説明

構造物の解体工法

【課題】構造物の解体作業が影響を与える影響区域に粉塵の飛散又は騒音の影響を与えずに解体作業を行うことができる構造物の解体工法を得る。
【解決手段】建物10の解体工法では、影響区域Bに面する建物10の第1ブロック10Aを残して第2ブロック10B〜第4ブロック10Dを解体する工程と、第1ブロック10Aを解体作業が影響を与えない安全区域A2まで移動させる工程と、安全区域A2に移動された第1ブロック10Aを解体する工程とが行われる。ここで、第2ブロック10B〜第4ブロック10Dの解体では、第1ブロック10Aが壁体となるため影響区域Bに粉塵の飛散の影響を与えずに済む。さらに、第1ブロック10Aの解体では、解体作業が影響を与えない安全区域A2まで移動してから解体するので、影響区域Bに粉塵の飛散又は騒音の影響を与えずに解体作業を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の解体工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下層階を解体して上層階をリフトダウンさせる工程を繰り返すことで、高層の構造物を解体する工法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の構造物の解体工法は、構造物の下層の特定階で下層階を解体して上層階を特定階へリフトダウンさせ、この工程を繰り返すことにより構造物を下方から上方へ順次解体している。
【0004】
しかし、特許文献1の構造物の解体工法は、構造物の解体が影響を与える住宅等の影響区域に隣接した場所でも解体が行われるため、解体するときに生じる粉塵が影響区域へ飛散してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−270152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、構造物の解体作業が影響を与える影響区域に粉塵の飛散又は騒音の影響を与えずに解体作業を行うことができる構造物の解体工法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る構造物の解体工法は、構造物の解体作業が影響を与える影響区域に隣接した構造物を解体する構造物の解体工法であって、前記影響区域に面する構造物の壁体を残して解体する工程と、前記壁体を解体作業が影響を与えない解体位置まで移動させる工程と、前記解体位置に移動された前記壁体を解体する工程と、を有する。
【0008】
上記構成によれば、構造物は、まず影響区域に面していない部位が解体される。このとき、影響区域に面する壁体が残っているので、影響区域に粉塵の飛散等の影響を与えずに済む。続いて、影響区域に面する壁体が、解体作業が影響を与えない解体位置まで移動されて解体されるので、影響区域に粉塵の飛散又は騒音の影響を与えずに解体作業を行うことができる。
【0009】
本発明の請求項2に係る構造物の解体工法は、四方が前記影響区域に面する構造物を壁体を四方に残して内側を解体する工程と、対向する前記壁体の一組を解体作業が影響を与えない解体位置まで移動させる工程と、前記解体位置に移動された一組の前記壁体を解体する工程と、対向する前記壁体の他の一組を解体作業が影響を与えない解体位置まで移動させる工程と、前記解体位置に移動された他の一組の前記壁体の前記影響区域に面する壁体を残して解体する工程と、前記壁体を解体作業が影響を与えない解体位置まで移動させる工程と、前記解体位置に移動された壁体を解体する工程と、を有する。この構成によれば、構造物の四方に影響区域が存在する場合でも、解体作業に伴う粉塵の飛散又は騒音の影響を影響区域に与えずに解体作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記構成としたので、構造物の解体作業が影響を与える影響区域に粉塵の飛散又は騒音の影響を与えずに解体作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る建物の全体図である。
【図2】(a)本発明の第1実施形態に係る躯体を曳く状態を示す説明図である。(b)、(c)本発明の第1実施形態に係る躯体の下端に支承材を配置する手順を示す工程図である。
【図3】(a)、(b)本発明の第1実施形態に係る躯体を曳くときの反力のとり方を示す模式図である。
【図4】(a)〜(d)、(e)〜(h)本発明の第1実施形態に係る建物の解体工法を示す工程図(立面図、平面図)である。
【図5】(a)〜(d)本発明の第1実施形態に係る建物の解体工法の他の第1実施例を示す工程図である。
【図6】(a)〜(d)本発明の第1実施形態に係る建物の解体工法の他の第2実施例を示す工程図である。(e)〜(h)本発明の第1実施形態に係る建物の解体工法の他の第3実施例を示す工程図である。
【図7】(a)〜(g)本発明の第1実施形態に係る建物の解体工法の他の第4実施例を示す工程図である。
【図8】(a)〜(h)本発明の第2実施形態に係る建物の解体工法を示す工程図(平面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の構造物の解体工法の第1実施形態を図面に基づき説明する。図1に示すように、地盤11は、構造物としての建物10の解体が行われる解体区域Aと、解体区域Aに隣接し建物10の解体作業が影響を与える影響区域Bとで区分されている。
【0013】
ここで、影響区域Bとは、建物10を解体するときに発生する粉塵が降塵することによって、物の動作を停止させたり人間の健康に害を及ぼす可能性がある降塵区域と、建物10を解体するときに発生する騒音によって人間の健康に害を及ぼす可能性がある被騒音区域とをまとめた総称である。なお、影響区域Bの範囲は、解体する構造物の大きさ及び工法によって変わる。本実施形態では、一例として、影響区域Bに軌道が設けられて鉄道Tが運行している。
【0014】
建物10は、地盤11に間隔をあけて埋設された複数の杭12と、複数の杭12上に立設された複数の柱13と、複数の柱13に架設された複数の梁14とを有しており、3階建てとなっている。また、建物10は、複数の柱13及び梁14を梁14の1スパン分で高さ方向にまとめたものを1ブロックとして、影響区域Bに近い側から順に4つのブロック(第1ブロック10A、第2ブロック10B、第3ブロック10C、及び第4ブロック10D)で構成されている。なお、梁14には小梁が架設されると共にコンクリート打設によりスラブが形成されているが、これらの図示は省略している。
【0015】
次に、建物10の解体時に用いる曳家手段について説明する。
【0016】
図2(a)には、曳家手段の一例として、曳家用ジャッキ20を用いて第1ブロック10Aを曳く状態が示されている。曳家用ジャッキ20は、ジャッキ本体22と、ジャッキ本体から地盤11と平行に配設され矢印X方向に移動する可動部22Aとを有している。また、ジャッキ本体22は、底面から下方側へアンカー22Bが突設されており、アンカー22Bが地盤11に打込まれることによって地盤11上に固定されている。
【0017】
一方、曳き家が行われる第1ブロック10Aは、柱13の下部に貫通穴23(図2(c)参照)が形成されており、この貫通穴23にH形鋼24が挿通されている。貫通穴23の大きさは、H形鋼24が僅かな隙間をあけて通る大きさとなっている。そして、H形鋼24の下側フランジ24Aの下方側で地盤11上には、油圧ジャッキ26が立設されている。
【0018】
ここで、図2(b)、(c)に示すように、第1ブロック10Aは、油圧ジャッキ26を作動させてH形鋼24を上方へ押し上げることにより、油圧ジャッキ26で支持される。そして、第1ブロック10Aは、この支持状態において、柱13の脚部13Aが切断され、脚部13Aに換えて支承材28が取り付けられる。なお、支承材28は、ゴム製の円柱状の弾性部材を本体として、下面にフッ素系の樹脂がコーティングされた構成となっている。
【0019】
続いて、図2(a)、(c)に示すように、柱13に取り付けられた支承材28は、曳き家方向(矢印X方向)に沿って地盤11上に設置された平板状のレール部材30上に載置される。これにより、曳家用ジャッキ20を作動させると、レール部材30上を支承材28が滑り移動し、第1ブロック10Aが矢印X方向に曳き家される。なお、第1ブロック10Aは、曳き家時の変形を抑えるため、鉛直構面内に筋かい等からなる補強仮設部材32が設けられている。
【0020】
図2(a)に示すように、第1ブロック10Aの曳き家時は、曳家用ジャッキ20のアンカー22Bが曳き家反力を負担するため、力の流れは、矢印Fで示したように第1ブロック10Aから地盤11(基礎)へ向かうことになる。
【0021】
なお、曳き家の反力のとり方としては、例えば、図3(a)に示すように、地盤11に構築された地下躯体34上に第1ブロック10Aと第2ブロック10Bが構築されているときに、地下躯体34から反力をとるようにしてもよい。また、図3(b)に示すように、地盤11上で第1ブロック10Aと第2ブロック10Bを片方ずつ曳き家し、互いの躯体から反力をとるようにしてもよい。
【0022】
次に、建物10の解体工法の手順について説明する。なお、図4(a)〜(d)と図4(e)〜(f)は、同じ解体状態の建物10を正面図又は平面図で示したものであり、図4(e)〜(f)では、曳家用ジャッキ20、支承材28、及びレール部材30の図示を省略している。
【0023】
図4(a)、(e)に示すように、まず、解体区域Aを、解体作業が影響区域Bに影響を与える可能性のある注意区域A1と、解体作業が影響区域Bに影響を与える可能性が低い安全区域A2とに区分する。この区分は、解体する建物10の大きさと粉塵の飛散範囲との関係、あるいは、解体する建物10の大きさと騒音伝達範囲との関係に基づいて決定される。なお、本実施形態では、注意区域A1に第1ブロック10Aがあり、安全区域A2に第2ブロック10B〜第4ブロック10Dがあるものとする。
【0024】
続いて、図4(b)、(f)に示すように、影響区域Bに面する注意区域A1の第1ブロック10Aを建物10の壁体として残し、安全区域A2の第2ブロック10B〜第4ブロック10Dを解体する。ここで、安全区域A2の杭12は、第2ブロック10B〜第4ブロック10Dの解体直後に除去されるが、後述する第1ブロック10Aの解体後に除去するようにしてもよい。
【0025】
続いて、地盤11上にレール部材30を設置し、安全区域A2内に曳家用ジャッキ20を設置すると共に、第1ブロック10Aの柱13の下端に前述の方法(図2(a)〜(c)参照)により支承材28を取り付け、支承材28をレール部材30上に配置する。
【0026】
続いて、図4(c)、(g)に示すように、曳家用ジャッキ20を作動させて、第1ブロック10Aを注意区域A1から安全区域A2内へ矢印X方向に移動させる。
【0027】
続いて、図4(d)、(h)に示すように、安全区域A2内で第1ブロック10Aを解体する。そして、第1ブロック10A解体後、杭12を除去して解体作業を終了する。このようにして、建物10の解体が行われる。
【0028】
次に、本発明の第1実施形態の作用について説明する。
【0029】
図4(a)、(b)に示すように、建物10は、まず、影響区域Bに面していない第2ブロック10B〜第4ブロック10Dが解体される。このとき、影響区域Bに面する第1ブロック10Aが壁体として残っているので、第2ブロック10B〜第4ブロック10Dを解体しても、影響区域Bに粉塵の飛散又は騒音の影響を与えずに済む。
【0030】
続いて、図4(c)、(d)に示すように、影響区域Bに面する第1ブロック10Aが、解体作業が影響を与えない解体位置としての安全区域A2まで移動されて解体されるので、第1ブロック10Aを解体しても、影響区域Bに粉塵の飛散及び騒音の影響を与えずに解体作業を行うことができる。
【0031】
次に、本発明の構造物の解体工法の第1実施形態の他の第1実施例〜第4実施例を図面に基づき説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0032】
図5(a)〜(d)には、他の第1実施例の解体工程が模式図で示されている。なお、曳家用ジャッキ20、支承材28、及びレール部材30の図示は省略している。
【0033】
図5(a)に示すように、他の第1実施例の解体工程では、まず、解体区域Aを、解体作業が影響区域Bに影響を与える可能性のある注意区域A1と、解体作業が影響区域Bに影響を与える可能性が低い安全区域A3、A4とに区分する。ここで、注意区域A1と安全区域A3の大きさ(面積、形状)が同等となるように設定されている。なお、本実施例では、注意区域A1に第1ブロック10Aがあり、安全区域A3に第2ブロック10B、安全区域A4に第5ブロック10E(図4(e)の第3ブロック10Cと第4ブロック10Dの和に相当)があるものとする。
【0034】
続いて、図5(b)〜(d)に示すように、影響区域Bに面する注意区域A1の第1ブロック10Aを壁体として残し、安全区域A3の第2ブロック10Bを解体して、図2(a)〜(c)の曳き家方法を用いて、第1ブロック10Aを注意区域A1から安全区域A3内へ移動させる。そして、安全区域A3、A4内で第1ブロック10A及び第5ブロック10Eを解体する。このようにして、影響区域Bに粉塵又は騒音の影響を与えずに、建物10の解体を行うことができる。
【0035】
次に、図6(a)〜(d)には、他の第2実施例の解体工程が示されている。なお、曳家用ジャッキ20、支承材28、及びレール部材30の図示は省略している。
【0036】
図6(a)に示すように、他の第2実施例の解体工程は、解体区域Aが影響区域B、Cで挟まれている場合に行われる。まず、解体区域Aを、解体作業が影響区域B、Cに影響を与える可能性のある注意区域A1、A6と、解体作業が影響区域B、Cに影響を与える可能性が低い安全区域A5とに区分する。なお、本実施例では、注意区域A1に第1ブロック10Aがあり、安全区域A6に第4ブロック10D、安全区域A5に第6ブロック10Fがあるものとする。
【0037】
続いて、図6(b)〜(d)に示すように、影響区域B、Cに面する第1ブロック10Aと第4ブロック10Dを壁体として残し、安全区域A5の第6ブロック10Fを解体して、図2(a)〜(c)の曳き家方法を用いて、第1ブロック10A及び第4ブロック10Dを注意区域A1、A6から安全区域A5内へ移動させる。そして、安全区域A5内で第1ブロック10A及び第4ブロック10Dを解体する。このようにして、影響区域B、Cに粉塵又は騒音の影響を与えずに、建物10の解体を行うことができる。
【0038】
次に、図6(e)〜(h)には、他の第3実施例の解体工程が示されている。なお、曳家用ジャッキ20、支承材28、及びレール部材30の図示は省略している。
【0039】
図6(e)に示すように、他の第3実施例の解体工程は、建物40が構築された解体区域Aが影響区域B、Cで挟まれている場合に行われる。まず、解体区域Aを、解体作業が影響区域B、Cに影響を与える可能性のある注意区域A7、A11と、解体作業が影響区域B、Cに影響を与える可能性が低い安全区域A8、A9、A10とに区分する。
【0040】
ここで、注意区域A7、A11と安全区域A8〜A10の大きさ(面積、形状)は同等となるように設定されている。なお、本実施例では、注意区域A7、A11に第1ブロック40A、第5ブロック40Eがあり、安全区域A8〜A10に第2ブロック40B、第3ブロック40C、及び第4ブロック40Dがあるものとする。
【0041】
続いて、図6(f)〜(h)に示すように、影響区域B、Cに面する第1ブロック40A、40Eを壁体として残し、安全区域A8、A10の第2ブロック40B、第4ブロック40Dを解体して、図2(a)〜(c)の曳き家方法を用いて、第1ブロック40Aを注意区域A7から安全区域A8内へ移動させ、第5ブロック40Eを注意区域A11から安全区域A10内へ移動させる。そして、安全区域A8〜A10内で第1ブロック40A、第3ブロック40C、及び第5ブロック40Eを解体する。このようにして、影響区域B、Cに粉塵又は騒音の影響を与えずに、建物40の解体を行うことができる。
【0042】
図7(a)〜(g)には、他の第4実施例の解体工程が示されている。
【0043】
図7(a)に示すように、他の第4実施例の解体工程は、建物50が構築された解体区域Aが影響区域B、Cで挟まれている場合に行われる。まず、解体区域Aを、解体作業が影響区域B、Cに影響を与える可能性のある注意区域A1、A6と、解体作業が影響区域B、Cに影響を与える可能性が低い安全区域A5とに区分する。
【0044】
ここで、建物50は、3階建てとなっており、1組の柱13と梁14で囲まれた部位をブロックRとして、第1ブロックR1〜第12ブロックR12を有している。ここで、本実施例では、注意区域A1に上層から下層へ向けて第1ブロックR1〜第3ブロックR3が設けられており、注意区域A6に上層から下層へ向けて第10ブロックR10〜第12ブロックR12が設けられている。さらに、安全区域A5に上層から下層へ向けて第4ブロックR4〜第6ブロックR6、及び第7ブロックR7〜第9ブロックR9が設けられている。
【0045】
続いて、図7(b)に示すように、影響区域B、Cに面する第1ブロックR1〜第3ブロックR3、第10ブロックR10〜第12ブロックR12を壁体として残し、安全区域A5の第4ブロックR4、第5ブロックR5、第7ブロックR7、及び第8ブロックR8を解体する。これにより、建物50は凹状となる。
【0046】
続いて、図7(c)に示すように、図2(a)〜(c)の曳き家方法を用いて、第1ブロックR1及び第2ブロックR2を注意区域A1から安全区域A5内へ矢印X方向に移動させ、第10ブロックR10及び第11ブロックR11を注意区域A6から安全区域A5内へ矢印−X方向に移動させる。そして、図7(d)に示すように、安全区域A5の第1ブロックR1、第2ブロックR2、第10ブロックR10、及び第11ブロックR11を解体する。
【0047】
続いて、図7(e)に示すように、影響区域B、Cに面する第3ブロックR3、第12ブロックR12を壁体として残し、安全区域A5の第6ブロックR6及び第9ブロックR9を解体する。
【0048】
続いて、図7(f)に示すように、図2(a)〜(c)の曳き家方法を用いて、第3ブロックR3、第12ブロックR12を注意区域A1、A6から安全区域A5内へ移動させる。そして、図7(g)に示すように、安全区域A5の第3ブロックR3、第12ブロックR12を解体する。このようにして、影響区域B、Cに粉塵又は騒音の影響を与えずに、建物50の解体を行うことができる。
【0049】
次に、本発明の構造物の解体工法の第2実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0050】
図8(a)に示すように、地盤11は、矢印X方向において、構造物としての建物60の解体が行われる解体区域Aと、解体区域Aに隣接し建物60の解体作業が粉塵又は騒音の影響を与える影響区域B、Cとで区分されている。また、地盤11は、矢印Y方向において、解体区域Aと、解体区域Aに隣接し建物60の解体作業が粉塵又は騒音の影響を与える影響区域D、Eとで区分されている。
【0051】
さらに、解体区域Aは、矢印X方向において、解体作業が影響区域B、Cに粉塵又は騒音の影響を与える可能性のある注意区域A12、A14と、解体作業が影響区域B、Cに粉塵又は騒音の影響を与える可能性が低い安全区域A13とに区分されている。また、解体区域Aは、矢印Y方向において、解体作業が影響区域D、Eに粉塵又は騒音の影響を与える可能性のある注意区域A15、A17と、解体作業が影響区域D、Eに粉塵又は騒音の影響を与える可能性が低い安全区域A16とに区分されている。
【0052】
一方、建物60は、安全区域A13及びA16に位置する第1ブロック60Aと、注意区域A12において注意区域A15、A17、及び安全区域A16に位置する第2ブロック60Bと、注意区域A14において注意区域A15、A17、及び安全区域A16に位置する第3ブロック60Cと、安全区域A13において注意区域A15に位置する第4ブロック60Dと、安全区域A13において注意区域A17に位置する第5ブロック60Eとで構成されている。なお、建物60は、建物10(図1参照)と同様に杭、柱、梁、及びスラブを有しているが、これらの図示は省略している。
【0053】
次に、建物60の解体工法の手順について説明する。なお、図8(a)〜(h)では、曳家用ジャッキ20、支承材28、及びレール部材30の図示を省略している。
【0054】
図8(b)に示すように、まず、矢印X方向及び矢印Y方向の両方で安全区域に位置している第1ブロック60Aを解体する。これにより、建物60は口字状となる。
【0055】
続いて、図8(c)、(d)に示すように、図2(a)〜(c)の曳き家方法を用いて、第4ブロック60Dを矢印Y方向へ移動させると共に第5ブロック60Eを矢印−Y方向に移動させることにより、安全区域A13、A16内へ第4ブロック60D及び第5ブロック60Eを移動させる。そして、第4ブロック60D、第5ブロック60Eを解体する。
【0056】
続いて、図8(e)に示すように、図2(a)〜(c)の曳き家方法を用いて、第2ブロック60Bを矢印X方向へ移動させると共に第3ブロック60Cを矢印−X方向に移動させることにより、安全区域A13内へ第2ブロック60B及び第3ブロック60Cを移動させる。
【0057】
ここで、第2ブロック60B及び第3ブロック60Cを、安全区域A13及びA16に位置する第6ブロック60Fと、安全区域A13において注意区域A15に位置する第7ブロック60Gと、安全区域A13において注意区域A17に位置する第8ブロック60Hとに区分して、第6ブロック60Fを解体する。
【0058】
続いて、図8(f)〜(h)に示すように、図2(a)〜(c)の曳き家方法を用いて、第7ブロック60Gを矢印Y方向へ移動させると共に第8ブロック60Hを矢印−Y方向に移動させることにより、安全区域A13、A16内へ第7ブロック60G及び第8ブロック60Hを移動させる。そして、第7ブロック60G及び第8ブロック60Hを解体する。このようにして、建物60が解体される。
【0059】
次に、本発明の第2実施形態の作用について説明する。
【0060】
図8(b)に示すように、第1ブロック60Aの解体では、第1ブロック60Aの四方が第2ブロック60B、第3ブロック60C、第4ブロック60D、及び第5ブロック60Eで囲まれているので、これらが壁体となり、解体作業時の粉塵又は騒音を防ぐ。これにより、影響区域B、C、D、及びEに影響を与えずに解体作業を行うことができる。
【0061】
また、図8(c)、(d)に示すように、第4ブロック60D及び第5ブロック60Eの解体では、第4ブロック60D及び第5ブロック60Eが安全区域A13、A16に位置しているので、影響区域D、Eに粉塵又は騒音の影響を与えない。さらに、第2ブロック60B及び第3ブロック60Cが壁体の役割をするので、影響区域B、Cに粉塵又は騒音の影響を与えない。これにより、影響区域B、C、D、及びEに粉塵又は騒音の影響を与えずに解体作業を行うことができる。
【0062】
さらに、図8(e)〜(h)に示すように、第2ブロック60B及び第3ブロック60Cの解体では、第6ブロック60Fを安全区域A13、A16で解体すると共に、第7ブロック60G及び第8ブロック60Hを安全区域A13、A16に移動してから解体するので、影響区域B、C、D、及びEに粉塵又は騒音の影響を与えずに解体作業を行うことができる。よって、影響区域B、C、D、及びEに粉塵又は騒音の影響を与えずに建物60の解体作業を行うことができる。
【0063】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されない。
【0064】
影響区域B、C、D、Eは、鉄道Tの他に、住宅、道路、商業施設、工場等を対象としてもよい。また、建物10、40、50、60の階層は、1階層であってもよく、2階層以上の複数階層であってもよい。さらに、建物60の解体では、建物60を矢印X方向とY方向で入れ替えた分割形状としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 建物(構造物)
10A 第1ブロック(壁体)
10D 第4ブロック(壁体)
40 建物(構造物)
50 建物(構造物)
60 建物(構造物)
60B 第2ブロック(壁体)
60C 第3ブロック(壁体)
60G 第7ブロック(壁体)
60H 第8ブロック(壁体)
A2 安全区域(解体位置)
A13 安全区域(解体位置)
A16 安全区域(解体位置)
B 影響区域(影響区域)
C 影響区域(影響区域)
D 影響区域(影響区域)
E 影響区域(影響区域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の解体作業が影響を与える影響区域に隣接した構造物を解体する構造物の解体工法であって、
前記影響区域に面する構造物の壁体を残して解体する工程と、
前記壁体を解体作業が影響を与えない解体位置まで移動させる工程と、
前記解体位置に移動された前記壁体を解体する工程と、
を有する構造物の解体工法。
【請求項2】
四方が前記影響区域に面する構造物を壁体を四方に残して内側を解体する工程と、
対向する前記壁体の一組を解体作業が影響を与えない解体位置まで移動させる工程と、
前記解体位置に移動された一組の前記壁体を解体する工程と、
対向する前記壁体の他の一組を解体作業が影響を与えない解体位置まで移動させる工程と、
前記解体位置に移動された他の一組の前記壁体の前記影響区域に面する壁体を残して解体する工程と、
前記壁体を解体作業が影響を与えない解体位置まで移動させる工程と、
前記解体位置に移動された壁体を解体する工程と、
を有する請求項1に記載の構造物の解体工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−265595(P2010−265595A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115437(P2009−115437)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】