説明

構造物の引き倒し方法

【課題】地上に立設された高層の構造物をクッションマウンド上に引き倒して解体する際に構造物の倒壊による地盤への振動を緩和させることが可能な構造物の引き倒し方法を提供する。
【解決手段】地上に立設された高層の構造物10を引き倒して解体する方法であって、構造物10の倒壊範囲に、クッションマウンド12を設置し、構造物10の倒壊による地盤13への振動を緩和させて構造物10を引き倒す。ここで、構造物10をクッションマウンド12に衝突させて中折れさせ、更に地盤13への衝撃力を緩和することが好ましく、構造物10がクッションマウンド12に衝突する位置は構造物10の重心位置より先端側で重心位置と構造物10の先端との中心位置よりも重心側にするのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上に立設された高層の構造物を引き倒して解体する方法に関する。ここで、高層の構造物とは、例えば、煙突、サイロ、化学設備の反応塔、処理塔、反応槽、及び処理槽、建築物の柱及び壁を指す。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築や土木分野では、例えば、煙突又は建築物の柱や壁を解体する場合、引き倒し工法が採用されている。そして、引き倒し工法では、解体物を転倒させた際に非常に大きな衝撃力が発生するので、例えば、非特許文献1には、この衝撃力を緩和するためにコンクリートガラ、古タイヤ、及び畳等を使用したクッション材を敷く方法が記載されている。また、非特許文献2には、ビル壁の大倒しによる解体でクッション材としてコンクリートガラと古タイヤを使用してクッションマウンドを構築することが記載されている。更に、非特許文献3には、鉄筋コンクリート造りの煙突をコンクリートガラで構築したクッションマウンドの真上に倒壊させることにより地盤が受け取る地盤振動エネルギーを小さくできることが記載されている。
【0003】
【非特許文献1】柿崎正義、外2名著、「ビル解体工法」、鹿島出版会、昭和50年5月30日、p.105
【非特許文献2】解体工法研究会編、「改訂解体工法と積算」、経済調査会、1988年10月25日、p.101
【非特許文献3】角田智彦、外2名、「鉄筋コンクリート造煙突の取りこわし倒壊時の地盤振動」、大林組技術研究所報、株式会社大林組、1972年、第6号、p.88−92
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1〜3に記載されたクッション材の選定やクッションマウンドの構築はいずれも経験上からの判断に基づいて行なわれ、例えば、地盤振動の大きさとクッション材の材質及びクッションマウンドの構成に関する工学的かつ定量的な判断基準は存在していない。このため、引き倒し解体しようとする構造物の周囲に存在する別の構造物に影響が発生しないようにして引き倒し解体を実施するには、どのようなクッションマウンドを構築すればよいかは判らなかった。
【0005】
また、非特許文献1〜3に記載された技術は、いずれもコンクリート製の構造物を対象としたものなので、倒壊直前の構造物に蓄積される運動エネルギーは、倒壊時に構造物自体が破損を起こすことにより相当量消費されて、地盤に実質的に伝達される運動エネルギー量は小さくなる。このため、コンクリート製の構造物では、引き倒し時に発生する地盤振動が軽減されるという利点がある。これに対して、鋼鉄製の構造物を引き倒して解体する場合、倒壊時にそれ自体が大きく破損することは期待できないため、倒壊直前の構造物に蓄積される運動エネルギーは地盤に伝達されて引き倒し時に発生する地盤振動が大きくなることが予測される。このため、構造物に蓄積される運動エネルギーがクッションマウンドで効率的に消費されるようにして、引き倒し解体する構造物の周囲に存在する別の構造物に及ぼす地盤振動の影響が無視できるようにする必要がある。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、地上に立設された高層の構造物をクッションマウンド上に引き倒して解体する際に構造物の倒壊による地盤への振動を緩和させることが可能な構造物の引き倒し方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明の構造物の引き倒し方法は、地上に立設された高層の構造物を引き倒して解体する方法であって、
前記構造物の倒壊範囲に、倒壊する前記構造物を受けるクッションマウンドを設置し、前記構造物の倒壊による地盤への振動を緩和させて前記構造物を引き倒す。また、前記構造物を前記クッションマウンドに衝突させて中折れさせ、更に前記地盤への衝撃力を緩和することもできる。
【0008】
本発明の構造物の引き倒し方法において、前記構造物が前記クッションマウンドに衝突する位置が、該構造物の重心位置より先端側で該重心位置と該構造物の先端との中心位置よりも重心側にあることが好ましい。
これによって、引き倒されてクッションマウンドに衝突した構造物の基部側が跳ね上がるのを防止できる。
【0009】
本発明の構造物の引き倒し方法において、前記構造物の倒壊範囲から所定距離離れた地点Aの振動の許容変位を設定し、前記クッションマウンドの位置、材質、高さ、及び有効底面積を決めて、前記構造物の倒壊時の前記地点Aでの振動を前記許容変位以下とすることができる。
【0010】
本発明の構造物の引き倒し方法において、前記クッションマウンドの底面を矩形とした場合、前記構造物が前記クッションマウンドに衝突したときに、該クッションマウンドの直下地盤に加わる最大衝撃力により該直下地盤に前記地点Aの前記許容変位の基になる許容衝撃変位を生じさせる該直下地盤のばね定数の値を前記地盤の振動伝播特性から算出すると共に、前記構造物の大きさ及び倒壊後の該構造物の解体方法を基にして前記クッションマウンドの底面の一辺の必要長さを設定し、前記クッションマウンドの有効底面積は、前記一辺の必要長さと、前記ばね定数の値及び該一辺の必要長さから求まる他辺の長さから決めることができる。
地点Aに許容変位を生じさせる直下地盤のばね定数を算出することから、クッションマウンドの力学的な条件を決定し、これに構造物の引き倒し及び解体を実際に実施する上で必要となる作業上及び施工上の条件を加味できるので、実用性の高いクッションマウンドを容易に構築することができる。
【0011】
本発明の構造物の引き倒し方法において、前記クッションマウンドと前記構造物の衝突では該クッションマウンドの上面の中心位置に前記最大衝撃力が加わり、該クッションマウンド中には該最大衝撃力による応力が該中心位置を頂点として予め設定される中心角を有する円錐領域内に有効に発生すると仮定して、前記直下地盤の表面に前記円錐領域が交差して形成される円が前記クッションマウンドの底面に含まれる最大直径の円になるときの該円錐領域の高さを、前記クッションマウンドの高さにすることが好ましい。
これによって、クッションマウンド中で有効に応力が発生している領域をクッションマウンドの底面で確実に支えることができ、クッションマウンドの崩壊を防止することができる。
【0012】
本発明の構造物の引き倒し方法において、前記クッションマウンドは、コンクリートガラを用いて構築される土台部と、該土台部の上部に砂を用いて構築される上部衝撃力吸収層とを有するようにすることができる。また、前記土台部の下部には発泡樹脂を有する下部衝撃力吸収層を設けてもよい。
構造物がクッションマウンドに衝突した際に、コンクリートガラには、ずれ、変形、及び破壊が生じるので、構造物の有する衝撃エネルギーを有効に減衰させることができる。また、上部及び下部衝撃力吸収層では、ずれや変形が容易に生じるため、構造物の有する衝撃エネルギーを更に有効に減衰させることができる。
【0013】
本発明の構造物の引き倒し方法において、前記構造物に、該構造物の倒壊時に該構造物内に生じる空気振動を外部に放散する空気振動放出孔を設けることが好ましい。
構造物に空気振動放出孔を形成することで構造物の変形性を大きくすることができ、衝突時の衝撃エネルギーを構造物の変形エネルギーに換えることができると共に、引き倒しの際の構造物の変形に伴って生じた構造物の内側に発生した空気振動を構造物の外部に容易に逃がすことができる。
【0014】
本発明の構造物の引き倒し方法において、前記構造物を引き倒す際に、該構造物を前記地盤に固定している固定部材は、該構造物が引き倒される側に設けられている一部を除いてその固定力を解除するのがよい。
引き倒しを行なう際に構造物が地盤上で滑るのが防止できる。また、構造物は引き倒される側に固定力を有して残された固定部材を破壊しながら徐々に傾斜しながら自然転倒開始状態になるので、自然転倒を開始する際の構造物の傾斜角度と初速を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜10記載の構造物の引き倒し方法においては、構造物の倒壊による地盤への振動を緩和させて構造物を引き倒すので、引き倒す構造物の周囲に他の構造物や各種設備及び装置が存在しても、これらに及ぼす影響を最小限にすることが可能になる。
【0016】
特に、請求項2記載の構造物の引き倒し方法においては、構造物を中折れさせるので、構造物の解体が容易になる。
【0017】
請求項3記載の構造物の引き倒し方法においては、引き倒されてクッションマウンドに衝突した構造物の基部側が跳ね上がるのを防止でき、地盤に副次的な振動が生じるのを防止することが可能になる。また、引き倒される構造物を受け止めた際に、クッションマウンドと衝突する位置より先側の領域に回転モーメントを発生させることができ、構造物の構造によっては、容易に中折れを起こさせることができる。
【0018】
請求項4記載の構造物の引き倒し方法においては、引き倒す構造物の周囲に存在する他の構造物や各種設備及び装置の中で最も影響を受けるものに対して振動の影響を最小限にすることが可能になる
【0019】
請求項5記載の構造物の引き倒し方法においては、クッションマウンドの力学的な設計条件に加えて、構造物の大きさ及び構造物の解体方法を基にクッションマウンドの底面の一辺の必要長さを設定するので、構造物をクッションマウンドに確実に衝突させることが可能になると共に、引き倒された構造物の解体作業を効率的に行なうことが可能になる。
【0020】
請求項6記載の構造物の引き倒し方法においては、構造物が衝突した際のクッションマウンドの崩壊を防止することができ、クッションマウンドの有効面積が減少するのを防止することが可能になる。
【0021】
請求項7及び8記載の構造物の引き倒し方法においては、構造物がクッションマウンドに衝突した際に構造物が有する衝撃エネルギーを有効に減衰させることができ、クッションマウンドを支える地盤に加わる衝撃力を小さくすることが可能になる。その結果、クッションマウンドから離れた地点での振動を容易に許容変位以下にすることが可能になる。
【0022】
請求項9記載の構造物の引き倒し方法においては、引き倒しの際の構造物の変形に伴って生じた空気振動が構造物の外部に容易に逃げるので、地盤の振動を更に小さくすることができる。
【0023】
請求項10記載の構造物の引き倒し方法においては、引き倒しを行なう際に構造物が地盤上で滑るのを防止するので、引き倒す方向に構造物を確実に転倒させることが可能になる。また、構造物が自然転倒を開始する傾斜角度と初速を小さくするので、転倒時の接地速度が減速され、転倒時の衝撃エネルギーを小さくすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る構造物の引き倒し方法の説明図、図2(A)、(B)はそれぞれ同構造物の引き倒し方法に使用するクッションマウンドの説明図、図3(A)、(B)はそれぞれ最大衝撃力が作用した際にクッションマウンド中に有効に応力が発生する領域を示す説明図である。
【0025】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る構造物の引き倒し方法は、地上に立設された高層の構造物の一例である化学設備の処理塔10を引き倒して解体する方法であって、処理塔10の倒壊範囲に、倒壊する処理塔10を受けるクッションマウンド12を設けて、処理塔10の倒壊による地盤13への振動を緩和させるものである。すなわち、処理塔10の倒壊範囲から所定距離離れた地点Aの振動の許容変位Uaを設定し、クッションマウンド12の位置、材質、高さ、及び有効底面積を決めて、処理塔10の倒壊時の地点Aでの振動を許容変位Ua以下になるようにしている。以下詳細に説明する。
【0026】
地点Aの振動の許容変位Uaとは、地点Aに設けられた機器等の動作に影響を与える加速度が作用するような振動の変位の1/10〜1/3、例えば、10〜100μmの値を指す。
クッションマウンド12は、処理塔10が引き倒された際に、処理塔10の重心位置Gより先端側で重心位置Gと処理塔10の先端との中心位置よりも重心側の位置、例えば、処理塔10の先端から重心側に処理塔10の高さの1/3の長さに相当する側部の位置がクッションマウンド12に当たるように設置する。これによって、処理塔10を引き倒してクッションマウンド12に衝突させた際に、クッションマウンド12に衝突した処理塔10の基部側が反動で跳ね上がって再度地盤13に衝突することによる副次的な振動が地盤13に生じるのを防止できる。更に、引き倒された処理塔10がクッションマウンド12に当った位置を支点に処理塔10の先側領域に回転モーメントを発生させることができ、処理塔10の構造によっては、容易に中折れを起こさせることができる。
【0027】
ここで、図2(A)に示すように、クッションマウンド12は、例えば、コンクリート構造物を解体したときに発生するコンクリートガラ14(寸法が5〜50cmの塊状の破砕物)を、例えば、底面が矩形状の四角錐台状となるように建設用重機を用いて積み上げて構築される土台部15と、土台部15の上部に連続して設けられ砂を用いて構築された四角錐台状の上部衝撃力吸収層16を有している。また、図2(B)に示すように、上部に上部衝撃力吸収層16を有しコンクリートガラ14で構築された土台部17の下部に発泡樹脂の一例である発泡ポリスチレンからなる下部衝撃力吸収層18を設けたクッションマウンド19を設置することもできる。
なお、上部衝撃力吸収層を設けず、下部衝撃力吸収層を備えた土台部のみでクッションマウンドを構成することもできる。更に、クッションマウンドを設置する場所の広さに制約が存在しない場合は、高いクッションマウンドを構築できるので、クッションマウンドをコンクリートガラを用いた土台部のみで構成することも可能である。
【0028】
また、クッションマウンド12の有効底面積は次のようにして決定する。
先ず、処理塔10がクッションマウンド12に衝突したときにクッションマウンド12の直下地盤に加わる最大衝撃力Fを求める。いま、処理塔10が、ある速度でクッションマウンド12に衝突し、衝撃作用時間t経過後にクッションマウンド12に最大衝撃力Fを与える共に停止すると仮定すると、クッションマウンド12には力積が作用したことになる。ここで、この力積は、処理塔10の衝突前後の運動量の差に等しくなると仮定し、更に、クッションマウンド12に加わる衝撃力は衝撃作用時間t内で時間に比例して増加するとすると仮定すると、力積はFt/2と求まる。なお、衝撃作用時間tは、構造物の重量や高さ、クッションマウンドの位置、及びクッションマウンドの材質により変化するが、例えば、以前に構造物をクッションマウンドに引き倒したときの状況を撮影したビデオ映像を解析することにより、0.1〜0.4秒の範囲に見積もることができる。
【0029】
処理塔10がクッションマウンド12に衝突し衝撃作用時間t経過した後に停止する場合、処理塔10の衝突前後の運動量の差は、処理塔10がクッションマウンド12に衝突する直前に有する運動量の値になる。ここで、処理塔10を外径が2dで高さがhの円柱状の剛体と仮定し、更に、処理塔10の引き倒される側の基端の1点を支点Pとして回転を起して倒壊すると仮定すると、処理塔10の慣性モーメントIは、処理塔10の質量をmとすると(1)式で表される。
I=m・(3d2+4h2)/12 ・・・・・(1)
そして、地盤13に垂直に立設していた処理塔10が引き倒されて傾斜し、支点Pの回りで自発的に回転を開始した場合、自発的に回転を開始してからの角度がθになったときの処理塔10の有する角速度ωは、(2)式で与えられる。
ω=[m・(h/2)・( 1−cosθ)/I]1/2 ・・・・・(2)
【0030】
処理塔10がクッションマウンド12に衝突する位置は、処理塔10の先端から重心側に処理塔10の高さの1/3の長さに相当する側部の位置、すなわち、処理塔10の基端から2h/3の長さに相当する側部の位置なので、処理塔10がクッションマウンド12に衝突する位置の速度は(2h/3)・ωとなるが、衝撃力が過少評価されるのを防止するため、例えば、処理塔10の先端の速度で代用する。従って、処理塔10がクッションマウンド12に衝突する際の速度vは、(3)式で与えられる。
v=hω・・・・・(3)
そして、処理塔10がクッションマウンド12に衝突する直前に有する運動量mvは、mhωとなり、Ft/2=mhωの関係から、最大衝撃力Fは(4)式で与えられる。
F=2mhω/t ・・・・・(4)
【0031】
次いで、地盤13の振動伝播特性と地点Aの許容変位Uaから、処理塔10がクッションマウンド12に衝突したときに、クッションマウンド12の直下地盤に生じる許容衝撃変位Ubを求める。
いま、クッションマウンド12の直下地盤に発生した変位U0の振動が周囲に拡がる場合、クッションマウンド12の直下地盤の表面の中心からr離れた地点での振動の変位Uは、一般的には(5)式で表される。
U=U0exp(−λr)r-n・・・・・(5)
ここで、λは伝播中の振動の減衰状態を示す係数で、qを振動が地盤内を伝播する際の内部減衰定数、fを振動の振動数、Vsを振動の伝播速度とした場合、(6)式で表される。
λ=2πqf/Vs ・・・・・(6)
【0032】
なお、nは振動が地盤中を実体波(縦波又は横波)又は表面波として伝わるときの減衰状態を示す定数で、振動が表面波として地盤を伝播する場合は1/2、振動が実体波として無限に広がる地盤中を伝播する場合は1、振動が実体波として半無限に広がる地盤の自由表面を伝播する場合は2となる。
一般に、クッションマウンド12の直下地盤の付近では振動は実体波が支配的となり、直下地盤から離れた場所では表面波が支配的となるので、振動が地盤13を伝播する際の伝播特性を調査することにより、地盤13に適したnを設定できる。
【0033】
従って、クッションマウンド12の直下地盤の表面の中心から地点Aまでの距離をr0とすると、(5)式を用いて許容変位Uaと許容衝撃変位Ubの間には、Ua=Ubexp(−λr0)r0-nの関係が成立することになり、許容衝撃変位Ubは(7)式で求められる。
b=Ua/[exp(−λr0)r0-n] ・・・・・(7)
また、クッションマウンド12の直下地盤が弾性体であるとすると、許容衝撃変位Ubは、直下地盤に最大衝撃力Fが作用した際の弾性変形と考えられ、直下地盤のばね定数をKZとすると、F=KZ・Ubの関係が成立するので、ばね定数KZは(8)式で求められる。
Z=F/Ub ・・・・・(8)
【0034】
ここで、クッションマウンド12の底面を矩形とした場合、クッションマウンド12を支持するクッションマウンド12の直下地盤の形状も矩形となる。そして、直下地盤に対して垂直方向に作用する衝撃力が、直下地盤を側面視して中心部で最大値となり周辺部で最小値となる放物線状の分布を有すると仮定すると、クッションマウンド12の直下地盤のばね定数KZは、直下地盤の短辺側及び長辺側の長さをそれぞれ2b、2c、地盤13のポアソン比及び密度をそれぞれν、ρとすると、(9)式で表される。
Z=3πbρVs2Z/[4(1−ν)] ・・・・・(9)
ここで、CZは直下地盤13の形状係数でc/bの関数となっている。
従って、(9)式より、クッションマウンド12の直下地盤の形状に関する部分、すなわち、bCZを求めると、bCZは(10)式で示されるようになる。
bCZ=4(1−ν)KZ/(3πρVs2) ・・・・・(10)
【0035】
そして、処理塔10の大きさ及び倒壊後の処理塔10の解体方法を考慮して、例えば、クッションマウンド12の底面の短辺(処理塔10の引き倒し方向に平行とする)の必要長さを設定すると、クッションマウンド12の底面に当接してクッションマウンド12を支える直下地盤の短辺側の長さは2bとなる。
また、(10)式からCZの値は一義的に求まるので、CZの値が決まると、CZを表す関数形に基づいてc/bの値κが求まり、c/b=κの関係から直下地盤の長辺側の長さ2cが決まり、クッションマウンド12の底面が直下地盤と当接していることから、クッションマウンド12の長辺の長さ2cが求まる。
その結果、クッションマウンド12の短辺長2bと長辺長2cの積から、クッションマウンド12の有効底面積が決まる。
【0036】
ここで、処理塔10が大きな場合は一般に重量も大きくクッションマウンドの高さ方向の変形量が大きくなるため、高いクッションマウンドを安定して構築するにはクッションマウンドの底面の短辺の長さを大きくする必要がある。また、処理塔10の引き倒す際には処理塔10の倒壊方向にずれが生じるので、倒壊方向のずれが大きいと考えられる場合は、処理塔10が確実にクッションマウンドに当たるように、処理塔10の引き倒し方向に直交するクッションマウンドの底面の長辺の長さを大きくする。そして、クッションマウンドの底面の長辺長さを大きくした場合、クッションマウンドが安定して構築できるように、クッションマウンドの底面の短辺長さも大きくする。更に、倒壊後の処理塔10を重機を用いて解体する場合、処理塔10に重機が近づくための斜路を設ける必要があり、この斜路の幅に応じてクッションマウンドの底面の短辺の長さを確保する必要がある。
【0037】
また、図3(A)、(B)に示すように、クッションマウンド12に処理塔10が衝突した場合、クッションマウンド12の上面の中心位置Cに最大衝撃力Fが加わり、クッションマウンド12中には最大衝撃力Fによる応力が中心位置Cを頂点として予め設定される中心角2αを有する円錐領域内に有効に発生すると仮定できる。ここで、2αは60〜90°の範囲の角度である。そして、中心位置Cを頂点とする円錐領域が地盤13の表面と交わって形成される円内の領域Sが、クッションマウンド12を介してクッションマウンド12の直下地盤上で応力が有効に発生する領域となる。
【0038】
図3(A)に示すように、領域Sがクッションマウンド12の底面内に含まれる場合は、円錐領域はクッションマウンド12内に含まれ、最大衝撃力Fが加わった際にクッションマウンド12が崩壊することはない。これに対して、図3(B)に示すように、領域Sが広くクッションマウンド20の底面内に含まれない場合は、円錐領域の一部はクッションマウンド20の外側に存在することになり、クッションマウンド20が崩壊する可能性が高くなる。なお、領域Sがクッションマウンドの底面内に含まれる場合でも、領域Sの面積が小さいとクッションマウンドの底面には局所的な応力が発生するようになり、クッションマウンドの直下地盤に発生する応力分布が不均一になって、例えば、(9)式を用いてばね定数KZを精度よく算出することが困難になる。
従って、クッションマウンドの直下地盤に発生する応力分布がより均一になるのは、クッションマウンドの底面内に含まれる領域Sの面積が最大、すなわち、図3(A)に示すように、クッションマウンド12の底面内に含まれる領域Sの直径が最大になる場合である。
【0039】
また、図3(A)に示すように、クッションマウンド12の底面は矩形で、その短辺の長さ2b、長辺の長さ2cが求まっているので、クッションマウンド12の底面内に含まれる領域Sの直径が最大になるのは、領域Sが対向する長辺にそれぞれ接する場合であり、そのときの直径は2bとなる。従って、クッションマウンド12の底面内に含まれる領域Sの面積が最大となる場合の円錐領域の高さLは、b/tan(α/2)と求まる。
ここで、クッションマウンド12は、底面の短辺の長さ2b及び長辺の長さ2cが決定されているので、高さLの円錐領域を含むように構築すればよく、必要最小限、すなわち、経済的なクッションマウンド12の高さは、円錐領域の高さLにすることとなる。そして、クッションマウンド12の設置位置、材質、高さ、及び有効底面積がそれぞれ決定されたことにより、クッションマウンド12を構築することができる。
【0040】
なお、処理塔10を引き倒す際には、処理塔10に1又は2以上の空気振動放出孔21を設けて、処理塔10の倒壊時に処理塔10内に生じる空気振動を外部に放散するようにする。処理塔10に空気振動放出孔21を形成することで、処理塔10としての剛性を小さくすることができ、クッションマウンド12に衝突した際の処理塔10の変形性を大きくすることができる。その結果、衝突時の衝撃エネルギーを変形エネルギーに換えることができ、最大衝撃力Fを小さくして、クッションマウンド直下地盤の変位を小さくできる。また、引き倒しの際の処理塔10の変形に伴って処理塔10の内側に発生した空気振動は空気振動放出孔21から処理塔10の外部に容易に逃げることができ、クッションマウンド12の直下地盤の変位を更に小さくできる。その結果、処理塔10の倒壊時の地点Aでの振動を容易に許容変位Ua以下にすることができる。
【0041】
更に、処理塔10を引き倒す際に、処理塔10を地盤13に固定している固定部材の一例であるアンカーボルトのうち処理塔10が引き倒される側に設けられている一部(例えば、2〜4本)を除いて切除して、処理塔10が地盤13に固定される固定力を弱めるようにする。これによって、引き倒しを行なう際に処理塔10が地盤13上で滑るのが防止できると共に、処理塔10は残されたアンカーボルトを破壊しながら徐々に傾斜しながら自然転倒開始状態になるので、自然転倒を開始する際の処理塔10の傾斜角度と引き倒しの初速を小さくすることができる。このため、クッションマウンド12に転倒したときの衝撃エネルギーを小さくすることが可能になる。その結果、処理塔10の倒壊時の地点Aでの振動を容易に許容変位Ua以下にすることができる。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
コンクリートガラを用いて、短辺の長さが8m、長辺の長さが12mの矩形状の底面と、短辺の長さが4m、長辺の長さが8mの矩形状の上面を有し高さが2mの四角錐台状の土台部からなるクッションマウンド1を地盤上に構築した。また、コンクリートガラを用いて短辺の長さが8m、長辺の長さが12mの矩形状の底面と、短辺の長さが6m、長辺の長さが10mの矩形状の上面を有し高さが1mの四角錐台状の土台部を形成し、その上に砂を用いて短辺の長さが6m、長辺の長さが10mの矩形状の底面と、短辺の長さが4m、長辺の長さが8mの矩形状の上面を有し高さが1mの四角錐台状の上部衝撃吸収層を形成したクッションマウンド2を地盤上に構築した。更に、発泡ポリスチレンのブロックを使用して短辺の長さが5m、長辺の長さが6m、高さが1mの下部衝撃吸収層を地盤上に構築し、下部衝撃吸収層を覆うようにコンクリートガラを用いて、短辺の長さが8m、長辺の長さが12mの矩形状の底面と、短辺の長さが4m、長辺の長さが8mの矩形状の上面を有し高さが2mの四角錐台状の土台部からなるクッションマウンド3を地盤上に構築した。
【0043】
そして、地盤より高さ7mの位置から各クッションマウンド上に重さ1トンの鉄球を落下させ、各クッションマウンドの土台部の底面中心(倒壊点)から長辺に直交する方向に所定距離離れた地盤表面の加速度を測定した。その結果を、図4に示す。
クッションマウンドの土台部の底面中心から4m離れた地点(クッションマウンドの端)の加速度は、クッションマウンド1では140ガル、クッションマウンド2では32.1ガル、クッションマウンド3では19.3ガルとなった。また、16m離れた地点の加速度は、クッションマウンド1では11.7ガル、クッションマウンド2では5.3ガル、クッションマウンド3では5.8ガル、32m離れた地点の加速度は、クッションマウンド1では8.1ガル、クッションマウンド2では2.3ガル、クッションマウンド3では4ガルであった。
従って、クッションマウンドの高さが一定の場合、砂を用いた上部衝撃吸収層を構築することで、衝撃力を有効に減衰できることが確認できた。更に、土台部の下部に下部衝撃吸収層を設けることでも、衝撃力を有効に減衰できることが判った。
【0044】
(実施例2)
直径が6.5m、高さが37m、重量が276トンの円筒形の反応塔を引き倒すときに、反応塔の基端から25mの長さに相当する側部の位置でクッションマウンドに当たり、このとき、クッションマウンドの底面の中心位置から65m離れた地点Aの許容変位Uaを、地点Aに8.6ガルの加速度が作用するような振動の変位となるようにクッションマウンドの設計を行なった。
先ず、地点Aの変位Uの時間変化は、一般的に、時間をt、振動の角速度をωとすると
U=U0exp[−qωt]sin[(1−ω21/2ωt]
で表すことができる、そして、加速度U”は上式を時間について2回微分すれば求まる。ここで、振動が地盤内を伝播する際の内部減衰定数qは0.05程度の値なので、加速度U”は、ω2Uと近似できる。従って、地点Aの許容変位Uaは0.0039cmとなる。
【0045】
そして、地点Aの許容変位Uaが決まると、クッションマウンドの底面の中心位置における許容衝撃変位Ubは、Ua/[exp(−λr0)r0-n]として算出でき、0.123cmとなる。また、許容衝撃変位Ubが決まるとクッションマウンドの底面の中心位置からr離れた場所での振動の変位Uは、Ubexp(−λr)r-nを用いて算出できる。
ここで、クッションマウンドの直下地盤では実体波が支配的で、岩盤までの深さが10m程度の場合、比較的早く表面波が現れることから、nの値は、例えば、クッションマウンドの底面の中心位置からの距離が2m以下では1、2mを超え5m以下では0.8、5mを超え10m以下では0.75、10mを超え15m以下では0.7、15mを超えると0.65と推定される。そして、各箇所での振動の変位Uが求まると、加速度U”は、ω2Uと近似できる。各場所での振動の加速度、すなわち設計加速度を、図5で■印で示す。
【0046】
一方、反応塔の先端がクッションマウンドに衝突する際の速度は24.8m/秒と求まり、衝撃作用時間を0.4秒と仮定すると、最大衝撃力Fは1746.5トンとなる。そして、1746.5トンの最大衝撃力Fがクッションマウンドの直下地盤に作用したときに変形量が0.123cmとなる直下地盤のばね定数KZの値は、12776.1トン/cmと求まる。また、底面が矩形状のクッションマウンドの短辺側の長さを、反応塔の大きさ及び倒壊後の解体方法を考慮して、例えば、5.8mと設定すると、地盤のポアソン比は0.35程度であるので、ばね定数KZの値から形状係数CZは2と求まる。その結果、クッションマウンドの長辺側の長さは12.8mとなる。
【0047】
ここで、クッションマウンドの上面の中心位置に1746.5トンの最大衝撃力Fが加わったときに、クッションマウンド中に発生する最大衝撃力Fにより有効に応力が発生する領域が、中心位置を頂点として中心角が120°となる円錐領域であるとすると、クッションマウンドの直下地盤にこの円錐領域が交差して形成される円形領域の中でクッションマウンドの底面に含まれる最大のものは、直径が5.8mの円形領域となる。そして、この円形領域が円錐領域の底面になるような円錐の高さは(5.8/2)・tan60°から5mと求まり、クッションマウンドの高さは5mとなる。
【0048】
以上のことから、反応塔を引き倒したときに、反応塔の基端から25mの長さに相当する側部の位置でクッションマウンドに当たるようにクッションマウンドの位置を決めて、コンクリートガラを用いて短辺の長さが5.8m、長辺の長さが12.8mの矩形状の底面と、短辺の長さが4m、長辺の長さが10mの矩形状の上面を有し高さが5mの四角錐台状の土台部を形成し、その上に砂を用いて短辺の長さが4m、長辺の長さが10mの矩形状の底面と、短辺の長さが2m、長辺の長さが8mの矩形状の上面を有し高さが3mの四角錐台状の上部衝撃吸収層を形成してクッションマウンドを構築した。
【0049】
次いで、反応塔を引き倒す前に、反応塔の基端側と先端側に空気振動放出孔をそれぞれ形成した。そして、反応塔を地盤に固定しているアンカーボルトのうち反応塔が引き倒される側に設けられている2本を除いて切除し、反応塔の地盤に対しての固定力を弱めてから、反応塔の先端に固定したワイヤーを介して反応塔を引き倒した。このとき、クッションマウンドの底面の中心位置と地点Aを結ぶ線分上で、クッションマウンドの底面の中心位置から20、43、及び65m離れた場所にそれぞれ加速度計を設置して振動の加速度を求めた。その結果を図5において▲印で示す。
クッションマウンドの底面の中心位置から20m離れた場所での加速度は44ガル、43m離れた場所での加速度は10ガル、65m離れた地点Aでの加速度は7.7ガルであった。各場所での振動の設計加速度と、実測値の間にはよい一致が認められ、地点Aでの加速度は7.7ガルとなって、地点の許容変位Ua(0.123cm)を発生させる加速度(8.6ガル)未満となり、反応塔の倒壊時の地点Aでの振動が許容変位Ua以下となることが確認できた。
【0050】
(実施例3)
直径が4.5m、高さが18.5m、重量が103.5トンの円筒形の反応塔を密閉した状態、及び反応塔の基端側と先端側に空気振動放出孔をそれぞれ形成した状態で、設置位置、材質、高さ、及び有効底面積を実質的に同一としたクッションマウンド上に引き倒し、そのときの地盤の振動の加速度を測定した。その結果を図6(A)、(B)に示す。
図6(A)に示すように、反応塔を密閉した状態で引き倒した場合、クッションマウンドの底面の中心位置から12、14m離れた場所での加速度は145ガル、19m離れた場所での加速度は40ガルであった。一方、図6(B)に示すように、反応塔に空気振動放出孔を形成した状態で引き倒した場合、クッションマウンドの底面の中心位置から12、14m離れた場所での加速度は40ガル、19m離れた場所での加速度は30ガルとなり、地盤の振動の加速度が小さくなることが確認できた。これによって、空気振動放出孔を形成することで、反応塔を引き倒す際の地盤の振動の変位を小さくできることが判った。
【0051】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の構造物の引き倒し方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、倒壊範囲から所定距離離れた地点の振動の許容変位を許容される加速度の大きさから設定したが、許容変位の値を直接設定することもできる。クッションマウンドの直下地盤の表面の中心からr離れた地点での振動の変位Uを、直下地盤に発生した変位をU0としてU=U0exp(−λr)r-nで求めたが、r離れた地点までに地盤の構造が変化する場合や地盤に不連続性が存在する場合は、地盤や境界面毎に振動伝播特性をそれぞれ当てはめて、r離れた地点での振動の変位Uを評価することができる。
また、実施例では、土台部の上部に砂を用いた上部衝撃吸収層を有するクッションマウンドを構築したが、上部衝撃吸収層を設けた土台部の下部に発泡ポリスチレンを有する下部衝撃吸収層を設けてもよい。これによって、地盤への衝撃力を更に緩和することができる。
更に、クッションマウンドを設計する際に、最大衝撃力を力積から評価したが、倒壊時に構造物が有する運動エネルギーの値から最大衝撃力を評価することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施の形態に係る構造物の引き倒し方法の説明図である。
【図2】(A)、(B)はそれぞれ同構造物の引き倒し方法に使用するクッションマウンドの説明図である。
【図3】(A)、(B)はそれぞれ最大衝撃力が作用した際にクッションマウンド中に有効に応力が発生する領域を示す説明図である。
【図4】実施例1におけるクッションマウンドの材質と衝撃力の減衰効果の関係を示すグラフである。
【図5】実施例2における地盤の振動の設計加速度と実測加速度の関係を示すグラフである。
【図6】(A)、(B)はそれぞれ実施例3における空気振動放出孔無し及び有りの地盤の振動変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
10:処理塔、12:クッションマウンド、13:地盤、14:コンクリートガラ、15:土台部、16:上部衝撃力吸収層、17:土台部、18:下部衝撃力吸収層、19、20:クッションマウンド、21:空気振動放出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上に立設された高層の構造物を引き倒して解体する方法であって、
前記構造物の倒壊範囲に、倒壊する前記構造物を受けるクッションマウンドを設置し、前記構造物の倒壊による地盤への振動を緩和させて前記構造物を引き倒すことを特徴とする構造物の引き倒し方法。
【請求項2】
請求項1記載の構造物の引き倒し方法において、前記構造物を前記クッションマウンドに衝突させて中折れさせ、更に前記地盤への衝撃力を緩和することを特徴とする構造物の引き倒し方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の構造物の引き倒し方法において、前記構造物が前記クッションマウンドに衝突する位置が、該構造物の重心位置より先端側で該重心位置と該構造物の先端との中心位置よりも重心側にあることを特徴とする構造物の引き倒し方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の構造物の引き倒し方法において、前記構造物の倒壊範囲から所定距離離れた地点Aの振動の許容変位を設定し、前記クッションマウンドの位置、材質、高さ、及び有効底面積を決めて、前記構造物の倒壊時の前記地点Aでの振動を前記許容変位以下としたことを特徴とする構造物の引き倒し方法。
【請求項5】
請求項4記載の構造物の引き倒し方法において、前記クッションマウンドの底面を矩形とした場合、前記構造物が前記クッションマウンドに衝突したときに、該クッションマウンドの直下地盤に加わる最大衝撃力により該直下地盤に前記地点Aの前記許容変位の基になる許容衝撃変位を生じさせる該直下地盤のばね定数の値を前記地盤の振動伝播特性から算出すると共に、前記構造物の大きさ及び倒壊後の該構造物の解体方法を基にして前記クッションマウンドの底面の一辺の必要長さを設定し、前記クッションマウンドの有効底面積を、前記一辺の必要長さと、前記ばね定数の値及び該一辺の必要長さから求まる他辺の長さから決めることを特徴とする構造物の引き倒し方法。
【請求項6】
請求項5記載の構造物の引き倒し方法において、前記クッションマウンドと前記構造物の衝突では該クッションマウンドの上面の中心位置に前記最大衝撃力が加わり、該クッションマウンド中には該最大衝撃力による応力が該中心位置を頂点として予め設定される中心角を有する円錐領域内に有効に発生すると仮定して、前記直下地盤の表面に前記円錐領域が交差して形成される円が前記クッションマウンドの底面に含まれる最大直径の円になるときの該円錐領域の高さを、前記クッションマウンドの高さにすることを特徴とする構造物の引き倒し方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の構造物の引き倒し方法において、前記クッションマウンドは、コンクリートガラを用いて構築される土台部と、該土台部の上部に砂を用いて構築される上部衝撃力吸収層とを有していることを特徴とする構造物の引き倒し方法。
【請求項8】
請求項7記載の構造物の引き倒し方法において、前記土台部の下部には発泡樹脂を有する下部衝撃力吸収層が設けられていることを特徴とする構造物の引き倒し方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の構造物の引き倒し方法において、前記構造物に、該構造物の倒壊時に該構造物内に生じる空気振動を外部に放散する空気振動放出孔を設けることを特徴とする構造物の引き倒し方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の構造物の引き倒し方法において、前記構造物を引き倒す際に、該構造物を前記地盤に固定している固定部材は、該構造物が引き倒される側に設けられている一部を除いてその固定力を解除することを特徴とする構造物の引き倒し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−169907(P2007−169907A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365186(P2005−365186)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】