説明

構造物のクラック補修方法及びその補修剤

【課題】0.2mm以下程度のヘアラインクラックを始め数mm程度の大きなクラックまで当該クラック面を長期にわたって強固に補修できる他、美観上も隣接する仕上面と違和感のない仕上面を得ることを目的としたものである。
【解決手段】構造物の仕上面に発生するクラックに対し、該クラック及び該クラックの隣接箇所に浸透型防水剤を塗布し、その乾燥後、メタクリル酸メチルを主成分とした防水・耐候性材料よりなる補修剤又は該補修剤と仕上面と同一材料若しくはそれに類似する塗込材料との混合物よりなる補修剤をクラックに注入し、その後、該補修箇所及びその隣接箇所のサンディングを行い、上記補修剤の注入とサンディングを繰り返してなることを特徴とする構造物のクラック補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打ち放しコンクリート等の構造物の表面側に発生したクラックの補修方法及びその補修剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の表面側や他の構造物の仕上材の表面に発生したクラックを補修する方法として、該クラック部分にエポキシ樹脂等の補修剤を直接注入したり、該クラック部分をVカットしてクラックを大きくして補修剤を注入し易くし、上記エポキシ樹脂等の注入を含め、それ以外の様々な補修剤の注入に対応できるようにしていた。
【0003】
上記補修方法に使用する材料としては、エポキシ樹脂の他、ウレタン樹脂やアクリル樹脂等の樹脂材或いはラテックス等のゴム材が使用されている。しかし、それらの材料はクラックの生じる仕上材と反応することなく、単に当該クラックに注入して埋め込むだけの材料であり、クラック内の壁面と強固に連結し合い、所定の強度を得るという強度的な期待はできなかった。更に、該補修剤の劣化及び仕上材との分離もあり、長期的にみて有効的なものと成り得ていなかった。
【0004】
一方、特開平4−24366号公報や特開平10−237264号公報のように、クラック幅の狭いヘアラインクラックを補修する方法及びその材料が提案され、流動性に優れている補修剤によりクラックの補修をしているが、クラック補修剤が仕上材と大幅に異なり、当該補修部分が目立ち、美観上好ましいものではなかった。更に、補修後において当該箇所に雨や雪等の水分が当たった場合、その表面部分は濡れ肌状態となり、黒ずんで隣接する仕上材との色相や色彩を異にし、一層、美観上に大きな問題を生じていた。
【0005】
また、クラック近傍に補強材としての鉄筋が存在した場合、該鉄筋に対する不導体被膜や、コンクリートの中性化防止等が不完全なため、該鉄筋に錆が生じる等の劣化原因となり、構造材の内側を含めた根本的な復元補修とは成り得ていなかった。
【特許文献1】特開平4−24366号公報
【特許文献2】特開平10−237264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記欠点を解決したもので、0.2mm以下程度のヘアラインクラックを始め数mm程度の大きなクラックまで当該クラック面を長期にわたって強固に補修できる他、美観上も隣接する仕上面と違和感のない仕上面を得ることを目的としたものである。
【0007】
また、上記クラック補修方法及び補修剤は、コンクリート、モルタル、石膏、漆喰等の様々な仕上面に使用することができ、更に、広汎な仕上面全面でなく目地とか巾木等の小面積の箇所に生じた小クラックにも対応できることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、構造物の仕上面に発生するクラックに対し、該クラック及び該クラックの隣接箇所に浸透型防水剤を塗布し、その乾燥後、メタクリル酸メチルを主成分とした防水・耐候性材料よりなる補修剤又は該補修剤と仕上面と同一材料若しくはそれに類似する塗込材料との混合物よりなる補修剤をクラックに注入し、その後、該補修箇所及びその隣接箇所のサンディングを行い、上記補修剤の注入とサンディングを繰り返してなる構造物のクラック補修方法を特徴とする。
【0009】
また、上記浸透型防水剤を撥水性シラン化合物とイソプロピルアルコールとの混合物を主成分とした構造物のクラック補修方法を特徴とする。
【0010】
更に、上記浸透型防水剤を撥水性シラン化合物10〜15wt%、錫化合物0.01〜0.06wt%、イソプロピルアルコール60〜90wt%、アクリルシリコン樹脂3〜10wt%及び防かび剤0.5〜2wt%の混合物とした構造物のクラック補修方法を特徴とする。
【0011】
また、上記防水・耐候性材料をメタクリル酸メチルポリマーとアルコキシシラン及びイソプロピルアルコールとの混合物を主成分とした構造物のクラック補修方法を特徴とする。
【0012】
更に、上記防水・耐候性材料をメタクリル酸メチルポリマー2〜30wt%、アルコキシシラン2〜10wt%、イソプロピルアルコール20〜60wt%、アセトン10〜50wt%及びキシレン10〜50wt%の混合物とした構造物のクラック補修方法を特徴とする。
【0013】
また、上記防水・耐候性材料に錫触媒0.05〜0.3wt%を混合してなる構造物のクラック補修方法を特徴とする。
【0014】
更に、上記塗込材料をセメント、モルタル、石膏、漆喰等のいずれかよりなる構造物のクラック補修方法を特徴とする。
【0015】
また、補修剤をメタクリル酸メチルポリマーとアルコキシシラン及びイソプロピルアルコールとの混合物を主成分とした防水・耐候性材料を特徴とする。
【0016】
更に、補修剤をメタクリル酸メチルポリマー2〜30wt%、アルコキシシラン2〜10wt%、イソプロピルアルコール20〜60wt%、アセトン10〜50wt%及びキシレン10〜50wt%の混合物とした防水・耐候性材料を特徴とする。
【0017】
また、補修剤をメタクリル酸メチルポリマー2〜30wt%、アルコキシシラン2〜10wt%、イソプロピルアルコール20〜60wt%、アセトン10〜50wt%及びキシレン10〜50wt%を混合したものに更に錫触媒0.05〜0.3wt%を混合した防水・耐候性材料を特徴とする。
【0018】
更に、上記塗込材料をセメント、モルタル、石膏、漆喰等のいずれかとし、それらを上記防水・耐候性材料と混合した補修剤を特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
構造物の仕上面の初期段階或いはその後に生じるクラックに対し、防水効果が得られると同時に、耐候性に優れたクラック補修方法及びその補修剤を得ることが可能となった。
【0020】
また、補修後のクラック部分とその周辺の仕上材との色相や色彩等を判りにくくし、美観的に優れた補修方法及びその補修剤を提供することが可能となった。
【0021】
更に、細いヘアラインクラック程度のものでもカットやはつり又は穴開け等をすることなく補修剤を注入することができ、流動性が極めて良好で、且つ含浸後はその補修剤が体積膨張してクラックの内側全面に行きわたり、構造物と密着一体化され、当該箇所がその後の振動や劣化等により再びクラックとなることを防止でき、強度的に極めて優れた補修方法及びその補修剤を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0023】
完成後或いは経年後のコンクリートの打ち放し仕上げ、モルタル仕上げ、石膏ボード仕上げ或いは漆喰仕上げ等の構造物の仕上面に発生した様々な大きさや形状のクラックを補修するに際し、まず、該クラック及び該クラックの両側となる隣接箇所を清掃し、珪酸アトリウム等の仕上材の中性化防止材を塗布する。これは、仕上材、例えばコンクリート系の場合、その中性化を防止すると同時に、仕上面に近接する鉄筋に生じる不導体被膜を防止することを目的とするものである。
【0024】
次に、20番乃至80番のサンドペーパー及び/或いはブラシ類等を使用してクラック及びその両側となる隣接箇所の目あらしを行う。
【0025】
次に、クラック及びその両側となる隣接箇所に浸透型防水剤を塗布する。該浸透型防水剤としては撥水性シラン化合物とイソプロピルアルコールとの混合物を主成分とした材料である。具体的にはアルコキシシラン等のシラン化合物にアクリルシリコン樹脂を含有した材料を使用する。気孔率の高さに応じてアクリルシリコン樹脂の量を調整することで様々な仕上面に対応することができる。仕上面がコンクリート系や漆喰系では樹脂特有の濡れ色を最小限に抑えることができ、高い防水効果が得られることになる。
【0026】
一例として、
アルコキシシラン化合物 10〜15wt%
錫化合物 0.01〜0.06wt%
イソプロピルアルコール 60〜90wt%
アクリルシリコン樹脂 3〜10wt%
防かび剤 0.5〜2wt%
の混合物とする。錫化合物及び防かび剤は必要に応じて使用する。
【0027】
上記浸透型防水剤をクラック及びその隣接箇所の仕上面に100〜150cc/m塗布する。吸い込み量の多い仕上面にあっては180〜250cc/m程度塗布する。
【0028】
上記塗布した浸透型防水剤の乾燥後、防水・耐候性材料よりなる補修剤をクラックに注入する。具体的にはメタクリル酸メチルポリマーとアルコキシシランに溶剤としてのイソプロピルアルコール(IPA)との混合物を主成分とした防水・耐候性材料となる補修剤をクラック内へ注入する。
【0029】
上記クラック内に注入された防水・耐候性材料は、該クラック内において著しい体積膨張が生じ、該材料がクラック内の隅々まで充満することになる。メタクリル酸メチルポリマーのメチル基にアルコキシシランの有機基が反応して加水分解し、ポリマーの表面はアルコキシシランの表面水酸基となり、これがクラック内の表面水酸基と反応して強固な密着結合となる。
【0030】
上記材料のメタクリル酸メチルポリマーは、主として防水機能を発揮し、アルコキシシランは主として耐候性機能を発揮するが、それらの材料に加えて、硬化剤としてのアセトン及び乾燥速度の調整のためのキシレン等を混合することができる。
【0031】
また、約0.2mm以下のクラック幅となる所謂ヘアラインクラックの場合は、上記防水・耐候性材料の注入のみでよいが、それより大きな幅のクラックの場合は、塗込材料を使用することができる。塗込材料としてはセメント、モルタル、石膏粉末、漆喰粉末等の仕上面と同一材料或いはそれに類似する材料を使用する。早強セメント等を主成分とすると早期に補修することができ、施工時間を短縮することができる。
【0032】
その後、上記補修剤を注入した箇所及びその隣接箇所を20番乃至80番のサンドペーパー及び/或いはブラシ類によりサンディングする。上記補修剤の注入や塗り込み後のサンディングは必要に応じて何度か繰り返すことになる。このサンディングにより注入された補修剤の表面側が平滑化されると同時に、クラック周辺の仕上材が粉末状に削り取られ、それら粉末状の材料が該クラック補修剤の表面側に移行して付着被覆することになり、クラックの表面がその隣接箇所と同様の色相及び色彩状態となる。この工程によりクラックの補修箇所が不明となり、美観的に優れた仕上面を形成することが可能となる。
【0033】
上記防水・耐候性材料よりなる補修剤をコンクリート仕上面のクラックに使用する一実施例として、
メタクリル酸メチルポリマー 2〜30wt%
アルコキシシラン 2〜10wt%
IPA 20〜60wt%
アセトン 10〜50wt%
キシレン 10〜50wt%
の混合物とする。
【0034】
最適値なものとしては、
メタクリル酸メチルポリマー 3wt%
アルコキシシラン 6wt%
IPA 42wt%
アセトン 23wt%
キシレン 26wt%
の混合物とする。
【実施例2】
【0035】
実施例2のものは、上記防水・耐候性材料よりなる補修剤に、光触媒に優れた材料を追加したものである。光触媒材料としては錫触媒を選定した。
【0036】
防水・耐候性材料よりなる補修剤をコンクリート仕上面のクラックに使用する一実施例として、
メタクリル酸メチルポリマー 2〜30wt%
アルコキシシラン 2〜10wt%
錫触媒 0.05〜0.3wt%
IPA 20〜60wt%
アセトン 10〜50wt%
キシレン 10〜50wt%
の混合物とする。
【0037】
上記錫触媒材料としてフッ化アパタイト被覆二酸化チタンを混入する。上記材料は塗膜破壊やチョーキングを起こさず、分解力及び吸着力の強い材料となり親水性にも優れている。これにより防汚、防臭及び抗菌作用を達成することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の仕上面に発生するクラックに対し、該クラック及び該クラックの隣接箇所に浸透型防水剤を塗布し、その乾燥後、メタクリル酸メチルを主成分とした防水・耐候性材料よりなる補修剤又は該補修剤と仕上面と同一材料若しくはそれに類似する塗込材料との混合物よりなる補修剤をクラックに注入し、その後、該補修箇所及びその隣接箇所のサンディングを行い、上記補修剤の注入とサンディングを繰り返してなることを特徴とする構造物のクラック補修方法。
【請求項2】
浸透型防水剤を撥水性シラン化合物とイソプロピルアルコールとの混合物を主成分としたことを特徴とする請求項1記載の構造物のクラック補修方法。
【請求項3】
浸透型防水剤を撥水性シラン化合物10〜15wt%、錫化合物0.01〜0.06wt%、イソプロピルアルコール60〜90wt%、アクリルシリコン樹脂3〜10wt%及び防かび剤0.5〜2wt%の混合物としたことを特徴とする請求項1記載の構造物のクラック補修方法。
【請求項4】
防水・耐候性材料をメタクリル酸メチルポリマーとアルコキシシラン及びイソプロピルアルコールとの混合物を主成分としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1記載の構造物のクラック補修方法。
【請求項5】
防水・耐候性材料をメタクリル酸メチルポリマー2〜30wt%、アルコキシシラン2〜10wt%、イソプロピルアルコール20〜60wt%、アセトン10〜50wt%及びキシレン10〜50wt%の混合物としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1記載の構造物のクラック補修方法。
【請求項6】
請求項5の材料に錫触媒0.05〜0.3wt%を混合してなることを特徴とする請求項5記載の構造物のクラック補修方法。
【請求項7】
塗込材料をセメント、モルタル、石膏、漆喰等のいずれかよりなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1記載の構造物のクラック補修方法。
【請求項8】
請求項4乃至6のいずれか1記載の防水・耐候性材料を特徴とする補修剤。
【請求項9】
請求項7記載の塗込材料を請求項8記載の防水・耐候性材料と混合してなることを特徴とする補修剤。

【公開番号】特開2008−280723(P2008−280723A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125228(P2007−125228)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(503458009)株式会社プラザ・オブ・レガシー (1)
【Fターム(参考)】