説明

模擬媒体の製造方法

【課題】自動預金支払機に内蔵されている紙幣搬送機構の性能評価等に用いる模擬媒体の製造方法である。摩擦係数の異なる模擬媒体の多様な製造方法であって、摩擦係数の調節が容易な模擬媒体の製造方法を得る。
【解決手段】模擬媒体を構成する基材シートの表面に樹脂膜を形成することにより、模擬媒体間の摩擦力を調節する模擬媒体の製造方法である。例えば、模擬媒体11は、基材シート61の少なくとも一方表面62上に、電離線硬化樹脂又は熱硬化樹脂からなるインキを用いる印刷により複数の膜領域16を形成し、次に前記膜領域を硬化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば金融機関等で使用される自動預金支払機(ATM)の性能評価等に用いる模擬媒体であって、摩擦係数の異なる模擬媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ATMの性能評価、製品検査などには、真券である紙幣に代替するものとして、模擬媒体(模擬紙幣又は搬送テスト用媒体と呼ばれることもある)が使用される。
【0003】
従来の搬送テスト用媒体は、基材の表面に高摩擦インキ材と、低摩擦インキ材との2種類のインキで幾何学的模様が形成されているものがある。(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−146472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の搬送テスト用媒体は、摩擦力の調節をインキ剤の印刷面積の増減により行っている。このため、インキが紙幣搬送経路のゴムローラーなどに付着する懸念がある。また、広範な摩擦力の発現に限界がある。
【0006】
さらに、自動預金支払機(ATM)は他の機械よりも一層その動作に信頼性が要求される機械であり、多種類の模擬媒体を使用して性能評価、検査などを行うことが好ましい。
【0007】
そこで、本発明は、摩擦係数の異なる模擬媒体の多様な製造方法を得ることを課題とする。また、本発明は、摩擦係数の調節が容易な模擬媒体の製造方法を得ることを課題とする。さらに、本発明は、大量かつ安価な模擬媒体の製造方法を得ることを課題とする。
【0008】
本発明のその他の課題は、本発明の説明により明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、模擬媒体を構成する基材シートの表面に樹脂膜を形成することにより、模擬媒体間の摩擦力を調節した模擬媒体の製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明の一の態様は、摩擦係数が異なる模擬媒体の製造方法において、
基材シートの少なくとも一方表面上に、電離線硬化樹脂又は熱硬化樹脂からなるインキを用いる印刷により複数の膜領域を形成し、
次に前記膜領域を硬化することを特徴とする。以下、本態様により製造される模擬媒体を「印刷形状硬化型」という。
【0011】
本発明の他の態様は、摩擦係数が異なる模擬媒体の製造方法において、
基材シートの少なくとも一方表面上に、電離線硬化樹脂又は熱硬化樹脂からなる膜材料を塗布して膜領域を形成し、
次に前記膜領域に厚薄形状を形成し、
続いて前記膜領域を硬化して前記厚薄形状を固定することを特徴とする。以下、本態様により製造される模擬媒体を「コート形状硬化型」という。
【0012】
本発明のその他の態様は、摩擦係数が異なる模擬媒体の製造方法において、
基材シートの少なくとも一方表面上に、粘弾性を制御した膜領域を形成することを特徴とする。以下、本態様により製造される模擬媒体を「粘弾性膜型」という。
【0013】
本発明の好ましい実施態様にあっては、「印刷形状硬化型」、「コート形状硬化型」または「粘弾性膜型」模擬媒体の製造方法において、膜領域に導電性フィラーを混在させてもよい。
【0014】
本好ましい実施態様によれば、静電気に起因する搬送負荷を除去した模擬媒体を製造することができる。また、導電性フィラー粒子の粒子径を変更すれば、膜領域の表面粗さが変更される。よって、模擬媒体の摩擦係数を調節する要素が増える。
【0015】
本発明のさらに他の態様は、摩擦係数が異なる模擬媒体の製造方法において、
基材シートの両面上に、表面が平滑な膜領域を形成することを特徴とする。以下、本態様により製造される模擬媒体を「平滑膜型」という。
【0016】
本発明の他の好ましい実施態様にあっては、「平滑膜型」模擬媒体の製造方法において、基材シート表面と前記膜領域の間に導電性フェラーを含む樹脂層を介在させてもよい。
【0017】
本好ましい実施態様によれば、静電気に起因する搬送負荷を除去した模擬媒体を製造することができる。
【0018】
以上説明した本発明、本発明の好ましい実施態様、これらに含まれる構成要素は可能な限り組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる「印刷形状硬化型」模擬媒体の製造方法は、基材シートに複数の膜領域を形成し、これを硬化することにより固定するものである。製造される模擬媒体は、膜領域と膜の存在しない部分で厚さが異なる。このため、模擬媒体を重ね合わせた場合に、上下に隣接する模擬媒体間に働く摩擦力が増加する。そして、膜領域の個数、面積、形状などを自由に調節し、模擬媒体の摩擦係数を調節することができる。
【0020】
本製造方法は印刷により膜領域が形成されるので、膜領域を様々な平面形状で自在に形成できる。また、多様な印刷方法を採用することにより膜領域の表面特性を変更することができる。さらに、印刷インキの濃度を調節することにより、膜領域の表面特性を変更することができる。このようにして、模擬媒体の摩擦係数を自由に制御することができる。
【0021】
また、膜領域は樹脂が硬化されており、自然乾燥型インクを使用する場合に比較して、紙幣搬送装置のゴムローラーに樹脂が付着する不都合が生じない。さらに、印刷による生産であるので、大量かつ安価に模擬媒体を作成できる。
【0022】
本発明にかかる「コート形状硬化型」模擬媒体の製造方法は、基材シートに樹脂をコーティングし、当該樹脂層に厚薄形状を付与し、これを固定したものである。製造される模擬媒体は、厚薄があり、この厚薄の厚さの相違、厚い部分と薄い部分の面積などを自由に調節することができる。このため、模擬媒体を重ね合わせた場合に、上下に隣接する模擬媒体間に働く摩擦力を調節することができる。また、多様な膜材料からなる膜領域を形成することができ、膜領域の表面特性を変更することができる。このため、模擬媒体の摩擦係数を自由に制御することができる。
【0023】
また、膜領域は樹脂が硬化されており、自然乾燥型インクを使用する場合に比較して、紙幣搬送装置のゴムローラーに樹脂が付着したり、膜領域が一部剥離したりする不都合が生じない。さらに、コーティングによる生産であるので、大量かつ安価に模擬媒体を作成できる。
【0024】
本発明にかかる「粘弾性膜型」模擬媒体の製造方法は、基体シートに粘弾性を制御した膜領域を形成するものである。製造される模擬媒体は、膜領域の特性、膜領域の面積などにより、摩擦係数を調節することができる。本製造方法は、特定の材料を使用して膜領域を形成するのみであり、形状などの付与が不必要となり、簡便な模擬媒体の製造方法である。
【0025】
また、膜領域の粘弾性により摩擦係数が調節されるので、表面の磨耗による摩擦係数の変化がなく、耐久性に優れた模擬媒体を製造できる。さらに、印刷またはコーティングによる生産であるので、大量かつ安価に模擬媒体を作成できる。
【0026】
本発明にかかる「平滑膜型」模擬媒体の製造方法は、平滑な表面を持つ模擬媒体を製造するものである。表面が平滑な模擬媒体は、模擬媒体を重ね合わせた場合に、上下に隣接する模擬媒体間に働く摩擦力を、表面の平滑度合いにより調節することができる。本製造方法は、特定の膜領域を形成するのみであり、形状などの付与が不必要となり、簡便な模擬媒体の製造方法である。
【0027】
さらに、印刷またはコーティングによる生産であるので、大量かつ安価に模擬媒体を作成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施例にかかる模擬媒体をさらに説明する。本発明の実施例に記載した部材や部分の寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載のない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。
【0029】
<膜の材料>
「印刷形状硬化型」と「コート形状硬化型」に用いる膜の材料は、電離線硬化樹脂または熱硬化樹脂である。
【0030】
電離線硬化樹脂として紫外線硬化樹脂が挙げられる。紫外線硬化樹脂としては、ウレタンアクリレート系樹脂、シアノアクリレート系樹脂などを例示できる。紫外線硬化樹脂を用いて膜領域を形成した後に、紫外線を照射して、これを硬化する。
【0031】
熱硬化樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂などが挙げられる。熱硬化樹脂を用いて膜領域を形成した後に、加熱してこれを硬化する。硬化条件を例示すると、エポキシ樹脂、メラミン樹脂の場合には180℃で1分間から2分間、ポリウレタン樹脂の場合には180℃で30秒間である。
【0032】
なお、電離線硬化樹脂と熱硬化樹脂を総称して電子線硬化樹脂を呼ぶことができる。
【0033】
「粘弾性膜型」に用いる膜の材料は、ウレタン樹脂やアクリル樹脂に低分子などの添加剤を加え、樹脂のガラス転移温度を変化させた樹脂である。樹脂のガラス転移温度<室温の時、上記樹脂の粘弾性が大きくなり、模擬媒体の摩擦係数が大きくなる。逆に、樹脂のガラス転移温度>室温の時、上記樹脂の粘弾性が小さくなり、模擬媒体の摩擦係数が小さくなる。
【0034】
当該樹脂は、紫外線硬化型樹脂であってもよく、自然硬化型の樹脂であってもよい。自然硬化型の樹脂としては、酸化重合型、蒸発乾燥型の樹脂を挙げることができる。
【0035】
「平滑膜型」に用いる膜の材料は、自然硬化型、紫外線硬化型、熱硬化型の樹脂である。各々の樹脂の具体例などは上記と同様である。
【0036】
<膜形成方法>
「印刷形状硬化型」にあっては、膜領域を形成する印刷方法は、版とインキを用いる印刷方法である。版はグラビラを含む凹版、活版、平版、孔版のいずれでもよい。これらの中で、単一の印刷操作で、厚さの異なる複数の膜領域を形成できることから、グラビア印刷方法が好ましい。もっとも、例えば、オフセット印刷操作を複数回行って、厚さの異なる複数の厚膜領域を形成してもよい。
【0037】
「コート形状硬化型」にあっては、膜領域の形成はコーティングにより行う。コーティングは各種コーターで樹脂を塗布すればよい。コーティング装置としては、スロットダイコーター、リップコーター、コンマコーター、グラビアコーター、バーコーター、スピンコーターなどを挙げることができる。
【0038】
「粘弾性膜型」と「平滑膜型」にあっては、膜領域の形成は、印刷方法により行ってもよく、コーティングにより行ってもよい。印刷方法、コーティング装置の具体例は、上記と同様である。
【0039】
<基材シート>
基材シートとしては、上質紙や合成紙を用いる。耐久性がよく、経時変化が少ないなどの観点から合成紙が好ましく、合成樹脂系の合成紙がより好ましい。合成樹脂製の合成紙として、例えば、東洋紡績株式会社製の「クルスパー」(ポリエチレン系合成紙)や株式会社ユポコーポレーション製の「ユポ」(ポリプロピレン系合成紙)を例示することができる。基材シートの厚さは75μm〜150μmである。
【0040】
<「印刷形状硬化型」>
図1は印刷形状硬化型模擬媒体11の斜視説明図であり、図2は印刷形状硬化型模擬媒体11の断面説明図である。図1と図2は、発明を説明するための説明図であり、理解を容易にするなどの目的で、縦横の縮尺、構成部分の長さ比率は実際の模擬媒体と異なる。また、図3から図9についても同様である。
【0041】
模擬媒体11は、基材シート61の表面上に、紫外線硬化樹脂からなるインキを用いる印刷と紫外線の照射により、複数の硬化膜領域16を形成したものである。基材シート61の表面62と裏面63は、双方ともに基材シートの一方表面であり、双方に硬化膜領域16を形成してもよく、表面62又は裏面63のいずれか一方に硬化膜領域16を形成してもよい。
【0042】
硬化膜領域16の平面形状は自由に定めることができる。例えば、長辺と短辺の比率が100〜1の方形、円形、楕円形、多角形、不定形などを例示することができる。硬化膜領域16の膜厚さは、5μm以上50μm以下である。この範囲にあると、摩擦を大きくすることができ、また、搬送試験が可能だからである。
【0043】
複数の硬化膜領域16は、基材シートの表面に一様に分布することが好ましい。一様な分布とは、基材シート表面を縦横二等分線で面積の等しい4分割領域に区切り、各々の4分割領域に含まれる厚膜領域領域の平面面積値合計値の割合が0.8以上1.2以下の範囲にある分布を意味する。模擬媒体の曲がりを避け、また、模擬媒体が搬送経路に傾いて送り出されることを避けるためである。
【0044】
複数の硬化膜領域16は、膜厚さが異なっていてもよい。例えば、図2に図示した硬化膜領域16aは膜厚さが40μmであり、硬化膜領域16bは膜厚さが20μmである。図示した模擬媒体11は、複数の膜領域の膜厚さを2段階とした一例である。図2の膜領域に付した符号、16aと16bはどちらも硬化膜領域であるが、その膜厚さが異なる領域であることを示している。
【0045】
複数の硬化膜領域16の厚さは、上述した厚さの範囲内であれば、2段階に限ることはなく、3段階、4段階、あるいはより多数の段階であってもよく、複数の硬化膜領域の厚さがすべて異なっていてもよい。このように、硬化膜厚さの段階を変化させることにより、より一層摩擦係数の調整が容易となる。
【0046】
また、単一の硬化膜領域内で膜厚さ一定であってもよく、膜厚さが異なっていてもよい。単一の硬化膜領域で膜厚さが異なる場合には、最も薄い部分を5μm以上、最も厚い部分を50μm以下にすればよい。このように、単一の膜領域内で膜厚さを変化させれば、より一層摩擦力の調整が容易となる。
【0047】
<「コート形状硬化型」>
図3はコート形状硬化型模擬媒体21の断面説明図である。コート形状硬化型模擬媒体模擬媒体21は基材シート61の一方表面または双方表面に樹脂をコーティングし、当該樹脂に厚薄形状28を形成し、硬化膜領域26としたものである。また、硬化膜領域26は、基材シートの一方表面の全面を覆っていてもよく、一方表面の一部分を覆っていてもよい。模擬媒体の曲がりを避け、また、模擬媒体が搬送経路に傾いて送り出されることを避けるために、全面を覆うことが好ましい。
【0048】
硬化膜領域26の厚さは、5μm〜50μmである。
【0049】
基材シートに塗布した樹脂に厚薄形状を形成するには、形状付与ローラで樹脂を押圧する、プレスやスタンプで樹脂を押圧するなどすればよい。図4は厚薄形状付与工程の説明図である。形状付与ローラ71、72の間に未硬化模擬媒体24を通過させ、未硬化または半硬化樹脂層27に、形状付与ローラの形状を転写する。その後に、電離線を照射または熱を加えて、樹脂を硬化させることにより、当該厚薄形状を固定する。
【0050】
半硬化樹脂は、電離線の照射または加熱を短時間として、完全硬化前に照射または加熱を中断した樹脂を意味する。
【0051】
厚薄形状は、硬化膜領域26の厚さ(5μm〜50μm)の範囲で自由に定めることができる。例えば、断面が、三角溝、四角溝、三角山、四角岡、かまぼこ状などの形状である。
【0052】
図5は、コート形状硬化型模擬媒体22を2枚重ねあわせた状態の説明図である。模擬媒体22の硬化膜領域26が互いにかみ合い、摩擦力が増大する。もっとも、異なる2枚のコート形状硬化型模擬媒体22の硬化膜領域26が必ずしも必要ではなく、一の硬化膜領域26と基材シート61の表面が接触するものであってもよい。
【0053】
<「粘弾性膜型」>
図6は粘弾性型模擬媒体31の断面説明図であり、図7は粘弾性型模擬媒体31を2枚重ねた断面説明図である。
【0054】
粘弾性型模擬媒体31は、基材シート61の一方表面または双方表面に粘弾性を変更した粘弾性膜領域36を形成したものである。粘弾性膜領域36は、基材シートの一方表面の全面を覆っていてもよく、一方表面の一部分を覆っていてもよい。模擬媒体の曲がりを避け、また、模擬媒体が搬送経路に傾いて送り出されることを避けるために、全面を覆うことが好ましい。
【0055】
粘弾性膜領域36の厚さは、5μm〜50μmである。
【0056】
図7を参照して、粘弾性型模擬媒体31を2枚重ねると、模擬媒体31の粘弾性膜領域36が互いに接触し、摩擦力が増大する。もっとも、異なる2枚の粘弾性型模擬媒体31の粘弾性膜領域36が必ずしも必要ではなく、一の粘弾性膜領域36と基材シート61の表面が接触するものであってもよい。
【0057】
<「平滑膜型」>
図8は平滑膜型模擬媒体41の断面説明図である。平滑膜型模擬媒体41は、基材シート61の表面62及び裏面63の双方に膜領域46を形成し、かつ、当該膜領域46の表面を平滑面47としたものである。
【0058】
平滑面は、表面の凸凹の値で表すことができる。表面の凸凹の上限は通常2.5μm以下、好ましくは2.0μm以下である。表面の凸凹の下限は理想的にはゼロである。実現性を考慮すれば、表面の凸凹の下限は通常0.5μm以上、好ましくは0.1μm以上である。平滑面であると面相互間の相互作用が一層強く作用し、摩擦係数が大きくなる。表面の凸凹は、例えば、電子顕微鏡で測定すればよい。このような平滑面は、例えば、ブランケットコータやロールコータによるコーティングにより形成できる。
【0059】
膜領域46の厚さは、5μm〜50μmである。
【0060】
<導電性フィラー>
「印刷形状硬化型」「コート形状硬化型」と「粘弾性膜型」において、膜の材料であるインキまたは塗料には、導電性フィラーを混合してもよい。導電性フィラーを混合した膜材料を用いて膜領域を形成すれば、静電気に起因する模擬媒体の搬送負荷を避けることができる。導電性フィラーとしては、カーボン系フィラーと金属系フィラーを挙げることができる。カーボン系フィラーの具体例としてカーボンブラックを挙げることができ、金属系フィラーとして、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)などの金属微粉末と酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO)などの金属酸化物の微粉末を挙げることができる。
【0061】
これら導電性フィラーを混合することにより、膜領域の表面を粗面化して、摩擦力を増加させることもできる。
【0062】
「平滑膜型」においては、膜の材料であるインキまたは塗料に、導電性フィラーを混合すると、膜領域表面の平滑性が失われる。このため、基材シートの表面にまず、導電性フィラーを混合した樹脂材料を用いて導電性を有する膜を形成し、その上に、表面が平滑な膜領域を形成すればよい。このようにして、静電気に起因する模擬媒体の搬送負荷を避けることができる。
【0063】
図9は自動預金支払機(ATM)内の紙幣搬送経路の説明図である。ATM内には、紙幣93を一枚毎に繰り出す紙幣繰り出し機構91と、当該機構に引き続く紙幣の多重送り防止機構92が内蔵されている。図3中で、矢印94は紙幣の搬送方向を示している。真券に模して作られた模擬媒体では、紙幣繰り出し機構が紙幣を多重送りする割合は稀であり、このため、紙幣の多重送り防止機構の試験・検査は困難である。本発明にかかる摩擦係数の異なる模擬媒体の製造方法により、摩擦係数の大きな模擬媒体を製造すると、紙幣の多重送り防止機構の性能評価、検査などに好適な模擬媒体となる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】印刷形状硬化型模擬媒体11の斜視説明図である。
【図2】印刷形状硬化型模擬媒体11の断面説明図である。
【図3】コート形状硬化型模擬媒体21の断面説明図である。
【図4】厚薄形状付与工程の説明図である。
【図5】コート形状硬化型模擬媒体22を2枚重ねあわせた状態の説明図である
【図6】粘弾性型模擬媒体31の断面説明図である。
【図7】粘弾性型模擬媒体31を2枚重ねた断面説明図である。
【図8】平滑膜型模擬媒体41の断面説明図である。
【図9】自動預金支払機(ATM)内の紙幣搬送経路の説明図である。
【符号の説明】
【0065】
11 印刷形状硬化型模擬媒体
16 硬化膜領域
21、22 コート形状硬化型模擬媒体
24 未硬化模擬媒体
26 硬化膜領域
27 未硬化または半硬化膜
28 厚薄形状
31 粘弾性型模擬媒体
36 粘弾性膜領域
41 平滑膜型模擬媒体
46 膜領域
47 平滑表面
61 基材シート
62 基材シートの表面
63 基材シートの裏面
71、72 形状付与ローラ
91 紙幣繰り出し機構
92 多重送り防止機構
93 紙幣
94 紙幣の搬送方向を示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦係数が異なる模擬媒体の製造方法において、
基材シートの少なくとも一方表面上に、電離線硬化樹脂又は熱硬化樹脂からなるインキを用いる印刷により複数の膜領域を形成し、
次に前記膜領域を硬化することを特徴とする模擬媒体の製造方法。
【請求項2】
摩擦係数が異なる模擬媒体の製造方法において、
基材シートの少なくとも一方表面上に、電離線硬化樹脂又は熱硬化樹脂からなる膜材料を塗布して膜領域を形成し、
次に前記膜領域に厚薄形状を形成し、
続いて前記膜領域を硬化して前記厚薄形状を固定することを特徴とする模擬媒体の製造方法。
【請求項3】
摩擦係数が異なる模擬媒体の製造方法において、
基材シートの少なくとも一方表面上に、粘弾性を制御した膜領域を形成することを特徴とする模擬媒体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載した模擬媒体の製造方法において、膜領域に導電性フィラーを混在させることを特徴とする模擬媒体の製造方法。
【請求項5】
摩擦係数が異なる模擬媒体の製造方法において、
基材シートの両面上に、表面が平滑な膜領域を形成することを特徴とする模擬媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載した模擬媒体の製造方法において、基材シート表面と前記膜領域の間に導電性フェラーを含む樹脂層を介在させることを特徴とする模擬媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−918(P2009−918A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164242(P2007−164242)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】