説明

構造発色繊維

【課題】鮮明な透明感のある構造発色を実現する、精密制御された断面を有する構造発色繊維を提供する。
【解決手段】屈折率の異なる2種の繊維形成性高分子からなる繊維であり、該繊維の横断面において、一方の高分子は島、他方の高分子は海を形成し、島径Dが500nm以下、島数が400以上、島間距離dが600nm以下、横断面の長軸もしくは直径が4μm以上であり、かつ2種の高分子の平均屈折率n、島間距離d、島径Dが下記式(1)及び(2)を満たしている構造発色繊維とする。
λ=2d(n−sinθ)1/2 (1)
D<d (2)
(ここで、θは光源の入射角、λは発色波長を示し、λは300〜1000nmである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明感と鮮明性をもつ構造発色繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、物体の色はその物体が光の一部を吸収することにより生じ、この原理を利用した着色が従来から用いられている顔料・染料を用いる着色および発色である。
一方、光の回折や散乱・干渉などによる光学物理原理を利用した構造発色に関して多くの提案がなされている。これらは、可視光波長領域の光を回折や散乱・干渉により特定の波長の光のみを反射することにより生じる発色である。そのため、制御された構造を有し、そのサイズは数十〜数百nmの規則正しい秩序構造の形成が要求される。
【0003】
例えば、屈折率の異なる2種類のポリマー物質を、交互に何十層と積層した構造とすることにより発色する材料も報告されている(引用文献1〜2)。この原理は、屈折率の異なる交互積層界面で生じるフレネル反射が重なって干渉を起こし、特定波長で特定位相差をもって重なり合うときに現れる発色である。このとき、発色波長λ=2(n+n)cosθにおいて、入射角θの光源として、発色波長λは、2種ポリマーの屈折率n、層厚みdからなる光路差が等しいとき、すなわちn=nのとき最大となるというものである。
【0004】
一方、回折・干渉作用を利用した梢造体としては、繊維表面に一定幅の細溝を設けることによって回折・干渉を発する構造体が提案されている(引用文献3〜5)。この原理は、平面あるいは凹面状に多数の所定寸法の溝(間隔と深さ)を規則的に形成させたものに光を入射させると、光路差△Lが生じ、この光路差が波長λの整数倍のとき、反射光が強め合って明るくなるもので、実際には、ある入射角で入った光に対し、ある回折角で波長λの発色を与えるものである。
【0005】
また、屈折率の異なる2種の材料からなり、光透過性を有する第1の材料によって取囲まれた第2の材料からなる複数の微細構造体が回折・散乱作用にもとづく光の反射機能を発現する光機能反射構造体が提案されている(引用文献6〜8)。
【0006】
以上の提案は、積層構造による干渉発色の場(引用文献1〜2)は、見る角度により光の波長・強度が変化するという特性があり、ギラギラとした発色強度の急峻な変化は特殊な用途に限定される。また、細溝形成による回折・干渉発色(引用文献3〜5)は、その構造形成性において、高分子特有の粘弾性の点から困難であり、可視光波長を十分に回折干渉させるだけのサイズオーダー・精度に至っていない。射出成形金型や光造形システムを利用した構造形成は、繊維製造工程においては時間スケール・コスト面から利用することができない。また、微細構造体がマトリックスである高分子成形体の中に精密に配置されたいわゆる海島構造体(引用文献6〜8)においても、繊維断面内に多数の微小な微細構造体を所定の間隔で配置する成形精度が不十分であり、鮮明な発色性となる繊維構造体は未だ開発されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平4−295804号公報
【特許文献2】特許第3036305号公報
【特許文献3】特開昭62−170510号公報
【特許文献4】特開昭63−120642号公報
【特許文献5】特開平8−234007号公報
【特許文献6】特開2003−119623号公報
【特許文献7】特開2003−227923号公報
【特許文献8】特開2003−286658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記背景技術に鑑みなされたもので、その目的は、鮮明な透明感のある構造発色を実現する、精密制御された断面を有する構造発色繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
鮮明かつ透明感を有する発色構造繊維であって、多数の微細構造体を精密精度で配置した繊維断面構造について鋭意検討した結果、以下の本発明に到達した。
【0010】
かくして本発明によれば、 屈折率の異なる2種の繊維形成性高分子からなる繊維であって、該繊維の横断面において、一方の高分子は島、他方の高分子は海を形成し、島径Dが500nm以下、島数が400以上、島間距離dが600nm以下、横断面の長軸もしくは直径が4μm以上であり、かつ2種の高分子の平均屈折率n、島間距離d、島径Dが下記式(1)及び(2)を満たしていることを特徴とする構造発色繊維が提供される。
λ=2d(n−sinθ)1/2 (1)
D<d (2)
(ここで、θは光源の入射角、λは発色波長を示し、λは300〜1000nmである。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鮮明な透明感のある構造発色を実現する、精密制御された断面を有する構造発色繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の構造発色繊維は、屈折率の異なる2種の繊維形成性高分子からなる繊維であって、該繊維の横断面において、一方の高分子は島、他方の高分子は海を形成し、島径Dが500nm以下、島数が400以上、島間距離dが600nm以下、横断面の長軸もしくは直径が4μ以上であり、かつ2種の高分子の平均屈折率n、島間距離d、島径Dが下記式(1)及び(2)を満たしていることが肝要である。なお、本発明の繊維は、繊維横断面において、島が規則的には配置されているものを対象とするが、規則的にとは、例えば、島が、繊維の中心から外周方向に向かって放射状に等間隔に配置されているものや、縦方向、横方向、又は斜め方向に複数列をなして等間隔に配置(例えば、縦横方向に等間隔に複数列をなしている場合は、碁盤の目のような配置)されているものをいう。また、後述する島間距離とは、この等間隔に配列された島と島との距離をいう。
λ=2d(n−sinθ)1/2 (1)
D<d (2)
(ここで、θは光源の入射角、λは発色波長を示し、λは300〜1000nmである。)
【0013】
なお、構造発色繊維の形態は超多島の海島繊維であり、微細構造体は、該海島繊維の島に相当し、式(2)を満足するように、島どうしは重ならず独立に存在し、その径Dは、可視光を反射する発色体となるために、500nm以下であることが必要である。該径が500nmを超えると、構造発色の規則性を決定している島間距離dが500nmよりも大きくなるので、式(1)に示す発色波長が、視認性を超える赤外領域(1000nm)になるために好ましくない。すなわち、島径が500nm以下であれば、精密構造の規則性領域が光学的に十分な領域を提供できることから、入射した光は特定の波長を選択的に反射し、鮮明な発色を実現する。光源の入射角は0〜90℃を採用することができる。
【0014】
また、島間距離(以下、島間隔と称すことがある)dは、上記島径と関連して、600nm以下、好ましくは50〜600nmであり、かつ式(1)を満足する必要がある。ここで島間距離とは、繊維の中心から外周方向に向かって放射状に等間隔に配置されている場合は、中心から外周部に向かって島の中心部を通るように線を引き、隣り合う島の中心点から隣の島の中心点までの距離を測定し、それらを平均した値をいう。また、島が格子状に一列に等間隔に配置されている場合は、島の中心部を通るように夫々線を引き、隣り合う島の中心点から隣の島の中心点までの距離を測定し、それらを平均した値をいう。
なお、放射状等に島を配列した場合、隣接する横の列にある島どうしが接近することがあるが、島が独立に規則正しく存在するには、島と島にある海の幅は10nm以上とすることが好ましい。
【0015】
また、構造発色を示す微細構造の集合体、すなわち単繊維はその横断面の長軸の長さもしくは直径が少なくとも4μm以上必要である。ここで長軸とは、例えば繊維横断面が丸断面以外の、例えば長方形や長円形等の場合は、その最も長い部分をいう。さらに、そのような微細構造体集合構造を形成するには、少なくとも400個以上の島数が必要である。それ以下の場合は、微細構造集合体の表面散乱・反射が優勢的になり、白っぽく見える。
【0016】
さらに、この超多島海島断面を2種の屈折率の異なる高分子から成形し、精密構造体を得るのに、重要な要件は以下の2点である。
(i)島を形成する高分子と海を形成する高分子の溶解度バラメーター比で、
0.85<SP(I)/SP(S)<1.18 (3)
の関係であることである。
【0017】
ここで、海島成分は、その屈折率が異なることにより光はそれを回折面・散乱面として認識しているので、屈折率差が存在しなければならない。このましくは0.001以上必要である。このとき、屈折率差をもつためには、両者の分子構造は異なり、実質的には非相溶性である。しかし、成形においては多数の微小島が数十〜数百nmの間隔で配置される必要があるため、精密なコンジュゲート口金を用いてその位置が正確に保たれた状態で溶融成形プロセスを完了する必要がある。その際、相溶性の指標である式(3)の要件を満たさない場合、両ポリマーが界面反発し、お互いが集合するようにモルフォロジーを変化させ、精密構造体の精度は低下する。従って、両者の相溶性パラメーター比は0.85〜1.18であることが必要である。
【0018】
(ii)また、両者の溶融粘度が成形性に関しては、両者の成分比との関係において重要である。島成分比が50%を超える場合には、海成分の溶融粘度は島成分よりも大きいことが必要である。島成分が50%未満の場合は、海島成分のどちらの溶融粘度が高くても精密精度は光学精度用途以外では使用可能であるが、本発明の場合、島数が多く、島間隔が狭いので、繊維断面内で吐出面積を増やして流速を小さくする傾向にある高粘度成分を海成分とするほうが、海島形成性の精度向上には好ましい。従って、海を形成する高分子の溶融粘度MV(S)が島を形成する高分子の溶融粘度MV(I)の1.1倍よりも大きいこと(すなわち、MV(S)/MV(I)>1.1であること)が必要である。さらに、本発明では海成分・島成分を構成する高分子のいずれかあるいは両者を海島界面の多重反射光を吸収し、海島サイズ・配置に基づく構造発色の視認効果を向上させることができる。
【0019】
ここで、着色可能な染料あるいは顔料はあらかじめ樹脂ペレットに含有しているものを使用するかあるいは、マスターバッチブレンド添加法などを採用することができる。例えば、大日精化製等の黒あるいは紺色顔料を0.05%〜3%添加すると、多重反射光を吸収して、より背鮮明な視認性を得ることができる。0.05%未満の場合は、添加精度が不十分になりやすく、色斑の原因となるので、好ましくない。一方、3wt%を越えると、逆に黒〜紺の有彩色が構造発色効果を減少させるので好ましくない。
【0020】
本発明で使用する屈折率の異なる繊維形成性高分子は、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、さらにフルオレン骨格を有するジオール成分を共重合した前述のポリエステル、さらにポリカーボネート、フルオレン骨格成分共重合ポリカーボネートなどの高屈折率ポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また低屈折率ポリマーとしては、ナイロン6、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテンなどが好ましい。
【0021】
各々相溶性パラメーターが本発明の範囲を満足する組み合わせで使用することが好ましい。また、場合に応じて、相溶性を高める共重合成分を用いてポリマーを改質することもさらに精密構造の精度を向上させることに役立つ。例えば、ポリエステルの場合、5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸およびその誘導体を2モル%以下(酸成分対比)を共重合することにより、屈折率差は保ったままで、ナイロンとの相溶性は著しく向上する。詳しくは、スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸成分をポリエステルを形成している全二塩基酸成分当たり0.3〜10モル%共重合しているポリエチレンテレフタレートと酸価が3以上を有するポリメチルメタクリレートの組み合わせ、スルホン酸金属塩を有する二塩基酸成分をポリエステルを形成している全二塩基酸成分あたり0.3〜5モル%共重合しているポリエチレンナフタレートと脂肪族ポリアミドとの組み合わせ、側鎖にアルキル基を有する二塩基酸成分またはグリコール成分を全繰り返し単位あたり5〜30モル%共重合している共重合芳香族ポリエステルとポリメチルメタクリレートとの組み合わせ、9,9−ビス(パラヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンを全繰り返し単位あたり20〜80モル%共重合しているポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートとポリメチルメタクリレートとの組み合わせ、9,9−ビス(パラヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンを全繰り返し単位当たり20〜80モル%とスルホン酸金属塩を有する二塩基酸成分をポリエステルを形成している全二塩基酸成分当たり0.3〜10モル%共重合しているポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートと脂肪族ポリアミドとの組み合わせ、2,2−ビス(パラヒドロキシフェニル)プロパンを二価フェノール成分とするポリカーボネートとポリメチルメタクリレートとの組み合わせ、9,9−ビス(パラヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンと2,2−ビス(パラヒドロキシフェニル)プロパン(モル比が20/80〜80/20)とを2価フェノール成分とするポリカーボネートとポリメチルメタクリレートとの組み合わせなどを例示することができる。
【0022】
以上に説明した本発明の構造発色繊維は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、まず低屈折率高分子と低屈折率高分子とを、前者が島、後者が海となるように溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば、中空ピンや微細孔より押出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面形成がなされるいかなる紡糸口金でもよい。但し、繊維断面中央には、海成分からなる高屈折率コア部を形成するために、中空ピンや微細孔による鳥形成が存在しない仕様とする。好ましく用いられる紡糸口金例を図1および図2に示すが、必ずしもこれらに限定されるものではない。なお、図1は、中空ピンを海成分樹脂貯め部分に吐出してそれを合流圧縮する方式であり、図2は中空ピンのかわりに微細孔方式で島を形成する方法である。
【0023】
吐出された海島型断面複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは1000〜3500m/minで溶融紡糸した後に巻き取られる。延伸性(固体塑性変形)の乏しい高分子については、溶融紡糸のみで最終巻取り製品形態とする。また、延伸が必要なプロセスにおいては、得られた未延伸糸を別途延伸工程をとおして所望の強度・延伸・熱収縮特性を有する繊維とする方法、あるいは一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。
【実施例】
【0024】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。尚、各評価項目は下記の方法で測定した。
(1)島間距離(島間隔)、島径
透過型電子顕微鏡TEMで、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影し、実施例に記載の各ディメンジョンについて20個測定し、平均を算出した。
(2)構造色測定
繊維を40本/1cmの線密度で、0.265cN/dtex(0.3g/de)の巻き張力で黒画用紙台紙に並列に巻きつけて測色用サンプルを測定し、マクベス社製分光光度計カラーアイ3100(CE−3100)にてD65光源で測定した。測定窓は、大窓25mmΦ、表面光沢を含み、光源に紫外線を含む条件にて。ピーク波長を読み取った。紫は430nm〜460nm、青は460〜490nm、緑は490〜530nm、赤は600〜640nmの範囲にピーク波長があるものを色表記した。また、鮮明性の指標として、ピーク反射率(%)とペース反射率(%)の差を用いた。
【0025】
[実施例1]
島数を500個とし、ポリカーボネート(PC(1):帝人化成製 パンライトAD5503)を島を形成する高分子(以下、島ポリマーと称することがある)に、ポリメチルメタクリレート(PMMA:クラレ製 パラペットG MFR=8)を海を形成する高分子(以下、海ポリマーと称することがある)に用いて、各々290℃、250℃で溶融し、計量ギアポンプを用いて、IH当たり、PC(1)を0.0115g/min、PMMAを0.00958g/minを、270℃の島数500個が放射状に等間隔に配列した海島用口金に導入した。口金下10cm〜80cmの間で25℃の冷却風0.25m/secで冷却し、室温のゴデッドローラーにて2000m/minで巻き取った。海島断面の規則性は十分であり、回折体自身の大きさが十分であり、繊維は鮮明な青色を呈した。
【0026】
[実施例2]
島数を500個とし、PC(1)を島ポリマーに、PMMAを海ポリマーに用いて、各々290℃、250℃で溶融し、計量ギアポンプを用いて、1H当たり、PC(1)を0.255g/min、PMMAを0.138g/minを、270℃の島数500個の海島用口金に導入した。口金下10cm〜80cmの間で25℃の冷却風0.25m/secで冷却し、室温のゴデッドローラーにて2000m/minで巻き取った。海島断面の規則性は十分であり、回折体自身の大きさが十分であり、島間隔が広いため、繊維は赤〜近赤外域の発色を呈した。
【0027】
[実施例3]
5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸を全ジカルボン酸対比1.0モル%を共重合成分として含むポリエチレンテレフタレート(PET(1):帝人ファイバー社製 IV=0.55)を島ポリマーに、ナイロン−6(Ny−6:BASF社製 BS700)を海ポリマーとして、各々290℃、275℃の溶融温度にて溶融状態とした後、1H当たり、各々0.0551g/min(島)、0.0825g/min(海)を計量ポンプにより計量導入し、800個島をもつ280℃の海島形成用口金に導入した。口金下10cm〜80cmの間で25℃の冷却風0.25m/secで冷却し、室温のゴデッドローラーにて1000m/minで引取り巻き取った。その未延伸糸を予熱ローラー90℃−熱セットローラー180℃間で3.1倍に延伸し、かつ第3ローラーとして室温ローラーと熱セットローラー間で弛緩処理5%を行い、第3ローラー上で室温に戻った延伸糸条を600m/minで巻き取った。得られた糸は、赤色発色を示した。
【0028】
[実施例4]
5−ナトリウムスルホイソフタル酸を全ジカルポン当たり0.8モル%、フルオレンジメタノールを全グリコール当たり50モル%を共重合したポリエチレンテレフタレート(PET(2):帝人ファイバー社製 IV=0.465)を島ポリマーに、Ny−6を海ポリマーとして、各々295℃、275℃の溶融温度にて溶融した後、計量ポンプで、1HあたりPET(2)を0.0267g/min、Ny−6を0.0498g/min、島数1000個の280℃の海島形成用口金に導入した。口金下10cm〜80cmの間で25℃の冷却風0.25m/secで冷却し、ローラー速度1500m/min、110℃のゴデッドローラーに巻き取り、ターン数6にてゴデッドローラーにエアベアリング式のセパレートローラーを介して巻きつけて予熱し、ローラー速度2500m/min、160℃にセットした熱セットローラーに同様に4ターン巻きつけてセットした後、オーバーフィード5%にて第3ローラーに5ターン巻きつけて弛緩熱処理を施し、室温になった糸条を2450m/minのワインダーで巻き取った。得られた糸は、鮮明で光輝感のある青色発色を示した。
【0029】
[実施例5]
フルオレンジメタノールを全グリコール当たり30モル%を共重合したポリエチレンナフタレートPEN(1)(IV=0.407)を島ポリマーに、イソフタル酸を全ジカルポン酸当たり10モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET(3):帝人ファイバー社製 IV=0.64)を海ポリマーとして、各々300℃、285℃で溶融した後、計量ポンプで、1H当たりPEN(1)を0.0650g/min、PET(3)を0.0683g/minを、島数800の285℃の海島形成用口金に導入した。口金下100mm〜800mmの間で、25℃の冷却風を0.25m/secで冷却し、室温のゴデッドローラーで1500m/minで巻き取った。その未延伸糸を予熱ローラー90℃−熱セットローラー180℃間で3.1倍に延伸し、かつ第3ローラーとして室温ローラーと熱セットローラー間で弛緩処理5%を行い、第3ローラー上で室温に戻った延伸糸条を600m/minで巻き取った。得られた糸は、鮮明で光輝感のある緑色発色を示した。
【0030】
[実施例6]
フルオレン共重合PC(2)として、9,9−ビス(バラヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン/2,2−ビス(バラヒドロキシフェニル)プロパン=モル比50/50モル%からなるポリカーボネートを島ポリマーに、PMMAを海ポリマーに用いて、各々290℃、250℃で溶融し、計量ギアポンプを用いて、1H当たり、PC(2)を0.0721g/min、PMMAを0.0364g/minを、270℃の島数100個の海島用口金に導入した。実施例1と同様に口金下冷却後、2000m/minで巻き取った。得られた繊維は、鮮明性と透明感の高い青色であった。
【0031】
[比較例1]
島数を250に変更した口金であって、PC(1)を0.0115g/min、PMMAを0.00958g/minに変更した以外は実施例1と同様に製糸を行った。得られた糸は、島の規則性は良好なるも、繊維直径が2.6μmと小さく、そのために、繊維表面から反射する散乱光が青色の回折干渉光を相対的に弱めるため、白っぽさが目立ち、鮮明な青色発色性は得られなかった。
【0032】
[比較例2]
PC(1)を島ポリマーに、PMMAを海ポリマーに用いて、各々290℃、250℃で溶融し、計量ギアポンプを用いて、1H当たり、PCを0.500xg/min、PMMAを0.231g/minを、270℃の島数500個の海島用口金に導入した。実施例1と同様に口金下冷却後、2000m/minで巻き取った。得られた糸は、島の規則性は良好なるも、島径が700nmと大きいために、波長ピークは2150nmで、視認できる色彩は認められなかった。
【0033】
[比較例3]
実施例3で使用のNy−6を島に、PET(1)を海に用いて、各々270℃、290℃で溶融し、計量ギアポンプを用いて、1H当たり、Ny−6を0.0433g/min、PMMAを0.0513g/minを口金に導入した以外は同様に実施した。得られた繊維断面において、繊維断面内の最外周以外は島どうしがほとんど接合し、部分的にはいびつに変形し、規則正しい海島構造を形成していない。従って、構造発色も得られていない。
【0034】
[比較例4]
実施例1のPMMAを島に、実施例3のPET(1)を海に用いて、各々250℃、290℃で溶融し、計量ギアポンプを用いて、IH当たり、PMMAを0.0433g/min、PET(1)を0.0513g/minを280℃で島数800個の海島用口金に導入した。実施例1と同様に巻き取り作業を実施しようとしたが、相溶性が不足しているために、曳糸性に乏しく、連続して巻き取ることが困難であった。また、糸の断面においては、島・海ポリマーで不規則に結合した状態で、海島の区別が不可能であった。
【0035】
[比較例5]
実施例1のPC(1)を島に、PE(三井住友ポリオレフィン(株)製 ハイゼックス5000S)を海に用いて、各々290℃、210℃で溶融し、計量ギアポンプを用いて、1H当たり、PCを0.0433g/min、PEを0.0513g/minを280℃で島数800個の海島用口金に導入した。実施例1と同様に巻き取り作業を実施しようとしたが、相溶性が不足しているために、曳糸性に乏しく、連続して巻き取ることが困難であった。また、糸の断面においては、島・島ポリマーで不規則に結合した状態で、海島の区別が不可能であった。
【0036】
[実施例7]
島ポリマーのPET(1)および海ポリマーのNy−6に、各々0.5%の群青系青色顔料CI.P.81.29(大日糖化製 400〜650nmに吸収をもつ顔料)を含むようにした以外は、実施例3と同様に海島断面繊維の製糸を行った。
その結果、繊維断面内の海島界面での多重反射が顔料の光吸収帯に吸収されるため、630nmにピークをもつ赤色発色はより鮮明度が増した。
【0037】
[実施例8]
島ポリマーのPET(1)に0.25%の黒色顔料CI.P.BK.7(大日糖化製 UV〜650nmに吸収をもつ顔料)を含むようにした以外は、実施例3と同様に海島断面繊維の製糸を行った。その結果は、実施例7と同様に赤色の鮮明発色となった。
【0038】
[実施例9]
海ポリマーのNy−6に、0.5%の群青系青色顔料CI.P.BI.29(大日糖化製 400〜650nmに吸収をもつ顔料)を含むようにした以外は、実施例3と同様に海島断面繊維の製糸を行ったところ、実施例7と同様に、鮮明発色を得た。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の構造発色繊維は、精密制御された断面を有しており鮮明な透明感のある構造発色を発現する。したがって、ドレス、和服、ネクタイ、スポーツウエア、包装紙、リボン、テープ、カーテン、アートフラワー、刺繍、壁紙、人工毛髪、ストッキングなどに用いることできる。また、カットファイバーとして、塗料、化粧品、インキ、人工大理石、プラスチック用品、塗被紙などにも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の構造発色繊維を紡糸するために用いる紡糸口金の概略図。
【図2】本発明の構造発色繊維を紡糸するために用いる他の紡糸口金の概略図。
【符号の説明】
【0042】
1:分配前分散相(島成分)高分子溜め部分
2:分散相(島成分)分配用導入孔
3:連続相(海成分)導入孔
4:分配前連続相(海成分)高分子溜め部分
5:個別連続相/分散相(海/島)構造形成部
6:連続相/分散相(海/島)全体合流絞り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率の異なる2種の繊維形成性高分子からなる繊維であって、該繊維の横断面において、一方の高分子は島、他方の高分子は海を形成し、島径Dが500nm以下、島数が400以上、島間距離dが600nm以下、横断面の長軸もしくは直径が4μm以上であり、かつ2種の高分子の平均屈折率n、島間距離d、島径Dが下記式(1)及び(2)を満たしていることを特徴とする構造発色繊維。
λ=2d(n−sinθ)1/2 (1)
D<d (2)
(ここで、θは光源の入射角、λは発色波長を示し、λは300〜1000nmである。)
【請求項2】
繊維の横断面において島が規則的に配置されている請求項1記載の構造発色繊維。
【請求項3】
島数が500以上である請求項1又は2に記載の構造発色繊維。
【請求項4】
島を形成する高分子と海を形成する高分子のそれぞれの溶解度パラメーターSP(I)とSP(S)との比、及び、島を形成する高分子と海を形成する高分子のそれぞれの溶融粘度MV(I)とMV(S)との比が下記式(3)及び(4)を満たしている請求項1〜3もいずれかに記載の構造発色繊維。
0.85<SP(I)/SP(S)<1.18 (3)
MV(S)/MV(I)>1.1 (4)
【請求項5】
島および海を形成する高分子の少なくとも一方が、黒又は紺色の、着色系染料又は顔料を含んでなる請求項1〜4のいずれかに記載の構造発色繊維。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−214791(P2008−214791A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51443(P2007−51443)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】