説明

標識板の姿勢制御装置

【課題】標識板の見やすさを確保し、強い風に対しては瞬時に鉛直軸周りに標識板を回動して風力を回避し、空間的設置制限を緩和することが可能な標識板の姿勢制御装置を提供する。
【解決手段】標識板の姿勢制御装置(A)を標識板(1)と一体に締結した可動体(B)と当該可動体(B)を保持する固定体(C)を有して構成する。可動体(B)に設けた凸子(4)を固定体(C)の平面部に設けた凹子(7A)に噛合し、可動体(B)が上下動と固定体(C)上を鉛直軸まわりに滑合回動し得るように締結し、可動体(B)と固定体(C)をバネ(8)で締結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路側帯などに立設させた単一の標識柱などに取り付けられた道路標識板や位置案内板、広告看板など(以下、標識板と総称する)への風力作用を軽減する姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
道路に面して設置される標識板は、その殆どが道路の路端又は中央、或いは歩道に立設させた標識柱に取り付ける路側式により設置されている。また、道路の路端に設置された電柱や照明柱を利用し、その柱面に標識板を固定設置する共架式によっても設置されている。
【0003】
路側式や共架式では、標識柱などの外周に懸け回した取付具類に取り付けられて標識板が支持される。しかし、例えば夏季に大型台風が上陸し、その通過に伴う強風を標識板が受けた際に、取付具類での回動や滑りが生じ、標識板の姿勢、つまり板面の向きがずれて、標識機能が消失し、広域に亘る緊急復旧を要することがあった。
また、電柱や照明柱に標識板を取り付ける共架式の場合には、他の目的で設置された柱に標識板を追加的に設置するものであるため、当初設計の柱や基礎の耐風強度を超える風力が作用することが懸念され、実際に標識板が取り付けられた電柱が強風を受けて倒れたり折れたりした事例も報告されている。
【0004】
かかる問題点に鑑み、強風を受けたときでも標識板の見やすさを維持し、且つ強風による風力作用を軽減するために、所定の風力以下では設置時の初期姿勢を維持し、所定の風力以上では風力を回避する方向へ標識板を回動する方法が提案されている。例えば下記特許文献に記載された技術が公知となっている。
【0005】
【特許文献1】実開平4−130311号公報
【特許文献2】特公昭55−6231号公報
【特許文献3】実開昭56−145077号公報
【特許文献4】特開2005−43774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
所定の風速以上の強い風を回避する方法では、通常の風では標識板の姿勢を確保して見やすさを維持し、所定の風速以上となったときに瞬時に標識板を回動し、標識柱などへの風力負荷を軽減することが必須となる。また、縦長の標識板にあっては、設置場所の周辺に架設された電力線や通信線、或いは周辺に設置された街路灯などの空間的制限から、鉛直軸まわりの回動動作が求められることが多い。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された標識取付装置は、水平方向の回動軸に標識板が締結されており、回動軸に標識板の重量によるモーメントが生じた状態で回動軸をバネとピンで静止させているため、前記モーメント方向の風と反モーメント方向の風では、回動動作を開始する風力が異なり、風向きによって強風の影響を回避できないという問題がある。同文献に開示された技術は、一定以上の風圧を標識板が受けた場合に、標識板が前面又は後面に傾倒し風圧を回避するものであり、鉛直軸を中心として標識板を回動動作させる思想のものではない。
【0008】
また、特許文献2に記載された懸架装置は、復帰動作を自重に頼るため、標識板の回動方向は水平軸廻りに限定され、鉛直軸廻りに回動動作させることはできない。
【0009】
さらに、特許文献3に記載された自動復元装置は、回動動作後、自重で自動復元する傾斜面を設けているため、所定の風速以上では傾斜面を回動上昇する動作が伴って、瞬時の回避が難しいという問題がある。
【0010】
また、特許文献4に記載の標識取付装置は本出願人により開発され、現に設置して使用されているものである。この装置は、可動部が固定部の平面状を鉛直軸周りに回動する構成を採用しており、強風を受けた際の標識板の瞬時回避や縦長形状板の空間的設置制限を緩和することは可能である。
しかし、この標識取付装置の使用を通じて以下の問題点が判明した。
すなわち、同装置では、標識板の初期姿勢の維持を、標識板などの自重による摩擦抵抗と板バネによる変形抵抗に依存するため、標識板の重量によっては維持力が不足して、初期姿勢を保持できない場合がある。例えば海岸近辺では、全般的に風が強く、最大風速10m/秒以上の日が一年で100日を超える地域では、風力回避の動作が多くなり、標識板の見やすさの面から、初期姿勢維持力の向上が望まれている。
また、初期姿勢への復帰を板バネの復元力だけに依存し、且つ標識板の自重が復元の抵抗として作用するため、原位置付近では復元力と抵抗が微妙にバランスしてしまい、復帰精度にバラツキが見られる事態が生じている。単一の標識柱に同装置で標識板を上下に複数段取り付けた場合、各々の標識板面の微妙なズレが目立ってしまい、また、標識視認機能も低下するため、復帰精度の改善が望まれている。
【0011】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、通常の風では標識板の見やすさを確保し、強い風に対しては瞬時に鉛直軸周りに標識板を回動して風力を回避し、空間的設置制限を緩和することが可能な標識板の姿勢制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため本発明の標識板の姿勢制御装置は、標識板と一体に締結した可動体と当該可動体を保持する固定体を有して構成された姿勢制御装置であって、可動体に設けた凸子を固定体の平面部に設けた凹子に噛合し、可動体が上下動と固定体上を鉛直軸まわりに滑合回動し得るように締結し、可動体と固定体をバネで締結したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の標識板の姿勢制御装置によれば、凹凸子を噛合せて構成してあるので、標識板などの重量による摩擦抵抗とあわせた回動に対する抵抗機構を簡易に得ることができ、相当な大きな風速に達するまで標識板の姿勢を維持し、その見やすさを確保することができる。
また、前記抵抗以上の風力では凹凸子の噛合が解除され、可動体が固定体の平面上を鉛直軸まわりに滑合回動するため、解除後瞬時の回避が可能となり、これにより柱や基礎構造への負荷荷重が軽減される。
さらに、鉛直軸まわりに回動する構造であるため、縦長形状の標識板と、電力線や通信線などとの干渉による設置場所制限が緩和され、かかる制限が緩和される結果、見やすさ優先の設置が可能となる。
また、バネの復元力で標識板は原位置方向へ回動されるとともに、凹凸子の噛合で位置が決まるため、高精度に位置決めされて、初期姿勢と標識板の見やすさが自動的且つ確実に再現されることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の標識板等の姿勢制御装置は,可動体と固定体の凹凸子を噛合し、可動体が上下動と固定体平面上を鉛直軸まわりの回動を可能に締結し、可動体と固定体をバネで締結して初期姿勢へ復帰する構成を有することを特徴とするものである。
【0015】
すなわち、凹凸子の噛合と標識板などの自重による摩擦抵抗と併せた或いはこれを含んだ、回動に対する抵抗力が、標識板の初期姿勢を維持し、前記抵抗力以上の強い風では可動体が凹凸子噛合から外れ、固定体上の平面を鉛直軸周りに滑合回動して強風の影響を回避する。そして、風が弱まり或いは風がなくなると、可動体と固定体に締結したバネの復元力によって前記とは逆方向へ回動し、標識板の初期姿勢に回復し保持することが可能となる。
【0016】
以下、本発明の標識板の姿勢制御装置の好ましい実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の姿勢制御装置の一実施形態を示し、本形態の装置Aと標識板1とをバー2で連結し、標識柱や電柱などの柱20に締結具21で本形態の装置Aを取り付けた状態の正面図である。
図2は本形態の装置Aの上面、下面、正面、及び側断面をそれぞれ示した図である。
図3は本形態の装置Aの可動体Bの上面、下面、正面、及び側断面をそれぞれ示した図である。
図4は図2の縦断面において標識板1が回動動作に入る直前の状態を示した模式図である。
図5は風を受けた標識板1が本形態の装置Aにより回動する状態を示した上面図である。
【0018】
図1において、締結具21は、一端を本形態の装置Aの外周面に懸け回し、他端を柱20の外周面に懸け回して、装置Aと柱20を両端でそれぞれ把持して一体に締結している。また、標識板1はその裏面の左右中心線よりも片側にずれた位置にバー2を固定してあり、バー2は本形態の装置Aの可動体Bに連結固定してある。
本形態の装置Aの可動体Bは、図3に示すように、バー2と連結するアーム3と、上腕3Aの下面に付設した凸子4と、下腕3Bの上面に固定した軸5とを有して構成されている。
締結具21で把持される本形態の装置Aの固定体Cは、図2に示すように、固定軸6と、固定軸6の上端に挿嵌されて当該軸に一体に固定されたガイド7と、ガイド7に設けた凹子7Aとを有して構成されている。
同図に示されるように、固定軸6にはガイド7と軸5とに両端を挿嵌連結させた板バネ8を内蔵してある。また、詳細は後述するが、上腕3Aに、固定軸6の中心を軸にアーム3が回動する位置にガイドポスト9が螺合され、固定軸6の上端外周にアーム3の回動を制動するストッパー10を付設してある。
【0019】
図3において、アーム3は一体的に形成され、設置状態で鉛直方向上部に位置する部位を上腕3A、同方向下部を下腕3Bとしている。
上腕3Aには、後述する固定体C上端に接する部位に、水平方向に対し角度αの傾斜面を有していて高さSの凸子4が付設されており、固定軸6の鉛直中心軸周りのアーム3の回動中心となるガイドポスト9が螺合され、下腕3Bには固定軸6に挿嵌する軸5が固定されている(図2参照)。
【0020】
図2において、固定軸6は円筒状で、上部端にはガイド7が挿嵌されて当該軸に一体に固定してある。ガイド7には水平方向に対し角度αの傾斜面を有していて深さSの凹子7Aが上面に形成されており、上腕3Aのガイドポスト9を受ける軸受7Cがガイド7の中心位置に設けられている。
また、固定軸6の上端外周には、ストッパー10がアーム3に対し角度180度の位置に接合してあり、固定軸6の下端と軸5の接合縁の鉛直方向の間隙がS以上となるように取り付けてある。
【0021】
バネ8は、その上下両端を、ガイド7の下面に設けたスリット7Bと、軸5の上面に設けたスリット5Aにそれぞれ挿嵌して両スリット間に架け渡され、且つ鉛直方向に距離S分だけ上下動可能に挟持されている。
【0022】
標識板1の初期姿勢、又は所定の風速以下での姿勢制御装置の状態を図1及び図2を参照して説明する。
標識板1やバー2の自重は、アーム3、凸子4を介してガイド7及び凹子7Aにかかり、負荷となっている。ここで、標識板1が風を受けると本形態の装置Aに回動力が生じる。
このとき、凸子4と凹子7Aは傾斜角αで接触し、回動力が凸子4と凹子7Aの接触面に対して水平方向の押付力として作用し、標識板1やバー2の自重が鉛直方向の押付力として作用する。
回動に対する抵抗を接触面の平行成分で表すと、これら押付力の接触面に対する鉛直成分に摩擦係数を乗じた抵抗力と自重の接触面平行成分となる。この合力が回動力の接触面平行成分以上の場合、凸子4と凹子7Aは噛合状態のままであり、標識板1の初期姿勢が維持される。
【0023】
抵抗の合力よりも回動力が大きい場合を図4を参照して説明する。
図4は、凸子4がガイドポスト9を軸に回動し、凹子7Aとの噛合が外れた状態を示しており、同図に示されるように、アーム3などの可動体Bを構成する要素は凸子4の厚さSに相当する高さ鉛直方向に上昇変位している。
図2において、固定軸6とアーム3Bに締結した軸5間のS以上の間隙が、図4ではSに相当する高さ上昇する分、間隙が減少していることが理解できる。
凸子4は凹子7A外ではガイド7上の平面部をガイドポスト9を軸に滑合回動する。
【0024】
図5は、凸子4がガイド7の平面上をさらに滑合回動し、制動される状態を示しており、反時計回りの回動は標識板1表面への風、時計回りの回動は標識板1裏面への風による。
ガイドポスト9周りに180度の位置に設けたストッパー10は、標識板1が一側へ90度、他側へ90度回動すると、上腕3Aの切欠き3Cが係合し、これにより標識板1の回動動作が制限される。この状態は、標識板1表面と裏面に正対する風を受けた場合に生じ、標識板1への風力作用は殆ど無い。
【0025】
ガイド7と軸5に挿嵌した板バネ8は、標識板1の回動に伴い軸5が回動して捩れる。風が弱まると、板バネ8の復元力によって初期形状に弾性変形し、これにより標識板1を前記とは逆方向へ回動せしめる。
そして、原位置近傍で凸子4が凹子7Aに滑入し噛合することにより、前記標識板1の逆方向への回動動作が停止して原位置に復帰し、標識板1は当該位置に保持される。
【0026】
なお、本発明の装置Aによる、標識板1の初期姿勢の維持と所定以上の風力回避及び初期姿勢復帰の機構は、標識板1の自重による摩擦抵抗と風を受けた標識板1の回動力に対する抵抗を生じせしめ、所定以上の風力では回動力に対する抵抗を消失せしめ、初期姿勢復帰では標識板1の自重で原位置に滑入せしめる構成であればよい。
回動に対する抵抗を生ずる構成として、例えば可動体Bの複数の凸子と固定体Cの同数の凹子の噛合でもよい。また、可動体Bの凹子と固定体Cの凸子の噛合の構成でもよい。
回動の瞬時性を更に確保する必要がある場合、例えば表示内容が豊富な標識板1は寸法が大きく、重量も大であるため摩擦抵抗も大となり回動速度が懸念される場合には、固定体Cの平面部と可動体Bの凸子の間に摩擦抵抗を減ずる材料を配置してもよい。
【0027】
以上のように、本発明の姿勢制御装置Aによれば、標識板1などの重量負荷によって凸子4と凹子7Aを圧接噛合させているので、摩擦抵抗と併せて回動に対する抵抗機構を簡易に得ることができ、標識板1の見やすさを十分に確保することができる。
また、前記抵抗以上の風力を受けたときは、凸子4がガイド7の平面上をガイドポスト9を軸に滑合回動するため瞬時の回避が可能となり、これにより柱20や基礎構造への負荷荷重が軽減される。
さらに、ガイドポスト9周りに回動するため、電力線などとの干渉といった設置場所制限が緩和され、縦長形状の標識板1を設置可能な領域を広げることができる。また、標識板1の回動に伴って捩じれた板バネ8の弾性復元力により、風が弱まると標識板1を原位置方向へ回動せしめるとともに、凸子4と凹子7Aが噛合う位置で標識板1が停止し、標識板1を高精度に位置決めして、初期姿勢と標識等の見やすさが自動的に回復することが可能である。
【0028】
なお、本発明の姿勢制御装置Aは、図示した形態に限定されるものではなく、多様に変形することができる。例えば、標識板1の形状及びサイズを適宜に変更すること、道路標識板以外の交通標識板やその他の用途の標識板、或いは案内看板や広告看板などの看板類の姿勢制御に利用することは適宜に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の標識の姿勢制御装置の一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の装置の上面、下面、正面、及び側断面をそれぞれ示した図である。
【図3】図1の装置の可動体の上面、下面、正面、及び側断面をそれぞれ示した図である。
【図4】図2の縦断面において標識板が回動動作に入る直前の状態を示した模式図である。
【図5】風を受けた標識板が図1の装置により回動する状態を示した上面図である。
【符号の説明】
【0030】
A 姿勢制御装置、B 可動体、C 固定体、1 標識板、2 バー、3 アーム、4 凸子、5 軸、6 固定軸、7 ガイド、7A 凹子、8 板バネ、9 ガイドポスト、10 ストッパー、20 柱、21 締結具



【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識板(1)と一体に締結した可動体(B)と当該可動体(B)を保持する固定体(C)を有して構成される姿勢制御装置(A)であって、可動体(B)に設けた凸子(4)を固定体(C)の平面部に設けた凹子(7A)に噛合し、可動体(B)が上下動及び固定体(C)上を鉛直軸まわりに滑合回動し得るように締結し、可動体(B)と固定体(C)をバネ(8)で締結した構成を有する標識板の姿勢制御装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−15016(P2010−15016A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175507(P2008−175507)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000190172)信号器材株式会社 (19)
【出願人】(000115360)ヨシモトポール株式会社 (27)
【Fターム(参考)】