構造物の欠陥評価方法
【課題】複数プローブ法を用いて電位差法計測を行う方法において、構造物または試験体の表面に存在するき裂がSCC等により微小な形状変化を示すような場合に対して、少ない個数のプローブで精度よくき裂形状変化を検出することを可能とする。
【解決手段】金属材料に直流電流を付与し、そのときに生じる金属材料の電位差を測定して、当該金属材料に生じるき裂の形状を予測する構造物の欠陥評価法であって、き裂幅を求める際に、き裂幅の中心を挟む二つの電位差比分布として設定し、それぞれの電位差比分布からき裂幅c1,c2を求め、両電位差比分布の対比に基づいて欠陥を評価する。
【解決手段】金属材料に直流電流を付与し、そのときに生じる金属材料の電位差を測定して、当該金属材料に生じるき裂の形状を予測する構造物の欠陥評価法であって、き裂幅を求める際に、き裂幅の中心を挟む二つの電位差比分布として設定し、それぞれの電位差比分布からき裂幅c1,c2を求め、両電位差比分布の対比に基づいて欠陥を評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子炉容器、例えば沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器の炉内構造物等に発生するき裂等の欠陥を評価する構造物の欠陥評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力プラント等の原子炉一次系水に接する原子炉圧力容器の炉内構造物や、原子炉一次系配管などの構造物においては、高温水という使用環境に晒されて応力腐食割れ(SCC)を発生する可能性がある。
【0003】
万一、原子炉圧力容器の炉内構造物や、原子炉一次系配管などの構造物にSCC等によるき裂が発生した場合には、その構造健全性を評価するために、き裂の進展寿命を精度良く計測し、寿命予測を行う必要がある。
【0004】
そこで、従来では使用環境を模擬した環境条件下において、破壊力学型試験片や配管形状の試験体を用いてき裂進展特性評価試験を実施し、対象材料のSCCによるき裂進展特性データを採取している。
【0005】
上記構造物にき裂が発生、進展する場合には、構造物表面に表面き裂の状態で形成されるため、このような形状のき裂が進展する際の形状変化を精度良く計測する必要がある。
【0006】
平板状試験体の表面き裂に対する電位差法によるき裂形状の簡易評価方法に関しては、電位差法による計測電位差から電位差比を求め、解析結果に基づいて別途作成したき裂長さと電位差比の関係を示すマスターカーブの関係からき裂深さ、き裂の表面長さを決定する方法(特許文献1参照)が提案されている。
【0007】
また、電位差比の分布からき裂長さを求め、き裂深さを決定する方法(特許文献2参照)、さらに、解析結果から応答曲面を作成して、電位差の測定結果と解析結果との差が最も小さいき裂長さと、き裂深さとの組合せを求める方法(特許文献3参照)等も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−300698号公報
【特許文献2】特公平7−6936号公報
【特許文献3】特開2008−20323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
構造物表面に発生するSCCによるき裂は一般的に半楕円形状であり、また、SCCによる進展では疲労などと異なり、き裂の進展量が少ない場合が多い。
【0010】
上述の従来技術では、試験体表面の半楕円形状のき裂が板厚方向に同様な形状で大きく変化していく状態に対する電位差法によるき裂形状検出方法が示されているものの、SCC進展のような微小な形状変化を精度良く計測する手段および方法については知られていない。
【0011】
また、電位差や電位差比の分布を得るためには、試験体に多数のプローブを取付けて測定を行う必要があった。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、複数プローブ法を用いる電位差法計測方法において、構造物または試験体の表面に存在するき裂がSCC等による微小な形状変化を示すような場合であっても、少ない個数のプローブの適用により、き裂形状変化を精度良く検出してき裂形状計測を行うことができる構造物の欠陥評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、金属材料に直流電流を付与し、そのときに生じる前記金属材料の電位差を測定して、当該金属材料に生じるき裂の形状を予測する構造物の欠陥評価方法であって、き裂が生じている金属材料表面の電位差の分布および電位分布解析結果から求めたデータベースに基づいてき裂の形状を予測し、同一金属材料の組合せで予め測定したき裂が無い場合の電位差で無次元化した電位差比の分布と電位分布解析結果から求めたデータベースとから、前記き裂の形状を予測し、前記電位差比を、き裂幅の中心位置を挟む電位差比による電位差比分布の最大値として、0から1まで変化する値として求め、その求める値と電位分布解析結果から求めたデータベースに基づいてき裂の形状を予測するとともに、0から1まで変化をする分布を求め、その分布と前記電位分布解析結果から作成したデータベースからき裂幅を求め、さらに求めたき裂幅と電位差比の最大値からき裂深さを求める構造物の欠陥評価方法において、前記き裂幅を求める際に、き裂幅の中心を挟む二つの電位差比分布として設定し、それぞれの電位差比分布からき裂幅を求め、前記両電位差比分布の対比に基づいて欠陥を評価することを特徴とする構造物の欠陥評価方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る構造物の欠陥評価方法によれば、複数プローブ法を用いて電位差法計測を行う方法において、構造物または試験体の表面に存在するき裂がSCC等により微小な形状変化を示すような場合に対して、少ない個数のプローブの適用により、き裂形状変化を精度良くかつ簡易に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態による構造物の欠陥評価方法のき裂形状予測時における手順を示すフローチャート。
【図2】図1に示したき裂形状予測時における電位差計測プローブ位置を説明するための模式図。
【図3】前記実施形態による欠陥評価時における電位差計測のための計測システムを示す構成図。
【図4】(a)は前記実施形態による欠陥評価方法の電位差計測時におけるき裂と同一表面での計測状態を示す模式図、(b)は(a)のA−A線断面図。
【図5】(a)は前記実施形態による欠陥評価方法の参照用電位差計測プローブを設置した場合の計測状態を示す模式図、(b)は(a)のB−B線断面図。
【図6】前記実施形態による欠陥評価方法の電位差計測における電位差分布を示す模式図。
【図7】前記実施形態による欠陥評価方法の電位差計測における電位差比分布を示す模式図。
【図8】前記実施形態による欠陥評価方法の電位差計測における中心から離れた位置の電位分布解析結果から求めたき裂幅cと、き裂中心からの距離が「c´」の位置のき裂幅cと、式[((V/V0)−1)/((V/V0)max−1)]との関係を電位解析により求めた結果を示す模式図。
【図9】前記実施形態による欠陥評価方法の説明図であり、電位差法計測におけるき裂中心A0からの距離がc´の位置cのき裂幅と、式[(V/V0)−1)/((V/V0)max−1)]の関係を電位分布解析結果から求めた模式図。
【図10】前記実施形態による欠陥評価方法の電位差法計測におけるき裂幅[c1,c2および2c(=c1+c2)]の導出結果例を示す図。
【図11】前記実施形態による欠陥評価方法の説明図であり、電位差法計測における電位分布解析結果から求めたき裂幅が式[caとcbの場合のV/V0)max]とき裂深さ(a)との関係を示す模式図。
【図12】前記実施形態による欠陥評価方法の説明図であり、電位差法計測におけるき裂幅(2c)とき裂深さ(a)の導出結果の例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る構造物の欠陥評価方法の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、構造物の欠陥評価方法のき裂形状予測時における手順を概略的に示すフローチャートである。
【0018】
この図1に示すように、本実施形態による欠陥評価方法では、欠陥評価の主要工程として、下記のステップS1〜S8により欠陥の評価を実施する。
【0019】
まず、初期段階において、構造物または試験体の表面にき裂がない場合の電位差(V0)の分布を測定しておく(S1)。
【0020】
次に、構造物または試験体の表面にき裂がある場合には、電位差(V)の分布を測定する(S2)。
【0021】
そして、き裂がない場合の電位差(V0)と、き裂がある場合の電位差(V)である電位差比(V/V0)の分布を導出し、無次元化する(S3)。
【0022】
点検時にき裂が発生しているか否かの判断について欠陥評価を実施する時点で金属材料に直流電流を付与し、そのときに生じる金属材料の電位差(V)を測定する。
【0023】
次に、き裂が生じている金属材料表面の電位差(V)の分布および電位分布解析を行って、その結果から求めたデータベースに基づいてき裂形状を予測する。そして、このき裂形状予測を行う場合に、同一金属材料の組合せで予め測定したき裂が無い場合の電位差(V0)で無次元化した電位差比(V/V0)の分布と、電位分布解析結果から求めたデータベースとから、き裂の形状を予測する。
【0024】
すなわち、き裂幅の中心位置A0を挟む電位差比を電位差比分布の最大値((V/V0)max)とし、前記電位差比(V/V0)を、0から1まで変化をする((V/V0)−1)/(((V/V0)max)−1)(以下、0から1の間で変化する整理電位差比という)として求め、その分布と電位分布解析結果から求めたデータベースからき裂の形状を導出する(S4)。
【0025】
そして、特定位置xのき裂幅cと((V/V0)−1)/(((V/V0)max)−1)の関係を解析で導出する近似式を作成しておく(S5)。
【0026】
また、0から1まで変化をする(((V/V0)−1)/(((V/V0)max)−1)の分布を求め、その分布と電位分布解析結果から作成したデータベースから、き裂幅cを導出する(S6)。
【0027】
さらに、き裂幅c、き裂深さaと(V/V0)maxの関係を解析で導出して、近似式を作成し(S7)、求めたき裂幅cと電位差比の最大値((V/V0)max)からき裂深さaを導出する(S8)。
【0028】
すなわち、前記全き裂幅(2c:c1+c2)を求める際に、前記き裂幅の中心A0を挟んで左右二つの電位差比分布として設定し、それぞれの電位差比分布から一方および他方の半き裂幅(c1)と(c2)を求める。
【0029】
このように、本実施形態では、金属材料に直流電流を付与し、そのときに生じる金属材料の電位差を測定して、この金属材料に生じるき裂の形状を予測する欠陥評価法であって、き裂が生じている金属材料表面の電位差(V)の分布および電位分布解析結果から求めたデータベースに基づいてき裂の形状を予測し、同一金属材料の組合せで予め測定したき裂が無い場合の電位差(V0)で無次元化した電位差比(V/V0)の分布と電位分布解析結果から求めたデータベースとから、き裂の形状を予測し、電位差比(V/V0)を、き裂幅の中心位置を挟む電位差比を電位差比分布の最大値(V/V0)maxとして、0から1まで変化をする((V/V0)−1)/(((V/V0)max)−1)として求め、その分布と電位分布解析結果から求めたデータベースからき裂の形状を予測するとともに、0から1まで変化をする((V/V0)−1)/(((V/V0)max)−1)の分布を求め、その分布と電位分布解析結果から作成したデータベースから全き裂幅(2c)を求める。さらに求めた全き裂幅(2c)と電位差比の最大値(V/V0)maxからき裂深さ(a)を求める構造物の欠陥評価方法において、全き裂幅(2c:c1+c2)を求める際に、き裂幅の中心A0を挟んで左右二つの電位差比分布を設定し、それぞれの電位差比分布から全き裂幅2c(c1+c2)を求めて欠陥を評価するものである。
【0030】
図2は、き裂形状および電位差計測プローブ位置を模式図として示す断面図である。
【0031】
この図2においては、き裂幅2cn、き裂深さanの半楕円形状をしている表面き裂1を有する板厚tの試験体2の板厚方向断面を示している。
【0032】
図2に示すように、試験体2には、この試験体2に発生している全き裂幅2cnの方向に沿って、電位差計測プローブA0〜A3およびA1´〜A3´を所定の間隔をあけて取付け、電位差E0〜E3およびE1´〜E3´を側定する。
【0033】
図3は、電位差を計測するために適用する計測システム3の一例を示す構成図である。
【0034】
図3に示すように、本実施形態の計測システム3は電位差計4、直流電源5、電流交番用スイッチ6およびデータ収集・制御装置7からなり、データ収集・制御装置7によって制御を行い、直流電源5からの直流電流を電流交番用スイッチ6で電流のプラスとマイナスとを入れ替え、電流印加線11により試験体2に直流電流を付与する。
【0035】
そして、直流電流を付与したときの電位差を、試験体2に存在する表面き裂1を挟むように配置した電位差計測用プローブ8と電位差計4とによって測定し、この測定した電位差データをデータ収集・制御装置7によりデータ収集する。
【0036】
データ収集・制御装置7には、電位差データからき裂の大きさを求めるプログラムが入力してある場合と入力していない場合とがある。プログラムが入力してある場合には、図3に示したデータ収集・制御装置7により、全き裂幅2cnおよびき裂深さanを求め、またプログラムの入力がない場合には、収集したデータを他の計算機等で処理し、全き裂幅2cnと、き裂深さanを求める。
【0037】
図4(a),(b)は本実施形態の電位差計測における、表面き裂1と同一表面での計測状態を示す説明図であり、図4(a)は試験体2を配置した状態を示す平面図であり、図4(b)は図4(a)のA−A線に沿う縦断面図である。
【0038】
図4(a),(b)に示すように、き裂面に配置した1対の電位差計測用プローブ8,8は表面き裂1を挟む配置としてあり、これらプローブ8,8の両側に配置したき裂面から同一の距離になるように複数個を設置する。
【0039】
また、電流印加プローブ10はき裂面からの距離が電位差計測用プローブ8よりも離れた位置に配置し、電流印加線11により試験体2に電流を付与する。
【0040】
図5(a),(b)は、本実施形態の電位差計測における、き裂がない場合の参照用電位差計測プローブ12を設置した場合の計測状態を示す模式図である。
【0041】
図5に示すように、き裂がない場所に参照用電位差計測プローブ12と電位差計測線9と参照用電流印加プローブ13と電流印加線11とを設置する。そして、き裂がない場合の参照用の電位差分布V0を求める。なお、測定環境の温度に関しては、少なくともき裂の電位差を測定する温度と同一とする。
【0042】
また、参照用電位差計測プローブ12と参照用電流印加プローブ13の距離と間隔は、電位差計測用プローブ8と電流印加プローブ10の距離、間隔と同じになるように配置する。
【0043】
次に電位差データの処理方法について説明する。
【0044】
図6は、欠陥評価方法の電位差計測における電位差分布を示す模式図である。
【0045】
この図6には、上述した計測システムとプローブとによる電位差の測定結果を示しており、き裂中心からの距離に対する電位差分布の模式図として示している。
【0046】
図6において、符号V0は参照用電位差計測プローブ12で測定したき裂がない場合の電位差分布曲線であり、符号V1,V2およびV3は、電位差計測プローブ8で計測したき裂がある場合の電位差分布曲線である。
【0047】
この図6に示すように、試験体2にき裂がない場合の電位差分布(曲線)V0については、試験体への通電に対して特に障害等が生じることがなく、通電される通電範囲(面積)が広い状態となっており、通電電流に対する抵抗値は小さい値に留まるため、通電時に供給される電流の電位差Vは低い。
【0048】
一方、試験体2にき裂がある場合の電位差分布(曲線)V1、V2およびV3については、試験体2への通電時に、き裂部分において通電範囲(面積)がき裂の形状や深さに伴って狭くなるため狭い通電(面積)範囲での通電となり、通電時における電気抵抗等が拡大することによって電位差Vが高くなる。
【0049】
図7は、き裂がない場合の電位差分布(曲線)V0とき裂がある場合の電位差分布(曲線)V(V1,V2,V3)の電位差比V/V0の分布を無次元化して示す図である。この図7に示すように、電位差を測定した時期の順番はV1、V2およびV3であり、き裂の大きさはV1が最も小さく、V3が最も大きい。
【0050】
なお、き裂がない場合の電圧V0を測定することにより、図7に示すように、き裂が発生した場合におけるそれぞれの電位差V1、V2およびV3をき裂のない場合の電圧V0で除して、無時限化することで、材料の電気抵抗が不明な場合にも測定が可能になる。
【0051】
図8は、図7に示した無次元化した電位差比V/V0の分布(無次元化電位差比分布)を、電位差比が最大値を示しているき裂幅中心A0の値を1として、「0」と「1」との間で分布するように整理した(整理電位差比)分布である。
【0052】
図7に示すように、無次元化した電位差比分布の場合には、無次元化電位差比[V1/V0,V2/V0,V3/V0]として示したように、分布形状および値が、き裂形状の大きさであるき裂幅とき裂深さとの違いの影響を受けることが分る。これに対し、図8に示したように「0」と「1」の間で分布するV1〜V3について整理すると、整理電位差比分布に対するき裂深さの影響が小さくなり、き裂幅に依存する分布となる。
【0053】
すなわち、種々の形状の電位解析をして、図8に示したようにデータを整理した結果、き裂深さが異なっても、き裂の幅が同じであれば、同じ電位差比分布になるという解析結果が得られた。この結果から、図8のように整理すれば、整理電位差比分布はき裂の幅だけで変わってくるので、図8に基いてき裂の幅を求めることができる。
【0054】
さらに、図9は、電位計測におけるき裂中心位置A0から左方にc´離れた位置cの電位差分布結果から求めた左方のき裂幅cnと、((V/V0)−1)/((V/V0)max−1)分布を示す模式図である。
【0055】
この図9には、き裂中心A0からの距離が「c´」の位置cのき裂幅cnと、下記の式(1)の関係を電位解析から求めた結果を示している。
((V/V0)−1)/((V/V0)max−1) ……(1)
【0056】
なお、図8に示した分布形状については、き裂中心A0に対して左右対称ではないため、き裂中心A0からの距離が「c´」であるき裂中心A0から例えば左側3つ目のcの値と、図9に示した分布形状から、き裂幅cnを求めた。
【0057】
図10は、欠陥評価方法の電位差法計測における全き裂幅2c(c1+c2)の導出結果例を示している。
【0058】
この図10には、図8左部に示した分布から求めた単き裂幅c1と、図8の右部に示した分布から求めた単き裂幅c2と、これら2つの和である全き裂幅2c(c1+c2)の時間変化を示している。
【0059】
次に、このような単き裂幅c1,c2に基づいて、全き裂幅2cの半分ca,cbと下記の式(2)からき裂深さaを求める。
V/V0max ……(2)
【0060】
図11は、全き裂幅の半分がcaおよびcbである場合における、V/V0maxと、き裂深さaとの関係を示す図であり、電位解析結果から求めた図である。
【0061】
この図11に示したように、図10に対応する上記の式(2)で求めた全き裂幅2cの半分がcaとcbとの間の値である場合には、上記の式「V/V0max」の値から、全き裂幅の半分caおよびcbに値するき裂深さaを求めて、「ca」、「cb」に対するき裂深さの値と、全き裂幅2cの半分ca,cbの値から内挿によりき裂深さを求める。
【0062】
図12は、上述した予測方法で測定時期に対するき裂寸法(全き裂幅2cとき裂深さa)の変化を示している。
【0063】
この図12に示すように、本実施形態では今回求めた試験体の実際のき裂寸法(き裂のの大きさ)を試験体の断面観察結果から求めており、実際のき裂の大きさで補正を行った。
【0064】
以上のように、本実施形態の欠陥評価方法によれば、複数プローブ法を用いて電位差法計測を行う方法において、構造物または試験体の表面に存在するき裂がSCC等により微小な形状変化を示すような場合に対して、少ない個数のプローブで精度良く、かつ簡易にき裂形状変化を検出することが可能となる。
【0065】
なお、本発明は沸騰水型原子炉以外の型式の原子炉容器内の構造物等に発生するき裂等の欠陥を評価する欠陥評価方法についても適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…表面き裂、2…試験体、2c…き裂幅、3…計測システム、4…電位差計、5…直流電源、6…電流交番用スイッチ、7…データ収集・制御装置、8…電位差計測用プローブ、9…電位差計測線、10…電流印加プローブ、11…電流印加線、12…参照用電位差計測プローブ、13…参照用電流印加プローブ。
【技術分野】
【0001】
本発明は原子炉容器、例えば沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器の炉内構造物等に発生するき裂等の欠陥を評価する構造物の欠陥評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力プラント等の原子炉一次系水に接する原子炉圧力容器の炉内構造物や、原子炉一次系配管などの構造物においては、高温水という使用環境に晒されて応力腐食割れ(SCC)を発生する可能性がある。
【0003】
万一、原子炉圧力容器の炉内構造物や、原子炉一次系配管などの構造物にSCC等によるき裂が発生した場合には、その構造健全性を評価するために、き裂の進展寿命を精度良く計測し、寿命予測を行う必要がある。
【0004】
そこで、従来では使用環境を模擬した環境条件下において、破壊力学型試験片や配管形状の試験体を用いてき裂進展特性評価試験を実施し、対象材料のSCCによるき裂進展特性データを採取している。
【0005】
上記構造物にき裂が発生、進展する場合には、構造物表面に表面き裂の状態で形成されるため、このような形状のき裂が進展する際の形状変化を精度良く計測する必要がある。
【0006】
平板状試験体の表面き裂に対する電位差法によるき裂形状の簡易評価方法に関しては、電位差法による計測電位差から電位差比を求め、解析結果に基づいて別途作成したき裂長さと電位差比の関係を示すマスターカーブの関係からき裂深さ、き裂の表面長さを決定する方法(特許文献1参照)が提案されている。
【0007】
また、電位差比の分布からき裂長さを求め、き裂深さを決定する方法(特許文献2参照)、さらに、解析結果から応答曲面を作成して、電位差の測定結果と解析結果との差が最も小さいき裂長さと、き裂深さとの組合せを求める方法(特許文献3参照)等も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−300698号公報
【特許文献2】特公平7−6936号公報
【特許文献3】特開2008−20323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
構造物表面に発生するSCCによるき裂は一般的に半楕円形状であり、また、SCCによる進展では疲労などと異なり、き裂の進展量が少ない場合が多い。
【0010】
上述の従来技術では、試験体表面の半楕円形状のき裂が板厚方向に同様な形状で大きく変化していく状態に対する電位差法によるき裂形状検出方法が示されているものの、SCC進展のような微小な形状変化を精度良く計測する手段および方法については知られていない。
【0011】
また、電位差や電位差比の分布を得るためには、試験体に多数のプローブを取付けて測定を行う必要があった。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、複数プローブ法を用いる電位差法計測方法において、構造物または試験体の表面に存在するき裂がSCC等による微小な形状変化を示すような場合であっても、少ない個数のプローブの適用により、き裂形状変化を精度良く検出してき裂形状計測を行うことができる構造物の欠陥評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、金属材料に直流電流を付与し、そのときに生じる前記金属材料の電位差を測定して、当該金属材料に生じるき裂の形状を予測する構造物の欠陥評価方法であって、き裂が生じている金属材料表面の電位差の分布および電位分布解析結果から求めたデータベースに基づいてき裂の形状を予測し、同一金属材料の組合せで予め測定したき裂が無い場合の電位差で無次元化した電位差比の分布と電位分布解析結果から求めたデータベースとから、前記き裂の形状を予測し、前記電位差比を、き裂幅の中心位置を挟む電位差比による電位差比分布の最大値として、0から1まで変化する値として求め、その求める値と電位分布解析結果から求めたデータベースに基づいてき裂の形状を予測するとともに、0から1まで変化をする分布を求め、その分布と前記電位分布解析結果から作成したデータベースからき裂幅を求め、さらに求めたき裂幅と電位差比の最大値からき裂深さを求める構造物の欠陥評価方法において、前記き裂幅を求める際に、き裂幅の中心を挟む二つの電位差比分布として設定し、それぞれの電位差比分布からき裂幅を求め、前記両電位差比分布の対比に基づいて欠陥を評価することを特徴とする構造物の欠陥評価方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る構造物の欠陥評価方法によれば、複数プローブ法を用いて電位差法計測を行う方法において、構造物または試験体の表面に存在するき裂がSCC等により微小な形状変化を示すような場合に対して、少ない個数のプローブの適用により、き裂形状変化を精度良くかつ簡易に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態による構造物の欠陥評価方法のき裂形状予測時における手順を示すフローチャート。
【図2】図1に示したき裂形状予測時における電位差計測プローブ位置を説明するための模式図。
【図3】前記実施形態による欠陥評価時における電位差計測のための計測システムを示す構成図。
【図4】(a)は前記実施形態による欠陥評価方法の電位差計測時におけるき裂と同一表面での計測状態を示す模式図、(b)は(a)のA−A線断面図。
【図5】(a)は前記実施形態による欠陥評価方法の参照用電位差計測プローブを設置した場合の計測状態を示す模式図、(b)は(a)のB−B線断面図。
【図6】前記実施形態による欠陥評価方法の電位差計測における電位差分布を示す模式図。
【図7】前記実施形態による欠陥評価方法の電位差計測における電位差比分布を示す模式図。
【図8】前記実施形態による欠陥評価方法の電位差計測における中心から離れた位置の電位分布解析結果から求めたき裂幅cと、き裂中心からの距離が「c´」の位置のき裂幅cと、式[((V/V0)−1)/((V/V0)max−1)]との関係を電位解析により求めた結果を示す模式図。
【図9】前記実施形態による欠陥評価方法の説明図であり、電位差法計測におけるき裂中心A0からの距離がc´の位置cのき裂幅と、式[(V/V0)−1)/((V/V0)max−1)]の関係を電位分布解析結果から求めた模式図。
【図10】前記実施形態による欠陥評価方法の電位差法計測におけるき裂幅[c1,c2および2c(=c1+c2)]の導出結果例を示す図。
【図11】前記実施形態による欠陥評価方法の説明図であり、電位差法計測における電位分布解析結果から求めたき裂幅が式[caとcbの場合のV/V0)max]とき裂深さ(a)との関係を示す模式図。
【図12】前記実施形態による欠陥評価方法の説明図であり、電位差法計測におけるき裂幅(2c)とき裂深さ(a)の導出結果の例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る構造物の欠陥評価方法の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、構造物の欠陥評価方法のき裂形状予測時における手順を概略的に示すフローチャートである。
【0018】
この図1に示すように、本実施形態による欠陥評価方法では、欠陥評価の主要工程として、下記のステップS1〜S8により欠陥の評価を実施する。
【0019】
まず、初期段階において、構造物または試験体の表面にき裂がない場合の電位差(V0)の分布を測定しておく(S1)。
【0020】
次に、構造物または試験体の表面にき裂がある場合には、電位差(V)の分布を測定する(S2)。
【0021】
そして、き裂がない場合の電位差(V0)と、き裂がある場合の電位差(V)である電位差比(V/V0)の分布を導出し、無次元化する(S3)。
【0022】
点検時にき裂が発生しているか否かの判断について欠陥評価を実施する時点で金属材料に直流電流を付与し、そのときに生じる金属材料の電位差(V)を測定する。
【0023】
次に、き裂が生じている金属材料表面の電位差(V)の分布および電位分布解析を行って、その結果から求めたデータベースに基づいてき裂形状を予測する。そして、このき裂形状予測を行う場合に、同一金属材料の組合せで予め測定したき裂が無い場合の電位差(V0)で無次元化した電位差比(V/V0)の分布と、電位分布解析結果から求めたデータベースとから、き裂の形状を予測する。
【0024】
すなわち、き裂幅の中心位置A0を挟む電位差比を電位差比分布の最大値((V/V0)max)とし、前記電位差比(V/V0)を、0から1まで変化をする((V/V0)−1)/(((V/V0)max)−1)(以下、0から1の間で変化する整理電位差比という)として求め、その分布と電位分布解析結果から求めたデータベースからき裂の形状を導出する(S4)。
【0025】
そして、特定位置xのき裂幅cと((V/V0)−1)/(((V/V0)max)−1)の関係を解析で導出する近似式を作成しておく(S5)。
【0026】
また、0から1まで変化をする(((V/V0)−1)/(((V/V0)max)−1)の分布を求め、その分布と電位分布解析結果から作成したデータベースから、き裂幅cを導出する(S6)。
【0027】
さらに、き裂幅c、き裂深さaと(V/V0)maxの関係を解析で導出して、近似式を作成し(S7)、求めたき裂幅cと電位差比の最大値((V/V0)max)からき裂深さaを導出する(S8)。
【0028】
すなわち、前記全き裂幅(2c:c1+c2)を求める際に、前記き裂幅の中心A0を挟んで左右二つの電位差比分布として設定し、それぞれの電位差比分布から一方および他方の半き裂幅(c1)と(c2)を求める。
【0029】
このように、本実施形態では、金属材料に直流電流を付与し、そのときに生じる金属材料の電位差を測定して、この金属材料に生じるき裂の形状を予測する欠陥評価法であって、き裂が生じている金属材料表面の電位差(V)の分布および電位分布解析結果から求めたデータベースに基づいてき裂の形状を予測し、同一金属材料の組合せで予め測定したき裂が無い場合の電位差(V0)で無次元化した電位差比(V/V0)の分布と電位分布解析結果から求めたデータベースとから、き裂の形状を予測し、電位差比(V/V0)を、き裂幅の中心位置を挟む電位差比を電位差比分布の最大値(V/V0)maxとして、0から1まで変化をする((V/V0)−1)/(((V/V0)max)−1)として求め、その分布と電位分布解析結果から求めたデータベースからき裂の形状を予測するとともに、0から1まで変化をする((V/V0)−1)/(((V/V0)max)−1)の分布を求め、その分布と電位分布解析結果から作成したデータベースから全き裂幅(2c)を求める。さらに求めた全き裂幅(2c)と電位差比の最大値(V/V0)maxからき裂深さ(a)を求める構造物の欠陥評価方法において、全き裂幅(2c:c1+c2)を求める際に、き裂幅の中心A0を挟んで左右二つの電位差比分布を設定し、それぞれの電位差比分布から全き裂幅2c(c1+c2)を求めて欠陥を評価するものである。
【0030】
図2は、き裂形状および電位差計測プローブ位置を模式図として示す断面図である。
【0031】
この図2においては、き裂幅2cn、き裂深さanの半楕円形状をしている表面き裂1を有する板厚tの試験体2の板厚方向断面を示している。
【0032】
図2に示すように、試験体2には、この試験体2に発生している全き裂幅2cnの方向に沿って、電位差計測プローブA0〜A3およびA1´〜A3´を所定の間隔をあけて取付け、電位差E0〜E3およびE1´〜E3´を側定する。
【0033】
図3は、電位差を計測するために適用する計測システム3の一例を示す構成図である。
【0034】
図3に示すように、本実施形態の計測システム3は電位差計4、直流電源5、電流交番用スイッチ6およびデータ収集・制御装置7からなり、データ収集・制御装置7によって制御を行い、直流電源5からの直流電流を電流交番用スイッチ6で電流のプラスとマイナスとを入れ替え、電流印加線11により試験体2に直流電流を付与する。
【0035】
そして、直流電流を付与したときの電位差を、試験体2に存在する表面き裂1を挟むように配置した電位差計測用プローブ8と電位差計4とによって測定し、この測定した電位差データをデータ収集・制御装置7によりデータ収集する。
【0036】
データ収集・制御装置7には、電位差データからき裂の大きさを求めるプログラムが入力してある場合と入力していない場合とがある。プログラムが入力してある場合には、図3に示したデータ収集・制御装置7により、全き裂幅2cnおよびき裂深さanを求め、またプログラムの入力がない場合には、収集したデータを他の計算機等で処理し、全き裂幅2cnと、き裂深さanを求める。
【0037】
図4(a),(b)は本実施形態の電位差計測における、表面き裂1と同一表面での計測状態を示す説明図であり、図4(a)は試験体2を配置した状態を示す平面図であり、図4(b)は図4(a)のA−A線に沿う縦断面図である。
【0038】
図4(a),(b)に示すように、き裂面に配置した1対の電位差計測用プローブ8,8は表面き裂1を挟む配置としてあり、これらプローブ8,8の両側に配置したき裂面から同一の距離になるように複数個を設置する。
【0039】
また、電流印加プローブ10はき裂面からの距離が電位差計測用プローブ8よりも離れた位置に配置し、電流印加線11により試験体2に電流を付与する。
【0040】
図5(a),(b)は、本実施形態の電位差計測における、き裂がない場合の参照用電位差計測プローブ12を設置した場合の計測状態を示す模式図である。
【0041】
図5に示すように、き裂がない場所に参照用電位差計測プローブ12と電位差計測線9と参照用電流印加プローブ13と電流印加線11とを設置する。そして、き裂がない場合の参照用の電位差分布V0を求める。なお、測定環境の温度に関しては、少なくともき裂の電位差を測定する温度と同一とする。
【0042】
また、参照用電位差計測プローブ12と参照用電流印加プローブ13の距離と間隔は、電位差計測用プローブ8と電流印加プローブ10の距離、間隔と同じになるように配置する。
【0043】
次に電位差データの処理方法について説明する。
【0044】
図6は、欠陥評価方法の電位差計測における電位差分布を示す模式図である。
【0045】
この図6には、上述した計測システムとプローブとによる電位差の測定結果を示しており、き裂中心からの距離に対する電位差分布の模式図として示している。
【0046】
図6において、符号V0は参照用電位差計測プローブ12で測定したき裂がない場合の電位差分布曲線であり、符号V1,V2およびV3は、電位差計測プローブ8で計測したき裂がある場合の電位差分布曲線である。
【0047】
この図6に示すように、試験体2にき裂がない場合の電位差分布(曲線)V0については、試験体への通電に対して特に障害等が生じることがなく、通電される通電範囲(面積)が広い状態となっており、通電電流に対する抵抗値は小さい値に留まるため、通電時に供給される電流の電位差Vは低い。
【0048】
一方、試験体2にき裂がある場合の電位差分布(曲線)V1、V2およびV3については、試験体2への通電時に、き裂部分において通電範囲(面積)がき裂の形状や深さに伴って狭くなるため狭い通電(面積)範囲での通電となり、通電時における電気抵抗等が拡大することによって電位差Vが高くなる。
【0049】
図7は、き裂がない場合の電位差分布(曲線)V0とき裂がある場合の電位差分布(曲線)V(V1,V2,V3)の電位差比V/V0の分布を無次元化して示す図である。この図7に示すように、電位差を測定した時期の順番はV1、V2およびV3であり、き裂の大きさはV1が最も小さく、V3が最も大きい。
【0050】
なお、き裂がない場合の電圧V0を測定することにより、図7に示すように、き裂が発生した場合におけるそれぞれの電位差V1、V2およびV3をき裂のない場合の電圧V0で除して、無時限化することで、材料の電気抵抗が不明な場合にも測定が可能になる。
【0051】
図8は、図7に示した無次元化した電位差比V/V0の分布(無次元化電位差比分布)を、電位差比が最大値を示しているき裂幅中心A0の値を1として、「0」と「1」との間で分布するように整理した(整理電位差比)分布である。
【0052】
図7に示すように、無次元化した電位差比分布の場合には、無次元化電位差比[V1/V0,V2/V0,V3/V0]として示したように、分布形状および値が、き裂形状の大きさであるき裂幅とき裂深さとの違いの影響を受けることが分る。これに対し、図8に示したように「0」と「1」の間で分布するV1〜V3について整理すると、整理電位差比分布に対するき裂深さの影響が小さくなり、き裂幅に依存する分布となる。
【0053】
すなわち、種々の形状の電位解析をして、図8に示したようにデータを整理した結果、き裂深さが異なっても、き裂の幅が同じであれば、同じ電位差比分布になるという解析結果が得られた。この結果から、図8のように整理すれば、整理電位差比分布はき裂の幅だけで変わってくるので、図8に基いてき裂の幅を求めることができる。
【0054】
さらに、図9は、電位計測におけるき裂中心位置A0から左方にc´離れた位置cの電位差分布結果から求めた左方のき裂幅cnと、((V/V0)−1)/((V/V0)max−1)分布を示す模式図である。
【0055】
この図9には、き裂中心A0からの距離が「c´」の位置cのき裂幅cnと、下記の式(1)の関係を電位解析から求めた結果を示している。
((V/V0)−1)/((V/V0)max−1) ……(1)
【0056】
なお、図8に示した分布形状については、き裂中心A0に対して左右対称ではないため、き裂中心A0からの距離が「c´」であるき裂中心A0から例えば左側3つ目のcの値と、図9に示した分布形状から、き裂幅cnを求めた。
【0057】
図10は、欠陥評価方法の電位差法計測における全き裂幅2c(c1+c2)の導出結果例を示している。
【0058】
この図10には、図8左部に示した分布から求めた単き裂幅c1と、図8の右部に示した分布から求めた単き裂幅c2と、これら2つの和である全き裂幅2c(c1+c2)の時間変化を示している。
【0059】
次に、このような単き裂幅c1,c2に基づいて、全き裂幅2cの半分ca,cbと下記の式(2)からき裂深さaを求める。
V/V0max ……(2)
【0060】
図11は、全き裂幅の半分がcaおよびcbである場合における、V/V0maxと、き裂深さaとの関係を示す図であり、電位解析結果から求めた図である。
【0061】
この図11に示したように、図10に対応する上記の式(2)で求めた全き裂幅2cの半分がcaとcbとの間の値である場合には、上記の式「V/V0max」の値から、全き裂幅の半分caおよびcbに値するき裂深さaを求めて、「ca」、「cb」に対するき裂深さの値と、全き裂幅2cの半分ca,cbの値から内挿によりき裂深さを求める。
【0062】
図12は、上述した予測方法で測定時期に対するき裂寸法(全き裂幅2cとき裂深さa)の変化を示している。
【0063】
この図12に示すように、本実施形態では今回求めた試験体の実際のき裂寸法(き裂のの大きさ)を試験体の断面観察結果から求めており、実際のき裂の大きさで補正を行った。
【0064】
以上のように、本実施形態の欠陥評価方法によれば、複数プローブ法を用いて電位差法計測を行う方法において、構造物または試験体の表面に存在するき裂がSCC等により微小な形状変化を示すような場合に対して、少ない個数のプローブで精度良く、かつ簡易にき裂形状変化を検出することが可能となる。
【0065】
なお、本発明は沸騰水型原子炉以外の型式の原子炉容器内の構造物等に発生するき裂等の欠陥を評価する欠陥評価方法についても適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…表面き裂、2…試験体、2c…き裂幅、3…計測システム、4…電位差計、5…直流電源、6…電流交番用スイッチ、7…データ収集・制御装置、8…電位差計測用プローブ、9…電位差計測線、10…電流印加プローブ、11…電流印加線、12…参照用電位差計測プローブ、13…参照用電流印加プローブ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料に直流電流を付与し、そのときに生じる前記金属材料の電位差を測定して、当該金属材料に生じるき裂の形状を予測する構造物の欠陥評価法であって、
き裂が生じている金属材料表面の電位差の分布および電位分布解析結果から求めたデータベースに基づいてき裂の形状を予測し、同一金属材料の組合せで予め測定したき裂が無い場合の電位差で無次元化した電位差比の分布と電位分布解析結果から求めたデータベースとから、前記き裂の形状を予測し、前記電位差比を、き裂幅の中心位置を挟む電位差比による電位差比分布の最大値として、0から1まで変化する値として求め、その値と電位分布解析結果から求めたデータベースに基づいてき裂の形状を予測するとともに、0から1まで変化をする分布を求め、その分布と前記電位分布解析結果から作成したデータベースからき裂幅を求め、さらに求めたき裂幅と電位差比の最大値からき裂深さを求める欠陥評価方法において、
前記き裂幅を求める際に、き裂幅の中心を挟む二つの電位差比分布として設定し、それぞれの電位差比分布からき裂幅を求め、前記両電位差比分布の対比に基づいて欠陥を評価することを特徴とする構造物の欠陥評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の欠陥評価方法において、き裂幅を求める際に、予め電位分布解析から求めた特定位置の電位差分布と、き裂幅との関係から当該き裂分布を求める構造物の欠陥評価方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の欠陥評価方法において、き裂形状の予測を時間の経過と共に求める際に、き裂幅またはき裂深さの予測結果が直前の時間の予測結果より小さく予測された場合に、直前の時間の予測結果と同じ値に前記金属材料のき裂形状を設定する構造物の欠陥評価方法。
【請求項4】
請求項3記載の欠陥評価方法において、予測したき裂深さが直前の時間の予測結果より小さい場合に、き裂深さを直前の時間と同じ値に置き換えて、そのき裂深さと電位差比の最大値からき裂幅を再度予測することを特徴とする構造物の欠陥評価方法。
【請求項1】
金属材料に直流電流を付与し、そのときに生じる前記金属材料の電位差を測定して、当該金属材料に生じるき裂の形状を予測する構造物の欠陥評価法であって、
き裂が生じている金属材料表面の電位差の分布および電位分布解析結果から求めたデータベースに基づいてき裂の形状を予測し、同一金属材料の組合せで予め測定したき裂が無い場合の電位差で無次元化した電位差比の分布と電位分布解析結果から求めたデータベースとから、前記き裂の形状を予測し、前記電位差比を、き裂幅の中心位置を挟む電位差比による電位差比分布の最大値として、0から1まで変化する値として求め、その値と電位分布解析結果から求めたデータベースに基づいてき裂の形状を予測するとともに、0から1まで変化をする分布を求め、その分布と前記電位分布解析結果から作成したデータベースからき裂幅を求め、さらに求めたき裂幅と電位差比の最大値からき裂深さを求める欠陥評価方法において、
前記き裂幅を求める際に、き裂幅の中心を挟む二つの電位差比分布として設定し、それぞれの電位差比分布からき裂幅を求め、前記両電位差比分布の対比に基づいて欠陥を評価することを特徴とする構造物の欠陥評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の欠陥評価方法において、き裂幅を求める際に、予め電位分布解析から求めた特定位置の電位差分布と、き裂幅との関係から当該き裂分布を求める構造物の欠陥評価方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の欠陥評価方法において、き裂形状の予測を時間の経過と共に求める際に、き裂幅またはき裂深さの予測結果が直前の時間の予測結果より小さく予測された場合に、直前の時間の予測結果と同じ値に前記金属材料のき裂形状を設定する構造物の欠陥評価方法。
【請求項4】
請求項3記載の欠陥評価方法において、予測したき裂深さが直前の時間の予測結果より小さい場合に、き裂深さを直前の時間と同じ値に置き換えて、そのき裂深さと電位差比の最大値からき裂幅を再度予測することを特徴とする構造物の欠陥評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−19841(P2013−19841A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154908(P2011−154908)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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