体の本体(架構)を接近させて構築することができない場合には、付加構造体の構面と主構造体の構面との間に距離が置かれる。
【0005】
このため、付加構造体を主構造体に一体化させる上で、付加構造体の本体からは、前記桁行方向のせん断力の伝達を図りながら、張り出し長さを確保できるスラブや梁等を張り出させることが必要になり、スラブ等を主構造体のいずれかの部位(躯体)の表面に接合することになる(特許文献2、3参照)。
【0006】
一方、付加構造体のスラブ等を主構造体に前記水平せん断力の伝達が図られるように接合する上では、付加構造体のスラブ等は主構造体の躯体の内、剛性の大きい部位に接合される必要があるため、主構造体の、せん断力作用方向(桁行方向)を向く梁(桁)に接合されることが適切である(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4038472号公報(段落0067、0080、図11、図12)
【特許文献2】特許第4230533号公報(段落0081〜0083、図6、図7)
【特許文献3】特許第4628491号公報(段落0065〜0093、図2〜図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
主構造体に付加構造体が接合されながらも、例えば曲げ剛性(固有振動数)の相違等に起因して水平力の作用時に付加構造体(新構造体)と主構造体(旧構造体)が互いに対向する方向(スパン方向)に独立して挙動する場合には、付加構造体は主構造体の変形に追従する(引き摺られる)形で強制的に変形することになる。
【0009】
主構造体の変形に追従することによる付加構造体の変形は主構造体が全体として両構造体が対向する方向(スパン方向)に曲げ変形するときに発生し、主構造体の曲げ変形に追従する付加構造体の変形は主構造体に対する相対的な回転変形になるから、両構造体間の相対的な回転変形は主構造体と付加構造体が対向する方向(スパン方向)に直交する方向(桁行方向)に平行な水平軸の回りに生ずる。
【0010】
従って主構造体と付加構造体は特許文献3のように両者が対向する方向に直交する方向(桁行方向)に平行な水平軸回りの相対的な回転変形が許容される状態に接合されている必要がある。回転変形が許容されていなければ、両構造体の接合部が損傷を受けることによる。
【0011】
但し、特許文献1における図2、図10、及び特許文献2における図6、図7のように既設構造体(主構造体)のスラブ等と新設構造体(付加構造体)のスラブ等が互いに重なり、接触した状態で接合されていれば、既設構造体のスラブ等に生じようとする曲げ変形が新設構造体のスラブ等によって拘束(阻止)されるため、両構造体間の相対的な回転変形が阻害され、双方のスラブ等が損傷する可能性がある。双方のスラブ等の接触による損傷は特許文献3のように新設構造体のスラブ等が既設構造体の躯体に相対的な回転が可能な状態に接合されている場合に起こり易い。
【0012】
以上のことから、付加構造体側へスラブ等の張出部材が張り出している主構造体の耐震補強の目的で、付加構造体を主構造体の張出部材側に構築し、その付加構造体から主構造体に接合するためのスラブ等の繋ぎ部材を張り出させる場合には、仮に特許文献3のように主構造体と付加構造体が構面内方向(桁行方向)に平行な水平軸回りの回転変形が許容される状態に接合されているとしても、双方のスラブ等同士が衝突する可能性があり、少なくともいずれかが損傷する可能性がある。
【0013】
この発明は上記背景より、付加構造体から主構造体側へ張り出すスラブ等の繋ぎ部材によって主構造体と付加構造体間の水平せん断力を伝達しながら、両者間の相対的な回転変形を許容する状態に両構造体を接合した場合に、両構造体の損傷を回避する状態にする接合構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明の構造体の接合構造は、桁行方向を向く構面からスパン方向外側へ張出部材が張り出す主構造体のスパン方向の前記張出部材側の構面に、前記主構造体が負担する外力の一部を分担し、前記主構造体との間で前記桁行方向の水平せん断力を伝達する付加構造体を配置し、前記主構造体に接合した構造体の接合構造であり、
前記付加構造体の、前記張出部材の下方位置から前記主構造体側へ繋ぎ部材が張り出し、その繋ぎ部材の前記主構造体側の端部は前記主構造体に、前記主構造体の前記スパン方向への曲げ変形時に、その曲げ変形の向きと逆向きに前記主構造体に対して回転変形可能に接合され、
前記張出部材と前記付加構造体との間、及び前記張出部材と前記繋ぎ部材との間に、前記主構造体の前記スパン方向への曲げ変形時における、前記張出部材の前記付加構造体に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスが確保されていることを構成要件とする。
【0015】
「主構造体の桁行方向を向く構面からスパン方向外側へ張出部材が張り出す」とは、主構造体が桁行方向を向き、スパン方向に対向する構面を持ち、その桁行方向の構面の内、少なくともいずれかの構面から屋外側へバルコニーのスラブや庇等のような張出部材が張り出すことを言い、本発明が、既存構造物である場合の主構造体に対応することを述べている。「張出部材側の構面に付加構造体を配置し」であるから、張出部材が張り出す主構造体の屋外側に付加構造体が配置される。「主構造体のスパン方向」は主構造体と付加構造体が対向する方向であり、「主構造体の桁行方向」は主構造体と付加構造体が対向する方向(スパン方向)に直交する水平方向である。桁行方向を向く「構面」は主として柱と梁のフレームから構成される。
【0016】
「付加構造体の、張出部材の下方位置から主構造体側へ繋ぎ部材が張り出し、」は、主構造体と付加構造体をつなぐための躯体としてスラブ(床版)や偏平な梁等の繋ぎ部材が付加構造体から主構造体側へ張り出すことを言う。繋ぎ部材の主構造体側の端部が主構造体に接合されることで、繋ぎ部材は両構造体間において、両構造体が対向する方向に直交する方向の水平せん断力の伝達を図り、いずれか一方の構造体が負担すべき桁行方向の水平力を両構造体に分担させる意味を持つ。
【0017】
繋ぎ部材は主構造体の梁(桁)等、いずれかの躯体に、主構造体の桁行方向に連続的に接合されることで、主構造体との間で桁行方向の水平せん断力を伝達する役目を持つから、繋ぎ部材には桁行方向に連続した長さを持つスラブが使用されることが適切である。但し、繋ぎ部材は主構造体の桁行方向に一定の連続した長さを持てば水平せん断力伝達の機能を果たせるため、必ずしも桁行方向には連続する必要はなく、断続的に配置されることもある。繋ぎ部材が主構造体のいずれかの躯体に連続的に接合される場合、繋ぎ部材は梁(桁)に加え、柱にも接合される。
【0018】
前記のように主構造体の付加構造体側にバルコニーのスラブ等の張出部材が張り出している場合には、付加構造体のスラブ等の繋ぎ部材が接合されるべき主構造体の梁(桁)が逆梁でない限り、主構造体のスラブ(張出部材)の上に付加構造体のスラブ(繋ぎ部材)を配置することができない。主構造体のスラブの先端から腰壁が立ち上がっている場合にも主構造体のスラブの上に付加構造体のスラブを配置することができない。この点で、本発明では繋ぎ部材が張出部材の下方に配置されることで、張出部材との接触(衝突)、あるいは干渉を回避しながら、スラブ等の繋ぎ部材を主構造体の梁等、いずれかの躯体に接合することを可能にしている。
【0019】
「繋ぎ部材の主構造体側の端部が主構造体に対して回転変形可能に主構造体に接合される」とは、繋ぎ部材が、主構造体と付加構造体が対向する方向(スパン方向)に直交する水平方向(桁行方向)の軸(水平軸)回りの回転変形が可能な状態に主構造体に接合されることを言う。繋ぎ部材は主構造体から張り出して主構造体と付加構造体との間に架設されながらも、主構造体には回転変形可能に接合されることで、両構造体が対向する方向に直交する方向の水平軸回りの曲げモーメントの伝達をせず、両構造体間の相対的な回転変形(曲げ変形)を許容する。
【0020】
繋ぎ部材の主構造体への接合状態を述べている「主構造体のスパン方向への曲げ変形時に、その曲げ変形の向きと逆向きに主構造体に対して回転変形可能な状態に主構造体に接合され、」とは、両構造体が対向する方向(スパン方向)に直交する方向(桁行方向)の水平軸回りに相対回転変形が可能な状態に、繋ぎ部材が主構造体に接合されること、すなわち繋ぎ部材と主構造体がスパン方向(桁行方向の水平軸回り)に実質的にピン接合されることを言う。「主構造体のスパン方向への曲げ変形」は主構造体が図4−(a)に示すように全体として付加構造体に対向する方向(スパン方向)に曲げ変形することを言い、曲げ変形には図4−(b)に示すようなせん断変形を伴うこともある。主構造体は全体として曲げ変形することで、曲げ変形時に層間変形(層間変形角θ)を生ずる。
【0021】
付加構造体から張り出す繋ぎ部材は主構造体には水平軸回りに相対回転変形が可能な状態に接合されることで、付加構造体に主構造体に対する相対的な回転変形を生じさせることを可能にするが、「繋ぎ部材が主構造体との間で水平せん断力の伝達を図りながら、主構造体に実質的にピン接合されること」は後述のように例えば繋ぎ部材と主構造体間に跨る「定着装置8」を介して接合されることにより実現される。
【0022】
「繋ぎ部材が主構造体の曲げ変形の向きと逆向きに主構造体に対して回転変形可能」とは、主構造体1のスパン方向の曲げ変形の発生時に、繋ぎ部材7が主構造体1に対して相対的な回転変形を生ずることにより図5−(a)、(b)に示すように主構造体1が付加構造体6に対して接近する向きに相対移動することを言う。主構造体1に接近する向きの相対移動と遠ざかる向きの相対移動は交互に繰り返される。図5−(a)は図4−(a)の一部を拡大した状態を示している。
【0023】
繋ぎ部材7が主構造体1に対し、主構造体1との接合部において桁行方向の水平軸回りに相対的に回転変形することで、主構造体1のスパン方向への曲げ変形時には、付加構造体6は図5−(a)、(b)に示すように主構造体1の曲げ変形の向きと逆向きに主構造体1に対して回転変形(曲げ変形)可能な状態になる。図4−(b)は主構造体1が全体としてせん断変形し、付加構造体6も主構造体1に追従してせん断変形したときの様子を示しているが、主構造体1と付加構造体6はこの変形性状を示すこともある。
【0024】
繋ぎ部材7が主構造体1に対して相対的な回転変形を生ずるときに、付加構造体6が全体として曲げ変形するか、せん断変形するかは問われないが、図4−(a)は主構造体1がせん断変形を伴いながら、全体として曲げ変形したときに、付加構造体6が全体としてせん断変形を生じ、繋ぎ部材7が付加構造体6の変形前の状態から平行移動している様子を示している。主構造体1が付加構造体6に接近する向きに曲げ変形したときには、繋ぎ部材7は主構造体1に対して相対的に回転変形することにより主構造体1の変形に追従し、主構造体1と付加構造体6との間の距離を保とうとする。
【0025】
図5−(a)、(b)に示すような付加構造体6の曲げ変形は付加構造体6を構成する柱6aが後述のように高さ方向に梁6bとの接合部を含む区間単位で区分され、区分された位置に、高さ方向に隣接する柱6a、6aを水平方向に相対移動自在に連結する積層ゴム支承等の免震装置6eが介在させられた場合に発生し易い。特に免震装置6eを挟んで上下に区分される柱6a、6aが球面状の底面を持つ連結部材を介して互いに回転変形し得るように連結されているような場合に顕著な傾向を示す。
【0026】
図4−(a)に示す状態は「繋ぎ部材7が主構造体1に対して回転変形可能な状態に主構造体1に接合されること」の結果として主構造体1の曲げ変形に拘わらず、付加構造体6が全体としてせん断変形、あるいは曲げ変形を伴ってせん断変形することで、繋ぎ部材7が変形前の状態からほぼ平行移動している様子を示している。このとき、図5−(a)に示すように繋ぎ部材7が主構造体1に対して回転変形することにより繋ぎ部材7の縦断面上の中心線と、主構造体1の柱4等、鉛直材の軸線とのなす角度は相対的に小さくなっている。図5では実線が変形後の様子を示し、一点鎖線が変形前の様子を示している。
【0027】
張出部材2は主構造体1の一部であるから、主構造体1には実質的には剛に接合されているか、それに近い状態にあるため、主構造体1の曲げ変形時、元の位置からはそれに追従して主構造体1と同一側へ回転運動を伴いながら、相対移動する。例えば主構造体1が付加構造体6に接近する向きの曲げ変形を生じたときには、図5−(a)に示すように主構造体1に接続している張出部材2は付加構造体6側が降下するように元の位置から回転変形し、主構造体1が付加構造体6から遠ざかる向きの曲げ変形を生じたときには、張出部材1は付加構造体6側が上昇するように回転する。いずれのときにも、主構造体1に追従する繋ぎ部材7は主構造体1に対する相対的な回転により変形前の状態から平行に、あるいはそれに近い状態を維持して移動しようとする。
【0028】
繋ぎ部材7が主構造体1に対して水平軸回りに相対回転変形可能に接合されていることで、主構造体1が付加構造体6側へ接近する向きの曲げ変形を生じたときには、繋ぎ部材7は図5−(a)に示すように主構造体1に対し、主構造体1の柱4とのなす角度が小さくなる向きに相対的に回転変形しながら、曲げ変形する主構造体1に追従する。
【0029】
このとき、主構造体1の付加構造体6寄りの柱4は圧縮側になるため、図4−(a)に示すように曲げ変形していることで、張出部材2の柱4との接合部のレベルは変形前の状態からは相対的に下方に降下する。それに伴い、柱4(梁3)にピン接合されている繋ぎ部材7の柱4(梁3)との接合部のレベルは変形前の状態から降下することで、図5−(a)に示すように見かけ上、繋ぎ部材7の付加構造体6(柱6a(梁6b))との接合部は相対的に上昇しようとする。このため、変形前の状態からは、張出部材2の付加構造体6側の先端部から、付加構造体6(柱6a(梁6b))までの距離、並びに繋ぎ部材7までの距離が小さくなる。
【0030】
ここで、主構造体1が付加構造体6側へ接近する向きの曲げ変形を生じ、張出部材2の先端部が変形前より降下したときには、繋ぎ部材7が張出部材2の下方に配置されていることで、上記したように柱6aとの接合部が変形前の状態から柱4との接合部より上昇するように相対移動する繋ぎ部材7、または付加構造体6の本体(いずれかの部分)に張出部材2の先端部が衝突する可能性がある。張出部材2と繋ぎ部材7等の双方に損傷が生じない程度の単なる接触は衝突に至らないため、許容される。
【0031】
この衝突の可能性に対し、本発明では「張出部材2と付加構造体6との間、及び張出部材2と繋ぎ部材7との間に、主構造体1のスパン方向への曲げ変形時における、張出部材2の付加構造体7に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスが確保されていること」で、付加構造体6側へ曲げ変形を生じた主構造体1の張出部材2と、付加構造体6及び繋ぎ部材7との衝突が回避される。「張出部材2と付加構造体6との間のクリアランスHc」は張出部材2の付加構造体6側の先端部と付加構造体6のいずれか部分との間に水平方向に確保され、「張出部材2と繋ぎ部材7との間のクリアランスVc」は張出部材2の下面(下端)と繋ぎ部材7の上面(上端)との間に鉛直方向に確保される。
【0032】
「主構造体のスパン方向への曲げ変形時における、張出部材の付加構造体に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスが確保されている」とは、主構造体1に接続している張出部材2が主構造体1の曲げ変形に伴い、付加構造体6及び繋ぎ部材7との間に相対的な回転変形が生じたときに、付加構造体6と繋ぎ部材7の双方に衝突しないだけのクリアランスHc、Vcがそれぞれとの間に確保されていることを述べている。「回転変形を許容する」とは、図4−(a)、もしくは(b)に示すような主構造体1のスパン方向への曲げ変形時、あるいはせん断変形時に、張出部材2が付加構造体6のいずれかの部分に衝突しないことを言う。張出部材2と付加構造体6との間のクリアランスは図5−(a)に示す両者間の水平方向の間隔Hcを指し、張出部材2と繋ぎ部材7との間のクリアランスは両者間の鉛直方向の間隔Vcを指す。
【0033】
主構造体1が付加構造体6に接近する向きの曲げ変形を生じたとき、繋ぎ部材7の主構造体1側の端部は主構造体1に対して相対的な回転変形が可能な状態に接合されているから、図5−(a)に示すように繋ぎ部材7は張出部材2とは逆向きに相対変位しようとし、この逆向きの相対変位の結果として、付加構造体6の本体である柱6a、梁6b、ブレース6c等のいずれかの部分が張出部材2の先端部に接近し、繋ぎ部材7の上面が張出部材2の下面に接近する。このときの衝突を回避するために、張出部材2の付加構造体6側先端部と付加構造体6の本体との間、及び張出部材2の先端部側の下面と繋ぎ部材7の上面との間にクリアランスHc、Vcが確保される。
【0034】
張出部材2と付加構造体6との間の水平方向のクリアランスHcと、張出部材2と繋ぎ部材7との間の鉛直方向のクリアランスVcは大きい程、それぞれの衝突の可能性が低くなる。但し、張出部材2と付加構造体6との間の水平方向のクリアランスHcが大きくなれば、主構造体1と付加構造体6との間の距離が拡大し、繋ぎ部材7の張り出し長さが大きくなるため、水平せん断力伝達時に繋ぎ部材7が受ける面内の曲げモーメントが増大する不都合がある。
【0035】
また張出部材2と繋ぎ部材7との間の鉛直方向のクリアランスVcが大きくなれば、繋ぎ部材7の鉛直断面上の中心と繋ぎ部材7が接合される梁(桁)3等の鉛直断面上の中心との間の偏心が大きくなり、偏心距離が繋ぎ部材7と梁3(主構造体1)との間での水平せん断力の伝達時に曲げモーメント、もしくは捩りモーメントの影響として表れる可能性がある。鉛直方向のクリアランスVcを大きく取ろうとすれば、梁成の範囲内で梁3の側面に繋ぎ部材7の全断面を突き合わせて接合することが難しくなることも考えられる。
【0036】
例えば張出部材2と繋ぎ部材7との間の鉛直方向のクリアランスVcを十分に大きく確保しながら、繋ぎ部材7の主構造体1側の端部を主構造体1の梁3に、その梁成の範囲内で接合しようとすれば、繋ぎ部材7の厚さを削減しなければならないことが想定される。また例えば繋ぎ部材7の下面(下端)を主構造体1の梁3の下端に揃えながら、クリアランスVcを確保しようとすれば、繋ぎ部材7の鉛直断面上の中心が梁3の中心より下方に位置し、繋ぎ部材7のスパン方向に作用する軸方向力により梁3に捩りモーメントを作用させ易くなる。
【0037】
以上のことから、水平方向のクリアランスHcと鉛直方向のクリアランスVcは繋ぎ部材7のせん断力伝達時の負担を軽減すると共に、せん断力伝達時に繋ぎ部材7とその両側に位置する主構造体1の梁3と付加構造体6の梁6b等に不必要な応力を生じさせず、繋ぎ部材7を合理的な寸法で構築する上では、可能な範囲で小さく抑えることが望ましい。
【0038】
そこで、繋ぎ部材7の下面が主構造体1の張出部材2側の構面を構成する梁3の下面(下端)以上に位置し、且つ繋ぎ部材7の上面が梁3の断面上の中心以上に位置するように繋ぎ部材7を配置すれば(請求項2)、繋ぎ部材7の断面上の中心と梁3の断面上の中心との間の極端な偏心が回避されるため、少なくとも繋ぎ部材7から梁3に対する捩りモーメントの作用を低減するか、影響を最小に抑えることが可能になる。「梁3の下面(下端)以上」の「以上」は同一レベルとそれより上を指す。図1、図2、図6、図7、図13中、梁3の断面を示す対角線の交点が梁3の断面上の中心(図心)を表している。
【0039】
繋ぎ部材7の下面が主構造体1の張出部材2側の構面を構成する梁3の下面以上に位置し、且つ繋ぎ部材7の上面が梁3の断面上の中心以上に位置すれば、繋ぎ部材7の断面上の中心を通る水平線を梁3の断面上の中心を含む一定の領域内に納めることができるため、繋ぎ部材7の断面上の中心を通る水平線を梁3の断面上の中心に一致させ、偏心を完全になくすことも可能になる。繋ぎ部材7の下面が特に図1、図2、図6、図7−(b)に示すように梁3の断面上の中心より下に位置し、且つ繋ぎ部材7の上面が梁3の断面上の中心より上に位置すれば、繋ぎ部材7の断面上の中心を通る水平線が梁3の断面上の中心を含む一定の領域内に納まり易くなる。
【0040】
図4−(a)、図5−(a)に示すように主構造体1が曲げ変形するときの張出部材2の「変形前(原位置)からの降下量」は上層程、大きく、繋ぎ部材7との間の鉛直方向の相対変位量V1は主構造体1の曲げ変形の程度(性状)と層(階)数に応じて相違するため、「張出部材2と付加構造体6との間のクリアランスHc、及び張出部材2と繋ぎ部材7との間のクリアランスVc」の大きさは張出部材2が張り出す主構造体1の階(層)に応じて決められる。
【0041】
「張出部材が付加構造体と繋ぎ部材に衝突しないだけのクリアランス」は張出部材2の付加構造体6側の端部(先端部)と付加構造体6との間、及び張出部材2の付加構造体6側の端部(先端部)の下端と繋ぎ部材7の上面(天端面)との間に確保される。両クリアランス共、基本的には図5−(a)に示す張出部材2の主構造体1からの張り出し長さL0と主構造体1の曲げ変形時に想定される層間変形角θ、及び主構造体1の層間の距離(階高)Vによって決まる。層間変形角θは主構造体1に生ずる曲げ変形の性状に応じて決まる。
【0042】
図5−(a)では主構造体1を曲げ変形した鉛直材(柱4)として、付加構造体6をせん断変形した鉛直材(柱6a)として示し、張出部材2が主構造体1の鉛直材(柱4)に剛に接合され、繋ぎ部材7が付加構造体6の鉛直材(柱6a)に剛に接合されていることとして示している。繋ぎ部材7は主構造体1(柱4)には回転可能な状態にピン接合されている。
【0043】
図5−(b)は図5−(a)との対比として、付加構造体6の鉛直材(柱6a)が主構造体1側へ曲げ変形したときの、繋ぎ部材7の付加構造体6(柱6a)との接合部のレベルの変動が小さい(変わらない)場合の、付加構造体6の曲げ変形後の様子を示している。
【0044】
図5−(a)は変形後の繋ぎ部材7の柱6a(梁6b)との接合部のレベルが変形前のレベルより相対的に上昇している場合の変形後の様子を示しているが、(b)は変形後の繋ぎ部材7の柱6a(梁6b)との接合部のレベルが変形前のレベルと変動がない場合の変形後の様子を示している。(a)に示すように繋ぎ部材7の柱6aとの接合部のレベルが変形前より上昇するか、(b)に示すように変動がないかは、主構造体1の曲げ変形の性状とその変形に追従して曲げ変形、もしくはせん断変形する付加構造体6の変形性状によって相違する。
【0045】
図5−(a)において、主構造体1が付加構造体6側へ曲げ変形したときの層間変形角をθ、張出部材2の主構造体1からの張り出し長さをL0とすれば、張出部材2の張り出し位置(柱4との接合位置)の主構造体1の曲げ変形のみによる付加構造体6側への相対水平変位量H1はH1=V・tanθである。変形後の張出部材2先端位置の、主構造体1への接合位置からの距離L1はL1=L0・cosθであるから、変形後の張出部材2先端位置の変形前の状態からの回転変形による相対水平変位量H2はH2=H1+L1−L0=V・tanθ+L0・cosθ−L0=V・tanθ−L0・(1−cosθ)である。
【0046】
張出部材2先端位置の回転変形による相対水平変位量H2は主構造体1が曲げ変形する前の状態からの変形後までの相対水平変位量である。一方、変形後の張出部材2先端位置の、相対鉛直変位量V1はV1=L0・sinθである。主構造体1の曲げ変形のみによる、張出部材2の主構造体1(柱4)との接合位置の相対鉛直変位量は微小のため、無視し得る。
【0047】
このように変形後の張出部材2の先端位置の相対水平変位量H2と相対鉛直変位量V1が張出部材2の張り出し長さL0、層間変形角θ、層間の距離(階高)Vで決まるから、これらの条件から、張出部材2の付加構造体6側の端部(先端)と付加構造体6との間に確保されるべき水平方向のクリアランスHc、及び張出部材2の付加構造体6側の端部(先端)の下端と繋ぎ部材7の上面(天端面)との間に確保されるべき鉛直方向のクリアランスVcの大きさが求められる。
【0048】
水平方向のクリアランスHcは張出部材2先端位置の相対水平変位量H2以上(Hc≧H2=V・tanθ−L0・(1−cosθ))に設定され、鉛直方向のクリアランスVcは張出部材2先端位置の相対鉛直変位量V1以上(Vc≧V1=L0・sinθ)に設定される。等号を含む理由は張出部材2と繋ぎ部材7の接触を許容するためである。
【0049】
実際(実施設計)の場合を示す図1、図2の例では水平方向のクリアランスHcと鉛直方向のクリアランスVcは共に、少なくとも20〜30mm程度、確保されればよいことが確認されている。図1、図2では水平方向のクリアランスHcと鉛直方向のクリアランスVcをほぼ等しく設定しているが、両クリアランスHc、Vcを等しく設定できる場合が両クリアランスHc、Vcの大きさを最小に抑える場合に該当する。
【0050】
張出部材2の付加構造体6側の端部(先端部)と付加構造体6との間に確保されるべきクリアランス(水平方向のクリアランスHc)は詳しくは「主構造体1の付加構造体6側への曲げ変形時に、その主構造体1に追従する繋ぎ部材7が主構造体1の曲げ変形と逆向きに主構造体1に対して回転変形したときの、張出部材2の付加構造体6側への相対水平移動量以上の距離」であり、張出部材2の付加構造体6側の端部はこの距離を付加構造体6から隔てる(請求項3)。ここで言う「張出部材2の付加構造体6側への相対水平移動量」は上記した「張出部材2先端位置の相対水平変位量H2」に相当する。
【0051】
張出部材2の付加構造体6側の端部(先端部)の下端と繋ぎ部材7の上面(天端面)との間に確保されるべきクリアランス(鉛直方向のクリアランスVc)は「主構造体1の付加構造体6側への曲げ変形時に、その主構造体1に追従する繋ぎ部材7が主構造体1の曲げ変形と逆向きに主構造体1に対して回転変形したときの、張出部材2の付加構造体6側への相対鉛直移動量以上の距離」であり、張出部材2の付加構造体6側の端部はこの距離を付加構造体6の繋ぎ部材7から隔てる(請求項4)。ここで言う「張出部材2の付加構造体6側への相対鉛直移動量」は上記した「張出部材2先端位置の相対鉛直変位量V1」に相当する。
【0052】
前記した特許文献1、2のように主構造体(既設構造体)の張出部材(スラブ)と付加構造体(新設構造体)の繋ぎ部材(スラブ)が互いに重なるように接触した状態で、繋ぎ部材が主構造体に接合されている場合には、両構造体間の相対的な回転変形時に双方のスラブが損傷する可能性がある。接触状態を維持することによるスラブの損傷は特許文献3のように繋ぎ部材(新設構造体のスラブ)が主構造体(既設構造体)の躯体に相対的な回転が可能な状態に接合されている場合に一層起こり易い。
【0053】
特許文献3の繋ぎ部材は主構造体には両構造体が対向する方向に直交する水平方向の軸回りの相対的な回転変形を許容する状態に接合される。相対的な回転変形は少なくともいずれか一方の構造体である主構造体が付加構造体に対し、対向する方向に曲げ変形することにより生じ、図4−(a)、(b)に示すように主構造体が曲げ変形、あるいはせん断変形を伴って曲げ変形し、付加構造体がせん断変形する場合にも発生する。特許文献3では張出部材と繋ぎ部材との衝突は例えば主構造体が付加構造体との間の距離が接近する向きに曲げ変形したときに起こり易く、主構造体と付加構造体が共に互いに接近する向きに曲げ変形したときに顕著になる。
【0054】
これに対し、本発明では「張出部材2と付加構造体6との間、及び張出部材2と繋ぎ部材7との間に、主構造体1のスパン方向への曲げ変形時における、張出部材2の付加構造体6に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスが確保されている」ことで(請求項1)、張出部材2と繋ぎ部材7が接触状態にある(接触状態を維持する)場合での、両構造体1、6間の相対的な回転変形時の損傷が回避される。
【0055】
特に請求項3では「主構造体1の曲げ変形に伴う、張出部材2の付加構造体6側への相対水平移動量以上のクリアランスが確保されている」ことで、仮に付加構造体6が主構造体1と同じような曲げ変形を生じず、繋ぎ部材7のレベルに変化がなく、張出部材2が付加構造体6側へ接近したときにも、張出部材2の付加構造体6への衝突は回避される。請求項4では「主構造体1の曲げ変形に伴う、張出部材2の付加構造体6側への相対鉛直移動量以上のクリアランスが確保されている」ことで、張出部材2の付加構造体6側の先端部が降下したときにも、張出部材2の繋ぎ部材7への衝突が回避される。
【0056】
主構造体と付加構造体が水平力の作用時に互いに独立して挙動することには、例えば主構造体と付加構造体の曲げ剛性に差があり、曲げ剛性の差による固有振動数の差に起因し、独立して挙動(振動)することにより曲げ変形する場合と、曲げ剛性に差がなく、一様に曲げ変形しながらも、主構造体と付加構造体の接合部に相対的な回転変形が生ずる場合がある。いずれの場合も主構造体と付加構造体との間の相対的な回転変形は少なくともいずれか一方の構造体が曲げ変形を起こすことにより発生する。
【0057】
例えば同一の曲げ剛性を持つ二つの構造体が隣接している場合に、両構造体が一様に曲げ変形するときには、変形前の状態で同一レベルに位置する部位間でも両構造体の曲げ変形によってレベル差(段差)が生ずるから、両構造体に曲げ剛性の差がない場合にも相対的な回転変形は生ずることになる。
【0058】
主構造体1と付加構造体6との間で水平方向のせん断力(水平せん断力)が伝達されながら、その方向の軸回りの回転が可能な状態に両構造体1、6が接合されることは、図1、図2、図6に示すように主構造体1の躯体(梁3等)の表面と付加構造体6の繋ぎ部材7とに跨って前記した定着装置8が配置されることによって確保される。
【0059】
定着装置8は図6に示すように主構造体1の梁(桁)3等、付加構造体6側の構面を構成するいずれかの躯体と、付加構造体6の繋ぎ部材7の境界に跨って配置され、一部に厚さ方向に貫通する挿通孔92aを有する定着部材9と、定着部材9を貫通して両構造体1、6に定着され、曲げ変形可能なアンカー10とを備える。定着装置8は主構造体1と付加構造体6との間での水平せん断力伝達の機能を発揮する上で、その方向(主構造体1と付加構造体6が対向する方向に直交する方向)に多数配列する。
【0060】
定着部材9は主構造体1と繋ぎ部材7に跨って設置され、主構造体1と繋ぎ部材7のいずれか一方に定着される定着部91と、それに連続し、他方に定着される本体部92の2部分からなり、全体として軸方向には定着部91の反対側である本体部92が凸になる立体形状をする。両構造体1、6が対向する方向(定着部材9の軸方向)の一方側の端部である定着部91が主構造体1と繋ぎ部材7のいずれか一方に定着され、他方側の端部である本体部92が主構造体1と繋ぎ部材7のいずれか他方に定着される。
【0061】
定着部91は本体部92の周囲、もしくは周囲寄りの位置に周方向に連続して、もしくは断続的に形成(突設)され、全体的には環状に形成される。定着部91のいずれかの部分がせん断力を負担したときに荷重を定着部91全体に分散させる上では、定着部91は連続的に形成される。「断続的に形成」とは、定着部91が波形状に形成される場合のように定着部91の深さが周方向に変化するようなことを言う。
【0062】
定着部材9は図11に示すように定着部91と本体部92がそれぞれの側の構造体に定着されることにより、地震時に一方の構造体(図示する場合は主構造体1)と他方の構造体(図示する場合は付加構造体6の繋ぎ部材7)の双方の接触面(境界面)が平行な状態のまま、その接触面(両構造体1、6が対向する面)に平行な水平方向の相対変位(ズレ変形)が生じようとするときに、両構造体(付加構造体6と主構造体1)間の水平せん断力を伝達する。
【0063】
定着部材9は定着部91において一方の構造体(主構造体1)中に定着(埋設)され、本体部92において他方の構造体(付加構造体6の繋ぎ部材7)に定着(埋設)されることにより他方の構造体6(繋ぎ部材7)から受ける水平せん断力を一方の構造体1に伝達するか、逆に一方の構造体1から受ける水平せん断力を他方の構造体6(繋ぎ部材7)に伝達する。定着部91は図11−(a)に示すように一方の構造体1の他方の構造体6(繋ぎ部材7)側の面に形成された溝部1bに入り込む(嵌入)することにより一方の構造体1に定着される。
【0064】
一方の構造体1と他方の構造体6(繋ぎ部材7)の境界面には、上記のように地震時に双方の接触面が平行な状態のまま、相対変位(ズレ変形)が生じようとするため、相対変位時に定着部材9が一方の構造体1と他方の構造体6(繋ぎ部材7)から水平せん断力を受けようとする。定着部材9の本体部92が他方の構造体6(繋ぎ部材7)からせん断力を受け、定着部91の少なくとも軸方向の一部である一方の構造体1中に埋設される区間(部分)が他方の構造体6(繋ぎ部材7)からのせん断力を一方の構造体1に伝達し、その反力を負担する。
【0065】
本体部92に連続して形成される定着部91の本体部92に対する形成位置と形状は問われず、一方の構造体1の溝部1bに嵌入する環状の定着部91は本体部92の外周に形成される他、本体部92の外周より内側に寄った位置に形成される。前者の場合、定着部91の外周面は本体部92の外周面に連続し、後者の場合には定着部91の外周面は本体部92外周面より内周側に位置する。
【0066】
定着部91はその形状に対応して環状、もしくは面状等に形成されている一方の構造体1の溝部1bに全周に亘って嵌入する。溝部1bへは、その深さ方向(軸方向)に定着部91の全体が嵌入する場合と一部区間が嵌入する場合がある。定着部91はまた、同心円状に、本体部92の放射方向(半径方向)に複数形成されることもある。
【0067】
定着部91全体(深さ方向(軸方向)の全体)が一方の構造体1の溝部1bに嵌入する場合には、本体部92の外周面が他方の構造体6(繋ぎ部材7)に接触する。定着部91の一部区間が溝部1bに嵌入する場合には、本体部92の外周面と定着部91の一部が他方の構造体6(繋ぎ部材7)に接触する。いずれの場合も、図11に示すように本体部92の外周面が他方の構造体6(繋ぎ部材7)からのせん断力を負担し、定着部91の外周面と内周面から一方の構造体1にせん断力を伝達する。
【0068】
図11−(a)、(b)に示すように定着部材9に他方の構造体6(繋ぎ部材7)から右向きのせん断力が作用したとき、そのせん断力はその作用の向きに対向する定着部材9の本体部92の外周面が受ける。他方の構造体6(繋ぎ部材7)からのせん断力は本体部92外周面の内、せん断力作用方向への投影面積分が受ける。図11−(a)、(b)中、せん断力を受ける面を太線で示している。
【0069】
本体部92の外周面が受けたせん断力はその外周面に対向する側を向き、一方の構造体1の溝部1bに嵌入する定着部91の外周面と内周面から一方の構造体1に伝達される。定着部91も図11−(b)に示すようにせん断力の作用方向を向く投影面積分でせん断力を一方の構造体1に伝達する。
【0070】
本体部92の外周面が受けた他方の構造体6(繋ぎ部材7)からのせん断力は図11−(b)に示すように本体部92外周面に対向する側に位置する定着部91の外周面と、この本体部92外周面と同一側に位置する定着部91の内周面から一方の構造体1に伝達される。一方の構造体1に作用するせん断力は逆の経路で他方の構造体6(繋ぎ部材7)に伝達される。
【0071】
このように定着部材9の本体部92の外周に定着部91が形成され、本体部92の少なくとも一部が他方の構造体6(繋ぎ部材7)中に位置し、定着部91の少なくとも一部が一方の構造体1の溝部1bに嵌入することで、他方の構造体6(繋ぎ部材7)には本体部92の外周面が接触し、一方の構造体1には定着部91の外周面が接触する状態になる。
【0072】
このため、他方の構造体6(繋ぎ部材7)からのせん断力は本体部92の外周面から本体部92に伝達され、定着部91から一方の構造体1に伝達される。定着部材9の定着部91は環状等に形成されている溝部1bに嵌入しているため、一方の構造体1には定着部91の外周面と内周面からせん断力が伝達される。
【0073】
定着部材9を軸方向に直交する方向に見たときに、図9に示すように定着部材9が2方向(水平方向と鉛直方向)に同等の長さ(投影面積)を持った形状(立体形状)をし、軸方向に直交する方向に方向性のない形状をしていれば、鉛直方向のせん断力も伝達可能ではある。但し、定着部材9は一方の構造体(主構造体1)と他方の構造体(付加構造体6(繋ぎ部材7))が独立して挙動するときには両構造体1、6の対向する面間に、水平軸回りの相対的な回転変形が生じさせる機能を発揮するため、両構造体1、6の相対的な回転変形を阻害しない形状に形成される。
【0074】
「両構造体1、6の相対的な回転変形を阻害しない形状」とは、図6に示すように定着部材9の定着部91がその側の構造体に定着された状態のまま、本体部92側の構造体が、凸の形状をしている本体部92の表面に沿い、定着部91側の構造体に対して相対的に回転変形し得る形状をすることを言う。主構造体1と付加構造体6の相対的な回転であるから、各構造体の回転変形前の状態からの絶対的な回転角度の大きさは問われない。
【0075】
「本体部92の表面に沿って回転変形する」とは、例えば図6に示すように一方の構造体(主構造体1)と他方の構造体(繋ぎ部材7)の接触面に平行な水平方向に見たときに、本体部92の他方の構造体(繋ぎ部材7)側の表面が凸となった曲線状(立体的には曲面状)をしている場合に、他方の構造体(繋ぎ部材7)が一方の構造体(主構造体1)に対して本体部92の表面に沿い、滑りを生ずるように回転することを言う。
【0076】
定着部材9が一方の構造体1に定着される定着部91と、他方の構造体6(繋ぎ部材7)側が凸の形状になった本体部92を有することで、主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)間の相対的な回転変形が生じようとしたときには、形態的に定着部91がその側の構造体1に対して回転変形しようとする可能性より、本体部92がその側の構造体6(繋ぎ部材7)に対して回転変形しようとする可能性が高い。この可能性の差に起因し、定着部材9は定着部91において一方の構造体1に定着された状態を維持し、本体部92において他方の構造体6に対して相対移動しようとする。
【0077】
この結果、主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)との間には相対的な回転変形が阻害されることがないため、強制的な回転変形による主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)間における損傷が生ずることなく、回転変形が発生する。定着部材9は主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)間の対向する方向に直交する方向の水平せん断力を伝達しながら、その方向の水平軸回りの両構造体1、6の相対的な回転変形を許容することで、水平軸回りの曲げモーメントに対しては主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)をピン接合化する機能を発揮することになる。
【0078】
繋ぎ部材7が主構造体1に接合された状態から水平軸回りに相対的に回転変形することは、繋ぎ部材7と主構造体1がコンクリート造である場合には、繋ぎ部材7の主構造体1側の端面と主構造体1の対向する面間に肌別れが生ずることによって発生する。
【0079】
定着部材9の本体部92表面の形状により主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)との間の相対的な回転変形が生じ易い状態にあることで、両構造体1、6が地震力や風荷重により独立して振動し、相対的な回転変形を起こそうとするとき、両構造体1、6の対向する面間には図6に矢印で示すように水平軸回りの曲げモーメントが作用することによって肌別れが生じようとし、水平軸回りの相対的な回転が発生する。この回転は正負の向きに交互に生ずる。
【0080】
このとき、定着部材9が主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)との間の相対的な回転変形を阻害せず、回転変形を積極的に生じさせるには、定着部材9が主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)の双方に跨って固定された状態を維持しない方がよく、図6に示すように定着部材9の定着部91が主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)のいずれか一方(主構造体1(梁3))に定着された状態を維持したまま、他方(付加構造体6(繋ぎ部材7))が本体部92の表面に沿い、本体部92に対して回転変形し得る状態にあることが適切である。
【0081】
そこで、他方の構造体(付加構造体6(繋ぎ部材7))に定着される本体部92の表面がその構造体側に凸の曲面状に形成されることで、両構造体1、6が相対的な回転変形を起こそうとするときに本体部92側の構造体(付加構造体6)が本体部92の表面に沿い、本体部92に対して回転変形し得る状態が得られる。「曲面状」は具体的には定着部材9の本体部92が椀状等の楕円放物面その他の曲面状、あるいは多面体形状等をすることであり、「本体部92に対して回転変形し得る状態」は本体部92側の構造体(付加構造体6)と本体部92表面との間の縁が切れる(分離する)ことに相当する。上記した「肌別れ」は本体部92側の構造体(繋ぎ部材7)と本体部92表面との間の縁が切れて回転する結果として生じる。
【0082】
例えば図6に示すように定着部91が主構造体1(梁3)に定着され、本体部92が付加構造体6(繋ぎ部材7)に定着された状態で定着部材9が両構造体1、6に跨って設置されている場合に、両構造体1、6が相対的な回転変形を起こそうとするとき、主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)の端面(接触面)間に肌別れを生ずると仮定すれば、図6の例では相対的に高さ(成、あるいは厚さ)の小さい側の構造体である付加構造体6(繋ぎ部材7)が主構造体1(梁3)側の端面の下端、もしくは上端を回転中心として回転しようとする。付加構造体6(繋ぎ部材7)が主構造体1(梁3)側端面の下端回りに回転することと、上端回りに回転することは交互に発生する。両構造体1、6の相対的な回転変形の回転中心は定着部材9を挿通するアンカー10が曲げ変形を起こすときの曲げの中心でもある。
【0083】
このように主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)が相対的に回転変形するときには、相対的に高さ(成(厚さ))の小さい側の構造体(繋ぎ部材7)がその下端と上端を回転中心とし、他方の構造体に対して回転しようとする。従って本体部92がいずれの側の構造体に定着されているかに関係なく、本体部92の表面は主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)が互いに対向する方向に直交する水平方向(相対的な回転変形の回転中心(回転軸)の方向)に見たとき、高さ(成、あるいは厚さ)の小さい側の構造体(繋ぎ部材7)の下端と上端を中心とする円弧状、もしくはそれに近い形状に形成されていることが合理的である。
【0084】
「回転中心(回転軸)の方向に見たとき」であるから、図9に示すように「円弧状、もしくはそれに近い形状」は定着部材9の軸の回りに曲線が回転してできる回転体形状等の立体的な形状である場合と、図10に示すようにその立体的な形状の一部を含む場合の他、回転中心の方向に見たときに本体部の表面の外形線が「円弧状、もしくはそれに近い形状」を描く場合がある。
【0085】
「高さの小さい側の構造体(繋ぎ部材7)の下端と上端を中心とする円弧状」とは、定着部材9の軸方向の中心線に関して上半分の外形線が高さの小さい側の構造体(繋ぎ部材7)の、対向する構造体(梁3)側の面の内、下端を中心とする円弧、もしくはそれに近い曲線や多角形を描き、下半分の外形線が上端を中心とする円弧、もしくはそれに近い曲線や多角形を描くことを言う。
【0086】
定着部材9の本体部92は両構造体1、6の相対的な回転変形を許容すると共に、両構造体1、6が対向する方向に直交する方向の水平せん断力を伝達する働きをすればよいから、本体部92の表面が高さ(成、あるいは厚さ)の小さい側の構造体(繋ぎ部材7)の下端と上端を中心とする円弧状等に形成されることは、相対的な回転の軸に平行に見たときの形状であればよく、必ずしも立体的に円弧状等の形状(回転体形状)をしている必要はない。図9は本体部92が回転体形状をしている場合の例を示すが、図10は回転の軸方向(水平方向)に見たときの外形線が円弧状の形状をし、平面で見たときには定着部91を除く本体部がT字状の形状をしている場合の例を示している。
【0087】
定着部材9を軸方向に見たときの中心部には本体部92を軸方向に貫通し、両構造体1、6に定着される挿通孔92aが形成され、この挿通孔92aに定着部材9によるせん断力伝達能力を補うと共に、主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)間の相対的な回転変形後の復元機能を発揮するアンカー10が挿通する。アンカー10は定着部材9の挿通孔92aを挿通し、主構造体1と付加構造体6に跨った状態で配置され、主構造体1と付加構造体6に定着されることにより定着部材9と共に、付加構造体6(主構造体1)から受けるせん断力を主構造体1(付加構造体6)に伝達する働きをする。
【0088】
アンカー10には主にボルト(アンカーボルト)や棒鋼等、棒状の鋼材が使用されるが、繊維強化プラスチック等も使用される。アンカー10にボルトを使用した場合、図6に示すようにアンカー10(ボルト)にはナット11が付属することもある。ナット11がアンカー10の軸方向端部に接続された場合、ナット11は構造体1、6中での定着効果(引き抜き抵抗力)を確保する働きをし、定着部材9に接触する位置に接続された場合にはアンカー10の定着部材9に対する位置が変動しないようにアンカー10を定着部材9に接合(規制)する働きをする。
【0089】
アンカー10はまた、定着部材9を挟んだ両側において主構造体1と付加構造体6のそれぞれに定着された状態を維持することで、弾性範囲内で曲げ変形することにより、あるいは曲げ変形と伸び変形を生ずることにより、主構造体1と付加構造体6間の相対的な回転変形時に追従する。アンカー10が弾性範囲内で曲げ変形することで、両構造体1、6の相対的な回転変形に追従し、回転変形が終息した後には、変形を復元させようとするばねの働きをする。アンカー10の軸方向両端部は主構造体1と付加構造体6のそれぞれに定着された状態を維持するから、伸び変形を伴う場合は主構造体1と付加構造体6の分離を抑制(制限)する働きもする。
【発明の効果】
【0090】
桁行方向を向く構面からスパン方向外側へ張出部材が張り出す主構造体と、そのスパン方向の張出部材側の構面に配置され、主構造体との間で桁行方向の水平せん断力を伝達する付加構造体との間において、付加構造体の、張出部材の下方位置から主構造体側へ張り出す繋ぎ部材を主構造体に回転変形可能に接合し、張出部材と付加構造体との間、及び張出部材と繋ぎ部材との間に、張出部材の付加構造体に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスを確保しているため、付加構造体側へ曲げ変形を生じた主構造体の張出部材と繋ぎ部材との衝突を回避することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】主構造体が既存構造物であり、付加構造体が耐震(制震)補強架構である場合に、両構造体を接合した構造物の例を示す図3における主構造体の張出部材と付加構造体の繋ぎ部材との接合状態を示した斜視図である。
【図2】図3における主構造体の張出部材と付加構造体の繋ぎ部材との接合状態を示した他の斜視図である。
【図3】主構造体が既存構造物であり、付加構造体が耐震(制震)補強架構である場合の両構造体を接合した構造物の例を示した斜視図である。
【図4】(a)は図3に示す構造物を構成する主構造体が曲げ変形を起こしたときの主構造体と、主構造体に追従してせん断変形する付加構造体との関係をモデル化して示した桁行方向の立面図、(b)は主構造体と付加構造体が共にせん断変形した場合の両構造体の関係を示した桁行方向の立面図である。
【図5】(a)は図4−(a)に示す立面図の一部を抽出し、拡大した様子を示した立面図、(b)は(a)との対比で、繋ぎ部材の付加構造体との接合部のレベルに変動がない場合の曲げ変形後の様子を示した立面図である。
【図6】表面が球面状をなした定着部材とアンカーからなる定着装置を用いて主構造体の梁と付加構造体の繋ぎ部材を接合した様子を示した縦断面図である。
【図7】(a)は繋ぎ部材としてプレキャストコンクリートの床版を用いた場合の繋ぎ部材の主構造体と付加構造体間への架設状態を示した平面図、(b)は(a)のx−x線断面図、(c)は(b)の平面図である。
【図8】図6に示す定着装置が主構造体と付加構造体の境界面に位置している状態を定着部材の定着部側から見た様子を示した斜視図である。
【図9】図6に示す定着装置が主構造体と付加構造体の境界面に位置している状態を定着部材の本体部側から見た様子を示した斜視図である。
【図10】図9に示す定着部材の本体部がT字形の平面形状をしている場合の定着装置を定着部材の本体部側から見た様子を示した斜視図である。
【図11】(a)は定着部材の基本形状と、付加構造体の繋ぎ部材から主構造体の梁へのせん断力の伝達の様子を示した縦断面図、(b)は(a)の背面図である。
【図12】(a)は既存構造物である主構造体の例を示した縦断面図、(b)は(a)に示す主構造体に付加構造体を接合した様子を示した縦断面図である。
【図13】図12−(b)における主構造体の張出部材と付加構造体の繋ぎ部材との接合部分の拡大図である。
【図14】図12−(b)の平面図である。
【図15】図12−(b)の例において付加構造体を地上にではなく、主構造体(既存構造物)の付加構造体側の構面に接合し、支持させた場合の例を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0092】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0093】
図1は桁行方向を向く構面からスパン方向外側へスラブや庇等の張出部材2が張り出す主構造体1のスパン方向の張出部材2側の構面に、主構造体1が負担する外力の一部を分担し、主構造体1との間で桁行方向の水平せん断力を伝達する付加構造体4を配置し、主構造体1に接合した構造体の接合構造の具体例を示す。
【0094】
張出部材2は主構造体1の付加構造体6側の構面を構成する躯体である梁(桁)3等から片持ち状態で張り出す。張出部材2は梁3等から片持ち状態で張り出すため、梁3等には剛に接合される。梁3等には、梁3の他、梁3が接合され、梁3と共に桁行方向の構面を構成する柱4等が含まれる。主構造体1の梁3等から付加構造体6側へ張り出す張出部材2はスラブ等の他、桁行方向の構面間(スパン方向)に架設される梁3と柱4との接合部から付加構造体6側へ延長して張り出す梁3である場合もある。
【0095】
付加構造体6の、張出部材2の下方位置からは主構造体1側へスラブ(床版)や幅のある、例えば偏平な梁等の繋ぎ部材7が張り出し、その繋ぎ部材7の主構造体1側の端部は主構造体1に接合される。繋ぎ部材7の主構造体1側の端部は主構造体1のスパン方向への曲げ変形時に、その曲げ変形の向きと逆向きに主構造体1に対して回転変形可能な状態に主構造体1に接合される。繋ぎ部材7の主構造体1側の端部は具体的には図6に示すように繋ぎ部材7と主構造体1のいずれかの躯体(梁3)との間に跨る定着装置8を介して主構造体1の梁3に接合される。
【0096】
繋ぎ部材7の付加構造体6側の端部は付加構造体6を構成する梁6b等、後述のいずれかの躯体に接合される。梁6b等からは繋ぎ部材7は主構造体1側へ片持ち状態で張り出すため、梁6b等には剛に接合される。
【0097】
図1、図2等では付加構造体6の梁6bを構成する鉄骨部材(H形鋼)の主構造体1側に複数段に突設されたスタッド(アンカー)6fを繋ぎ部材7中に埋設し、定着させることにより繋ぎ部材7を梁6bに一体的に、剛に接合しているが、梁6bが鉄骨造であるか鉄筋コンクリート造であるか等は任意であるため、繋ぎ部材7を梁6bに剛に接合する方法は一切問われない。このように繋ぎ部材7の付加構造体6側の端部は梁6bには剛に接合されるのに対し、主構造体1側の端部は梁3等には水平軸回りに回転変形可能な状態に、例えば図1に示すように梁成方向に1段に配列した定着装置8を介して接合される。
【0098】
張出部材2と付加構造体6との間、及び張出部材2と繋ぎ部材7との間には、図1、図2に示すように主構造体1のスパン方向への曲げ変形時における、張出部材2の付加構造体6に対する相対的な回転変形を許容するためのクリアランスが確保される。クリアランスは両構造体1、6が対向する方向(スパン方向)には張出部材2の付加構造体6側の先端部と付加構造体6のいずれかの部分との間に確保され、鉛直方向には張出部材2の下面(下端)と繋ぎ部材7の上面(上端)との間に確保される。
【0099】
前記のようの張出部材2の下面と繋ぎ部材7の上面との間に確保される鉛直方向のクリアランスは大きい程、両部材2、7間の衝突が発生しにくく、いずれかの破損の可能性が低下する。しかしながら、クリアランスが大きければ、繋ぎ部材7を主構造体1の梁3に接合する場合に、一定の厚さを有する繋ぎ部材7の梁3側の端面の全面を完全に梁3の側面に当接させることが難しくなることがあり得る。また繋ぎ部材7の全面を当接させれば、繋ぎ部材7の厚さを縮小(犠牲に)せざるを得ないことがあるため、鉛直方向のクリアランスは可能な限り、小さく抑えることが合理的である。
【0100】
張出部材2の先端部と付加構造体6のいずれかの部分との間の水平方向のクリアランスも大きい程、両者間の衝突に生じにくいが、付加構造体6を主構造体1から遠ざけることになり、両構造体1、6間の距離に応じて繋ぎ部材7端部が負担する応力が大きくなるため、水平方向のクリアランスも可能な限り、小さい方がよい。
【0101】
この張出部材2と繋ぎ部材7との間、及び張出部材2と付加構造体6との間のクリアランス確保上の制限の面からは、繋ぎ部材7の下面を主構造体1の梁3の下面(下端)以上に位置させ、且つ繋ぎ部材7の上面を梁3の断面上の中心以上に位置させるように、繋ぎ部材7を梁3に対して配置し、接合することが適切である。この関係が満たされることで、繋ぎ部材7の断面上の中心と梁3の断面上の中心との間の偏心距離が抑制される、あるいは縮小されるため、繋ぎ部材7の厚さとして十分な大きさを確保しながら、すなわち繋ぎ部材7の厚さを減少させることなく、繋ぎ部材7から梁3に作用させる捩りモーメントを低減することが可能である。
【0102】
主構造体1と付加構造体6の組み合わせには、例えば図1〜図3等に示すような主構造体1としての既存構造物と、それに対して付加的に構築され、既存構造物を耐震(制震)補強する付加構造体6としての新設構造物の組み合わせの他、スパン方向に並列して構築される新設の構造物の組み合わせ等がある。
【0103】
付加構造体6の繋ぎ部材7を主構造体1に接合するための、後述の定着装置8を構成する定着部材9とアンカー10は主構造体1の梁3等のいずれかの躯体と付加構造体6の繋ぎ部材7の内部に定着(埋設)されるから、定着装置8が跨る主構造体1の梁3と付加構造体6の繋ぎ部材7は主として鉄筋コンクリート造になる。但し、定着装置8を構築済みの主構造体1に対して後から設置する(後付け)する場合には、少なくとも定着装置8が配置される領域が現場打ちコンクリート造であればよく、図7に示すように繋ぎ部材7の定着装置8以外の部分はプレキャストコンクリートで製作される場合もある。
【0104】
図7−(a)は繋ぎ部材7の主構造体1(梁3)側端部の接合部と付加構造体6(梁6c)側端部の接合部を除く長さ方向の中間部をプレキャストコンクリート製の版で構成した場合の、主構造体1と付加構造体6間への配置状態を示す。図7−(b)は(a)のx−x線の断面を、図(c)は(b)の平面を示す。図7−(b)では繋ぎ部材7のスパン方向両側の梁3との接合部、及び梁6cとの接合部において双方に跨る定着筋(アンカー)等の定着材を配置した上で、両者間に充填されるコンクリートやモルタルを充填することにより接合しているが、プレキャストコンクリート製の繋ぎ部材7とスパン方向両側の梁3、6cとの接合方法は任意である。
【0105】
図7−(b)では繋ぎ部材7の主構造体1(梁3)側の端部に、定着装置8を収納し得る空洞を形成し、この空洞部分に後からコンクリート等を充填している。繋ぎ部材7の付加構造体6(梁6c)側の端部からはプレキャストコンクリート中に埋設した定着筋等が梁6c側へ突出させられ、この定着筋等は例えば梁6cに突設されたスタッド6f、ジベル等のアンカーに重ねられる、あるいは係合させられる等により繋ぎ部材7の長さ方向に引張力の伝達が可能な状態に連係させられる。
【0106】
図7−(b)ではこの状態で対向する端面間にコンクリートを充填することにより繋ぎ部材7が梁6cに剛に接合している。主構造体1(梁3)側においては、定着装置8は繋ぎ部材7の設置前に主構造体1の梁3にあと施工アンカーの要領で接合され(定着させられ)、その後に繋ぎ部材7が、定着装置8を包囲する状態で設置される。
【0107】
図7の例では繋ぎ部材7の少なくとも定着装置8部分が現場打ちコンクリート造で構築されるが、繋ぎ部材7の全体が現場打ちコンクリート造で構築されることもある。その場合、張出部材2の下面と構築すべき繋ぎ部材7の上面との間に、完成する繋ぎ部材7との間のクリアランスを形成するための型枠(堰板)が介在させられる。
【0108】
クリアランスの大きさから、繋ぎ部材7のコンクリート打設後に型枠を回収可能である場合には、型枠は原則として回収されるが、型枠は使用後も残される(放置される)こともある。役目を終えた後の型枠の回収が困難である場合には、型枠には例えば空気の注入により膨張した状態を維持し、使用後の排気により収縮するような形態の型枠を使用することも考えられる。
【0109】
図1〜図3は前記のように主構造体1としての既存構造物の片側の構面に平行に、付加構造体6としての耐震(制震)補強架構を構築し、既存構造物の梁3に耐震補強架構の繋ぎ部材7としてのスラブを、定着装置8を用いて接合した場合の例を示している。以下、この例に基づいて詳細を説明する。図3、図12−(a)中、符号5は既存構造物(主構造体1)の基礎を示す。
【0110】
図6は図1に示す梁3と繋ぎ部材7との接合部の縦断面を示している。図1〜図3の例では、付加構造体6は主構造体1の構面に対向する柱6aと梁6bからなるフレーム、及びフレーム内に架設される耐震要素としてのブレース6cを含む架構と、梁6bのレベルから主構造体1側へ張り出し、主構造体1の梁3に接合される繋ぎ部材7(スラブ)を基本的な構成要素としている。
【0111】
付加構造体6の柱6aは高さ方向には梁6bとの接合部を含む区間単位で区分され、区分された位置に、高さ方向に隣接する柱6a、6aを水平方向に相対移動自在に連結する積層ゴム支承、滑り支承、弾性滑り支承等の免震装置6eが配置され、柱・梁の接合部間に、軸方向の伸縮時に減衰力を発生するダンパ6dを内蔵したブレース6cが架設されている。
【0112】
図1、図2では繋ぎ部材7の、付加構造体6の梁6b側の端部を、その梁6bとの一体性を確保する目的で、梁6bを構成するH形鋼に高さ方向に複数段、配列して溶接されたスタッド(アンカー)6fを繋ぎ部材5中に埋設する形で梁6bに接合している。これに対し、主構造体1側では繋ぎ部材7の端部を主構造体1に対して構面内の水平方向の軸回りに回転変形可能に接合する目的で、主構造体1との一体性の効果が強まらないよう、1段に配列した定着装置8を介して接合している。定着装置8は構面内方向に多数配列し、高さ方向には1段、もしくは複数段、配列する。高さ方向に複数段、配列する場合は千鳥状に配列することもある。
【0113】
免震装置6eは付加構造体6が単なる耐震補強架構ではなく、地震時の水平力の、主構造体1への入力を軽減しながら、水平力を減衰させる制震補強架構であることの機能を発揮する面から、高さ方向に区分された柱6a、6aを互いに水平方向に相対移動自在に接続する働きをするために介在させられているが、付加構造体6が耐震補強架構であるような場合には必ずしも必要ではない。
【0114】
定着装置8は主構造体1(梁3)と付加構造体6の繋ぎ部材7の境界(境界面)に跨って配置され、挿通孔92aを有する定着部材9と、この定着部材9を軸方向に貫通して両構造体1、6に定着され、曲げ変形可能なアンカー10から構成される。
【0115】
定着部材9は主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)のいずれか一方の構造体1に定着される定着部91と、他方の構造体6に定着され、その側の表面が凸の形状に形成された本体部92を持ち、この本体部92の表面に沿ってその側の構造体6が定着部材9に対して相対的に回転変形可能な状態にある。本体部92にはアンカー10が挿通する1箇所、もしくは複数箇所の挿通孔92aが形成される。
【0116】
定着部材9は図11に示すように主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)の内のいずれか一方の、他方側の面に形成される溝部1bに嵌入する定着部91と、定着部91に連続し、他方の構造体に埋設される本体部92の2部分からなる。溝部1bに定着部91が嵌入した状態で、溝部1b内にモルタル、接着剤等の充填材が充填されることにより、溝部1b内での定着部91の移動が拘束され、定着部91が安定させられる。
【0117】
図1、図2、図6では定着部材9が、定着部91を主構造体1(梁3)側に向け、本体部92を付加構造体6(繋ぎ部材7)側に向けた状態で配置されている様子を示しているが、定着部材9の軸方向の向きはいずれでもよく、定着部91を付加構造体6側に向け、本体部92を主構造体1側に向けて配置されることもある。
【0118】
定着部材9は一方の構造体(主構造体1)と他方の構造体(付加構造体6)の境界面に跨った状態で両構造体1、6間に配置され、図11−(a)に示すように定着部91の少なくとも軸方向の一部がその側の構造体(主構造体1)中に位置する。溝部1bは定着部91の形状に対応して環状に、もしくは定着部91を包囲する環状を含む円板状等、板状に形成される。
【0119】
定着部91はその側の構造体(主構造体1)の溝部1bに嵌入した状態で定着されることで、両構造体1、6が対向する方向(構面外方向)に直交する方向(構面内方向)の水平せん断力に抵抗し、両構造体1、6が構面内方向の水平軸回りに相対的に回転変形しようとするときにも、図6に示すようにその側の構造体(主構造体1)に定着された状態を維持する。定着部91は水平せん断力に対してはその方向への投影面積分の抵抗力を発揮し、回転変形時には構面内方向の水平軸回りの曲げモーメントに抵抗するから、これら2通りの外力に対する抵抗力を確保する上で、図11−(b)に示すように環状に閉じた形に形成される。
【0120】
本体部92はそれが位置する他方の構造体(付加構造体6)側の表面の少なくとも一部が凸の曲面形状、またはそれに近い多面体形状に形成されている部分を有すればよい。定着部材9は主に鋼材等の金属材料から形成されるが、定着部材9の材料は問われず、繊維強化プラスチック等からも成形される。
【0121】
定着部材9の本体部92の平面上の中心部、もしくはその付近には前記のように1箇所、もしくは複数箇所のアンカー10が挿通するための挿通孔92aが形成される。アンカー10は挿通孔92aを挿通した状態で一方の構造体(主構造体1)と他方の構造体(付加構造体6)のそれぞれに、両構造体1、6間の相対的な回転変形に伴い、アンカー10自体が伸び変形したときにも抜け出しを生じない程度の十分な定着長さを確保して定着される。
【0122】
アンカー10は前記のように挿通孔92aの内周面に形成された雌ねじに螺合等することにより本体部92に接続される場合と、挿通孔92a内周面との間にクリアランスを確保した状態で、挿通孔92a内を単純に挿通する場合の他、挿通孔92a内を挿通した状態で、挿通孔92a内に接着剤やモルタル等が充填されて本体部92に接続される場合がある。
【0123】
本体部92の挿通孔92aは本体部92の中央部等に形成されるが、必ずしも本体部92の中央部に1箇所である必要はなく、複数個形成されることもある。挿通孔92aの数に応じ、アンカー10は本体部92に1本、もしくは複数本挿通するが、本数は主構造体1と付加構造体6との間の相対的な回転変形を阻害しない程度に設定される。但し、両構造体1、6の回転変形後のアンカー10の復元力を期待する場合には複数本のアンカー10が挿通する方が有利である。
【0124】
アンカー10はその軸に直交する方向のせん断力に対する抵抗要素として機能するときには、アンカー10のせん断力作用方向への投影面積分の抵抗力が定着部91のせん断抵抗力に加算される。アンカー10にせん断力に対する抵抗要素としての機能を期待する場合には、その期待すべきせん断抵抗力に応じた径(太さ)と長さが与えられる。
【0125】
アンカー10は定着部材9に形成された挿通孔92aに螺合することにより、もしくは挿通孔92aに単純に挿通し、挿通孔92a内に接着剤やモルタル等が充填されることにより定着部材9の本体部92に一体化することもあるが、アンカー10が定着部材9(本体部92)の挿通孔92a内を挿通した状態で、本体部92に対して曲げ変形可能な状態を維持する面からは、挿通孔92aの内周面とアンカー10表面との間にはある程度のクリアランスが確保される方がよい。
【0126】
本体部92も定着部91と同様にその側の構造体(付加構造体6)中に埋設される状態で定着されることで、両構造体1、6が対向する方向(構面外方向)に直交する方向(構面内方向)の水平せん断力に抵抗する。両構造体1、6が構面内方向の水平軸回りに相対的に回転変形しようとするときには、その側の構造体(付加構造体6)が本体部92の表面に沿って滑りを生じ、定着部91側の構造体(主構造体1)に対する相対的な回転変形の発生を助けるよう、曲面状に形成される。
【0127】
本体部92の表面は例えば球面、またはそれに近い立体形状の曲面形状、または多面体形状に形成される。但し、他方の構造体(付加構造体6)が一方の構造体(主構造体1)に対して相対的な回転変形を起こそうとするときには、他方の構造体(付加構造体6)の内、一方の構造体(主構造体1)に接合される躯体である繋ぎ部材7の、一方の構造体(主構造体1)側の下端と上端を回転中心として回転しようとするから、本体部92の表面は構面内水平方向に見たときに、この回転中心を中心とする円弧をなしていることが最も望ましいことになる。
【0128】
図6、図9は本体部92の表面が球面の場合の例を示し、図10は表面が球面の一部をなし、挿通孔92aの形成部分以外の部分が除去された形状をしている場合の例を示している。いずれの形状の場合も水平せん断力に対してはその方向への投影面積分が抵抗するが、図10の場合には水平せん断力の作用方向に直交する面をなしているため、図9の場合と同等の抵抗力を確保しながらも、材料費を節減することが可能であることの利点がある。
【0129】
アンカー10は本体部92の挿通孔92aを挿通し、軸方向両端部が主構造体1と付加構造体6(繋ぎ部材7)に定着される。アンカー10は構面内水平方向のせん断力を負担すると共に、その方向に平行な水平軸回りの回転変形時に曲げモーメントを負担し、回転変形後に復元させる機能を発揮し得るように径と長さが決められる。アンカー10の、両構造体1、6への定着部分には前記のようにナット11が接続される他、雌ねじが切られる等によりリブが形成されることもある。
【0130】
定着部材9の定着部91が一方の構造体(主構造体1)の溝部1bに嵌入することで、前記の通り、他方の構造体(付加構造体6)からのせん断力が定着部91から一方の構造体(主構造体1)に伝達されるが、他方の構造体(付加構造体6)からのせん断力を受ける本体部92は定着部91から一方の構造体(主構造体1)に伝達する際に、定着部91が一方の構造体(主構造体1)からの反力によって変形しないように定着部91の剛性を確保する機能を有する。
【0131】
定着部材9の本体部92の挿通孔92aの周囲にはその表面側と背面側の少なくともいずれかへ突出する筒状の突出部が形成されることもある。突出部は挿通孔92aに連続する中空断面で形成され、アンカー10は挿通孔92aに連続して突出部に形成される挿通孔を挿通する。本体部92への突出部の形成は本体部92の断面形状を変化させるため、突出部は本体部92の断面性能(断面2次モーメント)を向上させる働きをする。
【0132】
突出部は本体部92からその表面側(付加構造体6側)と背面側(主構造体1側)の少なくともいずれかへ突出した形で形成されることで、付加構造体6からのせん断力を本体部92と共に負担する、または付加構造体6からのせん断力を定着部91と共に主構造体1に伝達する働きをする。突出部は本体部92の表面側に形成された場合に付加構造体6からのせん断力を負担し、背面側に形成された場合に主構造体1にせん断力を伝達する。突出部は本体部92の表面側と背面側に連続的に形成されることもある。
【0133】
図8は図6に示す定着部材9を定着部91側(主構造体1側)から見た様子を、図9は定着部材9を本体部92側(付加構造体6側)から見た様子を示す。主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)との境界面である梁3の側面(付加構造体6の繋ぎ部材7の端面)は定着部材9の定着部91から本体部92に移行する区間に位置し、定着部91が主構造体1の梁3内に、本体部92が付加構造体2の繋ぎ部材7内に位置する。
【0134】
図10は図9における本体部92の、アンカー10が挿通する挿通孔92a部分を除く部分が除去された形状に本体部92が形成されている場合の定着部材9を本体部92側(付加構造体6側)から見た様子を示す。図10では図9における本体部92の挿通孔92aを含む領域を帯状に残し、その他の領域を除去し、平面上、T字形に本体部92を形成している。
【0135】
図10に示す形状に本体部92が形成された場合、帯状に残された部分の側面が主構造体1(梁3)と付加構造体6(繋ぎ部材7)がズレ変形を生ずる水平方向を向いた状態で定着部材9が配置されることで、その方向の水平せん断力を受け易くなる利点がある。水平せん断力がそのせん断力を受ける面に対して垂直でない場合には、その面が水平せん断力を完全に負担しきれないのに対し、帯状に残された部分の側面が水平せん断力に対して垂直であれば、その側面が水平せん断力を完全に負担できることに基づく。
【0136】
図12−(a)は主構造体1が既存構造物である場合の具体例を、(b)は(a)に示す主構造体1のスパン方向片側に図3に示す制震補強架構の例である付加構造体6を地上に構築し、主構造体1に接合した様子を示す。図12−(b)では主構造体1(既存構造物)の基礎5に重ねるように新設の基礎13を構築し、この基礎13の上に付加構造体6を構築している。図13は図12−(b)における主構造体1の張出部材2と付加構造体6の繋ぎ部材7との接合部分を拡大して示す。図14は図12−(b)における付加構造体6と、その梁6bから主構造体1側へ張り出す繋ぎ部材7との関係を示す。
【0137】
図12−(b)は地中に新たに構築した基礎13上に付加構造体6の柱6aを立設し、付加構造体6の鉛直荷重を基礎13に伝達させる場合の例を示している。これに対し、図15は主構造体1(既存構造物)の付加構造体6側構面の外側に付加構造体6を支持する支持部材12を接合し、この支持部材12上に柱6aを立設することにより支持部材12を通じて付加構造体6を主構造体1に支持させた場合の例を示す。
【0138】
図15の例は主構造体1の下層寄り地上階の屋外側に主構造体1の構面から付加構造体6側へ店舗、車寄せ、玄関屋根等の屋外施設14が張り出す場合に、屋外施設14の存在に影響されることなく、付加構造体6を構築する場合に有効な方法である。支持部材12は主構造体1の構面を構成する柱4から片持ち状態で張り出すように構築され、この支持部材12上に付加構造体6の柱6aと繋ぎ部材7が構築される。
【符号の説明】
【0139】
1……主構造体、2……張出部材、3……梁、4……柱、5……基礎、
6……付加構造体、6a……柱、6b……梁、
6c……ブレース、6d……ダンパ、6e……免震装置、6f……スタッド、
7……繋ぎ部材、
8……定着装置、
9……定着部材、91……定着部、92……本体部、92a……挿通孔、
10……アンカー、11……ナット、
12……支持部材、13……基礎、14……屋外施設。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
桁行方向を向く構面からスパン方向外側へ張出部材が張り出す主構造体のスパン方向の前記張出部材側の構面に、前記主構造体が負担する外力の一部を分担し、前記主構造体との間で前記桁行方向の水平せん断力を伝達する付加構造体を配置し、前記主構造体に接合した構造体の接合構造であり、
前記付加構造体の、前記張出部材の下方位置から前記主構造体側へ繋ぎ部材が張り出し、その繋ぎ部材の前記主構造体側の端部は前記主構造体に、前記主構造体の前記スパン方向への曲げ変形時に、その曲げ変形の向きと逆向きに前記主構造体に対して回転変形可能に接合され、
前記張出部材と前記付加構造体との間、及び前記張出部材と前記繋ぎ部材との間に、前記主構造体の前記スパン方向への曲げ変形時における、前記張出部材の前記付加構造体に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスが確保されていることを特徴とする構造体の接合構造。
【請求項2】
前記繋ぎ部材の下面は前記主構造体の前記張出部材側の構面を構成する梁の下面以上に位置し、且つ前記繋ぎ部材の上面は前記梁の断面上の中心以上に位置していることを特徴とする請求項1に記載の構造体の接合構造。
【請求項3】
前記張出部材の前記付加構造体側の端部は、前記主構造体の前記付加構造体側への曲げ変形時に、その主構造体に追従する前記繋ぎ部材が前記主構造体の曲げ変形と逆向きに前記主構造体に対して回転変形したときの、前記張出部材の前記付加構造体側への相対水平移動量以上の距離を前記付加構造体から隔てていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の構造体の接合構造。
【請求項4】
前記張出部材の下面は、前記主構造体の前記付加構造体側への曲げ変形時に、その主構造体に追従する前記繋ぎ部材が前記主構造体の曲げ変形と逆向きに前記主構造体に対して回転変形したときの、前記張出部材の前記付加構造体側への相対鉛直移動量以上の距離を前記繋ぎ部材から隔てていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の構造体の接合構造。
【請求項1】
桁行方向を向く構面からスパン方向外側へ張出部材が張り出す主構造体のスパン方向の前記張出部材側の構面に、前記主構造体が負担する外力の一部を分担し、前記主構造体との間で前記桁行方向の水平せん断力を伝達する付加構造体を配置し、前記主構造体に接合した構造体の接合構造であり、
前記付加構造体の、前記張出部材の下方位置から前記主構造体側へ繋ぎ部材が張り出し、その繋ぎ部材の前記主構造体側の端部は前記主構造体に、前記主構造体の前記スパン方向への曲げ変形時に、その曲げ変形の向きと逆向きに前記主構造体に対して回転変形可能に接合され、
前記張出部材と前記付加構造体との間、及び前記張出部材と前記繋ぎ部材との間に、前記主構造体の前記スパン方向への曲げ変形時における、前記張出部材の前記付加構造体に対する相対的な回転変形を許容するクリアランスが確保されていることを特徴とする構造体の接合構造。
【請求項2】
前記繋ぎ部材の下面は前記主構造体の前記張出部材側の構面を構成する梁の下面以上に位置し、且つ前記繋ぎ部材の上面は前記梁の断面上の中心以上に位置していることを特徴とする請求項1に記載の構造体の接合構造。
【請求項3】
前記張出部材の前記付加構造体側の端部は、前記主構造体の前記付加構造体側への曲げ変形時に、その主構造体に追従する前記繋ぎ部材が前記主構造体の曲げ変形と逆向きに前記主構造体に対して回転変形したときの、前記張出部材の前記付加構造体側への相対水平移動量以上の距離を前記付加構造体から隔てていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の構造体の接合構造。
【請求項4】
前記張出部材の下面は、前記主構造体の前記付加構造体側への曲げ変形時に、その主構造体に追従する前記繋ぎ部材が前記主構造体の曲げ変形と逆向きに前記主構造体に対して回転変形したときの、前記張出部材の前記付加構造体側への相対鉛直移動量以上の距離を前記繋ぎ部材から隔てていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の構造体の接合構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−219501(P2012−219501A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86085(P2011−86085)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【特許番号】特許第4799703号(P4799703)
【特許公報発行日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(503361444)
【出願人】(510207243)株式会社KSE network (4)
【出願人】(000149594)株式会社大本組 (40)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【特許番号】特許第4799703号(P4799703)
【特許公報発行日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(503361444)
【出願人】(510207243)株式会社KSE network (4)
【出願人】(000149594)株式会社大本組 (40)
【Fターム(参考)】
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