説明

構造体の製造方法

【課題】低温度の熱処理により、L10構造の微細な結晶粒から構成される構造体の製造方法、及びこの構造体を用いた磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】磁性体が非磁性体中に分散された構造体の製造方法であって、磁性体Aが非磁性体中に分散された第1層を形成する工程と、該第1層上に磁性体Bを含む第2層を形成する工程と、前記の第2層を形成する工程の間、又は前記の第2層を形成する工程の後に、前記磁性体Aと前記磁性体Bとが、繋がり、且つ規則合金化するように、加熱する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の製造方法に係り、特に、非磁性体中に磁性体が規則合金化して配置された構造体の製造方法、及び磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報量の飛躍的な増大に伴って、ハードディスクドライブ(HDD)を代表とする磁気記録装置には、高記録密度及び大容量化が求められている。
【0003】
磁気記録装置において、最小記録単位(1ビット)が多くの磁性微粒子によって構成されることにより、記録分解能の向上と記録ノイズの低減が図られ、高記録密度化が実現される。このため、記録層内に含まれる磁性粒子の微細化が不可欠であるが、個々の磁性粒子が保持する磁気エネルギーの大きさが熱エネルギーの大きさを無視できなくなり、記録された磁化が失われる超常磁性効果(熱揺らぎ)が問題視されている。従って、熱揺らぎによる記録磁化の不安定性を抑制するため、磁気異方性定数(Ku)の大きな高Ku材料を用い、且つ微細な結晶粒により構成される磁気記録媒体の開発が進められている。
【0004】
高Ku、特に1×10erg/cm以上の大きな磁気異方性定数を有する材料として、FePt、CoPt等のL10構造を有するL10規則合金が注目されている。特に、L10−FePt合金は、7×10erg/cmという高い磁気異方性定数を有する。
【0005】
室温にて成膜したFePt合金の結晶構造は、fcc不規則構造を形成するが、熱処理によりfct規則構造(L10構造)に変態する。しかしながら、熱処理により結晶粒径が増大してしまうため、結晶粒の成長を抑制しつつ規則合金構造を得る手法として、ナノグラニュラー構造の研究が行われている。ナノグラニュラー構造とは、酸化物(SiO、Al、MgO等)等のマトリックス中に、ナノスケールの結晶粒が分散して存在する構造をいう。
【0006】
特許文献1は、ナノグラニュラー構造を用いた磁気記録媒体を開示する。しかしながら、この場合も規則合金化と共に結晶成長が進行し、10nm以下のL10−FePt結晶粒を有するグラニュラー構造の作製は困難であった。
【0007】
一方、特許文献2は、Fe微粒子を含むグラニュラー薄膜と、Pt微粒子を含むグラニュラー薄膜とを積層し、この積層体を形成する際、又は積層体を形成した後に、所定温度に加熱してFe及びPtを合金化する方法を開示する。この文献では、一例として、350℃以上の加熱により、結晶粒10nm程度で、5kOe以上の保磁力(Hc)を有するL10−FePt結晶粒を含むグラニュラー構造が示されている。しかし、規則合金化を行うために、350℃以上の加熱を行うことがまだ必要であった。
【0008】
実用化の観点から考えると、磁性体が非磁性体中に分散された構造体において、磁性体がさらに低温で規則合金化されることが強く望まれていた。
【特許文献1】特開2001−273622号公報
【特許文献2】特許第3507892号公報
【非特許文献1】Applied Physics Letters、2002年3月25日、80巻、12号、pp.2147−2149
【非特許文献2】Journal of Applied Physics、2002年11月15日、92巻、10号、pp.6104−6109
【非特許文献3】Applied Physics Letters、2002年1月14日、80巻、2号、pp.288−290
【非特許文献4】Journal of Applied Physics、2001年6月1日、89巻、11号、pp.7065−7067
【非特許文献5】Journal of Applied Physics、2003年12月1日、94巻、11号、pp.7222−7226
【非特許文献6】Applied Physics Letters、2004年11月8日、85巻、19号、pp.4430−4432
【非特許文献7】Applied Physics Letters、2003年12月1日、83巻、22号、pp.4550−4552
【非特許文献8】Applied Physics Letters、2004年9月20日、85巻、12号、pp.2304−2306
【非特許文献9】Journal of Applied Physics、2001年6月1日、89巻、11号、pp.7068−7070
【非特許文献10】Applied Physics Letters、2003年9月15日、83巻、11号、pp.2196−2198
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、低温度の熱処理により、L10構造の微細な結晶粒から構成される構造体の製造方法、及びこの構造体を用いた磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による構造体の製造方法は、磁性体が非磁性体中に分散された構造体の製造方法であって、磁性体Aが非磁性体中に分散された第1層を形成する工程と、該第1層上に磁性体Bを含む第2層を形成する工程と、前記の第2層を形成する工程の間、又は前記の第2層を形成する工程の後に、前記磁性体Aと前記磁性体Bとが、繋がり、且つ規則合金化するように、加熱する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、結晶粒径を増大させずに、従来よりも低温で熱処理することで、高密度記録化の要求を満たされた構造体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態につき説明する。
【0013】
<本発明による構造体の製造方法>
本発明による構造体の製造方法は、磁性体が非磁性体中に分散された構造体の製造方法であって、磁性体Aが非磁性体中に分散された第1層を形成する工程と、該第1層上に磁性体Bを含む第2層を形成する工程と、前記の第2層を形成する工程の間、又は前記の第2層を形成する工程の後に、前記磁性体Aと前記磁性体Bとが、繋がり、且つ規則合金化するように、加熱する工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明による構造体の製造方法は、磁性体が非磁性体中に分散された構造体の製造方法であって:Fe、Co及びNiからなる群から選択された1種類以上の元素とPt及びPdからなる群から選択された1種類以上の元素とを主成分とする磁性体Aと、前記非磁性体とにより構成される膜状部材を物理気相法で形成する工程と;Fe、Co及びNiからなる群から選択された1種類以上の元素と、Pt及びPdからなる群から選択された1種類以上の元素とを主成分とする磁性体Bを有する連続膜を該膜状部材の上部に形成する工程と;前記の連続膜を形成する工程の間に、又は前記の連続膜を形成する工程の後に、加熱する熱処理工程と;を有することを特徴とする。
【0015】
以下、膜状部材形成工程とは、「磁性体Aが非磁性体中に分散された第1層を形成する工程」を称する。また、膜状部材形成工程とは、「Fe、Co及びNiからなる群から選択された1種類以上の元素とPt及びPdからなる群から選択された1種類以上の元素とを主成分とする磁性体Aと、非磁性体とにより構成される膜状部材を物理気相法で形成する工程」を称する。
【0016】
また、連続膜形成工程とは、「該第1層上に磁性体Bを含む第2層を形成する工程」を称する。また、連続膜形成工程とは、「Fe、Co及びNiからなる群から選択された1種類以上の元素と、Pt及びPdからなる群から選択された1種類以上の元素とを主成分とする磁性体Bを有する連続膜を該膜状部材の上部に形成する工程」を称する。
【0017】
さらに、熱処理工程とは、「前記の第2層を形成する工程の間、又は前記の第2層を形成する工程の後に、前記磁性体Aと前記磁性体Bとが、繋がり、且つ規則合金化するように、加熱する工程」を称する。また、熱処理工程とは、「前記の膜状部材を形成する工程の間に、若しくは前記の連続膜を形成する工程の間に、又は前記の連続膜を形成する工程の後に、所定温度に加熱する熱処理工程」を称する。
【0018】
本発明による構造体の製造方法の概略を、図6に示す。第1の工程として、図2に示したようなグラニュラー構造を作製する(膜状部材形成工程に相当)。第2の工程として、図4に示したような連続膜を作製する。必要ならば図5に示すような第2の連続膜を作製する(連続膜形成工程に相当)。第3の工程として、第2の工程で作製した構造体を熱処理する熱処理工程を行なう。ここで、工程2にて熱処理を同時に行なう場合は、第3の工程を省略することが可能である。第4の工程として、図4及び図5に示した連続膜若しくは、連続膜及び第2の連続膜の除去工程を行ってもよい。
【0019】
(膜状部材形成工程)
膜状部材形成工程は、基板又は下地上に磁性体Aと非磁性体とから構成される膜状部材を形成する工程である。磁性体Aは、Fe、Co及びNiのうち少なくとも1種類以上の元素とPt及びPdのうち少なくとも1種類以上の元素を主成分とする磁性体である。このような磁性体の例としては、L10構造を有するFePt、FePd、CoPt等が挙げられ、各元素が層状に成長した結晶構造を示す。また、このL10構造は、この構造を維持する限り、他の元素を有していてもよく、Cu、Ag、Au、Ir、N、B等が例示される。非磁性体としては、例えば、酸化物、窒化物、炭化物やAg、Au等が挙げられる。特に、SiO、Al、MgO等の酸化物が好ましい。
【0020】
L10構造のc軸方向は、垂直磁気記録媒体として用いる場合を考慮すると、基板に対して法線方向を向くような結晶配向を有することが好ましい。配向制御のためには、下地の結晶構造の格子間隔とL10構造の格子間隔の相関が重要である。例えば、MgO(001)配向膜上のL10−FePtはc軸配向し易いが、グラニュラー構造としてMgOを用いることにより、c軸配向が維持され易い。このため、MgOマトリックスにFePtが含まれるグラニュラー構造は特に好ましい形態である。
【0021】
膜状部材形成工程は、物理気相法により行う。ここで、物理気相法としては、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法や、イオンプレーティング、イオンビームデポジション、及び、スパッタ法等が挙げられる。特に、スパッタ法は、多種多様な薄膜の作製が可能であるのみならず、製造プロセスでも広く用いられており、好ましい実施の形態である。
【0022】
形成するグラニュラー構造に関して更に詳しく説明する。以下、L10構造としてL10−FePtを、非磁性体マトリックスとしてMgOを例にして概説するが、その他の組み合わせのグラニュラー構造にも類似する内容である。また、成膜方法は、特別に断りが無い限りスパッタ法とするが、その他の手法でも構わない。
【0023】
図1は、本発明におけるグラニュラー構造を有する構造体の一形態(1)の断面図である。一般的に、グラニュラー構造1010とは、図1に示すように、マトリックス部材1003中に球状結晶部材1004が分散した構造を有する。成膜後、FePt結晶粒は、球状でも構わないが、本発明における構造体を磁気記録媒体として用いる場合、図2に示すように、規則合金化された柱状構造を有することが好ましい。つまり、図2に示すように、マトリックス部材2003中に柱状構造の柱状結晶部材2004が分散した、相分離構造をとるグラニュラー構造2010とすることが好ましい。下地上に堆積するFePt及びMgOの結晶核を制御することにより、FePt及びMgO結晶核上に、FePt粒子、MgO粒子がそれぞれ堆積する相分離構造が形成される。相分離構造では、下地を反映した結晶配向、及び結晶粒径をある程度制御することが可能であるため、磁気記録媒体として望ましい構造である。
【0024】
FePtの平均結晶粒径は、FePtと酸化物であるMgOの含有比率に影響され、酸化物の体積比率が高い程微細なFePt結晶粒が得られる。しかしながら、4nm以下の結晶粒径では、L10規則合金化し難いことが報告されており、規則化温度低減が困難となる為、極端な微細粒は好ましくない。MgOの含有率は、35体積%以上75体積%以下であることが好ましく、さらには40体積%以上65体積%以下であることが好ましく、特には45体積%以上55体積%以下であることが好ましい。熱処理前のFePt結晶粒の平均直径は1nm以上8nm以下であることが好ましく、さらには1nm以上5nm以下であることが好ましく、特に1nm以上3nm以下であることが好ましい。規則合金化のための熱処理過程により結晶粒径はある程度増大するが、本発明では、結晶粒が顕著に増大する前に規則合金化させることを目的としている。規則合金化後の結晶粒として、平均直径が4nm以上10nm以下、さらには4nm以上8nm以下であること、特に4nm以上6nm以下であることが好ましい。スパッタ時に基板温度を上昇させながら成膜する場合、結晶粒径は室温成膜の場合より大きくなるが、上記に示す、規則合金化後の結晶粒が得られれば問題は無い。なお、柱状構造の平均結晶粒径は、図3に示すような膜状部材の平面図における、柱状構造上面(柱状結晶部材3002)の平均直径とする。
【0025】
(連続膜形成工程)
連続膜形成工程は、上述の膜状部材上に連続膜を形成する工程である。図4は、連続膜を有する本発明における構造体の一形態(3)の断面図である。連続膜4005は、磁性体Bを有し、磁性体Bは、Fe、Co及びNiからなる群から選択された1種類以上の元素と、Pt及びPdからなる群から選択された1種類以上の元素とを主成分とする磁性体である。連続膜は、柱状構造に例示されるグラニュラー構造4010を形成する磁性体Aの規則合金化を促進する目的で具備された膜であり、磁性体A及び磁性体Bが同じ元素で構成されても、異なる元素で構成されても構わない。特に、製造上のプロセス負荷低減、及び材料コスト削減等の点で、同じ材料で構成されることが好ましい。
【0026】
ここで、FePt合金を例にして、fcc不規則構造からL10規則構造に変態する規則合金化に関して説明する。不規則相を形成したFePt合金は、熱処理に伴いFe及びPtが相互拡散し、2元系FePtの相図に示されているように安定構造であるL10構造を形成する。詳細な検討により、(1)初期に成長した規則相の結晶核が連続的に広がり、結晶成長と共に規則合金化が進行すること、(2)不規則/規則相界面が移動することにより規則化が進行する、という以上の点が規則化進行のメカニズムとして提案されている。
【0027】
一方、ナノ粒子では結晶粒径に応じて規則化の容易さが異なり、特にFePt合金の詳細な検討では、4nm以下の結晶粒では規則合金化が進行しにくいことが示されている。即ち、ナノ粒子のような狭い空間では、規則合金化に寄与する、Fe及びPtの相互拡散エネルギーや、弾性エネルギー等が抑制されて規則化が進行しにくいことが考えられる。上述したように、規則合金化メカニズムの背景として、グラニュラー構造中の結晶粒の小さなFePtよりも、連続膜中のFePtの方が規則合金化しやすいことが推察される。実際に、多くの実験でも、連続膜中のFePtの方が低温にて規則合金化しやすいことが示されている。
【0028】
本発明では、これまで述べた点、即ち、(1)結晶粒径の小さな規則合金結晶粒を作製することが不可欠なこと、(2)連続膜中のFePtの方がグラニュラー構造中のFePtよりも規則合金化しやすいこと、(3)不規則/規則相界面の移動により規則化合金結晶が成長すること、以上の点を鑑み鋭意検討した。その結果、グラニュラー構造に含まれる柱状構造を形成するFePtと連続膜を形成しているFePtとが接続している構造体において、連続膜中のFePtの規則合金化により、グラニュラー構造中のFePt結晶粒の規則合金化が促進されることを見出した。
【0029】
後述するが、連続膜を構成する磁性体Bは、本発明における構造体を磁気記録媒体として用いる場合、磁気記録媒体を構成する記録層としては不要な部分である。そのため、磁気記録層作製時には、除去または軟磁性化等の処理を行なう。従って、本発明による構造体の製造方法において、連続膜が備えるべき要件としては、以下に挙げる通りである。
【0030】
(1)微結晶粒化等の構造制御は不必要
(2)連続膜中の磁性体B(FePt合金)の規則化温度低減を実現する要素を有する
(3)グラニュラー構造中の磁性体A(FePt合金)の規則化を促進する
【0031】
連続膜FePtの膜厚は、後述の熱処理工程において連続膜を構成する元素が規則合金化しやすい膜厚であれば、特に制約はない。また、連続膜は、本発明における構造体を磁気記録媒体として用いる場合には、不要な膜であるため、必要以上に厚過ぎる場合は、磁気記録媒体製造プロセスに対して負荷となる。故に、1nm以上30nm以下、好ましくは1nm以上20m以下、より好ましくは1nm以上10nm以下である。
【0032】
本発明による構造体の製造方法において、連続膜形成工程の後に、連続膜上に第2の連続膜を形成する工程をさらに有してもよい。この第2の連続膜は、例えば、前記FePt合金の配向制御及び/または規則合金化温度の低減に寄与する膜である。例えば、本発明による構造体を磁気記録媒体として用いる場合、上記連続膜FePtを除去するが、この除去工程の前に、図5に示すような第2の連続膜5006を付け加えてから、後述の熱処理工程、及び除去工程を行ってもよい。
【0033】
第2の連続膜の具体例としては、配向制御の目的として、(001)で表される面が配向しているZnO、更に、fcc結晶構造を有する材料の(001)で表される面が配向している膜(即ち、基板に対して垂直方向から見た場合に、膜表面に(001)で示される面が表れている膜)を適用できる。MgO(001)配向膜等も適用できる。一方、規則化温度低減の目的としては、上述したが、CuやAg、またはCu/Siの積層膜を選択することが可能である。
【0034】
本発明における構造体を、裏打ち軟磁性層を有する垂直磁気記録媒体として使用する場合、記録感度の向上及び書きにじみの低減から、磁気ヘッドから裏打ち層までの距離を短縮することが好ましい。FePt連続層のみならず、第2の連続膜も最終的に除去するため、記録層と軟磁性層間との距離の増大をもたらすことがないため、良好な磁気記録媒体を提供することが可能である。
【0035】
(熱処理工程)
本発明による構造体の製造方法において、熱処理工程は、膜状部材形成工程の間、若しくは連続膜形成工程の間、又は連続膜形成工程の後に、構造体を所定温度に加熱する工程である。
【0036】
熱処理工程は、膜状部材であるグラニュラー構造及びその上に形成される連続膜を室温で作製後熱処理する方法、及び成膜中に熱処理する方法が可能である。成膜後の熱処理は、製造プロセスの負荷が低い等の長所がある。一方、一般的にFePt規則合金薄膜の作製において、成膜中に加熱することによりFe及びPt粒子の表面拡散が促進されるため、規則化温度の低減には効果的である。但し、熱処理工程は、連続膜FePtの規則化温度低減手法に依存するので、適宜、成膜中或いは、成膜後の熱処理のいずれかを選択すればよい。
【0037】
また、成膜中に加熱する場合は、好適な温度は、膜状部材上に上付けする連続膜FePt合金が規則合金化する温度であり、膜状部材中の柱状FePtが連続膜FePtの規則化に促進されて規則合金化する温度を選択すればよい。具体的には、280〜340℃の範囲で規則合金化が可能である。これは、相分離層の上に磁性層(連続膜)を形成することにより、上の磁性層から規則化が始まり、上の磁性層の規則合金化の影響を相分離層中の磁性体が受け、さらに熱エネルギーにより規則合金化される。この相分離層上の磁性層の規則合金化の影響があるため、相分離層中の磁性体を従来よりも低温で、規則合金化することが可能になる。必要以上に温度を上げることは、本発明の目的に反するのみならず、膜状部材中のFePt結晶粒の増大に繋がり逆効果となる。
【0038】
熱処理工程において、連続膜を構成する磁性体Bは、規則化される。例えば、磁性体BがFePt合金である場合、FePt合金の規則化温度を低減する手法に関しては、これまで多くの研究が行なわれており、それらの要素を取り込むことが可能である。
【0039】
連続膜のFePt合金の規則化において、これまでに報告されている規則化温度の低減手法を以下に示す。
【0040】
(1)FePt合金にCu、Ag、Au、Ir、B及びN等の第3元素を添加する方法
FePtと固溶することで効果的な働きを示す元素としては、特にCu等が挙げられる。また、非固溶して粒子内に空孔を作ることにより効果的な働きを示す元素としては、特にAg、Au等が挙げられる(非特許文献1及び2参照)。
【0041】
(2)Fe単原子層とPt単原子層とを交互に積層することにより、規則合金層を形成する方法
L10−FePtはFeとPtが層状に積層した構造であり、成膜時に原子オーダーで制御よく積層させると、規則構造変態に必要とするエネルギーを低くすることが可能である(非特許文献3参照)。
【0042】
(3)数nmのFe及びPtを積層する方法
この手法も、方法(2)と類似した理由により、規則化温度の低減に寄与するが、特に、加熱しながら成膜することがより効果的に働く(非特許文献4及び5参照)。
【0043】
(4)CuとSiがCuSiを形成する際に生じる歪みエネルギーによって規則化を促進する方法
室温にてSi基板上にCuを成膜し、加熱処理にてシリサイドが形成される際に生じる動的な引っ張り張力が効果的に作用する(非特許文献6参照)。本発明に適用する場合は、連続膜FePtの上にCu/Siの積層膜を作製することにより、同様の効果を発現する。
【0044】
(5)Heイオン照射により規則化温度を低減する手法
本手法は、熱処理に代わりに用いる手法である(非特許文献7参照)。
【0045】
(6)磁場中にて熱処理することにより規則化が促進する方法(非特許文献8参照)
【0046】
(7)下地及びキャップ層としてAg薄膜を用いることにより規則化温度が低減する方法
FePtとAg膜の界面に生じる弾性エネルギーが規則化温度低減理由の一つであると考えられる(非特許文献9及び10参照)。
【0047】
(8)その他、FePt成膜時のAr圧力を高めてFe及びPtの拡散を促進することや、成膜装置内の真空度を高めて規則化進行の阻害に関わる不純物量を低減すること、更に使用するターゲットの不純物濃度を低減すること等が挙げられる。これらの方法により、成膜における基本的な諸条件を最適化することにより規則化温度の低減をはかることが可能となる。
【0048】
規則化温度(つまり、熱処理工程の加熱温度)を低減するためには、上述の通りの多種多様な手法が明らかにされているが、本発明では、連続膜FePt合金の規則化温度を低減する手法に関しては、上述の方法に制限されるものではない。規則化温度を低減する手法を利用した連続膜を用いることにより、目的とするグラニュラー構造中のFePt合金の規則化を促進することが可能となる。
【0049】
熱処理工程は、例えば水素等を含む還元性雰囲気下で行ってもよい。FePt中に微量の酸素等の不純物が混入している場合は、水素雰囲気下にて熱処理をすることにより酸素等の不純物が除去されて、Fe及びPt原子の拡散が促進され規則化温度低減に寄与すると考えられる。
【0050】
(その他の工程)
本発明による構造体の製造方法において、熱処理工程の後に、連続膜及び第2の連続膜は、研磨またはドライエッチングなどの公知の方法で除去されてもよい(以下、除去工程とも称する。)。特に、本発明における構造体を磁気記録媒体として使用する場合、連続膜及び第2の連続膜は、この除去工程により、除去される。
【0051】
除去工程を行う方法としては、例えば、ダイヤモンドスラリーまたはコロイダルシリカ等を用いた精密研磨が挙げられる。これにより、除去された構造体の表面の凹凸に係るrms(2乗平均の平方根)は、1nm以下の平坦性を得ることが可能である。除去工程では、表面に露出している部分は若干ダメージ層として残存することが考えられる。ダメージ層は、L10構造を維持していない軟磁性層である。除去しきれないダメージ層が存在していても、グラニュラー構造中の大部分のL10−FePtに影響が無ければ、記録再生特性に対して決定的な問題とならない。逆に、L10−FePtは磁気異方性定数が非常に大きく、磁気ヘッドでの書き込みには非常に強いヘッド磁界が必要とされ、記録感度に問題が生じる可能性がある。このような観点から、ダメージ層を軟磁性層とする硬磁性(L10−FePt)/軟磁性のスタック構造は、記録感度向上に関して良好に寄与することも考えられる。
【0052】
連続膜は、除去工程の代わりに、又は除去工程と組み合わせて、軟磁性化されてもよい。特に、FePtの連続膜が薄い場合は、連続膜のL10−FePtだけを選択的に軟磁性化してもよい。軟磁性化には、物理的な衝撃による結晶構造の破壊やFePtを変質させることにより達成される。
【0053】
軟磁性化を行う方法としては、例えば、プラズマ発生が可能な誘導結合プラズマ(ICP:Inductive Coupled Plasma)装置を有するチャンバー内にCFを導入することにより、行ってもよい。これにより、生成される反応性の高いフッ素ラジカルによりFePtを変質させる。ここでは、必要とする膜状部材であるグラニュラー構造中のL10−FePtに影響を与えないように条件を制御する必要がある。
【0054】
<磁気記録媒体>
上記のようにして作製した構造体は、磁気記録媒体の磁性層として利用することが可能である。図7は、本発明における構造体を用いた磁気記録媒体の構成例である。7001は、基板を、7002は、下地層及び中間層を、7003は、磁気記録層を、7004は、保護層を、7010は、潤滑層を、それぞれ示す。基板7001には、ガラス基板、Al基板、Si基板等を用いることができる。硬度を確保するためにNiP膜をめっき法などにより下地層として形成しておくことが望ましい。基板7001と磁気記録層7003との間には、軟磁性層を裏打ち層として形成することが有効である。その裏打ち層としては、NiFe1−tを主成分とする膜が使用可能であり、tの範囲は0.65から0.91であることが望ましく、さらに一部Ag、Pd、Ir、Rh、Cu、CR、P、Bなどを含んでもよい。その他、FeTaCや、CoZrNb等のアモルファス軟磁性体材料を用いてもよい。
【0055】
また、上記の裏打ち軟磁性層の上には、L10−FePtの配向制御のために(001)配向したMgOなどの配向制御層を挿入し、更に配向制御層の上にエピタキシャル成長するPt等の(001)配向する金属を積層してもよい。また、(001)配向したZnO(001)を用いてもよい。本発明の記録層の上には表面保護層を形成することが好ましく、ヘッドとの摩擦に対して耐磨耗性を持たせるために、カーボンの他、カーバイト、窒化物等の高硬度の非磁性材料を用いることが有効である。更に、潤滑層としてPFPE(パーフルオロポリエーテル)を塗布することが好ましい。本発明の磁気記録媒体は垂直磁気記録媒体として有効である。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明に係る実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
図6の製造フローに即して本発明の一実施例を示す。
【0058】
(工程1)
基板6001として熱酸化膜付きSi基板を用いる。Si基板上に下地6002として、スパッタ法にて、MgO膜を20nm成膜する。MgO膜は(001)面が配向するように成膜する。下地上にFePt合金からなら結晶粒とMgOマトリックスからなるグラニュラー構造とを有する膜状構造体を作製する。ここでは、Fe50Pt05(すなわち、Fe0.5Pt0.5)ターゲットの上に、Feチップを対称性よく配置した複合ターゲット及びMgOターゲットを用いて、DC又はRFスパッタにて成膜を行なう。膜厚は、25nmである。成膜装置のbase pressureは、2×10−5Pa以下である。ここで、FePt合金とMgOとの体積比を替えて3種類のグラニュラー構造を用意する。MgOの割合の大きいサンプルから順にサンプルA、サンプルB、サンプルCとする。なお、サンプルA、サンプルB及びサンプルCのFePt合金:MgOの比率(体積比)は、それぞれ、20:80、35:65及び50:50である。
【0059】
各サンプルにおいて、膜表面の構造を透過電子顕微鏡(TEM)を用いて観察すると、サンプルAでは明瞭なグラニュラー構造は観察されず、サンプルBでは平均結晶粒径3nm程度、サンプルCでは平均結晶粒径5nm程度である。同様にして、TEMにより断面構造を観察すると、サンプルAでは、明瞭な柱状構造は観察できないが、サンプルB及びサンプルCでは、MgOマトリックス中に柱状のFePtが分散している様子が明確に観察される。この膜上部材のX線回折(XRD)測定を行なうと、L10−FePtの規則相に由来するピークは観察されない。
【0060】
(工程2)
工程1で用いたサンプル上に連続膜6005を作製する。ここで、連続膜としては、FePtターゲットに第3元素としてCuが含まれるFePtCu薄膜20nmを作製する。蛍光X線分光装置(XRF)にて膜組成を確認すると、Fe42Pt46Cu12である。このFePtCu薄膜の成膜中に、基板温度を300℃にして成膜する。
【0061】
(工程3)
熱処理工程は、工程2で用いた基板6001の温度を300℃として、これを30分間維持することにより、行った。この工程を、工程3とする。
【0062】
(工程4)
工程2において作製した連続膜6005を研磨にて除去する。研磨後、TEMにてFePtの平均結晶粒径を確認すると、サンプルAでは、平均結晶粒径3nm、サンプルBでは、平均結晶粒径5nm、サンプルCでは、平均結晶粒径8nmであり、回折構造を観察すると、サンプルB及びサンプルCでは、L10−FePtの規則相に相当する回折ピークが観察される。一方、サンプルAでは、規則相に相当する明瞭な回折ピークは観察されない。Alternating Gradient Magnetometer(AGM)にて基板に対して垂直方向の保磁力(Hc)を測定すると、サンプルAでは、100Oe未満であるが、サンプルBでは、3500Oe、サンプルCでは、4500Oeの保磁力を示す。
【0063】
(実施例2)
図6の製造フローに即して本発明の一実施例を示す。
【0064】
(工程1)
実施例1と同様である。実施例1のサンプルAと同様のサンプルを、サンプルA2と、サンプルBと同様のサンプルを、サンプルB2と、サンプルCと同様のサンプルをサンプルC2と、それぞれ称する。なお、サンプルA2、サンプルB2及びサンプルC2のFePt合金:MgOの比率(体積比)は、それぞれ、20:80、35:65及び50:50である。
【0065】
(工程2)
工程1で用いたサンプル上に連続膜6005を作製する。ここでは、FeとPt層をそれぞれ2nmずつ交互に積層した連続膜(膜厚20nm)を、基板温度300℃にて作製する。
【0066】
(工程3)
熱処理工程は、実施例1と同様に行う。
【0067】
(工程4)
工程2において作製した連続膜6005を研磨にて除去する。研磨後、TEMにてFePtの平均結晶粒径を確認すると、サンプルA2では、平均3nm、サンプルB2では、平均5nm、サンプルC2では、平均8nmである。また、回折構造を観察すると、サンプルB2及びサンプルC2では、L10−FePtの規則相に相当する回折ピークが観察される。一方、サンプルA2では、規則相に相当する明瞭な回折ピークは観察されない。AGMにて基板に対して垂直方向の保磁力(Hc)を測定すると、サンプルA2では、100Oe未満であるが、サンプルB2では、3000Oe、サンプルC2では、4000Oeの保磁力を示す。
【0068】
(実施例3)
図6の製造フローに即して本発明の一実施例を示す。
【0069】
(工程1)
実施例1と同様である。実施例1のサンプルAと同様のサンプルを、サンプルA3と、サンプルBと同様のサンプルを、サンプルB3と、サンプルCと同様のサンプルを、サンプルC3と、それぞれ称する。なお、サンプルA3、サンプルB3及びサンプルC3のFePt合金:MgOの比率(体積比)は、それぞれ、20:80、35:65及び50:50である。
【0070】
(工程2)
工程1で用いたサンプル上に連続膜6005を作製する。ここでは、FeとPt層をそれぞれ2nmづつ交互に積層した連続膜(膜厚30nm)を室温にて作製する。更に、第2の連続膜6006として、buffer層であるPt10nmと、その上にCu50nmと、更にSi30nmとを作製する。
【0071】
(工程3)
成膜後、基板6001の温度を300℃として、これを30分間維持して、熱処理を行う。この熱処理は、還元雰囲気である水素雰囲気中で行う。
【0072】
(工程4)
工程2において作製した連続膜6005及び第2の連続膜6006を研磨にて除去する。研磨後、TEMにてFePtの平均結晶粒径を確認すると、サンプルA3では、平均3nm、サンプルB3では、平均6nm、サンプルC3では、平均9nmである。また、回折構造を観察すると、サンプルB3及びサンプルC3では、L10−FePtの規則相に相当する回折ピークが観察される。一方、サンプルA3では、規則相に相当する明瞭な回折ピークは観察されない。AGMにて基板に対して垂直方向の保磁力(Hc)を測定すると、サンプルA3では、1000Oe未満であるが、サンプルB3では、4000Oe、サンプルC3では、5500Oeの保磁力を示す。
【0073】
(実施例4)
図6の製造フローに即して本発明の一実施例を示す。
【0074】
(工程1)
実施例1と同様である。実施例1のサンプルAと同様のサンプルを、サンプルA4と、サンプルBと同様のサンプルを、サンプルB4と、サンプルCと同様のサンプルを、サンプルC4と、それぞれ称する。なお、サンプルA4、サンプルB4及びサンプルC4のFePt合金:MgOの比率(体積比)は、それぞれ、20:80、35:65及び50:50である。
【0075】
(工程2)
工程1で用いたサンプル上に連続膜6005を作製する。ここでは、FePt連続層(膜厚30nm)を室温にて作製する。
【0076】
(工程3)
ここでは、熱処理工程の代わりに2MeVのHeイオン照射を工程2で形成した膜に対して行なう。本工程ではHeイオン照射により基板温度が上昇するが、その最高温度は280℃以下である。
【0077】
(工程4)
工程2において作製した連続膜6005を研磨にて除去する。研磨後、TEMにてFePtの平均結晶粒径を確認すると、サンプルA4では、平均3nm、サンプルB4では、平均6nm、サンプルC4では、平均9nmである。また、回折構造を観察すると、サンプルB4及びサンプルC4では、L10−FePtの規則相に相当する回折ピークが観察される。一方、サンプルA4では、規則相に相当する明瞭な回折ピークは観察されない。AGMにて基板に対して垂直方向の保磁力(Hc)を測定すると、サンプルA4では、100Oe未満であるが、サンプルB4では、4000Oe、サンプルC4では、5500Oeの保磁力を示す。
【0078】
(実施例5)
図6の製造フローに即して本発明の一実施例を示す。
【0079】
(工程1)
実施例1と同様である。実施例1のサンプルAと同様のサンプルを、サンプルA5と、サンプルBと同様のサンプルを、サンプルB5と、サンプルCと同様のサンプルを、サンプルC5と、それぞれ称する。なお、サンプルA5、サンプルB5及びサンプルC5のFePt合金:MgOの比率(体積比)は、それぞれ、20:80、35:65及び50:50である。
【0080】
(工程2)
工程1で用いたサンプル上に連続膜6005を作製する。ここでは、FeとPtの単原子層を交互に積層したFePt連続層(膜厚20nm)を室温にて作製する。この連続膜の上に、第2の連続膜6006として20nmのAg薄膜を作製する。
【0081】
(工程3)
成膜後、300℃にて30分間熱処理を行う。熱処理には、還元雰囲気である水素雰囲気中で行なう。
【0082】
(工程4)
工程2において作製した連続膜を研磨にて除去する。研磨後、TEMにてFePtの平均結晶粒径を確認すると、サンプルA5では、平均3nm、サンプルB5では、平均5nm、サンプルC5では、平均8nmである。また、回折構造を観察すると、サンプルB5及びサンプルC5では、L10−FePtの規則相に相当する回折ピークが観察される。一方、サンプルA5では、規則相に相当する明瞭な回折ピークは観察されない。AGMにて基板に対して垂直方向の保磁力(Hc)を測定すると、サンプルA5では、1000Oe未満であるが、サンプルB5では、3000Oe、サンプルC5では、4000Oeの保磁力を示す。
【0083】
(実施例6)
図6の製造フローに即して本発明の一実施例を示す。
【0084】
(工程1)
実施例1と同様である。実施例1のサンプルAと同様のサンプルを、サンプルA6と、サンプルBと同様のサンプルを、サンプルB6と、サンプルCと同様のサンプルを、サンプルC6と、それぞれ称する。なお、サンプルA6、サンプルB6及びサンプルC6のFePt合金:MgOの比率(体積比)は、それぞれ、20:80、35:65及び50:50である。
【0085】
(工程2)
工程1で用いたサンプル上に連続膜を作製する。ここでは、FeとPtの単原子層を交互に積層したFePt連続層(膜厚20nm)を室温にて作製する。この連続膜の上に、第2の連続膜として40nmのZnO薄膜を作製する。ZnOは基板温度300℃にて作製する。
【0086】
(工程3)
成膜後、基板6001の温度を300℃として、これを30分間維持して、熱処理を行う。
【0087】
(工程4)
工程2において作製した連続膜6005及び第2の連続膜6006を研磨にて除去する。研磨後、TEMにてFePtの平均結晶粒径を確認すると、サンプルA6では、平均3nm、サンプルB6では、平均5nm、サンプルC6では、平均8nmである。また、回折構造を観察すると、サンプルB6及びサンプルC6では、L10−FePtの規則相に相当する回折ピークが観察される。一方、サンプルA6では、規則相に相当する明瞭な回折ピークは観察されない。AGMにて基板に対して垂直方向の保磁力(Hc)を測定すると、サンプルA6では、100Oe未満であるが、サンプルB6では、3000Oe、サンプルC6では、4000Oeの保磁力を示す。
【0088】
また、サンプルC6とサンプルC2において、c軸方向の配向分散をXRDにて観察する。配向分散の指標となるL10−FePtの(001)面の回折ピークのロッキングカーブを観察すると、サンプルC6の方がサンプルC2より半値幅は小さく、c軸分散がよいことが確認できる。
【0089】
(比較例1)
(工程1)
実施例1と同様であるが、FePt合金とMgOの体積比を若干変えた3種類のグラニュラー構造を用意する。MgOの割合の大きいサンプルから順にサンプルR1、サンプルR2、サンプルR3とする。なお、サンプルR1、サンプルR2及びサンプルR3のFePt合金:MgOの比率(体積比)は、それぞれ、20:80、50:50及び70:30である。
【0090】
各サンプルにおいて、膜表面の構造を透過電子顕微鏡(TEM)を用いて観察すると、サンプルR1では、明瞭なグラニュラー構造は観察されず、サンプルR2では、平均5nm程度、サンプルR3では、平均15nm程度である。同様にして、TEMにより断面構造を観察すると、サンプルR1では、明瞭な柱状構造は観察できないが、サンプルR2及びサンプルR3では、MgOマトリックス中に柱状のFePtが分散している様子が明確に観察される。
【0091】
(工程2)
ここでは、連続膜は作製しない。
【0092】
(工程3)
熱処理工程は、基板6001の温度を300℃として、これを30分間維持して、熱処理を行う。
【0093】
(工程4)
熱処理後、AGMにて基板に対して垂直方向の保磁力(Hc)を測定すると、サンプルR1では100Oe未満であり、サンプルR2では、500Oe未満、サンプルR3では、3000Oeの保磁力を示す。TEMにてサンプルR3では、平均粒径25nmであり、粒径分散も大きな構造であった。
【0094】
(実施例7)
実施例1の製造方法を用いて磁気記録媒体を作製する。基板を2.5インチのガラス基板とし、CoZrNbのアモルファス軟磁性体材料を裏打ち層として形成する。その上に5nmのMgO層を作製し、実施例1に示した製造方法を用いて記録層を作製する。その後、表面保護層としてDLCを作製し、更に、潤滑層としてPFPE(パーフルオロポリエーテル)を塗布する。成膜プロセスは300℃以下であるため、ガラス基板を用いた磁気記録媒体の作製が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明におけるグラニュラー構造を有する構造体の一形態(1)の断面図である。
【図2】本発明における柱状構造を有する構造体の一形態(2)の断面図である。
【図3】図2に示す構造体の平面図である。
【図4】本発明における構造体の一形態(3)の断面図である。
【図5】本発明における構造体の一形態(4)の断面図である。
【図6】本発明による構造体の製造方法の概略である。
【図7】本発明における構造体を用いた磁気記録媒体の構成例である。
【符号の説明】
【0096】
1001 基板
1002 下地
1003 マトリックス部材
1004 球状結晶部材
1010 グラニュラー構造
2001 基板
2002 下地
2003 マトリックス部材
2004 柱状結晶部材
2010 グラニュラー構造
3001 マトリックス部材
3002 柱状結晶部材
4001 基板
4002 下地
4003 マトリックス部材
4004 柱状結晶部材
4005 連続膜
4010 グラニュラー構造
5001 基板
5002 下地
5003 マトリックス部材
5004 柱状結晶部材
5005 連続膜
5006 第2の連続膜
5010 グラニュラー構造
6001 基板
6002 下地
6003 マトリックス部材
6004 柱状結晶部材
6005 連続膜
6006 第2の連続膜
7001 基板
7002 下地層及び中間層
7003 磁気記録層
7004 保護層
7010 潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体が非磁性体中に分散された構造体の製造方法であって、
磁性体Aが非磁性体中に分散された第1層を形成する工程と、
該第1層上に磁性体Bを含む第2層を形成する工程と、
前記の第2層を形成する工程の間、又は前記の第2層を形成する工程の後に、前記磁性体Aと前記磁性体Bとが、繋がり、且つ規則合金化するように、加熱する工程と、
を有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項2】
磁性体が非磁性体中に分散された構造体の製造方法であって:
Fe、Co及びNiからなる群から選択された1種類以上の元素とPt及びPdからなる群から選択された1種類以上の元素とを主成分とする磁性体Aと、前記非磁性体とにより構成される膜状部材を物理気相法で形成する工程と;
Fe、Co及びNiからなる群から選択された1種類以上の元素と、Pt及びPdからなる群から選択された1種類以上の元素とを主成分とする磁性体Bを有する連続膜を該膜状部材の上部に形成する工程と;
前記の連続膜を形成する工程の間に、又は前記の連続膜を形成する工程の後に、加熱する熱処理工程と;
を有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項3】
前記磁性体Aを構成する元素は、前記磁性体Bを構成する元素と同じである、請求項1又は2に記載の構造体の製造方法。
【請求項4】
前記磁性体A又は前記磁性体Bは、Cu、Ag、Au、Ir、B及びNからなる群から選択された1種類以上の元素を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項5】
前記連続膜の厚さは、1nm以上30nm以下である、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項6】
前記の連続膜を形成する工程の後に、前記連続膜上に第2の連続膜を形成する工程をさらに有する、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項7】
前記第2の連続膜は、ZnO、MgO、Cu、Ag又はCuとSiとの積層膜である、請求項6に記載の構造体の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理工程の後に、前記の連続膜を除去する工程を有する、請求項2乃至7のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理工程の後に、前記の連続膜を軟磁性化する工程をさらに有する、請求項2乃至7のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項10】
前記構造体は、磁気記録媒体である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−299492(P2007−299492A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128357(P2006−128357)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】