説明

構造物解体方法および構造物解体システム

【課題】解体作業にかかるコストを低減できる構造物解体システムを提供すること。
【解決手段】構造物解体システム2は、既存建物1の38階および39階の既存梁12と、38階の既存柱11と、これら既存梁12および既存柱11を補強する補強ブレース63と、を含む仮設屋根61と、38階より下階に支持されて仮設屋根61を支持する仮設柱20と、仮設屋根61の外周に沿って設けられた外周足場62と、を備える。本発明によれば、既存梁12や既存柱11を利用して解体作業スペース60を形成したので、短工期で解体できるうえに、解体作業にかかるコストを低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物解体方法および構造物解体システムに関する。詳しくは、構造物を解体するための構造物解体方法および構造物解体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高層建築では、設備や躯体の老朽化を理由として、建築物を解体し、新たに建築物を構築する建て替えが行われる場合がある。
ここで、建築物を解体する方法として、例えば、最上階にハットトラスからなる仮設屋根を設けて、この仮設屋根に囲まれた空間を解体作業スペースとし、この解体作業スペース内で解体作業を行うことにより、粉塵や騒音を防止する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3218519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の手法では、仮設材のみを用いて仮設屋根を構築するため、仮設材の数量が多くなる上に、仮設屋根の構築に手間がかかっていた。よって、解体作業にかかるコストが高くなる、という問題があった。
【0005】
本発明は、解体作業にかかるコストを低減できる構造物解体方法および構造物解体システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の構造物解体方法は、構造物を解体する構造物解体方法であって、n(nは自然数)階および(n+1)階の所定の既存梁およびn階の所定の既存柱を残して、n階以上の部分を解体する工程と、前記所定の既存梁および所定の既存柱を補強する補強ブレースを設けて仮設屋根を構築する工程と、n階より下階に支持されて前記仮設屋根を支持する仮設柱を設けるとともに、前記仮設屋根の外周に沿って仮設壁を設ける工程と、前記仮設屋根および仮設壁に囲まれた空間内で解体し、その後、前記仮設柱を下降させる作業を繰り返すことで、n階より下の部分を解体する工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の構造物解体システムは、構造物を解体するための構造物解体システムであって、前記構造物のn階および(n+1)階の所定の既存梁と、n階の所定の既存柱と、前記所定の既存梁および所定の既存柱を補強する補強ブレースと、を含む仮設屋根と、n階より下階に支持されて前記仮設屋根を支持する仮設柱と、前記仮設屋根の外周に沿って設けられた仮設壁と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、以下の手順で、構造物を解体する。
まず、n階および(n+1)階の所定の既存梁およびn階の所定の既存柱を残して、n階以上の部分を解体する。次に、所定の既存梁および所定の既存柱を補強する補強ブレースを設ける。これにより、仮設屋根を構築する。
次に、n階より下階に支持されて仮設屋根を支持する仮設柱を設けるとともに、仮設屋根の外周に沿って仮設壁を設ける。
次に、仮設屋根および仮設壁に囲まれた空間内で解体し、その後、仮設柱を下降させる作業を繰り返すことで、n階より下の部分を解体する。
【0009】
したがって、仮設材だけでなく既存梁や既存柱も用いて仮設屋根を構築したので、少量の仮設材で仮設屋根を構築でき、低コストである。
また、既存梁や既存柱を利用して解体作業スペースを形成したので、短工期で解体できるうえに、解体作業にかかるコストを低減できる。
また、解体作業スペースを仮設屋根および仮設壁で囲んだので、構造物の解体時に、粉塵が周囲に飛散するのを防止できるうえに、騒音を低減でき、さらには、解体材の落下も防止できる。よって、周辺環境に与える負荷を少なくできる。
また、高層建物を解体する場合、タワークレーンやジブクレーンを利用すると、風の影響により作業効率が低下するが、仮設屋根および仮設壁により、風の影響を軽減できるので、効率よく構造物を解体できる。
【0010】
また、既存梁や既存柱をフレームの一部として仮設屋根を構築する場合、既存梁や既存柱の断面性能が小さいと、仮設屋根の剛性が低くなるので、仮設柱の間隔を狭くする必要が生じる。その結果、仮設柱の本数が多くなり、コスト高となるおそれがある。
そこで、この発明によれば、1層分の既存梁、既存柱、補強フレームを用いて仮設屋根をトラス構造とした。よって、既存梁や既存柱の断面性能が小さくても、仮設屋根の剛性を十分に確保できるため、仮設柱の間隔を狭くする必要がないから、仮設柱の本数を減らして、コストを低減できる。
【0011】
請求項3に記載の構造物解体システムは、前記仮設屋根の下面に上下2段で設けられたガーターと、当該下段のガーターに沿って走行する走行クレーンと、を備えることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、走行クレーンを使用して解体作業を行うことで、解体作業を迅速に行うことができる。
また、仮設屋根の下面にガーターを上下2段で設けたので、下段のガーターを上段のガーターより延長することで、走行クレーンは上段のガーターの走行路以外でも作業可能となる。よって、走行クレーンを構造物の外側で作業させることができるため、構造物の外壁を効率良く撤去できる。
【0013】
請求項4に記載の構造物解体システムは、雨水を利用した散水設備およびドライミスト装置のうち少なくとも一方が設けられることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、散水設備により溜めた雨水を散水して、低コストで粉塵を防止できる。また、ドライミスト装置により微細な霧を噴射して、夏季であっても、解体作業スペース内を冷却して、作業環境を良好にできる。
【0015】
請求項5に記載の構造物解体システムは、前記仮設屋根上には、制震装置が設けられることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、仮設屋根上に制震装置を設けたので、地震や風による揺れを更に低減できる。制震装置としては、例えば、TMD(チューンド・マス・ダンパー)が挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、仮設材だけでなく既存梁や既存柱も用いて仮設屋根を構築したので、少量の仮設材で仮設屋根を構築でき、低コストである。また、既存梁や既存柱を利用して解体作業スペースを形成したので、短工期で解体できるうえに、解体作業にかかるコストを低減できる。また、解体作業スペースを仮設屋根および仮設壁で囲んだので、構造物の解体時に、粉塵が周囲に飛散するのを防止できるうえに、騒音を低減でき、さらには、解体材の落下も防止できる。よって、周辺環境に与える負荷を少なくできる。また、高層建物を解体する場合、タワークレーンやジブクレーンを利用すると、風の影響により作業効率が低下するが、仮設屋根および仮設壁により、風の影響を軽減できるので、効率よく構造物を解体できる。また、1層分の既存梁、既存柱、補強フレームを用いて仮設屋根をトラス構造とした。よって、既存梁や既存柱の断面性能が小さくても、仮設屋根の剛性を十分に確保できるため、仮設柱の間隔を狭くする必要がないから、仮設柱の本数を減らして、コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る構造物解体システムの適用対象である構造物としての既存建物1の断面図である。
【図2】前記実施形態に係る構造物解体システム2が適用された既存建物1の断面図である。
【図3】前記実施形態に係る構造物解体システムに用いられる仮設柱の正面図および側面図である。
【図4】図3のIII−III断面図である。
【図5】前記実施形態に係る仮設柱の下部の横断面図である。
【図6】前記実施形態に係る仮設柱の下部の側面図である。
【図7】前記実施形態に係る仮設柱の中央部の横断面図である。
【図8】前記実施形態に係る仮設柱の平面図である。
【図9】前記実施形態に係る仮設柱の上部の横断面図である。
【図10】前記実施形態に係る既存建物を解体する手順を説明するための図(その1)である。
【図11】前記実施形態に係る既存建物を解体する手順を説明するための図(その2)である。
【図12】前記実施形態に係る既存建物を解体する手順を説明するための図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る構造物解体システムの適用対象である構造物としての既存建物1の断面図である。
既存建物1は、39階建ての鉄骨造であり、複数本の角形鋼管である既存柱11と、これら既存柱11同士を連結する複数の鉄骨梁である既存梁12と、既存梁12に支持される既存スラブ13と、を備える。39階の階高は、その他の階の階高に比べて、高くなっている。
【0020】
図2は、構造物解体システム2の適用された既存建物1の断面図である。
この既存建物1には、既存建物1を解体するために、解体作業スペース60を有する構造物解体システム2が構築されている。
構造物解体システム2は、仮設屋根61と、この仮設屋根61の外周に設けられた仮設壁としての外周足場62と、仮設屋根61を支持する仮設柱20と、を備える。この仮設屋根61および外周足場62で囲まれた空間を、解体作業スペース60とする。
【0021】
仮設屋根61は、38階床レベルおよび39階床レベルの既存梁12と、38階の既存柱11と、これら既存梁12および既存柱11を補強する補強ブレース63と、39階床レベルの既存梁12の上および38階の既存柱11の側面に張り付けられた透光性を有する板材64と、38階の既存梁12の梁下に設置された2段式のガーター65と、このガーター65に沿って走行する走行クレーン66と、を備える。
外周足場62は、38階の既存梁12に支持されている。
【0022】
仮設柱20は、既存建物1の構造体に支持されて、仮設屋根61を支持する。この仮設柱20は、既存建物1の既存柱11の近傍に設置され、略鉛直方向に延びている。
以下、既存柱11のうち既存柱11Aの近傍に設置された仮設柱20Aについて説明するが、他の仮設柱20も同様の構成である。
【0023】
図3は、仮設柱20Aの正面図および側面図である。図4は、図3のIII−III断面図である。なお、図3では、理解の容易のため、後述の水平支持レール23Bを省略している。
【0024】
仮設柱20Aは、鉛直方向に略平行に延びる一対の柱部材21と、これら2本の柱部材21を連結する連結部材22と、柱部材21に沿って延びる水平支持レール23A、23Bと、を備える。
【0025】
各柱部材21は、断面略H形状の下部211と、この下部211の上に設けられた断面略箱形状の中央部212と、この中央部212の上に設けられた断面略H形状の上部213と、を備える。
【0026】
水平支持レール23A、23Bは、断面略H形状の下部211に設けられている。
具体的には、水平支持レール23Aは、柱部材21の断面略H形状である下部211のウエブに略平行に延びる当接面を有している。一方、水平支持レール23Bは、柱部材21の断面略H形状である下部211のフランジに略平行に延びる当接面を有している。
【0027】
また、下部211には、互いに対向する一対の貫通孔214が長さ方向に沿って2組形成されている。この貫通孔214の周囲は、補強プレート215で補強されている。
【0028】
この仮設柱20には、仮設柱20の長さ方向に沿って延びるステップロッド24と、このステップロッド24に沿って移動可能なステップロッドジャッキ25と、このステップロッドジャッキ25の下端に取り付けられた第1かんぬき部材26と、仮設柱20に取り付けられた一対の直線状のかんざし部材27と、このかんざし部材27に連結された第2かんぬき部材30と、が内蔵されている。
【0029】
図5は、仮設柱20Aの下部211の横断面図である。図6は、仮設柱20Aの下部211の側面図である。
【0030】
仮設柱20は、既存建物1の既存スラブ13を貫通して延びている。すなわち、既存柱11Aの近傍の各階の既存スラブ13には、床開口14が形成されており、仮設柱20は、各階の床開口14に挿通される。
この床開口14は、既存スラブ13を撤去して形成される。床開口14を形成する際、既存柱11Aから直交して延びる2本の既存梁12上の既存スラブ13も撤去して形成される。これにより、既存梁12の一部の上面が露出している。
【0031】
第2かんぬき部材30は、一対の柱部材21の間に挿通され、軸方向の長さが変更可能な構造である。すなわち、第2かんぬき部材30は、所定長さの本体31と、この本体31の両端側に水平方向に回動自在に設けられた係止部32と、を備える。
【0032】
この第2かんぬき部材30では、係止部32および本体31を一直線上に配置することで、第2かんぬき部材30の軸方向の長さを長くできる。一方、係止部32を水平方向に折り曲げることで、第2かんぬき部材30の軸方向の長さを短くできる。この状態では、第2かんぬき部材30の軸方向の長さが床開口14の内法寸法よりも短くなるため、第2かんぬき部材30は、床開口14を通って鉛直方向に移動可能となっている。
【0033】
一対のかんざし部材27は、柱部材21の上下の2組の貫通孔214のうちの上側の一組に挿通されている。
上述の第2かんぬき部材30の上面は、かんざし部材27の下面に当接して固定されている。これにより、第2かんぬき部材30は、仮設柱20とともに略鉛直方向に移動するようになっている。
【0034】
第2かんぬき部材30を所定高さに配置して、第2かんぬき部材30の軸方向の長さを長くすることで、第2かんぬき部材30は、既存柱11Aから互いに直交して延びる2つの既存梁12に跨って配置される。このとき、これら2本の既存梁12の上面が露出しているため、第2かんぬき部材30は、既存梁12に直接載置される。
この状態では、第2かんぬき部材30が既存梁12に係止し、この第2かんぬき部材30にかんざし部材27が係止するので、仮設柱20は第2かんぬき部材30を介して既存梁12に支持されることになる。
【0035】
また、床開口14のうち仮設柱20の下部211が挿通されるものには、既存建物1に支持されて仮設柱20の側面に当接する一対の水平反力受け部材51、52が設けられる。
すなわち、水平反力受け部材51、52は、既存梁12上に取り付けられて仮設柱20の側面に当接する略コの字形状の第1水平反力受け部材51と、既存スラブ13上に取り付けられて仮設柱20の側面に当接する略コの字形状の第2水平反力受け部材52と、からなる。
【0036】
各水平反力受け部材51、52は、水平支持レール23Aの当接面に当接する長尺状の第1ガイド部53と、この第1ガイド部53の両端から直交して延びて水平支持レール23Bの当接面に当接する第2ガイド部54と、を備える。これにより、仮設柱20を下方に向かって円滑に移動可能となっている。
水平反力受け部材51、52は、仮設柱20を挟んで略矩形枠状に配置されており、これにより、第2かんぬき部材30の上下方向の移動に干渉しないようになっている。
【0037】
図7は、仮設柱20の中央部212の横断面図である。
ステップロッドジャッキ25の下端面には、水平に直線状に延びる第1かんぬき部材26が連結され、この第1かんぬき部材26の両端側は、2つの既存梁12の直上に位置している。
第1かんぬき材の中央には、ステップロッド24が挿通される挿通孔が形成されている。
第1かんぬき部材26を所定高さに配置することで、第1かんぬき部材26は既存柱11Aから互いに直交して延びる2つの既存梁12に跨って配置される。このとき、これら2本の既存梁12の上面が露出しているため、第1かんぬき部材26は、既存梁12に直接載置される。
この状態では、第1かんぬき部材26が既存梁12に係止するので、仮設柱20は第1かんぬき部材26を介して既存梁12に支持されることになる。
【0038】
図8は、仮設柱20の平面図である。
仮設柱20は、既存柱11Aの上端から互いに直交して延びる2つの38階の既存梁12の間に設置されている。
仮設柱20の上端面には、水平に直線状に延びる支持部材28が設けられ、2つの38階の既存梁12は、この支持部材28の両端側の上面に位置している。これにより、仮設柱20の上端面は、支持部材28を介して、仮設屋根61を構成する38階の既存梁12に連結されている。
【0039】
図9は、仮設柱20の上部213の横断面図である。
仮設柱20の上部213の側面には、継手29が設けられている。仮設柱20の上部213の側面は、この継手29を介して、仮設屋根61の一部である37階の既存柱11Aの上側の側面に連結されている。
【0040】
次に、既存建物1を解体する手順について説明する。
ステップ1では、図1に示すように、R階上の設備機器、目隠し壁、およびフレーム等を解体する。
また、38階床レベルおよび39階床レベルの既存梁12と、38階の既存柱11と、を残して、38階以上の部分を解体する。
【0041】
次に、補強ブレース63を設け、さらに、仮設柱20の外側に、既存梁12に支持される外周足場62を設ける。
【0042】
ステップ2では、仮設屋根61の下面にガーター65および走行クレーン66を取り付け、さらに、39階の既存梁12および38階の既存柱11に透光性を有する板材64を貼り付けて、仮設屋根61を完成させる。これにより、仮設屋根61および外周足場62で囲まれた解体作業スペース60を形成する。
なお、図示しないが、仮設屋根61には、雨水を利用した散水設備およびドライミスト装置を設ける。
【0043】
ステップ3では、各階の既存スラブ13に床開口14を形成し、34〜36階床レベルの床開口14に水平反力受け部材51、52を設置する。
その後、既存建物1の外周の既存柱11の近傍に仮設柱20を配置する。
【0044】
ステップ4では、ステップロッドジャッキ25駆動して、36階床レベルの既存梁12に第1かんぬき部材26を係止させ、仮設柱20を36階床の既存梁12に支持させる。また、第2かんぬき部材30を収縮させておく。
その後、36階の既存柱11を柱頭部で切断し、36階および37階の外壁を含む立上がりを解体する。
【0045】
ステップ5では、図10に示すように、ステップロッドジャッキ25を駆動して、ステップロッド24の上方に向かって移動させる。このとき、水平反力受け部材51、52により、仮設柱20の移動を案内する。
これにより、仮設柱20が下降し、仮設屋根61および外周足場62も下降し、第2かんぬき部材30は34階床レベルの高さに位置する。
次に、第2かんぬき部材30を伸長させて、この第2かんぬき部材30を34階床レベルの既存梁12に係止させ、仮設柱20の荷重を34階床の既存梁12に支持させる。
【0046】
ステップ6では、図11に示すように、ステップロッドジャッキ25を駆動して、第1かんぬき部材26を上方に向かってわずかに移動し、解体対象である36階床から退避させる。
また、36階床レベルに設置した水平反力受け部材51、52を33階床レベルに盛り替える。
次に、解体作業スペース60内で、36階の床から35階の外壁を含む立上りまで(図11中破線で示す部分)を解体する。このとき、走行クレーン66を利用して、解体材を図示しない搬出口に移動し、図示しないホイストで下階に搬出する。下階に搬出した解体材は、リサイクル可能な材料と産業廃棄物との仕分けを行って、場外に搬出する。
【0047】
ステップ7では、図12に示すように、ステップロッドジャッキ25を駆動して、第1かんぬき部材26を下方に向かって移動し、35階床レベルの既存梁12に係止させ、仮設柱20を35階床の既存梁12に支持させる。また、第2かんぬき部材30を収縮させておく。
【0048】
以下、ステップ5〜7の作業を繰り返すことで1層毎に解体して、1階まで解体する。
【0049】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)仮設材だけでなく既存梁12や既存柱11も用いて仮設屋根61を構築したので、少量の仮設材で仮設屋根61を構築でき、低コストである。
また、既存梁12や既存柱11を利用して解体作業スペース60を形成したので、短工期で解体できるうえに、解体作業にかかるコストを低減できる。
【0050】
また、解体作業スペースを仮設屋根61および外周足場62で囲んだので、既存建物1の解体時に、粉塵が周囲に飛散するのを防止できるうえに、騒音を低減でき、さらには、解体材の落下も防止できる。よって、周辺環境に与える負荷を少なくできる。
また、タワークレーンやジブクレーンを利用して既存建物1を解体すると、風の影響により作業効率が低下するが、仮設屋根61および外周足場62により、風の影響を軽減できるので、効率よく既存建物1を解体できる。
【0051】
1層分の既存梁12、既存柱11、補強ブレース63を用いて、仮設屋根61をトラス構造とした。よって、既存梁12や既存柱11の断面性能が小さくても、仮設屋根61の剛性を十分に確保できるため、仮設柱20の間隔を狭くする必要がないから、仮設柱20の本数を減らして、コストを低減できる。
【0052】
(2)仮設柱20に水平支持レール23A、23Bを設けるとともに、既存梁12に水平反力受け部材51、52を設けたので、解体時の地震荷重や風荷重などの水平荷重に抵抗できるうえに、仮設柱20を下降させる際にガイドさせることができ、安全性を確保できる。
【0053】
(3)ドライミスト装置を設けたので、夏季であっても、解体作業スペース内を冷却して、作業環境を良好にできる。
【0054】
(4)走行クレーン66を使用して解体作業を行うことで、解体作業を迅速に行うことができる。
また、仮設屋根61の下面にガーター65を2段で設けたので、下段のガーター65を上段のガーター65より延長することで、走行クレーン66は上段のガーター65の走行路以外でも作業可能となる。よって、走行クレーン66を既存建物1の外側で作業させることができるため、既存建物1の外壁を効率良く撤去できる。
【0055】
(5)39階の既存梁12および38階の既存柱11に透明な板材64を貼り付けたので、自然採光により解体作業スペースを明るくでき、作業環境を良好にできる。
【0056】
(6)散水設備により溜めた雨水を散水することで、低コストで粉塵を防止できる。
【0057】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、ステップロッドジャッキ25用いたが、これに限らず、油圧ジャッキを用いてもよい。
また、仮設屋根上にTMD(チューンド・マス・ダンパー)などの制震装置を設置すれば、地震や風による揺れを更に低減できる。この場合、TMDの振り子として、解体したコンクリートや鉄骨材を利用することにより、TMDを安価に製作できる。
【0058】
また、既存外壁のシール材撤去などの作業には、外周足場62を利用するだけでなく、既存のゴンドラを活用してもよい。
また、本実施形態では、第2かんぬき部材30を水平方向に折り曲げ可能な構造としたが、これに限らず、第2かんぬき部材を伸縮可能な構造としてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…既存建物(構造物)
2…構造物解体システム
11、11A…既存柱
12…既存梁
13…既存スラブ
14…床開口
20、20A…仮設柱
21…柱部材
22…連結部材
23A…水平支持レール
23B…水平支持レール
24…ステップロッド
25…ステップロッドジャッキ
26…第1かんぬき部材
27…かんざし部材
28…支持部材
29…継手
30…第2かんぬき部材
31…本体
32…係止部
51…水平反力受け部材
52…水平反力受け部材
53…第1ガイド部
54…第2ガイド部
60…解体作業スペース
61…仮設屋根
62…外周足場(仮設壁)
63…補強ブレース
64…板材
65…ガーター
66…走行クレーン
211…下部
212…中央部
213…上部
214…貫通孔
215…補強プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を解体する構造物解体方法であって、
n(nは自然数)階および(n+1)階の所定の既存梁およびn階の所定の既存柱を残して、n階以上の部分を解体する工程と、
前記所定の既存梁および所定の既存柱を補強する補強ブレースを設けて仮設屋根を構築する工程と、
n階より下階に支持されて前記仮設屋根を支持する仮設柱を設けるとともに、前記仮設屋根の外周に沿って仮設壁を設ける工程と、
前記仮設屋根および仮設壁に囲まれた空間を解体して、その後、前記仮設柱を下降させる作業を繰り返すことで、n階より下の部分を解体する工程と、を備えることを特徴とする構造物解体方法。
【請求項2】
構造物を解体するための構造物解体システムであって、
前記構造物のn階および(n+1)階の所定の既存梁と、n階の所定の既存柱と、前記所定の既存梁および所定の既存柱を補強する補強ブレースと、を含む仮設屋根と、
n階より下階に支持されて前記仮設屋根を支持する仮設柱と、
前記仮設屋根の外周に沿って設けられた仮設壁と、を備えることを特徴とする構造物解体システム。
【請求項3】
前記仮設屋根の下面に上下2段で設けられたガーターと、当該下段のガーターに沿って走行する走行クレーンと、を備えることを特徴とする請求項2に記載の構造物解体システム。
【請求項4】
前記仮設屋根には、雨水を利用した散水設備およびドライミスト装置のうち少なくとも一方が設けられることを特徴とする請求項2または3に記載の構造物解体システム。
【請求項5】
前記仮設屋根上には、制震装置が設けられることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の構造物解体システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−127131(P2012−127131A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280240(P2010−280240)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】