説明

標的バクテリアあるいはファージを特定の属、種若しくは血清型として特定若しくは分類する方法

【課題】宿主−ファージ類似性を捕捉するゲノム指紋についての相対的エントロピーアルゴリズムの提供。
【解決手段】以下のステップにより標的バクテリアあるいはファージを分類する方法を開発した。(a)標的となるゲノム配列を特定するステップ、(b)標的ゲノムから誘導されるランダム化された背景ゲノムを作成するステップ、(c)反復アルゴリズムを実行し、背景ゲノムと標的ゲノム間の相違に影響するオリゴヌクレオチドを特定するステップ、(d)ステップ(C)で選択されたオリゴヌクレオチド配列を知られたバクテリア若しくはファージ配列とを比較するステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ゲノム指紋についての相対的エントロピーアルゴリズムは、宿主−ファージ類似性を捕捉する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム分析は、生物の中で多くの配列差異を網羅していない。モノヌクレオチドおよびジヌクレオチド含有量の両方、並びにコドン用法は、ゲノムの中で広範に変化する(6)。均等に小型の細菌ゲノムのサイズは、各生物を説明する、実質的に豊富な集団の配列に基づいた特徴を決定するのに統計的に十分である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、これらの特徴の多くは、特に、複雑な制約により、コーディング領域で、分かりにくいままであった。各(タンパク質コーディング)遺伝子は、それの有望なヌクレオチド配列を制約する特定のタンパク質をコードする。遺伝子コードが変性しているので、この制約は、さらに、各遺伝子についての膨大な数の有望なDNA配列に対処する。さらに、各遺伝子における全体的なコドン用法は、おそらく、tRNA存在度を同等に許容することによって決定される強力な生物学上の成果を示すことが知られている(5)。コーディング領域内の新たな特徴を単離するために、これらの制約は、考慮から除外されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この問題を解決するために、発明者らは、実際のゲノムと、上述制約を正確に共有するが、しかしそうでなければランダムであるバックグランド・ゲノムを作成する(4)。バックグランド・ゲノムは、同じタンパク質を全てコードし、そしてコドン用法を、各遺伝子について厳密に合致させる。我々が探している隠れた特徴は、バックグランド・ゲノムと実際のゲノムとの間の差異に含まれる。問題は、これらの差異を引き出すまで減少される。
【0005】
発明者らは、情報理論を、バックグランドのものに比べて実際のゲノムで過剰および過少表示されたヌクレオチドの記号列(ワード)を組織的にコンピュータ処理するアルゴリズムに組込んだ(詳細について「材料および方法」を参照)。これらのワードを見出す上での主要な困難は、それらが独立でないことである。例えば、ワードACGTが、過少表示される場合、それによりACGTAも、ACGなどと同様に、過少表示される。その仮定は、これらのワードの内のたった1つが、生物学上の有為性を示すことである一方で、他方は、「尻馬に乗る」である。
【0006】
この問題は、全てのワードに及ぶ。所定の長さのワードの集合は、限界があり、そしてゲノムもそうであるので、いずれか1つのワードの頻度は、全てのほかのものの頻度に影響する。発明者らは、実際およびバックグランド・ゲノムの間の差に最も寄与するワードを選択する情報論理測定を使用する反復アルゴリズムを修正した。各段階で、リストにこのワードを加え、そしてその後、バックグランド・ゲノムを適正な規模にし直すことによってそれの効果を考慮から除外した。この点で、我々は、ワードのリストを得て、そしてその各々は、実際およびバックグランド・ゲノムの間の差に独立に寄与する生物学上の有為性を示しそうである。ゲノムのサイズは、解決する統計学上の力を有するワードの長さを決定する。エッシェリキア・コリ(Escherichia coli、大腸菌)のような典型的細菌については、7ヌクレオチドまでの長さを保存的に含みうる。遺伝子によるアミノ酸順序およびコドン用法を、固定しており、それにより、本発明のアルゴリズムが網羅しない特徴は、モノヌクレオチド含有量およびコドン用法に相補的である。典型的細菌については、アルゴリズムは、長さ2および7ヌクレオチドの間の100から200までの配列を見出す(表1)。これらの先に隠されたシグナルは、生物学上の情報の価値を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
材料及び方法
相対的エントロピーアルゴリズム。
【0008】
ゲノムのコーディング領域で最も有為に過剰および過少表示されるワードを発見するために、我々は、最初に、我々が実際のゲノムとの比較に使用したランダム化バックグランド・ゲノムを創り出した。これは、すべての遺伝子内に各アミノ酸に対応するコドンをランダムに置換することによって達成される(4)。
【0009】
実際のゲノムと遺伝子当たり同じアミノ酸含有量およびコドン用法を示すが、そうでなければランダムである新たなコーディング配列を作成した。その後、我々は、このランダム化ゲノム中の長さ2から7までの各ワード、wについての発生の数を計数した(最大長のワードとみなされる7の我々の選択は、目的のゲノム中のコーディング配列の総長さによって読み取られた。各ワードの発生の平均数は、我々のアルゴリズムが確固不動であるために、>0であるべきである。)。 ランダムゲノムを発生する手段を、30回反復し、そしてその時点で、発生の数における標準偏差は、そのワードに収束する。その後、我々は、各ワードwの平均NB(w)バックグランド総数をコンピュータ処理した。下に明らかにされる理由のため、我々は、長さ7のワードのみとみなし、部分列を計測することにより短い長さのワードについての価値を生じさせることによって、NB(w)を決定することを選択した。我々は、L(w)をワードwの長さと等しくし、そしてC(Wi7,w)を、記号列wが長さ7の記号列Wi7に含有される回数に等しくした。例として、wがAACであり、そしてW2577がAACAAACである場合、それによりL(w)は、3に等しく、そしてC(W2577,W)は2に等しい。
【0010】
B(Wi7)=1/30×(30バックグランド・ゲノム全てにおけるWi7の計測数の総計)
【0011】
【数1】

【0012】
【表1】

同様に、我々は、NR(w)を、実際のゲノムでのwの計数と等しくさせた。続くものの中で、我々は、計数よりむしろ頻度(または等価に確率)で作業し、それにより、我々は、式PB(w)=NB(w)/LおよびPR(w)=NR(w)/L(式中、Lは、我々のコーディング配列の総長さである)を用いて各ワードについての頻度を形成した。
【0013】
2つの頻度分布PBおよびPRは、ワード検索アルゴリズムについての出発点であった。このアルゴリズムは、順に繰返された2つの段階より構成される。第一段階では、バックグランド分布から実際のものを最も明らかに分離するワードは、下に記述されるべき有為さの測定値に基づいて選択された。第二段階で、バックグランド確率分布を、段階1で見られるワードによる差を考慮から除外するように適正な規模に直した。これらの2段階を、固定した回数、またはバックグランド分布が実際のものに十分に近くなるまで繰返した。
【0014】
実際およびバックグランド確率分布の間のKullback−Leibler距離は、
【0015】
【数2】

によって示される。
【0016】
その後、我々は、2から7までの長さのいずれかのワードwが、DKLに与える範囲を測定する実体の数字を得たかった。自然の測定値は、
【0017】
【数3】

によって示される。
【0018】
これも、2つの確率分布、特に、我々が、所定のワードがwであるかないかどうかのみを知っている粗雑な実際およびバックグランド分布の間のKullback−Leibler距離と考えられうる(12)。反復の第一段階では、我々は、有為な測定値S(w)を最大にする長さ2から7までのワードwを選択した。
【0019】
次の段階は、wの寄与が、実測およびバックグランド分布の両方で一致になるように、最小手段でバックグランド分布を適正な規模に直すことであった。最小に規模を直すことについては、同じ回数、wを含む長さ7のワードWi7の頻度の比は、変更すべきでない。つまり、我々は、全てのワードWi7を、等しい因子による同じものC(Wi7、w)に規模を改めたかった。したがって、我々は、適切なきめの粗さの詳細な確率分布で作業する必要があった。バックグランドについての我々の分布は、確率PB(Wi7)で長さ7のワードWi7の集合と定義された。我々は、この集合のWi7を、所定の部分集合の各要素が、ワードwを等しい回数含むばらばらの部分集合に分けた。これらの集合は、
【0020】
【数4】

である。
そしてJ={0、...、6}および
【0021】
【数5】

我々は、実際およびバックグランド分布で所定の部分集合中にある確率が等しいように、これらのばらばらの部分集合KJ(w)を適切な規模に直したかった。
【数6】

【0022】
【数7】

それらが、古い確率分布(およびそれらの確率を加えた)からグループ分けされる要素であるので、十分に定義された確率分布がある。確率を保存しつつ、wの寄与を除外する規模修正は、
【0023】
【数8】

(式中、全てのiに関して、Wi7 ∈KJ
によって示される。この規模修正で、wの実体の数字は、ここでS規模修正(w)=0で、それによりDKLに対するwの寄与は、除かれたことをに特に言及する。その後、我々は、次のワードw’などを得る段階1を繰返した。
【0024】
バックグランド分布PB(Wi7)が、実際の分布PR(Wi7)に収束するこの反復アルゴリズムで見出すことは困難でない。これは、DKLが、単調に減少しているからである(下記を参照)。DKLが負でない、そして2つの分布が一致する場合、またはただ一致するだけで、0であることは周知である。全てのwについての方程式S(w)=0も、実際およびバックグランド分布が一致することを暗示するので、アルゴリズムは、収束が達成される前には、停止しない。最終的に、DKLは、その後、その値より下にそれを減少させるであろうワードを見出すことができるであろうから、正の値に収束できない。
【0025】
アプリケーションについては、我々は、反復が、もはや、リストに統計的に有為なワードを与えないときに結論を下さなければならなかった。この中断は、可能性変動が、複数の仮説について適切に修正された最も有為な残りのワード[長さL(w)の全てのワードの集合]を創造することになりそうな時点である。中断は、選択ワードwが
【0026】
【数9】

(式中、Δ(w)は、wについてのバックグランド計数の標準偏差である)
を満足するときに起こる。本文献でのアプリケーションについては、我々は、100回反復の後停止し、そしてそれは、実質的に中断より下である。
【0027】
KLが、規模修正で単調に減少することの証明。j∈SおよびS有望な結果の集合と共に、2つの確率分布{pj}および{qj}を考慮すると、Kullback−Leibler距離は、
【0028】
【数10】

である。これは、負でなく、そして、分布が一致する場合のみゼロである。
【0029】
Sのばらばらの区分を、r集合に考慮すると、S1...Sr、すなわち、
k≠lおよび∪ii=Sである場合、Sk・Si=・
【0030】
【数11】

次に、きめが粗い確率を定義すると、
【0031】
【数12】

iは、全てのiについて>0であると推定して、我々は、PiおよびQiの両方が、それら自体、確率分布であることに特に言及する。
【0032】
規模を適正に直した分布を定義すると、
【0033】
【数13】

そして、新たなKullback−Leibler距離は、Piは、全てのiについてQiに等しい場合のみ対等である。
【0034】
【数14】

スコア・アルゴリズム。長さgのゲノムGに関して長さsのコーディング配列を記録するために、我々は、最初に、以下の修飾を伴って、上に記述されるとおりGについてのワードリストを作成した。それらが長さsの配列に有為である場合のみに、ワードを、リストに加えた。この有為性は、各ワードについての総数および標準偏差を、規模sに直すことによって決定された。我々は、バックグランド・ゲノムおよび実際のゲノム中の各ワードの総数に、配列Sに関する予測される総数NbおよびNrを示すs/gを掛けた。標準偏差は、√s/gにより適正な規模に直し、そしてΔsを示す。ワードが、式|Nr−Nb|>3×Δsを満足する場合、それにより、それは、リストに含まれた;そうでなければ、それは飛ばされる。sは、gよりかなり少ないので、この基準は、上に記述される複数の仮説で修正された中断より実質的にいっそう厳密であった。バックグランド分布の規模を改めることを含めた残りの反復手段は、上に記述されるものと同じであった。
【0035】
この新たなリストLは、ワードXの数を用いたスコア付けテンプレートを形成した。スコアを得るために、我々は、上で記述されたものと同じモンテ・カルロシャッフル手段によって配列SのバックグランドBを形成した。その後、我々は、以下の反復アルゴリズムを履行した。各段階で、我々は、指示されたリストLからワードWを引き出した。その後、我々は、配列SとバックグランドBでのそのワードの総数を比較し、そしてSとBとの間のWについての偏りの方向が、ゲノムGとそれのバックグランドとの間のWついてのものと同じである場合のみに、すなわち、Wが、それらの個々のバックグランドに比べてGおよびSの両方で過剰表示されるか、または両方で過少表示される場合のみに、我々のスコアに1を加えた。その後、我々は、Wの効果を除外する、上に記述される手段でBの規模を改め、そして次の段階に進んだ。全リストLを見返して、我々は、ゲノムと配列の間に一致がある有望なワードXの内の数Yを得た。最終スコアは、C×(X−Y/2)/√Yであり、そしてCは一定であった。各短配列については、スコア付けは、NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=Genome)中の164の細菌種全てについて行われ、そしてそれは、253クロモソームを含んだ。
【0036】
系統発生学の樹についての測定基準。測定基準は、50kbスライス及び上に記述されるスコア付け方法を利用した。2つのゲノムAおよびBの距離を、三段階で計算した。第一に、ゲノムAの50kbスライスの全てを、全ゲノムBに対してスコア付けし、そしてその後、そのスコアを平均した。同じ工程を、ゲノムAに対してスコア付けされたゲノムBの50kbスライスについて繰返した。第二に、2つの平均を、対称的にした。最後に、対称的スコアを、最大の有望なスコアから減じた。三角不等式に従わないが、この距離は、AがBに等しい場合にのみ、測定基準−対称的な正の明確なゼロの特性のほとんどを示す。我々は、最も近隣のクラスター群を使用し、そしてその樹を出力するPHYLIPソフトウエア・パッケージを使用した(3)。
【0037】
結果
ワードリストは、全細菌ゲノムから生じるが、それらは、ゲノムを通して均質であるDNA配列の特徴に対応する。我々は、2つの別個の方法でこれを確認した。第一に、例としてイー.コリ(E.coli)を使用して、我々は、ゲノムを半分に分け、そしてその2つの半分に、独立にアルゴリズムを作動させた。生じたリストは、統計的変動まで同じであった。100ワードのリストについては、上位80ワードが、両方のリストにあった。その工程を、様々な分配で複数回繰返し、そして結果は類似であった。
【0038】
ワードの過少および過剰表示が、ゲノムの局所特徴であることの我々の二次調査のために、我々は、各ゲノムから得られるワードリストに基づいたコーディングDNAの配列を記録する基本的アルゴリズムを創り出した。このアルゴリズムは、それの入力として、コーディングDNA配列、およびワードのリストを利用し、そしてその配列に、配列中のワードの過少および過剰表示に基づいてスコアを割り当てる(材料および方法を参照)。NCBIデータベース中で長さ100kbより大きな253細菌染色体を、50kbおよび100kbスライスに分けた。これらの配列を、164種全てに対して別個にスコア付けした。100kbスライスの92パーセントは、それら自身の種で最高にスコア付けされた。50kb配列を使用して、86%は、それら自身の種で最高にスコア付けされた。これは、ワードが、各細菌ゲノムを通して均質である特徴に対応することを確認する。GC含有量もコドン用法のいずれも、等質性のこの特性を示さない;両方が、単独ゲノム内で実質的に変化する。さらに、この成果は、これらの隠れワードに基づいたスコア付け手段が、配列の有用な選別器であることを示唆する。例えば、Venterら(9)によって記述されるサルガッソー海にいる微生物から獲得される配列を、同類の遺伝子を必要とすることなく、既知細菌と比較しうる。(最も知られている細菌ゲノム選別器は、KarlinおよびCardon[6]により開発されたオリゴヌクレオチド・アプローチである。スコア付けアルゴリズムの我々の無垢な第一版を用いてさえ、50kbと100kbについての結果は、4までの長さを示すオリゴヌクレオチドの頻度を比較することに関与する最も包括的なオリゴヌクレオチド・アプローチを用いたものよりわずかに優れている。我々のスコア付けは、Venterら[9]により使用されるジヌクレオチド・アプローチのものより実質的に優れていた。)
我々のアプローチは、ウイルスとそれらの宿主との間の関係を研究するのに十分に適してもいる。ウイルスDNAをコピーし、そして宿主の内側で発現させるので、ウイルスおよびそれらの宿主が、ある程度の進化圧力を共有することが予想されるかもしれない。しかし、モノヌクレオチド含有量およびコドン用法は、宿主とファージとの間で劇的に異なる。ある種の情報は、オリゴヌクレオチド比較から得られたが、しかし「材料および方法」で記述される我々スコア・システムは、60%より多く優れている。NCBIウエブサイトでの配列決定されたDNAファージの集合の内、185ファージが、既知一次宿主を有する。そのファージの多くは、知られているか、または同じ属内の複数の宿主種を有することが推測される。この理由に関して、我々は、属レベルで宿主標的を考慮した。164種は、108の異なる属に分かれる。我々のアルゴリズムについては、正しい宿主属は、185ファージの内93について最高のスコアを付け、そして131ファージは、上位3つのスコアで正しい宿主を有した(表2)。比較に関しては、最高のオリゴヌクレオチド・スコアシステムは、185の正しい宿主属の内58を示した。コドン用法とモノヌクレオチド含有量の両方が、ファージ宿主のわずかな予測変数である。
【0039】
我々の解析を、既知ファージの大部分を包含する二本鎖DNA(dsDNA)ファージに限定することによって、我々の宿主予測は、明らかに改善した。35の一本鎖DNAファージを取り除くことが、スコア付けを、上位スコアについて87/150すなわち58%まで、そして上位3つのスコアについて123/150すなわち82%まで改善した。ファージは、さらに、温度と溶解素に階層化されうる(1)。なお配列決定されたファージの大半を構成する温度dsDNAファージに関しては、宿主についての我々の予測は、きわめて良好であった(上位3点で93%、そして上位のスコアで70%)。溶解素ファージは、なお、上位3つで50%より優れているが、同様の得点は得られず、そしてそれらのDNAが、宿主のものと同じ進化圧力がかかっていないことを示している。
【0040】
【表2】

我々は、我々のスコア・アルゴリズムを、ゲノム間の距離を形成するのに適合させた(「材料および方法」を参照)。階層クラスター群を、164の細菌種の集合の距離の行列に使用して、我々は、系統樹を作成した(図1a)。この樹は、標準細菌分類学の大半を捕捉する。例えば、図1bを参照すると、エンテロバクテリア(Enterobacteria)を、同じ分岐群にグループ分けされることを示している。これは、ワードリストによりコーディングされた特性が、進化的に保存されることを示唆する。距離は、全ゲノム特性に基づいているので、我々は、遺伝子水平移入のような系統樹木を作成する上で共通の落とし穴のいくつかを避けた。さらに、この方法は、均質な遺伝子または多量の配列決定されたゲノムを必要せずに、この樹での新たな種の追加が出来た。
【0041】
検討
我々は、各細菌ゲノムのコーディング領域中に100を超える新たなシグナルを見出すアルゴリズムを導入した。表されるアプリケーションの集合は、選別器としてこれらのシグナル(ワード)の使用、およびファージとそれらの宿主の間のゲノム結合、並びに統計学上の樹の作成を含む。これらは、アルゴリズム潜在用途の部分集合にすぎない。真核生物のためのある種の有望な用法は、スライス部位検出、mRNA分解または安定化シグナル、組織特異性、および宿主−ウイルス関係が挙げられる。実際のエキソンは、エキソン分断エンハンサーのような過剰表示シグナルを有する(2)。我々のアルゴリズムは、実際のエキソン中の過剰および過少表示された配列の集約的リストを測定でき、そしてそれは、イントロン性配列を混同することから、実際のエキソンを切り離すために使用することが可能である。mRNA安定性については、2,3のグループが、ヒトを含めた多様な生物における多数のmRNAについての崩壊定数を測定した(8、11)。半減期の範囲は、2桁単位となるが、しかし安定性におけるこの差を決定するシグナルまたは構造は、知られていない。我々のアルゴリズムを、1,000の最も迅速に崩壊するmRNAと、1,000の最も安定なmRNAの集合に使用する場合、2つのリストでの差は、重要なシグナルの集合を提供するにちがいない。組織特異性については、様々の組織で最初に発現される遺伝子が、固有の特性を示すことが最近2,3年で示されてきた;それらのコドン用法およびGC含有量は、異なる(7、10)。我々は、組織を区分する別のシグナルを見出すことができるはずである。これらのシグナルは、ウイルスに関する宿主組織についての情報を提供する可能性を示す。ファージおよび細菌宿主によって(またはヒト・ウイルスおよびそれらの宿主組織によって)共有されないコドン用法およびモノヌクレオチド含有量と異なり、我々のアルゴリズムは、ウイルス性宿主のきわめて良好な予測変数である。
【0042】
このアルゴリズムは、転写因子結合部位を見出す助けにも使用しうる。DPIインタラクト・データベース(http://arep.med.harvard.edu/dpinteract/)から、我々は、イー.コリ(大腸菌)について列挙された15またはそれより多くの結合部位を有する13の転写因子についての既知結合部位の集合を抽出した。結合部位は、結合モチーフをスコア付けする重量マトリックスの集合を測定した。実際のイー.コリゲノム上を重量マトリックスに展開させ、そしてそれらを、バックグランド・イー.コリゲノムと比較することによって、我々は、13のモチーフの内12が、コーディング領域で明らかに(4標準偏差)過少表示されることが分かった。この手段は、一般に使用されるモチーフファインダーが、実際の転写因子結合モチーフでない過剰シグナルをはじき出すときに、即時利用性のものであるモチーフが現実であるかどうかを決定するフィルターとして使用されうる。
【0043】



図1(a)NCBIデータベースで見られる164の細菌種についての系統学上の樹。三角形は、エンテロバクテリアの分岐群を含む。(b)その樹のエンテロバクテリアの分岐群の引き伸ばし。アシネトバクター株ADP1、ニトロソモナス・ヨーロピアエ、エルビニア・カロトボラ、エッシェリキア・コリ、サルモネラ・エンテリカ、サルモネラ・エンテリカ・セロバル・ティフィ、シゲラ・フレクスネリ、ホトロアブダス・ルミネッセンス、エルシニア・ペスチス、エルシニア・シュードツバキュロシス、イジオマリナ・ロイヒエンシス、シゲラ・オネイデンシス、ビブリオ・コレラエ、ビブリオ・パラハエモリチクス、およびビブリオ・ブルニフィカスについての結果が示される。この群から消えている唯一のエンテロバクテリアは、ブキネラ・アフィジコラである。
【0044】
これらのシグナルの広範な使用については、我々は、真のコーディング領域を明白に表すバックグランド・モデルの開発を期待している。多くの生物情報学上の問題は、それを任意の基準と比較することによって、長いモチーフまたは配列を探すことを必要とする。これらの問題は、実際のゲノムでの基本原則の全てを含むバックグランド・モデルを発生する方法がないという、困難さを示している。我々のアルゴリズムは、短い包括的原則の全てを決定する。これらの原則を予想する基準・モデルを作成することで、多様な困難な生物情報学上の問題を追跡可能にさせる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的バクテリアあるいはファージを特定の属、種若しくは血清型として特定若しくは分類する方法であって、
a)標的バクテリア若しくはファージのゲノム配列を提供するステップと、
b)標的ゲノムと同じアミノ酸内容と遺伝子あたりのコドン利用性を有したランダム化された背景ゲノムを提供するステップと、
c)反復アルゴリズムを実行し、長さで背景ゲノムと標的ゲノムとの間の相違に最も影響を及ぼす配列を表す標的のゲノム配列で約2個から約7個のヌクレオチドのオリゴヌクレオチド配列を特定するステップであって、前記反復アルゴリズムは、
i)標的ゲノムを背景ゲノムから最も大きく分離するオリゴヌクレオチド配列を選択するステップと、
ii)ステップ(i)で選択されたオリゴヌクレオチドのために相違をファクターアウトするように背景の確立配分を再スケーリングするステップと、
iii)背景配分が標的配分に接近するまで(i)ステップを反復するステップと、
を含んでいるステップと、
d)ステップ(c)で選択されたオリゴヌクレオチド配列を知られたバクテリア若しくはファージ配列と比較するステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。

【公開番号】特開2007−319016(P2007−319016A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−149797(P2006−149797)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(506183096)ザ インスティチュート フォー アドバンスド スタディ (4)
【Fターム(参考)】