説明

構造解析装置及び構造解析方法

【課題】精度が高くかつ汎用性の高い破壊発生予測を可能とする。
【解決手段】構造物を複数の要素に仮想的に分割すると共に各上記要素における変化を算出する有限要素法を用いて、破壊を含めた上記構造物の数値解析を行う構造解析装置であって、各上記要素における破壊歪を当該要素の応力三軸度と当該要素の要素サイズとに関連付けて記憶する破壊歪記憶手段4と、該破壊歪記憶手段4に記憶された上記破壊歪に基づいて各上記要素における破壊の判定を行う破壊判定手段6と、該破壊判定手段6の判定結果によって異なる変化条件に基づいて各上記要素における変化を算出する算出手段8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物を複数の要素に仮想的に分割すると共に各上記要素における変化を算出する有限要素法を用いて、破壊を含めた上記構造物の数値解析を行う構造解析装置及び構造解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ジェットエンジンのファンケース等では、ファンブレードが不測の事態により飛散した場合であっても、飛散片が突き抜けない設計が要求される。
鋼板に対する飛散片の突き抜けに対する予測式には、例えば、Stanford式やBRL式等の実験式がある。
一方で、既存の数値シミュレーションコードを有限要素法に適用し、破壊を含めた構造物の数値解析によって上記高速衝突問題における破壊発生予測を行う方法が提案されている。
【0003】
なお、このような高速衝突問題における破壊発生予測は、ジェットエンジンの分野のみで行われるものではなく、高速で移動する物体が所定の構造物に衝突する可能性のある分野全般で行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−61086号公報
【特許文献2】特開2005−283130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の実験式を用いた破壊発生予測は、実験式の適用範囲が限られていることから、実際の設計条件において厳密な予測を行うが難しい。このため、実際の設計において実験式を用いた破壊発生予測を行う場合には、大きな安全率を設定する必要がある。つまり、実験式を用いた破壊発生予測では精度の高い破壊発生予測を行うことができない。したがって、構造物に対する安全対策が本来必要とされる条件に対して過剰になりやすい。
【0006】
これに対して、有限要素法において既存の数値シミュレーションコードを適用して行う破壊発生予測は、精度の高い予測を行うことができる。
しかしながら、このような破壊発生予測は、実験式を用いた破壊発生予測と比較すれば適用範囲が広いものの、非特許文献1のように、所定の条件の下において取得された数値シミュレーションコードを用いる。このため、条件の変化により、構造物の複数の要素に分割した際の各要素の要素サイズや、各要素の応力三軸度が変化した場合に、正確な破壊発生予測を行える保証はない。このため、有限要素法において既存の数値シミュレーションコードを適用して行う破壊発生予測は、汎用性が低いという問題を有している。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、精度が高くかつ汎用性の高い破壊発生予測を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として以下の構成を採用する。
【0009】
第1の発明は、構造物を複数の要素に仮想的に分割すると共に各上記要素における変化を算出する有限要素法を用いて、破壊を含めた上記構造物の数値解析を行う構造解析装置であって、各上記要素における破壊歪を当該要素の応力三軸度と当該要素の要素サイズとに関連付けて記憶する破壊歪記憶手段と、該破壊歪記憶手段に記憶された上記破壊歪に基づいて各上記要素における破壊の判定を行う破壊判定手段と、該破壊判定手段の判定結果によって異なる変化条件に基づいて各上記要素における変化を算出する算出手段とを備えるという構成を採用する。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記破壊歪記憶手段は、上記応力三軸度と上記要素サイズとに加えて歪速度に関連付けて各上記要素における破壊歪を記憶するという構成を採用する。
【0011】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、各上記要素における応力と歪との関係を当該要素における歪速度に関連付けて記憶する応力歪関係記憶手段を備え、上記算出手段が、該応力歪関係記憶手段に記憶された上記応力と歪との関係に基づいて各上記要素における変化を算出するという構成を採用する。
【0012】
第4の発明は、構造物を複数の要素に仮想的に分割すると共に各上記要素における変化を算出する有限要素法を用いて、破壊を含めた上記構造物の数値解析を行う構造解析方法であって、各上記要素における破壊歪が当該要素の応力三軸度と当該要素の要素サイズとに関連付けられた破壊歪関連データを用いて各上記要素における破壊を判定し、破壊の判定結果によって異なる変化条件に基づいて各上記要素における変化を算出するという構成を採用する。
【0013】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記破壊歪関連データにおいて各上記要素における破壊歪が、上記応力三軸度と上記要素サイズとに加えて歪速度に関連付けられて記憶されているという構成を採用する。
【0014】
第6の発明は、上記第4または第5の発明において、各上記要素における応力と歪との関係が当該要素における歪速度に関連付けられた応力歪関係データを用いて各上記要素における変化を算出するという構成を採用する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、いわゆる有限要素法を用いて構造物の数値解析を行うため、従来の実験式を用いた破壊発生予測と比較して、精度高く破壊発生予測を行うことが可能となる。
【0016】
また、本発明によれば、各要素における破壊歪が当該要素の応力三軸度と当該要素の要素サイズとに関連付けて記憶され、この記憶された破壊歪に基づいて各要素における破壊の判定が行われる。すなわち、本発明によれば、要素の応力三軸度あるいは要素の要素サイズが変化した場合には、当該変化に応じて当該要素の破壊歪も変化する。
このため、本発明によれば、要素の応力三軸度及び要素の要素サイズが変化した場合であっても、当該変化に応じた適切な数値解析を行うことが可能となる。したがって、汎用性の高い破壊発生予測を行うことができる。
【0017】
よって、本発明によれば、精度が高くかつ汎用性の高い破壊発生予測を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態の構造解析装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図2】SUS304からなる試験片に対して、歪速度0.001/sとなるように引張試験を行った結果を示すグラフである。
【図3】SUS304からなる試験片に対して、歪速度をパラメータとして変化させた場合における係数αと係数βの変化を示す試験結果である。
【図4】SUS304からなる試験片に対して行ったねじり試験を行った結果と、同様の試験片を用いた数値シミュレーション結果とを用いることによって得られる応力三軸度と破壊歪との関係を示すグラフである。
【図5】図4に示すグラフを取得するための試験片を示す斜視図である。
【図6】ねじり試験機から取得した回転角とトルクの関係と、上述の有限要素法を用いた数値シミュレーションから取得した回転角とトルクの関係とを示すグラフである。
【図7】数値シミュレーションから得られる回転角と相当塑性歪の関係及び最大トルク時ねじれ角を示すグラフである。
【図8】SUS304からなる試験片に対して、歪速度が0.0006/s、0.007/s、0.07/s、0.6/s、8.6/s、81/s、266/s、1037/sとなるように引張試験を行った結果を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施形態の構造解析方法を説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態の構造解析方法における算出工程を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る構造解析装置及び構造解析方法の一実施形態について説明する。
【0020】
本実施形態の構造解析装置Sは、構造物を複数の要素に仮想的に分割すると共に各要素における変化を算出する有限要素法を用いて、破壊を含めた構造物の数値解析を行うものであり、パーソナルコンピュータやワークステーションによって具現化される。
図1は、本実施形態の構造解析装置Sの概略構成を示す機能ブロック図である。この図に示すように構造解析装置Sは、要素作成部1、材料データ記憶部2、計算条件記憶部3、破壊歪記憶部4(破壊歪記憶手段)、応力歪関係記憶部5(応力歪関係記憶手段)、破壊判定部6(破壊判定手段)、降伏判定部7(降伏判定手段)、算出部8(算出手段)、評価部9、操作入力部10、及び出力部11を備えている。
【0021】
要素作成部1は、操作入力部10からの指令に基づいて構造物を複数の要素に仮想的に分割するものである。
この要素作成部1は、例えば、数値解析において構造物の変化が大きいと推定される領域を小さな要素サイズの要素に分割し、変化が小さいと推定される領域を大きな要素サイズの要素に分割する。このように構造物の領域において要素サイズを変更することによって、数値解析の時間を短縮させると共に精度の高い予測を行うことが可能となる。なお、要素作成部1において、構造物を同じ大きさの要素サイズに均一に分割するようにしても良い。また、一度要素作成部1において作成された要素の要素サイズ及び要素形状は、操作入力部10を介して任意に変更可能とされている。
そして、本実施形態の構造解析装置Sにおいて要素作成部1は、各要素の要素サイズを記憶している。
【0022】
材料データ記憶部2は、数値解析を行うに当たり必要とされる上記構造物の材料データを記憶するものである。例えば、材料データ記憶部2は、構造物の密度、弾性変形領域における構造物の弾性定数(ヤング率)、塑性変形領域における構造物の弾性定数、及び降伏点を記憶している。そして、本実施形態の構造解析装置Sにおいては、破壊を含めた構造物の数値解析を可能とするために、材料データ記憶部2は、破壊後に用いる材料データも記憶している。
なお、これらの材料データは、例えば、操作入力部10を介して材料データ記憶部2に入力される。
【0023】
計算条件記憶部3は、数値解析を行うに当たり必要とされる計算条件を記憶するものである。例えば、計算条件記憶部3は、各要素における境界条件、構造物に作用する荷重条件、構造物が複数の部品からなる場合における部品同士の接触条件、構造物の初期状態を示す初期条件、及びその他の計算式や計算パラメータを記憶している。そして、本実施形態の構造解析装置Sにおいては、破壊を含めた構造物の数値解析を可能とするために、計算条件記憶部3は、破壊後に用いる計算条件も記憶している。
なお、これらの計算条件は、例えば、操作入力部10を介して計算条件記憶部3に入力される。
【0024】
破壊歪記憶部4は、各要素の破壊歪が、要素の応力三軸度(平均応力を相当応力で割った値)と要素の要素サイズと、要素における歪速度とに関連付けられた破壊歪関連データを記憶するものである。
なお、破壊歪関連データは、構造物を形成する材料に対する引張試験等により取得されるものであり、操作入力部10を介して破壊歪記憶部4に入力される。
【0025】
図2は、SUS304からなる試験片に対して、歪速度0.001/sとなるように引張試験を行った結果を示すグラフであり、横軸が要素サイズで縦軸が破断歪を示している。そして、この図から、要素サイズが大きくなるに連れて破壊歪が小さくなる、すなわち破壊歪が要素サイズに依存して変化することが分かる。
【0026】
また、図2に示す実験結果から得られる近似直線は、下に示す近似式(1)によって表すことができる。なお、近似式(1)において、εが破壊歪を示し、Lが要素サイズを示し、α及びβが係数である。
ε=αLβ (1)
そして、図3は、要素サイズを一定とし、SUS304からなる試験片に対して、歪速度をパラメータとして変化させた場合における係数αと係数βの変化を示す試験結果である。この図から、歪速度に依存して係数α及び係数βが変化することが分かる。すなわち、この図から、歪速度に依存して破壊歪が変化することが分かる。
【0027】
図4は、試験片に対して行ったねじり試験を行った結果と、同様の試験片を用いた数値シミュレーション結果とを用いることによって得られる応力三軸度と破壊歪との関係を示すグラフであり、横軸が応力三軸度で縦軸が破壊歪を示している。そして、この図から、応力三軸度が小さくなるに連れて破壊歪が大きくなる、すなわち破壊歪が応力三軸度に依存して変化することが分かる。なお、図4に示すグラフは、図3と同様に、SUS304からなる試験片を用いて取得した。
【0028】
ここで、図4で示すグラフの取得方法について説明する。
例えば、まず「F. A. McClintock, A Criterion for Ductile Fracture by the Growth of Holes, Journal of Applied Mechanics, June 1968, pp.363-371」に記載されている理論解を用いてグラフを描く。ただし、当該理論解では、応力三軸度が極めてゼロに近い場合における破壊歪が極大に求められる傾向がある。このため、応力三軸が極めてゼロに近い領域における破壊歪をねじり試験と数値シミュレーションにより測定し、当該測定値を用いて上記理論解を用いて得られるグラフを補正することによって図4に示すグラフを得る。詳細には、図4に示す曲線部分を上記理論解を用いて取得し、図4に示す直線部分をねじり試験によって取得する。なお、実際には引張試験を行うことによって、上記理論解の妥当性を確認することが好ましい。
【0029】
次に、上記ねじり試験と数値シミュレーションとによって、応力三軸度が極めてゼロに近い場合における破壊歪を求める方法について説明する。
まず、図5に示すように、両端が大径で中央が小径とされた円柱形状の試験片100を用意する。この試験片100において両端100aは、ねじり試験機が把持する箇所である。また、試験片100の中央100bが破断するまでねじられる測定箇所である。
なお、試験片100の両端100aの径は、ねじり試験機の把持具の形態によって決められている。一方、試験片100の中央100bの径は、試験片100の破壊が、ねじり試験機の負荷容量の半分程度で生じるように設定されている。
そして、このような試験片100をねじり試験機によってねじり、最も大きな負荷が作用する試験片100の表層に亀裂が生じた際のトルク及び回転角(最大トルク時ねじれ角)を取得する。また、同時に回転角とトルクの関係を取得する。
【0030】
続いて、有限要素法を用いた数値シミュレーションによって、回転角とトルクの関係、及び回転角と相当塑性歪の関係を計算により求める。なお、本数値シミュレーションは、試験片100の破壊を考慮せずに行う。また、本数値シミュレーションは、上述のねじり試験の前に行っても良い。
【0031】
続いて、図6に示すように、上述のねじり試験機から取得した回転角とトルクの関係と、上述の有限要素法を用いた数値シミュレーションから取得した回転角とトルクの関係とを比較して、当該数値シミュレーションの妥当性を確認する。
ここで、数値シミュレーションから取得した結果がねじり試験機から取得した結果と大きく異なり、妥当性に欠ける場合には、妥当性が得られるまで数値シミュレーションにおける計算条件を変更する。
【0032】
そして、数値シミュレーションから取得した結果の妥当性が得られた場合には、図7に示すように、当該数値シミュレーションから得られる上記回転角と相当塑性歪の関係から、上記最大トルク時ねじれ角における相当塑性歪を取得する。
なお、図7には、数値シミュレーションによって得られた回転角と応力三軸度の関係も示している。この図で示すように応力三軸度のスケールが表示目盛りの10分の1であり、応力三軸度は、最大トルク時ねじれ角に到達するまでに0〜0.01という極めてゼロに近い範囲で変化することが分かる。つまり、本数値シミュレーションによって得られる結果は、応力三軸度が極めてゼロに近い状態で得られるものである。
したがって、上述の最大トルク時ねじれ角における相当塑性歪は、応力三軸度が極めてゼロに近い状態における破壊歪を示す値である。
このようにして、ねじり試験と数値シミュレーションとによって、応力三軸度が極めてゼロに近い場合における破壊歪を求める。
【0033】
なお、図6及び図7に示すように、ねじり試験機の測定誤差等を考慮して、複数の試験片100を用いて複数の最大トルク時ねじれ角を取得することが好ましい。そして、破壊歪を求める際には、より安全を考慮して、例えば、複数の最大トルク時ねじれ角のうち、最も値が小さいものを採用する。
【0034】
そして、上述の理論解を用いて得られるグラフを、応力三軸度が極めてゼロに近い場合における破壊歪を上限値として切欠くことによって、図4で示す、応力三軸度と破壊歪との関係を示すグラフの取得することができる。
【0035】
図2〜図4に示した試験結果から分かるように、破壊歪は、要素の応力三軸度、要素の要素サイズ、要素における歪速度に依存して変化する。
そして、破壊歪記憶部4には、上記応力三軸度、要素サイズ、歪速度をパラメータとして、破壊歪が記憶されている。
【0036】
なお、実際に数値解析を行う場合には、構造物が多量の要素に分割され、さらに各要素における応力三軸度、要素サイズ及び歪速度が時々刻々と変化するため、要素の応力三軸度、要素の要素サイズ、要素における歪速度を細かく設定した場合には、計算負荷及び記憶容量が膨大となる虞がある。このため、要素の応力三軸度、要素の要素サイズ、要素における歪速度を、構造解析装置Sの解析能力に応じて、要素の応力三軸度、要素の要素サイズ、要素における歪速度をある一定の範囲ごとにグルーピングするようにしても良い。例えば、構造解析装置Sの解析能力が低い場合には、例えば要素の要素サイズを大、中、小の3つにグルーピングしても良い。
【0037】
図1に戻り、応力歪関係記憶部5は、要素における応力と歪との関係を示す曲線が、要素における歪速度に関連付けられた応力歪関係データを記憶するものである。
なお、応力歪関係データは、破壊歪関連データと同様に、構造物を形成する材料に対する引張試験等により取得されるものであり、操作入力部10を介して応力歪関係記憶部5に入力される。
【0038】
図8は、SUS304からなる試験片に対して、歪速度が0.0006/s、0.007/s、0.07/s、0.6/s、8.6/s、81/s、266/s、1037/sとなるように引張試験を行った結果を示すグラフであり、横軸が歪で縦軸が応力を示している。そして、この図から、歪速度が変化することによって応力と歪の関係を示す曲線が変化することが分かる。
そして、応力歪関係記憶部5は、歪速度をパラメータとして、応力と歪の関係を示す曲線を複数記憶している。
【0039】
破壊判定部6は、破壊歪記憶部4に記憶された破壊歪関連データ(すなわち破壊歪)に基づいて当該要素を含む領域が破壊されたか否かを判定するものである。
この破壊判定部6は、算出部8から入力される要素の応力三軸度と、材料データ記憶部2に記憶された要素サイズとに基づいて、破壊歪関連データを参照して当該要素の破壊歪を算出し、算出部8から入力される要素における応力と算出した破壊歪とを比較して破壊の判定を行う。なお、破壊判定部6は、算出部8から入力される要素における応力が算出した破壊歪を上回る場合に、破壊されたと判定する。
【0040】
降伏判定部7は、要素が降伏したか否かを判定するものである。
この降伏判定部7は、算出部8から入力される要素における応力が、構造物を形成する材料の降伏点を超えているか否かで要素が降伏したか否かを判定する。なお、降伏判定部7は、算出部8から入力される応力が降伏点を超えている場合に要素が降伏したと判定する。
【0041】
なお、構造物の形成材料の降伏点が歪速度に依存して変化する場合には、降伏点が歪速度に関連付けられたデータを用意し、降伏判定部7が当該データを参照して降伏点を算出するようにしても良い。
【0042】
算出部8は、材料データ記憶部2に記憶された材料データ、及び計算条件記憶部3に記憶された計算条件から、数値解析によって各要素の歪(変化)等を算出するものである。
そして、本実施形態の構造解析装置Sにおいて算出部8は、破壊判定部6の判定結果、及び降伏判定部7の判定結果によって異なる変化条件(材料データ及び計算条件)に基づいて各要素の歪等を算出する。
具体的には、算出部8は、降伏判定部7における判定結果が降伏していないとの判定である場合には、ヤング率及び密度等を用いて各要素の歪を算出する。また、算出部8は、算出した歪及び該歪から算出可能な歪速度に基づいて応力歪関係データを参照して各要素の応力を算出する。さらに算出部8は、算出した各要素の応力から各要素の応力三軸度を算出する。
【0043】
そして、算出部8は、降伏判定部7における判定結果が降伏しているとの判定でかつ破壊判定部6の判定結果が破壊していないとの判定である場合には、塑性変形領域における弾性定数や密度等を用いて各要素の歪を算出する。また、算出部8は、破壊判定部6の判定結果が破壊されているとの判定である場合には、破壊後の材料データ及び破壊後の計算条件に基づいて各要素の変化を算出する。
【0044】
評価部9は、算出部8において算出された各要素の変形量や移動量に基づいて、構造物の数値解析の結果を評価するものであり、数値解析の結果を評価するプログラムを記憶すると共に、当該プログラムを用いて算出された評価結果を出力するものである。
操作入力部10は、本実施形態の構造解析装置Sと作業者とのマンマシンインターフェイスの機能の他、ネットワークや外部メディアから構造解析装置Sへのプログラムやパラメータの入力を行うものである。
出力部11は、評価部9の評価結果や算出部8における算出結果等を出力するものである。
【0045】
なお、本実施形態の構造解析装置Sは、上述のようにパーソナルコンピュータやワークステーションによって具現化されるものであり、より詳細には、CPU等の演算装置、メモリ等の内部記憶装置、ハードディスクドライブ等の外部記憶装置、ディスプレイやプリンタ等の出力装置、マウスやキーボード等の入力装置等によって具現化される。
例えば、本実施形態の構造解析装置Sにおいて材料データ記憶部2、計算条件記憶部3、破壊歪記憶部4、及び応力歪関係記憶部5は、メモリ等の内部記憶装置あるいはハードディスクドライブ等の外部記憶装置によって具現化される。また、要素作成部1、破壊判定部6、降伏判定部7、算出部8、及び評価部9は、CPU等の演算装置によって具現化される。また、操作入力部10は、マウスやキーボード等の入力装置によって具現化される。また、出力部11は、ディスプレイやプリンタ等の出力装置によって具現化される。
【0046】
次に、このように構成された本実施形態の構造解析装置Sの動作(構造解析方法)について、図9及び図10のフローチャートを参照して説明する。
【0047】
本実施形態の構造解析装置Sにおいては、まず要素作成部1によって、数値解析の対象である構造物が複数の要素に仮想的に分割されることで要素作成が行われる(ステップS1)。
ここで、要素作成部1は、操作入力部10を介して入力される指示に基づいて構造物を複数の要素に分割すると共に、各要素の要素サイズを記憶する。
【0048】
続いて、操作入力部10を介して入力される計算条件が計算条件記憶部3に記憶されることによって計算条件設定が行われる(ステップS2)。
ここで、各要素における境界条件、構造物に作用する荷重条件、構造物が複数の部品からなる場合における部品同士の接触条件、構造物の初期状態を示す初期条件、その他の計算式や計算パラメータ(例えば計算期間)、及び破壊後に用いる計算条件等が計算条件記憶部3に記憶される。
【0049】
続いて、操作入力部10を介して入力される材料データが材料データ記憶部2に記憶されることによって材料定義が行われる(ステップS3)。
ここで、構造物の密度や、弾性変形領域における弾性定数、塑性変形領域における弾性定数、及び破壊後に用いる材料データが材料データ記憶部2に記憶される。
【0050】
続いて、操作入力部10を介して入力される破壊歪関連データが破壊歪記憶部4に記憶されることによって破壊歪関連データ設定が行われる(ステップS4)。
さらに、操作入力部10を介して入力される応力歪関係データが応力歪関係記憶部5に記憶されることによって応力歪関係データ設定が行われる(ステップS5)。
【0051】
なお、上述のステップS1〜S5の順序は一例であって、ステップS1〜S5の順序は任意に入れ替え可能である。
【0052】
続いて、破壊判定部6、降伏判定部7及び算出部8によってステップS1において作成された各要素における変化を算出する算出工程を行う(ステップS6)。
【0053】
図10は、本算出工程において1つの要素に対して行われる処理の流れを示すフローチャートである。
図10に示すように、算出工程においては、まず算出部8が弾性変形範囲において要素の歪を算出する(ステップS6a)。具体的には、算出部8は、材料データ記憶部2に記憶されたヤング率及び密度等の材料データや、計算条件記憶部3に記憶された弾性変形範囲における境界条件、荷重条件、接触条件及び初期条件等の計算条件を用いて要素の歪を算出する。
【0054】
続いて算出部8は、ステップS6aで算出した歪から要素における応力を算出する(ステップS6b)。ここで、算出部8は、まずステップS6aで算出した歪の変化量から歪速度を算出する。そして、算出部8は、算出した歪速度に基づいて応力歪関係記憶部5に記憶された応力と歪との関係を示す曲線を決定し、当該曲線及びステップS6aで算出した歪から要素における応力を算出する。
つまり、算出部8は、応力歪関係記憶部5に記憶された応力歪関係データと、ステップS6aで算出した歪とに基づいて要素における応力を算出することによって要素の変化を算出する。
【0055】
続いて、要素が降伏しているか否かの判定が降伏判定部7によって行われる(ステップS6c)。具体的にはステップS6bで算出された応力が、材料データ記憶部2に記憶された降伏点を超えているか否かで要素が降伏したか否かを判定する。なお、降伏判定部7は、算出部8から入力される応力が降伏点を超えている場合に要素が降伏したと判定する。
【0056】
そして、ステップS6cにおいて降伏判定部7によって要素が降伏していないと判定された場合には、算出部8は、計算期間が終了しているかの判定を行う(ステップS6d)。この判定の結果、計算期間が終了していない場合には、算出部8によって時間が進められた上(ステップS6e)で再度ステップS6aが行われる。一方、判定の結果、計算期間が終了している場合には、算出工程が終了する。
【0057】
一方、ステップS6cにおいて降伏判定部7によって要素が降伏していると判定された場合には、算出部8は、塑性変形範囲において要素の歪を算出する(ステップS6f)。つまり、算出部8は、降伏判定部7の判定結果によって異なる計算条件(変化条件)に基づいて要素の歪を算出する。
具体的には、算出部8は、材料データ記憶部2に記憶された塑性変形範囲の弾性定数及び密度等の材料データや、計算条件記憶部3に記憶された塑性変形範囲における境界条件、荷重条件、接触条件等の計算条件を用いて要素の歪を算出する。
【0058】
続いて算出部8は、ステップS6fで算出した歪から要素における応力を算出する(ステップS6g)。ここで、算出部8は、まずステップS6fで算出した歪の変化量から歪速度を算出する。そして、算出部8は、算出した歪速度に基づいて応力歪関係記憶部5に記憶された応力と歪との関係を示す曲線を決定し、当該曲線及びステップS6fで算出した歪から要素における応力を算出する。
【0059】
続いて、要素が破壊しているか否かの判定が破壊判定部6によって行われる(ステップS6h)。ここでは、まず算出部8がステップS6bで算出した応力等から要素の応力三軸度を算出する。そして、破壊判定部6は、算出部8によって算出された応力三軸度及び歪速度と、要素作成部1に記憶された要素サイズとから要素の破壊歪を算出し、算出部8がステップS6gで算出した応力と算出した破壊歪とを比較することによって要素が破壊されたか否かを判定する。なお、破壊判定部6は、算出部8がステップS6gで算出した応力が破壊歪よりも大きい場合に要素が破壊されたと判定する。
【0060】
そして、ステップS6hにおいて破壊判定部6によって要素が降伏していないと判定された場合には、算出部8は、計算期間が終了しているかの判定を行う(ステップS6i)。この判定の結果、計算期間が終了していない場合には、算出部8によって時間が進められた上(ステップS6j)で再度ステップS6fが行われる。一方、判定の結果、計算期間が終了している場合には、算出工程が終了する。
【0061】
一方、ステップS6hにおいて破壊判定部6によって要素が破壊していると判定された場合には、算出部8は、計算条件記憶部3に記憶された破壊後の計算条件を用いた計算を行う(ステップS6k)。そして、算出部8は、計算期間が終了しているかの判定(ステップS6l)、時間を進める工程(ステップS6m)及びステップS6kを計算期間が終了するまで繰り返し行う。
【0062】
このようにして図9に示す算出工程(ステップS6)が終了すると、評価部9によって算出工程で得られた算出結果に対する評価が行われる(ステップS7)。
なお、ステップS6における算出結果及びステップS7における評価結果は、出力部11において視認化される。つまり、出力部11がディスプレイである場合には算出結果及び評価結果が表示され、出力部11がプリンタである場合には算出結果及び評価結果が印刷される。
【0063】
以上のような本実施形態の構造解析装置S及び構造解析方法によれば、構造物を複数の要素に仮想的に分割すると共に各要素における変化(歪変化、応力変化、状態変化等)を算出する。つまり、本実施形態の構造解析装置S及び構造解析方法によれば、いわゆる有限要素法を用いて構造物の数値解析を行う。このため、従来の実験式を用いた破壊発生予測と比較して、精度高く破壊発生予測を行うことが可能となる。
【0064】
また、本実施形態の構造解析装置S及び構造解析方法によれば、各要素における破壊歪が当該要素の応力三軸度と当該要素の要素サイズと当該要素における歪速度に関連付けて記憶され、この記憶された破壊歪に基づいて各要素における破壊の判定が行われる。すなわち、本実施形態の構造解析装置S及び構造解析方法によれば、要素の応力三軸度、要素の要素サイズあるいは要素における歪速度が変化した場合には、当該変化に応じて当該要素の破壊歪も変化する。
このため、本実施形態の構造解析装置S及び構造解析方法によれば、要素の応力三軸度、要素の要素サイズあるいは要素における歪速度が変化した場合であっても、当該変化に応じた適切な数値解析を行うことが可能となる。したがって、汎用性の高い破壊発生予測を行うことができる。
【0065】
よって、本実施形態の構造解析装置S及び構造解析方法によれば、精度が高くかつ汎用性の高い破壊発生予測を行うことが可能となる。
【0066】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0067】
例えば、上記実施形態においては、より汎用性を高めるために、破壊歪記憶部4に記憶される破壊歪関連データにおいて、破壊歪を要素の応力三軸度、要素の要素サイズ及び要素における歪速度の3つのパラメータに関連付けて記憶する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、破壊歪を上記3つのパラメータ全てに関連付けて記憶させなくとも、従来の実験式を用いた破壊発生予測と比較して汎用性を高めることができる。つまり、例えば、破壊歪を要素の応力三軸度と要素の要素サイズとに関連付けて記憶するようにしても良い。
【0068】
また、上記実施形態においては、より汎用性を高めるために、要素における応力と歪との関係(応力と歪との関係曲線)を当該要素における歪速度に関連付けた応力歪関係データを応力歪関係記憶部5において記憶し、当該応力歪関係データに基づいて各要素における応力(変化)を算出し、さらに当該応力歪関係データを参照して算出した応力に基づいて要素の降伏を判定する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、必ずしも応力歪関係データに基づいて各要素における応力を算出する必要はない。
【符号の説明】
【0069】
1……要素作成部、2……材料データ記憶部、3……計算条件記憶部、4……破壊歪記憶部(破壊歪記憶手段)、5……応力歪関係記憶部(応力歪関係記憶手段)、6……破壊判定部(破壊判定手段)、7……降伏判定部(降伏判定手段)、8……算出部(算出手段)、9……評価部、10……操作入力部、11……出力部、S……構造解析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を複数の要素に仮想的に分割すると共に各前記要素における変化を算出する有限要素法を用いて、破壊を含めた前記構造物の数値解析を行う構造解析装置であって、
各前記要素における破壊歪を当該要素の応力三軸度と当該要素の要素サイズとに関連付けて記憶する破壊歪記憶手段と、
該破壊歪記憶手段に記憶された前記破壊歪に基づいて各前記要素における破壊の判定を行う破壊判定手段と、
該破壊判定手段の判定結果によって異なる変化条件に基づいて各前記要素における変化を算出する算出手段と
を備えることを特徴とする構造解析装置。
【請求項2】
前記破壊歪記憶手段は、前記応力三軸度と前記要素サイズとに加えて歪速度に関連付けて各前記要素における破壊歪を記憶することを特徴とする請求項1記載の構造解析装置。
【請求項3】
各前記要素における応力と歪との関係を当該要素における歪速度に関連付けて記憶する応力歪関係記憶手段を備え、
前記算出手段は、該応力歪関係記憶手段に記憶された前記応力と歪との関係に基づいて各前記要素における変化を算出する
ことを特徴とする請求項1または2記載の構造解析装置。
【請求項4】
構造物を複数の要素に仮想的に分割すると共に各前記要素における変化を算出する有限要素法を用いて、破壊を含めた前記構造物の数値解析を行う構造解析方法であって、
各前記要素における破壊歪が当該要素の応力三軸度と当該要素の要素サイズとに関連付けられた破壊歪関連データを用いて各前記要素における破壊を判定し、
破壊の判定結果によって異なる変化条件に基づいて各前記要素における変化を算出する
ことを特徴とする構造解析方法。
【請求項5】
前記破壊歪関連データにおいて各前記要素における破壊歪が、前記応力三軸度と前記要素サイズとに加えて歪速度に関連付けられて記憶されていることを特徴とする請求項4記載の構造解析方法。
【請求項6】
各前記要素における応力と歪との関係が当該要素における歪速度に関連付けられた応力歪関係データを用いて各前記要素における変化を算出することを特徴とする請求項4または5記載の構造解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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