説明

標的物質濃度測定装置および標的物質濃度測定方法

【課題】標的物質の濃度を、鋭敏かつ簡易に測定する装置を提供すること。
【解決手段】標的物質捕捉部が、表面に凹部と凸部とが周期的に形成された反射面を有し、反射面に光を照射すると、特定波長における第1の強度の反射光が得られる構造体と反射面に固定されるとともに標的物質を捕捉する標的物質捕捉物質とを含み、測定部が、標的物質捕捉部の反射面側に光を照射し、特定波長において反射光の強度を測定し、演算部が、標的物質が標的物質捕捉部と接触させられる前における反射光の、特定波長における第2の強度を、第1の強度又は第2の強度で除した第1の相対強度と、標的物質が標的物質捕捉部に接触させられた後における反射光の、特定波長における第3の強度を、第2の強度を除した強度と同じ強度で除した第2の相対強度との差に基づいて標的物質の濃度を求める標的物質濃度測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的物質の濃度を測定する装置および標的物質の濃度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、細胞の濃度測定の手段として、特許文献1(特表2009−510391)等に開示されるフォトニック結晶バイオセンサーが用いられている。
【0003】
このフォトニック結晶バイオセンサーは、サブ波長間隔格子構造モールドに、液体エラストマーを入れて硬化させて製作したナノ多孔性フィルムの表面に、金属膜、カバー層を成膜し、金属膜またはカバー層に1つ以上の特異的結合物質を固定化した構造になっている。このセンサーに広領域波長の光を照射すると、センサーの形状および材質に依存した特定の波長帯の反射光が得られる。
【0004】
このセンサーの検出方法は、検出対象の物質に対する特異的結合物質をセンサーに固定させて反射光強度がピークとなる波長を測定する。
【0005】
次に、センサーの上に検出対象の物質を含む溶液を滴下し、検出対象の物質と特異的結合物質の結合が完了した後で、反射光強度がピークとなる波長を測定する。
【0006】
前後の反射光強度がピークとなる波長の差から、検出対象の物質の濃度を算出することが出来る。
【0007】
また、別のフォトニック結晶バイオセンサーでは、抗原抗体反応の前後での、反射光の特定波長における強度の変化量から標的物質である抗原の濃度を測定しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−510391号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「センサーズ アンド アクチベータース B ケミカル」(Sensors and Actuators B Chemical)、2010年6月30日、第148巻、1号、p269−276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されているセンサーは波長の差を用いるため、特定の波長帯を検出する装置が必要となり、単波長の光を用いた装置と比べた場合、検出装置の構造が複雑になり製作コストが高くなってしまう。一方、フォトニック結晶バイオセンサーの光学特性にはバラツキがあり、単純に反射光の強度の変化量を求め、この値を濃度決定に用いたのみでは、濃度の測定値にもバラツキが生じる。
【0011】
本発明は、簡易な構成で、鋭敏に標的物質の濃度を測定することができ、バラツキの少ない測定結果を得ることができる標的物質濃度測定装置および標的物質濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明に係る標的物質濃度測定装置は、標的物質捕捉部と、測定部と、演算部とを含み、前記標的物質捕捉部は、表面に凹部と凸部とが周期的に形成された反射面を有し、前記反射面に光を照射すると、特定波長において第1の強度の反射光が得られる構造体と前記反射面に固定されるとともに標的物質を捕捉する標的物質捕捉物質とを含み、前記測定部は、前記標的物質捕捉部の前記反射面側に光を照射し、前記特定波長における反射光の強度を測定し、前記演算部は、前記標的物質が前記標的物質捕捉部と接触させられる前における反射光の、前記特定波長における第2の強度を、前記第1の強度または前記第2の強度で除した値である第1の相対強度と、前記標的物質が前記標的物質捕捉部に接触させられた後における反射光の、前記特定波長における第3の強度を、前記第2の強度を除した強度と同じ強度で除した値である第2の相対強度との差に基づいて前記標的物質の濃度を求めることを特徴とする。
【0013】
これにより、簡易な構成で、鋭敏に標的物質の濃度を測定することができ、バラツキの少ない測定結果を得ることができる。
【0014】
また、本発明に係る標的物質濃度測定装置は、前記第1の相対強度が、前記第2の強度を前記第1の強度で除した値であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る標的物質濃度測定装置は、前記標的物質捕捉部が、前記標的物質捕捉物質が前記反射面に固定された後であって前記標的物質が前記標的物質捕捉部に接触させられる前に、前記反射面に固定されるブロッキング剤をさらに含み、前記演算部は、第2の強度として前記ブロッキング剤が前記反射面に固定された後における反射光の強度を用いることを特徴とする。
【0016】
これにより、構造体の反射光強度のバラツキ、および標的物質捕捉物質やブロッキング剤の構造体への固定量のバラツキの影響が除外された、より正確な標的物質濃度の測定結果を得ることができる。
【0017】
また、本発明に係る標的物質濃度測定装置は、前記標的物質捕捉部が、開口部を有する液滴保持部をさらに含み、前記開口部の一端は前記構造体の前記反射面により閉塞されていることを特徴とする。これにより、標的物質捕捉物質の使用量、標的物質の濃度を測定するための試料、リンス液などの必要量を大幅に低減することができる。
【0018】
また、本発明に係る標的物質濃度測定装置は、前記液滴保持部が、疎水性材料で構成されていることを特徴とする。これにより、さらに標的物質捕捉物質の使用量、標的物質の濃度を測定するための試料、リンス液などの必要量を大幅に低減することができる。
【0019】
また、本発明に係る標的物質濃度測定装置は、前記開口部に前記標的物質を配置した後に前記開口部を覆う、被覆部材をさらに含むことを特徴とする。これにより、試料の蒸発を防止することができ、試料の濃度変化を防止し、外部からの異物の混入を防止する。
【0020】
また、本発明に係る標的物質濃度測定装置は、前記被覆部材の少なくとも一部が、透明体であることを特徴とする。これにより、開口部に溶液を充填した状態で反射光の測定をより正確に行うことができる。
【0021】
また本発明に係る標的物質濃度測定装置は、前記反射面における特定の位置を表示するマーカーをさらに含むことを特徴とする。これにより、特定の位置で反射光強度を測定することができる。
【0022】
また、本発明に係る標的物質濃度測定装置は、前記マーカーが、線対称軸を持たない図形で構成されていることを特徴とする。これにより、標的物質捕捉部の反射面側と反射面の反対側とを区別することができる。
【0023】
また、本発明に係る標的物質濃度測定装置は、前記測定部に対する前記標的物質捕捉部の位置を定めて前記標的物質捕捉部を固定する、標的物質捕捉部固定手段を含むことを特徴とする。これにより、検出・測定時の振動等による測定位置のずれを減少することが可能となり、より正確な検出・測定ができる。
【0024】
本発明に係る標的物質測定装置は、前記標的物質捕捉部固定手段が、真空チャック機構であることを特徴とする。これにより、検出・測定時の振動等による測定位置のずれを減少することが可能となり、より正確な検出・測定ができる。
【0025】
また、本発明に係る標的物質測定装置は、前記構造体の格子面における法線を軸として前記標的物質捕捉部を回転させる標的物質捕捉部回転手段を含むことを特徴とする。これにより、測定結果のバラツキを低減することができる。
【0026】
また、本発明に係る標的物質測定装置は、前記標的物質捕捉部を載置し、少なくとも前記測定部からの光が照射される範囲に貫通孔が形成されて前記光を通過させる標的物質捕捉部載置部と、前記貫通孔で囲まれた空間を通過した光を前記貫通孔とは別の位置に反射する反射手段とを含むことを特徴とする。これにより、標的物質測定装置の測定精度を向上させることができる。
【0027】
また、本発明に係る標的物質濃度測定方法は、表面に凹部と凸部とが周期的に形成された反射面を有し、前記反射面に光を照射すると、特定波長の反射光が得られる構造体について、前記反射光の第1の強度を得るステップと、前記反射面に、前記標的物質を捕捉する標的物質捕捉物質を固定して、標的物質捕捉部を作成するステップと、前記標的物質捕捉部に前記標的物質を接触させる前に、前記標的物質捕捉部の反射面側に光を照射し、反射光の前記特定波長における第2の強度を得るステップと、前記標的物質捕捉部に、前記標的物質を接触させるステップと、前記標的物質を接触させた前記標的物質捕捉部の反射面側に光を照射し、反射光の前記特定波長における第3の強度を得るステップと、前記第2の強度を、前記第1の強度または前記第2の強度で除した値である第1の相対強度と、前記第3の強度を、前記第2の強度を除した強度と同じ強度で除した値である第2の相対強度との差に基づいて前記標的物質の濃度を求めるステップと、を含むことを特徴とする。
【0028】
これにより、簡易な構成で、鋭敏に標的物質の濃度を測定することができ、バラツキの少ない測定結果を得ることができる。
【0029】
また本発明に係る標的物質濃度測定装置は、凹凸形状が格子状に配列され、格子間隔、深さ、格子の寸法がナノまたはマイクロメートルの構造体について、前記構造体の厚さが約5μm以上で、前記構造体の表面に1つ以上の物質を固定化し、前記構造体の凹凸形状がある側に光を照射すると前記構造体の形状と材質に依存した特定波長の反射光が得られ、前記反射光の強度を前記構造体の表面に物質を固定化した状態またはしていない状態の前記反射光の強度で除算し、前記除算値の変化量によって前記物質の濃度を定量化することを特徴とする。
【0030】
これにより、簡易な構成で、鋭敏に標的物質の濃度を測定することができ、バラツキの少ない測定結果を得ることができる。
【0031】
また、好ましい態様として、前記構造体の凹凸形状がある側に、孔付きプレートを接合したセンサーが好ましい。
【0032】
また、好ましい態様として、前記孔付きプレートの上に、穴付カバーとシートによって前記孔付きプレートの上部に密閉空間を設けた前記センサーが好ましい。
【0033】
また、好ましい態様として、前記構造体の凹凸形状がある側または無い側に、マーカーを有した前記センサーが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明の標的物質濃度測定装置によれば、簡易な構成で、鋭敏に標的物質の濃度を測定することができ、バラツキの少ない測定結果を得ることができる。また、本発明の標的物質濃度測定方法によれば、簡易な装置で、鋭敏に標的物質の濃度を測定することができ、バラツキの少ない測定結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、実施形態1に係る標的物質濃度測定装置の概略を説明する図である。
【図2−1】図2−1は、フォトニック結晶を説明する図である。
【図2−2】図2−2は、図2−1のA−A断面図である。
【図2−3】図2−3は、フォトニック結晶の作成方法を説明する図である。
【図2−4】図2−4は、フォトニック結晶の作成方法を説明する図である。
【図2−5】図2−5は、フォトニック結晶の作成方法を説明する図である。
【図3−1】図3−1は、フォトニック結晶バイオセンサーの原理を説明する図である。
【図3−2】図3−2は、フォトニック結晶バイオセンサーの原理を説明する図である。
【図3−3】図3−3は、フォトニック結晶バイオセンサーの原理を説明する図である。
【図3−4】図3−4は、フォトニック結晶バイオセンサーの原理を説明する図である。
【図4−1】図4−1は、実施形態1に係るフォトニック結晶バイオセンサーを説明する図である。
【図4−2】図4−2は、実施形態1に係るフォトニック結晶バイオセンサーを説明する図である。
【図4−3】図4−3は、実施形態1に係るフォトニック結晶バイオセンサーを説明する図である。
【図5−1】図5−1は、実施形態1に係るフォトニック結晶バイオセンサー固定手段を説明する図である。
【図5−2】図5−2は、実施形態1に係るフォトニック結晶バイオセンサー固定手段を説明する図である。
【図6−1】図6−1は、実施形態1に係るマーカーを説明する図である。
【図6−2】図6−2は、実施形態1に係るマーカーの拡大図である。
【図6−3】図6−3は、実施形態1に係るマーカーの別の形態を示す図である。
【図6−4】図6−4は、実施形態1に係るマーカーの別の形態を示す図である。
【図6−5】図6−5は、実施形態1に係るマーカーの別の形態を示す図である。
【図7−1】図7−1は、実施形態1に係るマーカーの別の形態を示す図である。
【図7−2】図7−2は、実施形態1に係るマーカーの別の形態を示す図である。
【図7−3】図7−3は、実施形態1に係るマーカーの別の形態を示す図である。
【図8】図8は、フォトニック結晶バイオセンサーの別の形態を説明する図である。
【図9】図9は、実施形態1の標的物質濃度測定装置の原理を説明する図である。
【図10】図10は、実施形態1の標的物質濃度測定方法を説明する図である。
【図11−1】図11−1は、実施形態1の測定部による検出・測定結果を示す図である。
【図11−2】図11−2は、実施形態1の測定部による検出・測定結果を示す図である。
【図12】図12は、実施形態1の標的物質濃度測定装置による検出・測定結果を示す図である。
【図13】図13は、実施形態2に係る標的物質測定装置の概略図である。
【図14】図14は、真空チャック機構の一部の分解図である。
【図15−1】図15−1は、フォトニック結晶を回転させたときの結晶方位の変化を説明する図である。
【図15−2】図15−2は、フォトニック結晶を回転させたときの結晶方位の変化を説明する図である。
【図16】図16は、回転台を使用せずに行った複数回の測定結果を示す図である。
【図17】図17は、フォトニック結晶バイオセンサーの回転角度に対して、反射光の光強度をプロットした図である。
【図18】図18は、回転台を使用して行った10回の測定結果を示す図である。
【図19】図19は、フォトニック結晶バイオセンサー載置部および反射鏡の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための形態(以下、実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。また、同一機能を有する構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0037】
[実施形態1]
本実施形態の標的物質濃度測定装置を、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態の標的物質濃度測定装置の概略を示す図である。標的物質濃度測定装置1は、標的物質捕捉部であるフォトニック結晶バイオセンサー200と、測定部300と、演算部600とを含む。
【0038】
まず、標的物質捕捉部であるフォトニック結晶バイオセンサー200について説明する。標的物質捕捉部であるフォトニック結晶バイオセンサー200は、表面に凹部と凸部とが周期的に形成された反射面を有し、前記反射面に光を照射すると、第1の強度である特定波長の反射光が得られる構造体と前記反射面に固定されるとともに標的物質を捕捉する標的物質捕捉物質とを含む。
【0039】
表面に凹部と凸部とが周期的に形成され、凹部と凸部とが形成された反射面に光を照射すると、特定波長の反射光が得られる構造体は、一般にフォトニック結晶と呼ばれるものである。
【0040】
図2−1および図2−2は、フォトニック結晶(構造体)を説明する図である。図2−1はフォトニック結晶100の平面図を示し、図2−2は図2−1におけるA−A断面を示す。
【0041】
フォトニック結晶100は、表面に、凸部111と孔(凹部)110とが周期的に形成されたものである。この凸部111と孔(凹部)110とが周期的に形成された面が、フォトニック結晶100の反射面112であり、この反射面112に光を照射すると、フォトニック結晶100の形状と材質に依存した特定波長の光が反射される。フォトニック結晶100の形態としては、例えば微小な円柱状の孔(凹部)110がその表面に配置されているものを好適に使用することができる。例えば図2−1および図2−2に示す形態のフォトニック結晶100の場合であれば、円柱状の孔(凹部)110の直径Dは50nm以上1000nm以下であり、円柱状の孔(凹部)110同士の間隔が100nmを超え2000nm以下のものとすることが好ましい。
【0042】
図2−1および図2−2に示す円柱状の孔(凹部)110を有するフォトニック結晶100は、本実施形態の構造体として好適なものの一つである。円柱状の孔(凹部)110の直径Dは約250nmであり、円柱状の孔(凹部)110間の間隔は円柱中心部同士の間隔で約500nmであり、円柱状の孔(凹部)110は三角形の格子状に配置されており、円柱状の孔(凹部)110の深さHは約150nmである。
【0043】
本実施形態の構造体の形態は、図2−1および図2−2に示した形態に限定されることはない。例えば、矩形または多角形の格子状の微細パターンが表面に形成されたもの、もしくは、平行線状パターンや波型形状パターン等が表面に形成されたもの、詳しくは周期的にパターン等が形成されたもの、またはこれらのパターンの組合せであってもよい。
【0044】
フォトニック結晶100の材質としては、合成樹脂等の有機材料、金属・セラミック等の無機材料を使用することができる。
【0045】
合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリシクロオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、アクリル、ポリメタクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が使用できる。
【0046】
セラミックとしては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、イットリア等のセラミックを好適に使用することができる。
【0047】
金属としては、鉄鋼材料をはじめ各種合金が使用可能である。具体的には、ステンレス鋼やチタン、チタン合金等を好適に使用できる。
【0048】
上記した各種材料の中でも、光学特性、加工性、標的物質(ターゲットとなる物質)を含有する溶液に対する耐性、標的物質捕捉物質(特異的結合物質)の吸着性、洗浄剤に対する耐性等を考慮すると、ポリシクロオレフィン系合成樹脂もしくはシリカ系のセラミックがより好ましい。この中でも、ポリシクロオレフィン系合成樹脂は加工性に優れており最も好適である。
【0049】
フォトニック結晶100は、上記材料基板の表面に微細な加工を施すことにより作成される。加工方法としては、レーザー加工、熱ナノインプリント、光ナノインプリント、フォトマスクとエッチングの組合せ等が使用できる。
【0050】
特に、ポリシクロオレフィン系合成樹脂等の熱可塑性樹脂を材料とする場合には、熱ナノインプリントによる方法が好適である。
【0051】
熱ナノインプリントによりフォトニック結晶100を作成する工程の一例を、図を用いて説明する。図2−3、図2−4および図2−5は、フォトニック結晶100の作成方法を説明する図である。熱ナノインプリントは、ナノメートルレベルの微細構造、あるいはナノメートルレベルの周期構造のパターンを有する金型を加熱してシート状の樹脂に押し付けて微細構造や周期構造をシート状の樹脂に転写する方法である。
【0052】
シクロオレフィン系ポリマーの場合であれば、金型を140℃程度まで加熱し(図2−3)、約6MPaの圧力で所定時間押圧し(図2−4)、金型表面温度が60℃程度になったところで離型することが好ましい(図2−5)。
【0053】
次に、標的物質を捕捉する標的物質捕捉物質について説明する。標的物質とは、濃度を検出する対象物であって、タンパク質などの高分子、オリゴマー、低分子のいずれであってもよい。例えば、生体内に存在する、生体活性物質が挙げられ、なかでも、コルチゾールが好ましい。コルチゾールとは分子量362g/molの低分子物質であり、人間がストレスを感じると唾液中のコルチゾール濃度が増加するため、人間が感じているストレスの度合いを評価する物質として注目されている。コルチゾールを標的物質としてその濃度を測定すれば、例えば、ヒトの唾液中のコルチゾールの濃度を測定することで、ストレスの度合いを評価することができる。
【0054】
標的物質捕捉物質とは、標的物質と結合し、標的物質を捕捉する物質である。ここで、結合するとは、化学的に結合する場合のほか、例えば物理吸着、ファンデルワールス力による結合のように、化学的結合によらない結合であってもよい。好ましくは、標的物質捕捉物質は、標的物質と特異的に結合して標的物質を捕捉するものであり、標的物質を抗原とした抗体であることが好ましい。標的物質がコルチゾールである場合は、標的物質捕捉物質は、コルチゾール抗体であることが好ましい。
【0055】
標的物質捕捉物質は、フォトニック結晶100の反射面112に固定される。標的物質捕捉物質をフォトニック結晶100の反射面112に固定する手段として、例えば吸着が挙げられる。吸着の操作は例えば以下のようなものである。標的物質捕捉物質を含んだ溶液を、フォトニック結晶100の反射面112に滴下し、所定の時間、室温で、または必要に応じ冷却・加温して、標的物質捕捉物質を反射面112に吸着させる。
【0056】
標的物質捕捉部は、特定の抗原(例えばコルチゾール)とのみ結合する抗体(例えばコルチゾール抗体)をフォトニック結晶100の表面にあらかじめ吸着(固定)させておくことにより、特定の抗原を検出するフォトニック結晶バイオセンサー200とすることができる。これは、フォトニック結晶100の光学的特性と、フォトニック結晶100の表面もしくは表面近傍で起こる各種の生体・化学反応、例えば特定の抗原は特定の抗体とのみ反応するという抗原抗体反応を利用するものである。
【0057】
標的物質捕捉部は、標的物質捕捉物質である抗体がフォトニック結晶100の反射面112に固定された後の反射面112に、ブロッキング剤(保護物質)が固定されたものであってもよい。ブロッキング剤は、標的物質が標的物質捕捉部に接触させられる前に固定される。フォトニック結晶100の表面は、一般的に超疎水性であり、疎水性相互作用によって標的物質捕捉物質である抗体以外の不純物を吸着してしまうおそれがある。さらに、フォトニック結晶100の光学特性は表面状態に大きく影響されるので、フォトニック結晶100の表面には、なるべく不純物が吸着されていない方が検出の精度は向上する。
【0058】
したがって、標的物質捕捉物質である抗体が吸着(固定)された部分以外の箇所には、不純物等が固定されない様に、いわゆるブロッキング剤をあらかじめ固定させておくことが好ましい。ブロッキング剤をあらかじめ吸着させておくには、ブロッキング剤を、フォトニック結晶100の表面に接触させる。ブロッキング剤として、スキムミルクやウシ血清アルブミン(BSA)等を使用することができる。次に、標的物質捕捉部であるフォトニック結晶バイオセンサー200が標的物質である抗原の濃度を検出する基本的な原理を説明する。
【0059】
図3−1、図3−2、図3−3および図3−4は、標的物質捕捉部である、フォトニック結晶バイオセンサー200の原理を説明する図である。一般的に、フォトニック結晶バイオセンサーは、フォトニック結晶の光学的特性と、フォトニック結晶表面または表面近傍で起こる各種生体・化学反応、例え特定の抗原は特定の抗体とのみ反応するという抗原抗体反応を利用して、微量のタンパク質や低分子物質を検出するものである。
【0060】
図3−1には、フォトニック結晶バイオセンサー200が示される。フォトニック結晶バイオセンサー200の表面(反射面112)には、抗体113が吸着により固定されている。
【0061】
次に、図3−2に示すように、抗体113が吸着した部分以外の箇所、すなわち、抗体113が吸着した部分以外の反射面112に、不純物等が吸着しないように、いわゆるブロッキング剤115(保護物質)をあらかじめ吸着させておく。
【0062】
次に、図3−3に示すように、抗体113とブロッキング剤115が吸着されているフォトニック結晶バイオセンサー200に、抗原114を接触させ、抗原抗体反応を行う。
【0063】
次に、図3−4に示す通り、フォトニック結晶100の反射面112に吸着させた抗体113に、抗原114が捕捉された状態で特定波長の光を照射して反射光強度を測定する。後で説明する演算部は、この測定値を、あらかじめ測定しておいた図3−1の状態や、図3−2の状態(すなわち、抗体113が吸着した部分以外のフォトニック結晶100の反射面112に、ブロッキング剤115を吸着させた状態)での測定値と比較換算または演算をすることにより、抗原114の有無の検出、さらには抗原114の含有量等を測定することができる。ただし、図3−2の状態での測定値と比較換算または演算をすることが好ましい。これによって、より検出の精度を向上させることができる。
【0064】
上記原理に基づき、抗原抗体の組合せの種類を変えることにより、検出対象の物質であるタンパク質等の各種生体物質や低分子量物質の種類を変えることが可能である。
【0065】
次に、フォトニック結晶バイオセンサー200の構造について説明する。図4−1、図4−2および図4−3は、フォトニック結晶バイオセンサー200の説明図である。図4−1は、フォトニック結晶バイオセンサー200の一部分解図である。フォトニック結晶バイオセンサー200は、下部のプレート210と開口部240が設けられているプレート220によりフォトニック結晶100を挟む構造としている。この場合のフォトニック結晶100は、上述した円柱状の孔(凹部)を有する形態以外の別の形態であってもよい。図4−2は組み立て後のフォトニック結晶バイオセンサー200を示している。開口部240の一端は、フォトニック結晶100の反射面112により閉塞される。このような構造のため、プレート220の開口部240側内壁と反射面112とで囲まれたある一定容積の凹部241(液滴保持部)ができる。図4−3は、開口部240側内壁と反射面112とで囲まれた凹部241に所定の溶液を滴下した状態を示す。この場合、開口部240側内壁と反射面112とで形成される凹部241が液滴保持機能を発揮するため、開口部240から液滴が流出するのを防止し、かつ、溶液の量としては凹部241に広がる程度の量があれば、十分な検出・測定が可能となる。なお、開口部240側内壁とは、プレート220と開口部240との境界面である、プレート220の内壁をいう。
【0066】
開口部240は、液滴保持機能を有する形状であれば図示した円柱形に限らず、各種の形状とすることができる。また、開口部240を円柱状とした場合、その直径等は、抗体や抗原の組合せの種類や、必要な測定精度、あるいは、反射光の検出器の光学系に合わせて様々な直径とすることができる。好ましくは、開口部240は直径0.5mm〜10mmとするのが好ましい。より好ましくは、上記リンス操作や吸着操作時の操作や取り扱いの利便性を考慮し2〜6mm程度とすることが好ましい。
【0067】
プレート210,220の材質等も特に制約は無いが、表面の清浄度等を考慮すると、ステンレス鋼、ポリシクロオレフィン系樹脂、シリカ等を有するものを使用することが好ましい。
次に、本発明のフォトニック結晶バイオセンサーの別の形態について説明する。
【0068】
図4−1に示す開口部240が設けられているプレート220を疎水性の材料とすることができる。特に、唾液等のいわゆる親水性の溶液の検出・測定を行う場合に凹部241に的確に溶液を集めることができる。また、脂質等のいわゆる親油性の溶液の検出・測定を行う場合はプレート220を親水性のものとすることもできる。
【0069】
さらに、プレート220を撥水もしくは撥油性あるいは撥水撥油性のある材料で形成することも好ましい。また、疎水性、親水性、撥水性、撥油性を発揮する表面処理やコーティングを施したものとしてもよい。これらにより、凹部241に的確に溶液を集めることができる。
【0070】
フォトニック結晶バイオセンサー200の下部に、測定部300に対してフォトニック結晶バイオセンサー200の位置を定めて、フォトニック結晶バイオセンサー200を固定するための固定材(標的物質捕捉部固定手段、フォトニック結晶バイオセンサー固定手段)を装着することも好ましい。固定材としては、マグネットシート、両面テープ、接着剤等が使用できる。また、固定材ではなく、固定機構として真空チャックや静電チャックによる固定を用いてもよい。この場合、さらに、これらの組合せにより固定してもよい。固定機構として真空チャックによる固定を用いた形態は、実施形態2として後で詳述する。
【0071】
フォトニック結晶バイオセンサー200を固定しておくことにより、検出・測定時の振動等による測定位置のずれを減少することが可能となり、より正確な検出・測定ができる。
【0072】
図5−1および図5−2は、本実施形態に係るフォトニック結晶バイオセンサー固定手段を説明する図である。フォトニック結晶バイオセンサー201は、フォトニック結晶バイオセンサー200にマグネットシート410を取り付けたものである。図5−1はマグネットシート410の取り付け前、図5−2はマグネットシート410の取り付け後の状態を示す。マグネットシート410は、フォトニック結晶バイオセンサー固定手段として機能する。
【0073】
また、フォトニック結晶バイオセンサー200は、熱ナノインプリント等により均一に作成されているとはいえ、より一層の検出・測定の正確さを期するのであれば、フォトニック結晶バイオセンサー200上の光学特性のバラツキも考慮し、光の入射・反射部位も正確に位置決めすることが好ましい。
【0074】
すなわち、フォトニック結晶バイオセンサー200と後で説明する測定プローブとの測定時の位置関係は、抗体抗原反応の前後で同一であることが好ましく、同一の部分を測定することが好ましい。したがって、測定プローブとフォトニック結晶バイオセンサー200の反射面112との距離は、抗体抗原反応の前後で同一であることが好ましく、50〜500μmに固定することが好ましい。フォトニック結晶バイオセンサー200が、プレート220を含むことで、プレート220がスペーサとして機能し、測定プローブとフォトニック結晶バイオセンサー200の反射面112との距離を一定とすることができる。
【0075】
また、フォトニック結晶バイオセンサー200に、反射面112における特定の位置を表示する、位置決め用のマーカーによって、マークを付けることが好ましい。位置決めのためのマーカーは、フォトリソグラフィー、スパッタリング、蒸着、あるいはこれらを利用したリフトオフプロセス、インク等による印刷、インプリントによるパターン形成等によって付けることができる。
【0076】
マーカーは、その位置を読み取ることができればフォトニック結晶バイオセンサー200の表面(反射面112側)および裏面(反射面112の反対側)のどちらに付けてもよい。また、フォトニック結晶100の測定部分を外してフォトニック結晶100自体にマーカーを付けてもよいし、図4−1に示すプレート220、210に付けてもよい。
【0077】
図6−1は実施形態に係るマーカーを説明する図である。図6−2は、実施形態に係るマーカーの拡大図である。図6−1に示すフォトニック結晶バイオセンサー200は、フォトニック結晶100にマーカーを付けたものである。図6−1は、開口部240に対応する、フォトニック結晶100の部分に千鳥格子状のマーカーM1を5箇所付けたものである。
【0078】
各千鳥格子の中央部が反射光測定のための測定エリアAとなっている。すなわち、図6−1に示すフォトニック結晶バイオセンサー200では、開口部240内に5箇所の測定エリアAがあり、各測定エリアAとも抗原抗体反応の前後で正確に位置を合わせることができるため、より一層正確な検出、測定が可能となる。また、測定エリアA内に不純物が存在している場合には、不純物が存在する測定エリアAにおける反射光強度のデータを使用しないこととして、よりいっそう正確な検出・測定が可能となる。
【0079】
図6−3、図6−4および図6−5は、実施形態に係るマーカーの別の形態を示す図であり、千鳥格子以外のマーカーを例示するものである。マーカーとして、(図6−3)環状のマーカーM2、(図6−4)複数の三角形で構成され、それぞれの三角形の一つの頂点が測定エリアAの境界を示すマーカーM3、(図6−5)複数の線分で構成され、線分の始点が測定エリアAの境界を示すマーカーM4が挙げられる。
【0080】
図7−1、図7−2および図7−3は、実施形態に係るマーカーの別の形態を示す図である。(図7−1)マーカーM5は、3つの正方形と、一部が欠けた正方形とを有し、各形状は測定エリアAの境界に外接している。(図7−2)マーカーM6は、3つの三角形と、一つの台形とを有し、三角形の頂点が測定エリアAの境界を示している。(図7−3)マーカーM7は複数の線分で構成された、合同の3つの図形と、これらとは異なる一つの図形とを有し、線分の始点が測定エリアAの境界を示す。マーカーM5,M6,M7の形状は、いずれも、非対称の形状、詳しくは、線対称軸を持たない図形である。このようにマーカーの形状を、非対称、詳しくは線対称軸を持たない図形とすることで、抗原抗体反応の前後で正確に位置を合わせることができる。また、フォトニック結晶100の表裏の判別も目視や低倍率の拡大で可能となるため、検出・測定効率がより向上する。
【0081】
次に、フォトニック結晶バイオセンサーの別の形態を説明する。図8はフォトニック結晶バイオセンサーの別の形態を説明する図である。フォトニック結晶バイオセンサー202は、フォトニック結晶バイオセンサー200に、開口部240を塞ぐ部材を設けたものである。フォトニック結晶バイオセンサー202では、穴付カバー510とシート520により開口部240を塞ぐ構造としている。穴付きカバー510は、開口部511を有する板状部材であり、この穴付きカバー510は、フォトニック結晶バイオセンサー200に重ねられて用いられる。開口部511は、穴付カバー510の開口部511側内壁に囲まれた空間512に標的物質が配置された後、シート520により覆われる。なお、この場合、穴付きカバー510の開口部511側内壁と、フォトニック結晶バイオセンサー200の開口部240側内壁と、フォトニック結晶100の反射面112とで、液滴保持部が構成されている。シート520は、被覆部材として機能している。なお、開口部511側内壁とは、穴付カバー510と開口部511との境界面である、穴付カバー510の内壁をいう。
【0082】
穴付カバー510およびシート520により滴下した溶液の蒸発を防止することが可能であり、抗原抗体反応時の蒸発等による溶液の濃度変化の防止や、外部からの異物の混入防止に効果がある。
【0083】
また、穴付カバー510とシート520及びフォトニック結晶バイオセンサー200の開口部240側内壁で形成される空間512に、溶液を充填することにより、溶液を充填した状態で反射光の測定をより正確に行うことも可能である。
【0084】
そのため、シート520は透明な材料で作成されていることが好ましく、より好ましくは、反射光強度を測定する波長の光の吸収が少ないものが好ましい。たとえば、可視光線領域から紫外線領域の反射光で測定する場合は石英(シリカ)等が好ましい。
【0085】
次に、本実施形態に係る標的物質濃度測定装置に含まれる、測定部および演算部について詳しく説明する。
【0086】
図1に示すように、本実施形態の標的物質濃度測定装置1は、液滴保持機能を有するフォトニック結晶バイオセンサー200と、光学系機器である測定部300と、演算部600とで構成されている。フォトニック結晶バイオセンサー200と光学系機器である測定部300とで検出装置を構成している。測定部300は、光源310、測定プローブ320、光検出装置330から構成されている。光源310と測定プローブ320、光検出装置330と測定プローブ320は、光ファイバー340、350により光学的に接続されている。また、必要に応じ、光源310や光検出装置330等に接続され、光源310の制御や、光検出装置330からの信号を処理する制御装置を設けてもよい。
【0087】
測定プローブ320の内部構造について図9を参照して説明する。測定プローブ320には、光源310に光学的に接続されている入射光用の光ファイバー340と光検出装置330に光学的に接続されている反射光用の光ファイバー350とが収容されている。
【0088】
光源310からの光は、光ファイバー340を介してフォトニック結晶バイオセンサー200に照射され、フォトニック結晶バイオセンサー200からの反射光が光ファイバー350を介して光検出装置330に到達する。光検出装置330は反射光の強度を測定するものである。
【0089】
次に、演算部600について説明する。演算部600は、フォトニック結晶100(構造体)の反射面112に光を照射して得られる特定波長における反射光の強度を第1の強度とした場合に、抗原114(標的物質)がフォトニック結晶バイオセンサー200(標的物質捕捉部)と接触させられる前における反射光の、前記特定波長における第2の強度を、前記第1の強度または前記第2の強度で除した値である第1の相対強度と、抗原114がフォトニック結晶バイオセンサー200に接触させられた後における反射光の、前記特定波長における第3の強度を、前記第2の強度を除した強度と同じ強度で除した値である第2の相対強度とを求め、前記第1の相対強度と前記第2の相対強度との差に基づいて抗原114(標的物質)の濃度を求める。演算部600は、マイクロコンピュータなどの演算装置で構成される。
【0090】
標的物質である抗原114の濃度を求めるにあたり、第2の強度と第3の強度との差に基づいて抗原114の濃度を求めるのではなく、第1の相対強度と第2の相対強度との差に基づいて抗原114の濃度を求めるのは、以下の理由による。
【0091】
フォトニック結晶100のみの反射光強度、すなわち、フォトニック結晶100に標的物質捕捉物質である抗体113が吸着(固定)される前に測定された、フォトニック結晶100の反射光強度は、熱ナノインプリントの成形条件などによってフォトニック結晶バイオセンサー200ごとにバラツキが発生する場合がある。また、抗体113およびブロッキング剤115がフォトニック結晶100へ吸着する量は、フォトニック結晶バイオセンサー200毎にバラツキがある為、測定結果の反射光強度をそのまま使用した場合は、抗原114の含有量の結果に影響を及ぼしてしまうことがある。
【0092】
そこで、抗体吸着工程(AN)後の特定波長における反射光の強度(I2a)、ブロッキング剤吸着工程(BL)後の特定波長における反射光の強度(第2の強度:I2)、抗原吸着工程(CO)後の特定波長における反射光の強度(第3の強度:I3)を、抗体113を吸着させる前のフォトニック結晶100(PC)の反射光の特定波長における強度(フォトニック結晶100のみの反射光強度)(第1の強度:I1)で除算し、除算した値の変化量|I3/I1−I2/I1|によって抗原114の濃度を定量化することで、フォトニック結晶100の反射光強度のバラツキおよび抗体113やブロッキング剤115の吸着量のバラツキを無視することが可能となる。なお、除算する強度は各工程のいずれかの反射光の強度を用いてもよい。また、第2の強度と第3の強度との差を求め、これを第1の強度で除することによって変化量を求めてもよい。また、I2の代わりに、I2aを用いて変化量を求めてもよい。ただし、I2aではなくI2を用いた場合は、よりフォトニック結晶100の反射光強度のバラツキおよび抗体113やブロッキング剤115の吸着量のバラツキを無視することが可能になる。
【0093】
演算部600は、測定部300から、抗体113を吸着させる前のフォトニック結晶100の反射光の強度I1、抗体吸着工程の後の反射光の強度I2a、ブロッキング剤吸着工程の後の反射光の強度I2、抗原吸着工程の後の反射光の強度I3を取得する。
【0094】
演算部600は、取得した反射光の強度から、第1の相対強度I2/I1と、第2の相対強度I3/I1とを求める。そして、第1の相対強度と、第2の相対強度との差|I3/I1−I2/I1|を求める。演算部600は、第2の強度と第3の強度との差|I3−I2|を求めてから、これを第1の強度I1で除すことによって第1の相対強度と第2の相対強度との差を求めてもよい。
【0095】
次に、演算部600は、あらかじめ作成されている、濃度と、第1の相対強度と第2の相対強度との差との相関関係を示すデータと、求めた第1の相対強度と第2の相対強度との差を比較して、抗原114の濃度を決定する。濃度と、第1の相対強度と第2の相対強度との差との相関関係は、濃度が既知の抗原114を含む試料を、標的物質濃度測定装置1で測定しておくことによって作成することができる。
【0096】
次に、実際の検出・測定に関わる操作方法について説明する。図10は、本実施形態の標的物質濃度測定方法を説明する図であり、コルチゾール抗体をフォトニック結晶100の表面である反射面112に吸着させて、唾液中のコルチゾールという物質を検出対象として、検出・測定する場合の操作方法の概要を示すものである。
【0097】
フォトニック結晶100としては、熱ナノインプリントにより所定の微細構造を表面に形成したシクロオレフィン系ポリマーのシートを所定の大きさに切断したものを用いている。
【0098】
まず、フォトニック結晶100について、所定の光学測定系を有する検出器、すなわち標的物質濃度測定装置1を用いて、反射面112により反射された反射光の、所定の波長における強度I1を測定する(ステップS1)。
【0099】
次に、コルチゾール抗体溶液(コルチゾール抗体濃度1〜50μg/ml)をフォトニック結晶100の表面である反射面112に滴下して、所定の時間、または必要であれば所定の温度で所定の時間静置し、コルチゾール抗体をフォトニック結晶100の表面である反射面112に吸着させる(ステップS2)。
【0100】
その後、リン酸緩衝液(PBS:Phosphate buffered saline)をフォトニック結晶100の表面である反射面112に滴下し、その後遠心力等により除去するリンス処理を複数回行う(ステップS3)。
【0101】
次に、所定の光学測定系を有する検出器、すなわち標的物質濃度測定装置1を用いて、コルチゾール抗体が吸着されたフォトニック結晶100について、反射光強度I2aを測定する(ステップS4)。
【0102】
次に、ブロッキング剤115としてスキムミルクをフォトニック結晶100表面に滴下し、所定の時間、または必要であれば所定の温度で所定の時間静置し、スキムミルクをフォトニック結晶100表面のコルチゾール抗体の非吸着部に吸着させる(ステップS5)。その後、前記リンス処理と同様にリン酸緩衝液によりリンス処理を複数回行う(ステップS6)。以上の操作により、フォトニック結晶100の表面に所定の処理がなされ、フォトニック結晶バイオセンサー200が形成される。
【0103】
次に、所定の光学測定系を有する検出器、すなわち標的物質濃度測定装置1を用いて、所定の波長におけるフォトニック結晶バイオセンサー200の反射光強度I2を測定する(ステップS7)。
【0104】
コルチゾールを含む溶液としての唾液の準備をする。唾液のサンプリング次いで不純物の除去等の前処理は、市販の唾液採取キットを用いて行う。唾液の準備は、フォトニック結晶バイオセンサー200に唾液を滴下する前であればいつ行ってもよい。例えば、フォトニック結晶バイオセンサー200を形成する前に行ってもよく、フォトニック結晶バイオセンサー200を形成するのと並行して行ってもよく、反射光強度I2を測定した後に行ってもよい。
【0105】
次に、サンプリング及び前処理の終了した唾液10μL〜50μLを前記フォトニック結晶バイオセンサー200に滴下する(ステップS8)。所定の時間、また必要であれば所定の温度で所定の時間静置して抗原抗体反応を行い(ステップS9)、前記リンス処理と同様にリン酸緩衝液によりリンス処理を複数回行う(ステップS10)。
【0106】
次に、前記同様所定の光学系を有する検出器、すなわち標的物質濃度測定装置1を用いて、コルチゾール吸着後のフォトニック結晶バイオセンサー200の所定の波長での反射光強度I3を測定する(ステップS11)。
【0107】
フォトニック結晶バイオセンサー200の反射光強度は、表面もしくは表面近傍での抗体抗原反応等により影響を受けて変化するため、反応前後の反射光強度の差から、換算や演算等を行い、唾液中のコルチゾールを検出あるいは濃度を測定することができる。
【0108】
また、フォトニック結晶100の反射光強度のバラツキおよび抗体113やブロッキング剤115の吸着量のバラツキの影響を除外するために、抗体吸着(AN)後の反射光の強度I2a、ブロッキング剤吸着(BL)後の反射光の強度I2、コルチゾール吸着(CO)後の反射光の強度I3を、フォトニック結晶100のみ(PC)の反射光の強度I1で除算し、除算した値の変化量(CO−BL:|I3/I1−I2/I1|)を求める(ステップS12)。なお、除算する強度は各工程のいずれかの反射光の強度を用いてもよく、I2aまたはI2であってもよい。次いで、この変化量によってコルチゾールの濃度を定量化する(ステップS13)。
【0109】
更に、本実施形態のフォトニック結晶バイオセンサー200は、図4−1、図4−2および図4−3に示すように、液滴保護機能を有しているため、コルチゾール抗体溶液、唾液、リンス液ともその必要量を大幅に低減することができる。
【0110】
次に、フォトニック結晶100として、熱ナノインプリントにより所定の微細構造を表面に形成したシクロオレフィン系ポリマーのシートを所定の大きさに切断したものを用い、液滴保持機能を有するプレートを有する形態のフォトニック結晶バイオセンサー200を用いた、標的物質濃度測定装置1により測定した結果を説明する。図11−1および図11−2は、本実施形態の測定部300による検出・測定結果を示す図である。図12は、本実施形態の標的物質濃度測定装置1による検出・測定結果を示す図である。
【0111】
図11−1に示す測定グラフは、コルチゾール抗体が吸着したフォトニック結晶バイオセンサー200を用いてコルチゾールを検出した結果である。フォトニック結晶100のみ(PC)の反射光の強度と比較して、抗体吸着(AN)後、ブロッキング剤吸着(BL)後、コルチゾール吸着(CO)後の各工程を経る毎に、フォトニック結晶100の反射面112の状態が変化して反射光の強度が減少している。
【0112】
コルチゾール抗体は、コルチゾールと強く結合する性質を有するため、BL工程からCO工程までの反射光の強度の変化は、コルチゾールがフォトニック結晶バイオセンサー200(センサー)に吸着して検出されたことを示すものである。しかしながら、上記の反射光の強度を直接用いてコルチゾール濃度の算出を行おうとした場合、フォトニック結晶バイオセンサー200毎に有している熱ナノインプリントの成形条件などによって生じるフォトニック結晶100のみの反射光の強度I1のバラツキや、コルチゾール抗体やブロッキング剤の吸着量のバラツキが影響してしまう為、PC工程の反射光の強度I1を基準値100%として、各工程の反射光の強度を除算してパーセント表記に変換した。この方法によって、フォトニック結晶100の反射光強度のバラツキおよびコルチゾール抗体やブロッキング剤の吸着量のバラツキを無視することが可能となる。
【0113】
図11−2は、上記除算後に反射光強度のピーク波長である500nmの反射光強度に着目した場合の各工程の反射光強度の変化量を示したものである。この図よりPC工程からCO工程を経る毎に、反射光強度が減少していることが判る。
【0114】
また、コルチゾール抗体(抗体)やブロッキング剤の吸着量のバラツキによって、試験条件を同じにした場合でも各工程の減少量はフォトニック結晶バイオセンサー200毎に異なった値になるが、BL工程からCO工程にかけては一様な変化量を示す。
【0115】
この現象は、コルチゾール抗体(抗体)およびブロッキング剤の吸着の仕方と、コルチゾールの吸着の仕方の違いによって発生する。コルチゾール抗体およびブロッキング剤は、フォトニック結晶バイオセンサー200への吸着を確実なものにするために、フォトニック結晶バイオセンサー200の表面積への吸着限界量の約10倍の濃度にしているため、フォトニック結晶バイオセンサー200に積層状態で吸着している。そのため、試験条件を同じにしても層の厚さまでは制御できずに、結果としてフォトニック結晶バイオセンサー200毎に反射光強度の減少量が異なってしまう。一方、検出対象であるコルチゾールは、コルチゾール抗体およびブロッキング剤と比較して低濃度であり、積層したコルチゾール抗体の、表面のコルチゾール抗体のみと結合するため、結果としてフォトニック結晶バイオセンサー200の表面に単層に近い状態で吸着する。したがって、BL工程からCO工程の変化量はコルチゾール抗体やブロッキング剤の吸着量のバラツキを無視したものであり、フォトニック結晶バイオセンサー200毎のバラツキは発生しなくなる。
【0116】
さらに、コルチゾール濃度を1nmol/L〜41nmol/Lまで変化させたときのBL工程からCO工程までの反射光の強度の変化量を測定した結果を図12に示す。図12は、実施形態の標的物質濃度測定装置による検出・測定結果を示す図である。
【0117】
図12に示す測定結果から、一定の条件であればコルチゾール濃度と反射光強度との変化量の間には相関があることがわかる。そのため、コルチゾール濃度が未知の唾液を滴下した際に生じる反射光強度の変化量から、唾液中のコルチゾール濃度を測定することができる。
【0118】
[実施形態2]
次に、別の実施形態に係る標的物質測定装置について説明する。図13は、本実施形態に係る標的物質測定装置の概略図である。標的物質測定装置1aは、標的物質固定手段として真空チャック機構700を含むものである。図14は、真空チャック機構700の一部の分解図である。標的物質測定装置1aは、フォトニック結晶バイオセンサー200と、測定部300と、演算部600と、真空チャック機構700(標的物捕捉部固定手段)とを備える。真空チャック機構700は、測定部300に対してフォトニック結晶バイオセンサー200の位置を定めて、これを固定するものである。
【0119】
真空チャック機構700は、センサー台701、真空チャック部材702,エアコネクタ703、エアチューブ704,真空ポンプ705を含む。センサー台701は、フォトニック結晶バイオセンサー200を載置する盤状の部材であり、測定プローブ320の先端と対向するように配置される。センサー台701には、フォトニック結晶バイオセンサー200を載置するセンサー台701の面とその反対の面とを通ずる、円形の貫通孔706が形成されている。測定プローブ320から照射された光は、フォトニック結晶バイオセンサー200を透過し、透過した光がセンサー台701に照射される。貫通孔706は、少なくとも透過した光が照射されるセンサー台701の範囲に形成されている。真空チャック機構700の真空チャック機能の実現のためには、貫通孔706は必須ではない。貫通孔706については後で詳述する。
【0120】
貫通孔706の周囲には、真空チャックのための真空チャック用貫通孔707が等間隔に8個形成されている。真空チャック用貫通孔707は、フォトニック結晶バイオセンサー200を載置するセンサー台701の面と、その反対の面とを通ずる。真空チャック用貫通孔707の個数は8個に限定されず、これより少なくてもよいし多くてもよい。また真空チャック用貫通孔707の位置も、貫通孔706の周囲に限定されず、測定の際に、フォトニック結晶バイオセンサー200が接するセンサー台701の位置であればよい。センサー台701には、フォトニック結晶バイオセンサー200を載置する面と反対側に、真空チャック部材702が嵌め込まれる凹部708が形成されている。
【0121】
真空チャック部材702は、直方体の部材であり、凹部708に嵌め込まれる。真空チャック部材702の、センサー台701と接する面には、凹部709が形成されている。凹部709は、深さに特に限定はないが、1mm以上2mm以下程度が好ましく、1mm以上2mm以下がさらに好ましい。凹部709は、真空チャック部材702がセンサー台701に嵌め込まれたときに、真空チャック部材702が真空チャック用貫通孔707を塞がないような範囲に形成されている。真空チャック部材702には、センサー台701に嵌め込まれたときに貫通孔706と対向する位置に、円環状の縁をもつ貫通孔711が形成されている。円環状の縁は、真空チャック部材702の凹部709とセンサー台701とで形成される減圧空間と、貫通孔706および貫通孔711とを分離するためのものである。貫通孔711の口径は、貫通孔706の口径と等しい。凹部709には、エアコネクタ703との接続部710が形成されている。接続部710にエアコネクタ703が接続され、エアコネクタ703と真空ポンプ705とはエアチューブ704で接続される。本実施形態では、真空チャック部材702とセンサー台701とは別体として構成されているが、一体として構成されていてもよい。
【0122】
センサー台701に真空チャック部材702を嵌め込み、真空ポンプ705を作動させると、真空チャック部材702の凹部709とセンサー台701とで形成される空間が減圧され、センサー台701の真空チャック用貫通孔707から吸気が行われる。センサー台701にフォトニック結晶バイオセンサー200を載置すると、フォトニック結晶バイオセンサー200がセンサー台701に固定される。これにより、検出・測定時の振動等による測定位置のずれを減少することが可能となり、より正確な検出・測定ができる。また、フォトニック結晶バイオセンサー200をセンサー台701に真空チャック機構700により固定することで、フォトニック結晶バイオセンサー200のたわみを減少させることができる。
【0123】
本実施形態に係る標的物質測定装置は、フォトニック結晶バイオセンサー200を回転させる回転台800(標的物質捕捉部回転手段、標的物質捕捉部回転部、フォトニック結晶バイオセンサー回転部)を備える。
【0124】
回転台800は、フォトニック結晶バイオセンサー200を載置するセンサー台701と、センサー台701のフォトニック結晶バイオセンサー200を載置する側とは反対側に配置されて、センサー台701を支持する支持台801とを含む。本実施形態では、センサー台701と支持台801とが別体として構成されているが、一体として構成されていてもよい。支持台801は、円筒形状をしており、センサー台701の法線を軸として回転させることができる。ここで、センサー台701の法線とは、フォトニック結晶バイオセンサー200を載置するセンサー台701の盤面に垂直な線である。
【0125】
フォトニック結晶バイオセンサー200は、フォトニック結晶バイオセンサー200のフォトニック結晶100(構造体)に測定プローブ320から照射される光が当たるように、センサー台701の盤上に載置される。このとき、センサー台701の盤面と、フォトニック結晶バイオセンサー200を構成するフォトニック結晶100の格子面とは、ほぼ平行、好ましくは平行である。したがって、センサー台701の法線は、フォトニック結晶100の格子面の法線である。支持台801を、センサー台701の法線を回転軸として回転させる構成とすることで、フォトニック結晶バイオセンサー200を、フォトニック結晶100の格子面の法線を軸として回転させることができる。
【0126】
次に、回転台800を、以上のように構成することによる効果について説明する。図15−1および図15−2は、フォトニック結晶を回転させたときの結晶方位の変化を説明する図である。図15−1および図15−2により、三角格子の凹凸形状を有するフォトニック結晶100について結晶方位の変化を説明するが、フォトニック結晶が三角格子ではなくとも、例えば正方格子のものであっても同様に結晶方位の変化を説明できる。図15−1および図15−2は、フォトニック結晶100を、格子面と垂直な方向からみた図である。格子面は紙面と同一である。図15−1において、フォトニック結晶100の結晶方位は、OAの方向と、OBの方向とに代表される。図15−1のフォトニック結晶100を、格子面と垂直な直線を軸として、すなわち紙面と垂直な直線を軸として左周りに回転させると、フォトニック結晶100は、図15−2に示す配置となる。回転させた後のフォトニック結晶100の結晶方位は、OA´の方向とOB´の方向とに代表される。結晶方位と、軸との角度は90°であり、回転の前後で変化はない。しかし、フォトニック結晶100の格子面を通る、格子面に対して垂直ではない直線と、結晶方位との角度は、回転の前後で異なる。測定プローブ320からフォトニック結晶100に照射される入射光の方向が、フォトニック結晶100の格子面に対して垂直ではない場合に、フォトニック結晶100を回転させると、回転の前後で入射光の方向とフォトニック結晶100の結晶方位との角度が変化する。角度が変化すると、入射光が照射されるフォトニック結晶100の反射面112の状態が変化するため、反射光の強度に変化が生じる。
【0127】
測定プローブ320からフォトニック結晶100に照射される入射光の方向と、フォトニック結晶100の格子面との角度は、例えば65.2°〜90°の範囲であり、入射光のすべてがフォトニック結晶100の格子面に対して垂直なわけではない。すなわち入射光のすべてがセンサー台701の盤面に対して垂直なわけではない。したがって、フォトニック結晶100がセンサー台701の盤面上で回転すると、フォトニック結晶100の結晶方位と入射光の方向との角度は変化する。
【0128】
センサー台701にフォトニック結晶バイオセンサー200を載置して、同一のフォトニック結晶バイオセンサー200について複数の測定を行うと、センサー台701に垂直な直線を軸としてフォトニック結晶バイオセンサー200が予期されない回転角度で回転して、フォトニック結晶バイオセンサー200の測定位置は測定の度にずれる。そのため、フォトニック結晶100の結晶方位と入射光との角度が異なる、複数の測定条件下での測定結果が得られてしまう。図16は、回転台800を使用せずに行った複数回の測定結果を示す図である。図16に示すように、同一のフォトニック結晶バイオセンサー200について、回転台800によるフォトニック結晶バイオセンサー200の回転を行わずに複数の測定を行うと、反射光の強度に7〜10%程度のバラツキが生じてしまう。
【0129】
回転台800を使用してフォトニック結晶バイオセンサー200を回転させると、センサー台701の法線、すなわちセンサー台701に垂直な直線を軸としてフォトニック結晶バイオセンサー200を任意の回転角度で回転させることができる。これにより、フォトニック結晶バイオセンサー200のフォトニック結晶100の結晶方位と、測定プローブ320からフォトニック結晶100に照射される入射光の方向との角度を、任意に変化させることができる。
【0130】
図17は、フォトニック結晶バイオセンサー200の回転角度に対して、反射光の光強度をプロットした図である。測定方法を詳しく説明する。フォトニック結晶バイオセンサー200をセンサー台701に載置し、真空チャック機構700を用いてフォトニック結晶バイオセンサー200をセンサー台701に固定する。次に回転台800を右回りに所定の角度だけ回転させ、回転台800の回転角度、すなわち回転台800と共に回転するフォトニック結晶バイオセンサー200の回転角度に対応する、反射光の光強度を測定する。図17によれば、フォトニック結晶バイオセンサー200の回転角度の変化に従い、光強度は正弦波状に変化していることがわかる。そこで、フォトニック結晶バイオセンサー200の回転角度を変化させつつ、反射光の光強度を測定し、得られた光強度の最大値をフォトニック結晶バイオセンサー200の評価に使用することとした。
【0131】
回転台800を用いた測定結果のバラツキを調べるために、同一のフォトニック結晶バイオセンサー200について、10回の測定を行った。各回の測定について、フォトニック結晶バイオセンサー200をセンサー台701から取り外し、再びセンサー台に載置して固定した後、回転台800を回転させて光強度の最大値を測定するという作業を行った、図18は、回転台800を使用して行った10回の測定結果を示す図であり、波長と光強度の最大値との関係が表されている。図18を図16と比較することにより、回転台800を回転させて得られた光強度は、回転台800を回転させないで得られた光強度よりもバラツキが低減されていることがわかる。
【0132】
したがって、標的物質測定装置1aが、フォトニック結晶100の格子面における法線を軸としてフォトニック結晶バイオセンサー200を回転させる回転台800を備えていることによって、測定結果のバラツキを低減することができる。
【0133】
標的物質測定装置1aは、フォトニック結晶バイオセンサー載置部901(標的物質捕捉部載置部)と、反射鏡900(反射手段)とを備える。図19は、フォトニック結晶バイオセンサー載置部901および反射鏡900の概略図である。センサー台701と、真空チャック部材702とセンサー台701とは、フォトニック結晶バイオセンサー載置部901を構成する。フォトニック結晶バイオセンサー載置部901には、測定プローブ320からの光が照射される範囲に貫通孔706および貫通孔711が形成されている。貫通孔706はセンサー台701に形成され、貫通孔711は真空チャック部材702に形成されている。センサー台701に真空チャック部材702が嵌め合わされてフォトニック結晶バイオセンサー載置部901が構成されたとき、貫通孔706と貫通孔711とは口径が一致し、貫通孔706と貫通孔711とで、連続した貫通孔902が構成される。
【0134】
貫通孔902は、フォトニック結晶バイオセンサー載置部901のフォトニック結晶バイオセンサー200を載置する面側からその反対側に通じる。貫通孔902は、フォトニック結晶バイオセンサー載置部901の、少なくとも測定プローブ320からの光が照射される範囲に形成されている。なお、フォトニック結晶バイオセンサー載置部901の、測定プローブ320からの光が照射される範囲とは、フォトニック結晶バイオセンサー載置部901に貫通孔902が形成されていないとした場合に、測定プローブ320からの光が照射される、フォトニック結晶バイオセンサー載置部901の、フォトニック結晶バイオセンサー200が載置される面の部分をいう。また、貫通孔902で囲まれた空間903は、円柱状である。そのため、測定プローブ320からの光は、貫通孔902で囲まれた空間903を直進し、フォトニック結晶バイオセンサー載置部901を通過する。貫通孔902の内径902Dは、測定プローブ320からの光がフォトニック結晶バイオセンサー載置部901により反射されることなく、貫通孔902で囲まれた空間903を通過できる程度の大きさであればよく、好ましくは1mm以上10mm以下である。
【0135】
貫通孔902で囲まれた空間903を通過した測定プローブ320からの光は、反射鏡900に到達する。反射鏡900の反射面は、測定プローブ320からの光の進行方向に対して斜めとなるように配置されており、そのため、測定プローブ320からの光は、反射鏡900により、貫通孔902とは別の位置に反射される。したがって、測定プローブ320からの光は、貫通孔902で囲まれた空間903を逆進せず、したがって測定プローブ320へ向かうことはない。反射鏡900は、測定プローブ320からの光を貫通孔902とは別の位置に反射するのであれば、どのような形状でもよく、反射率もどのような値でもよい。反射鏡900として、プリズムなどを用いることができる。
【0136】
標的物質測定装置1aが、フォトニック結晶バイオセンサー載置部901と反射鏡900とを含むことで、次のような効果を奏する。標的物質を測定する際、測定プローブ320からの光は、フォトニック結晶100の反射面112により反射されて、測定プローブ320に向かい、反射光強度が測定される。しかし、測定プローブ320からの光はすべて反射面112により反射されるのではなく、一部がフォトニック結晶バイオセンサー200を透過する。この透過した光が、フォトニック結晶バイオセンサー載置部901により反射されることが低減されるので、反射面112により反射された光以外の光が測定プローブ320に入ることを防止することができる。その結果、標的物質測定装置1aの測定精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の標的物質濃度測定装置および標的物質濃度測定方法は、各種の生体関連物質や低分子物質の検出に用いることができる。
【符号の説明】
【0138】
1、1a 標的物質濃度測定装置
100 フォトニック結晶(構造体)
110 孔(凹部)
111 凸部
112 反射面
113 抗体(標的物質捕捉物質)
114 抗原(標的物質)
115 ブロッキング剤
200、201、202 フォトニック結晶バイオセンサー(標的物質捕捉部)
210 プレート
220 プレート
240、511 開口部
241 凹部(液滴保持部)
300 測定部
310 光源
320 測定プローブ
330 光検出装置
340,350 光ファイバー
410 マグネットシート
510 穴付カバー
512 空間
520 シート
600 演算部
700 真空チャック機構
701 センサー台
702 真空チャック部材
703 エアコネクタ
704 エアチューブ
705 真空ポンプ
706 貫通孔
707 真空チャック用貫通孔
708 凹部
709 凹部
710 接続部
711 貫通孔
800 回転台(標的物質捕捉部回転手段)
801 支持台
900 反射鏡(反射手段)
901 フォトニック結晶バイオセンサー載置部(標的物質捕捉部載置部)
902 貫通孔
903 空間
M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7 マーカー
A 測定エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質捕捉部と、測定部と、演算部とを含み、
前記標的物質捕捉部は、表面に凹部と凸部とが周期的に形成された反射面を有し、前記反射面に光を照射すると、特定波長において第1の強度の反射光が得られる構造体と
前記反射面に固定されるとともに標的物質を捕捉する標的物質捕捉物質とを含み、
前記測定部は、前記標的物質捕捉部の前記反射面側に光を照射し、前記特定波長における反射光の強度を測定し、
前記演算部は、前記標的物質が前記標的物質捕捉部と接触させられる前における反射光の、前記特定波長における第2の強度を、前記第1の強度または前記第2の強度で除した値である第1の相対強度と、前記標的物質が前記標的物質捕捉部に接触させられた後における反射光の、前記特定波長における第3の強度を、前記第2の強度を除した強度と同じ強度で除した値である第2の相対強度との差に基づいて前記標的物質の濃度を求める
ことを特徴とする、標的物質濃度測定装置。
【請求項2】
前記第1の相対強度が、前記第2の強度を前記第1の強度で除した値であることを特徴とする、請求項1に記載の標的物質濃度測定装置。
【請求項3】
前記標的物質捕捉部は、前記標的物質捕捉物質が前記反射面に固定された後であって前記標的物質が前記標的物質捕捉部に接触させられる前に、前記反射面に固定されるブロッキング剤をさらに含み、
前記演算部は、第2の強度として前記ブロッキング剤が前記反射面に固定された後における反射光の強度を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載された標的物質濃度測定装置。
【請求項4】
前記標的物質捕捉部は、開口部を有する液滴保持部をさらに含み、前記開口部の一端は前記構造体の前記反射面により閉塞されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の標的物質濃度測定装置。
【請求項5】
前記液滴保持部は、疎水性材料で構成されていることを特徴とする、請求項4に記載の標的物質濃度測定装置。
【請求項6】
前記開口部で囲まれた空間に前記標的物質を配置した後に前記開口部を覆う、被覆部材をさらに含むことを特徴とする、請求項4または5に記載の標的物質濃度測定装置。
【請求項7】
前記被覆部材の少なくとも一部は、透明体であることを特徴とする、請求項6に記載の標的物質濃度測定装置。
【請求項8】
前記反射面における特定の位置を表示するマーカーをさらに含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の標的物質濃度測定装置。
【請求項9】
前記マーカーは、線対称軸を持たない図形で構成されていることを特徴とする、請求項8に記載の標的物質濃度測定装置。
【請求項10】
前記測定部に対する前記標的物質捕捉部の位置を定めて前記標的物質捕捉部を固定する、標的物質捕捉部固定手段を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の標的物質濃度測定装置。
【請求項11】
前記標的物質捕捉部固定手段は、真空チャック機構であることを特徴とする、請求項10に記載の標的物質濃度測定装置。
【請求項12】
前記構造体の格子面における法線を軸として前記標的物質捕捉部を回転させる標的物質捕捉部回転手段を含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の標的物質濃度測定装置。
【請求項13】
前記標的物質捕捉部を載置し、少なくとも前記測定部からの光が照射される範囲に貫通孔が形成されて前記光を通過させる標的物質捕捉部載置部と、
前記貫通孔で囲まれた空間を通過した光を前記貫通孔とは別の位置に反射する反射手段と、
を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の標的物質濃度測定装置。
【請求項14】
表面に凹部と凸部とが周期的に形成された反射面を有し、前記反射面に光を照射すると、特定波長の反射光が得られる構造体について、
前記反射光の第1の強度を得るステップと、
前記反射面に、前記標的物質を捕捉する標的物質捕捉物質を固定して、標的物質捕捉部を作成するステップと、
前記標的物質捕捉部に前記標的物質を接触させる前に、前記標的物質捕捉部の反射面側に光を照射し、反射光の前記特定波長における第2の強度を得るステップと、
前記標的物質捕捉部に、前記標的物質を接触させるステップと、
前記標的物質を接触させた前記標的物質捕捉部の反射面側に光を照射し、反射光の前記特定波長における第3の強度を得るステップと、
前記第2の強度を、前記第1の強度または前記第2の強度で除した値である第1の相対強度と、前記第3の強度を、前記第2の強度を除した強度と同じ強度で除した値である第2の相対強度との差に基づいて前記標的物質の濃度を求めるステップと、
を含むことを特徴とする、標的物質濃度測定方法。
【請求項15】
凹凸形状が格子状に配列され、格子間隔、深さ、格子の寸法がナノまたはマイクロメートルの構造体について、前記構造体の厚さが約5μm以上で、前記構造体の表面に1つ以上の物質を固定化し、前記構造体の凹凸形状がある側に光を照射すると前記構造体の形状と材質に依存した特定波長の反射光が得られ、前記反射光の強度を前記構造体の表面に物質を固定化した状態またはしていない状態の前記反射光の強度で除算し、前記除算値の変化量によって前記物質の濃度を定量化することを特徴とする標的物質濃度測定装置。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【図6−5】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−98272(P2012−98272A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181547(P2011−181547)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】