説明

標的物質検出器および標的物質検出方法

【課題】標的物質を短時間で、簡易にかつ鋭敏に検出できる。
【解決手段】標的物質検出器1aは、片面に凹凸部7aが形成され、少なくとも凹凸部7a表面が絶縁体である基板4aと、標的結合物質とカーボンナノチューブとの複数の複合体が、凹凸部7a形成面上に、不規則な網目状に配置されることにより形成された標的物質反応部3と、標的物質反応部3と電気的に結合された二つの電極2,2と、を含む。標的物質を検出するには、標的物質検出器1aの標的物質反応部3に検体を接触させた後、二つの電極2、2間の電気抵抗値を測定する。このときに得られた電気抵抗値に基づいて、標的物質が含まれているか否かを検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的物質の存在を検出する標的物質検出器およびこの標的物質検出器を用いた標的物質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、近年その特異な性質を利用して、各種センサーとしての開発が進められている。例えば、特許文献1には、格子欠陥2個を挟むように2個の電極を配置して標的物質を検出する装置が記載されている。
【0003】
また、微量の標的物質を検出する方法として、抗原−抗体反応を利用したELISA法や、特許文献2に記載されたLC/MSによる測定法が知られている。また特許文献3では、抗原抗体複合体を電気泳動させ、電気泳動セルに光源由来の光を導入して散乱光を分析することにより標的物質を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−220513号公報(請求項1、図9A)
【特許文献2】特開2007−24822号公報(請求項2)
【特許文献3】特開平9−49839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、工業的に得られるカーボンナノチューブは、格子欠陥のあるものとないものとの混合物として得られ、両者を分離することは困難である。また、前記カーボンナノチューブは、金属的性質をもつものと半導体的性質をもつものとの混合物として得られ、両者を分離することは困難である。
【0006】
特許文献1に記載された技術は、様々な性質を持つカーボンナノチューブの混合物の中から、格子欠陥を2個以上含む一本のカーボンナノチューブを選別し、選別した一本のカーボンナノチューブに対し、適当な位置に電極を作製しなければならない。
【0007】
また、抗原−抗体反応を利用したELISA法、LC/MSによる測定法、および特許文献3に記載された電気泳動法は、測定するために多くの時間と煩雑な操作を必要としたり、特殊で高価な機器を必要としたりする。本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、標的物質を短時間で、簡易にかつ鋭敏に検出できる標的物質検出器および標的物質検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明に係る標的物質検出器は、片面に凹凸部が形成され、少なくとも前記凹凸部表面が絶縁体である基板と、標的物質と特異的に結合する標的結合物質とカーボンナノチューブとの複数の複合体が、前記基板の凹凸部形成面上に、不規則な網目状に配置されることにより形成された標的物質反応部と、前記標的物質反応部と電気的に結合された少なくとも二つの電極と、を含むことを特徴とする。これにより、標的物質を短時間で、簡易にかつ鋭敏に検出できる。
【0009】
基板の片面に凹凸部が形成されていることで、基板の凹凸部形成面に標的物質と特異的に結合する標的結合物質とカーボンナノチューブとの複合体(以下複合体と略する場合もある。)が配置されたときに、複合体が凹凸部の凸部により支持されて、凸部と凸部との間では、複合体は基板に接触しないこととなる。このため、複合体の表面のうち基板に接触していない部分が、凹凸部が形成されていない基板に複合体を配置する場合と比較して増大する。複合体の表面のうち基板に接触していない部分が増大すると、標的物質と結合することのできる複合体の表面が増大するため、標的物質を鋭敏に検出できる。
【0010】
また、複数の複合体を不規則な網目状に配置することで、複数のカーボンナノチューブが、様々な特性を持ったカーボンナノチューブの集合であっても、平均化されたカーボンナノチューブの特性が標的物質検出器に現れる。そのため、複数の標的物質検出器同士の関係では特性のばらつきを小さくすることができる。すなわち、様々な特性を持ったカーボンナノチューブを分離せずに用いることができるので、簡易に標的物質検出器を作製でき、その結果簡易に標的物質を検出することができる。
【0011】
また本発明に係る標的物質検出器は、前記複数の複合体が、前記標的結合物質と金属性カーボンナノチューブとの複合体と、前記標的結合物質と半導体性カーボンナノチューブとの複合体との混合物であることが好ましい。これにより、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとの分離を必要とせず安価に標的物質検出器を作製することができる。
【0012】
また本発明に係る標的物質検出器は、前記凹凸部の、隣りあう凸部同士の間隔が、100nm以上3μm以下であり、前記凸部の高さが、20nm以上であることを特徴とする。
【0013】
また本発明に係る標的物質検出器は、前記基板に対する水の接触角が、空気中および室温において30度以下であることを特徴とする。これにより、むらの少ない標的物質反応部を作製することができる。
【0014】
また本発明に係る標的物質検出器は、前記基板が、親水化処理されていることを特徴とする。これにより、むらの少ない標的物質反応部を作製することができる。
【0015】
また本発明に係る標的物質検出器は、前記標的物質反応部と絶縁されて形成されると共に、前記基板の前記凹凸部が形成された面とは反対の面に、前記標的物質反応部と対向するように形成されたゲート電極を含むことを特徴とする。ゲート電極により、電界効果を標的物質検出器に与えることができるので、感度よく標的物質を検出することができる。
【0016】
上述した課題を解決するために、本発明に係る標的物質検出方法は、前記標的物質検出器の前記標的物質反応部に検体を接触させる手順と、前記標的物質反応部に前記検体を接触させた後に、前記二つの電極間の電気抵抗値を測定する手順と、前記電気抵抗値に基づいて標的物質を検出する手順と、を含むことを特徴とする。これにより、標的物質を短時間で、簡易にかつ鋭敏に検出できる。
【0017】
また本発明に係る標的物質検出方法は、前記標的物質検出器の前記ゲート電極に、電圧を印可する手順と、前記標的物質検出器の前記標的物質反応部に検体を接触させる手順と、前記標的物質反応部に前記検体を接触させた後に、前記二つの電極間の電気抵抗値を測定する手順と、前記電気抵抗値に基づいて標的物質を検出する手順と、を含むことを特徴とする。これにより、標的物質を短時間で、簡易にかつ鋭敏に検出できる。
【0018】
また、本発明に係る標的物質検出方法は、前記電気抵抗値に基づいて標的物質を検出する手順においては、前記標的物質反応部に前記検体を接触させた後における前記二つの電極間の電気抵抗値を、前記検体が接触した前記標的物質反応部とは異なる標的物質反応部に、標的物質の濃度が既知である参照検体を接触させた後における前記二つの電極間の電気抵抗値と比較することによって、前記標的物質の濃度を求めることが好ましい。これにより、標的物質の濃度を、短時間で、簡易にかつ鋭敏に測定できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る標的物質検出器は、標的物質を短時間で、簡易にかつ鋭敏に検出できる。また本発明に係る標的物質検出方法は、標的物質を短時間で、簡易にかつ鋭敏に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施形態1に係る標的物質検出器の上面図である。
【図2】図2は、図1のA−A断面矢視概略図である。
【図3】図3は、実施形態2に係る標的物質検出器の上面図である。
【図4】図4は、実施形態2に係る標的物質検出器の側面概略図である。
【図5】図5は、実施形態3に係る標的物質検出器の断面図である。
【図6】図6は、実施形態1に係る標的物質検出器を用いた標的物質検出装置の概略図である。
【図7】図7は、実施例に係る標的物質検出器を用いたコルチゾールの検出結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための形態(以下、実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。また、同一要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0022】
(標的物質)
標的物質は、単分子に限定されず、オリゴマー、高分子であってもよい。標的物質の例として、各種ホルモン、例えば視床下部で産生される下垂体ホルモン放出ホルモン、オキシトシン、バソプレッシン等のペプチド、下垂体で産生される副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン、成長ホルモン、プロラクチン等のペプチド、副腎髄質で産生されるアドレナリン、ノルアドレナリン等のカテコールアミン、性腺で産生されるアンドロゲン、エストロゲン等のステロイド、副腎皮質で産生される糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド等のステロイド、甲状腺から産生されるチロキシン、トリヨードチロニン等のアミノ酸、消化管で産生されるガストリン等のペプチド、膵臓で産生されるインスリン、グルカゴン等のペプチド、抗体を誘導する抗原、例えば、各種タンパク質、各種核酸、各種脂質等が挙げられ、さらに、これらの代謝物であってもよい。なお、標的物質としてコルチゾールが好ましい。標的物質としてコルチゾールを選択した場合は、ヒトの唾液中のコルチゾール濃度を測定することができる。この場合、測定した結果である唾液中のコルチゾール濃度を、うつ病の診断に利用することができる。
【0023】
(標的結合物質)
標的結合物質は、標的物質と特異的に結合するものである。特異的に結合するとは、標的物質と結合するものが標的結合物質のみである場合の他、標的結合物質の他に標的物質と結合する物質があっても、親和性が標的結合物質と比較して非常に小さい場合も含まれる。標的結合物質は、自然界に存在するものであってもよいし、人工的に作製されたものであってもよい。標的結合物質として、例えば、抗体すなわち抗原である標的結合物質に特異的に結合する免疫グロブリン、アデニン、チミン、グアニン、シトシン等のDNAを構成する物質から構成される分子、ペプチドが挙げられる。抗体を用いる場合、完全な抗体ではなく、抗原と反応する部位のみを標的結合物質として用いても良い。例えば、IgGを酵素により分解してFabフラグメントのみとして、標的結合物質として使用してもよい。
【0024】
標的結合物質を作製するには公知の方法を採用することができる。例えば、抗体は、血清法、ハイブリドーマ法、ファージディスプレイ法によって作製できる。DNAを構成する物質から構成される分子は、例えばSELEX法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment:試験管内人工進化法)により作製できる。ペプチドは、例えばファージディスプレイ法により作製できる。
【0025】
標的結合物質の大きさがカーボンナノチューブ周りのデバイ長以下となると、検出感度を向上させることができる。標的結合物質の大きさは、5nm以下であることが好ましい。
【0026】
(カーボンナノチューブ)
カーボンナノチューブは、炭素原子により形成される円筒形の結晶である。カーボンナノチューブは、炭素原子のみにより形成されているもののほか、各種官能基が導入されているものであってもよい。カーボンナノチューブに各種官能基を導入するには、公知の方法を使用することができる。例えば、カーボンナノチューブに対し、フッ素化、アミノ化、カルボキシル化、アルキル化、1,3−双極子付加環化、ジアゾ化、求核反応、ナイトレン付加環化、Bingel反応、ジクロロカルベン付加を行うことによってカーボンナノチューブに官能基を導入できる。
【0027】
カーボンナノチューブに官能基を導入する場合、官能基はカルボキシル基またはアミノ基が好ましい。カーボンナノチューブにカルボキシル基またはアミノ基を導入すると、カーボンナノチューブの各種溶媒に対する溶解性または分散性が向上する。また、カーボンナノチューブにカルボキシル基またはアミノ基を導入すると、標的結合物質が抗体等のタンパク質の場合は、カーボンナノチューブのカルボキシル基またはアミノ基と、タンパク質との間にアミド結合を形成することができるので、容易にカーボンナノチューブと標的結合物質とを結合させることができる。
【0028】
カーボンナノチューブは、単層であっても、多層であってもよいが、標的物質の検出感度の向上の点のためには、単層であることが好ましい。また、カーボンナノチューブは、格子欠陥を有するものでもよく、有さないものでもよい。
【0029】
カーボンナノチューブは、金属性カーボンナノチューブであっても半導体性カーボンナノチューブであってもよい。また、これらの任意の割合の混合物であってもよい。一般に、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとを分離することは困難である。本実施形態に係るカーボンナノチューブとして、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとの任意の割合の混合物を使用できるので、分離工程を必要とせず安価に標的物質検出器を作製することができる。
【0030】
カーボンナノチューブは公知の方法によって製造することができる。例えば、CVD法(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)で製造することができる。CVD法の中でも、例えば、アルコールCVD法、HiPCO法、スーパ−グロースCVD法等で製造することができる。アーク法、レーザーアブレ−ション法、DIPS法(Direct Injection Pyrolytic Synthesis)等の方法により製造することもできる。本実施形態に係るカーボンナノチューブは、どの製造方法で製造されたものであってもよい。しかし、カーボンナノチューブの量産化が容易で、得られるカーボンナノチューブの純度が比較的高い点で、CVD法、特にスーパーグロースCVD法、または、アーク法で得られたカーボンナノチューブを使用することが好ましい。
【0031】
(複合体)
カーボンナノチューブと標的結合物質との複合体は、カーボンナノチューブと標的結合物質とが共有結合、水素結合、イオン結合等のように化学的に結合することにより形成されていてもよいし、ファンデルワールス力の作用によって、カーボンナノチューブが標的結合物質を物理吸着することにより形成されていてもよい。
【0032】
カーボンナノチューブと標的結合物質との複合体を作製するには、カーボンナノチューブに標的結合物質を所定時間接触させ、カーボンナノチューブに標的結合物質を吸着させる方法、カーボンナノチューブに各種官能基を導入し、導入した官能基と標的結合物質とを共有結合させる方法等の方法を採用することができる。
【0033】
(基板)
基板は、片面に凹凸部が形成され、少なくとも前記凹凸部表面が絶縁体である。基板の片面に凹凸部が形成されているので、基板の凹凸部形成面にカーボンナノチューブと標的結合物質との複合体が配置されたときに、複合体が凹凸部の凸部により支持されて、凸部と凸部との間では、複合体は基板に接触しないこととなる。このため、複合体の表面のうち基板に接触していない部分が、凹凸部が形成されていない基板に複合体を配置する場合と比較して増大する。複合体の表面のうち基板に接触していない部分が増大すると、標的物質と結合することのできる複合体の表面が増大するため、標的物質の検出感度が向上する。
【0034】
基板は、例えば各種プラスチック、各種ガラスなどから作製される。また、凹凸部表面が絶縁体となるように処理すれば、導電体、半導体を材料として作製することもできる。基板の片面に凹凸部を形成する手法は、特に限定がなく、化学的手法、物理的手法を広く使用することができる。例えば、基板がシリコンウェーハ系材料である場合は、サンドブラスト、ウェットエッチング、ドライエッチングプロセスなどを用いて凹凸部を形成することができる。また、基板がプラスチックやガラスなどの材料の場合は、インプリント装置を用いて凹凸部を形成することができる。また、基板材料にセラミックなどの絶縁体粒子を付着させることにより凹凸部を形成してもよい。絶縁体粒子を付着させるには、スプレー法などを適宜用いることができる。
【0035】
凹凸部のパターンは、規則性のあるパターンであってもよいし、ランダムなパターンであってもよい。規則性のあるパターンとしては、複数の四角柱が縦横に整列したパターン、複数の円柱が縦横に整列したパターンなどが挙げられる。スプレー法などで基板に絶縁体粒子を付着させた場合は、ランダムなパターンとなる。
【0036】
凹凸部の、隣りあう凸部同士の間隔は、使用するカーボンナノチューブの長さ以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの長さ以下であると、隣りあう凸部同士を架橋するように配置される複合体がより多くなり、検出感度をより向上させることができる。隣りあう凸部同士の間隔は、好ましくは、100nm以上3μm以下である。
【0037】
凹凸部の凸部の高さは、基板に接触していない複合体の外周部分に標的物質が接触するために充分な高さであることが好ましく、標的物質が大きくなるほど凸部の高さを高くすることが好ましい。凸部の高さは20nm以上であることが好ましい。
【0038】
基板の表面、特に凹凸部は、親水性を有していることが好ましい。基板の表面が親水性を有していると、複数のカーボンナノチューブを分散させた水を基板表面により均一に広げることができ、その結果むらの少ない標的物質反応部を作製することができる。
【0039】
基板は、基板に対する水の接触角が、空気中、室温において0度以上30度以下、好ましくは5度以上30度以下であるような親水性を有していることが好ましい。ここで、接触角とは、基板、水、空気の接する部位から、水の曲面に接線を引いたとき、この接線と基板表面とのなす角度をいう(JIS R3257)。接触角は、JIS R3257の静滴法で測定される。
【0040】
基板は、親水化処理がされたものであることが好ましい。親水化処理とは、処理前よりも、処理後における基板に対する水の接触角が減少するような処理をいう。親水化処理として、例えば酸素プラズマに接触させて親水性を向上させる処理が挙げられる。
【0041】
図1は、実施形態1に係る標的物質検出器の上面図であり、図2は図1のA−A断面矢視概略図である。標的物質検出器1aは、片面に凹凸部7aが形成されている基板4aと、後で詳しく説明する標的物質反応部3と、電極2、2とを含んで構成されている。凹凸部7aは、四角柱形状の複数の凸部8aが、縦横に整列して構成されている。複数の凸部8aは、頂点が同一平面上にあり、凸部8aの上面は同一平面上にある。また、複数の凸部8aの頂点と、凹凸部7aを除く部分の基板4aの面とは同一平面上にある。しかし、凸部8aの頂点と基板4aの面とは同一平面上になくてもよく、凸部8aの頂点は基板4aの面と異なる平面上にあってもよい。後で説明する標的物質反応部3の厚さや、電極2の厚さなどを考慮して凸部8aの頂点の位置を定めることができる。
【0042】
ここで、隣りあう凸部8a同士の間隔は、隣り合う凸部8aの頂点間の距離であり、頂点が複数ある場合は頂点間の距離のうち最短のものである。底面と上面とが同一形状を有する四角柱である、凸部8aの場合、これは凸部8aの側面間の距離に等しく、図2においてW1で示される。また、凸部8aの高さは、凹凸部7aの底面から凸部8aの頂点までの高さであり、図2においてH1で示される。
【0043】
図3は、実施形態2に係る標的物質検出器の上面図であり、図4は、実施形態2に係る標的物質検出器の側面概略図である。標的物質検出器1bは、標的物質検出器1aにおいて、基板4aの代わりに基板4bが用いられているものである。基板4bの凹凸部7bは、基板材料に絶縁体粒子が配置されて構成されている。絶縁体粒子は、凸部8bとして機能する。隣り合う凸部8b同士の間隔は、凸部8bの頂点P同士の距離であり、図4においてW2で示される。また、凸部8bの高さは、凹凸部7bの底面から凸部8bの頂点Pまでの高さであり、図4においてH2で示される。なお、頂点とは、凹凸部の底面を基準として、最も高い位置にある凸部の点をいう。
【0044】
(二つの電極)
電極2は、標的物質反応部3を挟むように、標的物質検出器1aの表面に2個設けられる。本実施形態のように、二つの電極2、2を標的物質反応部3と同一平面上に作製することができる。電極2の厚さは、凸部8aの高さ、標準物質反応部3の厚さなどを考慮して、任意に設計することができる。基板4aの厚さ方向に、第1の電極と、標的物質反応部と、第2の電極とをこの順で積層することで電極を作製してもよい。電極2、2は、導電性のある材料で作製され、標的物質反応部3と電気的に接続される。電極2、2を作製する方法は特に限定されず、公知のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いることができる。例えば電極2をリソグラフィー法により作製することができる。本実施形態においては、一対の電極2、2で標的物質反応部3の両端を挟むようにしているが、電極の数は2個に限定されるものではない。すなわち、標的物質検出器1aは、少なくとも2個の電極を有していればよい。標的物質検出器1bの電極2も標的物質検出器1aの電極2と同様に配置され、作製されるので説明を省略する。
【0045】
(ゲート電極)
図5は、実施形態3に係る標的物質検出器の断面図である。標的物質検出器100は、標的物質検出器1aにゲート電極20を付加したものである。ゲート電極20は、標的物質反応部3と絶縁されて形成されると共に、基板4aの凹凸部7aが形成された面とは反対面9に、標的物質反応部3と対向するように形成される。このような構成により、ゲート電極20に電圧を印可すると、ゲート電極20は標的物質検出器100、特に標的物質反応部3に電界効果を与える。その結果、電極2、2からの出力を増幅することができ、標的物質検出器100の検出感度を向上させることができる。また、ゲート電極20を反対面9に形成することで、標的物質検出器100を、表面に標的物質反応部3が露出した構成とすることができる。そのため、標的物質反応部3に容易に標的物質を接触させることができる。ゲート電極20は、導電性のある材料、好ましくは金属で作製される。なお、基板4aに代えて、他の形態の基板、例えば基板4bを用いてゲート電極を有する標的物質検出器を構成することもできる。
【0046】
(標的物質反応部)
標的物質反応部3は、基板4aの凹凸部7a形成面上に、標的物質と特異的に結合する標的結合物質とカーボンナノチューブとの複数の複合体が、不規則な網目状に配置されて形成されている。標的物質反応部3を作製するには、基板4a上に電極2、2を作製してから複数のカーボンナノチューブを配置する方法、基板4a上に電極2、2を作製する前に複数のカーボンナノチューブを配置する方法のいずれであってもよい。「複数のカーボンナノチューブ」とは、カーボンナノチューブの一分子ではなく、複数のカーボンナノチューブ全体を指すものとし、以下「複数のカーボンナノチューブ」を同様の意味で使用する。複数のカーボンナノチューブは、一種類のカーボンナノチューブの集合であってもよく、複数種類のカーボンナノチューブの集合であってもよい。
【0047】
基板4a上に複数のカーボンナノチューブを配置する方法には、例えば気相法および液相法が挙げられる。気相法では、複数のカーボンナノチューブを基板4aに噴霧することより基板4aに塗布する。液相法では、複数のカーボンナノチューブを各種溶媒に分散または溶解させ、分散液または溶液をピペットやスポッター、ディスペンサー、スプレー等を用いて基板4aに塗布する。複数のカーボンナノチューブの分散液または溶液を基板4aに塗布することで、基板4aに複数のカーボンナノチューブが不規則な網目状に配置される。複数のカーボンナノチューブの塗布は、複数回行ってもよく、この場合複数のカーボンナノチューブが網目状により均一に配置される。
【0048】
液相法において用いられる各種溶媒として、例えば、純水、1,2−ジクロロベンゼン、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジクロロエタン、ナノ純水、エタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール置換ポリチオフェン(HFIP−PT)、ポリ(3−へキシルチオフェン)(P3HT)、n,n−ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン等が挙げられる。溶媒は、後処理工程を容易にするために、水が好ましく、さらには揮発性のある溶媒のみを使用することが好ましい。また、各種溶媒に界面活性剤を加えた溶液も、カーボンナノチューブを分散または溶解させる溶媒として使用できる。界面活性剤として、例えば、コラン酸ナトリウム、デオキシコラン酸ナトリウム(SOD)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、Brij(登録商標)35、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)40,Tween(登録商標)60、Triton(登録商標)X−100が挙げられる。界面活性剤を加えた溶媒として、例えば、コラン酸ナトリウム水溶液、デオキシコラン酸ナトリウム(SOD)水溶液、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液が挙げられる。
【0049】
溶媒に加える分散助剤あるいは溶解助剤として、ペプチド、タンパク質、DNA等の生体物質を用いることができ、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基等の親水基、および/または、アリール基、アルキル基等の疎水基が結合した各種多環式芳香族分子、側鎖にピレン等の多環式芳香族炭化水素を有する高分子、非共役系高分子、共役系高分子、これらのブロック共重合体等を用いることができる。
【0050】
複数のカーボンナノチューブの分散または溶解のために溶媒に界面活性剤、分散助剤、または溶解助剤を加えない場合は、複数のカーボンナノチューブを基板4a上に配置した後に溶媒を除去するだけでよく、界面活性剤、分散助剤または溶解助剤を除去する必要がない点で有利である。このような場合として、純水のみを用いて複数のカーボンナノチューブを分散または溶解する場合が挙げられる。
【0051】
複数のカーボンナノチューブの分散または溶解のために溶媒に界面活性剤、分散助剤、または溶解助剤を加えると、これらを加えない場合と比較して短時間で複数のカーボンナノチューブを溶媒中に分散または溶解することができる。また、カーボンナノチューブの溶媒中の濃度を大きくすることができる。
【0052】
複数のカーボンナノチューブを各種溶媒に分散または溶解する場合に、各種溶媒と複数のカーボンナノチューブとの混合物に超音波を加えると、分散または溶解の速度が大きくなるので好ましい。各種溶媒と複数のカーボンナノチューブとの混合物を加温してもよい。各種溶媒に、界面活性剤、分散助剤、または溶解助剤(以下界面活性剤等という)が加えられている場合も同様であり、混合物に超音波を加えることが好ましく、混合物を加温してもよい。
【0053】
溶媒または界面活性剤等を加えた溶媒中に分散または溶解させた複数のカーボンナノチューブの分散液または溶解液を基板4aに配置した後、溶媒を除去する。溶媒に界面活性剤等を加えた場合は、複数のカーボンナノチューブを基板4aに配置した後に、基板4aから溶媒を除去し、さらに界面活性剤等を洗浄除去し基板4aから洗浄液を除去する。
【0054】
複数のカーボンナノチューブを基板4aに配置した後、複数のカーボンナノチューブに標的結合物質を接触させて、複数のカーボンナノチューブに標的結合物質を物理吸着させ、カーボンナノチューブと標的結合物質との複数の複合体を形成させる。または、複数のカーボンナノチューブに、標的結合物質および各種試薬を加えて、複数のカーボンナノチューブと標的結合物質との間に化学的結合を形成させ、カーボンナノチューブと標的結合物質との複数の複合体を形成させる。
【0055】
複数のカーボンナノチューブを基板4aに配置した後に、カーボンナノチューブと標的結合物質との複数の複合体を形成させてもよいが、カーボンナノチューブと標的結合物質との複数の複合体を形成させた後に、カーボンナノチューブと標的結合物質との複数の複合体を各種溶媒に分散または溶解し、得られた分散液または溶解液を基板4aに塗布してもよい。その場合、形成されたカーボンナノチューブと標的結合物質との複数の複合体が変性しないような分散・溶解の条件を選択することが好ましい。
【0056】
基板4a上に複数のカーボンナノチューブを不規則な網目状に配置し、次いでカーボンナノチューブと標的結合物質との複数の複合体を形成させる。このようにすることで、標的結合物質とカーボンナノチューブとの複数の複合体を、不規則な網目状に配置した標的物質反応部3が形成される。または、基板4a上にカーボンナノチューブと標的結合物質との複数の複合体を不規則な網目状に配置することで、基板4a上に標的物質反応部3が形成される。
【0057】
カーボンナノチューブと標的結合物質との複数の複合体を不規則な網目状に配置することで、複数のカーボンナノチューブが、様々な特性を持ったカーボンナノチューブの集合であっても、平均化されたカーボンナノチューブの特性が標的物質検出器1aに現れる。そのため、複数の標的物質検出器1a同士の関係ではばらつきのない特性を得ることができる。すなわち、様々な特性を持ったカーボンナノチューブを分離せずに用いることができるので、簡易に標的物質検出器1aを作製でき、その結果簡易に標的物質を検出することができる。
【0058】
以上、標的物質検出器1aの標的物質反応部3について説明したが、標的物質検出器1b、標的物質検出器100の標的物質反応部3もこれと同様であるので説明を省略する。
【0059】
(パッケージング)
標的物質検出器1aは、基板4a上に電極2およびセンサプローブである標的物質反応部3が作製されたものである。しかし、プロセス条件や工程を勘案して、標的物質反応部が作製された基板と電極基板とを別個に作製した後、電極基板と標的物質反応部が作製された基板とをボンディングしてもよい。例えば、プラスチックの基板材料にインプリント装置で凹凸部として微細構造を形成し、凹凸部に標的結合物質とカーボンナノチューブとの複数の複合体を配置して、標的物質反応部が形成された基板を作製する。標的物質反応部が作製された基板に、電極が作製された電極基板を合わせて両者をボンディングすることにより、標的物質検出器を形成することができる。このように、標的物質反応部が作製された基板と電極基板とを別個に作製する場合、電極基板を、標的物質反応部が露出するように形成する。
【0060】
(検出方法)
標的物質の検出は、標的物質検出器1aに備えられた標的物質反応部3に検体を接触させた後、標的物質反応部3に電気的に接続された二つの電極2、2間の電気抵抗値を測定することによって行うことができる。検体として、例えば、唾液、尿、体液、血液等、生体に存在するあらゆる物質または生体が産出するあらゆる物質を用いることができる。また、生体から採取した物質をそのまま検体として使用する他、生体から採取した物質を物理的または化学的に処理した後の物質を検体として使用することができる。検体として、生体以外に存在する物質または人工的に生成された物質も使用することができる。
【0061】
図6は、実施形態1に係る標的物質検出器1aを用いた標的物質検出装置6の概略図である。Gは検流計5である。標的物質検出器1aは、いわゆるホィートストンブリッジを含む標的物質検出装置6に組み込まれている。ab間に電位差を与え、cd間の電位差が0となるように抵抗R1、R2、およびR3を変化させたとき、標的物質検出器1aの電極2間の抵抗Rは、R1・R3/R2で与えられる。標的物質検出器1aの電気抵抗値は、他の測定装置によって求めてもよい。
【0062】
複数の標的物質検出器1aの標的物質反応部3を直列に接続し、この複数の標的物質検出器1aに同一の検体を接触させて合成電気抵抗値を測定してもよい。これにより、電気抵抗値の変化が大きくなって、さらに鋭敏に標的物質を検出することができる。また、複数の標的物質反応部3間の特性のばらつきがさらに平均化されて、同一検体を測定した場合の結果のばらつきをさらに減少させることができる。
【0063】
また、複数の標的物質検出器1aの標的物質反応部3を並列に接続し、この複数の標的物質検出器1aに同一の検体を接触させて合成電気抵抗値を測定してもよい。これにより、複数の標的物質反応部3間の特性のバラツキがさらに平均化されて、同一検体を測定した場合の結果のバラツキをさらに減少させることができる。なお、複数の標的物質反応部3を直列または並列に接続する場合、一つの標的物質検出器1a上に、標的物質反応部3および標的物質反応部3の両端部と電気的に接続する一対の電極2、2をそれぞれ複数設けてもよい。
【0064】
標的物質の検出および測定は、−ΔG/Gの値に基づいて行う。ここで、Gは標的物質検出器1aの標的物質反応部3に検体を接触させる直前の電気抵抗値Rの逆数であり、Gは標的物質検出器1aに検体を接触させた時をt=0とした場合におけるt秒後の電気抵抗値Rの逆数であり、ΔG=G−Gである。標的物質の濃度を測定するには、標的物質の濃度が既知である参照検体を標的物質検出器1aの標的物質反応部3に接触させる。10分後〜数10分後に−ΔG/Gの値は一定値に達する。標的物質の濃度により、この−ΔG/Gの一定値は変化する。標的物質濃度に対して−ΔG/Gの値をプロットすると、標的物質の検量線が得られる。標的物質の濃度が未知である検体の−ΔG/Gの一定値を測定し、前記参照検体から得られた前記一定値と検量線とを比較することにより、検体に含まれる標的物質の濃度を決定することができる。なお、標的物質の検出および測定は、−ΔG/GではなくΔG/Gの値に基づいて行ってもよい。
【0065】
なお、標的物質検出器100を標的物質の検出に用いる場合には、図5に示す標的物質検出器100のゲート電極20に電圧を印可して標的物質の検出を行うことが好ましい。これにより、電極2,2からの出力が増幅されて、検出感度を向上させることができる。
【0066】
本実施形態から、次の標的物質検出方法が把握される。まず、標的物質検出器の標的物質反応部に検体を接触させる手順と、標的物質反応部に検体を接触させた後に、二つの電極間の電気抵抗値を測定する手順と、電気抵抗値に基づいて標的物質を検出する手順と、を含む標的物質検出方法が把握される。この標的物質検出方法においては、電気抵抗値に基づいて標的物質を検出する。したがって、電気抵抗値そのものを用いて標的物質を検出してもよいし、電気抵抗値の逆数や、標的物質反応部に検体を接触させる前の電気抵抗値と後の電気抵抗値とを用いて標的物質を検出してもよい。
【0067】
さらに、本実施形態から、標的物質検出器のゲート電極に、電圧を印可する手順と、標的物質検出器の標的物質反応部に検体を接触させる手順と、標的物質反応部に検体を接触させた後に、前記二つの電極間の電気抵抗値を測定する手順と、電気抵抗値に基づいて標的物質を検出する手順と、を含む標的物質検出方法が把握される。
【0068】
また、上記標的物質検出方法において、電気抵抗値に基づいて標的物質を検出する手順においては、標的物質反応部に前記検体を接触させた後における二つの電極間の電気抵抗値を、検体が接触した標的物質反応部とは異なる標的物質反応部に、標的物質の濃度が既知である参照検体を接触させた後における2つの電極間の電気抵抗値と比較することによって、標的物質の濃度を求めてもよい。
【0069】
このとき、標的物質の濃度が既知である参照検体の電気抵抗値(二つの電極間における標的物質反応部の電気抵抗値)を予め求めておく。そして、参照検体の電気抵抗値を求めた標的物質検出器とは異なる標的物質検出器を用いて、検体の電気抵抗値(二つの電極間における標的物質反応部の電気抵抗値)を求め、検体の電気抵抗値と参照検体の電気抵抗値とを比較して、検体に含まれる標的物質の濃度を求める。
【0070】
また、標的物質の濃度を異ならせた複数の参照検体の電気抵抗値をそれぞれ求め、これらの結果から、標的物質の濃度と電気抵抗値との関係を求める。この関係を用いれば、検体の電気抵抗値から当該検体に含まれる標的物質の濃度を求めることができる。したがって、標的物質の濃度が未知の検体の電気抵抗値から、標的物質の濃度を求めることができる。なお、得られた標的物質の濃度と電気抵抗値との関係において、濃度と電気抵抗値との関係の情報が欠落している部分については、少なくとも二つの前記情報の間を補間することにより、欠落している部分における濃度と電気抵抗値との関係を求めることができる。
【0071】
また、本実施形態においては、直列に接続された複数の標的物質反応部に、同一検体を接触させる標的物質検出方法が把握される。さらに、本実施形態においては、並列に接続された複数の標的物質反応部に、同一検体を接触させる標的物質検出方法が把握される。
【0072】
以上の説明のうち、標的物質検出器1aを用いた検出方法についてした説明は、標的物質検出器1b、標的物質検出器100を用いた検出方法にも適用される。
【実施例】
【0073】
(標的物質検出器の作製)
シリコン基板の片面に、電子線描画装置で凹凸部をエッチングした。凹凸部は、凸部として、一辺が250nm高さ20nmの四角柱を、隣りあう四角柱同士の間隔が250nmとなるように縦横に並べた形状である。シリコン基板に凹凸部をエッチングしたのち、絶縁膜として酸化シリコン膜を基板上に形成した。酸化シリコン膜が形成されたシリコン基板上に、厚さ2μmのフォトレジスト(OFPR800LB:東京応化株式会社製)をスピンコートにより塗布し、基板に対して90℃で8分間プレベーク処理を行った。その後、電極のパターンを持つマスクを用いて基板を露光(EMA−400:ユニオン光学株式会社製)し、現像液(NMD3:東京応化株式会社製)を用いてパターンを現像した。最後に超純水で基板を60秒間リンスした。その後リフトオフ法により基板上に電極を形成した。具体的には、スパッタリング法により基板に連続的に10nmのCr、次いで50nmのAuを堆積させ、アセトンにより基板上の残留フォトレジストを除去した。その後、ダイシング装置により10mm×10mmのチップサイズに切断した。切断したチップの電極に配線を施し、パッケージングを行って、電極が作製された実施例の基板を得た。
【0074】
シリコン基板にエッチングを行わずに、酸化シリコン膜を基板上に形成し、以降は、実施例の基板と同様の手順で、電極が作製された比較例の基板を得た。比較例の基板は、凹凸部が形成されていないものである。
【0075】
純水中に、カーボンナノチューブ(製品Meijo Arc:名城ナノカーボン製)を加えた。得られた混合物に超音波を5時間加えてカーボンナノチューブを液中に分散させた。この分散液をピペットに取り、電極が作製された実施例の基板上に滴下した。その後、基板を乾燥し、カーボンナノチューブが不規則な網目状に基板上に配置された実施例のカーボンナノチューブ塗布基板を得た。比較例のカーボンナノチューブ塗布基板も同様にして得た。
【0076】
得られた実施例のカーボンナノチューブ塗布基板に、コルチゾール抗体(製品BM2618 Cortisol antibody :Acris Antibodies GmbH製)のリン酸緩衝化生理食塩水(phosphate buffered saline :PBS)溶液を滴下した。滴下後のカーボンナノチューブ塗布基板を37℃のオーブン中で1時間乾燥し、その後室温にて1昼夜放置した。次いでPBS溶液により洗浄後乾燥して、標的物質反応部(コルチゾール反応部)を備えた実施例の標的物質検出器(コルチゾール検出器)を得た。比較例の標的物質検出器も同様にして得た。
【0077】
(標的物質の検出)
得られた標的物質検出器に直流電源1.0Vおよび抵抗測定器(製品Model 6487 Picoammeter:KEITHLEY社製)を接続した。標的物質検出器の電気抵抗値が安定した後、標的物質検出器に検体をピペットにより滴下し、電気抵抗値を測定した。なお、検体は、以下のように調整した。健常者の唾液を取り、濃縮して、濾過未処理疑似うつ病患者検体とした。また、健常者の唾液をとり、フィルター(製品サリソフト:株式会社アシスト製)により濾過し、これを濃縮して、濾過処理疑似うつ病患者検体とした。参照溶液(参照検体)としては、コルチゾールの82nmol/l(リットル)水溶液をそのまま用いた。
【0078】
図7は、測定結果を示すグラフである。縦軸は、−ΔG/Gの値であり、横軸は時間tである。標的物質検出器に検体を滴下した時をt=0とする。実線CFは、実施例の標的物質検出器に濾過処理疑似うつ病患者検体を滴下した際に得られたグラフであり、実線Cは、実施例の標的物質検出器に濾過未処理疑似うつ病患者検体を滴下した際に得られたグラフであり、実線CRは実施例の標的物質検出器に参照溶液を滴下した際に得られたグラフである。
【0079】
実線BFは、比較例の標的物質検出器に濾過処理疑似うつ病患者検体を滴下した際に得られたグラフであり、実線Bは、比較例の標的物質検出器に濾過未処理疑似うつ病患者検体を滴下した際に得られたグラフであり、実線BRは、比較例の標的物質検出器に参照溶液を滴下した際に得られたグラフである。
【0080】
実線ARは、抗体を接触させる前における実施例のカーボンナノチューブ塗布基板に参照溶液を滴下した際に得られたグラフであり、実線Aは、抗体を接触させる前の実施例のカーボンナノチューブ塗布基板に濾過未処理疑似うつ病患者検体を滴下した際に得られたグラフであり、実線C0は、実施例の標的物質検出器に10mMのPBS溶液を滴下した際に得られたグラフである。
【0081】
この測定結果から、抗体を接触させる前における実施例のカーボンナノチューブ塗布基板は、コルチゾールを検出することができず、本実施例に係る標的物質検出器はコルチゾールを検出できることがわかる。また、比較例に係る標的物質検出器と比較して、本実施例に係る標的物質検出器はより鋭敏にコルチゾールを検出することができる。また、簡単な濾過処理が行われただけの唾液を検体とすることができることに加えて、濾過処理を行う前の未処理の唾液を検体としてもコルチゾールを検出することができる。すなわち、唾液に複雑な前処理を行う必要がなく、唾液中のコルチゾールを簡易に検出することができる。また、標的物質検出器に検体を滴下してから約10分後に、−ΔG/Gは一定の値に達する。したがって、短時間で、コルチゾールを検出することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように、本発明に係る標的物質検出器は、標的物質を検出するのに有用である。また本発明に係る標的物質検出方法は、標的物質を検出するのに有用である。
【符号の説明】
【0083】
1a、1b、100 標的物質検出器
2 電極
3 標的物質反応部
4a、4b 基板
5 検流計
6 標的物質検出装置
7a,7b 凹凸部
8a,8b 凸部
9 反対面
20 ゲート電極
P 頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面に凹凸部が形成され、少なくとも前記凹凸部表面が絶縁体である基板と、
標的物質と特異的に結合する標的結合物質とカーボンナノチューブとの複数の複合体が、前記基板の凹凸部形成面上に、不規則な網目状に配置されることにより形成された標的物質反応部と、
前記標的物質反応部と電気的に結合された少なくとも二つの電極と、
を含むことを特徴とする標的物質検出器。
【請求項2】
前記複数の複合体は、前記標的結合物質と金属性カーボンナノチューブとの複合体と、前記標的結合物質と半導体性カーボンナノチューブとの複合体との混合物であることを特徴とする請求項1に記載の標的物質検出器。
【請求項3】
前記凹凸部の、隣りあう凸部同士の間隔が、100nm以上3μm以下であり、前記凸部の高さが、20nm以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の標的物質検出器。
【請求項4】
前記基板に対する水の接触角が、空気中および室温において30度以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の標的物質検出器。
【請求項5】
前記基板は、親水化処理されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の標的物質検出器。
【請求項6】
前記標的物質反応部と絶縁されて形成されると共に、前記基板の前記凹凸部が形成された面とは反対の面に、前記標的物質反応部と対向するように形成されたゲート電極を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の標的物質検出器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載された標的物質検出器の前記標的物質反応部に検体を接触させる手順と、
前記標的物質反応部に前記検体を接触させた後に、前記二つの電極間の電気抵抗値を測定する手順と、
前記電気抵抗値に基づいて標的物質を検出する手順と、
を含むことを特徴とする標的物質検出方法。
【請求項8】
請求項6に記載された標的物質検出器の前記ゲート電極に、電圧を印可する手順と
前記標的物質検出器の前記標的物質反応部に検体を接触させる手順と、
前記標的物質反応部に前記検体を接触させた後に、前記二つの電極間の電気抵抗値を測定する手順と、
前記電気抵抗値に基づいて標的物質を検出する手順と、
を含むことを特徴とする標的物質検出方法。
【請求項9】
前記電気抵抗値に基づいて標的物質を検出する手順においては、
前記標的物質反応部に前記検体を接触させた後における前記二つの電極間の電気抵抗値を、前記検体が接触した前記標的物質反応部とは異なる標的物質反応部に、標的物質の濃度が既知である参照検体を接触させた後における前記二つの電極間の電気抵抗値と比較することによって、前記標的物質の濃度を求める請求項7または8に記載の標的物質検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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